説明

外科用セメント重合用装置及び方法

外科用セメントの重合を観測する装置であって、外科用セメントを保持する容器、外科用セメント重合に影響を与える環境因子、又は重合のレベルを示す外科用セメントの性質のうち少なくとも1つを検出する検知手段であって、少なくとも1つの環境因子又は性質に応じて出力を行うように構成された検知手段、前記検知手段の前記出力に応じて外科用セメントの状態をユーザーに知らせるシグナル手段、を備えている装置。好適には、少なくとも1つの環境因子又は外科用セメントの性質は、環境温度、環境湿度、外科用セメントの温度、外科用セメントの粘度、又は外科用セメントを伝わる音速である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科用セメント、特に骨セメントの重合を観測する装置及び方法に関する。特に、混合中及び/又は混合後に外科用セメント重合を観測する装置及び方法に関するが、これに限定されない。
【背景技術】
【0002】
英国での第一次膝関節置換手術は2000年の32942回から、2010年には53712回に増加すると考えられる。また、英国での股関節置換手術は2000年の38425回から、2010年には46772回に増加すると予想される。毎年、さらに10000個の股関節及び6000個の膝関節の交換が行われるであろう。交換障害の直接の原因を特定することは難しいが、スウェーデン国立股関節形成術レジストリ2000によると、交換の76%は無菌弛緩(感染症を発生しない弛緩)が原因である。更なる研究では、無菌弛緩のほとんどはセメント被膜の失敗によることが示されている。
【0003】
股関節及び膝関節の交換手術は英国の公共医療サービスにとって莫大な出費となっており、本来なら第一次手術を行うのに使用できる財源と専門家の人的資源とを無駄遣いすることになっている。その出費は直接的な費用と、人的費用とに分けることができる。
【0004】
セメントの混合不足に関連した直接費用には、交換手術、術前の準備、病院及び地域社会での術後の看病、貴重な病床の使用、血液資源への負担、及び長くなる予約リストが含まれる。
【0005】
不適切なセメント混合に関連した人的費用には、追加の処置からくるストレス、死亡率の増加、骨除去の増加、及び不快感の付加がある。
【0006】
固定化されたインプラントは必然的に、埋め込みのされた当日が最も良好な状態にある。しかしながらインプラントの耐用年数は最長にすることが重要である。したがって、外科医は最適なインプラントを選択し、正確な骨切除を行い、最良のセメントを選択し、そのセメントが正しく使用されるようにしなければならない。
【0007】
骨セメントは通常アクリル系の材料であるが、基本的に、骨とインプラントのあいだに位置するグラウト材である。骨セメントはこの新しい関節を通じての荷重の伝達を可能にする連結部である。
【0008】
骨セメントがこの仕事を適切にこなすことができるには、一定の基準を満たす必要がある。
−セメントと骨セメントとが接触する部分での良好なマイクロ連動。
−セメントとインプラントとの間の良好な接触面。
−セメントは機械的に信頼でき、かつ、この連結部を通過して伝達される荷重の大きさに持ちこたえることができる必要がある。
【0009】
良好なセメントミックスの目的は、インプラントの耐用年数を通じて荷重伝達の役割をうまく果たすのに最良の機械的性質を持つ骨セメントを製造することである。
【0010】
骨セメントの最も一般的な種類はポリメチルメタクリレートセメント(PMMA)であり、これらのほぼ全ての主成分は粉末重合体と液体モノマーであり、これらをおよそ2:1の割合で混ぜ合わせてセメントとする。固体の骨セメントの形成を開始するために、セメントミックスには2種類の開始剤が含まれる。
・粉末中の過酸化ベンゾイル
・液体中のN,N−ジメチル−p−トルイジン
混ぜ合わせると、過酸化ベンゾイルがフリーラジカルを放出することになり、そのフリーラジカルが制御重合(硬化)反応を開始する。重合反応は、よく報告されているところでは80〜120℃の範囲にピーク温度を持つ発熱反応である。
【0011】
表1では、アクリル系骨セメントに関する4つの重合の段階、周期、又は局面を示している。
【0012】
【表1】

ユーザー(通常外科医とそのアシスタント)にとって、これらの段階がそれぞれいつ始まり、いつ終わるのかを承知しておくことは重要である。通常、手術室で、それぞれの段階に必要な時間を決定するのは概算で行われる。例えば、外科医は通常、待機期及び作業期それぞれの終了を決定するためにセメントの正確な濃度又は温度を推測する。これは明らかに不十分な方法であり、結果として、セメントの質に大きくばらつきが出ることになる。
【0013】
すべての骨セメントに関して、温度の上昇に伴いセメント重合の全ての局面は短くなる。よくあることだが手術室の温度がコントロールされていない場合には、暑い日にセメントの作業時間が減少することは常に問題となり得る。また、手術室の湿度もアクリル系骨セメントの重合反応に影響する可能性が高い。保存温度、すなわち粉末及び液体成分の初期温度もまた、混合時の温度に影響を与える。一般的なアクリル系骨セメントの重合期に対する環境温度の影響を、添付の図1に示す。
【0014】
良好な混合技術の最終的な目的は、セメントミックスの粉末及び液体成分を十分に混ぜ合わせて、最終的な混合物の気孔率を低減し、その強度、並びにクリープ破壊及び疲労破壊に対する抵抗性を向上するところにある。混合の方法はセメントの品質に影響する重要な因子である。疲労破壊は最大の空隙が存在する場所で最も発生しやすく、セメントの気孔率はその機械的特性に対して大きな影響を与える。また、骨セメントの機械的性質と混合前の粉末容量とのあいだには有意の相関関係がある。
【0015】
現在のセメント混合方法はすべて、その使用する混合技術に応じて3つの世代に分類することができる。
【0016】
第一世代−ボウルとへら
・手動
・大気条件下での混合
・作業者に依存
・高レベルの気孔率
・骨セメントの機械的特性が不十分
・無防備のモノマー蒸気暴露
第二世代−ミキシングボウルの改良
・手動
・低真空度(−30kPa)
・適度な機械的性質
・モノマー蒸気暴露の低減
・気孔率の低減
第三世代−封止され連結した混合と輸送システム
−手動
−高真空度(−69〜−92kPa)
−最小のモノマー蒸気暴露
−低レベルの気孔率
−ミックス品質の改善
−人間の接触を軽減
1996年から2004年まで、北アイルランドのベルファストにあるマスグレーブ公園病院(MPH)で、手術室における骨セメントの混合手順が研究され、それによって、実験室で混合した最良の結果が2〜4%であるのに対して、手術室で混合したセメントは最大19%の気孔率を示すことが明らかになった。よりコントロールされて再現可能な混合方法を採用することによってセメント品質の著しい改善を達成できると結論づけることが可能である。
【発明の開示】
【0017】
骨セメントに関連した問題は、混合後に重合(硬化)し、温度や他の環境因子が重合(硬化)の速度に影響し得る他のセメント様物質にも等しく関係がある。例えば、歯科用の復元で使用される物質は骨セメントと同様の性質を持ち、臨床上の環境で同じ問題を抱えている。
【0018】
