説明

多孔質の支持体に細胞を内在化させる方法、器具または装置

【課題】 細胞を多孔質体内に均等に内在化させることは難しい。特に多孔質体の材料が疎水性であったり、空隙が小さい場合は細胞懸濁液を多孔質体内部に浸透させることすら困難である。よって、多孔質の支持体に効率よく、かつ均等に細胞を内在化させる方法を提供することが、待望される。
【解決手段】 本発明は、多孔質体、例えば細胞の支持体内に液体を浸透させることによって細胞の内在化を促進させる方法を提供する。好ましくは、該方法は(a)多孔質体内に液体を浸透させること、及び(b)該多孔質体内部に浸透した液体の一部を除去することを含む。本発明は、多孔質体に液体を浸透させるために使用できる装置または器具を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞を3次元的に培養するために多孔質体、例えば多孔質の支持体に効率よく細胞を内在化させる方法、器具または装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を3次元的に培養するためには細胞の足場となる3次元の構造物、所謂多孔質体に細胞を内在化させて保持する必要がある。従来この多孔質体に細胞を内在化させるための方法として、注射針等を用いて多孔質体内に注入する、あるいは細胞懸濁液中に多孔質体を浸す等の方法が一般的に用いられている。
【0003】
WO2004/035101は、細胞を保持させるための支持体を開示する。しかし、多孔質体内に細胞を播種、すなわち内在化させることは開示されていない。特開2004−167236は、気管片を、非イオン性界面活性剤で処理した物に、細胞を播種する方法を開示する。しかし、液体の一部を除去する工程は、開示されていない。特開平11−056343は、リアクター内の培養基材に細胞を播種する方法を開示する。しかし、液体を多孔質体内に部分的に含ませることは開示されていない。
【特許文献1】WO2004/035101号公報
【特許文献2】特開2004−167236号公報
【特許文献3】特開平11−056343号公報
【非特許文献1】Wang,H−J et al. (2003) Engineering of a Dermal Equivalent:Seeding and Culturing Fibroblasts in PEGT/PBT Copolymer Scaffolds. Tissue Engineering 9:909−917
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前述の方法では、細胞を多孔質体内に均等に内在化させることは難しい。特に多孔質体の材料が疎水性であったり、空隙が小さい場合は細胞懸濁液を多孔質体内部に浸透させることすら困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく種々検討した結果、予測できないことに、液体を予め、多孔質体内に浸透させることによって、多孔質体への細胞の内在化が促進できることを見出した。
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明が提供するのは以下の通りである:
[1]
(a)液体を多孔質体内に浸透させることを含む、多孔質体内への細胞の内在化を促進する方法。
[2]
さらに、(b)該多孔質体内部に浸透した液体の一部を除去することを含む、[1]記載の方法。
[3]
(a)が、多孔質体と液体を含む系を提供すること、及び該系の圧力を、1又は2以上の回数変化させることを含む、[1]または[2]記載の方法。
[4]
該液体の一部の除去が、毛細管現象により達成される[2]記載の方法。
[5]
該液体の一部の除去が、遠心力により達成される、[2]記載の方法。
[6]
容器およびピストンを含む、液体を多孔質体内に浸透させる器具であって、該ピストンが、該容器の内部表面についてしゅう動可能であり、当該内部表面とのしゅう動可能性シールを定義し、かつ当該容器の内部に位置するピストンを含む、器具。
[7]
液体が該容器と流通可能に、該容器に接続された第二の容器をさらに含む、[6]記載の器具。
[8]
多孔質体内部に液体を含む、細胞を多孔質体内に内在化させるための、多孔質体。
【発明の効果】
【0007】
