説明

多孔性ポリプロピレンフィルムおよびその製造方法

【課題】 フィルム両面の貫通孔形成状態に差が無く、優れた特性を有する多孔性ポリプロピレンフィルムを提供すること。
【解決手段】 β晶形成能が40〜90%であるポリプロピレン樹脂を含む多孔性ポリプロピレンフィルムであって、一方のフィルム表面(A面)の表面開口径をDとし、他方のフィルム表面(B面)の表面開口径をDとしたとき、DおよびDがともに0.1〜5μmであり、かつ0.8≦D/D≦1.2を満足する多孔性ポリプロピレンフィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性ポリプロピレンフィルムおよびその製造方法に関する。詳しくは、ポリプロピレンの結晶多形と二軸延伸工程を利用して製造する多孔性フィルムにおいて、フィルム両表面の結晶構造を均一化することで、両面の表面開口状態が均一な多孔性ポリプロピレンフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンフィルムを多孔化し貫通孔を形成した多孔性ポリプロピレンフィルムは透過性、低比重などの特性から電池や電解コンデンサーのセパレータや各種分離膜、衣料、医療用途における透湿防水膜など多岐に渡る用途へ展開されている。
【0003】
ここで、ポリプロピレンフィルムを多孔化する手法としては、様々な提案がなされている。多孔化の方法を大別すると、湿式法と乾式法に分類することができる。湿式法とは、ポリプロピレンをマトリックス樹脂とし、シート化後に抽出する被抽出物を添加、混合してからシート化を行い、その後被抽出物の良溶媒を用いて被抽出物のみを抽出することで、マトリックス樹脂中に空隙を生成せしめる方法である。一方、乾式法としては、たとえば溶融押出時に低温押出、高ドラフト比を採用することにより、シート化した延伸前のフィルム中のラメラ構造を制御し、これを長手方向に一軸延伸することでラメラ界面での開裂を発生させ、空隙を形成する方法(所謂、ラメラ延伸法)がある。また、乾式法として、無機粒子またはマトリックス樹脂であるポリプロピレンなどに非相溶な樹脂を粒子として多量添加し、シートを形成して延伸することにより粒子とポリプロピレン樹脂界面で開裂させ、空隙形成する方法もある。
【0004】
さらに、乾式法には、ポリプロピレンの結晶多形であるα型結晶(α晶)とβ型結晶(β晶)の結晶密度の差と結晶転移を利用してフィルム中に空隙を形成させる、所謂β晶法と呼ばれる方法の提案も数多くなされている(たとえば、特許文献1〜3参照)。β晶法では、通常はβ晶核剤を添加したアイソタクチックポリプロピレンを溶融押出し、金属ドラム上でキャストする際に、金属ドラムをβ晶の形成に有利な110〜130℃に温度制御することでキャストフィルム中にβ晶を優先的に生成させる手法が採られるが、生産性を向上させようとすると、温度制御された金属ドラムに接する側のシート表面と金属ドラムに接していない側のシート表面とでβ晶の生成状態に差が生じ、二軸延伸後のフィルムにおいて、キャスト時の表裏構造差が反映した構造を形成してしまうために、表裏で異なる表面構造を有するフィルムが得られることとなる。このようなフィルムは、蓄電デバイスのセパレータに用いた場合、電池の内部抵抗が悪化する場合があり、その原因が表裏の構造差であるために、局所的な高抵抗を生じ、電池の寿命に影響するサイクル特性に劣る場合があるという問題を生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−199742号公報
【特許文献2】特開平6−100720号公報
【特許文献3】特開平9−255804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記した問題点を解決することにある。すなわち、フィルム両面の表面開口状態の差が小さく、蓄電デバイスのセパレータとして低抵抗で、高出力特性に優れるだけでなく、寿命安定性にも優れた多孔性ポリプロピレンフィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するための本発明は、以下の特徴を有する。
【0008】
(1)β晶形成能が40〜90%であるポリプロピレン樹脂を含む多孔性ポリプロピレンフィルムであって、一方のフィルム表面(A面)の表面開口径をDとし、他方のフィルム表面(B面)の表面開口径をDとしたとき、DおよびDがともに0.1〜5μmであり、かつ0.8≦D/D≦1.2を満足する多孔性ポリプロピレンフィルム。
【0009】
(2)空孔率が65〜85%である、上記(1)に記載の多孔性ポリプロピレンフィルム。
【0010】
(3)β晶形成能が40〜90%であるポリプロピレン樹脂が、以下の化学式(1)で表されるアミド系化合物を含有する、上記(1)または(2)に記載の多孔性ポリプロピレンフィルム。
【0011】
−NHCO−R−CONH−R (1)
ただし、Rは芳香環、脂環または炭素数2〜24の脂肪族炭化水素を示し、R、Rは脂環または芳香環を示す。
【0012】
(4)β晶形成能が40〜90%であるポリプロピレン樹脂中の上記アミド系化合物濃度がフィルム全体に対して0.05〜0.5質量%である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の多孔性ポリプロピレンフィルム。
【0013】