従って、外科用セメントという用語は、骨セメント、歯科用セメント、及び、骨セメントと同様の性質を持ち、混合のコントロールや重合の観測が有益である他の物質を包含するように使用される。
【0019】
外科用セメントの品質を高めるため改善された方法及び装置に対するニーズがある。
【0020】
本発明によると、外科用セメントの重合を観測する装置であって、
外科用セメントを保持する容器、
外科用セメント重合に影響を与える環境因子、又は重合のレベルを示す外科用セメントの性質のうち少なくとも1つを検出する検知手段であって、少なくとも1つの環境因子又は性質に応じて出力を行うように構成された検知手段、及び前記検知手段の前記出力に応じて外科用セメントの状態を知らせるシグナル手段、を備えていることを特徴とする装置が提供される。
【0021】
好ましい態様では、外科用セメントが骨セメント又は歯科用セメントである。
【0022】
好適には、少なくとも1つの環境因子又は外科用セメントの性質は、環境温度、環境湿度、外科用セメントの温度、外科用セメントの粘度、又は外科用セメントを伝わる音速である。
【0023】
本発明のある態様では、前記装置は、予め混合された外科用セメント、好適には骨セメントのサンプルを収容するよう構成されている。好適には、前記装置は、外科用セメントミキサーと組み合わせて使用するように構成することができ、その場合、混合後間もないセメントのサンプルを、混合後すぐに、又は待機期の後に、前記容器に投入することができる。作業期を決定することができ、かつ外科用セメントが使用に適さなくなった時をユーザーに知らせることができるように、外科用セメント混合物のサンプルを観測することは有用である。さらには、使用した外科用セメントの特性を記録しておくために、例えば患者のカルテに、外科用セメントのサンプルを保有することは有用である。この点は臨床管理、病院の監査、及び将来的な患者支援の点で有用であることが分かる。
【0024】
本発明の別の態様では、前記装置は、外科用セメントミキサー、好適にはチャンバ(当該チャンバは前記装置の前記容器である)を有する骨セメントミキサーである。必要に応じて、前記装置は、2個以上の容器を備えてもよく、1つは外科用セメントミキサーの前記混合チャンバであり、別の1つは外科用セメント混合物のサンプルを収容する容器である。前記外科用セメントミキサーはある種の振動機能を有していること、すなわち、必要により付属の羽根又は翼も備えた混合チャンバを振動し、攪拌し、又は他の手法で動かすことによってセメントを混合するように構成されているのが一般には好ましい。機械的に制御されたミキサーは当該分野で、例えばEP0506317A2、US4787751、US4531839において公知である。羽根又は翼の使用は、例えばEP0178658A2、WO95/01832A1、WO99/06140A1で公知である。
【0025】
好適には、前記ミキサーの前記混合チャンバは使い捨て可能なものである。チャンバが使い捨て可能であれば、便利なことに、外科用セメントの粉末成分を予め充填した状態で提供することができる。
【0026】
前記混合チャンバは、外科用セメント用のノズルを取り付けるための接続手段を具備していると便利である。当該接続手段は、ネジ部を持つノズルにネジ留めができるようにネジ山を有しているアダプターであってもよい。当該アダプターは、前記ノズルを取り付けるまでに前記チャンバからセメントが流出したり前記チャンバに空気が流入するのを防止する封止手段を具備している。好適には、当該封止手段は、取り付けの際に前記ノズルによって穴が空けられる膜であってよい。あるいは、通常は閉鎖位置に保持されているがノズル取り付けの際に開放位置に移動させられるバルブであってもよい。
【0027】
好適なノズルは当該分野で公知である。当該分野で未知の好ましいノズルは、セメントがノズルから出る部位である狭窄部に至るまで先細りのものであってもよい。また、ノズルは、骨セメントのサンプルを保持しながらもノズルの一部を分離可能とする脆弱な部分を有していてもよい。
【0028】
混合チャンバは、患者に適用する際に外科用セメントをチャンバから排出するための装置に適合するような形及びサイズであるのが便利である。そのような装置は当該分野で周知であり、スケルトンガン等が挙げられる。よってチャンバは、変形できるように構成されているか、又は、セメントをチャンバから排出できるようチャンバ内を移動できるピストンを有していてもよい。
【0029】
前記ミキサーは、混合作業中に前記容器内に真空を引き込む手段を有していることが好ましい。真空は、大気圧の30kPa下より大きいのが好適であり、大気圧の69kPa下より大きいのが好ましく、大気圧の72kPa下より大きいのがより好ましい。真空は、前記容器に接続した真空ポンプによって作り出すのがよい。真空下で混合すると、空気や他の気体の除去により外科用セメントの気孔率が低減する。
【0030】
真空は、セメントの液体部分を混合チャンバ内に引き込むために使用することができ便利である。これには、セメントに空気を導入する可能性がある手動による液体導入の必要性がなくなる点で有利である。
【0031】
前記ミキサーは、重合反応の結果放出される有毒ガスを除去する手段を有しているのが好ましい。有毒ガスは薬液用フィルタ又は木炭フィルタの使用によって除去するのが好適であるが、これは真空ポンプに導かれた気体をろ過するよう構成することができる。
【0032】
環境因子及び外科用セメントの性質の観測によって、混合、待機、及び作業期に関わる時間量の調整を行うことが可能になる。例えば環境温度が高めの時には、これらの時間をすべて減らすことになろう。
【0033】
ある態様では、前記検知手段は、外科用セメント周囲の環境温度を検出する温度センサーを有している。環境温度は外科用セメントの重合速度に多大な影響を与える。
【0034】
別の態様では、前記検知手段は、外科用セメントの温度を検出する温度センサーを有している。外科用セメントは発熱反応によって重合するので、温度変化は、骨セメントの硬化の各段階を観測するのに使用することができる。前記シグナル手段は、好適には、外科用セメントの温度が設定値を上回った場合にシグナルを出すように構成されている。この態様では、温度センサーは、前記容器の壁面内もしくは壁面上に位置しているのが好適であり、また、セメントと接触しているか、あるいは前記容器の壁面又は他の好適な熱伝導層によってセメントから分離していてもよい。外科用セメントの温度は硬化するに従い上昇し、通常は重合が完了するまで上昇し続ける。セメントが重合プロセスの特定の期間の始まり又は終了に関連した温度に達すると、これは、特定の期間の終了の指標として使用することができる。特に、セメントの温度を、作業期の終了を示すのに使用することが好適であり、こうしてユーザーに、残りのセメントを廃棄すべきであることを通知する。例えば、約59〜64℃という温度は通常、セメントが90%硬化の段階に達したことを知らせるものである。しかし当然ながら、各種の骨セメントのあいだで変動がある。
【0035】
表2は、環境温度が20℃と22℃の場合に、市販の骨セメントの重合に関係した典型的な温度を示している。これらの数値は添付の図7のグラフから導出することができる。
【0036】
【表2】

