説明

塩素化イソシアヌル酸錠剤

【課題】 水に接触した直後には速やかに高濃度の活性塩素を放出させることができ、高濃度の活性塩素の放出が終了した後には、引き続き低濃度の活性塩素を長時間に渡って放出させることができる塩素化イソシアヌル酸錠剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 トリクロロイソシアヌル酸およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を予め混合することなく加圧成形した錠剤であって、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層と、ジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層とから構成される塩素化イソシアヌル酸錠剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層からなる塩素化イソシアヌル酸錠剤に関するものであり、水と接触させることにより、高濃度の活性塩素を速やかに放出し、引き続いて、低濃度の活性塩素を長時間に渡って放出するという特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
塩素化イソシアヌル酸は、化学的に安定な固体の化合物であって、その取り扱いが容易であり、また水と接触させた場合には、加水分解して強力な酸化能を有する活性塩素を放出し、且つ水中における活性塩素の安定性が優れているところから、漂白剤、殺菌剤や消臭剤等の有効成分として広く使用されている。
【0003】
近年、塩素化イソシアヌル酸の用途の一つとして、台所の排水のストレーナー内に設置して使用されるヌメリ取りが注目されている。
台所流しの排水口周辺には、食べ物のかすなどが付着し、また適度な水分が存在するため、雑菌やカビ等が繁殖し、排水口周辺や排水口に接続された配管の内部にヌメリが発生する。このようなヌメリは甚だ不衛生なものであり、食中毒や悪臭の原因となるために、ヌメリの除去剤やヌメリの発生防止剤として、塩素化イソシアヌル酸の適用が検討されている。
【0004】
例えば特許文献1には、網状の包袋内にトリクロロイソシアヌル酸を主成分とする錠剤を入れ、これをストレーナーの底面に設置し、排水と接触させることにより、活性塩素を放出させて流し台の排水部を浄化する方法が提案されている。
しかしながら、トリクロロイソシアヌル酸は水に対する溶解度が低く、排水中に溶出する活性塩素の濃度が低いために、ヌメリの発生防止には優れた効果を発揮するものの、一旦付着したヌメリを除去する効果には乏しいものであった。
【0005】
上記の問題点を解決するために、特許文献2には、通水ケース(以下、アプリケーターと云う)内に、溶解度の低いトリクロロイソシアヌル酸の錠剤と溶解度の高いジクロロイソシアヌル酸ナトリウムの錠剤を、互いに接触させることなく収納したヌメリ取りが提案されている。
即ち、このヌメリ取りによれば、台所の排水と接触すると高濃度の活性塩素を速やかに放出し、引き続いて低濃度の活性塩素を長時間に渡って放出するので、ヌメリの除去および発生防止に優れた効果を発揮するものである。しかしながら、種類の異なる2個の錠剤をアプリケーターにセットすると云う手間を要し、しかも、このヌメリ取りの包装時や運搬時に2個の錠剤が擦れ合って錠剤の欠けや割れが発生する懼れがあり、2個の錠剤を接触させないようにセットするための複数の位置決め用ピンをアプリケーター内に設けなければならず、アプリケーターのコストが高くなると云う難点もあった。
【0006】
ところで、本願発明に類似する錠剤として、トリクロロイソシアヌル酸およびジクロロイシシアヌル酸アルカリ金属塩を混合し加圧成形して得られる錠剤が知られている(例えば、特許文献3〜5)。
【0007】
トリクロロイソシアヌル酸およびジクロロイソシアヌル酸ナトリウム無水物を含有する錠剤は、水に接触させると、該錠剤中に分散して含有しているジクロロイソシアヌル酸ナトリウム無水物が吸水して同水和物に変化する際に、結晶の体積が膨張して顆粒状に崩壊し水との接触面積が大きくなるので溶解速度が速くなり、トリクロロイソシアヌル酸を主成分とする錠剤に比べて、高濃度の活性塩素を放出させることができると云う特徴を有している(特許文献3、4)。
一方、トリクロロイソシアヌル酸およびジクロロイソシアヌル酸ナトリウム水和物を含有する錠剤は、水と接触させても錠剤が崩壊するには至らないものの、該錠剤中に分散して含有しているジクロロイソシアヌル酸ナトリウム水和物が、トリクロロイソシアヌル酸よりも速く溶解するために、錠剤の表面に凸凹が形成され水との接触面積が大きくなるので溶解速度が速くなり、トリクロロイソシアヌル酸を主成分とする錠剤に比べて、やや高濃度の活性塩素を放出させることができると云う特徴を有している(特許文献5)。
【0008】
しかしながら、上記の何れの錠剤もトリクロロイソシアヌル酸を主成分とする錠剤の溶解速度と、ジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を主成分とする錠剤の溶解速度との中間の溶解速度を発現させたものと云えるが、トリクロロイソシアヌル酸とジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を均一に混合して加圧成形したものであるので、トリクロロイソシアヌル酸を主成分とする錠剤が有するゆっくりとした溶解性能と、ジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を主成分とする錠剤が有する速い溶解性能を同時に発現させることができない。
