説明

塩化ビニル系樹脂組成物

【課題】 本発明は、優れた耐候性と高い耐衝撃性を有する、新規な塩化ビニル系樹脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】 塩化ビニル系樹脂(A)100重量部、並びに内層(b−1)50〜99.5重量%および外層(b−2)0.5〜50重量%を有し、ガラス転移温度が20℃以下の層のみで構成されるゴム状重合体(B)0.5〜20重量部を含有する塩化ビニル系樹脂組成物であって、前記外層(b−2)が、アクリル酸エステル52〜95重量%、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物およびビニルシアン化合物の群から選ばれる1種以上の単量体4.9〜47.9重量%、および多官能性単量体0.1〜10重量%を重合してなり、さらに、ゴム状重合体(B)100重量部に対し、(C)物理ゲルを形成する性質を有する水溶性高分子化合物を0.01〜3.0重量部含有することを特徴とする、塩化ビニル系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐候性と高い耐衝撃性を有する、塩化ビニル系樹脂およびゴム状重合体を含有する塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂の耐衝撃性を改良するために、乳化重合法や懸濁重合法で得られるジエン系またはアクリレート系のグラフト共重合体を塩化ビニル系樹脂に添加することが従来から広く利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、ジエン系のグラフト共重合体を塩化ビニル系樹脂に配合して使用すると、耐衝撃性は改良されるが耐候性が悪いため、製造された成形品を屋外で使用した場合には、耐衝撃性が著しく低下するという欠点がある。それゆえ、屋外用途耐衝撃性改良剤として、ジエン系の耐候性を改良し、かつ耐衝撃性を付与するため、アルキル(メタ)アクリレートを主体としたグラフト共重合体が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
一般に、(メタ)アクリレート系のゴムは、ジエン系のゴムに比べて耐衝撃性の改良効果が小さいことから、塩化ビニル系樹脂への配合量を多くする必要がある。しかしながら、塩化ビニル系樹脂の耐衝撃性を改良する分野では、耐衝撃性改良剤であるグラフト共重合体の配合量をできる限り少なくすることが、品質面あるいはコスト面から望まれており、その点を改良するための検討が長年にわたり実施されてきた(例えば、特許文献3〜5参照)。
【0005】
グラフト共重合体による塩化ビニル系樹脂への耐衝撃性付与効果を改良する方法は種々知られているが、中でも、グラフト共重合体中の(メタ)アクリレート系のゴムのガラス転移温度を下げる、あるいはグラフト共重合体中の(メタ)アクリレート系のゴムの重量比を上げる等、グラフト共重合体中の軟質成分の質および量を向上する方法が、その目的において効果的であることが知られている。特に、グラフト共重合体中のゴムの重量比を90重量%以上にすることは、高度に耐衝撃性を付与するための効果的な方法であると思われる。
【0006】
例えば、グラフト共重合体中のゴムの重量比が高い耐衝撃性改良剤を得るために、最内層ポリマーを特定の単量体組成とし、耐衝撃性改良剤の粒子径を特定の範囲に規定した技術が開示されている(例えば、特許文献6参照)。しかしこの方法では、ゴムの重量比を高くすることができるものの、耐衝撃性改良剤の粒子径に制限があることで耐衝撃性以外の品質の低下が避けられない等の課題がある。例えば、グラフト共重合体の粒子径を大きくすることは、成形体の表面光沢に代表される物性の低下を引き起こすことが知られている。また、塩化ビニル系樹脂組成物中における耐衝撃性改良剤の粒子径は、大きい場合には応力集中度の増大効果があるものの、同時に粒子間距離が長くなることによる応力集中度の低下が起こることが知られており、特に、耐衝撃性改良剤の配合部数が少ない場合には粒子間距離が長くなることの影響が大きくなり、充分に耐衝撃性改良効果が得られないという問題があることから、満足な方法とは言えない。
【0007】
一方、粘着質なゴム状高分子ラテックスを粘着性の少ない樹脂粉体として回収する方法として、分子中にカルボキシル基および/または水酸基を有する高分子量ポリアニオンをゴムラテックスに添加し、その混合ラテックスをアルカリ土類金属の少なくとも1種を含有する水溶液に滴下する方法が知られている(例えば、特許文献7参照)。
【0008】
しかしこの方法では、高分子量ポリアニオンをゴムラテックス中のゴム固形分100重量部に対し少なくとも2〜8重量部、好ましくは4〜6重量部加えなければ、回収した樹脂粉体の粘着性を抑制できないと記載されている。通常、高分子ラテックスに対し4重量部以上もの異物(即ち、この場合は高分子量ポリアニオン)を添加すると、種々の目的で使用されうる回収ポリマー組成物自体が有する本来の品質が低下することが容易に想定できる。特に、熱可塑性樹脂等への耐衝撃性付与の目的において、できる限り配合量を削減することが望まれている耐衝撃性改良剤に適応した場合、耐衝撃性付与効果等の品質の低下は避けられないことから、満足な方法とは言い難い。
【0009】
つまり、耐衝撃性向上と耐衝撃性改良剤添加による加工性、品質の低下やコスト上昇という相反する両物性を高いレベルで満足させうる塩化ビニル系樹脂組成物の開発が、未だ期待され続けているのが現状である。
【特許文献1】特公昭39−19035号公報
【特許文献2】特公昭51−28117号公報
【特許文献3】特公昭42−22541号公報
【特許文献4】特開平2−1763号公報
【特許文献5】特開平8−100095号公報
【特許文献6】韓国特許公開公報第2004−62761号公報
