説明

多孔フィルム及びその製造方法

【課題】シワ故障及びハガレ故障を抑えつつ、多孔フィルムを効率よく製造する。
【解決手段】水の接触角が所定値以上の支持体27に対し、ポリマーが溶媒に溶解した溶液を塗布する。塗布により、支持体27の表面上に塗布膜29を形成する。塗布膜29に湿潤空気402をあてる。結露により、塗布膜29の表面29aに水滴410が形成する。引き続き、湿潤空気402の供給により、塗布膜29を貫通するように水滴410が成長する。支持体27の表面における水の接触角が所定値以上であるため、水滴410が、支持体27及び塗布膜29の間に入り込まない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔フィルム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、光学分野や電子分野では、集積度の向上や情報量の高密度化、画像情報の高精細化といった要求がますます大きくなっている。そのため、これらの分野に用いられるフィルムに対しては、より微細な構造(微細パターン構造)を形成すること(微細パターニング)が強く求められている。また、再生医療分野の研究においては、表面に微細な構造を有するフィルムが、細胞培養の場となる材料として有効である。
【0003】
フィルムの微細パターニングには、マスクを用いた蒸着法、光化学反応ならびに重合反応を用いた光リソグラフィ技術、レーザーアブレーション技術など種々の方法が実用化されている。
【0004】
上記以外のフィルムの微細パターニングとして、結露を利用して、多孔フィルムをつくる方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。この多孔フィルムの製造方法の概略について簡単に説明する。まず、多孔フィルムの原料となるポリマーが溶媒に溶解してなる疎水性溶液を支持体上に塗布して、支持体上に塗布膜を形成する。次に、塗布膜の表面に湿潤空気をあてると、結露により水滴が表面に形成する。形成した水滴は毛細管力等により配列する。引き続き、湿潤空気を供給することにより、形成した水滴は成長する。そして、水滴が所望の寸法まで成長した後、湿潤空気の供給を止める。その後、所定の気体を供給して、塗布膜から溶媒を蒸発させる。これにより、塗布膜をなす溶液の流動性が低下する。塗布膜に乾燥空気をあてて水滴を蒸発させることにより、水滴が鋳型となって孔が形成される結果、多孔フィルムを得ることができる。
【0005】
多孔フィルムは、その形状から、孔が多孔フィルムを貫通するタイプ(以下、貫通タイプと称する)と、孔が多孔フィルムを貫通せずに窪むにとどまるタイプ(以下、窪みタイプと称する)とに大別される。また、多孔フィルムは、製品形態から、支持体と一体となって用いられる一体型と、多孔フィルム単体で用いられる単体型がある。この貫通タイプ及び窪みタイプ、そして、一体型及び単体型の組み合わせは、多孔フィルムの用途に応じて適宜選択される。
【0006】
多孔フィルムの用途は、フィルター(例えば、血液ろ過膜等)、癒着防止膜、撥水性被覆材や細胞の培養基材などがある。そして、貫通孔が必須となるフィルター向けには、貫通タイプの多孔フィルム(単体型)が用いられる。また、窪みが必須となる癒着防止膜向けには、窪みタイプの多孔フィルム(単体型又は一体型)や貫通タイプ(一体型)が用いられる。更に、撥水性被覆材や細胞の培養基材は、貫通孔が必須となる場合や窪みが必須の場合があるため、その用途に応じて、所定の多孔フィルムが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−157574号公報
【特許文献2】特開2007−291367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、塗布膜から溶媒を蒸発させる工程において、塗布膜にシワが生じてしまう故障(以下、シワ故障と称する)、あるいは、塗布膜の一部が支持体から剥がれてしまう故障(以下、ハガレ故障と称する)が発生してしまう。シワ故障やハガレ故障が発生した場合には、最終的に得られる多孔フィルムを使用する際、様々な弊害が起こってしまう。
【0009】
例えば、一体型の多孔フィルムを製品として用いる場合には、多孔フィルムが支持体から剥がれてしまう、または、多孔フィルムが破れやすくなってしまう。また、単体型の多孔フィルムを製品として用いる場合には、多孔フィルムが破れやすくなってしまう。
【0010】
用途別に見れば、多孔フィルムをフィルターとして用いる場合、シワ故障が起こった部分では、フィルターの目が目的とする大きさよりも小さくなってしまう。更に、ハガレ故障が起こった部分では、フィルターの目が目的とする大きさよりも大きくなってしまう。また、多孔フィルムを細胞培養の基材として用いる場合、細胞が所期の形態で培養されないこととなる。そして、一体型の多孔フィルムを水中、または水と接する環境で用いる場合には、シワ故障やハガレ故障が起こった部分に水が侵入しやすくなる結果、多孔フィルムが支持体から剥がれやすくなってしまう。
【0011】
更に、いずれの製品形態であっても、製品の外観上好ましくないものとなってしまう。
【0012】
発明者の鋭意検討の結果、シワ故障やハガレ故障は、塗布膜に形成された水滴の挙動に起因することを突き止めた。本発明は、上記課題を解決するものであり、シワ故障やハガレ故障の発生を抑えつつ、多孔フィルムを製造することができる多孔フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の多孔フィルムの製造方法は、支持体の表面に対し、この表面における水の接触角を大きくするための表面処理を行う接触角増大化工程と、前記接触角増大化工程を経た支持体の表面上にポリマー及び溶媒を含む疎水性溶液からなる膜を形成する膜形成工程と、結露により前記膜の表面に水滴を形成し、前記水滴を成長させる水滴形成成長工程と、前記水滴を有する前記膜から前記溶媒を蒸発させる溶媒蒸発工程と、前記溶媒蒸発工程を経た前記膜から前記水滴を蒸発させて、前記水滴を鋳型とする孔を前記膜に形成する水滴蒸発工程とを有することを特徴とする。
