説明

変性ジエン系ゴムポリマーの製造方法

【課題】カーボンブラックやシリカ等の充填剤の分散性を向上させる。
【解決手段】未加硫のジエン系ゴムポリマーに電子線を照射した後、分子内に炭素−炭素二重結合とアミノ基を有する化合物を、上記の電子線照射されたジエン系ゴムポリマーに付与することにより、該化合物をジエン系ゴムポリマーに反応させて、変性ジエン系ゴムポリマーを得る。また、該変性ジエン系ゴムポリマーと、カーボンブラックやシリカ等の充填剤を配合し、混合してゴム組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ジエン系ゴムポリマー及びその製造方法に関し、また、該変性ジエン系ゴムポリマーを用いたゴム組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スチレン−ブタジエンゴムなどのジエン系ゴムにおいて、ポリマー製造時に変性基を添加して、末端変性ポリマーを作成することが知られている。かかる変性ポリマーは、例えば、シリカ等の充填剤とともに混合しゴム組成物を調製したときに、充填剤との親和性がよくなることで、充填剤の分散を向上させることができ、そのため、未変性のジエン系ゴムポリマーを用いた場合に比べて、ゴム組成物のヒステリシスロスを低減すること、すなわち、損失係数(tanδ)を低く抑えることができる。従って、例えば、空気入りタイヤの転がり抵抗を低減して、自動車の低燃費化に寄与することができる。しかしながら、上記従来の手法は、一般にアニオン重合下でしか実施することができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平04−045114号公報
【特許文献2】特開平10−025358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、充填剤の分散を向上するべく鋭意検討する中で、特定の官能基を持つ化合物を、電子線照射によりジエン系ゴムポリマーに付加させることを考えた。
【0005】
電子線照射を利用してゴムポリマーに化合物を付与する技術として、上記特許文献1には、架橋されたシリコーンゴムにラジカル重合性モノマーを含浸させた後、電子線照射により該モノマーを重合させることが開示されている。また、上記特許文献2では、天然ゴムラテックスフィルムにモノマーを塗布し、電子線照射により重合体膜を形成することが開示されている。しかしながら、特許文献1ではシリコーンゴムの硬度を高めることを目的としており、また特許文献2ではゴム製品の粘着性を改善することを目的としたものであり、いずれも充填剤の分散を改良するものではない。また、いずれも架橋(加硫)されたゴム製品に対して電子線照射を行うものであり、未加硫のジエン系ゴムポリマーを対象としたものではない。
【0006】
本発明は、充填剤の分散を向上させることができる変性ジエン系ゴムポリマーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る変性ジエン系ゴムポリマーの製造方法は、未加硫のジエン系ゴムポリマーに電子線を照射する工程と、分子内に炭素−炭素二重結合とアミノ基を有する化合物を前記ジエン系ゴムポリマーに付与する工程と、を含むものである。
【0008】
本発明に係るゴム組成物の製造方法は、上記で得られた変性ジエン系ゴムポリマーに、充填剤を配合し、混合することを特徴とするものである。
【0009】
本発明に係る変性ジエン系ゴムポリマーは、未加硫のジエン系ゴムポリマーに対する電子線照射により、分子内に炭素−炭素二重結合とアミノ基を有する化合物を、前記ジエン系ゴムポリマーに反応させたものである。また、本発明に係るゴム組成物は、該変性ジエン系ゴムポリマーと、充填剤を含有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シリカやカーボンブラックなどの充填剤の表面に存在する水酸基やカルボキシル基等の官能基に対して反応性ないし親和性の高いアミノ基を、電子線照射によりジエン系ゴムポリマーに付加することにより、ゴム組成物に配合したときに充填剤の分散を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
本発明の実施形態において、処理対象となる未加硫のジエン系ゴムポリマーとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム等の各種ジエン系ゴムポリマーが挙げられる。これらの中でも、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、天然ゴムを用いることが好ましい。
