説明

変圧器

【課題】鉄心が2分割となっていると鉄心の素材としての鋼板から鉄心を打抜く際に素材の歩留まりが悪く(廃材になる部分が多く)、鉄心が高価なものになる。
【解決手段】I型の積層鋼板製センタ鉄心の周囲を囲う枠状の積層鋼板製のサイド鉄心を備えた変圧器で、両者によって閉磁路を形成するように構成されている。センタ鉄心が長手方向に2分割され、各センタ鉄心片にサイド鉄心の片側の一部が一体に形成され、残余のサイド鉄心部と合わせて3部分から閉磁路鉄心が形成されている。具体化された実施例ではサイド鉄心は3部分からなり、センタ鉄心は2部分からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば内燃機関の点火プラグに火花放電を発生させるために高電圧を供給する内燃機関用の独立型点火コイルなどに用いる変圧器に関し、ことに、I型のセンタ鉄心の周囲を囲う枠状のサイド鉄心を備えた変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
この種変圧器は、積層鋼板製のセンタ鉄心とそのセンタ鉄心の周囲を包囲するように設けられた積層鋼板製のサイド鉄心を備え、両者によって閉磁路を形成するように構成されている。センタ鉄心の外周には一次ボビンに巻回された一次コイルが装着されている。この一次コイルはバッテリに接続され電力が供給される。一次コイルの外周には二次ボビンに巻かれた二次コイルが装着されている。二次コイルはプラグに接続され、一次コイルと二次コイルの間の電磁誘導に作用によって発生した高電圧をプラグに供給するよう構成されている。一次コイルと二次コイル及びセンター鉄心とサイド鉄心はコイルケースに収容され、コイルケース内に封入される絶縁用樹脂によって絶縁状態に樹脂成形されている。
【0003】
特開2008−258291号公報などで知られる従来の点火コイルの変圧器では、鉄心が本願の図4に示すように、センタ鉄心の一端部にはサイド鉄心の一部が一体に形成されている。サイド鉄心の残りの部分はサイド鉄心の一部と接合されてセンタ鉄心を包囲する枠状に構成される。サイド鉄心の残りの部分とセンタ鉄心の他側端部には空隙部が設けられている。かくして鉄心は2部分に分割されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−258291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5に示すように鉄心が2分割となっていると鉄心の素材としての鋼板から鉄心を打抜く際に素材の歩留まりが悪く(廃材になる部分が多く)、鉄心が高価なものになる。
【0006】
本発明の目的は、鉄心の素材となる鋼板の歩留まりを向上させ(廃材になる部分を少なくし)、安価な鉄心、ひいては安価な変圧器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では上記目的を達成するために、センタ鉄心を長手方向に2分割し、各センタ鉄心片にサイド鉄心の片側の一部を一体に形成し、残余のサイド鉄心部と合わせて3部分から閉磁路鉄心を形成した。具体化された実施例ではサイド鉄心は3部分からなり、センタ鉄心は2部分からなる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、各センタ鉄心片にサイド鉄心の片側の一部を一体に形成した鉄心片を一対と、残余のサイド鉄心部からなる3つの鉄心片を、センタ鉄心片に平行に並べて鋼板から打抜くことができ、鋼板の廃材面積を低減でき、鉄心を安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る変圧器を用いた内燃機関点火コイルの一実施例を示す断面図。
【図2】本発明に係る変圧器を用いた内燃機関点火コイルの一実施例を示す断面図。
【図3】本発明品の鉄心形状。
【図4】従来品の鉄心形状。
【図5】従来品の鉄心のプレス時の金型形状。
【図6】本発明品の鉄心のプレス時の金型形状。
【図7】本発明品の鉄心の分割位置(ストレート形状)を表す図。
【図8】本発明品の鉄心の分割位置(波形状)を表す図。