【0014】
前記接触角増大化工程を経た前記支持体における水の接触角θwは、前記接触角増大化工程を経た前記支持体における前記疎水性溶液の接触角θsよりも高いことが好ましい。また、前記接触角増大化工程を経た前記支持体の表面における水の接触角θwは、20°以上であることが好ましい。更に、前記水滴形成成長工程では、前記膜を貫通する大きさになるまで前記水滴を成長させることが好ましい。
【0015】
また、本発明の多孔フィルムは、水の接触角が大きいものとなった表面を有する支持フィルムと、この支持フィルムの表面に設けられ、貫通孔を有する多孔層とを有し、前記多孔層は主成分としてのポリマー及びこのポリマーが可溶な溶媒を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、所定の表面処理によって水の接触角が増大した支持体の表面上にポリマー及び溶媒を含む疎水性溶液からなる膜を形成するため、結露により膜の表面に水滴を形成させた後、膜と支持体の表面との間に水が侵入することを防ぐことができる。したがって、本発明によれば、膜と支持体の表面との間に侵入した水に起因するシワ故障及びハガレ故障を抑えつつ、多孔フィルムを製造することができる。
【0017】
また、水に触れる環境下において多孔フィルムを用いる場合、膜及び支持体表面への水の侵入を防止することができる結果、製造後の多孔フィルムにおいてシワ故障及びハガレ故障を抑えることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】複数の貫通孔を有する多孔フィルムの概要を示す平面図である。
【図2】多孔フィルムのII−II線断面図である。
【図3】多孔フィルムのIII−III線断面図である。
【図4】2層構造であり、隣り合う孔が連通しない多孔フィルムの概要を示す断面図である。
【図5】2層構造であり、第2層に形成された孔が第2層を貫通しない場合の多孔フィルムの概要を示す断面図である。
【図6】多孔フィルム製造設備の概要を示す説明図である。
【図7】第1の多孔フィルム製造方法の概要を示すフローチャートである。
【図8】膜形成工程の概要を示す説明図である。
【図9】水滴形成成長工程において、結露によって、塗布膜の表面に水滴が形成される様子を示す説明図である。
【図10】水滴形成成長工程において、水滴が塗布膜を貫通する大きさにまで成長した様子を示す説明図である。
【図11】溶媒蒸発工程の概要を示す説明図である。
【図12】水滴蒸発工程の概要を示す説明図である。
【図13】水滴をなす水の一部が塗布膜及び支持体の間に侵入した様子を示す説明図である。
【図14】水滴をなす水の一部が塗布膜及び支持体の間に侵入した結果、隣り合う水滴が連結した様子を示す説明図である。
【図15】第2の多孔フィルム製造方法の概要を示すフローチャートである。
【図16】3層構造の第1多孔フィルムの概要を示す断面図である。
【図17】3層構造の第2多孔フィルムの概要を示す断面図である。
【図18】3層構造の第3多孔フィルムの概要を示す断面図である。
【図19】単層構造の第1多孔フィルムの概要を示す断面図である。
【図20】単層構造の第2多孔フィルムの概要を示す断面図である。
【図21】単層構造の第3多孔フィルムの概要を示す断面図である。
【図22】剥ぎ取り性の評価の概要を示す斜視図である。
【図23】剥ぎ取り性の評価の概要を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(多孔フィルム)
図1〜図2に示すように、多孔フィルム10は表面に孔11を有するものであり、第1層10aと、第1層10aに重なる第2層10bとからなる。第2層10bには孔11が設けられる。孔11は、第2層10bを貫通するように形成される。孔11は、ハチの巣状、いわゆるハニカム構造となるように第2層10bにて密に配列する。また、図3に示すように、隣り合う孔11は連通する。
【0020】
なお、本明細書において、ハニカム構造とは、上記のように、一定形状、一定サイズの孔が連続かつ規則的に配列している構造を意味する。この規則配列は単層の場合には二次元的であり、複層の場合は三次元的にも規則性を有する。この規則性は二次元的には1つの孔の周囲を複数(例えば、6つ)の孔が取り囲むように配置され、三次元的には結晶構造の面心立方や六方晶のような構造を取って、最密充填されることが多いが、製造条件によってはこれら以外の規則性を示すこともある。なお、同一平面上において、1つの孔の周囲に形成される孔の数は、6個に限らず、3〜5個或いは7個以上でも良い。
【0021】
多孔フィルム10の形態は特に限定されるものではないが、本発明は、例えば、多孔フィルム10の厚みTH1が0.05μm以上100μm以下であることが好ましく、0.1μm以上50μm以下であることがより好ましく、0.2μm以上30μm以下であることが特に好ましい。そして、この孔11の寸法や形成ピッチは、後述する製造条件によって異なるが、特に限定されるものではなく、例えば、孔11の径D1が0.05μm以上100μm以下であることが好ましく、0.1μm以上50μm以下であることがより好ましく、0.2μm以上30μm以下であることが特に好ましい。孔11の形成ピッチP1が0.1μm以上120μm以下であることが好ましく、0.1μm以上60μm以下であることがより好ましく、0.2μm以上40μm以下であることが特に好ましい。
【0022】
なお、本発明の多孔フィルムには、図4に示すように、隣り合う孔11が連通しない多孔フィルム10や、図5に示すように、孔11が第2層10bを貫通しない多孔フィルム10も含まれる。
【0023】
(多孔フィルム製造設備)
図6に示すように、多孔フィルム製造設備20は、支持体送出装置21、塗布室22、及び製品カット装置23から構成されている。支持体送出装置21は、支持体ロール26から支持体27を塗布室22に送り出す。塗布室22では、搬送される支持体27に溶液28を塗布する。溶液28の塗布により、溶液28からなる塗布膜29が支持体27の上に形成する。その後、所定の処理によって塗布膜29は、孔を有する多孔膜30となる。こうして、塗布室22では、支持体27を第1層10a(図2参照)とし、多孔膜30を第2層10b(図2参照)とする多孔フィルム10がつくられる。この後、多孔フィルム10は、塗布室22から製品カット装置23へ送り出される。
