説明

塩化ビニル系樹脂の製造方法

【課題】 本発明は、アクリル系共重合体に塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体をグラフト重合する際に重合器の器壁、ジャケット等にスケールの付着量の少なく、製造時間が短くて生産性の優れた塩化ビニル系樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】 アルキル(メタ)アクリレート90〜99.9重量%と多官能性モノマー10〜0.1重量%からなる反応性モノマーを乳化重合して得られたアクリル系共重合体ラテックス、塩化ビニル系単量体、分散剤及び重合開始剤を、重合器本体に冷熱媒体の循環通路が設置されたジャケット式重合器に供給し、循環通路にT≦H≦T+8(式中、Tはグラフト重合温度(℃)、Hは熱媒体の温度(℃)を示す。)の温度の熱媒体を供給して45〜75℃に昇温し、アクリル系共重合体に塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体をグラフト重合することを特徴とする塩化ビニル系樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩化ビニル系樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本来、塩化ビニル系樹脂は機械的強度、耐薬品性等に優れた特性を有する材料として幅広い用途に使いられている。しかし、耐候性や耐衝撃性が劣るため種々の改良が行われている。
【0003】
例えば、耐候性、耐衝撃性の改良された塩化ビニル系樹脂の製造方法として、アルキル(メタ)アクリレートを界面活性剤の存在下で乳化重合して得られたアクリル系共重合体ラテックスに塩化ビニルをグラフト共重合する塩化ビニル系樹脂の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、アクリル系共重合体ラテックスに塩化ビニルをグラフト共重合する際においては、重合装置の器壁、拡販翼等にスケールと呼ばれるゴム状のポリマーが付着し、収率が低下し廃棄物の量が多くなり、又、スケールを剥離するのに非常に時間がかかり、製造時間が長くなる等の問題があった。
【0005】
これらの問題を改良するために、アクリル(メタ)アクリレートと多官能性モノマーに、界面活性剤として反応性界面活性剤やノニオン系界面活性剤を添加し、乳化重合してアクリル系共重合体ラテックスを得、得られたアクリル系共重合体ラテックスに塩化ビニルをグラフト重合する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)が充分な方法ではなかった。
【特許文献1】特公昭39−17067号公報
【特許文献2】特開平7−309917号公報
【0006】
一方、塩化ビニルをグラフト重合する際には、塩化ビニルモノマーを気体の状態で加圧して供給する必要があり、大きな重合器が必要であるが、そのため、重合器にアクリル系共重合体ラテックス、塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体、分散剤、重合開始剤及び水性媒体を供給した後、反応温度まで昇温したり、重合終了後に常温に冷却するのに時間がかかり、生産性が悪いという欠点があった。
【0007】
上記欠点を改良するため、最近は重合器本体に冷熱媒体の循環通路が設置されたジャケット式重合器が使用されているが、ジャケット式重合器の循環通路に高温の熱媒体を循環させると、高温の循環通路に供給したアクリル系共重合体やビニル系単量体等が接触し、加熱されて泡立ち、重合器の器壁及びジャケットにスケールが付着し加熱や除熱能力が低下する等の欠点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、アクリル系共重合体に塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体をグラフト重合する際に重合器の器壁、ジャケット等にスケールの付着量の少なく、製造時間が短くて生産性の優れた塩化ビニル系樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法は、アルキル(メタ)アクリレート90〜99.9重量%と多官能性モノマー10〜0.1重量%からなる反応性モノマーを乳化重合して得られたアクリル系共重合体ラテックス、塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体、分散剤及び重合開始剤を、重合器本体に冷熱媒体の循環通路が設置されたジャケット式重合器に供給し、循環通路に下記条件を満足する温度の熱媒体を供給して45〜75℃に昇温し、アクリル系共重合体に塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体をグラフト重合することを特徴とする。
T≦H≦T+8
(式中、Tはグラフト重合温度(℃)、Hは熱媒体の温度(℃)を示す。)
【0010】
上記アクリル系共重合体ラテックスは、アルキル(メタ)アクリレート90〜99.9重量%と多官能性モノマー10〜0.1重量%からなる反応性モノマーを乳化重合して得られる。
【0011】
