説明

外面電極放電ランプ

【課題】 暗黒始動特性に優れた外面電極放電ランプを提供する。
【解決手段】 本発明の外面電極放電ランプは、内部に放電空間11が形成された放電容器1と、放電空間11に封入された放電媒体と、放電容器1の内面に形成された蛍光体層2と、放電容器1の外面に形成された外面電極3a、3bとを具備し、蛍光体層2の内面には少なくともその一部が放電空間1に露出、かつその放電容器1の端部側と外面電極3aの境界3’との距離D1が30mm以下になるように初期電子放出層4が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶テレビやノートパソコン等のバックライトの光源として用いられる外面電極放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶ディスプレイのバックライトに用いられる光源としては、冷陰極蛍光ランプに代わり、外面電極放電ランプが主流になりつつある。外面電極放電ランプは、特開2007−53117号公報(特許文献1)に記載されているような、内部に気密な放電空間を有する線状の放電容器の外側両端に外面電極が形成されたランプである。
【0003】
この外面電極放電ランプにおいて、暗黒始動特性、すなわち外部からの光が入射しないバックライトの筐体内部などの暗黒空間に放置したランプの始動特性が良好でないという問題が知られている。この問題を解決するために、特開2004−253245号公報(特許文献2)や特開2006−19100号公報(特許文献3)には、外部電極が配置された部分に相当する蛍光体内面やガラス管内面にセシウム化合物などの層を形成した発明が提案されている。また、特開2006−344585号公報(特許文献4)には、ガラス管内面のほぼ全域に例えばセシウム化合物を含む保護層を形成し、その保護層上の外部電極間に蛍光体層を形成する発明が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2007−53117号公報
【特許文献2】特開2004−253245号公報
【特許文献3】特開2006−19100号公報
【特許文献4】特開2006−344585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、発明者の試験の結果、特許文献2〜4の発明では暗黒始動特性はほとんど改善されないことがわかった。すなわち、外部電極が形成されたガラス管内にセシウム化合物等の膜を放電空間に露出するように形成していても、放電遅れ現象が発生した。
【0006】
本発明の目的は、暗黒始動特性に優れた外面電極放電ランプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の外面電極放電ランプは、内部に放電空間が形成された放電容器と、前記放電空間に封入された放電媒体と、前記放電容器の内面に形成された蛍光体層と、前記放電容器の外面に形成された外面電極とを具備し、前記蛍光体層の内面には少なくともその一部が前記放電空間に露出、かつその前記放電容器の端部側と前記外面電極の境界との距離D1が30mm以下になるように初期電子放出層が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、暗黒始動特性に優れた外面電極放電ランプを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(第1の実施の形態)
以下に、本発明の実施の形態の外面電極放電ランプについて図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施の形態の外面電極放電ランプについて説明するための全体図、図2は図1に示されたXの範囲について説明するための図である。
【0010】
外面電極放電ランプの容器は、例えばホウ珪酸ガラスからなる放電容器1で構成されている。放電容器1は両端部が密閉された細長い筒型形状であり、内部には放電空間11が形成されている。放電空間11には、水銀Hgおよび希ガスからなる放電媒体が封入されている。ここで、希ガスとしてはネオンNeとアルゴンArの混合ガスが適しており、アルゴンArの比率を大きくしてランプの始動性を向上させる等の調整が可能である。
【0011】
また、放電容器1の内面には、ランプの光放出領域を覆う範囲に蛍光体層2が形成されている。蛍光体層2としてはR(赤)、G(緑)、B(青)で発光する単波長蛍光体のほか、RGBを混合した3波長蛍光体などを目的用途に合わせて使用することができる。なお。蛍光体層2にアルミナAl(特にα−アルミナ)を混合してもよい。
【0012】
放電容器1の両端には、その外面に沿うように外面電極3a、3bが形成されている。外面電極3a、3bは、例えば、スズSn、亜鉛Zn、アンチモンSbを主体とする金属材料を超音波半田ディッピングすることにより形成することができる他、金属キャップを端部に装着させたり、筒状の金属を端部に被せて半田で接続したりすることによって、形成することができる。
【0013】
