説明

多孔質マグヘマイト、およびマグヘマイトの製造方法、並びに被処理水の処理方法

【課題】砒素、フッ素といった環境負荷物質を含む溶液から砒素、フッ素、鉛、セレンを回収する回収剤を提供する。
【解決手段】窒素ガス吸着法によって測定される比表面積が50m/g以上ある多孔質マグヘマイトを、当該環境負荷物質を含む溶液に投入したり、当該多孔質マグヘマイトを充填したカラムに当該環境負荷物質を含む溶液を通過させて、当該環境負荷物質を含む溶液中の環境負荷物質を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属等の環境負荷物質の吸着に適した多孔質のマグヘマイト、および、マグヘマイトの製造方法、並びに被処理水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非鉄製錬を始めとする各種の工業過程において、多様な中間物や廃棄物が発生する。当該中間物や廃棄物には、例えば、砒素、フッ素、等といった環境負荷の高い物質が含まれている場合がある。
そこで、これら環境負荷の高い物質を無害化する研究が行われてきた。本発明者らも、新規な砒素固定方法として特許文献1を提案している。
一方、特許文献2には、フッ素を対象とした吸着剤としてオキシ鉄水酸化物を用いることが提案されている。
【0003】
【特許文献1】特願2006−126896号
【特許文献2】特願2005−154608号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、一旦無害化された環境負荷物質も、長期間の後に環境負荷性を復活する可能性もある。一方、上述した環境負荷の高い物質も、上手く回収することが出来れば重要な資源となり得るものである。
当該事情を考慮すれば、多様な中間物や廃棄物に含まれる環境負荷物質を、容易且つ低コストで回収できる方法の開発は、当該環境負荷物質に関連する産業にとって非常に有効なものである。
しかしながら、各環境負荷物質毎に回収方法や回収剤が異なると、必要とされる設備の数が増し、管理なども煩雑になるため、回収コストが増加してしまう。この為、回収方法や回収剤は、各環境負荷物質によらず共通して用いることが出来るものであることが望まれる。
本発明は上述の状況の下で成されたものであり、砒素、鉛、セレン、フッ素、等の重金属、ハロゲンといった環境負荷物質を含む溶液から砒素、フッ素、等を複数種に亘って回収することが出来る回収剤およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特許文献1に記載の研究において、砒素を鉄と反応させてスコロダイト系結晶物(Scorodite:以下、スコロダイトと記載する場合がある。)として析出させ不溶出化する方法に想到していた。
本発明者らは、さらに鋭意研究を進め、当該スコロダイトがアルカリ水溶液と激しく反応する知見を得た。ここで、本発明者らは当該反応を詳細に研究した結果、当該スコロダイトの砒素量に対して、3アルカリ当量以上のアルカリが反応すると、当該スコロダイトに含まれる砒素の殆ど100%が瞬間的に溶解し、鉄化合物の結晶(マグへマイト)が得られるという、全く新規な知見を得た。さらに、当該砒素が溶出した後のスコロダイトは、当初の形状を維持したまま砒素を失った結果、無数の細孔を有する多孔質の鉄化合物の結晶(マグへマイト)となることを知見した。そして、当該知見により、本発明者らは、従来、製造が困難であったマグへマイト製造の新規な方法も見出した。
【0006】
さらに本発明者らは、当該多孔質のマグヘマイトを、砒素、フッ素、鉛、セレン等を溶
解する水溶液へ接触、投入すると、これらの物質を効果的に吸着することも見出し本発明を完成した。
【0007】
すなわち、課題を解決するための第1の手段は、
窒素ガス吸着法によって測定される比表面積が50m/g以上あることを特徴とする多孔質マグヘマイトである。
