説明

墨付け装置

【課題】墨付け作業のための移動方向に対する墨刺し部材の向きに配慮し、墨付け作業を自動化できる墨付け装置を提供すること。
【解決手段】墨付け対象物であるH型鋼25に墨付け作業を行うための墨刺し部材65を、墨付け作業のために墨刺し部材65を移動させる方向に対して鋭角の傾き角度にして墨付け作業を行う装置であり、墨刺し部材65をH型鋼25に対して往復動させるための往復動手段80と、墨刺し部材65をH型鋼25に対して接触、離間させるための接離手段81とを有し、この接離手段81は、墨刺し部材65が往復動手段80による墨付け作業のための往動を行うときに墨刺し部材65をH型鋼25に接触させ、墨刺し部材65が往復動手段80による復動を行うときには墨刺し部材65をH型鋼25から離間させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、建築物用の建材に、他の建材との接合位置等をマークするための墨付け作業を行うために用いられる墨付け装置に係り、H型鋼や溝型鋼等の建材を含む各種の墨付け対象物に墨付け作業を行うために利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
H型鋼等の建築物用の建材には、他の建材と接合等すべき位置をマークするための墨付け作業が行われ、この墨付け作業は、従来、工場において、墨壷を用いる墨刺し方式により行われている。
【0003】
この墨刺し方式で用いることができる墨刺し部材は、下記の特許文献1に示されている。この特許文献1に示されている墨刺し部材の筆先は、それぞれが細幅で薄厚となっている複数の薄板を厚さ方向に重ね合わせることにより形成されており、この筆先に墨壷の墨をつけた後に、作業者が墨刺し部材を墨付け対象物に対して線引き移動することにより墨付け作業を行えるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−309082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に示されている墨刺し部材は、作業者によって行われる手作業用のものであり、墨付け作業の効率向上のためには、この墨付け作業を自動作業として実施できるようにすることが求められるが、上記墨刺し部材を、墨付け作業のための移動方向に対して直角としたり、鈍角の傾き角度にしたりすると、筆先が損傷等して痛んでしまうため、墨付け作業のための移動方向に対して墨刺し部材を鋭角の傾き角度にしてこの墨刺し部材を移動させなければならない。
【0006】
このため、特許文献1に示されている墨刺し部材のように、墨付け作業のための移動方向に対する向きについて配慮しなければならない墨刺し部材を用いる場合には、墨付け作業を自動化するためには、墨付け作業のための移動方向に対する墨刺し部材の向きを考慮することが求められる。
【0007】
本発明の目的は、墨付け作業のための移動方向に対する墨刺し部材の向きに配慮し、墨付け作業を自動化できるようになる墨付け装置を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る墨付け装置は、墨付け対象物に墨付け作業を行うための墨刺し部材を、前記墨付け作業のためにこの墨刺し部材を移動させる方向に対して鋭角の傾き角度にすることにより前記墨刺し部材の移動で前記墨付け対象物に前記墨付け作業を行う墨付け装置であって、前記墨刺し部材を前記墨付け対象物に対して往復動させるための往復動手段と、前記墨刺し部材を前記墨付け対象物に対して接触、離間させるための手段であるとともに、前記墨刺し部材が前記往復動手段による往復動のうちの前記墨付け作業のための往動を行うときにこの墨刺し部材を前記墨付け対象物に接触させ、前記墨刺し部材が前記往復動手段による往復動のうちの復動を行うときにはこの墨刺し部材を前記墨付け対象物から離間させるための接離手段と、を備えていることを特徴とするものである。
【0009】
このように本発明では、墨刺し部材が往復動手段により墨付け対象物に対して往復動するものになっているとともに、この墨刺し部材は接離手段により墨付け対象物に対して接触、離間するものとなっており、墨刺し部材が往復動手段による往復動のうちの墨付け作業のための往動を行うときに、墨刺し部材は接離手段により墨付け対象物に接触しており、墨刺し部材が往復動手段による往復動のうちの復動を行うときには、墨刺し部材は接離手段により墨付け対象物から離間している。
【0010】
そして、本発明では、墨付け作業のための往動を行うときの墨刺し部材は、この墨付け作業のためにこの墨刺し部材が移動する方向である往動方向に対して鋭角の傾き角度になっているため、墨刺し部材の筆先に損傷等が生ずることがなく墨付け作業を行えることになる。また、墨刺し部材の復動時には、この墨刺し部材は墨付け対象物から離間しているため、墨刺し部材が移動方向に対して鈍角の傾き角度になっているこの復動時においても、墨刺し部材の筆先に損傷等が生じることを防止でき、この状態で墨刺し部材を初期位置に復帰させることができる。
【0011】
このため、本発明によると、墨付け作業のための移動方向に対する墨刺し部材の向きに配慮されているため、墨付け作業を自動化できるようになり、この自動作業により墨付け作業を効率的に実施できることになる。
【0012】
なお、本発明に用いられる墨刺し部材は、墨付け作業のために移動する方向に対して鋭角の傾き角度とされる墨刺し部材であれば、特許文献1に示されている墨刺し部材でもよく、これ以外の墨刺し部材でもよい。
【0013】
また、往復動手段は、墨刺し部材を墨付け対象物に対して往復動させることができるものであれば任意な形式、構造によるものでよく、例えば、ベルト、プーリによるものでもよく、送りねじによるものでもよく、シリンダによるものでもよい。
【0014】
また、接離手段は、墨刺し部材を墨付け対象物に対して接触、離間させることができるものであれば任意な形式、構造によるものでよく、例えば、傾斜部材とフック部材等によるものでもよく、送りねじによるものでもよく、シリンダによるものでもよい。
【0015】
さらに、墨刺し部材に墨を供給するためには、往復動手段による墨刺し部材の往復動開始箇所や折り返し箇所に墨を収納した墨容器を配置し、これらの箇所に墨刺し部材が達するごとに墨刺し部材に墨容器から墨が供給されて、この墨により墨刺し部材が墨付け対象物に墨付け作業を行えるようにしてもよく、あるいは、墨刺し部材を、往復動手段により往復動するスライダに配置するとともに、このスライダに、墨刺し部材に供給される墨を収納した墨容器を配置し、この墨容器から供給される墨により墨刺し部材が墨付け対象物に墨付け作業を行えるようにしてもよい。