(5)β晶形成能が40〜90%であるポリプロピレン樹脂を含む樹脂組成物を溶融押出し、Tダイから吐出せしめてシートとした後、表面温度が100〜130℃である複数の金属ドラムを用いて、前記シートの両側を加熱してキャストフィルムを得た後、逐次二軸延伸する、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の多孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、複数のキャスティングドラムを用いてキャストフィルムを得ることにより、フィルムの製造速度を増速した場合でも、フィルム両面の特性を同一に保つことが可能となる。その結果、多孔性フィルムの透気性を阻害する構造の形成を抑制することができ、蓄電デバイスのセパレータに好適な多孔性フィルムを効率よく製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂は、メルトフローレート(MFR、条件230℃、2.16kg)が2〜30g/10分の範囲のアイソタクチックポリプロピレン樹脂であることが好ましい。MFRが5〜20g/10分であれば高空孔率と製膜安定性が両立できるという点でより好ましい。ここで、MFRはJIS K 7210(1995)で規定されている樹脂の溶融粘度を示す指標であり、ポリオレフィン樹脂の特徴を示す物性値として広く用いられているものである。ポリプロピレン樹脂の場合はJIS K 7210の条件M、すなわち温度230℃、荷重2.16kgで測定を行う。
【0016】
また、アイソタクチックポリプロピレン樹脂のアイソタクチックインデックスが90〜99.9%であれば、結晶性が高いために効率よく空隙をフィルム中に形成することができるので好ましい。アイソタクチックインデックスが90%未満であると高透気性の多孔性フィルムを得ることが困難な場合がある。
【0017】
本発明における多孔性ポリプロピレンフィルムは、上記したアイソタクチックポリプロピレン樹脂100質量%から構成されてもよいが、高い透気性、空孔率を実現する観点からアイソタクチックポリプロピレン樹脂を99.9〜90質量%含むポリオレフィン樹脂から構成されてもよい。耐熱性の観点から99〜92質量%がポリプロピレン樹脂であればより好ましい。ここで、ポリプロピレン樹脂とはプロピレンの単独重合体であるホモポリプロピレンはもちろんのこと、コモノマー残基を含むポリプロピレン共重合体であってもよい。コモノマーとしては、不飽和炭化水素が好ましく、たとえばエチレンやα−オレフィンである1−ブテンや1−ペンテン、4−メチルペンテン−1、1−オクテンを挙げることができる。ポリプロピレンへのこれらコモノマーの共重合率は好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0018】
本発明において用いる多孔性ポリプロピレンフィルムはエチレン・α−オレフィン共重合体を0.1〜10質量%含んでなるポリプロピレン樹脂から構成されることが、高透気性、高空孔率を実現する観点から好ましい。2〜10質量%であるとより好ましく、3〜8質量%であれば特に好ましい。ここで、エチレン・α−オレフィン共重合体としては直鎖状低密度ポリエチレンや超低密度ポリエチレンなどを挙げることができ、中でも、1−オクテンを共重合したエチレン・1−オクテン共重合体からなる超低密度ポリエチレンを好ましく用いることができる。これらエチレン・α−オレフィン共重合体は市販されている、たとえばダウ・ケミカル製“Engage(エンゲージ)(登録商標)”(タイプ名:8411、8452、8100など)を用いることができる。
【0019】
本発明における多孔性ポリプロピレンフィルムは、フィルムの両表面を貫通し、透気性を有する孔(以下、貫通孔という)を有している。この貫通孔は、ポリプロピレンの結晶多形であるα晶とβ晶の結晶密度の差を利用して、樹脂中に開孔を形成する、所謂β晶法を採用して形成せしめることで、均一な特性、薄膜化、高空孔率化を達成することができる。
【0020】
β晶法を用いてフィルムに貫通孔を形成するためには、ポリプロピレン樹脂のβ晶形成能が40〜90%であることが望ましい。β晶形成能が40%未満ではフィルム製造時の条件変動により、β晶量が充分に形成されないために、フィルム中に形成される空隙数が少なくなる場合があり、その結果、透過性に劣るフィルムしか得られない場合がある。一方、β晶形成能が90%を超えるようにするのは、後述するβ晶核剤を多量に添加したり、使用するポリプロピレン樹脂の立体規則性を極めて高くしたりする必要があり、製膜安定性が悪化するなど工業的な価値が低くなる場合がある。工業的にはβ晶形成能は50〜90%が好ましく、60〜90%が特に好ましい。
β晶形成能を40〜90%に制御するためには、アイソタクチックインデックスの高いポリプロピレン樹脂を使用したり、β晶核剤と呼ばれる、ポリプロピレン樹脂中に添加することでβ晶を選択的に形成させる結晶化核剤を添加剤として用いたりすることが望ましい。β晶核剤としては種々の顔料系化合物やアミド系化合物を好ましく用いることができる。
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムには、下記一般化学式(1)であらわされるアミド系化合物を含有せしめることが特に好ましい。下記一般化学式(1)で表されるアミド系化合物を用いることで、上記した高いβ晶形成能を達成することが容易になる。
【0021】
−NHCO−R−CONH−R (1)
ただし、Rは芳香環、脂環または炭素数2〜24の脂肪族炭化水素を示す。R、Rは脂環または芳香環を示す。より好ましくは、Rは脂環族炭化水素であり、具体的には、シクロへキサンやシクロヘプタン、シクロオクタンを挙げることができる。また、R、Rはより好ましくは芳香環であり、具体例としてベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環を挙げることができる。
【0022】
具体的には、N,N’−ジフェニルヘキサンジアミドや、N,N’−ジシクロヘキシルテレフタルアミド、N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミドなどを挙げることができ、特にN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミドが好ましい。
また、多孔性ポリプロピレンフィルム中の上記アミド系化合物の含有量としては、0.05〜0.5質量%であることが好ましく、0.1〜0.4質量%であればより好ましい。
【0023】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムにおいて、一方のフィルム表面(A面)の表面開口径をDとし、他方のフィルム表面(B面)の表面開口径をDとしたとき、DおよびDがともに0.1〜5μmであることが望ましい。より好ましくは、ともに0.3〜4μmであり、ともに0.5〜3μmであれば特に好ましい。表面開口径が0.1μm未満であれば蓄電デバイスのセパレータとして使用する場合、内部抵抗が大きくなりすぎて、エネルギー損失が大きくなる場合があり、逆に表面開口径が5μmを超えると、充電したまま蓄電デバイスを放置した際に、自己放電してしまう場合がある。
【0024】
ここで、表面開口径は多孔性フィルムの表面観察写真を画像解析することで得られる平均径である。具体的には、走査型電子顕微鏡を用いてフィルムの両面を10,000倍で観察する。その際、観察視野は、フィルム表面の実サイズで20×20μm(拡大後で200×200mm)とした。得られた画像をプラネトロン社製Image-ProPlus Ver. 4.5を用い、以下に詳述する画像処理により、フィルム表面の樹脂部分と開口部分に分離し、開口部分の平均面積を求め、そこから平均円相当径を算出し、表面開口径とした。
【0025】
また、本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、一方のフィルム表面(A面)の表面開口径をDとし、他方のフィルム表面(B面)の表面開口径をDとしたとき、0.8≦D/D≦1.2を満足することが望ましい。D/Dが0.8〜1.2の範囲内であるということは、フィルム両面の開口径がほぼ同一であることを示している。このことは、多孔性フィルムの構造が均質であることを示しており、その結果、蓄電デバイスのセパレータに採用した場合に、電池抵抗を高めるような電子やイオンの透過の障害となる構造を有していないこととなり、優れた電気特性を実現することが可能となり、かつ部分的に障害となる部位が存在しないことから、電池の寿命に関係するサイクル安定性に優れたセパレータを得ることが可能となる。なお、表面開口径の比(D/D)は0.85〜1.15であればより好ましい。
【0026】
表面開口径の比の値が上記範囲外である場合、すなわちA面およびB面のいずれかの面での表面開口径が他方の面より小さい場合、当該表面の樹脂量が反対面に対して多くなるため、必然的に変形に必要な応力に差が生じてしまい、フィルムがカールし、蓄電デバイスのセパレータに適用しようとする際の組立工程において、位置ズレやシワが入り絶縁不良を起すなどの不具合が生じる場合がある。
【0027】
表面開口径(DおよびD)を0.1〜5μmの範囲とするためには、上記した通り、本発明のポリプロピレンフィルムを構成する樹脂がエチレン・α−オレフィン共重合体を0.1〜10質量%含むことが好ましい。エチレン・α−共重合体を含まないと、表面開口径が小さすぎる場合がある。また、後述のフィルム幅方向の延伸において、延伸倍率を5〜12倍、より好ましくは6〜9倍とすることが好ましい。幅方向の延伸倍率が5倍未満では、表面開口径が小さすぎる場合があり、12倍を超えると表面開口径が大きくなりすぎる場合がある。
【0028】
また、本発明において、表面開口径の比(D/D)を0.8〜1.2の範囲とするためには、溶融押出後のキャスト時に、フィルム片面からの熱処理でキャストフィルム中にポリプロピレンのβ晶を形成するのではなく、複数のキャスティングドラム(金属ドラム)を用いて、フィルム両面からの熱処理によりβ晶を形成することが好ましい。特に、キャストフィルムの製造速度(キャスティングドラム表面の移動速度)が10m/分を超える高速で生産する場合には、単独のキャスティングドラムでは、キャストフィルム中のβ晶分率が不十分で、かつ厚み方向に偏在してしまう場合があるので、少なくとも2つの金属ドラムを用いて、フィルム両面を加熱することでβ晶を高率に含むキャストフィルムを形成することが望ましい。すなわち、キャストフィルム中にβ晶を生成せしめるには、ある程度の高温状態を保つ必要があるが、高速で製膜を行う場合、シングルキャスト(キャスティングドラム1個にて処理)ではキャストフィルムに十分な熱量が伝わらず、β晶が十分に生成しないという問題があった。しかも、キャスティングドラムに接する側と接しない側とのフィルム温度の差が顕在化し、表面構造の表裏差が顕著になるという問題も生じていた。本発明では、これらを解決する一つの方法として、複数のキャスティングドラムを用いている。これにより、フィルム表裏いずれからもβ晶形成に十分な熱量を伝えることができ、表裏差の少ない多孔性ポリプロピレンフィルムを得ることが可能となる。