【0008】
第2の手段は、
砒素含有溶液に2価の鉄イオンを加えて、当該溶液中における鉄/砒素のモル比(Fe/As)を1以上とし、酸化剤を加えて攪拌しながら加熱した後、固液分離して固形分を得る工程と、
当該固形分を、アルカリ溶液に投入しスラリーを得る工程と、
当該スラリーを固液分離し、多孔質マグヘマイトを得る工程と、を有することを特徴とするマグヘマイトの製造方法である。
【0009】
第3の手段は、
砒素を含有する被処理水の処理方法であって、第1の手段に記載のマグヘマイトを設置したカラムに、当該被処理水を通過させ、多孔質マグヘマイトに砒素を吸着させて除去することを特徴とする被処理水の処理方法である。
【0010】
第4の手段は、
砒素を含有する被処理水の処理方法であって、当該被処理水へ、第1の手段に記載の多孔質マグヘマイトを投入し、多孔質マグヘマイトに砒素を吸着させて除去することを特徴とする被処理水の処理方法である。
【0011】
第5の手段は、
フッ素を含有する被処理水の処理方法であって、当該被処理水へ、第1の手段に記載の多孔質マグヘマイトを投入し、多孔質マグヘマイトにフッ素を吸着させて除去することを特徴とする被処理水の処理方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る多孔質のマグヘマイトは、砒素、フッ素、等を溶解する被処理水と接触、または被処理水中に投入されることで、これらの物質を効果的に吸着することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る多孔質のマグヘマイトは、10μm以上、100μm以下の粒径を有し、かつ高い比表面積を有している。因みに、BET1点法による比表面積評価では10〜15m/g程度、BET3点法による評価では50m/g以上、200m/g以下程度となる。本発明に係る多孔質のマグヘマイトが、当該高い比表面積を有するのは、窒素ガス吸着法で測定した径が10Å以上、30Å以下である細孔を多数有する為であると考えられる。
【0014】
さらに、本発明に係る多孔質のマグヘマイト(後述する、実施例1の試料2)のCu Kα線を用いて測定したXRDパターンを図1に示す。図1は縦軸に強度、横軸に角度(°)を採ったグラフである。尚、図1には、マグネタイト、スコロダイト、およびヘマタイトのJCPDS−ICDD標準データベース引用データも併記した。
【0015】
図1より、本発明に係る多孔質のマグヘマイトのXRDパターンは、ややライン幅が広がっていて、結晶性に乏しくも見える。しかし、当該XRDパターンには、散乱角35°付近に最強ピーク、63°付近に第二強度ピークが観測され、その他のピークパターンを
総合的にみると、マグネタイトまたはマグヘマイトに該当する、スピネル結晶構造と同定される。つまり、原料であるスコロダイトとは全く異なるパターンであることが確認される。
一方、マグネタイトとマグヘマイトとは基本的に同様のスピネル構造をもつ。しかし、マグネタイトには2価と3価の鉄イオンが1:2の比で含まれているのに対し、マグヘマイトはすべて3価の鉄であり、マグネタイト構造の結晶格子中の鉄が一部欠損した結晶構造をもっている。
【0016】
ここで、本発明に係る多孔質の粒子が3価の鉄のみを含むことを確認するために、Fe
K吸収端におけるX線吸収スペクトル測定を行った。実験にはX線吸収分光測定装置(Rigaku社製 R−XAS Looper)を使用した。結果を図2に示す。図2は縦軸に吸収、横軸にエネルギー(eV)を採ったグラフである。尚、図2において本発明に係る多孔質のマグヘマイトのスペクトルを実線で示し、標準的なマグネタイト(RAREMETALLIC社製 試薬粉末)のスペクトルを破線で併記した。