【0016】
後者の墨供給方式によると、墨刺し部材には墨容器から常時墨が供給されるため、墨付け作業中の墨刺し部材が墨不足になることはなく、このため、この墨供給方式を採用することが好ましい。
【0017】
また、後者の墨供給方式を採用し、かつ墨刺し部材の筆先が、それぞれが細幅で薄厚となっている複数の薄板を厚さ方向に重ね合わせることにより形成される場合には、往復動手段により往復動するスライダに配置される墨容器を、薄板の幅方向に筆先と向かい合っている墨供給口を有するものとし、この墨供給口から薄板同士の間に墨が供給されるようにすることが好ましい。
【0018】
これによると、墨容器の墨供給口は、墨刺し部材の筆先を形成している薄板の幅方向に筆先と向かい合っているため、これらの薄板同士の間に毛細管現象を利用して確実に墨を供給できることになる。
【0019】
さらに、往復動手段により往復動するスライダには、墨刺し部材の墨付け対象物側への突出量を調整するための墨刺し部材突出量調整手段を設けることが好ましい。
【0020】
これによると、多数回の墨付け作業により墨刺し部材の筆先が摩耗により短くなっても、墨刺し部材突出量調整手段により、往復動手段による墨刺し部材の往動時において筆先を墨付け対象物に確実に接触させることができるようになる。
【0021】
なお、墨刺し部材突出量調整手段は、墨刺し部材の墨付け対象物側への突出量を調整できるものであれば任意な部材や形式によるものでよく、例えば、押しねじによるものでもよく、送りねじによるものでもよく、シリンダによるものでもよい。
【0022】
また、本発明に係る墨付け装置は、作業者によって墨付け対象物の墨付け作業箇所に持ち運ばれる持ち運び型のものでもよく、あるいは、墨刺し部材と往復動手段と接離手段を、墨付け対象物に対して自走する自走装置に装備することにより、本発明に係る墨付け装置を自動移動型のものとしてもよい。
【0023】
本発明に係る墨付け装置を後者の自動移動型とすると、この墨付け装置を墨付け対象物の墨付け作業箇所へ移動させる作業を自動作業として行えることになるため、この自動移動型を採用することが好ましい。
【0024】
また、このように墨付け装置を自動移動型とするために、墨刺し部材と往復動手段と接離手段を、墨付け対象物に対して自走する自走装置に装備する場合には、この自走装置に、この自走装置の走行方向と直交する墨付け対象物の幅方向の両側の端面に墨付け対象物を挟着状態で接触し、自走装置の走行を案内するための一対のガイド手段を設けることが好ましい。
【0025】
これによると、一対のガイド手段によるガイド作用と挟着作用とにより、自走装置を墨付け対象物の長さ方向に安定させて自走させることができる。
【0026】
また、このように自走装置に一対のガイド手段を設ける場合には、これらのガイド手段に、これらのガイド手段を互いに近づく方向に常時弾性的に付勢する弾性付勢手段による付勢力を付与することが好ましい。
【0027】
これによると、墨付け作業が行われる墨付け対象物に、幅寸法が異なっている各種のものがあっても、一対のガイド手段の間隔を最大の間隔に拡大しながら、自走装置を墨付け対象物に載置セットすると、これらのガイド手段の間隔は弾性付勢手段による付勢力により縮小するため、幅寸法が異なっているそれぞれの墨付け対象物の幅方向の両側の端面に一対のガイド手段を、これらのガイド手段により墨付け対象物が自ずと挟着された状態にして接触させることができ、これにより、自走装置を墨付け対象物にセットするための作業を簡単に行えることになる。
【0028】
このように一対のガイド手段に、これらのガイド手段を互いに近づく方向に常時弾性的に付勢する弾性付勢手段による付勢力を付与する場合には、この弾性付勢手段は、これらのガイド手段を互いに近づく方向に常時弾性的に付勢できるものであれば任意な手段によるものでよく、例えば、ガススプリングによるものでもよく、コイルばねによるものでもよい。
【0029】
また、前述したように墨付け装置を自動移動型とするために、墨刺し部材と往復動手段と接離手段を、墨付け対象物に対して自走する自走装置に装備する場合には、自走装置に、墨付け対象物の後端の位置を検出するためのセンサを設け、このセンサで検出された墨付け対象物の後端の位置が基準位置となって自走装置が墨付け対象物の墨付け作業をすべき位置へ前進するようにしてもよい。
【0030】
これによると、センサで検出された墨付け対象物の後端の位置を基準位置にして、墨付け対象物の墨付け作業をすべき1個又は複数個の位置において、墨刺し部材による墨付け作業を行うことができる。
【0031】
このように自走装置に墨付け対象物の後端の位置を検出するためのセンサを設ける場合には、このセンサは、タッチスイッチ等による接触式センサでもよく、光学式や静電容量式等の非接触式センサでもよい。
【0032】
センサを光学式センサとする場合には、墨付け対象物に着脱自在に取り付けられた補正治具の一部がこの光学式センサで検出されることにより上述の基準位置が規定されるようにしてもよい。
【0033】
これによると、墨付け対象物の後端が、例えば、面取り加工されていることにより、光学式センサで検出することが困難である場合でも、光学式センサで一部が検出可能となっている補正治具を墨付け対象物に着脱自在に取り付け、この補正治具の一部が光学式センサで検出されることにより、上述の基準位置をこの補正治具によって規定することができる。
【0034】
以上説明した本発明に係る墨付け装置は、各種の墨付け対象物に対して墨付け作業を行うために用いることができ、この墨付け対象物は、構造材が金属製や木製となっている建築物用の建材でもよく、あるいは、橋脚や鉄塔等のための構成材でもよく、また、これらの建材や構成材はH型鋼でもよく、溝型鋼でもよく、さらに、木製柱や木製梁でもよい。
【0035】
また、本発明における墨は、カラーペイント等の塗料でもよく、従来の墨壷で使用されている墨でもよく、墨付け対象物に適切に墨付け作業を行えるものであれば任意な材料からなるものでよい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によると、墨付け作業のための移動方向に対する墨刺し部材の向きに配慮して、墨付け作業を自動化できるようになるという効果を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る墨付け装置を備えている自走装置の全体を示す斜視図である。
