説明

塗膜光特性算出方法、塗膜光特性算出装置、コンピュータプログラム、及び記録媒体

【課題】遮熱塗膜に関し、色の選択自由度を残して塗膜の装飾性を維持し、且つ塗膜の遮熱性能をより高くする顔料を容易に選択することを可能とする塗膜光特性算出方法、塗膜光特性算出装置、コンピュータプログラム、及び記録媒体を提供する。
【解決手段】近赤外波長帯域の光を一のエネルギーの流れとして扱い、当該エネルギーが塗膜に入射した場合のエネルギー反射率を求め、求めたエネルギー反射率を一の波長の光の反射率として用いて塗膜の近赤外線波長帯域の光に対する吸収係数及び散乱係数を塗膜の光特性として算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮熱塗膜の光特性を算出する方法に関する。特に、塗膜の装飾性を維持し、且つ塗膜の遮熱性能をより高くする顔料を容易に選択することを可能とする塗膜光特性算出方法、塗膜光特性算出装置、コンピュータプログラム及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーの観点から、建築物などの屋根又は外壁などに、太陽光熱を遮熱する遮熱塗装がされるようになってきている。更に昨今では建築物のみならず、路面、車両、船舶等など日射による熱負荷の軽減が望まれる構造体の表面にも用いられる。遮熱塗装に用いられる遮熱塗料は、高い日射反射率を有する塗料である。遮熱塗料により遮熱塗膜を構成するための技術は、例えば特許文献1〜7に開示されている。
【0003】
塗膜は、顔料、樹脂バインダー及び添加剤によって構成される。塗膜の遮熱性能は、主に顔料の光学特性によって決まる。したがって、遮熱性能の高い塗膜を得るためには顔料の選択が最も重要である。遮熱性能の高い塗膜を得るための顔料としては、白色系の顔料が最適であることは容易に想到できる。しかしながら、車両の塗装、建物の外観塗装など、高い装飾性が求められる場合がある。この場合は遮熱性が高いか否かのみで顔料を選択することはできない。
【0004】
色の選択自由度を残して装飾性を維持し、且つ遮熱性の高い塗膜に好適な顔料を得るためには、種々の顔料を夫々含んで形成される塗膜の分光反射率を測定し、分光反射率がより高い塗膜に含まれる顔料を選択するようにする。また、測定した分光反射率と日射光のスペクトル分布とに基づき日射光の反射率を算出し、反射率が高い塗膜に含まれる顔料を選択するようにすることも可能である。しかしながら、遮熱塗膜を複数の顔料を混合して形成する場合、遮熱性能は夫々の顔料を単一に含むときの分光反射率を単純に平均するなどして算出できるものではなく、予測が困難である。分光反射率は塗膜が形成される下地によっても変動するため予測が更に困難である。したがって、遮熱塗膜を顔料を混合して形成する場合、遮熱性を高く保つための顔料の選択及び配合量の調整は、試行錯誤によるところが多かった。
【0005】
そこで、特許文献8には、複数の顔料を混合して形成される塗膜の遮熱性能を予測するため、単一の顔料を夫々含む塗膜の分光反射率に基づき各塗膜の吸収係数K及び散乱係数Sを理論的に求め、夫々の吸収係数K及び散乱係数Sから、複数の顔料を混合した場合の塗膜の吸収係数K及び散乱係数Sを求めて分光反射率を逆に推定算出する方法が開示されている。
【0006】
具体的には一例として、以下のように算出する。塗膜の吸収係数K及び散乱係数Sは、単一の顔料jを含有する塗膜の単位膜厚当たりの吸収係数K及び散乱係数Sである。単一の顔料jを塗膜固形分100重量分に対してCj 重量分で含む塗料を、黒色下地(吸収性下地)及び白色下地(反射性下地)の上に形成した下地を含む塗膜構造体の分光反射率を測定する。色の異なる下地夫々について測定した分光反射率から、クベルカ−ムンク理論に基づき吸収係数K及び散乱係数Sを求める。求められた吸収係数K及び散乱係数Sを夫々顔料の配合量Cj にて除した値を、顔料jの単位配合量当たりの吸収係数Kj及び散乱係数Sjとする(式(1))。
【0007】
j =K/Cj ,Sj =S/Cj …(1)
【0008】
そして、複数の顔料を含み形成される塗膜の吸収係数Kmix及び散乱係数Smixは、ダンカンの混合式(2)を用いて以下のように求められる。ここでCi は、i番目の顔料の配合量(100重量分)、Ki 及びSi はi番目の顔料の単位重量分当たりの吸収係数Ki 及び散乱係数Si である。
【0009】
mix=Σ(Ci ×Ki ),Smix=Σ(Ci ×Si )…(2)
【0010】
このように求められる吸収係数Kmix及び散乱係数Smixを用いることにより、複数の顔料を含んで形成される塗膜についても分光反射率を求め、遮熱塗膜に好適な顔料を選択することが可能となる。
【特許文献1】特公平6−19061号公報
【特許文献2】特許第3484164号公報
【特許文献3】特許第2593968号公報
【特許文献4】特開2000−212475号公報
【特許文献5】特開2002−12825号公報
【特許文献6】特開2004−10853号公報
【特許文献7】特開2004−27241号公報
【特許文献8】特開2007−316829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献8に開示されている技術により、含まれる顔料及び塗膜が形成される下地によって異なる種々の塗膜の分光反射率を理論的に精度よく推定算出することができ、試行錯誤による設計工程における負荷を大いに削減できた。
【0012】
しかしながら上述したように、求められる吸収係数K(Kmix)及び散乱係数S(Smix)は光の波長によって変動する値であるから、波長毎に求められる。塗装技術者が日射光の波長帯域全体に対して波長毎に求められた吸収係数K(Kmix)及び散乱係数S(Smix)の値、更に算出される分光反射率を観察したとしても、それらの値から所望の色を発色させ、且つ遮熱性の高い顔料がいずれであるかを選択することは困難である。また、複数の顔料を含有する塗膜については、配合量を夫々変更させる毎に吸収係数Kmix及び散乱係数Smixを算出し、分光反射率を算出することが必要となる。
【0013】
特許文献8に開示されている技術を利用した場合には、遮熱性能を評価するための分光反射率を精度よく求めることができるものの、遮熱塗膜に含む顔料を選択するという一次的な工程では、より容易に、概略的に何れの顔料の遮熱性が高いかを評価できることが望ましい。
【0014】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、色に影響が少ない日射光の内の近赤外線波長帯域の光を一のエネルギーとして扱って反射率を求め、当該波長帯域全体としての吸収係数及び散乱係数を光特性として求めることにより、色の選択自由度を残して塗膜の装飾性を維持し、且つ塗膜の遮熱性能をより高くする顔料を容易に選択することを可能とする塗膜光特性算出方法、塗膜光特性算出装置、コンピュータプログラム、及び記録媒体を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、近赤外線波長帯域の光全体をエネルギーとして捉えた反射率を、日射光の光強度の波長分布に基づき求めて光特性の算出に用いることにより、現実に日射に対する塗膜の色に影響が少なく、且つ日射に対する塗膜の遮熱性能を高くする顔料を容易に選択することを可能とする塗膜光特性算出方法を提供することを目的とする。
【0016】
本発明の他の目的は、波長毎に異なる塗膜の反射率と、塗膜の光の吸収係数及び散乱係数との間の特定の関係式を用い、近赤外線波長帯域の光全体をエネルギーとして捉えた場合の吸収係数及び散乱係数を概略的に求めることにより、日射に対する塗膜の遮熱性能を高くする顔料を容易に選択することを可能とする塗膜光特性算出方法を提供することを目的とする。
【0017】
本発明の他の目的は、異なる顔料を含有する塗膜毎に、近赤外線波長帯域の光全体をエネルギーとして捉えた場合の吸収係数及び散乱係数を光特性として求めることにより、異なる顔料を夫々含む塗膜の光特性を比較して、塗膜の遮熱性能をより高くする顔料を容易に選択することを可能とする塗膜光特性算出方法を提供することを目的とする。
【0018】
また、本発明の他の目的は、近赤外線波長帯域の光全体をエネルギーとして捉えた場合の反射率が所定値となる吸収係数及び散乱係数を求めることにより、塗膜の遮熱性能を高くするためにいずれの顔料を選択を用いるべきかを容易に選択することを可能とする塗膜光特性算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
