説明

多孔性アルミノリン酸塩結晶AlPO4−5の合成方法

【課題】本発明は、フッ素イオンもしくは4級アミンを用いることなく、収率を上げることができる多孔性アルミノリン酸塩結晶の合成方法を提供することを課題とする。
【解決手段】Al121248である多孔性アルミノリン酸塩結晶AlPO−5を合成する方法において、フッ素イオンもしくは4級アミンを添加せずに、水熱反応過程における反応溶液のpHを調整することにより収率を上げることを特徴とする多孔性アルミノリン酸塩結晶の合成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素イオンもしくは4級アンモニウムイオンを添加することなく、収率を上げることができる多孔性アルミノリン酸塩結晶の合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IUPAC名でAFIと称される骨格構造を有するアルミノリン酸塩多孔性結晶(骨格の化学式:Al121248)は、一般にAlPO−5結晶と言われており(以下、「AlPO−5結晶」と称するが、必要に応じて「アルミノリン酸塩結晶」と称することとする)、内径約0.73nm程度の一次元ナノ細孔を有する。このAlPO−5結晶は、両端が閉塞されていないことが吸着剤としての利用において不可欠であり、また比表面積も結晶の品質を評価する上で重要である。
【0003】
このAlPO−5骨格構造の模式図を図1に示す。骨格の化学式は、上記の通り0.73nmの一次細孔を持ち、合成直後は有機アミンをこの細孔に内包している。実際の使用時には、この有機アミンを焼成して除去する。
このAlPO−5結晶の最初の合成成功の報告は,S.T.Wilsonらにより1982年に報告されている(非特許文献1参照)。
【0004】
その後、多数のグループにより、AlPO−5結晶の合成反応に用いる出発ゲルに含まれるアルミ源、リン源、水、そして有機アミンのモル比の制御、またアルミ源や有機アミンの種類の変更、更には水熱合成加熱の温度、時間、加熱法(オーブンを使った通常加熱法、電子レンジを使ったマイクロ波加熱法)を制御することにより、様々な外形、サイズを有するAlPO4−5結晶の合成が報告されてきた(非特許文献2、非特許文献3参照)。
【0005】
AlPO−5結晶に限らず、ゼオライト結晶のサイズを増大させることは、センサーや電子・光デバイス等の応用の観点から多くの研究例があるが、AlPO−5結晶に関しては、フッ化アンモニウム(NHF)及び水酸化テトラプロピルアンモニウム((CNOH)を合成原料に加えることにより、長さ方向で400μm超の六角柱状の単結晶の合成例が報告された(非特許文献4参照)。
【0006】
一方、ガス吸着材としての応用を考えた場合には、結晶サイズが小さく、かつサイズの分布が狭いことが望ましい。このようなゼオライトを合成するにはマイクロ波加熱法が有効であることが知られる(非特許文献3参照)。
しかし、この場合は、一度に少量しか合成ができないので生産性が悪く、またコストが高いという欠点があった。
【0007】
AlPO−5結晶の合成では、その収率(出発原料に含まれるAl原子数に対するAlPO−5結晶に含まれるAl原子の比率)を100%に近づけることが、用いる原料の効率的な利用につながるのであるが、上記フッ素イオン(フッ化水素酸)を使う合成法では、この収率がほぼ100%となる詳細なレシピが知られる(非特許文献5参照)。
【0008】
しかしながら、フッ化水素酸(特定化学物質)などのフッ素イオンを用いることは、合成時の安全性が問題となる。すなわち、合成に用いる装置や器具を耐フッ酸のものにする必要があるため、工業的規模で生産する場合には大きな支障となる。一方、4級アンモニウム塩や水酸化物は価格が高いため、コスト上昇を招くという問題がある。
このようなことから、フッ素イオンもしくは4級アンモニウムイオンを用いることなく、収率を上げることができる多孔性アルミノリン酸塩結晶の合成方法が求められているのであるが、現在までこれを解決できる方法が見出されていない。
【0009】
【非特許文献1】S.T. Wilson, B.M. Lok, C.A. Messina, T.R. Cannan, and E.M. Flanigen, J. Am. Chem. Soc., 104, 1146 (1982).