本発明による方法、器具または装置を用いることにより多孔質体に効率よく細胞を内在化させ、保持することができる。その結果、細胞を3次元的な培養及び組織の形成が簡便かつ安定に行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において多孔質体とは、内部に連通する多数の微細な孔または空隙を有する成形物を意味する。例えば、多孔質体は、細胞を内部に内在化すると同時に血清成分や栄養因子、また老廃物等の循環が円滑に行われるような構造を持つ、細胞培養のための支持体であってもよい。
【0009】
多孔質体の形状は、三次元であれば限定されないが、球状、粒状、平膜状、繊維状、中空糸状、直方体、立方体、平板状等いずれも有効に用いられる。多孔質体が球状または粒状であるばあい、平均粒径は約5μmから1000μmであることが好ましく、より好ましくは約20〜800μm、最も好ましくは約30〜600μmである。形状は、厚み方向に縦長な形状の孔が面方向に並列的に配置された概平板状形状を有し、一方の面が開孔処理されているものである、前記多孔質体を含む。概平板状形状とは、完全な平板形状はもちろんのこと、平板形状に近い形状であるものをすべて含む。
【0010】
多孔質体は、限定されないが、例えばガラスビーズ、シリカゲルなどの無機多孔質体、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレンなどの合成高分子や結晶性セルロース、架橋セルロース、架橋アガロース、架橋デキストリンなどの多糖類からなる有機多孔質体、セルロース、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸グラフト化ポリエチレン、ポリアクリルアミドグラフト化ポリエチレン、ガラスさらにはこれらの組み合わせによって得られうる有機−有機、有機−無機などの複合多孔質体などが代表例としてあげられる。
【0011】
無機多孔質体について、活性炭、及びガラスビーズなどが挙げられるが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。その他の多孔質体の材料は、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン11、ポリエチレン、ポリ(塩化ビニリデン)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリスチレン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、スチレン−ジビニルベンゼン、ポリ(トリフルオロエチレン)、ポリ(クロロトリフィルオロエチレン)、ポリ(テレフタル酸エチレン)、ポリプロピレン、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリアクリル酸エステル、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリメタクリル酸エステル、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアミドなどの合成高分子化合物、またはヒドロキシアパタイト、βTCP(β-三リン酸カルシウム)などのセラミック化合物からなる群より選択されるがこれらに限定されない。
【0012】
多孔質体は好ましくは、生体適合性材料を含む。好ましくは、この多孔質体の材料はコラーゲンやキチン、キトサン等の生体由来物質、αまたはβ−ヒドロキシカルボン酸の加水分解性ポリマー、例えばPGA(ポリグリコール酸重合体)、PLGA(ポリ乳酸−グリコール酸共重合体)、PLLA(ポリL−乳酸重合体)等の人工物、あるいはそれらのうち2種以上の物質の複合体等前述の構造を実現できる材料であれば特に限定されることはない。
【0013】
特に好ましくは、グリコール酸と乳酸の共重合体(PLGA)であって、グリコール酸と乳酸の重量比が、約99:1−1:99、特に約75:25−25:75であるである。なお好ましくは、多孔質体は、孔径約10μm以上500μm以下、孔長約20μm以上1cm以下の縦長形状の孔が並列的に配置され、並置された各孔間は、孔径約10μm以下の小孔で連通した構造を有する、三次元多孔質体を含む。
【0014】
孔径約10μm以下の小孔で連通した構造とは、上記縦長形状の孔の全個数の約50%以上、好ましくは約70%以上が、孔径約10μm以下である小孔で互いに連結された構造を意味する。またこの多孔質体を作製する方法に関しても前述の構造を実現できるものであれば特に限定されることはない。さらに、この多孔質体の構造も前述の特徴を実現できるものであれば、スポンジ状のものであっても不織布であっても、あるいはそれ以外のものであってもよく、特に限定されるものではない。前記多孔質体は、例えばWO2004/035101号公報に見出されるような公知の方法で製造できる。簡単には、多孔質体材料を有機溶媒に溶解し、調製した溶液を型枠に流し込んだ後、約3℃/分以上の冷却速度で凍結し、凍結した溶液を真空乾燥して、有機溶媒を除去する、ことによって製造する。
