説明

多収穫米の高機能化米を製造する方法

【課題】小麦粉に代わる米粉の付加価値を高めるため、特に糠に含まれているビタミン類
を米実の部分に移行する方法について提供するものである。
【解決手段】籾米を水中に浸漬し、含水率30%以上になった後、100℃の飽和蒸気で45分以上、曝すことにより、糠に多量に含まれるビタミン等の栄養素等を米実部分に移行させた後、乾燥工程で、55℃〜65℃の温風乾燥し、ビタミン等の栄養素等を米実部分に閉じ込める様にし、原料である多収穫米の籾すり・精米が、日本型のジャポニカ種用の籾すり機・精米機で容易に行え、また防虫・防かび効果が得られるので、この多収穫米の保管・管理も容易となり、更にいずれも安価な費用で提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多収穫米の胚乳や糠層に豊富に含まれるビタミン等を低コストで効率的に米の実の部分に移行、含侵させる高栄養価米の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多収穫米(インディカ種)は、日本の主食米(ジャポニカ種)に比較すると、粘り気が少なく、パサパサしており、日本人の嗜好に合わないため,日本では、あまり栽培されておらず、たまに家畜のエサ米として栽培されている。最近、国は、国内の食糧自給率向上及び、水田の保全のため、多収穫米の栽培を推奨している。一般的に、多収穫米のうち収穫量の多いものは、日本人が主食米としているジャポニカ種に比べて約2倍収穫できる。また栽培方法も、ジャポニカ種に比べて簡単であり、経済的にも安く栽培できることから、その普及拡大が図られている。従来より、海外では、米の加工法としてパーボイルド法がある、これは、精白米と同様な白さを保ち料理の手軽さ、調理後も長時間、味が変わらない等の目的で行われている。(特許文献1)
日本では、主食米(ジャポニカ種)を精米して、同様な方法でα米を製造し、インスタント食品用として一部販売されているにすぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−289753
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法は、精白米と同様な白さを保っこと、料理の手軽さ、調理後も長時間、味が変わらないこと等の前提条件で、パーボイルドライスを簡易、有効かつ急速に製造することができるような熱処理条件を決めているが、健康志向の現在においては、低カロリーで、高栄養価米の加工技術を訴求する必要がある。
【0005】
日本で食用として栽培されているジャポニカ種は、籾のままで温度湿度等を一定にして、保管・管理されているため、保管費用が高く、別の経済的な方法を検討する必要がある。
【0006】
多収穫米はインディカ種のため、籾すりを生のままで日本型のジャポニカ種用の籾すり機で行った場合、約1/3程度の籾米が破砕される。この対策のためには、高価なインディカ種用の籾すり機を海外から購入せず、別の経済的な方法を検討する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本件発明では、籾米を飽和蒸気で曝し米実を糊化さすため、含水量が30%以上になるまで、水温20〜25℃の水中に20時間浸漬する。この結果、この間に、糠の栄養分が水に溶け、籾米に移行する。この籾米を層状にして、トレイ(セイロ)に入れ、蒸し器で、約100℃の飽和蒸気に45分以上曝し糊化さすことにより、これら栄養分が米実部分に入る。乾燥工程において、乾燥用温風温度55℃〜65℃のとき米実部分に移行したビタミンB1の含有量が最大になる。即ちこの処理前後のビタミンB1の含有率が最大になる。
【0008】
籾米を飽和蒸気に曝し乾燥することにより、米実の部分が糊化し硬くなるので、籾すり時の籾米の破砕率を大幅に少なくすることが出来る。
【0009】
籾米を飽和蒸気に曝すことで、糠部に生息する虫・卵が死滅する、さらに米実を糊化・乾燥することで硬くし、ネズミ等の害を防げる。また米実部の含水率を極く小さくするよう乾燥し、カビの発生を防ぐことが出来る。
【発明の効果】
【0010】
多収穫米は、「こしひかり」のような主食用の米と比較して、収穫量が2倍であり、栽培の手間もかからないことから、安く生産できる。本発明による方法で処理した高栄養価米は、処理しない生の米に比べビタミンB1で3.8倍(玄米)〜3.6倍(精米)と含有率が高くなることを栄養分析により確認した。
この処理を行った多収穫米で、高栄養価の米粉を製造し、それ原料とする食品を作り、安く提供できる。また主食用のジャポニカ米に、この熱処理を行い、より高栄養価の主食米を提供できる。
【0011】
籾すりを、生のままで日本型のジャポニカ種用の籾すり機で行った場合、かなりの量(約1/3程度)の籾米が破砕される。この対策のために、本件発明による多機能化処理すると、籾殻が、殆どはがれ、米実部分が硬くなるので、日本で広く使用されているジャポニカ種用の籾すり機を十分活用できる。米実部分の破砕は殆ど生じない。今後、多収穫米の普及に伴い、本件発明による多機能化処理の必要性が高まりものと思われる、時機を得た処理方法として、広く提供できる。
【0012】
本件発明による多機能化処理を行えば、糠部に生息する虫・卵が死滅する、さらに米実を糊化・乾燥することで硬くし、ネズミ等の害を防げる。また米実部の含水率を極く小さくするよう乾燥し、カビの発生を防ぐことが出来き、経済的な保管・管理方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】糠に含まれる栄養素を米実部に移行させると同時に米の多機能化を図るシステム全体を示す図である。