上記アクリル系共重合体は、塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体がグラフト重合された際に、塩化ビニル系樹脂に耐衝撃性を付与するものであるから、上記アルキル(メタ)アクリレートはその単独重合体が室温で柔軟性を有しているのが好ましく、ガラス転移温度は−140℃〜0℃が好ましい。
【0012】
従って、上記アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、クミルアクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−メチルヘプチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、2−メチルオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘプチル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、2−メチルノニル(メタ)アクリレート、2−エチルオクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独で使用されてもよいし又は2種以上が併用されてもよい。
【0013】
尚、単独重合体のガラス転移温度は、高分子学会編「高分子データ・ハンドブック(基礎編)」(1986年、培風館社)によった。
【0014】
上記多官能性モノマーは、上記アルキル(メタ)アクリレートを架橋し、塩化ビニルを主成分とするビニル系単量体をグラフト共重合して得られる塩化ビニル系樹脂の耐衝撃性を向上させるために共重合されるものである。
【0015】
上記多官能性モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールトリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート;ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能性(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0016】
また、その他の多官能性モノマーとしては、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジアリルフマレート、ジアリルサクシネート、トリアリルイソシアヌレート等のジ若しくはトリアリル化合物、ジビニルベンゼン、ブタジエン等のジビニル化合物等が挙げられる。これらの多官能性モノマーは単独で使用されてもよいし又は2種以上が併用されてもよい。
【0017】
上記反応性モノマーは、上記アルキル(メタ)アクリレート90〜99.9重量%と多官能性モノマー10〜0.1重量%からなる。
【0018】
上記多官能性モノマーの配合量が、0.1重量%未満では、塩化ビニルを主体とするビニル単量体をグラフト重合した際に、アクリル系共重合体が塩化ビニル系樹脂中で独立した粒子形状を保てなくなるため、塩化ビニル系樹脂の耐衝撃性が低下する。一方、10重量%を越えると、アクリル系共重合体の架橋密度が高くなり、有効な耐衝撃性が得られなくなるため上記範囲に限定される。
【0019】
上記反応性モノマーには、上記アクリル(メタ)アクリレートと共重合可能な単官能性モノマーが、アクリル系共重合体の物性を低下しない範囲で添加されてもよい。
【0020】
上記アルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な単官能性モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ヘキセン等のαーオレフィン類;スチレン、αーメチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、塩化ビニリデンなどがあげられ、これらは単独で使用されてもよいし又は2種以上が併用されてもよい。
【0021】
上記反応性モノマーは乳化重合されるが、乳化重合法は、従来公知の任意の方法で行うことができ、例えば、水性媒体に反応性モノマー、乳化剤、重合開始剤等を添加、加熱して重合すればよく、更に、必要に応じて、pH調整剤、連鎖移動剤、酸化防止剤等を添加してもよい。
【0022】
上記乳化剤は、反応性モノマーを水性媒体に乳化した乳化液中での乳化安定性を向上させ、重合を効率的に行うために用いるものであり、アルキル(メタ)アクリレートの乳化重合で一般に使用されている乳化剤であれば、特に限定されず、例えば、脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム塩、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム塩などのアニオン系界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルなどのノニオン系界面活性剤、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、セルロース、ゼラチン等が挙げられる。
【0023】
上記重合開始剤としては、乳化重合で一般に使用されている重合開始剤であれば、特に限定されず、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素水、酒石酸等が挙げられる。
【0024】
又、上記乳化重合法の種類は、例えば、一括重合法、モノマー滴下法、エマルジョン滴下法等が挙げられる。
