説明

増殖性障害の治療レジメン

対象の増殖性障害を治療または改善するための方法が本明細書において提供される。本方法は、1用量の免疫抑制剤を対象に投与し、続いて、1〜5用量のレオウイルスを対象に投与する工程を含む。免疫抑制剤は、レオウイルスを投与する少なくとも約72時間前に対象に投与される。対象の増殖性障害を治療または改善するための方法であって、腫瘍溶解性ウイルスおよびB細胞調整剤を対象に投与する工程を含む方法も本明細書において提供される。腫瘍溶解性ウイルスおよび少なくとも1つのB細胞調整剤を含むキットおよび薬学的組成物も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、2007年10月22日に出願された、米国仮特許出願第60/981,716号に対する恩典を主張する。
【背景技術】
【0002】
医学研究での数々の進歩にもかかわらず、癌は依然として死亡の主要な原因である。癌に対する治療戦略の探索において、腫瘍溶解性ウイルス療法は、腫瘍細胞を特異的に殺傷する実行可能なアプローチとして最近浮上してきた。従来の遺伝子療法とは異なり、この療法は、ウイルスの複製およびそれに付随する細胞溶解によって腫瘍組織の全体に広がることができる複製コンピテントウイルスを使用し、代替となる癌治療を提供している。今日、選択的に複製し、癌細胞を殺傷するウイルスが同定されている。
【0003】
腫瘍溶解性ウイルスは、複数の作用機構、すなわち、細胞溶解、細胞アポトーシス、抗血管新生、および細胞壊死を利用して、癌細胞を殺傷し得る。このウイルスは、腫瘍細胞に感染し、その後、複製し始める。このウイルスは、腫瘍細胞がもはやこのウイルスを収容することができなくなった時に宿主細胞の膜が溶解する(破裂する)まで複製し続ける。腫瘍細胞は破壊され、新たに作り出されたウイルスは隣接する癌細胞に広がって、このサイクルを続ける。腫瘍溶解性ウイルスは、癌細胞のみで複製することおよび正常組織に危害を起こすことなく正常組織を通り過ぎることが意図されている。したがって、ひとたび全ての腫瘍細胞が根絶されれば、腫瘍溶解性ウイルスはもはや複製する能力を有さず、体から取り除かれる。
過去数年間にわたって、ウイルス細胞毒性の分子機構についての新しい洞察から、より効果的な腫瘍溶解性ウイルスを設計する科学的な論理的根拠が与えられてきた。分子生物学の最近の進歩によって、腫瘍細胞で特異的に複製しかつ腫瘍細胞を特異的に殺傷するアデノウイルスおよび単純ヘルペスウイルスなどの、いくつかの遺伝子改変ウイルスの設計が可能になった。内在性の腫瘍溶解能を有するウイルスも、臨床目的のために評価されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第12/124,522号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
対象の増殖性障害を治療または改善するための方法が本明細書において提供される。本方法は、1用量の免疫抑制剤を対象に投与し、続いて、1〜5用量のレオウイルスを対象に投与する工程を含む。免疫抑制剤は、レオウイルスを投与する少なくとも約72時間前に対象に投与されてもよい。治療レジメンは、レオウイルスの治療的有効性を最適化するよう設計される。
【0006】
対象の増殖性障害を治療または改善するための方法であって、腫瘍溶解性ウイルスおよびB細胞調整剤を対象に投与する工程を含む方法も本明細書において提供される。腫瘍溶解性ウイルスおよび少なくとも1つのB細胞調整剤を含むキットおよび薬学的組成物も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
レオウイルスとは、天然であれ、非天然であれ、改変されたものであれ、再集合体であれ、または組換え体であれ、レオウイルス属に分類される任意のウイルスを指す。レオウイルスは、二本鎖のセグメント化されたRNAゲノムを有するウイルスである。ビリオンは、大きさが直径60〜80nmであり、それぞれ正20面体である2つの同心性のカプシド殻を保持している。ゲノムは、10〜12個の別個のセグメントの二本鎖RNAからなり、16〜27キロ塩基対の全ゲノムサイズを有する。個々のRNAセグメントは大きさが異なる。3つの別個の、しかし関連する型のレオウイルスが多くの種から回収されている。3つの型は全て、共通の補体固定抗原を共有している。
【0008】
ヒトレオウイルスは3つの血清型、すなわち、1型(Lang株またはT1L)、2型(Jones株、T2J)、および3型(Dearing株またはAbney株、T3D)からなる。この3つの血清型は、中和反応およびヘマグルチニン阻害アッセイに基づいて容易に同定することができる。
【0009】
レオウイルスは、天然または非天然である。天然の源から単離することができ、かつ実験室で人為的に改変されていない場合、レオウイルスは天然である。例えば、レオウイルスは、野外源由来、すなわち、レオウイルスに感染したヒト由来であってもよい。実験室で改変または操作されている場合、レオウイルスは非天然である。例えば、非天然レオウイルスは、実験室株より選択されるかまたは突然変異が導入されている。非天然レオウイルスは、腫瘍溶解活性を増強するよう突然変異が導入されてもよい。本明細書で使用するとき、増強された腫瘍溶解活性という語句は、野生型レオウイルスまたは対照レオウイルスよりも活性のあるレオウイルスを指す。本明細書で使用するとき、腫瘍溶解活性とは、レオウイルスが新生物細胞を殺傷する能力を指す。したがって、例えば、増強された腫瘍溶解活性を有するレオウイルスは、対照レオウイルスまたは野生型レオウイルスと比較して、少なくとも約1.5、2、5、10、20、50、75、100倍または1.5から100倍の間の任意の量だけより多くの新生物細胞を殺傷する。任意で、増強された腫瘍溶解活性を有するレオウイルスは、対照レオウイルスまたは野生型レオウイルスと比較して、少なくとも約100倍以上の新生物細胞を殺傷する。
【0010】
レオウイルスは、改変されていてもよいが、依然として細胞、例えば、活性ras経路を有する哺乳動物細胞に溶解的に感染することができる。例えば、レオウイルスは、増殖細胞に投与する前に、化学的にまたは生化学的に(例えば、キモトリプシンもしくはトリプシンなどのプロテアーゼでの処理によって)前処理される。プロテアーゼでの前処理は、ウイルスの外側の被膜またはカプシドを除去し、ウイルスの感染性を増大させてもよい。レオウイルスは、リポソームまたはミセルに被覆されてもよい。例えば、ビリオンは、ミセル形成濃度のアルキルサルフェート界面活性剤の存在下にてキモトリプシンで処理され、新たな感染性のサブビリオン粒子(ISVP)を産生する。
【0011】
レオウイルスは、2つ以上の遺伝学的に異なるレオウイルス由来のゲノムセグメントの組換え/再集合から結果として得られる組換えレオウイルスまたは再集合レオウイルスであってもよい。レオウイルスゲノムセグメントの組換え/再集合は、自然に、または宿主生物を少なくとも2つの遺伝学的に異なるレオウイルスに感染させた後に実験室で起こり得る。組換えレオウイルスは、例えば、許容宿主細胞を遺伝学的に異なるレオウイルスに重感染させることによって、細胞培養で作製してもよい。
【0012】
したがって、ヒトレオウイルス(例えば、1型(例えば、Lang株)、2型(例えば、Jones株)、および3型(例えば、Dearing株もしくはAbney株))、非ヒト哺乳動物レオウイルス、または鳥類レオウイルスを含むが、これらに限定されない、2つ以上の遺伝学的に異なるレオウイルス由来のゲノムセグメントを含む組換えレオウイルスまたは再集合レオウイルスが本明細書において提供される。少なくとも1つの親ウイルスが遺伝子改変され、1つもしくは複数の化学合成されたゲノムセグメントを含むか、または化学的もしくは物理的な突然変異原で処理されている、2つ以上の遺伝学的に異なるレオウイルス由来のゲノムセグメントを含む組換えレオウイルスも提供される。
【0013】
硫酸ジメチルおよび臭化エチジウムを含むが、これらに限定されない、化学的突然変異原、または紫外線およびその他の形態の放射線を含むが、これらに限定されない、物理的突然変異原の存在下で組換えを経た組換えレオウイルスが提供される。1つもしくは複数のゲノムセグメントにおける欠失もしくは重複を含むか、宿主細胞ゲノムとの組換えの結果として付加的な遺伝情報を含むか、または合成遺伝子を含む組換えレオウイルスも提供される。
【0014】
