説明

多孔質成形体及びその製造法

【課題】 加熱を必要とせずに硬化させることができ、高強度で耐熱性および耐水性に優れた多孔質成形体の提供。
【解決手段】 非晶質珪酸、補強繊維及び充填材を含有する原料を成形し硬化させてなる多孔質成形体であって、アンモニアの存在下加熱することなく硬化させてなることを特徴とする多孔質成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度で耐熱性に優れ、建材、断熱材として有用な多孔質成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
断熱性に優れた多孔質成形体としては、珪素及び/又はアルミニウム元素の高分散酸化物を基材とする微細多孔質体(特許文献1)、2〜4.5(SiO2;M2O)モル比の二酸化ケイ素(SiO2)とアルカリ金属酸化物(M2O)からなるケイ酸アルカリ金属発泡粒子に基づく成形体(特許文献2)及び膨張したバーミキュライトを30〜70重量%、無機結合剤を15〜40重量%、赤外線不透明剤を0〜20重量%、微孔質物質を15〜50重量%、強化繊維の重量に対してB23最高で2重量%及びアルカリ金属酸化物最高で2重量%を含有する強化繊維を0.5〜8重量%を含有する断熱成形体(特許文献3)が知られている。しかしこれらの成形体は、熱伝導率が低く断熱性には優れているが、高温で焼成を行わなければならず、製造におけるエネルギーコストを要する。また得られた材料は脆いため、加工性が十分ではなく、粉っぽいので粉塵を発生させやすいという問題がある。さらに、この材料は耐水性を有していないので、吸水すると亀裂を生じてしまう。従って、断熱材として使用した場合、結露した水分を吸水して亀裂を生じ、断熱性が大幅に低下するという問題もある。
【0003】
また、非晶質珪酸にアンモニアを介在させた多孔質成形体としては、高純度シリカガラス質発泡体(特許文献4)及び耐熱性シリカ質発泡体(特許文献5)があるが、いずれもシリカ(ガラス)質発泡体であり、高温で発泡させる必要がある。
【0004】
インターネット上の(非特許文献1)には、パーライトのような非晶質シリカ系材料の粉体に水酸化ナトリウムなどのアルカリの水溶液を混合し、百数十℃の熱プレスで加圧成形する技術が開示されているが、加熱温度は特許文献1及び2よりも低いものの、加熱を必要とすること、また、水酸化ナトリウムを使用すると得られた多孔質成形体を高温で加熱した場合に、加熱収縮が大きくなるなど耐熱性能にも問題がある。
【特許文献1】特開平7−10651号公報
【特許文献2】特開平7−69752号公報
【特許文献3】特表2000−513693号公報
【特許文献4】特開平5−345636号公報
【特許文献5】特開平7−144934号公報
【非特許文献1】北海道立工業試験場技術情報Vol.24,No.2,p.6
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、加熱を必要とせずに硬化させることができ、高強度で耐熱性にも優れた多孔質成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、種々検討した結果、全く意外にも非晶質珪酸、補強繊維及び充填材を含有する原料を用いてアンモニアの存在下に加熱することなく硬化させるだけで、高強度で耐熱性および耐水性に優れる多孔質成形体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、非晶質珪酸、補強繊維及び充填材を含有する原料を成形し硬化させてなる多孔質成形体であって、アンモニアの存在下加熱することなく硬化させてなることを特徴とする多孔質成形体及びその製造法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の多孔質成形体は、加熱を必要とせずに硬化させることができるので製造におけるエネルギーコストを低く抑えることができ、高強度で耐熱性および耐水性に優れているので断熱材や建材に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の多孔質成形体の原料は、非晶質珪酸、補強繊維及び充填材を含む。ここで非晶質珪酸は、多孔質成形体としてのマトリックスを形成するための原料であり、非晶質珪酸の形態を有しているものであれば特に限定されない。例えば沈殿法により得られる含水珪酸やホワイトカーボン、ゲル法により得られるシリカゲルやゲル状シリカ、燃焼法により得られる乾式シリカが好適である。また、フライアッシュやシリカヒュームも使用可能である。