【0025】
上記一括重合法は、重合反応器内に水性媒体、乳化剤及び反応性モノマーを一括して添加し、窒素気流中で撹拌して充分乳化した後、反応器内を所定の温度に昇温して重合させる方法である。
【0026】
上記モノマー滴下法は、重合反応器内に水性媒体、乳化剤及び重合開始剤を添加し、窒素気流下による酸素除去を行い、反応器内を所定の温度に昇温した後、反応性モノマーを一定量ずつ滴下して重合させる方法である。
【0027】
上記エマルジョン滴下法は、反応性モノマー、乳化剤及び水性媒体を撹拌して乳化モノマーを予め調製し、次いで、重合反応器内に水性媒体及び重合開始剤を供給し、窒素気流下による酸素除去を行い、反応器内を所定の温度に昇温した後、上記乳化モノマーを一定量ずつ滴下して重合させる方法である。
【0028】
上記したような重合方法において、反応終了後に得られるアクリル系共重合体ラテックスの固形分比率は、アクリル系共重合体の生産性、重合反応の安定性の点から10〜60重量%が好ましい。
【0029】
上記反応性モノマーを乳化重合して得られたアクリル共重合体の平均粒子径は、10nmより小さくなると微粒子を多数含むことになり成形時の金型付着、外観不良の原因となり、また平均粒子径が大きすぎても耐衝撃性、機械的強度がともに低下するので10nm〜1μmが好ましい。
【0030】
請求項1記載の発明においては、上記反応性モノマーを乳化重合して得られたアクリル系共重合体ラテックス、塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体、分散剤及び重合開始剤を、重合器本体に冷熱媒体の循環通路が設置されたジャケット式重合器に供給し、循環通路に下記条件を満足する温度の熱媒体を供給して45〜75℃に昇温し、アクリル系共重合体に塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体をグラフト重合する。
【0031】
上記ジャケット式重合器は、重合器本体に冷熱媒体の循環通路が設置された重合器であり、重合器本体に冷熱媒体の循環通路を設置することにより冷熱媒体から原材料への伝熱性能が向上されている。
【0032】
上記塩化ビニルを主成分とするビニル系単量体は、塩化ビニルモノマーを主体とする。即ち、塩化ビニルモノマー若しくは塩化ビニルモノマーを主体(50重量%以上含む)とする、塩化ビニルモノマーと重合可能なビニルモノマーとの混合物である。
【0033】
上記ビニルモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;エチレン、プロピレン、ブチレン等のαーオレフィン類などがあげられる。これらは単独で使用されてもよいし又は2種以上が併用されてもよい。
【0034】
上記アクリル系共重合体と塩化ビニルを主成分とするビニル系単量体のグラフト重合比率は、アクリル系共重合体の比率が1重量%未満では、得られる塩化ビニル系樹脂の耐衝撃性が低下し、30重量%を越えると、得られる塩化ビニル系樹脂の曲げ強度や引張強度等の機械的強度が低くなるため1〜30重量%が好ましく、より好ましくは4〜20重量%である。従って、塩化ビニルを主成分とするビニル系単量体のグラフト重合比率は99〜70重量%が好ましく、より好ましくは96〜80重量%である。
【0035】
上記塩化ビニル系樹脂中のグラフト重合された塩化ビニル系樹脂の重合度は、小さすぎても大きすぎても成形性が低下するので、300〜2000が好ましく、より好ましくは400〜1600である。
【0036】
上記アクリル系共重合体に、塩化ビニルを主成分とするビニル系単量体をグラフト共重合する方法としては、特に限定されず、例えば、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法等が挙げられ、懸濁重合法が好ましい。
【0037】
上記懸濁重合法としては、例えば、撹拌機を備えたジャケット式重合器に、上記アクリル系共重合体ラテックス、分散剤、重合開始剤及び必要に応じて水性媒体、水溶性増粘剤、重合度調節剤、凝集剤等を投入し、その後、真空ポンプで重合器内の空気を排出し、更に、撹拌条件下で塩化ビニルを主成分とするビニル系単量体を投入した後、循環通路に熱媒体を供給して重合器内を45〜75℃に昇温し、グラフト重合を行う方法が挙げられる。
【0038】
上記分散剤は、上記アクリル系共重合体の分散安定性を向上させ、塩化ビニルを主成分とするビニル系単量体のグラフト重合を効率的に行う目的で添加される。
【0039】
上記分散剤としては、一般に塩化ビニルの懸濁重合の際に使用されている分散剤であれば、特に限定はされないが、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸塩、(メタ)アクリル酸塩−アルキルアクリレート共重合体、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリ酢酸ビニル及びその部分ケン化物、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、デンプン、無水マレイン酸−スチレン共重合体等が挙げられ、これらは単独で使用してもよいし、又は2種類以上組み合わせて使用してよい。
【0040】
又、分散剤の添加量は、一般にビニル系単量体100重量部に対し0.01〜1重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜0.5重量部である。
