説明

増大したクチクラの水透過性を有する植物を作製するための単離されたポリペプチドおよびこのポリペプチドをコードするポリヌクレオチド

単離されたポリヌクレオチドが提供される。配列番号22に対して少なくとも88%相同的であるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドであって、このポリペプチドは、このポリペプチドを発現する植物のクチクラの水透過性を増大させることができる。また、脱水された植物またはそのクチクラで覆われた部分を作成するために使用されることができる、このようなポリペプチドを発現する植物を産生する方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のポリヌクレオチドおよびポリペプチドに関連し、これらのポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、これらのポリヌクレオチドおよびポリペプチドを発現する植物のクチクラの水透過性を増大させるためのものである。より具体的には、本発明は、脱水した果実(例えば、トマトなど)を製造することができる遺伝子改変植物に関連する。
【背景技術】
【0002】
高等植物の地上部はクチクラの連続した細胞外層により覆われる。クチクラは、クチンモノマー(主に短鎖のヒドロキシル化脂肪酸)および様々な量のクチクラワックス(溶媒可溶性脂質)から大部分が構成されるポリマーマトリックスである。クチン成分およびワックス成分はともに、量および組成が種々の植物種および植物器官の間で異なる(Holloway、1982)。植物クチクラの成分および構造ならびにその生合成の生物学的調節および遺伝子的調節が広範囲に研究されている(Kolattukudy、1980;Koornneef他、1989;BleeおよびSchuber、1993;Arts他、1996;Negruk他、1996;Millar他、1997;Todd他、1999;Yaphremov他、1999;Flebig他、2000;Pruitt他、2000;Wellesen他、2001;Hooker他、2002;Chen他、2003;KunsおよびSamuels、2003;Kurata他、2003;Aharoni他、2004;Schnurr他、2004)が、クチクラの分化および/または機能を制御する機構は特徴づけされていないままである。
【0003】
トマト果実のクチクラは、2つの特徴的な構造的性質を有する、4ミクロン〜10ミクロンの厚さの薄い層である(WilsonおよびSterling、1976)。第1に、クチン堆積物が層状構造で配置される。すなわち、層が表皮細胞に平行して組み立てられる。トマト果実のクチクラの第2の性質は、クチクラが、気孔、細孔または流路を何ら含有しないことである。結果として、トマトの皮の水透過性は非常に低く、完全に熟したトマトの果実はその水分含有量を保持する。気孔を有しない(気孔のない)数多くの他のクチクラの水透過性、および、クチクラを横断する水輸送の機構は、これまで無数の研究の対象であった(Schoenherr、1976a;SchoenherrおよびSchmidt、1979;RiedererおよびSchreiber、2001)。明らかに、クチン成分およびワックス成分の両方が、器官からの水分喪失に対する統合された作用を有する。いくつかの場合において、クチクラ層の厚さが、クチクラ膜を横断する水の拡散に対して逆比例している(Lownds他、1993)。しかしながら、しばしば、クチクラのワックス成分が、植物の水透過性に影響を及ぼすことにおいて主たる要因である。例えば、トマト果実のクチクラから有機溶媒によってクチクラ表面のワックス層を除くと、植物の急速な脱水によって明白になるように、クチクラの水透過性が300倍から500倍増大した(Schoenherr、1976b)。トマトの果実における蒸散バリアとしてのクチクラのワックスの役割についてのさらなる証拠が、酵素の超長鎖脂肪酸(VLFA)β−ケトアシル−CoAシンターゼをコードする近年報告された遺伝子である(LeCER6、Vogg他、2004)。この遺伝子は、果実のクチクラのワックスにおける主要成分であるVLFAの合成において重要な役割を果たしている。この遺伝子における機能喪失変異は、葉および果実の両方のワックスにおいて、鎖の長さがC30を超えるn−アルカンおよびアルデヒドの減少を生じさせた。そのようなLeCER6変異を有するトマトの果実は、水透過性における4倍の増大を伴って特徴づけされた。トマト果実のクチクラの水透過性に影響を及ぼす別の要因は、クチクラ表面における亀裂形成の存在である。果実の亀裂形成が研究の関心を多く集めている(Cotner他、1969;Voisey他、1970;peet、1992;peetおよびwillits、1995)。トマトの果実は3つの大きなタイプの亀裂形成によって影響を受ける:i)同心状の亀裂形成(粗い亀裂形成);ii)放射状の亀裂形成(分裂);およびiii)クチクラの亀裂形成(褐斑)(Bakker、1988)。最初の2つのタイプの亀裂形成は、果実の果皮を突き抜ける深い広範囲にわたる裂溝であり、水分喪失に加えて、病原体の侵入および果実の腐朽をも許す。
【0004】
放射状または同心状の亀裂形成とは異なり、クチクラの亀裂は、クチクラに一般に限定され、かつ、果皮細胞に侵入しないクチクラの表面的な微細な裂溝である。トマトにおいてクチクラの亀裂形成を生じさせる原因および環境はほとんどが不明であり、クチクラ層の厚さ(EmmonsおよびScott、1998)、下層の表皮細胞の形状(Conter他、1969;EmmonsおよびScott、1998)、果実の形状(ConsidineおよびBrown、1981)、果実のサイズ(Koske他、1980;EmmonsおよびScott、1997)、果実の周りの相対的湿度(Young、1947;Tukey、1959)、葉の強い刈り込み(Ehret他、1993)、ならびに、表皮の引張り強度および伸長性(Bakker、1988)に関係づけられる場合がある。
【0005】
トマトの果実における亀裂の発生はまた、トマト属(Lycopersicon)の野生種からの遺伝子移動のときに主に発現する大きな遺伝的成分を有する。Fulton他(2000)は形質「表皮網状化」(Er)を記載し、また、(野生型L.parviflorumとの)改良された戻し交配QTL分析法を使用して、そのような形質に影響を及ぼす4つのQTLを報告した。クチクラの亀裂はまた、トマト(L.esculentum)と他の野生種(例えば、L.hirsutum(WO0113708)およびL.pennellii(Monforte他、2001)など)との交配に由来するトマト属の果実でも報告されている。
【0006】
裂溝に沿ったコルク質化した被膜の発達(Monforte他、2001)による果実のクチクラにおける亀裂(特に、表皮の網状化として視覚的に明白になる極端な亀裂)は、果実の水分含有量の喪失のためだけでなく、果実の価値を低下させる審美的損傷のために、負の現象であると一般に見なされている(Tukey、1959)。しかしながら、丸ごとのまま、また、依然としてつるに付いたまま脱水する果実の経済的可能性は高い。脱水トマト製造物がトマト産業の重要な部分をなしている。トマトペースト、トマトケチャップおよび他の加工トマト製造物の製造は、脱水という、エネルギーを必要とする工程に依存している。加えて、「日干し」トマトの果実は、切ったトマトの果実を日光または乾燥オーブンのいずれかで脱水することからなる乾燥プロセスで調製される。日干しおよびオーブン乾燥はともに食品品質の低下を生じさせ得る。例えば、アスコルビン酸(ヒトの食事におけるトマトの主要な栄養学的寄与物の1つ)のレベルが、日干しまたはオーブン乾燥に応じて著しく低下する(Ojimelukwe、1994)。さらに、トマトの果実を乾燥プロセスの前に半分にする必要があることにより、丸ごとの乾燥したトマト果実の製造ができない。
【0007】
本発明者らは、古典的な遺伝学的育種技術を使用して水分含有量が低下している脱水トマトを以前に記載している(国際特許出願公開WO01/13708)。古典的な遺伝学的育種技術は、種内の遺伝子移動、または、同じ属の近縁種の間での遺伝子移動に限定されることが理解される。また、古典的育種は、目的とする遺伝子に密接に連鎖する他の望ましくない遺伝子を含む比較的大きな遺伝子移入によって特徴づけられる。
【0008】
遺伝子移入された栽培トマト植物がEshedおよびZamir(1985)によって以前に記載されており、これは、望ましくない形質に関連し得る遺伝的背景(遺伝子移入系統IL4−4、すなわち、テロメアマーカーTG464からセントロメアマーカーCT50にまで広がる遺伝子移入(約20cM)から得られる)を有する。同様に、Monforte他(2001)は、L.hirsutumに由来する類似した遺伝的背景[ほぼ近い遺伝子移入系統のTA1468、TA1469、TA1476、これらはTG464からCT173(両者を含む)にまで及ぶ(約10cM)]を有し、かつ、望ましくない作用を含めて数多くの作用を呈するトマト植物を記載している。
【0009】
従って、上記の制限を有しない、増大したクチクラの水透過性を有する遺伝子改変植物が求められていることが広く認識されており、また、そのような遺伝子改変植物を有することは非常に好都合である。
【発明の開示】
【0010】
本発明の1つの態様によれば、配列番号22に対して少なくとも88%相同的であるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドが提供され、この場合、このポリペプチドは、このポリペプチドを発現する植物のクチクラの水透過性を増大させることができる。
【0011】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、核酸配列は配列番号21または配列番号23に示される通りである。
【0012】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、アミノ酸配列は配列番号22に示される通りである。
【0013】
本発明の別の態様によれば、単離されたポリヌクレオチドを含む核酸構築物が提供される。
【0014】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、核酸構築物はさらに、核酸配列に機能的に連結されたプロモーターを含む。
【0015】
本発明の別の態様によれば、核酸構築物を含む宿主細胞が提供される。
【0016】
本発明の別の態様によれば、単離されたポリヌクレオチド含む遺伝子改変植物が提供される。
【0017】
本発明の別の態様によれば、単離されたポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイゼーションすることができるオリゴヌクレオチドが提供される。
【0018】
本発明の別の態様によれば、配列番号22に対して少なくとも88%相同的であるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドが提供され、この場合、このポリペプチドは、このポリペプチドを発現する植物のクチクラの水透過性を増大させることができる。
【0019】
本発明のさらに別の態様によれば、単離されたポリペプチドを特異的に認識することができる抗体が提供される。
【0020】
本発明のさらに別の態様によれば、野生のLycopersicon spp.に由来する遺伝子移入を含むゲノムを有する栽培トマト植物が提供され、この場合、遺伝子移入は、テロメアマーカーTG464からセントロメアマーカーCT173にまで広がる染色体部分よりも小さい、このLycopersicon spp.の第4染色体の一部を含み、かつ、栽培トマト植物のクチクラの水透過性を増大させることができる。
【0021】
本発明のさらに別の態様によれば、作物植物の脱水した果実を製造する方法が提供され、この場合、この方法は、配列番号22に対して少なくとも30%相同的であるアミノ酸配列を有するポリペプチド(このポリペプチドは、このポリペプチドを発現する植物のクチクラの水透過性を増大させることができる)を発現するように植物を遺伝子改変することを含む。
【0022】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、この方法は、果実を植物につけたまま脱水させること、および、続いて、脱水した果実を集めることをさらに含む。
【0023】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、この方法はさらに、作物植物からの果実をその脱水の前に取り除くこと、および、続いて、果実を脱水させることを含む。
【0024】
本発明のさらなる態様によれば、配列番号22に対して少なくとも30%相同的であるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドを含む遺伝子改変された種子が提供され、この場合、このポリペプチドは、このポリペプチドを発現する植物のクチクラの水透過性を増大させることができる。
【0025】
本発明のさらにさらなる態様によれば、配列番号22に対して少なくとも30%相同的であるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドを含む遺伝子改変された果実が提供され、この場合、このポリペプチドは、このポリペプチドを発現する植物のクチクラの水透過性を増大させることができる。
【0026】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、核酸配列は、配列番号21、配列番号23、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号48、配列番号50、配列番号52、配列番号54または配列番号56に示される通りである。
【0027】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらにさらなる特徴によれば、アミノ酸配列は、配列番号22、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号53、配列番号55または配列番号57に示される通りである。
【0028】
本発明のなおさらにさらなる態様によれば、配列番号22に対して少なくとも30%相同的であるアミノ酸配列を有するポリペプチドを発現する遺伝子改変された植物が提供され、この場合、このポリペプチドは、この植物のクチクラの水透過性を増大させることができる。
【0029】
本発明は、植物中で発現されてその植物のクチクラの水透過性を増大させるためのポリヌクレオチドおよびポリペプチドを提供することによって、また、脱水した果実を製造するための遺伝子改変植物を提供することによって、現在知られている形態の欠点に対処することに成功している。
【0030】