【0029】
また、複数のキャストフィルムを採用する場合、キャストフィルムの温度設定は、フィルムの流れ方向に沿って、昇温していくように設定することが好ましい。具体的には、キャスティングドラムを2台使用する場合、第1、第2ドラム双方とも表面温度は100〜130℃に設定することが望ましいが、
第1ドラムを100〜120℃、第2ドラムを110〜130℃とし、なおかつ第1ドラム温度<第2ドラム温度とすることが好ましい。
【0030】
また、複数のキャスティングドラムを使用する場合、各々のドラムへの接触時間は2〜20秒とするのが好ましく、より好ましくは3〜15秒とするのが好ましく、全ドラムへの接触時間の合計が5〜60秒とすることが好ましい。
【0031】
キャスティングドラムの数には特に制限はないが、2個用いることが好ましい。配置としては、まず第1のキャスティングドラム上に口金が吐出したシートを接地せしめた後、反対側の面を第2のキャスティングドラム(機能的には加熱ドラム)に接触せしめて、シートの両面を交互に加熱することが好ましい。もちろん、シートの両面を2個のキャスティングドラムで挟み、同時に加熱しても構わない。
【0032】
また、キャスティングドラムを3個以上使用してもよく、その場合、第1、第3ドラムなど奇数番目のドラムでA面を加熱し、第2、第4ドラムなど偶数番目のドラムでB面を加熱するように、交互に加熱することが熱効率の観点から望ましい。一方、生産効率、効果の飽和という観点からは、ドラム数は5個以下で十分なことが多い。
【0033】
なお、フィルム表裏差を抑える手法としては、上記した複数のキャスティングドラムを用いる他に、たとえば単独ドラムの反対側をヒーターで加熱する方法や、加熱した金属ベルトに樹脂を挟み込んで加熱する方法もある。具体的には、単独のキャスティングドラムの周囲に、赤外線ヒーターを並べて加熱する方法や、110〜150℃に温度制御したエアチャンバーを設置して加熱する方法を採用することができる。温度制御が容易という観点からは、エアチャンバーであるが、熱効率を考慮すると、上記した複数のドラムを用いる方法が好ましい。
【0034】
本発明における多孔性ポリプロピレンフィルムは、フィルム厚みが10〜50μmであることが好ましい。厚みが10μm未満では使用時にフィルムが破断する場合があり、50μmを超えると蓄電デバイス内に占める多孔性フィルムの体積割合が高くなりすぎてしまい、高いエネルギー密度を得ることができなくなる。フィルム厚みは12〜30μmであればより好ましく、14〜25μmであればなお好ましい。また、本発明における多孔性ポリプロピレンフィルムは、組成の異なる、もしくは同一組成からなる複数の層を積層してなる積層フィルムであってもよい。
【0035】
本発明における多孔性ポリプロピレンフィルムには、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤や帯電防止剤、さらにはブロッキング防止剤や充填剤などの各種添加剤を含有させてもよい。特に、ポリプロピレン樹脂の熱履歴による酸化劣化を抑制する目的で、ポリプロピレン樹脂100質量部に対して酸化防止剤を0.01〜0.5質量部添加することは好ましい。
【0036】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは空孔率が65〜85%であることが好ましい。空孔率が65%未満ではフィルムを蓄電デバイスのセパレータとして使用したときに電気抵抗が大きくなり、高出力用途に用いると電池内部で発熱し、エネルギーを損失する場合がある。一方、空孔率が85%を超えると、フィルムの機械強度が低くなりすぎて、蓄電デバイス用のセパレータとして使用する際の特性に影響を及ぼす程度までフィルム構造に影響する場合がある。優れたセパレータ特性と機械強度を両立させる観点からフィルムの空孔率は70〜85%であればより好ましい。フィルムの空孔率をかかる好ましい範囲に制御する方法としては、特に限定されるものではないが、上記したとおり、ポリプロピレン樹脂中にエチレン・α−オレフィン共重合体を0.1〜10質量%を含ませ、後述する逐次二軸延伸により貫通孔を形成することにより望ましい空孔率範囲に制御することができる。
以下に本発明における多孔性ポリプロピレンフィルムおよびフィルムロールの製造方法を具体的に説明する。なお、本発明はこれら製造方法に限定されるものではない。
【0037】
まず、ポリプロピレン樹脂として、MFRが8g/10分の市販のホモポリプロピレン樹脂95質量部、さらにメルトインデックス18g/10分の超低密度ポリエチレン樹脂5質量部にアミド系化合物としてN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド0.2質量部を混合し、二軸押出機を使用して予め所定の割合で混合した原料を準備する。この際、溶融温度は290〜310℃とすることが好ましい。溶融温度が290℃未満では、アミド系化合物がポリプロピレン樹脂に溶解しないまま樹脂中に混練されてしまい、フィルター詰りの原因やフィルム欠点の原因となってしまう場合がある。一方、310℃を超えると、ポリプロピレン樹脂が熱劣化してしまう場合がある。混合原料を溶融押出し、ストランド状に押出し、25℃の水浴で急冷固化し、カッターでサイコロ状に切断して原料チップを得る。
