説明

塗膜形成方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車車体等の積層塗膜を形成するのに好適な塗膜形成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車の上塗り塗料として用いられるクリヤ塗料のバインダーには、従来から、水酸基を含有したアクリルポリマーとメラミン樹脂硬化剤とを組み合わせて用いるのが一般的である。しかしながら、このようなメラミン樹脂を用いて硬化した塗膜は、一般に耐酸性に劣っており、近年問題となっている酸性雨により劣化され塗膜外観の不良を生じ易いという問題があった。
【0003】このようなメラミン樹脂を硬化剤として用いた塗膜が耐酸性に劣る原因としては、メラミン樹脂中のトリアジン核が酸によって分解され易いためと考えられている。従って、耐酸性に優れたクリヤ塗料とするためには、メラミン樹脂を用いない塗料系を検討する必要がある。
【0004】特開平2−45577号公報及び特開平3−287650号公報においては、酸基とエポキシ基とを反応させることにより生じるエステル結合により硬化させる酸−エポキシ硬化型塗料系が提案されており、このような塗料系は、耐酸性に優れていることが知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】このような酸−エポキシ硬化型塗料系では、極性の高い溶剤を用いる必要があり、このため、着色顔料を含有した着色ベース塗料を塗装し、この上にマイカを含有したマイカベース塗料を塗装した後に酸−エポキシ硬化型のクリヤ塗料をウェット・オン・ウェットで塗装する場合、以下のような問題があった。すなわち、クリヤ塗料の塗膜が厚くなるエッジ部分等では、相対的に溶剤量が多くなるので、下地膜であるマイカベース塗膜中にクリヤ塗料の溶剤が侵入し、マイカベース塗膜表面の部分的な亀裂により膜切れ現象を生じ、塗膜外観上不具合を生じるという問題があった。
【0006】本発明の目的は、このような着色ベース塗膜の上にマイカベース塗料を塗装し、この上にウェット・オン・ウェットで酸−エポキシ硬化型のクリヤ塗料を塗装する塗膜形成方法において、マイカベース塗膜の膜切れを防止し、優れた塗膜外観を得ることができる塗膜形成方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の塗膜形成方法は、基材上に電着塗装及び中塗塗装を施し、その上に着色顔料を含有した着色ベース塗料を塗装した後、ウェット・オン・ウェットで、またはベーキング後、その上にマイカを含有したマイカベース塗料を塗装し、さらにその上にウェット・オン・ウェットでクリヤ塗料を塗装した後、ベーキングする塗膜形成方法であり、以下のマイカベース塗料及びクリヤ塗料を用いることを特徴としている。
【0008】すなわち、本発明において、マイカベース塗料としては、酸価15〜200mgKOH/gで、かつリン酸基による酸価が10〜150mgKOH/gであり、数平均分子量1000〜50000であるリン酸基含有アクリル樹脂を塗料固形分100重量部に対し、0.01〜15重量部を含有する樹脂を用いる。
【0009】また、本発明において、クリヤ塗料としては、(a)1分子中に平均2個以上のカルボキシル基を有し、酸価5〜300mgKOH/g、数平均分子量500〜8000であり、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマー5〜80重量%とカルボキシル基を有しないエチレン性不飽和モノマー20〜95重量%とを共重合させることにより得られるアクリルポリカルボン酸10〜70重量%と、(b)エポキシ当量50〜700、数平均分子量200〜10000であるポリエポキシド10〜80重量%とを含有する塗料を用いる。
【0010】以下、本発明をさらに詳細に説明する。
〔マイカベース塗料〕本発明においてマイカベース塗料は、光輝材としてのマイカを含有するベース塗料であり、酸価15〜200mgKOH/g、数平均分子量1000〜50000であるリン酸基含有アクリル樹脂を含有したバインダーを用いている。
【0011】酸価が15mgKOH/gであると、本発明の効果であるマイカベース塗膜の膜切れ防止効果を十分に図ることができない場合がある。また酸価が200mgKOH/gを超えると、マイカベース塗料の貯蔵安定性が悪くなる場合がある。酸価15〜200mgKOH/gのうち、リン酸基による酸価は10〜150mgKOH/gであることが好ましく、さらに好ましくは15〜100mgKOH/gである。
【0012】また、数平均分子量が1000未満であると、本発明の効果を十分に図ることができない場合があり、数平均分子量が50000を超えると、塗膜外観が悪化する場合がある。
【0013】上記リン酸基含有アクリル樹脂は、塗料固形分100重量部に対し、0.01〜15重量部、好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは0.2〜8重量部含有される。リン酸基含有アクリル樹脂の含有量が少なすぎると、本発明の効果であるマイカベース塗膜の膜切れ防止を十分に図ることができない場合がある。またリン酸基含有アクリル樹脂の含有量が多すぎると、マイカベース塗料の貯蔵安定性が悪くなる傾向にある。
【0014】リン酸基含有アクリル樹脂以外のマイカベース塗料のバインダーとしては、上塗り塗料として一般に用いられるバインダーを用いることができ、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、フッ素系樹脂等の塗膜形成樹脂と、アミノ樹脂及び/またはブロックポリイソシアネート化合物などの架橋剤が用いられる。好ましくは、アクリル樹脂とアミノ樹脂及び/またはブロックポリイソシアネート化合物と組み合わせて用いられる。
【0015】マイカベース塗料に用いられるマイカとしては、光輝材として一般に用いられるマイカを用いることができ、具体的には、パールマイカ(ホワイトマイカ)、干渉マイカ、着色マイカなどを用いることができる。
【0016】本発明におけるマイカベース塗料の配合順序は特に限定されるものではないが、リン酸基含有アクリル樹脂を添加しマイカを分散させた後に、アクリル樹脂及びアミノ樹脂などの他のバインダー成分を添加することが好ましい。このような配合順序にすることにより、膜切れ防止の効果をさらに高めることができる。
【0017】本発明においては、マイカベース塗膜の下に、着色顔料を含有した着色ベース塗膜が設けられるので、マイカベース塗料中には、着色顔料が一般に含有されないが、必要に応じ、有機及び無機の着色顔料やアルミ箔フレークを含有してもよく、また体質顔料を含有してもよい。
【0018】さらに、必要に応じて紫外線吸収剤、酸化防止剤、表面調整剤等を含有させることができる。マイカベース塗料の固形分含有量としては、好ましくは、製造時30〜70重量%であり、塗布時10〜50重量%である。また、マイカベース塗料の乾燥膜厚としては、10〜30μmが好ましい。
【0019】本発明に従う好ましい実施形態においては、リン酸基含有アクリル樹脂として、下記の一般式(I)で表されるモノマーと他のエチレン性モノマーとを共重合して得られるアクリル樹脂が用いられる。
【0020】
【化2】