突然変異した被膜タンパク質または被膜ポリペプチドを、例えば、ビリオンの外側カプシドなどに組み入れることによって、レオウイルスを改変してもよい。置換、挿入、または欠失によって、タンパク質を突然変異させてもよい。置換には、ネイティブなアミノ酸の代わりに異なるアミノ酸を挿入することが含まれる。挿入には、タンパク質またはポリペプチドの1つまたは複数の位置に付加的なアミノ酸残基を挿入することが含まれる。欠失には、タンパク質またはポリペプチド中の1つまたは複数のアミノ酸残基を欠失させることが含まれる。そのような突然変異を当技術分野において公知の方法で生成してもよい。例えば、被膜タンパク質のうちの1つをコードする遺伝子のオリゴヌクレオチド部位特異的突然変異生成によって、所望の突然変異体被膜タンパク質が結果として生成される。COS1細胞などの、レオウイルスに感染した哺乳動物細胞にインビトロで突然変異タンパク質を発現させることによって、突然変異タンパク質がレオウイルスビリオン粒子に組み入れられる。
【0015】
任意で、提供された方法は、1つまたは複数のゲノムセグメントに突然変異(挿入、置換、欠失、または重複を含む)を有するレオウイルスの使用を含む。そのような突然変異は、宿主細胞ゲノムとの組換えの結果として付加的な遺伝情報を含むかまたは合成遺伝子を含むことができる。例えば、本明細書に記載されたような突然変異体レオウイルスは、その全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第12/124,522号に記載されたように、λ3ポリペプチドの発現を低下させるかもしくは本質的に排除する、または機能的λ3ポリペプチドの不在をもたらす突然変異を含むことができる。λ3ポリペプチドの発現を排除するかまたは機能的λ3ポリペプチドの不在をもたらす突然変異は、λ3ポリペプチドをコードする核酸(すなわち、L1遺伝子)の中に、またはλ3ポリペプチドの発現もしくは機能を調節するポリペプチドをコードする核酸の中にあることができる。任意で、本明細書に開示されたレオウイルスをIDACアクセッション番号190907-01と認定する。
【0016】
レオウイルスは、レオウイルスに対する免疫反応を低下させるかまたは排除するよう改変されたレオウイルスであってもよい。そのような改変レオウイルスを免疫保護されたレオウイルスと呼ぶ。そのような改変には、レオウイルスを免疫系から隠すために、リポソーム、ミセル、またはその他のビヒクル中にレオウイルスをパッケージングすることが含まれる。外側カプシドに存在するタンパク質またはポリペプチドは、宿主の液性応答および細胞性応答の主要決定基であるので、任意で、レオウイルスビリオン粒子の外側カプシドを除去する。
【0017】
レオウイルスは、標準的な手法を用いて精製することができる。例えば、Schiff et al., 「Orthoreoviruses and Their Replication」、第52章(Fields Virology, Knipe and Howley編, 2006, Lippincott Williams and Wilkins);Smith et al., 1969, Virology 39(4):791-810;ならびに米国特許第7,186,542号;第7,049,127号;第6,808,916号;および第6,528,305号を参照されたい。本明細書で使用するとき、精製された突然変異体レオウイルスとは、本来レオウイルスに付随する細胞成分から分離されているレオウイルスを指す。典型的には、レオウイルスが、乾燥重量で少なくとも70%(例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、または99%)の、レオウイルスが本来会合しているタンパク質またはその他の細胞成分を含まないとき、レオウイルスは精製されているとみなされる。
【0018】
対象へのウイルスの投与とは、ウイルスが標的新生物細胞と接触するような形で対象にウイルスを投与する行為を指す。ウイルスを投与する経路、および製剤、担体またはビヒクルは、標的細胞の位置および種類による。多種多様な投与経路が利用され、以下でさらに詳細に議論されている。ウイルスによる感染とは、細胞内へのウイルスの侵入および細胞内でのウイルスの複製を指す。同様に、ウイルスによる腫瘍の感染とは、腫瘍細胞内へのウイルスの侵入および腫瘍細胞内でのウイルスの複製を指す。
【0019】
レオウイルスは、多くの動物モデルで腫瘍溶解剤として効果的に使用されている。v-erbB形質転換マウスNIH 3T3細胞またはヒトU87神経膠芽腫細胞から樹立された腫瘍を持つ重症複合免疫不全(SCID)のマウスがレオウイルスで治療されている(Coffey, M C et al 1998 Science 282: 1332)。ウイルスの単回腫瘍内注射によって、腫瘍の退縮が結果的にもたらされた。両側性U87腫瘍異種移植片が移植された動物に、レトロウイルスの単回片側注射を同側の腫瘍に与えると、反対側の腫瘍の低下が結果としてもたらされた。この遠隔腫瘍部位での低下は、ウイルスの全身拡散の結果である。ras形質転換C3H-10T1/2細胞から樹立された腫瘍を持つ免疫コンピテントC3Hマウスの治療も、一連のウイルス注射によって腫瘍退縮をもたらした(Coffey, M C et al 1998 Science 282: 1332)。
【0020】
対象の増殖性障害を治療または改善するための方法が本明細書において提供される。対象への免疫抑制剤の投与と、それに続くレオウイルスの投与は、レオウイルス治療の濃度および/または頻度を低下させる。本方法は、1用量の免疫抑制剤を対象に投与し、続いて、1〜5用量のレオウイルスを対象に投与する工程を含む。したがって、1用量、2用量、3用量、4用量、または5用量のレオウイルスを投与する。免疫抑制剤を、レオウイルスを投与する少なくとも72時間前に投与する。任意で、免疫抑制剤を、レオウイルスを投与する約96時間前から72時間前にまたはレオウイルスを投与する96時間前から72時間前の間の任意の時点で投与する。任意で、免疫抑制剤を、レオウイルスを投与する72時間前または96時間前に投与する。あるいは、免疫抑制剤を、レオウイルスを投与する約12時間前から72時間前にまたはレオウイルスを投与する12時間前から72時間前の間の任意の時点で対象に投与する。したがって、免疫抑制剤を、レオウイルスを投与する少なくとも72時間前に、少なくとも48時間前に、少なくとも24時間前に、または少なくとも12時間前に投与してもよい。増殖性障害の新生物細胞を殺傷するために、レオウイルスを有効量で投与する。任意で、増殖性障害は、ras媒介性の増殖性障害である。
【0021】
本明細書で使用するとき、免疫抑制剤という用語は、免疫系の活性を阻害するか、遅延させるか、または逆転させる薬剤を指す。免疫抑制剤は、直接的に(例えば、免疫細胞に作用することによって)または間接的に(その他の仲介細胞に作用することによって)、応答免疫細胞(例えば、T細胞を含む)の機能を抑制することによって作用する。従来の非特異的免疫抑制剤としては、ステロイド、グルココルチコステロイド、シクロスポリン、シクロスポリン類似体、シクロホスファミド、プレドニソンおよびメチルプレドニソロンを含むコルチコステロイド、アザチオプリン、FK-506(Fujisawa Pharmaceuticals, Deerfield, IL)、15-デオキシスペルグアリン、バシリキシマブ、ダクリズマブ、ラパマイシン、ミコフェノレートモフェチル、インターフェロン、コルチコステロイド、スルファサラジン、アザチオプリン、ミノリビン(mimoribine)、ミソプロストール、抗IL-2受容体抗体、サリドマイド、抗腫瘍壊死因子抗体、抗CD2抗体、抗CD147抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体、ならびに抗胸腺細胞グロブリン抗体が挙げられるが、これらに限定されない。免疫抑制剤としては、オルソクローン(登録商標)(OKT3)(Ortho Biotech, Raritan, NJ)、サンドイミューン(登録商標)経口用(シクロスポリン)(Sandoz Pharmaceuticals, Hanover, NJ)、プログラフ(登録商標)(タクロリムス)(Fujisawa Pharmaceuticals, Deerfield, IL)、セルセプト(登録商標)(ミコフェノレート)(Roche Pharmaceuticals, Nutley, NJ)、およびラパミューン(登録商標)(シロリムス)(Wyeth, Collegeville, PA)も挙げられる。任意で、薬剤は、ラパマイシン、タクロリムス、ミコフェノール酸、アザチオプリン、またはシクロホスファミドである。任意で、免疫抑制剤は、シクロスポリン、抗CD4抗体、または抗CD8抗体ではない。
【0022】