【図2】図2は、自走装置の正面図である。
【図3】図3は、自走装置の墨付け装置に設けられているスライダ、墨刺し部材及び墨容器を示す正面図である。
【図4】図4は、図3の側断面図である。
【図5】図5は、図2で示されている墨付け装置のうち、墨刺し部材と墨容器を省略して示した自走装置の本体の正面図である。
【図6】図6は、図5で示されている墨付け装置の接離手段により墨刺し部材が墨付け対象物に接触しているときを示す正面図である。
【図7】図7は、図5で示されている墨付け装置の接離手段により墨刺し部材が墨付け対象物から離間しているときを示す正面図である。
【図8】図8は、自走装置の本体の底面図である。
【図9】図9は、自走装置の本体の側断面図である。
【図10】図10は、自走装置の本体の内部構造を示す平面図である。
【図11】図11は、自走装置の前進の基準位置を規定する補正治具の全体を示す斜視図である。
【図12】図12は、補正治具を墨付け対象物に取り付けたときを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。本実施形態に係る墨付け装置は、建築物の建材となっているH型鋼に、他の建材との接合位置を直線でマークするために用いられるものである。このため、本実施形態における墨付け対象物は、H型鋼である。
【0039】
また、本実施形態に係る墨付け装置は、H型鋼に対して自走する自走装置に装備されており、図1には、本実施形態の墨付け装置50を備えているこの自走装置1の全体の斜視図が示されている。初めに、この墨付け装置50付き自走装置1について説明すると、自走装置1は、本体2と、この本体2に着脱可能に被せられているカバー部材3とを有しており、カバー部材3の上面には、自走装置1を持ち運び可能とするための2個の取手4が設けられている。また、カバー部材3には、液晶による表示画面5と、電源ボタンやスタートボタンを含む複数のボタンによる操作部6とが設けられているとともに、カバー部材3に形成されている窓孔3Aを開閉するための蓋部材7も設けられている。
【0040】
図10には、カバー部材3を取り外したときの本体2の内部構造の平面図が示されている。この本体2の内部には、バッテリが配置されている電源部8と、コンピュータとなっている制御装置9のための電子回路基板と、駆動輪10にカップリング11を介して接続されているパルスモータによる駆動モータ12と、ロータリエンコーダ13がカップリング14を介して接続されている従動輪15と、図1で示されている墨付け装置50の駆動源となっている電動モータ16とが収納されている。また、本体2の底面図である図8に示されているように、本体2には、それぞれ幅広となっている駆動輪10及び従動輪15のそれぞれの下部を本体2の下側に露出させるための孔2A,2Bが形成されているとともに、図10に示されているように、本体2の内部には、これらの駆動輪10、従動輪15を覆うためのカバー17,18が配置されている。
【0041】
また、本体2の内部には、カード式記録媒体を挿入するための挿入口19が電源部8と隣接して配設されており、このカード式記録媒体には、墨付け対象物となっているH型鋼25(図2を参照)についての設計データとなっているCADデータから、このH型鋼25に墨付け作業を行ううえで必要とされる各種のデータが取り出されて記録されており、このカード式記録媒体が挿入口19に挿入されることにより、これらのデータが制御装置9の記録部に記録され、そして、制御装置9が、これらのデータと、制御装置9の記録部に記録されている作業順序に関するプログラムと、ロータリエンコーダ13等からの入力信号とに基づき、駆動モータ12や電動モータ16を駆動制御するようになっている。
【0042】
したがって、本実施形態に係る自走装置は、H型鋼25について予め作成されているCADデータを直接利用して、このH型鋼25に墨付け作業を行えるものになっており、上述したH型鋼25に墨付け作業を行ううえで必要とされる各種のデータのなかには、H型鋼25における他の建材との接合位置に関するデータ、すなわち、H型鋼25における墨付け作業をすべき位置に関するデータが含まれている。
【0043】
なお、図1で示されている表示画面5には、挿入口19に挿入されたカード式記録媒体に記録されていたH型鋼25の種類等に関するデータが表示されるようになっている。
【0044】
また、図1で示されているカバー部材3の窓孔3Aの位置は、図10で示されている電源部8と挿入口19が配置されている位置と一致している。このため、カバー部材3を本体2から取り外すことなく、蓋部材7を開けるだけにより、電源部8へのバッテリのセット作業及び電源部8からのバッテリの取り出し作業と、挿入口19へのカード式記録媒体の挿入作業及び挿入口19からのカード式記録媒体の抜き取り作業とを行えるようになっている。
【0045】
また、図10に示されているように、駆動輪10が配置されている本体2の内部の前部には、前側センサ20が配置され、従動輪15が配置されている本体2の内部の後部には、後側センサ21が配置されている。これらのセンサ20,21は、発光部と受光部からなる光学式センサであり、図8に示されているように、本体2には、センサ20,21の発光部から出射したビーム光が本体2の下側に進行し、H型鋼25で反射したこのビーム光が受光部に入射できるようにするための孔2C,2Dが形成されている。
【0046】
また、図8には、自走装置1をH型鋼25に載置セットしたときに、自走装置1の走行方向と直交するH型鋼25の幅方向の両側の端面に接触する一対のガイド手段30が示されている。本体2の下面に配置されているこれらのガイド手段30のそれぞれは、自走装置1の走行方向に、言い換えるとH型鋼25の長さ方向に延びる長さを有しているベース部材31と、このベース部材31の長さ方向の両端に下向きに取り付けられた2個の中心軸32と、これらの中心軸32を中心にベース部材31に回転自在に配設された長筒状の2個のガイド筒部材33とを有する。H型鋼25の幅方向に向かい合って本体2に配設されているこれらのガイド手段30のそれぞれのベース部材31には、2本のガイドバー34,35の基端部が結合され、H型鋼25の幅方向内側へ延びているこれらのガイドバー34,35は、本体2に取り付けられたブロック状の2個のガイド部材36,37のガイド孔にスライド自在に挿入されている。
【0047】
このため、一対のガイド手段30のそれぞれは、ガイドバー34,35とガイド部材36,37の案内作用により、H型鋼25の幅方向に移動自在となっている。そして、それぞれのベース部材31には取手38が設けられており、これらの取手38により、これらのガイド手段30をH型鋼25の幅方向に手で移動させることができる。
