多孔体の製造方法
【課題】表面に形成される孔が、所望の寸法で、所望の形成密度の多孔フィルムを製造する。
【解決手段】液槽29に溶液11を貯留する。液槽29内の溶液11に筒26を浸漬する。液槽29内の溶液11の液面39に湿潤空気400をあてる。湿潤空気400との接触により、液面39では結露が生じ、液面39には水滴406が形成する。湿潤空気400との接触により、液面39上の水滴406を目標寸法になるまで成長させる。目標寸法まで成長した水滴406が存在する液面39を介して、筒26を溶液11から引き出すと、筒26の外周面26aにはディップ塗布膜12が形成し、ディップ塗布膜12の外周面12aには液面39上の水滴406が集められる。ディップ塗布膜12に乾燥空気をあてて、溶剤と水滴とを蒸発させると、水滴を鋳型とする多孔フィルムが得られる。
【解決手段】液槽29に溶液11を貯留する。液槽29内の溶液11に筒26を浸漬する。液槽29内の溶液11の液面39に湿潤空気400をあてる。湿潤空気400との接触により、液面39では結露が生じ、液面39には水滴406が形成する。湿潤空気400との接触により、液面39上の水滴406を目標寸法になるまで成長させる。目標寸法まで成長した水滴406が存在する液面39を介して、筒26を溶液11から引き出すと、筒26の外周面26aにはディップ塗布膜12が形成し、ディップ塗布膜12の外周面12aには液面39上の水滴406が集められる。ディップ塗布膜12に乾燥空気をあてて、溶剤と水滴とを蒸発させると、水滴を鋳型とする多孔フィルムが得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液膜に並べられた複数の水滴を鋳型として用いて、液膜を乾燥し、多孔体を得る多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、光学分野や電子分野では、集積度の向上や情報量の高密度化、画像情報の高精細化といった要求がますます大きくなっている。そのため、これらの分野に用いられる材料表面に、より微細な構造(微細パターン構造)を形成すること(微細パターニング)が強く求められている。また、再生医療分野の研究においては、表面に微細な構造を有する膜が、細胞培養の場となる材料として有効である。
【0003】
微細パターニングには、マスクを用いた蒸着法、光化学反応ならびに重合反応を用いた光リソグラフィ技術、レーザーアブレーション技術など種々の方法が実用化されている。
【0004】
上記以外の微細パターニングとして、所定のポリマーの溶液を支持体上に塗布し、湿った空気を塗布膜にあてて、多孔フィルムをつくる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この多孔フィルムの製造方法の概略について簡単に説明する。まず、疎水性の溶剤とポリマーとを含む溶液を支持体上に塗布して、支持体上に塗布膜を形成する。次に、温度、露点や溶剤の凝縮点などが所定条件の範囲になるように調節された湿潤空気を、塗布膜の表面のうち露出する面(以下、露出面と称する)にあてて、塗布膜に含まれる溶剤の蒸発を行いつつ、結露により露出面に水滴を形成させ、成長させる。このとき、露出面上の水滴は、その寸法を維持したまま、或いは成長をしながら、塗布膜に潜り込む。最後に、溶剤が十分に除去された塗布膜に乾燥空気をあてて、水滴を蒸発させる。この方法によれば、塗布膜に潜り込んでいた水滴の蒸発により、水滴の跡が孔となって塗布膜に残留する結果、水滴を鋳型として、多孔フィルムを得ることができる。
【特許文献1】特開2006−070254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の微細パターニングにより得られる微細パターン構造は、他の微細パターニングによって得られる微細パターン構造に比べ、孔の径、形成ピッチの調節により、細胞培養の速度を調節できる等のメリットがある。このようなメリットを持つ微細パターン構造を、血管内に導入され、血管の狭窄部や閉塞部を開通した状態で配されるステントの表面に設けることにより、再狭窄を防止することができる。また、ステントに限られず、体内に配するその他の医療器具においても、同様の効果が期待できる。
【0006】
ところが、ステントやその他の医療器具の表面は、通常、平面ではなく、曲面に形成される。また、特許文献1に記載の微細パターニングは、シート状の材料表面における微細パターニングに限られるため、ステントやその他の医療器具の表面における微細パターニングに適していない。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、曲面上における微細パターン構造の形成を可能にする多孔体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の多孔体の製造方法は、ポリマー及び疎水性溶剤を含む液の液面に水滴を形成する水滴形成工程と、曲面を有する支持体に前記液を塗布して、前記水滴が並び、前記液からなる膜を前記曲面上に形成する膜形成工程と、前記膜を乾燥し、前記水滴を鋳型として前記膜に孔を形成する乾燥工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
前記水滴形成工程は、前記液面に湿潤空気を送り結露により前記水滴を形成し、成長させることが好ましい。また、前記膜形成工程では、前記湿潤空気よりも露点の低い低露点湿潤空気を前記液面または前記膜に供給して、前記水滴の成長を抑えながら前記膜を前記支持体表面に形成することが好ましい。
【0010】
前記膜形成工程では、前記水滴が形成された液面から前記支持体を引き出すことが好ましい。また、前記液面の前記水滴が前記支持体に向けて集まるように、引き出される前記支持体に向けて前記湿潤空気又は前記低露点湿潤空気を供給することが好ましい。更に、前記液面の前記水滴が前記支持体に向けて集まるように、引き出される前記支持体に向けて前記液を流動させることが好ましい。加えて、前記液面の前記水滴が前記支持体に向けて集まるように、前記膜に含まれる前記溶剤を蒸発させることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリマー及び疎水性溶剤を含む液の液面に水滴を形成し、曲面を有する支持体に前記液を塗布して、前記水滴が並び、前記液からなる膜を前記曲面上に形成するため、前記膜を乾燥し、前記水滴を鋳型として前記膜に孔を形成することにより、所望の寸法で、所望の形成密度で形成される孔を有する多孔体を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(多孔フィルムの製造方法)
図1に示すように、多孔フィルム製造工程10によれば、溶液11から、ディップ塗布膜12を経て、表面に複数の孔を有する多孔フィルム13を製造することができる。多孔フィルム製造工程10は、ポリマーと溶剤とを含む溶液11の液面に水滴を形成し、水滴を成長させる水滴形成成長工程15と、水滴を表面に有し、溶液11からなるディップ塗布膜12を形成する膜形成工程16と、ディップ塗布膜12から溶剤を蒸発させる溶剤蒸発工程17と、水滴を蒸発させる水滴蒸発工程18とを有する。
【0013】
図2に示すように、多孔フィルム製造設備20は、送り出し装置21と駆動装置22と、送り出し装置21と駆動装置22との間に設けられるディップ塗布装置23及び乾燥装置24とを有する。送り出し装置21には筒26が収納される。送り出し装置21及び駆動装置22により、筒26は送り出し装置21から駆動装置22に向かって送り出され、所定の送り速度でディップ塗布装置23及び乾燥装置24を順次通過する。ディップ塗布装置23では、水滴形成成長工程15及び膜形成工程16(図1参照)が行われ、乾燥装置24では、溶剤蒸発工程17及び水滴蒸発工程18(図1参照)が行われる。そして、筒26が、ディップ塗布装置23を通過すると、筒26の外周面にディップ塗布膜12が形成され、外周面にディップ塗布膜12が形成された筒26が乾燥装置24を通過すると、ディップ塗布膜12が多孔フィルム13となる。
【0014】
ここで、本発明における多孔体とは、表面に孔又は窪みを有する物体を指す。したがって、本発明における多孔体は、多孔フィルム13のみならず、表面に多孔フィルム13を有する筒26をも含む。多孔フィルム13のみを最終製品とする場合には、多孔フィルム13と筒26とを分離するための分離装置を、乾燥装置24の下流側に設けてもよい。多孔フィルム13と筒26とを分離する方法としては、筒26から多孔フィルム13を剥ぎ取る方法の他、筒26を溶剤により溶解する方法、温度応答性ポリマーやUV反応性ポリマーをコーティングした筒26の表面上に多孔フィルム13を形成した後、筒26を加熱する、又は筒26に紫外線を照射して、筒26と多孔フィルム13とを分離する方法、筒26及び多孔フィルム13を膨潤液に浸漬し、多孔フィルム13の膨潤により筒26と多孔フィルム13とを分離する方法、筒26のみに切込みを入れた後に、筒26と多孔フィルム13とを剥離して、筒状の多孔フィルム13を得る方法や、筒26及び多孔フィルム13に切込みを入れた後に、筒26と多孔フィルム13とを剥離し、展開し、シート状の多孔フィルム13を得る方法等がある。表面に多孔フィルム13を有する筒26を最終製品とする場合には、表面に多孔フィルム13を有する筒26を所定のサイズに切断するカット装置を、乾燥装置24の下流側に設けてもよい。なお、乾燥装置と分離装置との間にカット装置を設け、多孔フィルム13を筒26と共に切断してもよいし、分離装置よりも下流側にカット装置を設け、筒26から分離された多孔フィルム13切断してもよい。
【0015】
図2に示すように、ディップ塗布装置23は、図示しない仕切り板により、浸漬ゾーン31、水滴形成成長ゾーン32及び膜形成ゾーン33の3つに区画される。液槽29は各ゾーン31〜33にかけて配され、ポリマーと溶剤とを含む溶液11が貯留する。液槽29に貯留する溶液11の温度を所定の範囲で略一定に維持する温調機34が取り付けられていることが好ましい。
【0016】
図3に示すように、水滴形成成長ゾーン32には、湿潤空気供給機35が設けられる。湿潤空気供給機35は、湿潤空気400を送り出す送風口36と、湿潤空気400を吸引する吸引口37と、図示しない送風コントローラとを有する。送風口36及び吸引口37は、水滴形成成長ゾーン32における溶液11の液面39と対向するように、湿潤空気供給機35に設けられる。送風コントローラは、図示しない制御部の制御の下、送風口36から送り出される湿潤空気400の温度TA1、露点TD1、溶剤の凝縮点TR1などが所望の範囲内で略一定となるように調節する。
【0017】
図4に示すように、膜形成ゾーン33には、湿潤空気供給機40が設けられる。湿潤空気供給機40は、低露点湿潤空気401を送り出す送風口41と、低露点湿潤空気401を吸引する吸引口42と、図示しない送風コントローラとを有する。低露点湿潤空気401の露点TD2は、湿潤空気400の露点TD1よりも低い。送風口41及び吸引口42は、膜形成ゾーン33における溶液11の液面39と対向するように、湿潤空気供給機40に設けられる。送風コントローラは、図示しない制御部の制御の下、送風口41から送り出される低露点湿潤空気401の温度TA2、露点TD2、溶剤の凝縮点TR2などが所望の範囲内で略一定となるように調節する。
【0018】
図5に示すように、乾燥装置24は、筒26の送り方向に向かって並べられる乾燥空気供給機47から構成される。乾燥空気供給機47は、筒26が通過する貫通孔47aを有する供給機本体47bと、供給機本体47bに設けられる送風ダクト47c及び吸引ダクト47dと、供給機本体47bの内周面に形成される送風口47e及び吸引口47fと、図示しない送風コントローラとを有する。貫通孔47aの寸法は、筒26が供給機本体47bの内周面と離間した状態で挿入可能な寸法であればよい。送風ダクト47cと送風口47eとが接続し、吸引ダクト47dと吸引口47fとが接続する。送風コントローラにより、乾燥空気402は送風ダクト47cを経て、送風口47eから送り出される。送風口47eから送り出された乾燥空気402は、吸引口47fから吸引され、吸引ダクト47dに送られる。送風コントローラは、吸引ダクト47dに送られた乾燥空気402の温度、露点、溶剤の凝縮点などが所望の範囲内で略一定となるように調節した後、乾燥空気402を送風ダクト47cに供給する。
【0019】
次に、本発明の作用について説明する。図2に示すように、送り出し装置21及び駆動装置22により、送り出し装置21に収納される筒26は所定の方向に走行し、ディップ塗布装置23及び乾燥装置24を順次通過する。
【0020】
図2及び図3に示すように、ディップ塗布装置23に送られた筒26は、浸漬ゾーン31〜膜形成ゾーン33を順次通過する。浸漬ゾーン31では、ディップ塗布装置23に送られた筒26が、液槽29に貯留する溶液11に浸漬する。水滴形成成長ゾーン32では、筒26は溶液11に浸漬したまま膜形成ゾーン33へ送られ、膜形成ゾーン33では、筒26が溶液11から引き上げられる。温調機34は、水滴形成成長ゾーン32及び膜形成ゾーン33における溶液11の液面39の温度TSが所定の範囲内で略一定となるように、液槽29に貯留する溶液11の温度を調節する。
【0021】
(水滴形成成長工程)
図3及び図6に示すように、湿潤空気供給機35は、送風コントローラによって所定の条件に調節された湿潤空気400を、送風口36を介して水滴形成成長ゾーン32の液面39にあてて、吸引口37により湿潤空気400を吸引する。水滴形成成長ゾーン32の液面39には、湿潤空気400との接触により結露が生じ、液面39上に形成した水滴406は、所望の寸法になるまで成長する。液面39上の水滴406は、水滴406間にはたらく横毛細管力、液槽29における溶液11の流れ、及び後述する移流集積の効果等により、膜形成ゾーン33に向かって移動する。
【0022】
(膜形成工程)
図4に示すように、膜形成ゾーン33では、溶液11に浸漬した筒26が液面39を介して溶液11から引き出される。膜形成ゾーン33の液面39では、所望の寸法まで成長した水滴406が、水滴406間にはたらく横毛細管力、液槽29における溶液11の流れ、及び後述する移流集積の効果等により、液面39から引き出される筒26に集まるように移動する。また、膜形成ゾーン33の液面39では、低露点湿潤空気401との接触により水滴の406の蒸発及び成長が抑えられるため、膜形成ゾーン33における水滴406の寸法は略一定値で維持される。したがって、溶液11から引き出された筒26の外周面26aには溶液11からなる筒状のディップ塗布膜12が形成するとともに、所望の寸法の水滴406がディップ塗布膜12の外周面12a上に並ぶように集められる。水滴406を外周面12aに有するディップ塗布膜12は、筒26の走行により、乾燥装置24に送られる。このとき、当該液面39と外周面26aとが交差するようにして、筒26を溶液11から引き出すことが好ましい。
【0023】
(溶剤蒸発工程及び水滴蒸発工程)
図2及び図5に示すように、ディップ塗布装置23を経た筒26は、乾燥装置24に送られる。乾燥装置24に送られた筒26は、乾燥空気供給機47の貫通孔47aを通過する。乾燥空気供給機47は、乾燥空気402を送風口47eから送り出し、吸引口47fから乾燥空気402を吸引する。これにより、所定の条件に調節された乾燥空気402が、筒26の外周面26a上に設けられたディップ塗布膜12と接触する。図7に示すように、乾燥空気402とディップ塗布膜12との接触により、ディップ塗布膜12に含まれる溶剤408が蒸発し、外周面12a上の水滴406はディップ塗布膜12中に潜る。なお、水滴406を鋳型とする目的から、溶剤蒸発工程17(図1参照)における溶剤408の蒸発は、ディップ塗布膜12における溶液11の流動性が失われる程度まで行うことが好ましい。引き続いて、水滴蒸発工程18(図1参照)により、乾燥空気402とディップ塗布膜12との接触を続けると、図8に示すように、ディップ塗布膜12から水滴406が蒸発し、水滴406の跡が孔13aとなる多孔フィルム13(図1参照)を得ることができる。
【0024】