【0024】
製品カット装置23は、得られた多孔フィルム10を切断する。このカットされた多孔フィルム10をそのまま製品として用いても良いし、カットされた多孔フィルム10に各種加工を施したものを製品として用いても良い。
【0025】
溶液28は、疎水性を有するものであり、溶媒とこの溶媒に溶解するポリマーとを含む。必要に応じて、溶液28に添加剤を添加してもよい。ポリマー及び溶媒等の詳細については後述する。
【0026】
支持体27としては、溶液28を支持し、溶液28から塗布膜29を形成することのできるものであればよい。支持体27の形成材料としては、例えば、無機材料や有機材料のいずれでもよい。無機材料としては、例えば、アルミ、ステンレスやガラスなどが挙げられる。有機材料としては、例えば、セルロースアシレートフィルムやポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。
【0027】
一体型の多孔フィルムにおいて、その用途により、透明性、機械強度、変形・カールの起こりにくさ等が要求される場合がある(例えば、細胞の培養基材等)。この場合には、支持体27の形成材料としてガラスを用いることが好ましい。また、単体型の多孔フィルムの場合には、多孔膜の剥離性が良好であることが望まれる。この多孔膜の剥離性は、支持体の形成材料と多孔膜の原料ポリマーとの溶解度パラメータに依存する。したがって、支持体の形成材料として、様々な原料ポリマーとの剥離性が良好なガラスを用いることが好ましい。
【0028】
溶液28を支持する支持体27の表面はできるだけ平滑であることが好ましい。また、支持体27の表面における水の接触角θwは高いことが好ましい。例えば、水の接触角θwは、20°以上であることが好ましく、30°以上であることがより好ましい。また、支持体27の表面における溶液28の接触角θsは、水の接触角θwよりも小さいことが好ましい。溶液28の接触角θsは、例えば、20°以下であることが好ましく、例えば、15°以下であることがより好ましい。接触角θwは表面27a上に形成した水滴の形状から、接触角θsは表面27a上に形成した溶液28からなる滴の形状から、それぞれ算出することができる。
【0029】
連続的に多孔フィルム10をつくる場合には、支持体27として、長手方向に搬送する帯状のものを用いることが、生産効率の点から好ましい。なお、バッチ式に多孔フィルム10をつくる場合には、支持体27としてシート状のものを用いても良い。また、支持体送出装置21、製品カット装置23は、連続的に大量の多孔フィルム10を製造する場合に適している。したがって、製造規模に応じて、支持体送出装置21や製品カット装置23を適宜省略してもよい。
【0030】
(塗布室)
塗布室22は、支持体27の搬送方向(以下、X方向と称する)の上流側から順に、第1室31、第2室32、第3室33、第4室34に区画されている。第1室31には、塗布ダイ35が設けられる。第2室32には送風吸引ユニット36が設けられ、第3室33には送風吸引ユニット37が、第4室34には送風吸引ユニット38が設けられている。
【0031】
塗布ダイ35は、溶液28を流出するスロットを有する。塗布ダイ35は、スロットの出口が支持体27の表面27aと対向するように配される。スロットは、配管43を介して溶液28を貯留するタンク(図示しない)と連通する。配管43にはポンプ44が設けられる。図示しないタンクには、温度が所定の範囲(0℃以上30℃以下)内でほぼ一定に調節された溶液28が貯留する。ポンプ44は、タンクにある溶液28を所定の流量で塗布ダイ35へ送る。
【0032】
なお、塗布ダイ35の各部の温度を調節する温調機を設けてもよい。この温調機により、スロットを流れる溶液28の温度を所定の範囲に調整することや、塗布ダイ35、特にリップ先端部における結露を防止することが可能となる。
【0033】
第2室32には、2つの送風吸引ユニット36が、X方向に並ぶように設けられている。送風吸引ユニット36は、送風口36a及び吸気口36bを有するダクトと、送風部36cとを備える。送風部36cは、湿潤空気402の温度、露点、溶媒凝縮点や風量を制御する。更に、送風吸引ユニット36は、送風口36aから湿潤空気402を送り出し、吸気口36bから塗布膜29の周辺の気体を吸気する。ここで、溶媒凝縮点とは、溶媒を含む気体を冷却したときに、気体に含まれる溶媒の凝縮が開始する温度をいう。
【0034】
第3室33には、2つの送風吸引ユニット37が、X方向に並ぶように設けられている。送風吸引ユニット37は、送風口37a及び吸気口37bを有するダクトと、送風部37cとを備える。送風部37cは、溶媒蒸発空気403の温度、露点、溶媒凝縮点や風量を制御する。更に、送風吸引ユニット37は、送風口61から溶媒蒸発空気403を送り出し、吸気口36bから塗布膜29の周辺の気体を吸気する。
【0035】
第4室34には、2つの送風吸引ユニット38が、X方向に並ぶように設けられている。送風吸引ユニット38は、送風口38a及び吸気口38bを有するダクトと、送風部38cとを備える。送風部38cは、水滴蒸発空気404の温度、露点、溶媒凝縮点や風量を制御する。更に、送風吸引ユニット38は、送風口38aから水滴蒸発空気404を送り出し、吸気口38bから塗布膜29の周辺の気体を吸気する。
【0036】
塗布室22の各室31〜34には図示しない溶媒回収装置が設けられており、各室31〜34の雰囲気に含まれる溶媒を回収する。回収した溶媒は、図示しない再生装置で再生されて、溶液28の調製等に再利用される。なお、第2室32〜第4室34において、各送風吸引ユニット36〜38を設ける数は、1つ、或いは3つ以上であってもよい。
【0037】
各室31〜34には、複数のローラ43が適宜設けられている。ローラ43は主要なもののみ図示し、その他は省略している。このローラ43は、駆動ローラとフリーローラとから構成されている。駆動ローラが適宜配置されることにより、支持体27は一定速度(0.001m/分以上50m/分以下)で各室31〜34内を搬送される。
