説明

多分割STEM検出器の調整方法

【課題】多分割STEM検出器のゲイン及びオフセット調整を精度良く、且つ容易に実行する。
【解決手段】走査透過電子顕微鏡の光軸上に配置された円状のシンチレータ601の検出面DF全体に電流密度が均一な電子線を照射し、各光電子増倍管603が、シンチレータ601から出力される光を光ファイバ束602を介して受光し、各光電子増倍管603から出力される検出信号の強度を測定し、各光電子増倍管603から出力される検出信号の強度が、シンチレータ601の検出面DFを動径方向及び偏角方向に分割された各検出領域DRの面積に比例するように、検出領域DR毎に多分割STEM検出器のゲイン及びオフセットを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査透過電子顕微鏡で用いる多分割STEM検出器の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、明暗視野検出器を用いた走査透過電子顕微鏡が知られている。図6は、一般的な明暗視野検出器を用いた走査透過電子顕微鏡(STEM)の基本構成を示す。走査透過電子顕微鏡は、電子線100を射出する電子銃(図示せず)と、射出された電子線100を収束させる照射レンズ系101と、観察対象となる試料105上の収束角を制限するCL絞り102と、試料105上の照射位置を走査するためのCL偏向器103と、電子線100を試料105上に収束させ、透過散乱電子を結像する対物レンズ104と、対物レンズ104の像面若しくは後方焦点面(回折面)を投影レンズ107の物面に結像する中間レンズ系106と、中間レンズ系106の像面を検出面上に結像する投影レンズ107と、明暗視野検出器110と、蛍光板111と、フィルム(又はCCDカメラ)112と、CL偏向器103を制御する走査装置113と、STEM像表示装置114とを備える。
【0003】
上記した走査透過電子顕微鏡における明暗視野検出器110の立体検出角を測定する方法を説明する。Au単結晶など、結晶構造が既知の試料を挿入し、STEM観察する条件に各レンズを設定する。次に、照射レンズ系101を調整して、試料105に平行な電子線100を入射させて蛍光板111上に回折像を表示させ、フィルム112若しくはCCDで写真を撮る。図7に示すように、試料105を透過した電子によるスポット状のパターン(透過電子スポットTS)が写真の中央に位置し、その周囲に、試料105により回折されたスポット状のパターン(回折スポットDS)が現れる。
【0004】
次に、試料105のない点に移動し、照射レンズ系101を元に戻して試料105の走査面上で電子線100を収束させ、同時に試料105と明暗視野検出器110の検出面とが共役となるように中間レンズ系106を調整する。試料105と検出面が共役なので、電子線100は検出面上でも1点に収束される。この状態でSTEM像の取得を行うと、電子線100のスポットが検出面上をスキャンし、明暗視野検出器110に当った点は輝度が高く、その他の点は輝度が低くなるため、図8のように明視野領域BL及び暗視野領域DLの形状がSTEM像として得られる。
【0005】
最後に、明暗視野検出器110を光軸から抜いて電子線100の走査を行い、露光時間を1フレームの取得時間よりも長い時間に設定して、フィルム112若しくはCCDで写真を撮る。すると、図9に示すように、フィルム112若しくはCCD上の走査領域SRを示す画像が得られる。図9の画像からフィルム112上と検出領域BL、DLの画像上の倍率の比を求めることができる。
【0006】
図9の走査領域SRの画像で求めた倍率比を図7の回折パターンの画像にかけてやれば、図8の検出領域BL、DLの画像上でどの位置にどの回折スポットDSが来るかを計算することができ、各回折スポットDSの散乱角度から立体検出角を測定することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、走査透過電子顕微鏡で使用される電子検出器として、一般的な明暗視野検出器110の代りに、検出面が複数の検出領域に分割された多分割STEM検出器を用いる場合がある。
【0008】