【0021】(式中、Xは水素原子またはメチル基、Yは炭素数2〜4のアルキレン基、nは3〜30の整数を表す。)
上記一般式(I)で表されるモノマーは、例えば、(メタ)アクリル酸にアルキレンオキサイドを付加させポリアルキレングリコールモノエステルとし、次いでオキシ塩化リンと反応させ、リン酸をモノエステル化し、その後、生成物を加水分解することにより合成することができる。なお、オキシ塩化リンの代わりに、正リン酸、メタリン酸、無水リン酸、3塩化リン、5塩化リン等を用いた場合でも、常法により合成することができる。
【0022】上記付加反応において、アルキレンオキサイドの使用量は、本質的には一般式(I)中のnに応じて化学量論量のnモルでよいが、例えば、(メタ)アクリル酸1モルに対し、3〜60モルである。アルキレンオキサイドは、炭素数2〜4のものである。具体的には、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、及びブチレンオキサイド等が挙げられる。触媒は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、溶媒としては、n−メチルピロリドン等が挙げられる。反応温度は、40〜200℃、反応時間は、0.5〜5時間で行うことができる。
【0023】上記付加反応の後、オキシ塩化リンのモノエステル化を行う。エステル化は常法でよく、例えば、0〜100℃、0.5〜5時間で行うことができる。オキシ塩化リンの使用量は、化学量論量でよいが、例えば、上記の付加生成物1モルに対し1〜3モルである。
【0024】その後、常法により加水分解して一般式(I)で表されるモノマー(i)を得る。上記モノマー(i)の具体例としては、例えば、アシッドホスホオキシヘキサ(もしくはドデカ)(オキシプロピレン)モノメタクリレート等が挙げられる。
【0025】モノマー(ii)は、上記モノマー(i)と共重合し得るエチレン性モノマーであり、また、得られた共重合体、すなわちアクリル樹脂が後述の硬化剤により硬化し得るものである。そのようなモノマー(ii)としては、モノマー(ii)中に酸性基と水酸基を含有するモノマーが挙げられる。なお、モノマー(ii)は、これらの基が同一分子中に存するモノマーから構成されてもよいし、また別々のモノマー種にそれぞれの基を含むモノマー混合物から形成されてもよい。
【0026】酸性基を有するエチレン性モノマーの酸性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基等が挙げられる。カルボキシル基を有するエチレン性モノマーの例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、フマール酸等が挙げられる。スルホン酸基を有するエチレン性モノマーの例としては、t−ブチルアクリルアミドスルホン酸等が挙げられる。酸性基を有するエチレン性モノマーの酸性基の一部はカルボキシル基であることが好ましい。その他のエチレン性モノマー(ii)としては、ヒドロキシル基を有するもので挙げられる。例えば、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸ヒドロキシメチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシブチル、N−メチロールアクリルアミド、アリルアルコール等が挙げられる。
【0027】他にエチレン性モノマー(ii)の例としては、アクリル酸アルキルエステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ラウリルなど)、メタクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸トリデシルなど)、油脂肪酸とオキシラン構造を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマーとの付加反応物(例えば、ステアリン酸とグリシジルメタクリレートの付加反応物等)、C3 以上のアルキル基を含むオキシラン化合物とアクリル酸またはメタクリル酸との付加反応物(例えば、日本特許第583185号、同第609322号等)、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸ベンジル、イタコン酸エステル(イタコン酸ジメチルなど)、マレイン酸エステル(マイレン酸ジメチルなど)、フマール酸エステル(フマール酸ジメチルなど)、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0028】上記モノマー(i)と(ii)を通常の方法で共重合することによりリン酸基含有アクリル樹脂が得られる。例えば、各モノマー混合物を公知の重合開始剤(例えば、アゾビスイソブチロニトリル等)と混合し、重合可能な温度に加熱した溶剤(例えば、エトキシプロパノール等)を含む反応容器中へ滴下、熟成することにより共重合体を得ることができる。
【0029】上記重合反応組成において、モノマー(i)100重量部に対し、モノマー(ii)は200〜5000重量部が好ましい。モノマー(ii)の配合量が200重量部未満だと耐水性が悪く、また5000重量部を超過するとリン酸基の効果が表れない場合がある。
【0030】重合条件は適宜選択されるが、例えば、重合温度は80〜150℃、重合時間は1〜8時間である。本発明におけるリン酸基含有アクリル樹脂は、上記のようにして調製することができ、上述のような酸価及び数平均分子量を有している。また、水酸基価は20〜200mgKOH/gであることが好ましい。
【0031】〔クリヤ塗料〕本発明で用いられるクリヤ塗料は、上述のように、アクリルポリカルボン酸(a)と、ポリエポキシド(b)とを含有する塗料である。
【0032】アクリルポリカルボン酸(a)アクリルポリカルボン酸(a)は、1分子中に平均2個以上のカルボキシル基を有し、酸価5〜300mgKOH/g、好ましくは25〜250mgKOH/g、より好ましくは50〜200mgKOH/gであり、数平均分子量500〜8000、好ましくは800〜6000、より好ましくは1500〜4000であるアクリルポリカルボン酸である。
【0033】このアクリルポリカルボン酸は、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマー5〜80重量%とカルボキシル基を有しないエチレン性不飽和モノマー20〜95重量%とを公知の方法で共重合させることにより得られる。共重合は、例えば、ラジカル重合開始剤としてアゾ系開始剤またはパーオキサイド系開始剤をエチレン性不飽和モノマーの合計100重量部に対して0.5から15重量部の量で用い、重合温度80〜200℃、重合時間3〜10時間で常圧または加圧下で行うことができる。その際、連鎖移動剤や着色防止剤を加えてもよい。