別途定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載される方法および材料と類似または同等である方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、好適な方法および材料が下記に記載される。矛盾する場合には、定義を含めて、本特許明細書が優先する。加えて、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定であることは意図されない。
【0031】
図面の簡単な記述
本明細書では本発明を単に例示し図面を参照して説明する。特に詳細に図面を参照して、示されている詳細が例示として本発明の好ましい実施態様を例示考察することだけを目的としており、本発明の原理や概念の側面の最も有用でかつ容易に理解される説明であると考えられるものを提供するために提示していることを強調するものである。この点について、本発明を基本的に理解するのに必要である以上に詳細に本発明の構造の詳細は示さないが、図面について行う説明によって本発明のいくつもの形態を実施する方法は当業者には明らかになるであろう。
図1a〜bは、集団2148(図1a)および集団2149(図1b)における脱水速度に対するcwp(PUT)遺伝子型の影響を示すグラフである。集団2148では、脱水形質は完全に優性な形質として挙動し、一方、2149では、脱水形質は部分的に優勢な形質として挙動する。果実を、赤く熟したときに摘み取り、周囲温度で脱水させ、ほぼ毎日の間隔で重量測定した。データがLog%重量として表される。上付きのHH、HEおよびEEは分離植物の遺伝子型を示す。
図2a〜cは、CWP遺伝子の詳細なマッピングを示す(図2a〜図2c)。図2a−TG464分子マーカーのCAPSマーカー分析。ゲノムDNAを、脱水速度について分離する20個のF個体から抽出した。PCR分析を、2つの親種の間で多型を示すTG464マーカーについての適切なプライマーを使用して行った。PCR生成物をHinF1エンドヌクレアーゼ制限部位酵素により切断し、2%アガロースゲルで電気泳動した。+または−の記号は微細裂溝および脱水条件の存在または非存在を示す。E−L.esculentum。H−L.hirsutum。M−HindIII/EcorIのラムダマーカー(Fermentas、カタログNo.SM0191)。図2b−セントロメアの位置に対して向けられたCWPの染色体領域の遺伝子連鎖マップ(cM単位)。Lycopersicon pennellii遺伝子移入系統のIL4.3およびIL4.4(EshedおよびZamir、1995)が示される。斜線付き棒は、この分析において脱水性のドナー親として使用された準同質遺伝子系統におけるL.hirsutumセグメントを表す。図2c−Cwp遺伝子に隣接する染色体セグメントの拡大。
図3a〜bは、CWP遺伝子の物理的配置を示す(図3a〜図3b)。図3a−CT61およびTG464のCAPSマーカーの間での橋渡しをもたらす遺伝子配列させた連続するBAC、ならびに、組換え体の表現型分析および配列決定されたBAC末端の多型による組換え体の特徴づけ。それぞれの組換え体の遺伝子型が、斜線部セグメント(L.hirsutum遺伝子型)および空白部セグメント(L.esculentum表現型)に分割された棒によって表される。図3b−BAC37B8における3つの交差事象の拡大。これら3つの交差事象は、図3aに示される最初の3つの組換え体の交差事象である。
図4は、Cwp遺伝子を含むL.hirsutum由来の15kbの遺伝子移入を例示する。この配列を、NCBIプログラムのTBLASTを使用して相同的なオープンリーディングフレームについて分析した。3つの相同的な配列が特定され、それらのオープンリーディングフレームのそれぞれの方向が矢印によって示される。
図5a〜bは、トマトの発達中の子房および小果実におけるPUT遺伝子(図5a)およびDBP遺伝子(図5b)の発現分析を示すグラフである。発現を、オンライン定量的PCRを使用して方法の節に記載されるように、抽出されたcDNAについて測定した。発現が各サンプルにおけるアクチン遺伝子の発現に対して表される。Ov、子房;開花後5日および15日;IG、未成熟な緑色物;MG、成熟した緑色物;B、破砕段階。斜線付き棒はCwpHH遺伝子型であり、黒塗り棒はCwpEE遺伝子型である。
図6は、トマト遺伝子型の15日目の小果実におけるPUT遺伝子の発現分析を示すグラフである。HH、CwpHH遺伝子型;HE、ヘテロ接合のCwpHE遺伝子型;EE、CwpEE遺伝子型。これら3つの遺伝子型を、分離しているヘテロ接合集団から選択した。IL4.4は、PUTのL.pennelliiホモログを含有するL.pennellii遺伝子移入系統IL4.4(EshedおよびZamir、1985)を表す。M82は、IL4.4の再び現れたL.esculentum親である。
図7a〜bは、野生トマト種のSolanum habrochaites S.(以前は、Lycopersicon hirsutum Mill.)に由来するPUT遺伝子を35S構成的プロモーター下で発現するトランスジェニックトマト植物(T)を示す(図7a〜図7b)。図7aは、野生型MP1トマト系統(W.T.)果実の無傷の表面、および、微細裂溝を有するトランスジェニック体の果実(Mp1−4)を表す双眼写真を示す。図7bは、野生型MP1トマト系統(W.T.)と、別の独立したトランスジェニックT植物(MP1−1)との間での乾燥速度の比較を示す。果実を、成熟した赤い発達段階で摘み取り、室温(15℃〜25℃)で置いた。写真は、実験開始(T)から、乾燥の7日後(T)である。
図8a〜bは、果実の微細裂溝の重篤性(1〜5のスケール、図8a)および重量減少割合(室温で14日後、図8b)に対するPUT導入遺伝子コピー数の影響を示す。測定値を2つの独立したトランスジェニック(T)分離集団から集めた(各集団から16個の個体)。それぞれのグラフは、平均(それぞれのひし形の中央における水平線)、95%の信頼限界(ひし形の垂直端)、および、それぞれのコピー数群からの個体の散乱程度を示す。1つの群の三角形の底辺がそれ以外の群の三角形の底辺に一致しないとき、群間の差は有意である。統計学はJMPプログラムによって行われた。
図9a〜bは、コピー体を発現しないトランスジェニックトマト個体(T世代)(これは野生型に類似する)と、野生トマト種のSolanum habrochaites S.に由来するPUT遺伝子の2コピーを発現するトランスジェニックトマト個体(T世代)との比較を示す(図9a〜図9b)。図9a−PUT遺伝子のコピー体を有しない個体(0コピー)に由来する果実の無傷の表面、および、2コピーの導入遺伝子を有する個体の非微細裂溝の果実を表す走査電子顕微鏡写真。図9b−PUT遺伝子のコピー体を有しない個体(0コピー)と、2コピーの導入遺伝子を有する個体(2コピー)との間での乾燥速度の比較。果実を、成熟した赤い発達段階で摘み取り、室温(15℃〜25℃)で置いた。写真は、実験開始(T)から、乾燥の7日後(T)である。
図10a〜bは、CWP1およびCWP2、ならびに、単子葉植物種および双子葉植物種に由来する関連した配列(配列番号21、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号48、配列番号50、配列番号52、配列番号54および配列番号56)の保存を示す系統樹である(図10a〜図10b)。これらの配列を、CWP1に対する配列相同性に基づいて、EST TIGRデータベースから検索した。CWP1に対するパーセント相同性が上部に示される。図10a−アミノ酸レベルでの保存。図10b−核酸レベルでの保存。
図11は、EMBL−EBIのClustalWソフトウエアによって作製された本発明のCWP1ファミリーの種々のタンパク質メンバーの間での多重アラインメントを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明は、植物のクチクラの水透過性を増大させるために使用することができる単離されたポリヌクレオチドおよびポリペプチドに関する。具体的には、本発明は、脱水した果実果実(例えば、トマトの果実など)を製造するために使用することができる。
【0033】
本発明の原理および作用は、図面および付随する説明を参照してより十分に理解されることができる。
【0034】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳しく説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明において示される細部、または、実施例によって例示される細部に限定されないことを理解しなければならない。本発明は他の実施形態が可能であり、または、様々な方法で実施または実行される。また、本明細書中で用いられる表現法および用語法は記述のためであって、限定であると見なしてはならないことを理解しなければならない。
【0035】
果実の劣化を生じさせる分解プロセスを伴うことなく、依然としてつるについたまま、自然に脱水することが可能なトマト品種の開発は、多くの果実産業(例えば、トマト産業など)にとって非常に有益である。
【0036】
PCT国際特許出願公開WO01/13708(Schaffer)は、クチクラの水分含有量が低下している脱水トマトを、古典的な遺伝学的育種技術を使用して作製することを教示する(WO01/13708)。古典的な遺伝学的育種技術は種内の遺伝子移動または同じ属の近縁種の間での遺伝子移動に制限されることが理解される。また、古典的育種は、目的とする遺伝子に密接に連鎖する他の望ましくない遺伝子を含む比較的大きい遺伝子移入によって特徴づけられる。
【0037】
遺伝子移入された栽培トマト植物がEshedおよびZamir(1985)によって以前に記載されており、これは、望ましくない形質を伴い得る遺伝的背景(遺伝子移入系統IL4−4、すなわち、テロメアマーカーTG464からセントロメアマーカーCT50にまで広がる遺伝子移入(約20cM)から得られる)を有する。同様に、Monforte他(2001)は、L.hirsutumに由来する類似した遺伝的背景を有するトマト植物(TG464からCT173にまで及ぶ(10cMを超える)ほぼ近い遺伝子移入系統(NIL))を記載している。その後の研究では、そのような比較的大きい遺伝子移入には、ブリックス収量、総収量および果実重量の形質を含めて、望ましくない園芸学的形質が付随する。
【0038】
本発明を実施に移しているとき、本発明者らは、植物中で発現されてその植物のクチクラの水透過性を増大させることができる単独遺伝子cwp1(これはまたputと呼ばれ、これらは本明細書中では交換可能に使用される)を発見した。
【0039】
本明細書中下記において、また、下記の実施例の節において例示されるように、本発明者らは、L.hirsutumに由来する果実脱水形質の遺伝パターンを単一の主要な遺伝子として特定した。マップに基づくポジショナルクローニング戦略を使用して、本発明者らは、成熟した赤いトマト果実のクチクラの水透過性(CWP)を増大させ、かつ、無傷果実の脱水を生じさせる遺伝子を野生トマト種L.hirsutumからクローン化した。
【0040】
本発明者らは、cwpについての野生種の対立遺伝子が発達中のトマトの果実におけるこの遺伝子の発現を可能にし、その一方で、標準的な栽培されているL.esculentumの対立遺伝子は発現されず、ヌル対立遺伝子であると見なされ得ることを示した。本発明者らはさらに、対立遺伝子の量的効果が発現レベルで存在し、かつ、ヘテロ接合のHE遺伝子型が、野生種由来の2つの対立遺伝子を有するホモ接合遺伝子型のおよそ半分の発現によって特徴づけられることを示した。
【0041】
バイオインフォマティクス分析では、cwp1が、生物学的機能が不明であるタンパク質をコードすることが示された。この遺伝子は、クチクラを介した水分喪失を制御するので、新しいトマト産物のための育種プログラム、そして同様に、他の作物のための育種プログラムに寄与し得る。さらに、この遺伝子に関連する微細裂溝の構造的表現型は果実のクチクラ発達におけるcwpについての役割を示している。栽培トマトにおける35Sプロモーター下でのcwp1遺伝子の発現は拡大中の果実における微細裂溝の形成を誘導した。このことは、クチクラの水透過性の調節におけるこの遺伝子の示唆された役割を裏付けている。サザンブロット分析では、さらなるトマトホモログcwp2が発見された。興味深いことに、このホモログは、トマト果実の上皮網状化についての報告されたQTL(Frary他、2004)が存在するトマトの染色体2−1に位置づけられる。ナス科の栽培トウガラシ(Capsicum annum)の発達中の果実もまた、Lecwp1遺伝子に対する大きな類似性(87%)を有するcwpホモログをその上皮組織において発現し、また、トウガラシの果実は、収穫後の水分喪失の園芸学的問題、ならびに、パプリカ栽培品種における果実の脱水という望ましい形質によって特徴づけられる。従って、CWP遺伝子のホモログもまた、クチクラの改変および水透過性に寄与し得ることが考えられる。
【0042】
これらの結果は、cwp遺伝子の発現が、果実の拡大期間中における裂溝形成を弾性の低下のために受ける(重量およびTEMに基づいて)構造的に変化したクチクラをもたらすことを示している。しかしながら、この現象は、非常に発達した果実クチクラを有する果実(例えば、無気孔性の厚い皮の栽培トマトなど)においてだけ観測され、その特徴的なより薄いクチクラを有する野生種の果実では明らかではない。栽培トマト果実の発達期間中におけるクチクラ成分の堆積は、未成熟な緑色段階から成熟した緑色段階への移行期間中に急激な変化を受け(Baker、1982)、従って、これが微細裂溝表現型の観測と一致することは妥当である。
【0043】
理論にとらわれることはないが、比較的不浸透性の果実クチクラの遺伝的形質は栽培トマトの進化過程および栽培化過程における正の発達であって、これにより、熟している収穫された果実の安定性が可能になったことが示唆される。脱水形質の遺伝的制御は、作物の進化および栽培化のある段階でのヌルCwpのための選抜手法を示す。
【0044】
系統発生学的分析(図10a〜図10b)は、本発明のCWP遺伝子が、クチクラの水透過性を広範囲の作物植物において制御するために使用され得る遺伝子のより大きなファミリーに属することを示している。
【0045】
従って、本発明の1つの態様によれば、配列番号22に対する相同性が少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、または100%であるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドが提供され、この場合、このポリペプチドは、これを発現する植物のクチクラの水透過性を増大させることができる。
【0046】
本明細書中で使用される表現「クチクラの水透過性」は、クチクラによって囲まれた植物組織(植物の地上部組織)(例えば、果実など)からの水の蒸発を阻害するクチクラの能力を示す。増大したクチクラの水透過性は、クチクラによって囲まれた組織の脱水を、高まった蒸発の結果としてもたらすことが理解される。