【特許文献7】特開昭52−37987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、優れた耐候性と高い耐衝撃性を有する、新規な塩化ビニル系樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような現状に鑑み、本発明者らは、耐候性を維持したまま著しく高い耐衝撃性を得るべく鋭意検討を重ねた結果、特定の層構造を有するゴム状重合体(B)を塩化ビニル系樹脂組成物に配合した場合に、耐候性を低下させることなく、著しく高い耐衝撃性を発現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち本発明は、塩化ビニル系樹脂(A)100重量部、並びに内層(b−1)50〜99.5重量%および外層(b−2)0.5〜50重量%を有し、ガラス転移温度が20℃以下の層のみで構成されるゴム状重合体(B)0.5〜20重量部を含有する塩化ビニル系樹脂組成物であって、前記外層(b−2)が、アクリル酸エステル52〜95重量%、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物およびビニルシアン化合物の群から選ばれる1種以上の単量体4.9〜47.9重量%、および多官能性単量体0.1〜10重量%を重合してなり、さらに、ゴム状重合体(B)100重量部に対し、(C)物理ゲルを形成する性質を有する水溶性高分子化合物を0.01〜3.0重量部含有することを特徴とする、塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【0013】
好ましい実施態様は、前記ゴム状重合体(B)の内層(b−1)が、アクリル酸エステル80〜99.9重量%、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物およびビニルシアン化合物の群から選ばれる1種以上の単量体0〜19.9重量%、および多官能性単量体0.1〜10重量%を重合してなることを特徴とする、前記の塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【0014】
好ましい実施態様は、前記ゴム状重合体(B)の体積平均粒子径が、0.05μm〜0.35μmであることを特徴とする、前記いずれかの塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【0015】
好ましい実施態様は、前記ゴム状重合体(B)の内層(b−1)を構成するアクリル酸エステルが、炭素原子が2〜8個のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルであることを特徴とする、前記いずれかの塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【0016】
好ましい実施態様は、前記ゴム状重合体(B)の外層(b−2)を構成するアクリル酸エステルが、アクリル酸ブチルであることを特徴とする、前記いずれかの塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【0017】
好ましい実施態様は、前記ゴム状重合体(B)の外層(b−2)を構成しうるメタクリル酸エステルが、メタクリル酸メチルであることを特徴とする、前記いずれかの塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【0018】
好ましい実施態様は、前記物理ゲルを形成する性質を有する水溶性高分子化合物(C)が、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、水溶性アルギン酸誘導体、寒天、ゼラチン、カラギーナン、グルコマンナン、ペクチン、カードラン、ジェランガム、およびポリアクリル酸誘導体から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、前記いずれかの塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【0019】
好ましい実施態様は、前記物理ゲルを形成する性質を有する水溶性高分子化合物(C)が、水溶性アルギン酸誘導体であることを特徴とする、前記の塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、優れた耐候性と高い耐衝撃性を発現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のゴム状重合体(B)は、内層(b−1)50〜99.5重量%および外層(b−2)0.5〜50重量%(但し、内層と外層の総量は100重量%)から構成される層構造を有するものであるが、前記内層(b−1)および外層(b−2)については、例えば、各々が1層であってもよく、または少なくともいずれかの層が2層以上から構成されうる多層構造であっても好適に使用されうる。中でも、外層(b−2)は1層で構成される構造が好ましい。前記ゴム状重合体(B)の多層構造は、種々の目的に応じて任意に選択されうる。
【0022】
前記多層構造については、例えば、内層(b−1)に外層(b−2)が完全に被覆した層構造が一般的であるが、内層(b−1)と外層(b−2)の重量比等によっては、層構造を形成するための外層量が不充分な場合もありうる。そのような場合は、完全な層構造である必要はなく、内層(b−1)の一部を外層(b−2)が被覆した構造であってもよく、或いは内層(b−1)の一部に外層(b−2)の構成要素である単量体がグラフト重合した構造も好適に用いることができる。なお、上記層構造の概念は、本発明における内層(b−1)中若しくは外層(b−2)中において多層構造が形成される場合にも同様に当てはまる。
【0023】
本発明のゴム状重合体(B)は、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、マイクロサスペンション重合法、ミニエマルション重合法、水系分散重合法などにより製造することができる。中でも、構造制御が容易である点から、乳化重合法により製造されたゴム状重合体を好適に用いることができ、外層(b−2)が内層(b−1)にグラフトしたグラフト共重合体を用いることができる。
