説明

多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料及びこれを使用する多孔質セラミックスの製造方法

【課題】 射出成形時の流動性が良好であり、脱脂時及び焼成時にクラックが発生しにくい、多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料を提供する。
【解決手段】 平均粒径50μmのシリカ粉末と、ポリエチレングリコールと、パラフィンワックスを、80:10:10の重量比で配合し、官能基がメタクリル基であるカップリング剤(3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)を前記シリカ粉末に対して、0.1〜3重量%外添加して、120℃で1時間〜3時間混練して得られた、多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質セラミックス(特に、気孔率20%以上の多孔質セラミックス)製造用の射出成形用材料及びこれを使用する多孔質セラミックスの製造方法に関する。射出成形は、加熱して流動状態となった射出成形用材料を金型内に圧入し、放熱固化ないし冷却固化させ成形する方法である。本発明の射出成形用材料を射出成形し、得られた射出成形体を焼成することにより、気孔率20%以上の多孔質セラミックス(以下、単に、「多孔質セラミックス」という。)を製造することができる。
【0002】
射出成形して得られた射出成形体は、一般的に、(a)切削加工処理なしに、最終製品の形状に成形することが可能であり、(b)寸法精度が高く、(c)生産性が高い、という利点がある。また、射出成形により、複雑形状の射出成形体を得ることができるので、最終的に複雑形状の多孔質セラミックス製品を得ることができる。本発明の射出成形用材料から射出成形体を経て最終的に得られる多孔質セラミックスは、例えば、セラミックス構造体、セラミックス碍子、セラミックスコア等として使用することができる。
【背景技術】
【0003】
形状が複雑なセラミックスは、射出成形用坏土を射出成形して得られた射出成形体を焼成して製造されている。射出成形用坏土としては、焼結可能なセラミックス粉末と、有機質バインダが基本的構成物であり、必要に応じて、離型性とセラミックス粒子間すべりを良好にする射出成形用ワックス、可塑性を付与するための可塑剤等の各種の添加剤が添加されて使用される。製造しようとするセラミックスの形状、焼成収縮後の寸法精度を考慮して、有機質バインダや各種の添加剤が適宜選定されている。このような射出成形用坏土としては、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6及び特許文献7等に記載のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2777673号公報
【特許文献2】特許第3055938号公報
【特許文献3】特許第3224929号公報
【特許文献4】特許第3419517号公報
【特許文献5】特許第3743144号公報
【特許文献6】特許第3911596号公報
【特許文献7】特許第4131363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、形状が複雑で多孔質のセラミックス製品が必要な場合がある。このようなセラミックス製品を製造する場合、射出成形用坏土におけるセラミックス粉末を、比較的大粒径(例えば、平均粒径15μm以上)のものに変更することが考えられる。しかし、このように変更すると、射出成形時の加熱された射出成形用坏土において必要とされる流動性を得ることが困難であると共に、成形後の射出成形体に必要とされる強度を得ることが困難である。
【0006】
緻密質のセラミックスを製造するための比較的小粒径(例えば、平均粒径10μm以下)のセラミックス粉末を添加した射出成形用坏土を用いて射出成形された射出成形体の場合、射出成形時に射出成形用坏土に必要とされる一定レベルの流動性を得るためには、有機質バインダや射出成形用ワックスを過剰に添加する手段があった。そこで、多孔質のセラミックスを製造するための比較的大粒径(例えば、平均粒径15μm以上)のセラミックス粉末を添加した射出成形用坏土において、有機質バインダや射出成形用ワックスを過剰に添加したところ、より高い流動性を得ることができた。
【0007】
しかし、多孔質のセラミックスを製造するための比較的大粒径(例えば、平均粒径15μm以上)のセラミックス粉末を添加すると共に有機質バインダや射出成形用ワックスを過剰に添加した射出成形用坏土を用いて射出成形された射出成形体は、脱脂時あるいは焼成時にクラックが発生しやすくなるため、クラックの発生率が増加して歩留まりが低下するという新たな問題点が生じた。
【0008】
このような問題点は、比較的大粒径(例えば、平均粒径15μm以上)のセラミックス粉末を添加した射出成形用坏土に特有の問題点であり、緻密質のセラミックスを製造するための比較的小粒径(例えば、平均粒径10μm以下)のセラミックス粉末を添加した射出成形用坏土においては生じなかった。即ち、緻密質のセラミックスを製造するための比較的小粒径(例えば、平均粒径10μm以下)のセラミックス粉末を添加した射出成形用坏土においては、過剰な有機質バインダや射出成形用ワックスが添加された場合でも、これが原因で射出成形用坏土から成形された射出成形体の脱脂あるいは焼成時にクラックが発生しやすくなるということは極めて少ないので、クラックの発生率が増加して歩留まりが低下するということはほとんどなかったのである。