下記の実施例で議論されているように、抗腫瘍活性は、静注投与されたレオウイルス(レオリシン(登録商標))の、進行癌を有する患者に対する第I相試験で見られた。レオウイルス処置の後、患者は、1人の患者を除いて、中和抗体が顕著に増加した。これらのデータは、癌の治療において全身投与されるレオウイルスと免疫抑制薬物を組み合わせるプロトコルの開発を支持する。したがって、対象の増殖性障害を治療または改善する方法であって、腫瘍溶解性ウイルスおよび少なくとも1つのB細胞調整剤を対象に投与する工程を含む方法も本明細書において提供される。B細胞調整剤は、抗B細胞抗体、抗サイトカイン抗体、および小分子のB細胞選択的調整因子からなる群より選択される。任意で、対象のB細胞のレベルを選択的に調整する。任意で、哺乳動物は免疫コンピテントである。任意で、腫瘍溶解性ウイルスは免疫保護されている。任意で、第一のB細胞調整剤(例えば、抗B細胞抗体)および第二のB細胞調整剤を対象に投与する。第二のB細胞調整剤は、抗サイトカイン抗体および小分子のB細胞選択的調整因子からなる群より選択することができる。任意で、第二のB細胞調整剤は、抗サイトカイン抗体である。
【0023】
新生物細胞を腫瘍溶解性ウイルスと接触させる前に、新生物細胞を腫瘍溶解性ウイルスと接触させるのと同時に、新生物細胞を腫瘍溶解性ウイルスと接触させた後に、および/または新生物細胞に腫瘍溶解性ウイルスを感染させている間に、哺乳動物のB細胞のレベルを調整する。任意で、対象のB細胞のレベルを調整剤によって低下させる。
【0024】
本明細書で使用するとき、対象のB細胞のレベルを調整することとは、B細胞のレベルを制御することを意味し、B細胞のレベルを増大させること、減少させること、および維持することを含む。B細胞のレベルを選択的に調整することとは、その他の細胞(例えば、T細胞などのその他の免疫細胞)よりも大きい程度まで、典型的には統計的に有意な程度まで、B細胞のレベルを制御することを意味する。選択的に調整されたB細胞のレベルは、その他の免疫細胞とは本質的に無関係に制御される。B細胞とは、Bリンパ球を指す。Bリンパ球には、B1細胞およびB2細胞という2つの主な亜集団がある。B1細胞は自己再生性であり、多くの場合、比較的低い親和性で様々な抗原に結合する(多特異性)高レベルの抗体を分泌する。B細胞の大部分であるB2細胞は、骨髄中で前駆体から直接生み出され、極めて特異的な抗体を分泌する。調整されたB細胞のレベルは、B細胞の値の正常範囲の±50%以内、または値の正常範囲の±25%以内、±10%以内、もしくは±5%以内であることができる。任意で、調整されたB細胞のレベルは、B細胞の値の正常範囲未満であることができる。例えば、調整されたB細胞のレベルは、B細胞の値の正常範囲の50%未満、25%未満、10%未満、5%未満、または1%未満であることができる。任意で、B細胞のレベルを、中和抗ウイルス応答は低下するが、除去されないように、中和抗ウイルス応答がほんの一部だけ損なわれるように低下させる。 例えば、中和抗ウイルス応答を、1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、もしくは90%、または1%から90%の間の任意の量だけ低下させる。
【0025】
B細胞調整剤(例えば、抗B細胞抗体、抗サイトカイン抗体、または小分子のB細胞選択的調整因子)は、哺乳動物のB細胞レベルを調整し、および/または例えば、B細胞によって誘発される液性応答を低下させるかもしくは妨げることによって、もしくは抗体産生を抑制することによって、もしくはこれらと同様の方法によって、1つもしくは複数のB細胞機能に干渉することができる。選択的B細胞調整剤は、その他の細胞(例えば、T細胞などのその他の免疫細胞)よりも大きい程度まで、典型的には統計的に有意な程度まで、B細胞のレベルを調整する。任意で、B細胞の調整は、選択的薬剤によって、その他の免疫細胞とは本質的に無関係に制御される。調整剤は、好ましくは、対象への投与によりB細胞を枯渇させる(すなわち、循環B細胞レベルを低下させる)ことができる。そのような枯渇は、抗体依存性細胞媒介性細胞毒性(ADCC)および/または補体依存性細胞毒性(CDC)、B細胞増殖の阻害および/または(例えば、アポトーシスを介した)B細胞死の誘導などのような様々な機構を通じて達成し得る。本開示の範囲内に含まれる薬剤には、細胞毒性のある薬剤と任意で共役または融合している、B細胞表面抗原に結合する抗体、合成配列ペプチドまたはネイティブ配列ペプチド、および小分子アンタゴニストが含まれる。好ましいアンタゴニストは、抗体、より好ましくはB細胞を枯渇させる抗体を含む。
【0026】
任意で、B細胞調整剤は、抗B細胞抗体である。抗B細胞抗体は、プレBリンパ球および成熟Bリンパ球を含むB細胞に対して選択的であることができる。抗B細胞抗体は、B細胞抗原、例えば、CD19、CD20、CD22、CD23、CD27、CD37、CD53、CD72、CD73、CD74、CDω78、CD79a、CD79b、CD80、CD81、CD82、CD83、CDw84、CD85、およびCD86からなる群より選択される抗原に結合することができる。任意で、抗B細胞抗体は、CD20およびCD22からなる群より選択されるB細胞抗原に結合する。CD20抗原に結合する抗体の例としては、C2B8(米国特許第5,736,137号);Y2B8と表されるイットリウム-[90]標識2138マウス抗体(米国特許第5,736,137号);1311-B1抗体を作製するために任意で1311で標識されたマウスIgG2a 131(米国特許第5,595,721号);マウスモノクローナル抗体1F5(Press et al. Blood 69(2):584-591 (1987));キメラ2H7抗体(米国特許第5,677,180号);およびInternational Leukocyte Typing Workshop (Valentine et al., In: Leukocyte Typing III (McMichael, Ed., p. 440, Oxford University Press (1987))から入手可能なモノクローナル抗体L27、G28-2、93-1133、B-C1、またはNU-B2が挙げられる。CD19抗原に結合する抗体の例としては、Hekman et al., Cancer Immunol. Immunother. 32:364-372 (1991)およびVlasveld et al. Cancer Immunol. Immunother. 40:37-47(1995)中の抗CD19抗体;ならびにKiesel et al. Leukemia Research 11, 12: 1119 (1987)中のB4抗体が挙げられる。
【0027】
任意で、B細胞調整剤は、抗サイトカイン抗体である。抗サイトカイン抗体は、サイトカインの発現および/または活性を調整する抗体である。サイトカインという用語は、ある細胞集団によって放出される、細胞内メディエーターとして別の細胞に作用するタンパク質を含む。本明細書で使用するとき、サイトカインという用語は、天然源由来または組換え細胞培養由来のタンパク質、およびネイティブ配列サイトカインの生物学的活性のある等価物を含む。サイトカインの例としては、リンホカイン、モノカイン、インターロイキン、インターフェロン、および従来のポリペプチドホルモンが挙げられる。典型的なサイトカインとしては、IL-1、IL-1a、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-11、IL-12、IL-15などのインターロイキン(IL);インターフェロンαおよびインターフェロンγ(IFN-αおよびIFN-γ);またはTNF-aもしくはTNF-Pなどの腫瘍壊死因子が挙げられる。したがって、抗サイトカイン抗体は、IL2、IL6、IL10、IFN-γ、およびTNF-αからなる群より選択されるサイトカインに結合することができる。任意で、抗サイトカイン抗体は、IL10に結合する。
【0028】