【0024】
本発明のゴム状重合体(B)における内層(b−1)の重量比率については、ゴム状重合体(B)中に50〜99.5重量%含まれることが好ましく、更には60〜90重量%がより好ましい。ゴム状重合体(B)における内層(b−1)の重量比率が50重量%未満の場合は、本発明のゴム状重合体(B)を用いた塩化ビニル系樹脂組成物の耐衝撃性改良効果が劣る傾向があり、逆に内層(b−1)の重量比率が99.5重量%を超える場合は、ゴム状重合体(B)と塩化ビニル系樹脂(A)との相溶性が低下するため、耐衝撃性改良効果が得られにくくなる傾向にある。
【0025】
前記ゴム状重合体(B)における内層(b−1)の組成としては特に制限されないが、耐候性等の観点からポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル系のゴム状重合体であることが好ましい。中でも、得られる塩化ビニル系樹脂組成物の耐衝撃性に代表される品質の観点から、例えば、アクリル酸エステル80〜99.9重量%、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物およびビニルシアン化合物の群から選ばれる1種以上の単量体0〜19.9重量%、および多官能性単量体0.1〜10重量%(但し、これらの単量体の総量は100重量%)を重合してなる、ガラス転移温度が20℃以下のゴム状重合体であることが好ましい。更には、アクリル酸エステル85〜99.9重量%、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物およびビニルシアン化合物の群から選ばれる1種以上の単量体0〜14.9重量%、および多官能性単量体0.1〜5重量%を重合してなる、ガラス転移温度が20℃以下のゴム状重合体がより好ましい。なお、本発明において(メタ)アクリルとは、特に断らない限り、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0026】
なお、前記の重合体のガラス転移温度は、例えば、示差走査熱量計により測定することができるが、本発明においては、ポリマ−ハンドブック[Polymer Hand Book(J. Brandrup, Interscience1989)]に記載されている値を使用してFoxの式を用いて算出した値を用いることとする(例えば、ポリメチルメタクリレートのガラス転移温度は105℃であり、ポリブチルアクリレートは−54℃である。)。
【0027】
前記アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ベヘニル等のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル類、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル等のヒドロキシル基を有するアクリル酸アルキルエステル類、アクリル酸グリシジル等のエポキシ基を有するアクリル酸エステル類、またはアルコキシル基を有するアクリル酸エステル類が挙げられる。中でも重合の容易さの点から、炭素原子が2〜8個のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルがより好ましい。
【0028】
前記メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ベヘニル等のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル類、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル等のヒドロキシル基を有するメタクリル酸アルキルエステル類、メタクリル酸グリシジル等のエポキシ基を有するメタクリル酸エステル類、またはアルコキシル基を有するメタクリル酸エステル類が挙げられるが、中でも、ゴム状重合体(B)を配合した塩化ビニル系樹脂組成物の加工性の点から、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジルがより好ましい。
【0029】
前記芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等が挙げられるが、中でも、ゴム状重合体(B)を配合した塩化ビニル系樹脂組成物の加工性の点から、スチレンがより好ましい。
【0030】
前記ビニルシアン化合物としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられるが、中でもアクリロニトリルがより好ましい。
【0031】
前記多官能性単量体としては、例えば、アリルメタクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、モノエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、1,3−ブチレンジメタクリレートが挙げられるが、中でも、グラフト交叉剤としての機能を持つ点から、アリルメタクリレートがより好ましい。
【0032】
本発明のゴム状重合体(B)における外層(b−2)の重量比率については、ゴム状重合体(B)中に0.5〜50重量%含まれることが好ましく、10〜40重量%がより好ましい。ゴム状重合体(B)における外層(b−2)の重量比率が50重量%を超える場合は、本発明のゴム状重合体(B)を用いた塩化ビニル系樹脂組成物の耐衝撃性改良効果が劣る傾向があり、逆に外層(b−2)の重量比率が0.5重量%未満の場合は、ゴム状重合体(B)と塩化ビニル系樹脂(A)との相溶性が低下するため、耐衝撃性改良効果が得られにくくなる傾向にある。
【0033】
