説明

多孔質アルミニウム複合材及びその製造方法

【課題】アルミニウム合金溶湯に発泡剤を添加する従来の発泡アルミニウムの製造方法における発生した気泡同士が凝集し、粗大な気泡が形成され、部材の強度低下を招く課題に着目してなされたものであって、その目的とするところは粗大な気泡を含むことの無い、気孔径の制御された発泡アルミニウム材を提供することにある。
【解決手段】
本発明は、気孔径が500μm以下、かつ閉気孔の空隙率が40〜80%であって、圧縮エネルギー吸収量が1MJ/m3以上であることを特徴とする多孔質アルミニウム複合材を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質アルミニウム複合材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質アルミニウム複合材は、軽量で断熱性や遮音性など優れた機能を有する材料であって、中でも圧縮荷重が作用したときに一定の応力下で変形が進行する、いわゆるプラトー現象を持つことから、例えば自動車の車体へ応用すれば、衝突時の衝撃エネルギーを効率よく吸収することができ、衝撃吸収部材として好適なものとなる。
【0003】
このような多孔質アルミニウム複合材の製法としては溶融アルミニウムに発泡剤を添加して発泡させる方法(例えば、特許文献1参照)が知られている。
【特許文献1】特開2005−344153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような発泡剤を添加する方法においては、発泡アルミニウム材の気孔径を制御することが困難である。また、発泡剤の添加量や条件によっては、発生した気泡同士が凝集し、粗大な気泡が形成され、部材の強度低下を招く場合もある。本発明は、アルミニウム合金溶湯に発泡剤を添加する従来の発泡アルミニウムの製造方法における上記のような課題に着目してなされたものであって、その目的とするところは粗大な気泡を含むことが無く、気孔径が制御され、空隙率が大きい割には、圧縮エネルギー量の大きな多孔質アルミニウム複合材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究した結果、中空セラミックスを強化材として用い、マルミニウム合金をマトリックスとして用いた複合材料とすることで、気孔径を制御したアルミニウム複合材が作製でき、上記課題を解決できることを見出した。すなわち本発明は、気孔径が500μm以下、かつ閉気孔の空隙率が40〜80%であって、圧縮エネルギー吸収量が1MJ/m3以上であることを特徴とする多孔質アルミニウム複合材(請求項1)であり、強化材が粒径が3〜500μmの中空セラミックスであり、マトリックスがアルミニウム又はその合金であり、該強化材に前記アルミニウム合金を加圧浸透させて作製することを特徴とする請求項1記載の多孔質アルミニウム複合材の製造方法(請求項2)である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、多孔質アルミニウム複合材において、強化材として中空セラミックスを用いることにより多孔質アルミニウム複合材の気孔径が制御でき、粗大気泡などの問題が無く、閉気孔の空隙率が80%となっても、空隙が均一に分布し、エネルギー吸収量が1MJ/m3以上であり、測定値のばらつきがすくない多孔質アルミニウム複合材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の多孔質アルミニウム複合材の製造方法を述べると、先ず中空セラミックス粉末と、金属としてアルミニウム若しくはアルミニウム合金を用意する。アルミニウム合金としては、純アルミニウムや鋳造用のJIS合金(JIS AC8Aなど)が挙げられるが、本発明は特にこれらに限定されるものではない。次に、用意した中空セラミックス粉末で40〜80体積%の充填率を有するプリフォームを形成する。プリフォームの形成方法としては、中空セラミックス粉末に有機バインダーを添加し、プレスにより形成する方法や、中空セラミックス粉末に水などの溶媒を加え、フィルタープレスにより形成する方法などが挙げられる。有機バインダーとしては慣用の物が用いられ、PVA(ポリビニルアルコール)、PVB(ポリビニルブチラール)、アクリル樹脂などが挙げられる。
【0008】
次いで、得られたプリフォームを大気中、700〜800℃の温度で加熱し、溶湯加圧装置内に入れる。有機バインダーが少量(5%程度)のときは、この過程で燃焼する。プリフォームの形成に多量の有機バインダーを用いた場合は、これに先立って脱脂のための加熱工程を入れても差し支えない。脱脂のための加熱工程はプリフォームに亀裂が発生せず、バインダーが除去できる条件であれば良く、例えば10℃/hrで昇温し、加熱温度も500℃以上であれば十分である。また予め用意しておいた750〜900℃の溶融アルミニウム合金を溶湯加圧装置内に入れ高圧鋳造法を実行する。すなわち、10MPa〜100MPaの圧力でプレス機によって加圧、溶融アルミニウム系材料をプリフォームに浸透、複合化させる。その後、余分なアルミニウム系材料の部分を加工により除去し、所望の多孔質アルミニウム複合材を得る。
【0009】
