説明

塩味増強方法

【課題】 塩化ナトリウムを含有する飲食物において、塩味を増強した飲食物を提供する。また、塩味を増強することで、塩分を低減しても塩味を保ち、減塩前と同等もしくは同等以上の塩味を有する減塩飲食物を提供する。
【解決手段】 塩化ナトリウムを含有する飲食物に、甘味の立ちおよびキレが速い甘味質を有する糖アルコールであるソルビトールおよび/または高糖化還元水飴を添加することで、塩味を増強する。これにより塩分を低減しても塩味を保ち、減塩前と同等もしくは同等以上の塩味を有する減塩飲食物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソルビトールおよび/または高糖化還元水飴の添加により、塩味を増強することを特徴とする飲食物の塩味増強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、食塩(塩化ナトリウム)の摂取量を低減し、高血圧をはじめとする生活習慣病を予防したいという消費者の要望が増加している。それに伴い、食品メーカーでは減塩や低塩を謳った商品の開発が盛んになっており、食品全般について低塩化の流れがある。低塩化する場合、既存の配合から塩分を抜くだけでは味のバランスが悪くなり、消費者が物足りなさを感じる場合があるという問題点がある。こうした点を補うために、塩化カリウムなどの代用塩を使用するという方法が試みられているが、代用塩は苦味等の異味を有し、食味が低下するという問題点がある。また、特許文献1〜5のように、塩味を増強することにより、結果として低塩飲食物を提供する方法も試みられている。
【0003】
【特許文献1】特開平2−53456号公報
【特許文献2】特開平5−184326号公報
【特許文献3】特開2004−275097号公報
【特許文献4】特開2002−345430号公報
【特許文献5】特開平10−66540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法は麹分解液、特許文献2は飽和脂肪族モノカルボン酸、特許文献3はγ−アミノ酪酸と有機酸、特許文献4はアミノ酸とコハク酸を添加することにより、塩味を増強させる方法であるが、どれも特有の味やにおいが付与されてしまい、飲食物の風味を損なうという問題点があった。特許文献5はトレハロースを用いて塩味を増強する方法であるが、トレハロースは溶解度が低く、水分含量が少ない食品には使用しにくい、口溶けが悪いという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、塩化ナトリウムを含有する飲食物において、固形分当たりの糖組成が、単糖類が30〜70重量%、二糖類が30〜70重量%、三糖類以上が25重量%以下であるソルビトールおよび/または高糖化還元水飴を、塩化ナトリウム1重量部に対し、前記ソルビトールおよび/または高糖化還元水飴を固形分換算で0.1〜3重量部添加することにより、塩味を増強することを特徴とする飲食物の塩味増強方法に関する。また、塩化ナトリウムを含有する飲食物において、固形分当たりの糖組成が単糖類が40〜50重量%、二糖類が30〜55重量%、三糖類以上が20重量%以下である高糖化還元水飴を、塩化ナトリウム1重量部に対し0.25〜1.5重量部添加することにより、塩化ナトリウムの配合量を20%低減しても減塩前と同等以上の塩味を有することを特徴とする飲食物の塩味増強方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、塩化ナトリウムを含有する飲食物に、ソルビトールおよび/または高糖化還元水飴が添加されていることを特徴とし、これによって塩味増強効果を示し、良好な風味を持った低塩飲食物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
ソルビトールおよび還元水飴は糖アルコールの一種で、デンプンを酸や酵素等を用いて加水分解して得られたブドウ糖や水飴を水素添加して製造するのが一般的である。デンプンをDE80以上のブドウ糖まで分解し水素添加したものをソルビトール、DE55〜80程度の高糖化水飴に分解し水素添加したものを高糖化還元水飴と呼ぶことが多い。
【0008】
ソルビトールおよび高糖化還元水飴は甘味の立ち(甘味料を口の中に入れてから甘味がピークに達するまでの速さ)とキレ(甘味がピークに達してから甘味が消えるまでの速さ)が速く、この特有の甘味質により塩味を増強できる。特に、高糖化還元水飴は甘味の立ちとキレが速い上に、低分子糖アルコール特有の収斂味(エグ味)が無いため、高い塩味増強効果を持つ。甘味の立ちの速さが塩味の立ちを速め、強い塩味を一気に感じた後、甘味が速く切れ塩味のみが残るため、塩味が長時間持続する。甘味の立ちが遅いと塩味の立ちが緩やかになり、甘味のキレが遅いと甘味の後味が塩味を隠してしまうため、塩味がマスキングされる。
