説明

多孔質体とその製造方法

【課題】
本発明は、播種細胞を多孔質体の中心部にまで十分に保持させることができるようにすることを目的にするとともに、このような多孔質体を製造できる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の多孔質体は、表面から中心部に繋がる播種細胞用通路がマトリックス状に形成されてなることを特徴とすることにより上記目的を達成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内に埋め込まれ、保有する播種細胞により再生を行う為の生体吸収性物質からなる多孔質体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
事故や疾患などの原因で、臓器や組織が失われたり、損傷を受けたりした際、その治療方法として、臓器移植や人工臓器による機能代替などの方法が知られている。しかしながら、臓器移植の方法は大量のドナーを必要とし、また人工物の場合では機能が不十分などの問題点がある。近年、このような方法にかわって、生体組織工学的手法による治療法が注目され、その研究が盛んに行われている。
【0003】
生体組織工学的方法においては、生体組織や臓器を再生あるいは再構築するために、生体細胞の接着する足場を形成する支持体としての3次元的な多孔質足場材料が極めて重要とされている。足場材料に、細胞を均一、かつ高密度で播種するためは、連通性(孔が互いに連結していること)が必要である。また、多孔性に加えて、生体適合性、生体吸収性も要求される。
【0004】
従来、これらの足場材料は、例えば乳濁液凍結乾燥法、多孔質化剤除去法等により製造されている。乳濁液凍結乾燥法は、有機溶媒に溶かした高分子溶液と水を混合して乳濁液を調製し、この乳濁液を凍結乾燥することにより、水と有機溶媒を除去し多孔質化する方法であるが、孔径の制御が困難である、という欠点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のような従来技術の現状から、播種細胞を多孔質内部にまで保持させることが困難であるので、大きな多孔質体を作り、それを利用して大きな損傷に対応しようとしても、保持できる播種細胞密度に限度が生じ、十分な再生効果が得られないという問題があった。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑み、播種細胞を多孔質体の中心部にまで十分に保持させることができるようにすることを目的にするとともに、このような多孔質体を製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために、以下の発明を行った。発明1の多孔質体は、表面から中心部に繋がる播種細胞用通路がマトリックス状に形成されてなることを特徴とする。発明2の多孔質体は、発明1において前記播種細胞通路の形状が、球面状、板状、網目状、あるいは管状であることを特徴とする。発明3の多孔質体は、発明1又は2において前記生体吸収性物質が合成高分子、天然高分子およびこれらの組み合わせからなる群から少なくとも一つの材料から形成されたものであることを特徴とする。発明4の多孔質体は、発明1から3の何れかの多孔質体において、前記播種細胞通路の孔径が0.5μm乃至1mmであることを特徴とする。発明5は、発明1乃至4のいずれかに記載の多孔質体の製造方法であって、前記播種細胞通路と同様な太さの線状若しくは片状体からなるマトリックス骨格の空隙内に生体吸収性高分子からなる多孔質素材を充填し、次に前記骨格のみを除去することを特徴とする。発明6の多孔質体の製造方法は、発明5において、前記骨格の除去は、前記骨格を溶解し、前記多孔質素材を溶解しない溶液内に浸積しておこなうことを特徴とする。発明7の多孔質体の製造方法は、発明6において、前記溶液は水溶液であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
発明1により、多孔質体の中心にまで播種細胞を送り込み保持させることが出来、播種細胞の密度を多孔質体全体にわたり均等にすることができるようになった。このため、従来困難とされた大きな損傷の部分の再生にも本技術を用いる可能性をひらくことが出来た。また、発明5により、従来の多孔質化では困難であった中心部に至る播種細胞用通路を確実に作成することができた。さらに、発明7により、有機溶媒を使用しなくとも良くなったので、製造した多孔質体の安全性を維持することができた。(以下に前記記載を裏付ける実施例を記載して下さい。特に数値範囲を持つ場合はその限界値の意義を示す実施例、比較例を示して下さい。)
