説明

変速機のハウジングの構造

【課題】 簡単な構成で変速機のハウジングの振動及び騒音を抑制する変速機のハウジングの構造を提供する。
【解決手段】 本発明の変速機のハウジング4の構造は、入力される回転動力を所定の減速比で変換して出力する変速機9を内部に収納するハウジング41と、ハウジング41における異なる部位である第1〜3固定部11,21,31に予荷重を付加するレバー5と、を有する変速機のハウジング42の構造であって、レバー5は3つの固定部11,21,31でそれぞれ、ハウジング41と締結部材6の一部との間に位置し、3つの固定部11,21,31の少なくとも1つは、レバー5とハウジング41との間、及び、レバー5と締結部材6の一部61との間の少なくとも一方に、予荷重が加わる方向に対して振動を減衰する減衰部材7を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機のハウジングの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、車両にはエンジンやモータからの動力(回転動力)を車輪へと伝達する途中に変速機が搭載される。変速機は、入力された動力を車両の速度等に合わせて変速するものであり、変換するための構成はいくつか存在する。その1つに、歯車の組み合わせにより変速する構成の歯車機構がある。変速機は、ハウジングの内部に歯車機構を収納した状態で車両に搭載される。歯車機構の歯車は回転するため、振動が発生する。この振動が、ハウジングの固有振動数に一致することで共振が発生し、ハウジングが振動したり、騒音が生じることがある。ハウジングの振動や騒音を抑制するために、例えば、特許文献1に示されるような発明が開示されている。特許文献1では、振動量(振動レベル)の低い箇所と高い箇所とをプレートで繋げることで、振動量の高い箇所の振動を低減する。
【0003】
発生する振動数と固有振動数との関係にもよるが、一般的には振動量が少ない部位は剛性が高く、振動量の多い部位は剛性が低い。例えば、図4に示されるような変速機9の場合、ハウジング100の内部に収納され、2つの回転軸91、92がそれぞれ二箇所で回転可能に支承される。この回転軸91,92は、ハウジング100内でその位置がズレたりブレたりしないように、ハウジング100の構造で固定される。そのため、ハウジング100のAとBの箇所は、回転軸91,92の軸線方向に対して垂直方向に剛性が高い。一方、AとBとの間のC周辺は、同方向に対しての剛性が低い。
【0004】
ところで、特許文献1では、振動量の低い箇所と高い箇所とをプレートで繋ぐことで、振動量の高い箇所の振動を減衰するとしている。しかし、特許文献1における発明では、歯車機構に係る振動と共振しない固有振動数とすることで振動や騒音を低減しており、振動のエネルギーそのものは低減していない。そのため、特許文献1における発明では、充分な振動抑制や騒音抑制を行えないと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−2800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、簡単な構成で変速機のハウジングの振動及び騒音を抑制する変速機のハウジングの構造を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための請求項1に係る発明の構成上の特徴は、入力される回転動力を所定の減速比で変換して出力する変速機を内部に収納するハウジングと、
前記ハウジングにおける異なる部位である第1〜3固定部に予荷重を付加するレバーと、
を有する変速機のハウジングの構造であって、
前記レバーは、前記3つの固定部でそれぞれ、前記ハウジングと締結部材の一部との間に位置し、
前記3つの固定部の少なくとも1つは、前記レバーと前記ハウジングとの間、及び、前記レバーと前記締結部材の一部との間の少なくとも一方に、前記予荷重が加わる方向に対して振動を減衰する減衰部材を有することである。
【0008】
また請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記3つの固定部のうちの1つは前記ハウジングにおいて剛性の高い位置であり、
残りの前記固定部が前記固定部より剛性の低い位置であることである。
【0009】
また請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1又は2において、前記3つの固定部のうちの1つが前記ハウジングにおいて振動レベルの低い位置であり、
残りの前記固定部は前記固定部より振動レベルの高い位置であることである。
【0010】
ここで、振動レベルとは、ハウジングの所定部位について測定した加速度であり、加速度が大きいほどレベルが高くなる。この加速度と人間が騒音と感じる音の大きさとに相関があることが分かっている。よって、振動レベルが高いと人間は騒音が大きいと感じる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明においては、レバーが3箇所、変速機のハウジングの第1〜3固定部に取り付けられ、ハウジングに予荷重を加えることで、ハウジングの剛性を高め、振動を低減する。あるいは、発生する振動に係る固有振動数を人間が知覚しにくい振動数に変更することで、騒音を抑制する。そして、3つの固定部のうちの少なくとも1つの固定部では、レバーとハウジングの間がレバーと締結部材の一部との間に、予荷重が加わる方向に対して振動を減衰する減衰部材を有することで、ハウジングに発生した振動を減衰部材で吸収する。また、レバーが3つの異なる位置で固定されるため、異なる部位で発生する振動をレバーを介して減衰部材に伝達することができる。減衰部材では、ハウジングの剛性を高めるのとは異なり、振動のエネルギーそのものを減衰する。従って、請求項1に係る発明によれば、レバーをハウジングの3つの固定部に固定し、少なくとも1つの固定部に減衰部材を配置するという簡単な構成で、振動及び騒音を抑制することができる。