【0047】
本明細書中で使用される表現「クチクラの水透過性を増大させる」は、類似する親栽培種の植物、または、これを発現しない遺伝子型の植物と比較して、クチクラの水透過性における少なくとも約5%の増大、少なくとも約10%の増大、少なくとも約15%の増大、少なくとも約20%の増大、少なくとも約30%の増大、少なくとも約40%の増大、少なくとも約50%の増大を示す。
【0048】
クチクラの水透過性を明らかにする様々な方法がこの分野では広く知られており、下記の実施例の節において詳しく記載される(例えば、果実の裂溝の重篤性および重量減少割合)。下記の実施例の節の実施例5を参照のこと。加えて、クチクラの水透過性を測定するための方法には、単離された果皮を横断する水拡散の測定、極性細孔サイズおよび流体力学的透過性の測定(Schonherr、1976)が含まれるが、これらに限定されない。これらの機能的アッセイは、本明細書中に提供される構造的指針と一緒になって、本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチドについての機能的ホモログの特定を可能にする。
【0049】
相同性(例えば、パーセント相同性)を、例えば、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のBlastPソフトウエアをはじめとする任意の相同性比較ソフトウエアを使用して、例えば、初期設定済みのパラメーターを使用することなどによって決定することができる。
【0050】
同一性(例えば、パーセント同一性)を、例えば、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のBlastNソフトウエアをはじめとする任意の相同性比較ソフトウエアを使用して、例えば、初期設定済みのパラメーターを使用することなどによって決定することができる。
【0051】
本明細書中で使用される表現「単離されたポリヌクレオチド」は、RNA配列、相補的ポリヌクレオチド配列(cDNA)、ゲノムポリヌクレオチド配列および/または複合ポリヌクレオチド配列(例えば、上記の組合せ)の形態で単離および提供される一本鎖核酸配列または二本鎖核酸配列を示す。
【0052】
本明細書中で使用される表現「相補的ポリヌクレオチド配列」は、逆転写酵素または任意の他のRNA依存性DNAポリメラーゼを使用してメッセンジャーRNAの逆転写から生じる配列を示す。そのような配列は続いて、DNA依存性DNAポリメラーゼを使用してインビボまたはインビトロで増幅することができる。
【0053】
本明細書中で使用される表現「ゲノムポリヌクレオチド配列」は、染色体に由来する(染色体から単離される)配列を示し、従って、染色体の隣接部分を表す。
【0054】
本明細書中で使用される表現「複合ポリヌクレオチド配列」は、少なくとも一部が相補的であり、かつ、少なくとも一部がゲノム由来である配列を示す。複合配列は、本発明のポリペプチドをコードするために要求されるいくつかのエキソン配列、ならびに、エキソン間に介在するいくつかのイントロン配列を含むことができる。イントロン配列は、他の遺伝子のイントロン配列を含めて、任意の供給源のものであることが可能であり、典型的には、保存されたスプライシングシグナル配列を含む。そのようなイントロン配列はさらに、シス作用の発現調節エレメントを含むことができる。
【0055】
本発明のこの態様の1つの好ましい実施形態によれば、本発明の上記の単離されたポリヌクレオチドの核酸配列は、配列番号21、配列番号23、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号48、配列番号50、配列番号52、配列番号54または配列番号56に示される通りである。
【0056】
本発明のこの態様の別の好ましい実施形態によれば、本発明のコードされたポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号22、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号53、配列番号55または配列番号57に示される通りである。
【0057】
本発明のこの態様の単離されたポリヌクレオチドは、上記で記載される単離されたポリヌクレオチドを適度〜ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件のもとでオリゴヌクレオチドプローブまたはオリゴヌクレオチドプライマーの存在下でインキュベーションすることによるハイブリダイゼーションアッセイを使用して定量することができる。
【0058】
本明細書中で使用される用語「オリゴヌクレオチド」は、リボ核酸(RNA)またはデオキシリボ核酸(DNA)またはそれらの模倣体の一本鎖または二本鎖のオリゴマーまたはポリマーを示す。この用語は、天然に存在する塩基、糖および共有結合性ヌクレオチド間連結(例えば、骨格)から構成されるオリゴヌクレオチド、ならびに、天然に存在するそれぞれの部分と同様に機能する、天然に存在しない部分を有するオリゴヌクレオチドを包含する。
【0059】
本発明の教示に従って設計されるオリゴヌクレオチドは、この分野で知られている任意のオリゴヌクレオチド合成法(例えば、酵素的合成または固相合成など)に従って作製することができる。固相合成を実行するための設備および試薬が、例えば、Applied Biosystemsから市販されている。そのような合成のための任意の他の手段もまた用いることができる:オリゴヌクレオチドの実際の合成は十分に当業者の能力の範囲内であり、例えば、Sambrook,J.およびRussell,D.W.(2001)、“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”;Ausubel,R.M.他編(1994、1989)、“Current Protocols in Molecular Biology”(第I巻〜第III巻、John Wiley&Sons、Baltimore、Maryland);Perbal,B.(1988)、“A Practical Guide to Molecular Cloning”(John Wiley&Sons、New York);およびGait、M.J.編(1984)、“Oligonucleotide Synthesis”に詳しく記載されるような確立された方法論によって成し遂げることができ、例えば、固相化学(例えば、シアノエチルホスホルアミダイト)、それに続く脱保護、脱塩および精製(例えば、自動化されたトリチル−オン法またはHPLCによる精製)を利用して成し遂げることができる。
【0060】
本発明のオリゴヌクレオチドは、本発明のポリヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイゼーション可能な少なくとも17塩基、少なくとも18塩基、少なくとも19塩基、少なくとも20塩基、少なくとも22塩基、少なくとも25塩基、少なくとも30塩基または少なくとも40塩基のものである。
【0061】
適度〜ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、0.2xSSCおよび0.1%SDSの最終洗浄液および65℃での最終洗浄を伴う、65℃でのハイブリダイゼーション溶液、例えば、10%のデキストラン硫酸、1MのNaCl、1%のSDSおよび5x10cpmの32P標識プローブを含有する溶液などによって特徴づけられ、これに対して、適度なハイブリダイゼーションが、10%のデキストラン硫酸、1MのNaCl、1%のSDSおよび5x10cpmの32P標識プローブを含有するハイブリダイゼーション溶液を65℃で使用し、1xSSCおよび0.1%SDSの最終洗浄液および50℃での最終洗浄を用いて行われる。
【0062】
ハイブリダイゼーション方法論を使用して、本発明者らは、トマト果実の上皮網状化についての報告されたQTL(Frary他、2004)に位置づけられるcwp2(cwp1の別のトマトホモログ)を単離することができた。
【0063】
従って、本発明は、本明細書中上記に記載される核酸配列、そのフラグメント、それとハイブリダイゼーション可能な配列、それに対して相同的な配列、類似したポリペプチドを異なったコドン使用によりコードする配列、変異(例えば、天然に存在するか、または、人為的に導入されているかのいずれかであっても、また、ランダムまたは標的化された様式のいずれかであっても、1つまたは複数のヌクレオチドの欠失、挿入または置換など)によって特徴づけられる変化した配列を包含する。
【0064】
本発明のポリヌクレオチド配列は、以前には特定されていないポリペプチドをコードするので、本発明はまた、本明細書中上記に記載される単離されたポリヌクレオチドおよびそのそれぞれの核酸フラグメントによってコードされる新規なポリペプチドまたはその一部分を包含する。
【0065】
従って、本発明はまた、本発明のポリヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを包含する。これらの新規なポリペプチドのアミノ酸配列が、配列番号22、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号53、配列番号55または配列番号57に示される。
【0066】
本発明はまた、これらのポリペプチドのホモログを包含し、そのようなホモログは、配列番号22に対する相同性が少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約81%、少なくとも約82%、少なくとも約83%、少なくとも約84%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%またはそれ以上(例えば、100%)であり得る。
【0067】
本発明はまた、上記ポリペプチドのフラグメント、および、変異(例えば、天然に存在するか、または、人為的に導入されているかのいずれかであっても、また、ランダムまたは標的化された様式のいずれかであっても、1つまたは複数のアミノ酸の欠失、挿入または置換など)を有するポリペプチドを包含する。
【0068】
本発明のポリペプチドのアミノ酸配列情報は、本発明のポリペプチドに特異的に結合する抗体を作製するために使用することができる。例えば、そのような抗体は配列番号22のアミノ酸座標55〜160に向けることができる。配列座標55〜160は多重比較分析の保存された配列およびモチーフの大部分を含む(図11)。このアミノ酸配列領域における大きな配列相同性のために、そのような抗体は、本発明の様々なポリペプチド(例えば、配列番号22、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号53、配列番号55および配列番号57)に対して交差反応性であることが予想される。
【0069】
本発明のポリヌクレオチド配列およびポリペプチド配列は、増大したクチクラの水透過性を有する植物を作製するために使用することができる。
【0070】
例えば、遺伝子改変された植物を、本発明の単離されたポリヌクレオチドを植物において発現させることによって作製することができる。
【0071】
本明細書中で使用される用語「植物」は、増大したクチクラの水透過性が商業的に所望される、単子葉または双子葉の作物植物などの作物植物(植物全体またはその一部分、例えば、果実、種子)、ならびに、他の植物(針葉樹植物、コケまたは藻類)を示す。好ましくは、本発明の植物は、脱水が商業的に有益である果実をもたらす。そのような植物の例には、トマト、ブドウ、トウガラシ、リンゴ、モモ、アンズ、ナツメヤシ、イチジク、ナス、タマネギ、イチゴ、ウリ科植物、干し草用植物、飼料植物、香辛料植物およびハーブ植物などが含まれるが、これらに限定されない。
【0072】
外因性ポリヌクレオチドを植物細胞において発現させるために、本発明のポリヌクレオチド配列は、好ましくは、植物細胞での発現のために好適な核酸構築物の中に連結される。そのような核酸構築物はシス作用の調節領域を含み、例えば、細胞におけるポリヌクレオチド配列の転写を構成的様式または誘導可能な様式で行わせるためのプロモーター配列などを含む。プロモーターは、形質転換された植物/細胞に対して同族または異種であってもよい。
【0073】
本発明のこの態様に従って使用することができる好適なプロモーター配列は果実特異的または種子特異的なプロモーターである。
【0074】
例えば、cwp1遺伝子の新規なプロモーター配列(またはその機能的フラグメント)を、好ましくは、本発明の核酸構築物において使用することができる(配列番号58)。
【0075】
果実特異的なプロモーターの他の例が米国特許第4,943,674号に記載される。
【0076】
本発明のこの態様に従って使用することができる他のプロモーターには、植物の指定された、空気にさらされる器官(例えば、葉、塊茎、種子、茎、花など)または指定された細胞タイプ(例えば、柔細胞、表皮細胞、毛状突起細胞または維管束細胞など)においてだけ発現を確実にするプロモーターがある。
【0077】
種子における発現を高める好ましいプロモーターには、phasプロモーター(Geest他、Plant Mol.Biol.、32:579〜588(1996));GluB−1プロモーター(Takaiwa他、Plant Mol.Biol.、30:1207〜1221(1996));ガンマ−ゼインプロモーター(Torrent他、Plant Mol.Biol.、34:139〜149(1997))およびオレオシンプロモーター(Sarmiento他、The Plant Journal、11:783〜796(1997))が含まれる。
【0078】
構成的、誘導可能、組織特異的または発達段階特異的な発現を媒介する他のプロモーター配列が国際特許出願公開WO2004/081173に開示される。
【0079】
核酸構築物は、例えば、プラスミド、バクミド、ファージミド、コスミド、ファージ、ウイルスまたは人工染色体が可能である。好ましくは、本発明の核酸構築物はプラスミドベクターであり、より好ましくはバイナリーベクターである。
【0080】
表現「バイナリーベクター」は、Tiプラスミド由来の改変されたT領域を有し、大腸菌およびアグロバクテリウム細胞の両方で増殖することを可能にし、かつ、通常的には植物形質転換のためのレポーター遺伝子を2つの境界領域の間に含む発現ベクターを示す。本発明のために好適なバイナリーベクターには、pBI2113、pBI121、pGA482、pGAH、pBIG、pBI101(Clonetech)、pPIおよびpBIN PLUS(下記の実施例の節の実施例5を参照のこと)、または、それらの改変体が含まれる。
【0081】
本発明の核酸構築物は、宿主細胞(例えば、細菌細胞、植物細胞)または植物を形質転換するために利用することができる。
【0082】
本明細書中で使用される用語「トランスジェニック」または用語「形質転換された」は交換可能に使用され、クローン化された遺伝物質が移されている細胞または植物を示す。
【0083】