前記ゴム状重合体(B)における外層(b−2)の組成としては、ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル系のゴム状重合体が例示されるが、塩化ビニル系樹脂(A)へのゴム状重合体(B)の分散性の観点から、例えば、アクリル酸エステル52〜95重量%、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物およびビニルシアン化合物の群から選ばれる1種以上の単量体4.9〜47.9重量%、および多官能性単量体0.1〜10重量%(但し、これらの単量体の総量は100重量%)を重合してなる、ガラス転移温度が20℃以下のゴム状重合体であることが好ましい。更には、アクリル酸エステル60〜80重量%、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物およびビニルシアン化合物の群から選ばれる1種以上の単量体19.9〜39.9重量%、および多官能性単量体0.1〜5重量%を重合してなる、ガラス転移温度が20℃以下のゴム状重合体がより好ましい。
【0034】
前記アクリル酸エステルとしては、例えば、内層(b−1)で使用されうるものと同様のものが例示されるが、中でもゴム状重合体(B)を配合した塩化ビニル系樹脂組成物の良好な加工性と、耐衝撃性付与効果の両立がより容易な点から、アクリル酸ブチルが最も好ましい。
【0035】
前記メタクリル酸エステルとしては、例えば、内層(b−1)で使用されうるものと同様のものが例示されるが、中でもゴム状重合体(B)の塩化ビニル系樹脂への分散性の点から、メタクリル酸メチルが最も好ましい。
【0036】
前記芳香族ビニル化合物としては、例えば、内層(b−1)で使用されうるものと同様のものが例示されるが、中でもスチレンがより好ましい。
【0037】
前記ビニルシアン化合物としては、例えば、内層(b−1)で使用されうるものと同様のものが例示されるが、中でもアクリロニトリルがより好ましい。
【0038】
前記多官能性単量体としては、例えば、内層(b−1)で使用されうるものと同様のものが例示されるが、中でもアリルメタクリレート、ジアリルフタレート、1,3−ブチレンジメタクリレートがより好ましい。
【0039】
本発明におけるゴム状重合体(B)は、高度に耐衝撃性を付与する点から、ガラス転移温度が20℃以下の層のみで構成されることが好ましい。更には、内層(b−1)の全ての層のガラス転移温度は、外層(b−2)の全ての層のガラス転移温度より低いことがより好ましく、内層(b−1)の全ての層のガラス転移温度は、外層(b−2)の全ての層のガラス転移温度より20℃以上低いことが特に好ましい。
【0040】
本発明のゴム状重合体(B)の体積平均粒子径は特に限定されるものではないが、0.05〜0.35μmであることが好ましく、更には0.08〜0.3μmであることがより好ましい。ゴム状重合体(B)の体積平均粒子径が0.35μmを超える場合は、耐衝撃性改良効果が発現しにくくなる場合があるだけでなく、塩化ビニル系樹脂組成物を用いて成形した成形体の表面光沢等の品質が低下する虞がある。一方、ゴム状重合体(B)の体積平均粒子径が0.05μm未満の場合は、耐衝撃性改良効果が発現しにくくなる場合がある。なお、上記体積平均粒子径は、例えば、MICROTRAC UPA150(日機装株式会社製)を用いることにより測定することができる。
【0041】
また、前記ゴム状重合体(B)の構造については特に制限されるものではないが、耐衝撃性を高度に改良する観点から、一般に応力集中度の増大効果が高いことが知られている、例えば、内部に中空部分を有する構造などが好適に使用されうる。
【0042】
上記したゴム状重合体(B)は、塩化ビニル系樹脂(A)に配合することにより、高い耐衝撃性を発現させうるだけでなく、耐候性や成形体の表面光沢に代表される物性を低下させない塩化ビニル系樹脂組成物を得ることができる。
【0043】
上記したグラフト共重合体(B)は公知の方法に従って製造することができるが、一般的な製造方法は、例えば、特開2002−363372号公報、特開2003−119396号公報、特開平9−286830号公報等に詳細に記述されている。ただし、これらに限定されるものではない。
【0044】
本発明のゴム状重合体(B)においては、外層(b−2)の形成に前記多官能性単量体(架橋剤および/またはグラフト交叉剤)を必須成分として用いることに特徴を有する。なお、ゴム状重合体(B)全体に対する多官能性単量体の使用量は、耐衝撃性を改良する観点から、0.1〜10重量%であることが好ましく、0.2〜5重量%であることがより好ましい。ゴム状重合体(B)全体の形成に用いる多官能性単量体の使用量が、10重量%を超えると耐衝撃性改良効果が発現しにくくなる場合がある。一方、ゴム状重合体(B)全体の形成に用いる多官能性単量体の使用量が0.1重量%未満の場合は、成形中にゴム状重合体(B)が形状を維持できない可能性があり、耐衝撃性改良効果が発現しにくくなる場合がある。
【0045】
本発明の組成物においては、塩化ビニル系樹脂に対し、ゴム状重合体(B)と共に、物理ゲルを形成する性質を有する水溶性高分子化合物(C)を含有させる。ここで物理ゲルとは、高分子間の水素結合やイオン結合あるいはキレート形成などによって形成される物理的橋架けによるゲルを意味する。また、物理ゲルを形成する性質を有するとは、水溶性高分子化合物単独の水溶液に、無機塩や酸等のゲル化剤の添加により、粘性流体(ゾル)から弾性体(ゲル)への変化が視覚的にとらえられることを意味し、本発明において、物理ゲルを形成する性質を有する水溶性高分子化合物(C)とは、上記性質を有する水溶性高分子化合物と定義する。
【0046】