【図9】本発明品の鉄心の分割位置(凹凸形状)を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、空隙部を設けて閉磁路が形成されている鉄心と、この鉄心の外周に一次コイル、二次コイルを順次巻回してなり、閉磁路を形成する鉄心のセンタ鉄心を長手方向に対し2分割し、鉄心を2つのセンタ鉄心とサイド鉄心の3分割とすることによって達成される。
【実施例1】
【0011】
図1,図2には、本発明に係る変圧器を用いた内燃機関用点火コイルの一実施例が示されている。図1は内燃機関用点火コイルの構成図、図2は図1に図示の内燃機関用点火コイルのA−A線断面図である。
【0012】
図1において、内燃機関用点火コイル1は、内燃機関の各シリンダのプラグホールに装着されて点火プラグに直結し使用される独立点火形の内燃機関用点火コイルである。この内燃機関用点火コイル1は、鉄心6を有し、この鉄心6は、E字状に形成されており、磁気回路が構成されている。この鉄心6は、0.2〜0.7mmの珪素鋼板をプレス積層して閉磁路をなす磁路を形成している。そして、この鉄心6は、センタ鉄心の長手方向で分割され、センタ鉄心部6A1と、センタ鉄心6A2と、サイド鉄心部6Bとによって構成されている。このサイド鉄心部6Bは、図2に示す如く、矩形の枠状に形成され、閉磁路が形成されている。
【0013】
そして、このセンタ鉄心部6Aは、図2に示す如く、一端が矩形の枠状に形成されるサイド鉄心部6Bの一側に固着され、他端が矩形の枠状に形成されるサイド鉄心部6Bの他側と空隙部6Cを設けて配置されている。このセンタ鉄心部6Aは、図1に示す如く、一次ボビン2に収納されている。この鉄心6の外周側に配設されセンタ鉄心部6Aが収納されている一次ボビン2は、熱可塑性合成樹脂により形成されている。この一次ボビン2の上には、一次コイル3が巻装され、一次ボビン2の上に収納されている。この一次コイル3は、線径0.3〜1.0mm程度のエナメル線を一層当たり数十回ずつ、数層にわたり合計百ないし三百回程度一次ボビン2に積層巻されて形成されている。
【0014】
また、この一次ボビン2の外周には、空隙をもって、二次ボビン4が配設されている。この二次ボビン4は、一次ボビン2と同様に熱可塑性合成樹脂によって成形されており、この二次ボビン4には複数個の巻溝が形成されている。この二次ボビン4の上には、二次コイル5が巻装され、一次ボビン2の上に収納されている。この二次コイル5は、線径0.03〜0.1mm程度のエナメル線を用いて合計五千ないし三万回程度二次ボビン4に分割巻されて形成されている。このように、一次ボビン2は、二次ボビン4の内側に挿入された状態となっている。また、矩形の枠状に形成されるサイド鉄心部6Bの一側に固着されるセンタ鉄心部6Aの他端と、サイド鉄心部6Bとの空隙部6Cには、一次コイルの通電によって鉄心6を励磁する方向と逆方向に磁化された図示していない永久磁石を挿入してもよい。この一次ボビン2に巻装された一次コイル3,二次ボビン4に巻装された二次コイル5は、コイルケース7に収納されている。
【0015】
また、一次コイル3に供給する電力は、端子8を介して供給され、この端子8には、図示していないが、コネクタが接続されるようになっている。一方、二次コイル5には、高圧端子9が接続されている。この二次コイル5には、一次コイル3の通電によって点火プラグに火花放電を発生させるための高電圧が誘起される。この二次コイル5に誘起された高電圧は、高圧端子9を介して点火プラグに供給され、この二次コイル5に誘起された高電圧の供給を受け、点火プラグは、火花放電を発生させる。
【0016】
そして、この一次ボビン2に巻装された一次コイル3,二次ボビン4に巻装された二次コイル5が収容されているコイルケース7には、熱硬化性樹脂で構成される絶縁用樹脂(具体的には、エポキシ樹脂)10が封入されている。この絶縁用樹脂(具体的には、エポキシ樹脂)10は、コイルケース7の内側と、一次ボビン2に巻装された一次コイル3,二次ボビン4に巻装された二次コイル5との隙間に充填され、この絶縁用樹脂(具体的には、エポキシ樹脂)10を硬化させて一次コイル3,二次コイル5との絶縁を行っている。このようにコイルケース7内には、この絶縁用樹脂(具体的には、エポキシ樹脂)10によって一次コイル3,二次コイル5,一次ボビン2,二次ボビン4が絶縁され、固定されて一体化して収容されている。