【0034】カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマーの具体例には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、及びこれらとε−カプロラクトンの付加物(例えば、東亜合成化学社製「アロニックスM−5300」)等、式(I)で表される水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーと酸無水物基含有化合物の付加物及び酸無水物基含有エチレン性不飽和モノマーとモノアルコールとの付加物が挙げられる。これらは1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0035】ここで用いる酸無水物基含有化合物は、室温〜150℃、常圧のような通常の反応条件において水酸基とハーフエステル化反応することによりカルボキシル官能性を提供する化合物であれば特に限定されない。ここでは、炭素数8〜12、特に8〜10を有する環状(不飽和もしくは飽和)の基を有する酸無水物基含有化合物を用いることが好ましい。このような化合物を用いると、得られる樹脂の相溶性が良好となるからである。好ましい酸無水物の具体例には、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸等が挙げられる。
【0036】ここで用いる酸無水物基含有エチレン性不飽和モノマーの具体例には、無水イタコン酸、無水マレイン酸及び無水シトラコン酸等が挙げられる。ここで用いるモノアルコールの具体例には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、n−ヘキシルアルコール、ラウリルアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、フリフリルアルコール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、アセトール、アリルアルコール及びプロパルギルアルコール等が挙げられる。
【0037】カルボキシル基を有しないエチレン性不飽和モノマーの具体例には、スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、(メタ)アクリル酸エステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸−n、i、及びt−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル及び(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等)、シェル社製のVeoVa−9及びVeoVa−10等が挙げられる。カルボキシル基を有しないエチレン性不飽和モノマーとしてスチレン及びスチレン誘導体を用いる場合は、5〜40重量%の量で使用することが好ましい。
【0038】好ましくは、アクリルポリカルボン酸(a)として、カルボキシル基とカルボキシレート基とを有するアクリルポリカルボン酸(a)が用いられる。得られる塗料組成物の耐酸性が向上するからである。カルボキシル基とカルボキシレート基とを有するアクリルポリカルボン酸(a)は、アクリルポリ酸無水物(a)(i)とモノアルコール(a)(ii)とを反応させることにより得られる。
【0039】アクリルポリ酸無水物(a)(i)は、酸無水物基含有エチレン性不飽和モノマー(a)(i)(1)15〜40重量%、好ましくは15〜35重量%と酸無水物基を有しないエチレン性不飽和モノマー(a)(i)(2)60〜85重量%、好ましくは65〜85重量%とを共重合させることにより得られる。酸無水物基含有エチレン性不飽和モノマー(a)(i)(1)の量が15重量%を下回ると硬化性が不足し、40重量%を上回ると得られる塗膜が硬く脆くなりすぎて耐候性が不足する。酸無水物基含有エチレン性不飽和モノマー(a)(i)(1)具体例には、既に説明したものが挙げられる。
【0040】酸無水物基を有しないエチレン性不飽和モノマー(a)(i)(2)は、酸無水物基に悪影響を与えないものであれば特に限定されず、エチレン性不飽和結合を一つ有する炭素数3〜15、特に3〜12のモノマーであることが好ましい。
【0041】2種以上のエチレン性不飽和モノマーを混合して酸無水物基を有しないエチレン性不飽和モノマー(a)(i)(2)として用いることも可能である。樹脂同士の相溶性を向上させるのに有効だからである。具体的には、カルボキシル基を有しないエチレン性不飽和モノマーとして上述したモノマーが挙げられる。
【0042】アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸及びマレイン酸のようなカルボキシル基を有するモノマーも酸無水物基を有しないエチレン性不飽和モノマー(a)(i)(2)として用い得る。中でも、これらとε−カプロラクトンの付加物(例えば、アロニックスM−5300)のようなエチレン性不飽和基とカルボキシル基との間に炭素数5〜20個程度分のスペーサー部分を有する長鎖カルボン酸モノマーを用いれば、塗膜の耐擦傷性が向上し、特に好ましい。
【0043】また、水酸基含有エチレン性不飽和モノマーと酸無水物基含有化合物とを水酸基と酸無水物基とがモル比で1/0.5〜1/1.0、好ましくは1/0.8〜1/1.0となる割合の量でハーフエステル化反応させることにより得られるカルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーを、酸無水物基を有しないエチレン性不飽和モノマー(a)(i)(2)として用い得る。このモル比が1/0.5以上になるとポリマー粘度が高くなり作業性不良となる。1/1.0以下になると過剰の酸無水物が残り、塗膜の耐水性が低下する。
【0044】ここで用いる水酸基含有エチレン性不飽和モノマーの炭素数は2〜40であることが好ましく、4〜23であることがさらに好ましい。この鎖長が短すぎると架橋点近傍のフレキシビリティーがなくなるため固くなりすぎ、長すぎると架橋点間分子量が大きくなりすぎるからである。
【0045】上記の水酸基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、下記の一般式(II)で表される構造を有する水酸基含有エチレン性不飽和モノマーを挙げることができる。
【0046】
【化3】