【0015】
本発明はまた、多孔質の多孔質体の内部に液体を浸透させて多孔質体の内部構造の表面をあらかじめ濡らすことにより、効率よく細胞懸濁液を多孔質体内部に注入し、細胞の多孔質体への内在化を促進させる方法、及びその方法を実現する器具または装置を提供する。
【0016】
本発明はまた、液体を多孔質体内に浸透させた後に、該液体の一部を除去し、液体を多孔質体内に部分的に含ませることを含む方法に関する。この場合の液体としては、限定されないが、水、油、好適な溶媒、例えば、ジメチルフォルムアミド、アセトン、ジメチルスルフォキシド、N−メチル−2−ピロリドンまたはアルコール性溶媒、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールまたはtert−ブタノール、またはエーテル溶媒、例えば、テトラヒドロフランまたは1,4−ジオキサン(約0.5ないし15容量%、好ましくは約2容量%)またはエステル溶媒、例えば、酢酸エチルまたは炭化水素溶媒、例えば、オクタンまたはシクロヘキサンまたはトルエンまたはキシレン、の単独または混合物として使用しうる。
【0017】
好ましくは、液体はPBS等の緩衝液や生理食塩水、あるいは血清を含む培地や無血清培地等があるが、特に限定されるものではない。好ましい培地としては、MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、IMEM培地、Earle’s 199培地、Ham’s F−12培地、Ham’s F−10培地、RPMI1640培地、McCoy’s 5A培地等の一般的な動物細胞用培地だけでなく、ハイブリドーマやES細胞を含む幹細胞、リンパ球を含む血球系細胞、その他の各種組織の初代培養用に調製された培地、さらにはGrace’s 培地、TC−100培地などの昆虫細胞用培地、Murashige−Skoog培地、Linsmaier−Skoog培地などの植物細胞用培地などが挙げられる。
【0018】
さらに好ましくは、任意の濃度の血清を含有するαMEM培地またはDMEM培地を使用する。ただし、多孔質体の材料が疎水性の高い物質である場合、この液体に血清等の界面活性作用を有する物質が含まれていることがさらに望ましい。界面活性剤は、イオン性、非イオン性及び両性イオン性界面活性剤、また、界面活性剤の混合物を含み、細胞の適切な増殖と生存に与える影響が小さいものと理解されるべきである。
【0019】
液体を多孔質体内に浸透させるとは、液体を多孔質体内の孔隙中に含ませる、すなわち充填することを意味する。細胞を多孔質体に内在化するためには、多孔質体中への液体の充填率が約1%〜100%、好ましくは約5%〜75%、さらに好ましくは約10%〜50%であることが望ましい。液体の充填率は、多孔質体の全空隙が液体に満たされている状態を100%とし、以下の示した方法により測定した。乾燥状態の多孔質体の重量(ア)、本明細書記載のいずれかの方法により全空隙を液体で満たした状態の多孔質体の重量(イ)及び本特許記載のいずれかの方法により液体を一部を除去した状態の多孔質体の重量(ウ)を電子天秤(ザルトリウス)により測定し、[(ウ)−(ア)/(イ)−(ア)]×100を液体の充填率とした。
【0020】
多孔質体に液体を浸透させる方法は、液体を多孔質体に滴下する、多孔質体を液体中に浸す等の方法のほか、液体と多孔質体を含む系を提供し、系の圧力を変化させる方法を含む。該方法は、圧力を増加させついで低下させ、そしてその逆であることもある。該方法は、多孔質体内部の気体を除去しつつ、液体の浸透を促進しうる。圧力の増加及び低下は1回または必要により何回でも繰り返しうる。簡便には、後述する本発明の器具または装置を使用する。
【0021】
多孔質体内部に液体を浸透させた多孔質体は、無処理の多孔質体よりもはるかに細胞を内部に内在化させやすい。好ましくは、多孔質体内に浸透させた一部の液体を除去することにより、さらに効率よく細胞を多孔質体に内在化させうる。
【0022】