多分割STEM検出器は、分割された複数の検出領域について独立した検出系を備え、各検出系は、検出面上の特定の検出領域に入射した電子のみを検出する。STEMでは検出面と回折面を一致させるため、これは試料から特定の立体角領域に透過・散乱した電子を検出することに対応する。したがって、多分割STEM検出器を用いることにより、試料による電子散乱の立体角依存性を同時に取得し、定量的に評価することができるという利点がある。
【0009】
しかし、そのためには以下のような調整・測定を行う必要がある。すなわち、(1)分割された各検出系の検出感度を一致させる。(2)光軸と検出面の中心が一致するように軸調整する。(3)各検出系が検出する立体角を測定する。
【0010】
ところが、多分割STEM検出器に対する確立されたゲイン及びオフセット調整方法は存在しない。
【0011】
また、従来の検出角度の測定方法では、フィルム又は高価なCCDカメラを用いる必要があり、時間や費用がかかるなどの問題点があった。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みて成されたものであり、その目的は、多分割STEM検出器のゲイン及びオフセット調整を精度良く、且つ容易に実行する多分割STEM検出器の調整方法を提供することである。
【0013】
また、本発明の他の目的は、多分割STEM検出器の検出面の中心とSTEMの光軸とを一致させる軸調整を精度良く且つ容易に実行する多分割STEM検出器の調整方法を提供することである。
【0014】
更に、本発明の他の目的は、多分割STEM検出器における検出立体角の測定を精度良く且つ容易に実行する多分割STEM検出器の調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の特徴は、走査透過電子顕微鏡の光軸上に配置された円状のシンチレータと、シンチレータから出力される光が入射される複数の光ファイバからなる光ファイバ束と、光ファイバ束を介してシンチレータから出力される光を受光する複数の光電子増倍管(PMT)とを備え、シンチレータの検出面は、その動径方向及び偏角方向に複数の検出領域に分割され、且つ、複数の光電子増倍管は、検出領域毎に、シンチレータから出力される光を受光する多分割STEM検出器の調整方法に関する。この調整方法では、シンチレータの検出面全体に電流密度が均一な電子線を照射し、電子線の照射によって各光電子増倍管から出力される検出信号の強度を測定し、各光電子増倍管から出力される検出信号の強度が、検出領域の面積に比例するように、検出領域毎に多分割STEM検出器のゲイン及びオフセットを調整する。
【0016】
本発明の特徴によれば、上記手順を実行することにより、多分割STEM検出器のゲイン及びオフセット調整を精度良く、且つ容易に実行することができる。
【0017】
本発明の特徴において、最も面積が大きい検出領域に対応する光電子増倍管から出力される検出信号の強度が最大値をとるようにゲインを調整し、光軸上におけるシンチレータの前段に配置されたシャッターにより、シンチレータに入射する電子線を遮蔽した状態において、各検出信号の強度がゼロとなるようにオフセットを調整してもよい。これにより、各光電子増倍管から出力される検出信号の強度が、検出領域の面積に比例するように、検出領域毎に多分割STEM検出器のゲイン及びオフセットを調整することができる。
【0018】
本発明の特徴において、シンチレータの検出面上に収束された電子線を検出面上において走査し、電子線の走査によって各検出領域の画像を取得し、取得された画像から各検出領域の面積の比を計算してもよい。これにより、各光電子増倍管から出力される検出信号の強度を検出領域の面積に比例させることができる。
【0019】
本発明の特徴において、複数の電流密度についてそれぞれ調整された複数のゲイン及びオフセットを記憶装置に保存し、複数のゲイン及びオフセットの中から、走査透過電子顕微鏡の使用条件に応じて一以上のゲイン及びオフセットを選択してもよい。これにより、ゲイン及びオフセットの調整作業が簡略化され、調整時間を短縮することができる。
【0020】
上記した調整方法によって、多分割STEM検出器を調整した後、シンチレータの検出面の中心から同じ距離に位置する2以上の検出領域におけるSTEM像の輝度が一致するように、シンチレータの軸調整を行ってもよい。これにより、多分割STEM検出器の検出面の中心とSTEMの光軸とを一致させる軸調整を精度良く且つ容易に実行することができる。