任意で、B細胞調整剤は、小分子のB細胞選択的調整因子である。小分子のB細胞選択的調整因子には、B細胞を調整する小さい有機分子およびペプチドが含まれる。例としては、芳香族キノリンカルボキサミド(例えば、キノリン-8-アリールカルボキサミド(例えば、N-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]キノリン-8-カルボキサミド、N-[5-(トリフルオロメチル)ピリジン-2-イル]キノール-8-カルボキサミド、N-(フェニル)キノリン-8-カルボキサミド、N-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]キノリン-8-カルボキサミド、N-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]キノリン-8-カルボキサミド、7-メチル-N-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]キノリン-8-カルボキサミド、N-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-2-(トリフルオロメチル)キノリン-8-カルボキサミド、またはN-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-8-カルボキサミド;Papageorgiou et al., J Med Chem. 2001 Jun 7;44(12):1986-92を参照されたい));デキサメタゾン(Cupic et al, J. Int J Mol Med. 2005 Jun;15(6):1023-31);ラパマイシン、レフルノミド、ミゾリビン、ミコフェノール酸、ブレキナル、およびデオキシスペルグアリン(Morris, J Heart Lung Transplant. 1993 Nov-Dec;12(6 Pt 2):S275-86);FK506、ラパマイシン、ミコフェノレートモフェチル、マロノニトリラマイド(レフルノミド、FK778、FK779)、15-デオキシスペルグアリン(DSG)(Ma et al., Curr Drug Targets Cardiovasc Haematol Disord. 2002 Dec;2(2):57-71);スルファサラジンおよびその類似体(Habens et al., Apoptosis. 2005 May;10(3):481-91);ゲニステイン(Mansour et al., Cell Cycle. 2004 Dec;3(12):1597-605);2-シアノ-3,12-ジオキソオレアナ-1,9-ジエン-28-酸(Ray et al., Exp Hematol. 2006 Sep;34(9):1201-1210);PD 0332991(Baughn et al., Cancer Res. 2006 Aug 1;66(15):7661-7);BU12-サポリン(Flavell et al., Br J Haematol. 2006 Jul;134(2):157-70. Epub 2006 Jun 12);HA14-1(Skommer et al., Leuk Res. 2006 Mar;30(3):322-31);PKC412(Chen et al., Oncogene. 2005 Dec 15;24(56):8259-67);PS-1145および関連化合物(Lam et al., Clin Cancer Res. 2005 Jan 1;11(1):28-40);(-)-ゴシポール(Mohammad et al., Mol Cancer Ther. 2005 Jan;4(1):13-21);4-アミノ-1-tert-ブチル-3-(1-ナフチル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン(Wong et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Dec 14;101(50):17456-61);ジペプチジルペプチダーゼ(DPP)阻害剤、例えば、PT-100(Val-boro-Pro)(Adams et al., Cancer Res. 2004 Aug 1;64(15):5471-80)などが挙げられる。
【0029】
任意で、小分子のB細胞選択的調整因子は、芳香族キノリンカルボキサミド、デキサメタゾン、レフルノミド、ミゾリビン、ブレキナル、デオキシスペルグアリン、マロノニトリラミド、スルファサラジン、ゲニステイン、2-シアノ-3,12-ジオキソオレアナ-1,9-ジエン-28-酸、PD 0332991、BU12-サポリン、HA14-1、PKC412、PS-1145、ゴシポール、4-アミノ-1-tert-ブチル-3-(1-ナフチル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン、およびVal-boro-Proからなる群より選択される。
【0030】
任意で、B細胞調整剤および小分子のB細胞選択的調整因子からは、ラパマイシン、タクロリムス、およびミコフェノール酸、ならびにそれらの類似体からなる群より選択される1つまたは複数の化合物が特に除外される。任意で、B細胞調整剤および小分子のB細胞選択的調整因子からは、5-フルオロウラシル、マイトマイシンC、メトトレキサート、ヒドロキシウレア、シクロホスファミド、ダカルバジン、ミトキサントロン、アントラサイクリン、カルボプラチン、シスプラチン、タキソール、タキソテール、タモキシフェン、抗エストロゲン、インターフェロン、ラパマイシン、タクロリムス、ミコフェノール酸、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロホスファミド、およびそれらの類似体からなる群より選択される1つまたは複数の化合物が特に除外される。
【0031】
本明細書で使用するとき、腫瘍溶解性ウイルスとは、新生物細胞内で選択的に複製することができるウイルスである。任意で、腫瘍溶解性ウイルスは、レオウイルス、改変アデノウイルス、改変HSV、改変ワクシニアウイルス、改変パラポックスウイルスオルフウイルス、改変インフルエンザウイルス、delNS1ウイルス、p53発現ウイルス、ONYX-015、Delta24、および水疱性口内炎ウイルスからなる群より選択される。
【0032】
改変アデノウイルスという用語は、PKR活性化が遮断されないように、PKRの活性化を妨げる遺伝子産物が欠如しているか、阻害されているか、または突然変異しているアデノウイルスを指す。好ましくは、VAI RNAが転写されない。そのような改変アデノウイルスは、活性化ras経路を有さない正常細胞内では複製することができない。しかしながら、このウイルスは、活性化ras経路を有する細胞に感染し、その細胞内で複製することができる。
【0033】
改変HSVという用語は、PKR活性化が遮断されないように、PKRの活性化を妨げる遺伝子産物が欠如しているか、阻害されているか、または突然変異している単純ヘルペスウイルス(HSV)を指す。好ましくは、HSV遺伝子γ134.5が転写されない。そのような改変HSVは、活性化ras経路を有さない正常細胞内では複製することができない。しかしながら、このウイルスは、活性化ras経路を有する細胞に感染し、その細胞内で複製することができる。
【0034】
パラポックスウイルスオルフウイルスは、ポックスウイルスである。それは、ヒトを含む、異なる哺乳動物種で急性皮膚病変を誘導するウイルスである。パラポックスウイルスオルフウイルスは、本来、破れた皮膚または損傷した皮膚を通して、ヒツジ、ヤギ、およびヒトに感染し、再生表皮細胞で複製し、膿疱性病変を誘導し、この病変がかさぶたになる。改変パラポックスウイルスオルフウイルスという用語は、PKR活性化が遮断されないように、PKRの活性化を妨げる遺伝子産物が欠如しているか、阻害されているか、または突然変異しているパラポックスウイルスオルフウイルスを指す。好ましくは、遺伝子OV20.0Lが転写されない。そのような改変パラポックスウイルスオルフウイルスは、活性化ras経路を有さない正常細胞内では複製することができない。しかしながら、このウイルスは、活性化ras経路を有する細胞に感染し、その細胞内で複製することができる。
【0035】
改変ワクシニアウイルスという用語は、PKR活性化が遮断されないように、PKRの活性化を妨げる遺伝子産物が欠如しているか、阻害されているか、または突然変異しているワクシニアウイルスを指す。好ましくは、E3L遺伝子および/またはK3L遺伝子が転写されない。そのような改変ワクシニアウイルスは、活性化ras経路を有さない正常細胞内では複製することができない。しかしながら、このウイルスは、活性化ras経路を有する細胞に感染し、その細胞内で複製することができる。
【0036】
任意で、腫瘍溶解性ウイルスは、組換えウイルス、例えば、組換えレオウイルスであることができる。新生物細胞を、2種類以上の腫瘍溶解性ウイルス、または2株以上の腫瘍溶解性ウイルスと接触させることができる。腫瘍溶解性ウイルスをミセルに被包することもできる。新生物細胞に接触させる前に、腫瘍溶解性ウイルスをプロテアーゼで処理することができる。
【0037】