多孔質体に内部に浸透させた液体を除去する方法は特に限定されない。上記空隙率を達成することが好ましい。多孔質体を手または器具により加圧する、多孔質体を絞る、など公知の方法を使用できる。好ましくは、毛細管現象を利用する方法、遠心力を利用する方法等が有効である。毛細管現象を利用する方法とは液体を浸透させた多孔質体を濾紙等の上に置き余分の液体を吸い取らせることによるものである。ここで余分の液体を吸い取らせるために用いるものとしては、滅菌ガーゼ等多孔質体に内在化させる細胞に対して悪い影響を及ぼさないものが望ましいが、特に限定されるものではない。
【0023】
また、遠心力による方法は、液体を浸透させた多孔質体を遠心チューブや培養シャーレ等の適当な容器の中に置き、容器ごと遠心分離機にかけることにより余分の液体を漏出させることができる。この場合、多孔質体から漏出した液体が多孔質体の周囲あるいは容器から排除される構造になっていることが望ましいが、特に限定されるものではない。本発明は液体を多孔質体内に含む多孔質体およびその製造方法を含む。好ましくは、この多孔質体中の液体は、一部除去されている。
【0024】
本発明は多孔質体に細胞を注入し、多孔質体に細胞を内在化させることによって完結する。多孔質体内に細胞を注入するためには細胞を培地等の液体に懸濁したものを注入することが一般的である。本発明による方法を遂行するための細胞懸濁液の細胞濃度は特に限定されないが、望ましくは約1/mL〜1×1010/mL、さらに望ましくは約1×103〜1×109/mL、またさらに望ましくは約1×105〜1×108/mLである。
【0025】
余分な液体を除去した多孔質体の表面に細胞懸濁液を滴下すると細胞は多孔質体内部に均等に浸透していき、細胞の、多孔質体内への内在化を促進することができる。「細胞の、多孔質体内への内在化を促進する」なる表現は、多孔質体内に、播種された細胞が、十分とどまる状態が達成されることを意味する。本方法によれば、細胞の数において、播種した細胞の少なくとも約95%以上、好ましくは約98%以上、より好ましくは、約99.5%以上、そしてもっとも好ましくは約99.9%以上が、多孔質体内にとどまることもできる。もっとも、該パーセンテージは、細胞の種類、多孔質体の形状、大きさ、材料、孔隙率、液体の種類などに依存して変化することもある。本明細書では、「細胞の、多孔質体内への内在化を促進する」は、細胞を多孔質体内に播種した後に、該多孔質体から細胞が漏出するのを防止または低減化する事を意味する場合もある。
【0026】
本発明者らは、多孔質体と液体が置かれている空間の圧力を変化させることにより効率よく多孔質体内に液体を浸透させることができることを見出し、本発明は、それを簡便に実現できる装置または器具を提供する。
【0027】
本発明による多孔質体に液体を浸透させる器具または装置は、上記細胞を多孔質体内に内在化させることを促進する方法において、多孔質体内に液体を浸透させるために使用できる。具体的には、多孔質体と液体を含む系を提供すること、及び該系の圧力を、1又は2以上の回数変化させることに使用できる。
【0028】
本器具または装置は、容器内に多孔質体及び液体を共存させ、ピストンにより閉鎖し、ピルトンを該容器についてしゅう動することによって、系、例えば容器内の圧力を変化させることができることを特徴とするものである。圧力の変化のさせ方は特に限定されるものではないが、最初に容器内を陽圧にすることにより多孔質体内に液体を浸透させた後、容器内を陰圧にして多孔質体内に残存する気体を脱気することが望ましい。またはその逆の作業順序を使用しうる。さらにこの操作を1回または2、3、4、5またはそれ以上の回数繰り返すことがより望ましい。
【0029】
好ましくは、該容器内に、多孔質体及び液体を共存させ、ピストンによって閉鎖させ、当該ピストンが動作することによって、密閉系内の圧力を変化させ、そして該支持体への液体の浸透を促進する。
【0030】
あるいは、該容器内に多孔質体として、ビーズ内の気体を該液体と置換するために使用する。具体的には、多孔質ビーズと液体を共存させ、ピストンによって閉鎖させ、当該ピストンを動作させ、密閉された系内の圧力を変化させ、そして該ビーズ内の、液体の気体との置換を促進する。慣行的には、ビーズ内の空気を、液体と置換するために、ビーズをエタノール等の両親媒性溶媒に浸せきし、ついで両親媒性溶媒の一部を水等と一部置換した液体に、該ビーズを浸せきし、当該操作を反復することにより、ビーズ内への、気体の、液体との置換を達成する。該操作は、本装置または器具を使用して、容易に達成できる。
【0031】
