説明

壁掛式便器の着脱治具

【課題】本発明は、作業員が1名であっても便器本体の着脱作業を容易に行うことができるとともに、取り外し後の便器本体を安定して支持することができる壁掛式便器の着脱治具を提供する。
【解決手段】一対の便器受け部材7,8のそれぞれの上面及び側面のなす角には、切り欠き状の傾斜面部7a,8aが設けられている。一対の便器受け部材7,8の傾斜面部7a,8aの形状は、便器本体20の下部の外面のうち間口方向両側の形状に対応している。一対の便器受け部材7,8の傾斜面部7a,8aのそれぞれと、便器本体20の底面部の外面のうち間口方向両側のそれぞれとが接触することによって、便器本体20の下部が一対の便器受け部材7,8同士の間に嵌り込む。そして、便器本体20の下部が一対の便器受け部材7,8同士の間に嵌り込むことによって、便器本体20が便器用台車1により支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トイレの個室内の壁面に固定された壁掛式便器の着脱作業に用いられる壁掛式便器の着脱治具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に示すような壁掛式便器(壁排水式便器)では、腰掛用の便器本体の背面部がボルトに螺入されることによってトイレの壁面に固定され、便器本体の下端部が床面から上方に間隔をおいて配置されている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−121554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記のような壁掛式便器を壁から取り外す際には、便器本体がトイレの壁面のみに支持されているため、便器本体を支えながらボルトを外す必要があり、一般的に作業員2名により着脱作業が行われる。しかしながら、トイレの個室(ブース)は、比較的狭く作業スペースが限られているため、便器本体の着脱の作業効率が低下していた。これに加えて、作業員が便器本体を取り外した後に、その便器本体を床に置いた場合、便器本体の下部の外面が湾曲しているため、便器本体が倒れやすくなっており、便器本体が倒れた際には、便器本体が破損してしまうおそれがある。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、作業員が1名であっても壁掛式便器の着脱作業を容易に行うことができるとともに、取り外し後の便器本体を安定して支持することができる壁掛式便器の着脱治具を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る壁掛式便器の着脱治具は、予め設定された取付高さ位置で床面から上方へ間隔をおいて壁面に固定され、かつ壁面から前方へ突出するように配置され、下部の形状が下方へ向けて先細なテーパ状である便器本体を有する壁掛式便器の着脱作業に用いられるものであって、便器本体の下部の外面のうち間口方向両側のそれぞれと接触可能な一対の便器受け部材が互いに間隔をおいて設けられ、一対の便器受け部材と便器本体の下部の外面とが接触して一対の便器受け部材の間に便器本体の下部が嵌ることによって、便器本体を取付高さ位置で支持し、便器本体を支持したままの状態で移動可能な便器用台車を備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明の壁掛式便器の着脱治具は、一対の便器受け部と便器本体の下部の外面とが接触して一対の便器受け部材の間に便器本体の下部が嵌ることによって、便器用台車が便器本体を取付高さ位置で支持し、その便器本体を支持したままの状態で便器用台車が移動可能となっているので、便器本体を壁面に着脱する際に便器本体の上げ下ろし作業が不要となることにより、作業員が1名であっても壁掛式便器の着脱作業を容易に行うことができるとともに、壁面から取り外された便器本体を安定して支持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による壁掛式便器の着脱治具を示す側面図である。図2は、図1の便器用台車1を示す背面図である。図3,4は、図1の便器用台車1を示す斜視図である。なお、図3は、第1側面部1b及び背部の開口を図の手前側から見た状態を示し、図4は、便器用台車1の背部の開口を図の手前側から見た状態を示す。
図1〜4において、便器用台車1は、例えばプラスチックケースによって構成されている。また、便器用台車1は、正面部1a、第1側面部1b、第2側面部1c及び底面部1dを有している。さらに、便器用台車1の背部及び上部には、それぞれ開口が空けられている。