【非特許文献2】G. Finger, J. Richter-Mendau, M. Bulow, and J. Kornatowski, Zeolites, 11, 443 (1991).
【非特許文献3】T. Kodaira, K. Miyazawa, T. Ikeda, and Y. Kiyozumi, Microporous Mesoporous Mater., 29, 329 (1999).
【非特許文献4】S. Qiu, W. Pang, H. Kessler, and J.-L. Guth, Zeolites, 9, 440(1989).
【非特許文献5】書籍”Verified synthesis of zeolitic materials (2nd revised edition)”(出版元:Elsevier,出版年:2001), 90-92ページ.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の通り、フッ化水素酸(特定化学物質)などのフッ素イオンを用いることなく、AlPO−5結晶の収率を高める方法を見いだすことは、合成時の安全性、更には合成に用いる装置や器具を耐フッ酸のものとする必要がないという利点があるので工業的大量合成において大変重要である。
また、フッ素イオン未添加のAlPO−5結晶合成において収率を高めることは原料の有効利用の点で好ましい。とりわけ工業的合成に目を向けた場合、4級アンモニウム塩や水酸化物は価格が高いので、これを使用しない高収率のプロセスが望まれる。
さらに、収率上昇は、反応の促進される高温下での合成が望ましいが、水熱反応であるため反応は高圧条件となる。したがって、高温・高圧環境にできない場合に、AlPO−5結晶の収率を上げることができる対策が必要となる。
本願発明は、これらの全てを解決できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を達成するために、具体的には、次の発明を提供する。
1)Al121248である多孔性アルミノリン酸塩結晶AlPO−5を合成する方法において、フッ素イオンもしくは4級アンモニウムイオンを添加せずに、水熱反応過程における反応溶液のpHを調整することにより収率を上げることを特徴とする多孔性アルミノリン酸塩結晶の合成方法。
2)Al源としてアルミナゾルを、P源としてオルトリン酸溶液を、有機アミンとしてトリエチルアミン((CNを用い、さらにpH調整剤として硫酸を用いることを特徴とする上記1)記載の多孔性アルミノリン酸塩結晶の合成方法。
3)有機アミンを合成途中段階で順次(連続的又は間歇的に)除去することによりpHを減少させ、反応溶液のpHを調整することを特徴とする上記1)又は2)記載の多孔性アルミノリン酸塩結晶の合成方法。
【0012】
さらに、本願は、次の発明を提供する。
4)有機アミンを揮発させて反応溶液のpHを調整することを特徴とする上記3)記載の多孔性アルミノリン酸塩結晶の合成方法。
5)水熱反応過程における反応溶液の初期のpHを3.0以下に調整するとともに、水熱反応過程における反応溶液のpH値の上昇傾向を抑制するために、pH調整剤を間歇的に又は連続的に添加し、pHを3.0以下に再調整又は持続させることを特徴とする上記1)又は2)記載の多孔性アルミノリン酸塩結晶の合成方法。
6)Al121248である多孔性アルミノリン酸塩結晶AlPO−5を合成する方法において、フッ素イオンもしくは4級アンモニウムイオンを添加せずに、水熱反応過程における反応溶液のpHを6以下に調整すると共に、150〜220℃に加熱することにより収率を上げることを特徴とする多孔性アルミノリン酸塩結晶の合成方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ガス吸着剤としてAlPO−5結晶を大量合成するプラント等において、極めて強い酸であるフッ酸や高価な4級アンモニウム塩や水酸化物を使う必要が無く、かつ従来よりも低温・低圧力化で、収率を増大できるため、反応装置をシンプル化できるという大きな効果がある。このように、AlPO−5結晶を、大量、安価、安全に合成できるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の具体的な実施条件を説明する。