【0009】
【特許文献1】特開平6−306906号公報
【特許文献2】特開平10−152698号公報
【特許文献3】特開昭51−139628号公報
【特許文献4】特開昭53−136520号公報
【特許文献5】特開平5−43407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、水に接触した直後には高濃度の活性塩素を速やかに放出させることができ、高濃度の活性塩素の放出が終了した後には、引き続き低濃度の活性塩素を長時間に渡って放出させることができる塩素化イソシアヌル酸錠剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記の課題を解決するために鋭意試験研究を重ねた結果、トリクロロイソシアヌル酸およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を予め混合することなく加圧成形した錠剤であって、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層と、ジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層とから構成される塩素化イソシアヌル酸錠剤とすることにより、所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
また、第2の発明は、リボフラビンが前記トリクロロイソシアヌル酸を含有する層および前記ジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層から選択される少なくとも1つの層に含有することを特徴とする塩素化イソシアヌル酸錠剤である。更に第3の発明は、リボフラビンが前記ジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層のみに含有することを特徴とする塩素化イソシアヌル酸錠剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の塩素化イソシアヌル酸錠剤は、トリクロロイソシアヌル酸およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を予め混合して加圧成形した錠剤とは異なって、トリクロロイソシアヌル酸およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩の各々が独立して含有する層から構成されているので、両者が本来有する溶解性能を損なうことなく、トリクロロイソシアヌル酸を主成分とする錠剤が有するゆっくりとした溶解性能と、ジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を主成分とする錠剤が有する速い溶解性能を同時に発現させることができる。
また、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層から選択される少なくとも1つの層に、リボフラビンが黄色の着色剤として含有しているので、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層の双方または一方の層が塩素をイメージする黄色に着色され、本発明錠剤が塩素系の薬剤であることを視覚的に容易に示すことができる。また、本発明錠剤の美観を高めることができる。更に、ジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層のみにリボフラビンを含有した場合には、高濃度の活性塩素を含有する溶解水が黄色に着色されるので、溶解水中の活性塩素濃度を簡易に識別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の実施において使用するトリクロロイソシアヌル酸およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩は、塩素化イソシアヌル酸に分類される化合物である。また、ジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩の代表的な例としては、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムやジクロロイソシアヌル酸カリウムが挙げられる。なお、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムおよびジクロロイソシアヌル酸カリウムには、通常の無水物とは別に、結晶水を有する水和物も知られている。これらの塩素化イソシアヌル酸は、用途に応じて、顆粒や錠剤の形状に加工されて使用されている。
【0014】
トリクロロイソシアヌル酸は、塩素化イソシアヌル酸の中でも有効塩素含有量が約90%と最も高いが、水に対する溶解度が1.2gと低く溶解速度も遅いので、長時間に渡って低濃度の活性塩素が必要とされる用途に使用されている。
一方、ジクロロイシシアヌル酸アルカリ金属塩は、有効塩素含有量が約50〜60%と低いものの、水に対する溶解度が約20〜25gと大きく、しかも溶解速度が速いので、短時間ではあるが速やかに高濃度の活性塩素が必要とされる用途に使用されている。
【0015】