【0009】
本発明は、射出成形時の流動性が良好であり、脱脂時及び焼成時にクラックが発生しにくい、多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料を提供することを目的とする。また、本発明は、脱脂時及び焼成時にクラックが発生しにくく歩留まりが高い、多孔質セラミックスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者の知得によれば、平均粒径15μm以上の比較的大粒径のセラミックス粉末を添加した射出成形用坏土を用いて多孔質セラミックスを製造する場合において、焼成後に得られる多孔質セラミックスにおけるクラックの要因は、射出成形工程における射出成形用坏土の流動性不良に基づく、射出成形用坏土の充填ムラ、セラミックス粒子の部分的な凝集にあると考えられた。そこで、本発明者は、射出成形用坏土の流動性を良好にするべく鋭意研究を重ねたところ、特定の有機官能基を持つカップリング剤を加えた射出成形用坏土は、射出成形工程における流動性が良好であり、その結果、最終的に焼成後に得られる多孔質セラミックスにおけるクラック発生率が著しく低下して歩留まりが上昇することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明によれば、第1の視点において、加熱により射出成形可能で添加水を含有しない常温で固体の非水系射出成形用材料であって、平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と、重合体バインダと、前記重合体バインダ以外の射出成形用ワックスと、メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の中から選択される1種又は2種以上の有機官能基を持つカップリング剤の混合物を含有する多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料により、上記目的の一つを達成することができる。
【0012】
本発明におけるカップリング剤は、メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の中から選択される1種又は2種以上の有機官能基を持つ。これらの有機官能基は、「炭素原子間の二重結合」又は「2つの炭素原子に直接結合する1つの酸素原子」を有しており、重合体バインダとの接合性が良好であるから、射出成形工程において加熱され射出流動の応力が加わった場合に、セラミックス粒子と分離しやすくなり、その結果として、見かけ上の流動性が向上するものと考えられる。本発明の射出成形用材料では、次のようにすることができる。
【0013】
前記重合体バインダは、ポリエチレングリコール系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、エチレンビニルアセテート系、ポリスチレン系の中から選択される1種又は2種以上にすることができる。前記カップリング剤の添加量は、前記セラミックス粉末の総重量に対して、0.1〜3重量%にすることができる。前記セラミックス粉末と前記重合体バインダと前記射出成形用ワックスとの重量比は、60〜80:10〜20:10〜20にすることができる。
【0014】
前記セラミックス粉末は、シリカ、アルミナ、ジルコニアの中から選択される1種又は2種以上にすることができる。前記混合物は、前記セラミックス粉末と、前記重合体バインダと、前記射出成形用ワックスと、前記カップリング剤を、加熱混練して得ることができる。前記混合物は、滑り剤及び可塑剤の中から選択される1種又は2種以上の有機化合物をさらに含有することができる。
【0015】
本発明によれば、第2の視点において、上記本発明の射出成形用材料を射出成形して得られた射出成形体を焼成して多孔質セラミックスを得る焼成工程を有する、多孔質セラミックスの製造方法により、上記目的の一つを達成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の視点における、多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料は、上記構成を有するものであり、平均粒径15μm以上のセラミックス粉末(粒子)を含有するにもかかわらず、射出成形体を得るための射出成形工程において必要とされる流動性を得ることができると共に、成形後の射出成形体に必要とされる強度を得ることができる。本発明の射出成形用材料を用いて射出成形された射出成形体は、脱脂時及び焼成時にクラックが発生しないか極めて発生しにくい。したがって、本発明の射出成形用材料によれば、クラックのない多孔質セラミックスを高歩留まりで製造することができる。
【0017】
本発明の第2の視点における、多孔質セラミックスの製造方法は、上記構成を有するものであり、クラックのない多孔質セラミックスを高歩留まりで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施例で得られた射出成形体を厚さ方向に見た場合の形状及び寸法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料]