表2:市販のアクリル系骨セメントについて、BS ISO 5833:2002,外科用インプラント−アクリル樹脂セメントに準拠して測定した温度データ。硬化温度及び硬化時間はセメントがその固化の90%に達した時点を表している。
【0037】
適切な温度センサーは、骨セメント重合に適切な温度範囲(通常40〜140℃)をカバーすることができる熱電対であってよい。
【0038】
また別の態様では、前記検知手段は、外科用セメント周囲の環境湿度レベルを検出できる湿度センサーを含む。湿度のレベルは外科用セメントの硬化速度に影響を与え得る。
【0039】
さらに別の態様では、前記検知手段は、外科用セメントの粘度、又はセメント中での音の伝達速度を検出するための超音波検知手段を含む。外科用セメントの重合に伴いその粘度は増加する。音の速度及び減衰は重合体の粘弾性特性に敏感であるから、超音波は、骨セメントの硬化プロセスを観測することによって重合プロセスでのある時点を示すのに使用することができる。ある態様では、前記シグナル手段は、セメントの粘度が設定値を上回った場合にシグナルを出し、それによって重合プロセスでのある時点を示すように構成されている。粘度が所定のレベルに達すると、これは作業期等の期間の終了を表示するものとして使用することができる。あるいは、超音波検知手段は、セメントの性質に関する定期的な、及び/又はリアルタイムの情報を提示することができる。好適には、超音波検知手段は、セメント部分を通過する超音波パルスのフライト(flight)及び/又は振幅を検出する。
【0040】
好適な超音波検知手段は当該分野で周知である(米国のKrauskramer社、又は米国のPanametrics社)。典型的な超音波検知手段は、サンプルの異なった面それぞれに対向している2つのトランスデューサを含む。当該トランスデューサは超音波デジタルオシロスコープ(米国のHewlett Packard、又は米国のNational Instrument Laboratories)に接続されており、得られたシグナルはGPIB又はUSB接続によってパーソナルコンピュータに転送されるのが適切である。好適なトランスデューサは米国のKrauskramer社、又は米国のPanametrics社から入手できる。シグナルのフライト及び振幅の経時変化は前記サンプルの粘度変化を算出するのに使用することができる。図2は超音波検知手段の概略図を示す。
【0041】
好ましい態様では、前記装置は2個以上の検知手段を備えている。2個以上の検知手段を使用すると重合プロセスをさらに詳しく示すことができる。
【0042】
好ましくは、前記装置は、前記検知手段の出力に応じて調整できる調整可能なタイミング手段を備えている。2個以上の検知手段が存在する場合、前記タイミング手段は、1個以上の検知手段の出力に応じて調整することができる。調整可能なタイミング手段は通常、前記シグナル手段と連携しており、好適には、タイミング手段とシグナル手段は単一のユニット、例えばコンピュータ内で一体化することができる。あるいは、前記シグナル手段の出力は、調整可能なタイミング手段に手動、例えばキーパッドで入力することができる。これは、周囲温度又は湿度のように急速には変化しないデータを入力するのにより適切である。
【0043】
好適には、タイミング手段に、標準の温度及び湿度における外科用セメントの重合のある段階を表す少なくとも1つの時点が予め設定されている。この時点は検知手段からの出力に応じて調整される。好適には、当該時点は、混合期の終了、待機期の終了、又は作業期の終了に適切な時間を表している。好ましくは、前記タイミング手段に、2個以上の時点が予め設定されている。
【0044】
また調整可能なタイミング手段は外科用セメントミキサー中での混合プロセスを制御できるのが便利である。当該セメントミキサーは典型的には調整可能なタイミング手段を組み込んだコンピュータを有しており、これがまた、ミキサーの操作を制御する。当該タイミング手段には、混合する外科用セメントの特定の種類に関する混合時間がプログラムされている。この時間は通常、標準温度(例えば20℃)について外科用セメントの製造者から提供される。しかしながら、混合時間は上述した因子に応じて変動するから、前記検知手段は環境温度又は湿度に応じて混合時間を調整するのに使用することができる;手術室での温度は、通常、その場所にいる多数の人や機械のために普通の室温よりかなり上にある。混合期の終了を示す時点に達すると、機械は停止する。
【0045】
前記シグナル手段は外科用セメントの状態をユーザーに知らせたり、状況の変化をユーザーに警告したりするためにシグナルを発するよう機能する。ユーザーが検知できる方法であればどのような方法で達成されてもよいが、好適には視覚及び/又は聴覚シグナルを用いる。単純な態様では、当該シグナルは着色光等の視覚刺激、及び/又は警報音であろうと考えられる。あるいは、前記シグナルは重合プロセスのグラフィック表示を描出し、セメントが現在位置するこのプロセスでの時点を示すディスプレイであってよい。好ましくは、前記グラフィック表示は1以上の混合、待機、作業及びセッティング期をマークした、時間対粘度、温度、又は重合プロセスを表す他の指標による線グラフである。移動する線及び帯域がグラフ内を時間軸に沿って移動し、視覚及び/又は聴覚シグナルが、ユーザーに、次の期間に到達したことを通知する。この形態のディスプレイは、ユーザーがそのような重合プロセスの表示になじんでいるので特に好適である。
【0046】
本発明の更なる態様では、外科用セメントの重合を観測する方法であって、少なくとも、
a)外科用セメントの重合に影響を与える環境因子、又は重合のレベルを示す外科用セメントの性質のうち少なくとも1つを検出する検知手段を含む容器に、外科用セメントの少なくとも1部を収容し、
b)少なくとも1つの環境因子又は外科用セメントの性質を検出し、そして
c)シグナル手段を用いて、外科用セメントの状態をユーザーに通知するシグナルを発する
工程を含むことを特徴とする方法が提供される。
【0047】
好適には前記外科用セメントは骨セメントである。好適には、前記環境因子又は外科用セメントの性質は、環境温度、環境湿度、外科用セメントの温度、外科用セメントの粘度、又は外科用セメントを伝わる音速である。好適な検知手段は上述のものである。
【0048】
前記方法は、少なくとも1つの環境因子又は外科用セメントの性質に応じて調節可能である調整可能なタイミング手段を与える工程をさらに含むことができる。
【0049】
本発明の更なる態様によれば、外科用セメントを混合する方法であって、少なくとも、
a)混合する外科用セメントを容器内に収容し、
b)外科用セメントの重合に影響を与える環境因子、又は外科用セメントの重合のレベルを示す外科用セメントの性質のうち少なくとも1つを検出し、そして
c)少なくとも1つの因子又は性質に応じて調節された時間をかけて外科用セメントを混合する
工程を含むことを特徴とする方法が提供される。
【0050】
好適には、前記外科用セメントは骨セメントである。
【0051】
好適には、前記環境因子又は外科用セメントの性質は、環境温度、環境湿度、外科用セメントの温度、外科用セメントの粘度、又は外科用セメントを伝わる音速である。好適な検知手段は上述のものである。
【0052】
好適には、工程c)は、標準的な条件下での外科用セメントの混合時間を提示し、環境因子又は外科用セメントの性質に応じて当該混合時間を調節することを含む。前記混合は前記容器を振動することによって達成されるのが好適である。