本発明における錠剤とは、粉末状または顆粒状の原料を金型の中に充填し加圧(以下、打錠と云うことがある)する方法よって製造される成形物であり、工業的に製造する際には、金型(臼杵)および加圧装置から構成される公知の加圧式打錠機が好ましく使用される。
即ち、粉末状または顆粒状のトリクロロイソシアヌル酸と、同ジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を臼へ順次投入し、加圧装置を介して臼と杵との間に圧力を加えると、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層(以下、第1の層と云うことがある)とジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層(以下、第2の層と云うことがある)とが圧着されて、臼と杵とで形成される形状を有する錠剤が製造される。なお、トリクロロイソシアヌル酸とジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩の投入順序は任意で構わない。
【0016】
このような加圧式打錠機としては、一錠ずつ打錠する単発式打錠機や、複数の金型(臼杵)を回転する円盤に沿って装着し、これが1回転する間に、原料の充填、加圧成形、錠剤の取り出しと云う一連の作業を連続的に行えるロータリー式打錠機を用いることができる。
【0017】
単発式打錠機としては、例えば、RIVA社製「MINIPRESSM II」、同「PICCOLA」、菊水製作所社製堅型粉末成型機、岡田精工社製単発打錠機、富士薬品機械社製スタンディングプレス等が挙げられる。
【0018】
また、ロータリー式打錠機としては、例えば、モリマシナリー社製「ロータリープレスTRPシリーズ」、菊水製作所社製「クリーンプレスシリーズ」、同「タフプレスシリーズ」、FETTE社製「Pシリーズ」、同「PTシリーズ」、KORSCH社製「PHシリーズ」、畑鐵工所社製「Bシリーズ」等が挙げられる。
【0019】
本発明の錠剤の形状やサイズに特に限定はないが、取り扱い上の便宜を考慮して決定される。錠剤の形状としては、例えば円柱形や、立方体、直方体形等が挙げられる。円柱形の形状とした場合には、その径が5〜100mmであることが実用上好ましく、また立方体や直方体形の形状とした場合にも、同様にその長辺(直方体では最も長い辺)が5〜100mmであることが好ましい。
【0020】
本発明の錠剤を製造するに当たっては、100〜300kg/cm程度の打錠圧が好ましく、打錠圧が100kg/cmより低い場合には、成形された錠剤の強度が弱く、取り扱い時または輸送中に錠剤が崩れ易くなり、また300kg/cmより高くした場合には、錠剤を臼から取り出す際に、帽子状に剥離(キャッピング)したり、層状に剥離(ラミネーティング)する現象が発生し易くなる。
【0021】
本発明の錠剤は、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層(第1の層)と、ジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層(第2の層)に加えて、更に第3の層としてトリクロロイソシアヌル酸を含有する層を設けてもよい。また、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層を、ジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層で挟み込んだ3層構造を有する態様とすることも可能である。
【0022】
トリクロロイソシアヌル酸を含有する層の厚さと、ジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層の厚さは任意に調整可能である。両者の厚さを適宜調整することにより、本発明の錠剤中に含有するトリクロロイソシアヌル酸およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩の量を任意に設定することができ、高濃度の活性塩素を放出させる時間と、低濃度の活性塩素を放出させる時間を制御することが可能となる。
【0023】
本発明の目的が達成される限り、トリクロロイソシアヌル酸およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩以外の薬剤を併用することができる。
本発明の実施においては、洗浄効果を高めるために界面活性剤を使用してもよい。界面活性剤は、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層の両者、或いは其のどちらか一方に含有させることができる。
また、増量剤(賦形剤)と共に界面活性剤を含有する層を、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層と、ジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層とは別に設ける構成としてもよい。なお、増量剤としては、芒硝、食塩の他、アルカリ金属の珪酸塩、炭酸塩、燐酸塩、硫酸塩等が挙げられる。
【0024】
前記の界面活性剤としては、従来知られた陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤および両性イオン系界面活性剤を任意に採用することができる。
【0025】