本発明では、図1及び図4に示すように、膜形成工程16にて、ディップ塗布膜12を筒26の外周面26a上に形成しながら、目標とする孔の寸法(以下、目標寸法と称する)となるまで予め成長させた水滴406をディップ塗布膜12の外周面12a上に集めるため、外周面12aに水滴406を有するディップ塗布膜12を曲面上に設けることができる。したがって、本発明によれば、表面に微細パターン構造を有する筒状の多孔フィルム13を製造することができる。
【0025】
更に、ディップ塗布膜12における水滴406の配列条件を適宜調節することにより、所望の寸法の水滴406を所望の形成密度でディップ塗布膜12の外周面12a上に並べることができる。したがって、本発明によれば、孔13a(図1参照)の寸法や形成密度が所望の範囲の多孔フィルム13を容易に製造することが出来る。なお、水滴406の配列条件の詳細は後述する。
【0026】
また、本発明では、筒26の外周面に比べて、十分に広い領域の液面39にて水滴形成成長工程15を行うため、水滴形成成長工程15において、液面39上で水滴406の核形成が過剰に起こったとしても、膜形成工程16における水滴406の配列条件の調節により、ディップ塗布膜12上における水滴406の過剰形成を確実に回避することができる。したがって、本発明によれば、塗布膜上で水滴形成成長工程15を行う方法で問題となっていた、水滴406の過剰形成に起因する多孔フィルムのシワの発生、又は孔の形状や寸法にバラツキの発生を確実に抑えることが出来る。
【0027】
また、図4に示すように、水滴406の目標寸法がCCDなどの画像センサや目視で観察できる程度の大きさの場合には、膜形成ゾーン33の液面39やディップ塗布膜12の外周面12aにおける水滴406を観察する画像センサ58を湿潤空気供給機40に設け、液面39や外周面12aにおける水滴406の形成密度を算出し、この算出結果に基づいて、駆動装置22、温調機34、湿潤空気供給機35、40、乾燥空気供給機47に設けられた各送風コントローラ、及び後述する送液装置などを制御してもよい。このようにして、膜形成工程16(図1参照)にて、ディップ塗布膜12の外周面12aや液面39における水滴406の形成密度を算出しながら、外周面12aにおける水滴406の配列条件を調節することも可能となる。したがって、本発明によれば、孔の寸法や形成密度が所望の範囲の多孔フィルム13を容易に製造することが出来る。なお、図3に示すように、水滴形成成長ゾーン32の液面39における水滴406を観察する画像センサ58を湿潤空気供給機35に設け、液面39における水滴406の形成密度を算出し、この算出結果に基づいて、駆動装置22、温調機34、湿潤空気供給機35、40、乾燥空気供給機47に設けられた各送風コントローラ、及び後述する送液装置などを制御して、水滴形成成長工程15(図1参照)を行ってもよい。なお、画像センサ58は省略してもよい。
【0028】
図1及び図3に示すように、水滴形成成長工程15において、溶液11から溶剤408が蒸発すると、溶剤408の蒸発潜熱に起因して液面39の温度TSが低下する。したがって、この水滴形成成長工程15を塗布膜上で行うと、塗布膜の露出面の温度TSが低下する結果、露出面近傍の空気の露点TDから露出面の温度TSをひいた値であるパラメータΔTwが大きくなってしまい、水滴406の核形成や核成長の調節を精度良く行うことができない。本発明では、水滴形成成長工程15を、塗布膜に比べて十分な量の溶液11の液面39上で行うため、溶剤の蒸発潜熱に起因する温度TSの低下の影響を抑えることも可能である。
【0029】
従来の方法では、孔の寸法及び形成密度を調節するために、塗布膜の露出面全体において、水滴の核形成、核成長の進行の度合いが均一となるように各パラメータを調節しながら、水滴形成成長工程15を行う必要があったが、本発明によれば、予め目標寸法となるまで成長した水滴406をディップ塗布膜12に集めるため、目標とする多孔フィルムの寸法と独立して、孔の寸法及び形成密度を調節することが可能である。したがって、多孔フィルムの目標寸法が変更となっても、水滴形成成長工程15における各条件を変更せずに、目標とする多孔フィルムの寸法に応じた支持体に変更するのみで、孔の寸法及び形成密度が同一の多孔フィルムを容易に製造することが出来る。更に、目標とする多孔フィルムの寸法、すなわち水滴形成成長工程15における露出面の面積が広大になると、従来の方法では、各パラメータを高精度で調節しながら水滴形成成長工程15を行う必要があったが、本発明によれば、水滴形成成長工程15にて各パラメータの調節を高精度で行わずに済む。したがって、本発明によれば、寸法の大きな多孔フィルムを容易に製造することが出来る。本発明により、従来の製法で製造が困難であった大判の多孔フィルムを製造することができる。
【0030】
(多孔フィルム)
図9(A)に示すように、本発明により得られる筒状の多孔フィルム13は、筒状に形成され(図5参照)、外周面に孔13aを有する。孔13aは、ハチの巣状、いわゆるハニカム構造となるように多孔フィルム13に密に配列する。そして、図9(B)及び(C)に示すように、孔13aは、多孔フィルム13の外周面及び内周面を貫通するように形成される。なお、図9(D)のように、孔13aの代わりに、窪み53aが外周面側に形成される多孔フィルム53や窪み53aが内周面側に形成される多孔フィルムも本発明の多孔フィルムに含まれる。
【0031】
そして、この孔13aや窪み53aの寸法や形成密度は、後述する製造条件によって異なる。本発明により製造される多孔フィルム13の形態は特に限定されるものではないが、本発明は、例えば、図9に示すように、多孔フィルム13の厚みTH1が0.05μm以上、孔13aの径D1が0.05μm以上、孔13aの形成ピッチP1が0.1μm以上120μm以下であるような多孔フィルム13を製造する場合に特に効果がある。
【0032】
なお、本明細書において、ハニカム構造とは、上記のように、一定形状、一定サイズの孔が連続かつ規則的に配列している構造を意味する。この規則配列は単層の場合には二次元的であり、複層の場合は三次元的にも規則性を有する。この規則性は二次元的には1つの孔の周囲を複数(例えば、6つ)の孔が取り囲むように配置され、三次元的には結晶構造の面心立方や六方晶のような構造を取って、最密充填されることが多いが、製造条件によってはこれら以外の規則性を示すこともある。なお、同一平面上において、1つの孔の周囲に形成される孔の数は、6個に限らず、3〜5個或いは7個以上でも良い。
【0033】
以下、各工程における好ましい実施態様及び条件等について説明する。
【0034】
水滴形成成長工程15(図1参照)では、図3及び図6に示すように、液面39上にて水滴406の核形成及び核成長を行う。液面39上に形成する水滴406の寸法は、湿潤空気400の露点TD1と液面39の温度TSとの差ΔTw(=TD1−TS)により調節することができる。ΔTwは0.5℃以上30℃以下であることが好ましく、1℃以上20℃以下であることがより好ましい。また、溶剤の蒸発は、蒸発潜熱により温度TSが低下する結果、ΔTwが変動してしまうため、水滴形成成長工程15では、溶剤をできるだけ蒸発させないことが好ましい。このため、溶剤の凝縮点TR1は、液面39の温度TSよりも低いことが好ましい。液面39の温度TSは−5℃以上30℃以下であることが好ましい。湿潤空気400の露点TD1は5℃以上30℃以下であることが好ましい。湿潤空気400の温度TA1は5℃以上30℃以下であることが好ましい。なお、筒26が浸漬するときの溶液11の液面39には、水滴406が形成されていても良いし、水滴406が形成されていなくても良い。
【0035】
膜形成工程16(図1参照)では、図2及び図4に示すように、水滴406の蒸発を抑えつつ、水滴406の核形成及び核成長を抑えるため、ΔTwは0℃以上20℃以下であることが好ましく、0℃以上10℃以下であることがより好ましい。ここで、膜形成工程16におけるパラメータΔTwは、液面39の温度TSと低露点湿潤空気401の露点TD2との差(=TD2−TS)である。また、溶剤の蒸発潜熱により温度TSが低下する結果、ΔTwが変動してしまうため、膜形成工程16では、溶剤をできるだけ蒸発させないことが好ましい。したがって、溶剤の凝縮点TR2は、液面39や外周面12aの温度TSに比べ低いことが好ましい。外周面12aの温度は0℃以上20℃以下であることが好ましい。外周面12aの近傍の雰囲気露点は0℃以上20℃以下であることが好ましい。外周面12aの近傍の雰囲気温度は10℃以上40℃以下であることが好ましい。
【0036】
ディップ塗布膜12における水滴406の配列条件は、パラメータΔTw、ΔTsolvの他、引き出し速度V1、引き出し角度θ1や液槽29における溶液11の流れの速さ等によって適宜調節することが可能である。図4に示すように、引き出し速度V1は、溶液11から筒26を時間t1の間引き上げ続けたときに、時間t1の間に溶液11から露呈した筒26の方向LDの長さをL1とすると、L1/t1で表される。ここで、方向LDは筒26の長手方向を表す。また、引き出し角度θ1は、液面39と当該液面39を通過する筒26の外周面26aとがなす角の角度である。
【0037】
膜形成工程16における引き出し速度V1が大きくなるほど、ディップ塗布膜12における水滴406の形成密度は小さくなり、引き出し速度V1が小さくなるほど、ディップ塗布膜12における水滴406の形成密度は大きくなる。引き出し速度V1は、1μm/秒以上1m/秒以下であることが好ましく、100μm/秒以上1cm/秒以下であることがより好ましい。1μm/秒未満では、水滴406の充填が過密となるため好ましくなく、1m/秒を超えると、水滴406の充填が疎となるため好ましくない。
【0038】
また、膜形成工程16における引き出し角度θ1が大きくなるほど、水滴406の充填が疎となりやすくなり、引き出し角度θ1が小さくなるほど、水滴406の充填が蜜となる。引き出し角度θ1は、0°より大きく180°未満であればよく、120°以上160°以下であることがより好ましい。加えて、筒26及び溶液11における界面エネルギーや、溶液11及び水滴406における界面エネルギー等を考慮して、上記配列条件を調節することが好ましい。
【0039】
筒26の形成材料としては、特に限定されるものではなく、使用する溶剤に対する十分な化学的安定性や、多孔フィルム製造工程10における耐熱性を有するものであることが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ナイロン6、ナイロン6,6、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリイミド等の有機材料の他や、ガラス、ステンレス、その他の金属等の無機材料が挙げられる。
【0040】
なお、ディップ塗布膜12を形成する外周面26aは、溶液11が濡れやすいように加工されていることが好ましい。溶液11の濡れ性の指標としては、例えば、接触角θs、接触角θwや表面張力を用いることができる。接触角θs、又は接触角θwは、溶液11からなる液滴又は水滴を外周面26aに形成し、この液滴又は水滴の形状から算出することができる。そして、外周面26aの接触角θsは0°以上70°以下であることが好ましく、0°以上50°以下であることがより好ましい。また、水に対する外周面26aの接触角θwは5°以上180°未満であることが好ましく、30°以上180°未満であることがより好ましい。表面張力は、溶液11の表面張力γと外周面26aの臨界表面張力γcで規定され、γ>γcであることが好ましい。なお、γは、5mN/m以上50mN/m以下であることが好ましく、5mN/m以上30mN/m以下であることがより好ましい。γcは、20mN/m以上200mN/m以下であることが好ましく、30mN/m以上200mN/m以下であることがより好ましい。表面張力γ及びと外周面26aの臨界表面張力γcは、毛細管上昇法、滴下法、吊環法など公知の測定方法により求めることができる。
【0041】
上記実施形態では、膜形成ゾーン33の液面39に低露点湿潤空気401をあてたが、本発明はこれに限られず、ディップ塗布膜12に低露点湿潤空気401をあててもよい。ディップ塗布膜12に低露点湿潤空気401をあてる湿潤空気供給機は、湿潤空気供給機40(図4参照)と同様の構造を有するものでもよいし、乾燥空気供給機47(図5参照)と同様の構造を有するものでもよい。これにより、ディップ塗布膜12の外周面12a上の水滴406の径を維持することができる。
【0042】
更に、低露点湿潤空気401をディップ塗布膜12にあてて、ディップ塗布膜12から溶剤を蒸発させてもよい。後述するように調節された低露点湿潤空気401をディップ塗布膜12の一の領域にあてると、当該一の領域から溶剤が蒸発し、この溶剤の蒸発により液槽29に貯留する溶液11が当該一の領域へ流れ込む移流集積の効果により、溶液11の液面39にある水滴406を、積極的に外周面12aに集めることができる。この移流集積の効果が発現できる程度であれば、ディップ塗布膜12のいずれの部分に低露点湿潤空気401をあててもよく、例えば、液面39近傍のディップ塗布膜12に低露点湿潤空気401をあてることが好ましい。更に、溶剤の蒸発に起因する移流集積の効果により、浸漬ゾーン31にある溶液11が、水滴形成成長ゾーン32及び膜形成ゾーン33に流れやすくなるため、水滴形成成長ゾーン32の水滴406が膜形成ゾーン33に流れやすくなる。膜形成ゾーン33においてディップ塗布膜12から溶剤を蒸発させるためには、低露点湿潤空気401の溶剤の凝縮点TR2は、液面39や外周面12aの温度TSに比べ低いことが好ましい。ただし、溶剤の蒸発潜熱に起因するΔTwの変動により、水滴406の核形成、核成長が起こらないように、低露点湿潤空気401の各条件を調節することが好ましい。
【0043】
移流集積により、水滴406の形成密度εを調節することができる。形成密度εは、単位面積当たりの外周面12a上に存在する水滴406の数であり、(式1)(式2)のように表される。
(式1) ε=K/h
(式2) K=β・L・(je/νc)・φ/(φ−1)
図4に示すように、hは、筒26の引き出し時に形成されるディップ塗布膜12の厚さであり、βは、溶液11の液面上の水滴406の流れの速さVLと液槽29における溶液11の流れの速さVWとの比VL/VWであり、Lは、筒26の引き出し方向に直交する面に現れるディップ塗布膜12の外周面12aの長さであり(図3参照)、jeは当該一の領域における溶剤の蒸発速度であり、νcはメニスカスにおける水滴406の移動速度であり、φはメニスカス近傍の溶液11に対する水滴406の体積分率である。ここで、メニスカスとは、溶液11から筒26を引き出す領域、及びその領域の近傍における液面39やディップ塗布膜12の外周面12aを指す。なお、νcを引き上げ速度V1としてもよい。また、体積分率φは、水滴406の半径や濃度(単位面積あたりの液面39に存在する水滴406の数)によって調節することができる。したがって、引き上げ速度V1や滴406の半径や濃度の調節より、水滴406の形成密度εを調節することができる。こうして、上記条件を適宜調節することにより、水滴406の形成密度εが均一なディップ塗布膜12や、水滴406の形成密度εが引き上げ方向に漸増または漸減するディップ塗布膜12を形成することも可能となる。同様にして、上記条件を適宜調節することにより、水滴406の径が均一なディップ塗布膜12や、水滴406の径が引き上げ方向に漸増または漸減するディップ塗布膜12を形成することも可能となる。
【0044】
ディップ塗布膜12の膜厚hは、引き出し速度V1や引き出し角度θ1のほか、筒26及び溶液11における界面エネルギー等に基づいて適宜調節することが可能である。例えば、形成直後のディップ塗布膜12の膜厚は、1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0045】