【0009】
本発明における還元水飴は、前記の一般的な製造方法以外にどのような方法で調製しても良い。例として、別に調製した2種類以上の水飴や糖類を混合した混合物を水素添加したものでも良く、また、別に調製した2種類以上の糖アルコールや還元水飴を混合したものでも良い。さらには、調製した水飴をクロマト分離等で分画したものを水素添加したものでも良く、また、調製した還元水飴を、クロマト分離等で分画したものでも良い。また、本発明に使用する高糖化還元水飴は液状でも粉末でも良い。粉末還元水飴としては、還元水飴を粉末化したものであればどのようなものでも良く、還元水飴を乾燥して得られたガラス状(アモルファス)粉末でも良く、結晶化した結晶(共晶)粉末でも良い。還元水飴の粉末化についてはどのような方法を用いても良い。
【0010】
ソルビトールは、前記の通りブドウ糖を水素添加して製造するのが一般的であるが、本発明におけるソルビトールは、どのような方法で調製しても良い。
【0011】
本発明においてソルビトールおよび/または高糖化還元水飴とは、固形分当たりの糖組成が、単糖類が30〜70重量%、二糖類が30〜70重量%、三糖類以上が25重量%以下であるものであればどのようなものでもよい。固形分あたりの単糖類が70重量%を越えると、低分子糖アルコール特有の収斂味が感じられるため、塩味増強効果が低減してしまう。また、固形分あたりの二糖類が70重量%以上、または三糖類以上が25重量%以上の場合には、甘味の立ちが遅く甘味の後引きが感じられるため、塩味増強効果が小さくなってしまう。そのため、固形分当たりの糖組成が、単糖類が30〜70重量%、二糖類が30〜70重量%、三糖類以上が25重量%以下であるものが好ましい。
【0012】
ソルビトールおよび/または高糖化還元水飴の固形分添加量が、塩化ナトリウム1重量部に対し0.1重量部未満の場合、塩味増強効果が少ないため、ソルビトールおよび/または高糖化還元水飴の固形分添加量は、塩化ナトリウム1重量部に対し0.1重量部以上が好ましい。但し、ソルビトールおよび/または高糖化還元水飴の固形分添加量が、塩化ナトリウム1重量部に対し3重量部を越えると、味に対するソルビトールおよび/または高糖化還元水飴の甘味の影響が大きくなり、塩味増強効果が少なくなるため、ソルビトールおよび/または高糖化還元水飴の固形分添加量は、塩化ナトリウム1重量部に対し3重量部以下が好ましい。
【0013】
前記高糖化還元水飴の中で、特に固形分当たりの糖組成が単糖類が40〜50重量%、二糖類が30〜55重量%、三糖類以上が20重量%以下である高糖化還元水飴を、塩化ナトリウム1重量部に対し0.25〜1.5重量部添加することにより、塩化ナトリウムの配合量を20%低減しても減塩前と同等以上の塩味を有することが出来る。
【0014】
本発明の塩味増強方法は、味噌や醤油をはじめとする調味料、そばつゆやラーメンスープや味噌汁をはじめとするつゆやスープ類、梅干やキムチや浅漬けをはじめとする漬物類、塩辛や辛子明太子をはじめとする水産加工品、ハムやソーセージをはじめとする畜肉加工品、ポテトチップスやポップコーンをはじめとするスナック菓子、ふりかけ、お茶漬けの素など、塩化ナトリウムが含まれる飲食物であればどのようなものにも適用できる。本発明の塩味増強方法により塩味が増強された飲食物には、塩化ナトリウムとソルビトールおよび/または高糖化還元水飴以外に、水や各種食品素材、食品添加物などを配合できる。
【0015】
以下、本発明の実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
水に塩化ナトリウム濃度1%、各種糖質1%(固形分量)の割合で溶解し試験溶液を調製した。糖質としてソルビトールA(固形分あたりのソルビトール含量99%)、ソルビトールB(固形分あたりのソルビトール含量65%、マルチトール含量30%)、高糖化還元水飴A(固形分あたりのソルビトール含量43%、マルチトール含量55%)、高糖化還元水飴B(固形分あたりのソルビトール含量30%、マルチトール含量65%)中糖化還元水飴(固形分あたりのマルチトール含量45%、三糖類以上含量50%)、砂糖(グラニュー糖)、トレハロース、高糖化水飴(固形分あたりのグルコース含量45%、マルトース含量45%)を使用した。調製後、パネラー10人で官能検査を行った。塩味について、糖質無添加を0点として、評点法(−3:非常に弱い、−2:弱い、−1:やや弱い、+1:やや強い、+2:強い、+3:非常に強い)にて官能検査を行ったところ、ソルビトールB、高糖化還元水飴A、高糖化還元水飴Bに塩味増強効果が見られた。
【0017】
【表1】