第1発明に係る塗膜光特性算出方法は、塗膜の光特性を算出する方法であって、近赤外線波長帯域の複数の波長毎に前記塗膜の光の反射率を求める第1ステップと、該第1ステップで求めた波長毎の反射率に基づき、前記塗膜に日射光が入射した場合の近赤外線波長帯域の光エネルギーに対する塗膜のエネルギー反射率を求める第2ステップと、求めたエネルギー反射率を用い、日射光の内の近赤外線波長帯域の光の塗膜内での吸収係数及び散乱係数を求める第3ステップとを含むことを特徴とする。
【0020】
第2発明に係る塗膜光特性算出方法は、前記第2ステップは、前記塗膜における波長毎の光の反射率と波長毎の日射光強度との乗算結果を、近赤外線波長帯域にて総計し、日射光の近赤外線波長帯域における強度和で除算することにより、前記塗膜のエネルギー反射率を求めることを特徴とする。
【0021】
第3発明に係る塗膜光特性算出方法は、前記塗膜が形成される下地に日射光が入射した場合のエネルギー反射率を求める第4ステップを含み、塗膜の光の反射率、塗膜と空気との界面における光の反射率、塗膜が形成されていない下地の光の反射率、下地と空気との界面における光の反射率、塗膜の厚み、並びに塗膜内における光の吸収係数及び散乱係数の間の関係を示す特定の関係式と、いずれも既知である塗膜の厚み、塗膜と空気との界面における光の反射率、下地と空気との界面における光の反射率とを用い、求めた塗膜のエネルギー反射率及び下地のエネルギー反射率を夫々、前記特定の関係式における塗膜の光の反射率及び下地の光の反射率として用い、前記関係式から日射光の内の近赤外線波長帯域の光の塗膜内での吸収係数及び散乱係数を求めることを特徴とする。
【0022】
第4発明に係る塗膜光特性算出方法は、異なる顔料を夫々含む塗膜毎に、日射光の内の近赤外線波長帯域の光の前記塗膜内での吸収係数及び散乱係数を求めることを特徴とする。
【0023】
第5発明に係る塗膜光特性算出方法は、近赤外線波長帯域の光の塗膜内での吸収係数及び散乱係数夫々に膜厚を含めた吸収能及び散乱能を用い、任意の一又は複数の顔料を含有する塗膜のエネルギー反射率が所定値となる塗膜の吸収能及び散乱能を求めるステップを更に含むことを特徴とする。
【0024】
第6発明に係る塗膜光特性算出装置は、塗膜の光特性を算出する装置であって、近赤外線波長帯域の複数の波長毎に前記塗膜の光の反射率を取得する手段と、取得した波長毎の光の反射率に基づき、前記塗膜に日射光が入射した場合の近赤外線波長帯域の光エネルギーに対する塗膜のエネルギー反射率を求める手段と、求めたエネルギー反射率を用い、日射光の内の近赤外線波長帯域の光の塗膜内での吸収係数及び散乱係数を求める手段とを備えることを特徴とする。
【0025】
第7発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、塗膜の光特性を算出させるためコンピュータプログラムであって、近赤外線波長帯域の複数の波長毎の前記塗膜の光の反射率に基づき、前記塗膜に日射光が入射した場合の近赤外線波長帯域の光エネルギーに対する塗膜のエネルギー反射率を求める第1ステップと、求めたエネルギー反射率を用い、日射光の内の近赤外線波長帯域の光の塗膜内での吸収係数及び散乱係数を求める第2ステップとを実行させることを特徴とする。
【0026】
第8発明に係る記録媒体は、第7発明のコンピュータプログラムがコンピュータにより読み取り可能に記録されていることを特徴とする。
【0027】
第1発明、第6発明、第7発明及び第8発明では、塗膜に近赤外線波長帯域の光が入射した場合の反射率が複数の波長について求められる。求められた波長毎の反射率から、塗膜に日射光が入射した場合の近赤外線波長帯域の光全体をエネルギーとして捉えた場合のエネルギー反射率が求められ、塗膜の吸収係数及び散乱係数が求められる。
【0028】
図1は、本発明に係る塗膜光特性算出方法の概要を示す説明図である。図1の説明図は、塗膜に日射光が入射して反射している様子を表わす模式的断面図である。図1の説明図では、光特性算出対象の塗膜は下地の上に塗料が塗られることによって積層されるようにして形成されており、塗膜の上層は空気である。下地は、被塗物自体、又は、被塗物及び被塗物に形成された下塗り塗膜を含む。下塗り塗膜の上に中塗り塗膜が形成される場合、中塗り塗膜を含む下層が下地となる。図1の例では、塗膜の下地は下塗り塗膜であって、光特性の算出対象である塗膜は、下塗りの上に上塗りされることによって形成される上塗り塗膜である。
【0029】
なお、図1では下塗り塗膜よりも下層の基材、即ち被塗物の図示を省略している。被塗物の素材の例としては例えば、金属板、ガラス材、プラスチック材、又はセメント系等が挙げられる。また、図1では、塗膜の上層は空気であるとしたが、塗膜の上に顔料を含まない塗膜、即ちクリア塗膜が塗装されていてもよい。
【0030】
塗膜の遮熱性能は、塗膜に含まれる顔料による反射の大きさが大きいほど高くなるので、反射率がより高い顔料を選択することが遮熱塗膜に好適な顔料を選択することになる。ただし、図1に示すように日射光は紫外から赤外に至る広い波長帯域の光を含み、光強度は波長によって異なる。更に、反射率は波長によって異なり、日射光に対して塗膜の遮熱性能を高くする顔料を選択するためには、光強度が大きい波長帯域の反射率が特に高い顔料を選択することが有効である。
【0031】
図2は、日射光の光強度分布を示すグラフである。なお、図2の日射光の光強度分布は、JIS R 3106の規格に基づくものである。横軸に波長を示し、縦軸に光強度を示している。波長帯域を例えば、紫外線波長帯域(300nm〜380nm)、可視光波長帯域(380nm〜780nm)、近赤外線波長帯域(780nm〜2100nm)と区分した場合、各波長帯域の光強度を波長で積分して波長帯域毎に全体に対する割合を求めた場合、以下のようになる。
紫外線波長帯域 : 1.7%
可視光線波長帯域:50.2%
近赤外線波長帯域:48.1%
最も割合が高い可視光波長帯域の光に対する反射率が高い顔料を選択することが最も効率的である。しかしながら、可視光波長帯域では反射率と塗膜の発色との関係が高いので、可視光波長帯域の光の反射率に注目した場合は白色系の顔料が必然的に選択されることとなり、色の選択自由度を残すためには望ましくない。これに対し、近赤外線波長帯域の光は塗膜の色に対する影響が少ないが、上述の光強度の割合の高さから判るように遮熱性能には大きく影響する。したがって、本発明の塗膜光特性算出方法では、近赤外線波長帯域の光の反射率に注目する。
【0032】
ただし、波長毎に異なる反射率の値のみでは遮熱性能を高くする顔料であるか否かを他と比較することが難しい。波長によっては一方の顔料の反射率の方が高いにも拘らず、他の波長では他方の顔料の反射率の方が高いなどの状況が起こり得るからである。
【0033】
そこで第1発明、第6発明、第7発明及び第8発明では、図1に矢印で示すように日射光の内の近赤外線波長帯域全体の光をエネルギーの流れとして捉え、当該光エネルギーの塗膜によるエネルギー反射率を帯域全体として求める。エネルギー反射率は、塗膜の膜厚又は塗膜に含まれる顔料の配合量に応じて異なるので、エネルギー反射率から単位膜厚当たり、及び顔料の単位配合量当たりの吸収係数及び散乱係数が、顔料を含有する塗膜の光特性として求められる。本来は反射率、吸収係数及び散乱係数は波長毎に求められるべきであるから、本発明にて求められる反射率、吸収係数及び散乱係数の精度は低くなる。しかしながら、塗膜の設計段階で初期に行なわれる顔料の選択工程では、概略的に何れの顔料の遮熱性が比較的高いかを把握できることが重要である。
【0034】
第2発明では、近赤外線波長帯域の光エネルギーの反射率は、実測される波長毎の反射率に、各波長における日射光の強度を乗算し、乗算結果を近赤外線波長帯域にて総計し、更に総計を日射光の近赤外線波長帯域における強度和で除算することにより求められる。即ち、規格化されている日射光の強度分布を考慮して、日射光の近赤外線波長帯域全体のエネルギーの反射率が求められる。
【0035】
第3発明では、塗膜の光の反射率、塗膜と空気との界面における光の反射率、塗膜が形成されていない下地の光の反射率、下地と空気との界面における光の反射率、塗膜の厚み、並びに塗膜内における光の吸収係数及び散乱係数の間の関係を示す特定の関係式が用いられる。当該特定の関係式では、塗膜の光の反射率及び下地の光の反射率と、塗膜内における光の吸収係数及び散乱係数との間の関係は、光の波長毎に異なる。これに対し、第3発明では、日射光の近赤外線波長帯域全体の光をエネルギーの流れとして扱い、一の波長の光として前記特定の関係式に当てはめる。そこで第1発明又は第2発明にて求められる塗膜のエネルギー反射率と同様に、塗膜が形成されていない状態での下地のエネルギー反射率が求められ、日射光の近赤外線波長帯域全体の反射率として求められた塗膜のエネルギー反射率及び下地のエネルギー反射率が、前記特定の関係式における塗膜の光の反射率及び下地の光の反射率として用いられ、塗膜のエネルギー反射率と、下地のエネルギー反射率と光の吸収係数及び散乱係数との関係が特定される。これにより、塗膜のエネルギー反射率と、下地のエネルギー反射率と、光の吸収係数及び散乱係数との関係に基づき、日射光の近赤外線波長帯域の光に対する塗膜における吸収係数及び散乱係数が求められる。