安定的形質転換では、本発明の核酸分子は植物のゲノムに組み込まれ、そのため、本発明の核酸分子は、安定な受け継がれる形質を表す。一過性の形質転換では、核酸分子は、形質転換された細胞によって発現されるが、ゲノムには組み込まれず、そのため、一過性の形質を表す。
【0084】
外来遺伝子を単子葉植物および双子葉植物の両方に導入する様々な方法が存在する(Potrykus,I.(1991)、Annu Rev Plant Physiol Plant Mol Biol、42、205〜225;Shimamoto,K.他(1989)、形質転換プロトプラストから再生された稔性トランスジェニックイネ植物、Nature(1989)、338、274〜276)。
【0085】
外因性DNAを植物のゲノムDNAに安定的に組み込む主要な方法では、下記の2つの大きな手法が含まれる:
(i)アグロバクテリウム媒介の遺伝子移動。Klee,H.J.他(1987)、Annu Rev Plant Physiol、38、467〜486;Klee,H.J.およびRogers,S.G.(1989)、Cell Culture and Somatic Cell Genetics of Plants、第6巻、Molecular Biology of Plant Nuclear Genes、2頁〜25頁、J.SchellおよびL.K.Vasil編、Academic Publishers、San Diego、Cal.;および、Gatenby,A.A.(1989)、微生物における植物遺伝子の調節および発現、93頁〜112頁、Plant Biotechnology(S.KungおよびC.J.Arntzen編、Butterworth Publishers、Boston、Mass.)を参照のこと。
(ii)直接的なDNA取り込み。例えば、Paszkowski,J.他(1989)、Cell Culture and Somatic Cell Genetics of Plants、第6巻、Molecular Biology of Plant Nuclear Genes、52頁〜68頁、J.SchellおよびL.K.Vasil編、Academic Publishers、San Diego、Cal.;および、Toriyama,K.他(1988)、Bio/Technol、6、1072〜1074(プロトプラスト内へのDNAの直接的な取り込みのための方法)を参照のこと。Zhang他(1988)、Plant Cell Rep、7、379〜384;および、Fromm,M.E.他(1986)、エレクトロポレーションによる遺伝子移動の後でのトウモロコシの安定的形質転換、Nature、319、791〜793(植物細胞の短時間の電気的ショックにより誘導されたDNA取り込み)もまた参照のこと。Klein他(1988)、Bio/Technology、6、559〜563;McCabe,D.E.他(1988)、粒子加速によるダイズ(Glycine max)の安定的形質転換、Bio/Technology、6、923〜926;および、Sanford,J.C.(1990)、植物のバイオリスティック形質転換、Physiol Plant、79、206〜209(粒子衝撃による植物細胞または植物組織へのDNA注入)もまた参照のこと。Neuhaus,J.M.他(1987)、Theor Appl Genet、75、30〜36;および、Neuhaus,J.M.およびSpangenberg,G.C.(1990)、Physiol Plant、79、213〜217(マイクロピペットシステムの使用)もまた参照のこと。米国特許第5464765号(細胞培養物、胚またはカルス組織のガラス繊維または炭化ケイ素ウィスカーによる形質転換)を参照のこと。DeWet,J.M.J.他(1985)、“DNA処理の花粉を使用するトウモロコシ(Zea mays)における外因性遺伝子の移動”、Experimental Manipulation of Ovule Tissue、G.P.Chapman他編、Longman、New York−London、197頁〜209頁;および、Ohta,Y.(1986)、花粉および外因性DNAの混合物によるトウモロコシの高効率な遺伝子形質転換、Proc Natl Acad Sci USA、83、715〜719(DNAの、発芽中の花粉との直接的なインキュベーション)もまた参照のこと。
【0086】
アグロバクテリウム媒介システムでは、植物のゲノムDNAに組み込まれる規定されたDNAセグメントを含有するプラスミドベクターの使用が含まれる。植物組織に接種する方法は、植物種およびアグロバクテリウム送達システムに依存して変化する。広く使用されている1つの方法がリーフディスク手法であり、これは、完全な植物への分化を開始させるための良好な供給源を提供する任意の組織外植片を用いて行うことができる(Horsch,R.B.他(1988)、“リーフディスク形質転換”、Plant Molecular Biology Manual A5、1〜9、Kluwer Academic Publishers、Dordrecht)。補助的な方法では、真空浸潤との組合せでのアグロバクテリウム送達システムが用いられる。アグロバクテリウムシステムは、トランスジェニック双子葉植物の作出のために、または、トランスジェニック双子葉植物の作出において特に有用である。
【0087】
植物細胞内への直接的なDNA移動の様々な方法が存在する。エレクトロポレーションでは、プロトプラストが強い電場に短時間さらされ、これにより、DNAが進入することを可能にするようにミニ細孔が開けられる。マイクロインジェクションでは、DNAが、マイクロピペットを使用して細胞内に直接、機械的に注入される。マイクロ粒子衝撃では、DNAが微小弾丸(例えば、硫酸マグネシウム結晶またはタングステン粒子など)に吸着させられ、微小弾丸が物理的に加速されて、細胞内または植物組織内に入れられる。
【0088】
安定的形質転換の後、植物の増殖が生じる。植物を増殖させる最も一般的な方法は種子による。しかしながら、種子増殖による再生の欠点は、種子は、メンデル則によって支配される遺伝分散に従って植物によって作製されるので、ヘテロ接合性のために作物において均一性がないことである。すなわち、それぞれの種子が遺伝子的に異なり、また、それぞれがそれ自身の特定の形質を伴って成長する。従って、再生された植物が親のトランスジェニック植物の形質および特徴と同一の形質および特徴を有するように、再生が行われることが好ましい。形質転換された植物を再生させる好ましい方法は、形質転換された植物の迅速かつ一貫した繁殖をもたらすマイクロプロパゲーションによる方法である。
【0089】
マイクロプロパゲーションは、選抜された親植物または栽培品種から切り出された1つだけの組織サンプルから第二世代の植物を成長させるプロセスである。このプロセスは、好ましい組織を有し、かつ、融合タンパク質を発現する植物の大量繁殖を可能にする。新しく作製された植物は元の植物と遺伝子的に同一であり、かつ、元の植物の特徴のすべてを有する。マイクロプロパゲーションでは、短い期間での高品質の植物材料の大量生産が可能であり、かつ、元のトランスジェニック植物または形質転換された植物の特徴を保持する選抜された栽培品種の迅速な増殖が提供される。植物クローニングのこの方法の利点には、植物増殖の速度、ならびに、作製された植物の品質および均一性が含まれる。
【0090】
マイクロプロパゲーションは、段階間での培養培地または成長条件を変化させることを必要とする多段階手法である。マイクロプロパゲーションプロセスでは、下記の4つの基本的な段階が伴う。第1段階、最初の組織培養;第2段階、組織培養増殖;第3段階、分化および植物形成;および第4段階、温室培養およびハードニング。第1段階の期間中に、組織培養物が確立され、混入物がないことが確認される。第2段階の期間中に、十分な数の組織サンプルが、製造目標を満たすために作製されるまで、最初の組織培養物が増殖させられる。第3段階の期間中に、新しく成長した組織サンプルが分割され、個々の幼植物体に成長させられる。第4段階において、形質転換された幼植物体がハードニングのために温室に移され、温室において、光に対する植物の寛容性が徐々に増大させられ、その結果、植物は天然の環境で成長し続けることができる。
【0091】
一過性の形質転換を、上記で記載された直接的なDNA移動方法のいずれかによって、または、改変された植物ウイルスを使用するウイルス感染によって行うことができる。
【0092】
植物宿主の形質転換のために有用であることが示されているウイルスには、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、タバコモザイクウイルス(TMV)およびバキュロウイルス(BV)が含まれる。植物ウイルスを使用する植物の形質転換が、例えば、米国特許第4855237号(ビーンゴールデンモザイクウイルス、BGMV);欧州特許EPA67553(TMV);特開昭63−14693(TMV);欧州特許EPA194809(BV);欧州特許EPA278667(BV);およびGluzman,Y.他(1988)、Communications in Molecular Biology:Viral Vectors(Cold Spring Harbor Laboratory、New York、172頁〜189頁)に記載される。外来DNAを、植物を含む多くの宿主において発現させることにおける偽ウイルス粒子の使用が国際特許出願公開WO87/06261に記載される。
【0093】
非ウイルス性の外因性核酸配列の植物における導入および発現のための植物RNAウイルスの構築が上記の参考文献によって記載され、また同様に、Dawson,W.O.他(1989)、タバコモザイクウイルスハイブリッドは付加遺伝子を発現および喪失する、Virology、172、285〜292;French,R.他(1986)、Science、231、1294〜1297;および、Takamatsu,N.他(1990)、タバコモザイクウイルスRNAベクターを使用するタバコプロトプラストにおけるエンケファリンの産生、FEBS Lett、269、73〜76によって記載される。
【0094】
形質転換用ウイルスがDNAウイルスであるならば、当業者は、ウイルス自体に対する好適な改変を行うことができる。あるいは、ウイルスを、外来DNAを伴う所望のウイルスベクターを構築することの容易さのために、最初に細菌プラスミドにクローン化することができる。その後、ウイルスをプラスミドから切り出すことができる。ウイルスがDNAウイルスであるならば、細菌の複製起点をウイルスDNAに付け加えることができ、その場合、ウイルスDNAが細菌によって複製される。DNAの転写および翻訳により、ウイルスDNAをカプシド形成によって包むコートタンパク質が産生される。ウイルスがRNAウイルスであるならば、ウイルスは一般にはcDNAとしてクローン化され、プラスミドに挿入される。その後、このプラスミドを使用して、植物の遺伝子構築物のすべてが作製される。RNAウイルスは、その場合、プラスミドのウイルス配列から転写され、続いて、ウイルス遺伝子の翻訳により、ウイルスRNAをカプシド形成によって包むコートタンパク質が産生される。
【0095】
非ウイルス性の外因性核酸配列(例えば、本発明の構築物に含まれる核酸配列など)の植物における導入および翻訳のための植物RNAウイルスの構築が上記の参考文献ならびに米国特許第5316931号において明らかにされる。
【0096】
1つの実施形態において、ウイルス核酸に由来する生来的なコートタンパク質をコードする配列の欠失(非生来的(外来)植物ウイルスコートタンパク質コード配列)と、非生来的なプロモーター(好ましくは、非生来的コートタンパク質コード配列のサブゲノムプロモーター)とを含み、かつ、植物宿主における発現、組換え植物ウイルス核酸のパッケージング、および、組換え植物ウイルス核酸による宿主の全身的感染を確実にすることを可能にする植物ウイルス核酸が挿入のために提供される。あるいは、生来的なコートタンパク質コード配列は、非生来的なタンパク質が産生されるように、非生来的な核酸配列をその中に挿入することによって非転写性にすることができる。組換え植物ウイルス核酸構築物は1つまたは複数のさらなる非生来的なサブゲノムプロモーターを含有することができる。それぞれの非生来的なサブゲノムプロモーターは、隣接する遺伝子または核酸配列を植物宿主において転写または発現させることができ、かつ、相互の組換え、および、生来的なサブゲノムプロモーターとの組換えができない。加えて、組換え植物ウイルス核酸構築物は、トランス作用する調節因子と結合し、その下流側に位置するコード配列の転写を調節する1つまたは複数のシス作用調節エレメント(例えば、エンハンサーなど)を含有することができる。2つ以上の核酸配列が含まれるならば、非生来的な核酸配列を、生来的な植物ウイルスサブゲノムプロモーターに隣接して、または、生来的および非生来的な植物ウイルスサブゲノムプロモーターに隣接して挿入することができる。非生来的な核酸配列はサブゲノムプロモーターの制御下で宿主植物において転写または発現されて、所望の生成物を産生する。
【0097】
第2の実施形態では、生来的なコートタンパク質コード配列が、非生来的なコートタンパク質コード配列に隣接する代わりに、非生来的なコートタンパク質サブゲノムプロモーターの1つに隣接して設置されることを除いて、組換え植物ウイルス核酸構築物が第1の実施形態でのように提供される。
【0098】
第3の実施形態では、そのサブゲノムプロモーターに隣接して設置された生来的なコートタンパク質遺伝子と、ウイルス核酸構築物に挿入された1つまたは複数の非生来的なサブゲノムプロモーターとを含む組換え植物ウイルス核酸構築物が提供される。挿入された非生来的なサブゲノムプロモーターは、隣接する遺伝子を植物宿主において転写または発現させることができ、かつ、相互の組換え、および、生来的なサブゲノムプロモーターとの組換えができない。非生来的な核酸配列を非生来的なサブゲノム植物ウイルスプロモーターに隣接して挿入することができ、その結果、この配列がサブゲノムプロモーターの制御下で宿主植物において転写または翻訳されて、所望の生成物を産生させるようにすることができる。
【0099】
第4の実施形態では、生来的なコートタンパク質コード配列が非生来的なコートタンパク質コード配列によって置き換えられることを除いて、組換え植物ウイルス核酸構築物が第3の実施形態でのように提供される。
【0100】
ウイルスベクターは、本明細書中上記で記載されるような組換え植物ウイルス核酸構築物によってコードされる発現したコートタンパク質によってカプシド形成して、組換え植物ウイルスを生じさせる。組換え植物ウイルス核酸構築物または組換え植物ウイルスは、適切な宿主植物に感染させるために使用される。組換え植物ウイルス核酸構築物は、宿主における複製、宿主内での全身的な拡大、および、所望のタンパク質を産生させるための宿主における1つまたは複数の外来遺伝子(単離された核酸)の転写または発現が可能である。
【0101】
上記に加えて、本発明の核酸分子はまた、葉緑体ゲノムに導入することができ、それによって、葉緑体での発現を可能にすることができる。
