説明

多孔質樹脂体の製造方法

【課題】平均セル径が異なる部分を有した多孔質樹脂体の製造方法を提供する。
【解決手段】成形型1のキャビティ4に低温で調製された原料Dを注入した後、それよりも高温で調製された液状原料Dをほぼ満杯となるまで注入する。この液状原料D、Dは、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、水溶性高分子化合物と、分子内に酸素原子又は窒素原子を含む含酸素/窒素有機溶媒とを含むポリマードープである。親水性有機触媒よりなる抽出液と接触させ、液液抽出により液状原料D、D中の含酸素/窒素有機溶媒を抽出し、液状原料D、Dを固化させる。液状原料D、Dが固化した後、固化物を脱型し、次いでこの固化物を水と接触させて水溶性高分子化合物と、親水性有機触媒と、残留する含酸素/窒素有機溶媒を抽出することにより円筒状の多孔質樹脂体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質樹脂体の製造方法に係り、特に平均セル径が異なる部分を有した多孔質樹脂体の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明はカフ部材に用いるのに好適な多孔質樹脂体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年発達した補助人工心臓や腹膜透析などの療法で使用されるカニューレやカテーテルは、外界へ開放された脈管へ挿入・留置される尿道カテーテル、経消化管的栄養法及び気道確保術などと異なり、皮下組織を切開した上で刺入を行って生体内に留置する必要がある。生体内への留置が長期間へ及ぶ場合、生体内と外界を隔て、生体内への細菌の侵入や体液水分の揮発を防止するためにカフ部材(スキンカフなどともいう)を利用して疑似的に刺入部を密閉することが行われている。従来、補助人工心臓による血液循環法では、主としてポリエステル繊維からなるファブリックベロアを刺入カニューレに巻き付け、刺入部において該ファブリックベロアと皮下組織を縫合することで固定し、カニューレを留置している。腹膜透析療法においても、ポリエステル繊維からなるファブッリクベロアなどをカフ部材としてカテーテルの皮膚刺入位置に固定し、このカフ部材を圧迫するように皮下組織を縫合することでカテーテルを留置している。これらファブリックベロアにはコラーゲンなどを含浸させ、より頑強な癒着を狙ったものもある。また、生体適合性に優れる部材からなるカフ部材を刺入部の皮下組織に固定させる方法もある。
【0003】
多孔質樹脂製のカフ部材を製造する方法として、熱可塑性ポリウレタン樹脂、有機溶媒及び水溶性高分子化合物よりポリマードープを調製し、次いで熱可塑性ポリウレタン樹脂の貧溶媒を含有する凝固浴中に浸漬し、凝固浴中に有機溶媒及び水溶性高分子化合物を抽出除去する方法が下記特許文献1〜3に記載されている。このようにこのポリマードープの固化物から有機溶媒及び水溶性高分子化合物を除去することにより、ポリウレタン樹脂からなる多孔性三次元網状構造材料を得ることができる。
【特許文献1】特開2003−253035号
【特許文献2】特開2004−97267号
【特許文献3】特開2007−98116号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多孔質ポリウレタン樹脂よりなるカフ部材として、生体内に配置される部分の平均セル径が比較的大きく、生体外に配置される部分の平均セル径が比較的小さいものが望まれている。平均セル径が大きいと、細胞がセル内に入り易くなる。一方、平均セル径が小さいと、外部からの異物がセル径に侵入しにくいものとなる。また、細胞がカフ部材の生体外側へ移入しにくくなる。
【0005】
本発明は、平均セル径が異なる部分を有した多孔質樹脂体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の多孔質樹脂体の製造方法は、第2の抽出工程に用いられる第2の抽出媒体に対して難溶な合成樹脂と、該合成樹脂を溶解する溶媒と、該第2の抽出媒体に対して易溶な成分とを含む液状原料を成形型内に供給し、該溶媒を第1の抽出媒体で抽出することにより固化させて固化体を成形する第1の抽出工程と、該固化体を第2の抽出媒体と接触させて前記易溶成分を抽出する第2の抽出工程とを有する多孔質樹脂体の製造方法において、前記成形型内に第1の液状原料を供給した後、少なくとも第2の液状原料を供給し、その後、前記第1の抽出工程を行うようにした方法であって、該第1の液状原料から製造される多孔質樹脂体の平均セル径が第2の液状原料から製造される多孔質樹脂体の平均セル径と異なるものとなるように第1の液状原料と第2の液状原料との性状が異なることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2の多孔質樹脂体の製造方法は、請求項1において、前記成形型は、外筒と、該外筒の内部に同軸的に配置された内筒とを有し、該外筒と内筒との間がキャビティとなっており、該外筒及び内筒は、前記液状原料に対し不透過性であり、前記第1の抽出溶体に対し透過性であり、該成形型を筒軸心線方向を上下方向とし、前記キャビティにまず第1の液状原料を供給し、所定時間経過後に、第2の液状原料を供給することを特徴とするものである。