そして、蛍光体層2の内面には、少なくともその一部が放電空間11に露出するように初期電子放出層4が形成されている。この「少なくともその一部が放電空間に露出」とは、必ずしも層全体が露出している必要はなく、一部が他の層により覆われていてもよいことを意味する。ただし、本発明の作用効果を得る上では、外部電極3aの境界3’付近の初期電子放出層4の部分は放電空間11に露出しているのが望ましい。また、初期電子放出層4は、その放電容器1の端部側と外面電極3aの境界3’との距離D1(図3参照)が30mm以下、望ましくは8mmとなるように蛍光体層2の内面に形成されている。本実施の形態では距離D1=0mm、すなわち、図2のように、初期電子放出層4と外面電極3aの境界3’とが一致している。一方、初期電子放出層4の放電容器1の中央側は、外面電極3aの境界3’との距離D2が30mm以下であるのが望ましい。また、距離D1とD2によって決定される初期電子放出層4の軸方向形成長Lは、1.0mm以上であるのが望ましい。
【0014】
さらに、初期電子放出層4について、図4を用いて詳しく説明する。図4は図2に示されたYの範囲について説明するための図である。
【0015】
図4からわかるように、蛍光体層2と初期電子放出層4とは、微視的には蛍光体層2を構成する粒子21の上に、さらに粒子21上に初期電子放出層4を構成する粒子41が積層された状態になっている。この際、初期電子放出層4の粒子41(例えば、平均粒径が4.5μm〜10μm)が、蛍光体層2の粒子21(例えば、平均粒径が4.0μm〜5.0μm)よりも大きくなるように形成するのが望まれ、さらには粒子21の平均粒径に対して粒子41の平均粒径が、1.1〜2.0倍であるのが好適である。
【0016】
なお、初期電子放出層4は、初期電子放出性に優れた材料、例えばアルミニウムAl、セシウムCs、ストロンチウムSr、カリウムKの酸化物又は化合物を用いることができる。すなわち、硫酸セシウムCsSO、酢酸セシウムCHCOOCs、フッ化ストロンチウムSrF、リン酸カリウムKPO、酸化アルミニウムAlなどを初期電子放出層4として使用することができる。なお、それらの中では、初期電子放出性等に優れるCs化合物が特に好適である。
【0017】
ここで、初期電子放出層4の形成方法について説明する。初期電子放出層4は、例えば蛍光体層2の塗布と同様に放電容器1の開口側からスラリー化した初期電子放出性を有する材料を吸い上げて塗布する、いわゆる吸い上げコーティング方式により形成することができる。その際、スラリー化した材料の粘度や吸い上げ量などにより、初期電子放出層4の厚みや軸方向形成長Lを調節することができる。ちなみに、初期電子放出層4は外面電極3a、3bの両方に形成する必要はない。つまり、外面電極3a、3b両方を高圧側とする場合は、どちらかに初期電子放出層4を形成すれば十分であり、一方の外面電極を高圧、他方の外面電極を低圧またはアースとする場合は、高圧側に初期電子放出層4を形成すればよい。
【0018】
下記に本実施の形態の外面電極放電ランプの一実施例を示す。なお、以下で説明する試験は特に言及しない限り寸法、材料等はこの仕様に基づいて行っている。
【0019】
(実施例)
放電容器1;ホウ珪酸ガラス製、全長=733mm、外径=3.0mm、内径=2.0mm、
放電媒体;水銀Hg、ネオンNeとアルゴンArの混合ガス=50torr、
蛍光体層2;RGBの3波長蛍光体、膜厚=13μm、平均粒径=4.0μm、
電極3a、3b;電極長=25mm、
初期電子放出層4;硫酸セシウムCsSO、軸方向形成長L=10mm、平均粒径=4.5μm。
【0020】
24時間暗黒中に放置した上記実施例の外面電極放電ランプを、暗黒中で65kHz、2420Vrmsの点灯条件で点灯したところ、放電開始時間は50msecであった。初期電子放出層4を形成しない従来のランプでは放電開始時間が10000msec以上であったことと比較すると、本発明により暗黒始動特性を格段に改善できることがわかる。また、この点灯を繰り返してもほぼ同様の放電開始時間であり再現性があった。
【0021】
本実施例においてこのような優れた暗黒始動特性が得られたのは、外部電極放電ランプにおいて放電が開始される外部電極3aの境界3’のランプ中央側の放電空間11に初期電子が多く供給されたためと推測される。すなわち、当該部分の蛍光体層2の内面に初期電子放出層4を形成したことによって、放電開始地点(図2に示すZ地点付近)の初期電子濃度が高くなり、放電確率が高くなったことが放電開始時間の短縮に繋がったと考えられる。
【0022】
ただし、放電開始地点付近に初期電子放出層4を形成しても、それを保護膜等により完全に被覆した場合は、初期電子の放出が妨げられ、暗黒始動特性が改善されないことが確認された。また、初期電子放出層4の放電容器1の端部側と外面電極3aの境界3’との距離D1が30mm以上であると放電開始地点Z付近の初期電子濃度を高めることができず、図5に示すように放電開始時間が遅くなってしまう。したがって、初期電子放出層4はその一部が放電空間1に露出するように、かつ距離D1が30mm以下となるように形成しなければならない。なお、距離D1については、放電開始時間が1000msec以下になる8mm以下であるのが望ましく、さらには初期電子放出層4の放電容器1の端部側が外面電極3aの境界3’と一致(距離D1=0mm)するのが望ましい。
【0023】
一方、初期電子放出層4の放電容器1の中央側と外面電極3aの境界3’との距離D2についても、図5の結果と同様に距離D2が30mm以上の部分は暗黒始動特性の改善にあまり寄与しない。それどころかCs化合物等は、非発光物質であるため、光束の低下などを招く原因となってしまう。したがって、距離D2は、30mm以下であるのが望ましい。ただし、上述した距離D1とD2によって決定される初期電子放出層4の軸方向形成長Lは、初期電子濃度が十分に高くなるように1.0mm以上になるように設定するのが望ましい。
【0024】