【0102】
外因性核酸配列を葉緑体のゲノムに導入するための技術が知られている。この技術は下記の手順を伴う。第1に、植物細胞を、細胞あたりの葉緑体の数を約1個に減らすように化学的に処理される。その後、外因性核酸が、少なくとも1つの外因性核酸分子を葉緑体に導入することを目指して、好ましくは粒子衝撃によって細胞に導入される。外因性核酸は、相同的組換え(これは葉緑体に固有の酵素によって容易に行われる)による葉緑体ゲノムへの組込みを可能にするように当業者によって選択される。この目的のために、外因性核酸は、目的とする遺伝子に加えて、葉緑体ゲノムに由来する少なくとも1つの核酸配列を含む。加えて、外因性核酸は選択マーカーを含み、そのような選択マーカーは、逐次的な選抜手法によって、そのような選抜の後の葉緑体ゲノムのすべてまたは実質的にすべてのコピー体が外因性核酸を含むことを確認することを当業者に可能にするために役立つ。この技術に関するさらなる詳細が、米国特許第4945050号および同第5693507号に見出される(これらは参考として本明細書中に組み込まれる)。従って、ポリペプチドを葉緑体のタンパク質発現系によって産生させることができ、かつ、葉緑体の内膜に一体化させることができる。
【0103】
数多くの方法が、作物と雑草との間での遺伝子拡散を最小限に抑えるためにこの分野では知られている。下記はそのような方法の非限定的な記載である[米国特許出願公開第20040098760号、同第20040172678号、および、Daniell(2002)、Nat.Biotech.、20:581もまた参照のこと]。他の方法には、雄性不稔および/または種子不稔(これらは、異系交雑、自発的な種子飛散を防止する)、閉花受精(この場合、受粉が開花前に起こり、それにより、異系交雑を防止する)、および単為生殖(種子が、有性交配ではなく、栄養起源に由来し、これにより、異系交雑および自発的な種子飛散が抑制される。米国特許第6825397号を参照のこと)が含まれる。
【0104】
母系遺伝
細胞質オルガネラの母系遺伝が植物系(葉緑体)および動物系(ミトコンドリア)によって共に使用される。いくつかの説明が、この現象を説明するために提供されている。母系遺伝は、個体内で大きな比率を占める利己的な細胞質因子による集団への侵入を促進させる。加えて、細胞質因子の母系遺伝は、雄性に関連する障害または病原体の有性伝達を防止するための進化的機構である;(細胞質ではなく)核のみが受精時に胚珠に進入することが許される[Gressel J.、Molecular Biology in Weed Control(Taylor and Francis、London、2002)]。母系遺伝はまた、受精後の植物において起こる雄性の核遺伝子の一般的な抑制の延長であり得る[Avni、Mol.Gen.Genet.、225、273〜277(1991)]。
【0105】
導入遺伝子の母系遺伝を促進するための葉緑体遺伝子工学の使用は、遺伝子改変作物の間での異系交雑、または、遺伝子改変作物と雑草との間での異系交雑の潜在的可能性を伴うそのような場合には非常に望ましい。大部分の被子植物に見出される色素体遺伝の支配的なパターンが単親−母系であり、葉緑体ゲノムはほとんどの作物では母系遺伝する。
【0106】
葉緑体ゲノムの母系遺伝は、精細胞(これはその後、受精時に雌性配偶子と融合する)を形成する雄原細胞の発達の期間中に植物において達成される。雄原細胞は花粉形成時における不等分裂の結果であり、どの葉緑体も受け入れない[Hagemann、Protoplasma、152、57〜64(1989)]。
【0107】
葉緑体トランスジェニック植物における導入遺伝子の母系遺伝、および、花粉を介した遺伝子拡散の防止が、タバコおよびトマト[Daniell、Nat.Biotechnol.、16、345〜348;Ruf、Nat.Biotechnol.、19、870〜875(2001)]を含めて、いくつかの植物種において成功裏に明らかにされている。ジャガイモを含むいくつかの他の植物種の葉緑体ゲノムが形質転換されているが、母系遺伝はこれらの研究では明らかにされていない。しかしながら、30を超える導入遺伝子が、所望する植物形質を付与するために、あるいは、機能的な生物医薬品または食用ワクチンまたはバイオポリマーを製造するための生物工場としてのトランスジェニック葉緑体の使用のために葉緑体ゲノムに安定的に組み込まれている[Daniell、Trends Plant Sci.、7、84〜91(2001);Daniell、Curr.Opin.Biotechnol.、13、136〜141]。
【0108】
多くの他の封じ込め策とは異なり、母系遺伝による取り組みは既に屋外で試験されている。ScottおよびWilkinson[Nat.Biotechnol.、17、390〜392(1999)]は、英国においてテムズ川沿いの34km離れた、アブラナの隣で成長する2つの野生集団から集められた天然の雑種における色素体遺伝を研究し、18の野生化したアブラナ集団の持続性を3年の期間にわたって評価した。彼らは、混合集団を形成することについての可能性、および、遺伝子移入のための農業範囲を超えた作物の持続性を定量化するために、色素体の遺伝様式および同所性の発生率(同じ領域における一緒になった種の出現)を含めて、作物から野生近縁種への葉緑体遺伝子の移動に影響するいくつかの変数を分析した。作物種と雑草種との間でのおよそ0.6%〜0.7%の同所性にもかかわらず、混合植物群は、植物数の急激な減少、種子の逆戻り、および、究極的には3年以内での消滅に向かう強い傾向を示した。従って、ScottおよびWilkinsonは、植物が葉緑体ゲノムを介して遺伝子改変されるならば、遺伝子拡散は希であるに違いないと結論した。
【0109】
従って、葉緑体ゲノムの母系遺伝は、遺伝子封じ込めのための有望な選択肢の1つである。色素体の形質転換はいくつかの主要な作物種では未だ達成されないでいるが、葉緑体の遺伝子工学は現在、除草剤抵抗性[Daniell、Nat.Biotechnol.、16、345〜348(1998)]、昆虫抵抗性、耐病性[DeGray、Plant Physiology、127、852〜862(2001)]および日照り抵抗性を付与することが示されており、同様に、抗体[Daniell、Trends Plant Sci.、7、84〜91(2001)]、生物医薬品[Daniell、Trends Plant Sci.、7、84〜91(2001)]および食用ワクチンを産生させることが示されている。欧州環境庁(Copenhagen、Denmark)からの近年の報告書は葉緑体遺伝子工学を遺伝子封じ込め法として推奨している[Eastham遺伝子改変植物(GMO):花粉移動による遺伝子拡散の重要性、Environmental Issue Report28(欧州環境庁、Copenhagen、Denmark、2002)]。
【0110】
ゲノム不和合性。多くの栽培作物は多数のゲノムを有する。これらの作物ゲノムの1つのみが雑草との種間雑種形成について和合性を有するだけである。例えば、コムギのDゲノムは、Aegilops cylindrica(ヤギムギ(bearded goatgrass)、これは合衆国における問題雑草である)のDゲノムとの和合性を有する;対照的に、倍数性レベルが問題でないとすれば、この雑草と、AABB四倍体のBゲノムを有するデュラムコムギとの種間雑種形成を達成することの方がはるかに難しい[Gressel、Molecular Biology in Weed Control(Taylor and Francis、London、2002)]。同様に、Brassica juncea(カラシナ)のBゲノムから多くのBrassica属雑草への遺伝子移動についての可能性が野生種に関して存在する;しかしながら、これまでのほとんどの遺伝子工学はBrassica napus(セイヨウアブラナ)で行われており、しかし、これはAACC四倍体ゲノムを有しており、従って、和合性を有することは考えられない。雑草に拡大するトランスジェニック形質の危険性は、不和合性ゲノムを有するそのようなトランスジェニック系統のみを公開することによって劇的に低下させることができる。
【0111】
ゲノム情報の入手が可能であることにより、雑草と異系交雑する低下した可能性を不和合性機構によって有する作物を操作することが可能になり得る。
【0112】
時間的および組織特異的な制御。化学的に誘導可能なプロモーターを遺伝子封じ込め策のために使用することができる。例えば、化学物質を、圃場に除草剤が噴霧される前に、除草剤抵抗性を付与する遺伝子の一時的な発現を誘導するために使用することができる。明らかではあるが、遺伝子的隔離が、外来遺伝子の発現を、作物が開花していないそのような時期に制限することによって可能となる場合がある。現在、そのようなプロモーターが使用可能である(参考文献の国際特許出願公開WO97/06269を参照のこと)。
【0113】
作物が開花状態でないときにだけ外来遺伝子のスイッチを入れるための代わりの方法が、開花が生じる前にその遺伝子を物理的に除くことである。KeenanおよびStemmer[Nat.Biotechnol.、20、215〜216(2002)]は、これが、外来遺伝子を開花前に切り出す部位特異的なリコンビナーゼ(例えば、Creなど)の発現を活性化するために化学誘導可能なプロモーターまたは果実特異的なプロモーターを使用することによって達成され得ることを示唆する。そのようなシステムでは、種子(種子特異的なプロモーターを使用する)または植物全体(化学誘導可能なプロモーターを使用する)のいずれかにおいてCreの発現を誘導し、かつ、2つのlox部位によって挟まれた遺伝子の除去をもたらすことができる。
【0114】
トランスジェニック緩和。遺伝子拡大を封じ込めるための別の方法が、作物遺伝子からの正の生存形質を遺伝子移入によって獲得している雑草の適応度を損なうことである[Gressel、Trends Biotechnol.、17、361〜366(1999)]。この方法は、トランスジェニック緩和(TM)と呼ばれており、(1)タンデム構築物が、厳密に連鎖する遺伝子として作用し、かつ、それらの相互分離が極めて希であるという前提;(2)TM形質が作物については中立または正であり、しかし、雑草については有害であるという前提;および(3)そのような植物はそれら自身の間で強く競合し、大きな種子生産量を有するので、弱く有害なTM形質でさえ雑草集団から排除されるという前提に基づいている。TMによって標的化され得るプロセスの例には、種子休眠、種子の成熟化、および、果実が熟して落ちること、ならびに、成長が含まれる。
【0115】
雑草の種子は典型的には二次的休眠を示し、この場合、収穫期から得られた種子は、翌年のシーズンを通して、また、翌年以降も発芽し、それにより、子孫の競合を低下させながら、適応度を最大にする(また、すべての雑草が1回だけの処置によって駆除されないようにする)。二次的休眠の途絶は作物には中立であるが、雑草には有害である。Steber他は、アブシジン酸に対して非感受性であり、かつ、二次的休眠を完全に有しないArabidopsis変異体を特定している。休眠に関連するそのような遺伝子(操作または変異されたとしても)はTMのために使用することができる[Genetics、149、509〜521(1998)]。
【0116】
雑草植物の別の特徴は、雑草植物がその種子をある期間にわたってまき散らし、また、その熟した種子のほとんどが地面に落ち、これにより連続性を確実にするということである。結果として、一様に熟し、かつ、落下防止性の遺伝子は雑草には有害であるが、種子が一様に熟し、かつ、容易に落下しない作物については中立である;実際、落下防止性の遺伝子は、落下性の自生する雑草問題を依然として有するナタネについては一層好都合である。雑草を含まない「認定された」種子のみがまかれ、それにより、トランスジェニック雑草の種子が排除される。種子の離層帯におけるホルモンバランスを変化させることは落下特性に影響を及ぼすことが考えられる。サイトカイニンの過剰産生は落下を遅らせることができる。最近、長角果における葯片の開放を遅らせることによって種子の落下を妨げるSHATTERPROOF遺伝子がArabidopsisから単離されている。これは、近縁のナタネについては理想的な方策であり得る。
【0117】
矮化は、イネおよびコムギの「緑の革命」品種を作製することにおいてこれまで特に有益であり、自給自足をインドおよび中国にもたらしている。しかしながら、矮化形質は雑草については不都合であり、これは、雑草がもはや光のために作物と競合することができないからである。遺伝子操作による高さの減少は、ジベレリン33の生合成を妨げることによって可能である。加えて、生来的な受容体と競合し、それにより矮化を誘導することによってジベレリンの不安定性をもたらす不完全なジベレリン酸受容体遺伝子が単離されている。
【0118】
プロモーターの配列情報(例えば、配列番号58)は、栽培植物のプロモーター配列を改変することによって本発明のポリペプチドの増大した発現を有する植物の作製を可能にする。従って、例えば、「ノックイン」技術または変異誘発(例えば、化学的または放射線)を、本発明のポリペプチドのアップレギュレーションされた発現を有する植物を直接的または間接的に作製するために使用することができる。
【0119】
本発明のcwp1遺伝子を野生Lycopersicon spp.のトマトの第4染色体に突き止め、かつ、テロメアマーカーTG464からセントロメアマーカーCT173にまで広がる染色体部分よりも小さい遺伝子移入体へのより詳細なマッピングを行うことによって、増大したクチクラの水透過性を有する栽培トマト植物を、古典的育種技術を使用して作製することが可能である。
【0120】
例えば、Lycopersicon esculentum植物を野生Lycopersicon spp.植物と雑種形成させることができる。その後、Lycopersicon esculentum植物の果実を熟させ、雑種(F1)種子を集める。その後、集めたF1種子を植え、F1植物を成長させ、自家受粉させる。自植を少なくともさらにもう一世代にわたって続けることができ、または、F1植物をesculentumの親植物に対して交配することができる。自植世代または戻し交配世代から得られる果実は、果実の色の変化によって明らかにされるように、表面的に熟する時点を過ぎるまでつるにつけたままにされ、そして、(i)自然脱水の存在;および(ii)上記遺伝子移入についてスクリーニングされる。例えば、野生種の対立遺伝子を含有する最小限の遺伝子移入は、下記のマーカー:CT199、TG163、CT61を使用することによって10cM未満に、5cM未満に、2cM未満に、および、1cM未満に、また、CT61〜TG464にまたがる領域の内部に制限することができる。例えば、増大したクチクラの水透過性を依然として可能にする最小限の遺伝子移入体を作製するために使用することができるマーカーには、図3aに示されるBACの両末端に由来する配列のいずれかが含まれる。
【0121】