【0009】
また、便器用台車1には、正面部1a、第1側面部1b、第2側面部1c及び底面部1dによって、内部スペースが形成されている。第1側面部1b、第2側面部1c及び底面部1dの外面には、例えばスチールアングルからなる一対の補強材2A,2Bが互いに間隔をおいて取り付けられている。第1側面部1b及び第2側面部1cのそれぞれの背部側の下端は、上部から底面部1dへ向けて傾斜するように、長さ方向外側(図1の左方)へ張り出している。底面部1dには、4つの車輪部材3A〜3Dが転動自在に取り付けられている。便器用台車1は、車輪部材3A〜3Dが転動されることによって、水平方向へ移動可能となっている。
【0010】
また、底面部1dの上面には、一対の便器支持部材4,5が、立てて設けられている。さらに、底面部1dの上面には、補強板6が貼り付けられて固定されている。一対の便器支持部材4,5は、例えば木片又は金属片によって構成されている。また、一対の便器支持部材4,5は、互いに間隔をおいて対向するように配置されている。便器支持部材4は、第1側面部1bの内面に沿って配置されている。便器支持部材5は、第2側面部1cの内面に沿って配置されている。
【0011】
一対の便器支持部材4,5のそれぞれの上端には、例えばゴム板等の弾性体により形成された一対の便器受け部材7,8が取り付けられている。一対の便器支持部材4,5及び一対の便器受け部材7のそれぞれの形状は、便器用台車1の背部の開口側から正面部1a側へ向けて厚み寸法(図2の手前側から奥側へ向けて図2の左右方向の寸法)が連続的に増加するような形状となっている。
【0012】
つまり、便器支持部材4及び便器受け部材7と、便器支持部材5及び便器受け部材8との間の空間は、便器用台車1の背部の開口側から正面部1a側へ向けて窄むように形成されている。即ち、一対の便器受け部材7,8同士の間の空間は、便器用台車1の背部の開口が壁面100へ向けられて便器用台車1が壁面100に対向しているときに、壁面100から前方へ向けて先細に連続的に窄むように形成されている。
【0013】
一対の便器受け部材7,8のそれぞれの上面及び側面のなす角には、切り欠き状の傾斜面部7a,8aが設けられている。傾斜面部7a,8aは、便器用台車1の第1側面部1b及び第2側面部1cのそれぞれの上端から底面部1dの幅方向中心へ向けて先細なテーパ状となるように形成されている。なお、第1側面部1b及び第2側面部1cのそれぞれの上端には、便器用台車1を移動させるための一対の取っ手部材9A,9Bが取り付けられている。
【0014】
次に、便器用台車1の寸法の一例について説明する。便器用台車1の第1側面部1bと第2側面部1cとの間の寸法(図2の矢示A1)は、約350mmとなっている。便器用台車1の底面部1dと上部との間の寸法(便器用台車1の高さ寸法;図2の矢示B1)は、約350mmとなっている。便器用台車1の底面部1dの長さ寸法(図1の矢示C1)は、約650mmとなっている。
【0015】
一対の便器支持部材4,5の高さ寸法(図2の矢示B2)は、約150mmとなっている。一対の便器支持部材4,5同士の間の背部側の間隔寸法(図2の矢示A2)は、約250mmとなっている。一対の便器支持部材4,5同士の間の正面部1a側の間隔寸法(図2の矢示A3)は、約150mmとなっている。一対の便器支持部材4,5の正面部1a側の端と、正面部1aとの間の間隔寸法(図1の矢示C3)は、約170mmとなっている。
【0016】
一対の便器受け部材7,8の高さ寸法(図2の矢示B3)は、約50mmとなっている。一対の取っ手部材9A,9Bの外縁の厚み寸法(図2の矢示B4)は、約50mmとなっている。また、一対の取っ手部材9A,9B同士の間の間隔寸法(図2の矢示A4)は、約450mmとなっている。第1側面部1b及び第2側面部1cの上端の長さ寸法(図1の矢示C2)は、約500mmとなっている。車輪部材3A〜3Dの直径寸法は、約50mmとなっている。
【0017】
次に、壁掛式便器の取り付け状態について説明する。図5は、便器本体20の壁面(トイレ壁)100への取付状態を示す斜視図である。図5において、便器本体20は、陶器によって形成されている。便器本体20の背面部は、例えばボルト又はナット等の固定具30によって、壁面100に固定されている。また、便器本体20の上面部は、予め設定された取付高さ位置(例えば400mm〜500m程度)に配置されている。
【0018】
