説明

変形測定方法および変形測定器

【課題】変形を測定する際の測定精度、再現性を容易に向上させる。
【解決手段】タイヤ11に固着される支持シート18に、磁石22、23が設けられた第1支持体21、および、ホール素子30、31が設けられた第2支持体26を離して固着するとともに、第2支持体26と支持シート18との間にクッション層35を介装して大型としたので、固着位置や向きを容易に規定の位置、向きとすることができ、これにより、変形測定時における測定精度、再現性が容易に向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被測定体、例えば空気入りタイヤの変形を測定する変形測定方法および変形測定器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の変形測定方法および変形測定器としては、例えば以下の特許文献1に記載されているようなものが知られている。
【特許文献1】特開2002−002472号公報
【0003】
このものは、空気入りタイヤのトレッド部内周に貼付けられた抵抗線歪ゲージと、該歪ゲージの抵抗線がトレッド部の変形(歪)に追従して伸縮したときの該金属線の抵抗変化に基づきトレッド部の変形を求める測定部とを備え、空気入りタイヤのワイピング変形に基づくトレッド部の変形を測定するようにしたものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の変形測定方法および変形測定器にあっては、歪みゲージが薄肉で数mm角程度の小型であるため、該歪ゲージの貼付け位置や向きを規定の位置、向きに貼付けることが難しく、これにより、測定結果の精度および再現性が低下してしまうという課題があった。
【0005】
この発明は、測定精度、再現性を容易に向上させることができる変形測定方法および変形測定器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、第1に、磁石が設けられた第1支持体および前記第1支持体から離隔した位置に前記磁石との間の距離を検出するホール素子が設けられた第2支持体が固着されるとともに、第1支持体または第2支持体のいずれか一方との間に自身より弾性係数の小さな材料からなるクッション層が介装され、被測定体の変形に追従して伸縮することができる支持シートを、変形する被測定体に固着する工程と、前記ホール素子からの検出結果に基づいて被測定体の変形を求める工程とを備えた変形測定方法により、達成することができる。
【0007】
第2に、被測定体の変形測定時に該被測定体に固着され、該被測定体の変形に追従して伸縮することができる支持シートと、該支持シートに固着されるとともに、磁石が設けられた第1支持体と、前記第1支持体から離隔した位置の支持シートに固着され、前記磁石との間の距離を検出するホール素子が設けられた第2支持体と、第1支持体または第2支持体のいずれか一方と支持シートとの間に介装され、前記支持シートより弾性係数の小さな材料からなるクッション層とを備え、前記ホール素子からの検出結果に基づき被測定体の変形を求めるようにした変形測定器により、達成することができる。
【発明の効果】
【0008】
この発明においては、支持シートに磁石が設けられた第1支持体およびホール素子が設けられた第2支持体を離して固着するとともに、これらのいずれか一方と支持シートとの間にクッション層を介装したので、全体として従来の歪ゲージより大型となり、この結果、固着位置や向きを容易に規定の位置、向きとすることができ、測定結果の精度、再現性を容易に向上させることができる。
【0009】
そして、この発明では、被測定体の変形に追従して支持シートが伸縮すると、間にクッション層が設けられていない第1または第2支持体は、支持シートと等量だけ変位するが、間にクッション層が設けられている残りの第1または第2支持体はクッション層が変形を吸収するため、変位量が零に近付く。これにより、第1、第2支持体間の距離、詳しくは磁石とホール素子との間の距離が変化するが、このときにホール素子が検出した距離、即ち検出結果に基づき被測定体の変形を求める。
【0010】
また、請求項3に記載のようにホール素子、測定部を共に第2支持体に設ければ、両者を接続する信号線がタイヤの変形によって断線するような事態が抑制され、これにより、測定作業の中断を効果的に抑制することができる。さらに、請求項4に記載のように構成すれば、所望の方向における被測定体の変形を容易に高精度で測定することができ、また、請求項5に記載のように構成すれば、被測定体の変形を直交する2方向に分解した状態で容易に測定することができる。さらに、請求項6に記載のように構成すれば、支持シートを容易かつ安価に製作することができ、また、請求項7に記載のように構成すれば、安価でありながら充分に変形を吸収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施形態1を図面に基づいて説明する。