次に、上記の混合原料チップを単軸の溶融押出機に供給し、200〜240℃にて溶融押出を行う。この際、超低密度ポリエチレンのゲル化防止などの観点から酸化防止剤を追添することは好ましいことである。そして、ポリマー管の途中に設置したフィルターにて異物や変性ポリマーなどを除去した後、Tダイよりキャスティングドラム上に吐出し、キャストフィルム(シート)を得る。この際、キャスティングドラム(金属ドラム)は上記した通り、表面温度が100〜130℃であることが、キャストフィルムのβ晶分率を高く制御する観点から好ましい。また、上記したように複数のキャスティングドラムを使用することは望ましいことである。このようにして得られたキャストフィルムのβ晶分率は、好ましくは40〜80%であることが貫通孔の形成を均一にする観点から好ましい。β晶分率は45〜80%であればより好ましく、50〜75%であれば特に好ましい。また、シートをドラムへ密着させるためにエアナイフを用いて空気を吹き付ける方法を採用することが好ましい。
このようにして得られたキャストフィルムを二軸延伸して、フィルム中に空孔(貫通孔)を形成する。二軸延伸の方法としては、フィルム長手方向に延伸後、幅方向に延伸、あるいは幅方向に延伸後、長手方向に延伸する逐次二軸延伸法、またはフィルムの長手方向と幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸法などを用いることができるが、高透気性フィルムを得やすいという点で逐次二軸延伸法を採用することが好ましく、特に長手方向に延伸後、幅方向に延伸することが好ましい。
具体的な延伸条件としては、まずキャストフィルムを長手方向に延伸可能な温度に制御する。温度制御の方法は、温度制御された回転ロールを用いる方法、熱風オーブンを使用する方法などを採用することができる。長手方向の延伸温度としてはフィルム特性とその均一性の観点から、フィルム温度を110〜140℃、さらに好ましくは120〜135℃の温度を採用することが好ましい。延伸倍率としては4.5〜6倍、より好ましくは4.8〜6倍、5〜6倍だと特に好ましい。長手方向への延伸工程で、キャストフィルム中に形成されていたポリプロピレンのβ晶を全て消滅させ、フィルム中の結晶をα晶のみにすることが優れた特性を得る観点で好ましい。
次に、一軸延伸ポリプロピレンフィルムをステンター式延伸機にフィルム端部を把持させて導入する。そして、好ましくは140〜155℃に加熱して幅方向に5〜12倍、より好ましくは6〜9倍延伸を行う。なお、このときの幅方向への延伸速度としては500〜6,000%/分で行うことが好ましく、1,000〜5,000%/分であればより好ましい。
ついで、そのままステンター内で熱固定を行うが、その温度は幅方向の延伸温度〜幅方向の延伸温度+15℃でなおかつ163℃未満が好ましい。また、熱固定時間は5〜30秒間であることが好ましい。さらに、熱固定時にはフィルムの長手方向および/もしくは幅方向に弛緩させながら行ってもよく、特に幅方向の弛緩率を7〜15%とすることが、熱寸法安定性の観点から好ましい。
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは、紙、プラスチック、金属などからなり、フィルムの幅以上の幅を有する管(コア)を巻芯にして、このコア上にフィルムを長手方向に少なくとも100m以上連続して捲回した(巻き取った)フィルムロールとして供給することが好ましい。長手方向のフィルム長さは、より好ましくは500〜10,000mである。多孔性フィルムの場合、あまり長尺で巻き取ると、フィルムの自重でフィルムが押し潰されてしまうため、700〜5,000mであるとより好ましく、1,000〜3,000mであればさらに好ましく、1,000〜2,000mであれば特に好ましい。また、フィルム幅は、特に限定されないが、通常の製膜装置であれば、0.005〜10m幅で製造することが可能であり、その後、0.005〜2m幅にスリットして巻取ることが好ましい。スリット後の幅は、使用する用途、蓄電デバイスであればそのサイズに合わせて適切な幅にスリットすることが好ましく、0.005〜1m幅、より好ましくは0.01〜0.5m幅とすることが好ましい。
【0038】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは透気性や空孔率に優れるだけでなく、フィルム両面の特性が同一であることから、多孔性フィルムの透気性を阻害する構造の形成を抑制することができ、蓄電デバイス、たとえばリチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタなどのセパレータ用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。
【0040】
(1)β晶形成能
樹脂またはフィルム5mgを試料としてアルミニウム製のパンに採取し、示差走査熱量計(セイコー電子工業製RDC220)を用いて測定した。まず、窒素雰囲気下で室温から260℃まで10℃/分で昇温(ファーストラン)し、10分間保持した後、20℃まで10℃/分で冷却する。5分保持後、再度10℃/分で昇温(セカンドラン)した際に観測される融解ピークにについて、145〜157℃の温度領域にピークが存在する融解をβ晶の融解ピーク、158℃以上にピークが観察される融解をα晶の融解ピークとして、高温側の平坦部を基準に引いたベースラインとピークに囲まれる領域の面積から、それぞれの融解熱量を求め、α晶の融解熱量をΔHα、β晶の融解熱量をΔHβとしたとき、以下の式で計算される値をβ晶形成能とする。なお、融解熱量の校正はインジウムを用いて行った。