【0017】
鉄心6は珪素鋼板でプレス積層されており、近年の鉄材高騰により、鉄心6は非常に高価なものとなりつつある。本発明の鉄心6は、図3に示すようにセンタ鉄心を長手方向に対し2分割し、センタ鉄心6A1と、センタ鉄心6A2と、サイド鉄心6Bと分割された構造としている。上記のような分割方法とさせることで、珪素鋼板の素材から鉄心を打抜く際に素材を捨てる面積を少なくしている。また、従来の鉄心を2分割された形状を図4に示す。さらに、従来のように鉄心6を2分割とした場合と、本発明品に示すセンタ鉄心6Aの長手方向でセンタ鉄心6Aを分割した場合のプレス時の金型形状を図5、及び図6に示す。図5は従来の鉄心を2分割とした場合のプレス時の金型形状を示しており、この場合の歩留まりは約40%であり、非常に材料取りが悪く、約60%を捨ててしまうことになる。図6は本発明品のセンタ鉄心を長手方向に対し分割し、3分割構造とした場合のプレス時の金型形状を示しており、この場合の歩留まりは約55%であり、従来の形状に対し約15%歩留まりが向上している。
【0018】
本発明にようにセンタ鉄心の長手方向に分割を設けても、一次コイルの通電によって鉄心6を励磁する方向と平行に分割されているため、点火コイルの出力性能が従来の2分割の鉄心よりも低下することはない。さらにセンタ鉄心6A内で発生する渦電流をセンタ鉄心を分割させることで減少できるため、磁気エネルギのロスが従来の2分割の鉄心よりも少なく、点火コイルの出力性能を向上させることが可能となる。
【0019】
また、本発明品のように3分割とすることで、図6に示すようにプレス時の金型形状のサイド鉄心6Bを珪素鋼板の素材の圧延方向にサイド鉄心6Bの長手方向を得ることができる。珪素鋼板は素材の圧延方向と圧延直角方向とでは磁気性能が異なり、圧延方向の方が1.2倍から3倍程度優れている。したがって、本発明品の鉄心は珪素鋼板の圧延方向を従来の2分割よりも有効に利用できるため、点火コイルの出力性能を向上させることが可能である。
【0020】
センタ鉄心6Aの分割されたセンタ鉄心6A1とセンタ鉄心6A2を結合する方法としては本実施例では、センタ鉄心6Aを組合せた状態で表面に熱可塑性樹脂もしくはエラストマもしくはゴムで覆った構造とし、センタ鉄心6A1とセンタ鉄心6A2が結合された形状としている。このセンタ鉄心6A1とセンタ鉄心6A2を結合させるには上記の熱可塑性樹脂もしくはエラストマもしくはゴムでインサート成形させることが望ましい。
【0021】
また、センタ鉄心6A1とセンタ鉄心6A2を結合させる別の方法として、例えばシリコーン接着剤などの接着剤で結合させてもかまわない。さらにセンタ鉄心6A1とセンタ鉄心6A2の結合面を溶接(具体的にはレーザー溶接やTig溶接)により結合させることもできる。
【0022】
また、センタ鉄心6Aの分割面は図7に示すようなストレート形状だけでなく、図8に示すような波形状や図9に示すような凹凸形状としてもかまわない。波形状や凹凸形状とすることで、センタ鉄心を結合させる際に長手方向の位置ズレを抑制させることが可能となるため、容易に結合できる。さらに分割面を凹凸形状とすることで、凹み側と凸側を圧入できる構造としてセンタ鉄心6A1と6A2を結合させることもできる。以下日本実施例の態様を整理する。
【0023】
(実施の態様1)
空隙部を設けた閉磁路を形成する鉄心と、鉄心の外周に巻回された一次コイル、二次コイルを備えた内燃機関点火コイルにおいて、空隙部を前記鉄心のセンタ鉄心片端に配設し、前記センタ鉄心は長手方向に対し分割されていることを特徴とした点火コイル。
【0024】
(実施の態様2)
実施の態様1に記載した点火コイルにおいて、前記センタ鉄心は長手方向に分割され、その分割面はストレート形状とし、前記センタ鉄心は長手方向に対し、左右対称となる前記センタ鉄心を備えた点火コイル。
【0025】
(実施の態様3)
実施の態様1に記載した点火コイルにおいて、前記センタ鉄心は長手方向に分割され、その分割面は凹凸形状とし、前記センタ鉄心は長手方向に対し、左右非対称となる前記センタ鉄心を備えた点火コイル。
【0026】
(実施の態様4)
実施の態様1に記載した点火コイルにおいて、前記センタ鉄心は長手方向に分割され、分割された前記センタ鉄心を結合させるために、前記センタ鉄心の表面に熱可塑性樹脂もしくはエラストマもしくはゴムでインサート成形してセンタ鉄心を結合させたことを特徴とする点火コイル。
