説明

塗膜

【課題】インピーダンス測定により、多層構造の塗膜の適切な劣化の判断ができるようにする。
【解決手段】塗膜は、金属101の表面に接して形成された第1塗膜102と、第1塗膜102の上の表面側に形成されて絶縁性が第1塗膜102以下の第2塗膜103とを備える。また、この塗膜は、塗膜全体の膜厚方向の抵抗率が1GΩm以下とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食防止などのために鋼材に用いられる塗膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属より構成された鋼材の防食として塗膜を利用することが行われる。大気中での金属の腐食は、表面を覆う水の膜中での電気化学的な反応と考えられている。従って、この電気化学的な反応を塗膜により絶縁することは、鋼材表面を腐食から防ぐことに有効である。ただし、実在の塗膜にはピンホールや顔料による短回路拡散領域などの欠陥が存在するので,これらの欠陥を通しての絶縁破壊があると、被覆している鋼材の腐食が進行する懸念がある。このような金属の腐食は、塗膜の下で進行し、結果として、塗膜の剥離を引き起こす場合がある。このような状態で適切な補修を行わないまま放置すると、鋼材の激しい腐食の進行を導くことになる。
【0003】
このような背景のもとに、剥離が生じる前に塗膜下での金属の腐食状態を非破壊または低侵襲で把握する手法が研究されている。例えば、インピーダンスを測定することで、塗膜を評価する方法が提案されている(非特許文献1参照)。この方法では、塗膜が形成されている金属と、塗膜表面に接触させたプローブとの間に交流電圧を印加することで、塗膜の膜厚方向のインピーダンスを測定し、この測定結果より塗膜の劣化を評価している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】齋藤 博之、澤田 孝、「塗装下での金属の腐食初期段階に関する検討」、信学技報、EMD2010−66、pp.19−24、2010。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した塗膜の評価では、インピーダンスの測定を行うことによって、低侵襲で塗膜と金属の界面の腐食状況が理解でき、一定の効果をあげている。しかしながら、近年では、上塗りと下塗り、あるいは、これらの間に中塗りをするなど、塗装を複数層に重ねるようにしている。通常、金属に接触させて用いる下塗りには、金属との密着性が高い塗膜が用いられ、外部環境にさらされる上塗りには耐候性のよい塗膜が用いられる。これらの塗膜は、一般には、絶縁性の高い有機材料から構成されており、多層構造にするにつれて絶縁性が高くなる。
【0006】
このような塗膜の構造では、前述したようなインピーダンス測定を行うだけの電流を計測することができなくなり、塗膜を評価しにくくなると言う問題を発生させている。特に、相対的に、上塗り塗料の絶縁性が高く、下塗り塗料の絶縁性が低い場合には、上塗り塗料が健全なうちは、高い絶縁性からインピーダンスの測定が難しく腐食に対する抵抗性も高いが、インピーダンス測定が可能になるような状態に劣化した段階では、急激に絶縁性が落ちて塗膜下での腐食を生じるようになる。このため、多層構造の塗膜においては、前述したようなインピーダンス測定では、塗膜劣化の兆しをつかむことが容易ではなく、適正な劣化の判断ができないという問題があった。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、インピーダンス測定により、多層構造の塗膜の適切な劣化の判断ができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る塗膜は、金属表面に接して形成された第1塗膜と、第1塗膜の上の表面側に形成されて絶縁性が第1塗膜以下の第2塗膜とを備え、金属表面に形成された塗膜全体の膜厚方向の抵抗率が1GΩm以下とされている。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明によれば、表面側の第2塗膜は、絶縁性が金属に接する第1塗膜以下とし、塗膜全体の膜厚方向の抵抗率を1GΩm以下としたので、インピーダンス測定により、多層構造の塗膜の適切な劣化の判断ができるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の実施の形態における塗膜の構成を示す断面図である。