【0038】
また、各ローラ43は、図示しない温度コントローラにより各室毎に温度制御されている。また、各ローラ43の間では、支持体27の裏面27bに近接して、温度制御板(図示しない)が配置されている。ローラ43や温度制御板の温度は、支持体27の表面27aの温度が所定の範囲内(0℃以上30℃以下)となるように調節される。
【0039】
塗布室22では、図7に示す多孔フィルム製造方法50が行われ、多孔フィルム10がつくられる。多孔フィルム製造方法50では、膜形成工程51、水滴形成成長工程52、溶媒蒸発工程53及び水滴蒸発工程54が順次行われる。以下、各工程の詳細について説明する。
【0040】
(膜形成工程)
図6に示すように、第1室31では膜形成工程51(図7参照)が行われる。膜形成工程51では、塗布ダイ35が溶液28を表面27a上に塗布し、厚みTH0の塗布膜29を表面27a上に形成する(図8参照)。厚みTH0は、溶液28の粘度及び流量、スリットのクリアランスや、支持体の移動速度などにより調節することができる。形成直後の塗布膜29の厚みTH0は1500μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることが特に好ましい。なお、膜厚が均一の塗布膜29を形成するためには、厚みTH0を10μm以上とすることが好ましい。
【0041】
(水滴形成成長工程)
第2室32では、水滴形成成長工程52(図7参照)が行われる。水滴形成成長工程52では、送風吸引ユニット37が、所定の条件に調節された湿潤空気402を塗布膜29に向けて送る。湿潤空気402は塗布膜29と接触する。湿潤空気402との接触により、塗布膜29の表面29aに水滴410が形成する(図9参照)。
【0042】
水滴形成成長工程52における塗布膜29には溶媒が多量に含まれるため、塗布膜29をなす溶液は、結露による水滴410の形成、形成した水滴410の移動が可能な程度の流動性を有する。表面29aに形成した水滴410は、塗布膜29の表面上を移動するこの結果、水滴410は塗布膜29においてハニカム状に並ぶ。
【0043】
水滴形成成長工程52の開始時において、塗布膜29をなす溶液の残留溶媒量は、400質量%以上であることが好ましい。残留溶媒量は、対象となる塗布膜からサンプル膜を採取し、採取時のサンプル膜の重量をx、サンプル膜を乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で表される。
【0044】
引き続いて、送風吸引ユニット37が所定の条件に調節された湿潤空気402を塗布膜29に向けて送ると、形成した水滴410が成長する。この結果、水滴410は、塗布膜29を貫通する大きさになるまで成長する(図10参照)。
【0045】
水滴410の核形成、または核成長の進行度は、湿潤空気402の露点TDと、塗布膜29の表面29aの温度TSとによって表されるパラメータΔTw(=TD−TS)により調節することができる。温度TSは、支持体27の表面27aの温度や溶液28の温度により調節することができる。結露を生じさせる点から、第2室32におけるΔTwは、少なくとも0℃以上であることが好ましい。また、ΔTwは0.5℃以上30℃以下であることが好ましく、1℃以上25℃以下であることがより好ましく、1℃以上20℃以下であることが特に好ましい。
【0046】
(溶媒蒸発工程)
第3室33では、溶媒蒸発工程53(図7参照)が行われる。溶媒蒸発工程53では、送風吸引ユニット37が、所定の条件に調節された溶媒蒸発空気403を塗布膜29に向けて送る。溶媒蒸発空気403との接触により、塗布膜29から溶媒412が蒸発する(図11参照)。塗布膜29における溶媒412の蒸発により、塗布膜29をなす溶液の流動性が低下するため、結露により新たな水滴410の形成や、水滴410の移動が抑えられる。溶媒蒸発工程53は、水滴410の形成や移動が停止するまで行われることが好ましい。
【0047】
塗布膜29から溶媒を蒸発させるためには、溶媒蒸発空気403の溶媒凝縮点TRと塗布膜29の近傍の雰囲気温度TAとによって表されるパラメータΔTs(=TR−TA)を所定の範囲(例えば、ΔTs<0℃)に調節することができる。
【0048】
(水滴蒸発工程)
第4室34では、水滴蒸発工程54(図7参照)が行われる。水滴蒸発工程54では、送風吸引ユニット38が、所定の条件に調節された水滴蒸発空気404を塗布膜29に向けて送る。水滴蒸発空気404との接触により、塗布膜29から水滴410が蒸発する(図12参照)。水滴蒸発工程54により、水滴410を鋳型とする孔を有する塗布膜、すなわち多孔膜30が得られる。多孔膜30における残留溶媒量は、0.006質量%以下であることが好ましい。
【0049】
こうして、支持体27と多孔フィルム製造方法50により得られた多孔膜30とが一体となった多孔フィルム10が、塗布室33から送り出される。
【0050】
次に、本発明の作用を説明する。支持体27の表面27aが水との親和性が高い場合において、水滴形成成長工程52(図7参照)により水滴410が塗布膜29を貫通するまでに成長したとき(図10参照)、水滴410をなす水の全部または一部が塗布膜29及び支持体27の間に入り込んでしまう(図13)。以下、塗布膜29及び支持体27の間に入り込んだ水を侵入水414と称する。更に、侵入水414の量が増えれば、侵入水414同士が結合してしまう(図14参照)。
【0051】
侵入水414が存在する領域では、膜と支持体27とが密着していない、または、侵入水414が存在しない領域に比べて密着力が低い。このような状態の塗布膜29について溶媒蒸発工程53(図7参照)を行うと、溶媒の蒸発に起因して、塗布膜29全体に収縮応力が発生する。そして、塗布膜29のうち侵入水414が存在する領域は、この収縮応力に起因して変形する結果、シワ故障が起こってしまう。また、このような収縮応力に起因する変形の規模が大きい場合には、塗布膜29が支持体27から剥がれるハガレ故障が起こってしまう。