【0048】
なお、本体2の側断面図である図9に示されているように、ガイド部材36,37は、本体2の下面に上方へ窪んで形成された溝部2Eに配置されているとともに、この溝部2Eには、板状の2個の補助部材39,40が配置されており、これらの補助部材39,40には下向きに突出した突出部39A,40Aが設けられている。これらの突出部39A,40Aは、図8に示されているとおり、それぞれのガイド手段30ごとに設けられているとともに、H型鋼25の幅方向に延びている。また、図9から分かるように、それぞれのガイド手段30のベース部材31には上方へ立ち上がった2個の立上部31A,31Bが形成され、これらの立上部31A,31Bに、突出部39A,40Aがスライド自在に挿入された切込部31C,31Dが形成されている。
【0049】
このため、一対のガイド手段30がガイドバー34,35とガイド部材36,37の案内作用によりH型鋼25の幅方向に移動することは、突出部39A,40Aにより切込部31C,31Dが案内されることによっても行われることになり、これにより、一対のガイド手段30のベース部材31がH型鋼25の長さ方向に振れることを補助部材39,40の突出部39A,40Aにより防止して、これらのガイド手段30をH型鋼25の幅方向へ移動させることができる。
【0050】
また、本実施形態では、図8に示されているとおり、一対のガイド手段30のベース部材31のそれぞれには、補助部材39,40に対して転動自在となった2個のガイドローラ41,42が設けられており、このため、一対のガイド手段30は、これらのガイドローラ41,42の転動により円滑にH型鋼25の幅方向に移動する。
【0051】
また、本体2の溝部2Eには基台43が設けられ、この基台43には、ガススプリング44のシリンダ44Aがブラケット45で取り付けられており、H型鋼25の幅方向に向いているガススプリング44のピストンロッド44Bの先端には、連結部材46が結合されている。この連結部材46と、一対のガイド手段30のうち、一方のガイド手段30のベース部材31との間には、ワイヤー47が架け渡されており、また、連結部材46と、一対のガイド手段30のうち、他方のガイド手段30のベース部材31との間には、本体2に取り付けられた方向反転ローラ48に掛け回されたワイヤー49が架け渡されている。
【0052】
ガススプリング44のピストンロッド44Bは、シリンダ44A内に封入されている高圧ガスによりシリンダ44Aが突出する方向への圧力を常時受けているため、一対のガイド手段30のそれぞれは、ガススプリング44により、互いに近づく方向へ常時弾性的に付勢されている。このため、これらのガイド手段30を取手38によりH型鋼25の幅方向に拡大移動させてから、前述した駆動輪10及び従動輪15をH型鋼25の上面に載せて自走装置1をこのH型鋼25に載置セットし、この後に、取手38から手を離すと、一対のガイド手段30のそれぞれはガススプリング44により互いに近づく方向へ移動し、それぞれのガイド手段30の前述のガイド筒部材33が、図2に示されているように、H型鋼25の幅方向の両側の端面25Aに自ずと当接することになり、これらの端面25Aは、図2に示されているように、H型鋼25の上側フランジ部25Bの幅方向の端面である。
【0053】
これにより、一対のガイド手段30は、自走装置1の走行方向と直交するH型鋼25の幅方向の両側の端面25AにH型鋼25を挟着する状態で接触することになり、このため、後述するように自走装置1がH型鋼25の長さ方向に自走したときに、それぞれのガイド手段30のガイド筒部材33が前述の中心軸32を中心に回転しながら、ガイド手段30が自走装置1をH型鋼25に対してガイドすることになり、自走装置1をH型鋼25の長さ方向に安定させて走行させることができる。
【0054】
また、一対のガイド手段30には、これらのガイド手段30を互いに近づく方向に常時弾性的に付勢するための弾性付勢手段となっているガススプリング44による付勢力が付与されているため、墨付け作業を行うH型鋼25に幅寸法が異なっている各種のものがあっても、一対のガイド手段30の間隔を最大の間隔に拡大しながら、自走装置1をH型鋼25に載置セットすると、これらのガイド手段30の間隔はガススプリング44による付勢力により縮小するため、幅寸法が異なっているそれぞれのH型鋼25の幅方向の両側の端面に一対のガイド手段30を、これらのガイド手段30によりH型鋼25が自ずと挟着された状態にして接触させることができることになり、これにより、幅寸法が異なっているそれぞれのH型鋼25に自走装置1をセットするための作業を簡単に行える。
【0055】
次に、図1で示されている墨付け装置50について説明する。この墨付け装置50は、自走装置1の本体2の前面部2Fに配置されている。
【0056】
図10で説明した電動モータ16の駆動軸16Aの一方の端部は、本体2の前面部2Fから自走装置1の外部に突出しており、この一方の端部には駆動プーリ51が結合されている。前面部2Fには、図1に示されているように、この駆動プーリ51のほかに、アイドルプーリ52,53と、方向反転プーリ54,55が回転自在に配設されており、これらのプーリ51〜55には、無端走行体であるベルト56が掛け回されている。なお、これらのプーリ51〜55及びベルト56は、タイミングプーリ及びタイミングベルトである。
【0057】
ベルト56のうち、2個の方向反転プーリ54と55の間の下段部分には、スライダ57が連結されており、また、前面部2Fの両端部には、上下2本のガイドバー58,59がH型鋼25の幅方向が長さ方向となって架け渡されており、スライダ57は、これらのガイドバー58,59に案内されてH型鋼25の幅方向に移動自在となっている。このため、スライダ57は、電動モータ16の正逆駆動による駆動プーリ51の正逆回転により、ガイドバー58,59に案内されてH型鋼25の幅方向に往復動する。
【0058】
図2には、墨付け装置50を正面から見た構造を示すために自走装置1の正面図が示されている。また、図3には、墨付け装置50のうち、スライダ57及びこのスライダ57に配置されている部材の正面図が示されており、図4は、図3の側断面図である。スライダ57には、上下方向を長さ方向とする2本のガイドロッド60(図6及び図7も参照)が設けられており、これらのガイドロッド60に案内されて昇降自在となっている昇降部材61がスライダ57に取り付けられている。また、それぞれのガイドロッド60には、昇降部材61に下方への弾性付勢力を常時作用させているコイルばね62が巻装されているとともに、昇降部材61の下部には2個のローラ63が回転自在に取り付けられており、昇降部材61が下降位置に達しているときに、これらのローラ63がH型鋼25の上面を転動することにより、スライダ57及び昇降部材61がH型鋼25の幅方向に円滑に往復動できるようになっている。