なお、ディップ塗布膜12に送った低露点湿潤空気401が、液面39や液面39上の水滴406にあたることを遮る遮風部材を、液面39の一部または全体を覆うように設けることが好ましい。遮風部材は、少なくとも目標寸法になるまで成長した水滴406が存在する液面39を覆うように設けられることが好ましい。また、遮風部材が液面39全体を覆うように設けられる場合には、遮風部材に、液面39が露呈する第1開口部、第2開口部を設けても良い。第1開口部に露呈する液面39に湿潤空気400をあてることにより、水滴形成成長工程15(図1参照)を行うことが可能となり、液面39上に形成した水滴を第2開口部から露呈する液面39に向けて送り、第2開口部から筒26を引き出すことにより、膜形成工程16(図1参照)を行うことが可能となる。なお、図10に示すように、液面39全体を覆うように設けられる遮風部材60に2つの第1及び第2開口部を設ける代わりに、1つの開口部62を設け、この開口部62に露呈する液面39に湿潤空気400をあてつつ、開口部62から筒26を引き出しても良い。これにより、液槽29に貯留する溶液11の温度の変動を抑えることや液面39における結露を抑えることができる。
【0046】
図1及び図7に示すように、溶剤蒸発工程17では、ディップ塗布膜12の外周面12a上における水滴406の蒸発、核形成及び核成長を抑えるため、ΔTwは0℃以上10℃以下であることが好ましく、0℃以上5℃以下であることがより好ましい。ここで、溶剤蒸発工程17におけるパラメータΔTwは、外周面12aの温度TSとこの外周面12a近傍の空気の露点TDとの差(=TD−TS)である。なお、乾燥空気402を外周面12aにあてて溶剤蒸発工程17を行う場合には、外周面12aの温度をTS、乾燥空気402の露点をTD3とするときに、パラメータΔTwを(TD3−TS)としてもよい。
【0047】
なお、溶剤蒸発工程17(図1参照)は、図5に示すように、鉛直方向に伸びるように配された筒26の外周面26aに形成するディップ塗布膜12に行ってもよいし、水平方向に伸びるように配された筒26の外周面26aに形成するディップ塗布膜12に行ってもよい。また、溶剤蒸発工程17は、搬送されるディップ塗布膜12に行っても良いし、静止するディップ塗布膜12に行ってもよい。
【0048】
図2及び図8に示すように、水滴蒸発工程18では、ディップ塗布膜12に残留する溶剤や水滴406を蒸発させるため、ΔTw及びΔTsolvは、できるだけ小さくすることが好ましい。
【0049】
なお、上記実施形態では、湿潤空気供給機35を2つ並べたが、本発明はこれに限られず、湿潤空気供給機35を1つ設けても良いし、3つ以上の湿潤空気供給機35を並べても良い。また、水滴形成成長ゾーン32を、水滴の核形成ゾーン、核成長ゾーンに分け、それぞれのゾーンに湿潤空気供給機35を設け、それぞれのゾーンごとに湿潤空気400の条件を適宜調節してもよい。同様にして、膜形成ゾーン33において、複数の湿潤空気供給機40を並べても良いし、乾燥装置24において、1つ又は3つ以上の乾燥空気供給機47を並べても良い。
【0050】
上記実施形態では、図4に示すように、筒26を溶液11から引き出すときに、筒26の長手方向LDに筒26を引き出したが、本発明はこれに限られず、液面39と外周面26aとが交差する状態を維持していれば、長手方向LDと交差角度θ2で交差する方向ADに、筒26の引き出しても良い。交差角度θ2は0°以上90°以下であることが好ましい。
【0051】
上記実施形態では、図3に示すように、液面39に湿潤空気400をあてて水滴形成成長工程15(図2参照)をおこなったが、本発明はこれに限られず、図11に示すように、インクジェットユニット70を用いて水滴を液面39に吐出してもよい。インクジェットユニット70から吐出される水滴の寸法は、目標寸法でもよいし、この目標寸法よりも小さなものでもよい。また、吐出された水滴の寸法が目標寸法よりも小さい場合には、インクジェットユニット70によって吐出された水滴に湿潤空気400をあてて、目標寸法となるまで水滴を成長させてもよい。水滴に湿潤空気400をあてる方法としては、液面39に着地する前の水滴と、着地後の水滴とのいずれに湿潤空気400にあてもよい。更に、筒26が引き出される液面39に向かう横毛細管力が液面39上の水滴406に働くように、インクジェットユニット70を用いて、水滴を液面39上に吐出してもよい。この場合には、形成直後のディップ塗布膜12と、ターゲットとなる水滴406との間の液面39上に水滴を吐出することが好ましい。
【0052】
インクジェットユニット70は、インクジェットヘッド、ヘッド駆動部、コントローラを備え、一般的なインクジェットプリンタと同様な構造となっている。但し、インクの代わりに、多孔フィルムにおける孔の鋳型となる水滴を形成するため水が用いられる点で、一般的なインクジェットプリンタとは異なっている。インクジェットユニット70における吐出方式は、ライン吐出方式、シリアル吐出方式の何れでもよい。
【0053】
ライン吐出方式では、所定の方向に多数のインク吐出口が並べて形成されたインクジェットヘッドを用い、筒26の走行に同期させてインク吐出口から水滴を吐出し、液面39に水滴406を形成する。ライン吐出方式によれば、所定の方向において一括して水滴406を形成すること、及び筒26の連続送りが可能になる。
【0054】
インクジェットヘッドは、吐出ラインを有する。吐出ラインは、所定の方向にライン状に並べられた複数のインク吐出口から構成される。インクジェットヘッドには、少なくとも1本の吐出ラインが設けられればよく、複数の吐出ラインが筒26の走行方向に並ぶように設けられてもよい。吐出ラインを複数設けた場合には、一の吐出ラインからの水滴の吐出により液面39に水滴406を形成し、他の吐出ラインから当該水滴406が形成する位置に、水滴406を1回或いは複数回吐出することにより、水滴406を成長させることもできる。また、隣接する吐出口から同時に水滴406を吐出することで、液面39上で水滴を結合させ、結果的に水滴406を成長させることもできる。また、各吐出口からの吐出量を変化させることで、吐出口から吐出される水滴406の寸法を変更してもよく、さらには、これらの組み合わせによって、水滴406の寸法を変更してもよい。
【0055】
一方、シリアル吐出方式では、ライン吐出方式に比べて、インクジェットヘッドが小型で済む利点があるものの、所定の方向にインクジェットヘッドを移動させるキャリッジ及びキャリッジ駆動部、ヘッド駆動部、及びコントローラが必要になる。インクジェットヘッドにはインク吐出口が形成されている。そして、キャリッジ及びキャリッジ駆動部によって、インクジェットヘッドを所定の方向に移動させる。これにより、液面39上に、1回のキャリッジ移動によって吐出口1ライン分の水滴406が形成される。このため、筒26の搬送はインクジェットヘッドのキャリッジ移動後に行われる間欠送りとなり、吐出中は筒26が停止している。
【0056】
水滴形成成長工程15(図2参照)では、図12に示すように、水滴形成成長ゾーン32における液面39上の水滴406が、膜形成ゾーン33の液面39から引き出される筒26に向かうように、湿潤空気400を液面39または液面39上の水滴406にあててもよい。この場合には、ディップ塗布膜12の外周面12a上に並んだ水滴406に湿潤空気400が接触しないよう、湿潤空気供給機35とディップ塗布膜12との間に膜遮風部材を設けても良い。膜遮風部材は、外周面12aを囲むように、外周面12a近傍に設けられることが好ましい。なお、膜遮風部材とともに遮風部材60(図10参照)を設けても良い。同様にして、膜形成ゾーン33の液面39上の水滴406が、液面39から引き出される筒26に向かうように、低露点湿潤空気401を液面39または液面39上の水滴406にあててもよい。
【0057】
また、図2に示すように、多孔フィルム製造設備20に送液装置80を設けても良い。送液装置80は、供給部81と回収部82と配管83とポンプ84とを備える。供給部81及び回収部82は、液槽29中における筒26の走行方向に順次設けられる。供給部81は液槽29に溶液11を供給する。回収部82は液槽29から溢れた溶液11を回収する。配管83は、供給部81と回収部82とを連通する。ポンプ84は、配管83に設けられ、回収部82に回収された溶液11を、配管83を介して供給部81へ送液する。ポンプ84の作動により、液槽29内の溶液11を、水滴形成成長ゾーン32から膜形成ゾーン33へ流すことができる。なお、送液装置80は省略してもよい。
【0058】
なお、膜形成ゾーン33に、液面39の水滴406をディップ塗布膜12の所望の位置にガイドするガイド部材を設けても良い。これにより、ディップ塗布膜12上における水滴406の配列を正方格子等の所望の規則的配列にすること、またはディップ塗布膜12上の特定の部分のみに水滴を並べることも可能となる。また、膜形成ゾーン33において、液槽29中の溶液11の流動、すなわち、攪拌、対流、波動、振動により、水滴406の配列条件を調節することも可能である。
【0059】
上記実施形態では、図2に示すように、各工程15〜18(図1参照)を連続的に行う多孔フィルム製造設備20を用いて多孔フィルム13を製造したが、本発明はこれに限られず、図13及び図14に示すように、各工程15〜18をバッチ式で行う製造方法に適用することも可能である。
【0060】
液槽90に溶液11を注ぐ(図13(A))。そして、溶液11の液面39に湿潤空気400をあてる。湿潤空気400との接触により、結露が生じ液面39に水滴406が形成し、所望の寸法になるまで水滴406が成長する(図13(B))。これにより、水滴形成成長工程15(図1参照)が行われる。楕円体91の一部を、液槽90中の溶液11に浸漬する(図14(C))。次に、溶液11から楕円体91を引き上げる(図14(D))。こうして、楕円体91の表面の一部には、溶液11からなり、湾曲状のディップ塗布膜が形成し、液面39上の水滴406はディップ塗布膜の表面に並ぶ。このようにして、膜形成工程16(図1参照)が行われる。そして、溶液11から引き出した楕円体91を図示しない乾燥室に配置する。乾燥室では、水滴406が並ぶディップ塗布膜に乾燥空気をあてる。これにより、溶剤蒸発工程17、水滴蒸発工程18(図1参照)が行われる。こうして、各工程15〜18(図1参照)をバッチ式で行うことにより、多孔フィルム13(図1参照)を製造することができる。なお、楕円体91の一部を溶液11に浸漬したが、楕円体91全部を溶液11に浸漬してもよい。
【0061】
上記実施形態では、筒26の外周面26aにのみ、ディップ塗布膜12を形成したが、本発明はこれに限られない。図15に示すディップ塗布装置95では、溶液11が液槽に貯留し、液槽内の溶液11に筒26が浸漬する。液槽29に貯留する溶液11の液面39上には、円環状の膜形成ゾーン33が設定される。膜形成ゾーン33は、溶液11に浸漬する筒26を溶液11の外へ引き上げるときに、筒26が通過する液面39を含む範囲とする。そして、膜形成ゾーン33の外側の液面39上には外側水滴形成成長ゾーン32aが、膜形成ゾーン33の内側の液面39上には内側水滴形成成長ゾーン32bが、それぞれ設定される。
【0062】
外側湿潤空気供給機及び内側湿潤空気供給機は、湿潤空気供給機35と同様の構造を有する。外側湿潤空気供給機は、送風口及び吸引口が外側水滴形成成長ゾーン32aと対向するように設けられる。内側湿潤空気供給機は、送風口及び吸引口が内側水滴形成成長ゾーン32bと対向するように設けられる。なお、外側湿潤空気供給機として、インクジェットユニット70(図11参照)を用いてもよい。ライン吐出方式の場合には、外側水滴形成成長ゾーン32aと対向するように設けられるインク吐出口を、インクジェットヘッドに環状に並べる。また、シリアル方式の場合には、インク吐出口を有するインクジェットヘッドを、外側水滴形成成長ゾーン32a上で環状に移動させてもよい。同様に、内側湿潤空気供給機としてインクジェットユニット70を用いてもよい。
【0063】
乾燥装置は、外側乾燥空気供給機及び内側乾燥空気供給機から構成される。外側乾燥空気供給機は、乾燥空気供給機47(図5参照)と同様の構造を有する。内側乾燥空気供給機は、円柱状に形成され、径は筒26の内径よりも小さい。内側乾燥空気供給機の周面には、乾燥空気402を送り出す送風口と乾燥空気402を吸引する吸引口が設けられる。そして、内側乾燥空気供給機は、外側乾燥空気供給機の貫通孔に挿入される。外側乾燥空気供給機及び内側乾燥空気供給機とのクリアランスは、筒26が通過可能なものとなっている。
【0064】
外側湿潤空気供給機及び内側湿潤空気供給機は、それぞれ、所定の条件に調節した湿潤空気400を、外側水滴形成成長ゾーン32a及び内側水滴形成成長ゾーン32bにあてる。湿潤空気400と接触した外側水滴形成成長ゾーン32a及び内側水滴形成成長ゾーン32bでは、水滴406が形成し、所定の寸法にまで成長する。筒26が膜形成ゾーン33の液面39から引き上げられるように、溶液11に浸漬した筒26の先端部を、膜形成ゾーン33を介して引き上げる。液面39から引き上げられた筒26の外周面26a及び内周面26bには、それぞれ溶液11からなる筒状のディップ塗布膜102a、102bが形成するとともに、ディップ塗布膜102aの外周面には、外側水滴形成成長ゾーン32aで所望の寸法にまで成長した水滴406が集められ、ディップ塗布膜102bの内周面には、内側水滴形成成長ゾーン32bで所望の寸法にまで成長した水滴406が集められる。このようにして、ディップ塗布装置95において、水滴形成成長工程15及び膜形成工程16(図1参照)が行われ、表面に水滴406が並ぶディップ塗布膜102a、102bを同時に形成することができる。
【0065】
その後、ディップ塗布装置95から送り出され、外周面26a及び内周面26bにディップ塗布膜102a、102bを有する筒26を、外側乾燥空気供給機及び内側乾燥空気供給機のクリアランスに挿入する。外側乾燥空気供給機は、筒26の外周面26a上のディップ塗布膜102aに乾燥空気402をあて、内側乾燥空気供給機は、筒26の内周面26b上のディップ塗布膜102bに乾燥空気402をあてる。このようにして、乾燥装置において、溶剤蒸発工程17及び水滴蒸発工程18(図1参照)が行われ、筒26の外周面26a及び内周面26bのディップ塗布膜102a、102bは、それぞれ多孔フィルムとなる。
【0066】
上記実施形態では、外周面26a及び内周面26bに、それぞれディップ塗布膜102a、102bを形成したが、本発明はこれに限られず、外側湿潤空気供給機を省略し、筒26の内周面26bのみにディップ塗布膜102bを形成してもよい。
【0067】
また、筒26の外周面26aや内周面26bに凹部を設けても良い。凹部は、外周面26a、26bにおいて島状に設けられても良いし、線状、或いは外周面26a、内周面26b上の一定範囲を占めるように面状に設けられてもよい。これにより、凹部の形成位置に基づき、ディップ塗布膜の内周面と外周面とのうちいずれか一方、または両方に水滴を並べることも可能となる。なお、筒26の外周面26aとともに内周面26bそれぞれにおける接触角θsや液膜厚等を適宜調節してもよい。
【0068】
上記実施形態では、曲面を有する支持体として筒状の支持体を用いたが、本発明はこれに限られない。本発明の曲面を有する支持体としては、球面、楕円体面、錐面、トーラス、その他の湾曲面を有するものであればよく、例えば、球、楕円体、円柱、楕円柱、円錐、円錐台、輪環体、螺旋体、鼓状の支持体等が挙げられる。また、線状体も円柱、楕円柱等に含まれるため、曲面を有する支持体として含まれる。したがって、1本、或いは複数の線状体を折り曲げてなる形成体や、複数の線条体からなる格子を有するもの等も、本発明の曲面を有する支持体として含まれる。
【0069】
複数の曲面を有する支持体を用いて、水滴406が並ぶディップ塗布膜を形成する場合には、それぞれの曲面と液面39とがなす角を考慮して、支持体を液面39から引き出せばよい。これにより、複数の表面において異なる配列条件の膜形成工程16(図2参照)を同時に行うことが出来る。
【0070】
上記実施形態では、水滴を液面に有する液を用いて、曲面をディップ塗布したが、本発明はこれに限られず、他の塗布方法を用いてもよい。例えば、図16に示すように、支持筒121が走行する搬送路122を設け、搬送路122の上方に支持部材123を設ける。そして、支持部材123の上面に斜面124を設ける。斜面124は、搬送路122に近づくに従って高さが低くなるように形成される。送風口及び吸引口が斜面124と対向するように、湿潤空気供給機(図示省略)を配する。支持部材123の上方には、図示しない溶液供給装置が設けられる。