本発明の多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料は、加熱により射出成形可能な常温で固体の射出成形用材料であることを前提としている。ここで、射出成形用材料が固体であるか否かを判断する温度は、具体的には、50℃とする。この温度において液状体ないし半固体であるため射出成形体として一定の形状を保つことができない場合には、本発明の射出成形用材料に該当しない。
【0020】
本発明の射出成形用材料としては、60℃以上に加熱することにより射出成形可能な程度の流動性を示すものが好ましく、60〜90℃の温度範囲内に加熱することにより射出成形可能な程度の流動性を示すものはより好ましい。
【0021】
また、本発明の射出成形用材料は、加熱により射出成形可能な常温で固体の射出成形用材料であり、通常は、添加水を含有していない。即ち、本発明の射出成形用材料は、平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と、重合体バインダと、前記重合体バインダ以外の射出成形用ワックスと、メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の中から選択される1種又は2種以上の有機官能基を持つカップリング剤を混合し加熱し溶融し混練することにより、製造することが可能であり、水分を添加しないで製造することができる。但し、前記製造原料のいずれかが水分を含有する場合や、製造後の射出成形用材料(製造後の射出成形用材料におけるいずれかの成分)が水分を吸着ないし吸収する場合が考えられる。このような場合における本発明の多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料は、本発明の効果を損なわない範囲の量であれば水分の含有を許容することができる。
【0022】
本発明の射出成形用材料は、平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と、重合体バインダと、前記重合体バインダ以外の射出成形用ワックスと、メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の中から選択される1種又は2種以上の有機官能基を持つカップリング剤の混合物を含有する。
【0023】
〈混合物〉
本発明の射出成形用材料における「混合物」としては、前記セラミックス粉末と、前記重合体バインダと、前記射出成形用ワックスと、前記カップリング剤の中のいずれの構成成分も他の構成成分と反応していない状態で含まれているものが該当するだけでなく、前記いずれかの構成成分の中の少なくとも1種と別の構成成分の中の少なくとも1種とが反応した状態で含まれているものも「混合物」に該当するものとする。さらには、前記いずれかの構成成分の中の少なくとも1種と別の構成成分の中の少なくとも1種とが反応した状態で含まれ、且つ、未反応の構成成分として存在するはずの前記構成成分の中の少なくとも1種が存在しないものも「混合物」に該当するものとする。例えば、前記重合体バインダと前記カップリング剤とが反応した状態で含まれており前記いずれか又は双方の構成成分が未反応の状態では含まれていないものも、「混合物」に該当するものとする。
【0024】
〈セラミックス粉末〉
セラミックス粉末としては、焼成により多孔質セラミックスを製造できる各種のセラミックス粉末(好ましくは、良好な焼結性を有し焼結可能なセラミックス粉末)を用いることができ、より好ましくは、シリカ、アルミナ、ジルコニア、ムライト及びマグネシアの中から選択される1種又は2種以上にする。セラミックス粉末の平均粒径は、JIS規格(Z8825−1)の測定方法に基づいて、モルバーン(Malvern)社の粒度分布測定装置「Master Sizer 2000」を用いて測定される値である。
【0025】
本発明の射出成形用材料は、主として、気孔率20%以上の多孔質セラミックスの製造用の射出成形用材料なので、セラミックス粉末の平均粒径は15μm以上であり、好ましくは20μm以上(より好ましくは30〜50μm)にする。また、本発明の射出成形用材料によれば気孔率の最大値が50%程度までの多孔質セラミックスを製造することができ、この場合のセラミックス粉末の平均粒径は50μm程度である。本発明の射出成形用材料におけるセラミックス粉末の平均粒径は、上記範囲内において、製造しようとする多孔質セラミックスの気孔率に応じて適宜設定することができる。
【0026】
〈重合体バインダ〉
重合体バインダとしては、セラミックス製造用の射出成形用材料に用いられている重合体及び共重合体のうちの1種又は2種以上の混合物を用いることができるが、好ましくは、ポリエチレングリコール系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、エチレンビニルアセテート系及びポリスチレン系の中から選択される1種又は2種以上の混合物にする。重合体バインダの融点は、好ましくは50〜120℃(より好ましくは60〜90℃)である。
【0027】
