説明

変性ポリオレフィン樹脂

【課題】ポリオレフィン系樹脂及び金属に対する密着性に優れ、溶剤への溶解性、耐水性に優れたポリオレフィン系接着剤組成物を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂(A)を、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル単量体とリン酸基含有ビニル単量体(b)を含むビニル系単量体(B)でグラフト変性したポリオレフィン樹脂及び該樹脂を含有する接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にポリオレフィン系樹脂からなる基材と金属との密着性に優れる変性ポリオレフィン樹脂及び該樹脂からなる接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木質系ボード類、無機系ボード類、金属板等からなる基材の表面に化粧シートを接着剤で貼り合わせた化粧板において、化粧シートとしては、柔軟性、エンボス適性、耐汚染性等に優れた塩化ビニル樹脂シートが多く使用されていた。
しかしながら、塩化ビニル樹脂は、焼却時に塩化水素ガスが発生するため、焼却炉の腐食や酸性雨の要因となる。そのため、近年、塩化ビニル樹脂を使用しない化粧シートが要求されつつある。
塩化ビニル樹脂に代わる樹脂として、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性ポリオレフィンが検討されている。ポリオレフィンシートと基材と金属の接着に使用される接着剤としては、ウレタン系、ポリエステル系、水性アクリルエマルション系等のポリオレフィン用接着剤が挙げられる。しかしながら、これらの接着剤を使用しても、特にポリオレフィン基材と接着剤との界面において十分な接(密)着強度が得られていないのが実状である。
【0003】
下記特許文献1にはポリオレフィンに対して十分な接着強度を持つ接着剤として、塩素化ポリオレフィンが開示されている。塩素化ポリオレフィンは、トルエン等の芳香族溶媒以外の溶剤に対し溶解性が劣るが、ポリオレフィン系基材、及び金属基材への密着性に優れることから、接着剤に限らず様々な用途で使用されている。しかしながら、昨今の環境問題への関心の高まりから、含塩素化合物、及びトルエン等の芳香族溶剤の使用が回避される傾向にある。
【0004】
塩素を含まない樹脂組成物としては、不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂をはじめとする種々の酸変性ポリオレフィン樹脂からなる樹脂組成物が提案されている。例えば、ポリオレフィンに不飽和カルボン酸及び特定の(メタ)アクリレートをグラフト共重合させた酸変性ポリオレフィン樹脂も開示されている(例えば特許文献2)。
また、ポリオレフィン樹脂に(メタ)アクリレート単量体をグラフト重合させる方法が提案されている。例えば、エチルアクリレート、メチルメタクリレートで変性された変性ポリオレフィン樹脂が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平6−306227号公報
【特許文献2】特開2002−173514号公報
【特許文献3】特開平2−22316号公報
【0006】
しかしながら、特許文献2においては、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する樹脂組成物のポリオレフィン基材、及び金属基材への密着性に優れるも、トルエン等の芳香族溶剤以外の溶剤には溶解性が低いという問題があった。また、金属基材への十分な密着性を得るには、酸変性ポリオレフィン樹脂の不飽和カルボン酸含有率を高くする必要があり、使用環境によっては給水してしまい、密着性が低下してしまうという問題があった。
また、特許文献3においては、変性ポリオレフィン樹脂を、ポリオレフィン基材と金属基材の接着剤として使用する場合、吸水等の使用環境の影響を受けにくいものの、副生物である(メタ)アクリレート単独重合体のポリオレフィン樹脂への相溶性が十分でないために接着剤層中で相分離してしまい、塗膜強度が低いという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的はポリオレフィン系樹脂及び金属の両者に対する密着性が良好であり、溶剤への溶解性、及び耐水性に優れた変性ポリオレフィン樹脂及び該樹脂からなる接着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明はポリオレフィン樹脂(A)を、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル単量体とリン酸基含有ビニル系単量体(b)を含むビニル系単量体(B)でグラフト変性した変性ポリオレフィン樹脂にある。
また、本発明は、前記変性ポリオレフィン樹脂を含有する接着剤組成物にある。
さらに本発明は、前記変性ポリオレフィン樹脂を含有する接着剤組成物がポリオレフィン基材(C)と金属基材(D)を密着させるための接着剤組成物にある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
「ポリオレフィン樹脂(A)」
本発明におけるポリオレフィン樹脂(A)とは、オレフィン系単量体のラジカル重合、イオン重合等で得られるオレフィン系単独重合体又は共重合体;優位量のオレフィン系単量体と劣化量のビニル系単量体との共重合体;オレフィン系単量体とジエン系単量体との共重合体等を主成分とするものである。
【0010】