【0041】
上記重合開始剤としては、塩化ビニルの懸濁重合の際に使用されている油溶性重合開始剤であれば、特に限定されず、例えば、ジイソプロピルパーオキシカーボネート(10時間半減期温度 45℃)、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシカーボネート(10時間半減期温度 44℃)、ジエトキシエチルパーオキシカーボネート(10時間半減期温度43℃)等のパーオキシカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカノエート(10時間半減期温度 48℃)、 α−クミルパーオキシネオデカノエート(10時間半減期温度 38℃)、t−ブチルパーオキシピバレート(10時間半減期温度 58℃)、t−ヘキシルパーオキシネオデカネート(10時間半減期温度 45℃)等のパーオキシエステル化合物;イソブチリルパーオキサイド(10時間半減期温度 33℃)、2,2,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド(10時間半減期温度 59℃)、ラウロイルパーオキサイド(10時間半減期温度 62℃)等のジアシルパーオキサイド;2,2−アゾビスイソブチロニトリル(10時間半減期温度 64℃)等のアゾ化合物等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、又は2種類以上組み合わせて使用してよい。
【0042】
上記重合開始剤は、ビニル系単量体、分散剤及び重合開始剤を含有する水性媒体を所定重合温度に昇温し懸濁重合する際に、水性媒体の温度が重合温度に達する前に重合が開始されるのが好ましいので、10時間半減期温度がT−8℃以下であるのが好ましい。
【0043】
又、重合開始剤の添加量は、少ないと重合が充分に進まず、多過ぎると異常反応を起こしやすくなるので、ビニル系単量体100重量部に対し、0.015〜0.1重量部が好ましい。
【0044】
重合開始剤の供給方法は塩化ビニルの懸濁重合で一般に使用されている方法が採用されればよい。例えば、重合開始剤を有機溶剤に溶解するか、水性媒体に分散してエマルジョン又はサスペンジョンとし供給する方法が上げられる。
【0045】
上記水溶性増粘剤としては、塩化ビニルの懸濁重合の際に使用されている水溶性増粘剤であれば、特に限定されず、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレートーアクリル酸共重合体、カゼイン及びこれらの金属塩等があげられ、これらは単独で使用してもよいし、又は2種類以上組み合わせて使用してよい。
【0046】
上記重合度調節剤としては、塩化ビニルの懸濁重合の際に使用されている重合度調節剤であれば、特に限定されず、例えば、メルカプトメタノール、メルカプトエタノール、メルカプトプロパノール等の連鎖移動剤;ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート等の架橋剤等があげられ、これらは単独で使用してもよいし、又は2種類以上組み合わせて使用してよい。
【0047】
上記凝集剤としては、乳化重合されたラテックスを凝集するために一般に使用されている凝集剤であれば、特に限定されず、例えば、硫酸アルミニウム、塩化カルシウム等が挙げられ、これらは単独で使用してもよいし、2種類以上組み合わせて使用してよい。
【0048】
更に、必要に応じて、pH調整剤、ゲル化改良剤、帯電防止剤、スケール付着防止剤、酸化防止剤等を添加してもよい。
【0049】
上記循環通路に供給される熱媒体の温度H(℃)は、グラフト重合温度をT(℃)とすると、T≦H≦T+8である。熱媒体の温度Hは、低くなるとグラフト重合温度まで原材料を昇温する時間が長くなり、高くなると重合器及びジャケットにスケールが付着し加熱、除熱能力が低下するので上記温度範囲に限定される。
尚、重合温度Tは45〜75℃である。
【0050】
又、昇温はジャケット式重合器に塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体、分散剤、重合開始剤及び水性媒体の全てを供給する前から開始されてもよいが、原材料の供給量が少ない段階での加熱は伝熱効率が悪く、且つ、塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体が反応して重合器及びジャケットにスケールとして付着するので、塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体と水性媒体の合計量の50重量%以上が供給された後に昇温が開始されるのが好ましい。
【0051】
昇温すると、特に、重合開始剤として10時間半減期温度が所定の重合温度の8℃以下の重合開始剤を使用すると、所定の重合温度に達する以前に重合が開始され、反応熱が発生される。
【0052】
重合懸濁液の温度が所定の重合温度より高くなったら、還流凝縮器又はジャケットに冷媒体を供給して冷却し、重合温度を所定温度に維持して重合を進行させればよく、重合終了後、ビニル系単量体を回収すると共に塩化ビニル系樹脂を取り出すことにより塩化ビニル系重合体が得られる。
【0053】
上記アクリル系共重合体は、上記反応性モノマーを乳化重合した重合体であるが、コア−シェル構造からなる共重合体であってもよい。
【0054】