本発明で用いることのできる物理ゲルを形成する性質を有する水溶性高分子化合物としては、上記性質を発現できるものであれば特に制限はないが、例えば、次の群から選ばれた1種または2種以上の混合物からなる水溶性高分子化合物を用いることができる。例えば、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム等の水溶性アルギン酸誘導体、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、寒天、ゼラチン、カラギーナン、グルコマンナン、ペクチン、カードラン、ジェランガム、ポリアクリル酸誘導体等が例示されうる。本発明においては、その目的を達成する意味において、これらの中でもカルボキシメチルセルロース、水溶性アルギン酸誘導体、若しくはポリアクリル酸誘導体がより好ましく、中でも水溶性アルギン酸誘導体が最も好ましく使用されうる。
【0047】
なお、上記水溶性アルギン酸誘導体中のマンヌロン酸とグルロン酸の比率には特に制限はないが、グルロン酸比率が高いほど物理ゲルの形成能力が高くなる傾向にあるため好ましく、通常は水溶性アルギン酸誘導体中のグルロン酸比率が5重量%以上、より好ましくは30重量%以上である。また、上記水溶性アルギン酸誘導体に代表される水溶性高分子化合物の分子量には特に制限はないが、製造時の移液性の点から、B型粘度計により測定した1.0重量%濃度における水溶液の粘度が2〜22000mPa・sであることが好ましく、2〜1000mPa・sであることがより好ましい。
【0048】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物における(C)物理ゲルを形成する性質を有する水溶性高分子化合物の添加方法としては、まず(C)を前記ゴム状重合体(B)に配合した上で、これを耐衝撃性改良剤として塩化ビニル系樹脂に配合するのが効果的である。特に前記ゴム状重合体(B)のラテックスに(C)物理ゲルを形成する性質を有する水溶性高分子化合物を添加してこれを処理する方法が有効である。
【0049】
本発明における物理ゲルを形成する性質を有する水溶性高分子化合物(C)の含有量は、ゴム状重合体(B)100重量部に対し、0.01〜3.0重量部であることが好ましく、更には0.05〜1.8重量部であることがより好ましい。物理ゲルを形成する性質を有する水溶性高分子化合物(C)の含有量が0.01重量部よりも少ない場合は、耐衝撃性改良剤となるゴム状重合体(B)を回収する際に粗大化や塊状化が起こりやすくなる傾向にあり、これらの粗大化あるいは塊状化したゴム状重合体が存在する場合は耐衝撃性付与効果が劣る傾向がある。逆に、物理ゲルを形成する性質を有する水溶性高分子化合物(C)の含有量が3.0重量部よりも多い場合は、ゴム状重合体を回収する際に粗大化や塊状化の抑制効果は向上するものの、耐衝撃性改良剤中に多量の水溶性高分子化合物(それに由来する物質を含む)が残存してしまい、耐衝撃性付与効果や成形加工時の熱安定性等の品質が低下する傾向にある。
【0050】
また、本発明においては、物理ゲルを形成する性質を有する水溶性高分子化合物(C)と共にゲル化剤を使用することが好ましい。本発明において使用され得るゲル化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、よう化カリウム、よう化リチウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、塩化カルシウム、硫酸第一鉄、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸カドミウム、塩化バリウム、塩化第一鉄、塩化マグネシウム、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硫酸アルミニウム、カリウムミョウバン、鉄ミョウバン等の無機塩類、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸類、酢酸、蟻酸等の有機酸類、および酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、蟻酸ナトリウム、蟻酸カルシウム等の有機酸の塩類を単独または混合したものを用いることができる。これらの中でも、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、硫酸第一鉄、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸カドミウム、塩化バリウム、塩化第一鉄、塩化マグネシウム、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硫酸アルミニウム、カリウムミョウバン、鉄ミョウバン等の無機塩類、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸類、酢酸、蟻酸等の有機酸類を、単独または2種以上混合したものが好適に使用されうる。
【0051】
なお本発明において、物理ゲルを形成する性質を有する水溶性高分子化合物(C)として水溶性アルギン酸誘導体を用いる場合は、ゲル化剤として、塩化カルシウム、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硫酸アルミニウムなどが好適に使用されうる。
【0052】
前記ゲル化剤の添加量には特に制限はないが、ゲル化剤の大部分はゴム状重合体回収時における水洗工程により洗い流すことが可能で、ゴム状重合体(B)100重量部に対し1重量部未満残留していることが好ましく、更には0.01〜0.5重量部であることがより好ましい。ゴム状重合体(B)100重量部に対するゲル化剤の残留量が1重量部を超える場合には、例えば、塩化ビニル系樹脂に配合し、成形する際の加工性が変化する可能性があり、高い耐衝撃性効果が発現しにくくなる傾向があるだけでなく、成形体が黄変するなどの問題を引き起こす虞がある。
【0053】
なお、ゴム状重合体(B)の回収時におけるゲル化剤の使用量は、ゴム状重合体(B)100重量部に対するゲル化剤の残留量が、1重量部未満であれば特に制限はないが、回収の容易さ、および製造コストの観点から、ゴム状重合体(B)に対し0.2〜20重量部が好ましく、更には1〜10重量部がより好ましい。
【0054】