任意で、本方法は、抗腫瘍溶解性ウイルス抗体に対する抗体を哺乳動物に投与する工程;または抗腫瘍溶解性ウイルス抗体を哺乳動物から除去する工程をさらに含む。抗腫瘍溶解性ウイルス抗体とは、腫瘍溶解性ウイルスに結合する抗体を指す。IgG抗体とは、免疫グロブリンG抗体を指す。最も豊富にあるタイプの抗体であるIgGは、細菌毒素および微生物の貪食を増強するために、細菌毒素の中和および微生物への結合という重責を担っている。抗腫瘍溶解性ウイルス抗体の選択的除去により、対象の免疫系が治療的に投与された腫瘍溶解性ウイルスを除去するのを妨げることができる。また、ウイルスとの抗体相互作用を妨げることは、全身治療戦略を支援し得る。ヘム透析および固定化された腫瘍溶解性ウイルスに血液を通すこと(選択的抗体除去);ヘム透析および固定化されたプロテインA(PROSORBA, Cypress Bioscience, San Diego, Calif.として市販されている)に血液を通すことにより全てのIgG抗体を除去すること;またはイディオタイプが腫瘍溶解性ウイルスに対するものである場合、ヒト化抗イディオタイプ抗体を投与することを含む、いくつかの方法によって、抗体を除去することができる。
【0038】
任意で、腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍溶解性ウイルスの免疫認識を阻止または障害することにより正常な免疫機能を障害することなく全身に作用することができる。対象の免疫系が腫瘍溶解性ウイルスを認識するのを妨げるために、腫瘍溶解性ウイルスおよび腫瘍溶解性ウイルス再集合体の連続投与を行なう。あるいは、腫瘍溶解性ウイルスを、抗体のFab部分で被覆するように、ウイルスへの毒性がないヒト化抗体で被覆してもよく、またはミセルで被覆してもよい。
【0039】
さらに、腫瘍溶解性ウイルスをキモトリプシンで処理して、感染性サブウイルス粒子(ISVP)を産出してもよい。ISVPを単独かまたはウイルス全体と組み合わせてかのいずれかで用いて、あまり認識されないかまたは過去に患者の免疫系によって妨げられていないかのいずれかである薬剤を提供する。
【0040】
腫瘍溶解性ウイルスは、異なる抗原決定基を含んでおり、それによって過去に腫瘍溶解性ウイルスのサブタイプに曝露された哺乳動物による免疫応答を低下させるかまたは防止する。哺乳動物細胞に、異なるサブタイプの腫瘍溶解性ウイルスを重感染させて、その結果、異なるサブタイプの外膜タンパク質を再分類し、それらを得られたビリオンカプシドに組み入れることによって、再集合体としても知られる、そのような組換えビリオンを作製することができる。
【0041】
腫瘍溶解性ウイルスは、好ましくは、腫瘍溶解性ウイルスに対する免疫反応を低下させるかまたは排除するよう改変された腫瘍溶解性ウイルスである。そのような改変された腫瘍溶解性ウイルスは、免疫保護された腫瘍溶解性ウイルスと呼ばれる。そのような改変には、腫瘍溶解性ウイルスを哺乳動物免疫系から隠すためのリポソーム、ミセル、またはその他のビヒクルに腫瘍溶解性ウイルスをパッケージングすることが含まれ得る。あるいは、外側カプシドに存在するタンパク質は、宿主の液性応答および細胞性応答の主要決定基であるので、腫瘍溶解性ウイルスビリオン粒子の外側カプシドを除去してもよい。
【0042】
腫瘍溶解性ウイルスおよび少なくとも1つのB細胞調整剤を含む薬学的組成物およびキットも本明細書において提供される。B細胞調整剤は、抗B細胞抗体、抗サイトカイン抗体、および小分子のB細胞選択的調整因子からなる群より選択される。薬学的組成物またはキットは、第一のB細胞調整剤(例えば、抗B細胞抗体)と第二のB細胞調整剤の両方を含んでもよい。また、薬学的組成物またはキットは、化学療法剤またはB細胞非特異的な免疫抑制剤を含んでもよい。任意で、B細胞非特異的な免疫抑制剤は、ステロイドであることができ、またはラパマイシン、タクロリムス、ミコフェノール酸、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロホスファミド、およびそれらの類似体からなる群より選択することができる。好ましくは、B細胞非特異的な免疫抑制剤は、シクロスポリンである。
【0043】
提供された方法において、増殖性障害という用語は、新生物細胞または腫瘍細胞によって特徴付けられる障害を指す。新生物細胞、腫瘍細胞、または増殖性障害を有する細胞とは、異常に高速で増殖する細胞を指す。新生物細胞を含む新しい成長物は、新生物であり、腫瘍としても知られている。腫瘍とは、細胞増殖によって、正常な組織成長物よりも速やかに成長する、明確な塊を通常形成する異常な組織成長物である。腫瘍は、構造的組織化および正常組織との機能的協調の部分的または全体的欠如を示し得る。本明細書で使用するとき、腫瘍は、造血系腫瘍および固形腫瘍を包含することが意図される。本明細書で使用するとき、増殖性障害という用語には、腫瘍、新生物、および新生物細胞または腫瘍細胞または異常に高速で増殖する細胞によって特徴付けられる障害が含まれる。
【0044】
腫瘍は、良性(良性腫瘍)または悪性(悪性腫瘍もしくは癌)であり得る。悪性腫瘍は、3つの主要な型に広く分類されている。上皮構造物から生じる悪性腫瘍は癌腫と呼ばれ、筋肉、軟骨、脂肪、または骨などの結合組織を起源とする悪性腫瘍は肉腫と呼ばれ、免疫系の成分を含む造血系構造物(血液細胞の形成に関する構造物)を冒す悪性腫瘍は白血病およびリンパ腫と呼ばれる。その他の腫瘍としては、神経線維腫が挙げられるが、これに限定されない。
【0045】
任意で、新生物細胞はras媒介性である。ras活性化型のおよびras媒介性のという用語は、全体を通じて互換的に使用される。ras経路を、ras遺伝子突然変異、ras遺伝子発現のレベルの上昇、ras遺伝子メッセージの安定性の上昇、またはrasの、もしくはras経路におけるrasの上流もしくは下流の一つもしくは複数の因子の活性化をもたらす任意の突然変異もしくはその他の機構によって達成し、それによりras経路の活性を増大させてもよい。例えば、EGF受容体、PDGF受容体、またはSOSの活性化は、ras経路の活性化をもたらす。ras媒介性の新生物細胞には、ras媒介性の癌細胞が含まれ、この癌細胞はras経路の活性化が原因で悪性の形で増殖する細胞である。任意で、ras媒介性の新生物細胞においてPKRのリン酸化を妨げる。例えば、PKRのリン酸化を、PKRの不活性化または欠失によって妨げることができる。ras媒介性の新生物細胞は、PKRを欠くことができ、またはras媒介性の新生物細胞におけるPKRのリン酸化を妨げるかもしくは逆転させることができる。ras活性化型の新生物細胞またはras媒介性の新生物細胞とは、少なくとも一部はras経路の活性化が原因で異常に高速で増殖する細胞を指す。
【0046】
本明細書で使用するとき、ras媒介性の増殖性障害とは、ras活性化型の新生物細胞またはras媒介性の新生物細胞によって特徴付けられる障害を指す。したがって、例えば、ras媒介性の増殖性障害には、新生物がras媒介性の増殖細胞を含む新生物が含まれる。
【0047】
増殖性障害は、新生物または固形新生物であってもよい。新生物には、固形腫瘍、例えば、癌腫および肉腫が含まれる。癌腫には、周囲組織に浸潤または侵襲し、転移を生じさせる上皮細胞に由来する悪性新生物が含まれる。腺癌は、腺組織、または認識できる腺構造を形成する組織に由来する癌腫である。別の広い範疇の癌には、肉腫および線維肉腫が含まれる。これらは、その細胞が、胚の結合組織のような、線維状のまたは均質な物質に埋め込まれている腫瘍である。白血病(例えば、急性リンパ球性白血病、急性非リンパ球性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄球性白血病、および有毛細胞白血病)、リンパ腫(滲出液リンパ腫、体腔に基づくリンパ腫を含む)、ならびに典型的には腫瘍塊として存在しないが、血管系またはリンパ細網系に分布しているその他の癌を含む、骨髄系またはリンパ系の増殖性障害の治療方法が本明細書において提供される。
【0048】
増殖性障害としては、成人または小児の増殖性障害;固形腫瘍/悪性腫瘍の増殖;粘液型および円形細胞型の癌腫;局所進行腫瘍;甲状腺癌;副腎癌;肝癌;膵癌;中枢および末梢神経系の癌;ヒト軟部組織肉腫(ユーイング肉腫を含む);癌転移(リンパ節転移を含む);特に頭頸部の扁平上皮癌;食道扁平上皮癌;口腔癌;多発性骨髄腫を含む血液細胞悪性腫瘍;肺癌(非小細胞肺癌を含む);皮膚T細胞性リンパ腫;ホジキンリンパ腫;非ホジキンリンパ腫;副腎皮質癌;ACTH産生腫瘍;非小細胞肺癌;乳癌;消化管癌(胃癌、結腸癌、結腸直腸癌、および結腸直腸新生物と関連するポリープを含む);膵癌;肝癌;泌尿器癌(原発性表在性膀胱癌、侵襲性膀胱移行上皮癌、および筋肉侵襲性膀胱癌などの膀胱癌を含む);前立腺癌;女性生殖管の悪性腫瘍(卵巣癌、原発性腹膜上皮新生物、子宮頸癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰癌、子宮癌、および卵胞の固形腫瘍を含む);男性生殖管の悪性腫瘍(精巣癌および陰茎癌を含む);腎癌(腎細胞癌を含む);脳腫瘍(内在性脳腫瘍、神経芽腫、星状細胞性脳腫瘍、神経膠腫、および中枢神経系での転移性腫瘍細胞侵襲を含む);骨癌(骨腫および骨肉腫を含む);皮膚癌(悪性黒色腫、ヒト皮膚ケラチノサイトの腫瘍進行、基底細胞癌、および扁平上皮癌を含む);甲状腺癌;網膜芽腫;神経芽腫;腹水;悪性胸水;中皮腫;ウィルムス腫瘍;胆嚢癌;栄養膜新生物;血管周囲細胞腫;ならびにカポジ肉腫が挙げられる。
