説明

多孔質炭素材料とその製造方法および電気二重層キャパシタ

【課題】 体積固有抵抗が低くかつ充放電時の膨張率が小さい多孔質炭素材料とその製造方法ならびにその多孔質炭素材料を分極性電極に用いた電気二重層キャパシタを提供する。
【解決手段】 平均粒径を20μm以下に調整したメソフェーズ小球体を賦活化処理する、平均粒径が20μm超のメソフェーズ小球体を賦活化処理したのち粉砕、分級処理して平均粒径を20μm以下に調整する、平均粒径が20μm超のメソフェーズ小球体を粉砕、分級処理して平均粒径を20μm以下に調整したのち賦活化処理するあるいは上記いずれか1以上の方法で得た平均粒径20μm以下メソフェーズ小球体を混合する方法により、平均粒径を20μm以下で、体積固有抵抗が80mΩ・cm以下、充放電時の膨張率が120%以下の多孔質炭素材料を得、これを電気二重層キャパシタの分極性電極材料として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積固有抵抗が低くかつ充放電時における膨張率が小さい多孔質炭素材料とその製造方法およびこの多孔質炭素材料を用いた電気二重層キャパシタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタは、エネルギー貯蔵デバイスのひとつであり、多孔質炭素材料を含む一対の分極性電極とセパレータ、電解質溶液などにより構成されている。この電気二重層キャパシタは、充放電の機構が電気化学反応を伴わず、分極性電極界面への電解質の正・負イオンの単純な吸脱着によるものであるため、瞬時充放電特性に優れる、広い温度範囲で安定した充放電特性を示す、繰り返しによる性能低下が少なく長寿命である等、一般的なエネルギー貯蔵デバイスである二次電池には無い優れた特長を有している。
【0003】
この電気二重層キャパシタの静電容量は、分極性電極の表面積と比例関係にあるとされている。そのため、従来から、比表面積の大きな多孔質材料を分極性電極に使用することにより、静電容量の大きい電気二重層キャパシタを得ることが検討されてきた。このような多孔質材料としては、高い導電性を示し、電気化学的に比較的安定で、比表面積の大きい活性炭(多孔質炭素材料)が一般に使用されている。この活性炭は、石炭、石炭コークス、ヤシ殻、木粉、樹脂などを、必要に応じて炭化して得た炭素質原料を、水蒸気、空気、酸素、CO2などの酸化性ガスまたは塩化亜鉛、水酸化カリウムなどの薬品により微細孔化して表面積を広げる賦活化(多孔質化)処理を施したものである。
【0004】
ところで、近年開発される電子機器や電気自動車などは、低抵抗化が求められており、これらの用途に使用されるエネルギーデバイスとしての電気二重層キャパシタに対しても、低電気抵抗化の要求が強くなっている。電気二重層キャパシタの低電気抵抗化のためには、その分極性電極に、導電性に優れる易黒鉛化性炭素材料と称されるソフトカーボン系炭素材料を賦活化処理して得られる多孔質炭素材料を使用することが好ましい。この多孔質炭素材料が高い導電性を示す理由は、網面構造が比較的発達しているためと言われている。
【0005】
ところが、網面構造が比較的発達している多孔質炭素材料を、電気二重層キャパシタの分極性電極に使用した場合には、充放電時に電極の膨張が著しく、電気二重層キャパシタが、膨張してしまうという問題が指摘されている。例えば、特許文献1には、石油コークスややし殻炭等の炭素材料に賦活処理を施して得た層間距離が0.365〜0.385nmの黒鉛類似の微結晶炭素からなる炭素質材料を、電気二重層コンデンサの分極性電極として用いた場合には、大きな静電容量が得られる反面、電圧印加時に炭素材料が大きく膨張することが開示されている。
【0006】
そのため、この特許文献1に開示された技術では、分極性電極を、電圧印加時の膨張を制限する寸法制限構造体中に保持している。しかし、このような膨張に抗する機構は、大がかりなものとなるため、電気二重層キャパシタセルの大型化を招き、実質的な単位体積当たりの静電容量の増加は望めない。従って、電圧印加時における多孔質炭素材料の膨張そのものを抑制しない限り、本質的な解決にはなり得ない。
【0007】
この充放電時に生じる多孔質炭素材料の膨張を抑制する方法については、幾つかの技術が提案されている。例えば、特許文献2には、加熱により難黒鉛化炭素を形成する炭素源と加熱により易黒鉛化炭素を形成する炭素源とを均一に混合した後、炭化、賦活処理して得た活性炭は、静電容量が高く、充放電サイクルの繰り返しによる劣化が少ないだけでなく、充放電時の活性炭粒子の体積変化が抑制されるという、両炭素源由来の活性炭のもつ利点を併せもつことが開示されている。また、特許文献3には、原料炭化物の結晶構造を調整し、それを最適な条件で賦活化することにより、体積容量が高く、膨張を抑制した多孔質炭素材料が得られることが開示されている。
【特許文献1】特開平11−317333号公報
【特許文献2】特開2002−083748号公報
【特許文献3】特開2004−014762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2に開示された多孔質炭素材料は、難黒鉛化炭素を含有するため、固有抵抗が高く、そのため電気二重層キャパシタとした場合の抵抗成分が多くなるという問題がある。また、特許文献3に開示された多孔質炭素材料は、コールタールピッチを使用し、コールタールピッチの1次QI(キノリン不溶分)の含有量や軟化点、炭化処理時の雰囲気や温度および賦活化処理時の温度を厳密にコントロールして等方性の構造を形成させたものと推定され、膨張は抑制されるものの固有抵抗が高くなり、その結果、特許文献2と同様の問題がある。
【0009】
本発明の目的は、体積固有抵抗が小さくかつ充放電時の膨張が小さい多孔質炭素材料とその製造方法ならびにその多孔質炭素材料を分極性電極に用いた高性能な電気二重層キャパシタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、ソフトカーボン系炭素材料のうち、メソフェーズ小球体を原料とし、これを賦活化処理して得られる多孔質炭素材料は、他のソフトカーボン系炭素材料であるバルクメソフェーズを賦活化処理して得られる多孔質炭素材料と比較して、充放電時における膨張率が小さいことを見出した。そして、さらに鋭意検討した結果、賦活化処理を施したメソフェーズ小球体の平均粒径を20μm以下に調整すれば、充放電時における膨張をさらに抑制でき、かつ体積固有抵抗も低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、体積固有抵抗が80mΩ・cm以下、充放電時の膨張率が120%以下の賦活化処理されたメソフェーズ小球体からなることを特徴とする多孔質炭素材料である。
【0012】
また、本発明は、下記(1)〜(4)のいずれか1の方法により、平均粒径を20μm以下で、体積固有抵抗が80mΩ・cm以下、充放電時の膨張率が120%以下の多孔質炭素材料とすることを特徴とする多孔質炭素材料の製造方法を提案する。