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳述する。本発明における多孔質素材には、合成高分子化合物、天然高分子化合物を用いることができる。合成高分子化合物は人工物を原料に合成したもの、天然高分子化合物は生体に由来するもので、生体適合性を示すものであれば何れも使用できるが、細胞接着性や細胞増殖性がより良好であることから、天然高分子化合物のうち、コラーゲン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ゼラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、細胞成長因子、及び細胞分化制御因子またはその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種以上のものが好ましく使用される。たとえば、コラーゲン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ゼラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、細胞成長因子、及び細胞分化制御因子またはその誘導体などの高分子化合物を挙げることができる。これらの高分子化合物を1種類、あるいは2種類以上を混合してから用いることができる。
【0010】
これらの中で、コラーゲン、あるいはコラーゲンを主成分とする混合物が最も望ましい。コラーゲンにはI、II、III、IV、V、VI、VIII、IX、X型などのものがあるが、本発明においてはこれらの何れも使用でき、これらの誘導体を使用してもよい。また、本発明の構造体を構成する細胞成長因子と細胞分化制御因子は細胞の成長、分化を制御できるものであれば何れも使用できるが、上皮細胞成長因子(EGF)、インシュリン、血小板由来増殖因子(PDGF)、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、β型形質転換増殖因子(TGF−β)、骨形成因子(BMP)、デキサメタゾンなどから選ばれた1種以上のもの或いはこれらの誘導体があるが、本発明においてはこれらの何れも使用できる。
【0011】
本発明における骨格は生体吸収性合成高分子のメッシュ体、スポンジ体あるいは紐状体からなるものでよい。メッシュ体は、織布又は不織布等からなるものでよい。スポンジ体は、発泡剤を利用する発泡成形法、あるいは多孔質化剤除去法等、その他公知の方法により得ることができる。また、紐状体は繊維状や組みヒモ等からなるものでよい。メッシュ体、スポンジ体、あるいは紐状体を形成する生体吸収性合成高分子としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸の共重合体、ポリリンゴ酸、ポリ−ε−カプロラクトンなどのポリエステル或いはセルロース、ポリアルギン酸などの多糖類等を挙げることができる。
【0012】
本発明において好ましく使用される生体吸収性合成高分子はポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸の共重合体である。上記生体吸収性合成高分子のスポンジ体は、相分離法、粒子溶出法(particulate−leaching)あるいは、発泡成形法によって作製することができる。生体吸収性合成高分子を有機溶媒に溶かした溶液に多孔質化剤を加えてよくかき混ぜ、多孔質化剤/高分子溶液を乾燥した後、多孔質化剤を除去することにより、生体吸収性合成高分子のスポンジ体を作製することができる。上記の生体吸収性合成高分子としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸の共重合体、ポリ−ε−カプロラクトン、これらの共重合体などのポリエステル或いはセルロース、ポリアルギン酸などの多糖類等を挙げることができる。本発明において好ましく使用される生体吸収性合成高分子はポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸の共重合体、ポリ−ε−カプロラクトン、およびこれらの共重合体である。
【0013】
上記の生体吸収性合成高分子を溶かす溶媒には、クロロホルム、四塩化炭素、ジオキサン、トリクロロ酢酸、ジメチルホルムアミド、塩化メチレン、酢酸エチル、アセトン、ヘキサフルオロイソプロパノール、ジメチルアセトアミド、ヘキサフルオロ−2−プロパノールなどが挙げられる。上記の多孔質化剤として、ブトウ糖、砂糖などの水溶性の糖質や、塩化ナトリウム、塩化カリウム、酒石酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどの塩の粒子、結晶が挙げられる。上記の多孔質化剤を除去する方法として、純水による洗浄法があげられる。
【0014】