従って、本発明はまた、野生Lycopersicon spp.に由来する遺伝子移入を含むゲノムを有する栽培トマト植物を提供し、この場合、この遺伝子移入は、テロメアマーカーTG464からセントロメアマーカーCT173にまで広がる染色体部分よりも小さいこのLycopersicon spp.の第4染色体の一部分を含み、かつ、栽培トマト植物のクチクラの水透過性を増大させることができる。
【0122】
本発明の栽培植物および遺伝子改変植物が(上記で記載されたように)作製されると、脱水した果実を下記のように作製することができる。
【0123】
果実を、熟する通常の時点が過ぎるまでつるにつけたままにすることができる。果皮のしわ形成によって明白になるような脱水の外見により、果実における低下した水分含有量が示される。脱水した果実が得られると、脱水した果実を集めることができる。あるいは、果実をつるから集め、続いて、(例えば、天日乾燥して)脱水させることができる(これは、背景の節で詳しく記載される)。
【0124】
従って、本発明は、それを発現する植物におけるクチクラの水透過性を支配するポリヌクレオチドおよびポリペプチド、ならびに、商業的に有益な作物植物の脱水した果実を製造するためにこれらを使用する方法を提供する。
【0125】
本明細書中で使用される用語「約」は±10%を示す。
【0126】
本発明の追加の目的、利点及び新規な特徴は、下記実施例を考察すれば、当業者には明らかになるであろう。なおこれら実施例は本発明を限定するものではない。さらに、先に詳述されかつ本願の特許請求の範囲の項に特許請求されている本発明の各種実施態様と側面は各々、下記実施例の実験によって支持されている。
【実施例】
【0127】
上記説明とともに、以下の実施例を参照して本発明を例示する。なおこれら実施例によって本発明は限定されない。
【0128】
本願で使用される用語と、本発明で利用される実験方法には、分子学、生化学、微生物学及び組み換えDNAの技法が広く含まれている。これらの技法は文献に詳細に説明されている。例えば以下の諸文献を参照されたい:「Molecular Cloning:A laboratory Manual」Sambrookら1989年;Ausubel, R.M.編1994年「Current Protocols in Molecular Biology」I〜III巻;Ausubelら著1989年「Current Protocols in Molecular Biology」John Wiley and Sons,米国メリーランド州バルチモア;Perbal著「A Practical Guide to Molecular Cloning」John Wiley & Sons,米国ニューヨーク1988年;Watsonら、「Recombinant DNA」Scientific American Books、米国ニューヨーク;Birrenら編「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」1〜4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、米国ニューヨーク1998年;米国特許の4666828号、4683202号、4801531号、5192659号及び5272057号に記載される方法;Cellis, J.E.編「Cell Biology:A Laboratory Handbook」I〜III巻1994年;Coligan, J.E.編「Current Protocols in Immunology」I〜III巻1994年;Stitesら編「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton & Lange、米国コネティカット州ノーウォーク1994年;MishellとShiigi編「Selected Methods in Cellular Immunology」、W.H. Freeman and Co.、米国ニューヨーク1980年;また利用可能な免疫検定法は、例えば以下の特許と科学文献に広範囲にわたって記載されている。米国特許の3791932号、3839153号、3850752号、3850578号、3853987号、3867517号、3879262号、3901654号、3935074号、3984533号、3996345号、4034074号、4098876号、4879219号、5011771号及び5281521号;Gait,M.J.編「Oligonucleotide Synthesis」1984年;Hames, B.D.及びHiggins S.J.編「Nucleic Acid Hybridization」1985年;Hames,B.D.及びHiggins S.J.編「Transcription and Translation」1984年;Freshney, R.I.編「Animal Cell Culture」1986年;「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press 1986年;Perbal, B.著「A Practical Guide to Molecular Cloning」1984年及び「Methods in Enzymology」1〜317巻、Academic Press;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、Academic Press、米国カリフォルニア州サンディエゴ1990年;Marshakら、「Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual」、CSHL Press、1996年;なおこれらの文献類は、あたかも本願に完全に記載されているように援用するものである。その外の一般的な文献は、本明細書を通じて提供される。本明細書に記載の方法は当業技術界で周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。本明細書に含まれるすべての情報は本願に援用するものである。
【0129】
材料および方法
植物材料および測定。L.esculentum(E)および野生種L.hirsutum(H)の種間雑種形成に基づく戻し交配育種プログラムに由来する1組の、準同質遺伝子の遺伝子移入系統(これらは、果実が脱水する形質によって区別される)を、ここで要約されるような以前の記載(国際特許出願公開WO0113708)のように開発した。E育種系統1630の植物を野生種H(LA1774)と受粉させた。雑種F植物を自家受粉させ、これによりF種子を作製した。3つのF植物を、熟したときのそれらの大きな糖含有量に基づいて選抜した。F種子をまき、これら3つのF選抜体のF植物のそれぞれの10個の植物を成長させ、果実を、熟する通常の段階が過ぎるまでつるにつけたままにし、収穫した。F植物の中で、1つの植物(F3−203−10)は、果皮のしわ形成によって明白になる、果実が脱水する徴候の特徴を示した。系統育種プログラムを開発し、これは、このF個体をF世代まで自植し、その後、果実の脱水速度について厳しく選抜することからなった。その後、植物をE育種系統に対して戻し交配し、この交配の産物をさらに4世代にわって自植して、BC1F4集団を作製した。この集団からの脱水性の個体をEに対するさらに1回の戻し交配に付して、その形質を備えた雑種植物を作製した。2つのF集団(2394および2395)をこれらのF個体から構築した。
【0130】
最初に、選抜手順は果実の脱水の表現型および果実のクチクラにおける微細亀裂に基づいていた。この形質に連鎖する分子マーカーを開発した後、選抜を遺伝子型に従って行った。切断増幅多型(CAPS)マーカーを分子マーカーとして使用した。CAPSを、エンドヌクレアーゼ酵素によって切断される特異的なPCR生成物を使用して開発した(さらには下記における「DNA分析」を参照のこと)。
【0131】
植物を、以前の記載(MironおよびSchaffer、1991)のように、標準的な方法に従って温室において15−1ポットで成長させた。果実の平均重量および脱水速度を、5個の成熟した赤い果実をそれぞれの植物から摘み取り、その重量を測定し、果実を室温(約25℃)で網テーブルに置き、2日〜3日毎にその重量を測定することによって求めた。果実のクチクラにおける微細裂溝(MF)の存在を、拡大鏡(2倍)または双眼顕微鏡(10倍)のいずれかによって確認した。
【0132】
DNA分析。ゲノムDNAをFulton他(1995)に従って抽出した。CAPS(切断増幅多型)マーカーを、下記のように、高密度トマトマップ(Tanksley他、1992)から選択されたRFLPマーカーから開発した。選択されたRFLPマーカーを表すトマトDNAインサートを含有するBlueScriptプラスミドベクター(Stratagene)がTomato Genome Center(Weizmann Institute of Science、Rehovot、イスラエル)によって譲渡された。ゲノムDNA挿入セグメントを、T7プライマーおよびSP6プライマー(それぞれ、配列番号1および配列番号2)を使用してHebrew大学(Jerusalem、イスラエル)のDNA分析部門において部分的に配列決定した。これらの配列分析結果に従って、配列特異的なPCRプライマーを、Primer Express Program(バージョン1.0)(Perkin Elmer Biosystems)を使用して設計した。合計でおよそ20個のマーカーを設計し、これらを、L.esculentumおよびL.hirsutumの親遺伝子型の間での多型、ならびに、L.hirsutum由来形質において異なるトマト系統の間での多型の存在を明らかにするために調べた。
【0133】
下記は、第4染色体上の位置を表す2つのマーカー(TG163およびTG587)についてのPCRプライマーである。

【0134】
増幅反応を、熱安定なTaq DNAポリメラーゼ(SuperNova Taqポリメラーゼ、JMR Products、Kent、英国)を使用して、自動化されたサーモサイクラー(Mastercycle Gradient、Eppendorf、ドイツ)で行った。反応を、10x反応緩衝液、0.125mMの各デオキシヌクレオチド、0.5μlの各プライマー、2.5ユニットのTaqポリメラーゼおよび50ng〜100ngのトマトゲノムDNAを含有する25μlの最終体積で行った。条件を、各プライマー組のためのアニーリング温度および生成物のフラグメントサイズについて最適化した。L.esculentumの対立遺伝子とL.hirsutumの対立遺伝子との間での多型を生じさせる制限エンドヌクレアーゼを特定するために、反応を、3.5μlのPCR生成物、1μlの10x高濃度制限酵素緩衝液および1ユニット〜3ユニットの適切な制限エンドヌクレアーゼを含有する10μlの最終体積で行った。消化生成物を1%ゲルで分析した。DraIおよびHinF1がTG163およびTG587についてそれぞれ適切であることが見出され、これらを分離集団に対して使用した。類似した手順をそれ以外のCAPSマーカーの設計のために適用した。
【0135】
本研究で使用されたすべてのBACS(細菌人工染色体)が、Tomato Heinz 1706BACライブラリーフィルター(LE_HBa)を使用してClemson大学Genomic Institute(Clemson、North Carolina、米国)から提供された。トマトBACライブラリーフィルターを、NEBlot(商標)キット(New England BioLabs,inc.、#NI500S)を使用して、かつ、供給者の説明書に従って標識された下記に記載されるような放射性プローブによって特異的なBACクローンについてスクリーニングした。フィルター上の標識されたBACコロニーを、蛍光体画像化装置(FLA−5000;FujiFilm)を使用して検出した。BACプラスミドを、QIAGEN(登録商標)Maxiプラスミド精製キット(#12263)を使用して、一致している大腸菌株から精製した。「染色体ウォーキング」手法のために、BACの端部を、SP6プライマーおよびT7プライマーを使用して配列決定し、PCR生成物をBAC末端配列に従って展開した。新しい精製されたPCR生成物を放射能標識し、トマトフィルターコロニーのもう一回の検出のために使用した。
【0136】
LE_HBa37B8 BACクローン(Clemson大学Genomic Institute、Clemson、North Carolina、米国)をBlueScriptII ks+ベクター(Stratagene)にサブクローン化し、配列決定した。15kb部分を、上記で記載されたように、プライマーを開発し、PCRによってクローン化し、そして、関連した部分を配列決定することによって完全に配列決定した。DNA配列を、BLASTソフトウエア(Altschul他、1990)を使用することによってNCBIの核酸データベースおよび翻訳タンパク質データベースを使用して分析した。
【0137】
RNA分析および定量的RT−PCR分析。cDNAの調製のために、総RNAを、以前の記載(Miron他、2002)のように抽出した。総RNAを、Super−scriptII予備増幅システム逆転写酵素キット(Gibco BRL、LifeTechnologies、英国)を供給者の説明書に従って42℃で用いた第1鎖cDNA合成のためのテンプレートとして使用した。
【0138】
PCRプライマー。オンライン定量的PCRのための短いアンプリコンを伴う特異的なプライマーを、下記の3つのORFのBAC配列決定に由来する配列に基づいて、Primer Express Program(バージョン1.0)(Perkin Elmer Biosystems)を用いて設計した:1)ZINC遺伝子、フォワード、5’−AATAATGCGAATCGAATCACTA−3’(配列番号7)、および、リバース、5’−AAGGCTAAATCTCCTCCTTTCT−3’[配列番号8、140bpのアンプリコン(配列番号9)]、2)DBP遺伝子、フォワード、5’−TGGATAAGCGGACGACTCTATTG−3’(配列番号10)、および、リバース、5’−CTGTTGTTTGGGAAGTGGCTTCT−3’[配列番号11、116bpのアンプリコン(配列番号12)]、3)PUT遺伝子、フォワード、5’−CTCTCCTTGGCCCAAGGCTCAA−3’(配列番号13)、および、リバース、5’−CAGCTTTAGTGGTATCTCTCATCA−3’[配列番号14、205bpのアンプリコン(配列番号15)]。アクチンを、Geneバンクアクセション番号BF096262に基づく下記のプライマーにより、基準遺伝子として使用した:フォワード、5’−CACCATTGGGTCTGAGCGAT−3’(配列番号16)、および、リバース、5’−GGGCGACAACCTTGATCTTC−3’[配列番号17、251bpのアンプリコン(配列番号18)]。
【0139】