図2において、両者の全体的な吸収スペクトルの形状は、互いによく似ている。これは本発明に係る多孔質のマグヘマイトが、マグネタイトと同様のスピネル構造を有することを示している。また、本発明に係る多孔質の粒子は、吸収係数が急激に増加するFe K吸収端のエネルギー位置がマグネタイトに対して約2eV高エネルギー側にシフトしている。これは本発明に係る多孔質の粒子が、2価の鉄を含まず、3価の鉄のみを含むことを示している。従って、本発明に係る多孔質の粒子は、マグヘマイトに該当する結晶構造を有することが確認される。
従来の考え方では、当該多孔質の粒子はアモルファスになると予想されたが、実際は結晶化していたものである。当該結晶化の過程は不明だが、再結晶した可能性は考えられる。
【0017】
本発明に係る多孔質のマグヘマイトは、環境負荷物質の吸着剤として有効である。吸着可能な環境負荷物質としては、砒素を始めとして、フッ素やセレン、鉛なども吸着可能である。尚、フッ素を吸着させる場合は、併せて、フッ素処理フロー循環システムを構築しておくことが好ましい。
【0018】
本発明に係る多孔質のマグヘマイトにより、砒素、フッ素、セレン等の環境負荷物質が除去された被処理水は、引き続いて通常の排水処理(COD処理、等)を実施することが可能である。勿論、他の項目の排水基準を満たせば、そのまま放流することも可能である。
【0019】
本発明に係る多孔質のマグヘマイトを用いて、被処理水から環境負荷物質を吸着除去する際の吸着操作としては、カラム式を用いるのが一般的である。勿論、当該多孔質のマグヘマイトと被処理水とを、撹拌接触させた後、固液分離するというサイクルを繰り返す方式も可能である。さらに、環境負荷物質を吸着後、固液分離する際に、マグへマイトの磁性を利用して電磁的な方法で液から当該多孔質マグへマイトを回収することも可能である。
但し、カラム式を用いながら当該サイクルを繰り返す場合、当該多孔質の鉄酸化物の吸着効率が変動する場合、カラムの破過の管理基準を変更する等により、処置・対応ができる。
【0020】
本発明に係る多孔質のマグヘマイトを用いて数段のカラムを組み込み、カラム式吸着操作で環境負荷物質を吸着する操作を行った場合、原液と同じ濃度になった時に1段目のカラムが破過したとして、吸着能力が飽和したことになる。例えば、砒素を吸着した場合であれば、当該吸着能力が飽和したとき5%程度の砒素を吸着している。当該砒素を吸着した多孔質のマグヘマイトは、上述した水酸化ナトリウム等を用いたアルカリ浸出により再
生される。当該再生の際におけるアルカリ当量の最適値は、砒素吸着量によって決定されるので適宜調整することが好ましい。
【0021】
ここで、本発明に係るマグへマイト(多孔質マグヘマイト)の製造方法を説明するが、まず、鉄砒素化合物であるスコロダイトの製造方法について説明し、次に当該スコロダイトからマグへマイトを製造する製造方法について説明する。
【0022】
砒素含有溶液に2価の鉄イオンを加えて、当該溶液中における鉄/砒素のモル比(Fe/As)を1以上とし、酸化剤を加えて攪拌しながら50℃以上に昇温して反応させた後、固液分離して得られる固形分を乾燥するとスコロダイトを製造することができる。
【0023】
当該砒素含有溶液中の砒素濃度は、不純物として含まれるナトリウム等の濃度が1g/L以下であれば、それ程高くなくても良い。しかし、砒素濃度が低いとスコロダイト析出から成長の過程で粒子の粗大化が起き難くなるので、当該砒素濃度は高い方が好ましい。当該砒素濃度は10g/L以上あるのが好ましく、30g/L以上あれば、さらに好ましい。また、当該砒素含有溶液のpHは、反応開始時において2以下であるのが好ましい。また砒素は5価が好ましい。
スコロダイト結晶粒子を粗大化しておくと、後工程において吸着剤の粒子径を決定付する際の選択幅が広がり好ましいからである。
【0024】
2価の鉄源としては可溶性のFeSO・7HOが好ましい。当該溶液中における鉄/砒素のモル比(Fe/As)は、1以上であるのが好ましく、1.0〜1.5であればさらに好ましい。