柔軟な共重合体であるコア部と、その周囲にグラフト重合されたコア部の共重合体より硬いグラフト共重合体よりなるシェル部を有するコア−シェル構造からなるアクリル系共重合体に、塩化ビニルをグラフト重合した塩化ビニル系樹脂は、耐衝撃性が優れているので好ましい。
【0055】
請求項2記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法は、単独重合体のガラス転移温度が−140℃〜−60℃であるアルキル(メタ)アクリレート99〜99.9重量%と多官能性モノマー1〜0.1重量%とからなる反応性モノマーを乳化重合して得られたコア重合体40〜90重量%に、単独重合体のガラス転移温度が−55℃〜0℃であるアルキル(メタ)アクリレート90〜98.5重量%と多官能性モノマー10〜1.5重量%よりなる混合モノマー60〜10重量%をグラフト共重合してシェル層を形成して得られたアクリル系共重合体ラテックス、塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体、分散剤及び重合開始剤を、重合器本体に冷熱媒体の循環通路が設置されたジャケット式重合器に供給し、循環通路に下記条件を満足する温度の熱媒体を供給して45〜75℃に昇温し、アクリル系共重合体に塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体をグラフト重合することを特徴とする。
T≦H≦T+8
(式中、Tはグラフト重合温度(℃)、Hは熱媒体の温度(℃)を示す。)
【0056】
請求項2記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法は、請求項1記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法において使用されたアルキル(メタ)アクリレート90〜99.9重量%と多官能性モノマー10〜0.1重量%からなる反応性モノマーを乳化重合して得られたアクリル系共重合体ラテックスに代えて、単独重合体のガラス転移温度が−140℃〜−60℃であるアルキル(メタ)アクリレート99〜99.9重量%と多官能性モノマー1〜0.1重量%とからなる反応性モノマーを乳化重合して得られたコア重合体40〜90重量%に、単独重合体のガラス転移温度が−55℃〜0℃であるアルキル(メタ)アクリレート90〜98.5重量%と多官能性モノマー10〜1.5重量%よりなる混合モノマー60〜10重量%をグラフト共重合してシェル層を形成して得られたアクリル系共重合体ラテックスが使用されることが異なるのみで、その他は請求項1記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法と同一であるので、以下、異なる点のみ説明する。
【0057】
上記コア重合体は単独重合体のガラス転移温度が−140℃〜−60℃であるアルキル(メタ)アクリレート99〜99.9重量%と多官能性モノマー1〜0.1重量%とからなる反応性モノマーを乳化重合して得られる。
【0058】
上記アルキル(メタ)アクリレートは、多官能性モノマーと共重合され、アクリル系共重合体のコア重合体を形成し、塩化ビニル系樹脂の耐衝撃性を向上させるものであるから、高速の歪みに対しても充分な柔軟性を要するのが好ましいので、単独重合体のガラス転移温度は−60℃以下であって、工業的に一般に使用されるアルキル(メタ)アクリレート重合体のガラス転移温度を鑑みて−140℃以上である。
【0059】
上記単独重合体のガラス転移温度が−140℃〜−60℃であるアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、n−ヘプチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−メチルヘプチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ノニルアクリレート、2−メチルオクチルアクリレート、2−エチルヘプチルアクリレート、n−デシルアクリレート、2−メチルノニルアクリレート、2−エチルオクチルアクリレート等が挙げられ、これらは単独で使用されてもよいし又は2種以上が併用されてもよい。
【0060】
上記多官能性モノマーとしては、前述の多官能性モノマーが使用される。アルキル(メタ)アクリレートと多官能性モノマーの重合比率は、アルキル(メタ)アクリレート99〜99.9重量%と多官能性モノマー1〜0.1重量%である。
【0061】
上記多官能性モノマーの重合比率が、0.1重量%未満では、コア重合体がシェル層中又は塩化ビニル系樹脂中で独立した粒子形状を保つのが困難になるので、塩化ビニル系樹脂の耐衝撃性が低下する。一方、1重量%を越えると、コア重合体の架橋密度が高くなり、有効な耐衝撃性が得られなくなるため上記範囲に限定される。
【0062】
上記反応性モノマーには、前述のアクリル(メタ)アクリレートと共重合可能な単官能性モノマーが、アクリル系共重合体の物性を低下しない範囲で添加されてもよい。
【0063】
上記アクリル系共重合体は、コア重合体に、単独重合体のガラス転移温度が−55℃〜0℃であるアルキル(メタ)アクリレート90〜98.5重量%と多官能性モノマー10〜1.5重量%よりなる混合モノマー60〜10重量%をグラフト共重合してシェル層を形成して得られる。
【0064】