【0053】
好ましくは、外科用セメントは真空下で混合される。
【0054】
好適には、工程a)は、骨セメントの粉末成分を容器内に提供し、そこに液体成分を添加すること、あるいは、その逆、すなわち骨セメントの液体成分を容器内に提供し、そこに粉末成分を添加することを含んでもよい。便宜には、外科用セメントの粉末成分は容器内に予め梱包されており、液体成分は真空の影響によって当該容器内に引き込まれる。
【0055】
好適には、前記方法は外科用セメントの重合を観測する工程をさらに含む。これは、検知手段を含む第二の容器にセメントのサンプルを投入することによって達成することができ、あるいは、セメントの少なくともサンプルはセメントミキサー内に保持することができる。
【0056】
本発明の更なる態様によれば、外科用セメント混合物の少なくとも一部を保持する工程を含む、外科用セメントの混合方法が提供される。外科用セメントの一部の保持は継続的な患者の観測、病院鑑査、臨床管理、又は他の術後分析において有用であり得る。そのサンプルはあらゆる好適な容器、好ましくは好適に成形された型に保持することができる。必要に応じ、前記容器はセメントの重合を観測する役割を果たしてもよい。あるいは、セメントのサンプルは、セメントを患者に適用するのに使用したノズルの一部で保持することもできる。
【0057】
上述した本発明の方法は上述した本発明の装置を使用することができる。
【0058】
本発明の形態を、添付の図面を参照しながら例示のためのみに説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
実施例1
この実施例では、真空下、最も適切には大気圧の約72kPa下で混合を行うが、より低め又はより高めの気圧も使用することができる。混合プロセスで真空を適用すると、空気が骨セメントに混ざり込む可能性が低くなり骨セメント混合物の気孔率のレベルが減少し、そのためその機械的性質が改善される。真空は真空ポンプを用いて適用される。本発明での使用に適したポンプとしては、英国のKNF Neuberger UK社が供給しているような、真空モードで最大95kPaを吸引するオイルフリーの隔膜ポンプが挙げられ、これは英国のConnexion Developments社が販売しているような電磁弁と、所望の真空レベルをコントロールし維持する検知機構を備えた英国のPressure-Vacuum-Level社の製造による真空変換器と並列的に使用する。電磁弁は真空の動作モードにおいて0〜100kPaの範囲で運転するよう選択する。
【0060】
重合プロセスで生成した蒸気を除去するために木炭フィルタ又は薬液用フィルタを使用する。骨セメントミキサーに電力を供給するため、電源供給及び/又は充電式電池(例えば、ニッケル−カドミウム)を使用することができる。ミキサーへの電源供給が機能しなくなった場合に電源供給に対するバックアップとして電池を使用し、これにより一回分のセメントの損失を回避することが適切である。骨セメントと直接接触することになる構成部品は使い捨てのものであり、セメント混合キットとして供給するのが便利であろう。このキットには混合チャンバ(容器)が含まれていてよく、これは適切には、セメントの粉末成分を予め充填して提供される容器である。このチャンバは混合チャンバのハウジング上の所定の位置に固定する。セメント混合キットの使い捨て式構成成分としては他に、セメントを混合した後に制御しつつ注入するのに使用するセメントノズルがある。使い捨て式構成成分は事前に殺菌された包装キットで供給するのが便宜である。
【0061】
混合機には、混合プロセスを制御する調整可能なタイミング手段が含まれる。調整可能なタイミング手段はコンピュータに組み込まれているのが便利である。調整可能なタイミング手段として適切なものは当該分野で周知であり、適当な装置を、例えば米国のNEC、又は米国のTexas Instrumentsから入手することができる。調整可能なタイミング手段には、混合する特定の骨セメントの混合特性や重合特性が設定される。このデータは通常、骨セメントの供給者によって提供される。適切には、調整可能なタイミング手段を組み込んだコンピュータのキーパッドによって必要なデータを導入することによりタイミング手段が設定される。本発明での使用に適したキーパッドには、英国のRS Components、又は英国のFarnell社によって供給されているような、成形された工学グレードのシリコーンゴムを有するメンブレイン・キーパッドが含まれる。シリコーン系重合体によるキーパッドの封止によってキーパッドは液体又はホコリから保護される。
【0062】
また、調整可能なタイミング手段には、混合前のセメントの保存条件(例えば、室温での保存や、4℃での冷蔵)がプログラミングされていてもよい。
【0063】
データは様々な種類のセメントについて、コード化された形式又は所定の形式で、適切には数字列として、提供されるのが便宜であろうと考えられる。このような数字列はスワープ・カードにおいて提供することができる。このカードは必要なデータを導入する極めて便宜な方法であり、また、キーパッドによる入力が可能である。
【0064】
さらに、病院内での鑑査手続において有用となり得る追加の情報(例えば、骨セメントの種類、関節置換術の種類、混合物のサイズ、及び骨セメントの粘度)をコンピュータに入力し、又は記録することができる。特定の骨セメントミックスに関する関連情報のすべてを記録するハードコピーを提供できるよう、コンピュータはラベルプリンタ等の印刷装置に接続するのが便利である。日付、室内の操作条件、混合時間、混合中に適用される真空レベル等の情報もまた、記録することができる。適切なラベル印刷要素は英国のRS Components、又は英国のFarnellから購入することができる。
【0065】
検知手段は、環境温度、環境湿度、並びに、骨セメントの粘度及び温度を検出するために具備され、それに応じて出力を作成する。適切な温度及び湿度センサーは、英国のPico Technology社により販売されているもののように、当該分野で周知のものである。超音波技術に基づいた粘度センサーも当該分野で周知であり、そのようなセンサーの典型的特徴は以前に記述されている。
【0066】
次いで、検知手段の出力は、調整可能なタイミング手段が組み込まれたコンピュータに供給され、それに応じてタイミング手段への調整が行われる。適切には、検知手段からの出力はワイヤレス技術によってコンピュータに伝達されるが、そのようなワイヤレス・ハードウェアはNational Instrumentsから入手可能である。プログラム可能なソフトウェア・システムが検知手段の出力を解釈する。インターフェース及び解析ソフトウェアでの使用に適したソフトフェアは、例えば米国のNational Instrumentsが供給しているLabVIEWなど、周知である。
【0067】
通常、骨セメントの製造者は骨セメントの硬化に対して環境温度及び環境湿度が与える影響について情報を提供しており、タイミング手段への必要な調整を行うのにこのデータを使用することができる。特定の種類のセメントについてデータが利用できない場合には、重合プロセスに対する種々の因子の影響を決定するためにいくらか所定の実験が必要となろう。