便器本体20の前面部は、壁面100から奥行き方向の前方へ突出するように配置されている。便器本体20の下部の形状は、下方へ先細なテーパ状でかつ湾曲状となっている。また、便器本体20の下端部は、床面(トイレ床)101から上方へ100mm程度の間隔をおいて配置されている。
【0019】
便器本体20の上面部には、便受け用のO字状の開口20aが設けられている。また、便器本体20の上面部には、腰掛け用のO字状の便座21と、シャワー制御装置22とが設けられている。シャワー制御装置22は、便器本体20に設けられたシャワー装置(図示せず)の駆動を制御する。
【0020】
ここで、便器用台車1において、一対の便器受け部材7,8の傾斜面部7a,8aの形状は、便器本体20の下部の外面のうち間口方向両側の形状に対応している。また、一対の便器受け部材7,8の傾斜面部7a,8aは、便器本体20の下部の外面のうち間口方向両側と接触可能となっている。
【0021】
また、一対の便器受け部材7,8の傾斜面部7a,8aのそれぞれと、便器本体20の底面部の外面のうち間口方向両側のそれぞれとが接触(密着)することによって、便器本体20の下部が一対の便器受け部材7,8同士の間に嵌り込む。そして、便器本体20の下部が一対の便器受け部材7,8同士の間に嵌り込むことによって、便器本体20が便器用台車1により支持され、便器用台車1は、便器本体20を支持した状態で移動可能となっている。
【0022】
次に、便器用台車1を用いた便器本体20の着脱作業について説明する。図6〜9は、図5の便器本体20の着脱作業の一行程を説明するための説明図である。なお、図8,9では、便座21及びシャワー制御装置22を省略して示す。まず、図6に示すように、便器用台車1の背部を便器本体20の前部に向けた状態で、便器用台車1を便器本体20の前方に配置する。
【0023】
そして、図7に示すように、便器本体20の下方に便器用台車1を押し込むと、一対の便器受け部材7,8のそれぞれの傾斜面部7a,8aが便器本体20の下部の外面のうち幅方向両側面のそれぞれと接触して密着する。これにより、傾斜面部7aと傾斜面部8aとの間に便器本体20の下部が嵌る。
【0024】
この状態において、図8,9に示すように、便器本体20の背面部に挿入された固定具30が取り外される。これとともに、壁面100に設けられた給排水管(図示せず)と、便器本体20の給排水管(図示せず)とが互いに切り離されて、便器本体20が壁面100から取り外される。
【0025】
この際に、一対の便器受け部材7,8のそれぞれの傾斜面部7a,8aと、便器本体20の下部の外面とが互いに密着していることにより、便器本体20が一対の便器支持部材4,5を介して便器用台車1の底面部1dから支持される。また、便器本体20の高さ位置は、便器用台車1によって取付高さ位置で保持される。つまり、便器本体20の高さ位置は、着脱の前後で、所定の取付高さ位置のままで変化しない。
【0026】
そして、便器本体20を支持したままの状態で便器用台車1がトイレの個室内からその外部へ移動されることによって、その個室内に作業用スペースが形成され、便器本体20又は壁面100の給排水管が点検される。なお、図10〜12のそれぞれは、便器本体20が便器用台車1によって支持された状態を示す平面図、側面図及び斜視図である。また、図10〜12では、便座21及びシャワー制御装置22を省略して示す。
【0027】
便器本体20又は壁面100の給排水管の点検が終了すると、トイレの個室の外部から個室内へ便器用台車1が移動されて、便器本体20の背面部が壁面100に接するように便器用台車1が配置される。この状態で、壁面100の給排水管と便器本体20の給排水管とが互いに接続されて、便器本体20の背面部に固定具30が挿入されることによって、便器本体20が壁面100に取り付けられる。これにより、壁掛式便器の点検作業が終了する。
【0028】
上記のような壁掛式便器の着脱治具では、所定の高さ位置で便器本体20を支持した状態で便器用台車1が移動可能となっているので、便器本体20を壁面100に着脱する際に便器本体20の上げ下ろし作業が不要となることにより、作業員が1名であっても便器本体20の着脱作業を容易に行うことができるとともに、壁面100から取り外された便器本体20を安定して支持することができる。これに加えて、従来の壁掛式便器の着脱作業における便器本体の仮置き行程が不要となることにより、便器本体20の破損を防ぐことができる。
【0029】