上記混合モノマーは、コア重合体の存在下でグラフト重合され、コア重合体粒子にシェル層を形成し、塩化ビニル系樹脂の耐衝撃性を向上させると共に低ガラス転移温度のコア重合体を被覆して共重合体粒子の粘着性を低減させるのであり、アルキル(メタ)アクリレートの単独重合体のガラス転移温度は−55℃以上であり、ある程度の柔軟性を保持する上で0℃以下である。
【0065】
上記単独重合体のガラス転移温度が−55℃〜0℃であるアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、クミルアクリレート、n−ヘプチルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−メチルヘプチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−ノニルメタクリレート、2−メチルオクチルメタクリレート、2−エチルヘプチルメタクリレート、n−デシルメタクリレート、2−メチルノニルメタクリレート、2−エチルオクチルメタクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独で使用されてもよいし又は2種以上が併用されてもよい。
【0066】
上記多官能性モノマーとしては、前述の多官能性モノマーが使用される。
混合モノマー中のアルキル(メタ)アクリレートと多官能性モノマーの混合比率は、上記多官能性モノマーの混合比率が少なくなると共重合体の粒子が合着しやすくなり、塩化ビニル系樹脂の耐衝撃性が低下する。一方、多くなると、アクリル系共重合体の架橋密度が高くなり、有効な耐衝撃性が得られなくなるので、アルキル(メタ)アクリレート90〜98.5重量%と多官能性モノマー10〜1.5重量%である。
【0067】
上記混合モノマーには、前述のアクリル(メタ)アクリレートと共重合可能な単官能性モノマーが、アクリル系共重合体の物性を低下しない範囲で添加されてもよい。
【0068】
又、コア−シェル構造からなるアクリル共重合体のコア重合体とシェル層のグラフト共重合体の比率は、コア重合体が多くなりすぎると柔らかくなって塩化ビニル系樹脂中で独立した粒子形状を保てなくなるため耐衝撃性が低下し、又、少なくなりすぎても耐衝撃性が低下するので、コア重合体40〜90重量%に、混合モノマー60〜10重量%がグラフト重合されてシェル層が形成される。
【0069】
上記コア−シェル構造のアクリル系共重合体ラテックスの製造方法は、乳化重合であれば特に限定されず、例えば、先ず、コア重合体を形成するアルキル(メタ)アクリレート、多官能性モノマー、界面活性剤、イオン交換水及び重合開始剤を用いて乳化重合反応を行い、コア重合体粒子を形成し、次いでシェル層を構成するアルキル(メタ)アクリレートと多官能性モノマーを添加し、上記コア重合体にシェル層をグラフト重合させる方法が挙げられる。
【0070】
上記製造方法において、上記シェル層のグラフト共重合は、上記コア重合体の重合と同一の重合工程で連続して行ってもよい。
【0071】
このようにして得られた共重合体は、上記コア重合体の表面を上記シェル層が三次元的に覆い、上記シェル層を構成する共重合体と上記コア重合体とが部分的に共有結合し、上記コア重合体及びシェル層はそれぞれ三次元的な架橋構造を形成している。
【0072】
上記したような重合方法において、反応終了後に得られるアクリル系共重合体ラテックスの固形分比率は、アクリル系共重合体の生産性、重合反応の安定性の点から10〜60重量%が好ましい。
【0073】
又、得られたアクリル系共重合体の平均粒子径は10nm〜1μmが好ましい。平均粒子径が10nmより小さくなると微粒子を多数含むことになりスケールの原因となり、また平均粒子径が大きすぎると塩化ビニルをグラフト重合した塩化ビニル系樹脂の耐衝撃性、機械的強度がともに低下する。
【0074】
請求項2記載の塩化ビニル系重合体の製造方法においては、請求項1記載の塩化ビニル系重合体の製造方法と同様に、得られたアクリル系共重合体ラテックスを塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体、分散剤及び重合開始剤共に、重合器本体に冷熱媒体の循環通路が設置されたジャケット式重合器に供給し、循環通路に下記条件を満足する温度の熱媒体を供給して45〜75℃に昇温し、アクリル系共重合体に塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体をグラフト重合する。
【0075】
得られた塩化ビニル系樹脂を成形する際には、従来より、塩化ビニル系樹脂を成形する際に使用されている熱安定剤、安定化助剤、滑剤、加工助剤、酸化防止剤、光安定剤、顔料、無機充填剤、可塑剤等を必要に応じて添加し、公知の任意の成形方法で成形すればよい。
【発明の効果】
【0076】
本発明の塩化ビニル系重合体の製造方法の構成は上述の通りであり、ジャケットに供給する熱媒体の温度が高くないにもかかわらず、昇温時間は高温の熱媒体を供給した場合と殆ど差がないので、重合時間が短く経済的に重合でき、且つ、重合の際にスケールの付着が少なくてジャケットの加熱、除熱能力が低下することなく塩化ビニル系重合体を得ることができる。
【0077】
特に、重合開始剤として10時間半減期温度が所定の重合温度の8℃以下の重合開始剤を使用した場合は、所定の重合温度に達する以前に重合が開始され、反応熱が発生されるので効率よく昇温でき重合時間が短縮でき経済的に重合できる。
【0078】