【0052】
本発明によれば、支持体27の表面27aについて水の接触角θwが所定の値以上となっているため、侵入水414の発生を抑えることができる。この結果、溶媒蒸発工程53を行っても、侵入水414に起因するシワ故障やハガレ故障を抑えつつ、多孔フィルム10を製造することができる。
【0053】
上記実施形態では、いわゆる貫通タイプの多孔膜30の製造の際に問題となるシワ故障やハガレ故障について説明したが、いわゆる窪みタイプの多孔膜の製造の際にも、このシワ故障やハガレ故障を誘発する侵入水の発生が想定される。本発明によれば、貫通タイプの多孔膜と同様に、シワ故障やハガレ故障を抑えつつ、窪みタイプの多孔膜を製造することができる。
【0054】
上記実施形態では、水の接触角θwが所定の値以上の支持体27を用いて多孔膜30をつくったが、本発明はこれに限られず、水の接触角θwが所定の値未満の支持体27を用いて多孔膜30をつくっても良い。この場合には、図15に示すような多孔フィルム製造方法60により、シワ故障やハガレ故障を抑えつつ、多孔フィルム10を製造することができる。
【0055】
多孔フィルム製造方法60では、接触角増大化工程62、膜形成工程51、水滴形成成長工程52、溶媒蒸発工程53及び水滴蒸発工程54が順次行われる。
【0056】
(接触角増大化工程)
接触角増大化工程62では、支持体27の表面27aに比べて水の接触角が高い層を表面27a上に設ける方法や、支持体27の表面27aの水の接触角をより高いものに改質する方法などが行われる。前者の方法としては、例えば、コーティング方法や蒸着処理などが挙げられ、後者の方法としては、例えば、シラン処理、紫外線照射、オゾン処理、イオン交換処理、プラズマ処理やブラスト処理などが挙げられる。
【0057】
接触角増大化工程62を経た支持体27の表面における水の接触角θwは、例えば、20°以上であることが好ましく、30°以上であることがより好ましい。接触角増大化工程62を経た支持体27の表面において、溶液28の接触角θsは、水の接触角θwよりも小さいことが好ましい。溶液28の接触角θsは、例えば、20°以下上であることが好ましく、15°以下であることがより好ましい。
【0058】
多孔フィルム製造方法60により得られた多孔フィルム10は、図16〜図18に示すように、第1層10xと、第1層10xに重なる第2層10yと、第2層10yに重なる第3層10zとを有する。第3層10zは、多孔フィルム製造方法60によりつくられた多孔膜である。第1層10xは支持体27であって、第2層10yは接触角増大化工程62により支持体27の表面27a上に形成された層である。なお、第1層10x、第2層10yはいずれも支持体27であり、第2層10yは、接触角増大化工程62により改質された表面27a、または、表面27aを含む支持体27の表層であってもよい。
【0059】
多孔フィルム10には、孔が貫通するタイプ(貫通タイプ)と、孔が貫通していないタイプ(窪みタイプ)とが含まれるが、多孔フィルム10の用途に応じて、それぞれのタイプのものが使い分けられる。
【0060】
貫通タイプとしては、例えば、図19及び図20のような多孔フィルム70がある。この多孔フィルム70は、多孔フィルム製造方法50,60にて、図2及び図4に示す多孔フィルム10をつくった後第1層10aから第2層10bを剥ぎ取る、又は、図16及び図17に示す多孔フィルム10をつくった後、第2層10yから第3層10zを剥ぎ取る等により得られる。
【0061】
窪みタイプとしては、図2〜5、16〜18に示す多孔フィルム10をそのまま用いても良いし、図5に示す多孔フィルムを作った後第1層10aから第2層10bを剥ぎ取る(図21参照)、又は、図16〜図18に示す多孔フィルム10をつくった後、第1層10xから、第3層10zとともに第2層10yを剥ぎ取る、又は、図18に示す多孔フィルム10をつくった後、第2層10yから、第3層10zを剥ぎ取ってもよい。
【0062】
剥ぎ取り方法としては、剥ぎ取りローラを用いて、剥ぎ取り対象となる層を連続的に剥ぎ取る方法がある。この他、多孔フィルムに枠を突き当て、枠の外周にて剥ぎ取り対象となる層を切断し、切断した部分のうち枠からはみ出した部分を把持代とし、把持代を枠で把持した状態で、枠を多孔フィルムから離すことにより、剥ぎ取り対象となる層を剥ぎ取ることができる。
【0063】
多孔フィルム製造方法により得られた多孔膜と支持体とを一体として多孔フィルム10として用いる場合、多孔膜と支持体27との密着性は高いほうが良い。この場合において、多孔膜の原料となるポリマーの溶解パラメータをSP1とし、支持体の表面をなす物質の溶解パラメータをSP2とするときに、溶解パラメータSP1と溶解パラメータSP2との差は、3以下であることが好ましい。
【0064】
一方、多孔フィルム製造方法により多孔膜をつくった後、支持体27から剥がした多孔膜を、多孔フィルム10として用いる場合、剥ぎ取りのしやすさの観点から、多孔膜と支持体27との密着性は低いほうが良い。この場合において、溶解パラメータSP1と溶解パラメータSP2との差は、4以上であることが好ましい。
【0065】
溶解パラメータSP2を調節するために、接触角増大化工程62にて、支持体27に対し溶解パラメータ調節処理を行っても良い。溶解パラメータ調節処理としては、コーティング方法、蒸着処理、シラン処理、紫外線照射、オゾン処理、プラズマ処理などが挙げられる。
【0066】
(用途)
多孔フィルム10の用途は、例えば、細胞を培養させるための培養基材、癒着防止膜、撥水性被覆材や血液ろ過膜などがある。
【0067】
(溶液)
溶液28に含まれるポリマーの質量濃度は、支持体27の表面27a上に、膜厚が均一の塗布膜29が形成できる範囲内であれば良く、例えば、0.01質量%以上30質量%以下の範囲であることが好ましい。ポリマーの質量濃度が0.01質量%未満であると、フィルムの生産性に劣り工業的大量生産に適さないおそれがある。また、ポリマーの質量濃度が30質量%を超える質量濃度であると、溶液28の粘性が塗布膜29の形成が困難となる程度になってしまうため好ましくない。また、ポリマーの質量濃度は5質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以上3質量%以下であることが更に好ましく、0.1質量%以上2質量%以下であることが特に好ましい。