【0021】
上記した調整方法によって、多分割STEM検出器を調整した後、回折像の透過スポット位置を複数の回折スポット位置に移動させるPL偏向器の偏向量を記憶し、検出領域の画像において、PL偏向器を同量偏向させた場合の移動前と移動後の画像の移動量から、シンチレータの検出面での各回折スポット位置を計算し、シンチレータの検出立体角を得てもよい。これにより、多分割STEM検出器における検出立体角の測定を精度良く且つ容易に実行することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明の多分割STEM検出器の調整方法によれば、多分割STEM検出器のゲイン及びオフセット調整を精度良く、且つ容易に実行することができる。
【0023】
また、本発明の多分割STEM検出器の調整方法によれば、多分割STEM検出器の検出面の中心とSTEMの光軸とを一致させる軸調整を精度良く且つ容易に実行することができる。
【0024】
更に、本発明の多分割STEM検出器の調整方法によれば、多分割STEM検出器における検出立体角の測定を精度良く且つ容易に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係わる多分割STEM検出器を備える走査透過電子顕微鏡の概略構成を示す模式図である。
【図2】図1の多分割STEM検出器510の具体的な構成を示す模式図である。
【図3】図2のシンチレータ601の検出面DFの分割例を示す平面図である。
【図4】図4(a)は、透過電子スポットTSを、PL偏向器508を用いて蛍光板511の中心に移動させた状態のSTEM像を示す模式図であり、図4(b)は、回折電子スポットDSを、PL偏向器508を用いて蛍光板511の中心に移動させた状態のSTEM像を示す模式図である。
【図5】図5(a)〜図5(d)は、検出領域DRの画像の移動と、相互相関画像スポットの移動の例を示す模式図である。
【図6】従来技術に関わる一般的な明暗視野検出器110を用いた走査透過電子顕微鏡(STEM)の基本構成を示す模式図である。
【図7】図6のSTEMによる回折パターンの一例を示す模式図である。
【図8】検出領域の画像の一例を示す模式図である。
【図9】走査領域SRの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0027】
図1を参照して、本発明の実施の形態に係わる多分割STEM検出器を用いた走査透過電子顕微鏡(STEM)の概略構成を示す模式図である。
【0028】
STEMは、電子線500を射出する電子銃(図示せず)と、射出された電子線500を収束させる照射レンズ系501と、観察対象となる試料505上の収束角を制限するCL絞り502と、試料505上の照射位置を走査するためのCL偏向器503と、電子線500を試料505上に収束させ、透過散乱電子を結像する対物レンズ504と、対物レンズ504の像面若しくは後方焦点面(回折面)を投影レンズ507の物面に結像する中間レンズ系506と、中間レンズ系506の像面を多分割STEM検出器510の検出面上に結像する投影レンズ507と、多分割STEM検出器510の検出面上での電子線500照射位置を移動させるPL偏向器508と、多分割STEM検出器510への電子線500照射をカットするシャッター509と、多分割STEM検出器510と、蛍光板511と、CL偏向器503を制御する走査装置513と、STEM像表示装置514と、各検出系のゲイン及びオフセットの設定値やPL偏向器508の偏向量などを記憶しておく記憶装置515とを備える。
【0029】
観察時には、照射レンズ系501を調整して、試料505の表面上に電子線500を収束させ、多分割STEM検出器510の検出面が対物レンズ504の後方焦点面と共役になるように中間レンズ系506を調整する。次に、走査装置513がCL偏向器503の偏向量を制御し、試料505上を走査しながら多分割STEM検出器510の検出信号を取り込み、各点の検出信号の強度を画像上のピクセル輝度としたSTEM像をSTEM像表示装置514に表示する。
【0030】
