説明

外科手術用開創器具のバルブキャップ

【課題】体腔内の気密性を維持しつつ、処置具の操作性を向上させた開創器のバルブキャップを提供する。
【解決手段】内側固定部材3と、外側固定部材5と、拡張部材4とを備える開創器2に装着されるバルブキャップ1であって、第1のシート部材10a,10b及び第2のシート部材11からなる複合シート部材12a,12bを複数積層してなる天蓋部材8と、天蓋部材8を外側固定部材5に気密的に装着する装着部材9とを備え、複合シート部材12a,12bは、1対の第1のシート部材10a,10b及び第2のシート部材11を貫通するスリット部13,14を備え、隣接する複合シート部材のスリット部13,14は、互いに交差しており、第1のシート部材10a,10bは、第2のシート部材11より高い滑性を有し、第2のシート部材11は、処置具未挿入時には、スリット部13が気密的に密着し、処置具挿入時には、処置具に対して気密的に密着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡下外科手術や比較的小規模な開腹手術の際に体壁に形成される開創部を拡張し、維持するために用いられる開創器に装着されるバルブキャップに関する。
【背景技術】
【0002】
前記開創器は、用手補助による内視鏡下外科手術において体表面上に設けられる腹腔内へのアクセス孔や、比較的小規模な開腹手術において形成される切開孔の開口状態の維持及び開創面の保護に用いられる。また、前記開創器により維持されている開口部から、処置具が体腔内に導入され、各種処置が行われる。
【0003】
内視鏡下外科手術及び開腹手術は、施術を円滑に行うため、安定した良好な手術視野の確保が必要となる。手術視野の確保のためには、例えば、気腹法が広く用いられている。気腹法は、体腔内に二酸化炭素ガスを注入して陽圧にすることにより体腔を膨らませる方法である。
【0004】
ところが、前記開創器を装着すると、形成された開口部から二酸化炭素ガスが抜け出てしまい、体腔を膨らませることができないという問題がある。そのため、前記開創器により形成された開口部から処置具を導入可能にしつつ、腹腔の気密性を保つキャップが種々開発されている。
【0005】
このようなキャップとして、従来、ゲルパッドと、キャップリングとからなるゲルキャップが提案されている(例えば、特許文献1参照)。ゲルパッドは、伸び率が1000%以上であり、かつデュロメータA(ショアA)により表される硬度が、A 5以下であるエラストマーにより構成され、所定の位置に処置具等を体腔内に導入するためのスリット部が設けられている。キャップリングは、ゲルパッドの外周に設けられ、開創器に装着される。
【0006】
前記ゲルキャップによれば、処置具がゲルパッドのスリット部に挿入されていない状態においては、ゲルパッドのスリット部の対向するスリット形成面が互いに密着しているため、体腔内の気密性が維持される。また、処置具がゲルパッドのスリット部に挿入されている状態においては、ゲルパッドのスリット部の対向するスリット形成面が処置具に密着するため、体腔内の機密性が維持される。従って、処置具が挿入されているか否かに関わらず、体腔内の機密性を維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−512076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のゲルキャップは、ゲルパッドの伸び率が1000%以上であり、かつデュロメータA(ショアA)により表される硬度が、A 5以下である非常に柔らかいエラストマーからなる。そのため、ゲルパッドの厚みを小さくすると、十分な強度を得ることができず、その厚みを比較的大きくする必要が有る。その結果、処置具の挿抜において高い摩擦抵抗が発生し、処置具の操作性が悪くなるという問題点がある。
【0009】
本発明の目的は、体腔内の気密性を維持しつつ、処置具の操作性を向上させた開創器のバルブキャップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、体腔内側に配置されるリング状の内側固定部材と、体腔外側に配置されるリング状の外側固定部材と、前記内側固定部材と前記外側固定部材とを接続し、体壁に形成された開創部を拡張する筒状シート部材とを備える開創器に装着されるバルブキャップであって、可撓性を有する1対の第1のシート部材及び前記1対の第1のシート部材の間に介在する弾性を有する第2のシート部材からなる複合シート部材を複数積層してなる円形の天蓋部材と、前記天蓋部材を前記外側固定部材に気密的に装着するリング状の装着部材とを備え、前記複合シート部材は、それぞれ前記1対の第1のシート部材及び前記第2のシート部材を貫通する、処置具を体腔内に導入するためのスリット部を備え、隣接する前記複合シート部材のスリット部は、互いに交差しており、前記第1のシート部材は、前記第2のシート部材より高い滑性を有し、前記第2のシート部材は、処置具未挿入時には、前記スリット部の対向するスリット形成面が互いに気密的に密着し、処置具挿入時には、処置具に対して気密的に密着することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、第2のシート部材は、1対の第1のシート部材の間に介在しているため、処置具を挿抜する際に処置具と接触する面は、大部分が第1のシート部材となる。