cDNAを、製造者の説明書(PE Biosystems)に従って、AmpliTaq Goldを含有するSYBRグリーンマスターミックスを使用するGeneAmp5700配列検出システム(PE Biosystems)での定量的PCR増幅のためのテンプレートとして使用した。サーモサイクラーを、95℃で30秒間の変性の最初の段階、15秒間の62℃のアニーリング温度、および、30秒間の72℃の伸張温度により、すべての反応のために40サイクルについてプログラムした。データ取得を77℃で30秒間行った。PCR生成物の予備的な解離分析により、77℃を超えて残留する生成物は特異的なPCR生成物であることが示された。正規化のためのアクチンプライマーに加えて、対数的に増大する既知のcDNAレベルを含有する標準曲線をそれぞれのプライマー組を用いて作製した。すべてのリアルタイムPCR生成物を2%アガロースゲルで調べ、同一性認定のための配列決定のために送付した。
【0140】
全長put遺伝子のクローニング。推定されるタンパク質遺伝子(put)の全長配列を、下記のプライマーを使用して、HH系統の果実(開花後10日)から得られたcDNAから増幅した:Putフォワード:5’−GTAGTACTATATAAACCATGTGAG−3’(配列番号19)およびPutリバース:5’−CATATGTTGACATATCTAATG−3’(配列番号20)。全長遺伝子[(配列番号20)、930bp]を、T−Aクローニング手法を使用してpGEM−Teasyベクター(Promega)にクローン化し、その後、EcorI(NEB #R0101)エンドヌクレアーゼを使用してBlueScriptIIks+ベクター(Stratagene)にサブクローン化した。put遺伝子(配列番号21)を、XhoI(NEB #R0146)エンドヌクレアーゼおよびXbaI(NEB #R0145)エンドヌクレアーゼを使用して、pBIN PLUSバイナリーベクター(Ghosh他、2002)のカリフラワー35Sプロモーター部位とn−ターミネーター部位との間に再びサブクローン化した。
【0141】
トランスジェニック植物。put遺伝子を35Sプロモーター下に含む構築されたベクターを大腸菌(DH5α菌株、Stratagene)に形質転換し、その後、WalkerpeachおよびVelten(1994)によって記載される方法を使用してEHA105アグロバクテリウムエレクトコンピテント細胞に再び形質転換した。プラスミドを、ミニプレップキット(Qiagen、#12143)を使用して調製し、欠失部および他のクローニング誤りがないことを確実にするための配列決定のためにpBIN PLUSに再び形質転換した。
【0142】
トマト形質転換実験を、Meissner他(1997)によって記載されるようにcv MicroTomを使用して、また、Barg他(1997)によって記載されるようにcv.MP1を使用して行った。トランスジェニックシュートを、1mgL−1のゼアチン(Duchefa、#Z0917)、100mgL−1のカナマイシンおよび100mgL−1のクラフォランが補充されたMurashigeおよびSkoogの基礎培地(Duchefa、Haarlem、オランダ)において発根させた。形質転換された植物を成長させる標準的な操作を行う。
【0143】
(実施例1)
脱水形質の遺伝分析
微細裂溝(MF)が果皮上に現れる形質の遺伝を、標準小果栽培種(系統1815)と、脱水の形質を示す改良された遺伝子移入系統(系統1881)との間での交配に基づく2つの独立した分離するF集団(系統2394および系統2395)において明らかにした。分離集団における微細裂溝の出現の分布パターンは、χ二乗確率値が集団2394および集団2395についてそれぞれ0.546および0.864で、微細裂溝クチクラ:標準クチクラについて3:1の比率に従っていた(表1、下記)。

【0144】
この分布パターンは、優性/劣性の対立遺伝子関係による一遺伝子遺伝について特徴的である。
【0145】
果実の脱水の形質(CWP)は集団2394では3:1の比率に従って分離し、一方、集団2395では分離は1:2:1の比率に従っており、中間的な脱水速度ではあったが、集団のおよそ半分が脱水性であった。従って、対立遺伝子の関係は、集団の遺伝的背景に依存して完全優性または半優性のいずれかであることが結論される(図1a〜図1b)。上記から、果実の形質CWPが、本明細書中ではCwpと呼ばれる一遺伝子形質として遺伝することが結論され得る。
【0146】
(実施例2)
cwp遺伝子の詳細なマッピング
高密度トマトRFLPマップ(Tanksley他、1992)に基づいて、1組のCAPS(切断増幅多型)マーカーを設計した。網状化上皮についてのQTLに連鎖するマーカー(Fulton他、2000、第4染色体、第6染色体、第8染色体および第12染色体にそれぞれ突き止められたTG464、TG477、CT68およびTG68のマーカー)を含めて、様々なゲノム位置を表す遺伝子座を微細裂溝の形質との連鎖の分析のために調べた。PCRに基づく多型分子マーカーのそれぞれを、両方の親に対して、また、その形質について分離する48個のF個体の1組に対して適用した。
【0147】
最初の1組のマーカーに基づいて、Cwp遺伝子の位置が、およそ3cMの推定される距離によってCT199マーカーに連鎖する第4染色体のテロメア部分に決定された(96個の配偶子における2つの組換え事象、図2a)。第4染色体のテロメア領域のより詳細なマッピングのために、さらに一群のCAPSマーカーを、この染色体セグメントの全体にわたって位置する一連のマーカーのために設計した。L.hirsutum親からの染色体の遺伝子移入セグメントがCT163マーカーとTG464マーカーとの間に突き止められた(図2b)。この遺伝子移入部は、この分析において脱水性のドナー親として使用された準同質遺伝子系統におけるL.hirsutumセグメントを表す。
【0148】
遺伝子移入サイズをさらに狭くするために、より大きなF集団(200を超える個体)を、CT199マーカーとTG464マーカーとの間で、PCRに基づくマーカーを用いて調べた。密接に連鎖するクラスター(1.5cM未満)の分子マーカーが、Cwp遺伝子に隣接するとして明らかにされ(図2c)、また、この研究に基づいて、Cwp遺伝子がTG464とCT61との間に突き止められた(0.5cM)。
【0149】
(実施例3)
cwp遺伝子のポジショナルクローニング
この小さい遺伝子移入体への限定化により、Cwpのポジショナルクローニングが可能になった。この目的のために、準同質遺伝子系統に由来するヘテロ接合性個体のさらに3500個の分離子孫(7000個の配偶子)を、TG464マーカーおよびCT61マーカーを用いたCAPSマーカー分析に供し、これにより、12個の組換え体(「1回目」の詳細なマッピングにおける同じマーカーの間での0.5cMと比較して0.34cM)が明らかにされた。連鎖するTG464マーカーおよびCT61マーカーを橋渡しする5個の連続したBACの1組を特定し、染色体ウォーキング技術を使用して組み立てた。簡単に記載すると、これを、BAC末端を配列決定し、BAC末端を、連続したBACを特定するためのプローブとして使用することによって達成した。
【0150】
新しいBACを遺伝子移入体に関して設置するために、また、より高分解能のマップを作製するために、これら2つの生物種についての多型CAPを開発し、組換え体をこれらの新しいマーカーについて調べた。
【0151】
5個の連続したBACはCT61およびTG464のCAPSマーカーの間での橋渡しをもたらした(図3a)。12個の組換え植物のそれぞれについて、自殖した子孫を成長させ、適切な分離マーカーを用いて遺伝子型決定し、脱水と、微細裂溝の出現とについて分析した。最初に特定された12個の組換え事象のうち、3つがさらに、BAC37B8の両端の間に突き止められた(図3a−2つの破線によって限定される領域)。このことは、Cwpが37B8 BACにおいて突き止められたことを示している。これらの組換え事象をさらに解明するために、BAC37B8をサブクローン化し、そのより小さいフラグメントを順序正しく組み立て、Cwp遺伝子がその内部に位置するおよそ15,000bp(15kb)のセグメントを特定した(図3b、低分解能でのマッピングデータおよびサブクローン化されたコンティグデータは示されていない)。
【0152】
(実施例4)
候補遺伝子のバイオインフォマティクス分析
実施例3で記載されたBAC37B8における15kbのセグメントをBluescriptベクター(Stratagene)にサブクローン化し、配列決定し、その後、SEQUENCHERソフトウエアパッケージ(Gene Codes Corporation)を使用して組み立てた。
【0153】
BLASTプログラム(BLASTP、NCBI、http://www.ncbi.nlm.nih.gov)による分析の後でのこの15kbの配列のバイオインフォマティクス分析により、3つの候補オープンリーディングフレーム(ORF、図4)が明らかにされた。最初のORFは、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来の機能不明のタンパク質(GenBankアクセション番号NP_189369.1)に対する類似性を示した(タンパク質同一性、約44%;相同性、約61%)。このタンパク質は2つのドメインを有する。第1のドメインはRINGフィンガードメイン(rpsBLAST−NCBI保存ドメイン検索)(2原子の亜鉛と結合する40残基〜60残基の特殊化されたタイプのZnフィンガー)であり、タンパク質−タンパク質相互作用を媒介することにおそらくは関与する(Borden、1998)。このドメインは、広範囲の機能(例えば、ウイルス複製、シグナル伝達および発達など)を有するタンパク質において特定されていた。このドメインは、異なるシステイン/ヒスチジンパターンを有する2つの変化体(C3HC4タイプおよびC3H2C3タイプ(RING−H2フィンガー))を有する。もう一方のドメインはDUF23であり、これは機能不明のドメインである。このドメインは、線虫(C.elegans)およびショウジョウバエのタンパク質に見出される、長さがおよそ300残基の領域からなるファミリーの一部である。この領域は、触媒作用残基として機能し得る数個の保存されたシステイン残基および数個の荷電アミノ酸を含有する。このORFを「Zinc」と名付けた。興味深いことに、Arabidopsisホモログに対するトマトZincの相同性は、「Ringフィンガー」の部位においてではなく、DUF23部位においてだけであり、「Ringフィンガー」ドメイン領域はZincトマト遺伝子では失われている。
【0154】
第2のORFは、DNA結合性のブロモドメイン含有タンパク質に対する類似性を示した(シロイヌナズナGenBankアクセション番号NP_974153.1、タンパク質同一性、約37%;相同性、56%)。この遺伝子は、タンパク質、DNAおよびクロマチンのアセチル化調節に関連するDNA結合タンパク質ファミリーの一部であり、また、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ調節の一部である(Dhalluin他、2000)。本発明者らはこの遺伝子を「DBP」(DNA結合タンパク質)と名付けた。
【0155】
第3のORFは、単に「発現タンパク質」として記載されただけのタンパク質(シロイヌナズナAt4g38260、GenBankアクセション番号NP_568038.1)に対する類似性を有していた(タンパク質同一性、約48%;相同性、67%)。これは機能不明のドメイン(DUF833)を含有する。これは、真核生物、原核生物およびウイルスに見出され、機能が不明であるファミリーの一部である。1つのメンバーが、マウスにおける初期胚発生の期間中に発現することが見出されている(Halford他、1993)。この遺伝子を「PUT」(推定される(putative))と名付けた。これら3つの候補遺伝子はどれも、クチクラ生合成代謝の知られている段階において関係する遺伝子に対する何らかの類似性または相同性を示さなかった。
【0156】
(実施例5)
候補遺伝子の発現分析
これら3つの遺伝子のうちのどれがトマト果実のクチクラ発達に関連するかを明らかにするために、それらのCwp対立遺伝子において異なる準同質遺伝子系統におけるこれら3つの遺伝子のそれぞれの発現レベルを測定した[L.hirsutumの脱水対立遺伝子(HH)およびL.esculentumの非脱水対立遺伝子(EE)、図5a〜図5b]。下記の段階の子房および果実に由来するmRNAを抽出した:開花、開花後5日および15日、ならびに、未成熟な緑色の発達段階、成熟した緑色の発達段階、および、損壊の発達段階(図5a〜図5b)。果実の試料を、ポジショナルクローニング手法のために使用された同じ分離集団から取った。これらの遺伝子のそれぞれの発現をRT−PCRによって調べた。DBPは、子房段階でのみ、両方の遺伝子型(HHおよびEE)において等しく発現しており、従って、このことは、この遺伝子の発現は表現型形質に関連しないことを示していた(図5b)。Zinc遺伝子の発現は、いずれかの表現型において、果実のどの段階でも観測されず、このことは同様に、その発現は脱水の形質に関連しないことを示していた(データは示されず)。
【0157】
PUTのみが発達中果実の若い段階で発現し、さらに、CwpについてのL.hirsutum対立遺伝子(HH)を伴う脱水表現型の果実だけにおいて示差的に発現していた(図5a)。この研究で観測された最も大きい発現は開花後15日の小果実段階であった。
【0158】
PUT遺伝子の示差的な発現パターンを確認するために、M82トマト産業用栽培種に由来するさらなる集団におけるこの遺伝子の発現を分析した。1つの集団は、脱水性系統(系統2168)とM82限定(determinate)栽培種との雑種形成から生じたヘテロ接合の個体に由来するF集団であった。本発明者らは開花後5日〜15日の段階(最初の発現分析において最大の発現レベルを伴う段階)で3つすべての分離表現型の発現(HH、HE、EE)を調べた。図6に示されるように、PUT遺伝子の古典的なメンデル型の発現パターンが見出され、HH遺伝子型が最大の発現レベルを示し、ヘテロ接合のHE個体はおよそ半分の発現レベルを示し、EE表現型は発現を有しなかった(図6における最初の3つの棒)。
【0159】
加えて、PUT遺伝子の発現を、別のNIL(準同質遺伝子系統)集団(L.esculentum(M82)と、本明細書中に記載されるL.hirsutum由来の遺伝子型(EshedおよびZamir、1994)と類似する遺伝子移入を含有するさらなる野生種(L.pennellii)との種間雑種形成に由来する遺伝子移入系統4.4)において調べた。この集団はPUT遺伝子の別の野生対立遺伝子を表し、IL4.4の果実もまた微細裂溝を示し、かつ、脱水する。L.hirsutum由来の集団と同様に、CwpについてのL.pennelliiの対立遺伝子を含有するL.pennellii由来の遺伝子移入体(IL4.4)は、M82と比較して、若い小果実におけるPUT遺伝子の発現を示した(図6、最後の2つの棒)。
【0160】
PUT遺伝子を発現するトランスジェニックトマト植物
