説明

墨汁

【課題】 衣服などに誤って着色剤が付着しても染色されることなく、水洗又は洗剤使用で洗濯等により簡単に消去できる。
【解決手段】 直染性の低い染料と水溶性樹脂と水を含有し、
前記直染性の低い染料が、ジクロルトリアジン型、モノクロルトリアジン型、ビニールスルホン型、クロルピリミジン型、ジクロルキノキサジン型、モノクロルトリアジンとビニールスルホンの二官能基型のいずれかの反応性染料であり、
前記水溶性樹脂が平均分子量600以上のポリエチレングリコールであり、
前記ポリエチレングリコールを少なくとも10重量%、前記染料を2〜40重量%含有する墨汁である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、墨汁、絵具、マーキングペン用インキ等として用いることができ、布、不織布などの繊維集合体に付着した場合に水洗などにより簡単に消去できる水溶性の消去性着色剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば墨汁や絵具は、誤って衣服などの布、不織布などの繊維集合体に付着し定着した場合、洗っても簡単にはとれないという問題があった。
【0003】
一方、墨汁と絵具だけでなく、マーキングペン用インキ等を被服等の繊維集合体に積極的に描いて、簡単に消去できれば、新たな着色剤としての利用に供することもできる。
【0004】
従来、特許文献1では、染料を水不溶性の樹脂等と反応させて水不溶性の複合物とし、繊維集合体に染着しないようにして消去性を付与するか、又は水不溶性樹脂で染料を覆い水不溶性の複合物の粒子径を大きくさせ、染料の繊維の目に引っかかるのを防止して消去性を付与している。
【0005】
【特許文献1】特開平7−3197号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前者の技術は、染料をわざわざ水不溶性の樹脂等と反応させる必要が生じる。また、後者の技術では、筆記面との定着が悪くなるため、これを防止するためにインキ成分に別途定着剤を添加する必要があった。
【0007】
本発明の課題は、染料を水不溶性樹脂との複合物で消去性を実現することなく、衣服などに誤って着色剤が付着しても染色されることなく、水洗又は洗剤使用で洗濯等により簡単に消去できる消去性着色剤組成物を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の問題を解決すべく鋭意検討した結果、直染性が低い染料と水溶性樹脂を溶解させた着色剤組成物が消去性を有することを見いだした。特に、水溶性樹脂を少なくとも10%含有する消去性着色剤組成物が消去性を実現する上で好ましいことを見出した。本発明は、直染性の低い染料と水溶性樹脂を含有することを特徴とする消去性着色剤組成物である。また本発明は、直染性の低い染料に水溶性樹脂を少なくとも10%含有することを特徴とする消去性着色剤組成物である。
【0009】
染料に添加する水溶性樹脂は、水溶性樹脂であれば特に限定されないが、中でも、水溶性樹脂がOH基、COOH基、SO3H基及び塩から選ばれる官能基を1又はそれ以上持つ水溶性樹脂が好ましい。すなわち、合成多価アルコール系、カルボン酸(塩)系、スルホン酸(塩)系の水溶性樹脂が好ましい。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリアルキレンオキシ化合物、ポリビニールアルコール、変性ポリビニールアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸共重合物、ポリスルフォン酸、ポリスルフォン酸共重合物が好ましく、中でもポリエチレングリコールが最適である。
【0010】
水溶性樹脂、特にポリエチレングリコールの含有量を検討した結果、既述の通り、少なくとも10重量パーセントで効果が顕著となることが判明した。水溶性樹脂の割合が10重量パーセントより低い場合は、水溶性樹脂が染料を取り込むことができす、染料の一部が繊維に入り込んでしまうため消去性が悪くなる。従って、水溶性樹脂の添加量は少なくとも10重量パーセントが好ましい。
【0011】