【0071】
次に図16に示す塗布方法の作用について説明する。溶液供給装置は溶液11を斜面124に向けて吐出する。吐出した溶液11は、搬送路122に向かうように斜面124上を流れる。湿潤空気供給機は、斜面124上の溶液11の液面39に湿潤空気400をあてる。湿潤空気400との接触により、結露が生じ、液面39には水滴が形成する。溶液11は、液面39に水滴を有した状態のまま、斜面124の下流端部から、走行する支持筒121に向かって流下する。支持筒121に流下した溶液11は、支持筒121の外周面121a上で流れ延ばされる結果、外周面121a上に、表面128aに水滴を有する塗布膜128を形成する。このようにして得られた塗布膜128について、上述の溶剤蒸発工程17及び水滴蒸発工程18(図1参照)を行うことにより、多孔フィルムを得ることができる。なお、斜面124の下流端部から走行する支持筒121に向かって流下する溶液11に、低露点湿潤空気401をあててもよい。
【0072】
多孔フィルムの原料としては、非水溶性溶剤に溶解するポリマー(以下、「疎水性ポリマー」と称する)を用いることが好ましい。また、前記疎水性ポリマーだけでも多孔フィルムを形成することができるが、両親媒性ポリマーを共に用いることが好ましい。
【0073】
(溶剤)
前記ポリマーを溶解させて溶液11を調製するための溶剤としては、疎水性であって、有機溶剤など、ポリマーを溶解させることができる溶剤であれば特に制限はなく、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン,四塩化炭素、シクロヘキサン、酢酸メチルなどが挙げられる。
【0074】
また、溶液11におけるポリマーの濃度は、引き出される筒26の外周面26aにディップ塗布膜12が形成できる濃度であれば良く、例えば、0.01質量%以上30質量%以下の範囲であることが好ましい。前記高分子化合物の濃度が0.01質量%未満であると、フィルムの生産性に劣り工業的大量生産に適さないおそれがある。また、前記高分子化合物の濃度が30質量%を超える濃度であると、溶液11の粘性が増大するため、筒26の引き出しによるディップ塗布膜12の形成が困難となるため、好ましくない。また、液面上の水滴406の流れの速さVL(図4参照)を増大するために、溶液11の粘性はできるだけ低いほうが好ましく、例えば、100mPa・s以下の範囲であることが好ましい。また、溶液11の粘性の下限値としては、特に限定されないが、0.3mPa・s以上とすることが好ましい。
【0075】
(疎水性ポリマー)
前記疎水性ポリマーとしては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニル重合ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルカルバゾール、ポリテトラフルオロエチレンなど)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸など)、ポリラクトン(例えばポリカプロラクトンなど)、ポリアミド又はポリイミド(例えば、ナイロンやポリアミド酸など)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアロマティックス、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリシロキサン誘導体、セルロースアシレート(トリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート)などが挙げられる。これらは、溶解性、光学的物性、電気的物性、膜強度、弾性等の観点から、必要に応じてホモポリマーとしてもよいし、コポリマーやポリマーブレンドの形態をとってもよい。なお、これらのポリマーは必要に応じて2種以上のポリマーの混合物として用いてもよい。光学用途に使う場合には、例えば、セルロースアシレート、環状ポリオレフィンなどが好ましい。
【0076】
前記両親媒性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアクリルアミドを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基、親水性側鎖としてカルボキシル基を併せ持つ両親媒性ポリマー、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロックコポリマー、などが挙げられる。
【0077】
前記疎水性側鎖は、アルキレン基、フェニレン基等の非極性直鎖状基であり、エステル基、アミド基等の連結基を除いて、末端まで極性基やイオン性解離基などの親水性基を分岐しない構造であることが好ましい。該疎水性側鎖としては、例えば、アルキレン基を用いる場合には5つ以上のメチレンユニットからなることが好ましい。前記親水性側鎖は、アルキレン基等の連結部分を介して末端に極性基やイオン性解離基、又はオキシエチレン基などの親水性部分を有する構造であることが好ましい。
【0078】
前記疎水性側鎖と前記親水性側鎖との比率は、その大きさや非極性、極性の強さ、疎水性有機溶剤の疎水性の強さなどに応じて異なり一概には規定できないが、ユニット比(親水基:疎水基)=0.1:9.9〜4.5:5.5が好ましい。また、コポリマーの場合、疎水性側鎖の親水性側鎖の交互重合体よりも、疎水性溶剤への溶解性に影響しない範囲で疎水性側鎖と親水性側鎖がブロックを形成するブロックコポリマーであることが好ましい。
【0079】
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーの数平均分子量(Mn)は、1,000〜10,000,000が好ましく、5,000〜1,000,000がより好ましい。
【0080】
前記疎水性ポリマーだけでも、多孔フィルムを製造することができるが、両親媒性ポリマーと共に用いることが好ましい。
【0081】
前記疎水性ポリマーと前記両親媒性ポリマーとの組成比率(質量比率)は、99:1〜50:50が好ましく、98:2〜70:30がより好ましい。前記両親媒性ポリマーの比率が1質量%未満であると、均一な多孔フィルムが得られなくなることがある。一方、前記両親媒性ポリマーの比率が50質量%を超えると、塗布膜の安定性、特に力学的な安定性が十分に得られなくなることがある。
【0082】
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーは、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)ポリマーであることも好ましい。また、前記疎水性ポリマー及び/又は前記両親媒性ポリマーとともに、重合性の多官能モノマーを配合し、この配合物によりハニカム膜を形成した後、熱硬化法、紫外線硬化法、電子線硬化法等の公知の方法によって硬化処理を施すことも好ましい。
【0083】
前記疎水性ポリマー及び/又は前記両親媒性ポリマーと併用される多官能モノマーとしては、反応性の点から多官能(メタ)アクリレートが好ましい。前記多官能(メタ)アクリレートの例としては、ジペンタエリスリトールペンタアクリレ−ト、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールカプロラクトン付加物へキサアクリレート又はこれらの変性物、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマ−、N−ビニル−2−ピロリドン、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、又はこれらの変性物などが使用できる。これらの多官能モノマーは耐擦傷性と柔軟性のバランスから、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0084】
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーは、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)ポリマーである場合には、前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーの重合性基と反応しうる重合性の多官能モノマーを併用することも好ましい。
【0085】
前記エチレン性不飽和基を有するモノマーの重合は、光ラジカル開始剤又は熱ラジカル開始剤の存在下、電離放射線の照射又は加熱により行うことができる。従って、エチレン性不飽和基を有するモノマー、光ラジカル開始剤あるいは熱ラジカル開始剤、マット粒子及び無機フィラーを含有する塗液を調製し、該塗液を透明支持体上に塗布後電離放射線又は熱による重合反応により硬化して反射防止フィルムを形成することができる。
【0086】
前記光ラジカル開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類、2,3−アルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類や芳香族スルホニウム類が挙げられる。
【0087】
前記アセトフェノン類としては、例えば、2,2−エトキシアセトフェノン、p−メチルアセトフェノン、1−ヒドロキシジメチルフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−4−メチルチオ−2−モルフォリノプロピオフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノンなどが挙げられる。
【0088】
前記ベンゾイン類としては、例えば、ベンゾインベンゼンスルホン酸エステル、ベンゾイントルエンスルホン酸エステル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0089】
前記ベンゾフェノン類としては、例えば、ベンゾフェノン、2,4−クロロベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0090】
前記ホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシドなどが挙げられる。
【0091】
前記光ラジカル開始剤としては、最新UV硬化技術(P.159,発行人;高薄一弘,発行所;(株)技術情報協会,1991年発行)にも種々の例が記載されている。また、市販の光開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のイルガキュア(651,184,907)等が好ましい例として挙げられる。
【0092】
前記光ラジカル開始剤は、多官能モノマー100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、1〜10質量部の範囲で使用することがより好ましい。
【0093】
なお、前記光重合開始剤に加えて、光増感剤を用いてもよい。外光増感剤の具体例として、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、ミヒラーのケトン、チオキサントン、などが挙げられる。
【0094】
前記熱ラジカル開始剤としては、例えば、有機過酸化物、無機過酸化物、有機アゾ化合物、有機ジアゾ化合物、などを用いることができる。
【0095】
具体的には、有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ハロゲンベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化アセチル、過酸化ジブチル、クメンヒドロぺルオキシド、ブチルヒドロぺルオキシドなどが挙げられる。前記無機過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等が挙げられる。前記アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(プロピオニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等が挙げられる。前記ジアゾ化合物としては、例えば、ジアゾアミノベンゼン、p−ニトロベンゼンジアゾニウム等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】多孔フィルム製造工程の概要を示す工程図である。
【図2】多孔フィルム製造設備の概要を示す説明図である。
【図3】ディップ塗布装置の水滴形成成長ゾーンの概要を示す説明図である。
【図4】ディップ塗布装置の膜形成ゾーンの概要を示す説明図である。
【図5】乾燥装置の概要を示す斜視図である。
【図6】水滴形成成長ゾーンにて、水滴が形成し、成長する概要を示す説明図である。
【図7】乾燥装置における、溶剤蒸発工程の概要を示す模式図である。
【図8】乾燥装置における、水滴蒸発工程の概要を示す模式図である。
【図9】(A)は、複数の貫通孔を有する多孔フィルムの概要を示す平面図であり、(B)はB−B線断面図、(C)はC−C線断面図である。(D)は、複数のくぼみを有する多孔フィルムの平面図である。
【図10】第2の水滴形成成長工程及び第2の膜形成工程の概要を示す斜視図である。
【図11】第3の水滴形成成長工程及び第3の膜形成工程の概要を示す斜視図である。
【図12】第4の水滴形成成長工程の概要を示す斜視図である。
【図13】(A)は、溶液が貯留する液槽の概要を示す説明図であり、(B)は、溶液の液面に湿潤空気をあてて、液面に水滴を形成、成長させる第5の水滴形成成長工程の概要を示す説明図である。
【図14】(C)は、楕円体の一部を溶液に浸漬する様子を示す説明図であり、(D)は、溶液に浸漬した楕円体を引き上げ、溶液からなり、表面に水滴が並ぶディップ塗布膜を楕円体の表面に形成する第4の膜形成工程の概要を示す説明図である。
【図15】第5の膜形成工程の概要を示す断面図である。
【図16】第6の水滴形成成長工程及び第6の膜形成工程の概要を示す断面図である。
【符号の説明】
【0097】
10 多孔フィルム製造工程
11 溶液
12、102a、102b ディップ塗布膜
13 多孔フィルム
15 水滴形成成長工程
16 膜形成工程
17 溶剤蒸発工程
18 水滴蒸発工程
20 多孔フィルム製造設備
23 ディップ塗布装置
24 乾燥装置
26 筒
26a 外周面
26b 内周面
32 水滴形成成長ゾーン
33 膜形成ゾーン
35、40 湿潤空気供給機
39 液面
47 乾燥空気供給機
400 湿潤空気
401 低露点湿潤空気
402 乾燥空気
406 水滴
408 溶剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、液膜に並べられた複数の水滴を鋳型として用いて、液膜を乾燥し、多孔体を得る多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、光学分野や電子分野では、集積度の向上や情報量の高密度化、画像情報の高精細化といった要求がますます大きくなっている。そのため、これらの分野に用いられる材料表面に、より微細な構造(微細パターン構造)を形成すること(微細パターニング)が強く求められている。また、再生医療分野の研究においては、表面に微細な構造を有する膜が、細胞培養の場となる材料として有効である。
【0003】
微細パターニングには、マスクを用いた蒸着法、光化学反応ならびに重合反応を用いた光リソグラフィ技術、レーザーアブレーション技術など種々の方法が実用化されている。
【0004】