【図2】図2は、経時的に変化する多層構造の塗膜のインピーダンス測定の結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における塗膜の構成を示す断面図である。この塗膜は、金属101の表面に接して形成された第1塗膜102と、第1塗膜102の上の表面側に形成されて絶縁性が第1塗膜102以下の第2塗膜103とを備える。また、この塗膜は、金属101の表面に形成された塗膜全体の膜厚方向の抵抗率が1GΩm以下とされている。
【0012】
このような多層の塗膜では、金属に接触して形成される下塗塗膜においては、従来求められていたのは金属との密着性であるため、エポキシ樹脂塗料などが用いられいる。本実施の形態では、これらの場合と同様に、金属101に接して形成される第1塗膜102は、例えば、エポキシ樹脂から構成し、膜厚100μm程度とする。この場合、第1塗膜102は、電気抵抗200Ω/m2となる。
【0013】
一方、このような多層の塗膜では、表面側の上塗塗料は、耐候性および美観という外界からの刺激・外部からの視覚的様相という点が求められ、絶縁性が高く、酸素や水の遮断能は高ければ高いほどよいとされている。これに対し、本実施の形態では、第2塗膜103は、エポキシ樹脂塗膜と同程度のものとする。具体的には、例えば、シリコーン樹脂から第2塗膜103を構成し、膜厚100μm程度とする。この場合、第2塗膜103は、電気抵抗200Ω/m2となり、エポキシ樹脂より構成する第1塗膜102とほぼ同様とする。
【0014】
以下、多層塗膜におけるインピーダンス測定による測定電流の挙動について説明する。高い絶縁性の材料から表面側の上塗塗膜を構成している場合、塗膜を形成した初期においては、測定される電流は、図2の点線のA1に示すような挙動となる。これは、塗膜を形成した初期においては、極めて高い絶縁性の上塗塗膜の存在により、一定の測定電圧に対して得られる測定電流がきわめて小さく、検出できないことを示している。
【0015】
この後、屋外での厳しい環境で上塗塗料が劣化して下塗塗膜が出現すると、劣化は急速に進行し、図2の点線のA2に示すように、測定される電流値が急激に増加する。この場合、電気測定による検出限界Xを超えて劣化が検出できた時点での劣化速度は極めて大きく、補修する十分な時間的余裕もない状況で、塗膜の剥がれが発生し、図2のA3に示すように、電気抵抗が小さく測定電流が大きい状態となる。
【0016】
これらの変化に対し、本実施の形態によれば、塗膜を形成した初期の段階より、第2塗膜103は劣化が始まる。このため、上述した場合では電流が測定されない期間においても、図2の実線のB1に示すように、検出限界Xを超える測定電流が得られる。この結果、第1塗膜102の劣化が激しくならないうちに、塗膜劣化の状況が把握でき、対策を行う期間が得られる。現実の測定器では、インピーダンスの測定限界は1GΩ程度であるから、第1塗膜102から第2塗膜103までの合計の塗膜の抵抗率を1GΩm以下とすれば、有効に測定を行うことができる。このように、本実施の形態によれば、インピーダンス測定により、多層構造の塗膜の適切な劣化の判断ができるようになる。
【0017】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、上述では、エポキシ樹脂およびシリコーン樹脂の組み合わせとしたが、これに限るものではない。塗装材料として利用可能な範囲内で、第2塗膜は、絶縁性が第1塗膜以下となっていれば、どの様な材料を組み合わせて用いてもよい。
【符号の説明】
【0018】
101…金属、102…第1塗膜、103…第2塗膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面に接して形成された第1塗膜と、
前記第1塗膜の上の表面側に形成されて絶縁性が前記第1塗膜以下の第2塗膜と
を備え、
前記金属表面に形成された塗膜全体の膜厚方向の抵抗率が1GΩm以下とされていることを特徴とする塗膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−179564(P2012−179564A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44976(P2011−44976)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】