【0012】
請求項2に係る発明においては、3つの固定部のうち1つが剛性の高い位置で、その他はそれよりも剛性の低い位置とするため、剛性の低い位置の振動を、レバーを介して剛性の高い位置へと伝達して、ハウジングの振動及び騒音を抑制することができる。
【0013】
請求項3に係る発明においては、3つの固定部のうち1つが振動レベルの低い位置で、その他はそれよりも振動レベルの高い位置とするため、振動レベルの高い位置の振動を、レバーを介して振動レベルの低い位置へと伝達して、ハウジングの振動及び騒音を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態1の変速機のハウジングの構造の一部断面である。
【図2】本実施形態1の変速機のハウジングの主要部の拡大図である。
【図3】本実施形態2の変速機のハウジングの主要部の拡大図である。
【図4】従来技術の変速機のハウジングの一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の代表的な実施形態を図1〜図3を参照して説明する。本発明の変速機のハウジングの構造に係る変速機は、車両に搭載される。変速機としては、エンジンやモータなどの動力源から入力される回転動力を所定の減速比で変換して出力することができる公知の構成のものを用いることができる。
【0016】
(実施形態1)
本実施形態1の変速機のハウジングの構造は、図1に示されるように、ハウジング41と、第1固定部11と、第2固定部21と、第3固定部31と、レバー5とを有する。
【0017】
ハウジング41は、内部に入力軸91と出力軸92とが並行に配置される変速機9を収納する。本ハウジング41には、変速機9以外に、変速機9と動力源との間に位置するクラッチ(図示略)が収納される構成である。図1において、クラッチは入力軸91の右側に位置するが図示が省略されており、ディファレンシャル装置93は、変速機9とクラッチとの間の下側に図示されている。ディファレンシャル装置93は、変速機9によって変換された回転動力を左右の車輪(図示略)に伝達できる公知の構成のものを用いることができる。なお、図1では、ハウジング41以外の断面に係る図示は断面を示すハッチングが省略されている。変速機9及びディファレンシャル装置93を囲っている、ハッチングされているのがハウジング41である。
【0018】
ハウジング41は、入力軸91及び出力軸92のそれぞれの2箇所(端部や端部に近い箇所)を支承する構造である。ハウジング41は、クラッチ側に位置する入力軸91及び出力軸92の端部を、内壁からハウジング41内部に位置する入力軸91及び出力軸92に向かって延長された形状の支持部411を有する。そして、ハウジングは、ハウジング41の外部に、入力軸91(出力軸92)とほぼ同じ軸線方向に略一列状に配置された第1固定部11と第2固定部21と第3固定部31とが突出して形成されている。第1固定部11は、支持部411の近くに位置する。第2固定部21と第3固定部31とは、第1固定部11より離れており、第1固定部11と第3固定部31と間に第2固定部21が位置する。第2固定部21は、第3固定部31側に近い位置である。また、第1固定部11は、第2固定部21及び第3固定部31よりも剛性が高いか振動レベルが低い位置が望ましい。本実施形態1のハウジング41において、第1固定部11が位置する場所は入力軸91や出力軸92を支承するための構造の支持部411に近く、入力軸91や出力軸92をしっかりと固定することができるようになっており、剛性が高い。剛性が高いことで、振動レベルが低いこともある。
【0019】
レバー5は、一端51が第1固定部11に、他端52が第3固定部3に固定される板状の部材である。一端51と他端52との間で、他端52に近い箇所が第2固定部21に固定されている。そして、一端51は、図2に示されるように、ハウジング41の外部から内部に向かって挿入されるボルト6によって、ハウジング41の外部に固定される。そして、ボルト6が挿入される方向において、一端51とボルト6の頭部61(座金62)との間、及び、一端51とハウジング41との間に減衰部材7が配置されている。減衰部材7は、ゴム材、樹脂材など金属材よりも内部損失の大きい素材が望ましい。第2固定部21及び第3固定部31では、第1固定部11を強く締結した際に発生する予荷重の方向に対して異なる方向によって部材で、予荷重の負荷で外れない程度にレバー5を固定している。
【0020】
本実施形態1の変速機のハウジング41では、ボルト6の締結を強めて行くと、第1固定部11部分に締結進行方向(矢印Y1方向)に荷重が付加される。そして、第3固定部31ではハウジング41外壁から外部へと向かう方向(矢印Y2方向)に荷重が加わる。第2固定部21では、ハウジング41の内部へと向かう方向(矢印Y3方向)に荷重が加わる。つまり、第1固定部11のボルト6の締結力を強くして、第2固定部21及び第3固定部31へと予荷重を付加する。
【0021】
本実施形態1の変速機のハウジング41の構造によれば、まずハウジング41の第1〜第3固定部11〜31にレバー5を取り付けることで、第2固定部21及び第3固定部31に予荷重が付加され、第2固定部21及び第3固定部31付近の剛性が向上する。剛性が高くなることで、振動しにくくなり、騒音が低減される。あるいは、ボルト6の締結力を調節して、発生する振動を人間が知覚しにくい振動数に変更することができる。そして、レバー5を介して、第2固定部21及び第3固定部31付近の振動を剛性の高い第1固定部11へと伝達することで、振動のエネルギーを減衰する。