1実施態様では、本発明のために、多孔質体に液体を浸透させる器具または装置の例示的な構成を図1に示す。該装置は、所望により液体(8)および多孔質体(1)を解放または密封するための開閉可能な孔(5)を底部に有する、液体(8)および多孔質体(1)を封入するための容器(2);当該容器の内部表面についてしゅう動可能であり、当該内部表面とのしゅう動可能性シールを定義し、かつ当該容器の内部に位置するピストン(3);当該ピストン、及び当該容器を、ピストンが動作可能に保持する架台(7);所望により当該ピストンを動作させるための駆動部(4);及び所望により当該容器底部から流出する液体を受容する他の容器(6);を含む。
【0032】
装置または器具は、圧力を発生させる部分と閉鎖された容器(多孔質体及び液体が存在する部分)が一体になっているものでも閉鎖それらが分離されているものでも多孔質体の内部に液体を浸透させることができるものであれば構造は特に限定されない。該容器(2)の内部表面と、ピストン(3)の表面は、しゅう動可能であるために、十分に平滑に構成されている。内部の液体(8)がもれないために、両者の間は十分な密着が好ましく、より好ましくはもれのないように、すなわちシールを定義するように構成すべきである。具体的には弾性体、例えばゴムをピストン表面のしゅう動部分に被覆してもよい。
【0033】
本実施態様では、該装置を例えば以下のように使用する:多孔質体(1)および液体(8)を予め、容器(2)に入れ、そしてピストン(3)を該容器に挿入し、それらを封入する。ピストン(3)を例えば上下に操作し、液体(8)および多孔質体(1)を含む系に加圧または減圧する。所望により該操作を繰り返す。該操作は駆動部(4)により実施してもよいし、人手により実施してもよい。多孔質体(1)内への液体の十分な浸透が達成されたならば、ピストン(3)を該容器(2)から取り外し、多孔質体(1)を取り出す。該多孔質体(1)は本発明の、細胞を多孔質体に内在化するのを促進する方法において、細胞を内在化、すなわち播種するために使用できる。液体(8)は開閉可能な孔(5)を通して排出するのが、該装置を架台(7)に固定したまま作業できる点で有利である。該開閉可能な孔(5)は三方活栓を用いて液体の排出と注入、操作中に生じた気泡の除去等を行うことができる。
【0034】
1実施態様は、所望により液体(8)および多孔質体(1)を解放または密封するための開閉可能な孔(5)を底部に有する容器、及び容器の内部表面についてしゅう動可能であり、当該内部表面とのしゅう動可能性シールを定義し、かつ当該容器の内部に位置するピストンを含む、器具である。例示的な構成は、図1の波線による枠内に示される。
【0035】
この場合、使用方法、用途および特徴は基本的に前記装置と同様であるが、ピストンは人手によって操作するのが好ましい。
【0036】
1実施態様では、本発明による多孔質体に液体を浸透させる装置の望ましい構造を図2に示す。
【0037】
該装置は、所望により内容物を解放または密封するための開閉可能な孔(5)を底部に有する、液体(9)および多孔質体(1)を封入するための第一容器(2);当該第一容器と液体(9)が流通可能に接続された第二の容器(8);当該第二容器(8)の内部表面についてしゅう動可能であり、当該内部表面とのしゅう動可能性シールを定義し、かつ当該容器の内部に位置するピストン(3);当該ピストン(3)、及び当該第二容器を、該ピストン(3)がしゅう動可能に保持する架台(7);所望により当該ピストンを動作させるための駆動部(4);所望により当該容器底部の孔(5)から流出する液体を受容する他の容器(6)を含む。
【0038】
該装置において、ピストンを動作させることによって、第二容器内(8)の液体(9)に圧力が加わる。該圧力は、液体が流通可能に接続された第一容器(2)に伝達され、液体(9)と多孔質体(1)を含む第一容器内の、多孔質体への、液体の浸透を促進しうる。液体が流通可能に接続され、とは、液体が自由に、例えば圧力または重力によって移動しうるように中空管等によって連結されていることを意味する。該開閉可能な孔(5)は三方活栓を用いて液体の排出と注入、操作中に生じた気泡の除去等を行うことができる。
【0039】
本実施態様でも、使用方法、用途および特徴は前記の実施態様と基本的に同様である。特に、本実施態様では、該第二容器を、第一容器から取り外し、該第二容器のみを洗浄および殺菌することができ、作業性の点で有利である。また、多孔質体を該第二容器内に配置する作業が容易である。さらに多孔質体を第二容器ごと輸送することが容易である。例えば、多孔質体(1)を液体(9)とともに第二容器(2)に封入する作業を、別の場所で実施することもできる。