Put遺伝子の発現が特有のクチクラ発達形質に関連することを示すために、PUT遺伝子が35Sプロモーターの制御下にあるトランスジェニックトマト植物を(記載されたように、pBIN PLUSバイナリーベクターを使用して)開発した。表現型形質がトランスジェニック植物において観測され、このことは、Putの発現がこの形質に関連することを示している。
【0161】
最初のトランスジェニック植物の自植に由来する個々の分離T1植物の遺伝子量を明らかにするために、それぞれのT1植物から得られた50個〜70個の種子を、100mg/mlのカナマイシンを含有する1/2MS培地に播種した。発芽後、正常な根を有する実生の百分率を求めた。実生の100%が正常な根の成長を示したとき、そのT1植物を導入遺伝子についてホモ接合性であると見なした。正常な根を有するおよそ75%のT2実生は、T1植物が導入遺伝子についてヘテロ接合性であったことを示した。今回は観測されなかったが、他の比率は、導入遺伝子の連鎖しないコピー体が2つ以上存在することを示し得る。2つの独立したT1分離集団から得られた16個のT1個体を、それらの対立遺伝子構成を明らかにするために分析した。その場合、3つの分類を、PUT遺伝子の対立遺伝子量と、表現型形質との間での関係を明らかにするために使用した。
【0162】
図7a〜図7bに示されるように、果実のクチクラにおける微細裂溝の表現型形質(MF−)がT世代において既に観測された。20個の独立したTトランスジェニック個体から、4つの植物(MF1−1、MF1−4、MF1−8、MF1−12)が果皮における様々なレベルのMFを示した。加えて、これらのトランスジェニック植物は野生型の果実よりも大きな脱水速度を示した(図7b)。
【0163】
2つの分離T集団を成長させ、MFの存在および脱水速度について調べた。図8a〜図8bは、果実の微細裂溝の重篤性(1〜5の尺度、図8a)および重量減少割合(室温で14日後、図8b)に対するPUT導入遺伝子コピー数の影響を示す。PUT遺伝子のコピー数を材料および方法の節でのように求めた。
【0164】
図9a〜図9bは、野生トマト種(Solanum habrochaites S.)由来のPUT遺伝子のコピー体を発現しないトランスジェニックトマト個体(T世代)(これは野生型と類似する)と、野生トマト種(Solanum habrochaites S.)由来のPUT遺伝子の2コピーを発現するトランスジェニックトマト個体(T世代)との間での比較を示す。図9a−PUT遺伝子のコピー体を有しない個体(0コピー)に由来する果実の無傷の表面、および、2コピーの導入遺伝子を有する個体の微細裂溝の果実を示す走査電子顕微鏡写真。図9b−PUT遺伝子のコピー体を有しない個体(0コピー)と、2コピーを有する個体(2コピー)との間での乾燥速度の比較。
【0165】
これらの結果は、PUT遺伝子の存在が微細列溝の表現型および果実の脱水に対する原因であることを明瞭に示している。
【0166】
遺伝子配列に基づく系統生物学的分析は、cwpが、Arabidopsisにおける3つのメンバーによって代表される遺伝子ファミリーの一部であることを示している(図10a〜図10b)。Lecwp1遺伝子に対して30%の相同性を示すさらなるトマトホモログ(cwp2)が存在し、これは栽培トマトでは実際に発現している(EST No.AW621927)。
【0167】
興味深いことに、このホモログは、トマト果実の上皮網状化についての報告されたQTL(Frary他、2004)が存在するトマトの染色体2−1に位置づけられる。ナス科の栽培トウガラシの発達中の果実もまた、Lecwp1遺伝子に対する大きな類似性(87%)を有するcwpホモログをその上皮組織において発現し、また、トウガラシの果実は、収穫後の水分喪失の園芸学的問題、ならびに、パプリカ栽培品種における果実の脱水という望ましい特質によって特徴づけられる。従って、CWP遺伝子のホモログもまた、クチクラの改変および水透過性に寄与し得ることが考えられる。
【0168】
これらの結果は、cwp遺伝子の発現が、果実の拡大期間中における裂溝形成を弾性低下のためにおそらくは受ける(重量およびTEMに基づいて)構造的に変化したクチクラをもたらすことを示している。しかしながら、この現象は、非常に発達した果実クチクラを有する果実(例えば、無気孔性の厚い皮の栽培トマトなど)においてだけ観測されており、その特徴的なより薄いクチクラを有する野生種の果実では明らかではない。栽培トマト果実の発達期間中におけるクチクラ成分の堆積は、未成熟な緑色段階から成熟した緑色段階への移行期間中に急激な変化を受け、従って、これが微細裂溝表現型の観測と一致することは妥当である。
【0169】
明確にするため別個の実施態様で説明されている本発明の特定の特徴は単一の実施態様に組み合わせて提供することもできることは分かるであろう。逆に、簡潔にするため単一の実施態様で説明されている本発明の各種の特徴は別個にまたは適切なサブコンビネーションで提供することもできる。
【0170】
本発明はその特定の実施態様によって説明してきたが、多くの別法、変更及び変形があることは当業者には明らかであることは明白である。従って、本発明は、本願の請求項の精神と広い範囲の中に入るこのような別法、変更及び変形すべてを包含するものである。本願で挙げた刊行物、特許及び特許願、及びGenBankアクセション番号はすべて、個々の刊行物、特許または特許願、またはGenBankアクセション番号が各々あたかも具体的にかつ個々に引用提示されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願で引用又は確認したことは本発明の先行技術として利用できるという自白とみなすべきではない。
【0171】





【図面の簡単な説明】
【0172】
【図1】集団2148(図1a)および集団2149(図1b)における脱水速度に対するcwp(PUT)遺伝子型の影響を示すグラフである。
【図2】CWP遺伝子の詳細なマッピングを示す(図2a〜図2c)。
【図3】CWP遺伝子の物理的配置を示す(図3a〜図3b)。
【図4】Cwp遺伝子を含むL.hirsutum由来の15kbの遺伝子移入を例示する。
【図5】トマトの発達中の子房および小果実におけるPUT遺伝子(図5a)およびDBP遺伝子(図5b)の発現分析を示すグラフである。
【図6】トマト遺伝子型の15日目の小果実におけるPUT遺伝子の発現分析を示すグラフである。
【図7】野生トマト種のSolanum habrochaites S.(以前は、Lycopersicon hirsutum Mill.)に由来するPUT遺伝子を35S構成的プロモーター下で発現するトランスジェニックトマト植物(T)を示す(図7a〜図7b)。
【図8】果実の微細裂溝の重篤性(1〜5のスケール、図8a)および重量減少割合(室温で14日後、図8b)に対するPUT導入遺伝子コピー数の影響を示す。
【図9】コピー体を発現しないトランスジェニックトマト個体(T世代)(これは野生型に類似する)と、野生トマト種のSolanum habrochaites S.に由来するPUT遺伝子の2コピーを発現するトランスジェニックトマト個体(T世代)との比較を示す(図9a〜図9b)。
【図10a】CWP1およびCWP2、ならびに、単子葉植物種および双子葉植物種に由来する関連した配列(配列番号21、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号48、配列番号50、配列番号52、配列番号54および配列番号56)の保存を示す系統樹である。
【図10b】CWP1およびCWP2、ならびに、単子葉植物種および双子葉植物種に由来する関連した配列(配列番号21、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号48、配列番号50、配列番号52、配列番号54および配列番号56)の保存を示す系統樹である。
【図11−1】EMBL−EBIのClustalWソフトウエアによって作製された本発明のCWP1ファミリーの種々のタンパク質メンバーの間での多重アラインメントを示す。
【図11−2】EMBL−EBIのClustalWソフトウエアによって作製された本発明のCWP1ファミリーの種々のタンパク質メンバーの間での多重アラインメントを示す。
【図11−3】EMBL−EBIのClustalWソフトウエアによって作製された本発明のCWP1ファミリーの種々のタンパク質メンバーの間での多重アラインメントを示す。
【配列表フリーテキスト】
【0173】
配列番号1〜8、10、11、13、14、16、17、19、および20は、一本鎖DNAオリゴヌクレオチドの配列である。
配列番号9は、トマトZINC遺伝子アンプリコンの配列である。
配列番号12は、トマトDBP遺伝子アンプリコンの配列である。
配列番号15は、トマトPUT遺伝子アンプリコンの配列である。
配列番号18は、トマトアクチンアンプリコンの配列である。
配列番号58は、cwp1遺伝子プロモーターの機能的フラグメントの配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号22に対して少なくとも88%相同的であるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドであって、このポリペプチドを発現する植物のクチクラの水透過性を増大させることができる、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記核酸配列は、配列番号21または配列番号23に示される通りである、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記アミノ酸配列は、配列番号22に示される通りである、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチドを含む核酸構築物。
【請求項5】
前記核酸配列に機能的に連結されたプロモーターをさらに含む、請求項4に記載の核酸構築物。
【請求項6】
請求項4に記載の核酸構築物を含む宿主細胞。
【請求項7】
請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド含む遺伝子改変された植物。
【請求項8】
請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイゼーションすることができるオリゴヌクレオチド。
【請求項9】
配列番号22に対して少なくとも88%相同的であるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドであって、このポリペプチドを発現する植物のクチクラの水透過性を増大させることができる、単離されたポリペプチド。
【請求項10】
請求項9に記載の単離されたポリペプチドを特異的に認識することができる抗体。
【請求項11】
野生のLycopersicon spp.に由来する遺伝子移入を含むゲノムを有する栽培トマト植物であって、前記遺伝子移入は、テロメアマーカーTG464からセントロメアマーカーCT173にまで広がる染色体部分よりも小さい、前記Lycopersicon spp.の第4染色体の一部を含み、前記遺伝子移入は、栽培トマト植物のクチクラの水透過性を増大させることができる、栽培トマト植物。
【請求項12】
作物植物の脱水した果実を製造する方法であって、配列番号22に対して少なくとも30%相同的であるアミノ酸配列を有するポリペプチドを発現するように植物を遺伝子改変することを含み、前記ポリペプチドは、このポリペプチドを発現する植物のクチクラの水透過性を増大させることができる、方法。
【請求項13】
果実を植物につけたまま脱水させること、および、続いて、
脱水した果実を集めること
をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
作物植物からの果実をその脱水の前に取り除くこと、および、続いて、
果実を脱水させること
をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
配列番号22に対して少なくとも30%相同的であるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドを含む遺伝子改変された種子であって、前記ポリペプチドは、このポリペプチドを発現する植物のクチクラの水透過性を増大させることができる、遺伝子改変された種子。
【請求項16】
配列番号22に対して少なくとも30%相同的であるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドを含む遺伝子改変された果実であって、前記ポリペプチドは、このポリペプチドを発現する植物のクチクラの水透過性を増大させることができる、遺伝子改変された果実。
【請求項17】
前記核酸配列は、配列番号21、配列番号23、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号48、配列番号50、配列番号52、配列番号54または配列番号56に示される通りである、請求項12、15、または16に記載の、方法、遺伝子改変された種子、または遺伝子改変された果実。
【請求項18】
前記アミノ酸配列は、配列番号22、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号53、配列番号55または配列番号57に示される通りである、請求項12、15、または16に記載の、方法、遺伝子改変された種子、または遺伝子改変された果実。
【請求項19】
配列番号22に対して少なくとも30%相同的であるアミノ酸配列を有するポリペプチドを発現する遺伝子改変された植物であって、前記ポリペプチドは、植物のクチクラの水透過性を増大させることができる、遺伝子改変された植物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図11−3】
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【図7】
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【図9】
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【公表番号】特表2008−513004(P2008−513004A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−531955(P2007−531955)
【出願日】平成17年9月19日(2005.9.19)
【国際出願番号】PCT/IL2005/001000
【国際公開番号】WO2006/030445
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(506000287)ザ ステート オブ イスラエル−ミニストリー オブ アグリカルチャー アンド ルーラル ディヴェロプメント, アグリカルチュラル リサーチ オーガニゼーション (4)
【Fターム(参考)】