【0008】
請求項3の多孔質樹脂体の製造方法は、請求項1又は2において、前記多孔質樹脂は多孔質ポリウレタン樹脂であり、前記第1及び第2の液状原料は、前記合成樹脂としての熱可塑性ポリウレタン樹脂と、前記易溶成分としての水溶性高分子材料と、前記溶媒としての、分子内に酸素原子又は窒素原子を含む含酸素/窒素有機溶媒とを混合して調製したポリマードープであり、前記第1の抽出工程では、第1及び第2の液状原料を第1の抽出媒体としての親水性有機溶媒と接触させて該液状原料中の含酸素/窒素有機溶媒を抽出することにより第1及び第2の液状原料を固化させ、前記第2の抽出工程では、固化体を前記第2の抽出媒体としての水と接触させて水溶性高分子材料を抽出することを特徴とするものである。
【0009】
請求項4の多孔質樹脂体の製造方法は、請求項3において、前記第1の液状原料と第2の液状原料とは、同組成であり、ポリマードープを調製する混合時の温度が異なることを特徴とするものである。
【0010】
請求項5の多孔質樹脂体の製造方法は、請求項3又は4において、該ポリマードープが、熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜90重量部と、前記水溶性高分子化合物0.2〜90重量部と、前記含酸素/窒素有機溶媒0.2〜99.6重量部とを合計で100重量部含むことを特徴とするものである。
【0011】
請求項6の多孔質樹脂体の製造方法は、請求項5において、該ポリマードープが熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜50重量部と、前記水溶性高分子化合物0.2〜50重量部と、前記含酸素/窒素有機溶媒0.2〜99.6重量部とを含むことを特徴とするものである。
【0012】
請求項7の多孔質樹脂体の製造方法は、請求項5又は6において、前記親水性有機溶媒がメタノール、エタノール、プロパノール及びアセトン並びにこれらの誘導体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項8の多孔質樹脂体の製造方法は、請求項5ないし7のいずれか1項において、前記含酸素/窒素有機溶媒がテトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン及びそれらの単純置換体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするものである。
【0014】
請求項9の多孔質樹脂体の製造方法は、請求項5ないし8のいずれか1項において、前記水溶性高分子化合物がセルロースエーテル化体であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項10の多孔質樹脂体の製造方法は、請求項9において、前記水溶性高分子化合物がカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によって製造される多孔質体樹脂体は、合成樹脂を溶解していた溶媒の抽出痕よりなるマクロポア(ミクロポアに比較して大きな気孔)と、水溶性高分子などの易溶成分の抽出痕よりなるミクロポア(微細気孔)とを有している。この多孔質樹脂体は、第1の液状原料から製造された部分と第2の液状原料から製造された部分とで、平均セル径が異なる。例えば、混合時の液状原料の温度が低いと、それから形成される多孔質樹脂体の平均セル径が大きくなり、混合時の液状原料の温度が高いと、それから形成される多孔質樹脂体の平均セル径が小さくなる。
【0017】
従って、この方法でカフ部材を製造する場合、混合時の液状原料の温度を異ならせることにより、生体内に配置される部分については平均セル径を大きくし、生体外に配置される部分については平均セル径を小さくすることができる。
【0018】
この液状原料は、ポリマードープなどよりなり、粘性が比較的高い。そのため、成形型としては、液状原料に対しては不透過性であり、溶媒に対しては透過性である濾紙等の紙や、織布又は不織布などよりなるものを用いるのが好ましい。
【0019】
本発明の多孔質樹脂体の製造方法は、好ましくは、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、水溶性高分子化合物と、分子内に酸素原子又は窒素原子を含む含酸素/窒素有機溶媒とを混合して調製したポリマードープを、親水性有機溶媒を含む凝固浴中に浸漬し、前記含酸素/窒素有機溶媒を抽出除去して前記熱可塑性ポリウレタン樹脂を凝固せしめた後、前記水溶性高分子化合物を水によって抽出除去する工程を含む。
