説明

塩化ニッケル水溶液の精製方法

【課題】不純物元素としてコバルト及び鉄を含有する塩化ニッケル水溶液に、塩素を吹き込みつつ中和剤を添加して、鉄を沈澱除去する精製方法において、形成される反応終液スラリー中の水酸化鉄(III)沈殿のろ過性を向上させ、ニッケルとコバルトの沈殿へのロスを抑制することができる塩化ニッケル水溶液の精製方法を提供する。
【解決手段】上記塩化ニッケル水溶液に、塩素を吹き込みつつ中和剤を添加して、酸化中和反応に付し、水酸化鉄(III)沈殿を含む反応終液スラリーを形成することにより、鉄を沈澱除去する精製方法において、前記中和剤は、炭酸ニッケルスラリーと、前記反応終液スラリーから前記反応始液の全量に対し10〜80%に当たる割合で分割された繰り返し物とを混合した混合スラリーであり、かつ、前記酸化中和反応のpHを1.7〜2.5、酸化還元電位(Ag/AgCl電極基準)を950〜1100mVに調整することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ニッケル水溶液の精製方法に関し、さらに詳しくは、不純物元素としてコバルト及び鉄を含有する塩化ニッケル水溶液に、塩素を吹き込みつつ中和剤を添加して、酸化中和反応に付し、鉄を水酸化鉄(III)として沈澱除去する精製方法において、形成される反応終液スラリー中の水酸化鉄(III)沈殿のろ過性を向上させるとともに、ニッケルとコバルトの該沈殿へのロスを抑制することができる塩化ニッケル水溶液の精製方法に関する。これにより、精製後の塩化ニッケル水溶液の鉄濃度を、高純度電気ニッケルの製造に求められる、0.1g/L以下に低下させることができる。
【背景技術】
【0002】
塩化ニッケル水溶液の精製方法は、超合金材料やめっき材料として広く用いられている高純度電気ニッケルの製造に際して重要な技術である。高純度電気ニッケルの製造方法としては、一般に、浸出工程、浄液工程及び電解工程からなる方法が用いられる。例えば、まず、浸出工程で、原料である硫化ニッケルや亜硫化ニッケルを塩素ガスで浸出し浸出液を得る。続いて、浄液工程で、該浸出液に含まれる不純物元素を除去し高純度塩化ニッケル水溶液を得る。その後、電解工程で、該高純度塩化ニッケル水溶液を電解液として用いて、電解採取法により陰極にニッケルを電着させ、これを回収し高純度電気ニッケルを得る。
【0003】
上記浸出液中には、通常、ニッケルの他に、鉄、コバルトを始めとして原料中に含まれる各種の金属元素が不純物元素として存在するため、浄液工程では、各種の方法を組み合わせて不純物元素を分離除去している。このような浄液工程としては、例えば、酸化反応と中和反応とを同時に行う酸化中和法と称される方法(例えば、特許文献1〜4参照。)を用いた工程が知られている。この酸化中和法を用いた浄液工程では、中和剤の添加によりpHを調整するとともに、酸化剤の添加により酸化還元電位を調整することによって、前記不純物元素を水酸化物として沈澱除去する。なお、ここで、中和剤としては、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等が使用され、また酸化剤としては、塩素ガス、過酸化水素水等が使用されるのが一般的である。
【0004】
ところが、上記のような酸化中和法を用いた浄液工程においては、硫化ニッケル、亜硫化ニッケル等のニッケル硫化物原料中のコバルト、鉄などの不純物元素の品位が上昇した場合、浸出液中の不純物元素の含有量も上昇するため、生成する沈殿の物量が増加し、ろ過装置への負荷が増大することとなる。この中でも、特に鉄は、微細な水酸化物沈殿となるので、そのろ過性を著しく悪化させる。このため、原料中の鉄品位の上昇は、沈殿の物量の増加に加えて、ろ過装置の処理能力を低下させ、この影響が著しい場合には、清澄な塩化ニッケル水溶液が得られないという事態を起こし、電気ニッケルの生産に支障をきたすことがあった。
【0005】
