説明

塗装用刷毛

【課題】 塗装時の毛先のまとまり性が良く、繊細な個所の塗装も可能にしながら、十分な含み量も同時に満足できる塗装用刷毛を提供することである。
【解決手段】 直径0.07(mm)の化繊からなる相対的に細いウェーブ毛10〜25(重量%)、直径0.1(mm)の化繊からなる相対的に太いウェーブ毛10〜25(重量%)、直径0.1(mm)の化繊からなる相対的に細い直毛35〜50重量%及び直径0.125(mm)の化繊からなる相対的に太い直毛15〜30(重量%)を束ねて、毛の合計が100(重量%)となる構成にする一方、上記相対的に細いウェーブ毛はその波形状を不規則とし、上記相対的に太いウェーブ毛はその波形状を規則的にするとともに、上記相対的に細いウェーブ毛はその波の繰り返し数を、相対的に太いウェーブ毛よりも小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ウェーブ毛と直毛とを混合し、塗料の含み量を多くした塗装用刷毛に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の塗装用刷毛として、例えば、特許文献1に開示されたものが従来から知られている。
この従来の塗装用刷毛は、相対的に太い直毛と、相対的に細い直毛と、細い直毛と同じ太さのウェーブ毛とからなるものである。
上記ウェーブ毛は、その製造工程において、例えば回転する一対の歯車状の部材間に素材である毛を挟み込んで成型したもので、歯車の歯のピッチに応じた規則的な波形状を有するものである。
このようなウェーブ毛と直毛とを組み合わせて束ね、ウェーブ毛の周囲に空間を保持することによって塗料の含み量を多くしている。
【0003】
なお、このような刷毛は、ウェーブ毛の量が多くなればなるほど、塗料の含み量は多くなるが、その分、毛先のまとまり性が劣るという性質がある。そこで、上記従来の塗装用刷毛では、毛の総量におけるウェーブ毛の割合を、本数基準において10〜40%としている。
このような刷毛は、ウェーブ毛の混合割合の下限である10%付近では、ある程度の含み量を維持しながら毛先のまとまり性を満足し、上限である40%付近では十分な含み量を維持しながら、ある程度のまとまり性を維持するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4455599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、ウェーブ毛と直毛とを混合した従来の刷毛は、ウェーブ毛の量を本数基準で10%と少なくした場合には、含み量を犠牲にしながらまとまり性を優先させている。そのために、ウェーブ毛の量を本数基準で10%と少なくした刷毛では、まとまり性に優れ、例えば入隅や塗装エリアの輪郭など繊細な個所を塗装する用途に適しているが、含み量は十分ではないという問題があった。
一方、ウェーブ毛を本数基準で40%と多くした刷毛は、含み量を優先させて、まとまり性を犠牲にしている。そのために、入隅や塗装エリアの輪郭などの繊細な箇所を塗装しにくくなるという問題があった。
この発明の課題は、塗装時の毛先のまとまり性が良く、繊細な個所の塗装も可能にしながら、十分な含み量も同時に満足できる塗装用刷毛を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、直径0.07(mm)の化繊からなる相対的に細いウェーブ毛10〜25(重量%)、直径0.1(mm)の化繊からなる相対的に太いウェーブ毛10〜25(重量%)、直径0.1(mm)の化繊からなる相対的に細い直毛35〜50(重量%)及び直径0.125(mm)の化繊からなる相対的に太い直毛15〜30(重量%)を束ねて、結束帯で結束するとともに、これら相対的に細いウェーブ毛、相対的に太いウェーブ毛、相対的に細い直毛及び相対的に太い直毛の合計が100(重量%)となる構成にする一方、上記相対的に細いウェーブ毛はその波形状を不規則とし、上記相対的に太いウェーブ毛はその波形状を規則的にするとともに、上記相対的に細いウェーブ毛はその波の繰り返し数を、相対的に太いウェーブ毛よりも小さくしたことを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、上記各毛の結束帯から露出する毛の長さを同じにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明では、相対的に細いウェーブ毛と相対的に太いウェーブ毛とを備えることによってウェーブ毛の周囲に塗料を保持する隙間を多く形成し、塗料の含み量を大きくしている。
一方、相対的に細いウェーブ毛は、その直径が細いため、他の毛よりも腰が弱く、塗装面に毛束の先端を押し付けたとき、より腰の強い直毛に沿って変形する。しかも、この相対的に細いウェーブ毛は波形状が不規則で、波の繰り返し回数が少ないため、もともと、太いウェーブ毛と違って直線に近い部分を備えている。そのため、この細いウェーブ毛は塗装時の外力によって腰の強い直毛に沿いやすく、直毛と一緒になって先端のまとまり性を維持することができる。
【0009】
このように、相対的に細いウェーブ毛は、塗装面に接触していないときは、ウェーブによって塗料を保持する空間を維持しながら、塗装時には直毛のようにふるまってまとまり性を維持することができる。
言い換えれば、ウェーブ毛の混合量の下限においては、まとまり性はもちろん、十分な含み量も確保でき、入隅や塗装エリアの輪郭など、より繊細な塗装に対応できるまとまり性を実現しながら、含み量を犠牲にすることはない。
また、ウェーブ毛の混合量の上限では、含み量をより多くしながら、塗装時のまとまり性も犠牲にしない。
【0010】
第2の発明によれば、全ての毛の先端が揃うので、塗装エリアの境界線をさらにきれいに仕上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1はこの発明の実施形態の塗装用刷毛の外観図である。
【図2】図2は実施形態の塗装用刷毛の各毛の混合量を示す表である。
【図3】図3は実施形態の刷毛に用いられるウェーブ毛の拡大図であり、(a)は相対的に太いウェーブ毛、(b)は相対的に細いウェーブ毛である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1〜図3を用いて、この発明の実施形態を説明する。
この実施形態の塗装用刷毛は、図1に示すように、結束帯1で毛を束ねて刷毛部2を構成し、上記結束体1を取っ手3に固定したものである。この実施形態の取っ手3は、一端を二股にした木製の部材で、この二股状部分に上記結束帯1を挟み込んでから、針金4によって取っ手3に結束帯1を固定している。但し、取っ手3の材質や形状はこの実施形態に限定されないし、刷毛部2と取っ手3はどのような方法で固定してもかまわない。
【0013】
また、上記刷毛部2は、図2に示す4種類の毛を混合して構成している。
つまり、刷毛部2は、直径が0.07(mm)の化繊からなる細ウェーブ毛と、直径が0.1(mm)の化繊からなる太ウェーブ毛と、直径が0.1(mm)の化繊からなる細直毛と、直径が0.125(mm)の化繊からなる太直毛とを混合し、結束体1で束ねた毛束である。そして、上記細ウェーブ毛がこの発明の相対的に細いウェーブ毛であり、上記太ウェーブ毛が相対的に太いウェーブ毛、上記細直毛が相対的に細い直毛、上記太直毛が相対的に太い直毛である。
【0014】
上記各毛を構成する化繊としては、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)やポリエチレンテレフタレート(PET)などのモノフィラメントを用いることができるが、刷毛の用途に応じて、腰の強さや、塗料の種類などを基準に、樹脂の種類を選ぶことができる。塗料が水性の場合には、ほとんどの樹脂が使用可能であるが、溶剤を含む油性塗料用の場合には、溶剤に侵され難い樹脂を選択する必要がある。