第1のシート部材は、第2のシート部材より高い滑性を有しているため、処置具挿抜の際の摩擦抵抗を低減することができる。
【0012】
また、本発明によれば、第2のシート部材は、処置具未挿入時には、スリット部の対向するスリット形成面が互いに気密的に密着している。さらに、処置具を挿入時には、隣接する複合シート部材のスリット部材が、互いに交差しているため、処置具と第2のシート部材との間に形成される間隙の位置が、隣接する複合シート部材とは異なる位置に形成される。即ち、隣接する複合シート部材同士が協働することにより、体腔内外を連続する間隙をなくすことができる。従って、処置具を挿入しているか否かに関わらず、体腔内の気密性を維持することができる。
【0013】
また、第1のシート部材は、第2のシート部材より表面硬度が高いものを用いることが好ましい。この組み合わせによれば、第1のシート部材の局所変形を抑制し器具の挿抜抵抗が低下するため、処置具等を挿入した際の操作性を向上させることができる。
【0014】
また、隣接する複合シート部材のスリット部を、互いに直行させることにより、より確実に気密性を維持することができる。
【0015】
また、処置具挿入時における気密性を得るために、複数の弾性を有するシート部材を相補的に用いているため、単一のシート部材により気密性を維持する場合に比較して、材質自体の密着性能に依存することを軽減することができる。そのため、第2のシート部材の厚みを小さくすることができ、処置具の操作性を向上させることができる
また、天蓋部材として、例えば、複合シート部材を2枚積層したものを用いることができる。
【0016】
また、スリット部は、天蓋部材に複数組設けることができる。
【0017】
また、第1のシート部材として、例えば、ポリウレタンを用いることができる。
【0018】
また、第2のシート部材として、ゲル材又はシリコーンゴムを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態のバルブキャップの装着時を説明するための断面斜視図。
【図2】本発明の実施形態のバルブキャップを装着する開創器の構成を説明するための斜視図。
【図3】(a)本発明の実施形態のバルブキャップの構成を説明するための断面図、(b)本発明の実施形態のバルブキャップの構成を説明するための平面図。
【図4】(a)本発明の実施形態のバルブキャップの処置具挿入状態を説明するための平面図、(b)本発明の実施形態のバルブキャップの処置具挿入状態を説明するための断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示すように、本実施形態のバルブキャップ1は、開創器2に装着した状態で用いられ、開創器2により形成されている開口部の気密性を維持するものである。
【0021】
図1及び図2に示すように、開創器2は、内側固定リング3と、筒状シート部材4と、外側固定リング5とからなる。
【0022】
内側固定リング3は、例えば、シリコーンゴムからなり、断面略円形形状である。内側固定リング3は、筒状シート部材4の一端が全周に亘って固定されており、体腔内に配置される。
【0023】
筒状シート部材4は、例えば、ポリウレタンからなる弾性を有する薄膜により形成されている。筒状シート部材4は、内側固定リング3に固定されていない側の開口端の開口面積が内側固定リング3側端部の開口面積よりも大きい略漏斗状形状である。
【0024】
外側固定リング5は、体腔外に配置される内リング6及び外リング7からなる。内リング6は、例えば、シリコーンゴムからなる断面略長方形形状である。外リング7は、例えば、断面略L字状形状である。外リング7は、内側の内径が内リング6の内径と略同径であり、外側の内径が内リング6の外径と略同径である。内リング6と外リング7との間に筒状シート部材4が介在する状態で、内リング6の外側に外リング7を嵌合することにより、筒状シート部材4を固定し、内側固定リング3と外側固定リング5との間隔を規定することができる。
【0025】
図3(a)に示すように、バルブキャップ1は、天蓋部材8と、天蓋部材8を外側固定リング5に装着する装着部材9とからなる。天蓋部材8は、1対の第1のシート部材10a,10b及び第2のシート部材11からなる複合シート部材12a,12bが上下に2枚積層されて形成される。