【0068】
種々の検知手段から出される出力がタイミング手段の調整に使用される方法は、使用されるセメントの種類に依存する。通常、環境温度が高めであると、重合が促進され、混合、待機、及び作業期を短縮する結果になる。図1では4つの局面を示している:I=混合期、II=作業期、III=適用期、IV=セッティング期。セメントの各種類について、ある温度で必要な調整のレベルを決定するにはいくらか実験が必要になろうが、普通このデータは製造者によって提供されている。同様に、湿度の効果、並びに、骨セメントの温度及び/又は粘度の重要性は実験で評価することもできるし、セメント製造者が提供している場合もある。
【0069】
前述の表1は、アクリル系骨セメントの重合の4つの局面を示している。環境温度が上昇するにつれ、セメント重合のすべての局面は短くなる。アクリル系骨セメントの重合の局面に対する環境温度の効果を図1に示しており、これは骨セメントの取扱い、輸送、及び統合に影響するであろう。骨セメントの重合速度が環境温度の関数であり、それに応じた重要性を外科医が十分に理解しておくことが重要である。
【0070】
図1〜10は、市販のアクリル系骨セメントの重合中に生起する典型的な局面と変化を証明するものである。
【0071】
図2は、超音波技術を用いた骨セメントの観測が可能な手法の概略図である。容器中の骨セメントにパルスを送る送信機(Tx)と、シグナルを受け取る受信機(Rx)がある。受信機と送信機は骨セメントを混合する容器を中心に対向して配置する。結果的な段階は以下のとおり。a)パルス生成、b)送信機がパルスをセメントに送る、c)パルスがセメントを通過する、d)シグナルをデジタル化する、e)シグナルを加工する、f)硬化データを更新し、PC上で表示する、e)データファイルをPCに保存する。別の手法としては、パルス反射法の使用がある。図2aは、図2の超音波技術から直接得られる出力記録であり、混合開始からの経過時間に対する減衰の典型的なプロットを示している。
【0072】
図3〜10は、音速、温度、又は見かけ粘度等のパラメーターを用いて骨セメントの重合を観測できることを示している。図8及び9で示しているように、セメントの粘度の値は重合プロセスでの段階を直接に反映している。また、図1、7及び9で示しているように、骨セメントの温度は重合プロセスでの段階を直接に反映している。つまり、これらのセンサーから出たデータは、重合プロセスでの段階の指標として直接使用することができ、これに応じてタイミング手段への調整を行うことができる。
【0073】
タイミング手段を調整するために環境因子とセメントの性質の双方を用いると、指標の数に応じてリアルタイムの調整を行うことができるようになる。これにより、重合プロセスの極めて正確なモデルを、作製し、環境条件又はセメント自体の変化に応じて調整することが可能になる。当然、より少ない検知手段、例えば1種類以上の環境条件又はセメントの1種類以上の性質のみを使用することは可能である;この場合、正確性がより低い重合プロセスのモデルが作製されることになるが、それでもなお、先行技術と比較して顕著な改善を提供する。
【0074】
図3は、重合反応の関数である混合後の時間に対する、自己硬化性アクリル系骨セメントを通過する音速変化を示している。データの各点は、解析され速度が算出されたデジタル化シグナルの1つに対応する。骨セメントが重合するにつれ、そこを通過する音速は、予想される硬化時間の付近で顕著に増加した。重合の初期段階は最も興味あるところであるが、この観測システムの利点の1つは、非侵入的で非破壊的な超音波技術を用いてアクリル系骨セメントについての作業期を正確に示せることである。硬化時間は、音速が、硬化後に得られた平均最大値の75%に達した時と定義する。硬化持続期間は、平均最大音速値の75%と95%のあいだの時差と定義する。
【0075】
図4は、混合開始からの経過時間に対してプロットした、アクリル系骨セメントを伝わる音速に対して種々の環境温度が与える影響を対比している。この結果から、環境温度の上昇は直接、音速がより早めに増大するのに相関し、より速い硬化持続期間を反映していることが分かる。
【0076】
図5は、3種類の独占アクリル系骨セメント:Simplex(菱形)、CMW Endurance(四角形)、及びPalacos R(三角形)について、待機期(I)、作業期(II)、及びセッティング期(III)の間の音速変化を表示している。骨セメントの各種類はこの期間を通じて同様の傾向を示しているが、セメントの種類によって、3分〜4分のあいだに音速が約10〜20m/s減少した。この時点は骨セメントの作業期の始まりに対応している。その後、骨セメントの各サンプルを通過する音速は30〜50m/s増加したのに続いて、音速が緩やかに減少し、次に上昇した。この上昇は重合反応のセッティング期への移行を反映している。このセッティング期へのシフトは骨セメントの種類に応じて、7分〜8分の間に生起した。これら特徴的な2つのポイントはPMMA骨セメントの作業期の開始及び終了と一致している。硬化時間及び硬化持続期間を用いることの妥当性を評価するため、各超音波試験の実施と並行して、ISO 5833及びASTM F451に準拠して各骨セメントの重合反応を観測した。
【0077】
図6は、混合開始からの経過時間に対するアクリル系骨セメントの発熱温度の分析結果を示している。硬化温度及び硬化時間はISO 5833及びASTM F451に準拠して測定したパラメーターである。超音波技術から得たデータと、ISO及びASTM標準との相互比較から、音速の平均最大値の75%と、ISO 5833及びASTM F451に準拠して測定した硬化時間との間に強い相関関係があることが分かる(表3)。
【0078】
表3は、この例で測定した各パラメーターの平均値をまとめている。
【0079】
【表3】

表3で示されたデータは直接得られたか、又は超音波試験の実施から測定したものである。超音波試験を用いて測定した各パラメーターは、外科医が骨セメントの混合及び輸送を正確に行うことを可能にする外科手術での重要な情報、例えば重合の異なる局面の間の移行、硬化時間、を提供する。さらに、超音波試験は、物理的及び機械的性質の点で、骨セメントの混合後特性を正確に提示することになろう。
【0080】
CMW(登録商標)Enduranceについて測定した平均硬化時間は、超音波技術を用いた平均最大値の75%で測定して12.40±1.51分であったのに対し、ISO及びASTM試験法を用いて定量化すると12.18±1.77分であった。この結果より、本発明の方法及び装置がISO及びASTM試験法の正確性を提供することが確認された。
【0081】
図7は、環境温度が異なるプロセスで比較した、混合開始からの経過時間に対するアクリル系骨セメントの温度を示している(暗い線:20℃、明るい線:22℃)。これらの結果は、環境温度が上がると、混合開始からのアクリル系骨セメントの重合速度が顕著に増大することを示している。22℃で調製した骨セメントの硬化時間は、ISO及びASTM試験法を用いて定量化すると9.63分の硬化時間であることを証明した。これに対して、環境温度20℃で混合した骨セメントは12.21分以内に完全に重合した。外科医が骨セメントを混合する際に骨セメントの重合の段階を正確に調整/観測することができるので、この情報は外科医にとって非常に重要なものであろう。