【0013】
このようなジエン系ゴムポリマーは、固形物やラテックス等として市販されており、それらを用いることができる。オイルが添加された状態で市販されている油展ゴムを用いてもよい。もちろん、ジエン系モノマー(共重合成分としてビニルモノマーを含んでもよい。)を用いて、公知の方法により重合したものを用いることもできる。
【0014】
本実施形態では、未加硫のジエン系ゴムポリマーに、電子線を照射する。電子線を照射することにより、ジエン系ゴムポリマーの炭素−炭素二重結合(C=C)部分やC−H結合部分等においてラジカルを発生させることができる。未加硫のものを用いるのは、本実施形態に従い変性したジエン系ゴムポリマーを、ゴム組成物に配合する原料ゴムとして用いるためであり、すなわち、カーボンブラックやシリカなどの充填剤を分散させるマトリックスとしてのゴム成分を予め変性しておくことで、充填剤の分散を向上させる趣旨である。
【0015】
電子線照射に際し、ジエン系ゴムポリマーが固形物の場合、ラジカルが発生するのは、主として該固形物の表層部であり、固形物の内部まで変性させることは困難である。そのため、固形物の場合には、できるだけ均一に変性させるために、例えば厚さ2cm以下、より好ましくは1cm程度以下に切断又はシーティングしたシート状物を用いることが好ましい。すなわち、未加硫のジエン系ゴムポリマーからなるシート状物に対して、その表面に電子線を照射することが好ましい。なお、スチレン−ブタジエンゴムや天然ゴムのラテックスを用いる場合も、できるだけ均一に変性させるために、水深2cm以下、より好ましくは水深1cm以下として、その水面に電子線を照射することが好ましい。
【0016】
電子線の照射条件としては、特に限定されないが、加速電圧が1〜5MV、照射線量が10〜400kGy、より好ましくは50〜250kGyであることが好ましい。このように加速電圧を高めに設定するのは、できるだけ固形物の内部まで電子線を侵入させるためである。
【0017】
このようにして電子線照射したジエン系ゴムポリマーに対し、発生したラジカルが存在している段階で(即ち、ラジカルが消失する前に)、変性剤としてのモノマーを付与する。ここで、モノマーとは、分子内に炭素−炭素二重結合とアミノ基を有する低分子化合物をさす。
【0018】
該モノマーとしては、より詳細には、ラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合としてHC=CR−(但し、Rは水素原子又はメチル基)で表される不飽和基(例えば、ビニル基(HC=CH−)、イソプロペニル基(HC=C(CH)−)、アリル基(HC=CH−CH−))を少なくとも1つ有するとともに、カーボンブラックやシリカ等の充填剤表面の官能基(例えば、水酸基やカルボキシル基)に対して反応性ないし親和性の高いアミノ基を少なくとも1つ有するものを用いることが好ましい。上記アミノ基は、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基のいずれでもよく、また、ピリジル基のような含窒素複素環であってもよい。
【0019】
このようなラジカル重合性のアミン化合物である上記モノマーとしては、例えば、アリルアミン、4−アミノスチレン、N,N−ジメチルアリルアミン、4−ビニルベンジルアミンなどの下記一般式(1)で表されるアミン化合物、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノメチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、ジメチルアミノブチルメタクリレート、ジメチルアミノブチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノプロピルメタクリレート、ジエチルアミノプロピルアクリレート、ジエチルアミノブチルメタクリレート、ジエチルアミノブチルアクリレートなどの下記一般式(2)で表されるアミノアルキル(メタ)アクリレート化合物、2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンなどのビニルピリジンなどが挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いてもよく、あるいはまた2種以上組み合わせて設けてもよい。