骨格の細孔の大きさは1〜4000μm、好ましくは20〜1000μm程度とするのがよい。厚みは、多孔質基盤材料の使用態様によって適宜定めればよいが、通常0.1〜10cm、好ましくは0.1〜20mmである。その空隙率は、通常10〜99.9%、好ましくは60〜99.9%である。本発明の生体吸収性高分子の骨格の内部構造(マトリックス)内、すなわちメッシュ体の網目、スポンジ体の孔内あるいは紐状体の隙間に、生体吸収性高分子からなる多孔質素材をさらに形成させる。本発明の孔質素材は種々の方法により製造することができるが、例えば、前記生体吸収性合成高分子のメッシュ体、スポンジ体あるいは紐状体と生体吸収性高分子多孔質構造体とを架橋結合させることにより得ることができる。
【0015】
この作製方法の1つ目の方法としては、(1)骨格のメッシュ体、スポンジ体あるいは紐状体に多孔質素材を構成する生体吸収性天然高分子の1種類以上のものの溶液を塗布、含浸せしめた後、続いて、(2)凍結乾燥し、ガス状の化学架橋剤で処理することにより架橋するものである。
【0016】
上記工程(1)においては、生体吸収性天然高分子は1種類以上混ぜてから、含浸せしめるか、あるいはそれぞれ1種類以上のものを混ぜて行われる。上記工程(1)においては、前記骨格である生体吸収性合成高分子メッシュ体を前記生体吸収性天然高分子の水溶液で処理する。処理方法としては種々のものがあるが、浸漬法や塗布法が好ましく採用される。
【0017】
浸漬法は、生体吸収性天然高分子またはその誘導体の水溶液の濃度や粘度が低い場合に有効であり、具体的には、生体吸収性天然高分子またはその誘導体の低濃度水溶液に薄いシート状の生体吸収性合成高分子のメッシュ体を浸漬することにより行われる。厚いブロック状、或いは円柱状の生体吸収性合成高分子スポンジあるいは紐状体の場合では、生体吸収性天然高分子またはその誘導体の低濃度水溶液に浸漬し、減圧脱気処理することにより、生体吸収性合成高分子の骨格の細孔を生体吸収性天然高分子またはその誘導体の低濃度水溶液で満たす。
【0018】
一方、塗布法は、生体吸収性天然高分子の水溶液の濃度や粘度が高く、浸漬法が適用できないときに有効であり、具体的には、生体吸収性天然高分子の高濃度水溶液を生体吸収性合成高分子メッシュ体に塗布することにより行われる。
【0019】
一般に、架橋化方法としては、紫外線照射による光架橋や熱架橋などの物理的架橋法、ガス状あるいは溶液状の架橋化剤を用いる化学的架橋法などが知られている。本発明においては、化学的架橋法を用いることが好ましい。すなわち、紫外線照射による光架橋や熱架橋などの物理的架橋法では、その架橋化工程において得られる架橋度は限られ、更には多孔質体の素材である生体吸収性高分子化合物の変質や分解を招く恐れがある。その結果、生体吸収性高分子と細胞との親和性が低下することが懸念される。
【0020】
これに対して、ガス状の架橋化剤を用いる化学的架橋法では、上記の問題点は克服され、多孔質体の素材である生体吸収性高分子化合物の変質や分解を招くことなく、生体吸収性高分子化合物が架橋され、細孔構造が一定の形状に保持されるようになる。
【0021】
本発明で用いられる架橋剤としては、従来公知のものが何れも使用できる。このような架橋剤としては、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドのようなアルデヒド類や、エチレンプロピレンジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテルのようなグリシジルエーテル類や、ヘキサメチレンジイソシアネート、α−トリジンイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフチレン1、5−ジイソシアネート、4、4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタン−4、4、4、−トリイソシアネートのようなイソシアネート類や、グルコン酸カルシウムなどが挙げられる。
【0022】
本発明で好ましく使用される架橋剤は、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドのようなアルデヒド類、ジイソプロピルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−エチル3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩のようなカルボジイミド類が挙げられる。特に、取り扱いの容易さから、ガス架橋剤としては、グルタルアルデヒドが挙げられる。
【0023】