【0082】
図8は、重合プロセスでの経過時間に対する市販の骨セメントの見かけ粘度を示している。粘度に関する情報はセメントの流れ抵抗の指標を提供するので外科医にとって非常に有益である。前記流れ抵抗は、骨セメントを外科腔に導入するのに適切な時期がいつであるのかについての決定要因となる。
【0083】
図9は、市販のアクリル系骨セメントの重合中に同時に得られた音速(菱形)、骨セメントの硬化温度(四角形)、及び骨セメントの見かけ粘度(三角形)を対比した連続プロットを示している。図9から、骨セメントの硬化中に示された温度と、フル・フライト超音波特性解析技術を用いて記録した音速とのあいだに相関関係があることが分かる。
【0084】
図10は、硬化性アクリル系骨セメントについて混合開始からの経過時間に対するBUAについての典型的なグラフを表示している。データの各点はBUAに解析されたデジタル化シグナルの1つを表している。このプロットは図3の音速データと同じサンプルから得たデータを示すものである。最大のBUAは、音速における移行の中間点と一致している。すべてのサンプルについて、BUAはゆっくりと増加するバックグラウンドに対して鋭い最高点を有していた。最高点の高い側の肩は、小さめの第二のピークを示していよう。この肩はすべてのBUAデータに共通した特性であった。
【0085】
図11は、硬化したサンプル(Simplex(三角形)、CMW Endurance(菱形)、及びPalacos R(四角形)の密度の関数として、骨セメントを伝わる音速のあいだの相関関係を証明している。図11から、この研究で調査した3種類の骨セメントすべてについて音速とセメント密度とのあいだに有意の関係があることが分かる(R2=0.99)。
【0086】
図12は、3種類の独占ブランド(Simplex(三角形)、CMW Endurance(菱形)、及びPalacos R(四角形)の硬化した骨セメントサンプルの音速と圧縮強度との関係を示している。図12から、セメントを伝わる音速と圧縮強度との関係は直線的であり、非常に有意である(R2=0.99)ことが分かる。両方のケースで、音速が上がるにつれて密度及び圧縮強度は比例して増大した。
【0087】
調整可能なタイミング手段は、環境因子又はセメントの性質に応じて調整されるように、混合サイクルの開始時点でミキサーを動かし始め、混合が完了した時点、すなわち混合に配分された時間の終点で機械を止めることによって、ミキサー中での骨セメントの混合を制御する。
【0088】
ディスプレイ(シグナル手段)は、骨セメントの重合に影響する環境因子、又は外科用セメントの重合レベルを示す骨セメントの性質を観測して導かれる重合プロセス、すなわち混合の開始からセッティングまでのすべての段階の表示を提供する。ディスプレイは、重合プロセスの進行に対する時間のグラフを表示する。適切には、重合プロセスの進行を表示するのに骨セメントの温度又は粘度を使用するが、同様に、任意の表示(例えば重合%)を導出し使用することができる。重合プロセスの進行の明確な表示を提供するため、混合、待機、作業、及びセッティング期はグラフ上で色の帯としてマークするのが適切である。時間の進行に伴い線がグラフに従って移動し、どのくらいの時間が経過したのかを示し、よって、各期間でどのくらいの時間が残されているのかをユーザーに示す。特定の期間が終了すると警報音も鳴る。
【0089】
さらに、ディスプレイはアクチュエータの速度や、他の興味ある事象の詳細を示すこともできる。例えば、ディスプレイは、ミキサーが電源供給又は電池によって電力供給されているか否かを表示するインジケータ/発光ダイオード(LED)を有していてもよい。混合機のアクチュエータが電池によって駆動されている場合には、利用可能な電池残存寿命の可視表示があってもよい。さらに、混合機の電池が充電されている時を明示するLEDがあってもよい。本発明での使用に適したLEDは英国のMaplinによって供給される。
【0090】
実施にあたって、重合体粉末と液体モノマーを混合チャンバ中で混合する。混合チャンバは重合体粉末を予め充填して供給される。混合チャンバは封止されて、真空が適用される。骨セメントの液体成分は真空を適用した結果、人力による注入の必要もなく、混合チャンバに導入される。これにより、混合及び輸送システムを完全な閉鎖システムとすることができるため、混合チャンバへの粉末及び液体導入の間に空気が骨セメントに閉じ込められる可能性を減らすことができる。次にミキサーを動かし始める。外科用セメント重合に影響する環境因子、又は骨セメントの重合レベルを示す骨セメントの性質に応じて調整されるタイミング手段の制御下において、ミキサーのアクチュエータは作動する。
【0091】
混合期の終点で混合を停止し、作業者に警告するため警報が鳴る。警報はセメントが適切に混合される5秒前に鳴り、これによって、セメントが臨界的な段階に到達しようとしていることをユーザーに事前通報する。混合が完了した後、真空を解除し、混合チャンバのハウジングからチャンバを取り外すことができる。混合チャンバをセメント注入ガンに配置する。混合容器はネジ又は差し込みによる取り付けによって所定の位置に固定されるが、そのような種類のセメント注入ガンは当該分野で周知である。多数の異なったデザインの注入ガンを利用できる。
【0092】
輸送ノズルは混合チャンバに設けられたネジによってチャンバに取り付ける。例えば大腿部の髄管へのセメント輸送を行うには長いノズルを使用できるが、他のノズルの長さは比較的短い。セメント輸送に使用するノズルは先細にすることができ、これは大腿腔に注入されているセメントについて特に好適である。現在、骨セメントの注入に使用するノズルは並列ノズル(f11〜14mm)であるが、これでは、径が小さい(すなわち<9mm)大腿腔へのセメント注入が容易でない。さらに、セメントの注入に先細のノズルを使用すると、セメントの剪断速度が増大するので、その粘度が低下し、このため、セメントが多孔質の海綿様骨基質により多く侵入することが可能になる。
【0093】
混合が完了すると、セメントが使用可能になって作業期にはいる前に、待機期がある。繰り返しになるが、この期間の長さは環境温度及び湿度によって影響され、骨セメントの温度及び粘度が反映され、調整可能なタイミング手段が検知手段の出力に応じて調整される。
【0094】
待機期が終了するとユーザーはディスプレイと警報によって警告され、患者に骨セメントを適用することができる。ユーザーがどのくらい作業期が残されているのかを知ることができるよう、ディスプレイは重合プロセスの進行を表示し続ける。作業期が終了した際にはユーザーに通知される。
【0095】
骨セメントは適切な外科部位に作業者によって注入される。
【0096】
輸送ノズルは細くなった径を持つか、又はノズルの下部三分の一にV字型の刻み目を持つ。V字型の刻み目又は細くなった径によって達成されるこの応力集中は、骨セメントの被験試料を含むノズルの部分の折り取りを可能にする脆弱な部分を提供する。
【0097】
この被験試料は、比較参照用のセメントサンプルの基礎となり得るものであり、将来の鑑査及び品質手続で使用され得る。骨セメントの試験片には、先述したプリンタで印刷されたラベルが張られていると便利である。このラベルは、骨セメントサンプルの完全なトレーサビリティを可能にする十分な情報を含んでいる。