【0041】
β晶形成能(%) = 〔ΔHβ / (ΔHα + ΔHβ)〕 × 100
なお、ファーストランで観察される融解ピークから同様にβ晶の存在比率を算出することで、その試料の状態でのβ晶分率を算出することができる。
【0042】
(2)表面開口径(DおよびD
走査型電子顕微鏡を用いてフィルムの両面を10,000倍で観察する。その際、観察視野は、フィルム表面の実サイズで20×20μm(拡大後で200×200mm)とした。得られた画像をプラネトロン社製Image-ProPlus Ver. 4.5を用い、以下の画像処理を行うことにより、フィルム表面の樹脂部分と開口部分とに分離し、開口部分の平均面積から平均円相当径を算出し、表面開口径とした。
【0043】
画像処理手順
1)Enhance/Equalize/Best Fit:画像のコントラストの強調
2)Process/Filter/Dilate:開口部分の重なりの分離
2×2 Square、3回繰り返しで処理を実行。
【0044】
3)Measure/Count/Size:開口部の面積評価
SelectRangeを選択し、レンジを0〜120として実行。
【0045】
4)平均面積(A)を計算させ、その値から平均円相当径(r)を算出する。
【0046】
r=√A/π
なお、A面およびB面はキャストフィルムを作製する際に、第1キャスティングドラムに接する面をA面、第2キャスティングドラムに接する面(キャスティングドラムを1台のみ使用する場合は、ドラムに接しない面)をB面とする。
【0047】
(3)空孔率
フィルムを30mm×40mmの大きさに切取り試料とした。電子比重計(ミラージュ貿易(株)製SD−120L)を用いて、室温23℃、相対湿度65%の雰囲気にて比重の測定を行った。測定を3回行い、平均値をそのフィルムの比重ρとした。
【0048】
次に、測定したフィルムを280℃、5MPaで熱プレスを行い、その後、25℃の水で急冷して、空孔を完全に消去したシートを作成した。このシートの比重を上記した方法で同様に測定し、平均値を樹脂の比重(d)とした。なお、後述する実施例においては、いずれの場合も樹脂の比重dは0.91であった。フィルムの比重と樹脂の比重から、以下の式により空孔率を算出した。
【0049】
空孔率(%) = 〔( d − ρ ) / d 〕 × 100
(4)イオン電導性
プロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとの等容量混合溶媒中、LiPF6 を1モル/Lの割合で溶解した電解液を作製した。この電解液中にニッケル製正・負極および該正・負極間に多孔性ポリオレフィンフィルムを配置し、LCRメーターを用いて、複素インピーダンス法にてコール・コールプロットを測定し、20,000Hzでのインピーダンスの実部を求めイオン電導性の指標とした。測定は、アルゴン雰囲気のグローブボックス中、30℃において行った。サンプルはフィルムの任意の場所から5点採取した。測定値の相加平均をそのフィルムの特性として、以下の基準で評価を行った。
【0050】
A級:インピーダンス(実部)の平均値が0.09Ω未満であった。
【0051】
B級:インピーダンス(実部)の平均値が0.09〜0.11Ωであった。
【0052】
C級:インピーダンス(実部)の平均値が0.11Ωを超えた。
【0053】
(5)サイクル安定性
リチウムコバルト酸化物(LiCoO)にアセチレンブラックとポリフッ化ビニリデンとを質量比94/3/3で混合し、N−メチル−2−ピロリドンに分散させたスラリーを正極合剤とし、厚さ10μmの正極集電体用アルミニウム箔の両面に均一に塗布して乾燥し、圧縮成形して帯状の正極を作製し、厚み40μm、幅45mm、長さ4,000mmの帯状正極を得た。また、グラファイトと、ポリフッ化ビニリデンを質量比で9:1に混合して負極合剤とし、これをN−メチル−2−ピロリドンに分散させてスラリーにした。この負極合剤スラリーを、負極集電体として、厚さが10μmの帯状銅箔の両面に均一に塗布して乾燥し、圧縮成形して帯状の負極前駆体を作製した。負極前駆体の処理液として、LiCSOをリン酸トリメチルに溶解させたのち、エチレンカーボネートを加えて混合することにより、処理液を調製した。負極前駆体の両側に処理液を含浸させたセパレータを介してリード体を圧着したLiフォイルで鋏み込み、ホルダーに入れ、負極前駆体を正極、Li極を負極として、放電および充電を行った。その後、分解し、負極前駆体をジメチルカーボネートで洗浄し、乾燥して、負極を作製し、厚み50μm、幅46mm、長さ4,000mmの帯状負極を得た。
電解液は、エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート=3:7(質量比)の混合溶媒に溶質としてLiPFを濃度1mol/Lとなるように溶解させた三井化学(株)製の電解液ミレットを使用した。
【0054】
次に、上記の帯状正極を、幅48mmにスリットした以下の各実施例・比較例の多孔性ポリプロピレンフィルムを介して、上記帯状負極と重ね、渦巻状に捲回して渦巻状電極体とした後、有底円筒状の電池ケース内に充填し、正極および負極のリード体の溶接を行った後、上記電解液を電池ケース内に注入した。電池ケースの開口部を封口し、電池の予備充電を行い、筒形の有機電解液二次電池を作製した。各実施例・比較例につき、電池を10個ずつ作製した。