本発明のガス架橋法は、前記したように、上記の架橋剤をガス状にして用いることができる。具体的には、生体由来の天然高分子多孔質体を架橋するに際し、一定温度で一定濃度の架橋剤水溶液で飽和した架橋剤の蒸気の雰囲気下で一定時間架橋を行う。架橋温度は、多孔質化剤が融解せず、且つ架橋剤の蒸気が形成できる範囲内で選定すればよく、通常、20℃〜50℃に設定される。架橋時間は、架橋剤の種類や架橋温度にもよるが、生体由来の天然高分子多孔質体の親水性や生体吸収性を阻害せず、かつ使用に溶解しないように十分な架橋固定化が行われる範囲に設定するのが望ましい。架橋時間が短くなると、架橋固定化が不十分となる恐れがあり、その生体材料を応用する際、生体由来の天然高分子多孔質体が溶解する恐れがある。また架橋時間が長いほど架橋化が進むが、架橋時間が長過ぎると、生体由来の生体材料スポンジの親水性が変化し、生体吸収性も低下するので好ましくない。好ましい架橋時間は10分から12時間程度である。
【0024】
上記の生体吸収性高分子の骨格を水溶液処理により抽出除去する方法として、生体吸収性高分子の骨格のみを溶かし、生体吸収性高分子の多孔質素材を解かせない水溶液であれば、酸性水溶液、アルカリ性水溶液あるいは中性水溶液の何れでも良い。また、本水溶液は多孔質素材を変性させないことが必要である。本発明において使用される抽出液は、塩化水素、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、炭酸などの無機酸水溶液、酢酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、アミノ酸、アスコルビン酸、などの有機酸水溶液、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ水溶液、塩化アンモニウム、硫酸銅、塩化鉄、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウムなどの酸性塩水溶液、酢酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウムなどのアルカリ性塩水溶液、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなどの中性塩水溶液があげられる。望ましくはリン酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウムである。水溶液のモル濃度は0.01M〜2.0Mであるが、好ましく0.1〜0.8Mである。以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
生体吸収性高分子である乳酸とグリコール酸との共重合体(PLGA)のスポンジ体を骨格とし、そのスポンジ体の孔内に生体吸収性天然高分子であるウシ1型アテロコラーゲンのスポンジの第二多孔質構造体を形成し、さらに骨格のPLGAスポンジ体をリン酸三ナトリウム水溶液で溶かして抽出除することによって、連通孔を有するコラーゲンスポンジを調製した。孔径が355μmと425μmのステンレス製ふるいを用いて直径が355μm〜425μmの塩化ナトリウムの粒子をふるい分けた。
【0026】
乳酸とグリコール酸(75:25)との共重合体PLGAをクロロホルムに溶かし、15(w/v)%の溶液を調製した。PLGAのクロロホルム溶液をアルミニウム製の円筒容器に注ぎ入れ、直径が355μm〜425μmの塩化ナトリウムの粒子(PLGA重量の9倍)を本溶液に加え、よくかき混ぜた後、48時間風乾した。乾燥後、塩化ナトリウム/PLGA円柱体を蒸留水に浸し、2時間ごとに蒸留水を交換しながら、4日間洗浄を行った。
【0027】
このようにして、孔径が355μm〜425μmで空隙率が90%のPLGAスポンジ体を得た。本PLGAスポンジ円柱体を空気中で24時間乾燥した後、さらに真空状態で12時間乾燥した。その後、PLGAスポンジ円柱体を切断して0.5cm角の立方体とした後、1.0(w/v)%のブタ1型アテロコラーゲン酸性水溶液(pH=3.0)に浸漬し、真空下に置くことによってPLGAスポンジ体の孔に1型アテロコラーゲン水溶液を浸透させた。そして、1型アテロコラーゲン水溶液で満たしたPLGAスポンジ体を−80℃で12時間凍結した。凍結後、真空減圧下(0.2Torr)で24時間凍結乾燥し、PLGAスポンジの中にコラーゲンスポンジを形成したPLGA−コラーゲン複合スポンジ構造体を作製した。
【0028】
作製した材料を37℃で、25(w/v)%のグルタルアルデヒド水溶液で飽和したグルタルアルデヒド蒸気で4時間架橋処理した後、蒸留水で5回洗浄した。さらに、0.1Mのグリシン水溶液に24時間浸漬した後、蒸留水で20回洗浄した。これを−80℃で12時間凍結し、真空減圧下(0.2Torr)で24時間凍結乾燥することにより、骨格のPLGAスポンジ体の孔内に第二多孔質構造体のコラーゲンスポンジ体を導入した構造体(PLGA−コラーゲン複合スポンジ構造体)を作製した。PLGA−コラーゲン複合構造体を0.5Mのリン酸三ナトリウム水溶液に浸漬し、減圧することによりPLGA−コラーゲン構造体の孔にリン酸三ナトリウム水溶液を充填した。ひきつづき、PLGA−コラーゲン構造体とリン酸三ナトリウム水溶液を37℃で48時間静置した。この後、蒸留水で20回洗浄した。