【0020】
この方法においては、孔形成剤としてポリマードープ中に混合分散させる水溶性高分子化合物として、セルロースエステルを用いるのが好ましい。
【0021】
このような親水性有機溶媒への溶解性の低い水溶性高分子化合物を孔形成剤として分散させたポリマードープを親水性有機溶媒中に浸漬し、熱可塑性ポリウレタン樹脂の良溶媒である含酸素/窒素有機溶媒のみを選択的に抽出除去し、かつ、この良溶媒の抜けたサイトに親水性有機溶媒を侵入させることができるため、高次構造が維持されたまま熱可塑性ポリウレタン樹脂を凝固させることができる。この含酸素/窒素有機溶媒を抽出した後、水溶性高分子化合物を抽出除去することにより、三次元網状構造を有した多孔性材料が製造される。
【0022】
この三次元網状構造の多孔体は、平均孔径が50〜1,000μm、見掛け密度が0.01〜0.5g/cmであることが好ましい。
【0023】
上記のポリマードープとして、同組成であるが、調製に際しての混合時の温度を異ならせることにより、ポリマードープの性状が異なったものとなり、この結果、各々のポリマードープから成形された部分同士で平均セル径が異なったものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0025】
第1図は実施の形態に係る多孔質樹脂体の製造方法に用いられる成形型の斜視図であり、第2図(a),(b),(c)はこの成形方法を説明する断面図である。
【0026】
この実施の形態では、まず第1図及び第2図(a)に示す成形型を製造する。この実施の形態では、成形型1は、外筒2と、該外筒2内に同軸的に配置された内筒3と、該外筒2と内筒3との間のキャビティ4を下側から閉塞する底蓋5とを有する。
【0027】
外筒2及び内筒3は、後述する液状原料D、Dを透過させず、抽出溶媒を透過させる材料よりなる。この材料としては紙特に濾紙が好適である。底蓋5は、離型性に優れたPTFEなどのフッ素樹脂製とされることが好ましいが、材料はこれに限定されない。
【0028】
第2図(a)の通り、成形型1の軸心線方向が上下方向となるように配置する。
【0029】
この状態で第2図(b)の通り成形型1のキャビティ4に第1の液状原料Dを注入した後、好ましくは所定時間(例えば1〜100分特に10〜50分程度)経過した後、第2図(c)の通り、第2の液状原料Dをほぼ満杯となるまで注入する。次いで、底蓋5と同型の上蓋6を装着し、キャビティ4を密閉する。
【0030】
この液状原料D,Dは、好ましくは、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、水溶性高分子化合物と、分子内に酸素原子又は窒素原子を含む含酸素/窒素有機溶媒とを含むポリマードープである。この液状原料(ポリマードープ)DとDとでは、調製のための混合時の温度が異なっている。このポリマードープの好適な組成及び混合時の温度については後述する。
【0031】
この状態で、成形型1を親水性有機触媒よりなる第1の抽出媒体と接触させ、液液抽出により液状原料D、D中の含酸素/窒素有機溶媒を抽出し、液状原料D、Dを固化させる(第1の抽出工程)。
【0032】
液状原料D、Dが固化した後、固化物を脱型し、次いでこの固化物を第2の抽出媒体としての水と接触させて水溶性高分子化合物と、親水性有機触媒と、残留する含酸素/窒素有機溶媒を抽出する(第2の抽出工程)ことにより、円筒状の多孔質樹脂体が得られる。この樹脂体は、水溶性高分子材料の抽出痕よりなる気孔を有した多孔質樹脂製である。なお、水溶性高分子化合物の抽出処理は脱型前に行われてもよい。
【0033】
この実施の形態では、第1の液状原料Dと第2の液状原料Dとは、同組成であり、Dの調製時の混合温度TがDの調製時の混合温度Tよりも低いものとなっている。
【0034】
この多孔質樹脂体では、第1の液状原料Dから製造された部分の平均セル径は、第2の液状原料Dから製造された部分の平均セル径よりも大きいものとなる。従って、この多孔質樹脂体をカフ部分として用いる場合、第1の液状原料Dから製造された部分を生体内に配置し、第2の液状原料Dから製造された部分を生体外に配置することが好ましい。
【0035】
以下、上記の液状原料(ポリマードープ)の好適な組成と調製条件、抽出条件等について説明する。
【0036】
ポリマードープとしては、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、孔形成剤である水溶性高分子化合物と、熱可塑性ポリウレタン樹脂の良溶媒である含酸素/窒素有機溶媒とを混合したものが好適である。具体的には、熱可塑性ポリウレタン樹脂を含酸素/窒素有機溶媒に混合して均一溶液とした後、この溶液中に水溶性高分子化合物を混合分散させるのが好ましい。