【0059】
また、図3及び図4に示されているように、昇降部材61の前面には、墨刺し部材65を保持したホルダー66が取り付けられている。墨刺し部材65は、合成樹脂製の本体65Aと、この本体65Aから斜め下向きに延びている筆先65Bとからなり、この筆先65Bは、それぞれが細幅で薄厚となっている多数の金属製の薄板67を厚さ方向に重ね合わせることにより形成されており、これらの薄板67の幅方向は、H型鋼25の長さ方向になっているとともに、薄板67の厚さ方向は、H型鋼25の幅方向となっている。
【0060】
墨刺し部材65の本体65Aの全体と筆先65Bの一部はホルダー66の内部に収納されており、このホルダー66にねじ込まれた2個の止めねじ68の加圧力により、墨刺し部材65がホルダー66に止められている。また、ホルダー66には、墨刺し部材65の本体65Aの上面を斜め下向きに押すための押しねじ69が螺入されており、それぞれの止めねじ68を緩めた後に、この押しねじ69をホルダー66内に螺進させることにより、ホルダー66の下面からH型鋼25側へ突出している筆先65Bの突出量を調整することができるようになっている。このため、押しねじ69は、墨刺し部材65のH型鋼25側への突出量を調整するための墨刺し部材突出量調整手段となっている。
【0061】
また、図4に示されているとおり、ホルダー66の前面には、墨刺し部材65に供給される墨を収納した墨容器70が取り付けられている。この墨容器70の上面は墨差し入れ口70Aとなっているとともに、墨容器70の内部には、墨を含浸させるための不織布71が収納されており、また、墨容器70の内部には、墨を墨刺し部材65の筆先65Bに供給するための墨供給口70Bが形成されている。この墨供給口70Bは、筆先65Bを構成している上述の薄板67の幅方向に筆先65Bと向かい合っており、このため、不織布71に含浸されている墨をそれぞれの薄板67の間に毛細管現象により確実に供給することができるようになっている。なお、本実施形態における墨は、墨壷用の白液である。
【0062】
図5は、図2で示されている墨付け装置50のうち、墨刺し部材65と墨容器70を省略して示した自走装置1の本体2の正面図である。また、図6及び図7には、墨刺し部材65と墨容器70を省略することにより、スライダ57と昇降部材61の全体正面図が示されている。スライダ57の前面には、軸72から下側に延びているとともに、この軸72を中心にH型鋼25の幅方向に揺動自在となっている第1係合部材73が配設されている。また、スライダ57の前面には、この第1係合部材73をH型鋼25の幅方向の一方の側へ弾性的に付勢するための付勢部材となっているコイルばね74が配設され、このコイルばね74による第1係合部材73の揺動は、スライダ57の前面に設けられたストップピン75により止められているため、通常時の第1係合部材73は図6に示されている鉛直下向きの姿勢となっている。
【0063】
また、昇降部材61の後面には、この昇降部材61がスライダ57に設けられている前述の2本のガイドロッド60に案内されて上昇したときに、第1係合部材73と係合可能となっている第2係合部材76が固定配置されている。第1係合部材73の下部と第2係合部材76の上部には、これらの係合部材73と76の係合を円滑に行わせるための傾斜面73A,76Aが形成されている。
【0064】
図5に示されているように、自走装置1の本体2の前面部2Fには、H型鋼25の幅方向における一方の端部の側において、傾斜部材77が他方の端部の側に向けて取り付けられており、この傾斜部材77には、この傾斜部材77が取り付けられている前面部2Fの端部の側に向かって上り傾斜となっている傾斜面77Aが形成されている。また、前面部2Fの他方の端部には、突き部材78が取り付けており、この突き部材78は、傾斜部材77が取り付けられている前面部2Fの端部の側に向かって延びている。
【0065】
図10に示されている電動モータ16の正駆動により図5で示されている駆動プーリ51が正回転すると、ベルト56の走行によりスライダ57は、傾斜部材77側への移動である図5及び図6の矢印Aの方向へ前進する。そして、スライダ57が傾斜部材77の配置箇所に達すると、昇降部材61に設けられているローラ63が傾斜部材77の傾斜面77Aに乗り上げるため、昇降部材61はガイドロッド60の案内作用によりスライダ57に対して上昇し、この上昇により、第2係合部材76は、一旦コイルばね74に抗してストップピン75とは反対側へ揺動する第1係合部材73に係合することになる。これにより、昇降部材61は上昇位置を維持することになる。
【0066】
また、電動モータ16の逆駆動により駆動プーリ51が逆回転すると、ベルト56の逆側への走行によりスライダ57は、突き部材78側への移動である図5及び図7の矢印Bの方向へ後退する。そして、スライダ57が突き部材78の先端箇所に達すると、第1係合部材73は突き部材78で突かれるため、この第1係合部材73はコイルばね74に抗してストップピン75とは反対側へ揺動する。このため、第1係合部材73と第2係合部材76との係合が解除されて、昇降部材61は、昇降部材61自身の重量や、墨刺し部材65及び墨容器70の重量、さらにはガイドロッド60に巻装されているコイルばね62のばね力により、ガイドロッド60に案内されてスライダ57に対して下降することになり、これにより、昇降部材61及び墨刺し部材65は元の下降位置に戻る。
【0067】
以上の説明から分かるように、本実施形態では、電動モータ16や駆動プーリ51、さらにはベルト56により、スライダ57、昇降部材61及びこの昇降部材61に配置されている墨刺し部材65をH型鋼25の幅方向に往復動させるための往復動手段80が構成されており、また、スライダ57に設けられているガイドロッド60や第1係合部材73、昇降部材61に配置されている第2係合部材76、さらには自走装置1の本体2の前面部2Fに配置されている傾斜部材77や突き部材78により、昇降部材61及びこの昇降部材に配置されている墨刺し部材65をスライダ57に対して昇降させるための昇降手段81が構成されている。
【0068】