【0029】
これを−80℃で12時間凍結し、真空減圧下(0.2Torr)で24時間凍結乾燥することにより、連通孔を有するコラーゲンスポンジを作製した。得られた連通孔を有するコラーゲンスポンジを金でコーティングし、それらの構造を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。電顕写真を図3に示す。
【実施例2】
【0030】
生体吸収性高分子である乳酸とグリコール酸との共重合体(PLGA)メッシュ体を1.0wt%のブタ1型アテロコラーゲン酸性水溶液(pH=3.0)に浸漬し、−80℃で12時間凍結した。次にこの凍結物を、真空減圧下(0.2Torr)で24時間凍結乾燥し、PLGAメッシュ体とコラーゲンスポンジとのシート状の足場材料を製造した。得られた複合生体材料を37℃で、25(w/v)%のグルタルアルデヒド水溶液で飽和したグルタルアルデヒド蒸気で4時間架橋処理した後、リン酸緩衝液で10回洗浄した。さらに、0.1Mグリシン水溶液に4時間浸漬し、リン酸緩衝液で10回洗浄した後、蒸留水で3回洗浄し、−80℃で12時間凍結した。
【0031】
これを真空減圧下(0.2Torr)で24時間凍結乾燥し、PLGA−コラーゲン複合メッシュを得た。PLGA−コラーゲン複合メッシュ構造体を0.5Mのリン酸三ナトリウム水溶液に浸漬し、減圧することによってPLGA−コラーゲン複合メッシュ構造体の孔にリン酸三ナトリウム水溶液を充填した。ひきつづいて、PLGA−コラーゲン構造体とリン酸三ナトリウム水溶液を37℃で48時間置いた。この後、蒸留水で20回洗浄した。これを−80℃で12時間凍結し、真空減圧下(0.2Torr)で24時間凍結乾燥することにより、連通孔を有するコラーゲン多孔質シートを作製した。得られた連通孔を有するコラーゲン多孔質シートを金でコーティングし、それらの構造を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。電顕写真を図4に示す。
【実施例3】
【0032】
実施例2により作製した連通孔を有するコラーゲン多孔質シートを酸化エチレンガスで滅菌し、正常ヒト皮膚線維芽細胞の培養に用いた。
クラボウから購入した正常ヒト皮膚線維芽細胞NHDFを2%ウシ胎児血清と10ng/mLヒト組換え型上皮成長因子と1μg/mLハイドロコーチゾンと3ng/mLヒト組換え型塩基性線維芽細胞増殖因子と10μg/mLヘパリンを含有するMedium 106S(培養培地、クラボウから購入)で継代培養し、継代培養した細胞を0.025%のトリプシン/EDTA、HEPES溶液で5分間インキュベートすることにより剥離した。剥離したNHDF細胞をMedium 106S培養培地に懸濁し(1.0×10cells/mL)、この細胞懸濁を連通孔を有するコラーゲン多孔質シート上に播種し、Medium 106S培養培地中で37℃、5%CO2雰囲気下で培養した。培地は二日ごとに交換した。
3.5時間と7日間培養したNHDF細胞をPBS(-)で3回洗浄し、0.25wt%のグルタルアルデヒド/PBS(-)溶液で室温で1時間固定化し、PBS(-)で3回洗浄した。蒸留水で3回洗浄した後、−80℃で12時間凍結し、真空減圧下(0.2 Torr)で24時間凍結乾燥した。真空乾燥したものを金でコーティングし、細胞の形態をSEMで観察した。電顕写真を図5に示す。
SEM観察から、正常ヒト皮膚線維芽細胞NHDFは連通孔を有するコラーゲン多孔質シート上によく接着し、伸展し、7日間培養した後、ほとんど層状になったことが分かった。
【実施例4】
【0033】
生体吸収性高分子である乳酸とグリコール酸との共重合体(PLGA)メッシュ体を5.0wt%のブタI型アテロコラーゲン酸性水溶液(pH=3.0)に浸漬し、1分間後コラーゲン酸性水溶液からPLGAメッシュ体を引き上げることにより、PLGAメッシュ体のPLGA繊維の周りにコラーゲンのコーティング層を形成させた。これを−80℃で12時間凍結した。次にこの凍結物を、真空減圧下(0.2 Torr)で24時間凍結乾燥し、PLGAメッシュ体とコラーゲンコーティング層とのシート状の足場材料を製造した。 得られた複合生体材料を37℃で、25(w/v)%のグルタルアルデヒド水溶液で飽和したグルタルアルデヒド蒸気で4時間架橋処理した後、リン酸緩衝液で10回洗浄した。さらに、0.1Mグリシン水溶液に4時間浸漬し、リン酸緩衝液で10回洗浄した後、蒸留水で3回洗浄し、−80℃で12時間凍結した。
これを真空減圧下(0.2 Torr)で24時間凍結乾燥し、コラーゲンをコーティングした複合メッシュを得た。コラーゲンをコーティングした複合メッシュを0.5Mのリン酸三ナトリウム水溶液に浸漬し、減圧することによってコラーゲンをコーティングした複合メッシュ構造体の孔にリン酸三ナトリウム水溶液を充填した。