【0040】
1実施態様は、
所望により内容物を解放または密封するための開閉可能な孔(5)を底部に有する、液体を封入するための第一容器(2);当該第一容器(2)と液体(9)が流通可能に接続された第二の容器(8);当該第二容器(8)の内部表面についてしゅう動可能であり、当該内部表面とのしゅう動可能性シールを定義し、かつ当該容器の内部に位置するピストン(3)を含む器具を含む。例示的構成は図2の波線による囲み枠内に示される。本実施態様でも使用方法、用途および特徴は前記の実施態様と基本的に同様である。特に、該実施態様では、ピストンを手動で操作しうる。該器具は小型軽量である。
【0041】
本発明による器具または装置の材質は特に限定されないが、構造材料は、ポリマーまたは金属または合金またはガラスを含む。該ポリマーは、アクリロニトリルブタジエンスチレンターポリマー等のアクリロニトリルポリマー等;ハロゲン化ポリマー、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、コポリマーテトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレン等;ポリアミド;ポリスルホン;ポリカーボネート;ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリビニルクロリドアクリルコポリマー;ポリカーボネートアクリロニトリルブタジエンスチレン;ポリスチレン;等を含む。容器のために有用な金属材料は、ステンレス鋼、チタン、白金、タンタル、金、及びそれらの合金、並びに金メッキ合金鉄、白金メッキ合金鉄、コバルトクロミウム合金、及び窒化チタン被覆ステンレス鋼を含む。とくに好ましくは耐滅菌性を有する素材であるが、具体的にはシリコンコートされたガラス、ポリプロピレン、塩化ビニール、ポリカーボネート、ポリサルフォン、ポリメチルペンテンなどがあげられる。
【0042】
該材料は、γ線、電子線、エチレンオキサイド、またはオートクレーブ等何らかの方法により滅菌できる材質であることが望ましい。具体的には、該材料はポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレンまたはその他高温に耐えられるポリマー材料、ガラス材料、または金属材料である。
【0043】
本発明による器具または容器の大きさは、例えば、支持体を容器内に収容できる大きさである。容器およびピストンの断面形状は円形、楕円形、長方形、正方形、5角形、など、任意の形状であり得るが、両者の断面形状は、両者間のシール性の観点から、実質的に同じであるべきである。
【0044】
本発明の装置または器具は、自体公知の部材を組み立てることにより製造できる。容器およびピストンは、金属材料を使用する場合は、例えば鋳造、旋盤加工、鍛造、溶接などによって、樹脂材料を使用する場合は、例えば圧縮成型、射出成型、押出し成型、ブロー成型、注型成型、接着などによって形成できる。容器およびピストンのために、適当な大きさである、商業的入手可能な任意の同様の機能を有するもの、例えばシリンジ、注射器等を転用できる。架台、三方活栓のために、当業者に明らかな公知の部材または手段を使用できる。容器の底部の孔および液体が流通可能である部分は、機械的ドリリング、レーザードリリング、鋳造、旋盤加工、鍛造、溶接、圧縮成型、射出成型、押出し成型、ブロー成型、注型成型などによって形成できる。駆動部は任意の手段、例えば電動モーター、発動機、電磁的手段などを使用しうる。
【0045】
多孔質体内部に液体が浸透したことは、多孔質体及び液体が存在する閉鎖された容器内を陰圧の状態に保っても多孔質体が液体中で浮上してこないことを指標に判定することができる。
【実施例】
【0046】
以下本発明について例を挙げて説明するが、必ずしもここに挙げた例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
ジオキサンに溶解したPLGA(ポリ乳酸グリコール酸共重合体)を凍結乾燥処理することにより作製したスポンジ状のPLGA支持体にウサギ骨髄間葉系細胞を内在化させて本発明の効果を検証した。
【0048】
PLGA支持体は、縦10mm、横10mmの正方形の形状に整形した厚さ3mmのものを用いた。細胞はウサギ骨髄より培養基材への付着能を指標に調製した骨髄間葉系細胞を用いたが、その調製法は次の通りである。体重3.5〜4.0kgの日本白色兎の上腕骨頭より骨髄穿刺針(アリージャンス)を用いて骨髄液を採取した。1.5mLの骨髄液に対し、15%ウシ胎児血清(ギブコ)を含有するαMEM培地(ギブコ)13.5mLを添加し、T−75フラスコ(旭テクノグラス)を用いて37℃、5%CO2の環境下で培養した。2〜3日に1回培地交換し、2回継代を行ったものを検証用の細胞として用いた。