酸化剤は、2価の鉄イオンを酸化出来る酸化剤であれば良く、例えば、酸素ガスが挙げられる。
【0025】
反応温度は50℃以上であればスコロダイトを析出させることが出来る。ここで、砒素の溶出濃度を低下させるためには、反応温度が70℃以上であることが好ましく、80〜95℃であればさらに好ましい。反応時間は1〜3時間で良い。
以上説明したスコロダイトの製造方法は、大気圧下で反応を行っている。勿論、オートクレーブを用いた水熱合成反応を行ってスコロダイトを製造しても良い。上記によるスコロダイトの製造方法によれば、得られるスコロダイトの結晶性が優れ、砒素の溶出が極めて低い、安定な物質となる。後述するように、当該スコロダイトを原料とすることで優れたマグへマイト(多孔質マグヘマイト)が得られる。
【0026】
一方、本発明に係る多孔質マグヘマイトの原料であるスコロダイトの製造方法としては、3価の鉄を用いて、pH調整、水熱合成によって、水分の少ない粗大粒子のスコロダイトを生成することが可能である。この3価の鉄を用いた場合は、前記2価の鉄を用いた場合と比べXRDで評価した結晶性が極僅か低い。尤も、当該XRDパターンにスコロダイトのピークは明確に出現していることから、1次粒子の段階では3価の鉄を用いた場合と同様に高い結晶性を有しているものの、凝集して粗大結晶を形成する為、XRDで評価した結晶性が低く観測されるのであると考えられる。
結局、3価の鉄を用いてスコロダイトを生成した場合、砒素が溶出する不安定さはあるが、本発明の原料として使用可能である。
【0027】
生成したスコロダイトを反応后液から固液分離した後、アルカリ溶液に投入する。
ここで、当該アルカリ溶液に用いるアルカリは、ナトリウム、カリウムの水酸化物が好ましい。ルビジウムやセシウムも原理的には使用可能であるが、希少な元素でありコストがかかる。一般的には、水酸化ナトリウムの使用が好ましい。カリウムを用いた場合は、さらにカリウムとの新規な合成物が形成される可能性がある。
尚、アルカリとして、アルカリ土類元素を用いた場合は、当該元素が砒素の固定に使われる物質であり、スコロダイトから液中へ砒素を溶出させる材料とはならないことに留意する。
【0028】
スコロダイト投入前におけるアルカリ溶液のpHは10以上の強アルカリ性としておき、反応後にもアルカリ性を維持出来るアルカリ量としておくことが好ましい。
(式1)に当該反応の反応式を示す。ただし、当該(式1)中、Feがヘマタイト(Hematite)ではないことから、含水している場合も推測される。
2FeAsO・2HO+6NaOH=2NaAsO+Fe+7HO・・・・(式1)
【0029】
尤も、当該(式1)の他に、以下に示す(式2)(式3)の2式も考えられるが、スコロダイトは、鉄と砒素とが安定的に結びついた化合物である為、砒素が完全に浸出するには十分な量のアルカリ量が必要になる。具体的には、砒素1当量に対してアルカリが3当量必要である。
2FeAsO・2HO+4NaOH=2NaHAsO+Fe+5HO・・・・(式2)
2FeAsO・2HO+2NaOH=2NaHAsO+Fe+3HO・・・・(式3)
その為、例えば、砒素品位が30%のスコロダイトを200g/Lのパルプ濃度になるように水酸化ナトリウム溶液1Lに添加するとした場合、砒素を100%液中に浸出させようとすると、200×30%÷74.922×3×40=96.1g/L(およそ100g/L)の水酸化ナトリウム濃度が必要である。
従って、水酸化ナトリウム濃度が50g/Lであった場合、砒素は半分程度が浸出されるに留まる。このことから(式2)(式3)の反応は起こっていないと考えられる。
【0030】
スコロダイトから砒素を浸出させる際、原則的に酸素は不要である。すでに砒素は5価となっており、鉄も3価となっている為である。しかし、3価の砒素が吸着されて若干存在すると考えられる性状のものであるならば、当該3価の砒素を5価にしておく為に、酸素、空気を吹き込むことが好ましい。