陰イオン系界面活性剤としては、例えば、脂肪族モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N−アルシルサルコシン塩、N−アシルグルタミン酸塩等のカルボン酸型陰イオン系界面活性剤、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル(分岐型)ベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩−ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩、N−メチル−N−アシルタウリン塩等のスルホン酸型陰イオン系界面活性剤、アルキル硫酸エステル塩(アルキル硫酸塩)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、油脂硫酸エステル塩(硫酸化油)/ヒマシ油硫酸化油(ロート油)等の硫酸エステル型陰イオン系界面活性剤、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩等のリン酸エステル型陰イオン系界面活性剤などが挙げられる。
【0026】
非イオン系界面活性剤としては、例えば、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、しょ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0027】
陽イオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウムクロリド、アルキルトリエチルアンモニウムクロリド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド、アルキルピリジニウムクロリド等の第四級アンモニウム塩型の陽イオン系界面活性剤が挙げられる。
【0028】
両性イオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルカルボキシベタイン、アルキルスルホキシベタイン、アルキルアミドヒドロキシスルホベタイン、アルキルアミドアミン型ベタイン、アルキルイミダゾリン型ベタイン等が挙げられる。
【0029】
界面活性剤を使用する場合には、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層の各々に、0.001〜1重量%程度の割合で含有していることが好ましい。界面活性剤を併用することにより、活性塩素が、汚れ例えばヌメリの内部に侵入し易くなり、ヌメリの剥離効果を向上させる。
【0030】
本発明の錠剤の成形性を高めるために、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層に、結合剤や滑沢剤を0.1〜5重量%程度の割合で含有させることができる。成形性を高めることによって、錠剤の製造時や運送時に発生する錠剤の欠けや割れを防止することができる。
【0031】
結合剤としては、固形粒子を結合する機能を有し、好ましくは水溶性のものであれば特に限定されないが、例えばカルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デキストリン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアルキレングリコール、リグニンスルホン酸塩、アラビアゴム、デンプン類、ショ糖などが挙げられる。
【0032】
滑沢剤としては、固形粒子の流動性、充填性、付着性を改善する機能を有するものであれば特に限定されないが、例えばステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、オルトほう酸、タルク等が挙げられる。
【0033】
上記以外の錠剤の成形性を高める方法としては、予め造粒されている塩素化イソシアヌル酸を使用する手段も挙げられ、またジクロロイソシアヌル酸ナトリウム無水物の加圧成形性を良好なものとするために、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、安息香酸等の結晶性有機カルボン酸を、予めジクロロイソシアヌル酸ナトリウム無水物に配合しておく手段も有効である。
【0034】
本発明の錠剤の溶解性を高めるために、ジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層に、発泡剤や崩壊剤を含有させることができる。
【0035】
発泡剤は、酸性物質およびアルカリ性物質の組合せからなり、水と接触すると両者が反応してガスを発生するので、錠剤の崩壊性を高めることができる。前記の酸性物質としては、例えばクエン酸、酒石酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、アジピン酸等の有機酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素アンモニウム、硫酸水素カリウム等の水素塩、カリミョウバン、アンモニウムミョウバン等のミョウバン類などが挙げられる。
また、アルカリ性物質としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸アンモニウム等の炭酸塩、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム等の重炭酸塩、過炭酸ナトリウムのような過炭酸塩等が挙げられる。
【0036】