【0055】
上記作製した各二次電池について、25℃の雰囲気下、充電を1,600mAで4.2Vまで3.5時間、放電を1,600mAで2.7Vまでとする充放電操作を200回行い、放電容量を調べた。
【0056】
[(200回目の放電容量)/(1回目の放電容量)]×100の計算式で得られる値をサイクル安定性の指標とし、以下の基準で評価した。なお、試験個数は10個測定し、その平均値で評価した。
【0057】
A:サイクル安定性が85%以上であった。
【0058】
B:サイクル安定性が80%以上85%未満であった。
【0059】
C:サイクル安定性が80%未満であった。
【0060】
(実施例1)
アミド系化合物を含有するポリプロピレン樹脂として、住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4(MFR:7g/10分、以下、PP−1と表記)を99.5質量部、アミド系化合物であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製、Nu−100、以下、単にβ晶核剤と表記)を0.3質量部、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.1質量部となるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、305℃で溶融混練を行い、400メッシュの金網フィルターを通した後、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてアミド系化合物を含有するチップ原料(以下、単にβPPと表記)とした。
【0061】
また、超低密度ポリエチレン樹脂であるダウ・ケミカル製 Engage8411(メルトインデックス:18g/10分)30質量部とPP−1を64質量部に、酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010を4質量部、IRGAFOS168を2質量部となるように添加、混合したものを二軸押出機に供給し、220℃で溶融混練し、ストランド状に押出して、25℃の冷却水で固化し、チップカッターでカットすることでチップ化する手法で、超低密度ポリエチレンマスターバッチ(以下、単にPEマスターと表記)を作製し、用いた。
【0062】
βPPを83.3質量部、PEマスターを16.7質量部で混合し、単軸押出機に供給して210℃で溶融押出を行い、フィルター精度30μmの焼結フィルターを通して、Tダイから100℃に表面温度を制御し、周速20m/分で回転している第1キャスティングドラム上に吐出し、エアナイフ(先端スリット幅0.8mm)を用いてキャストし、接触時間6秒間でキャストし、ついで120℃に表面温度を制御した第2キャスティングドラムを用いて、フィルム反対面側から接触時間6秒間の加熱キャストを行い、キャストフィルムを得た。
【0063】
次に、キャストフィルムを125℃に加熱したセラミックロールで加熱し、130℃に加熱したロールと30℃に冷却したロール間で周速差を利用して、フィルムの長手方向に5倍延伸を行った。ついで、テンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、145℃で幅方向に6倍延伸した。その際、延伸速度は2,000%/分で行った。そして、幅方向に10%のリラックスを掛けながら155℃で6秒間の熱処理を行い、厚み20μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0064】
(実施例2)
実施例1において、第1キャスティングドラム温度を110℃、第2キャスティングドラム温度を120℃とし、さらに幅方向の延伸倍率を8倍とする以外は同条件で、厚み20μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0065】
(実施例3)
実施例1において、第1キャスティングドラム温度を120℃、第2キャスティングドラム温度を120℃とし、さらに長手方向の延伸倍率を4.5倍、幅方向の延伸倍率を10倍とする以外は同条件で、厚み20μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0066】
(実施例4)
実施例1において、βPPを95質量部、PEマスターを5質量部で混合する以外は同条件で厚み20μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0067】
(実施例5)
実施例1において、βPPを75質量部、PEマスターを25質量部で混合する以外は同条件で厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0068】
(比較例1)
実施例1において、第1キャスティングドラム温度を90℃とする以外は同条件で製膜を行ったところ、貫通孔が形成されず、厚み12μmの二軸配向フィルムが得られた。
【0069】
(比較例2)
実施例3において、第2キャスティングドラム温度を80℃とする以外は同条件で製膜を行い、厚み20μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0070】