まず、収率上昇方法について説明する。AlPO−5結晶の合成反応における特性として水性ゲルのpHとの強い相関があることが、本発明の研究において分かった。すなわち、加熱前の水性ゲルは酸性でpHは3〜6の範囲に設定するが、水熱反応後のAlPO−5結晶が容器内に沈降している溶液の上澄みのpHは6〜8となる現象が起こる。これは次のように説明できる。
【0015】
合成反応時において原料に含まれるリン酸[HPO](酸として振る舞う)の存在のために出発水性ゲルは酸性である。水熱合成過程においてこのHPOの消費量が有機アミン(塩基として振る舞う)のそれよりも多いために、溶液中のHPO量が相対的に減少し、次第にアルカリ性(高pH)の方向に向かう。
AlPO−5結晶成長と共に水性ゲルは原料が消費され希薄になるが、まだ十分に原料が溶液に残存していても、上記pHの6〜8になると合成反応が停止する。合成反応停止すると、当然溶液中のAl源、P源、有機アミン源は有効利用されない結果となる。
【0016】
このような技術的背景から、合成反応(結晶成長)途中において、水性ゲルの上昇したpH を酸の添加により再度降下させて合成反応の停止を防ぐか、もしくは停止した反応を再開させることが可能となる。
これによってAlPO−5結晶の合成反応を持続させ、収率を向上させることが必要と考えた。この現象と対応策の知見に基づいて、本願発明を達成するものである。
【0017】
本願発明の収率上昇方法について、さらに詳しく説明する。
フッ素イオン未添加条件での合成において、出発水性ゲルの原料物質モル比、加熱温度及び時間にも依存するが、AlPO−5結晶の収率は、通常30〜80%程度である。
そこで、合成反応途中でいったんオートクレーブを加熱用オーブンより取り出し、室温まで冷却後にオートクレーブを開封して、そこに硫酸を滴下することにより、pHを3近傍まで下げた。そして再度オートクレーブを密封の上、オーブンにより加熱させる手順をとったところ、収率30%強の合成が収率70%超にさせることができた。
【0018】
この場合では、pH調整の操作を1回のみ行ったが、この操作を複数回行うことができる。これにより収率を100%に近づけることができる。
この場合は密封式オートクレーブを用いたために、室温まで降温させて水性ゲルのpHを調整したが、加熱下でも硫酸などのpH調整用酸を、オートクレーブ内に供給できる送液ポンプを付設することにより、合成反応時のpH上昇を常に抑えながら、結晶合成が可能となる。これにより大幅な収率向上が可能となる。
【0019】
pH調整用酸の種類は特に問わないが、有機酸は一般に熱的安定性が低く、また多くは弱酸であるため、pHを下げるために大量に加える必要が生じる。したがって、pH降下剤としては、無機酸(HCl、HNO、HSO、HPO等)が適当である。
しかし、リン酸はAlPO−5結晶の骨格の一部にあたるものであり、これを添加すると出発原料におけるアルミナ、酸化リンの比率が変わり、特にpHを下げるために大量にリン酸を加える場合には、最終生成物における不純物の割合が増え、またAlPO−5以外の結晶相が主成分として得られるなどの、問題がある。
【0020】
更に、HCl、HNOは揮発性があり、合成反応時に上昇する圧力のために圧力容器内の密閉性を上げる必要性があるなど、やや問題点がある。
また、HCl、HNOでは酸度(H量)がHSOよりも低く、HSO、と比較しておよそ2倍量加えなければならず、この点でもマイナスである。
したがって、上記の無機酸は、pH調整剤として使用することはできるが、中でもHSOが最も好ましいと言える。
【0021】
pHを低下させる他の方法として、酸を加える以外に、3級アミンを合成途中段階で、順次(連続的又は間歇的に)除去する方法もある。これは3級アミンの揮発性を利用するものである。