ポリオレフィン樹脂(A)の具体例としては、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超々低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリメチルペンテン、プロピレン−1−ブテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体、プロピレンと炭素数5〜12のα−オレフィンとからなる共重合体、エチレン−非共役ジエン共重合体、プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、ポリブテン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルトリメトキシシラン共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体及びその水素添加物等を挙げることができる。これらは、単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0011】
これらの中でも溶剤への溶解性を考慮した場合、ポリオレフィン樹脂(A)として低結晶性もしくは非晶性ポリオレフィンを用いることが好ましい。低結晶性もしくは非晶性ポリオレフィンの具体例としては、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−1−ブテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体及びその水素添加物が挙げられる。
また、ポリオレフィン樹脂(A)は、環境への影響を考慮し、塩素原子を含むポリオレフィン樹脂、すなわち塩素化されたポリオレフィンを含有しないことが好ましい。
【0012】
「ビニル系単量体(B)」
本発明におけるビニル系単量体(B)は、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル単量体とリン酸基含有ビニル系単量体(b)を含むことを特徴とするものである。
ここで、(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルを意味する。
リン酸基含有ビニル系単量体(b)とは、リン酸基を構造中に有したビニル系単量体のことであり、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル単量体と共重合できるものであれば特に限定なく使用できる。
リン酸基含有ビニル系単量体(b)としては、例えば、モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、モノ(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、モノ(メタ)アクリロイルオキシエトキシエチルアシッドホスフェート、モノ(メタ)アクリロイルオキシポリオキシエチレングリコールアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシオキシエチルブチルアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシエトキシエチルメチルアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシポリオキシエチレングリコールブチルアシッドホスフェート、ビニルアシッドホスフェート等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
また、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル単量体とリン酸基含有ビニル系単量体(b)の共重合性を向上させる等の目的で、ビニル系単量体(B)はその他のビニル系単量体を含んでいてもよい。
その他の単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘプチル(メタ)アクリル酸シクロオクチル、(メタ)アクリル酸3,3,5−トリメチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸シクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸t−アミル、(メタ)アクリル酸ジプロピルメチル、(メタ)アクリル酸トリプロピルメチル、(メタ)アクリル酸ジイソプロピルメチル、(メタ)アクリル酸トリイソプロピルメチル、(メタ)アクリル酸ジブチルメチル、(メタ)アクリル酸トリブチルメチル、(メタ)アクリル酸ジイソブチルメチル、(メタ)アクリル酸トリイソブチルメチル、(メタ)アクリル酸ジt−ブチルメチル、及び(メタ)アクリル酸トリt−ブチルメチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ノルマルブトキシエチル、(メタ)アクリル酸イソブトキシエチル、(メタ)アクリル酸tーブトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸ノニルフェノキシエチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシブチル、「ブレンマーPME−100、200又はAME−100、200」(日本油脂(株)製、商品名)、「ブレンマー50POEP−800B又は50AOEP−800B」(日本油脂(株)製、商品名)、「ブレンマー20ANEP−600」(日本油脂(株)製、商品名)等の(メタ)アクリル酸エステル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド等のマレイミド類;カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル等のビニルエステル類;ブタジエン、イソプレン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ペンタジエン等のジエン類;スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o,p−ジメチルスチレン等のモノもしくはポリアルキルスチレン等の芳香族ビニル化合物;メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ブトキシメタクリルアミド、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ブトキシアクリルアミド等の重合性アミド類、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート類、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等の不飽和有機シラン化合物等が挙げられる。
【0014】
これらの中でも、入手のし易さ、密着性の面から、(メタ)アクリル酸エステル類が好ましい。さらに、これらの中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、及び(メタ)アクリル酸がより好ましい。これら、その他の単量体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
「変性ポリオレフィン樹脂」
本発明における変性ポリオレフィン樹脂は、ポリオレフィン樹脂(A)を、ビニル系単量体(B)でグラフト変性したものである。
ここで、「グラフト変性」とは、変性対象樹脂(本発明におけるポリオレフィン樹脂(A))の存在下で、ビニル系単量体(B)をラジカル重合してグラフト共重合体を生成させることをいう。ポリオレフィン樹脂(A)をビニル系単量体(B)でグラフト変性して得られる変性ポリオレフィン樹脂には、通常、グラフト共重合体とともに、未変性のポリオレフィン樹脂(A)、及びビニル系単量体(B)の単独重合体又はランダム共重合体が含まれるが、本発明においては、発明の趣旨を損なわない限り、これらを含めて変性ポリオレフィン樹脂という。
【0016】
本発明の変性ポリオレフィン樹脂が、ポリオレフィン基材及び金属基材に良好な密着性を示し、かつ、良好な耐水性、溶剤溶解性を有するためには、変性ポリオレフィン樹脂はポリオレフィン樹脂(A)を、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル単量体とリン酸基含有ビニル系単量体(b)を含むビニル系単量体(B)でグラフト変性したものである必要がある。
グラフト変性は、通常、ポリオレフィン樹脂(A)とビニル系単量体(B)との質量比(A/B)が5/95〜95/5の範囲で行われる。ポリオレフィン樹脂(A)が少なすぎると、ポリオレフィン基材への密着性が低下する場合がある。また、ビニル系単量体(B)が少なすぎると、溶剤への溶解性、金属基材への密着性が低下する場合がある。好ましくは、質量比(A/B)=10/90〜90/10の範囲であり、さらに好ましくは15/85〜85/15の範囲である。
また、ビニル系単量体(B)は(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル単量体とリン酸基含有ビニル系単量体(b)を必須成分として含むものである。ビニル系単量体(B)中の(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル単量体の含有量は、変性ポリオレフィン中の副生物であるビニル系単量体(B)の単独重合体の相分離を抑制するためには、ビニル系単量体(B)100質量%中、5〜99.9質量%であることが好ましい。さらに好ましくは10〜99質量%である。また、ビニル系単量体(B)中のリン酸基含有ビニル系単量体(b)の含有量は、ビニル系単量体(B)100質量%中、0.1〜30質量%であることが好ましい。この範囲より少なすぎると金属基材との密着性が低下する場合があり、また、多すぎると耐水性が低下する場合がある。さらに好ましくは、1〜20質量%である。
【0017】
また、変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、強度、形態保持性の観点から10000〜300000が好ましく、20000〜200000がより好ましい。ここで、重量平均分子量は、クロロホルムを溶媒として用い、35℃の条件下でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(Waters製、GPC150−C、ポリメチルメタクリレート換算)を用いて測定される。
【0018】
「変性ポリオレフィン樹脂の製造」
変性ポリオレフィン樹脂は、例えば、ポリオレフィン樹脂(A)をキシレン等の芳香族炭化水素溶媒中に高温下で溶解させ、これにビニル系単量体(B)を加えてグラフト重合させる溶液法;ポリオレフィン樹脂(A)とビニル系単量体(B)とを過酸化物の存在下で、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機等を用いて溶融混練する混練法;ポリオレフィン樹脂(A)とビニル系単量体(B)との混合物に放射線を照射する放射線法;ポリオレフィン樹脂(A)にビニル系単量体(B)を含浸せしめた後、有機過酸化物でビニル系単量体(B)をラジカル重合させる含浸重合法等の公知の手段により製造することができる。
【0019】