【0010】
非晶質珪酸の粒度等も特に限定はされないが、粒度の細かいものを使用すると、高強度の多孔質成形体を得やすい。例えば、一次粒子の平均粒子径2〜50nm、特に2〜10nmであり、この一次粒子が凝集して二次粒子を形成している微粒子状の非晶質珪酸が特に好ましい。
【0011】
非晶質珪酸が原料全体に占める比率は、熱伝導率及び強度発現性の点から乾燥状態での質量比として、30〜80%、さらに断熱材として使用する場合は35〜75%が好ましく、建材として使用する場合は40〜60%が好ましい。
【0012】
補強繊維は、主として多孔質成形体の強度を向上させるために使用する原料であり、建材用、断熱材用として従来から使用されている繊維を使用することができる。例えば、セルロースパルプ等の木質繊維、PAN(ポリアクリルニトリル)繊維、PVA(ポリビニルアルコール)繊維、PP(ポリプロピレン)繊維等の合成有機繊維;ガラス繊維;必要に応じてカーボン繊維やセラミック繊維等を用いることができる。
【0013】
補強繊維が原料全体に占める比率は、強度発現性及び製造時の成形性の点から乾燥状態での質量比として、1〜20%、さらに5〜15%が好ましい。
【0014】
充填材は、得られる多孔質成形体に用途によって必要とされる性能を向上させるために使用する原料であり、断熱材を主たる用途として使用する場合の充填材としては、熱遮蔽剤(TiO2、FeTiO3、ZrO2、ZrSiO2、Fe23、MnO2等の金属酸化物およびSiC)が好適である。一方、一般建材を主たる用途として使用する場合の充填材としては、ワラストナイト、マイカ等の加熱収縮率を低減させる骨材、炭酸カルシウム、ドロマイト、石膏等の耐火性能を向上させるための骨材が好適である。
【0015】
充填材が原料全体に占める比率は、熱伝導率及び強度発現性の点から乾燥状態での質量比として、5〜50%、さらに断熱材として使用する場合は20〜40%が好ましく、建材として使用する場合は10〜20%が好ましい。
【0016】
上記必須原料の他に、例えば、本発明になる多孔質成形体の廃材、切断残材、研磨粉等の粉末を原料として再利用してもよい。但し、原料全体に占める量は、乾燥状態での質量比率で50%以下がよい。50%を上回ると得られる多孔質成形体の強度が不十分となることがある。
【0017】
本発明の多孔質成形体は、上記原料を成形し、アンモニアの存在下に加熱することなく硬化させて得られる点に特徴がある。原料を硬化させるだけであれば、水酸化ナトリウムや水酸化リチウムを介在させることによっても可能であるが、これらを使用すると、ナトリウムやリチウムが多孔質成形体中に残存し、加熱されたときの収縮率が大きくなり耐熱性が低下する。アンモニアを使用した場合には、このような現象が生じない。
【0018】
アンモニアは溶液として原料に添加するのが好ましい。
アンモニアの添加量は、非晶質珪酸に対する質量比率で、非晶質珪酸/アンモニア=99.5/0.5〜50/50、さらに99.5/0.5〜70/30が好ましい。アンモニアの比率が上記を下回ると、非晶質珪酸を十分に硬化することができず、多孔質成形体としての十分な性能を得ることができない。アンモニアの比率が上記を上回ると、未反応のアンモニアが多孔質成形体中に残存して悪臭を発生させるので好ましくない。但し、成形体の物性上は特に問題はない。
アンモニア溶液の濃度は、特に限定されるものではないが、濃度が高い場合は劇物に該当するので、水又はアルコールで5〜30%に希釈して使用するのが好ましい。
【0019】
原料へのアンモニア溶液の添加は、原料を混合しながら添加してもよく、最初に原料を混合してからアンモニア溶液を添加し再度混合してもよい。また、成形方法として抄造法を使用する場合には、原料に水を加えて混合した原料スラリーを薄膜に抄造し、メーキング(成形)ロール上に所定厚さとなるまで巻き取ってメーキングロールから取り出すので、メーキングロールに巻き取る前に薄膜にアンモニア溶液を散布するのがよい。
【0020】
成形方法は特に限定されるものではなく、モールドプレス法、抄造法(上記)、押し出し成形法等の公知の方法を使用すればよい。