着色剤に加える水溶性樹脂の平均分子量が低い場合は着色剤がにじみやすくなり、また染料を取り込む樹脂の分子の長さも短いため、樹脂に取り込まれた染料の見かけ上の分子の長さも短く、繊維中に入り込みやすくなることが考えられ、消去性に悪影響を及ぼす。また分子量が大きくなるとその水溶液は粘性が高くなり、取り扱い面から考慮して好ましくない。ポリエチレングリコールの分子量は少なくとも400、好ましくは600〜7500である。なお、本発明でいう平均分子量は重量平均分子量を示す。
【0012】
本発明でいう直染性が低い染料とは、水溶性樹脂を含有する消去性着色剤組成物の系において、繊維中への染料の拡散及び染料と繊維の相互作用が低い染料をすべていうが、具体的には反応性染料、酸性染料が好ましいことを見出した。直染性の低い染料は反応性染料、酸性染料のいずれかである。
【0013】
直接染料についても検討したが、水溶性樹脂、特にポリエチレングリコールを添加することにより逆に消去性が悪くなる傾向にあることを見出した。直接染料は直接セルロース繊維に染着するアニオン性の染料であって直接性と呼ばれる性質を有する。木綿に対する染着機構はファン・デル・ワールス力による結合や、染料分子中のアミノ基、水酸基、π電子系がセルロースの水酸基との間で行なう水素結合が考えられている。そして、ポリエチレングリコールを添加することにより、染料溶液の表面張力が下がり、繊維への拡散がかえって促進されるため、繊維に対する汚染力が増大するためと考えられる。また、塩基性染料では、目立った消去性の向上は見られない。これに対し、酸性染料では、反応性染料と同程度の消去性の向上がみられた。これは、反応性染料の染料部は酸性染料であることから消去性向上の要因も反応性染料と同様の要因だと考えられる。
【0014】
本発明の着色剤組成物が消去性を持つ理由は、定かではないが、1つは直染性が低い染料、好ましくは酸性染料又は反応性染料の場合、混合物ではあるとはいうものの、その染料部が水溶性樹脂に包接されるような形で包み込まれるため、染料の見かけの大きさが大きくなり、繊維集合体の繊維の表面を通って繊維内に入り込むことができないためと考えられる。また、水溶性樹脂に直染性が低い染料が取り込まれているため染料の反応基が繊維と反応することを阻害しており、更に、水溶性樹脂が洗浄液と繊維に付着した染料のあいだの表面張力を下げ、湿潤、浸透作用により染料が繊維の表面から引き離されるのを助け、消去性を向上させる作用を有するためであると考えられる。
【0015】
直染性が低い染料として特に有効なものは、既述の通り、酸性染料又は反応性染料であるが、その中でも、特に有効なものを検討した結果、ジクロルトリアジン型、モノクロルトリアジン型、ビニールスルホン型、クロルピリミジン型、ジクロルキノキサジン型、モノクロルトリアジンとビニールスルホンの二官能基型が好ましいことが判明した。また中でも、モノクロルトリアジン型、ビニールスルホン型、特にモノクロルトリアジン型の反応性染料が最適である。直染性の低い染料は、ジクロルトリアジン型、モノクロルトリアジン型、ビニールスルホン型、クロルピリミジン型、ジクロルキノキサジン型、モノクロルトリアジンとビニールスルホンの二官能基型のいずれかの反応性染料であることが好ましい。直染性の低い染料が、モノクロルトリアジン型、ビニールスルホン型のいずれかの反応性染料であることが好ましい。直染性の低い染料がモノクロルトリアジン型の反応性染料であることが好ましい。
【0016】
本発明は従来のように水不溶性樹脂と染料とのあいだで反応を起こさせる必要がなく、染料に水溶性樹脂を混合することのみにより達成される。また染料を取り込む樹脂に水溶性のものを用いることにより、繊維との定着が確保されやすく、水不溶性樹脂を用いた場合の様に定着剤の添加の必要がないが、必要に応じて定着剤を添加することもできる。
すなわち、染料を包含した水溶性樹脂はその水酸基などを有することにより繊維、特に綿などの水酸基などを多く有する繊維の表面のみと水素結合、もしくはファンデアワールス力などにより結合し、定着性においても好ましい効果を有する。さらにこのような水素結合などは結合が比較的弱く、水などで洗浄することにより、簡単に繊維との結合を切断させることができるため、消去性においても有効である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の消去性着色剤は、従来のように、染料を水不溶性樹脂との複合物で消去性を実現することなく、直染性の低い染料と水溶性樹脂を混合して含有するだけで、衣服などに誤って着色剤が付着しても染色されることなく、水洗又は洗剤使用で洗濯等により簡単に消去できる。