ポリエチレングリコール系重合体としては、エチレンオキシドが単独で重合した構造を有する単独重合体(ポリエチレングリコール)と、エチレンオキシドとこれと共重合可能なモノマー(単量体)が重合した構造を有する共重合体がある。ポリエチレングリコール系重合体に属する好ましい重合体としては、ポリエチレングリコールがある。ポリエチレングリコールは、好ましくは分子量4000〜10000(より好ましくは4000〜9000、さらに好ましくは4000〜6000)の常温で固体(融点50〜70℃)のものを用いる。
【0028】
ポリエチレン系重合体としては、エチレンが単独で重合した構造を有する単独重合体(ポリエチレン)と、エチレンとこれと共重合可能なモノマーが重合した構造を有する共重合体がある。エチレンと共重合可能なモノマーとして好ましいものには、酢酸ビニル、α−オレフィンがある。ポリエチレン系重合体に属する重合体としては、密度0.910g/cm未満の超低密度ポリエチレン(VLDPE)、密度0.910g/cm以上0.930g/cm未満の低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)、密度0.930g/cm以上0.942g/cm未満の中密度ポリエチレン、密度0.942g/cm以上の高密度ポリエチレン(HDPE)等の各種ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(エチレンビニルアセテート)等がある。
【0029】
上記の各種ポリエチレンとしては、分子量10000以上(さらには分子量30000以上)の常温で固体のものがある。また、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体であるエチレンビニルアセテートとしては、分子量10000以上(さらには分子量30000以上)の常温で固体のものがある。
【0030】
ポリプロピレン系重合体としては、プロピレンが単独で重合した構造を有する単独重合体(ポリプロピレン)と、プロピレンとこれと共重合可能なモノマーが重合した構造を有する共重合体がある。ポリプロピレン系重合体に属する重合体としては、ポリプロピレンがある。ポリプロピレンとしては、分子量10000以上(さらには分子量30000以上)の常温で固体のものがある。
【0031】
エチレンビニルアセテート系重合体としては、エチレンビニルアセテートと、エチレンビニルアセテートの一部を他の原子や原子団に置換した構造を有する化合物がある。エチレンビニルアセテート系重合体に属する重合体としては、エチレンビニルアセテートがある。
【0032】
ポリスチレン系重合体としては、スチレン系モノマー(例えば、スチレン)が単独で重合した構造を有する単独重合体(例えば、ポリスチレン)と、スチレン系モノマーとこれと共重合可能なモノマーが重合した構造を有する共重合体がある。ポリスチレン系重合体に属する重合体としては、ポリスチレンがある。ポリスチレンとしては、分子量10000以上(さらには分子量30000以上)の常温で固体のものがある。
【0033】
〈射出成形用ワックス〉
本発明における射出成形用ワックスとしては、離型性とセラミックス粉末の粒子間滑りを良好にすることができるワックスを用いることができる。ワックスとしては、常温で固体であり加熱により低粘度の液状体となる有機物ないしその混合物がある。このようなワックスの種類には、天然ワックス、合成ワックス及び加工・変性ワックスがある。
【0034】
天然ワックスには、動物由来のワックス、植物由来のワックス、石油由来のワックス及び鉱物由来のワックスがある。動物由来のワックスとしては、蜜蝋、鯨蝋、セラック蝋、ウールワックス等がある。植物由来のワックスとしては、カルナバ蝋、木蝋、米糠蝋(ライスワックス)、キャンデリラワックス等がある。石油由来のワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロワックス(マイクロクリスタリンワックス)等がある。鉱物由来のワックスとしては、モンタンワックス、オゾケライト等がある。
【0035】
合成ワックスには、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス(分子量1000〜7000程度、融点100〜118℃程度)、油脂系合成ワックス(エステル、ケトン類、アミド)、水素化ワックス等がある。加工・変性ワックスには、酸化ワックス、配合ワックス、変性モンタンワックス等がある。
【0036】
ワックスとしては、前記ポリエチレンワックスのように重合体のものがあるが、バインダ重合体としてポリエチレン以外のもの(例えば、ポリエチレングリコール)を用いた場合には、前記ポリエチレンワックスは、「射出成形用ワックス」として用いることができる。また、バインダ重合体としてポリエチレンを用いた場合でも、相違するものである場合(例えば、分子量が相違する場合)には、前記ポリエチレンワックスは、「射出成形用ワックス」として用いることができるものとする。
【0037】
本発明における射出成形用ワックスとしては、好ましくは、パラフィンワックス、マイクロワックス(マイクロクリスタリンワックス)を用いる。パラフィンワックスは、融点が大多数のものが40〜70℃程度であり、好ましくは融点60〜70℃のものを用いる。マイクロワックス(マイクロクリスタリンワックス)は、融点が60〜90℃程度であり、好ましくは融点70℃程度(65〜75℃)のものを用いる。