また、一対の便器受け部材7,8のそれぞれに傾斜面部7a,8aが設けられているので、便器本体20の取付高さ位置が、基準の取付高さ位置から偏っている場合に、ある程度(例えば100mm程度)の範囲内であれば、その便器本体20の取付高さ位置の偏りに対応することができる。
【0030】
さらに、一対の便器受け部材7,8が弾性体によって形成されているので、便器本体20の下部の外面への密着性を向上させることができる。これとともに、便器本体20の下部の外面のうち間口方向両側のそれぞれと一対の便器受け部材7,8のそれぞれとが接触したことに伴う便器本体20の外面の損傷を防ぐことができる。
【0031】
また、一対の便器受け部材7,8同士の間の空間が、便器用台車1が壁面100に対向しているときに壁面100から前方へ向けて先細に連続的に窄むように形成されているので、一対の便器受け部材7,8のそれぞれと、便器本体20の下部の外面のうち幅方向両側のそれぞれとの接触面積が比較的広くなることによって、より安定して便器本体20を支持することができ、便器本体20の搬送中に便器用台車1からの便器本体20の落下を防ぐことができる。
【0032】
なお、実施の形態1では、壁掛式便器の着脱治具を壁掛式便器の点検作業に用いた例について説明したが、この発明の壁掛式便器の着脱治具は、壁掛式便器の据付作業にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の実施の形態1による壁掛式便器の着脱治具を示す側面図である。
【図2】図1の便器用台車を示す背面図である。
【図3】図1の便器用台車を示す斜視図である。
【図4】図1の便器用台車を示す斜視図である。
【図5】壁掛式便器の壁面への取付状態を示す斜視図である。
【図6】図5の便器本体の着脱作業の一行程を説明するための説明図である。
【図7】図5の便器本体の着脱作業の一行程を説明するための説明図である。
【図8】図5の便器本体の着脱作業の一行程を説明するための説明図である。
【図9】図5の便器本体の着脱作業の一行程を説明するための説明図である。
【図10】図5の便器本体が便器用台車によって支持された状態を示す平面図である。
【図11】図5の便器本体が便器用台車によって支持された状態を示す側面図である。
【図12】図5の便器本体が便器用台車によって支持された状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0034】
1 便器用台車、7,8 便器受け部材、7a,8a 傾斜面部、20 便器本体、100 壁面、101 床面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された取付高さ位置で床面から上方へ間隔をおいて壁面に固定され、かつ前記壁面から前方へ突出するように配置され、下部の形状が下方へ向けて先細なテーパ状である便器本体を有する壁掛式便器の着脱作業に用いられる壁掛式便器の着脱治具であって、
前記便器本体の前記下部の外面のうち間口方向両側のそれぞれと接触可能な一対の便器受け部材が互いに間隔をおいて設けられ、前記一対の便器受け部材と前記便器本体の前記下部の前記外面とが接触して前記一対の便器受け部材の間に前記便器本体の前記下部が嵌ることによって、前記便器本体を前記取付高さ位置で支持し、前記便器本体を支持したままの状態で移動可能な便器用台車
を備えたことを特徴とする壁掛式便器の着脱治具。
【請求項2】
前記一対の便器受け部材の前記便器本体との接触箇所には、前記便器本体の前記下部の形状に対応するように、下方へ向けて傾斜する傾斜面部が設けられている
ことを特徴とする請求項1記載の壁掛式便器の着脱治具。
【請求項3】
前記一対の便器受け部材は、弾性体によって形成されている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の壁掛式便器の着脱治具。
【請求項4】
前記一対の便器受け部材同士の間の空間は、前記便器用台車が前記壁面に対向しているときに前記壁面から前方へ向けて先細に連続的に窄むように形成されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の壁掛式便器の着脱治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−203618(P2009−203618A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44356(P2008−44356)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】