【図2】代表的な栄養素ビタミンB1の移行試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
設備の熱源には、CO発生させないシステムとするため、木材チップ等のカーボンニュートラルなバイオマス燃料用ボイラー又は、利用可能な廃熱を回収するボイラーを設置する。装置は省エネルギーを図り、省水資源システムとする。籾米に水を吸収させるために、浸漬用水槽を設け、籾米の含水率を30%以上にする。浸漬後、籾米を5cm程度の層状にして、トレイに入れ、蒸し器で飽和蒸気に45分以上曝す。曝した籾米を約55℃〜65℃の温風にて乾燥する。以下本発明の実施例を詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
多収穫米の高栄養化及び多機能化処理の全体システムについて、図1に示す。
蒸し器で、澱粉の糊化を容易にするため、まず籾米を図1の1「籾米浸漬用水槽」に約20時間、漬けて、含水率を30%以上にする。省エネの観点から、水槽の水温は、常温20℃〜25℃とし、時間をかけて浸漬する(含水率を30%以上にするための水温と浸漬時間について試験を行い、省エネ観点から水温・時間を決定した)。水切りした後、籾米は規定量の籾米を、図1の2蒸し器用トレイ(セイロ)に、蒸気処理が均質に行えるよう5cm程度の層状にして入れ、図1の3「浸漬・乾燥籾米運搬ラック」に乗せて図1の4「浸漬籾米蒸し器」に運ぶ。蒸し器に入れた籾米は、100℃の飽和蒸気を連続的に送り、45分以上、飽和蒸気中に曝す熱処理を行う。(曝す時間は試験結果から決定) なお蒸し器は、一度に、トレイを4段収納できる構造とする。蒸気中に曝した後の籾米を、図1の5「浸漬・乾燥籾米運搬ラック」に乗せ図1の6「乾燥室」に運び温風乾燥する。
【0016】
籾米を水中に浸漬している間に、糠の栄養分が水に溶け、籾米に移行する。この籾米を蒸し器で、約100℃の飽和蒸気に45分以上曝し糊化さすことにより、これら栄養分が米実部分に入る。乾燥工程において、乾燥用温風温度55℃〜65℃のとき米実部分に移行したビタミンB1の含有量が最大になる。即ちこの処理前後のビタミンB1の含有率が最大になる。乾燥用温風温度により、米実部分のビタミンB1量に差異があることが、事前の試験で分かった。図2に示す試験結果から、最適な乾燥温度約55℃〜65℃と乾燥時間約20時間を決定した。当熱処理をしなかった場合に比べ、玄米でビタミンB1は3.8倍、精米で3.6倍と言う結果をもとに、高栄養価米を製造し、その米を活用し高栄養価の米粉を製造し食品用米粉として提供する。
【実施例2】
【0017】
この、多収穫米の高栄養化処理は、同時に多機能化処理にもなる。米の澱粉部分が糊化するので、乾燥後、籾殻が剥がれ易くなり、米実部分も硬くなることから、多収穫米の様なインディカ種であっても、籾すりが日本国内で使用されているジャポニカ種用の籾すり機で行え、米の破砕が殆ど生じない。
また、この多機能化処理により、糠部に生息する虫・卵が死滅し、また、米実が糊化・乾燥することで硬化し、ネズミ等の害を防げる。また乾燥により、米実部の含水率が極めて小さくなるよう乾燥し、カビの発生を防ぐことが出来き、経済的な保管・管理方法を提供できる。
更に、処理した米は、蒸気で蒸すことにより糊化しているので、水に漬けると、約30分以上で柔らかくなる。牛の飼料として生の多収穫米玄米を与えると、消化が悪い、この処理をすれば、多収穫米を玄米の状態で家畜餌に活用できる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
穀物の世界的な高騰から、国は多収穫米を栽培し、米粉を製造し食品用として使用することを勧めている。このため、今後米粉製造が活発になることが予想され、原料としてより安く、より付加価値の高いものを求めるとともに、原料を保管・管理する方法として、より安い方法が求められると想定できる。こうした状況下で、本発明による処理技術は、時機を得たものであり、この処理技術を提供することにより、安い米粉を提供できるようになる。
【0019】
当処理をした多収穫米の玄米は高栄養価米となり、かつ、水中に約30分以上漬しておくと軟らかくなる。この特性を利用して、牛の餌さとして、活用できる。(生の牛の餌さにする場合、多収穫米では、2mm以下に粉砕しないと胃袋内での消化率が悪い)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
籾米を水中に浸漬し、含水率30%以上になった後、100℃の飽和蒸気で45分以上、曝すことにより、糠に多量に含まれるビタミン等の栄養素等を米実部分に移行させた後、
乾燥工程で、55℃〜65℃の温風乾燥し、ビタミン等の栄養素等を米実部分に閉じ込める様にしたことを特徴とする多収穫米の高機能化米を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−246444(P2010−246444A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97969(P2009−97969)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(309002400)
【出願人】(309003072)
【出願人】(000236090)菱農エンジニアリング株式会社 (2)
【Fターム(参考)】