上記以外の微細パターニングとして、所定のポリマーの溶液を支持体上に塗布し、湿った空気を塗布膜にあてて、多孔フィルムをつくる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この多孔フィルムの製造方法の概略について簡単に説明する。まず、疎水性の溶剤とポリマーとを含む溶液を支持体上に塗布して、支持体上に塗布膜を形成する。次に、温度、露点や溶剤の凝縮点などが所定条件の範囲になるように調節された湿潤空気を、塗布膜の表面のうち露出する面(以下、露出面と称する)にあてて、塗布膜に含まれる溶剤の蒸発を行いつつ、結露により露出面に水滴を形成させ、成長させる。このとき、露出面上の水滴は、その寸法を維持したまま、或いは成長をしながら、塗布膜に潜り込む。最後に、溶剤が十分に除去された塗布膜に乾燥空気をあてて、水滴を蒸発させる。この方法によれば、塗布膜に潜り込んでいた水滴の蒸発により、水滴の跡が孔となって塗布膜に残留する結果、水滴を鋳型として、多孔フィルムを得ることができる。
【特許文献1】特開2006−070254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の微細パターニングにより得られる微細パターン構造は、他の微細パターニングによって得られる微細パターン構造に比べ、孔の径、形成ピッチの調節により、細胞培養の速度を調節できる等のメリットがある。このようなメリットを持つ微細パターン構造を、血管内に導入され、血管の狭窄部や閉塞部を開通した状態で配されるステントの表面に設けることにより、再狭窄を防止することができる。また、ステントに限られず、体内に配するその他の医療器具においても、同様の効果が期待できる。
【0006】
ところが、ステントやその他の医療器具の表面は、通常、平面ではなく、曲面に形成される。また、特許文献1に記載の微細パターニングは、シート状の材料表面における微細パターニングに限られるため、ステントやその他の医療器具の表面における微細パターニングに適していない。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、曲面上における微細パターン構造の形成を可能にする多孔体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の多孔体の製造方法は、ポリマー及び疎水性溶剤を含む液の液面に水滴を形成する水滴形成工程と、曲面を有する支持体に前記液を塗布して、前記水滴が並び、前記液からなる膜を前記曲面上に形成する膜形成工程と、前記膜を乾燥し、前記水滴を鋳型として前記膜に孔を形成する乾燥工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
前記水滴形成工程は、前記液面に湿潤空気を送り結露により前記水滴を形成し、成長させることが好ましい。また、前記膜形成工程では、前記湿潤空気よりも露点の低い低露点湿潤空気を前記液面または前記膜に供給して、前記水滴の成長を抑えながら前記膜を前記支持体表面に形成することが好ましい。
【0010】
前記膜形成工程では、前記水滴が形成された液面から前記支持体を引き出すことが好ましい。また、前記液面の前記水滴が前記支持体に向けて集まるように、引き出される前記支持体に向けて前記湿潤空気又は前記低露点湿潤空気を供給することが好ましい。更に、前記液面の前記水滴が前記支持体に向けて集まるように、引き出される前記支持体に向けて前記液を流動させることが好ましい。加えて、前記液面の前記水滴が前記支持体に向けて集まるように、前記膜に含まれる前記溶剤を蒸発させることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリマー及び疎水性溶剤を含む液の液面に水滴を形成し、曲面を有する支持体に前記液を塗布して、前記水滴が並び、前記液からなる膜を前記曲面上に形成するため、前記膜を乾燥し、前記水滴を鋳型として前記膜に孔を形成することにより、所望の寸法で、所望の形成密度で形成される孔を有する多孔体を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(多孔フィルムの製造方法)
図1に示すように、多孔フィルム製造工程10によれば、溶液11から、ディップ塗布膜12を経て、表面に複数の孔を有する多孔フィルム13を製造することができる。多孔フィルム製造工程10は、ポリマーと溶剤とを含む溶液11の液面に水滴を形成し、水滴を成長させる水滴形成成長工程15と、水滴を表面に有し、溶液11からなるディップ塗布膜12を形成する膜形成工程16と、ディップ塗布膜12から溶剤を蒸発させる溶剤蒸発工程17と、水滴を蒸発させる水滴蒸発工程18とを有する。
【0013】
図2に示すように、多孔フィルム製造設備20は、送り出し装置21と駆動装置22と、送り出し装置21と駆動装置22との間に設けられるディップ塗布装置23及び乾燥装置24とを有する。送り出し装置21には筒26が収納される。送り出し装置21及び駆動装置22により、筒26は送り出し装置21から駆動装置22に向かって送り出され、所定の送り速度でディップ塗布装置23及び乾燥装置24を順次通過する。ディップ塗布装置23では、水滴形成成長工程15及び膜形成工程16(図1参照)が行われ、乾燥装置24では、溶剤蒸発工程17及び水滴蒸発工程18(図1参照)が行われる。そして、筒26が、ディップ塗布装置23を通過すると、筒26の外周面にディップ塗布膜12が形成され、外周面にディップ塗布膜12が形成された筒26が乾燥装置24を通過すると、ディップ塗布膜12が多孔フィルム13となる。
【0014】
ここで、本発明における多孔体とは、表面に孔又は窪みを有する物体を指す。したがって、本発明における多孔体は、多孔フィルム13のみならず、表面に多孔フィルム13を有する筒26をも含む。多孔フィルム13のみを最終製品とする場合には、多孔フィルム13と筒26とを分離するための分離装置を、乾燥装置24の下流側に設けてもよい。多孔フィルム13と筒26とを分離する方法としては、筒26から多孔フィルム13を剥ぎ取る方法の他、筒26を溶剤により溶解する方法、温度応答性ポリマーやUV反応性ポリマーをコーティングした筒26の表面上に多孔フィルム13を形成した後、筒26を加熱する、又は筒26に紫外線を照射して、筒26と多孔フィルム13とを分離する方法、筒26及び多孔フィルム13を膨潤液に浸漬し、多孔フィルム13の膨潤により筒26と多孔フィルム13とを分離する方法、筒26のみに切込みを入れた後に、筒26と多孔フィルム13とを剥離して、筒状の多孔フィルム13を得る方法や、筒26及び多孔フィルム13に切込みを入れた後に、筒26と多孔フィルム13とを剥離し、展開し、シート状の多孔フィルム13を得る方法等がある。表面に多孔フィルム13を有する筒26を最終製品とする場合には、表面に多孔フィルム13を有する筒26を所定のサイズに切断するカット装置を、乾燥装置24の下流側に設けてもよい。なお、乾燥装置と分離装置との間にカット装置を設け、多孔フィルム13を筒26と共に切断してもよいし、分離装置よりも下流側にカット装置を設け、筒26から分離された多孔フィルム13切断してもよい。
【0015】
図2に示すように、ディップ塗布装置23は、図示しない仕切り板により、浸漬ゾーン31、水滴形成成長ゾーン32及び膜形成ゾーン33の3つに区画される。液槽29は各ゾーン31〜33にかけて配され、ポリマーと溶剤とを含む溶液11が貯留する。液槽29に貯留する溶液11の温度を所定の範囲で略一定に維持する温調機34が取り付けられていることが好ましい。
【0016】
図3に示すように、水滴形成成長ゾーン32には、湿潤空気供給機35が設けられる。湿潤空気供給機35は、湿潤空気400を送り出す送風口36と、湿潤空気400を吸引する吸引口37と、図示しない送風コントローラとを有する。送風口36及び吸引口37は、水滴形成成長ゾーン32における溶液11の液面39と対向するように、湿潤空気供給機35に設けられる。送風コントローラは、図示しない制御部の制御の下、送風口36から送り出される湿潤空気400の温度TA1、露点TD1、溶剤の凝縮点TR1などが所望の範囲内で略一定となるように調節する。
【0017】
図4に示すように、膜形成ゾーン33には、湿潤空気供給機40が設けられる。湿潤空気供給機40は、低露点湿潤空気401を送り出す送風口41と、低露点湿潤空気401を吸引する吸引口42と、図示しない送風コントローラとを有する。低露点湿潤空気401の露点TD2は、湿潤空気400の露点TD1よりも低い。送風口41及び吸引口42は、膜形成ゾーン33における溶液11の液面39と対向するように、湿潤空気供給機40に設けられる。送風コントローラは、図示しない制御部の制御の下、送風口41から送り出される低露点湿潤空気401の温度TA2、露点TD2、溶剤の凝縮点TR2などが所望の範囲内で略一定となるように調節する。
【0018】
図5に示すように、乾燥装置24は、筒26の送り方向に向かって並べられる乾燥空気供給機47から構成される。乾燥空気供給機47は、筒26が通過する貫通孔47aを有する供給機本体47bと、供給機本体47bに設けられる送風ダクト47c及び吸引ダクト47dと、供給機本体47bの内周面に形成される送風口47e及び吸引口47fと、図示しない送風コントローラとを有する。貫通孔47aの寸法は、筒26が供給機本体47bの内周面と離間した状態で挿入可能な寸法であればよい。送風ダクト47cと送風口47eとが接続し、吸引ダクト47dと吸引口47fとが接続する。送風コントローラにより、乾燥空気402は送風ダクト47cを経て、送風口47eから送り出される。送風口47eから送り出された乾燥空気402は、吸引口47fから吸引され、吸引ダクト47dに送られる。送風コントローラは、吸引ダクト47dに送られた乾燥空気402の温度、露点、溶剤の凝縮点などが所望の範囲内で略一定となるように調節した後、乾燥空気402を送風ダクト47cに供給する。
【0019】
次に、本発明の作用について説明する。図2に示すように、送り出し装置21及び駆動装置22により、送り出し装置21に収納される筒26は所定の方向に走行し、ディップ塗布装置23及び乾燥装置24を順次通過する。
【0020】
図2及び図3に示すように、ディップ塗布装置23に送られた筒26は、浸漬ゾーン31〜膜形成ゾーン33を順次通過する。浸漬ゾーン31では、ディップ塗布装置23に送られた筒26が、液槽29に貯留する溶液11に浸漬する。水滴形成成長ゾーン32では、筒26は溶液11に浸漬したまま膜形成ゾーン33へ送られ、膜形成ゾーン33では、筒26が溶液11から引き上げられる。温調機34は、水滴形成成長ゾーン32及び膜形成ゾーン33における溶液11の液面39の温度TSが所定の範囲内で略一定となるように、液槽29に貯留する溶液11の温度を調節する。
【0021】
(水滴形成成長工程)
図3及び図6に示すように、湿潤空気供給機35は、送風コントローラによって所定の条件に調節された湿潤空気400を、送風口36を介して水滴形成成長ゾーン32の液面39にあてて、吸引口37により湿潤空気400を吸引する。水滴形成成長ゾーン32の液面39には、湿潤空気400との接触により結露が生じ、液面39上に形成した水滴406は、所望の寸法になるまで成長する。液面39上の水滴406は、水滴406間にはたらく横毛細管力、液槽29における溶液11の流れ、及び後述する移流集積の効果等により、膜形成ゾーン33に向かって移動する。
【0022】
(膜形成工程)
図4に示すように、膜形成ゾーン33では、溶液11に浸漬した筒26が液面39を介して溶液11から引き出される。膜形成ゾーン33の液面39では、所望の寸法まで成長した水滴406が、水滴406間にはたらく横毛細管力、液槽29における溶液11の流れ、及び後述する移流集積の効果等により、液面39から引き出される筒26に集まるように移動する。また、膜形成ゾーン33の液面39では、低露点湿潤空気401との接触により水滴の406の蒸発及び成長が抑えられるため、膜形成ゾーン33における水滴406の寸法は略一定値で維持される。したがって、溶液11から引き出された筒26の外周面26aには溶液11からなる筒状のディップ塗布膜12が形成するとともに、所望の寸法の水滴406がディップ塗布膜12の外周面12a上に並ぶように集められる。水滴406を外周面12aに有するディップ塗布膜12は、筒26の走行により、乾燥装置24に送られる。このとき、当該液面39と外周面26aとが交差するようにして、筒26を溶液11から引き出すことが好ましい。
【0023】
(溶剤蒸発工程及び水滴蒸発工程)
図2及び図5に示すように、ディップ塗布装置23を経た筒26は、乾燥装置24に送られる。乾燥装置24に送られた筒26は、乾燥空気供給機47の貫通孔47aを通過する。乾燥空気供給機47は、乾燥空気402を送風口47eから送り出し、吸引口47fから乾燥空気402を吸引する。これにより、所定の条件に調節された乾燥空気402が、筒26の外周面26a上に設けられたディップ塗布膜12と接触する。図7に示すように、乾燥空気402とディップ塗布膜12との接触により、ディップ塗布膜12に含まれる溶剤408が蒸発し、外周面12a上の水滴406はディップ塗布膜12中に潜る。なお、水滴406を鋳型とする目的から、溶剤蒸発工程17(図1参照)における溶剤408の蒸発は、ディップ塗布膜12における溶液11の流動性が失われる程度まで行うことが好ましい。引き続いて、水滴蒸発工程18(図1参照)により、乾燥空気402とディップ塗布膜12との接触を続けると、図8に示すように、ディップ塗布膜12から水滴406が蒸発し、水滴406の跡が孔13aとなる多孔フィルム13(図1参照)を得ることができる。
【0024】
本発明では、図1及び図4に示すように、膜形成工程16にて、ディップ塗布膜12を筒26の外周面26a上に形成しながら、目標とする孔の寸法(以下、目標寸法と称する)となるまで予め成長させた水滴406をディップ塗布膜12の外周面12a上に集めるため、外周面12aに水滴406を有するディップ塗布膜12を曲面上に設けることができる。したがって、本発明によれば、表面に微細パターン構造を有する筒状の多孔フィルム13を製造することができる。
【0025】
更に、ディップ塗布膜12における水滴406の配列条件を適宜調節することにより、所望の寸法の水滴406を所望の形成密度でディップ塗布膜12の外周面12a上に並べることができる。したがって、本発明によれば、孔13a(図1参照)の寸法や形成密度が所望の範囲の多孔フィルム13を容易に製造することが出来る。なお、水滴406の配列条件の詳細は後述する。
【0026】
また、本発明では、筒26の外周面に比べて、十分に広い領域の液面39にて水滴形成成長工程15を行うため、水滴形成成長工程15において、液面39上で水滴406の核形成が過剰に起こったとしても、膜形成工程16における水滴406の配列条件の調節により、ディップ塗布膜12上における水滴406の過剰形成を確実に回避することができる。したがって、本発明によれば、塗布膜上で水滴形成成長工程15を行う方法で問題となっていた、水滴406の過剰形成に起因する多孔フィルムのシワの発生、又は孔の形状や寸法にバラツキの発生を確実に抑えることが出来る。
【0027】
また、図4に示すように、水滴406の目標寸法がCCDなどの画像センサや目視で観察できる程度の大きさの場合には、膜形成ゾーン33の液面39やディップ塗布膜12の外周面12aにおける水滴406を観察する画像センサ58を湿潤空気供給機40に設け、液面39や外周面12aにおける水滴406の形成密度を算出し、この算出結果に基づいて、駆動装置22、温調機34、湿潤空気供給機35、40、乾燥空気供給機47に設けられた各送風コントローラ、及び後述する送液装置などを制御してもよい。このようにして、膜形成工程16(図1参照)にて、ディップ塗布膜12の外周面12aや液面39における水滴406の形成密度を算出しながら、外周面12aにおける水滴406の配列条件を調節することも可能となる。したがって、本発明によれば、孔の寸法や形成密度が所望の範囲の多孔フィルム13を容易に製造することが出来る。なお、図3に示すように、水滴形成成長ゾーン32の液面39における水滴406を観察する画像センサ58を湿潤空気供給機35に設け、液面39における水滴406の形成密度を算出し、この算出結果に基づいて、駆動装置22、温調機34、湿潤空気供給機35、40、乾燥空気供給機47に設けられた各送風コントローラ、及び後述する送液装置などを制御して、水滴形成成長工程15(図1参照)を行ってもよい。なお、画像センサ58は省略してもよい。
