説明

多孔質セラミックとその製造方法

【課題】
本発明は、Alでは得られなかった強度及び耐熱性をもった多孔質セラミックを提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、金属酸化物からなる隔壁により、区画された多孔質表面を有する多孔質セラミックであって、昇華性金属元素と酸化性金属元素の合金からなり、前記昇華性金属の昇華除去により孔が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物からなる隔壁により、区画された多孔質表面を有する多孔質セラミックとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来この種、多孔質セラミックとしては、非特許文献1、2に示されているようにAlの陽極酸化による多孔質アルミナが周知であり、ナノ物質の保持、成形等に広く用いられようとしている。
【0003】
【非特許文献1】F. Keller, M.S. Hunter,and D.L. Robinson, “Structural Features of Oxide Coatings on Aluminium”, J. Electrochem. Soc., 100(9), pp. 411−419, 1953.
【非特許文献2】N. Ohji, N. Enomoto, T. Mizushima, N. Kakuta, Y. Morioka and A. Ueno, “Nickel incorporated into anodic porous alumina formed on an aluminium wire”, J. Chem. Soc., Faraday Trans., 90, pp. 1279−1284, 1994.
【非特許文献3】C. A. Krier and R. I. Jaffee, “OXIDATION OF THE PLATINUM−GROUP METALS,” Journal of the Less Common Metals, vol. 5, pp. 411−431, 1963.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このようなAlでは得られなかった強度及び耐熱性をもった多孔質セラミックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明1は、金属酸化物からなる隔壁により、区画された多孔質表面を有する多孔質セラミックであって、昇華性金属元素と酸化性金属元素の合金からなり、前記昇華性金属の昇華除去により孔が形成されていることを特徴とする。
【0006】
発明2は、発明1の多孔質セラミックにおいて、前記酸化性金属元素は前記昇華性金属元素からなる金属に固溶しないものであることを特徴とする。
【0007】
発明3は、発明1又は2の多孔質セラミックの製造方法であって、昇華性金属元素と酸化性金属元素の合金に前記昇華性金属元素の昇華温度以上に加熱した酸素含有気体を接触させて、前記合金の表面を酸化及び昇華することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、基となる合金の結晶粒径やその形状により孔の大きさや形状が決定されるので、使用する昇華性金属とその合金創製時の温度条件や凝固条件により、孔の形状や大きさを任意に調整でき、各種多様な用途に適用可能である。
また、その孔の隔壁厚さは、酸化性金属元素の含有量により調整できるので、孔密度を調整可能である。
さらに、高温酸素含有気体による昇華、酸化時間を調整することで孔の深さも調整可能である。
つまり、本発明により、ミクロ若しくはナノサイズでの様々なニーズに対応可能な多孔質セラミックを提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、金属相と金属間化合物相の多相合金を酸化雰囲気中に保持し、金属相の酸化・昇華を利用することで、多孔質セラミックを創製するものである。
【0010】
図7に模式的に表したとおり、多孔質セラミックの細孔径と形態は、酸化処理前のIr相のサイズと形態に依存する。すなわち、合金組織を制御することで、多孔質セラミックの細孔径と形態を制御できる。本請求ではアーク溶解法により合金を作製したが、より速い冷却速度が実現できる手法を用いれば、Ir相のサイズを小さくすることが可能であり、結果として更に小さな細孔径を有する多孔質セラミックの創製が可能である。