合成直後のAlPO−5の化学式はAl121248・(RN)(R:アルキルアミン、0<x<2)であり、合成時に導入した3級アミンは殆ど溶液中に残留していることになる。したがって、リン源が主に合成反応で消費されpHが上昇する。この3級アミンを溶液中から減らしてやれば、pHを減少させることが可能となる。
【0022】
この方法として最も簡便なのが、3級アミンの揮発性を利用する方法である。即ち、合成反応が停止した後、室温に冷却し、水性ゲルを大気に解放することにより、3級アミンを気化させることができる。この際、水も気化するが、減少分は新たに補充すればよい。
3級アミンとしては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン等が挙げられるが、揮発性が高いのは分子量の小さい3級アミンであり、トリエチルアミンが最も好ましい。但し、トリメチルアミンを用いた場合では、目的とするAlPO−5を合成することが難しいという問題がある。
【0023】
Al121248である多孔性アルミノリン酸塩結晶AlPO−5を合成する際に、その収率を向上させようとする場合には、反応温度を高めることも有効である。この場合も上記と同様に、フッ素イオンもしくは4級アミンを添加せずに、水熱反応過程における反応溶液のpHを6以下に調整すると共に、150〜220℃に加熱する。
なお、後述する実施例に示すように、溶液の種類によっては、収率の向上が認められない場合又は不純物の発生が多くなる場合があるので、溶液の種類又は必要とするAlPO−5結晶の製造目的に応じて温度調整が必要となる。
【0024】
本願発明において使用する水性ゲルの調製は、次のようにして行う。
Al源、P源、有機アミンとして、以下の試薬を用いた。
Al源:アルミナゾル[10wt%水溶液](川研ファインケミカル社製)
P源:オルトリン酸溶液[85wt%水溶液](和光純薬またはアルドリッチ)
有機アミン:トリエチルアミン((CN[99wt%+](東京化成)
pH調整剤:硫酸[50wt%に希釈](東京化成)
【0025】
上記試薬の混合比は、次の通りとした。
溶液(1)
Al:P:(CN:HO=1:1:4.0:550
溶液(2)
Al:P:(CN:HO=1:1:3.0:250
上記の場合、具体的な試薬混合方法は、溶液1の場合、溶液2の場合も原料の重量が異なるだけで、手順は同じとした。
【0026】
さらに上記の試薬について、具体例を挙げると溶液(1)の調整法として次の操作を行う。
水20.7gにオルトリン酸1.5gを分散させる。これを氷冷かつ撹拌下にて(CN:2.6gを加える。これを溶液Aとする。
水36.0gに撹拌下でアルミナゾル6.5gを分散させたものを、溶液Bとする。
溶液Aを、撹拌状態にある溶液Bに滴下し、溶液の均一化のために30分撹拌を保持する。
更に撹拌を続けながら、硫酸を滴下することによりpHを調整する。次工程における具体的なpHの値は、以下の実施例中において説明する。
【0027】
AlPO−5結晶の合成は、次のようにして行う。なお、このAlPO−5結晶の合成については、特に制限があるわけではなく、合成ができる条件(出発原料モル比、出発原料種、加熱温度、加熱時間)であれば、特に制限なく適応可能である。
各原料を混合することにより得た水性ゲルを1時間室温にて静置の後、テフロン(登録商標)内筒を付帯したオートクレーブに密封後、予め所定温度に加熱しておいた加熱用オーブンに投入する。オーブン内のオートクレーブは静置しておく。
所定の加熱(温度、時間)を終えた後、オートクレーブをオーブンから速やかに取り出し、流水により急冷する。
なお、合成したAlPO−5結晶の分析及び粉末XRDパターンは、Bragg-Brentano光学系を有するMacScience社MXP-3TZを用い、Cu−Kα線を使った試料照射幅一定の条件下にて室温で測定した。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の特徴を実施例に基づいて、さらに詳しく説明する。なお、以下の説明は、本願発明の理解を容易にするためのものであり、これに制限されるものではない。すなわち、本願発明の技術思想に基づく変形、実施態様、他の例は、本願発明に含まれるものである。