【0028】
図1及び図3に示すように、水滴形成成長工程15において、溶液11から溶剤408が蒸発すると、溶剤408の蒸発潜熱に起因して液面39の温度TSが低下する。したがって、この水滴形成成長工程15を塗布膜上で行うと、塗布膜の露出面の温度TSが低下する結果、露出面近傍の空気の露点TDから露出面の温度TSをひいた値であるパラメータΔTwが大きくなってしまい、水滴406の核形成や核成長の調節を精度良く行うことができない。本発明では、水滴形成成長工程15を、塗布膜に比べて十分な量の溶液11の液面39上で行うため、溶剤の蒸発潜熱に起因する温度TSの低下の影響を抑えることも可能である。
【0029】
従来の方法では、孔の寸法及び形成密度を調節するために、塗布膜の露出面全体において、水滴の核形成、核成長の進行の度合いが均一となるように各パラメータを調節しながら、水滴形成成長工程15を行う必要があったが、本発明によれば、予め目標寸法となるまで成長した水滴406をディップ塗布膜12に集めるため、目標とする多孔フィルムの寸法と独立して、孔の寸法及び形成密度を調節することが可能である。したがって、多孔フィルムの目標寸法が変更となっても、水滴形成成長工程15における各条件を変更せずに、目標とする多孔フィルムの寸法に応じた支持体に変更するのみで、孔の寸法及び形成密度が同一の多孔フィルムを容易に製造することが出来る。更に、目標とする多孔フィルムの寸法、すなわち水滴形成成長工程15における露出面の面積が広大になると、従来の方法では、各パラメータを高精度で調節しながら水滴形成成長工程15を行う必要があったが、本発明によれば、水滴形成成長工程15にて各パラメータの調節を高精度で行わずに済む。したがって、本発明によれば、寸法の大きな多孔フィルムを容易に製造することが出来る。本発明により、従来の製法で製造が困難であった大判の多孔フィルムを製造することができる。
【0030】
(多孔フィルム)
図9(A)に示すように、本発明により得られる筒状の多孔フィルム13は、筒状に形成され(図5参照)、外周面に孔13aを有する。孔13aは、ハチの巣状、いわゆるハニカム構造となるように多孔フィルム13に密に配列する。そして、図9(B)及び(C)に示すように、孔13aは、多孔フィルム13の外周面及び内周面を貫通するように形成される。なお、図9(D)のように、孔13aの代わりに、窪み53aが外周面側に形成される多孔フィルム53や窪み53aが内周面側に形成される多孔フィルムも本発明の多孔フィルムに含まれる。
【0031】
そして、この孔13aや窪み53aの寸法や形成密度は、後述する製造条件によって異なる。本発明により製造される多孔フィルム13の形態は特に限定されるものではないが、本発明は、例えば、図9に示すように、多孔フィルム13の厚みTH1が0.05μm以上、孔13aの径D1が0.05μm以上、孔13aの形成ピッチP1が0.1μm以上120μm以下であるような多孔フィルム13を製造する場合に特に効果がある。
【0032】
なお、本明細書において、ハニカム構造とは、上記のように、一定形状、一定サイズの孔が連続かつ規則的に配列している構造を意味する。この規則配列は単層の場合には二次元的であり、複層の場合は三次元的にも規則性を有する。この規則性は二次元的には1つの孔の周囲を複数(例えば、6つ)の孔が取り囲むように配置され、三次元的には結晶構造の面心立方や六方晶のような構造を取って、最密充填されることが多いが、製造条件によってはこれら以外の規則性を示すこともある。なお、同一平面上において、1つの孔の周囲に形成される孔の数は、6個に限らず、3〜5個或いは7個以上でも良い。
【0033】
以下、各工程における好ましい実施態様及び条件等について説明する。
【0034】
水滴形成成長工程15(図1参照)では、図3及び図6に示すように、液面39上にて水滴406の核形成及び核成長を行う。液面39上に形成する水滴406の寸法は、湿潤空気400の露点TD1と液面39の温度TSとの差ΔTw(=TD1−TS)により調節することができる。ΔTwは0.5℃以上30℃以下であることが好ましく、1℃以上20℃以下であることがより好ましい。また、溶剤の蒸発は、蒸発潜熱により温度TSが低下する結果、ΔTwが変動してしまうため、水滴形成成長工程15では、溶剤をできるだけ蒸発させないことが好ましい。このため、溶剤の凝縮点TR1は、液面39の温度TSよりも低いことが好ましい。液面39の温度TSは−5℃以上30℃以下であることが好ましい。湿潤空気400の露点TD1は5℃以上30℃以下であることが好ましい。湿潤空気400の温度TA1は5℃以上30℃以下であることが好ましい。なお、筒26が浸漬するときの溶液11の液面39には、水滴406が形成されていても良いし、水滴406が形成されていなくても良い。
【0035】
膜形成工程16(図1参照)では、図2及び図4に示すように、水滴406の蒸発を抑えつつ、水滴406の核形成及び核成長を抑えるため、ΔTwは0℃以上20℃以下であることが好ましく、0℃以上10℃以下であることがより好ましい。ここで、膜形成工程16におけるパラメータΔTwは、液面39の温度TSと低露点湿潤空気401の露点TD2との差(=TD2−TS)である。また、溶剤の蒸発潜熱により温度TSが低下する結果、ΔTwが変動してしまうため、膜形成工程16では、溶剤をできるだけ蒸発させないことが好ましい。したがって、溶剤の凝縮点TR2は、液面39や外周面12aの温度TSに比べ低いことが好ましい。外周面12aの温度は0℃以上20℃以下であることが好ましい。外周面12aの近傍の雰囲気露点は0℃以上20℃以下であることが好ましい。外周面12aの近傍の雰囲気温度は10℃以上40℃以下であることが好ましい。
【0036】
ディップ塗布膜12における水滴406の配列条件は、パラメータΔTw、ΔTsolvの他、引き出し速度V1、引き出し角度θ1や液槽29における溶液11の流れの速さ等によって適宜調節することが可能である。図4に示すように、引き出し速度V1は、溶液11から筒26を時間t1の間引き上げ続けたときに、時間t1の間に溶液11から露呈した筒26の方向LDの長さをL1とすると、L1/t1で表される。ここで、方向LDは筒26の長手方向を表す。また、引き出し角度θ1は、液面39と当該液面39を通過する筒26の外周面26aとがなす角の角度である。
【0037】
膜形成工程16における引き出し速度V1が大きくなるほど、ディップ塗布膜12における水滴406の形成密度は小さくなり、引き出し速度V1が小さくなるほど、ディップ塗布膜12における水滴406の形成密度は大きくなる。引き出し速度V1は、1μm/秒以上1m/秒以下であることが好ましく、100μm/秒以上1cm/秒以下であることがより好ましい。1μm/秒未満では、水滴406の充填が過密となるため好ましくなく、1m/秒を超えると、水滴406の充填が疎となるため好ましくない。
【0038】
また、膜形成工程16における引き出し角度θ1が大きくなるほど、水滴406の充填が疎となりやすくなり、引き出し角度θ1が小さくなるほど、水滴406の充填が蜜となる。引き出し角度θ1は、0°より大きく180°未満であればよく、120°以上160°以下であることがより好ましい。加えて、筒26及び溶液11における界面エネルギーや、溶液11及び水滴406における界面エネルギー等を考慮して、上記配列条件を調節することが好ましい。
【0039】
筒26の形成材料としては、特に限定されるものではなく、使用する溶剤に対する十分な化学的安定性や、多孔フィルム製造工程10における耐熱性を有するものであることが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ナイロン6、ナイロン6,6、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリイミド等の有機材料の他や、ガラス、ステンレス、その他の金属等の無機材料が挙げられる。
【0040】
なお、ディップ塗布膜12を形成する外周面26aは、溶液11が濡れやすいように加工されていることが好ましい。溶液11の濡れ性の指標としては、例えば、接触角θs、接触角θwや表面張力を用いることができる。接触角θs、又は接触角θwは、溶液11からなる液滴又は水滴を外周面26aに形成し、この液滴又は水滴の形状から算出することができる。そして、外周面26aの接触角θsは0°以上70°以下であることが好ましく、0°以上50°以下であることがより好ましい。また、水に対する外周面26aの接触角θwは5°以上180°未満であることが好ましく、30°以上180°未満であることがより好ましい。表面張力は、溶液11の表面張力γと外周面26aの臨界表面張力γcで規定され、γ>γcであることが好ましい。なお、γは、5mN/m以上50mN/m以下であることが好ましく、5mN/m以上30mN/m以下であることがより好ましい。γcは、20mN/m以上200mN/m以下であることが好ましく、30mN/m以上200mN/m以下であることがより好ましい。表面張力γ及びと外周面26aの臨界表面張力γcは、毛細管上昇法、滴下法、吊環法など公知の測定方法により求めることができる。
【0041】
上記実施形態では、膜形成ゾーン33の液面39に低露点湿潤空気401をあてたが、本発明はこれに限られず、ディップ塗布膜12に低露点湿潤空気401をあててもよい。ディップ塗布膜12に低露点湿潤空気401をあてる湿潤空気供給機は、湿潤空気供給機40(図4参照)と同様の構造を有するものでもよいし、乾燥空気供給機47(図5参照)と同様の構造を有するものでもよい。これにより、ディップ塗布膜12の外周面12a上の水滴406の径を維持することができる。
【0042】
更に、低露点湿潤空気401をディップ塗布膜12にあてて、ディップ塗布膜12から溶剤を蒸発させてもよい。後述するように調節された低露点湿潤空気401をディップ塗布膜12の一の領域にあてると、当該一の領域から溶剤が蒸発し、この溶剤の蒸発により液槽29に貯留する溶液11が当該一の領域へ流れ込む移流集積の効果により、溶液11の液面39にある水滴406を、積極的に外周面12aに集めることができる。この移流集積の効果が発現できる程度であれば、ディップ塗布膜12のいずれの部分に低露点湿潤空気401をあててもよく、例えば、液面39近傍のディップ塗布膜12に低露点湿潤空気401をあてることが好ましい。更に、溶剤の蒸発に起因する移流集積の効果により、浸漬ゾーン31にある溶液11が、水滴形成成長ゾーン32及び膜形成ゾーン33に流れやすくなるため、水滴形成成長ゾーン32の水滴406が膜形成ゾーン33に流れやすくなる。膜形成ゾーン33においてディップ塗布膜12から溶剤を蒸発させるためには、低露点湿潤空気401の溶剤の凝縮点TR2は、液面39や外周面12aの温度TSに比べ低いことが好ましい。ただし、溶剤の蒸発潜熱に起因するΔTwの変動により、水滴406の核形成、核成長が起こらないように、低露点湿潤空気401の各条件を調節することが好ましい。
【0043】
移流集積により、水滴406の形成密度εを調節することができる。形成密度εは、単位面積当たりの外周面12a上に存在する水滴406の数であり、(式1)(式2)のように表される。
(式1) ε=K/h
(式2) K=β・L・(je/νc)・φ/(φ−1)
図4に示すように、hは、筒26の引き出し時に形成されるディップ塗布膜12の厚さであり、βは、溶液11の液面上の水滴406の流れの速さVLと液槽29における溶液11の流れの速さVWとの比VL/VWであり、Lは、筒26の引き出し方向に直交する面に現れるディップ塗布膜12の外周面12aの長さであり(図3参照)、jeは当該一の領域における溶剤の蒸発速度であり、νcはメニスカスにおける水滴406の移動速度であり、φはメニスカス近傍の溶液11に対する水滴406の体積分率である。ここで、メニスカスとは、溶液11から筒26を引き出す領域、及びその領域の近傍における液面39やディップ塗布膜12の外周面12aを指す。なお、νcを引き上げ速度V1としてもよい。また、体積分率φは、水滴406の半径や濃度(単位面積あたりの液面39に存在する水滴406の数)によって調節することができる。したがって、引き上げ速度V1や滴406の半径や濃度の調節より、水滴406の形成密度εを調節することができる。こうして、上記条件を適宜調節することにより、水滴406の形成密度εが均一なディップ塗布膜12や、水滴406の形成密度εが引き上げ方向に漸増または漸減するディップ塗布膜12を形成することも可能となる。同様にして、上記条件を適宜調節することにより、水滴406の径が均一なディップ塗布膜12や、水滴406の径が引き上げ方向に漸増または漸減するディップ塗布膜12を形成することも可能となる。
【0044】
ディップ塗布膜12の膜厚hは、引き出し速度V1や引き出し角度θ1のほか、筒26及び溶液11における界面エネルギー等に基づいて適宜調節することが可能である。例えば、形成直後のディップ塗布膜12の膜厚は、1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0045】
なお、ディップ塗布膜12に送った低露点湿潤空気401が、液面39や液面39上の水滴406にあたることを遮る遮風部材を、液面39の一部または全体を覆うように設けることが好ましい。遮風部材は、少なくとも目標寸法になるまで成長した水滴406が存在する液面39を覆うように設けられることが好ましい。また、遮風部材が液面39全体を覆うように設けられる場合には、遮風部材に、液面39が露呈する第1開口部、第2開口部を設けても良い。第1開口部に露呈する液面39に湿潤空気400をあてることにより、水滴形成成長工程15(図1参照)を行うことが可能となり、液面39上に形成した水滴を第2開口部から露呈する液面39に向けて送り、第2開口部から筒26を引き出すことにより、膜形成工程16(図1参照)を行うことが可能となる。なお、図10に示すように、液面39全体を覆うように設けられる遮風部材60に2つの第1及び第2開口部を設ける代わりに、1つの開口部62を設け、この開口部62に露呈する液面39に湿潤空気400をあてつつ、開口部62から筒26を引き出しても良い。これにより、液槽29に貯留する溶液11の温度の変動を抑えることや液面39における結露を抑えることができる。
【0046】
図1及び図7に示すように、溶剤蒸発工程17では、ディップ塗布膜12の外周面12a上における水滴406の蒸発、核形成及び核成長を抑えるため、ΔTwは0℃以上10℃以下であることが好ましく、0℃以上5℃以下であることがより好ましい。ここで、溶剤蒸発工程17におけるパラメータΔTwは、外周面12aの温度TSとこの外周面12a近傍の空気の露点TDとの差(=TD−TS)である。なお、乾燥空気402を外周面12aにあてて溶剤蒸発工程17を行う場合には、外周面12aの温度をTS、乾燥空気402の露点をTD3とするときに、パラメータΔTwを(TD3−TS)としてもよい。
【0047】
なお、溶剤蒸発工程17(図1参照)は、図5に示すように、鉛直方向に伸びるように配された筒26の外周面26aに形成するディップ塗布膜12に行ってもよいし、水平方向に伸びるように配された筒26の外周面26aに形成するディップ塗布膜12に行ってもよい。また、溶剤蒸発工程17は、搬送されるディップ塗布膜12に行っても良いし、静止するディップ塗布膜12に行ってもよい。
【0048】
図2及び図8に示すように、水滴蒸発工程18では、ディップ塗布膜12に残留する溶剤や水滴406を蒸発させるため、ΔTw及びΔTsolvは、できるだけ小さくすることが好ましい。
【0049】
なお、上記実施形態では、湿潤空気供給機35を2つ並べたが、本発明はこれに限られず、湿潤空気供給機35を1つ設けても良いし、3つ以上の湿潤空気供給機35を並べても良い。また、水滴形成成長ゾーン32を、水滴の核形成ゾーン、核成長ゾーンに分け、それぞれのゾーンに湿潤空気供給機35を設け、それぞれのゾーンごとに湿潤空気400の条件を適宜調節してもよい。同様にして、膜形成ゾーン33において、複数の湿潤空気供給機40を並べても良いし、乾燥装置24において、1つ又は3つ以上の乾燥空気供給機47を並べても良い。
【0050】