ビニル系単量体(B)を、ポリオレフィン樹脂(A)の存在下、ラジカル重合する際には、ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、通常、有機化酸化物あるいはアゾ化合物が使用される。
有機過酸化物の具体例としては、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、o−メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス−3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、シクロヘキサノンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等が挙げられる。
他方、アゾ化合物の具体例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)等が挙げられる。
これらの中でも、ポリオレフィン樹脂(A)にグラフト点を発生させるために、有機過酸化物を使用するのが好ましい。これらラジカル重合開始剤は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
ラジカル重合開始剤は、ビニル系単量体(B)100質量部に対し、通常、0.001〜20質量部の範囲で使用される。ラジカル重合開始剤がこの範囲より少なすぎると重合反応が円滑に進まない場合があり、また、多すぎるとポリオレフィン樹脂(A)の分子開裂が生じやすくなる場合がある。ラジカル重合開始剤の使用量は、より好ましくは0.01〜10質量部であり、さらに好ましくは0.1〜5質量部である。
ビニル系単量体(B)を重合させる温度は、使用したラジカル重合開始剤が分解する範囲であれば特に制限はないが、通常50〜200℃の範囲である。
本発明においては、グラフト変性の際、必要に応じて連鎖移動剤を添加することができる。連鎖移動剤としては、通常ラジカル重合に用いられるものの中から選択して用いればよく、好ましくは、炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノールあるいはそれらの混合物等のメルカプタン系連鎖移動剤が用いられる。
【0021】
「接着剤組成物」
本発明の変性ポリオレフィン樹脂に溶剤等を加えて、変性ポリオレフィン樹脂組成物とすることができる。
本発明の接着剤組成物は、作業性を考慮すると溶液であることが好ましい。溶液中の変性ポリオレフィン樹脂含有量は、5〜70質量%の濃度範囲が好ましい。また、溶剤としては、トルエン、キシレン、「スワゾール#1000」(丸善石油化学(株)製、商品名)、「ソルベッツ#150」(エクソン化学(株)製、商品名)等のような芳香族系炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等のような脂環式炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンのようなケトン類;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、「DBE」(デュポン(株)製、商品名)等のようなエステル類;n−ブタノール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール等のようなアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール系溶剤;ヘプタン、ヘキサン、オクタン、ミネラルターペン、「アイソパーE」(エクソン化学(株)製、商品名)等のような脂肪族炭化水素類が挙げられる。中でも、作業性の点から芳香族系炭化水素類、脂環式炭化水素、脂肪族炭化水素が特に好ましい。
【0022】
本発明の接着剤組成物には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候安定剤、耐放射線剤、熱安定剤等の各種安定剤;カーボンブラック、フェライト等の導電性付与剤;無機充填剤、滑剤、可塑剤、有機過酸化物、中和剤;アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、繊維素樹脂等のアクリル系以外の樹脂;表面調整剤、架橋剤、硬化触媒等の補助的添加剤等を一般的な配合法で添加することができる。
【0023】
本発明の接着剤組成物は、通常の接着剤では密着強度が不足して接着困難なポリオレフィン基材(C)の接着剤として極めて効果的で有用である。
そのポリオレフィン基材(C)としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、環状オレフィン樹脂、エチレン系ランダム共重合体、エチレン系ブロック共重合体、プロピレン系ランダム共重合体、プロピレン系ブロック共重合体等が挙げられる。これらの中でも、ポリプロピレン、プロピレン系ランダム共重合体、プロピレン系ブロック共重合体の接着剤として有効である。
エチレン系ランダム共重合体、エチレン系ブロック共重合体は、例えば、エチレン以外のα−オレフィンから誘導される単量体単位、あるいはジエン化合物から誘導される単量体単位を含んでいてもよい。
【0024】