そして、墨刺し部材65がスライダ57に対して下降したときには、墨刺し部材65の筆先65BはH型鋼25に接触し、墨刺し部材65がスライダ57に対して上昇したときには、墨刺し部材65の筆先65BはH型鋼25から離間するため、昇降手段81は、この筆先65BをH型鋼25に対して接触、離間させるための接離手段81にもなっている。
【0069】
本実施形態では、これらの墨刺し部材65、往復動手段80及び接離手段81は、H型鋼25に対して自走する自走装置1に配設されているため、墨刺し部材65、往復動手段80及び接離手段81は、自走装置1に装備されている。
【0070】
以上において、墨刺し部材65が往復動手段80により図5及び図6の矢印Aの方向に移動することが、往動になっており、また、墨刺し部材65が往復動手段80により図5及び図7の矢印Bの方向に移動することが、復動になっている。図6の二点鎖線で示すように、墨刺し部材65の筆先65Bは、往動方向Aに対して鋭角の傾き角度Cとなっている。この往動方向Aに墨刺し部材65が移動するときに、H型鋼25の上面に直線による線引きの墨付け作業が筆先65Bからの墨によって行われるため、傾き角度Cにより、筆先65Bが損傷等することなくこの墨付け作業を行うことができる。
【0071】
図10に示されている自走装置1の本体2の内部には、スライダ57や墨刺し部材65が往動限位置及び復動限位置に達したことを検出するための検出手段82が配置されている。この検出手段82は、前述した電動モータ16の駆動軸16Aの駆動プーリ51が取り付けられている端部とは反対側の端部に結合されているプーリ83と、このプーリ83との間にベルト84が掛け回されているプーリ85と、このプーリ85と一体に回転する切欠部付きの遮光板86と、この遮光板86の両側に配置された発光部及び受光部からなる光学式センサ87とを含んで構成されている。この光学式センサ87は、それぞれが発光部及び受光部からなる2個の検出部を備えており、また、光学式センサ87は、コンピュータになっている前述の制御装置9の入力部に接続されている。なお、プーリ83,85及びベルト84は、タイミングプーリ及びタイミングベルトである。
【0072】
スライダ57や墨刺し部材65が往復動手段80により往動限位置に達したときには、遮光板86の切欠部は、光学式センサ87の上記2個の検出部のうち、一方の検出部の配置箇所に達するため、この往動限位置は光学式センサ87により検出され、また、スライダ57や墨刺し部材65が往復動手段80により復動限位置に達したときには、遮光板86の切欠部は、光学式センサ87の上記2個の検出部のうち、他方の検出部の配置箇所に達するため、この復動限位置は光学式センサ87により検出され、そして、これらの検出信号は光学式センサ87から制御装置9に入力する。光学式センサ87が往動限位置を検出したときには、制御装置9は、それまで正駆動していた電動モータ16を一旦停止させた後に逆駆動させることになり、これにより、スライダ57や墨刺し部材65は復動を開始する。また、光学式センサ87が復動限位置を検出したときには、制御装置9は電動モータ16の逆駆動を停止させ、これにより、スライダ57や墨刺し部材65は、往動開始の初期位置となっている復動限位置に停止することになる。
【0073】
次に、自走装置1に装備されている墨付け装置50によりH型鋼25に行われる墨付け作業について説明する。この墨付け作業は、図10で示されているコンピュータとなっている制御装置9が、制御装置9に記録部に記録されている前述のデータや作業順序に関するプログラム、制御装置9に入力する後述の信号に基づき駆動モータ12や電動モータ16を駆動制御することにより、以下のように行われる。
【0074】
図1で示した操作部6のスタートボタンをオン操作すると、制御装置9で制御される駆動モータ12の逆駆動により駆動輪10が逆回転するため、H型鋼25に載置セットされている自走装置1は、H型鋼25の後端に向かって後退の自走を始める。そして、自走装置1に配置されている図10の後側センサ21がH型鋼25の後端を検出すると、この検出信号が入力する制御装置9は、駆動モータ12を一旦停止させた後にこの駆動モータ12に正駆動を開始させ、これにより駆動輪10は正回転するため、自走装置1はH型鋼25に対して前進の自走を開始する。この前進により従動輪15は回転するため、この従動輪15にカップリング14で接続されているロータリエンコーダ13がH型鋼25の後端からの前進距離を測定しながら、自走装置1は前進し、ロータリエンコーダ13で検出された距離データは制御装置9に入力する。すなわち、本実施形態では、H型鋼25の後端の位置が、自走装置1の前進の基準位置になっている。
【0075】
制御装置9に入力した距離データが、前述のカード式記録媒体から制御装置9の記録部に記録されている第1回目の墨付け作業をすべき位置に関するデータと対応するデータになると、制御装置9は駆動モータ12を停止させるとともに、往復動手段80の構成要素となっている電動モータ16に正駆動を開始させる。これにより、駆動プーリ51が正回転するため、墨付け装置50の構成要素となっているスライダ57、昇降部材61及び墨刺し部材65が初期位置から図5及び図6の矢印Aで示す往動を開始し、この往動は、墨刺し部材65がスライダ57に対して下降位置に達して行われるため、墨刺し部材65の往動により、H型鋼25の上面に直線の線引き作業である墨付け作業が行われる。
【0076】
スライダ57、昇降部材61及び墨刺し部材65が往動限位置に達すると、図10の検出手段82から制御装置9に往動限位置検出信号が入力するため、制御装置9は、電動モータ16の正駆動による駆動プーリ51の正回転を一旦停止させた後に電動モータ16の逆駆動による駆動プーリ51の逆回転を行わせる。これにより、スライダ57、昇降部材61及び墨刺し部材65は、図5及び図7の矢印Bで示す復動を開始し、この復動は、前述の接離手段81により墨刺し部材65がスライダ57に対して上昇位置に達して行われるため、墨刺し部材65はH型鋼25から離間しながら復動を行う。
【0077】
昇降部材61及び墨刺し部材65が復動限位置に達すると、検出手段82から制御装置9に復動限位置検出信号が入力するため、制御装置9は、電動モータ16の逆駆動による駆動プーリ51の逆回転を停止させ、これにより、墨付け装置50による第1回目の墨付け作業が終了する。
【0078】
なお、自走装置1がこの墨付け作業を行うために自走装置1の前進の基準位置となっているH型鋼25の後端から前進する距離は、後側センサ21と従動輪15との間の前後距離や、従動輪15と墨刺し部材65との間の前後距離が考慮されている距離である。