図2を参照して、図1の多分割STEM検出器510の具体的な構成を説明する。多分割STEM検出器510は、電子線500の光軸上に配置された円状のシンチレータ601と、シンチレータ601から出力される光が入射される複数の光ファイバからなる光ファイバ束602と、光ファイバ束602を介してシンチレータ601から出力される光を受光する複数の光電子増倍管(PMT)603とを備える。
【0031】
シンチレータ601の検出面DFは、その動径方向及び偏角方向に複数の検出領域に分割されている。また、複数の光電子増倍管603は、検出領域毎に、シンチレータ601から出力される光を受光する。すなわち、検出領域と同じ数の光電子増倍管603が光ファイバ束602に接続されている。図2に示す例では、16個の光電子増倍管603が光ファイバ束602に接続されている。各光電子増倍管603の後段には前置増幅器604が設置され、光電子増倍管603から出力される検出信号を増幅するとともに検出信号にオフセットを加える。
【0032】
16個の検出系は、それぞれ、シンチレータ601の各検出領域DRと、検出領域DRから射出された光を伝送する光ファイバと、この光ファイバを介して検出領域DRから射出された光を受光する光電子増倍管603と、前置増幅器604とからなる。本発明の実施の形態に係わる検出系のゲイン及びオフセットの調整とは、これら検出系を構成する部材の各ゲイン及びオフセットを調整することが含まれる。
【0033】
図3を参照して、図2のシンチレータ601の検出面DFの分割例を説明する。シンチレータ601の検出面DFは、その動径方向に4つに分割され、且つ偏角方向に4つに分割された4×4=計16個の検出領域DR1〜DR16からなる。また、図2に示した16個の光電子増倍管603は、光ファイバを介して各検出領域DR1〜DR16にそれぞれ接続され、シンチレータ601の各検出領域DRから出力される光を受光する。
【0034】
次に、図1〜図3に示した走査透過電子顕微鏡における調整方法及び測定方法を説明する。
【0035】
<1.ゲイン及びオフセットの調整>
(イ)上記した走査透過電子顕微鏡における各検出系のゲイン及びオフセットを調整する時には電子線500の走査は停止し、多分割STEM検出器510の検出面DF全体に均一な電子線500を照射する。これは、電子線500を試料505の無い位置に移動し、中間レンズ系506と投影レンズ507を調整して、カメラ長を十分長く取ることにより実現できる。
【0036】
(ロ)オフセットの調整では、光軸上におけるシンチレータ601の前段に配置されたシャッター509により電子線500を遮断して、多分割STEM検出器510に電子線500が当らない状態において、各検出系の検出信号を計測する。そして、各検出系の出力がゼロとなるように、例えば前置増幅器604のオフセットを調整する。このオフセット調整は、光電子増倍管603の暗電流による検出信号のオフセット分を前置増幅器604のオフセットでキャンセルすることに対応する。
【0037】
(ハ)ゲインの調整では、シャッター509を開放して多分割STEM検出器510に電子線500を照射し、各検出系の出力が目標値になるようにゲインを調整する。ゲイン調整では、光電子増倍管603に印加する電圧を変化させる。これにより、1個の電子がシンチレータ601に入射した場合に光電子増倍管603から出力される電子の量が調整される。
【0038】
具体的には、最も面積が大きい図3の検出領域DRに対応する光電子増倍管604から出力される検出信号の強度が最大値をとるようにゲインを調整する。例えば、検出面積が最も大きい図3の検出領域DR13〜16に対応する検出系の出力が前置増幅器604の最大出力になるように、検出領域DR13〜16に対応する検出系のゲインを調整する。
【0039】
その他の検出系の出力は、検出面積比を最大出力にかけた値になるように設定する。例えば、各光電子増倍管603から出力される検出信号の強度が、検出領域DRの面積に比例するように、検出領域DR毎に多分割STEM検出器510のゲインを調整する。
【0040】
なお、各検出領域DRの面積比は設計値を用いればよい。また或いは、以下に示す手順により、検出領域DRの画像から面積比を計算して使用してもよい。すなわち、先ず、シンチレータ601の検出面DF上に収束された電子線500を検出面DF上において走査する。電子線500の走査によって各検出領域DRの画像を取得する。最後に、取得された画像から各検出領域DRの面積の比を計算すればよい。