【0026】
1対の第1のシート部材10a,10bは、外側固定リング5の外径と略同径の円形形状である。第1のシート部材10a,10bとしては、例えば、ポリウレタン、又はPVCシートを用いることができる。
【0027】
第2のシート部材11は、第1のシート部材10a,10bより若干小径であり、かつ、外側固定リング5の内径より大径の円形形状である。第2のシート部材11としては、例えば、ゲル材又はシリコーンゴムからなるもの用いることができる。前記ゲル材としては、例えば、ポリウレタン、各種エラストマー等を挙げることができる。
【0028】
複合シート部材12a,12bは、1対の第1のシート部材10a,10bの間に第2のシート部材11を挟持した状態で、1対の第1のシート部材10a,10b同士の周縁部が接着されることにより形成される。
【0029】
天蓋部材8を構成する2枚の複合シート部材12a,12bは、それぞれ第1のシート部材10a,10b及び第2のシート部材11を貫通する直線状のスリット部13,14を、例えば、3個所備えている。各スリット部13,14は、互いに略等距離に離間した位置に設けられている。
【0030】
下側の複合シート部材12bのスリット部14は、上側の複合シート部材12aのスリット部13に直交して設けられている。
【0031】
図3(a),(b)に示すように、装着部材9は、弾性を有する薄膜からなる2枚のリング状の第3のシート部材15a,15bの外周縁部16同士を接着することにより形成される。装着部材9は、上側の第3のシート部材15aの内面側の内周縁部17と、天蓋部材8の上面の外周縁部18とが接着されている。第3のシート部材15a,15bは、内径が内リング6の内径と略同径であり、外径が外リング7の外径より大きく形成されている。装着部材9としては、弾性に富むシート状材料を用いることができる。前記弾性に富むシート状材料としては、例えば、天然ゴム、ポリウレタン等を挙げることができる。
【0032】
次に、本実施形態のバルブキャップ1及びそれを用いるための開創器2の使用方法について説明する。
【0033】
先ず、開創器2を装着する位置として、例えば、腹部の皮膚及び腹膜を切開し、図示しない切開創を形成する。次に、前記切開創から、筒状シート部材4が装着された内側固定リング3をたわめつつ挿入し、腹腔内において展開する。このとき、筒状シート部材4の開口端は、腹腔外に位置する。
【0034】
次に、内リング6の内側に、前記切開創より露出している筒状シート部材4を通し、内リング6を体表面に配置する。そして、内リング6の内側に通した筒状シート部材4を径方向外側に開きつつ、筒状シート部材4を内リング6との間に狭持するように、外リング7を内リング6に軽く嵌合する。
【0035】
次に、内リング6と外リング7との嵌合を部分的に解除しつつ、対応する箇所の筒状シート部材4を内側固定リング3から離間する方向に引っ張ることにより、前記切開創を拡張するように圧力をかけ、その後、再度外リング7を内リング6に嵌合させる。このような操作を切開創の全周にわたり繰り返すことによって、所望の大きさの直径を有する開口部19を形成する。その後、外リング7と内リング6とを完全に嵌合し、開口部19を固定する。
【0036】
次に、装着部材9の下側の第3のシート部材15bを適度に引き延ばしつつ、内リング6及び外リング7の外側を被覆させ、第3のシート部材15bの弾力により、外リング7の上に天蓋部材8を固定する。
【0037】
このようにして開創器2に装着されたバルブキャップ1は、処置具未挿入時には、スリット部13が自身の弾力により、スリット形成面が互いに気密的に密着している。また、施術に際して、腹腔内に処置具を挿入する必要が生じると、図4(a),(b)に示すように、スリット部13,14から腹腔内に処置具20が挿入される。
【0038】
スリット部13,14に処置具20を挿入すると、処置具20に押され、スリット部13,14が腹腔内側に向かって陥入する。すると、スリット部13,14のスリット形成面は互いに離間して変形する。その結果、第1のシート部材10a,10aのみが処置具20と接触し、第2のシート部材11,11は、処置具20と非接触となるか、又はごくわずかな部分のみが接触する。第1のシート部材10aは、第2のシート部材11より高い滑性を有しているため、処置具20の挿入を容易に行うことができる。
【0039】
処置具20の挿入が完了すると、スリット部13,14は、第2のシート部材11の弾性により前記陥入状態から脱し、第2のシート部材11が処置具20と接触し、密着するようになる。このとき、処置具20と、スリット部13又はスリット部14とは、処置具のスリット方向両側において、間隙が形成されている。しかし、スリット部13とスリット部14とは、互いに直行する方向にスリット部が形成されているため、処置具20とスリット部13とで形成される間隙と、処置具20とスリット部14とで形成される間隙とは不連続となる。従って、バルブキャップ1は、処置具挿入時においても腹腔内の気密性を維持することができる。