【0020】
【化1】

【0021】
式中、Rは、水素原子またはメチル基を表す。Aは、芳香環を含んでもよい炭素数1〜10の2価の炭化水素基(例えば、アルキレン基、アリーレン基、アラルキル基など)を表す。nは、0又は1を表す。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。pは1〜4の整数を表す。
【0022】
ジエン系ゴムポリマーに対する上記モノマーの付与方法としては、特に限定されず、例えば、モノマーが液体の場合、そのまま又は水などの溶媒で希釈し、あるいはまた、モノマーが固体の場合、水などの溶媒に溶解することにより、モノマー液(モノマーを含有する液体)を調製し、該モノマー液にジエン系ゴムポリマーを浸けたり、ジエン系ゴムポリマーの表面に該モノマー液を刷毛塗りやスプレー噴霧等で塗布してもよい。上記モノマーが気体の場合、モノマーを充填した雰囲気内にジエン系ゴムポリマーを置くことによっても、モノマーを付与することができる。なお、ジエン系ゴムポリマーがラテックスの場合、ラテックスにモノマー液を滴下したり、逆にモノマー液にラテックスを滴下するなどして、ラテックスとモノマー液を混合することにより、モノマーを付与することができる。
【0023】
上記モノマーを付与した後、所定時間放置させる。なお、放置させる際に、オーブンなどに入れて加温(例えば、30〜80℃)してもよい。その後、温水等で洗浄し、未反応のモノマーや、モノマー同士が重合してなるホモポリマーを除去する。
【0024】
これにより、上記モノマーを付加してなる未加硫の変性ジエン系ゴムポリマーが得られる。より詳細には、上記モノマーは、分子内に有する炭素−炭素二重結合部分が、ラジカル重合反応により、ジエン系ゴムポリマーに反応する。すなわち、電子線照射により発生した上記ジエン系ゴムポリマーのラジカルに対し、モノマーの炭素−炭素二重結合が反応することにより、該モノマーがジエン系ゴムポリマーに結合し、よって、アミノ基がジエン系ゴムポリマーに導入される。なお、ラジカル重合反応により該モノマーが順次に連結していくことにより、ジエン系ゴムポリマーを幹とし、該モノマーが連結してなる重合体部分を側鎖とするグラフト重合体が形成されてもよい。
【0025】
上記モノマーの付加量(即ち、反応量)は、特に限定されるものではないが、処理前のジエン系ゴムポリマー100質量部に対して、0.01〜100質量部であることが好ましい。
【0026】
上記実施形態では、電子線を照射した後にモノマーを付与したが、モノマーを付与してから電子線照射しても構わない。すなわち、本発明では、未加硫のジエン系ゴムポリマーに電子線を照射してから、電子線照射されたジエン系ゴムポリマーに上記モノマーを付与してもよく、あるいはまた、未加硫のジエン系ゴムポリマーに上記モノマーを付与してから、該ジエン系ゴムポリマーに電子線を照射してもよく、更には、電子線の照射とモノマーの付与を同時に行ってもよく、いずれによっても上記モノマーをジエン系ゴムポリマーに反応させることができる。
【0027】
以上により得られた変性ジエン系ゴムポリマーは、充填剤を配合し、混合してゴム組成物を製造するために用いることができる。該変性ジエン系ゴムポリマーは、カーボンブラックやシリカ等の充填剤の表面に存在する水酸基やカルボキシル基等の官能基に対して反応性ないし親和性の高いアミノ基が導入されているので、ゴム組成物中での充填剤の分散を向上させることができ、従って、ゴム組成物のtanδを低く抑えて、低燃費性を向上することができる。特に、従来のアニオン重合下で実施される末端変性ポリマーとは異なり、ポリマーの主鎖中にも上記アミノ基を持つモノマーを付加することができるので、充填剤の分散性向上効果を高める上で有利である。
【0028】
該ゴム組成物に配合するゴム成分としては、上記変性ジエン系ゴムポリマー単独使用でもよく、該変性ジエン系ゴムポリマーとともに未変性のゴムポリマーを配合してもよい。該未変性のゴムポリマーとしては、特に限定されるものではなく、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムなどの各種ゴムポリマーを用いることができる。好ましくは、ジエン系ゴムポリマーを用いることであり、特に好ましくは、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、天然ゴムを用いることである。ゴム成分中に含まれる変性ジエン系ゴムポリマーの配合比率は、特に限定されないが、充填剤の分散性向上効果をより有効に発揮させる上で、20質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上である。