【0041】
(ニ)ゲインの調整を行うと暗電流が変化するため、上記したオフセット調整と、ゲイン調整を調整値が変化しなくなるまで、或いは所定値以下になるまで繰り返し実施する。このアルゴリズムは単純で容易に自動化できる。
【0042】
(ホ)上記したゲイン及びオフセットの調整が終了した後、ゲイン及びオフセットの値と、蛍光板511を用いて測定した照射電流密度とをあわせて記憶装置513に保存する。上記したゲイン及びオフセットの調整及び記憶装置513へのデータ保存を、複数の照射電流密度について予め行う。そして、試料505を観察する時には、複数のゲイン及びオフセットの中から、走査透過電子顕微鏡の使用条件に応じて一以上のゲイン及びオフセットを選択し、当該ゲイン及びオフセットの値を記憶装置513から読み出して設定する。具体的には、試料505のSTEM像が暗い場合はより照射電流密度の小さい調整値を、STEM像がサチュレーションを起している場合はより照射電流密度の大きい調整値を使用すればよい。
【0043】
なお、総ての検出系に同じ電流密度での調整結果を使用した場合、得られた複数のSTEM像の輝度の比がそのまま各検出系に入射した電子量を表しているため、定量分析に都合がよい。一方で、試料505とカメラ長によっては外周部の検出系に入射する電子量が少なくなるため、このような場合は外周部にのみ照射電流密度の低い調整値を使用し、十分なS/N比を確保することも可能である。
【0044】
<2.多分割STEM検出器510の軸調整>
上記したゲイン及びオフセットの調整が終了した後に、同じ半径及び面積の検出領域DRに対応する検出系のSTEM像の平均輝度が一致するように、多分割STEM検出器510の機械軸もしくはPL偏向器508を調整する。換言すれば、シンチレータ601の検出面DFの中心から同じ距離に位置する2以上の検出領域DRにおけるSTEM像の輝度が一致するように、シンチレータ601の機械的な軸もしくはPL偏向器508の調整を行う。
【0045】
検出感度が同じ値に調整され、電子線500の電子分布はほぼ回転対称であり試料505による非対称性も電子線500を走査することにより平均化される。よって、精度良く電子線500の光軸と多分割STEM検出器510の中心を合わせることができる。試料505の影響が強い場合には試料505のない部分で調整を行った後、観察する場所に移動する。
【0046】
実際には、検出面DFの中心に対して点対称な検出領域DR、例えば、図7のDR9、DR11、DR10、DR12の検出信号の差の二乗和を評価関数とし、最速降下法などを用いることにより、自動で精度の高い軸調整を行うことができる。ただし、予め検出領域DRの画像などからある程度の粗い機械的な軸調整を行っておく必要がある。
【0047】
一般的な薄い試料505のSTEM観察における電子線500の分布は透過電子の割合が多く、散乱電子の割合が少ない。そのため、明視野と暗視野の境目に対応する半径の検出系の信号強度は軸ずれに対して敏感であり、これらの検出系を評価関数に用いることにより精度を上げることができる。
【0048】
また、OLデフォーカスでの画像移動を用いる方法等、他の方法で軸を調整した後に残るCL絞り502の位置ずれ補正においても、同様の方法を使用することができる。この場合には、CL絞り502の位置を動かして軸調整を行う。
【0049】
<3.検出立体角の測定>
回折像のスポットが検出面DFのどの位置に来るかが分れば、各検出系の検出立体角を計算することができる。
【0050】
(い)先ず、蛍光板511上に回折像を表示させる。そして、図4(a)及び図4(b)に示すように、透過電子スポットTSと、幾つかの回折スポットDSを、それぞれ、PL偏向器508を用いて蛍光板511の中心に移動させる。そのときのPL偏向器508による電子線500の偏向量から、透過電子スポットTSから各回折スポットDSに移動するために必要な偏向量を計算し、記憶装置515に記憶する。
【0051】
(ろ)次に、照射レンズ系501と中間レンズ系506を制御して、検出領域DRのSTEM画像を表示させ、予め測定しておいた各回折スポットDSへの偏向量だけでPL偏向器508で電子線500を偏向させる。偏向前と偏向後の画像を取得すると、図5(a)及び図5(c)に示すように、検出面DFの位置のずれた2枚の画像を取得できる。