そして、上記細直毛と太直毛とは、その直径が異なる化繊からなる直線状の毛であるが、その材質が同一樹脂であっても、太直毛の方が細直毛よりも剛性が高く、刷毛部2全体の腰を保つ機能を備えている。
【0015】
また、上記ウェーブ毛は、図3に示すように波形を加えた毛である。図3(a)は太ウェーブ毛であり、図3(b)は細ウェーブ毛である。
図3(a)の太ウェーブ毛は、上記従来の塗装用刷毛のウェーブ毛と同様に、その製造過程において、歯車や型を押し付けて規則的な波形状を形成したものである。
なお、上記規則的な波形状とは、個々の波の高さや幅、曲線などが一定に決まった形状であり、所定長さに含まれる波の繰り返し個数が決まっている形状のことである。
【0016】
一方、図3(b)の細ウェーブ毛は、その直径が上記太ウェーブ毛に比べて小さい、細い毛であって、不規則な波形状を有するものである。
不規則な波形状とは、個々の波の高さや幅、曲線などが一定ではなく、所定の長さに含まれる波の繰り返し個数が決まっていない形状のことである。
そして、このような不規則な波形状は、型によって成形するのではなく、例えば、加熱処理によって生じさせたものである。
【0017】
また、この実施形態では、上記細ウェーブ毛はその波の繰り返し個数を、上記太ウェーブ毛の波の繰り返し個数よりも小さくしている。例えば、図3に示すものでは、所定長さS内における波の繰り返し個数が、図3(a)の太ウェーブ毛が3なのに対し、図3(b)の細ウェーブ毛は1.5である。
このように上記細ウェーブ毛において、波の繰り返し数が少ないということは、局所的に直線に近い部分があるということができる。
【0018】
上記のような4種類の毛を混合して刷毛部2を構成するが、その際の各毛の混合量は、図2の表に示す混合量の範囲で設定し、その合計が100(重量%)となるようにしている。
さらに、この実施形態では、結束帯1から露出する全ての毛の長さLを等しくしている。
【0019】
そして、上記各毛の混合量は、図2に示す混合量の範囲であれば、どのような組み合わせであっても、上記した従来の塗装用刷毛に比べてより十分な含み量を実現できる。
例えば、細ウェーブ毛及び太ウェーブ毛をそれぞれ下限値である10(重量%)とし、細直毛を50(重量%)、太直毛を30(重量%)としたものが、この実施形態の刷毛部2として、細ウェーブ毛と太ウェーブとの合計量が最も少ないものである。
このように、ウェーブ毛の混合量を最低にした刷毛部2でも、細ウェーブ毛と太ウェーブ毛との合計は20(重量%)であり、上記従来の刷毛のウェーブ毛を10(%)とした刷毛よりもウェーブ毛の混合量が多くなる。
【0020】
なお、従来の塗装用刷毛においてウェーブ毛の混合量は、本数基準で10〜40(%)とし、この実施形態では、毛の混合量を重量%で設定している。しかし、同一素材で毛の太さが同等ならば、本数%と重量%とは同じになるため、従来の刷毛のウェーブ毛の10(%)とこの実施形態の太ウェーブ毛の10(重量%)とは大差はないと考えられる。そのうえで、この実施形態の刷毛部2には、さらに上記細ウェーブ毛が10(重量%)含まれている。この細ウェーブ毛は、太ウェーブ毛と比べて同じ重量当たりの本数が多いため、この実施形態の刷毛部2は、従来の刷毛と比べてウェーブ毛の本数がかなり多くなり、塗料を保持するための空隙が多くなることは明らかである。
つまり、この実施形態の刷毛ならば、ウェーブ毛の混合量を最低にした場合でも、従来の刷毛よりも含み量を多くすることができる。
【0021】
また、この実施形態の刷毛は、上記のように含み量が多くなる一方、塗装時の刷毛部のまとまり性にも問題がないものである。
その理由は、上記細ウェーブ毛が、含み量を多くしながら、塗装時には直毛のように振る舞うためである。細ウェーブ毛は、他の毛と比べて直径が細く腰がないため、刷毛部2の先端が塗装面に押し付けられたとき、ウェーブがつぶされやすい。細ウェーブ毛は波形状が不均一で、しかも、もともと直線状の部分を持っているため、腰が弱いことと相まって、特にウェーブがつぶされやすく、その結果、直毛に沿うことになる。