【0029】
該ゴム組成物に配合する充填剤としては、カーボンブラック及び/又はシリカが好ましく用いられる。特に、本発明では、シリカ配合だけでなく、カーボンブラック配合に対してもtanδを下げることができる点で、実用性が高く、有益である。該充填剤の配合量は、特に限定されないが、上記ゴム成分100質量部に対して10〜200質量部であることが好ましく、より好ましくは40〜120質量部である。カーボンブラックとしては、特に限定するものではないが、SAFクラス(N100番台)、ISAFクラス(N200番台)、HAFクラス(N300番台)、FEF(N500番台)(ともにASTMグレード)のものが好ましく用いられる。また、上記シリカとしては、湿式シリカ、乾式シリカ、コロイダルシリカ、沈降シリカなどが挙げられ、特に含水珪酸を主成分とする湿式シリカを用いることが好ましい。なお、充填剤としてシリカを配合する場合、スルフィドシランやメルカプトシランなどのシランカップリング剤を併用することが好ましく、シランカップリング剤は、通常、シリカ100質量部に対して2〜25質量部にて用いることができる。
【0030】
該ゴム組成物には、その他に、オイル、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を適宜配合することができる。上記加硫剤としては、硫黄、硫黄含有化合物等が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量は上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0031】
該ゴム組成物は、通常のバンバリーミキサーやニーダーなどのゴム用混練機を用いて、常法に従い混練することで調製される。このようにして得られるゴム組成物の用途は、特に限定されず、トレッドやサイドウォール等のタイヤ、コンベアベルト、防振ゴムなどの各種ゴム組成物に用いることができる。
【0032】
好ましくは、タイヤ用ゴム組成物として用いることであり、特にはトレッドゴムに好適に用いられ、常法に従い、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、空気入りタイヤを形成することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
(第1実施例)
未加硫のジエン系ゴムポリマーとして、日本ゼオン(株)製スチレン−ブタジエンゴム「Nipol 1739」(Tg=−35℃、37.5質量部油展ゴム)を用い、この固形状のジエン系ゴムポリマーを厚さ1cm程度のシート状に切断した。得られたシート状のジエン系ゴムポリマーの表面に対し、電子線照射装置を用いて、温度:室温、加速電圧:3MV、照射線量:200kGyの条件で、電子線を照射した。照射後直ちに、モノマーAとしてアリルアミンを用いた処理液(アリルアミンの50質量%水溶液)に、上記ジエン系ゴムポリマーを浸漬し、そのまま室温で4時間放置することにより、モノマーAを上記ジエン系ゴムポリマーに反応させた。その後、ジエン系ゴムポリマーを上記処理液から取り出し、80℃の温水で2回洗浄して、ジエン系ゴムポリマーの表面に付着している未反応のモノマーAと、該モノマーAのホモポリマーを除去した。これにより、モノマーAで変性した変性SBR1を得た。
【0035】
該変性SBR1において、モノマーAの付加量は、ジエン系ゴムポリマー100質量部(油展分は除く)に対して1.2質量部であった(即ち、グラフト率=1.2質量%)。ここで、グラフト率は、グラフト重合前後のサンプル質量変化を、グラフト重合前のサンプルの質量で割り、100をかけた値である。
【0036】
上記モノマーAに代えて、モノマーBとしてジメチルアミノエチルメタクリレートを用いて、その50質量%水溶液を処理液とし、その他は変性SBR1と同様にして、モノマーBで変性した変性SBR2を得た。該変性SBR2において、モノマーBのグラフト率は1.0質量%であった。
【0037】
上記モノマーAに代えて、モノマーCとして2−ビニルピリジンを用いて、その100%液を処理液とし、その他は変性SBR1と同様にして、モノマーCで変性した変性SBR3を得た。該変性SBR3において、モノマーCのグラフト率は1.0質量%であった。
【0038】