【0037】
このポリマードープの組成としては、熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜90重量部、水溶性高分子化合物0.2〜90重量部、含酸素/窒素有機溶媒0.2〜99.6重量部の範囲とすることが好ましく(ただし、熱可塑性ポリウレタン樹脂、水溶性高分子化合物及び含酸素/窒素有機溶媒の合計で100重量部とする。)、特に好ましくは、熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜50重量部、水溶性高分子化合物0.2〜50重量部、含酸素/窒素有機溶媒0.2〜99.6重量部、とりわけ好ましくは、熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜20重量部、水溶性高分子化合物0.2〜20重量部、含酸素/窒素有機溶媒60〜99.6重量部である。
【0038】
水溶性高分子化合物としては、セルロースエーテル化体が好適であり、具体的にはカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースよりなる群から選ばれる1種又は2種以上が好適である。
【0039】
熱可塑性ポリウレタン樹脂と水溶性高分子化合物との混合割合は、好ましくは熱可塑性ポリウレタン樹脂:水溶性高分子化合物=1:0.1〜10(重量比)、特に好ましくは1:0.1〜2.0である。
【0040】
熱可塑性ポリウレタン樹脂の良溶媒としての含酸素/窒素有機溶媒は、分子内に酸素原子又は窒素原子を含む有機溶媒であり、具体的にはテトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン及びこれらの単純置換体を使用することが可能である。これらの含酸素/窒素有機溶媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。なお、単純置換体とは、例えば、2−メチルピリジン、2−メチルテトラヒドロフラン、2−ピロリドンのように複素環にアルカン原子が導入されたものや、その逆に水素原子が導入されたものを指す。
【0041】
このポリマードープを調製するには、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、水溶性高分子化合物と、含酸素/窒素有機溶媒とを混合すればよい。第1の液状原料(ポリマードープ)Dを調製するときの混合温度tと、第2の液状原料Dを調製するときの混合温度tとの差t−tは5〜60℃特に20〜40℃程度が好ましい。なお、tは10〜50℃特に20〜40℃程度が好ましい。混合時の液状原料の温度が高いと、それから形成される多孔質樹脂体の平均セル径が小さくなる理由については、ポリマー溶液の粘度が低く溶媒の交換が速やかに行われ、急速に固化するためであると考えられる。
【0042】
ただし、本発明では、ポリマードープの組成を異ならせることにより、得られる多孔質樹脂体の各部分の平均セル径を異ならせるようにしてもよい。
【0043】
熱可塑性ポリウレタン樹脂、含酸素/窒素有機溶媒及び水溶性高分子化合物より調製されたポリマードープD,Dは、成形型内に注入された後、親水性有機溶媒を含む凝固液中に浸漬され、含酸素/窒素有機溶媒が抽出除去されることにより凝固する。
【0044】
この含酸素/窒素有機溶媒を抽出する親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール及びアセトン並びにこれらの誘導体が例示できるが、この限りではない。これらの親水性有機溶媒は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0045】
水溶性高分子化合物としてセルロースエーテル化体を用いた場合、凝固浴の親水性有機溶媒(第1の抽出媒体)の温度としては10℃以上、例えば10〜50℃であることが好ましい。これはセルロースエーテル化体の溶解度を考慮して設定された温度であり、低温度にて溶解性が発現され易いセルロースエーテル化体をポリマードープ中に保持させるために必要な温度である。従って、凝固浴の親水性有機溶媒の温度はより高い温度、例えば40℃以上であることがより好ましく、該親水性有機溶媒の0.1MPa(760mmHg)での沸点温度以上であること、即ち、還流状態で凝固を行うことも好ましい。
【0046】
この含酸素/窒素有機溶媒の抽出除去に当たり、ポリマードープ及び凝固浴を減圧状態にすることも可能である。これにより、凝固浴の親水性有機溶媒だけでなく熱可塑性ポリウレタン樹脂の良溶媒の沸点も下がり、該良溶媒の凝固浴への拡散を助長させる効果が得られる。
【0047】
このようにして、含酸素/窒素有機溶媒を抽出除去して熱可塑性ポリウレタン樹脂を凝固させた後は、孔形成剤の水溶性高分子化合物を抽出除去することにより、熱可塑性ポリウレタン樹脂製多孔性材料を得ることができる。この水溶性高分子化合物の抽出除去は、