本発明において、物理ゲルを形成する性質を有する水溶性高分子化合物(C)を、好ましくは共にゲル化剤を含有させる目的は、(1)ゴム状重合体(B)の凝固粒子中に非粘着性の物理ゲルが共存することにより、回収途中の凝固粒子の耐ブロッキング性および凝固粒子形態保持性(凝固粒子への弾性の付与)を向上させることができる、(2)ゴム状重合体(B)の凝固粒子を乾燥した後においても、凝固粒子中に非粘着性の物理ゲルの乾燥物が共存することにより、凝固粒子の耐ブロッキング性および凝固粒子形態保持性(凝固粒子への弾性の付与)を向上させ、粗大化や塊状化を抑制できるためである。
【0055】
また、本発明のゴム状重合体(B)には、さらに融着防止剤を添加することができる。本発明で用いることのできる融着防止剤には特に制限はないが、耐衝撃性改良効果等の品質と粗大化や塊状化を抑制する効果をより高いレベルで満足させることが可能となる点から、例えば、陰イオン性界面活性剤の多価金属塩および/またはシリコンオイルが好適に使用されうる。
【0056】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、高い耐衝撃性を有し、加工性に優れ、良好な表面光沢を得ることができるゴム状重合体(B)を用いることから、従来では達成が困難であった優れた物性バランスを達成することが可能となる。塩化ビニル系樹脂組成物中のゴム状重合体(B)の含有量は特に限定されないが、品質面、およびコスト面から、塩化ビニル系樹脂(A)100重量部に対し、0.5〜20重量部であることが望ましく、0.5〜10重量部がより好ましく、1〜7重量部であることが特に好ましい。塩化ビニル系樹脂(A)100重量部に対するのゴム状重合体(B)の含有量が、20重量部を超えた場合には耐衝撃性改良効果は充分であるが、耐衝撃性以外の品質が低下する可能性があることやコストが上昇する場合がある。一方、ゴム状重合体(B)の含有量が0.5重量部未満の場合は、充分な耐衝撃性改良効果が得られにくくなる場合がある。
【0057】
なお、本発明において用いられうる塩化ビニル系樹脂(A)とは、塩化ビニルホモポリマー、または塩化ビニルから誘導された単位を少なくとも70重量%含有する共重合体を意味し、これに該当する公知のものが使用できる。
【0058】
また、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物には、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、滑剤、加工助剤等の添加剤を適宜添加することができる。
【0059】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物を製造する方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、塩化ビニル系樹脂(A)およびゴム状重合体(B)等を予めヘンシェルミキサー、タンブラーなどを用いて混合した後、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、加熱ロールなどを用いて溶融混練することにより樹脂組成物を得る方法などを採用することができる。
【実施例】
【0060】
次に本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
(ゴム状重合体R1の作製)
温度計、攪拌機、還流冷却器、窒素流入口、単量体と乳化剤の添加装置を有するガラス反応器に、脱イオン水160重量部、ラウリル硫酸ナトリウム0.05重量部を仕込み、窒素気流中で攪拌しながら50℃に昇温した。次に2−エチルヘキシルアクリレート(以下2−EHAとも言う)8.96重量部、アリルメタクリレート(以下、AMAとも言う)0.04重量部、クメンハイドロパーオキサイド0.01重量部の混合物を仕込み、その10分後にエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.01重量部と硫酸第一鉄・7水和塩0.005重量部を蒸留水5重量部に溶解した混合液、およびホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.2重量部を仕込んだ。1時間攪拌後、そこに2−EHA4.47重量部、AMA0.03重量部およびクメンハイドロパーオキサイド0.01重量部からなる単量体の混合物を15分間を要して滴下した。1時間攪拌後、そこにブチルアクリレート(以下、BAとも言う)76.12重量部、AMA0.38重量部およびクメンハイドロパーオキサイド0.1重量部からなる単量体の混合物を4時間を要して滴下した。また、前記の単量体混合物の添加とともに、1重量部のラウリル硫酸ナトリウムを5重量%濃度の水溶液にしたものを4時間にわたり連続的に追加した。単量体混合物添加終了後、1.5時間攪拌を続け、ガラス転移温度(以下、Tgとも言う):−50℃とTg:−54℃の2層の内層重合体ラテックスを得た。この重合体ラテックスに、外層成分として、BA5.97重量部、メチルメタクリレート(以下、MMAとも言う)3.98重量部、AMA0.05重量部、およびクメンハイドロパーオキサイド0.01重量部の混合物を50℃で30分間にわたって連続的に添加した。添加終了後、クメンハイドロパーオキサイド0.01重量部を添加し、さらに1時間攪拌を続けて重合を完結させた。単量体成分の重合転化率は99.0%であった。以上により、内層含量90重量%、外層(Tg:−10℃)含量10重量%のゴム状重合体R1のラテックスを得た。なお、このゴム状重合体R1のMICROTRAC UPA150(日機装株式会社製)により測定した体積平均粒子径は、0.14μmであった。
【0062】