【0047】(式中、Rは水素原子またはメチル基であり、Xは下記の構造式(III)または(IV)で表す有機鎖である。)
【0048】
【化4】


【0049】(式中、Yは炭素数2〜8の直鎖もしくは分岐鎖のアルキレン基であり、mは3〜7の整数であり、qは0〜4の整数である。)
【0050】
【化5】


【0051】(式中、Rは水素原子またはメチル基であり、nは2〜50の整数である。)
具体的には、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル及びこれらのε−カプロラクトンとの反応物のような化合物及び(メタ)アクリル酸と大過剰のジオール(例えば、1,4ブタンジオール、1,6ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール)をエステル化することにより調製することができる化合物が挙げられる。
【0052】このような化合物は市販されており、例えば、三菱化学社製のアクリル酸4−ヒドロキシブチル「4HBA」及びメタクリル酸4−ヒドロキシブチル「4HBMA」等、ダイセル化学工業社製「プラクセルFM1」及び「プラクセルFA1」等が挙げられる。プロピレンオキサイド系モノマーとしては、日本油脂社製の「ブレンマーPP−1000」、「ブレンマーPP800」及びエチレンオキサイド系モノマーとしては、「ブレンマーPE−90」がある。
【0053】ここで用いる酸無水物基含有化合物の具体例には、既に列挙したものが挙げられる。水酸基含有エチレン性不飽和モノマーと酸無水物基含有化合物とのハーフエステル化の反応は通常の方法に従い、室温から150℃の温度で行われる。
【0054】酸無水物基含有エチレン性不飽和モノマー(a)(i)(1)と酸無水物基を有しないエチレン性不飽和モノマー(a)(i)(2)との共重合は、例えば、ラジカル重合等の溶液重合のような公知の方法により行われる。例えば、常圧または加圧下で重合温度100〜200℃、重合時間3〜8時間で行うことができる。開始剤としては、アゾ系またはパーオキサイド系の開始剤が好適に用いられる。連鎖移動剤のような他の添加剤も用い得る。
【0055】得られるポリマーの数平均分子量は500〜8000、また800〜6000、特に1500〜4000とすることが好ましい。数平均分子量が8000を上回ると樹脂同士の相溶性が低下し、外観が低下する。数平均分子量が500を下回ると塗料組成物の硬化性が不十分となる。得られるポリマーは1分子中に平均で少なくとも2個、好ましくは2〜15個の酸無水物基を有する。1分子中に含有される酸無水物基が2個を下回ると、塗料組成物の硬化性が不十分となる。15個を上回ると硬く脆くなりすぎ、耐候性が不足する。
【0056】次いで、得られたアクリルポリ酸無水物(a)(i)を、酸無水物基と水酸基とがモル比で1/10〜1/1、好ましくは1/5〜1/1、より好ましくは1/2.0〜1/1となる割合の量でモノアルコール(a)(ii)と反応させることにより、カルボキシル基とカルボキシレート基とを有するアクリルポリカルボン酸(a)を調製する。1/10を下回ると過剰のアルコールが多すぎて硬化時にワキの原因となり、1/1を上回ると未反応の無水物基が残り、貯蔵安定性が悪くなる。
【0057】本発明に用い得るモノアルコール(a)(ii)は、1〜12個、特に1〜8個の炭素原子を有することが好ましい。加熱時アルコールが揮発し酸無水物基を再生するのに良好だからである。好適に用い得るモノアルコールの具体例には、既に列挙したものが挙げられる。特に好ましいものは、アセトール、フルフリルアルコール、アリルアルコール、プロパルギルアルコール及びメタノールである。
【0058】得られるカルボキシル基とカルボキシレート基とを有するアクリルポリカルボン酸(a)は、酸価5〜300mgKOH/g、好ましくは50〜250mgKOH/gを有する。酸価が5mgKOH/gを下回ると硬化性不足となり、300mgKOH/gを上回ると貯蔵安定性が不良となるので好ましくない。
【0059】アクリルポリカルボン酸(a)成分は、樹脂組成物中の全固形分の重量を基準として10〜70重量%、好ましくは15〜50重量%、より好ましくは20〜45重量%の量で樹脂組成物に配合され得る。アクリルポリカルボン酸(a)の成分の配合量が10重量%を下回ると得られる塗膜の耐酸性が低下し、70重量%を超えると塗膜が硬くなりすぎる。
【0060】ポリエポキシド(b)ポリエポキシド(b)は、1分子中にエポキシ基を平均で2個以上、好ましくは2〜10個、より好ましくは3〜8個有する化合物であれば特に限定されない。
【0061】例えば、多価アルコールのグリシジルエーテル類や多塩基酸のグリシジルエステル類が挙げられる。これらの例として、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールヘキサグリシジルエーテル及びヘキサヒドロフタル酸ジクリシジルエステル等が挙げられる。
【0062】本発明で好ましく用いられるポリエポキシドは、エポキシ基含有エチレン性不飽和モノマー10〜60重量%、好ましくは15〜50重量%とエポキシ基を有しないエチレン性不飽和モノマー40〜90重量%、好ましくは50〜85重量%とを、共重合することにより得られるアクリルポリエポキシドである。エポキシ基含有エチレン性不飽和モノマーが10重量%以下では硬化性が不足し、60重量%以上では硬くなりすぎて耐候性不足となる。
【0063】エポキシ基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート及び3,4−エポキシシクロヘキサニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。バランスのとれた硬化性と貯蔵安定性を示す塗料組成物を調製するためには、グリシジル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。
【0064】エポキシ基を有しないエチレン性不飽和モノマーの具体例には、スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、(メタ)アクリル酸エステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸−n、i、及びt−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル及び(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等)、シェル社製のVeoVa−9及びVeoVa−10等が挙げられる。
【0065】得られるアクリルポリエポキシドの数平均分子量は200〜10000、好ましくは500〜8000、より好ましくは800〜5000である。数平均分子量が200を下回ると得られる塗膜の硬化性が低下し、10000を上回ると得られる塗料の固形分が低下する。また、エポキシ当量は50〜700、好ましくは80〜600、より好ましくは100〜500である。エポキシ当量が上記上限より大きいと塗料組成物の硬化性が不十分となる。また下限より小さいと硬くなりすぎて塗膜が脆くなるので好ましくない。
【0066】また、酸無水物基を有しないエチレン性不飽和モノマー(a)(i)(2)を調製するために上述した水酸基含有エチレン性不飽和モノマーもエポキシ基を有しないエチレン性不飽和モノマーとして用い得る。
【0067】特に、水酸基含有エチレン性不飽和モノマーをエポキシ基を有しないエチレン性不飽和モノマーとして用いた場合、得られる塗膜の密着性及びリコート性等が向上する。また、水酸基含有エチレン性不飽和モノマーをエポキシ基を有しないエチレン性不飽和モノマーとして用いて得られる、水酸基とエポキシ基とを有するアクリルポリエポキシドは、カルボキシル基とカルボキシレート基とを有するアクリルポリカルボン酸(a)と、水酸基及びエポキシ基の両方の官能基において反応し結合するので、より強固な塗膜を得ることができる。
【0068】得られるアクリルポリエポキシドの水酸基価は5〜300mgKOH/g、好ましくは10〜200mgKOH/g、より好ましくは15〜150mgKOH/gである。水酸基価が300mgKOH/gを超えると、塗料固形分が低下したり硬化塗膜の耐水性が十分でなく、5mgKOH/g以下では密着性に劣る。
【0069】本発明において特に好ましいポリエポキシドとしては、(i)下記の一般式(II)で表される構造を有する水酸基含有エチレン性不飽和モノマー5〜70重量%と、(ii)エポキシ基含有エチレン性不飽和モノマー10〜60重量%と、必要に応じて(iii)水酸基及びエポキシ基の両方を共有しないエチレン性不飽和モノマー0〜85重量%とを共重合することにより得られる、水酸基とエポキシ基とを有するポリエポキシドが挙げられる。
【0070】
【化6】