図1において、11は、例えば乗用車、トラック、バス等に装着される被測定体としての空気入りラジアルタイヤであり、このタイヤ11は走行時に路面12に接触するトレッド部13を有し、このトレッド部13の外周には幅広で周方向に連続して延びる複数本の主溝14、および、幅方向に延び前記主溝14と交差する幅広の横溝15が形成されている。なお、トレッド部13の外周には前記主溝14または横溝15のいずれか一方のみが形成される場合もある。そして、このようなタイヤ11を荷重下で走行させると、接地領域内のトレッド部13には種々の外力が作用して幅方向および周方向の少なくともいずれか一方に伸縮し変形が発生する。
【0012】
17は前記タイヤ11(トレッド部13)の内周に設置された変形測定器であり、この変形測定器17は前述のような外力に基づくトレッド部13内周での幅方向、周方向の変形を測定するため、トレッド部13の内周に配置されている。この変形測定器17は、図2、3、4に示すように、タイヤ11(トレッド部13の内周)に接着剤等によって取り外し可能に固着される矩形シート状の支持シート18を有し、この支持シート18は薄肉の一定肉厚で、前記タイヤ11(トレッド部13)の変形に追従して同一方向に同一量だけ伸縮することができる。
【0013】
この結果、前記支持シート18は、タイヤ11の回転により変形測定器17が接地領域に到達する毎に、タイヤ11(トレッド部13)の変形に追従して幅方向、周方向に伸縮し、一方、接地領域から離れて外力の付与が無くなると、元の形状(長さ)に復元する。ここで、前述した支持シート18は加硫済みゴムから構成されているため、これを容易かつ安価に製作することができる。
【0014】
21は前記支持シート18の中央部に基端(外端)が直接固着され、タイヤ11の回転軸に向かって半径方向に延びる第1支持体であり、この第1支持体21は略円柱状を呈し、剛体、例えばプラスチックから構成されている。この第1支持体21内には前述した幅方向、周方向の変形を測定する際に用いる複数、ここでは2個の磁石22、23が埋設され、この磁石22はタイヤ11の幅方向に、一方、磁石23はタイヤ11の周方向に延びている。なお、これら磁石22、23は第1支持体21の表面に固着されたり、一部が第1支持体21に埋設されることで、第1支持体21に設けられていてもよい。
【0015】
ここで、前述した磁石22は、磁石23より先端側(半径方向内側)に配置されるとともに、磁石23に対して直交している。なお、前述の磁石はタイヤ11の一方向の変形のみを測定する場合には1個だけ設ければよいが、複数方向の変形を測定する場合には、1個だけでも可能であるものの、複数、前述のように2個あるいは3個以上設けるようにすることが好ましい。そして、このように複数の磁石を設ける場合には、これら磁石を等角度で交差させながら配置することが好ましい。また、前述の磁石22、23としては、フェライト磁石等の永久磁石を用いることができる。
【0016】
26は剛体、例えばプラスチックから構成され前記支持シート18に固着された第2支持体であり、この第2支持体26の中央部には前記第1支持体21と同軸の該第1支持体21より大径の半径方向に延びる貫通孔27が形成されている。そして、前記貫通孔27内には前記第1支持体21が挿入されており、この結果、この第2支持体26は貫通孔27の内周が第1支持体21から等距離離隔した位置において支持シート18に固着されていることになり、これにより、前記第1支持体21は第2支持体26に対して独立して変位することができる。
【0017】
30、31は貫通孔27近傍の第2支持体26内に埋設された矩形板状のホール素子であり、このホール素子30は前記磁石22の延長線上でこれに直交するよう配置され、一方、ホール素子31は前記磁石23の延長線上でこれに直交するよう配置されており、この結果、これらホール素子30、31は第1支持体21を中心として周方向に90度離れて配置されていることになる。なお、前記ホール素子は前述のような磁石に対応して片側にこれと同数だけ設けてもよく、あるいはこれの2倍の数にして両側に設けてもよいが、いずれの場合にも、各磁石の延長線上にこれと直交するよう配置することが好ましい。
【0018】