上記変性SBR1の製造方法において、電子線照射をせずにモノマーAの処理液に浸漬し、その他は変性SBR1と同様にして、変性SBR4(比較例)を得た。また、電子線は照射したがモノマーAの処理液に浸漬せず、その他は変性SBR1と同様にして、変性SBR5(比較例)を得た。これら変性SBR4,5において、モノマーAのグラフト率は0質量%であった。
【0039】
上記変性SBR1〜5と未変性のSBR(日本ゼオン(株)製「Nipol 1739」)を用い、バンバリーミキサーを使用して常法に従い実施例1−1〜3及び比較例1−1〜6のゴム組成物を調製した。各ゴム組成物のゴム成分は下記表1に示す通りである。なお、表1中のゴム成分の質量部は、油展分で配合されるオイルを除くポリマー分としての質量部である。また、BRは、宇部興産(株)製ブタジエンゴム「UBEPOL BR150」である。
【0040】
各ゴム組成物には、共通配合として、ゴム成分100質量部に対し、シリカ(エボニック社製「Ultrasil VN3」)75質量部、シランカップリング剤(エボニック社製「Si69」 )6質量部、アロマオイル(昭和シェル石油(株)製「エキストラクト4号S」)31質量部(但し、ゴム成分の油展分を含めた合計量)、老化防止剤(N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン)2質量部、ステアリン酸(工業用ステアリン酸)2質量部、酸化亜鉛(1号亜鉛華)3質量部、ワックス(日本精蝋(株)製「パラフィンワックス」)2質量部、加硫促進剤(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド)1.5質量部、硫黄(5%油処理粉末イオウ)2質量部を配合した。なお、比較例1−4〜6では、モノマーA〜Cをゴム混合時に添加した。
【0041】
得られた各ゴム組成物について、低燃費性の指標としてtanδを測定した。測定方法は以下の通りである。
【0042】
・tanδ:160℃×30分で加硫した試験片について、JIS K6394に準じて、東洋精機製粘弾性試験機を用いて、温度70℃、周波数10Hz、初期歪み10%、動歪み2%の条件で損失係数tanδを測定し、比較例1−1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほどtanδが小さく、発熱しにくいこと、即ち低燃費性に優れることを示す。
【0043】
結果は表1に示す通りであり、シリカ表面の水酸基と反応性の高いアミノ基を導入した変性SBRを用いた実施例1−1〜3であると、未変性のSBRを用いたコントロールの比較例1−1に対し、シリカの分散性向上によってtanδが低く、低燃費性に優れていた。これに対し、電子線照射を実施していない比較例1−2や、電子線照射を実施したもののアミノ基を持つモノマーを付与していない比較例1−3では、tanδの改善効果は見られなかった。このことから、実施例で用いた変性SBR1〜3では、アミノ基による変性、即ちアミノ基がジエン系ゴムポリマーに導入されていることは明らかである。なお、各モノマーA〜Cをゴム混練時に添加した比較例1−4〜6では、tanδの改善効果は見られなかった。
【0044】
【表1】

【0045】
(第2実施例)
未加硫のジエン系ゴムポリマーとして、天然ゴム(RSS#3)を用い、この固形状のジエン系ゴムポリマーを厚さ1cm程度のシート状に切断した。切断したジエン系ゴムポリマーの表面に対し、電子線照射装置を用いて、温度:室温、加速電圧:3MV、照射線量:200kGyの条件で、電子線を照射した。照射後直ちに、モノマーAとしてアリルアミンを用いた処理液(アリルアミンの50質量%水溶液)に、上記ジエン系ゴムポリマーを浸漬し、そのまま室温で4時間放置することにより、モノマーAを上記ジエン系ゴムポリマーに反応させた。その後、ジエン系ゴムポリマーを上記処理液から取り出し、80℃の温水で2回洗浄して、ジエン系ゴムポリマーの表面に付着している未反応のモノマーAと、該モノマーAのホモポリマーを除去した。これにより、モノマーAで変性した変性NR1を得た。該変性NR1において、モノマーAのグラフト率は1.2質量%であった。
【0046】
上記モノマーAに代えて、モノマーBとしてジメチルアミノエチルメタクリレートを用いて、その50質量%水溶液を処理液とし、その他は変性NR1と同様にして、モノマーBで変性した変性NR2を得た。該変性NR2において、モノマーBのグラフト率は1.0質量%であった。
【0047】