ゴム状重合体R1のラテックス(ポリマー固形分100重量部)に、1.5重量%濃度のアルギン酸ナトリウム(株式会社キミカ社製アルギテックスLL)水溶液(B型粘度計により測定した水溶液粘度が120mPa・s)をアルギン酸ナトリウム固形分がゴム状重合体R1の固形分100重量部に対し0.4重量部となるように添加し、3分間撹拌混合して混合ラテックスを作製した。温度20℃の混合ラテックスを、加圧ノズルの一種である旋回流式円錐ノズルでノズル径0.6mmを用い、噴霧圧力3.7kg/cm2にて、塔底部液面からの高さ5m、直径60cmの円筒状の装置中に、体積平均液滴径が約200μmの液滴となるように噴霧した。それと同時に、30重量%濃度の塩化カルシウム水溶液を、塩化カルシウム固形分がゴム状重合体R1の固形分100重量部に対し5〜15重量部となるように二流体ノズルにて空気と混合しながら、液滴径0.1〜10μmで噴霧した。塔内を落下した混合ラテックス液滴は、塔底部にて30℃の1.0重量%濃度の塩化カルシウム水溶液を入れた受槽に投入され、これを回収した。
【0063】
得られた凝固ラテックス粒子水溶液に、5重量%濃度のパルミチン酸カリウム水溶液をパルミチン酸カリウム固形分がゴム状重合体R1の固形分100重量部に対し1.5重量部となるよう添加し、熱処理した後、脱水、乾燥することにより、白色樹脂粉末を調製した。
【0064】
(塩化ビニル系樹脂組成物の調製、成形体の調製、および評価)
塩化ビニル樹脂(カネビニールS−1001、株式会社カネカ製、平均重合度1000)100重量部、鉛系ワンパック安定剤(LGC3203、ACROS社製)4.5重量部、酸化チタン4.5重量部、炭酸カルシウム8重量部、メチルメタクリレート系重合体(該重合体0.1gを100mlのクロロホルムに溶解した溶液の30℃における比粘度が0.5未満のメチルメタクリレート系重合体)の加工助剤(カネエースPA−20、株式会社カネカ製)0.5重量部、および前記白色樹脂粉末をゴム状重合体R1の添加量が6重量部となるように配合し、これをヘンシェルミキサーにてブレンドしてパウダーコンパウンドを得た。
【0065】
得られたパウダーコンパウンドを8インチテストロールを用い、180℃で5分間混練りした後、190℃のプレスで15分間加圧して厚さ3.0mmの成形体を得た。この成形体から耐衝撃性試験片を作製し、JIS K−7111に準じてシャルピー強度を測定した。シャルピー強度の結果を表1に示す。
【0066】
(実施例2および比較例1)
表1に示した組成に変更する以外は、実施例1と同様の方法でゴム状重合体のラテックスR2およびR3を作製した後、実施例1と同様の方法で白色樹脂粉末を回収した。ゴム状重合体R2およびR3を用いて製造した樹脂粉末を使用する以外は、実施例1と同様の方法で成形体を得、シャルピー強度を測定した。シャルピー強度の結果を表1に示す。
【0067】
表1には、実施例および比較例で得られたゴム状重合体の各層の組成とTg、内層(b−1)/外層(b−2)の重量比率、ゴム状重合体の体積平均粒子径、水溶性高分子化合物(C)の種類とゴム状重合体100重量部に対する添加量、実施例1,2および比較例1で得られたゴム状重合体から製造された樹脂粉末を塩化ビニル系樹脂に配合してロール・プレス成形した成形体の耐衝撃強度(シャルピー強度)を示した。
【0068】
【表1】

【0069】
実施例1および2、並びに比較例1より、ゴム状重合体(B)が本発明で規定する範囲内であれば、高い耐衝撃性改良効果が得られることがわかる。
【0070】
(実施例3)
(ゴム状重合体R4の作製)
温度計、攪拌機、還流冷却器、窒素流入口、単量体と乳化剤の添加装置を有するガラス反応器に、脱イオン水160重量部、ラウリル硫酸ナトリウム0.1重量部、過硫酸カリウム0.03重量部を仕込み、窒素気流中で攪拌しながら70℃に昇温した。2−EHA26.95重量部、AMA0.05重量部からなる単量体の混合物を1時間を要して滴下した。1時間攪拌後、そこにラウリル硫酸ナトリウム0.2重量部を蒸留水2重量部に溶解して仕込み、続いてBA61.74重量部、AMA1.26重量部からなる単量体の混合物を2.5時間を要して滴下した。1時間攪拌後、BA5.88重量部、MMA3.92重量部、AMA0.20重量部からなる単量体の混合物を25分間を要して滴下した。単量体混合物の添加終了後、1時間攪拌を続けて重合を完結させた。前記により、内層がTg:−50℃、Tg:−54℃の2層を有し、外層がTg:−10℃であって、MICROTRAC UPA150(日機装株式会社製)により測定した体積平均粒子径が0.16μmであるゴム状重合体R4のラテックスを得た。単量体成分の重合転化率は99.2%であった。ゴム状重合体R4のラテックスを用い、実施例1と同様の方法で白色の樹脂粉末を回収した。
【0071】
(塩化ビニル系樹脂組成物の調製、成形体の調製、および評価)
塩化ビニル樹脂(カネビニールS−1001、株式会社カネカ製、平均重合度1000)100重量部、鉛系ワンパック安定剤(LGC3203、ACROS社製)4.5重量部、酸化チタン4.5重量部、炭酸カルシウム8重量部、メチルメタクリレート系重合体(該重合体0.1gを100mlのクロロホルムに溶解した溶液の30℃における比粘度が0.5未満のメチルメタクリレート系重合体)の加工助剤(カネエースPA−20、株式会社カネカ製)0.5重量部、および前記白色樹脂粉末をゴム状重合体R4の添加量が6.5重量部となるように配合し、これをヘンシェルミキサーにてブレンドしてパウダーコンパウンドを得た。
【0072】
得られたパウダーコンパウンドを8インチテストロールを用い、180℃で5分間混練りした後、190℃のプレスで15分間加圧して厚さ3.0mmの成形体を得た。この成形体から耐衝撃性試験片を作製し、JIS K−7111に準じてシャルピー強度を測定した。シャルピー強度の結果を表2に示す。
【0073】
(実施例4)
表1に示した組成に変更する以外は、実施例3と同様の方法でゴム状重合体R5のラテックスを作製した後、実施例3と同様の方法で白色樹脂粉末を回収した。ゴム状重合体R5を用いて製造した樹脂粉末を使用する以外は、実施例3と同様の方法で成形体を得、シャルピー強度を測定した。シャルピー強度の結果を表2に示す。
【0074】
(比較例2)
(ゴム状重合体R6の作製)