ここで、前記ホール素子30、31はGe、Si等の半導体材料からなり、その入力端子に一定電流を流しておくと、該ホール素子30、31に対して垂直方向に作用する磁界の大きさに応じた電圧を出力端子から出力することができる。そして、前記タイヤ11(トレッド部13)の幅方向、周方向の変形に追従して支持シート18が同方向に同一量だけ伸縮し、これにより、ホール素子30、31と磁石22、23との間の距離が後述のように変化すると、この距離の変化に応じてホール素子30、31に作用する磁界の大きさが変化して出力電圧(検出結果)が変化し、これにより、前記タイヤ11(トレッド部13)の幅方向、周方向の変形がそれぞれ測定される。
【0019】
また、前述のように複数(2個)のホール素子30、31を周方向に90度離して配置すれば、タイヤ11(トレッド部13)の変形を、複雑な演算を行うことなく、直交する2方向に分解した状態で容易に測定することができる。なお、ホール素子を複数個設置する場合には、これらホール素子を90度以外の角度だけ周方向に離して配置することもでき、この場合には、これら複数のホール素子からの出力(検出結果)を基に演算を行うことで、所望の方向におけるタイヤ11(トレッド部13)の変形を容易に高精度で測定することができ、その効果はホール素子数が多い程顕著となる。
【0020】
35は第2支持体26と支持シート18との間に介装されたクッション層であり、このクッション層35が介装されることで第2支持体26は支持シート18に間接的に固着されることになる。前記クッション層35は支持シート18より弾性係数の小さな材料から構成されており、この結果、支持シート18がタイヤ11(トレッド部13)に追従して伸縮したとき、該クッション層35は支持シート18の変形を吸収し、これにより、第2支持体26の変位量は零に近付く。ここで、前述のクッション層35を多孔性であるウレタンフォーム等の合成スポンジから構成すると、安価でありながら充分に変形を吸収することができるので、好ましい。
【0021】
38は前記第2支持体26の基端部に埋設された測定部であり、この測定部38は、例えばICチップ等の制御基板から構成されている。また、この測定部38と前記ホール素子30、31とは第2支持体26に埋設された信号線39、40により接続され、これら信号線39、40を通じてホール素子30、31からの出力(検出結果)が測定部38に送られる。このように測定部38にホール素子30、31からの出力が送られると、該測定部38はホール素子30からの検出結果に基づき演算を行ってタイヤ11(トレッド部13)の幅方向の変形を、また、ホール素子31からの検出結果に基づき演算を行って周方向の変形を求める。
【0022】
具体的には、変形測定器17が接地領域外に位置しているときのホール素子30、31と磁石22、23との間の距離の平均値を求めて基準値として測定部38に記憶しておき、前記変形測定器17が接地領域に到達してホール素子30、31と磁石22、23との間の距離が変化したとき、この変化した距離を検出して前記基準値と比較し、これにより、タイヤ11(トレッド部13)における幅方向、周方向の変形をそれぞれ測定している。
【0023】
そして、前述のように支持シート18に磁石22、23が設けられた第1支持体21およびホール素子30、31が設けられた第2支持体26を離して固着するとともに、第2支持体26と支持シート18との間にクッション層35を介装したので、全体として従来の歪ゲージより大型となり、この結果、固着位置や向きを容易に規定の位置、向きとすることができ、測定結果の精度、再現性を容易に向上させることができる。また、ホール素子30、31、測定部38を共に第2支持体26に設けたので、両者を接続する信号線39、40がタイヤ11の変形によって断線するような事態が抑制され、これにより、測定作業の中断を効果的に抑制することができる。
【0024】
次に、前記実施形態1の作用について説明する。
前述した変形測定器17を用いてタイヤ11(トレッド部13)の変形を測定する場合には、該タイヤ11(トレッド部13)の内周に接着剤等を用いて変形測定器17の支持シート18を取り外し可能に固着する。次に、前記タイヤ11をリムに装着して内圧を充填した後、所定荷重を負荷しながら路面12上を走行させて複数回回転させる。このとき、ホール素子30、31からの測定結果を基に測定部38を用いて変形測定器17が接地領域外に位置しているとき(外力の付与がないとき)のホール素子30、31と磁石22、23との間の距離の平均値を求め、基準値として測定部38に記憶する。なお、前記基準値は予め設定した値として測定部38に記憶させておいてもよい。
【0025】