【0079】
また、上述のように昇降部材61及び墨刺し部材65が往動限位置に達して検出手段82から制御装置9に往動限位置検出信号が入力し、制御装置9が駆動プーリ51の正回転を一旦停止させた後に、又は駆動プーリ51に逆回転を行わせた後に、あるいは制御装置9に往動限位置検出信号が入力した後に、制御装置9は駆動モータ12の正駆動を開始させて駆動輪10を正回転させ、これにより、自走装置1は自走による前進を再開する。このように自走装置1が前進を再開したときも、ロータリエンコーダ13はH型鋼25の後端からの前進距離を測定し、この距離データは制御装置9に入力する。
【0080】
この距離データが、カード式記録媒体から制御装置9の記録部に記録されている第2回目の墨付け作業をすべき位置に関するデータと対応するデータになると、制御装置9は、駆動モータ12及び電動モータ16に対して第1回目の墨付け作業のときと同じ駆動制御を行い、これにより、墨付け装置50による第2回目の墨付け作業が行われる。
【0081】
これ以後は、上述と同様にして第3回目以降の墨付け作業が実施される。
【0082】
なお、何らの不具合により、自走装置1がH型鋼25の前端まで前進してしまうことが生じた場合には、この前端は、自走装置1に配置されている図10の前側センサ20により検出されるため、この検出信号が入力する制御装置9は、自走装置1を前進させている駆動モータ12の正駆動を緊急停止させる。
【0083】
また、H型鋼25の表面が、例えば、サンドブラスト等による仕上げ加工が行われておらず、表面に黒皮が付着したままになっている場合には、従動輪15の回転によりロータリエンコーダ13で検出される距離データに誤差が生ずる。この誤差が予め試行運転や経験上判明している場合には、図1で示した操作部6の操作等により制御装置9の記録部にこの誤差を記録しておき、これにより、制御装置9の中央処理部が、この誤差を修正値として加算して、自走装置1が墨付け作業する位置までの前進距離を演算するようにしてもよい。
【0084】
以上の説明で分かるように、本実施形態の墨刺し部材65は往復動手段80によりH型鋼25の幅方向に往復動するものになっているとともに、この墨刺し部材65は接離手段81によりH型鋼25に対して接触、離間するものとなっており、墨刺し部材65が往復動手段80による往復動のうちの墨付け作業のための往動を行うときに、墨刺し部材65は接離手段81によりH型鋼25に接触しており、墨刺し部材65が往復動手段80による往復動のうちの復動を行うときには、墨刺し部材65は接離手段81によりH型鋼25から離間している。そして、墨付け作業のための往動を行うときの墨刺し部材65は、この墨付け作業のためにこの墨刺し部材65が移動する方向である往動方向Aに対して鋭角の傾き角度Cになっているため、墨刺し部材65の筆先65Bに損傷等が生ずることがなく墨付け作業を行えることになる。また、墨刺し部材65の復動時には、この墨刺し部材65はH型鋼25から離間しているため、墨刺し部材65が移動方向に対して鈍角の傾き角度になっているこの復動時においても、墨刺し部材65の筆先65Bに損傷等が生じることを防止でき、この状態で墨刺し部材65を初期位置に復帰させることができる。
【0085】
このため、本実施形態によると、墨付け作業のための移動方向に対する墨刺し部材65の向きに配慮されていることになり、このため、墨付け作業の自動化を図ることができ、この自動作業により墨付け作業を効率的に実施できることになる。
【0086】
また、墨刺し部材65は往復動手段80により往復動するスライダ57に配置されているとともに、このスライダ57に、墨刺し部材65に供給される墨を収納した墨容器70が配置されているため、この墨容器70から供給される墨により墨刺し部材65がH型鋼25に墨付け作業を行えることになり、墨刺し部材65には墨容器70から常時墨が供給されるため、墨付け作業中の墨刺し部材65が墨不足になることはない。
【0087】
また、本実施形態では、墨刺し部材65の筆先65Bが、それぞれが細幅で薄厚となっている複数の薄板67を厚さ方向に重ね合わせることにより形成されており、墨容器70には、薄板67の幅方向に筆先65Bと向かい合っている墨供給口70Bが設けられているため、この墨供給口70Bから薄板67同士の間に毛細管現象を利用して確実に墨を供給することができる。
【0088】
さらに、墨容器70には、墨刺し部材65のH型鋼25側への突出量を調整するための墨刺し部材突出量調整手段となっている押しねじ69が設けられているため、多数回の墨付け作業により墨刺し部材65の筆先65Bが摩耗により短くなっても、押しねじ69により、往復動手段80による墨刺し部材65の往動時に筆先65BをH型鋼25に確実に接触させることができる。
【0089】
また、本実施形態に係る墨付け装置50は、H型鋼25に対して自走する自走装置1に装備されているため、墨付け装置50を自動移動型のものとすることができ、これにより、墨付け装置50をH型鋼25墨付け作業箇所へ移動させる作業を自動作業として行えることになる。
【0090】
さらに、本実施形態に係る自走装置1には、この自走装置1の走行方向と直交するH型鋼25の幅方向の両側の端面25AにH型鋼25を挟着状態で接触し、自走装置1の走行を案内するための一対のガイド手段30が設けられているため、自走装置1をH型鋼25の長さ方向に安定させて自走させることができる。
【0091】
図11及び図12は、自走装置1に配置されている光学式の後側センサ21により、H型鋼25の後端が検出することができない又は困難な場合に用いる補正治具90を示している。光学式の後側センサ21により、H型鋼25の後端が検出することができない又は困難な場合とは、例えば、図12に示されているように、H型鋼25の後端25Cに斜めの面取り部25Dが設けられている場合である。光学式の後側センサ21の発光部から出射したビーム光が斜めの面取り部25Dで反射されると、このビーム光は受光部に入射しないため、このセンサ21によりH型鋼25の後端25Cを検出することはできない。
【0092】
補正治具90は、図11に示されているように、H型鋼25の長さ方向に延びる2個の平行なアーム部材91と、これらのアーム部材91の後端間に架設された基準部材92と、この基準部材92の両端から下向きに延びる2本の平行な垂下部材93と、それぞれのアーム部材91の下面に取り付けられた板状のマグネット94とからなる。この補正治具90は、マグネット94によりH型鋼25に対して着脱自在となっており、補正治具90を用いる場合には、図12に示されているように、それぞれの垂下部材93をH型鋼25の後端25Cに、言い換えると、H型鋼25の上側フランジ部25Bの後面に当て、マグネット94によりそれぞれのアーム部材91をH型鋼25の上面に吸着させる。