【0031】
スコロダイトをアルカリ溶液に投入すると直ちに反応し、褐色の沈殿物となる。このとき、溶解熱が発生し、液温度が上昇する。
ここで、当該溶解熱から、生成する多孔質のマグヘマイトの構造を保護し、かつ溶液が沸騰するのを回避する為、1W/L以下の弱い撹拌をおこなって液温を70℃以下とすることが好ましい。尤も、攪拌を強めた場合も、生成した多孔質のマグヘマイトが撹拌羽根によって壊されて小粒径化するものの構造自体が壊れる訳ではない。一方、溶液温度を下げ過ぎると水酸化ナトリウム溶液の粘度が上昇するので、当該溶液のアルカリ濃度に応じて、適宜な温度を保持することが好ましい。
【0032】
スコロダイトから砒素をアルカリ浸出した、スラリーを固液分離する。当該固液分離は、フィルタープレス法、遠心分離法、デカンター法、等、多様な方法が適用可能である。
当該固液分離によって発生した后液は、アルカリ性を示し、浸出された砒素や若干の硫黄分が存在する。当該后液は、再び高純度の砒素液として再処理することが好ましい。
再処理により得られる砒素液は、優位な砒素原料またはスコロダイト合成用原料となる。
【0033】
当該固液分離によって発生した固形分は、殆どが多孔質のマグヘマイトであるが、后液が若干付着している。その為、当該后液を除去する為、洗浄を行うのが好ましい。
具体的には、フィルタープレス、ベルトフィルター、遠心分離機等を用い、当該多孔質
のマグヘマイトケーキ内に追加水を貫通させて洗浄すると、少量の水で后液を除去できる。また、リパルプ洗浄を適用する場合は、カウンターカレント式で洗浄を行うと、使用する水量を削減することが出来る。
【0034】
尤も、多孔質のマグヘマイト自体が塩基として存在し、アルカリ性の傾向を示す。そこで、当該多孔質のマグヘマイト自体の中和操作をすることが好ましい。当該中和操作により、当該多孔質のマグヘマイトを用いる処理の際、排水のpHコントロールが容易になるからである。ここで、中和剤としては、硫酸、塩酸、硝酸等いずれも使用可能であるが、酢酸等の弱酸も使用可能である。そして、当該中和操作後のpHを中性領域とするのが一般的であるが、被処理液の液性に応じて設定するのも好ましい構成である。当該多孔質のマグヘマイトの吸着能力が充分発揮されるpH領域は、3〜7の範囲である。ここで、当該多孔質の鉄酸化物が均一にpH調整する観点からは、リパルプ洗浄を行うことが効果的である。
当該洗浄、pH調整後の多孔質のマグヘマイトは、粒子がほぼ原料形態の形状を保持しており、10から100μmの粒径を有し、かつ高い比表面積を有していた。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
試薬(和光純薬製)の砒素溶液(As:500g/L)と、試薬(和光純薬工業社製)の硫酸第1鉄・7水和物とを準備した。
当該砒素溶液と鉄塩とを、砒素濃度が50g/L、鉄濃度が55.91g/Lとなるように秤量し純水を加え、砒素−鉄塩溶液を4L調製した。
調製した砒素−鉄塩溶液4Lを、容量5Lのガラス製ビーカーに移し、2段タービン攪拌羽根・邪魔板4枚をセットした。引続いて、当該2段タービン攪拌羽根を用い回転数800rpmで強撹拌しながら液温が95℃になるよう昇温し、温度が所定に達したところで、純度99%の酸素ガスを液内に吹き込んだ。酸素ガスの流量は4L/分とした。そのまま7時間保った後、70℃迄冷却し沈殿を生成させて直ちに濾過した。沈殿発生量は、ウエットで631.5gであった。
【0036】
生成した沈殿に対し、蒸留水を用いて1時間のリパルプ洗浄を行い、それをろ過し、60℃にて18時間乾燥して、本発明に係るスコロダイトを得た。当該スコロダイトの一定量を採取し、分析試料を作成して、含まれる砒素、鉄、硫黄、ナトリウムの量をICPにより分析した。当該分析結果を表1に記載する。