【0029】
(実施例1)
pHの再調整を施すことなく収率を上げる方法として、水熱合成反応温度を高める方法がある。それを示したのが図2である。
溶液(1)[HO/Al=550]及び(2)[HO/Al=250]を用い、pH3.0に調整後、それぞれ170℃(4日間)、190℃(3日間)、210℃(2日間)にて加熱を行ったところ、高温での合成ほど、AlPO−5結晶の収率が高くなった。なお、この場合、合成反応が停止しないpH値を6以下に維持することが必要である。
したがって、高温下での反応が望ましいが、オートクレーブ(圧力容器)内の水蒸気圧は温度上昇と共に指数関数的に高くなること及びオートクレーブのテフロン(登録商標)内筒の耐熱温度の限界に近くなることなどから、より低い温度で収率を高めることが安全かつ経済的であると言える。
【0030】
(実施例2)
上記に説明した溶液(1)、すなわち混合比、Al:P:(CN:HO=1:1:4.0:550の試薬を使用し、種々のpHの水性ゲルを用いたAlPO−5結晶の合成を実施した。
1)まず、pH値を替え、実験条件を次の通りとした。
pH=2.3、pH=2.5、pH=2.7、pH=2.9に調整した4種類の水性ゲルを予め170℃に加熱したオーブンに投入し、その状態で4日間(96時間)保持した。
【0031】
2)以上の結果、次のようになった。
図3(a)に、前記4種類のpHで合成したAlPO−5結晶のXRDパターンを示す。また、図3(b)に、収率と上澄み液のpHを示す。
しかし、図3(a)に示す通り、pHが低いほど「*」で記した若干量の不純物ピークが強くなるが、いずれのpHにおいても、主たる生成物はAlPO−5結晶であることが確認できた。一方、図3(b)に示すように、pHが低いほど収率が高くなる。
なお、この実施例では、溶液(1)を使用したが、前記溶液(2)でも同様な結果が得られた。
【0032】
(実施例2)
次に、本願発明の収率を増大させる方法について、具体的に説明する。
1)この場合の実験条件は、次の通りとした。
前記溶液(1)、すなわち混合比、Al:P:(CN:HO=1:1:4.0:550の試薬を使用し、種々のpH2.9の水性ゲルを、予め170℃に加熱しておいたオーブンに投入し、170℃にて0.5〜6日間加熱した。この後に、室温まで冷却後、溶液の上澄み液pH及びAlPO−5結晶の収率(原料中に含まれるAlを基準とする)を調べた。
【0033】
一方、同様の方法で170℃にて4日間加熱後、室温まで冷却し、さらに硫酸の滴下により、溶液のpHを再度2.9に調整した。
その後、再びオートクレーブに密封した水性ゲルを最初と同じ加熱法により170℃に加熱し、その温度にて4日間保持し、最後に水性ゲル上澄み液のpHとAlPO−5結晶の収率を調べた。
【0034】
2)上記の結果は、次のようになった。(結果1)
以上の結果(結果1)を、図4に示す。図4の実線は出発溶液のpHを2.9とした場合の加熱後の上澄み溶液のpH及びAlPO−5結晶の収率をプロットしたものである。pHの値は加熱直後に急激に上昇し、加熱時間が3日以降は、おおよそ6.6にて安定した。
一方、収率はpHの変化と比較して、その増加には遅延が見られるが、加熱が3日以降では40%前後の値に落ち着き、合成反応がほぼ停止したと判断できる。
【0035】
上記を基準として溶液のpHを再調整した結果(結果2)を、同様に図4に示す。合成4日目にHSO(50wt%水溶液)を再添加し、矢印で示すようにpH=2.9とした上で、更に3日間(合計7日間)加熱を行ったところ、上澄み溶液のpHは6.4程度に上昇し、AlPO−5結晶の収率は約70%まで改善された。
硫酸の再添加後の上澄み溶液のpH値とAlPO−5結晶の収率の推移を、図4において破線(点線)で示す。
【0036】