従って、簡単な組成で、洗濯で消去できる墨汁、絵具、マーキングペン用インキ等として利用することができ、当該分野に資するところが大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
直染性が低い染料としては、限定されるものではないが、例えば、商品名 Cibacron Black P-SG(チバガイギー社製)、Cibacron
Black P-2PD(チバガイギー社製)、Cibacron Black F-2B(チバガイギー社製)、Cibacron GrayG-R-01(チバガイギー社製)、Cibacron Blue
P-B (チバガイギー社製)、Cibacron Navy GR-E-01(チバガイギー社製)、Cibacron Blue F-R(チバガイギー社製)、Cibacron Red P-B(チバガイギー社製)、Cibacron Red 4G-E-N(チバガイギー社製)、Cibacron Red
F-B(チバガイギー社製)、Cibacron Yellow P-6GS(チバガイギー社製)、Cibacron Yellow 2G-E(チバガイギー社製)、Cibacron
Yellow F-3R(チバガイギー社製)等のモノクロルトリアジン型反応性染料、商品名 Cibacron
Black C-N(チバガイギー社製)、Cibacron Blue C-R(チバガイギー社製)、Cibacron Red C-R(チバガイギー社製)、Cibacron Yellow
C-R-1(チバガイギー社製)等のモノクロルトリアジン−ビニルスルホン二官能基型反応性染料、Remazol
Black DEN Hi-Gran(ダイスター社製)、Remazol Blue RU-N(ダイスター社製)、Remazol Red RU-N(ダイスター社製)、Remazol Yellow
RU-N(ダイスター社製)等のビニルスルホン型反応性染料、商品名 Levafix Navy Blue
E-BNA GRAN(ダイスター社製)、Levafix BR.Red E-RN(ダイスター社製)、Levafix G Yellow E-G(ダイスター社製)等のジクロルキノキサジン型反応性染料を用いることができる。また、C.I.番号 A.Bk.2(商品名
Water Black R-455)、C.I.番号
A.Bk.119(商品名 Opal Black new conc 保土谷社製)、C.I.番号 A.R.87(商品名 エオシン)、C.I.番号 A.B.9(商品名
Water Blue #9)等の酸性染料を用いることができる。
【0019】
直染性が低い染料の添加量は特に限定されない。但し、2〜40重量パーセント程度が好ましく、40重量パーセントを超えて添加すると水溶性樹脂に包括しきれなくなり消去性に悪影響を及ぼす。一方、2重量パーセントより少ないと、着色が薄く好ましくない。
【0020】
水溶性樹脂は、着色剤の消去性を向上させるために添加するものであり、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、カルボン酸変性ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルフォン酸ソーダのほか、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、プルラン、ポリアクリル酸イタコン酸共重合体などのうち1種または2種以上混合して使用できるが、消去性、価格、取り扱いなどを考慮するとポリエチレングリコールが最適である。
【0021】
着色剤に加える水溶性樹脂の割合が低い場合は樹脂が前記染料を取り込むことができす、染料の一部が繊維に入り込んでしまうため消去性が悪くなる。従って、既述の通り、水溶性樹脂の含有量は少なくとも10重量パーセントであることが好ましい。
【0022】
着色剤組成物には、定着剤、増量剤、防腐剤、防黴剤、香料、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、分散剤、保水剤、湿潤剤、消泡剤、レベリング剤、粘弾性調整剤、にじみ防止剤、水、アルコールなど一般に墨汁、絵具、マーキングペンに含まれるものを含めることができる。
【0023】
本発明の消去性着色剤組成物は、例えば必須成分として直染性の低い染料及び水溶性樹脂を含有し、これらを水と混合、攪拌により溶解させることによって得られる。
【0024】
本発明の着色剤は、墨汁、絵具、インキなどとして使用可能であり、これらが誤って衣服などに付いた場合でも繊維の表面を通して繊維内に入り込むことがないため、水洗または洗濯により簡単に消去することができる。
【0025】
本発明の消去性着色剤組成物は、繊維であれば特に限定されずに使用できるが、特に、綿、羊毛、ナイロン、ビニロン、アセテート、ウール、レーヨン、アクリル、絹、ポリエステルなどの繊維に対して有効に作用する。特に、反応性染料の場合、当該染料のみでは、綿、レーヨンといったセルロース骨格、ビニロンといったPVA骨格の様にOH基を持つ繊維や、ウール、絹といったアミンを持つ繊維で染る傾向があり、染料とOH基やアミンの間に何らかの相互作用(結合)が生じると考えられるが、水溶性樹脂、特にポリエチレングリコールを添加することにより洗濯での消去性がほぼ全ての繊維において向上する。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0027】
(実施例1)
イオン交換水50mlにポリエチレングリコール(平均分子量3000)を20gを溶解し、室温で攪拌しながら、商品名 Cibacron Black P-SG(チバガイギー社製)の反応性染料2.0gを添加して十分攪拌し、完全に溶解させて黒色の着色剤組成物を得た。
【0028】
(実施例2)
イオン交換水50mlにポリエチレングリコール(平均分子量3000)を20gを溶解し、室温で攪拌しながら、商品名 Cibacron Blue P-B(チバガイギー社製)の反応性染料2.0gを添加して十分攪拌し、完全に溶解させて青色の着色剤組成物を得た。
【0029】
(実施例3)
イオン交換水50mlにポリエチレングリコール(平均分子量3000)を20gを溶解し、室温で攪拌しながら、商品名 Cibacron Yellow P-6GS(チバガイギー社製)の反応性染料2.0gを添加して十分攪拌し、完全に溶解させて黄色着色剤組成物を得た。
【0030】
(実施例4)
イオン交換水50mlにポリエチレングリコール(平均分子量3000)を20gを溶解し、室温で攪拌しながら、商品名 Cibacron Red P-B (チバガイギー社製)の反応性染料2.0gを添加して十分攪拌し、完全に溶解させて赤色着色剤組成物を得た。
【0031】
(比較例1)
実施例1においてポリエチレングリコール(平均分子量3000)を除いて黒色着色剤組成物を得た。
【0032】
(比較例2)
実施例2においてポリエチレングリコール(平均分子量3000)を除いて青色着色剤組成物を得た。
【0033】
(比較例3)
実施例3においてポリエチレングリコール(平均分子量3000)を除いて黄色着色剤組成物を得た。
【0034】
(比較例4)
実施例4においてポリエチレングリコール(平均分子量3000)を除いて赤色着色剤組成物を得た。
【0035】
(消去性試験)
次に、綿ブロードの試験布に、水の含まない画筆(平筆4号)を用いて、上記実施例1〜4及び比較例1〜4の着色剤組成物を塗布し、室温で指触乾燥するまで放置した。乾燥後、洗濯機で合成洗剤を使用して(0.2%になる様に調整)25℃で15分間洗濯を行ない、15分間水洗した。
乾燥後、下記の基準で目視評価した。4以上を消去性着色剤組成物として合格とした。
5...完全に消去。
4...ほぼ消去。(光に透かして見るとかすかに残っている。)
3...洗濯前に比べ薄くはなっており効果はあるが、塗布跡がわかる。
2...洗濯前に比べ薄くはなっているが、あまり洗濯の効果なし。
1...洗濯前と変わらず。
【0036】
【表1】

【0037】
表1より、直染性の低い染料を用いた実施例1〜4の着色剤組成物は、いずれも洗濯によって完全又はほぼ消去されている。また、ポリエチレングリコールを混合することで、消去性が増大することが認められる。また、いずれの着色剤組成物も室温で指触乾燥するまで放置した後の筆跡は、綿ブロードの試験布に充分定着していた。
【0038】
(実施例5、実施例6及び比較例5)