また、本発明のように蛍光体層4の上に初期電子放出層4を積層する構成の場合、初期電子放出層4を構成する粒子41を、蛍光体層2を構成する粒子21よりも大きくなるように形成するのが望ましい。これは、初期電子放出層4の製造途上や点灯中の希ガスイオンや水銀イオンの衝撃などによって、粒子41が放電容器1の内表面ないし粒子21内に移動するのを抑制し、初期電子放出性の低下を抑制するためである。なお、粒子21の平均粒径に対し、粒子41の平均粒径が1.1倍以上であれば粒子41の移動を特に抑制することができる。ただし、2.0倍を超えると粒子21が粒子41から剥がれやすくなるため望ましくない。
【0025】
したがって、第1の実施の形態では、蛍光体層2の内面には少なくともその一部が放電空間1に露出するように初期電子放出層4としてセシウムCs化合物が形成されており、初期電子放出層4の放電容器1の端部側と外面電極3aの境界3’との距離D1を30mm以下、好適には距離D1を0mmとすることにより、放電開始地点Z付近の初期電子濃度を高めることができるため、暗黒始動特性に優れた外面電極放電ランプを実現することができる。
【0026】
その際、初期電子放出層4の放電容器1の中央側と外面電極3aの境界3’との距離D2を30mm以下とすることにより、暗黒始動特性を改善しつつ、光束の低下などを極力少なくすることができる。
【0027】
また、初期電子放出層4を構成する粒子41は、蛍光体層2を構成する粒子21よりも大きいため、粒子41が粒子21内に移動することによる初期電子放出性の低下を抑制することができる。
【0028】
(第2の実施の形態)
図6は、本発明の第2の実施の形態の外面電極放電ランプについて説明するための図である。これ以降の実施の形態の各部については、第1の実施の形態の外面電極放電ランプの各部と同一部分は同一符号で示し、その説明を省略する。
【0029】
本実施の形態では、初期電子放出層4を外面電極3aの境界3’から放電容器1の端部方向にも突出形成している。これは、製造誤差によって放電開始地点Z付近に初期電子放出層4が形成されない不具合の発生を防止するためである。ただし、外部電極3aと重なるように初期電子放出層4が形成された放電容器1部分では、電子衝突によってガラスが削られ、たこつぼ状の窪みが形成されやすくなるので、放電容器1の端部側と外面電極3aの境界3’との距離D1は、−1.5mm以下(境界3’から放電容器1の中央側を正とする)であるのが望ましい。
【0030】
したがって、第2の実施の形態では、第1の実施の形態の効果が得られるとともに、製造誤差によって放電開始地点Z付近に初期電子放出層4が形成されない不具合の発生を防止することができる。
【0031】
なお、本発明の実施の形態は上記に限られるわけではなく、例えば次のように変更してもよい。
【0032】
本発明は、直管型の外面電極放電ランプに限らず、U字型、L字型、その他様々な形状のランプにも適用できる。
【0033】
初期電子放出層4は、円筒状に形成される場合に限らず、放電開始地点の初期電子濃度が高い状態を維持できれば、部分的な形成状態であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施の形態の外面電極放電ランプについて説明するための図。
【図2】図1に示されたXの範囲について説明するための図。
【図3】初期電子放出層が外部電極の境界から離れている場合について説明するための図。
【図4】図2に示されたYの範囲について説明するための図。
【図5】電極境界と初期電子放出層の端部までの距離D1を変化させたときの放電開始時間について説明するための図。
【図6】本発明の第2の実施の形態の外面電極放電ランプについて説明するための図。
【符号の説明】
【0035】
1 放電容器
11 放電空間
2 蛍光体層
21 粒子
3a、3b 外面電極
3’ 境界
4 初期電子放出層
41 粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に放電空間が形成された放電容器と、前記放電空間に封入された放電媒体と、前記放電容器の内面に形成された蛍光体層と、前記放電容器の外面に形成された外面電極とを具備し、
前記蛍光体層の内面には少なくともその一部が前記放電空間に露出、かつその前記放電容器の端部側と前記外面電極の境界との距離D1が30mm以下になるように初期電子放出層が形成されていることを特徴とする外面電極放電ランプ。
【請求項2】
前記初期電子放出層は、前記外面電極を跨って形成されていることを特徴とする請求項1に記載の外面電極放電ランプ。
【請求項3】
前記初期電子放出層の前記放電容器の中央側と前記外面電極の境界との距離D2が30mm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の外面電極放電ランプ。
【請求項4】
前記初期電子放出層は、アルミニウムAl、セシウムCs、ストロンチウムSr、カリウムKの酸化物又は化合物から選択された一又は複数よりなることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載の外面電極放電ランプ。
【請求項5】
前記初期電子放出層を構成する粒子は、前記蛍光体層を構成する粒子よりも大きいことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れかに記載の外面電極放電ランプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate