説明

塗膜積層体

【課題】重さ、厚みを軽減しつつ、天然石調の意匠性を表出することができる塗膜積層体を提供する。
【解決手段】塗膜積層体は、基材1上に着色塗膜2を有し、その上に模様塗膜3を有する塗膜積層体であって、該模様塗膜は、合成樹脂エマルションによる透明連続相31の中に、前記着色塗膜とは異色である非連続な粒状の着色分散相32が、少なくとも1種以上散在したものであり、該着色分散相32は、油性着色塗料の粒状物が潰れて平坦に広がったものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な塗膜積層体に関するものである。本発明は、主に建築物や土木構造物等に対して適用することができる。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物や土木構造物の壁面等において、その美観性を高めるため、天然石調等の意匠性を付与することが行われている。例えば、WO2004/752(特許文献1)、WO2005/14256(特許文献2)等には、天然石調の意匠性を表出する材料として、天然骨材及び樹脂を主成分とする材料が記載されている。
【0003】
しかし、上記特許文献に記載の材料は比重が大きく、さらにその厚みは数mm以上に及ぶ。そのため、基材に対する荷重が大きくなってしまう。このような材料では、厚みを薄くすると、天然石調の意匠性が損われ、また下地の色調が意匠性に悪影響を及ぼすおそれもある。
【0004】
特開2003−181369(特許文献3)には、着色下塗層の上に、石材調塗材層を積層することが記載されている。特許文献3の技術によれば、下地の色調の影響をある程度抑制することができる。しかし、特許文献3の石材調塗材層は、前述の特許文献と同様に天然石粉砕物等を用いるものであり、重さや厚みの軽減には限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2004/752号公報
【特許文献2】WO2005/14256号公報
【特許文献3】特開2003−181369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような問題点に鑑みなされたものであり、重さ、厚みを軽減しつつ、天然石調の意匠性を表出することができる塗膜積層体を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明者は鋭意検討の結果、基材に対し、特定2種の塗膜を積層した塗膜積層体に想到し、本発明を完成させるに到った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
【0009】
1.基材上に着色塗膜を有し、その上に模様塗膜を有する塗膜積層体であって、
該模様塗膜は、
合成樹脂エマルションによる透明連続相の中に、前記着色塗膜とは異色である非連続な粒状の着色分散相が、少なくとも1種以上散在したものであり、
該着色分散相は、油性着色塗料の粒状物が潰れて平坦に広がったものである
ことを特徴とする塗膜積層体。
2.基材上に着色塗膜を有し、その上に模様塗膜を有する塗膜積層体であって、
該模様塗膜は、
合成樹脂エマルションによる透明連続相の中に、前記着色塗膜とは異色である非連続な粒状の着色分散相が、少なくとも1種以上散在したものであり、
該着色分散相は、油性着色塗料の粒状物が潰れて平坦に広がったものであり、
前記透明連続相と前記着色分散相との固形分重量比は0.5:1〜50:1であることを特徴とする塗膜積層体。
3.前記着色分散相として、粒径3mm以上に平坦に広がったものを含む1.または2.記載の塗膜積層体。
4.前記着色分散相として、透明連続相との境界が入り組んだ状態である非円形状のものを含む1.または2.記載の塗膜積層体。
5.前記透明連続相と、前記着色分散相は、表面光沢度が異なるものである1.または2.記載の塗膜積層体。
6.前記着色塗膜は凹凸形状を有するものである1.または2.記載の塗膜積層体。
【発明の効果】
【0010】
上記1.〜6.の塗膜積層体は、重さ、厚みを軽減しつつ、天然石調の意匠性を表出することができるものである。
特に、上記2.では、着色分散相に対する透明連続相の比率が比較的高いため、着色分散相が平坦に広がりやすく、大柄の模様が得られやすくなる。
上記3.では、粒径3mm以上の粒状模様を有するため、離れた場所からも視認可能な大柄の模様が得られる。
上記4.では、着色分散相による粒状模様が単純な円形ではなく、ランダムな形状となるため、自然感を高めることができる。
上記5.では、透明連続相と着色分散相における表面光沢度の差異により、意匠性を高めることができる。
上記6.では、着色塗膜の凹凸形状により、模様塗膜に立体感が付与され、意匠性が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明塗膜積層体の一例を示す断面図である。
【図2】本発明塗膜積層体の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
図1〜2に、本発明塗膜積層体の一例を示す。図1は塗膜の断面図であり、図2は塗膜を正面から見た図である。
【0013】
本発明は、主に、建築物、土木構造物等に適用することができる。
本発明における基材1としては、例えば、コンクリート、モルタル、サイディングボード、押出成形板、石膏ボード、パーライト板、合板、プラスチック板、金属板、木工板、ガラス、煉瓦、陶磁器タイル等が挙げられる。
基材1は、何らかの表面処理(フィラー処理、サーフェーサー処理、シーラー処理等)が施されたものや、予め着色塗料等で着色されたものでもよく、既に塗膜が形成されたものや、壁紙が貼り付けられたものであってもよい。
【0014】
本発明では、基材1の上に着色塗膜2が設けられる。この着色塗膜2は、模様塗膜3の背景色となるものである。すなわち、本発明塗膜積層体を正面から見た場合、透明連続相31を介して、着色塗膜2の色調を見ることができる。
着色塗膜2は、結合材、及び顔料を含む着色塗料を、基材1に塗装することによって形成できる。
【0015】
着色塗膜2における結合材としては、各種の樹脂成分が使用できる。樹脂成分としては、例えば、溶剤可溶型樹脂、非水分散型樹脂、無溶剤型樹脂、水分散型樹脂、水溶性樹脂等が挙げられる。樹脂の種類としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体等、あるいはこれらの複合物等が挙げられる。
【0016】
顔料としては、着色顔料が使用できる。具体的に、着色顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、カーボンブラック、酸化第二鉄(弁柄)、黄色酸化鉄、酸化鉄、群青、コバルトグリーン等の無機着色顔料、アゾ系、ナフトール系、ピラゾロン系、アントラキノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジスアゾ系、イソインドリノン系、ベンゾイミダゾール系、フタロシアニン系、キノフタロン系等の有機着色顔料、パール顔料、アルミニウム顔料、蛍光顔料等が挙げられる。このような着色顔料の1種または2種以上を組み合わせることにより、着色塗膜2を所望の色調に設定することができる。
【0017】
着色塗膜2は凹凸形状を有するものであってもよい。この場合、着色塗膜2の凹凸形状により、模様塗膜3に立体感が付与され、意匠性が向上する。
このような凹凸形状は、例えば、着色塗膜2自体に凹凸を付与することによって形成できる。また、着色塗膜2の下層に凹凸塗膜を設け、その凹凸に沿って着色塗膜2を設けることによって、凹凸形状を形成することもできる。
【0018】
本発明積層体は、着色塗膜2の上に模様塗膜3が設けられたものである。この模様塗膜3は、透明連続相31の中に、非連続な粒状の着色分散相32が、少なくとも1種以上(好ましくは2種以上)散在したものである。
このうち、透明連続相31は、合成樹脂エマルションによって形成されたものである。一方、着色分散相32は、油性着色塗料の粒状物が潰れ、平坦に広がることによって形成されたものである。
【0019】
このような模様塗膜3の膜厚は薄く、概ね数十〜数百μm程度である。そのため、本発明では、天然石等を用いる場合に比べ、塗膜の重さや厚みが軽減でき、塗膜の軽量化を図ることができる。
しかも、模様塗膜3では、透明連続相31の中で、油性着色塗料の粒状物が潰れて平坦に広がり、着色分散相32が形成されるため、美観性に優れた天然石調の意匠性を表出することができる。
【0020】
透明連続相31と、着色分散相32との固形分重量比(透明連続相:着色分散相)は、好ましくは0.5:1〜50:1、より好ましくは1:1〜30:1、さらに好ましくは1.5:1〜20:1、さらに好ましくは2:1〜15:1である。両者がこのような比率であれば、着色分散相32が平坦に広がりやすくなり、大柄の模様が得られやすくなる。
着色分散相32として、粒径3mm以上(好ましくは5mm以上)に平坦に広がったものを含む場合は、離れた場所からも視認可能な大柄模様が形成される。なお、本発明における粒径とは、粒子の長径のことである。
【0021】
模様塗膜3において、透明連続相31を形成する合成樹脂エマルションは、水性の材料である。一方、着色分散相32は油性の材料である。そのため、着色分散相32の形状は、透明連続相との境界が入り組んだ状態である非円形状のものとなりやすい。
さらに模様塗膜3では、その表面に着色分散相32が露出しやすくなり、この場合、透明連続相31と着色分散相32の各々の質感が現れる。例えば、透明連続相31と着色分散相32の表面光沢度が異なる質感を得ることができる。具体的には、透明連続相31の表面光沢度が、着色分散相32の光沢度よりも高い塗膜等が形成される。
このようなランダムな形状の着色分散相32は、仕上り外観の自然感の向上に寄与するものである。透明連続相31と着色分散相32の質感の相違も、仕上り外観の意匠性向上に有利となる。
【0022】
着色分散相32としては、下層の着色塗膜2とは異なる色調のものを1種以上含む。これにより、2色以上の色調が混在した多彩な外観が得られる。図2では、着色分散相32として、色調が異なる2種(2色)の着色分散相(32a及び32b)が散在している。よって、正面から見ると3色(着色分散相32a、着色分散相32b、及び着色塗膜2)が混在した外観となる。
【0023】
このような模様塗膜3は、合成樹脂エマルションを含む水性媒体中に、油性着色塗料の粒状物が分散した被覆材を塗装することよって形成できる。この油性着色塗料粒状物が塗装時に潰れ、平坦に広がることにより、着色分散相32が形成される。
被覆材の塗装においては、吹付け、ローラー塗り、刷毛塗り等の手段が採用できる。この中でも、吹付けが好適である。被覆材の塗付け量は、好ましくは0.5kg/m以下、より好ましくは0.03〜0.3kg/m、さらに好ましくは0.05〜0.25kg/mである。
【0024】