【0036】
第4発明では、第1発明乃至第3発明にて、異なる顔料を夫々含む塗膜毎に、近赤外線波長帯域の光の塗膜における吸収係数及び散乱係数が求められる。
【0037】
第5発明では、第1発明乃至第4発明にて塗膜の光特性として求められたエネルギー反射率に対する吸収係数及び散乱係数に基づき、任意の一又は複数の顔料を含有する塗膜のエネルギー反射率が所定値となるような、吸収係数及び散乱係数に夫々前記塗膜の膜厚を含めた吸収能及び散乱能が求められる。
【発明の効果】
【0038】
第1発明、第6発明、第7発明及び第8発明による場合、塗膜の色に影響が少ない近赤外線波長帯域の光を全体的にエネルギーとして捉え、当該光エネルギーに対する塗膜の光特性として、近赤外線波長帯域の光の吸収係数及び散乱係数が求められる。基本となる顔料を含有する塗膜について夫々、近赤外線波長帯域の光の吸収係数及び散乱係数を求めておく。遮熱性能が高い塗膜とは、吸収係数が低く且つ散乱係数が比較的高いものであるから、夫々求めておいた吸収係数及び散乱係数を相互に比較することによって、遮熱性を高くするために吸収係数が低いか、又は散乱係数が比較的高い塗膜に含有されていた顔料を選択すればよい。これにより、色の選択自由度を残して塗膜の装飾性を維持しつつ、塗膜の遮熱性をより高くする顔料を容易に選択することが可能となる。
【0039】
第2発明による場合、日射光の光強度分布が考慮されて光エネルギー反射率が求められ、当該エネルギー反射率を用いて吸収係数及び散乱係数が光特性として求められる。このとき、日射光の光強度分布として規格とされている強度分布を用いる。これにより、日射光が入射した場合の塗膜の色に影響が少なく、且つ遮熱性能を高くする顔料を容易に選択することができる。
【0040】
第3発明による場合、特定の関係式を用いて日射光の近赤外線波長帯域の光がエネルギーの流れとして扱われ、概略的に且つ特定の式を用いて容易に日射光の近赤外線波長帯域の光エネルギーの塗膜における吸収係数及び散乱係数を求めることができ、日射に対する塗膜の遮熱性能を高くする顔料を容易に選択することができる。
【0041】
第4発明による場合、種々の顔料を夫々含む塗膜について、近赤外線波長帯域の光の塗膜における吸収係数及び散乱係数が求められる。実際に用いられる塗膜は、その装飾性のため複数の顔料を含有する場合が多い。基本となる複数の顔料について夫々吸収係数及び散乱係数を求めておくことにより、顔料の配合量及び顔料の配合比に応じて変化する塗膜の吸収性能及び散乱性能を求めることができる。これにより、所望の発色を実現し、且つ日射に対する塗膜の遮熱性能を高くするための顔料を容易に選択することができる。
【0042】
第5発明による場合、任意の一又は複数の顔料を含有する塗膜のエネルギー反射率が所定値となるような、前記塗膜の膜厚を含めた吸収能及び散乱能が求められる。ここで吸収能及び散乱能とは、異なる顔料夫々について求められる単位膜厚当たりの吸収係数及び散乱係数に膜厚までも考慮した光特性である。吸収能及び散乱能を用いることにより、いずれの顔料を、どれほどの配合量で配合し、どれほどの膜厚で塗膜を形成した場合に、近赤外線波長帯域の光のエネルギー反射率が所定値となるかを特定することが可能となる。これにより、所望の色を発色し、且つ日射に対する遮熱性能を高くするために、何れの顔料をどの程度の配合量で用いるべきかを容易に選択することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
【0044】
以下に示す実施の形態では、本発明に係るコンピュータプログラムをコンピュータに実行させることにより、塗膜光特性算出装置として動作させ、塗膜の光特性を算出する例を説明する。
【0045】
図3は、本実施の形態における塗膜光特性算出装置1の構成を示すブロック図である。本実施の形態における塗膜光特性算出装置1には、パーソナルコンピュータが用いられる。塗膜光特性算出装置1は、各構成部による動作を制御するCPU10と、各種情報を記憶するハードディスク(HD;Hard Disk)11と、CPU10の処理に利用されるメモリ12と、可搬型記録媒体3からデータを読み出すドライブ13と、ディスプレイ15、キーボード16、マウス17等の入出力装置とCPU10との間を中継するインタフェース(I/F)14とを備えている。なお、I/F14には、後述する測定された分光反射率を塗膜光特性算出装置1に取り込むため、分光光度計を含む測定部2(図6参照)が接続される構成としてもよい。
【0046】
HD11には、コンピュータを塗膜光特性算出装置1として動作させるための制御プログラム1Pが記憶されている。CPU10は、HD11から制御プログラム1Pをメモリ12に読み出して実行する。これにより、後述する近赤外線波長帯域の光エネルギーに対する近赤外日射反射率を算出する処理、近赤外日射吸収係数KNIR及び近赤外日射散乱係数SNIRを求める処理、光特性テーブル18を作成する処理など、塗膜光特性算出装置1としての動作が実現される。
【0047】
HD11には、光特性テーブル18が記憶されている。光特性テーブル18には、後述する処理によって算出される各顔料jを含有する塗膜の単位膜厚当たり、及び単位配合量当たりの塗膜の近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjが蓄積される。
【0048】
メモリ12は、SRAM、DRAM等を利用し、CPU10の処理によって発生する各種情報が一時的に記憶される。
【0049】
ドライブ13は、DVD、CD−ROM、フレキシブルディスク等の可搬型記録媒体3からデータを読み出すことが可能である。可搬型記録媒体3には、コンピュータ装置を塗膜光特性算出装置1として動作させるための制御プログラム3P及び光特性テーブル30が記録されている。HD11に記憶されている制御プログラム1Pは、CPU10がドライブ13によって可搬型記録媒体3から読み出した制御プログラム3Pを複製したものであってもよい。また、HD11に記憶されている光特性テーブル18は、CPU10がドライブ13によって可搬型記録媒体3から読み出した光特性テーブル30を複製したものであってもよい。
【0050】
I/F14は、CPU10によって出力される画像情報などをディスプレイ15へ出力する処理、キーボード16により入力される情報を検知してCPU10へ通知する処理、マウス17により入力される情報を検知してCPU10へ通知する処理等を行なう。塗膜光特性算出装置1を操作するオペレータ(技術者)は、キーボード16及びマウス17を利用し、塗膜の実測データを含む各種情報を直接的に入力するか、又は可搬型記録媒体3のような、記録媒体を介してCPU10に読み出しさせることにより、記憶させることが可能である。
【0051】
上述のように構成される塗膜光特性算出装置1において、異なる顔料を夫々含む種々の塗膜の光特性が算出される過程について説明する。本実施の形態におけるCPU10が制御プログラム1P又は3Pに基づいて算出する光特性は、日射光の内の近赤外線波長帯域の光全体に対する塗膜の吸収係数K及び散乱係数Sである。以下、波長毎に求められる吸収係数K及び散乱係数Sと区別するため、近赤外線波長帯域の光に対する塗膜の吸収係数K及び散乱係数Sは、近赤外日射吸収係数KNIR及び近赤外日射散乱係数SNIRと呼ぶ。
【0052】
塗膜の近赤外日射吸収係数KNIR及び近赤外日射散乱係数SNIRを算出するためには、日射光の光強度分布E(λ)(λ:波長)が必要となる。以下に示す例では、光強度分布E(λ)としてJISなどにより規格化されている強度分布を用いる。また、以下に示す近赤外日射吸収係数KNIR及び近赤外日射散乱係数SNIRを算出する処理には、種々の塗膜夫々の膜厚X、塗膜の分光反射率ρ´(λ)、下地の分光反射率ρg ´(λ)、その他既知の塗膜の界面での反射率等の各種係数が必要である。規格に基づく日射光の光強度分布E(λ)、塗膜と空気との界面での反射率(フレネル反射率及び拡散反射率)、塗膜と下地の塗膜との界面での反射率(フレネル反射率及び拡散反射率)などの各種係数は既知の情報としてHD11に記憶されており、CPU10がHD11から取得可能である。
【0053】