【0093】
これによると、H型鋼25の上面に載置セットされた自走装置1が後退すると、基準部材92の直角形状となっている後端92Aを光学式の後側センサ21により検出できることになり、この後端92Aの位置を基準位置にして自走装置1を前進させることができる。
【0094】
なお、この補正治具90を用いると、H型鋼25の実際の後端25Cの位置に対して基準部材92の後端92Aの位置は、基準部材92や垂下部材93についてのH型鋼25の長さ方向の寸法に対応するずれ量Wだけ後方へずれることになるため、図1で示した操作部6の操作等により制御装置9の記録部にずれ量Wを記録し、これにより、制御装置9の中央処理部が、ずれ量Wのデータと、前述したH型鋼25の長さ方向における墨付け作業をすべき位置に関するデータとにより、自走装置1が墨付け作業する位置まで前進する距離を演算するようにする。
【0095】
また、光学式の後側センサ21が、発光部及び受光部の配置箇所と、発光部から出射したビーム光が反射される箇所との間の上下距離が発光部の傾き角度により規定される距離型センサである場合には、図12で示すように、上述の基準位置となる基準部材92の後端92Aの高さ位置を、H型鋼25の後端25Cの上面と同じになっている高さ位置Hとすることが好ましい。
【0096】
これによると、補正治具90を用いるときであっても、発光部の傾き角度を、補正治具90を用いないときと同じにすることができ、発光部の傾き角度を変更する作業を省略することができる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、例えば、建築物用の建材に、他の建材との接合位置等をマークするための墨付け作業を行うために利用できるものである。
【符号の説明】
【0098】
1 自走装置
25 墨付け対象物であるH型鋼
25A H型鋼の幅方向の端面
30 ガイド手段
44 弾性付勢手段であるガススプリング
50 墨付け装置
57 スライダ
65 墨刺し部材
65B 筆先
67 薄板
69 墨刺し部材突出量調整手段である押しねじ
70 墨容器
70B 墨供給口
80 往復動手段
81 昇降手段でもある接離手段
90 補正治具
A 墨付け作業のために墨刺し部材を移動させる方向である往動方向
B 復動方向
C 鋭角の傾き角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
墨付け対象物に墨付け作業を行うための墨刺し部材を、前記墨付け作業のためにこの墨刺し部材を移動させる方向に対して鋭角の傾き角度にすることにより前記墨刺し部材の移動で前記墨付け対象物に前記墨付け作業を行う墨付け装置であって、
前記墨刺し部材を前記墨付け対象物に対して往復動させるための往復動手段と、前記墨刺し部材を前記墨付け対象物に対して接触、離間させるための手段であるとともに、前記墨刺し部材が前記往復動手段による往復動のうちの前記墨付け作業のための往動を行うときにこの墨刺し部材を前記墨付け対象物に接触させ、前記墨刺し部材が前記往復動手段による往復動のうちの復動を行うときにはこの墨刺し部材を前記墨付け対象物から離間させるための接離手段と、を備えていることを特徴とする墨付け装置。
【請求項2】
請求項1に記載の墨付け装置において、前記墨刺し部材は、前記往復動手段により往復動するスライダに配置されているとともに、このスライダには、前記墨刺し部材に供給される墨を収納した墨容器が配置され、この墨容器から供給される墨により前記墨刺し部材は前記墨付け対象物に前記墨付け作業を行うことを特徴とする墨付け装置。
【請求項3】
請求項2に記載の墨付け装置において、前記墨刺し部材の筆先は、それぞれが細幅で薄厚となっている複数の薄板を厚さ方向に重ね合わせることにより形成され、前記墨容器は、前記薄板の幅方向に前記筆先と向かい合っている墨供給口を有し、この墨供給口から前記薄板同士の間に墨が供給されることを特徴とする墨付け装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の墨付け装置において、前記スライダには、前記墨刺し部材の前記墨付け対象物側への突出量を調整するための墨刺し部材突出量調整手段が設けられていることを特徴とする墨付け装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の墨付け装置において、前記墨刺し部材と前記往復動手段と前記接離手段は、前記墨付け対象物に対して自走する自走装置に装備されていることを特徴とする墨付け装置。
【請求項6】
請求項5に記載の墨付け装置において、前記自走装置には、この自走装置の走行方向と直交する前記墨付け対象物の幅方向の両側の端面に前記墨付け対象物を挟着状態で接触し、前記自走装置の走行を案内するための一対のガイド手段が設けられていることを特徴とする墨付け装置。
【請求項7】
請求項6に記載の墨付け装置において、前記一対のガイド手段には、これらのガイド手段を互いに近づく方向に常時弾性的に付勢する弾性付勢手段による付勢力が付与されていることを特徴とする墨付け装置。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の墨付け装置において、前記自走装置には、前記墨付け対象物の後端の位置を検出するためのセンサが設けられ、このセンサで検出された前記墨付け対象物の後端の位置が基準位置となって前記自走装置は前記墨付け対象物の墨付け作業をすべき位置へ前進することを特徴とする墨付け装置。
【請求項9】
請求項8に記載の墨付け装置において、前記センサは光学式センサであり、前記墨付け対象物に着脱自在に取り付けられた補正治具の一部が前記光学式センサで検出されることにより前記基準位置が規定されることを特徴とする墨付け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−139796(P2012−139796A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−466(P2011−466)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(000149011)株式会社大橋製作所 (7)