水を用いて容易に行うことができる。
【0048】
このようなポリマードープの抽出処理により製造される熱可塑性ポリウレタン樹脂製多孔性材料は、一般的には、平均セル径0.1〜500μm、好ましくは0.1〜200μmの熱可塑性ポリウレタン樹脂製多孔性材料である。
【0049】
混合時の温度tを20〜50℃とした第1のポリマードープDから製造される熱可塑性ポリウレタン樹脂の平均セル径は200〜1000μmである。また、混合時の温度tをtよりも10〜40℃高くした第2のポリマードープDから製造される熱可塑性ポリウレタン樹脂の平均セル径は100〜300μmである。
【0050】
なお、高温で混合されたポリマードープを先にキャビティに注入し、低温で混合されたポリマードープを後からキャビティに注入するようにしてもよい。また、混合時の温度が異なる3種類以上のポリマードープを注入してもよく、この場合、各ポリマードープの注入順序は任意である。
【0051】
この平均セル径の測定方法は次の通りである。
【0052】
[平均孔径の測定]
両刃カミソリで切断した試料の平面(切断面)を電子顕微鏡(トプコン社製、SM200)にて撮影した写真を使用して、同一平面上の個々の孔を三次元網状構造の骨格から包囲された図形として画像処理(画像処理装置はニレコ社のLUZEX APを使用し、画像取り込みCCDカメラはソニー株式会社のLE N50を使用。)し、個々の図形の面積を測定する。これを真円面積とし、対応する円の直径を求め孔径とする。ただし、多孔体形成時の相分離の効果によって、多孔体の骨格部分に穿孔されている微細孔は無視して同一平面上の連通孔のみを測定する。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0054】
実施例1
(1)第1のポリマードープDの調製
熱可塑性ポリウレタン樹脂(日本ミラクトラン社製,ミラクトランE980PNAT)をN−メチル−2−ピロリジノン(関東化学社製,ペプチド合成用試薬,NMP)にディゾルバー(約1000rpm)を使用して室温下で溶解して12.5%溶液(重量/重量)を得た。このNMP溶液約1.0kgをプラネタリーミキサー(井上製作所製,2.0L仕込み,PLM−2型)に秤量して入れ、溶液中のポリウレタン樹脂の50%重量相当のメチルセルロース(関東化学社,50cpグレード)を40℃で120分間混合し、その後攪拌を継続したまま10分間、20mmHg(2.7kPa)まで減圧して脱泡し、ポリマードープDを得た。
【0055】
(2)第2のポリマードープDの調製
プラネタリーミキサーでの混合時の温度を70℃としたこと以外は(1)と全く同様にして第2のポリマードープDを調製した。
【0056】
(3)成形型本体の作成
化学実験用濾紙(東洋濾紙社製,定性分析用,2番)を約6回、円筒状に巻回することにより、内径50mm、長さ100mmの外筒と、外径42mm、長さ100mmの内筒とを作成した。これらを第1図の通り同軸的に配置し、PTFE製の底蓋5を装着することにより、成形型1とした。
【0057】
(4)ポリマードープの注入
この成形型内に、第2図(b),(c)の如く、(1)で調製したポリマードープDを約半分の高さ(約50mm)まで注入し、30分経過後、(2)で調製したポリマードープDを満杯まで注入した。次いで、PTFE製の上蓋6を装着してキャビティを密閉した。
【0058】
(4)第1の抽出工程
この成形型を50℃に温調された2リットルのメタノール中へ浸漬し、24時間ごとに新液に交換し、96時間濾紙面からNMP溶媒を抽出除去することでポリウレタン樹脂を凝固させた。
【0059】
(5)第2の抽出工程
その後、成形型1から固化物を脱型し、日本薬局方精製水中で72時間洗浄することによりメチルセルロース、メタノール及び残留するNMPを抽出除去した。洗浄用の水は随時新液を供給した。これを室温下で24時間減圧(20mmHg)乾燥させて円筒形の多孔質樹脂体を得た。
【0060】
この多孔質樹脂体のうち、第1のポリマードープD(混合温度40℃)より成形された長手方向の一半側では平均セル径は400μmであり、第2のポリマードープD(混合温度60℃)より成形された他半側では、平均セル径は150μmであった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施の形態に係る多孔質樹脂体の製造方法に用いられる成形型の斜視図である。
【図2】実施の形態に係る多孔質樹脂体の製造方法を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 成形型
2 外筒
3 内筒
4 キャビティ
5 底蓋