【0068】
(溶媒)
溶媒として、ポリマーの良溶媒を用いることができる。良溶媒は、有機溶媒など、ポリマーを溶解させることができる溶媒であれば特に制限はない。また、溶媒として、ポリマーの良溶媒及びポリマーの貧溶媒の混合物を用いても良い。貧溶媒は、良溶媒と相溶性を有するものが望ましい。なお、良溶媒、貧溶媒のいずれも、単一の化合物を用いても良いし、2種以上の化合物の混合物で良い。
【0069】
ある物質がポリマーの貧溶媒であるか良溶媒であるかを、温度5℃以上30℃以下の範囲内において、ポリマーが全重量の5質量%となるように当該物質とポリマーとを混合することにより判断することができる。そして、その混合物中に不溶解物が有る場合には当該物質は貧溶媒であり、その混合物中に不溶解物がない場合には当該物質は良溶媒であると判断することができる。
【0070】
溶媒として用いられるものとしては、例えば、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン等のハロゲン系有機溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン等の非水溶性ケトン類、二硫化炭素、エタノール、メタノール等のアルコールや、ケトン、エーテル、ハイドロフルオロエーテル類等のフッ素系溶媒やペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタンのような常温で液体の飽和炭化水素(アルカン)等が用いられる。
【0071】
(ポリマー)
多孔フィルムの原料としては、疎水性ポリマーを用いることが好ましい。また、疎水性ポリマーだけでも多孔フィルムを形成することができるが、塗布膜29に形成した水滴の安定性の点から、多孔フィルムの原料として、疎水性ポリマーと両親媒性ポリマーとを共に用いることが好ましい。
【0072】
(疎水性ポリマー)
前記疎水性ポリマーとしては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニル重合ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルカルバゾール、ポリテトラフルオロエチレンなど)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸など)、ポリラクトン(例えばポリカプロラクトンなど)、ポリアミド又はポリイミド(例えば、ナイロンやポリアミド酸など)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアロマティックス、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリシロキサン誘導体、セルロースアシレート(トリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート)などが挙げられる。これらは、溶解性、光学的物性、電気的物性、膜強度、弾性等の観点から、必要に応じてホモポリマーとしてもよいし、コポリマーやポリマーブレンドの形態をとってもよい。なお、これらのポリマーは必要に応じて2種以上のポリマーの混合物として用いてもよい。光学用途に使う場合には、例えば、セルロースアシレート、環状ポリオレフィンなどが好ましい。
【0073】
(両親媒性ポリマー)
前記両親媒性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアクリルアミドを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基、親水性側鎖としてカルボキシル基を併せ持つ両親媒性ポリマー、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロックコポリマー、などが挙げられる。
【0074】
前記疎水性側鎖は、アルキレン基、フェニレン基等の非極性直鎖状基であり、エステル基、アミド基等の連結基を除いて、末端まで極性基やイオン性解離基などの親水性基を分岐しない構造であることが好ましい。該疎水性側鎖としては、例えば、アルキレン基を用いる場合には5つ以上のメチレンユニットからなることが好ましい。前記親水性側鎖は、アルキレン基等の連結部分を介して末端に極性基やイオン性解離基、又はオキシエチレン基などの親水性部分を有する構造であることが好ましい。
【0075】
前記疎水性側鎖と前記親水性側鎖との比率は、その大きさや非極性、極性の強さ、疎水性有機溶媒の疎水性の強さなどに応じて異なり一概には規定できないが、ユニット比(親水基:疎水基)=0.1:9.9〜4.5:5.5であることが好ましい。また、コポリマーの場合、疎水性側鎖の親水性側鎖の交互重合体よりも、疎水性溶媒への溶解性に影響しない範囲で疎水性側鎖と親水性側鎖がブロックを形成するブロックコポリマーであることが好ましい。
【0076】
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーの数平均分子量(Mn)は、1,000〜10,000,000が好ましく、5,000〜1,000,000がより好ましい。
【0077】
前記疎水性ポリマーと前記両親媒性ポリマーとの組成比率(質量比率)は、99:1〜50:50が好ましく、98:2〜70:30がより好ましい。前記両親媒性ポリマーの比率が1質量%未満であると、均一な多孔フィルムが得られなくなることがある。一方、前記両親媒性ポリマーの比率が50質量%を超えると、塗布膜の安定性、特に力学的な安定性が十分に得られなくなることがある。
【0078】
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーは、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)ポリマーであることも好ましい。また、前記疎水性ポリマー及び/又は前記両親媒性ポリマーとともに、重合性の多官能モノマーを配合し、この配合物によりハニカム膜を形成した後、熱硬化法、紫外線硬化法、電子線硬化法等の公知の方法によって硬化処理を施すことも好ましい。