また、光特性の算出対象である各顔料を含有する塗膜の情報、即ち、塗膜に含まれる顔料jを特定する情報(顔料の名称又は組成を示す情報)、顔料の配合量C、膜厚X、実測により得られる分光反射率ρ´(λ)及び各種下地の分光反射率ρg ´(λ)は予め、オペレータがキーボード16及びマウス17を利用して直接的に入力するか、又は記録媒体を介してCPU10に読み出しさせることにより、HD11又はメモリ12に記憶されている。なお、各塗膜の分光反射率ρ´(λ)は、複数の異なる色の下地の上に形成された状態で実測されたものである。異なる下地の上に形成された塗膜の分光反射率ρ´(λ)は、下付きの数字でρ1 ´(λ)、ρ2 ´(λ)のように区別する。予め入力され、記憶されているべきである分光反射率ρ´(λ)、下地の分光反射率ρ´g (λ)の実測の方法については後述する。
【0054】
図4は、本実施の形態における塗膜光特性算出装置1のCPU10が、塗膜の光特性として、近赤外日射吸収係数KNIR及び近赤外日射散乱係数SNIRを算出する処理の一例を示すフローチャートである。なお、以下に示す処理は、各塗膜について行なわれる。
【0055】
CPU10は、一の塗膜について、塗膜の分光反射率ρ´(λ)を用いて塗膜に規格に基づく日射光が入射した場合の近赤外線波長帯域の光に対する近赤外日射反射率(以下、ρ´NIRと表わす)を、複数の異なる下地に形成した場合夫々について算出する(ステップS11)。具体的には、CPU10は、HD11又はメモリ12から、規格に基づく日射光の光強度分布E(λ)、並びに、異なる下地に形成した塗膜の分光反射率ρ1 ´(λ)、ρ2 ´(λ)を読み出して取得し、以下に示す式(3)に従って夫々近赤外日射反射率ρ1 ´NIR、ρ2 ´NIRを算出する。なお、算出する波長範囲は以下の例では、800nm〜2100nmとする。
【0056】
【数1】

【0057】
上述の式(3)にて求められる近赤外日射反射率ρ´NIRは、近赤外線波長帯域(800nm〜2100nm)における光をエネルギーの流れとして捉えた場合に、塗膜によって反射されるエネルギーの入射エネルギーに対する比率である。
【0058】
CPU10は、前記塗膜を形成した下地についても、下地のみの場合の分光反射率ρg ´(λ)を用いて下地に日射光が入射した場合の近赤外線波長帯域の光に対する近赤外日射反射率(以下、ρg ´NIRと表わす)を、複数の異なる下地夫々について算出する(ステップS12)。
【0059】
次にCPU10は、求めた塗膜の近赤外日射反射率ρ1 ´NIR、ρ2 ´NIRと、前記塗膜が形成される2つの下地夫々の近赤外日射反射率ρg1´NIR、ρg2´NIRとを用い、以下に説明する式(4)〜式(8)に基づき、塗膜の近赤外日射吸収係数KNIR及び近赤外日射散乱係数SNIRを算出する(ステップS13)。式(4)〜(8)中のxは、x=1,2であり、Rは、クベルカ−ムンク理論における界面反射が無い場合の塗膜の光の反射率、Rg は、クベルカ−ムンク理論における界面反射が無い場合の下地の光の反射率、Rは、クベルカ−ムンク理論における界面反射が無い場合の膜厚が十分に厚い塗膜の光の反射率である。
【0060】
【数2】

【0061】
CPU10は、求めた塗膜の近赤外日射吸収係数KNIR及び近赤外日射散乱係数SNIRを夫々、前記塗膜に含まれる顔料jの配合量Cj で除算し(式(9))、顔料jの膜厚当たり、及び配合量当たりの塗膜の近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjを算出する(ステップS14)。
【0062】
NIRj=KNIR/Cj ,SNIRj=SNIR/Cj …(9)
【0063】
なおここで顔料jの配合量Cj は、膜固形分100容量部に対して顔料jが占める容量部とすることが精度を求める上では好ましい。膜固形分100重量部に対する顔料jの重量部でもよい。
【0064】
CPU10は、ステップS14にて算出した顔料jの単位膜厚当たり、及び単位配合量当たりの塗膜の近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjを、各顔料jに対応付けてHD11の光特性テーブル18に記憶し(ステップS15)、I/F14を介してディスプレイ15に表示させ(ステップS16)、処理を終了する。
【0065】
CPU10が上述のような処理を、基本となる原色などの顔料を含有する各塗膜について行なうことにより、基本となる顔料を含有する単位膜厚当たり、及び単位配合量当たりの塗膜の近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjが光特性テーブル18に蓄積されると共に、ディスプレイ15に表示されるので各塗膜について比較することが可能である。
【0066】
上述の式(4)及び(5)は、サンダーソン補正式(実測の分光反射率ρ´(λ)を、物質内における光の吸収及び散乱を定量的に解析するために広く用いられているクベルカ−ムンク(Kubelka-Munk)理論における反射率R(λ)に変換する式)を、近赤外線波長帯域の光に対する近赤外日射反射率に適用したものである。式(4)により、塗膜の近赤外日射反射率ρ´NIRを、界面での反射がない場合の近赤外日射反射率Rに変換する。また、式(5)により、下地の近赤外日射反射率ρg´NIRを、界面での反射がない場合の近赤外日射反射率Rg に変換する。
【0067】
式(6)及び(7)は、湊の式(参考文献;特開2007−316829号公報、式(35)〜(37))を近赤外波長帯域の光に対する近赤外日射反射率R及びRg に適用したものである。
【0068】
式(8)は、クベルカ−ムンクの式(膜厚が無限大のときのクベルカ−ムンクの反射率Rと、吸収係数K及び散乱係数Sとの関係を示す式)を、近赤外線波長帯域の光に対する塗膜の近赤外日射吸収係数KNIR及び近赤外日射散乱係数SNIRを適用したものである。
【0069】
次に、塗膜光特性算出装置1のCPU10の上述の処理によって実際に得られる光の近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjを具体的に説明する。以下の説明では、基本の顔料として、アルミ系1、青系1、赤系1、白系1、赤系2の5つの顔料を使用し、各顔料の単位膜厚当たり、及び単位配合量当たりの塗膜の赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjを求め、各塗膜に含有される顔料についての塗膜の遮熱性能の評価に用いる場合を以下に例示する。
【0070】
図5は、塗膜試料の内容例を示す説明図である。図5に示す例における塗膜試料は、上述の5種の顔料を含有する塗料を夫々、白色の下地及び黒色の下地の上に形成した塗膜構造体である。図5中の顔料配合量は、塗膜100重量部に含まれる顔料の重量部で示し、膜厚は(μm)単位で示している。例えば塗膜試料No.1は、白色の下地の上にアルミ系1の顔料を10重量部含有する塗料を塗装して形成した試料である。塗膜試料No.2は、黒色の下地の上にアルミ系1の顔料を10重量部含有する塗料を塗装して形成した試料である。塗膜の膜厚はいずれも14μmである。
【0071】
なお、図5に示す例で使用された白色の下地は、白塗料を鋼板に塗装して形成した塗装鋼板である。黒色の下地は、白色の下地に黒塗料を塗装して形成した鋼板である。下地には、隠蔽力試験紙を用いてもよい。例えば具体的には、白色の下地は「オルガ(登録商標)TO−30ホワイト」(商品名、日本ペイント株式会社製、塗料)を、乾燥膜厚が30μmとなるように鋼板に塗装することで形成できる。一方、黒色の下地は、「オルガ(登録商標)TO−30ブラック」(商品名、日本ペイント株式会社製、塗料)を、乾燥膜厚が30μmとなるように鋼板に塗装することで形成できる。白色と黒色と、色が異なる下地を用いるのは、近赤外線波長帯域の分光反射率が可及的に異なることが、式(4)〜(8)に基づいて、顔料を含有する塗膜の近赤外日射吸収係数KNIR及び近赤外日射散乱係数SNIRを算出するために好適だからである。
【0072】
各顔料について、単位膜厚当たり、及び単位配合量当たりの塗膜の光の近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjを算出するためにはまず、各塗膜試料の分光反射率ρ´(λ)及び下地の分光反射率ρ´g (λ)を実測する必要がある。図6は、分光反射率の測定部2の例を示す略示断面図である。測定部2は、積分球20と、光検出器21とを含んで構成される。積分球20は内面が高反射率の素材で構成され、入射光を導入するための開口部22と、該開口部22と逆側に設けられた開口部23と、側面の光検出器21に反射光を入射するための開口部24とが設けられている。オペレータは、下地の試料25を設置して光検出器21により分光反射率ρg ´(λ)を測定し、下地の上に各顔料を含有する塗膜を形成した塗膜試料26を設置し、光検出器21により分光反射率ρ´(λ)を測定する。
【0073】