6 上蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2の抽出工程に用いられる第2の抽出媒体に対して難溶な合成樹脂と、該合成樹脂を溶解する溶媒と、該第2の抽出媒体に対して易溶な成分とを含む液状原料を成形型内に供給し、該溶媒を第1の抽出媒体で抽出することにより固化させて固化体を成形する第1の抽出工程と、
該固化体を第2の抽出媒体と接触させて前記易溶成分を抽出する第2の抽出工程と
を有する多孔質樹脂体の製造方法において、
前記成形型内に第1の液状原料を供給した後、少なくとも第2の液状原料を供給し、その後、前記第1の抽出工程を行うようにした方法であって、
該第1の液状原料から製造される多孔質樹脂体の平均セル径が第2の液状原料から製造される多孔質樹脂体の平均セル径と異なるものとなるように第1の液状原料と第2の液状原料との性状が異なることを特徴とする多孔質樹脂体の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記成形型は、外筒と、該外筒の内部に同軸的に配置された内筒とを有し、該外筒と内筒との間がキャビティとなっており、
該外筒及び内筒は、前記液状原料に対し不透過性であり、前記第1の抽出溶体に対し透過性であり、
該成形型を筒軸心線方向を上下方向とし、前記キャビティにまず第1の液状原料を供給し、所定時間経過後に、第2の液状原料を供給することを特徴とする多孔質樹脂体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記多孔質樹脂は多孔質ポリウレタン樹脂であり、
前記第1及び第2の液状原料は、前記合成樹脂としての熱可塑性ポリウレタン樹脂と、前記易溶成分としての水溶性高分子材料と、前記溶媒としての、分子内に酸素原子又は窒素原子を含む含酸素/窒素有機溶媒とを混合して調製したポリマードープであり、
前記第1の抽出工程では、第1及び第2の液状原料を第1の抽出媒体としての親水性有機溶媒と接触させて該液状原料中の含酸素/窒素有機溶媒を抽出することにより第1及び第2の液状原料を固化させ、
前記第2の抽出工程では、固化体を前記第2の抽出媒体としての水と接触させて水溶性高分子材料を抽出することを特徴とする多孔質樹脂体の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、前記第1の液状原料と第2の液状原料とは、同組成であり、ポリマードープを調製する混合時の温度が異なることを特徴とする多孔質樹脂体の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4において、該ポリマードープが、熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜90重量部と、前記水溶性高分子化合物0.2〜90重量部と、前記含酸素/窒素有機溶媒0.2〜99.6重量部とを合計で100重量部含むことを特徴とする多孔質樹脂体の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、該ポリマードープが熱可塑性ポリウレタン樹脂0.2〜50重量部と、前記水溶性高分子化合物0.2〜50重量部と、前記含酸素/窒素有機溶媒0.2〜99.6重量部とを含むことを特徴とする多孔質樹脂体の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6において、前記親水性有機溶媒がメタノール、エタノール、プロパノール及びアセトン並びにこれらの誘導体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする多孔質樹脂体の製造方法。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれか1項において、前記含酸素/窒素有機溶媒がテトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン及びそれらの単純置換体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする多孔質樹脂体の製造方法。
【請求項9】
請求項5ないし8のいずれか1項において、前記水溶性高分子化合物がセルロースエーテル化体であることを特徴とする多孔質樹脂体の製造方法。
【請求項10】
請求項9において、前記水溶性高分子化合物がカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする多孔質樹脂体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−120740(P2009−120740A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−296915(P2007−296915)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】