崩壊剤は、水と接触すると吸水して膨潤するので錠剤を崩壊させることができ、例えばカルボキシメチルセルロースカルシウム、架橋ポリビニルピロリドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
なお前述したデンプンは、結合剤としても機能するが、崩壊剤としての機能も有している。また、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム無水物が崩壊剤として機能する点については、前述のとおりである。
【0037】
本発明の塩素化イソシアヌル酸錠剤を使用した場合には、活性塩素を含有する排水が発生するので、排水が流れる配管の金属部が腐食する懼れがある。これを防止するために、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層及び又はジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層に、防錆剤を含有させることができる。
【0038】
防錆剤としては、従来知られた亜硝酸塩、珪酸塩、ポリリン酸塩等の無機系腐食抑制剤や、カルボン酸、金属石鹸、スルホン酸、アミン、エステル、リン酸エステル等の有機系腐食抑制剤、またEDTA、グルコン酸、ニトリロトリ酢酸等のキレート化合物等が挙げられ、これらの防錆剤を適宜量使用することにより、金属の腐食を抑制することができる。
【0039】
本発明の錠剤を着色あるいは賦香するために、従来知られた染料、顔料あるいは香料を錠剤に含有させることができる。この場合、トリクロロイソシアヌル酸やジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩と接触させることを避けるために、増量剤(賦形剤)と共に染料、顔料あるいは香料を含有する層を、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層とは別に設ける構成としてもよい。
【0040】
なお、本発明においては、錠剤を着色するためにリボフラビンを使用した。リボフラビンは、本発明の出願人が特願2005−264173において、耐酸化性に優れた黄色の着色剤として提案した化合物であるが、所望の着色度合いに応じて0.01〜5重量%の割合で、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層から選択される少なくとも1つの層に含有させればよい。
トリクロロイソシアヌル酸を含有する層およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層の両者にリボフラビンを含有させる場合には、両者の層内に含有するリボフラビンの含有割合が同じであっても構わないが、異なった含有割合とすることにより着色度合いを変えることができるので、錠剤の美観を一層高めることができる他、錠剤を構成するトリクロロイソシアヌル酸を含有する層とジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層を識別することも可能となる。なお、リボフラビンに係る薬剤コストを削減するためには、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層またはジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層のどちらか一方にリボフラビンを含有させればよい。
【0041】
リボフラビンの含有量が0.01重量%よりも少ない場合には、着色の度合いが十分ではなく、また、5重量%よりも多くしても着色の度合いに大きな変化はなく、リボフラビンに係る薬剤コストが嵩むばかりである。
【0042】
本発明の錠剤は、トリクロロイソシアヌル酸およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を予め混合して加圧成形した錠剤とは異なって、トリクロロイソシアヌル酸およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩の両者が各々独立した層を形成しているので、トリクロロイソシアヌル酸およびジクロロイソシアヌル酸金属塩が本来有する溶解性能を独立して発揮させることができる。
即ち、本発明の錠剤を水に接触させた場合には、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層と、ジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層が同時に溶解を開始し、ジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層の溶解が先ず完了するが、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層は引き続き溶解中であり、活性塩素の放出は継続される。
【0043】
台所流しや風呂場の排水口周辺には、食べ物のかすや湯垢などが付着し、また適度な水分が存在するため、雑菌やカビ等が繁殖し、排水口周辺や排水口に接続された配管内部にヌメリが発生する。ヌメリは、雑菌やカビ等の微生物と、それらが繁殖する際に出すヌルヌルした粘着物の集合体であり、このようなヌメリを除去するためには、ヌメリに高濃度の活性塩素を接触させて、ヌメリ中に棲息する微生物を殺滅することが有効である。一方、ヌメリの発生を防止するためには、ヌメリが発生する場所に低濃度の活性塩素が存在していれば十分である。