次に、ポリエチレングリコール(平均分子量3000)の含有量を除き、実施例1と同条件で、黒色の着色剤組成物を得た。すなわち、イオン交換水50mlにポリエチレングリコール(平均分子量3000)をそれぞれ2.0g、5.0g、15gを溶解したものを、各々室温で攪拌しながら、商品名 Cibacron Black P-SG(チバガイギー社製)の反応性染料2.0gをそれぞれ添加して十分攪拌し、完全に溶解させて、それぞれ比較例5、実施例5及び実施例6の黒色の着色剤組成物を得た。
【0039】
これらの着色剤組成物について、前記消去性試験をした結果、比較例5は評価点は3であったのに対して、実施例5及び実施例6はいずれも評価点は4であり、前記の実施例1の結果と考え合わせると、水溶性樹脂であるポリエチレングリコールはかなり多量含有させることが重要な点であり、その含有量は少なくとも10重量%は必要であることが認められた。
【0040】
(実施例7〜11)
次に、ポリエチレングリコール(平均分子量3000)を代えた以外は実施例1と同条件下で、各種の水溶性樹脂を用いて黒色の着色剤組成物を得た。すなわち、イオン交換水50mlに、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、カルボン酸変性ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルフォン酸ソーダをそれぞれ20gを溶解したものを、各々室温で攪拌しながら、商品名 Cibacron Black P-SG(チバガイギー社製)の反応性染料2.0gをそれぞれ添加して十分攪拌し、完全に溶解させて、それぞれ実施例7〜11の黒色の着色剤組成物を得た。
【0041】
これらの着色剤組成物について、前記消去性試験をした結果、実施例7〜11はいずれも評価点が4であった。従って、実施例1のポリエチレングリコールとともに、各種の水溶性樹脂について同様の消去性向上の傾向が認められた。因みに、水溶性樹脂を添加しない以外同条件の染料水溶液について、同様の消去性試験をした結果、評価点はいずれも3点であった。また、その他の水溶性樹脂としてカチオン化デンプン、ポリアリルアミンを含む着色剤組成物についても同様に消去性試験をした結果、評価点は3〜4の間であり、消去性はやや低い傾向を示した。その結果、水溶性樹脂の中でも、特に、合成多価アルコール系、カルボン酸(塩)系、スルホン酸(塩)系水溶性樹脂が最適であることを見出した。
【0042】
(実施例12〜15)
次に、染料以外は実施例1と同条件下で黒色の着色剤組成物を得た。すなわち、イオン交換水50mlにポリエチレングリコール(平均分子量3000)を20gを溶解し、室温で攪拌しながら、商品名 C.I.番号 A.Bk.2(商品名
Water Black R-455)、C.I.番号
A.Bk.119(商品名 OpalBlack new conc 保土谷社製)、C.I.番号 A.R.87(商品名 エオシン)、C.I.番号 A.B.9(商品名
WaterBlue #9)の各酸性染料を2.0gを添加して十分攪拌し、完全に溶解させて実施例12〜15の黒色の着色剤組成物を得た。
【0043】
これらの着色剤組成物について、前記消去性試験をした結果、実施例12〜15はいずれも評価点が4であった。特に実施例12は評価点が5であった。一方、C.I.番号 D.Bk.19(商品名
Kayarus Black G conc、日本化薬社製)、C.I.番号 D.R.225(商品名 Kayarus Light Red F5G、日本化薬社製)の直接染料はいずれも評価点が1であり、評価点が2である同染料水溶液よりも更に消去性は低下した。また、C.I.番号 B.R.1(商品名 ローダミン6GCP)、C.I.番号 B.B.116(商品名
Kayaacryl Blue BGL)の塩基性染料も評価点が3であった。
【0044】
これらの結果から、直接染料では、水溶性樹脂を添加することにより逆に消去性が悪くなる傾向にある。これは直接染料は直接セルロース繊維に染着するアニオン性の染料であって直接性と呼ばれる性質を有することに起因すると考えられる。すなわち、木綿に対する染着機構はファン・デル・ワールス力による結合や、染料分子中のアミノ基、水酸基、π電子系がセルロースの水酸基との間で行なう水素結合が考えられている。そして、ポリエチレングリコールを添加することにより、染料溶液の表面張力が下がり、繊維への拡散が促進させるため、会合などの現象がなければ、繊維に対する汚染力が増大するためだと考えられる。塩基性染料では、目立った消去性の向上は見られない。これに対して、酸性染料では、反応性染料と同程度の消去性の向上がみられた。これは、反応性染料の染料部は酸性染料であることから消去性向上の要因も反応性染料と同様の要因だと思われる。