次に、再びタイヤ11を走行させて変形測定器17を接地領域に到達させると、タイヤ11の伸縮変形に追従してトレッド部13内周および支持シート18が幅方向および周方向に伸縮する。このとき、第1支持体21と支持シート18との間にはクッション層が設けられていないため、第1支持体21は支持シート18と等量だけ変位するが、第2支持体26と支持シート18との間にはクッション層35が介装されているため、クッション層35が支持シート18の変形を吸収し、第2支持体26の変位量が零に近付く。
【0026】
このような第1、第2支持体21、26の変位により、第1、第2支持体21、26間の距離、詳しくは磁石22、23とホール素子30、31との間の距離が変化するが、この変化した距離をホール素子30、31が検出し検出結果(出力電圧)として測定部38に出力する。このとき、測定部38は前記検出結果(距離)と基準値とを比較し、これらの比較結果からタイヤ11(トレッド部13)の幅方向、周方向の変形をそれぞれ求める。このようにして測定されたタイヤ11(トレッド部13)の変形は、測定部38から、例えば無線通信によりタイヤ11の外部に設置されたリーダにより読み取られる。また、前述したホール素子30、31からの検出結果に基づいてタイヤ11に対する入力の値あるいはタイヤ11の積算回転数を求めることもできる。
【0027】
なお、前述の実施形態においては、タイヤ11(トレッド部13)の内周に変形測定器17を設置するようにしたが、この発明においては、タイヤのサイドウォール部に設置してもよく、あるいは、タイヤ以外の変形する部材、例えばコンベアベルト、免震ゴム等に設置し、その変形を測定するようにしてもよい。また、前述の実施形態においては、支持シート18と第2支持体26との間にのみクッション層35を介装するようにしたが、この発明においては、支持シート18と第1支持体21との間にのみクッション層を介装するようにしても、同様に変形を測定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
この発明は、被測定体、例えばタイヤの変形を測定する産業分野に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の実施形態1を示すトレッド部の幅方向断面図である。
【図2】変形測定器近傍の斜視図である。
【図3】その平面図である。
【図4】図3のI−I矢視断面図である。
【符号の説明】
【0030】
11…被測定体 18…支持シート
21…第1支持体 22、23…磁石
26…第2支持体 30、31…ホール素子
35…クッション層 38…測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石が設けられた第1支持体および前記第1支持体から離隔した位置に前記磁石との間の距離を検出するホール素子が設けられた第2支持体が固着されるとともに、第1支持体または第2支持体のいずれか一方との間に自身より弾性係数の小さな材料からなるクッション層が介装され、被測定体の変形に追従して伸縮することができる支持シートを、変形する被測定体に固着する工程と、前記ホール素子からの検出結果に基づいて被測定体の変形を求める工程とを備えたことを特徴とする変形測定方法。
【請求項2】
被測定体の変形測定時に該被測定体に固着され、該被測定体の変形に追従して伸縮することができる支持シートと、該支持シートに固着されるとともに、磁石が設けられた第1支持体と、前記第1支持体から離隔した位置の支持シートに固着され、前記磁石との間の距離を検出するホール素子が設けられた第2支持体と、第1支持体または第2支持体のいずれか一方と支持シートとの間に介装され、前記支持シートより弾性係数の小さな材料からなるクッション層とを備え、前記ホール素子からの検出結果に基づき被測定体の変形を求めるようにしたことを特徴とする変形測定器。
【請求項3】
前記ホール素子からの検出結果に基づいて被測定体の変形を求める測定部を第2支持体に設けた請求項2記載の変形測定器。
【請求項4】
前記ホール素子を磁石の周囲において周方向に離して複数配置した請求項2または3記載の変形測定器。
【請求項5】
前記複数のホール素子を周方向に90度離して配置した請求項4記載の変形測定器。
【請求項6】
前記支持シートを加硫済みゴムから構成した請求項1〜5のいずれかに記載の変形測定器。
【請求項7】
前記クッション層を合成スポンジから構成した請求項1〜6のいずれかに記載の変形測定器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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