上記被覆材における合成樹脂エマルションとしては、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等の各種エマルションが使用できる。本発明の効果を阻害しない限り、水性媒体中は各種添加剤を含むものであってもよい。このような添加剤としては、例えば体質顔料、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、防腐剤、防黴剤、抗菌剤、光安定剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
油性着色塗料は、非水系樹脂、着色顔料、溶剤等を含むものである。このうち、非水系樹脂としては、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等の各種非水系樹脂が使用できる。着色顔料としては、前述の着色塗膜2と同様のものが使用できる。溶剤としては、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤等が使用できる。この他、油性着色塗料は、水性媒体と同様の各種添加剤を含むこともできる。
水性媒体中において油性着色塗料の粒状物を安定に分散させるには、分散安定剤、架橋剤等を適宜使用すればよい。
【0025】
上記被覆材において、油性着色塗料粒状物の色調や粒径、合成樹脂エマルションと油性着色塗料粒状物の混合比率等は、模様塗膜3における前述の各種条件を満たすように適宜調整すればよい。
【0026】
本発明では、模様塗膜3の上に透明塗膜を設けることもできる。このような透明塗膜は、透明塗料を塗装することによって形成できる。透明塗料として、親水性塗膜が形成できるものを使用すれば、耐汚染性を高めることもできる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0028】
(着色塗料)
アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%)、黄色酸化鉄、弁柄、黒色酸化鉄、酸化チタン、造膜助剤、消泡剤を含む淡黄色の着色塗料Mを用意した。
【0029】
(被覆材)
アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%)、水、造膜助剤、紫外線吸収剤、消泡剤を含む被覆材aを用意した。
一方、白色粒子(アクリル樹脂、酸化チタン、体質顔料、脂肪族炭化水素系溶剤を主成分とする油性着色塗料の粒状物、粒子径約4mm)と、褐色粒子(アクリル樹脂、黄色酸化鉄、弁柄、黒色酸化鉄、酸化チタン、体質顔料、脂肪族炭化水素系溶剤を主成分とする油性着色塗料の粒状物、粒子径約4mm)と、濃灰色粒子(アクリル樹脂、黒色酸化鉄、酸化チタン、体質顔料、脂肪族炭化水素系溶剤を主成分とする油性着色塗料の粒状物、粒子径約4mm)が水性媒体中に分散した被覆材b(白色粒子:褐色粒子:濃灰色粒子=40:40:20(固形分重量比))を用意した。
上記被覆材aと上記被覆材bを混合し、被覆材Nを得た(被覆材a:被覆材b=5:1(固形分重量比))。
【0030】
(実施例)
スレート板に対し、着色塗料Mを塗付け量0.2kg/mにて吹付け塗装し、3時間乾燥した。次に、被覆材Nを塗付け量0.2kg/mにて吹付け塗装し、24時間乾燥した。なお、塗装及び乾燥は、すべて常温下(23℃)で行った。
以上の方法により得られた塗膜積層体では、被覆材aによって形成された透明連続相の中に、5〜12mmの粒状(非円形状)の着色分散相(白色、褐色、濃灰色)が散在しており、透明連続相を介して下層の着色塗膜(淡黄色)が見え、天然石調の美観性を有するものであった。表面光沢は、着色分散相に比べ、透明連続相のほうが高かった。
【符号の説明】
【0031】
1:基材
2:着色塗膜
3:模様塗膜
31:透明連続相
32、32a、32b:着色分散相


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に着色塗膜を有し、その上に模様塗膜を有する塗膜積層体であって、
該模様塗膜は、
合成樹脂エマルションによる透明連続相の中に、前記着色塗膜とは異色である非連続な粒状の着色分散相が、少なくとも1種以上散在したものであり、
該着色分散相は、油性着色塗料の粒状物が潰れて平坦に広がったものである
ことを特徴とする塗膜積層体。
【請求項2】
基材上に着色塗膜を有し、その上に模様塗膜を有する塗膜積層体であって、
該模様塗膜は、
合成樹脂エマルションによる透明連続相の中に、前記着色塗膜とは異色である非連続な粒状の着色分散相が、少なくとも1種以上散在したものであり、
該着色分散相は、油性着色塗料の粒状物が潰れて平坦に広がったものであり、
前記透明連続相と前記着色分散相との固形分重量比は0.5:1〜50:1であることを特徴とする塗膜積層体。
【請求項3】
前記着色分散相として、粒径3mm以上に平坦に広がったものを含む請求項1または2記載の塗膜積層体。
【請求項4】
前記着色分散相として、透明連続相との境界が入り組んだ状態である非円形状のものを含む請求項1または2記載の塗膜積層体。
【請求項5】
前記透明連続相と、前記着色分散相は、表面光沢度が異なるものである請求項1または2記載の塗膜積層体。
【請求項6】
前記着色塗膜は凹凸形状を有するものである請求項1または2記載の塗膜積層体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−143917(P2012−143917A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2643(P2011−2643)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(510114125)株式会社エフコンサルタント (32)
【Fターム(参考)】