本発明の錠剤を、台所流しや風呂場の排水口周辺に設置することにより、排水中に高濃度の活性塩素を速やかに放出し、引き続いて、低濃度の活性塩素を長時間に渡って放出することができるので、排水が流れる排水口周辺や排水口に接続された配管内部のヌメリの除去やヌメリの発生を防止することができる。
本発明の錠剤は、ヌメリの除去および発生防止のために使用される流し台・排水口等の台所用除菌洗浄剤や、浴槽・排水口等の風呂場用除菌洗浄剤として好適なものである。また、これに類する用途として、便器の尿石の除去や付着防止効果を目的とした洗浄剤としても好適に使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例に使用した原料薬剤ならびに評価試験方法は、次の通りである。
【0045】
[原料薬剤]
・トリクロロイソシアヌル酸(四国化成工業社製、「ネオクロール−90」、顆粒品、有効塩素含有量:約90%)
・ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム無水物(四国化成工業社製、「ネオクロール−60」、顆粒品、有効塩素含有量:約60%)
・ジクロロイソシアヌイル酸ナトリウム二水和物(四国化成工業社製、「ネオクロール−55」、顆粒品、有効塩素含有量:約55%)
・コハク酸(和光純薬工業社製、試薬)
・フマル酸(和光純薬工業社製、試薬)
・リボフラビン(和光純薬工業社製、試薬)
【0046】
[溶解性試験]
樹脂製の箱形容器の底部に、高さ20mmの仕切り(堰)を設置して溶解槽を形成し、該溶解槽の上流側から連続的に水を供給し、下流側の堰から溢れ出た水を抜き取り可能とした溶解試験器を用意した(図1の写真参照)。
前記の溶解槽の底に錠剤1個を置き、25℃の水を500mL/分の流量で溶解槽に供給して、堰から溢れ出た水を10分間隔で採取し、この水に含有する活性塩素の濃度をハイポ滴定法により測定して錠剤の溶解性を評価した。
【0047】
[保存安定性試験]
容量1Lのプラスチック製瓶に錠剤1個を入れ、密封した状態で40℃、75%R.Hに設定した恒温恒湿器中に7日間保存し、ガス検知管(ガステック社製、型番:No.8)を用いて、前記プラスチック製瓶内の空間部の塩素ガスおよびクロラミンガス濃度(単位:mg/L)を定期的に測定した。プラスチック製瓶内の塩素ガスおよびクロラミンガス濃度が低い程、錠剤の分解が抑制され保存安定性に優れているものと判定した。
【0048】
〔実施例1〕
ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム二水和物と、リボフラビンを混合して、リボフラビンを0.1重量%含有するジクロロイソシアヌル酸ナトリウム二水和物を調製した。
先ず、トリクロロイソシアヌル酸5gを臼の中に投入し、臼を振盪させて、臼の内部にトリクロロイソシアヌル酸を均一に充填した。引き続き、予め調製しておいたリボフラビンを含有するジクロロイソシアヌル酸ナトリウム二水和物3gを投入し、再度臼を振盪させた。
次いで、この臼と対になる杵を加圧装置にセットして、トリクロロイソシアヌル酸とジクロロイソシアヌル酸ナトリウム二水和物を圧力200kg/cmにて打錠し、円柱形の錠剤(直径20mm、厚さ12mm、重量8g)を作製した。
得られた錠剤の外観を目視にて観察したところ、錠剤の上部には黄色に着色されたジクロロイソシアヌル酸ナトリウム二水和物の層が明瞭に形成されており、この錠剤が、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層とジクロロイソシアヌル酸ナトリウム二水和物を含有する層の2層から構成されているものと認められた(図2の写真参照)。
また、この錠剤を用いて溶解試験を実施したところ、その試験結果は図4の折れ線グラフに示した通りであった。また、溶解開始後の経過時間と共に錠剤の形状が変化する様子を図3の写真に示した。
【0049】
〔実施例2〕
前記のリボフラビンを含有するジクロロイソシアヌル酸ナトリウム二水和物を5g使用した以外は、実施例1と同様にして、錠剤(直径20mm、厚さ15mm、重量10g)を作製した。
得られた錠剤の外観を目視にて観察したところ、実施例1と同様に、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層とジクロロイソシアヌル酸ナトリウム二水和物を含有する層の2層から構成されているものと認められた。
また、この錠剤を用いて溶解試験を実施したところ、その試験結果は図4の折れ線グラフに示した通りであった。
【0050】
〔実施例3〕
トリクロロイソシアヌル酸1gと、前記のリボフラビンを含有するジクロロイソシアヌル酸ナトリウム二水和物を1g使用して、小型の臼杵に変更した以外は、実施例1と同様にして、錠剤(直径10mm、厚さ6mm、重量2g)を作製した。
得られた錠剤の外観について、実施例1と同様にして目視にて観察したところ、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層とジクロロイソシアヌル酸ナトリウム二水和物を含有する層の2層から構成されているものと認められた。
また、この錠剤について保存安定性試験を実施したところ、その試験結果は表1に示した通りであった。
【0051】
〔実施例4〕
ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム無水物50重量部、コハク酸30重量部、フマル酸20重量部およびリボフラビン0.1重量部を混合して、リボフラビンを0.1重量%含有するジクロロイソシアヌル酸ナトリウム組成物を調製した。
前記のリボフラビンを含有するジクロロイソシアヌル酸ナトリウム二水和物の代わりに、このジクロロイソシアヌル酸ナトリウム組成物1gを使用した以外は、実施例3と同様にして、錠剤(直径10mm、厚さ6mm、重量2g)を作製した。
得られた錠剤の外観を目視にて観察したところ、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層とジクロロイソシアヌル酸ナトリウム無水物を含有する層の2層から構成されているものと認められた。
また、この錠剤について保存安定性試験を実施したところ、その試験結果は表1に示した通りであった。
【0052】
〔比較例1〕
トリクロロイソシアヌル酸1gとジクロロイソシアヌル酸ナトリウム二水和物1gを混合し、この混合物を実施例3の臼杵を用いて、圧力200Kg/cmにて打錠し、直径10mmの錠剤を作製した。得られた錠剤について保存安定性試験を実施したところ、その試験結果は表1に示した通りであった。
【0053】
【表1】

【0054】
図4の折れ線グラフに示した溶解試験の結果によれば、実施例1および実施例2の場合に共通して、錠剤と水が接触した直後から、水中に溶出した活性塩素の濃度が急速に上昇し始め、その後緩やかに変化しつつ、次いで濃度上昇時とは逆に、活性塩素の濃度が急速に低下した。そして、活性塩素の濃度低下が落ち着いた後は、2〜3mg/Lの濃度でほぼ一定した。
このような濃度変化は、図3の写真(実施例1)に示されるとおり、錠剤の形状変化の様子ともよく一致している。
【0055】
表1に示した保存安定性試験の結果によれば、本発明の錠剤の保存安定性は、比較例の錠剤に比べて顕著に優れている。即ち、トリクロロイソシアヌル酸とジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが均一に混合された状態の錠剤(比較例1)は、トリクロロイソシアヌル酸とジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが各々独立した層を有する本発明の錠剤(実施例3、4)に比べて、塩素ガスやクロラミンガスの発生量が多くなっている。この理由は、トリクロロイソシアヌル酸とジクロロイソシアヌル酸ナトリウムの接触の度合い起因するものと思われ、本発明の錠剤においては、トリクロロイソシアヌル酸とジクロロイソシアヌル酸ナトリウムの接触部が、両者の各々を含有する層間に限定されているためと推定される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例1および2において用いた溶解試験器を示す写真
【図2】実施例1において作製した錠剤を示す写真
【図3】実施例1において、時間と共に錠剤の形状が変化する様子を示す写真
【図4】実施例1および2の錠剤の溶解試験データを示す折れ線グラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリクロロイソシアヌル酸およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を予め混合することなく加圧成形した錠剤であって、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層と、ジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層とから構成される塩素化イソシアヌル酸錠剤。
【請求項2】
トリクロロイソシアヌル酸およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を予め混合することなく加圧成形した錠剤であって、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層と、ジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層とから構成され、リボフラビンがトリクロロイソシアヌル酸を含有する層およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層から選択される少なくとも1つの層に含有することを特徴とする塩素化イソシアヌル酸錠剤。
【請求項3】
トリクロロイソシアヌル酸およびジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を予め混合することなく加圧成形した錠剤であって、トリクロロイソシアヌル酸を含有する層と、ジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層とから構成され、リボフラビンがジクロロイソシアヌル酸アルカリ金属塩を含有する層のみに含有することを特徴とする塩素化イソシアヌル酸錠剤。


【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−189560(P2008−189560A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23017(P2007−23017)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(000180302)四国化成工業株式会社 (167)
【Fターム(参考)】