【0071】(式中、Rは水素原子またはメチル基であり、Xは下記の構造式(III)または(IV)示す有機鎖である。)
【0072】
【化7】


【0073】(式中、Yは炭素数2〜8の直鎖もしくは分岐鎖のアルキレン基であり、mは3〜7の整数であり、qは0〜4の整数である。)
【0074】
【化8】


【0075】(式中、Rは水素原子またはメチル基であり、nは2〜50の整数である。)
この場合、水酸基とエポキシ基とを有するポリエポキシド(b)は、1分子中にエポキシ基を平均で好ましくは2〜12個、より好ましくは3〜10個、及び水酸基を平均で好ましくは0.5〜10個、より好ましくは1〜8個有する。
【0076】ポリエポキシド(b)成分は、硬化性樹脂組成物中の全固形分の重量を基準として10〜80重量%、好ましくは20〜70重量%、より好ましくは30〜65重量%の量で配合され得る。ポリエポキシドの量が10重量%を下回ると得られる塗膜の硬化性が低下し、80重量%を超えると耐黄変性が悪化する。
【0077】硬化触媒塗料中には、例えば、4級アンモニウム塩のような酸とエポキシとのエステル化反応に通常用いられる硬化触媒を含んでもよい。具体例としては、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリドもくしはブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリドもしくはブロミド、サリチレートもしくはグリコレート、パラトルエンスルホネート、ナイトレート、ジブチルホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルホスフェート、トリメチルベンジルアンモニウムジブチルホスフェート、トリメチルセチルアンモニウムブチルホスフェート、オクチルトリメチルアンモニウムジメチルホスフェート、ドデシルトリメチルアンモニウムジフェニルホスフェート等が挙げられる。これらの硬化触媒は混合して用いてもよい。
【0078】硬化触媒は、樹脂組成物固形分に対し一般に0.01〜3.0重量%、好ましくは0.1〜1.5重量%、より好ましくは0.4〜1.2重量%の配合量で用い得る。用いる触媒の量が0.01重量%を下回ると硬化性が低下し、3.0重量%を上回ると貯蔵安定性が低下する。
【0079】他の添加任意成分架橋密度を上げ、耐水性の向上を図るために、塗料中にメラミン樹脂やブロック化イソシアネートを加えてもよい。また、塗装膜の耐候性向上のために、紫外線吸収剤及びヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤等を加えてもよい。さらに、レオロジーコントロール剤として架橋樹脂粒子や、外観の調整のため、表面調整剤を用いてもよい。
【0080】架橋樹脂粒子を用いる場合は、塗料樹脂組成物の樹脂固形分100重量部に対して0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部の量で添加される。架橋樹脂粒子の添加量が10重量部を上回ると外観が悪化し、0.01重量部を下回るとレオロジーコントロール効果が得られない。
【0081】さらにまた、粘度調整等のために希釈剤としてアルコール系溶剤(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、及びブタノール等)、ヒドロカーボン系、及びエステル系等の溶剤を使用してもよい。
【0082】〔基材〕本発明の塗膜形成の対象となる基材は、特に限定されるものではなく、例えば、鉄、アルミニウム、銅もしくはこれらの合金を含む金属類を初めとして、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリアクリル、ポリエステル、エチレン−ポリビニルアルコール共重合体、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリウレタン等の樹脂成形品及び各種FRPなどのプラスチック材料が挙げられる。また、自動車車体等のような金属を基材とする場合には、その表面を化成処理するのが一般的である。
【0083】〔電着塗装〕本発明において、電着塗装は、自動車車体等に行われている一般的な電着塗装を施すことができ、カチオン電着塗料及びアニオン電着塗料のいずれをも使用し得る。
【0084】〔中塗塗装〕中塗塗装は、下地欠陥を隠蔽し、上塗塗装後の表面平滑性の確保と耐チッピング性を付与するため施されるものであり、有機系、無機系の各種着色顔料及び体質顔料を含む中塗塗料を用いて塗装される。中塗塗料の着色顔料としては、例えば、有機系のアゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料など、無機系の黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタンなど、また体質顔料としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク等が用いられる。標準的には、カーボンブラックと二酸化チタンを主要顔料としたグレー系の中塗塗料が多用されるが、前記の各着色顔料を組み合わせた、いわゆるカラー中塗塗料を用いることもでき、この場合、着色ベース塗料の工程を省略することもある。
【0085】塗料形態としては、有機溶剤型、水性(水溶性、水分散性、エマルジョン)、非水分散型のいずれでもよい。中塗塗料のバインダーとしては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂などを基本樹脂とし、これにアミノ樹脂や(ブロック)ポリイソシアネート化合物などの架橋剤を混合した樹脂、あるいは常温乾燥に硬化することができる2液型ポリウレタン樹脂やシリコーン樹脂などを用いることができる。中塗塗料は、このバインダー樹脂と上記の着色顔料を形成塗膜が所望の色相となるように配合して調製されるが、固形分含有量は、製造時30〜70重量%、塗布時10〜50重量%の範囲が好ましい。また塗装形成される中塗塗膜の乾燥膜厚は25〜50μm、好ましくは30〜40μmの範囲である。