【0038】
〈カップリング剤〉
本発明におけるカップリング剤は、メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の中から選択される1種又は2種以上の有機官能基を持つものであり、好ましくは、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤等の各種のカップリング剤を用いることができる。また、用いるセラミックス粉末の種類に応じて、適宜選択することができる。例えば、シリカ粉末から成るシリカ純度の高い多孔質セラミックスを製造する場合には、好ましくは、シラン系カップリング剤を用いる。
【0039】
官能基としてメタクリル基を持つシラン系カップリング剤としては、例えば、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6030)、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6033)、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6036)がある。
【0040】
官能基としてエポキシ基を持つシラン系カップリング剤としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6040)、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6044)、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6041)、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6042)及び2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6043)、ジエトキシ(3−グリシジルオキシプロピル)メチルシラン(東京化成工業株式会社のD2632)がある。
【0041】
官能基としてビニル基を持つシラン系カップリング剤としては、例えば、ビニルトリアセトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6075)、ビニルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6300)、ビニルトリエトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6519)、ビニルトリイソプロポキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6550)がある。
【0042】
〈他の構成成分〉
本発明の射出成形用材料は、上記構成成分の他に、射出成形用材料に添加される各種の有機質添加剤(有機化合物)を、本発明の効果が損なわれない範囲の添加量で含有することができる。このような添加剤としては、例えば、滑り剤(例えば、ステアリン酸、シリコーンオイル)、可塑剤(フタル酸エステル、フタル酸ジオクチル)等がある。
【0043】
〈構成成分の含有比〉
本発明の射出成形用材料における、前記カップリング剤の添加量は、好ましくは、前記セラミックス粉末の総重量に対して、0.1〜3重量%(より好ましくは0.1〜1.5重量%、さらに好ましくは0.1〜1.0重量%)である。即ち、前記セラミックス粉末100重量部に対して、前記カップリング剤を好ましくは0.1〜3重量部(より好ましくは0.1〜1.5重量部、さらに好ましくは0.1〜1.0重量部)の割合(重量比)で添加する。
【0044】
また、本発明の射出成形用材料における、平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と、重合体バインダと、前記重合体バインダ以外の射出成形用ワックスとの好ましい添加重量比は、前記セラミックス粉末60〜85重量部(より好ましくは70〜85重量部)、重合体バインダ10〜20重量部(より好ましくは10〜15重量部)、前記重合体バインダ以外の射出成形用ワックス10〜20重量部(より好ましくは10〜15重量部)であるようにする。前記セラミックス粉末60〜85重量部(より好ましくは70〜85重量部)、重合体バインダ10〜20重量部(より好ましくは10〜15重量部)、前記重合体バインダ以外の射出成形用ワックス10〜20重量部(より好ましくは10〜15重量部)であり、且つ、これらの構成成分の合計の総重量が100重量部であるようにすることは、さらに好ましい。
【0045】
〈使用条件〉
本発明の射出成形用材料は、射出成形可能な程度の流動性を示す温度に加熱して射出成形用材料として使用することができる。本発明の射出成形用材料の射出成形時の温度は、構成成分に応じて射出成形可能な温度に適宜設定することができる。本発明の射出成形用材料は、60〜100℃(より好ましくは65〜95℃、さらに好ましくは65〜85℃)の範囲で射出成形可能になることが好ましく、このようになるように構成成分を適宜選択することができる。
【0046】
〈射出成形用材料の製造方法〉