【0049】
本明細書において提供されるウイルスおよび薬剤は、インビトロまたはインビボで、任意で、薬学的に許容される担体または賦形剤の中に入れて投与される。薬学的に許容されるによって、生物学的にまたはそれ以外で望ましくないものではない材料、すなわち、望ましくない生物学的効果を引き起こすことなくまたはこの材料が含まれる薬学的組成物のその他の成分と有害な形で相互作用することなく、この材料が対象に投与されるということが意味される。担体は、活性成分のいかなる分解も最小限に抑えるようにかつ対象におけるいかなる有害な副作用も最小限に抑えるように選択される。
【0050】
したがって、ウイルスおよび/または薬剤を含む薬学的組成物が提供される。薬学的組成物を作製するとき、ウイルスおよび/または薬剤を、通常、賦形剤と混合するか、賦形剤で希釈するか、またはカプセル、サシェー(sachet)、紙、もしくはその他の容器の形態であることができる担体に封入する。薬学的に許容される賦形剤が希釈剤の役目を果たすとき、それは、固体、半固体、または液体の材料であることができ、この材料は、活性成分のためのビヒクル、担体、または媒体の働きをする。したがって、組成物は、錠剤、ピル、粉末、ロゼンジ、サシェー、カシェー、エリキシル、懸濁液、乳濁液、溶液、シロップ、(固体としてまたは液体媒体中の)エアロゾル、例えば、10重量%までの活性化合物を含む軟膏、軟質および硬質のゼラチンカプセル、坐剤、滅菌注射可能溶液、および滅菌包装粉末の形態にあることができる。好適な製剤を、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (第21版) A.R. Gennaroら編、University of the Sciences in Philadelphia 2005に見出すことができる。
【0051】
好適な賦形剤のいくつかの例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、スターチ、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、ミクロクリスタリンセルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、滅菌水、シロップ、およびメチルセルロースが挙げられる。製剤はさらに、潤滑剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、およびミネラルオイル);湿潤剤;乳化剤および懸濁剤;防腐剤(例えば、メチルベンゾエートおよびプロピルヒドロキシベンゾエート);甘味剤;ならびに香味剤を含むことができる。当技術分野において公知の手順を利用することによって対象に投与した後に、活性成分の迅速放出、持続放出、または遅延放出を提供するように、本発明の組成物を処方することができる。
【0052】
当業者に公知の方法および材料を用いて、ウイルスを、リポソーム、ミセル、ミクロ粒子、ナノ粒子、またはミクロスフェアに被包することができる。例えば、米国特許第5,019,400号は、様々な材料でできた制御放出型の生体分解性ミスロスフェアの調製を記載している。リポソーム用の材料としては、脂質、ブロックコポリマー、ならびにその他の生物学的に適合するサーファクタントおよびそのコポリマーが挙げられる。ミクロ粒子を作製するための方法は、例えば、関心となる分子を含むポリマー液を溶解する工程、乳化する工程、または懸濁する工程を含む。
【0053】
錠剤などの固体組成物を調製するために、活性成分を薬学的賦形剤と混合し、活性成分の均質な混合物を含む固体前製剤組成物を形成させる。これらの前製剤組成物が均質であると言うとき、組成物が錠剤、ピル、およびカプセルなどの等しく有効な単位投薬形態に容易に細分化され得るように、活性成分が組成物全体に均一に分散しているということを意味する。
【0054】
錠剤またはピルを、長時間作用の利点をもたらす投薬形態を提供するようにコーティングするかまたは別の形態で調合してもよい。例えば、錠剤またはピルは、内側の投薬成分および外側の投薬成分を含み、後者は前者に対して外被の形態にある。2つの成分を腸溶性の層で隔ててもよく、この層は、胃での分解に抵抗して、内側の成分が無傷で十二指腸に入るかまたは内側の成分の放出が遅延されるのを可能にする働きをする。様々な材料が、そのような腸溶性の層またはコーティングに使用され、そのような材料には、多くのポリマー酸ならびにポリマー酸とシェラック、セシルアルコール、および酢酸セルロースのような材料との混合物が含まれる。
【0055】
組成物が、経口投与用または注射による投与用に組み入れられている液体形態としては、水溶液、好適に風味付けされたシロップ、水性懸濁液または油性懸濁液、および食用油(例えば、コーン油、綿実油、胡麻油、ココナッツ油、またはピーナッツ油)入りの風味付けされた乳濁液、ならびにエリキシルおよび同様の薬学的ビヒクルが挙げられる。
【0056】
吸入または吹送用の組成物としては、薬学的に許容される水性溶媒もしくは有機溶媒、またはその混合物中の溶液および懸濁液、ならびに粉末が挙げられる。液体組成物または固体組成物は、本明細書に記載されるような好適な薬学的に許容される賦形剤を含んでもよい。好ましくは、組成物を、局所効果または全身効果のために口または鼻の呼吸器経路によって投与する。好ましく薬学的に許容される溶媒中の組成物を、不活性ガスを使用することによって噴霧してもよい。噴霧された溶液を噴霧装置から直接吸入してもよく、または吸入装置をフェイスマスクテント、もしくは間欠陽圧呼吸器に取り付けてもよい。溶液、懸濁液、または粉末の組成物を、好ましくは経口的または経鼻的に、適切な形で製剤を送達する装置から投与してもよい。
【0057】
本明細書において提供される方法で使用される別の製剤は、経皮送達装置(パッチ)を利用する。薬学的薬剤の送達用の経皮パッチの構築および使用は、当技術分野において周知である。例えば、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,023,252号を参照されたい。そのようなパッチを、薬学的薬剤の連続送達、パルス送達、またはオン・デマンド送達用に構築する。
【0058】
提供された方法において、ウイルスが最終的に標的腫瘍または腫瘍細胞に接触することができるような様式でウイルスを投与する。例えば、ウイルスを全身投与する。ウイルスを投与する経路、および製剤、担体またはビヒクルは、標的細胞の位置および種類による。多種多様な投与経路が利用される。例えば、接近可能な固形腫瘍については、腫瘍内に直接注射することによってウイルスを投与してもよい。造血系腫瘍については、例えば、ウイルスを静脈内または血管内に投与する。転移性物など、体内で容易に接近することができない腫瘍については、ウイルスが哺乳動物の体全体に全身搬送され、それにより腫瘍に到達するような様式で(例えば、静脈内または筋肉内に)ウイルスを投与する。あるいは、ウイルスを1個の固形腫瘍に直接投与する。この場合、ウイルスはその後、全身性に体全体をめぐって転移性物に運ばれる。ウイルスを、皮下投与、腹腔内投与、髄腔内投与(例えば、脳腫瘍の場合)、局所投与(例えば、黒色腫の場合)、経口投与(例えば、口腔癌もしくは食道癌の場合)、直腸内投与(例えば、結腸直腸癌の場合)、膣内投与(例えば、子宮頸癌もしくは膣癌の場合)、経鼻投与、または吸入スプレーによって(例えば、肺癌の場合)投与してもよい。
【0059】
提供された方法において、薬剤および組成物を、鼻腔内投与または吸入による投与を含む、経口投与、非経口(例えば、静脈内)投与、筋肉内注射による投与、腹腔内注射による投与、経皮投与、体外投与、局所投与などで投与する。
【0060】