また、プロピレン系ランダム共重合体、プロピレン系ブロック共重合体は、例えば、プロピレン以外のα−オレフィンから誘導される単量体単位、あるいはジエン化合物から誘導される単量体単位を含む。そのような単量体単位の具体例としては、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン等のα−オレフィンから誘導される単量体単位;1,4−ヘキサジエン、1,6−オクタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン等の鎖状非共役ジエンから誘導される単量体単位;シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、5−ビニルノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、6−クロロメチル−5−イソプロペニル−2−ノルボルネン等の環状非共役ジエンから誘導される単量体単位;2,3−ジイソプロピリデン−5−ノルボルネン、2−エチリデン−3−イソプロピリデン−5−ノルボルネン、2−プロペニル−2,2−ノルボルナジエン等から誘導される単量体単位が挙げられる。このような単量体単位の含有量は、プロピレン系ランダム共重合体又はプロピレン系ブロック共重合体に対し、通常は1〜20質量%、好ましくは2〜15質量%である。
【0025】
ポリオレフィン樹脂(C)の基材の形態としては、シート、フィルム、その他種々の形状に成形された成形品等が使用される。
また、本発明の接着剤組成物は、金属基材(D)に対する接着剤としても有用である。金属基材(D)の素材としては、例えば、鉄、ブリキ、ステンレス鋼、チタン、銅、アルミニウム等が挙げられる。これらの表面には予め表面処理が施されていてもよい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。各記載中「部」及び「%」はすべて「質量部」及び「質量%」を示す。
(実施例1)
冷却管、温度計、滴下ロート及び撹拌機を備えたフラスコに、トルエン400部と、プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体(デグサ・ヒュルスジャパン製、商品名(以下同じ)VESTOPLAST792)70部を加え、内温85℃にてプロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体を溶解させた。次いで、メタクリル酸メチル18部とアクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル9部とリン酸メタクリレート(共栄化学(製)、商品名(以下同じ)ライトエステルP2M)3部及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.3部の混合物を20分間にわたって滴下した後、内温を85℃に6時間保持して重合反応させた。反応物を室温に冷却した後、大量のメタノール中に投入して精製し、変性プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体(A−1)を得た。このものの重量平均分子量は110,000であった。
【0027】
(実施例2)
実施例1で用いたものと同様のフラスコに、トルエン400部と、プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体(デグサ・ヒュルスジャパン製、VESTOPLAST792)45部とスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(旭化成製、商品名タフテックH1221)15部を加え、内温85℃にてそれぞれの共重合体を溶解させた。次いで、アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル37部とリン酸メタクリレート(共栄化学(製)、ライトエステルP2M)3部及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.4部の混合物を20分間にわたって滴下した後、内温を85℃に6時間保持して重合反応させた。反応物を、室温に冷却した後、大量のメタノール中に投入して精製し、変性プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体と変性スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体の混合物(A−2)を得た。これらの混合物の重量平均分子量は140,000であった。
【0028】
(実施例3)
メタクリル酸メチル18部とアクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル9部とリン酸メタクリレート(共栄化学(製)、ライトエステルP2M)3部とt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.3部の混合物をアクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル27部とリン酸アクリレート(日本化薬社製、商品名カヤマーPM21)3部とt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.3部の混合物に変更したほかは、実施例1と同様に操作して、変性プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体(A−3)を得た。重量平均分子量は117,000であった。
【0029】
(比較例1)
実施例1においてメタクリル酸メチル18部とアクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル9部とリン酸メタクリレート(共栄化学(製)、ライトエステルP2M)3部及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.3部の混合物を、メタクリル酸メチル27部とリン酸メタクリレート(共栄化学(製)、ライトエステルP2M)3部とt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.3部の混合物に変更したほかは、実施例1と同様に操作して、変性プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体(A−4)を得た。重量平均分子量は121,000であった。