ひきつづいて、コラーゲンをコーティングした複合メッシュ構造体とリン酸三ナトリウム水溶液を37℃で48時間置いた。この後、蒸留水で20回洗浄した。これを−80℃で12時間凍結し、真空減圧下(0.2 Torr)で24時間凍結乾燥することにより、連通孔を有するコラーゲンメッシュを作製した。得られた連通孔を有するコラーゲンメッシュを金でコーティングし、それらの構造を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。電顕写真を図6に示す。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、疾患や事故などの原因で損傷を受けたり、失われた骨や軟骨、靭帯、皮膚、血管、膵臓、肝臓等の生体組織・臓器を修復するために、それらの生体組織・臓器に分化して組織化する細胞を足場材料に均一、かつ高密度で播種できる培養多孔質基盤材料及び製造方法である。本発明の連通孔を有する生体吸収性多孔質体を用いることにより、骨や軟骨、靭帯、皮膚、血管、膵臓、肝臓等の生体組織・臓器を再生することが可能であり、軟骨、靭帯、皮膚、血管、膵臓、肝臓等などの疾患の治療への応用が大いに期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の連通孔を有する生体吸収性多孔質体の代表例1を示す模式図。
【図2】本発明の連通孔を有する生体吸収性多孔質体の代表例2を示す模式図。
【図3】実施例1によるPLGA−コラーゲン複合スポンジ構造体(上)および連通孔を有するコラーゲンスポンジ多孔質体(下)の電顕写真。
【図4】実施例2によるPLGA−コラーゲン複合メッシュ構造体(上)および連通孔を有するコラーゲン多孔質シート(下)の電顕写真。
【図5】連通孔を有するコラーゲン多孔質シート上で3.5時間(上)と7日間(下)培養した正常ヒト皮膚線維芽細胞NHDF細胞のSEM像
【図6】実施例4によるコラーゲンをコーティングした複合メッシュ構造体(上)、連通孔を有するコラーゲンメッシュ(中)および連通孔を有するコラーゲンメッシュの切断面の拡大(下)の電顕写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内に埋め込まれ、保有する播種細胞により再生を行う為の生体吸収性物質からなる多孔質体であって、表面から中心部に繋がる播種細胞用通路がマトリックス状に形成されてなることを特徴とする多孔質体。
【請求項2】
請求項1の多孔質体において、前記播種細胞通路の形状が、球面状、板状、網目状、あるいは管状であることを特徴とする多孔質体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の多孔質体において、前記生体吸収性物質が合成高分子、天然高分子およびこれらの組み合わせからなる群から少なくとも一つの材料から形成されたものであることを特徴とする多孔質体。
【請求項4】
前記播種細胞通路の孔径が0.5μm乃至1mmである請求項1乃至3のいずれかに記載の多孔質体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の多孔質体の製造方法であって、前記播種細胞通路と同様な太さの線状若しくは片状体からなるマトリックス骨格の空隙内に生体吸収性高分子からなる多孔質素材を充填し、次に前記骨格のみを除去することを特徴とする多孔質体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の多孔質体の製造方法において、前記骨格の除去は、前記骨格を溶解し、前記多孔質素材を溶解しない溶液内に浸積しておこなうことを特徴とする多孔質体の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の多孔質体の製造方法において、前記溶液は水溶液であることを特徴とする多孔質体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−120787(P2008−120787A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191767(P2007−191767)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度文部科学省組織医工学における材料・組織評価法の確立委託研究産業再生法第30条の適用を受ける特許出願平成18年度文部科学省ナノテクノロジーを活用した人工臓器の開発委託研究産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】