【0045】
(実施例16〜19及び比較例6)
ポリエチレングリコールの平均分子量をそれぞれ400、600、5000、7500とした以外は、それぞれ実施例1、2、3、4と同条件で実施例16〜19の着色剤組成物を得た。また比較のため、ポリエチレングリコールの平均分子量をそれぞれ300、8000とした以外は実施例1と同条件で比較例6、7の着色剤組成物を得た。
【0046】
これらの着色剤組成物について、実施例1と同条件下で消去性試験を行った。その結果、ポリエチレングリコールの平均分子量300とした場合は、消去性試験の評価点が3、ポリエチレングリコールの平均分子量8000とした場合は、その水溶液の粘性が高くなり、取り扱い面で好ましくなかった。ポリエチレングリコールの平均分子量を400とした場合は、消去性試験の評価点は4となり、特に平均分子量を600、5000、7500とした場合は、いずれも評価点は5となって良好であった。なお、ポリエチレングリコールの平均分子量を300とした場合に消去性が低下したのは、300以下の場合、水溶性樹脂の平均分子量が低いため、着色剤がにじみやすくなり、また染料を取り込む樹脂の分子の長さも短いため、樹脂に取り込まれた染料の見かけ上の分子の長さも短く、繊維中に入り込みやすくなり、消去性に悪影響を及ぼすと考えられる。これらの結果、望ましいポリエチレングリコールの平均分子量は、少なくとも400、好ましくは600〜7500が最適である。
【0047】
(各種繊維に対する消去性試験)
次に、JIS交織布(綿、ナイロン、ビニロン、アセテート、ウール、レーヨン、アクリル、絹、ポリエステル)を、10分間、実施例1、2、3、4、11、12、13、14の着色剤組成物に浸漬し、当該着色剤組成物を吸収させた。これを室温で指触乾燥するまで放置した。乾燥後、洗濯機で合成洗剤を使用(0.2%になるように調節)して25度で15分間洗濯を行い、15分間水洗いした。乾燥後、目視にてその残りを前記試験と同様に5段階で評価した。また洗濯時にJIS交織布を同時に洗濯し、洗濯中の他布への汚染も評価した。
以上の試験によって評価した結果、絹及び一部のレーヨンを除いて評価点は4〜5であり、消去性は良好であった。また、実施例1、2、3、4、11、12、13、14の着色剤組成物において水溶性樹脂を含まない染料水溶液についても比較のため試験した結果、繊維によっては差異があるが、1〜3の評価点になった。このことから、上記染料に水溶性樹脂を加えることにより、洗濯により消去性が実現することが認められた。また、汚染も絹の一部を除いて汚染されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
墨汁、絵具、マーキングペン用インキ等として用いることができ、布、不織布などの繊維集合体に付着した場合に水洗などにより簡単に消去できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
直染性の低い染料と水溶性樹脂と水を含有し、
前記直染性の低い染料が、反応性染料又は酸性染料であり、
前記水溶性樹脂が平均分子量600以上のポリエチレングリコールである
ことを特徴とする墨汁。
【請求項2】
前記ポリエチレングリコールを少なくとも10重量%、前記染料を2〜40重量%含有する請求項1記載の墨汁。
【請求項3】
前記直染性の低い染料が、ジクロルトリアジン型、モノクロルトリアジン型、ビニールスルホン型、クロルピリミジン型、ジクロルキノキサジン型、モノクロルトリアジンとビニールスルホンの二官能基型のいずれかの反応性染料である、請求項1又は2記載の墨汁。



【公開番号】特開2006−219680(P2006−219680A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133359(P2006−133359)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【分割の表示】特願平8−160843の分割
【原出願日】平成8年5月31日(1996.5.31)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【Fターム(参考)】