【0049】
図1に示した装置を用いて支持体内部に培地を浸透させた。PLGA支持体と15%ウシ胎児血清を含有するαMEM培地を図1の第一容器(2)内に入れ、ピストン(3)を押して容器内を陽圧にした。培地(赤色)が支持体(白色)内に浸入したことを支持体の色の変化で確認した後ピストンを引いて容器内を陰圧にした。陰圧の状態を5〜60秒程度保持し、支持体内部に残存する空気を脱気した。この時支持体表面に気泡が付着するが、これは容器を振盪するなどして除去することが望ましい。再び容器内を陽圧にした培地を支持体内に浸入させた後陰圧にして脱気した。この操作を繰り返すことにより支持体内に培地を浸透させた。培地が支持体内に完全に浸透したことを、容器内を陰圧にしても培地中で支持体が浮上して来なくなることを指標に判断した。
【0050】
内部に培地を浸透させた支持体をクリーンベンチ内で滅菌ガーゼ(川本産業)上に5〜10分間置き、余分な培地を毛細管現象によりガーゼに吸わせたて除去した。余分な培地を除去した支持体を直径6cmの培養シャーレ(旭テクノグラス)に移して、5×107/mLの細胞濃度になるようにαMEM培地に懸濁して調製したウサギ骨髄間葉系細胞懸濁液を60μL(総細胞数3×106個)支持体に滴下した。細胞懸濁液を滴下後15分間静置して細胞を支持体内部に浸透させた。培養シャーレに5mLの培地を添加して軽く浸透した後支持体を取り出し、支持体内部に内在化されずに培地中に漏出した細胞数を血球計数盤を用いて計測した。この時、支持体内部に培地を浸透させなかったもの(試料A)、培地を浸透させた後余分の培地を除去しなかったもの(試料B)と培地を浸透させた後余分の培地を除去したもの(試料C)を比較した。その結果を表1に示した。表1からわかるように支持体内部に培地を浸透させなかったものではほとんど細胞が内在化されなかったが、支持体に培地を浸透させることにより大半の細胞が支持体内部に内在化されるようになり、さらに余分の培地を除去することによりほとんど全ての細胞を支持体内部に保持させることができた。
【0051】
表 1 支持体からの細胞の内在化率および漏出率
【0052】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一態様である多孔質体に液体を浸透させる装置(閉鎖された容器中で圧力を生成させるもの)
【図2】本発明の一態様である多孔質体に液体を浸透させる装置(閉鎖された容器と圧力を生成する部分が分離されているもの)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)液体を多孔質体内に浸透させることを含む、多孔質体内への細胞の内在化を促進する方法。
【請求項2】
さらに、(b)該多孔質体内部に浸透した液体の一部を除去することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
(a)が、多孔質体と液体を含む系を提供すること、及び該系の圧力を、1又は2以上の回数変化させることを含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
該液体の一部の除去が、毛細管現象により達成される請求項2記載の方法。
【請求項5】
該液体の一部の除去が、遠心力により達成される、請求項2記載の方法。
【請求項6】
容器およびピストンを含む、液体を多孔質体内に浸透させる器具であって、該ピストンが、該容器の内部表面についてしゅう動可能であり、当該内部表面とのしゅう動可能性シールを定義し、かつ当該容器の内部に位置するピストンを含む、器具。
【請求項7】
液体が該容器と流通可能に、該容器に接続された第二の容器をさらに含む、請求項6記載の器具。
【請求項8】
多孔質体内部に液体を含む、細胞を多孔質体内に内在化させるための、多孔質体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−25635(P2006−25635A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205703(P2004−205703)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】