【0030】
(比較例2)
実施例1においてメタクリル酸メチル18部とアクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル9部とリン酸メタクリレート(共栄化学(製)、ライトエステルP2M)3部及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.3部の混合物を、メタクリル酸メチル21部とアクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル9部とt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.3部の混合物に変更したほかは、実施例1と同様に操作して、変性プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体(A−5)を得た。重量平均分子量は123,000であった。
【0031】
(比較例3)
実施例1においてリン酸メタクリレート(共栄化学(製)、ライトエステルP2M)を、アクリル酸4−ヒドロキシブチルに変更したほかは、実施例1と同様に操作して、変性プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体(A−6)を得た。重量平均分子量は125,000であった。
【0032】
(評価項目及び評価方法)
「溶剤溶解性」
実施例1〜3、比較例1〜3で得られた変性ポリオレフィン樹脂(A−1)〜(A−3)、及び(A−4)〜(A−6)をトルエン、又は酢酸ブチル/シクロヘキサン(=30%/70%)の溶液にポリマー濃度10%となるように加え、50℃で24時間撹拌した。撹拌後の溶液を200メッシュのナイロン(保留粒子径77μm)ろ布にてろ過し、ナイロンろ布上に不溶残渣が回収されなかったものを○、回収されたものを×として評価した。
【0033】
「基材密着性」
実施例1〜3、比較例1〜3で得られた変性ポリオレフィン樹脂(A−1)〜(A−3)、及び(A−4)〜(A−6)をトルエンに10質量%となるように溶解し、接着剤組成物を得た。得られた接着剤組成物をポリプロピレン射出成形板(日本ポリケム(株)製、商品名ノバテックPP・TX1810A、3mm厚平板)、アルミニウム板、鉄板(それぞれ3mm厚、表面処理なし)上へ、それぞれ塗膜厚さ10μmとなるように流延塗工した後、室温にて15分、次いで80℃にて1時間乾燥して積層板を得た。基材上の塗膜をゴバン目(1mm間隔、100マス)にカットし、塗膜のセロハン粘着テープによる剥離テストを行い、付着率(基材に残ったマスの数)により密着性を評価した(JIS K 5400)。
【0034】
(評価結果)
実施例、比較例で得た変性ポリオレフィン樹脂の上記項目の評価結果を表1に合わせて示す。
【表1】

表1に示すように、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル単量体とリン酸基含有ビニル系単量体(b)を含むビニル系単量体(B)でグラフト変性した変性ポリオレフィン樹脂(A−1)〜(A−3)はいずれも良好な溶剤溶解性を示し、ポリオレフィン基材と金属基材の双方に対して、優れた密着性を呈する接着剤樹脂であった。
一方、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル単量体を含まない変性ポリオレフィン樹脂(A−4)は酢酸ブチルとシクロヘキサンの混合溶剤に対する溶解性が低く、ポリオレフィン基材(C)、金属基材(D)の双方に対する密着性が不十分であった。また、リン酸基含有ビニル系単量体(b)を含まない変性ポリオレフィン樹脂(A−5)又は(A−6)は、金属基材(D)に対する密着性が著しく不良であった。
【0035】
本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル単量体とリン酸基含有ビニル系単量体(b)を含むビニル系単量体(B)でグラフト変性したものであるので、含塩素化合物や酸変性ポリオレフィン樹脂を使用することなく、ポリオレフィン基材(C)と金属基材(D)の両者への密着性に優れ、また、溶剤に対し溶解性が良好である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の変性ポリオレフィン樹脂及びそれからの接着剤組成物は、化粧版、食品包装、薬剤包装等、特に金属板とポリオレフィンシート又はフィルムからなる用途で好ましく用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂(A)を、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル単量体とリン酸基含有ビニル系単量体(b)を含むビニル系単量体(B)でグラフト変性した変性ポリオレフィン樹脂。
【請求項2】
請求項1記載の変性ポリオレフィン樹脂を含有する接着剤組成物。
【請求項3】
接着させる基材がポリオレフィン基材(C)と金属基材(D)である請求項2記載の接着剤組成物。

【公開番号】特開2007−112881(P2007−112881A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−304683(P2005−304683)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】