温度計、攪拌機、還流冷却器、窒素流入口、単量体と乳化剤の添加装置を有するガラス反応器に、脱イオン水160重量部、ラウリル硫酸ナトリウム0.1重量部、過硫酸カリウム0.03重量部を仕込み、窒素気流中で攪拌しながら70℃に昇温した。2−EHA26.95重量部、AMA0.05重量部からなる単量体の混合物を1時間を要して滴下した。1時間攪拌後、そこにラウリル硫酸ナトリウム0.2重量部を蒸留水2重量部に溶解して仕込み、続いてBA17.64重量部、AMA0.36重量部からなる単量体の混合物を40分間を要して滴下した。1時間攪拌後、MMA4.90重量部、AMA0.10重量部からなる単量体の混合物を10分間を要して滴下した。1時間攪拌後、BA39.20重量部、AMA0.80重量部からなる単量体の混合物を1.5時間を要して滴下した。1時間攪拌後、BA5.88重量部、MMA3.92重量部、AMA0.20重量部からなる単量体の混合物を25分間を要して滴下した。単量体混合物添加終了後、1時間攪拌を続けて重合を完結させた。前記により、内層が、Tg:−50℃、Tg:−54℃、Tg:105℃、Tg:−54℃の4層を有し、外層が、Tg:−10℃であって、MICROTRAC UPA150(日機装株式会社製)により測定した体積平均粒子径が0.16μmであるゴム状重合体R6のラテックスを得た。単量体成分の重合転化率は99.0%であった。
【0075】
ゴム状重合体R6のラテックスを用い、実施例3と同様の方法で白色の樹脂粉末を回収した。ゴム状重合体R6の樹脂粉末を使用する以外は、実施例3と同様の方法で成形体を得、シャルピー強度を測定した。シャルピー強度の結果を表2に示す。
【0076】
表2には、実施例3,4および比較例2で得られたゴム状重合体の各層の組成とTg、内層(b−1)/外層(b−2)の重量比率、ゴム状重合体の粒子径、水溶性高分子化合物(C)の種類とゴム状重合体100重量部に対する添加量、実施例3,4および比較例2で得られたゴム状重合体から製造された樹脂粉末を塩化ビニル系樹脂に配合してロール・プレス成形した成形体の耐衝撃強度(シャルピー強度)を示した。
【0077】
【表2】

【0078】
実施例2,3および比較例2より、ゴム状重合体(B)にガラス転移温度が20℃を超える層が存在しなければ、高い耐衝撃性改良効果が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂(A)100重量部、並びに内層(b−1)50〜99.5重量%および外層(b−2)0.5〜50重量%を有し、ガラス転移温度が20℃以下の層のみで構成されるゴム状重合体(B)0.5〜20重量部を含有する塩化ビニル系樹脂組成物であって、前記外層(b−2)が、アクリル酸エステル52〜95重量%、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物およびビニルシアン化合物の群から選ばれる1種以上の単量体4.9〜47.9重量%、および多官能性単量体0.1〜10重量%を重合してなり、さらに、ゴム状重合体(B)100重量部に対し、(C)物理ゲルを形成する性質を有する水溶性高分子化合物を0.01〜3.0重量部含有することを特徴とする、塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記ゴム状重合体(B)の内層(b−1)が、アクリル酸エステル80〜99.9重量%、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物およびビニルシアン化合物の群から選ばれる1種以上の単量体0〜19.9重量%、および多官能性単量体0.1〜10重量%を重合してなることを特徴とする、請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ゴム状重合体(B)の体積平均粒子径が、0.05μm〜0.35μmであることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記ゴム状重合体(B)の内層(b−1)を構成するアクリル酸エステルが、炭素原子が2〜8個のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルであることを特徴とする、請求項2または3のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記ゴム状重合体(B)の外層(b−2)を構成するアクリル酸エステルが、アクリル酸ブチルであることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項6】
前記ゴム状重合体(B)の外層(b−2)を構成しうるメタクリル酸エステルが、メタクリル酸メチルであることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項7】
前記物理ゲルを形成する性質を有する水溶性高分子化合物(C)が、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、水溶性アルギン酸誘導体、寒天、ゼラチン、カラギーナン、グルコマンナン、ペクチン、カードラン、ジェランガム、およびポリアクリル酸誘導体から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1及至6のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項8】
前記物理ゲルを形成する性質を有する水溶性高分子化合物(C)が、水溶性アルギン酸誘導体であることを特徴とする、請求項7記載の塩化ビニル系樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−238772(P2007−238772A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63274(P2006−63274)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】