【0086】この他、中塗塗料として耐チッピング性プライマーと称するチッピング吸収機能を有する塗料を適用することも可能である。該耐チッピングプライマーは、単独で中塗塗料とされる他、中塗塗料の前工程及び/または後工程として使用することもできる。
【0087】〔着色ベース塗料〕本発明においては、上塗塗装を、着色顔料を含有した着色ベース塗料と、マイカを含有したマイカベース塗料に分けて塗装している。従って、着色ベース塗料には、一般に着色顔料が含有される。着色顔料としては、上記中塗塗料の着色顔料と同様のものを用いることができる。また、必要に応じてこの着色ベース塗料中にマイカを含有させてもよい。
【0088】着色ベース塗料のバインダーとしては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、フッ素系樹脂等の塗膜形成樹脂と、アミノ樹脂及び/またはブロックポリイソシアネート化合物などの架橋剤が用いられる。塗料中の好ましい固形分含有量は、製造時30〜70重量%、塗布時10〜50重量%の範囲である。また塗装形成される塗膜の乾燥膜厚は、10〜30μmが好ましい。
【0089】〔塗膜の形成〕図1は、本発明に従い形成される一般的な塗膜を模式的に示す断面図である。図1に示すように、基材1の上には、電着塗装塗膜2が形成され、この上に中塗塗膜3が塗布後ベーキングされることにより形成される。この中塗塗膜3の上に着色ベース塗料を塗布することにより着色ベース塗膜4が形成される。
【0090】着色ベース塗膜4の上にウェット・オン・ウェットで、もしくはベーキングした後、マイカベース塗料を塗布し、引き続いてウェット・オン・ウェットでクリヤ塗料を塗布した後、マイカベース塗料とクリヤ塗料をベーキングして、マイカベース塗膜5及びクリヤ塗膜6を形成する。従って、着色ベース塗膜4、マイカベース塗膜5、及びクリヤ塗膜6の塗膜形成においては、3コート1ベーク型もしくは3コート2ベーク型の上塗塗膜となっている。
【0091】ベーキングの際の加熱温度は、一般に100〜180℃程度であり、好ましくは120〜160℃程度である。また、加熱時間は、ベーキング温度等により変化するが、一般には120〜160℃で10〜30分程度である。
【0092】〔作用〕本発明の塗膜形成方法では、クリヤ塗料として、いわゆる酸−エポキシ型の塗料系を用いており、溶剤として極性の高い溶剤を用いる必要があるが、マイカベース塗料中に、特定のリン酸基含有アクリル樹脂を含有させることにより、従来問題となっていた膜切れ現象を防止することができ、外観に優れた塗膜を形成することができる。
【0093】本発明において、中塗塗料、着色ベース塗料、マイカベース塗料、及びクリヤ塗料の塗装方法は、一般的な塗装方法を用いることができ、特に限定されるものではなく、スプレー塗装、刷毛塗り塗装、浸漬塗装、ロール塗装、流し塗装等の塗装方法により塗装することができる。
【0094】
【発明の実施の形態】以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、特に断らない限り、配合量は重量基準である。
【0095】合成例1・ハーフエステル化されたアクリルポリカルボン酸(クリヤ塗料の成分)の合成温度計、攪拌機、冷却管、窒素導入管及び滴下ロートを備えた3リットルの反応槽にキシレン200部、ソルベッソ100の100部及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート100部を仕込み、125℃に昇温した。この容器に、滴下ロートを用い、スチレン200部、アクリル酸シクロヘキシル580部、無水マレイン酸220部及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート400部からなるモノマー溶液、及びt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエイト100部及びキシレン100部からなる開始剤溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後30分間にわたり125℃で保持した後、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエイト10部及びキシレン50部からなる開始剤溶液を30分間で滴下した。この滴下終了後、さらに1時間の間125℃にて反応を継続させ、数平均分子量3800のアクリルポリ酸無水物を含む樹脂ワニス(不揮発物50%)を得た。
【0096】得られたワニス2060部に、メタノール86部を加え、70℃で23時間反応させ、酸価126mgKOH/gのハーフエステル化されたアクリルポリカルボン酸を含むワニスを得た。なお、このアクリルポリカルボン酸について赤外線吸収スペクトルを測定し、酸無水物の吸収(1785cm-1)が消失するのを確認した。
【0097】合成例2・ポリエポキシド(クリヤ塗料の成分)の合成温度計、攪拌機、冷却管、窒素導入管及び滴下ロートを備えた2リットルの反応槽にキシレン300部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート50部を仕込み、125℃に昇温した。
【0098】上記の反応槽に、滴下ロートを用い、メタクリル酸グリシジル320部、スチレン167部、アクリル酸2−エチルヘキシル100部、プラクセルFM−1の413部からなるモノマー溶液、及びt−ブチルパーオキシ2エチルヘキサノエイト120部及びキシレン150部からなる開始剤溶液を3時間かけて滴下した。
【0099】滴下終了後、30分間にわたり125℃で保持した後、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエイト10部及びキシレン200部からなる開始剤溶液を30分間で滴下した。
【0100】この滴下終了後、さらに1時間の間125℃にて反応を継続させ、数平均分子量3500、エポキシ当量450、水酸基価95mgKOH/gのポリエポキシドを含むワニス(不揮発分60%)を得た。