【0052】
PL偏向器508の偏向感度は中間レンズ系506を変えても変化しない。このため、図5(a)及び図5(c)に示した2枚の画像の位置ずれは、検出面DF上での透過電子スポットTSから回折スポットDSへの移動量に等しい。また、図5(b)及び図5(d)に示すように、相互相関関数のスポット位置は、検出面DF上での回折スポットDSの位置と一致する。
【0053】
(は)図5(b)及び図5(d)に示した回折スポットDS位置の画像と、図5(a)及び図5(c)に示した検出領域DRの画像を比較することにより、各検出系の検出立体角を計算することができる。
【0054】
以上説明したように、本発明の実施の形態によれば、以下の作用効果が得られる。
【0055】
検出面DFに電流密度の一様な電子線500を照射しながらゲイン及びオフセットの調整を行うことにより、多分割STEM検出器510の軸ずれの影響などを受けずに検出感度を一致させることができる。
【0056】
シンチレータ601の検出面DF全体に電流密度が均一な電子線500を照射し、各光電子増倍管603から出力される検出信号の強度が、検出領域DRの面積に比例するように、検出領域DR毎に多分割STEM検出器510のゲイン及びオフセットを調整する。これにより、多分割STEM検出器510のゲイン及びオフセット調整を精度良く、且つ容易に実行することができる。
【0057】
最も面積が大きい検出領域DRに対応する光電子増倍管603から出力される検出信号の強度が最大値をとるようにシンチレータ601の印加電圧(ゲインの一例)を調整する。そして、光軸上におけるシンチレータ601の前段に配置されたシャッター509により、シンチレータ601に入射する電子線500を遮蔽した状態において、各検出信号の強度がゼロとなるように前置増幅器604のオフセットを調整する。これにより、各光電子増倍管603から出力される検出信号の強度が、検出領域DRの面積に比例するように、検出領域DR毎に多分割STEM検出器510のゲイン及びオフセットを調整することができる。
【0058】
シンチレータ601の検出面DF上に収束された電子線500を検出面DF上において走査し、電子線500の走査によって各検出領域DRの画像を取得し、取得された画像から各検出領域DRの面積の比を計算する。これにより、各光電子増倍管603から出力される検出信号の強度を検出領域DRの面積に比例させることができる。
【0059】
複数の電流密度についてそれぞれ調整された複数のゲイン及びオフセットを記憶装置515に保存し、複数のゲイン及びオフセットの中から、走査透過電子顕微鏡の使用条件に応じて一以上のゲイン及びオフセットを選択する。これにより、ゲイン及びオフセットの調整作業が簡略化され、調整時間を短縮することができる。
【0060】
また、各検出系の検出信号の強度を用いて軸調整を行うことにより、STEM観察を行うレンズ条件で軸調整を行うことができ、高い精度で調整できる。
【0061】
上記した調整方法によって多分割STEM検出器のゲイン及びオフセットを調整した後、シンチレータ601の検出面SFの中心から同じ距離に位置する2以上の検出領域DRにおけるSTEM像の輝度が一致するように、シンチレータ601の軸調整を行う。これにより、多分割STEM検出器の検出面DFの中心と走査透過電子顕微鏡の光軸とを一致させる軸調整を精度良く且つ容易に実行することができる。
【0062】
更に、回折像と検出領域DRの画像のPL偏向器508による移動量を比較することで検出立体角を測定する。これにより、高価なCCDなどを必要とせず、通常のSTEM観察に用いる装置だけで容易に検出立体角を測定できる。
【0063】
上記した調整方法によって多分割STEM検出器のゲイン及びオフセットを調整した後、回折像の透過スポット位置を複数の回折スポット位置に移動させるPL偏向器508の偏向量を記憶装置515に記憶する。検出領域DRの画像において、PL偏向器508を同量偏向させた場合の移動前と移動後の画像の移動量から、シンチレータ601の検出面DFでの各回折スポット位置を計算して、シンチレータ601の検出立体角を得る。これにより、多分割STEM検出器510における検出立体角の測定を精度良く且つ容易に実行することができる。
【0064】