図7乃至図9は、実測された各塗膜試料の分光反射率ρ´(λ)、及び下地の分光反射率ρg ´(λ)の例を示す散布図である。図7乃至図9は、横軸に近赤外線波長帯域の波長(λ、nm単位)を示し、縦軸に分光反射率ρ´(λ)又は分光反射率ρg ´(λ)を示す。図7は、白色の下地の上に各塗料を塗装して形成した塗膜試料No.1、No.3、No.5及びNo.7の分光反射率ρ´(λ)を夫々示す。図8は、黒色の下地の上に各塗料を塗装して形成した塗膜試料No.2、No.4、No.6及びNo.8の分光反射率ρ´(λ)を示す。なお、塗膜試料No.9及びNo.10の分光反射率ρ´(λ)については図示を省略している。図9は、白色の下地の分光反射率ρg ´(λ)及び黒色の分光反射率ρg ´(λ)を示している。
【0074】
図7乃至図9に示した各塗膜の分光反射率ρ´(λ)及び下地の分光反射率ρg ´(λ)をオペレータが塗膜光特性算出装置1に入力し、塗膜光特性算出装置1のCPU10に、図4のフローチャートに示した式(3)に基づくステップS11及びS12の処理、ステップS13の処理、並びにステップS14の処理を実行させる。これにより夫々顔料jを含有する塗膜試料の単位配合量当たりの近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjが算出される。
【0075】
図10は、算出された各塗膜試料の近赤外日射反射率ρ´NIR、及び近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjの内容例を示す説明図である。図10の説明図に示す塗膜試料の番号は、図5の各塗膜試料の番号に対応する。近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjは、単位膜厚当たり、及び単位配合量当たりの値であり、図10に示したれでは(1/μm/wt%)単位で示されている。なお、wt%は、塗膜100重量部の中に含まれる顔料の重量部を示す。
【0076】
例えば、アルミ系1の顔料を含有する塗膜を白色の下地の上に形成した塗膜試料No.1の近赤外日射反射率ρ1 ´NIRは、0.647と算出され、同じ塗膜を黒色の下地の上に形成した塗膜試料No.2の近赤外日射反射率ρ2 ´NIR、は、0.570と算出された。なお、白色の下地の近赤外日射反射率ρg1´NIRは、0.800、黒色の近赤外日射反射率ρg2 ´NIRは0.040と算出された。
【0077】
これらの近赤外日射反射率ρ1 ´NIR、ρ2 ´NIR、ρg1 ´NIR、及びρg2 ´NIRを用い、式(4)〜式(9)に基づき各塗膜試料の近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjを算出する際の各反射率k1 、k2 、k3 、k4 については、以下の値を用いた。上塗り塗膜における反射率k1 、k2 については、k1 =0.03、k2 =0.40を用い、白色の下地及び黒色の下地における反射率k3 、k4 は、サンダーソン補正係数として一般に用いられるk3 =0.03、k4 =0.55を用いた。
【0078】
これにより、図10に示すように、各塗膜試料について近赤外線波長帯域の光を一のエネルギーの流れとして扱った場合の近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjが算出される。例えば、アルミ系1の顔料を含有する塗膜に関して、アルミ系1の顔料の単位膜厚当たり、及び単位配合量当たりの近赤外日射吸収係数KNIRjは0.022、近赤外日射散乱係数SNIRjは0.0012と算出されている。
【0079】
このように各顔料について、顔料を含有する塗膜の単位膜厚当たり、及び単位配合量当たりの近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjを利用し、近赤外線波長帯域の光に対する各塗膜に含まれる顔料について、塗膜の遮熱性能に対する評価が可能となる。
【0080】
図11は、各塗膜に含有される顔料について夫々算出された近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjを2次元座標にプロットした散布図である。図11の散布図は、図4のフローチャートに示したステップS16の処理の結果、ディスプレイ15に表示される内容に対応する。図11の散布図の横軸は近赤外日射吸収係数KNIRj、縦軸は近赤外日射散乱係数SNIRjを示し、いずれも対数にて表示されている。図11中の破線は夫々、KNIRj/SNIRjが一定である場合の近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjを示している。
【0081】
遮熱性能が高い塗膜とは、近赤外日射吸収係数KNIRjの値が小さく、近赤外日射散乱係数SNIRjの値が大きいものである。したがって、図11の散布図において左上にプロットされる塗膜に含有される顔料ほど、塗膜の遮熱性能を高くすることが一見して判断できる。図11においては、最も左上に位置する白系1の顔料を含有する塗膜が最も遮熱性能が高い。次に、アルミ系1の顔料を含有する塗膜の遮熱性能が高い。その次に、赤系2の顔料を包含する塗膜の遮熱性能が高い。同じ赤系顔料であっても、赤系1の顔料を含有する場合よりも、赤系2の顔料を含有する場合の方が、遮熱性能が高い塗膜を作成することが可能となることが判る。また、青系1の顔料と赤系1の顔料とでは、近赤外日射散乱係数SNIRjの値は略同等であるが、近赤外日射吸収係数KNIRjの値については赤系1の顔料を含有する塗膜の方が小さいために、遮熱性能は赤系1の顔料を含有する塗膜の方が高いことが判る。これにより、例えば青系1の顔料又は赤系1の顔料を、近赤外日射吸収係数KNIRjの値が小さい白系1の顔料と同条件で混合して塗膜A(青系1+白系1)、塗膜B(赤系1+白系1)を形成させる場合、塗膜A及び塗膜Bの近赤外日射散乱係数SNIR mixは略同等となるが、近赤外日射吸収係数KNIR mixの値は塗膜Bの方が小さくなり、遮熱性能が高くなることが容易に推定できる。
【0082】
なお、複数の顔料jを含有する塗膜の光の近赤外日射吸収係数KNIR mix及び近赤外日射散乱係数SNIR mixを求めるには、以下に示す式(10)を用いる。
【0083】
【数3】

【0084】
図12は、実際に青系1の顔料又は赤系1の顔料を、白系1の顔料と同条件で混合して形成した塗膜の近赤外日射反射率ρ´NIRの内容例を示す説明図である。白色の下地及び黒色の下地に、青系1の顔料と白系1の顔料を混合した塗膜Aを形成した塗膜試料No.11及びNo.12を作成し、同様に赤系1の顔料と白系1の顔料を混合した塗膜Bを形成した塗膜試料No.13及びNo.14を作成した。配合量は、青系1の顔料又は赤系1の顔料をいずれも、白系1の顔料の配合量を6(wt%)に対して10(wt%)とした。作成した塗膜試料No.11〜No.14について夫々分光反射率ρ´(λ)を測定し、近赤外日射反射率ρ´NIRを夫々算出した結果、塗膜A(青系1+白系1)の近赤外日射反射率ρ´NIRは、白色の下地の上に形成した場合が0.66、黒色の下地に上に形成した場合が0.16であり、塗膜B(赤系1+白系1)の近赤外日射反射率ρ´NIRは、白色の下地の上に形成した場合が0.81、黒色の下地の上に形成した場合が0.19と求められた。結果は、図11の近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjの各顔料に対するプロットから予測したことと一致し、赤系1の顔料を混合した塗膜Bの方が赤外日射反射率ρ´NIRが高く、遮熱性能が高い。
【0085】
図11に示したように、各顔料jを含有する塗膜について、単位膜厚当たり、及び単位配合量当たりの近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjを求めておき相互に比較することにより、遮熱性能が高い塗膜を形成するために選択すべき顔料が一目瞭然に判る。
【0086】
更に、図11から一目瞭然に判るように、同じ色系等の赤系1と赤系2とでは、KNIRj/SNIRjが一定となる線よりも左上に位置する赤系2の顔料を含有する塗膜の方が遮熱性能が高い。このように、同系統の色を発色させるための顔料を選択する際に、夫々の顔料を含有する塗膜の単位膜厚当たり、及び単位配合量当たりの近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjを算出しておき、比較することによって、より塗膜の遮熱性能を高くする顔料を容易に選択することが可能である。これにより、色の選択自由度を残して塗膜の装飾性を維持しつつ、塗膜の遮熱性をより高くする顔料を容易に選択することが可能となる。
【0087】
次に、上述のように算出される近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjを用いて求められる情報であって、遮熱塗膜に好適な顔料を選択するために重要な情報について説明する。以下に説明する情報についても、制御プログラム1Pに基づく塗膜光特性算出装置1の処理によって算出される。
【0088】
日射光に対する反射率は顔料の配合量C及び膜厚Xによって変動する。したがって、十分な遮熱効果を得るために、どれほどの配合量でどれほどの膜厚で塗膜を形成しなければならないかが推定可能であれば、顔料の選択に有用である。特定の配合量又は膜厚で塗膜を形成しない限り十分な遮熱効果を得ることができず、その特定の配合量又は膜厚が現実的でない場合、その顔料は遮熱塗膜の顔料として不適であると判断できるからである。
【0089】
以下に、近赤外日射反射率ρ´NIRを所定値以上に満たすための顔料の配合量C及び膜厚Xを推定させる情報を算出する処理について説明する。具体的には、塗膜光特性算出装置1のCPU10は、顔料jの配合量がCj である任意の塗膜の近赤外日射吸収係数KNIRと膜厚Xをかけた近赤外日射吸収能KNIR・X、近赤外日射散乱係数SNIRと膜厚Xをかけた近赤外日射散乱能SNIR・Xを用いる。そしてCPU10は、近赤外日射反射率ρ´NIRと、近赤外日射吸収係数KNIR及び近赤外日射散乱係数SNIRと膜厚Xとの関係を用い、近赤外日射反射率ρ´NIRが所望の値となる近赤外日射吸収能KNIR・X、近赤外日射散乱能SNIR・Xを特定する。そして、CPU10は特定した近赤外日射吸収能KNIR・X、近赤外日射散乱能SNIR・Xに基づき、近赤外日射反射率ρ´NIRを所定値とするための配合量Cと膜厚Xとをかけた尺度CXを算出する。
【0090】
図13は、本実施の形態における塗膜光特性算出装置1のCPU10が、近赤外日射反射率ρ´NIRを所定値とするための塗膜の尺度CXを算出する処理の一例を示すフローチャートである。
【0091】
CPU10の処理により、ディスプレイ15、キーボード16及びマウス17を利用してオペレータが、所望の近赤外日射反射率ρ´NIRを直接的に入力若しくは選択するか、又はは記録媒体を介してCPU10に読み出しさせるかが可能な状態とされる。オペレータが、所望の近赤外日射反射率ρ´NIRを入力若しくは選択した場合、又は記録媒体を介してCPU10に読み出しさせた場合、以下の処理が行なわれる。
【0092】
CPU10は、キーボード16又はマウス17によりI/F14を介してオペレータが入力若しくは選択、又は読み出しさせる近赤外日射反射率ρ´NIRの所望の値を受け付ける(ステップS21)。
【0093】
CPU10は、近赤外日射反射率ρ´NIRが所望の値となる近赤外日射吸収能KNIR・X、近赤外日射散乱能SNIR・Xを特定する(ステップS22)。具体的には、CPU10は例えば、以下に示す式(11)〜(13)に基づき、種々の近赤外日射吸収能KNIR mix・X、近赤外日射散乱能SNIR mix・Xに対する近赤外日射反射率ρ´NIRを算出しておき、近赤外日射反射率ρ´NIRがステップS21にて受け付けた所望の値となる近赤外日射吸収能KNIR・X、近赤外日射散乱能SNIR・Xを特定する。
【0094】
【数4】

【0095】
次にCPU10は、ステップS22で特定した近赤外日射反射率ρ´NIRが所望の値となる近赤外日射吸収能KNIR・X、近赤外日射散乱能SNIR・Xの等高線をKX−SX座標のグラフにして表示する(ステップS23)。具体的には、CPU10は連続する近赤外日射吸収能KNIR・X、近赤外日射散乱能SNIR・Xをメモリ12に記憶しておく。
【0096】
CPU10は、予め算出してある基本となる各顔料jを含有する塗膜の単位配合量当たりの近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjをステップS23のグラフにプロットして表示する(ステップS24)。CPU10は、各塗膜のプロット点を通るKNIRj/SNIRj一定の線と、ステップS23にて表示された等高線との交点(xj ,yj )を特定する(ステップS25)。具体的にはCPU10は、各塗膜のプロット点のKNIRj/SNIRjを満たす近赤外日射吸収能KNIR・X、近赤外日射散乱能SNIR・Xを、メモリ12に記憶してある近赤外日射吸収能KNIR・X、近赤外日射散乱能SNIR・Xから特定し、特定した近赤外日射吸収能KNIR・X、近赤外日射散乱能SNIR・Xを夫々各顔料jのxj 、yj とする。
【0097】
CPU10は、ステップS25にて特定した交点(xj ,yj )を、各顔料jを含有する塗膜の単位配合量当たりの近赤外吸収係数KNIRj、及び近赤外日射散乱係数SNIRjにて除算することにより、各顔料jについて所望の赤外日射反射率ρ´NIRとするための尺度CXj (配合量及び膜厚の積)を以下に示す式(14)にもとづき求める(ステップS26)。
【0098】
【数5】

【0099】
図13のフローチャートに示した処理によって算出される尺度CXj を具体例を挙げて説明する。図14は、近赤外日射反射率ρ´NIRと、近赤外日射吸収係数KNIR及び近赤外日射散乱係数SNIRとの関係を示すグラフである。図14のグラフは横軸にKNIR mix・Xの値、縦軸にSNIR mix・Xの値を示し、高さ軸に近赤外日射反射率ρ´NIRをとった3Dグラフである。なお、KNIR mix・X及びSNIR mix・Xについては簡易にKX,SXとして示し、対数表示で示している。具体的に図14のグラフは、種々のKNIR mix・X及びSNIR mix・Xの値に対し、式(11)、及び式(13)にてクベルカ−ムンクの反射率Rを求め、次いで式(12)により近赤外日射反射率ρ´NIRの値に変換して得られる近赤外日射反射率ρ´NIRと近赤外日射吸収係数KNIR及び近赤外日射散乱係数SNIRとの関係を示す。なお、図14の例では、式(11)〜(13)に基づく近赤外日射反射率ρ´NIRの算出の際に反射率Rg ´についてはRg ´=0.042(黒色の下地に相当)した。また、サンダーソン補正係数である反射率k1 、k2 、k3 、k4 については、k1 =k3 =0.03、k2 =k4 =0.55を用いた。
【0100】
図14のグラフに示すように、近赤外日射反射率ρ´NIRは、SXが大きいほど高く、KXが大きい場合は低い。KX−SX座標においては左奥(左上)ほど近赤外日射反射率ρ´NIRが高いことがわかる。なお、図14のグラフには、近赤外日射反射率ρ´NIRの等高線を示している。各等高線をKX−SX座標に投影することにより、所望の近赤外日射反射率ρ´NIRを満たすKNIR・XのSNIR・Xを特定することが可能である。
【0101】
図15は、黒色の下地の上に塗膜を形成した場合の近赤外日射反射率ρ´NIRが0.5を満たす場合の等高線の表示例を示すグラフである。図15の散布図は、図13のフローチャートに示したステップS24の処理の結果、ディスプレイ15に表示される内容に対応する。図15のグラフの横軸は、近赤外日射吸収能KNIR・X、縦軸は近赤外日射散乱能SNIR・Xを示し、いずれも対数にて表示されている。図15中の実線で表わされる曲線は、近赤外日射反射率ρ´NIRが0.5を満たす近赤外日射吸収能KNIR・X、縦軸は近赤外日射散乱能SNIR・X、即ち図14に示した近赤外日射反射率ρ´NIRが0.5の等高線を射影したものである。図15中、当該等高線よりも左上に塗膜の近赤外日射吸収能KNIR・X、近赤外日射散乱能SNIR・Xのプロット点が位置する場合、当該塗膜の近赤外日射反射率ρ´NIRは0.5よりも高く、日射に対し十分な遮熱性能を有すると言える。
【0102】
図15中には、基本となるアルミ系1、青系1、赤系1、白系1、赤系2の5つの顔料を夫々含有する塗膜の単位膜厚当たり、及び単位含有量当たりの近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjがプロットされている。いずれも近赤外日射反射率ρ´NIRは0.5を満たしていない。また、図15には、各塗膜のプロット点を通るKNIRj/SNIRj一定の線が直線にて示されている。そして、白系1及びアルミ系1の顔料を含有する塗膜のプロット点を通るKNIRj/SNIRj一定の線が夫々、近赤外日射反射率ρ´NIRが0.5の等高線との間で交点を有していることが示されている。一方、青系1、赤系1及び赤系2の顔料を含有する塗膜のプロット点を通るKNIRj/SNIRj一定の線は、等高線と交わらない。したがって、青系1、赤系1及び赤系2の顔料を含有する塗膜は、黒色の下地の上に形成した場合、どれだけ配合量Cを多くし、膜厚Xを厚くしたとしても近赤外日射反射率ρ´NIRが0.5以上を満たすことはないことが一見して判る。
【0103】
また、図15に示すように、白系1の顔料を含有する塗膜のプロット点よりも、アルミ系1の顔料を含有する塗膜のプロット点の方が、等高線との交点からの距離が近い。このときの距離は、尺度CXj の大きさに対応しており、距離が近いアルミ系1の顔料の方が、配合量C又は膜厚Xを小さくでき、黒色の下地の上に形成する場合の遮熱塗膜に含有する顔料としては好適であると判断できる。
【0104】
図16は、尺度として算出される各顔料jのCXj の内容例を示す説明図である。図16の説明図には、黒色の下地の上に基本となるアルミ系1、青系1、赤系1、白系1の4つの顔料を含有する塗膜を形成する場合の尺度CXの値と、CXが該値を満たすための配合量又は膜厚の条件が示されている。なお尺度CXの値は有効数字1桁としている。
【0105】
図16に示すように、黒色の下地の上にアルミ系1の顔料を含有する塗膜を形成する場合に、近赤外日射反射率ρ´NIRが0.5を満たすための尺度CXは「90」と算出されている。図16には、CXが90であることに基づき、近赤外日射反射率ρ´NIRを0.5以上とするためには、膜厚Xを15μmとする場合は配合量は6wt%以上、配合量Cを10wt%とする場合は膜厚Xを9μm以上、20wt%とする場合は膜厚Xを4.5μm以上とすればよいことが示されている。同様に、黒色の下地の上に白系1の顔料を含有する塗膜を形成する場合のCXは「400」と算出されている。したがって、黒色の下地の上に白系1の顔料を含有する塗膜を近赤外日射反射率ρ´NIRが0.5以上となるように形成するためには、膜厚Xを15μmとする場合は配合量は27wt%以上、配合量Cを10wt%とする場合は膜厚Xを40μm以上、20wt%とする場合は膜厚Xを20μm以上とすればよいことが示されている。青系1、赤系1の顔料についてはCXは「∞」と算出され、どのような配合量C、膜厚Xであっても、近赤外日射反射率ρ´NIRを0.5以上とすることができないことが示されている。
【0106】
このように、塗膜の近赤外日射反射率ρ´NIRを0.5以上とするための顔料の選択、及び配合量C及び膜厚Xを、尺度CXによって簡易に判断できることを実測データと比較して示す。図17は、黒色の下地の上に白系1及びアルミ系1の顔料を含有する塗膜を形成した場合の実測に基づく近赤外日射反射率ρ´NIRを示す説明図である。図17に示すように、膜厚X及び配合量Cを変え、黒色の下地の上に白系1の顔料を含有する塗膜を形成したNo.15〜No.23の塗膜試料、アルミ系1の顔料を含有する塗膜を形成したNo.24〜No.26を作成した。各塗膜試料について分光反射率ρ´(λ)を測定し、式(3)に基づき求めた近赤外日射反射率ρ´NIRが夫々示されている。図17に示すように、塗膜試料No.17、No.19、No.20、No.22及びNo.23の近赤外日射反射率ρ´NIRが0.5以上を満たしている。これらの実際の配合量Cと膜厚Xとの積は、いずれも、上述の白系1の顔料の塗膜に対して尺度として算出されたCX「400」を越えており、逆に400以下である塗膜試料No.15、No.16、No.18及びNo.21は近赤外日射反射率ρ´NIRが0.5を満たしていない。同様に、塗膜試料No.25及びNo.26の近赤外日射反射率ρ´NIRが0.5以上を満たしている。これらの実際の配合量Cと膜厚Xとの積は、いずれも140、200であって、上述のアルミ系1の顔料の塗膜に対して尺度として算出された尺度CX「90」以上である。なお、No.24の塗膜試料は近赤外日射反射率ρ´NIRが0.5を満たしていないにも拘わらず実際の配合量Cと膜厚Xとの積は100であるが、近赤外日射反射率ρ´NIRは0.49であって、配合量Cと膜厚Xとの積が尺度CX「90」を超える辺りで近赤外日射反射率ρ´NIRが0.5を満たすことには符合する。
【0107】
白色の下地の上に塗膜を形成する場合も同様である。この場合、図14のグラフに示した近赤外日射反射率ρ´NIRと、近赤外日射吸収係数KNIR及び近赤外日射散乱係数SNIRとの関係は、白色の下地の上に形成されるという前提、即ち反射率Rg ´としてRg ´=0.80を用いて算出しておく。
【0108】
図18は、白色の下地の上に塗膜を形成した場合の近赤外日射反射率ρ´NIRが0.7を満たす場合の等高線の表示例を示すグラフである。図18の散布図の構成は、図15と同様である。図18中の実線で表わされる曲線は、近赤外日射反射率ρ´NIRが0.7を満たす近赤外日射吸収能KNIR・X、縦軸は近赤外日射散乱能SNIR・Xを示す。図18中、当該等高線よりも左側及び上に塗膜の近赤外日射吸収能KNIR・X、近赤外日射散乱能SNIR・Xのプロット点が位置する場合、当該塗膜の近赤外日射反射率ρ´NIRは0.7よりも高く、日射に対し十分な遮熱性能を有すると言える。
【0109】
図18中には、図15同様、基本となるアルミ系1、青系1、赤系1、白系1、赤系2の5つの顔料を夫々含有する塗膜の単位膜厚当たり、及び単位配合量当たりの近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjがプロットされている。いずれも近赤外日射反射率ρ´NIRは0.7を満たしている。また、図18には、各塗膜のプロット点を通るKNIRj/SNIRj一定の線が直線にて示されている。アルミ系1、青系1、赤系1及び赤系2の顔料を含有する塗膜のプロット点を通るKNIRj/SNIRj一定の線が夫々、近赤外日射反射率ρ´NIRが0.7である等高線との間で交点を有している。一方、白系1の顔料を含有する塗膜のプロット点を通るKNIRj/SNIRj一定の線は、等高線と交わらない。したがって、白系1の顔料を含有する塗膜は、白色の下地の上に形成した場合、下地の近赤外日射反射率ρ´NIRが0.8であるから、どれだけ配合量Cを少なくし、膜厚Xを薄くしたとしても近赤外日射反射率ρ´NIRが0.7以上を満たすことが一見して判る。
【0110】
また、図18に示す例では、尺度CXの大きさは、白系1、赤系1、赤系2、青系1、アルミ系1の順で大きい。これにより近赤外日射反射率ρ´NIRが0.7である等高線に最も近いプロット点を有するアルミ系1の顔料を含有する塗膜が、近赤外日射反射率ρ´NIRが0.7を満たす範囲が最も少ないと言える。逆に、最もCXの大きさが大きい白系1の顔料の方が、配合量C又は膜厚Xを無制限に大きくでき、白色の下地の上に形成する場合の遮熱塗膜に含有させる顔料としては好適であると判断できる。
【0111】
図19は、尺度として算出される各顔料jのCXj の内容例を示す説明図である。図19の説明図には、白色の下地の上に基本となるアルミ系1、青系1、赤系1、白系1の4つの顔料を含有する塗膜を形成する場合の尺度CXの値と、CXが該値を満たすための配合量又は膜厚の条件が示されている。
【0112】
図19に示すように、白色の下地の上に白色1の顔料を含有する塗膜を形成する場合、配合量C及び膜厚Xに対する制限がなく、近赤外日射反射率ρ´NIRが0.7を満たす範囲が最も広い。逆に、アルミ系1の顔料を含有する塗膜を形成する場合に、近赤外日射反射率ρ´NIRが0.7以上となる尺度CXは「80」以下と算出されている。配合量C及び膜厚Xの積CXが尺度80よりも大きくなるような構成では、近赤外日射反射率ρ´NIRが0.7未満となる。例えば、白色の下地の上にアルミ系1の顔料を含有する塗膜を形成する場合に、近赤外日射反射率ρ´NIRを0.7以上として維持するためには、膜厚Xを15μmとする場合は配合量は5.3wt%未満、配合量Cを10wt%とする場合は膜厚Xを8μm未満、20wt%とする場合は膜厚Xを4μm未満としなければならないことが示されている。同様に、白色の下地の上に青系1の顔料を含有する塗膜を形成する場合のCXは「100」と算出されている。したがって、白色の下地の上に青系1の顔料を含有する塗膜を近赤外日射反射率ρ´NIRが0.7以上となるように形成するためには、膜厚Xを15μmとする場合は配合量は6.7wt%未満、配合量Cを10wt%とする場合は膜厚Xを10μm未満、20wt%とする場合は膜厚Xを5μm未満としなければならないことが示されている。白系1の顔料についてはCXは「∞」と算出され、どのような配合量C、膜厚Xであっても、近赤外日射反射率ρ´NIRを0.7未満とすることができないことが示されている。
【0113】
図20は、白色の下地の上に白系1、青系1、赤系1、及びアルミ系1の顔料を含有する塗膜を形成した場合の実測に基づく近赤外日射反射率ρ´NIRを示す説明図である。図20に示すように、膜厚X及び配合量Cを変え、白色の下地の上に白系1の顔料を含有する塗膜を形成したNo.27〜No.32の塗膜試料、青系1の顔料を含有する塗膜を形成したNo.33及びNo.34、赤系1の顔料を含有する塗膜を形成したNo.35及びNo.36、アルミ系1の顔料を含有する塗膜を形成したNo.37及びNo.38を作成した。各塗膜試料について分光反射率ρ´(λ)を測定し、式(3)に基づき求めた近赤外日射反射率ρ´NIRが夫々示されている。図20と、図19とを比較することにより、実際の配合量Cと膜厚Xとの積が尺度CXj よりも小さい場合は近赤外日射反射率ρ´NIRが0.7以上を満たしていることが判る。なお、図20では塗膜試料No.37及びNo.38のみ、近赤外日射反射率ρ´NIRが0.7を満たしていない。これらの実際の配合量Cと膜厚Xとの積は、いずれも、上述のアルミ系1の顔料の塗膜に対して尺度として算出されたCX80よりも大きい。