【0101】合成例3・リン酸基含有アクリル樹脂の合成攪拌機、温度調整器、冷却管を備えた1リットルの反応容器にエトキシプロパノール40部を仕込み、これにスチレン4部、n−ブチルアクリレート35.96部、エチルヘキシルメタアクリレート18.45部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート13.92部、メタクリル酸7.67部、エトキシプロパノール20部にアシッドホスホオキシヘキサ(オキシプロピレン)モノメタクリレート(ユニケミカル社製、ホスマーPP)20部を溶解した溶液40部、及びアゾビスイソブチロニトリル1.7部からなるモノマー溶液121.7部を120℃で3時間で滴下した後、1時間さらに攪拌を継続した。
【0102】得られたものは、酸価105mgKOH/g、うちリン酸基による酸価55mgKOH/g、水酸基価60mgKOH/g、数平均分子量6000のアクリルワニスで、不揮発分が63%であった。
【0103】合成例4・リン酸基含有アクリル樹脂の合成合成例3でモノマー溶液を、スチレン8.81部、メチルメタクリレート11.01部、n−ブチルアクリレート46.26部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート13.92部、エトキシプロパノール20部にアシッドホスホオキシドデカ(オキシプロピレン)モノメタクリレート(ユニケミカル社製、ホスマー12PP)23.5部を溶解した溶液43.5部、及びアゾビスイソブチロニトリル1.7部からなるモノマー溶液121.7部に変更する以外は、合成例3と同様にして共重合反応を行った。
【0104】得られたものは、リン酸基による酸価30mgKOH/g、水酸基価60mgKOH/g、数平均分子量6000のアクリルワニスで、不揮発分が62%であった。
【0105】合成例5・架橋樹脂粒子の調製攪拌加熱装置、温度計、窒素導入管、冷却管及びデカンターを備えた反応容器に、ビスヒドロキシエチルタウリン213部、ネオペンチルグリコール208部、無水フタル酸296部、アゼライン酸376部及びキシレン30部を仕込み昇温した。反応により生成した水はキシレンと共沸させて除去した。還流開始より約3時間かけて反応液温を210℃とし、カルボン酸相当の酸価が135mgKOH/gになるまで攪拌と脱水とを継続して反応させた。液温を140℃まで冷却した後、「カージュラE10」(シェル社製のバーサティック酸グリシジルエステル)500部を30分で滴下し、その後、2時間攪拌を継続して反応を終了した。酸価55mgKOH/g、水酸基価91mgKOH/g及び数平均分子量1250の両性イオン基含有ポリエステル樹脂を得た。
【0106】この両性イオン基含有ポリエステル樹脂10部、脱イオン水140部、ジメチルエタノールアミン1部、スチレン50部及びエチレングリコールジメタクリレート50部をステンレス製ビーカー中で激しく攪拌することによりモノマー懸濁液を調製した。また、アゾビスシアノ吉草酸0.5部、脱イオン水40部及びジメチルエタノールアミン0.32部を混合することにより開始剤水溶液を調製した。
【0107】攪拌加熱装置、温度計、窒素導入管及び冷却管を備えた反応容器に上記両性イオン基含有ポリエステル樹脂5部、脱イオン水280部及びジメチルエタノールアミン0.5部を仕込み、80℃に昇温した。ここに、モノマー懸濁液251部と開始剤水溶液40.82部とを同時に60分かけて滴下し、さらに60分反応を継続した後、反応を終了させた。動的光散乱法で測定した粒子径55nmを有する架橋樹脂粒子エマルジョンが得られた。
【0108】このエマルジョンにキシレンを加え、減圧下共沸蒸留により水を除去し、媒体をキシレンに置換して、固形分含有量20重量%の架橋樹脂粒子のキシレン溶液を得た。
【0109】実施例1〜5並びに比較例1〜2リン酸亜鉛処理した、厚さ0.8mm、10cm×50cmのダル鋼板に、カチオン電着塗料(商品名「パワートップU−50」、日本ペイント社製)を乾燥膜厚が約25μmとなるように電着塗装し、160℃、30分間焼き付けた。次に、得られた電着塗装塗膜の上にホワイト中塗塗料(商品名「オルガP−2 8006」、日本ペイント社製)を乾燥膜厚が約40μmとなるようにスプレー塗装し、140℃、30分間焼き付けた。
【0110】冷却後、得られた中塗塗膜の上に、ホワイト着色ベース塗料(商品名「オルガP−2 051」)を乾燥膜厚が約25μmとなるようにスプレー塗装し、140℃、30分間焼き付けた。
【0111】次に、表1に示す配合割合の塗料に、塗料固形分100部に対し、0.2部(実施例1)、0.4部(実施例2)、0.7部(実施例3)、2.0部(実施例4)及び10.0部(実施例5)の合成例3のリン酸基含有アクリル樹脂を含有させた配合割合となるマイカベース塗料を調製した。なお、添加順序は、リン酸基含有アクリル樹脂を添加した溶剤中でマイカを分散させた後、他のバインダー樹脂及び添加剤を添加した。得られたマイカベース塗料をNo.3フォードカップを使って20℃で17秒となるように希釈し粘度調整したものを、乾燥膜厚が約16μmとなるように静電塗装機(ランズバーグ・ゲマ社製、「Auto REA」)により霧化圧5kg/cm2 で2ステージ塗装し、約7分間セッティングした。なお、塗装条件は25℃×65%とし、塗着時の不揮発分は67%であった。
【0112】また、比較として、表1に示す配合の塗料に対し、合成例3のリン酸基含有アクリル樹脂を配合していないもの(比較例1)及び塗料固形分100部に対し20.0部配合したもの(比較例2)を調製し、これらについても同様に塗装した。
【0113】次に、合成例1で得たアクリルポリカルボン酸及び合成例4で得たポリエポキシドを用いて、表2に示す配合割合でクリヤ塗料組成物を調製し、これを、酢酸エチル/トルエン/ソルベッソ100/ソルベッソ150=20/50/20/10の割合の希釈シンナーを用いて、No.4フォードカップを使って20℃で20秒となるように希釈し、これをウェット・オン・ウェット塗装で、マイカベース塗膜の上に、乾燥後の膜厚に約30〜約80μmの厚み勾配ができるように厚みを変化させて塗装し、140℃、30分間焼き付けた。
【0114】
【表1】