本発明の射出成形用材料は、原料(平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と、重合体バインダと、前記重合体バインダ以外の射出成形用ワックスと、メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の中から選択される1種又は2種以上の有機官能基を持つカップリング剤)を混合して(好ましくは、加熱し混練して)、製造することができる。原料を加熱し混練して製造する場合の温度は、用いる原料に応じて混練可能な温度に適宜設定することができる。混練する時間は、用いる原料が充分に均一に混合する程度の時間にすることができる。
【0047】
〈射出成形用材料の常温における形態〉
本発明の射出成形用材料の常温における形態は、射出成形用材料として使用しやすい形態にする。例えば、寸法10mm以下の粒状体(ペレット)の集合体にすることができる。粒状体の形状は、円柱状、球状、立方体、直方体、断面が五角形以上の多角柱状体、略ラグビーボール状等の任意の形状にすることができる。典型的なものの一例としては、直径5mm、長さ5〜10mmの円柱形状がある。
【0048】
[多孔質セラミックスの製造方法]
本発明の多孔質セラミックスの製造方法は、本発明の射出成形用材料を射出成形して得られた射出成形体を焼成して多孔質セラミックスを得る焼成工程を有するものである。前記焼成工程の前には、本発明の射出成形用材料を射出成形して射出成形体を得る射出成形工程を有することができる。前記射出成形工程で得られた射出成形体は、焼成温度に昇温する前までに、通常は、射出成形体に含まれている有機質の構成成分を除去する脱脂を行う。このような脱脂は、本発明の多孔質セラミックスの製造方法における焼成工程の一部として含まれるものとする。
【0049】
脱脂における脱脂条件は、例えば、150℃で50時間保持するという条件にすることができる。
【0050】
焼成工程における焼成温度及び雰囲気は、射出成形体に含まれているセラミックス粉末(粒子)の種類及び粒径に応じて適宜設定することができる。焼成温度に到達するまでの昇温速度は、50℃/時間(1時間あたり50℃)にすることができ、焼成温度から常温に放熱するまでの降温速度は200℃/時間(1時間あたり200℃)にすることができる。
【実施例】
【0051】
[実施例1〜8]
平均粒径50μmのシリカ粉末と、重合体バインダであるポリエチレングリコール(平均分子量5000)と、パラフィンワックス(融点45℃)を、80:10:10の重量比になるように秤量した後に、表1に示すように、各カップリング剤をシリカ粉末(平均粒径50μm)に対して、0.05〜5重量%外添加して、120℃で1時間〜3時間混練して、射出成形用材料を得た。
【0052】
その後、得られた各射出成形用材料を加熱して80℃の流動体にして射出成形して、各射出成形体を得た。得られた射出成形体は、厚さ3mmのスパイラル板状の射出成形体であり、この射出成形体を厚さ方向に見た場合の形状及び寸法を図1に示す。図1において、射出成形体であるスパイラル部の幅L1の長さは3mmであり、射出成形体であるスパイラル部の隙間(スパイラル形状の隙間)の幅L2の長さは1mmである。これらの射出成形体は、150℃で50時間の脱脂を行い、1200℃で24時間保持する焼成を行い、各多孔質セラミックスを得た。なお、焼成温度(1200℃)に到達するまでの昇温速度は50℃/時間、焼成温度(1200℃)から常温に放熱するまでの降温速度は200℃/時間にした。
【0053】
表1における、官能基がメタクリル基であるカップリング剤は、「3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン」(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6030)であり、官能基がエポキシ基であるカップリング剤は、「3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6040)であり、官能基がビニル基であるカップリング剤は、「ビニルトリメトキシシラン」(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6300)であり、官能基がアミノ基であるカップリング剤は、「3−アミノプロピルトリエトキシシラン」(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6011)である。
【0054】
[比較例1〜2]
官能基がアミノ基であるカップリング剤「3−アミノプロピルトリエトキシシラン」(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6011)を用いる以外は上記実施例7又は8と同様にして比較例1の多孔質セラミックスを得た。また、カップリング剤を添加しない以外は上記実施例と同様にして比較例2の多孔質セラミックスを得た。
【0055】
〈評価方法〉
焼成後の評価は、焼成して得られた多孔質セラミックスのクラック発生率を求めて行った。その結果を表1に示す。表1の評価における「○」は「焼成して得られた多孔質セラミックスのクラック発生率が0〜10%」であることを示し、「△」は「焼成して得られた多孔質セラミックスのクラック発生率が10〜30%」であることを示し、「×」は「焼成して得られた多孔質セラミックスのクラック発生率が30%以上」であることを示している。