【0098】
場合によっては、骨セメントのサンプルは、後述するような更なる観測を行うため別個のチャンバに配置されてもよい。これによって、作業期での重合に伴い骨セメントの物理的性質を観測することが可能になる。
【0099】
前記の骨セメントミキサーには、機械化し自動化することによって室内のスタッフによる注意の必要性を最小限に減らせる利点がある。さらに、フィードバック機構は混合サイクルを制御して、混合のし過ぎや不足を防止する。
実施例2−重合プロセスを観測するサンプル保持チャンバ
骨セメント混合物サンプルの重合観測に使用するためサンプル保持チャンバを設けることができる。このサンプル保持チャンバは、特定の作業で使用されるセメントの記録としてセメントのサンプルを保持する役割も果たす。それには、骨セメントのサンプルを収容する容器が含まれる。当該容器は上部と下部からなる。この下部には、セメントの重合を観測する温度センサーを収納するチャネルが設けられる。超音波検知手段など他の検知手段は、必要により設けることができる。
【0100】
このようなチャンバは、環境因子又はセメントの性質を検出しない従前の骨セメントミキサーとともに使用することができ、骨セメント重合の進行の観測を改善することができる。あるいは、作業期での重合プロセスの連続的な監視を可能にする検知手段を有する混合機と一体化することもできる。
【0101】
前記チャンバは、セメントの温度及び/又は粘度、環境温度、並びに環境湿度についての検知手段を有することができる。
【0102】
各種検知手段の出力は調整可能なタイミング手段を含むコンピュータに送信される。調整可能なタイミング手段には、使用する特定のセメントに関するデータがあらかじめ設定されている。調整可能なタイミング手段は、実施例1でについて上述したのと同様の手法で検知手段の出力に応じて調整される。チャンバを実施例1のミキサーとともに使用したい場合には、コンピュータは同じコンピュータであるのが適切であり、検知手段の出力はタイミング手段の調整を継続するのに使用されよう。サンプル保持チャンバを、調整可能なタイミング手段を持たないミキサー(例えば、従来のミキサー)とともに使用する場合には、別の調整可能なタイミング手段が使用されよう。そのタイミング手段は、明らかに、混合期に関する時点を持たないものであり、最初の時点は待機期又は作業期を開始するためのものになろう。この実施形態では、サンプル保持チャンバは、重合プロセスの進行についての情報をユーザーに提供するが、混合プロセスに関する情報は提供しない。
実施例3−作業期の終了についての警報を持つサンプル保持チャンバ
作業期の終了をユーザーに通知するにはより単純なサンプル保持チャンバが有用であり得る。そのようなチャンバは、骨セメントの粘度及び/又は温度を検出する検知手段を有するであろう。
【0103】
粘度及び/又は温度がある閾値に達すると、シグナル手段がユーザーに警告する。当該シグナル手段が警報音を発するのが適切である。
【0104】
一般に閾値は、作業期の終了と一致するレベルに設定される。あるいは、作業期の終了が差し迫ったことを示す閾値に設定することによって、時間切れになることを外科医に警告するものでもよい。
【0105】
特に有用であるのは、異なる閾値で発せられる2つのシグナル(1つは、作業期の終了が近づいていることを示すもの、他方は作業期の終了を示すもの)を有することであろう。
【0106】
温度センサーからの出力は、シグナル手段が組み込まれたコンピュータに送信される。セメントの温度が事前にコンピュータに設定されている温度に達すると、作業期の終了に達したことを示すシグナルがつくられる。閾値の単位として使用する温度は、セメントの使用種類に依存する。
【0107】
他の因子が重合に影響する可能性もあるし、骨セメントの重合段階の指標を提供する可能性もあり、そのような他の因子を検出する検知手段を、ここに記載した検知手段とともに、又はこれに代えて使用することもできる、とすべきである。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】アクリル系骨セメントの重合の局面に対して異なる環境温度が与える影響
【図2】図2は、骨セメントの粘度を測定するための超音波検知手段の概略図。図2aは、混合開始からの経過時間に対してプロットした、減衰の典型的なプロット
【図3】混合開始からの経過時間に対してプロットした、アクリル系骨セメントを伝わる音速
【図4】混合開始からの経過時間に対してプロットした、アクリル系骨セメントを伝わる音速に対して異なる環境温度が与える影響
【図5】作業期でのアクリル系骨セメントの3種類の独占ブランドに関して、混合開始からの経過時間に対する音速
【図6】混合開始からの経過時間に対するアクリル系骨セメントの温度
【図7】環境温度の違いを比較した、混合開始からの経過時間に対するアクリル系骨セメントの温度
【図8】重合プロセスでの経過時間に対する市販の骨セメントの見かけ粘度
【図9】経過時間に対する音速、骨セメント硬化温度、及び骨セメントの見かけ粘度の比較
【図10】混合開始からの経過時間に対するアクリル系骨セメントのサンプルの広帯域超音波減衰(BUA)
【図11】アクリル系骨セメントの3種類の独占ブランドについて、密度に対する、完全に硬化した骨セメントを伝わる音速
【図12】アクリル系骨セメントの3種類の独占ブランドについて、圧縮強度に対する、完全に硬化した骨セメントを伝わる音速

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外科用セメントの重合を観測する装置であって、
a)外科用セメントを保持する容器、
b)外科用セメント重合に影響を与える環境因子、又は重合のレベルを示す外科用セメントの性質のうち少なくとも1つを検出する検知手段であって、少なくとも1つの環境因子又は性質に応じて出力を行うように構成された検知手段、
c)前記検知手段の前記出力に応じて外科用セメントの状態を知らせるシグナル手段、を備えていることを特徴とする装置。
【請求項2】
外科用セメントが骨セメント又は歯科用セメントである請求項1記載の装置。
【請求項3】
少なくとも1つの環境因子又は外科用セメントの性質は、環境温度、環境湿度、外科用セメントの温度、外科用セメントの粘度、又は外科用セメントを伝わる音速である請求項1又は2記載の装置。
【請求項4】
予め混合された外科用セメント、好適には骨セメントのサンプルを収容するよう構成されている前記請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
外科用セメントミキサー、好適にはチャンバ(当該チャンバは前記装置の前記容器である)を有する骨セメントミキサーを備えている前記請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
2個以上の容器を備え、1つは外科用セメントミキサーの前記混合チャンバであり、別の1つは外科用セメント混合物のサンプルを収容する容器である請求項5記載の装置。
【請求項7】
前記外科用セメントミキサーは振動ミキサーである請求項5又は6記載の装置。
【請求項8】