つまり、細ウェーブは、塗料に浸した時には含み量を多くするが、塗装時には直毛に沿ってたわみ、直毛と同様に振る舞って刷毛部2のまとまり性を維持することができる。
従って、この実施形態の刷毛は、入隅や塗装エリアの輪郭などをきれいに仕上げることができる。
【0022】
また、細ウェーブ毛を25(重量%)、太ウェーブ毛を25(重量%)、細直毛を35(重量%)、太直毛を15(重量%)とし、ウェーブ毛の合計の混合量を上限の50(重量%)とした場合には、含み量がさらに多くなることは明らかである。
一方で、塗料を含んだ25(重量%)の細ウェーブ毛が、塗装時には直毛のように振る舞ってまとまり性を維持することは上記した通りである。
従って、この実施形態の刷毛は、ウェーブ毛の混合量を上限の50(重量%)とした場合には、上記従来の刷毛におけるウェーブ毛の混合量を上限の40(%)とした場合と同等かそれ以上の含み量を実現しながら、まとまり性も犠牲にしないものとなる。
【0023】
これに対し、従来の刷毛のウェーブ毛は、直毛と同じ太さにしていたため、それらの剛性も相対的に等しく、刷毛部をしならせたときにもウェーブがつぶれ難い。すなわち、塗装時であってもウェーブ毛が直毛に沿い難く、毛の周囲に隙間を維持する特性を持っている。そのため、従来の刷毛は、ウェーブ毛の混合量が多くなればなるほど、含み量を多くすることはできるが、それに伴って刷毛部のまとまり性が犠牲になるものであった。
【0024】
さらに、この実施形態の刷毛は、刷毛部2の全ての毛の長さLを等しくしている。このように、毛の長さを全て等しくすれば、塗装面に接触する毛先が揃うので、入隅や塗装エリアの輪郭をよりきれいに仕上げることができる。
但し、毛の長さに差をつけたとしても、上記細ウェーブ毛が、通常は、ウェーブによって形成される隙間に塗料を含んで含み量を多くしながら、塗装時には、塗装面に押し付けられる力によって直毛に沿って直毛状にたわみ、直毛と一緒になって先端のまとまり性を維持することは変わらない。従って、毛の長さを全て等しくすることは、この発明の目的を達成するための必須事項ではない。
【産業上の利用可能性】
【0025】
この発明の塗装用刷毛は、入隅や塗装エリアの輪郭などの繊細な個所の塗装から大面積の塗装にも適用できる。
【符号の説明】
【0026】
1 結束帯
2 刷毛部
L 毛の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径0.07(mm)の化繊からなる相対的に細いウェーブ毛10〜25(重量%)、直径0.1(mm)の化繊からなる相対的に太いウェーブ毛10〜25(重量%)、直径0.1(mm)の化繊からなる相対的に細い直毛35〜50(重量%)及び直径0.125(mm)の化繊からなる相対的に太い直毛15〜30(重量%)を束ねて、結束帯で結束するとともに、これら相対的に細いウェーブ毛、相対的に太いウェーブ毛、相対的に細い直毛及び相対的に太い直毛の合計が100(重量%)となる構成にする一方、上記相対的に細いウェーブ毛はその波形状を不規則とし、上記相対的に太いウェーブ毛はその波形状を規則的にするとともに、上記相対的に細いウェーブ毛はその波の繰り返し数を、相対的に太いウェーブ毛よりも小さくした塗装用刷毛。
【請求項2】
上記各毛の結束帯から露出する毛の長さを同じにした請求項1に記載の塗装用刷毛。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−85569(P2013−85569A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225893(P2011−225893)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000206934)株式会社マルテー大塚 (26)
【Fターム(参考)】