【0079】
前記疎水性ポリマー及び/又は前記両親媒性ポリマーと併用される多官能モノマーとしては、反応性の点から多官能(メタ)アクリレートが好ましい。前記多官能(メタ)アクリレートの例としては、ジペンタエリスリトールペンタアクリレ−ト、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールカプロラクトン付加物へキサアクリレート又はこれらの変性物、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマ−、N−ビニル−2−ピロリドン、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、又はこれらの変性物などが使用できる。これらの多官能モノマーは耐擦傷性と柔軟性のバランスから、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0080】
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーは、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)ポリマーである場合には、前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーの重合性基と反応しうる重合性の多官能モノマーを併用することも好ましい。
【0081】
前記エチレン性不飽和基を有するモノマーの重合は、光ラジカル開始剤又は熱ラジカル開始剤の存在下、電離放射線の照射又は加熱により行うことができる。従って、エチレン性不飽和基を有するモノマー、光ラジカル開始剤あるいは熱ラジカル開始剤、マット粒子及び無機フィラーを含有する塗液を調製し、該塗液を透明支持体上に塗布後電離放射線又は熱による重合反応により硬化して反射防止フィルムを形成することができる。
【0082】
前記光ラジカル開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類、2,3−アルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類や芳香族スルホニウム類が挙げられる。
【0083】
前記アセトフェノン類としては、例えば、2,2−エトキシアセトフェノン、p−メチルアセトフェノン、1−ヒドロキシジメチルフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−4−メチルチオ−2−モルフォリノプロピオフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノンなどが挙げられる。
【0084】
前記ベンゾイン類としては、例えば、ベンゾインベンゼンスルホン酸エステル、ベンゾイントルエンスルホン酸エステル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0085】
前記ベンゾフェノン類としては、例えば、ベンゾフェノン、2,4−クロロベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0086】
前記ホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシドなどが挙げられる。
【0087】
前記光ラジカル開始剤としては、最新UV硬化技術(P.159,発行人;高薄一弘,発行所;(株)技術情報協会,1991年発行)にも種々の例が記載されている。また、市販の光開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のイルガキュア(651,184,907)等が好ましい例として挙げられる。
【0088】
前記光ラジカル開始剤は、多官能モノマー100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、1〜10質量部の範囲で使用することがより好ましい。
【0089】
なお、前記光重合開始剤に加えて、光増感剤を用いてもよい。外光増感剤の具体例として、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、ミヒラーのケトン、チオキサントン、などが挙げられる。
【0090】
前記熱ラジカル開始剤としては、例えば、有機過酸化物、無機過酸化物、有機アゾ化合物、有機ジアゾ化合物、などを用いることができる。
【0091】
具体的には、有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ハロゲンベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化アセチル、過酸化ジブチル、クメンヒドロぺルオキシド、ブチルヒドロぺルオキシドなどが挙げられる。前記無機過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等が挙げられる。前記アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(プロピオニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等が挙げられる。前記ジアゾ化合物としては、例えば、ジアゾアミノベンゼン、p−ニトロベンゼンジアゾニウム等が挙げられる。
【実施例】
【0092】
次に、本発明の実施例を説明する。各実験の説明は実験1で詳細に行い、実験2〜7については、実験1と同じ条件の箇所の説明は省略する。
【0093】
(実験1)
実験1では、以下組成の溶液28を調製した。そして、この溶液28に濾過処理を行い、異物を除去した。
ポリマー(ポリスチレン<表1では「PS」と表記>) 2.0 質量%