この解決策として、浄液工程を、不純物元素として少なくともコバルトと鉄を含有する塩化ニッケル水溶液のpHを2.0〜2.5、及び酸化還元電位(Ag/AgCl電極基準)を450〜900mVに調整し、鉄を優先的に除去する第1工程と、その後、pHを4.0〜6.0、及び酸化還元電位(Ag/AgCl電極基準)を600〜1100mVに調整し、コバルトを除去する第2工程との二段から構成する方法(例えば、特許文献5参照。)が開示されている。この方法によれば、高純度電気ニッケルの製造に用いる塩化ニッケル水溶液を精製する際、まず塩化ニッケル水溶液から、沈殿のろ過性を著しく悪化させる鉄を優先的に除去し、次いでニッケルとコバルトを効率的に分離することができるので、原料中の鉄品位が高い場合であっても、ろ過装置への負荷の増加を抑制し、大きな設備投資を行うことなく、高純度塩化ニッケル水溶液を得ることができるとしている。しかしながら、この方法は、生成される水酸化鉄を含む沈殿のろ過性自体を良好な状態に改質するものではないため、本質的な解決策になっていない。
【0006】
ところで、水酸化鉄を含む沈殿のろ過性を改良する方法として、2価鉄イオン及び3価鉄イオンに加えて複数の金属イオンを含む酸性廃液を、第1の反応槽内に供給し、生物学的酸化手段又は化学的酸化手段により、2価鉄イオンを3価鉄イオンに酸化するとともに、中和剤を添加して該廃液のpHを3〜5に調整し、水酸化鉄(III)主体の粒子を生成させ、次いで該粒子を含む廃液のスラリーの一部を第2の反応槽に供給し、アルカリ剤を添加して第2の反応槽内のスラリーのpHを5〜13に調整し、該粒子同士を凝集させた後、第1の反応槽に戻し、該凝集した粒子を含むスラリーを固液分離して濃縮し、その後、該濃縮したスラリーを脱水してケーキとする方法(例えば、特許文献6参照。)が開示されている。この方法によれば、水酸化鉄(III)を大径化した緻密な粒子にすることにより、それを含むスラリーのろ過性や脱水性を改善することができ、低含水率の脱水ケーキを製鉄業における鉄源として有効利用することができるとしている。
しかしながら、この方法は、鋼板の酸洗廃液やめっき廃液等の複数の金属を含む廃液、また酸性で重金属を含む金属鉱山排水を対象とし、鉄等の金属元素を一括して除去するものであり、鉄、コバルトを含有する塩化ニッケル水溶液の精製方法に適用する場合には、高濃度で含有されるニッケル及びコバルトが水酸化物を形成して、水酸化鉄(III)沈殿中に含有されロスとなり、収率の悪化を招くという問題が起こる。
【0007】
【特許文献1】特公平3−126325号公報(第1頁)
【特許文献2】特開2005−104809号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献3】特開2005−248245号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献4】特開2008−13388号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献5】特開2005−298309号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献6】特開2005−296866号公報(第1頁、第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、不純物元素としてコバルト及び鉄を含有する塩化ニッケル水溶液に、塩素を吹き込みつつ中和剤を添加して、酸化中和反応に付し、鉄を水酸化鉄(III)として沈澱除去する精製方法において、形成される反応終液スラリー中の水酸化鉄(III)沈殿のろ過性を向上させるとともに、ニッケルとコバルトの該沈殿へのロスを抑制することができる塩化ニッケル水溶液の精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために、不純物元素としてコバルト及び鉄を含有する塩化ニッケル水溶液に、塩素を吹き込みつつ中和剤を添加して、酸化中和反応に付し、水酸化鉄(III)沈殿を含む反応終液スラリーを形成することにより、鉄を水酸化鉄(III)として沈澱除去する塩化ニッケル水溶液の精製方法において、反応終液スラリー中の水酸化鉄(III)沈殿のろ過性と該沈殿へのニッケル及びコバルトのロスについて、鋭意研究を重ねた結果、前記中和剤として、炭酸ニッケルスラリーと反応終液スラリーから特定の割合で分割された繰り返し物とを混合した混合スラリーを用い、かつ酸化中和反応のpHと酸化還元電位を特定の値に調整したところ、形成される反応終液スラリー中の水酸化鉄(III)沈殿のろ過性を向上させるとともに、ニッケルとコバルトの該沈殿へのロスを抑制することができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、不純物元素としてコバルト及び鉄を含有する塩化ニッケル水溶液に、塩素を吹き込みつつ中和剤を添加して、酸化中和反応に付し、水酸化鉄(III)沈殿を含む反応終液スラリーを形成することにより、鉄を水酸化鉄(III)として沈澱除去する塩化ニッケル水溶液の精製方法において、
前記中和剤は、炭酸ニッケルスラリーと、前記反応終液スラリーから前記反応始液の全量に対し10〜80%に当たる割合で分割された繰り返し物とを混合した混合スラリーであり、かつ、前記酸化中和反応のpHを1.7〜2.5、及び酸化還元電位(Ag/AgCl電極基準)を950〜1100mVに調整することを特徴とする塩化ニッケル水溶液の精製方法が提供される。
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記塩化ニッケル水溶液の組成は、ニッケル濃度が140〜200g/L、コバルト濃度が1〜5g/L、及び鉄濃度が0.8〜3.5g/Lであることを特徴とする塩化ニッケル水溶液の精製方法が提供される。
【0012】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、精製後の塩化ニッケル水溶液の組成は、鉄濃度が0.1g/L以下であることを特徴とする塩化ニッケル水溶液の精製方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の塩化ニッケル水溶液の精製方法は、不純物元素としてコバルト及び鉄を含有する塩化ニッケル水溶液に、塩素を吹き込みつつ中和剤を添加して、酸化中和反応に付し、鉄を水酸化鉄(III)として沈澱除去する精製方法において、形成される反応終液スラリー中の水酸化鉄(III)沈殿を大径化した粒子とすることができ、それを含むスラリーのろ過性や脱水性を大きく向上させるとともに、ニッケルとコバルトの沈殿へのロスを抑制することができる。したがって、ニッケル原料中の鉄品位が高い場合であっても、ろ過装置への負荷の増加を抑えることができ、大きな設備投資を行うことなく、高純度電気ニッケルの製造に用いる電解液として好適な、鉄濃度が0.1g/L以下の高純度塩化ニッケル水溶液を得ることができるので、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の塩化ニッケル水溶液の精製方法を詳細に説明する。
本発明の塩化ニッケル水溶液の精製方法は、不純物元素としてコバルト及び鉄を含有する塩化ニッケル水溶液からなる反応始液に、塩素を吹き込みつつ中和剤を添加して、酸化中和反応に付し、水酸化鉄(III)沈殿を含む反応終液スラリーを形成することにより、鉄を水酸化鉄(III)として沈澱除去する塩化ニッケル水溶液の精製方法において、
前記中和剤は、炭酸ニッケルスラリーと、前記反応終液スラリーから、前記反応始液の全量に対し10〜80%に当たる割合で分割された繰り返し物とを混合した混合スラリーであり、かつ、前記酸化中和反応のpHを1.7〜2.5、及び酸化還元電位(Ag/AgCl電極基準)を950〜1100mVに調整することを特徴とする。
【0015】
上記方法は、不純物元素としてコバルト及び鉄を含有する塩化ニッケル水溶液からなる反応始液に、酸化剤として塩素を吹込みながら中和剤を添加して、酸化中和反応に付し、水酸化鉄(III)沈殿を含む反応終液スラリーを形成することにより、これからニッケル及びコバルトを含む精製液を得て、鉄を水酸化鉄(III)として沈澱除去するものである。このとき、酸化中和反応のpH及び酸化還元電位を所定値に制御するとともに、形成された反応終液スラリーの一部を、精製液を得るためのろ過機への送液から分割して、炭酸ニッケルスラリーと混合して、中和剤として繰り返すことが重要である。
これによって、精製後の塩化ニッケル水溶液の組成として、高純度電気ニッケルの製造に求められる、鉄濃度が0.1g/L以下が得られるとともに、形成される反応終液スラリー中の水酸化鉄(III)沈殿のろ過性を向上させ、かつニッケルとコバルトの沈殿へのロスを抑制することができる。
【0016】
以下に、本発明の方法に係る酸化中和反応の各要件について、その作用効果とともに説明する。
上記方法に用いる酸化中和反応としては、下記の式(1)で表される。
【0017】
式(1):FeCl+3/2HO+1/2Cl+3/2NiCO⇒ Fe(OH)+3/2NiCl+3/2CO
【0018】
ここで、液中の第1塩化鉄が、中和剤として炭酸ニッケル、及び酸化剤として塩素により、酸化中和され、水酸化鉄(III)が生成される。
上記反応は、pHが所定値より低い場合には、十分に進行しない。一方、pHが3.0以上となると、液中のニッケルやコバルトが中和、加水分解され、水酸化物として沈殿し、水酸化鉄(III)沈殿中に含まれてしまい、ニッケルロスやコバルトロスが大きくなる。
【0019】
上記方法に用いる塩化ニッケル水溶液としては、特に限定されるものではなく、コバルト、鉄、その他の不純物元素を含む塩化ニッケル水溶液が用いられるが、その中で、特に硫化ニッケル、亜硫化ニッケル等のニッケル硫化物原料を、塩素ガスで浸出し、得られた塩化ニッケル水溶液を精製した後、電解採取によって電気ニッケルを得る湿式精製法において産出される、不純物元素としてコバルト及び鉄を含有する浸出液が、好ましく用いられる。このような浸出液の組成としては、特に限定されるものではないが、例えば、ニッケル濃度が140〜200g/L、コバルト濃度が1〜5g/L、及び鉄濃度が0.8〜3.5g/Lである。
【0020】
上記方法に用いる酸化中和反応のpHとしては、1.7〜2.5であり、好ましくは2.0〜2.2である。すなわち、pHが1.7未満では、反応終液中の鉄濃度が十分に低下せず、例えば0.1g/L以下の鉄濃度を有する精製液が得られない。ここで、反応槽内のpHは、中和剤として用いる混合スラリーの供給により制御される。
【0021】
上記方法に用いる酸化中和反応の酸化還元電位(Ag/AgCl電極基準)としては、950〜1100mVである。すなわち、酸化還元電位(Ag/AgCl電極基準)が950mV未満では、上記反応が起きづらく、一方、1100mVを超えると、ニッケルやコバルトも酸化することにより、それらが中和反応により沈殿し、ニッケルロスやコバルトロスを大きくするばかりか、吹き込む塩素ガスの利用率も低下し、コストの悪化に繋がる。ここで、より確実に鉄を除去しつつ、ニッケルロスやコバルトロスを低く維持するには、酸化還元電位(Ag/AgCl電極基準)を1000〜1050mVとすることが好ましい。ここで、反応槽内の酸化還元電位は、塩素ガスの吹込み量により制御される。
【0022】
上記方法で中和剤として用いる混合スラリーは、炭酸ニッケルスラリーと、前記反応終液スラリーから反応始液の全量に対し10〜80%に当たる割合で分割された繰り返し物とを混合したものであるが、上記混合スラリーのpHとしては、特に限定されるものではないが、3.5〜4.5が好ましい。このとき、反応終液スラリー中に含有された水酸化鉄(III)粒子同士の凝集が進む。ここで、pHは、炭酸ニッケルスラリーの供給量によって調整される。なお、混合スラリー中では、鉄、ニッケル、コバルトを始め多くの金属が、水酸化物として沈殿するが、その後比較的早期に、pH1.7〜2.5の反応槽に添加されるため、その際水酸化鉄(III)以外の水酸化物は容易に再溶解する。
【0023】
したがって、上記方法において、中和剤として前記混合スラリーを用いることによって、凝集した水酸化鉄(III)粒子群の表面に、新たに反応槽内で生成する水酸化鉄(III)を凝集させ、一体化させることにより、粒子径の大きな緻密な粒子を得ることができるので、反応終液スラリーのろ過性が向上する。
【0024】
上記方法において、反応槽に供給される反応始液の全量に対し、反応終液スラリーから分割される繰り返し物の割合(以下、反応終液スラリーの繰り返し率と呼称し、(反応終液スラリーの繰返し流量÷反応始液流量)×100で求められる値をいう。)としては、10〜80%である。
すなわち、前記繰り返し率が10%未満では、反応終液スラリー中の水酸化鉄(III)粒子のろ過性が不十分である。一方、前記繰り返し率が上昇するほど、水酸化鉄(III)粒子の粒子径が大きくなり、ろ過性が向上するが、80%を超えると、それ以上の効果は得られず、逆に最適繰り返し率の場合に比べて低下する。この現象は、反応槽での滞留時間が減少し、粒成長の阻害と、ポンプによる粒の破壊によって粒径が細かくなってしまうことによるものと思われる。また、反応槽での滞留時間を所定値に維持する際には、前記繰り返し率の上昇は、それに比例して反応始液として供給する塩化ニッケル水溶液の処理量の低下をもたらす。したがって、具体的には、前記繰り返し率でのろ過性を確認しながら、最適繰り返し率を選定することが行なわれるが、使用する装置の規模や構造に応じた最適繰り返し率を選定することが好ましい。
【0025】
上記方法における反応終液スラリーの繰り返し率と、反応終液スラリーの平均粒径及び平均ろ過速度との関係を図を用いて説明する。
図1は、反応終液スラリーの繰り返し率と反応終液スラリー中の粒子の平均粒径との関係を表す図である。図1より、両者の間には正の相関関係があることが分かる。また、図2は、反応終液スラリーの繰り返し率と平均ろ過速度の関係を表す図である。図2より、両者の間に正の相関関係があることが分かる。これらの関係から、本発明の方法における反応終液スラリーの繰り返しが有効に作用することが分かる。
【0026】
上記方法に用いる浄液設備としては、特に限定されるものではないが、例えば、酸化中和反応を行なうための攪拌機と塩素吹き込み管付きの反応槽と、反応槽からの反応終液スラリー用の攪拌機付き受け槽と、炭酸ニッケルスラリーと反応終液スラリーの繰り返し物を混合する攪拌機付き中和剤供給槽と、鉄沈殿を分離する加圧ろ過機とその供給槽とから構成される設備が用いられる。ここで、前記反応槽には反応始液となる塩化ニッケル水溶液を定量供給し、該反応槽のオーバーフローが前記受け槽に送られ、該受け槽に設けた抜き取りポンプの吐出配管を分岐させ、一方を前記加圧ろ過機の供給槽に送液できるようにし、他方を前記中和剤供給槽に送液できるようにした。
また、炭酸ニッケルスラリーは前記中和剤供給槽にポンプで送液した。前記反応槽にはpH計と酸化還元電位(ORP)計を設け、pH計の値が設定値を維持するように、前記中和剤供給槽から炭酸ニッケルスラリーと反応終液スラリーとの混合スラリーが添加されるようにした。そして、ORP計の値が設定値を維持するように、前記塩素吹き込み管から塩素ガスを吹き込んだ。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた評価方法、次の通りであった。
(1)金属の分析:ICP発光分析法で行った。
(2)反応終液スラリーの平均ろ過速度の測定:ヌッチェを使用した吸引ろ過で行なった。用いた濾紙は5C番である。
(3)反応終液スラリー中の粒子の平均粒径の測定:マイクロトラック(Honeywell製、型番:9320−X100)で行なった。
【0028】
(実施例1)
上記の浄液設備の実規模設備を用いて、塩化ニッケル水溶液の精製を行なった。ここで、反応槽の実効容積は45m、反応終液スラリー用の受け槽の実効容積25m、及び中和剤供給槽の実効容積は1mであった。
反応始液として用いた塩化ニッケル水溶液は、ニッケル硫化物原料を塩素ガスで浸出して得た浸出液であり、その組成としては、ニッケル濃度が170〜190g/L、コバルト濃度が2.5〜4.0g/L、及び鉄濃度が1.64g/Lであった。また、炭酸ニッケルスラリーは、炭酸ニッケル(住友金属鉱山(株)製)を水に添加して調製したものである。
ここで、塩化ニッケル水溶液の反応槽での滞留時間が50分、かつ反応終液スラリーの繰り返し率が60%となるように条件を設定し、さらに反応槽でのpHを2.0、及びORP(Ag/AgCl電極基準)を1050mVに設定して操業を行い、全体が安定した状態に到達した後、反応終液スラリーの平均ろ過速度、反応終液スラリー中の粒子の平均粒径及び加圧ろ過機で得られた精製液の鉄濃度を求めた。なお、操業中のpHは、1.9〜2.0、及びORP(Ag/AgCl電極基準)は、1040〜1050mVであった。
その結果、平均ろ過速度は12.0L/m/min、及び平均粒径は7.4μmであった。また、精製液の鉄濃度は、0.1g/L以下であり、ニッケルロス率、コバルトロス率は、それぞれ0.08%、0.4%であった。
【0029】
(実施例2〜4)
反応終液スラリーの繰り返し率を10%(実施例2)、30%(実施例3)、及び80%(実施例4)としたこと以外は、実施例1と同様にして反応終液スラリーの平均ろ過速度と反応終液スラリー中の粒子の平均粒径とを求めた。結果を表1に示す。なお、ニッケルロス率とコバルトロス率は、実施例1と同様の値が得られた。
【0030】
(比較例1)
上記浄液設備を用いて、反応終液スラリーの繰り返しを行なわず、バッチ反応にて操業を行なったこと以外は、実施例1と同様にして反応終液スラリーの平均ろ過速度と反応終液スラリー中の粒子の平均粒径とを求めた。結果を表1に示す。
【0031】
(比較例2)
反応終液スラリーの繰り返し率を90%としたこと以外は、実施例1と同様にして反応終液スラリーの平均ろ過速度と反応終液スラリー中の粒子の平均粒径とを求めた。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1より、実施例2〜4では、反応終液スラリーの繰り返し率の増加により、反応終液スラリーの繰り返しを行わない比較例1に比べて、粒子の平均粒径が大きく、ろ過速度が高くなることが分かる。しかしながら、比較例2では、実施例4に比べて、逆にろ過速度が低下している。これは、ある一定の繰返し率より増加すると、反応槽内での不均一化、繰返しポンプによる粒の破壊等が発生するためと思われる。しかも、反応始液として供給する塩化ニッケル水溶液の処理量の低下を考慮すると、本条件下での最適繰返し率は、80%以下である。
【0034】
(実施例5)
反応槽でのpH設定値を1.7、及びORP設定値を980mVとしたこと以外は、実施例1と同様にして操業を行い、反応終液スラリーの平均ろ過速度、反応終液スラリー中の粒子の平均粒径及び加圧ろ過機で得られた精製液の鉄濃度を求めた。その結果、平均ろ過速度は8.5L/m/min、及び平均粒径は5.5μmであった。また、精製液の鉄濃度は、0.1g/L以下であり、ニッケルロス率、コバルトロス率は、それぞれ0.05%、0.3%であり実施例1より若干低めであった。
【0035】
(実施例6)
反応槽でのpH設定値を2.5、及びORP設定値を1100mVとしたこと以外は実施例1と同様にして操業を行い、反応終液スラリーの平均ろ過速度、反応終液スラリー中の粒子の平均粒径及び加圧ろ過機で得られた精製液の鉄濃度を求めた。その結果、平均ろ過速度は18.7L/m/min、及び平均粒径は7.1μmであった。また、精製液の鉄濃度は、0.1g/L以下であり、ニッケルロス率、コバルトロス率は、それぞれ0.11%、1.1%となり、実施例1より若干高くなった。
【0036】
(比較例3)
反応槽でのpH設定値を1.5、及びORP設定値を930mVとしたこと以外は実施例1と同様にして操業を行ったところ、水酸化鉄(III)の発生がほとんどなく、鉄の除去ができなかった。