【0022】
また、レバー5とハウジング41及びレバー5とボルト6の頭部61との間に、第1固定部11に予荷重が加わる方向に対して減衰部材7を配置することで、レバー5によって第2固定部21及び第3固定部31の振動が第1固定部11へ伝達され、減衰できる。
【0023】
その他に、第1〜3固定部11〜31にレバー5を配置することで、第1固定部11から第2固定部21までの長さと第1固定部11から第3固定部31までの長さによるレバー比が大きくとれる。これは、剛性の低い又は振動レベルの高い第2固定部21及び第3固定部31に直接、振動のエネルギーの減衰可能な構成を配置するよりも安価であり、効果も高い。
【0024】
(実施形態2)
本実施形態2の変速機のハウジング42の構造は、実施形態1の変速機のハウジング41の構造とほぼ同じ構成と同様の効果を有する。以下では、異なる構成について主に説明をする。
【0025】
本実施形態2の変速機のハウジング42は、外部へと突出した形状で且つ先端が第1固定部11側に屈曲してハウジング42の外壁と略並行となる屈曲部321を備える第2固定部22と、外部へと突出した形状の第3固定部32とを有する。レバー8は、一端81がハウジング42の第1固定部11にボルト6によって固定されており、他端82が第3固定部32の屈曲部321に係合している。そして、一端81と他端82との間で、他端82に近い箇所が第2固定部22に当接している。
【0026】
本実施形態2の変速機のハウジング42では、ボルト6の締結を強めて行くと、第1固定部11部分に締結進行方向(Y1方向)に荷重が付加される。そして、第3固定部32では屈曲部321からハウジング42外部へと向かう方向(Y2方向)に荷重が加わる。第2固定部22では、ハウジング42の内部へと向かう方向(Y3方向)に荷重が加わる。つまり、第1固定部11のボルト6の締結力を強くして、第2固定部22及び第3固定部32へと予荷重を付加する。第3固定部32は、第3固定部32に発生する荷重に対してレバー8の他端82が係合するように屈曲部321を備えているため、ボルト6のように固定支持可能な部材で固定されていなくても他端82が係合できる。また、一端81と他端82とが固定又は係合されているため、第2固定部22はレバー8を特に部材を用いて固定支持する構成ではなく、第2固定部22にレバー8を介して予荷重が加えられる構成であればよい。レバー8を第2固定部22に対して突出した形状とすることで、第2固定部22としては、特に突出した形状としないことも考えられる。
【0027】
本実施形態2の変速機のハウジング42の構造によれば、第2固定部22、第3固定部32の形状及びレバー7の形状が簡単でありながらも実施形態1に記載の同様の効果を有する。
【0028】
(その他の実施形態)
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、実施形態1における第2固定部21及び第3固定部31でのレバー5の固定方法としては、予荷重を加える方向に対して固定することもできる。第2実施形態2にも示されるように、予荷重が負荷されることで発生する力による方向に対して固定が外れない構成であればよい。また、実施形態1及び2では、第1固定部11にのみ、減衰部材7を配置しているが、第2固定部21,22及び第3固定部31,32にも予荷重の方向に対して、振動を減衰する方向に減衰部材7を配置することができる。
【符号の説明】
【0029】
11:第1固定部、
21,22:第2固定部、
31,32:第3固定部、
41,42:ハウジング、411:支持部、
5,8:レバー、 51,81:一端、 52,82:他端、
6:ボルト、 61:頭部、 62:座金、
7:減衰部材、
9:変速機、 91:入力軸、 92:出力軸、 93:ディファレンシャル装置、
100:ハウジング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される回転動力を所定の減速比で変換して出力する変速機を内部に収納するハウジングと、
前記ハウジングにおける異なる部位である第1〜3固定部に予荷重を付加するレバーと、
を有する変速機のハウジングの構造であって、
前記レバーは、前記3つの固定部でそれぞれ、前記ハウジングと締結部材の一部との間に位置し、
前記3つの固定部の少なくとも1つは、前記レバーと前記ハウジングとの間、及び、前記レバーと前記締結部材の一部との間の少なくとも一方に、前記予荷重が加わる方向に対して振動を減衰する減衰部材を有することを特徴とする変速機のハウジングの構造。
【請求項2】
前記3つの固定部のうちの1つは前記ハウジングにおいて剛性の高い位置であり、
残りの前記固定部は前記固定部より剛性の低い位置である請求項1に記載の変速機のハウジングの構造。
【請求項3】
前記3つの固定部のうちの1つは前記ハウジングにおいて振動レベルの低い位置であり、
残りの前記固定部は前記固定部より振動レベルの高い位置である請求項1又は2に記載の変速機のハウジングの構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−83325(P2013−83325A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224491(P2011−224491)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】