両親媒性ポリマー(ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロックコポリマー) 0.5 質量%
良溶媒A(ジクロロメタン) 95 質量%
貧溶媒B(エタノール) 2.5 質量%
【0094】
図6に示す多孔フィルム製造設備20において、多孔膜30をつくった。支持体27として、板ガラス(旭硝子社製)のものを用いた。支持体27の表面27aに対し接触角増大化工程は行わなかった。表面27aにおける水の接触角θw、及び表面27aにおける溶液の接触角θsを、それぞれ測定した。測定した接触角θw、θsは、表1に示すとおりである。
【0095】
【表1】

【0096】
(実験2〜3)
実験2〜3では、接触角増大化工程にて支持体27に行った処理を表1の「処理の種類」に示したものとしたこと以外は実験1と同様にして多孔膜30をつくった。また、実験2〜3では、接触角増大化工程を経た支持体27における接触角θw、θwをそれぞれ測定した。各実験にて測定された接触角θw、θwは、表1に示すとおりである。
【0097】
なお、表1の「処理の種類」におけるA処理は、APS(3−アミノプロピルトリエトキシシラン 信越シリコーン社製)によるシランカップリング処理であり、表1の「処理の種類」におけるB処理は、PHTS(フェニルトリクロロシラン 信越シリコーン社製)によるシランカップリング処理を表す。また、表1の「処理の種類」における「−」は、接触角増大化工程を行っていないことを表す。
【0098】
(実験4〜6)
なお、実験4〜6では、以下組成の溶液28を用いたこと以外は実験1〜3と同様にして多孔膜30をつくった。
ポリマー(ポリカーボネート<表1では「PC」と表記>) 2.0 質量%
両親媒性ポリマー(ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロックコポリマー) 0.5 質量%
良溶媒A(ジクロロメタン) 95 質量%
貧溶媒B(エタノール) 2.5 質量%
【0099】
(評価)
実験1〜6において、以下の項目について評価した。各項目についての評価結果は表1に示す。表1における評価結果の番号は、以下の項目に付された番号を表す。
【0100】
1.シワ故障・ハガレ故障の有無
多孔フィルム製造方法において、シワ故障及びハガレ故障が起こったか否かを、目視により調べ、以下基準で評価した。
○:シワ故障及びハガレ故障のいずれもが起こらなかった。
×:シワ故障またはハガレ故障が起きた。
【0101】
2.剥ぎ取り性の評価
得られた多孔膜30について、以下の手順で剥ぎ取り性の評価を行った。まず、図22に示すように、支持体27上の多孔膜30を切り込み、縦の長さA(150mm)、横の長さB(25mm)の矩形状のサンプルフィルム80を得た。その後、サンプルフィルム80の一端に、幅W1(25mm)の透明感圧付着テープ81を貼り付けた。透明感圧付着テープ81は、幅25mmあたり10±1Nの付着強さを有するものである。そして、図23に示すように、剥ぎ取り角度φが60°に近いものとなるようにして、透明感圧付着テープ81の端をつかみ、サンプルフィルム80を支持体27から剥ぎ取った。この剥ぎ取り後、支持体27に剥ぎ残りのサンプルフィルム80が残っているか否かを目視により調べ、以下基準で評価した。
Y:サンプルフィルム80全体を容易に剥離することができた。
N:サンプルフィルム80の一部が支持体27に残ってしまった。
【符号の説明】
【0102】
10 多孔フィルム
11 孔
20 多孔フィルム製造設備
22 塗布室
27 支持体
28 溶液
29 塗布膜
30 多孔膜
50、60 多孔フィルム製造方法
51 膜形成工程
52 水滴形成成長工程
53 溶媒蒸発工程
54 水滴蒸発工程
62 接触角増大化工程
402 湿潤空気
410 水滴
412 溶媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の表面に対し、この表面における水の接触角を大きくするための表面処理を行う接触角増大化工程と、
前記接触角増大化工程を経た支持体の表面上にポリマー及び溶媒を含む疎水性溶液からなる膜を形成する膜形成工程と、
結露により前記膜の表面に水滴を形成し、前記水滴を成長させる水滴形成成長工程と、
前記水滴を有する前記膜から前記溶媒を蒸発させる溶媒蒸発工程と、
前記溶媒蒸発工程を経た前記膜から前記水滴を蒸発させて、前記水滴を鋳型とする孔を前記膜に形成する水滴蒸発工程とを有することを特徴とする多孔フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記接触角増大化工程を経た前記支持体における水の接触角θwは、前記接触角増大化工程を経た前記支持体における前記疎水性溶液の接触角θsよりも高いことを特徴とする請求項1記載の多孔フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記接触角増大化工程を経た前記支持体の表面における水の接触角θwは、20°以上であることを特徴とする請求項1または2記載の多孔フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記水滴形成成長工程では、前記膜を貫通する大きさになるまで前記水滴を成長させることを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の多孔フィルムの製造方法。
【請求項5】
水の接触角が大きいものとなった表面を有する支持フィルムと、
この支持フィルムの表面に設けられ、貫通孔を有する多孔層とを有し、
前記多孔層は主成分としてのポリマー及びこのポリマーが可溶な溶媒を含むことを特徴とする多孔フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−72313(P2012−72313A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219442(P2010−219442)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】