(比較例3)
βPPを90質量部、PEマスターを10質量部で混合し、単軸押出機に供給して215℃で溶融押出を行い、フィルター精度40μmの焼結フィルターを通して、Tダイから120℃に表面温度を制御し、周速15m/分で回転しているキャスティングドラム上に吐出し、エアナイフ(先端スリット幅0.8mm)を用いてキャストフィルムを得た。その際、ポリマーとドラムの接触時間は8秒間であった。
【0071】
次に、キャストフィルムを120℃に加熱したセラミックロールで加熱し、125℃に加熱したロールと50℃に冷却したロール間で周速差を利用して、フィルムの長手方向に4.8倍延伸を行った。ついで、テンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、145℃で幅方向に7倍延伸した。その際、延伸速度は1,500%/分で行った。そして、幅方向に10%のリラックスを掛けながら155℃で8秒間の熱処理を行い、厚み20μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0072】
(比較例4)
特開2008−248231号公報の実施例1をそのまま実施した。具体的には、ポリプロピレン樹脂として、住友化学(株)製ホモポリプロピレン WF836DG3(MFR:7g/10分、アイソタクチックインデックス:97%)を94質量部、Basell社製高溶融張力ホモポリプロピレン Pro−fax PF814(MFR:2.5g/10分、アイソタクチックインデックス:97%)を1質量部、エチレン・α−オレフィン共重合体である、ダウ・ケミカル社製 Engage8411(メルトインデックス:18g/10分)を5質量部混合したところに、アミド系化合物としてN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製Nu−100)を0.2質量部加えて2軸押出機に供給し、220℃で溶融混練を行い、ストランド状に押出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリオレフィン樹脂原料を得た。
【0073】
このポリオレフィン樹脂を単軸押出機に供給して220℃にて溶融押出を行い、焼結フィルターにて異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャスティングドラム上に吐出し、ドラムに15秒間接するようにキャストして、未延伸シートを得た。ついで、95℃に加熱したロールを用いて未延伸シートを加熱し、長手方向に4倍延伸を行った。一旦冷却後、ステンター式横延伸機にて145℃で幅方向に延伸速度1,500%/分で6倍延伸を行い、そのまま155℃で5秒間熱固定を行い、ついで140℃、リラックス率10%で5秒間弛緩処理を行い、厚み28μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムロールは透気性や空孔率に優れるだけでなく、フィルム両面の特性が同一であることから、多孔性フィルムの透気性を阻害する構造の形成を抑制することができ、蓄電デバイスのセパレータに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β晶形成能が40〜90%であるポリプロピレン樹脂を含む多孔性ポリプロピレンフィルムであって、一方のフィルム表面(A面)の表面開口径をDとし、他方のフィルム表面(B面)の表面開口径をDとしたとき、DおよびDがともに0.1〜5μmであり、かつ0.8≦D/D≦1.2を満足する多孔性ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
空孔率が65〜85%である、請求項1に記載の多孔性ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
β晶形成能が40〜90%であるポリプロピレン樹脂が、以下の化学式(1)で表されるアミド系化合物を含有する、請求項1または2に記載の多孔性ポリプロピレンフィルム。
−NHCO−R−CONH−R (1)
ただし、Rは芳香環、脂環または炭素数2〜24の脂肪族炭化水素を示し、R、Rは脂環または芳香環を示す。
【請求項4】
β晶形成能が40〜90%であるポリプロピレン樹脂中の上記アミド系化合物濃度がフィルム全体に対して0.05〜0.5質量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の多孔性ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
β晶形成能が40〜90%であるポリプロピレン樹脂を含む樹脂組成物を溶融押出し、Tダイから吐出せしめてシートとした後、表面温度が100〜130℃である複数の金属ドラムを用いて、前記シートの両側を加熱してキャストフィルムを得た後、逐次二軸延伸する、請求項1〜4のいずれかに記載の多孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−116835(P2011−116835A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274296(P2009−274296)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】