【0040】
処置具20をスリット部13,14から抜出する際には、第1のシート部材10aに代えて、第1のシート部材10bのみが処置具20と接触することを除き、処置具20挿入時と同様に行われる。第1のシート部材10bは、第2のシート部材11より高い滑性を有しているため、処置具20の抜出を容易に行うことができる。
【0041】
処置具20が完全に抜出されると、第1のシート部材10a,10b及び第2のシート部材11は、その弾性により、スリット形成面が互いに密着する状態となり、腹腔内の気密性を維持する。
【0042】
本実施形態のバルブキャップ1では、隣接する複合シート部材のスリット部が、互いに直交するように設けたが、これに限るものではなく、処置具挿入時に体腔内の気密性を維持することができる範囲で自由に設定することができる。
【0043】
また、本実施形態のバルブキャップ1では、複合シート部材2枚により天蓋部材を構成したが、3枚以上の複合シート部材を用いてもよい。
【0044】
また、本実施形態のバルブキャップ1では、天蓋部材8にスリット部を3組設けたが、これに限るものではなく、スリット部が1組以上であればよい。
【符号の説明】
【0045】
1…バルブキャップ、 2…開創器、 3…内側固定部材、 4…拡張部材、 5…外側固定部材、 8…天蓋部材、 9…装着部材、 10a,10b…第1のシート部材、 11…第2のシート部材、 12a,12b…複合シート部材、 13,14…スリット部。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
体腔内側に配置されるリング状の内側固定部材と、体腔外側に配置されるリング状の外側固定部材と、前記内側固定部材と前記外側固定部材とを接続し、体壁に形成された開創部を拡張する筒状シート部材とを備える開創器に装着されるバルブキャップであって、
可撓性を有する1対の第1のシート部材及び前記1対の第1のシート部材の間に介在する弾性を有する第2のシート部材からなる複合シート部材を複数積層してなる円形の天蓋部材と、
前記天蓋部材を前記外側固定部材に気密的に装着するリング状の装着部材とを備え、
前記複合シート部材は、それぞれ前記1対の第1のシート部材及び前記第2のシート部材を貫通する、処置具を体腔内に導入するためのスリット部を備え、
隣接する前記複合シート部材のスリット部は、互いに交差しており、
前記第1のシート部材は、前記第2のシート部材より高い滑性を有し、
前記第2のシート部材は、処置具未挿入時には、前記スリット部の対向するスリット形成面が互いに気密的に密着し、
処置具挿入時には、処置具に対して気密的に密着することを特徴とするバルブキャップ。
【請求項2】
前記第1のシート部材の表面硬度が、前記第2のシート部材の表面硬度以上の値であることを特徴とする請求項1記載のバルブキャップ
【請求項3】
隣接する前記複合シート部材のスリット部は、互いに直交することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のバルブキャップ。
【請求項4】
前記天蓋部材は、前記複合シート部材を2枚積層してなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のバルブキャップ。
【請求項5】
前記スリット部は、前記天蓋部材に複数組設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のバルブキャップ。
【請求項6】
前記第1のシート部材は、ポリウレタンからなることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のバルブキャップ。
【請求項7】
前記第2のシート部材は、ゲル材又はシリコーンゴムからなることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載のバルブキャップ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−245017(P2011−245017A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120822(P2010−120822)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(510146322)
【出願人】(390029676)株式会社トップ (106)
【Fターム(参考)】