【0115】
【表2】


【0116】上記実施例1〜5並びに比較例1及び2の塗膜について、マイカベース塗膜における膜切れ状態を評価し表3に示した。膜切れ状態については以下の基準で評価した。
【0117】
○:膜切れなし…マイカが全体に均一に分散しており膜切れ部分が肉眼で確認できない状態。
×:膜切れあり…マイカベース塗膜にマイカの分散が不均一な部分が存在し、膜切れ部分が確認される状態。
【0118】
【表3】


【0119】表3に示すように、クリヤ塗料の膜厚が厚くなると、相対的に不揮発分(NV)が低くなる。表3の結果から明らかなように、本発明に従いリン酸基含有アクリル樹脂を含有させたマイカベース塗料を用いたものは、膜厚の厚い部分、すなわち不揮発分(NV)が低い部分における膜切れが生じなくなっていることがわかる。
【0120】貯蔵安定性の評価実施例1〜5並びに比較例1及び2において調製したマイカベース塗料について、貯蔵安定性を評価した。貯蔵安定性は、40℃で10日間放置した後における粘度上昇率を評価することにより行った。具体的には、No.4フォードカップを用い、20℃で30秒となるように希釈した各塗料を、40℃で10日間放置した後、再び粘度を測定し、増加した秒数で粘度上昇率を表示した。評価結果を表4に示す。
【0121】
【表4】


【0122】表4から明らかなように、リン酸基含有アクリル樹脂の含有量が増加するにつれて貯蔵安定性が悪くなっており、塗料固形分100部に対し、20.0部含有させた比較例2になると、急激に貯蔵安定性が悪くなることがわかる。
【0123】実施例6リン酸基含有アクリル樹脂として、合成例3の樹脂に代えて合成例4の樹脂を用いる以外は、実施例2と同様にしてマイカベース塗料を調製し、塗膜を形成して膜切れ状態と貯蔵安定性を評価した。膜切れ状態の評価では、膜厚30μmから膜厚80μmまで膜切れなしの○印の状態であった。また貯蔵安定性は、+1〜+12秒であった。従って、合成例4のリン酸基含有アクリル樹脂を用いた場合にも、膜切れ現象を防止することができ、良好な貯蔵安定性を示すことがわかった。
【0124】
【発明の効果】本発明によれば、着色ベース塗料の上にマイカベース塗料を塗装し、この上に酸−エポキシ硬化型のクリヤ塗料をウェット・オン・ウェットで塗装する塗膜形成方法において、マイカベース塗膜の膜切れ現象を防止し、優れた塗膜外観を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に従い形成される塗膜を模式的に示す断面図。
【符号の説明】
1…基材
2…電着塗装塗膜
3…中塗塗膜
4…着色ベース塗膜
5…マイカベース塗膜
6…クリヤ塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材上に電着塗装及び中塗塗装を施し、その上に着色顔料を含有した着色ベース塗料を塗装した後、ウェット・オン・ウェットで、またはベーキング後、その上にマイカを含有したマイカベース塗料を塗装し、さらにその上にウェット・オン・ウェットでクリヤ塗料を塗装した後、ベーキングする塗膜形成方法において、前記マイカベース塗料として、酸価15〜200mgKOH/gで、かつリン酸基による酸価が10〜150mgKOH/gであり、数平均分子量1000〜50000であるリン酸基含有アクリル樹脂を塗料固形分100重量部に対し、0.01〜15重量部を含有する塗料を用い、かつ、前記クリヤ塗料として、(a)1分子中に平均2個以上のカルボキシル基を有し、酸価5〜300mgKOH/g、数平均分子量500〜8000であり、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマー5〜80重量%とカルボキシル基を有しないエチレン性不飽和モノマー20〜95重量%とを共重合させることにより得られるアクリルポリカルボン酸10〜70重量%と、(b)エポキシ当量50〜700、数平均分子量200〜10000であるポリエポキシド10〜80重量%とを含有する塗料を用いることを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項2】 前記マイカベース塗料の前記リン酸基含有アクリル樹脂が、下記の一般式(I)で表されるモノマーと他のエチレン性モノマーとを共重合して得られるアクリル樹脂である請求項1に記載の塗膜形成方法。
【化1】


(式中、Xは水素原子またはメチル基、Yは炭素数2〜4のアルキレン基、nは3〜30の整数を表す。)
【請求項3】 前記クリヤ塗料の前記アクリルポリカルボン酸(a)が、(i)(1)酸無水物基含有エチレン性不飽和モノマー15〜40重量%と(2)酸無水物基を有しないエチレン性不飽和モノマー60〜85重量%とを共重合させることにより得られるアクリルポリ酸無水物と、(ii)1〜12個の炭素原子を有するモノアルコールとを、酸無水物基と水酸基とがモル比で1/10〜1/1となる割合の量で反応させることにより得られる、カルボキシル基とカルボキシレート基とを有するアクリルポリカルボン酸であり、前記ポリエポキシド(b)が、(i)水酸基含有エチレン性不飽和モノマー5〜70重量%と、(ii)エポキシ基含有エチレン性不飽和モノマー10〜60重量%と、必要に応じて(iii)水酸基及びエポキシ基の両方を共有しないエチレン性不飽和モノマー0〜85重量%とを共重合することにより得られる、水酸基とエポキシ基とを有するポリエポキシドである請求項1または請求項2に記載の塗膜形成方法。

【図1】
image rotate


【特許番号】特許第3207368号(P3207368)
【登録日】平成13年7月6日(2001.7.6)
【発行日】平成13年9月10日(2001.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−48003
【出願日】平成9年3月3日(1997.3.3)
【公開番号】特開平10−244214
【公開日】平成10年9月14日(1998.9.14)
【審査請求日】平成12年3月7日(2000.3.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【参考文献】
【文献】特開 平8−259667(JP,A)
【文献】特開 平3−77673(JP,A)
【文献】特開 平2−45577(JP,A)
【文献】特開 平3−287650(JP,A)