また、図3に示したとおり、酸化処理前に合金を熱処理することにより、組織を粗大化させることが可能であり、この手法により細孔径を大きくできる。同時に合金組成を制御し、Ir相のデンドライト成長を積極的に利用すれば、細孔径、壁厚の異なるハニカム状セラミックが創製できる。
2種類の金属元素を本来の性質を損なわないようにして合金化し得ることは合金の組織創製技術として一般に知見されていることから、本発明に基づき金属元素を選択し、組み合わせることで、Ir−Yの組合せ以外の組合せによっても本発明と同様な機能を達成し得ることは、従来技術から容易に類推できるものである。つまり、本発明の技術思想に基づき、Ir以外の、例えばRu、Os、Mo等の昇華性金属元素を用いること、Y以外の例えば、Ce、Th、Zr等の酸化によりセラミック化する酸化性金属元素を用いることも、本発明の範疇にあるものである。
また、酸化性金属元素と昇華性金属元素とが互いに固溶しないものを用いる場合は、その本来の性質を互いに阻害することなく、昇華性金属元素からなる結晶に基づく孔形状を一層明瞭なものとし、孔形状と大きさの制御をさらに容易にする。
【0011】
図8に示したとおり、Ir−Y二元系合金は、11×10℃で大気中に暴露した際、直線則に従って重量が減少する。このことは、合金の酸化反応が、Ir相の酸化・揮発に律速していることを示唆している。このことから、Ir相の酸化・揮発に起因する細孔深さは、酸化時間で制御することができる。
【0012】
非特許文献3によれば、高温大気中におけるIrの単位面積あたりの重量減少速度は、10×10℃で1.81×10−6kg/m/s、12×10℃で4.56×10−6kg/m/sである。すなわち、大気温度を12×10℃まで上昇させれば、同様の細孔深さを得るために必要な酸化時間を40%程度短縮することが可能である。
つまり昇華性金属元素は、いずれも同様な昇華現象が生じるものと思われるので、Irに限定されるものではない。
【0013】
Ir−M系において(Mは酸化性金属元素)、図7に模式的に示した機構によりポーラスセラミックが形成される条件は、
1, Ir相にM元素がほとんど固溶しない。
2, M元素は融点の高い酸化物を形成する
ことである。このことから、Ce、Th、Zr等の酸化によりセラミック化する元素であればYと同様の効果が期待できる。
【実施例】
【0014】
Ir粉末原料(純度99.99%)とリボン状のY原料(純度99.9%)を、表1に示す重量に秤量した。秤量後の原料を、非消耗電極型アーク溶解炉を用いて、アルゴン雰囲気中で溶融した。このようにして、Ir−2mol%Y、Ir−5mol%Y、Ir−12mol%Y、Ir−20mol%Y、Ir−30mol%Yの五種類の合金を創製した。
【0015】
【表1】

【0016】
図1はIr−2mol%Y合金を、図2はIr−12mol%Y合金の組織を示している走査型電子顕微鏡像である。図中、明相がIr相、暗相がIrY相である。前記二つの合金は、Ir相とIrY相の二相合金となっている。
Ir−2mol%Y合金(図1)においては、初晶としてIr相が10〜20μm程度のデンドライトアーム径で凝固成長し、続いてIr相とIrY相の共晶組織が形成されている。共晶組織中におけるIr相は直径1μm以下の棒状形態を有している。
Ir−12mol%Y(図2)においては、図1でみられたデンドライト状のIr相は形成されず、試料全面にIr相とIrY相の共晶組織が形成されている。
【0017】
図3は、アルゴン雰囲気中でのアーク溶解により作製した後、真空中17×10℃で約100時間(25/6日)熱処理したIr−12mol%Y合金の組織を示している。図2で示した、溶解ままのIr−12mol%Y合金では共晶Ir相は1μm程度の大きさであったのに対し、熱処理後は3〜5μm程度まで粗大化している。
つまり、熱処理時の温度及び時間により結晶の大きさを調整することができる。
【0018】
表2は、電子線マイクロアナライザーを用いて、合金の構成相とその濃度を分析した結果である。表2より、Ir相にYは全く固溶しないのに対し、IrY相においては24mol%程度のYが固溶している。即ち、Ir−Y合金において、Ir相の酸化・揮発性はYの影響を受けない。
【0019】
【表2】

【0020】