成形後、特に加熱等は必要とせず、室温で放置しておくだけで硬化させることができる。モールドプレス法や押し出し成形法等のあまり水を必要としない成形方法の場合には、成形を終了した時点で製品としての最低限の強度を得ることができる。抄造法等の多量の水を必要とする成形方法の場合には、成形後脱水を行うことにより製品としての最低限の強度を得ることができる。また、養生時間を設ければ、さらに強度を上昇させることができるし、特に養生時間を設けなくとも、成形工程以降の工程を実施している間も強度は上昇する。ここで加熱等は必要とせず、とは、特別な加熱をしないという意味であり、通常の、抄造法などの製造法で成形する場合に行う生産効率の向上を目的とした原料スラリー(原料を水と混合したもの)の加温や、硬化後に行う出荷時の含水率を調整するための加熱乾燥処理等は含まれる。従って、本発明における硬化温度は、5〜40℃、特に10〜30℃が好ましい。
【0021】
硬化させた多孔質成形体は、含水率を一定状態とし、残存したアンモニア、水分、有機溶剤(アルコール)を除去するために乾燥する。乾燥方法は特に制限されるものではないが、通常は105℃程度の加熱乾燥を用いる。なお、加熱乾燥によりアンモニアが除去されると、多孔質成形体の強度はそれ以上上昇しない。
【0022】
得られる多孔質成形体は、多孔質であって軽量であるにもかかわらず、優れた強度を有する。断熱材として使用する場合には、好ましい密度は250〜400kg/m3であり、曲げ強さは20〜50N/cm2である。また、建材として使用する場合には、好ましい密度は650〜750kg/m3であり、曲げ強さは10〜15N/mm2である。また、加熱収縮が少ない。また優れた断熱性も有する。
【実施例】
【0023】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0024】
実施例1〜7及び比較例1〜4
表1及び2記載の原料を秤量し、ヘンシェルミキサーで1500rpmにて3分間乾式混合した。次いで、濃度30%のアンモニア水をヘンシェルミキサー内に散布し、さらに1分間混合した。混合を完了した原料をモールドに投入して1.5〜2.5MPaのプレス圧で加圧成形し、所定の養生条件にて養生硬化して多孔質成形体を製造した。
【0025】
得られた多孔質成形体の密度、曲げ強さ、熱伝導率及び線収縮率を測定した。
(密度)JIS A 9510の6.6項に基づく。
(曲げ強さ)JIS A 9510の6.7項に基づく。
(熱伝導率)JIS R 2616の熱線法(3.5項の装置、4.2項の試験片、5.3項の操作)に基づく。
(線収縮率)JIS A 9510の6.9項に基づく。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
表1及び表2より、実施例1〜7多孔質成形体は、加熱することなく硬化したにもかかわらず、優れた硬度を有し、優れた熱伝導率を有し、かつ熱収縮が小さく、断熱材として有用である。一方、水酸化アルカリを用いた比較例1〜3は、強度は発現するが、加熱収縮が大きく、断熱材としての適用は困難である。
【0029】
実施例8〜14
表3記載の原料を用い表中に記載の条件以外は、実施例1〜7と同様にして多孔質成形体を製造した。得られた成形体の密度及び曲げ強さを実施例1〜7と同様にして測定した。また寸法変化率は、JIS A 5430の5.8項により測定した。
【0030】
【表3】

【0031】
表3より、実施例8〜14の多孔質成形体は、優れた曲げ強さを有し、かつ寸法変化率が小さく、内装材等の一般建材として有用である。
【0032】
実施例1〜14に対して、水滴を滴下して吸水させることによる亀裂発生の有無を目視観察したが、いずれの実施例についても、亀裂の発生は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質珪酸、補強繊維及び充填材を含有する原料を成形し硬化させてなる多孔質成形体であって、アンモニアの存在下加熱することなく硬化させてなることを特徴とする多孔質成形体。
【請求項2】
アンモニアが、アンモニア水である請求項1記載の多孔質成形体。
【請求項3】
硬化温度が5〜40℃である請求項1又は2記載の多孔質成形体。
【請求項4】
非晶質珪酸、補強繊維、充填材及びアンモニアを含有するスラリーを、脱水成形し、加熱することなく硬化させることを特徴とする多孔質成形体の製造方法。
【請求項5】
硬化温度が5〜40℃である請求項4記載の多孔質成形体の製造方法。

【公開番号】特開2006−56747(P2006−56747A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240611(P2004−240611)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000126609)株式会社エーアンドエーマテリアル (99)
【Fターム(参考)】