【0056】
【表1】

【0057】
比較例1〜2では、焼成後に得られた多孔質セラミックスにおけるクラック発生率が高かった。この要因は、比較例1〜2で用いた射出成形用材料の流動性不良による、射出成形用材料の充填ムラ、セラミックス粒子(シリカ粒子)の部分的な凝集によるものと考えられる。これに対して、実施例1〜8では、メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の各有機官能基を持つカップリング剤を添加しているので、射出成形用材料の流動性が向上し、射出成形用材料の充填ムラ、セラミックス粒子の部分的な凝集の発生率が低下するので、焼成後に得られた多孔質セラミックスにおけるクラック発生率が低下したと考えられる。
【0058】
実施例1〜8で用いたカップリング剤は、メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の各有機官能基を有するものである。これらの有機官能基は、「炭素原子間の二重結合」又は「2つの炭素原子に直接結合する1つの酸素原子」を有する。このような場合には、重合体バインダであるポリエチレングリコールとの接合性が良好であり、射出流動の応力が加わった場合に、セラミック粒子と分離しやすくなる。その結果として、見かけ上の流動性が向上すると考えられる。
【0059】
[比較例3]
なお、平均粒径10μm未満のシリカ粉末を用いる以外は上記実施例と同様にして焼成した場合、得られたセラミックスは緻密化してしまい、多孔質セラミックスは得られなかった。
【0060】
また、ポリエチレングリコール以外の重合体バインダ(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンビニルアセテート、ポリスチレン)を用いた場合や、パラフィンワックス以外の射出成形用ワックス(マイクロクリスタリンワックス)を用いた場合や、滑り剤(ステアリン酸)、可塑剤(フタル酸エステル)をさらに添加した場合も、上記実施例と同等の効果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱により射出成形可能で添加水を含有しない常温で固体の非水系射出成形用材料であって、平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と、重合体バインダと、前記重合体バインダ以外の射出成形用ワックスと、メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の中から選択される1種又は2種以上の有機官能基を持つカップリング剤の混合物を含有することを特徴とする多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料。
【請求項2】
前記重合体バインダは、ポリエチレングリコール系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、エチレンビニルアセテート系、ポリスチレン系の中から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用材料。
【請求項3】
前記カップリング剤の添加量は、前記セラミックス粉末の総重量に対して、0.1〜3重量%であることを特徴とする請求項1〜2のいずれか一に記載の射出成形用材料。
【請求項4】
前記セラミックス粉末と前記重合体バインダと前記射出成形用ワックスとの重量比は、60〜80:10〜20:10〜20であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載の射出成形用材料。
【請求項5】
前記セラミックス粉末は、シリカ、アルミナ、ジルコニアの中から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載の射出成形用材料。
【請求項6】
前記混合物は、前記セラミックス粉末と、前記重合体バインダと、前記射出成形用ワックスと、前記カップリング剤を、加熱混練して得られたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一に記載の射出成形用材料。
【請求項7】
前記混合物は、滑り剤及び可塑剤の中から選択される1種又は2種以上の有機化合物をさらに含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一に記載の射出成形用材料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一に記載の射出成形用材料を射出成形して得られた射出成形体を焼成して多孔質セラミックスを得る焼成工程を有することを特徴とする多孔質セラミックスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−230981(P2011−230981A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105464(P2010−105464)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】