【0027】
(実施の態様5)
実施の態様1に記載した点火コイルにおいて、前記センタ鉄心は長手方向に分割され、分割された前記センタ鉄心を結合させるために、接着剤により結合させたことを特徴とする点火コイル。
【0028】
(実施の態様6)
実施の態様1に記載した変圧器において、前記センタ鉄心は長手方向に分割され、分割された前記センタ鉄心を結合させるために、分割面を溶接により結合させたことを特徴とする点火コイル。
【0029】
(実施の態様7)
実施の態様3に記載した点火コイルにおいて、前記センタ鉄心の分割面を凹凸形状としていることで、この凹凸形状によりセンタ鉄心通しを圧入させ、結合させたことを特徴とする点火コイル。
【0030】
本発明は内燃機関用の独立型点火コイルだけでなく他のタイプの点火コイル、ボイラなどの点火コイル用の変圧器あるいは他の用途の変圧器に適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 内燃機関用点火コイル
2 一次ボビン
3 一次コイル
4 二次ボビン
5 二次コイル
6 鉄心
7 コイルケース
8 端子
9 高圧端子
10 絶縁用樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層鋼板製のセンタ鉄心とそのセンタ鉄心の周囲を包囲するように設けられた積層鋼板製のサイド鉄心とを備え、両者によって閉磁路を形成するように構成されている鉄心と、
センタ鉄心の周囲に装着された一次ボビンに巻回された一次コイル、
前記一次コイルの外周に装着された二次ボビンに巻かれた二次コイル、
前記一次コイルと二次コイルの間の電磁誘導に作用によって発生した高電圧をプラグに供給するよう構成されている変圧器であって、
前記一次コイルと二次コイル及び前記センター鉄心とサイド鉄心はコイルケースに収容され、コイルケース内に封入される絶縁用樹脂によって絶縁状態に樹脂成形され、
前記センタ鉄心の一端部にはサイド鉄心の一部が一体に形成されており、
前記サイド鉄心の残余の部分は前記サイド鉄心の一部と組み合わされて前記センタ鉄心を包囲する枠状に構成されており、前記サイド鉄心の残りの部分と前記センタ鉄心の他側端部との間には空隙部が設けられているものにおいて、
前記センタ鉄心を長手方向に2分割し、分割された各センタ鉄心片に前記サイド鉄心の一部が一体に形成されるように前記サイド鉄心の一部も2分割し、
前記残余のサイド鉄心部と合わせて3部分から閉磁路鉄心を形成した
変圧器。
【請求項2】
請求項1に記載のものにおいて、
前記枠状に形成される前記サイド鉄心の一部であって、前記センタ鉄心に沿って伸びる部分が、前記センタ鉄心と一体に成形されており、
前記センタ鉄心に沿って伸びる前記サイド鉄心の一部は、前記センタ鉄心と前記残余のサイド鉄心との間に形成された空隙に近い位置まで延びて、前記残余のサイド鉄心と組み合わせられている
内燃機関用の独立点火型変圧器。
【請求項3】
請求項1に記載したものにおいて、前記センタ鉄心の分割された部分は長手方向に対し左右対称で、その分割面はストレート形状である
変圧器。
【請求項4】
請求項1に記載したものにおいて、前記センタ鉄心の分割された部分は前記センタ鉄心は長手方向に対し、左右非対称で、その分割面は凹凸形状である
変圧器。
【請求項5】
請求項1に記載したものにおいて、分割された前記センタ鉄心を結合させるために、前記センタ鉄心の表面に熱可塑性樹脂もしくはエラストマもしくはゴムの層が形成されている
変圧器。
【請求項6】
請求項1に記載したものにおいて、分割された前記センタ鉄心を結合する接着剤層が設けられている
変圧器。
【請求項7】
請求項1に記載したものにおいて、分割された前記センタ鉄心を結合する溶接が施されている
変圧器。
【請求項8】
請求項4に記載したものにおいて、分割された前記センタ鉄心の前記凹凸形状の分割面を相互に圧入して結合させた
変圧器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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