上記モノマーAに代えて、モノマーCとして2−ビニルピリジンを用いて、その100%液を処理液とし、その他は変性NR1と同様にして、モノマーCで変性した変性NR3を得た。該変性NR3において、モノマーCのグラフト率は1.1質量%であった。
【0048】
上記変性NR1の製造方法において、電子線照射をせずにモノマーAの処理液に浸漬し、その他は変性NR1と同様にして、変性NR4(比較例)を得た。また、電子線は照射したがモノマーAの処理液に浸漬せず、その他は変性NR1と同様にして、変性NR5(比較例)を得た。これら変性NR4,5において、モノマーAのグラフト率は0質量%であった。
【0049】
上記変性NR1〜5と未変性のNR(RSS#3)を用い、バンバリーミキサーを使用して常法に従い実施例2−1〜3及び比較例2−1〜6のゴム組成物を調製した。各ゴム組成物のゴム成分は下記表2に示す通りである。
【0050】
各ゴム組成物には、共通配合として、ゴム成分100質量部に対し、カーボンブラックHAF(東海カーボン(株)製「シースト3」)50質量部、アロマオイル(昭和シェル石油(株)製「エキストラクト4号S」)3質量部、老化防止剤(N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン)1質量部、ステアリン酸(工業用ステアリン酸)2質量部、酸化亜鉛(1号亜鉛華)3質量部、加硫促進剤(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド)1.0質量部、硫黄(5%油処理粉末イオウ)2質量部を配合した。なお、比較例1−4〜6では、モノマーA〜Cをゴム混合時に添加した。
【0051】
得られた各ゴム組成物について、低燃費性の指標としてtanδを測定した(測定方法は、上記の通りであるが、比較例2−1の値を100とした指数で表示した。)。
【0052】
結果は表2に示す通りであり、カーボンブラック表面のカルボキシル基と反応性の高い官能基を導入した変性NRを用いた実施例2−1〜3であると、未変性のNRを用いたコントロールの比較例2−1に対し、カーボンブラックの分散性向上によってtanδが低く、低燃費性に優れていた。これに対し、電子線照射を実施していない比較例2−2や、電子線照射を実施したもののアミノ基を持つモノマーを付与していない比較例2−3では、tanδの改善効果は見られなかった。このことから、実施例で用いた変性NR1〜3では、アミノ基による変性、即ちアミノ基がジエン系ゴムポリマーに導入されていることは明らかである。なお、各モノマーA〜Cをゴム混練時に添加した比較例2−4〜6では、tanδの改善効果は見られなかった。
【0053】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫のジエン系ゴムポリマーに電子線を照射する工程と、
分子内に炭素−炭素二重結合とアミノ基を有する化合物を前記ジエン系ゴムポリマーに付与する工程と、
を含む変性ジエン系ゴムポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記炭素−炭素二重結合がHC=CR−(但し、Rは水素原子又はメチル基)で表される基であることを特徴とする請求項1記載の変性ジエン系ゴムポリマーの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法で得られた変性ジエン系ゴムポリマーに、充填剤を配合し、混合することを特徴とするゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
前記充填剤がカーボンブラック及び/又はシリカであることを特徴とする請求項3記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項5】
未加硫のジエン系ゴムポリマーに対する電子線照射により、分子内に炭素−炭素二重結合とアミノ基を有する化合物を、前記ジエン系ゴムポリマーに反応させたことを特徴とする変性ジエン系ゴムポリマー。
【請求項6】
請求項5記載の変性ジエン系ゴムポリマーと、充填剤を含有することを特徴とするゴム組成物。

【公開番号】特開2012−51969(P2012−51969A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193675(P2010−193675)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】