【0037】
【表1】

【0038】
当該本発明に係るスコロダイトを120gづつ3つの試料に分け、それぞれ試料1〜3とした。
まず、試料1を、アルカリ溶液(NaOH溶液、濃度50g/L)600mLに添加した。以下同様に、試料2を、アルカリ溶液(NaOH溶液、濃度100g/L)600mLに添加、試料3を、アルカリ溶液(NaOH溶液、濃度200g/L)600mLに添加した。
そして当該3つの溶液に対し、1段傾斜パドルを用いて500rpm、5分間の攪拌を行った。このとき液温は、室温から45℃まで上昇した。当該攪拌終了後、当該液を沈殿
とアルカリ溶液とに分離した。
【0039】
生成した沈殿を、蒸留水3600gで通水洗浄し、60℃で18時間、乾燥して、本発明に係る多孔質マグヘマイト試料1〜3を得た。当該多孔質マグヘマイト試料1〜3に含まれる砒素、鉄、硫黄、ナトリウムの量を、上述したスコロダイト試料と同様にICP(発光分光分析法)により分析し、さらに、重量、含有する水分量を測定した。当該分析結果を表2に記載する。
一方、当該多孔質マグヘマイト試料1〜3から分離された各アルカリ溶液に溶解している、砒素、鉄、硫黄、ナトリウムの量、pH、ORPを測定した。当該分析結果を表2に記載する。
さらに、当該多孔質マグヘマイト試料1〜3に含まれる砒素、鉄、硫黄、ナトリウム量の分析結果と、各アルカリ溶液に溶解している砒素、鉄、硫黄、ナトリウム量の分析結果とから、各元素毎の浸出率を算定した。当該算定結果も表2に記載する。
【0040】
【表2】

【0041】
表2の結果を検討してみると、多孔質マグヘマイト試料1〜3いずれからも砒素が溶解して失われていることが判明した。中でも、アルカリ溶液として100g/Lおよび200g/LのNaOH水溶液を用いた場合は、砒素が、スコロダイト試料2、3からほぼ完全に溶解されて除かれ、多孔質マグヘマイト試料2、3となっていることが判明した。一方、当該多孔質マグヘマイト試料2、3において、鉄は、アルカリ溶液に溶解することなく当該試料2、3に留まっていることが判明した。さらに、当該多孔質マグヘマイト試料2、3は、ナトリウムの含有量も少ないことが判明した。従って、当該試料2、3は、ほぼ、鉄と酸素とからなる化合物であることが判明した。
【0042】
次に、本発明に係る多孔質マグヘマイト試料1、および、比較の為、スコロダイト試料について、窒素ガス吸着法による表面積の評価を行った。当該ガス吸着法による評価には
、BET測定装置(ユアサアイオニクス社製、商品名:オートソーブ)を用いた。
次に、本発明に係る多孔質酸化鉄試料1〜3、および、比較の為、スコロダイト試料について、窒素ガス吸着法による表面積の評価を行った。
その評価結果を表3に示す。尚、当該窒素ガス吸着法による評価(BET1点法)には、BET測定装置(ユアサアイオニクス社製、商品名:オートソーブ)を用いた。さらにBET多点法では、相対圧力(P/Po)が0.1、0.2、0.3の3点における吸着ガス体積(量)をBET法にて比表面積を算出したものである。
【0043】
【表3】

【0044】
表3の結果より、本発明に係る多孔質マグヘマイトは、10μm以上、100μm以下の粒径を有し、比表面積が50m/g以上と極めて大きな鉄酸化化合物であることがわかった。そして、当該粒径と、極めて大きな比表面積とから、本発明に係る多孔質マグヘマイトが、実際に顕著な多孔質であり、径10Å以上、径30Å以下である細孔を多数有していることが裏付けられた。
【0045】
次に、上述の本発明に係る多孔質マグヘマイトと、3価の砒素イオンを含む砒素含有試料溶液(砒素濃度1100mg/L)および5価の砒素イオンを含む砒素含有試料溶液(砒素濃度1050mg/L)と、を用いて、本発明に係る多孔質マグヘマイトの砒素吸着能を試験した。