このように多孔質アルミニウム材を複合化により作製することにより、発泡剤の添加による作製方法と異なり、気泡同士の凝集による粗大気泡の生成を防止することが可能となる。また、強度の面でも粗大気泡による強度低下が無く安定した物性のものが得られやすい。
【0010】
中空セラミックス粉末は、吸水率が、1%以下であり、圧縮強度が50N/mm2以上、融点1000℃以上のものが望ましい。吸水率が1%を超えると加圧で溶融アルミニウムを浸透する際、中空セラミックス粉末内にまで浸透する場合があるため好ましくない。また、圧縮強度が50N/mm2以下では加圧で溶融アルミニウムを浸透する際、中空セラミックス粉末が圧壊する場合があるため好ましくない。また、融点1000℃以下では加圧で溶融アルミニウムを浸透する際、中空セラミックス粉末が溶融する場合があるため好ましくない。中空セラミックス粉末(太平洋セメント製、E-SPHERES)を好適に用いることができる。これは、SiOとAlを主成分とする中空セラミックス粉末であり、吸水率は1%以下、圧縮強度は70N/mm2以上、融点は1600℃である。
【0011】
その中空セラミックス粉末の複合材料中の含有率は、40〜80体積%が好適である。SiC粉末含有率が40体積%より低いと発泡アルミニウム材の気孔率が低く軽量化効果が得られにくく、80体積%より高いと製造が困難となる。中空セラミックス粉末を埋める連続層であるマトリックス部分の比率が小さくなり、連続層が得られなくなる恐れがある。
【0012】
以上の方法で多孔質アルミニウム複合材を作製すれば、軽量であって、かつ粗大な気泡の発生の無い、圧縮エネルギー吸収量の揃った多孔質アルミニウム複合材を作製することができるようになる。プリフォームに減圧法により、アルミニウム又はアルミニウム合金を浸透分散させる方法では、粒子間隙にアルミニウムが行き渡らない部分が出来やすく、マトリックス部分が連続とならず、圧縮強度が十分でないか、そのばらつきが大きく高空隙率(例えば、70%以上のもの)が得られない。また、高空隙率のものは、圧縮エネルギー吸収量の小さく、そのばらつきも大きなものであった。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施例を比較例と共に具体的に挙げ、本発明をより詳細に説明する。
(1)市販の中空セラミックス粉末(太平洋セメント製、E-SPHERES)100重量部に、有機バインダーとしてPVB5重量部とコロイダルシリカ5重量部を添加し、これをプレスして200×200×20mmで50体積%の充填率を有するプリフォームを形成した。得られたプリフォームを大気中、700〜800℃の温度で加熱した後、溶湯加圧装置内に入れる。また予め用意しておいた750〜900℃の溶融アルミニウム合金を溶湯加圧装置内に入れ高圧鋳造法を実行した。すなわち、加圧条件は、10MPa〜100MPaの圧力でプレス機によって加圧、溶融アルミニウム合金組成(JIS AC8A)をプリフォームに浸透させ、複合化させる。これを冷却して、複合材料を作製した。その後、余分なアルミニウム系材料の部分を加工により除去し、所望の多孔質アルミニウム複合材を得た。
【0014】
(2) 得られた複合材料の破面を観察したところ、中空セラミックス粉末の最大粒子径(約400μm)以上の気泡は見られず、気孔径の揃った多孔質アルミニウム複合材が得られた。空隙率を測定したところ、閉気孔で50%であり、圧縮エネルギー吸収量は1.2MJ/m3、そのばらつきは、±17%であった。閉気孔の空隙率測定は、JIS
R1634によった。圧縮エネルギー吸収量の測定は、試験片(50×50×50mm)に圧縮力を印加し、試験片にかかる荷重と変位の関係を測定し、応力-ひずみ曲線を得た。当曲線の下部の面積が、試験片の圧縮に要したエネルギー、つまり圧縮エネルギー吸収量となる。また、衝撃圧潰き裂進展試験によって圧縮エネルギー吸収量を測定してもよい。ゴムチューブ等の復元力を利用した衝撃子に20km/h程度の速度を与え、これを剛体壁に固定された試験片に衝突させ、その時の吸収エネルギー量を、速度センサーによる衝突前後の速度差から算出することもできる。ともに、測定回数は、10回で、最大値と最小値の差である範囲を平均値で割って得られたばらつきが20%程度であった。
【0015】
比較のために比較例では、アルミニウム合金の溶湯中に炭酸マグネシウムと炭酸カルシウムの混合物を添加し、発泡させて発泡アルミニウム材を作製した。得られた材料の破面を観察したところ、気泡径が3mm以上の粗大な気泡が存在した。実施例と同様な評価をおこなった。空隙率を測定したところ、閉気孔で70%であり、圧縮エネルギー吸収量は0.8MJ/m3、そのばらつきは、32%であった。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、衝撃吸収材として用いることができる多孔質アルミニウム複合材を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気孔径が500μm以下、かつ閉気孔の空隙率が40〜80%であって、圧縮エネルギー吸収量が1MJ/m3以上であることを特徴とする多孔質アルミニウム複合材。
【請求項2】
強化材が粒径3〜500μmの中空セラミックスであり、マトリックスがアルミニウム合金であり、該強化材にアルミニウム合金を加圧浸透させて作製することを特徴とする請求項1記載の多孔質アルミニウム複合材の製造方法。