上記のように、本発明は、1つの実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。すなわち、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を包含するということを理解すべきである。したがって、本発明はこの開示から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ限定されるものである。
【符号の説明】
【0065】
500 電子線
509 シャッター
601 シンチレータ
602 光ファイバ束
603 光電子増倍管(PMT)
604 前置増幅器
DF 検出面
DR 検出領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査透過電子顕微鏡の光軸上に配置された円状のシンチレータと、当該シンチレータから出力される光が入射される複数の光ファイバからなる光ファイバ束と、前記光ファイバ束を介して前記シンチレータから出力される光を受光する複数の光電子増倍管とを備え、前記シンチレータの検出面は、その動径方向及び偏角方向に複数の検出領域に分割され、且つ、前記複数の光電子増倍管は、前記検出領域毎に、前記シンチレータから出力される光を受光する多分割STEM検出器の調整方法であって、
前記シンチレータの検出面全体に電流密度が均一な電子線を照射し、
前記電子線の照射によって各光電子増倍管から出力される検出信号の強度を測定し、
前記各光電子増倍管から出力される検出信号の強度が、前記検出領域の面積に比例するように、前記検出領域毎に前記多分割STEM検出器のゲイン及びオフセットを調整する
ことを特徴とする多分割STEM検出器の調整方法。
【請求項2】
最も面積が大きい前記検出領域に対応する光電子増倍管から出力される検出信号の強度が最大値をとるように前記ゲインを調整し、
前記光軸上におけるシンチレータの前段に配置されたシャッターにより、前記シンチレータに入射する前記電子線を遮蔽した状態において、各検出信号の強度がゼロとなるように前記オフセットを調整する
ことを特徴とする請求項1に記載の多分割STEM検出器の調整方法。
【請求項3】
前記シンチレータの検出面上に収束された電子線を当該検出面上において走査し、
前記電子線の走査によって各検出領域の画像を取得し、
取得された画像から各検出領域の面積の比を計算する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の多分割STEM検出器の調整方法。
【請求項4】
複数の電流密度についてそれぞれ調整された複数のゲイン及びオフセットを記憶装置に保存し、
前記複数のゲイン及びオフセットの中から、走査透過電子顕微鏡の使用条件に応じて一以上のゲイン及びオフセットを選択する
ことを特徴とする請求項1に記載の多分割STEM検出器の調整方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の多分割STEM検出器の調整方法によって、多分割STEM検出器を調整した後、前記シンチレータの検出面の中心から同じ距離に位置する2以上の前記検出領域におけるSTEM像の輝度が一致するように、前記シンチレータの軸調整を行うことを特徴とする多分割STEM検出器の調整方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の多分割STEM検出器の調整方法によって、多分割STEM検出器を調整した後、
回折像の透過スポット位置を複数の回折スポット位置に移動させるPL偏向器の偏向量を記憶し、
前記検出領域の画像において、前記PL偏向器を同量偏向させた場合の移動前と移動後の画像の移動量から、前記シンチレータの検出面での各回折スポット位置を計算し、前記シンチレータの検出立体角を得る
ことを特徴とする多分割STEM検出器の調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−243516(P2011−243516A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116906(P2010−116906)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】