又、得られた塩化ビニル系樹脂は、アクリル系共重合体1〜30重量%に塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー99〜70重量%がグラフト共重合されているので、塩化ビニル系樹脂の特徴を有しつつ、耐衝撃性が改良されている。
【0079】
更に、アクリル系共重合体が、単独重合体のガラス転移温度が−140℃〜−60℃であるアルキル(メタ)アクリレート99〜99.9重量%と多官能性モノマー1〜0.1重量%とからなるアクリル系共重合体40〜90重量%に、単独重合体のガラス転移温度が−55℃〜0℃であるアルキル(メタ)アクリレート90〜98.5重量%と多官能性モノマー10〜1.5重量%の混合モノマー60〜10重量%をグラフト共重合したコア−シェル構造からなる共重合体であると、得られた塩化ビニル系樹脂の耐衝撃性はより優れている。
【0080】
従って、得られた塩化ビニル系樹脂は、雨樋、窓枠部材等の住宅資材、硬質塩化ビニル管、継手などの管工機材等の用途で、特に、耐衝撃性を必要とする用途に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0081】
以下、本発明の実施例について説明するが、下記の例に限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
乳化モノマーの調製
2−エチルヘキシルアクリレート100重量部、トリメチロールプロパントリアクリレート0.15重量部、界面活性剤(ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム塩(エチレンオキサイド付加モル数:8、ノニオン部のH.L.B.:11))1重量部及びイオン交換水60重量部を攪拌混合して、コア層形成用乳化モノマーを調製した。
【0083】
又、n−ブチルアクリレート100重量部、トリメチロールプロパントリアクリレート6重量部、界面活性剤(ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム塩(エチレンオキサイド付加モル数:8、ノニオン部のH.L.B.:11))1重量部及びイオン交換水60重量部を攪拌混合して、シェル層形成用乳化モノマーを調製した。
【0084】
アクリル共重合体の作製
次に、撹拌機及び還流冷却器を備えたステンレス製の400リットル反応器に、イオン交換水200kgを供給し、反応器内の酸素を窒素により置換した後、撹拌下でイオン交換水の温度を70℃まで昇温した。昇温終了後、反応器に過硫酸アンモニウム0.1kgとコア層形成用乳化モノマー20kgを投入し、重合を開始した。
【0085】
重合が開始したところで、コア層形成用乳化モノマー80kgを滴下し、滴下終了に続いて、シェル層形成用乳化モノマー100kgを順次滴下した。
【0086】
全ての乳化モノマーの滴下を3時間で終了し、その後、1時間の熟成期間をおいた後、重合を終了して固形分濃度30重量%のアクリル共重合体ラテックス(以下「ラテックス」という)を得た。アクリル共重合体の平均粒子径は116nmであった。
【0087】
塩化ビニル系樹脂の作製
還流凝縮器と撹拌機を備えた0.6m3 のジャケット式重合器に、イオン交換水290kg、上記アクリル共重合体ラテックス30kg(アクリル共重合体固形分9.0kg)、部分けん化ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名「クラレポバールL−8」)の3重量%水溶液9kg、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学社製、商品名「メトローズ60SH50」)の3重量%水溶液4.5kg、ジ−2−エチルヘキシルネオデカネート0. 07kg及び硫酸アルミをアクリル共重合体固形分9.0kgに対してアルミニウムイオンが3000ppmとなるよう一括投入した。
【0088】
その後、真空ポンプで重合器内の空気を排出し、攪拌条件下で塩化ビニルモノマー190kgを投入した。次いで、ジャケットに60℃の水を循環して昇温し、重合温度を54℃に設定してグラフト重合を開始した。尚、グラフト重合中は反応系の温度を54℃に保持するためにジャケット及び還流凝縮器に低温の水を循環した。
【0089】
重合器内の圧力が0.5MPaの圧力まで低下したところで塩化ビニルモノマーを回収し、脱水乾燥することにより塩化ビニル系樹脂を得た。昇温時間は0.7時間であり、反応時間は6.7時間であった。又、重合器内のスケ−ル量は0.2kgであった。
【0090】
(実施例2)
塩化ビニル系樹脂の作製
還流凝縮器と撹拌機を備えた0.6m3 のジャケット式重合器に、イオン交換水290kg、実施例1で得られたアクリル共重合体ラテックス40kg(アクリル共重合体固形分12.0kg)、部分けん化ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名「クラレポバールL−8」)の3重量%水溶液10kg、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学社製、商品名「メトローズ60SH50」)の3重量%水溶液5.0kg、t−ブチルパーオキシピバレート0. 05kg及び硫酸アルミをアクリル共重合体固形分12.0kgに対してアルミニウムイオンが3000ppmとなるよう一括投入した。
【0091】