上記実施形態では、図4に示すように、筒26を溶液11から引き出すときに、筒26の長手方向LDに筒26を引き出したが、本発明はこれに限られず、液面39と外周面26aとが交差する状態を維持していれば、長手方向LDと交差角度θ2で交差する方向ADに、筒26の引き出しても良い。交差角度θ2は0°以上90°以下であることが好ましい。
【0051】
上記実施形態では、図3に示すように、液面39に湿潤空気400をあてて水滴形成成長工程15(図2参照)をおこなったが、本発明はこれに限られず、図11に示すように、インクジェットユニット70を用いて水滴を液面39に吐出してもよい。インクジェットユニット70から吐出される水滴の寸法は、目標寸法でもよいし、この目標寸法よりも小さなものでもよい。また、吐出された水滴の寸法が目標寸法よりも小さい場合には、インクジェットユニット70によって吐出された水滴に湿潤空気400をあてて、目標寸法となるまで水滴を成長させてもよい。水滴に湿潤空気400をあてる方法としては、液面39に着地する前の水滴と、着地後の水滴とのいずれに湿潤空気400にあてもよい。更に、筒26が引き出される液面39に向かう横毛細管力が液面39上の水滴406に働くように、インクジェットユニット70を用いて、水滴を液面39上に吐出してもよい。この場合には、形成直後のディップ塗布膜12と、ターゲットとなる水滴406との間の液面39上に水滴を吐出することが好ましい。
【0052】
インクジェットユニット70は、インクジェットヘッド、ヘッド駆動部、コントローラを備え、一般的なインクジェットプリンタと同様な構造となっている。但し、インクの代わりに、多孔フィルムにおける孔の鋳型となる水滴を形成するため水が用いられる点で、一般的なインクジェットプリンタとは異なっている。インクジェットユニット70における吐出方式は、ライン吐出方式、シリアル吐出方式の何れでもよい。
【0053】
ライン吐出方式では、所定の方向に多数のインク吐出口が並べて形成されたインクジェットヘッドを用い、筒26の走行に同期させてインク吐出口から水滴を吐出し、液面39に水滴406を形成する。ライン吐出方式によれば、所定の方向において一括して水滴406を形成すること、及び筒26の連続送りが可能になる。
【0054】
インクジェットヘッドは、吐出ラインを有する。吐出ラインは、所定の方向にライン状に並べられた複数のインク吐出口から構成される。インクジェットヘッドには、少なくとも1本の吐出ラインが設けられればよく、複数の吐出ラインが筒26の走行方向に並ぶように設けられてもよい。吐出ラインを複数設けた場合には、一の吐出ラインからの水滴の吐出により液面39に水滴406を形成し、他の吐出ラインから当該水滴406が形成する位置に、水滴406を1回或いは複数回吐出することにより、水滴406を成長させることもできる。また、隣接する吐出口から同時に水滴406を吐出することで、液面39上で水滴を結合させ、結果的に水滴406を成長させることもできる。また、各吐出口からの吐出量を変化させることで、吐出口から吐出される水滴406の寸法を変更してもよく、さらには、これらの組み合わせによって、水滴406の寸法を変更してもよい。
【0055】
一方、シリアル吐出方式では、ライン吐出方式に比べて、インクジェットヘッドが小型で済む利点があるものの、所定の方向にインクジェットヘッドを移動させるキャリッジ及びキャリッジ駆動部、ヘッド駆動部、及びコントローラが必要になる。インクジェットヘッドにはインク吐出口が形成されている。そして、キャリッジ及びキャリッジ駆動部によって、インクジェットヘッドを所定の方向に移動させる。これにより、液面39上に、1回のキャリッジ移動によって吐出口1ライン分の水滴406が形成される。このため、筒26の搬送はインクジェットヘッドのキャリッジ移動後に行われる間欠送りとなり、吐出中は筒26が停止している。
【0056】
水滴形成成長工程15(図2参照)では、図12に示すように、水滴形成成長ゾーン32における液面39上の水滴406が、膜形成ゾーン33の液面39から引き出される筒26に向かうように、湿潤空気400を液面39または液面39上の水滴406にあててもよい。この場合には、ディップ塗布膜12の外周面12a上に並んだ水滴406に湿潤空気400が接触しないよう、湿潤空気供給機35とディップ塗布膜12との間に膜遮風部材を設けても良い。膜遮風部材は、外周面12aを囲むように、外周面12a近傍に設けられることが好ましい。なお、膜遮風部材とともに遮風部材60(図10参照)を設けても良い。同様にして、膜形成ゾーン33の液面39上の水滴406が、液面39から引き出される筒26に向かうように、低露点湿潤空気401を液面39または液面39上の水滴406にあててもよい。
【0057】
また、図2に示すように、多孔フィルム製造設備20に送液装置80を設けても良い。送液装置80は、供給部81と回収部82と配管83とポンプ84とを備える。供給部81及び回収部82は、液槽29中における筒26の走行方向に順次設けられる。供給部81は液槽29に溶液11を供給する。回収部82は液槽29から溢れた溶液11を回収する。配管83は、供給部81と回収部82とを連通する。ポンプ84は、配管83に設けられ、回収部82に回収された溶液11を、配管83を介して供給部81へ送液する。ポンプ84の作動により、液槽29内の溶液11を、水滴形成成長ゾーン32から膜形成ゾーン33へ流すことができる。なお、送液装置80は省略してもよい。
【0058】
なお、膜形成ゾーン33に、液面39の水滴406をディップ塗布膜12の所望の位置にガイドするガイド部材を設けても良い。これにより、ディップ塗布膜12上における水滴406の配列を正方格子等の所望の規則的配列にすること、またはディップ塗布膜12上の特定の部分のみに水滴を並べることも可能となる。また、膜形成ゾーン33において、液槽29中の溶液11の流動、すなわち、攪拌、対流、波動、振動により、水滴406の配列条件を調節することも可能である。
【0059】
上記実施形態では、図2に示すように、各工程15〜18(図1参照)を連続的に行う多孔フィルム製造設備20を用いて多孔フィルム13を製造したが、本発明はこれに限られず、図13及び図14に示すように、各工程15〜18をバッチ式で行う製造方法に適用することも可能である。
【0060】
液槽90に溶液11を注ぐ(図13(A))。そして、溶液11の液面39に湿潤空気400をあてる。湿潤空気400との接触により、結露が生じ液面39に水滴406が形成し、所望の寸法になるまで水滴406が成長する(図13(B))。これにより、水滴形成成長工程15(図1参照)が行われる。楕円体91の一部を、液槽90中の溶液11に浸漬する(図14(C))。次に、溶液11から楕円体91を引き上げる(図14(D))。こうして、楕円体91の表面の一部には、溶液11からなり、湾曲状のディップ塗布膜が形成し、液面39上の水滴406はディップ塗布膜の表面に並ぶ。このようにして、膜形成工程16(図1参照)が行われる。そして、溶液11から引き出した楕円体91を図示しない乾燥室に配置する。乾燥室では、水滴406が並ぶディップ塗布膜に乾燥空気をあてる。これにより、溶剤蒸発工程17、水滴蒸発工程18(図1参照)が行われる。こうして、各工程15〜18(図1参照)をバッチ式で行うことにより、多孔フィルム13(図1参照)を製造することができる。なお、楕円体91の一部を溶液11に浸漬したが、楕円体91全部を溶液11に浸漬してもよい。
【0061】
上記実施形態では、筒26の外周面26aにのみ、ディップ塗布膜12を形成したが、本発明はこれに限られない。図15に示すディップ塗布装置95では、溶液11が液槽に貯留し、液槽内の溶液11に筒26が浸漬する。液槽29に貯留する溶液11の液面39上には、円環状の膜形成ゾーン33が設定される。膜形成ゾーン33は、溶液11に浸漬する筒26を溶液11の外へ引き上げるときに、筒26が通過する液面39を含む範囲とする。そして、膜形成ゾーン33の外側の液面39上には外側水滴形成成長ゾーン32aが、膜形成ゾーン33の内側の液面39上には内側水滴形成成長ゾーン32bが、それぞれ設定される。
【0062】
外側湿潤空気供給機及び内側湿潤空気供給機は、湿潤空気供給機35と同様の構造を有する。外側湿潤空気供給機は、送風口及び吸引口が外側水滴形成成長ゾーン32aと対向するように設けられる。内側湿潤空気供給機は、送風口及び吸引口が内側水滴形成成長ゾーン32bと対向するように設けられる。なお、外側湿潤空気供給機として、インクジェットユニット70(図11参照)を用いてもよい。ライン吐出方式の場合には、外側水滴形成成長ゾーン32aと対向するように設けられるインク吐出口を、インクジェットヘッドに環状に並べる。また、シリアル方式の場合には、インク吐出口を有するインクジェットヘッドを、外側水滴形成成長ゾーン32a上で環状に移動させてもよい。同様に、内側湿潤空気供給機としてインクジェットユニット70を用いてもよい。
【0063】
乾燥装置は、外側乾燥空気供給機及び内側乾燥空気供給機から構成される。外側乾燥空気供給機は、乾燥空気供給機47(図5参照)と同様の構造を有する。内側乾燥空気供給機は、円柱状に形成され、径は筒26の内径よりも小さい。内側乾燥空気供給機の周面には、乾燥空気402を送り出す送風口と乾燥空気402を吸引する吸引口が設けられる。そして、内側乾燥空気供給機は、外側乾燥空気供給機の貫通孔に挿入される。外側乾燥空気供給機及び内側乾燥空気供給機とのクリアランスは、筒26が通過可能なものとなっている。
【0064】
外側湿潤空気供給機及び内側湿潤空気供給機は、それぞれ、所定の条件に調節した湿潤空気400を、外側水滴形成成長ゾーン32a及び内側水滴形成成長ゾーン32bにあてる。湿潤空気400と接触した外側水滴形成成長ゾーン32a及び内側水滴形成成長ゾーン32bでは、水滴406が形成し、所定の寸法にまで成長する。筒26が膜形成ゾーン33の液面39から引き上げられるように、溶液11に浸漬した筒26の先端部を、膜形成ゾーン33を介して引き上げる。液面39から引き上げられた筒26の外周面26a及び内周面26bには、それぞれ溶液11からなる筒状のディップ塗布膜102a、102bが形成するとともに、ディップ塗布膜102aの外周面には、外側水滴形成成長ゾーン32aで所望の寸法にまで成長した水滴406が集められ、ディップ塗布膜102bの内周面には、内側水滴形成成長ゾーン32bで所望の寸法にまで成長した水滴406が集められる。このようにして、ディップ塗布装置95において、水滴形成成長工程15及び膜形成工程16(図1参照)が行われ、表面に水滴406が並ぶディップ塗布膜102a、102bを同時に形成することができる。
【0065】
その後、ディップ塗布装置95から送り出され、外周面26a及び内周面26bにディップ塗布膜102a、102bを有する筒26を、外側乾燥空気供給機及び内側乾燥空気供給機のクリアランスに挿入する。外側乾燥空気供給機は、筒26の外周面26a上のディップ塗布膜102aに乾燥空気402をあて、内側乾燥空気供給機は、筒26の内周面26b上のディップ塗布膜102bに乾燥空気402をあてる。このようにして、乾燥装置において、溶剤蒸発工程17及び水滴蒸発工程18(図1参照)が行われ、筒26の外周面26a及び内周面26bのディップ塗布膜102a、102bは、それぞれ多孔フィルムとなる。
【0066】
上記実施形態では、外周面26a及び内周面26bに、それぞれディップ塗布膜102a、102bを形成したが、本発明はこれに限られず、外側湿潤空気供給機を省略し、筒26の内周面26bのみにディップ塗布膜102bを形成してもよい。
【0067】
また、筒26の外周面26aや内周面26bに凹部を設けても良い。凹部は、外周面26a、26bにおいて島状に設けられても良いし、線状、或いは外周面26a、内周面26b上の一定範囲を占めるように面状に設けられてもよい。これにより、凹部の形成位置に基づき、ディップ塗布膜の内周面と外周面とのうちいずれか一方、または両方に水滴を並べることも可能となる。なお、筒26の外周面26aとともに内周面26bそれぞれにおける接触角θsや液膜厚等を適宜調節してもよい。
【0068】
上記実施形態では、曲面を有する支持体として筒状の支持体を用いたが、本発明はこれに限られない。本発明の曲面を有する支持体としては、球面、楕円体面、錐面、トーラス、その他の湾曲面を有するものであればよく、例えば、球、楕円体、円柱、楕円柱、円錐、円錐台、輪環体、螺旋体、鼓状の支持体等が挙げられる。また、線状体も円柱、楕円柱等に含まれるため、曲面を有する支持体として含まれる。したがって、1本、或いは複数の線状体を折り曲げてなる形成体や、複数の線条体からなる格子を有するもの等も、本発明の曲面を有する支持体として含まれる。
【0069】
複数の曲面を有する支持体を用いて、水滴406が並ぶディップ塗布膜を形成する場合には、それぞれの曲面と液面39とがなす角を考慮して、支持体を液面39から引き出せばよい。これにより、複数の表面において異なる配列条件の膜形成工程16(図2参照)を同時に行うことが出来る。
【0070】
上記実施形態では、水滴を液面に有する液を用いて、曲面をディップ塗布したが、本発明はこれに限られず、他の塗布方法を用いてもよい。例えば、図16に示すように、支持筒121が走行する搬送路122を設け、搬送路122の上方に支持部材123を設ける。そして、支持部材123の上面に斜面124を設ける。斜面124は、搬送路122に近づくに従って高さが低くなるように形成される。送風口及び吸引口が斜面124と対向するように、湿潤空気供給機(図示省略)を配する。支持部材123の上方には、図示しない溶液供給装置が設けられる。
【0071】
次に図16に示す塗布方法の作用について説明する。溶液供給装置は溶液11を斜面124に向けて吐出する。吐出した溶液11は、搬送路122に向かうように斜面124上を流れる。湿潤空気供給機は、斜面124上の溶液11の液面39に湿潤空気400をあてる。湿潤空気400との接触により、結露が生じ、液面39には水滴が形成する。溶液11は、液面39に水滴を有した状態のまま、斜面124の下流端部から、走行する支持筒121に向かって流下する。支持筒121に流下した溶液11は、支持筒121の外周面121a上で流れ延ばされる結果、外周面121a上に、表面128aに水滴を有する塗布膜128を形成する。このようにして得られた塗布膜128について、上述の溶剤蒸発工程17及び水滴蒸発工程18(図1参照)を行うことにより、多孔フィルムを得ることができる。なお、斜面124の下流端部から走行する支持筒121に向かって流下する溶液11に、低露点湿潤空気401をあててもよい。
【0072】
多孔フィルムの原料としては、非水溶性溶剤に溶解するポリマー(以下、「疎水性ポリマー」と称する)を用いることが好ましい。また、前記疎水性ポリマーだけでも多孔フィルムを形成することができるが、両親媒性ポリマーを共に用いることが好ましい。
【0073】
(溶剤)
前記ポリマーを溶解させて溶液11を調製するための溶剤としては、疎水性であって、有機溶剤など、ポリマーを溶解させることができる溶剤であれば特に制限はなく、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン,四塩化炭素、シクロヘキサン、酢酸メチルなどが挙げられる。
【0074】
また、溶液11におけるポリマーの濃度は、引き出される筒26の外周面26aにディップ塗布膜12が形成できる濃度であれば良く、例えば、0.01質量%以上30質量%以下の範囲であることが好ましい。前記高分子化合物の濃度が0.01質量%未満であると、フィルムの生産性に劣り工業的大量生産に適さないおそれがある。また、前記高分子化合物の濃度が30質量%を超える濃度であると、溶液11の粘性が増大するため、筒26の引き出しによるディップ塗布膜12の形成が困難となるため、好ましくない。また、液面上の水滴406の流れの速さVL(図4参照)を増大するために、溶液11の粘性はできるだけ低いほうが好ましく、例えば、100mPa・s以下の範囲であることが好ましい。また、溶液11の粘性の下限値としては、特に限定されないが、0.3mPa・s以上とすることが好ましい。
【0075】
(疎水性ポリマー)