前記容器は使い捨て可能なものである前記請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
前記容器は、外科用セメント用のノズルを取り付けるための接続手段を具備したものである前記請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
前記接続手段は、前記ノズルを取り付けるまでに前記チャンバからセメントが流出したり前記チャンバに空気が流入するのを防止する封止手段を具備したものである請求項9記載の装置。
【請求項11】
前記ノズルが、骨セメントのサンプルを保持しながらもノズルの一部を分離可能なように構成された脆弱な部分を有している請求項9又は10記載の装置。
【請求項12】
前記ミキサーは、混合作業中に前記容器内に真空を引き込むため真空手段を含む請求項5〜11のいずれかに記載の装置。
【請求項13】
前記ミキサーは有毒ガスを除去するため排出機を含む前記請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
前記検知手段は、外科用セメント周囲の環境温度を検出する温度センサーを有する前記請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
前記温度センサーは外科用セメントの温度も検出する請求項14記載の装置。
【請求項16】
前記温度センサーは前記容器の壁面内もしくは壁面上に位置しており、及び/又は前記セメントに接触している請求項14又は15記載の装置。
【請求項17】
前記温度センサーは熱電対である請求項14〜16のいずれかに記載の装置。
【請求項18】
前記シグナル手段は、外科用セメントの温度が所定値を上回った場合にシグナルを出すように構成されている前記請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項19】
前記検知手段は、外科用セメント周囲の環境湿度レベルを検出できる湿度センサーを含む前記請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項20】
前記検知手段は、外科用セメントの粘度、又は外科用セメント中での音の伝達速度を検出するための超音波検知手段を含む前記請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項21】
前記シグナル手段は、外科用セメントの粘度が所定値を上回った場合にシグナルを出すように構成されている前記請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項22】
前記検知手段は、外科用セメントの性質に関する定期的な、及び/又はリアルタイムの情報を提示することができる前記請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項23】
2個以上の検知手段を備えている前記請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項24】
前記検知手段の出力に応じて調整可能なタイミング手段を備えている前記請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項25】
前記シグナル手段の出力は、調整可能なタイミング手段に手動で入力される請求項24に記載の装置。
【請求項26】
前記タイミング手段に、所定の温度及び湿度における外科用セメントの重合のある段階を表す少なくとも1つの時点が予め設定されている請求項24記載の装置。
【請求項27】
前記タイミング手段に、2個以上の時点が予め設定されている請求項26記載の装置。
【請求項28】
前記シグナルは視覚刺激である前記請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項29】
前記シグナルはセメント重合プロセスの進行を描出するディスプレイである前記請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項30】
外科用セメントの重合を観測する方法であって、少なくとも、
a)外科用セメントの重合に影響を与える環境因子、又は重合のレベルを示す外科用セメントの性質のうち少なくとも1つを検出する検知手段を含む容器に、外科用セメントの少なくとも1部を収容し、
b)少なくとも1つの環境因子又は外科用セメントの性質を検出し、そして
c)外科用セメントの状態をユーザーに通知するシグナルを発する
工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項31】
前記環境因子又は外科用セメントの性質は、環境温度、環境湿度、外科用セメントの温度、外科用セメントの粘度、又は外科用セメントを伝わる音速を含む群のうち1以上である請求項30に記載の外科用セメントの重合を観測する方法。
【請求項32】
少なくとも1つの環境因子又は外科用セメントの性質に応じて調節可能な請求項24、26又は27で規定したタイミング手段を与える工程をさらに含む、請求項30又は31に記載の外科用セメントの重合を観測する方法。
【請求項33】
請求項1〜29のいずれかで規定した装置を使用する請求項30〜32のいずれかに記載の外科用セメントの重合を観測する方法。
【請求項34】
外科用セメントを混合する方法であって、少なくとも、
a)混合する外科用セメントを容器内に収容し、
b)外科用セメントの重合に影響を与える環境因子、又は外科用セメントの重合のレベルを示す外科用セメントの性質のうち少なくとも1つを検出し、そして
c)少なくとも1つの因子又は性質に応じて調節された時間をかけて外科用セメントを混合する
工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項35】
標準的な条件下での外科用セメントの所定の混合時間を提示し、環境因子又は外科用セメントの性質に応じて当該混合時間を調節する工程をさらに含む請求項34記載の外科用セメントの混合方法。
【請求項36】
さらに、請求項1に記載の容器を振動することによって行われる請求項34又は35記載の外科用セメントの混合方法。
【請求項37】
外科用セメント混合物の少なくとも一部を保持する工程をさらに含む請求項34〜36のいずれか1項に記載の外科用セメントの混合方法。
【請求項38】
請求項1〜29のいずれか1項に記載の装置を用いる請求項34〜37のいずれかに記載の外科用セメントの混合方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2008−534102(P2008−534102A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503577(P2008−503577)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001122
【国際公開番号】WO2006/103410
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(507325068)ザ クイーンズ ユニバーシティ オブ ベルファスト (2)
【Fターム(参考)】