また、粉末XRDによるAlPO−5の結晶性と不純物相の混入の有無を確認したが、図5に示すように主成分はAlPO−5結晶であることが確認できた。また、「*」印で示した不純物ピークはpH再調整において若干増える傾向にあった。
以上から、pHを常に酸性側にすることにより、合成反応を継続させることができ、AlPO−5結晶の収率を高められることを確認した。
なお、この実施例では、溶液(1)を使用したが、前記溶液(2)でも同様な結果が得られた。
この実施例に基にして、不純物が少なく、かつ収率を高める方法及び条件を更に検討した結果、以下の実施例を得るに至った。
【0037】
(実施例3)
収率の増大および不純物相の低減を狙い、出発水性ゲルである溶液(1)及び(2)のpHを3.0として、4日後及び8日後に、pHを再度3.0に調整する操作を行った場合の収率及び上澄みpHを調べた。この際、加熱温度を170℃及び190℃として行った。
その結果が、図6である。図6の上図(a)は溶液(1)を用いた場合、図6の下図(b)は溶液(2)を用いた場合である。実線は、170℃に加熱した場合、破線(点線)は190℃に加熱した場合である。いずれも、4日後(再調整1回目)、8日後(再調整2回目)で、pHを調整した場合の収率及び上澄み液のpHの時間変化を示す。なお、上図(a)及び下図(b)の、上方の線は収率を示し、下方の線はpHの時間変化を示している。
【0038】
図6に示すように、溶液(1)において、190℃に加熱した場合には、8日後(再調整2回目)にpH調整しても収率の向上が見られず、収率は急速に低下した。これに対して、170℃に加熱した場合には、溶液(1)及び溶液(2)のいずれの場合にも、収率の向上が見られた。
この図6から、pHの調整回数を増す毎に収率が上昇し、100%に近づくこと明らかとなった。また、溶液の種類によって、加熱温度を調整する必要があるが、上記に示すように、より低温の加熱の方が、収率の向上が安定しているという傾向が見られた。
【0039】
更に、これらの試料の粉末XRDパターンを測定したところ、図7及び図8の結果を得た。いずれの図においても、上図(a)は170℃加熱の結果、下図(b)は190℃加熱の結果である。
170℃では前述の(実施例2)と比べて、溶液(1)及び(2)の両者ともpH調整1回では170℃では全く不純物相が観測されなかった。またpH調整2回でも不純物相の量は非常にわずかであった。
一方、190℃では「*」で示すように、不純物相に由来するピークが観測された。更には、溶液(1)においては、pH調整を2回行うと、AlPO−5結晶に由来する回折ピークが殆ど観測されなかった。
【0040】
このことから、水熱合成反応においてpH調整法は、特に低温での合成を行う際の収率上昇において、非常に効果的であることが明らかとなった。また、同時に不純物の生成を抑制する効果があることも確認できた。
なお、AlPO−5結晶の生成に伴い、溶液の化学組成は次第に希薄となっている。ここでは,pHを再調整する際、pH=3.0としたが、出発水性ゲルとは化学組成が異なっているので、不純物相の量を更に減らし、かつ収率が上昇するのであれば、pHの値は3.0以上であっても差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上のように、ガス吸着剤としてAlPO−5結晶を大量合成するプラント等において、極めて強い酸であるフッ酸や4級アンモニウムイオンを使う必要が無く、かつ従来よりも低温・低圧力化で、収率を増大できるため、反応装置をシンプル化できるという大きな効果がある。また、結晶粒子のサイズを調整できる可能性があり、特に大きい結晶はマイクロオプトデバイス設計を行う上で有用である。このように、AlPO−5結晶を、大量、安価、安全に合成できるメリットがあり、ガス吸着剤、マイクロリアクター、マイクロオプトデバイス等の作製に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】AlPO−5結晶の骨格の模式図である。