【0037】
(比較例4)
反応槽でのpH設定値を2.9、及びORP設定値を1120mVとしたこと以外は実施例1と同様にして操業を行い、反応終液スラリーの平均ろ過速度と反応終液スラリー中の粒子の平均粒径とを求めた。その結果、平均ろ過速度は17.7L/m/min、及び平均粒径は7.7μmであった。なお、平均ろ過速度と平均粒径は良好なものの、ニッケルロス率、コバルトロス率は、それぞれ0.15%、2.0%と高くなり、実操業条件としては不適切であることがわかった。
【0038】
以上より、実施例1〜6では、反応終液スラリーの繰り返し率、並びに酸化中和反応のpH及びORPにおいて、本発明の方法に従って行われたので、精製後の塩化ニッケル水溶液の鉄濃度は、0.1g/L以下であり、形成される反応終液スラリー中の水酸化鉄(III)沈殿を大径化した粒子とすることができ、それを含むスラリーのろ過性を大きく向上させ、しかもニッケルとコバルトの沈殿へのロスを抑制することができることが分かる。
これに対して、比較例1〜4では、反応終液スラリーの繰り返し率、酸化中和反応のpH及びORPのいずれかがこれらの条件に合わないので、ろ過性、ニッケルロス率及びコバルトロス率、反応始液として供給する塩化ニッケル水溶液の処理量のいずれかよって満足すべき結果が得られないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上より明らかなように、本発明の塩化ニッケル水溶液の精製方法は、不純物元素としてコバルト及び鉄を含有する塩化ニッケル水溶液に、塩素を吹き込みつつ中和剤を添加して、酸化中和反応に付し、鉄を水酸化鉄(III)として沈澱除去する塩化ニッケル水溶液の精製方法において、形成される反応終液スラリー中の水酸化鉄(III)沈殿のろ過性を向上させるとともに、ニッケルとコバルトの沈殿へのロスを抑制する方法として利用され、特に高純度電気ニッケルの製造に用いる高純度塩化ニッケル水溶液を得るため好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】反応終液スラリーの繰り返し率と反応終液スラリー中の粒子の平均粒径との関係を表す図である。
【図2】反応終液スラリーの繰り返し率と平均ろ過速度の関係を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物元素としてコバルト及び鉄を含有する塩化ニッケル水溶液に、塩素を吹き込みつつ中和剤を添加して、酸化中和反応に付し、水酸化鉄(III)沈殿を含む反応終液スラリーを形成することにより、鉄を水酸化鉄(III)として沈澱除去する塩化ニッケル水溶液の精製方法において、
前記中和剤は、炭酸ニッケルスラリーと、前記反応終液スラリーから前記反応始液の全量に対し10〜80%に当たる割合で分割された繰り返し物とを混合した混合スラリーであり、かつ、前記酸化中和反応のpHを1.7〜2.5、及び酸化還元電位(Ag/AgCl電極基準)を950〜1100mVに調整することを特徴とする塩化ニッケル水溶液の精製方法。
【請求項2】
前記塩化ニッケル水溶液の組成は、ニッケル濃度が140〜200g/L、コバルト濃度が1〜5g/L、及び鉄濃度が0.8〜3.5g/Lであることを特徴とする請求項1に記載の塩化ニッケル水溶液の精製方法。
【請求項3】
精製後の塩化ニッケル水溶液の組成は、鉄濃度が0.1g/L以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塩化ニッケル水溶液の精製方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−215611(P2009−215611A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60378(P2008−60378)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】