尚、本発明に係る多孔質マグヘマイトとしては、試料2を用いた。3価および5価の砒素含有試料溶液には、それぞれ砒素濃度1g/Lのものを準備した。砒素溶液は、和光純薬工業社製の試薬を用いた。
【0046】
まず、3価の砒素含有試料溶液を5種類に分け、それぞれ試料(1)〜(5)とし、5価の砒素含有試料溶液を6種類に分け、それぞれ試料(6)〜(11)とした。
そして、試料(1)は試薬等を添加しない無調整試料とし、試料(2)、(3)へは苛性ソーダを添加して、試験開始時のpHを8、5に調整した。試料(4)へは硫酸を添加して、試験開始時のpHを3に調整した。試料(5)の砒素含有溶液のpHは無調整である。
5価の砒素液では、試料(6)は試薬等を添加しない無調整試料とし、試料(7)〜(10)へは硫酸を添加して、それぞれの試験開始時のpHを、pH6,pH4,pH3,pH2に調製した。試料(11)は、前記試料(5)と同様な場合である。
【0047】
次に、多孔質マグヘマイト試料と、各砒素含有試料溶液試料(1)〜(4)、(6)〜(10)とを、質量比で1対10の割合にて混合する。そして、当該混合物を震盪機で1時間震盪させた後、固液分離して、得られたろ液の組成分析を行った。当該ろ液のpH、液中の砒素、鉄、硫黄、ナトリウムの含有量を表4に示す。
試料(5)、(11)は、前記スコロダイトをアルカリ溶液にて溶解した後に、酸を添
加して、スラリーのpH5.2に調整し、ろ過して得られた多孔質マグヘマイト試料2を用いた場合である。当該多孔質マグヘマイト試料2と、フッ素溶液試料(5)または(11)とを、質量比で1対10の割合にて混合する。そして、当該混合物を震盪機で1時間震盪させた後、固液分離して、得られたろ液の組成分析を行った。当該ろ液のpH、液中の砒素、鉄、硫黄、ナトリウムの含有量を表4に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
当該結果より、次のことが確認できた。
被処理液に含有される砒素が、3価の場合も5価の場合も、本発明による多孔質マグヘマイトは顕著な吸収能力があることがわかった。当該被処理液のpHを8〜2であっても、本発明に係る多孔質マグヘマイトの砒素吸着能力は大いに発揮された。
また、予め本発明に係る多孔質マグヘマイトのpHを酸性側に調整しておくことで、当該被処理液のpHが未調整であっても、本発明に係る多孔質マグヘマイトの砒素吸着能力は大いに発揮された。
尚、表中のtrは、検出限界以下を示す。
【0050】
多孔質マグヘマイト試料2のXRDパターンを図1に示す。
図1より、上述したように、実施例1に係る多孔質マグヘマイト試料2のXRDパターンには、散乱角35°付近に最強ピーク、63°付近に第二強度ピークが観測され、その他のピークパターンを総合的にみると、スピネル構造を有する結晶であり、原料であるスコロダイトやヘマタイトなど他の鉄酸化物とは全く異なるパターンであることが確認された。
【0051】
実施例1に係る多孔質マグヘマイト試料2のFe K吸収端におけるX線吸収スペクトルを図2に示す。
図2より、上述したように、実施例1に係る多孔質マグヘマイト試料2は、マグネタイトと同様のスピネル構造をもち、3価の鉄のみからなるマグヘマイト構造を有することが
確認された。
【0052】
(実施例2)
実施例1と同様にして、本発明に係る多孔質マグヘマイト試料2を製造した。
一方、試薬のNaFよりフッ素濃度1g/Lのフッ素溶液を準備し、当該フッ素溶液を3種類に分け試料(12)〜(14)とした。
試料(12)は、苛性ソーダを添加して、開始時でpH9に調整した。試料(13)は、硫酸を添加してpH3に調製した。試料(14)は、フッ素溶液は無調整であるが、多孔質マグヘマイト試料へ実施例1(5)と同様な処理をした。