【実施例2】
【0018】
表2の配合にて試験溶液を調製した。高糖化還元水飴として、エスイー600(日研化成社製)を用いた。調製後、パネラー10人で官能検査を行った。塩味について、糖質無添加を0点として、評点法(−3:非常に弱い、−2:弱い、−1:やや弱い、+1:やや強い、+2:強い、+3:非常に強い)にて官能検査を行ったところ、塩化ナトリウム1重量部に対し、高糖化還元水飴0.1〜3重量部添加区に塩味増強効果が見られた。
【0019】
【表2】

【実施例3】
【0020】
表3の配合にて試験溶液を調製した。高糖化還元水飴として、エスイー600(日研化成社製)を用いた。調製後、パネラー10人で官能検査を行った。塩味について、塩化ナトリウム1.25%、糖質無添加を0点として、評点法(−3:非常に弱い、−2:弱い、−1:やや弱い、+1:やや強い、+2:強い、+3:非常に強い)にて官能検査を行った。塩化ナトリウム20%低減しても、塩化ナトリウム1重量部に対し、高糖化還元水飴0.25〜1.5重量部添加することで、減塩前と同等以上の塩味が得られた。
【0021】
【表3】

【実施例4】
【0022】
表4の配合にてふりかけを調製した。高糖化還元水飴として粉末高糖化還元水飴スイートP EM(日研化成社製)を用いた。調製後、パネラー10人で官能検査を行った。塩味について、高糖化還元水飴無添加で減塩前のもの(配合1)を0点として、評点法(−3:非常に弱い、−2:弱い、−1:やや弱い、+1:やや強い、+2:強い、+3:非常に強い)にて官能検査を行ったところ、減塩前のもの(配合1)と減塩+高糖化還元水飴添加のもの(配合3)で、ほぼ同等の塩味が得られた。
【0023】
【表4】

【実施例5】
【0024】
表5の配合にて調味味噌を調製した。高糖化還元水飴として粉末高糖化還元水飴スイートP EM(日研化成社製)を用いた。調製後、パネラー10人で官能検査を行った。塩味について、減塩前のもの(配合1)を0点として、評点法(−3:非常に弱い、−2:弱い、−1:やや弱い、+1:やや強い、+2:強い、+3:非常に強い)にて官能検査を行ったところ、減塩前のもの(配合1)と減塩+高糖化還元水飴添加のもの(配合2)で、ほぼ同等の塩味が得られた。
【0025】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0026】
塩化ナトリウムを含有する飲食物に、ソルビトールおよび/または高糖化還元水飴を添加することにより塩味増強効果を示す。この塩味増強効果により、塩分を低減しても塩味を保つことが可能となり、結果的に減塩した飲食物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ナトリウムを含有する飲食物において、固形分当たりの糖組成が、単糖類が30〜70重量%、二糖類が30〜70重量%、三糖類以上が25重量%以下であるソルビトールおよび/または高糖化還元水飴を、塩化ナトリウム1重量部に対し、固形分換算で0.1〜3重量部添加することにより、塩味を増強することを特徴とする、飲食物の塩味増強方法。
【請求項2】
塩化ナトリウムを含有する飲食物において、固形分当たりの糖組成が単糖類が40〜50重量%、二糖類が30〜55重量%、三糖類以上が20重量%以下である高糖化還元水飴を、塩化ナトリウム1重量部に対し固形分換算で0.25〜1.5重量部添加することにより、塩化ナトリウムの配合量を20%低減しても減塩前と同等以上の塩味を有することを特徴とする、飲食物の減塩方法。