腫瘍または新生物を治療するのに十分な量(例えば、有効量)でウイルスを投与する。治療は、例えば、新生物のサイズの低下、または新生物の完全な排除を結果としてもたらす。新生物のサイズの低下、または新生物の排除は、通常、腫瘍溶解性ウイルスによる新生物細胞の溶解(腫瘍溶解)によって引き起こされる。有効量は、約1.0〜約1015pfu/kg体重、または1.0〜1015pfu/kg体重の間の任意の量である。任意で、レオウイルスの有効量は、約103〜約1012pfu/kg体重、または約108〜1012pfu/kg体重である。したがって、存在する腫瘍の種類、サイズ、および数に応じて、約1.0〜1015プラーク形成単位(PFU)のウイルスを使用することができる。
【0061】
ウイルスを単位投薬量形態で処方してもよく、各々の投薬量は約102 pfu〜約1017pfuのレオウイルスを含む。単位投薬量形態という用語は、対象に対する単一投薬量として好適な物理的に別個の単位を指し、各々の単位は、好適な薬学的賦形剤と関連して、所望の治療効果をもたらすよう計算された所定の分量の腫瘍溶解性ウイルスを含む。
【0062】
組成物の有効投薬量は、様々な要因に左右され、したがって対象間で若干異なり得る。必要とされる正確な量は、対象の種、年齢、体重、および全身状態、治療されている疾患の重症度、使用される特定のウイルスまたはベクターおよびそれを投与する様式によって、対象間で異なる。したがって、あらゆる組成物についての正確な量を特定することは不可能である。しかしながら、適切な量は、本明細書において提供された指針を所与として日常的な実験のみを用いて当業者により決定される。
【0063】
組成物の投与のための投薬量範囲は、疾患の症状に影響を与える所望の効果をもたらすことができるほど大きな範囲である。投薬量は、望まない交差反応およびアナフィラキシー反応などの、有害な副作用を引き起こすほど大きくはない。投薬量は、少しでも反対の兆候が見られた場合には、個々の医師によって調整される。
【0064】
ウイルスを、1回の投薬スケジュールにおいて単回用量または複数回用量(すなわち、2回以上の用量)で投与する。複数回用量のために、投薬スケジュールは、数日間または数週間に及ぶことができる。投薬スケジュールは、必要に応じて、毎週または毎月繰り返してもよい。レオウイルスを、同じ対象中の2個以上の新生物に、同時にまたは連続で投与してもよい。
【0065】
提供された方法を、化学療法、放射線療法、手術、および/またはホルモン療法などのその他の腫瘍療法と組み合わせてもよい。化学療法剤とは、腫瘍の増殖を阻害し得る化合物である。そのような薬剤としては、5-フルオロウラシル、マイトマイシンC、メトトレキサート、ヒドロキシウレア、シクロホスファミド、ダカルバジン、ミトキサントロン、アントラサイクリン(エピルビシンおよびドキソルビシン)、受容体に対する抗体(例えば、ハーセプチン)、エトポシド、プレグナソーム(pregnasome)、白金化合物(例えば、カルボプラチンおよびシスプラチン、タキサン(例えば、タキソールおよびタキソテール)、ホルモン療法(例えば、タモキシフェンおよび抗エストロゲン)、インターフェロン、アロマターゼ阻害剤、プロゲステロン剤(progestational agents)、ならびにLHRH類似体が挙げられるが、これらに限定されない。したがって、提供された組成物を、1つもしくは複数のその他の治療レジメンまたは予防レジメンと組み合わせて投与してもよい。
【0066】
対象の増殖性障害を治療するためのキットが本明細書において提供される。例えば、キットは、1つまたは複数のレオウイルスおよび1つまたは複数の免疫抑制剤を含む。あるいは、キットは、1つまたは複数のレオウイルスを含む組成物および1つまたは複数の免疫抑制剤を含む組成物を含む。任意で、レオウイルス、免疫抑制剤、またはレオウイルスおよび/もしくは免疫抑制剤の組成物は、キットに投薬量単位で提供される。例えば、1投薬量単位の免疫抑制剤および5投薬量単位までのレオウイルスがキットに提供される。
【0067】
1つまたは複数の腫瘍溶解性ウイルスおよび1つまたは複数のB細胞調整剤を含むキットも本明細書において提供される。あるいは、キットは、1つまたは複数の腫瘍溶解性ウイルスを含む組成物および1つまたは複数のB細胞調整剤を含む組成物を含む。任意で、組成物は、キットに投薬量単位で提供される。
【0068】
提供されたキットは、例えば、別の薬学的活性剤(例えば、化学療法剤、緩衝剤、防腐剤、タンパク質安定化剤、または提供された方法を実行するのに必要な追加の薬剤もしくは成分)を含んでもよい。キットの各構成要素は、通常、個別の容器に封入されている。しかしながら、キットの2つ以上の構成要素を1つの容器に収容することができる。さらに、様々な容器の全てを、1つまたは複数のパッケージに収容することができる。キットは、キットの構成要素を使用するための取扱説明書を含んでもよい。
【0069】
本明細書で使用するとき、治療(treatment)、治療する(treat)、治療している(treating)、または改善するという用語は、疾患もしくは病気の効果、または疾患もしくは病気の1つもしくは複数の症状を低下させる方法を指す。これらの用語は、疾患または病気の1つまたは複数の症状の進行の速度を遅らせることも指す。したがって、開示された方法において、治療は、確立した疾患もしくは病気の重症度, または疾患もしくは病気の1つもしくは複数の症状の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、もしくは100%の低下または改善を指すことができる。例えば、増殖性障害を治療するための方法は、対照と比較したとき、対象の疾患の1つもしくは複数の症状が10%低下するかまたは対象の疾患の1つもしくは複数の症状の進行速度が10%低下する場合、治療とみなされる。したがって、低下は、ネイティブレベルまたは対照レベルと比較したとき、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100%の、または10から100の間の任意のパーセントの低下であることができる。治療は、必ずしも、疾患、病気、または疾患もしくは病気の症状の治癒または完全な除去を指すわけではないということが理解されよう。
【0070】
本明細書で使用するとき、対象という用語は、脊椎動物、より具体的には、哺乳動物(例えば、ヒト、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、非ヒト霊長類、ウシ、ネコ、モルモット、もしくは齧歯類)、魚類、鳥類、または爬虫類、または両生類を含む。この用語は、特定の年齢または性別を示さない。したがって、男女を問わず、成人および新生児の対象、ならびに胎児も含まれることが意図される。本明細書で使用するとき、患者または対象は互換的に使用されてもよく、疾患または障害で苦しむ対象を指すことができる。患者または対象という用語は、ヒト対象および獣医学的対象を含む。
【0071】
本出願の全体を通じて、様々な刊行物が参照されている。完全な形でのこれらの刊行物の開示は、参照により本出願に組み入れられる。
【0072】
多くの態様が記載されている。それでもなお、様々な修正がなされ得ることが理解されよう。さらに、ある特徴または工程が記載されているとき、たとえその組み合わせが明記されていなくても、ある特徴または工程を本明細書中の任意のその他の特徴または工程と組み合わせることができる。したがって、その他の態様が、特許請求の範囲の範囲内にある。
【0073】
実施例
抗腫瘍活性は、静注投与されたレオウイルス(レオリシン(登録商標))の進行癌を有する患者に対する第I相試験で見られた。患者を、1×108、3×108、1×109、3×109、1×1010、または3×1010(TCID50)のレオウイルスで治療した。レオウイルス治療の後、患者は、1人の患者を除いて、中和抗体が顕著に増加し、ピーク終点の力価は>1/10000であった。倍数中央値は250であり、9〜6437の幅があった。4つの異なる用量コホートの患者由来の血清を用いて、L929細胞に対するレオウイルス細胞毒性効果を中和した。レオウイルスでまだ治療していない患者由来の血清は、ヤギポリクローナル抗体と同じぐらい、L929細胞に対するレオウイルス細胞毒性効果を中和するのに有効であり、既存の免疫が存在することを示唆した。しかしながら、患者血清の中には、レオウイルスに対する免疫を示さないものもあった。
【0074】
上記の結果は、癌の治療において全身投与されるレオウイルスと免疫抑制薬物を組み合わせるプロトコルの開発を支持する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の増殖性障害を治療する方法であって、
a)1用量の免疫抑制剤を前記対象に投与する工程;および
b)1〜5用量のレオウイルスを前記対象に投与する工程
を含み、前記免疫抑制剤を、前記レオウイルスを投与する少なくとも約72時間前に投与する、方法。