次に、多孔質マグヘマイト試料2と、各フッ素溶液試料(12)(13)とを、質量比で1対10の割合にて混合する。そして、当該混合物を震盪機で1時間震盪させた後、固液分離して、得られたろ液の組成分析を行った。当該ろ液のpH、液中のフッ素の含有量を表5に示す。
一方、実施例1と同様にして、多孔質マグヘマイト試料2のpHを5.2とした多孔質マグヘマイト試料2を調製した。
当該多孔質マグヘマイト試料2と、フッ素溶液試料(14)とを、質量比で1対10の割合にて混合する。そして、当該混合物を震盪機で1時間震盪させた後、固液分離して、得られたろ液の組成分析を行った。当該ろ液のpH、液中のフッ素の含有量を表5に示す。
尚、液中のフッ素の含有量は、東亜電波工業製イオンクロマトグラフィー(IA−100)で測定した。
【0053】
【表5】

【0054】
当該結果より、次のことが確認できた。
予め当該被処理液のpHを9以下に調整しておくことで、本発明に係る多孔質マグヘマイトのフッ素吸着能力は、十分に発揮された。
また、予め本発明に係る多孔質マグヘマイトのpHを酸性側に調整しておくことで、当該被処理液のpHが未調整であっても、本発明に係る多孔質マグヘマイトのフッ素吸着能力は向上した。
【0055】
本発明による多孔質マグヘマイトは、従来の吸着剤と比較して、多種の環境負荷元素に対し高い吸着能力がある。この多孔質マグヘマイトを用いることで、回収を所望する各環境負荷元素毎に吸着剤を使い分けることなく、回収が可能となる。この結果、設備、資材、管理の共通化によりコストが低減できる。
また本発明による多孔質マグヘマイトは、粒径が大きく、カラムにての通水性も優れており、水マグヘマイト化合物よりはるかに通水性がよいことから、環境負荷元素回収における生産性も飛躍的に向上される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る多孔質マグヘマイト試料のXRDパターンである。
【図2】本発明に係る多孔質マグヘマイト試料のFeK吸収端におけるX線吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素ガス吸着法によって測定される比表面積が50m/g以上あることを特徴とする多孔質マグヘマイト。
【請求項2】
砒素含有溶液に2価の鉄イオンを加えて、当該溶液中における鉄/砒素のモル比(Fe/As)を1以上とし、酸化剤を加えて攪拌しながら加熱した後、固液分離して固形分を得る工程と、
当該固形分を、アルカリ溶液に投入しスラリーを得る工程と、
当該スラリーを固液分離し、多孔質マグヘマイトを得る工程と、を有することを特徴とするマグヘマイトの製造方法。
【請求項3】
砒素を含有する被処理水の処理方法であって、請求項1に記載のマグヘマイトを設置したカラムに、当該被処理水を通過させ、多孔質マグヘマイトに砒素を吸着させて除去することを特徴とする被処理水の処理方法。
【請求項4】
砒素を含有する被処理水の処理方法であって、当該被処理水へ、請求項1に記載の多孔質マグヘマイトを投入し、多孔質マグヘマイトに砒素を吸着させて除去することを特徴とする被処理水の処理方法。
【請求項5】
フッ素を含有する被処理水の処理方法であって、当該被処理水へ、請求項1に記載の多孔質マグヘマイトを投入し、多孔質マグヘマイトにフッ素を吸着させて除去することを特徴とする被処理水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−83719(P2010−83719A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255296(P2008−255296)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(306039131)DOWAメタルマイン株式会社 (92)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】