【0114】
このように、顔料jを含有する塗膜の単位膜厚当たり、及び単位配合量当たりの近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjに基づいて算出される尺度CXにより、実際に種々の配合量C、膜厚Xの塗膜試料を作成して近赤外日射反射率ρ´NIRを実測するなど試行錯誤が必要ない。尺度CXにより、遮熱性能を所望の性能以上とするための顔料を選択することができるのみならず、顔料の配合量C及び膜厚Xの簡易な設計が容易にできる点、優れた効果を奏する。
【0115】
本実施の形態の塗膜光特性算出装置1にインターネット又はLAN等を介して接続される端末装置を加え、オペレータは当該端末装置経由で、塗膜の光特性の種々の情報を得ることができる構成としてもよい。
【0116】
本実施の形態では、日射光に対する遮熱性能を高くする顔料を選択するために近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjを算出する方法を示した。本発明に係る塗膜光特性方法における方法は、日射光のみならず特定の強度分布を有する光の熱を塗膜によって遮蔽するための顔料を選択するための情報の算出に応用することも可能である。
【0117】
なお、開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明に係る塗膜光特性算出方法の概要を示す説明図である。
【図2】日射光の光強度分布を示すグラフである。
【図3】本実施の形態における塗膜光特性算出装置の構成を示すブロック図である。
【図4】本実施の形態における塗膜光特性算出装置のCPUが、塗膜の光特性として、近赤外日射吸収係数KNIR及び近赤外日射散乱係数SNIRを算出する処理の一例を示すフローチャートである。
【図5】塗膜試料の内容例を示す説明図である。
【図6】分光反射率の測定部の例を示す略示断面図である。
【図7】実測された各塗膜試料の分光反射率ρ´(λ)、及び下地の分光反射率ρg ´(λ)の例を示す散布図である。
【図8】実測された各塗膜試料の分光反射率ρ´(λ)、及び下地の分光反射率ρg ´(λ)の例を示す散布図である。
【図9】実測された各塗膜試料の分光反射率ρ´(λ)、及び下地の分光反射率ρg ´(λ)の例を示す散布図である。
【図10】算出された各塗膜試料の近赤外日射反射率ρ´NIR、及び近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjの内容例を示す説明図である。
【図11】各塗膜に含有される顔料について夫々算出された近赤外日射吸収係数KNIRj及び近赤外日射散乱係数SNIRjを2次元座標にプロットした散布図である。
【図12】実際に青系1の顔料又は赤系1の顔料を、白系1の顔料と同条件で混合して形成した塗膜の近赤外日射反射率ρ´NIRの内容例を示す説明図である。
【図13】本実施の形態における塗膜光特性算出装置のCPU10が、近赤外日射反射率ρ´NIRを所定値とするための塗膜の尺度CXを算出する処理の一例を示すフローチャートである。
【図14】近赤外日射反射率ρ´NIRと、近赤外日射吸収係数KNIR及び近赤外日射散乱係数SNIRとの関係を示すグラフである。
【図15】黒色の下地の上に塗膜を形成した場合の近赤外日射反射率ρ´NIRが0.5を満たす場合の等高線の表示例を示すグラフである。
【図16】尺度として算出される各顔料jのCXj の内容例を示す説明図である。
【図17】黒色の下地の上に白系1及びアルミ系1の顔料を含有する塗膜を形成した場合の実測に基づく近赤外日射反射率ρ´NIRを示す説明図である。
【図18】白色の下地の上に塗膜を形成した場合の近赤外日射反射率ρ´NIRが0.7を満たす場合の等高線の表示例を示すグラフである。
【図19】尺度として算出される各顔料jのCXj の内容例を示す説明図である。
【図20】白色の下地の上に白系1、青系1、赤系1、及びアルミ系1の顔料を含有する塗膜を形成した場合の実測に基づく近赤外日射反射率ρ´NIRを示す説明図である。
【符号の説明】
【0119】
1 塗膜光特性算出装置
10 CPU
11 HD(Hard Disk)
1P 制御プログラム
3 可搬型記録媒体
3P 制御プログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜の光特性を算出する方法であって、
近赤外線波長帯域の複数の波長毎に前記塗膜の光の反射率を求める第1ステップと、
該第1ステップで求めた波長毎の反射率に基づき、前記塗膜に日射光が入射した場合の近赤外線波長帯域の光エネルギーに対する塗膜のエネルギー反射率を求める第2ステップと、
求めたエネルギー反射率を用い、日射光の内の近赤外線波長帯域の光の塗膜内での吸収係数及び散乱係数を求める第3ステップと
を含むことを特徴とする塗膜光特性算出方法。
【請求項2】
前記第2ステップは、前記塗膜における波長毎の光の反射率と波長毎の日射光強度との乗算結果を、近赤外線波長帯域にて総計し、日射光の近赤外線波長帯域における強度和で除算することにより、前記塗膜のエネルギー反射率を求めること
を特徴とする請求項1に記載の塗膜光特性算出方法。
【請求項3】
前記塗膜が形成される下地に日射光が入射した場合のエネルギー反射率を求める第4ステップを含み、
塗膜の光の反射率、塗膜と空気との界面における光の反射率、塗膜が形成されていない下地の光の反射率、下地と空気との界面における光の反射率、塗膜の厚み、並びに塗膜内における光の吸収係数及び散乱係数の間の関係を示す特定の関係式と、いずれも既知である塗膜の厚み、塗膜と空気との界面における光の反射率、下地と空気との界面における光の反射率とを用い、
求めた塗膜のエネルギー反射率及び下地のエネルギー反射率を夫々、前記特定の関係式における塗膜の光の反射率及び下地の光の反射率として用い、前記関係式から日射光の内の近赤外線波長帯域の光の塗膜内での吸収係数及び散乱係数を求めること
を特徴とする請求項1又は2に記載の塗膜光特性算出方法。
【請求項4】
異なる顔料を夫々含む塗膜毎に、日射光の内の近赤外線波長帯域の光の前記塗膜内での吸収係数及び散乱係数を求めること
を特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の塗膜光特性算出方法。
【請求項5】
近赤外線波長帯域の光の塗膜内での吸収係数及び散乱係数夫々に膜厚を含めた吸収能及び散乱能を用い、任意の一又は複数の顔料を含有する塗膜のエネルギー反射率が所定値となる塗膜の吸収能及び散乱能を求めるステップを更に含むこと
を特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の塗膜光特性算出方法。
【請求項6】
塗膜の光特性を算出する装置であって、
近赤外線波長帯域の複数の波長毎に前記塗膜の光の反射率を取得する手段と、
取得した波長毎の光の反射率に基づき、前記塗膜に日射光が入射した場合の近赤外線波長帯域の光エネルギーに対する塗膜のエネルギー反射率を求める手段と、
求めたエネルギー反射率を用い、日射光の内の近赤外線波長帯域の光の塗膜内での吸収係数及び散乱係数を求める手段と
を備えることを特徴とする塗膜光特性算出装置。
【請求項7】
コンピュータに、塗膜の光特性を算出させるためコンピュータプログラムであって、
近赤外線波長帯域の複数の波長毎の前記塗膜の光の反射率に基づき、前記塗膜に日射光が入射した場合の近赤外線波長帯域の光エネルギーに対する塗膜のエネルギー反射率を求める第1ステップと、
求めたエネルギー反射率を用い、日射光の内の近赤外線波長帯域の光の塗膜内での吸収係数及び散乱係数を求める第2ステップと
を実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項8】
請求項7に記載のコンピュータプログラムをコンピュータが読み取り可能に記録してあることを特徴とする記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−44524(P2010−44524A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207370(P2008−207370)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】