前記疎水性ポリマーとしては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニル重合ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルカルバゾール、ポリテトラフルオロエチレンなど)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸など)、ポリラクトン(例えばポリカプロラクトンなど)、ポリアミド又はポリイミド(例えば、ナイロンやポリアミド酸など)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアロマティックス、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリシロキサン誘導体、セルロースアシレート(トリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート)などが挙げられる。これらは、溶解性、光学的物性、電気的物性、膜強度、弾性等の観点から、必要に応じてホモポリマーとしてもよいし、コポリマーやポリマーブレンドの形態をとってもよい。なお、これらのポリマーは必要に応じて2種以上のポリマーの混合物として用いてもよい。光学用途に使う場合には、例えば、セルロースアシレート、環状ポリオレフィンなどが好ましい。
【0076】
前記両親媒性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアクリルアミドを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基、親水性側鎖としてカルボキシル基を併せ持つ両親媒性ポリマー、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロックコポリマー、などが挙げられる。
【0077】
前記疎水性側鎖は、アルキレン基、フェニレン基等の非極性直鎖状基であり、エステル基、アミド基等の連結基を除いて、末端まで極性基やイオン性解離基などの親水性基を分岐しない構造であることが好ましい。該疎水性側鎖としては、例えば、アルキレン基を用いる場合には5つ以上のメチレンユニットからなることが好ましい。前記親水性側鎖は、アルキレン基等の連結部分を介して末端に極性基やイオン性解離基、又はオキシエチレン基などの親水性部分を有する構造であることが好ましい。
【0078】
前記疎水性側鎖と前記親水性側鎖との比率は、その大きさや非極性、極性の強さ、疎水性有機溶剤の疎水性の強さなどに応じて異なり一概には規定できないが、ユニット比(親水基:疎水基)=0.1:9.9〜4.5:5.5が好ましい。また、コポリマーの場合、疎水性側鎖の親水性側鎖の交互重合体よりも、疎水性溶剤への溶解性に影響しない範囲で疎水性側鎖と親水性側鎖がブロックを形成するブロックコポリマーであることが好ましい。
【0079】
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーの数平均分子量(Mn)は、1,000〜10,000,000が好ましく、5,000〜1,000,000がより好ましい。
【0080】
前記疎水性ポリマーだけでも、多孔フィルムを製造することができるが、両親媒性ポリマーと共に用いることが好ましい。
【0081】
前記疎水性ポリマーと前記両親媒性ポリマーとの組成比率(質量比率)は、99:1〜50:50が好ましく、98:2〜70:30がより好ましい。前記両親媒性ポリマーの比率が1質量%未満であると、均一な多孔フィルムが得られなくなることがある。一方、前記両親媒性ポリマーの比率が50質量%を超えると、塗布膜の安定性、特に力学的な安定性が十分に得られなくなることがある。
【0082】
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーは、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)ポリマーであることも好ましい。また、前記疎水性ポリマー及び/又は前記両親媒性ポリマーとともに、重合性の多官能モノマーを配合し、この配合物によりハニカム膜を形成した後、熱硬化法、紫外線硬化法、電子線硬化法等の公知の方法によって硬化処理を施すことも好ましい。
【0083】
前記疎水性ポリマー及び/又は前記両親媒性ポリマーと併用される多官能モノマーとしては、反応性の点から多官能(メタ)アクリレートが好ましい。前記多官能(メタ)アクリレートの例としては、ジペンタエリスリトールペンタアクリレ−ト、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールカプロラクトン付加物へキサアクリレート又はこれらの変性物、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマ−、N−ビニル−2−ピロリドン、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、又はこれらの変性物などが使用できる。これらの多官能モノマーは耐擦傷性と柔軟性のバランスから、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0084】
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーは、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)ポリマーである場合には、前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーの重合性基と反応しうる重合性の多官能モノマーを併用することも好ましい。
【0085】
前記エチレン性不飽和基を有するモノマーの重合は、光ラジカル開始剤又は熱ラジカル開始剤の存在下、電離放射線の照射又は加熱により行うことができる。従って、エチレン性不飽和基を有するモノマー、光ラジカル開始剤あるいは熱ラジカル開始剤、マット粒子及び無機フィラーを含有する塗液を調製し、該塗液を透明支持体上に塗布後電離放射線又は熱による重合反応により硬化して反射防止フィルムを形成することができる。
【0086】
前記光ラジカル開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類、2,3−アルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類や芳香族スルホニウム類が挙げられる。
【0087】
前記アセトフェノン類としては、例えば、2,2−エトキシアセトフェノン、p−メチルアセトフェノン、1−ヒドロキシジメチルフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−4−メチルチオ−2−モルフォリノプロピオフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノンなどが挙げられる。
【0088】
前記ベンゾイン類としては、例えば、ベンゾインベンゼンスルホン酸エステル、ベンゾイントルエンスルホン酸エステル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0089】
前記ベンゾフェノン類としては、例えば、ベンゾフェノン、2,4−クロロベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0090】
前記ホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシドなどが挙げられる。
【0091】
前記光ラジカル開始剤としては、最新UV硬化技術(P.159,発行人;高薄一弘,発行所;(株)技術情報協会,1991年発行)にも種々の例が記載されている。また、市販の光開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のイルガキュア(651,184,907)等が好ましい例として挙げられる。
【0092】
前記光ラジカル開始剤は、多官能モノマー100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、1〜10質量部の範囲で使用することがより好ましい。
【0093】
なお、前記光重合開始剤に加えて、光増感剤を用いてもよい。外光増感剤の具体例として、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、ミヒラーのケトン、チオキサントン、などが挙げられる。
【0094】
前記熱ラジカル開始剤としては、例えば、有機過酸化物、無機過酸化物、有機アゾ化合物、有機ジアゾ化合物、などを用いることができる。
【0095】
具体的には、有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ハロゲンベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化アセチル、過酸化ジブチル、クメンヒドロぺルオキシド、ブチルヒドロぺルオキシドなどが挙げられる。前記無機過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等が挙げられる。前記アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(プロピオニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等が挙げられる。前記ジアゾ化合物としては、例えば、ジアゾアミノベンゼン、p−ニトロベンゼンジアゾニウム等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】多孔フィルム製造工程の概要を示す工程図である。
【図2】多孔フィルム製造設備の概要を示す説明図である。
【図3】ディップ塗布装置の水滴形成成長ゾーンの概要を示す説明図である。
【図4】ディップ塗布装置の膜形成ゾーンの概要を示す説明図である。
【図5】乾燥装置の概要を示す斜視図である。
【図6】水滴形成成長ゾーンにて、水滴が形成し、成長する概要を示す説明図である。
【図7】乾燥装置における、溶剤蒸発工程の概要を示す模式図である。
【図8】乾燥装置における、水滴蒸発工程の概要を示す模式図である。
【図9】(A)は、複数の貫通孔を有する多孔フィルムの概要を示す平面図であり、(B)はB−B線断面図、(C)はC−C線断面図である。(D)は、複数のくぼみを有する多孔フィルムの平面図である。
【図10】第2の水滴形成成長工程及び第2の膜形成工程の概要を示す斜視図である。
【図11】第3の水滴形成成長工程及び第3の膜形成工程の概要を示す斜視図である。
【図12】第4の水滴形成成長工程の概要を示す斜視図である。
【図13】(A)は、溶液が貯留する液槽の概要を示す説明図であり、(B)は、溶液の液面に湿潤空気をあてて、液面に水滴を形成、成長させる第5の水滴形成成長工程の概要を示す説明図である。
【図14】(C)は、楕円体の一部を溶液に浸漬する様子を示す説明図であり、(D)は、溶液に浸漬した楕円体を引き上げ、溶液からなり、表面に水滴が並ぶディップ塗布膜を楕円体の表面に形成する第4の膜形成工程の概要を示す説明図である。
【図15】第5の膜形成工程の概要を示す断面図である。
【図16】第6の水滴形成成長工程及び第6の膜形成工程の概要を示す断面図である。
【符号の説明】
【0097】
10 多孔フィルム製造工程
11 溶液
12、102a、102b ディップ塗布膜
13 多孔フィルム
15 水滴形成成長工程
16 膜形成工程
17 溶剤蒸発工程
18 水滴蒸発工程
20 多孔フィルム製造設備
23 ディップ塗布装置
24 乾燥装置
26 筒
26a 外周面
26b 内周面
32 水滴形成成長ゾーン
33 膜形成ゾーン
35、40 湿潤空気供給機
39 液面
47 乾燥空気供給機
400 湿潤空気
401 低露点湿潤空気
402 乾燥空気
406 水滴
408 溶剤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー及び疎水性溶剤を含む液の液面に水滴を形成する水滴形成工程と、
曲面を有する支持体に前記液を塗布して、前記水滴が並び、前記液からなる膜を前記曲面上に形成する膜形成工程と、
前記膜を乾燥し、前記水滴を鋳型として前記膜に孔を形成する乾燥工程と、
を有することを特徴とする多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記水滴形成工程は、前記液面に湿潤空気を送り結露により前記水滴を形成し、成長させることを特徴とする請求項1記載の多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記膜形成工程では、前記湿潤空気よりも露点の低い低露点湿潤空気を前記液面または前記膜に供給して、前記水滴の成長を抑えながら前記膜を前記支持体表面に形成することを特徴とする請求項2記載の多孔体の製造方法。
【請求項4】
前記膜形成工程では、前記水滴が形成された液面から前記支持体を引き出すことを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の多孔体の製造方法。
【請求項5】
前記液面の前記水滴が前記支持体に向けて集まるように、引き出される前記支持体に向けて前記湿潤空気又は前記低露点湿潤空気を供給することを特徴とする請求項4記載の多孔体の製造方法。
【請求項6】
前記液面の前記水滴が前記支持体に向けて集まるように、引き出される前記支持体に向けて前記液を流動させることを特徴とする請求項4または5記載の多孔体の製造方法。
【請求項7】
前記液面の前記水滴が前記支持体に向けて集まるように、前記膜に含まれる前記溶剤を蒸発させることを特徴とする請求項4ないし6のうちいずれか1項記載の多孔体の製造方法。
【請求項1】
ポリマー及び疎水性溶剤を含む液の液面に水滴を形成する水滴形成工程と、
曲面を有する支持体に前記液を塗布して、前記水滴が並び、前記液からなる膜を前記曲面上に形成する膜形成工程と、
前記膜を乾燥し、前記水滴を鋳型として前記膜に孔を形成する乾燥工程と、
を有することを特徴とする多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記水滴形成工程は、前記液面に湿潤空気を送り結露により前記水滴を形成し、成長させることを特徴とする請求項1記載の多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記膜形成工程では、前記湿潤空気よりも露点の低い低露点湿潤空気を前記液面または前記膜に供給して、前記水滴の成長を抑えながら前記膜を前記支持体表面に形成することを特徴とする請求項2記載の多孔体の製造方法。
【請求項4】
前記膜形成工程では、前記水滴が形成された液面から前記支持体を引き出すことを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の多孔体の製造方法。
【請求項5】
前記液面の前記水滴が前記支持体に向けて集まるように、引き出される前記支持体に向けて前記湿潤空気又は前記低露点湿潤空気を供給することを特徴とする請求項4記載の多孔体の製造方法。
【請求項6】
前記液面の前記水滴が前記支持体に向けて集まるように、引き出される前記支持体に向けて前記液を流動させることを特徴とする請求項4または5記載の多孔体の製造方法。
【請求項7】
前記液面の前記水滴が前記支持体に向けて集まるように、前記膜に含まれる前記溶剤を蒸発させることを特徴とする請求項4ないし6のうちいずれか1項記載の多孔体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−77175(P2010−77175A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243661(P2008−243661)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]