【図2】溶液[HO/Al=550]及び溶液(2)[HO/Al=250]をpH=3.0に調整後、170℃、190℃、210℃にて、それぞれ4日、3日、2日間加熱することにより得たAlPO−5結晶の収率と加熱温度の相関を示す図である。
【図3】溶液1を用い、pHを2.3、2.5、2.7、2.9に調整の上、4日間加熱した場合に得られた試料の粉末XRDパターンを示す図(図3の上図(a))と収率及び上澄み液のpHを示す図(図3の下図(b))である。
【図4】溶液1を用い、pH=2.9に調整した水性ゲルを170℃にて加熱した場合の反応後の上澄み液のpH及びAlPO−5結晶の収率を示す図である。実線は、加熱時間のみ変化させた場合、破線(点線)は4日間合成後、溶液のpHを再度2.9に調整の上、更に3日間170℃にて加熱させた場合の上澄み液のpH及びAlPO−5結晶の収率を示す図である。
【図5】図3の試料で4日間加熱して得たAlPO−5結晶(pH調整前)及びpHを調整の上、さらに3日間加熱して得られたAlPO−5結晶(pH調整後)の粉末XRDパターンを示す。
【図6】上図(a):溶液(1)を用いて出発pHを3.0に調整した上で、170℃及び190℃で加熱し、共に4日後(再調整1回目)、8日後(再調整2回目)にpHを調整した場合の収率及び上澄みpHの時間変化を示す図である。下図(b):溶液(2)を用いて出発pHを、溶液(1)と同様に3.0に調整した上で、(a)の図と同様の実験を行った場合の収率及び上澄みpHの時間変化を示す図である。
【図7】図6における溶液(1)を用いた場合の各試料の粉末XRDパターンを示す図である。上図(a)は170℃加熱の結果、下図(b)は190℃加熱の結果である。「*」は不純物によるピークである。
【図8】図6における溶液(2)を用いた場合の各試料の粉末XRDパターンを示す図である。上図(a)は170℃加熱の結果,下図(b)は190℃加熱の結果である。「*」は不純物によるピークである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al121248である多孔性アルミノリン酸塩結晶AlPO−5を合成する方法において、フッ素イオンもしくは4級アンモニウムイオンを添加せずに、水熱反応過程における反応溶液のpHを調整することにより収率を上げることを特徴とする多孔性アルミノリン酸塩結晶の合成方法。
【請求項2】
Al源としてアルミナゾルを、P源としてオルトリン酸溶液を、有機アミンとしてトリエチルアミン((CNを用い、さらにpH調整剤として硫酸を用いることを特徴とする請求項1記載の多孔性アルミノリン酸塩結晶の合成方法。
【請求項3】
有機アミンを合成途中段階で順次(連続的又は間歇的に)除去することによりpHを減少させ、反応溶液のpHを調整することを特徴とする請求項1又は2記載の多孔性アルミノリン酸塩結晶の合成方法。
【請求項4】
有機アミンを揮発させて反応溶液のpHを調整することを特徴とする請求項3記載の多孔性アルミノリン酸塩結晶の合成方法。
【請求項5】
水熱反応過程における反応溶液の初期のpHを3.0以下に調整するとともに、水熱反応過程における反応溶液のpH値の上昇傾向を抑制するために、pH調整剤を間歇的に又は連続的に添加し、pHを3.0以下に再調整又は持続させることを特徴とする請求項1又は2記載の多孔性アルミノリン酸塩結晶の合成方法。
【請求項6】
Al121248である多孔性アルミノリン酸塩結晶AlPO−5を合成する方法において、フッ素イオンもしくは4級アンモニウムイオンを添加せずに、水熱反応過程における反応溶液のpHを6以下に調整すると共に、150〜220℃に加熱することにより収率を上げることを特徴とする多孔性アルミノリン酸塩結晶の合成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−126371(P2010−126371A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299608(P2008−299608)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】