その後、真空ポンプで重合器内の空気を排出し、攪拌条件下で塩化ビニルモノマー190kgを投入した。次いで、ジャケットに73℃の水を循環して昇温し、重合温度を62℃に設定してグラフト重合を開始した。尚、グラフト重合中は反応系の温度を62℃に保持するためにジャケット及び還流凝縮器に低温の水を循環した。
【0092】
重合器内の圧力が0.7MPaの圧力まで低下したところで塩化ビニルモノマーを回収し、脱水乾燥することにより塩化ビニル系樹脂を得た。昇温時間は1.0時間であり、反応時間は7.0時間であった。又、重合器内のスケ−ル量は0.3kgであった。
【0093】
(比較例1)
ジャケットに熱媒体として80℃の水を循環して昇温を開始し、重合温度を54℃に設定して懸濁重合反応を行った以外は実施例1で行ったと同様にして重合した。
昇温時間は0.5時間であり、反応時間は6.5時間であった。又、反応器内のスケール量は0.8kgであった。
(比較例2)
ジャケットに熱媒体として90℃の水を循環して昇温を開始し、重合温度を62℃に設定して懸濁重合反応を行った以外は実施例2で行ったと同様にして重合した。
昇温時間は0.8時間であり、反応時間は7.1時間であった。又、反応器内のスケール量は1.2kgであった。
【0094】
昇温時の泡立ち状態を観察し、得られた塩化ビニル重合体のフィッシュアイ及び粗粒化度を測定し結果を表1に示した。尚、観察条件及び測定方法は下記の通りである。
【0095】
(1)泡立ち状態
重合器の内部観察用のぞき窓から、昇温時の懸濁液の状態を目視で観察した。
○・・・泡の発生がなく、懸濁液の動きが活発な状態
△・・・泡の発生は少しあるが、懸濁液の動きがある状態
×・・・泡の発生が多く、懸濁液の動きがない状態
【0096】
(2)フィッシュアイ
得られた塩化ビニル重合体100重量部、ジオクチルフタレート50重量部、ステアリン酸バリウム0.5重量部、ステアリン酸亜鉛0.5重量部、二酸化チタン0.5重量部及びカーボンブラック0.1重量部よりなる混合物を6インチロールに供給し、140℃で5分間混練した後、厚さ0.3mmのシートを得た。得られたシートの100cm2 の中にある透明粒子の数を計数した。
【0097】
(3)粗粒化度
JIS Z8801に準拠し、42メッシュの標準篩を使用し、篩に残った塩化ビニル重合体粒子の比率(重量%)を測定した。
【0098】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル(メタ)アクリレート90〜99.9重量%と多官能性モノマー10〜0.1重量%からなる反応性モノマーを乳化重合して得られたアクリル系共重合体ラテックス、塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体、分散剤及び重合開始剤を、重合器本体に冷熱媒体の循環通路が設置されたジャケット式重合器に供給し、循環通路に下記条件を満足する温度の熱媒体を供給して45〜75℃に昇温し、アクリル系共重合体に塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体をグラフト重合することを特徴とする塩化ビニル系樹脂の製造方法。
T≦H≦T+8
(式中、Tはグラフト重合温度(℃)、Hは熱媒体の温度(℃)を示す。)
【請求項2】
単独重合体のガラス転移温度が−140℃〜−60℃であるアルキル(メタ)アクリレート99〜99.9重量%と多官能性モノマー1〜0.1重量%とからなる反応性モノマーを乳化重合して得られたコア重合体40〜90重量%に、単独重合体のガラス転移温度が−55℃〜0℃であるアルキル(メタ)アクリレート90〜98.5重量%と多官能性モノマー10〜1.5重量%よりなる混合モノマー60〜10重量%をグラフト共重合してシェル層を形成して得られたアクリル系共重合体ラテックス、塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体、分散剤及び重合開始剤を、重合器本体に冷熱媒体の循環通路が設置されたジャケット式重合器に供給し、循環通路に下記条件を満足する温度の熱媒体を供給して45〜75℃に昇温し、アクリル系共重合体に塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体をグラフト重合することを特徴とする塩化ビニル系樹脂の製造方法。
T≦H≦T+8
(式中、Tはグラフト重合温度(℃)、Hは熱媒体の温度(℃)を示す。)
【請求項3】
アクリル系共重合体1〜30重量%に塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体99〜70重量%をグラフト重合すること特徴とする請求項1又は2記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項4】
重合開始剤の10時間半減期温度がT−8℃以下であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2006−152194(P2006−152194A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−348060(P2004−348060)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【出願人】(000224949)徳山積水工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】