【請求項2】
前記免疫抑制剤を、前記レオウイルスを投与する約96時間前〜約72時間前に投与する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記免疫抑制剤を、前記レオウイルスを投与する72時間前に投与する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記免疫抑制剤を、前記レオウイルスを投与する96時間前に投与する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記免疫抑制剤が、シクロスポリンA、抗CD4抗体、または抗CD8抗体ではない、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記免疫抑制剤が、ラパマイシン、タクロリムス、ミコフェノール酸、アザチオプリン、シクロホスファミド、およびそれらの類似体からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記免疫抑制剤がシクロホスファミドである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
1用量のレオウイルスを投与する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
2用量のレオウイルスを投与する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
3用量のレオウイルスを投与する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
4用量のレオウイルスを投与する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
5用量のレオウイルスを投与する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記レオウイルスを全身投与する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記レオウイルスを、経口投与、局所投与、経鼻投与、皮下投与、または腹腔内投与する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
レオウイルスの用量が、約1〜1015プラーク形成単位のレオウイルス/kg体重である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
レオウイルスの用量が、約108〜1012プラーク形成単位のレオウイルス/kg体重である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記レオウイルスを、前記増殖性障害の部位またはその付近に注射で投与する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記増殖性障害が新生物である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記新生物が固形新生物である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記増殖性障害が、肺癌、前立腺癌、結腸直腸癌、甲状腺癌、腎癌、副腎癌、肝癌、膵癌、乳癌、脳腫瘍、ならびに中枢および末梢神経系の癌からなる群より選択される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記増殖性障害の前記新生物細胞を殺傷するために、前記レオウイルスを有効量で投与する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記増殖性障害がras媒介性の増殖性障害である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記レオウイルスが哺乳動物レオウイルスである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記レオウイルスがヒトレオウイルスである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記レオウイルスが、血清型1のレオウイルス、血清型2のレオウイルス、または血清型3のレオウイルスからなる群より選択される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記レオウイルスが血清型3のレオウイルスである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記レオウイルスが組換えレオウイルスである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記レオウイルスが野外分離株である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記レオウイルスが免疫保護されたレオウイルスである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記レオウイルスが改変レオウイルスである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記レオウイルスが化学的に改変されたレオウイルスである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記レオウイルスを、前記対象に投与する前に化学的または生化学的に処理する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記レオウイルスが、突然変異した外膜タンパク質を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記レオウイルスが、リポソームまたはミセルに被包されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記レオウイルスが再集合体レオウイルスである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記レオウイルスが増強された腫瘍溶解活性を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
2種類以上のレオウイルスを投与する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
2株以上のレオウイルスを投与する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記レオウイルスがIDACアクセッション番号190907-01を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記レオウイルスが、1つまたは複数のアミノ酸改変を有するλ3ポリペプチドを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記レオウイルスが、1つまたは複数の核酸改変を含むL1ゲノムセグメントを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
対象の増殖性障害を治療する方法であって、
a)腫瘍溶解性ウイルスを前記対象に投与する工程;および
b)少なくとも1つのB細胞調整剤を前記対象に投与する工程
を含み、前記B細胞調整剤が、抗B細胞抗体、抗サイトカイン抗体、および小分子のB細胞選択的調整因子からなる群より選択される、方法。
【請求項43】
前記B細胞調整剤が、抗B細胞抗体、抗サイトカイン抗体、および小分子のB細胞選択的調整因子からなる群より選択される、腫瘍溶解性ウイルスおよびB細胞調整剤を含むキット。

【公表番号】特表2011−500608(P2011−500608A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529206(P2010−529206)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【国際出願番号】PCT/CA2008/001865
【国際公開番号】WO2009/052617
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(501332264)オンコリティクス バイオテク,インコーポレーテッド (16)
【Fターム(参考)】