図4と図5は、図1と図2で示したIr−2mol%YおよびIr−12mol%Y合金を切断・鏡面研磨した後、11×10℃の大気中で約214時間(107/12日)保持した際に合金表面に形成される多孔質酸化物を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示している。Ir−2mol%Y合金(図4)においては、デンドライト状に凝固成長したIr相が酸化により揮発し、細孔を形成している。(非特許文献3)によれば、Irは酸化雰囲気中で揮発性の高いIrOを形成し、10×10℃以上でIrOの昇華が顕著になる。一方、IrY相は固体の酸化物を形成し、合金表面に残留する。その結果、細孔径10〜20μm程度のハニカム形状の酸化物が形成している。Ir−12mol%Y(図5)においては、図2でみられた共晶組織中の微細なIr相が酸化により揮発し、細孔径1μm以下の多孔酸化物が試料全面に形成している。
【0021】
図6は、11×10℃の大気中に305時間保持したIr−12mol%Y合金の表面に形成する酸化物を、Cu−Kαを用いたX線回折試験により同定した図である。回折ピークは、YIr(立方晶、格子定数a=1.018nm)に一致することから、表面に形成した酸化物はIr、Y、OからなるYIr型の酸化物であると判断される。
【0022】
図7はIr−Y二元系合金における、多孔質セラミックの形成過程を模式的に表した図である。IrYは、酸化雰囲気中でIr、Y、OからなるYIr型の固体酸化物を形成する。一方、Ir相はIrOを形成し昇華する。その結果、合金表面に多孔質セラミックが形成する。
【0023】
図8は、Ir−2mol%Y合金、Ir−5mol%Y合金、Ir−12mol%Y合金、Ir−20mol%Y合金を、11×10℃の大気中に暴露した際に生ずる単位面積あたりの重量変化量を暴露時間に対してプロットした図である。
すべての合金は、図7で示した過程を辿って表面に多孔質セラミックを形成し、時間に対して直線的に重量が減少する。単位面積あたりの重量減少速度は2.4×10−6kg/m/sから2.9×10−6kg/m/sまでの値である。
なお、図8にはYが含まれないIr単独金属の昇華状態を比較例として示しておいた。
昇華速度に多少の差異は認められるが、Y含有のものが、Ir単独のものと同様な傾向を維持していることより、Y含有によってもIrの昇華性に影響を受けていないものと判断した。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、触媒担体、吸着剤ならびにその支持体、排ガス浄化用フィルター及び断熱吸音材等の使用可能と考えられる。
また、ナノ構造物を加工する際の型材としての使用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】Ir−2mol%Y合金の走査型電子顕微鏡像。
【図2】Ir−12mol%Y合金の走査型電子顕微鏡像。
【図3】真空中17×10℃で約100時間(25/6日)熱処理したIr−12mol%Y合金の組織。
【図4】Ir−2mol%Y合金を11×10℃の大気中に約214時間(107/12日)保持した際に合金表面に形成する多孔質酸化物の走査型電子顕微鏡像。
【図5】Ir−12mol%Y合金を11×10℃の大気中に約214時間(107/12日)保持した際に合金表面に形成する多孔質酸化物の走査型電子顕微鏡像。
【図6】Ir−12mol%Y合金の表面に形成した酸化物のX線回折プロファイル。
【図7】Ir−Y合金表面における多孔質セラミックの形成過程の模式図。
【図8】Ir−Y合金を、11×10℃の大気中に暴露した際に生ずる、単位面積あたりの重量変化量と暴露時間の関係。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物からなる隔壁により、区画された多孔質表面を有する多孔質セラミックであって、昇華性金属元素と酸化性金属元素の合金からなり、前記昇華性金属の昇華除去により孔が形成されていることを特徴とする多孔質セラミック。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質セラミックにおいて、前記酸化性金属元素と前記昇華性金属元素とは互いに固溶しないものであることを特徴とする多孔質セラミック。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の多孔質セラミックの製造方法であって、昇華性金属元素と酸化性金属元素の合金に前記昇華性金属元素の昇華温度以上に加熱した酸素含有気体を接触させて、前記合金の表面を酸化及び昇華することを特徴とする多孔質セラミック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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