(1)平均粒径を20μm以下に調整したメソフェーズ小球体を賦活化処理する。
(2)平均粒径が20μm超のメソフェーズ小球体を賦活化処理したのち粉砕、分級処理して平均粒径を20μm以下に調整する。
(3)平均粒径が20μm超のメソフェーズ小球体を粉砕、分級処理して平均粒径を20μm以下に調整したのち賦活化処理する。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか2以上の方法で得た平均粒径が20μm以下の多孔質炭素材料を混合する。
【0013】
また本発明は、分極性電極が、体積固有抵抗が80mΩ・cm以下、充放電時の膨張率が120%以下の賦活化処理されたメソフェーズ小球体からなる多孔質炭素材料によって構成されていることを特徴とする電気二重層キャパシタを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、体積固有抵抗が低く、しかも充放電時における膨張率が小さい多孔質炭素材料を得ることができるので、この多孔質炭素材料を用いた分極性電極を具えた電気二重層キャパシタは、低電気抵抗と低膨張の両立を可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る多孔質炭素材料について説明する。
本発明の多孔質炭素材料は、体積固有抵抗が80mΩ・cm以下でかつ充放電時の膨張率が120%以下のものであることが必要である。
体積固有抵抗:80mΩ・cm以下
体積固有抵抗は、荷重下にある電極間の多孔質炭素材料の電気抵抗から求められる値のことである。この体積固有抵抗が大きい場合には、充放電時の電流密度が増加したときに、内部抵抗が大きくなり発熱の原因となる。そのため、本発明においては、体積固有抵抗を80mΩ・cm以下に制限する。好ましくは、60mΩ・cm以下である。なお、体積固有抵抗の具体的な測定方法については、実施例において説明する。
【0016】
充放電時の膨張率:120%以下
充放電時の膨張率とは、多孔質炭素材料を用いた分極性電極を電気二重層キャパシタセルとして組み立て、充放電を繰り返した時の、電極/セパレータ/電極の積層構造の初期値に対する鉛直方向への増加分から求める値である。この膨張率が大きいと、電気二重層キャパシタセルが膨張し、最悪の場合、セルが破壊される虞があるため、充放電時の膨張率は120%以下に制限する必要がある。なお、放電時の膨張率の具体的な測定方法については、実施例において説明する。
【0017】
次に、本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法について説明する。
上記体積固有抵抗および充放電時の膨張率で規定された本発明の多孔質炭素材料は、賦活化処理したメソフェーズ小球体の平均粒径を、適正範囲に制御する、具体的には、20μm以下に制御することによって得ることができる。
【0018】
本発明の多孔質炭素材料は、メソフェーズ小球体を原料として製造される。このメソフェーズ小球体は、石炭系のタールやピッチあるいは石油系の重質油やピッチなどのピッチ類を、350〜500℃で0.5〜10時間程度の加熱処理を施すことで得ることができる。メソフェーズ小球体が生成したピッチ類は、そのまま、次工程で賦活化処理してもよいし、キノリンやタール油などの溶剤を用いて洗浄してから賦活化処理してもよい。メソフェーズ小球体は、球状の黒鉛前駆体であって、結晶性が比較的発達しており、加熱処理することにより黒鉛状の層構造を容易に形成する。そのため、比較的低温の黒鉛化促進処理でも、電気抵抗が小さいミクロ構造とすることができる。なお、本発明では、体積固有抵抗値をさらに低減させるために、必要に応じてメソフェーズ小球体に炭化促進処理を施したものを用いてもよい。この場合の処理温度は、炭化の程度に応じて500〜850℃の範囲の中から適宜選択すればよい。また、このメソフェーズ小球体は、市販品としても入手することができる。
【0019】
上記のようにして得たメソフェーズ小球体は、多孔質化し、表面積を拡大するための賦活化処理を施す。この賦活化処理の方法としては、アルカリ賦活化処理が好適である。アルカリ賦活化処理は、通常のアルカリ賦活化処理と同様の方法で行うことができ、メソフェーズ小球体を、アルカリ金属化合物の存在下で、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中で600〜900℃の温度で加熱することが好ましい。加熱温度は、600℃より低温では、十分な比表面積が得られ難く、体積固有抵抗値が大きくなり、本発明の目的である低抵抗化を達成し難い。一方、900℃を超える高温加熱では、アルカリ金属化合物による装置腐食の問題が発生するからである。より好ましい加熱温度は、650〜850℃の範囲である。また、賦活化処理の時間は、0.5〜10時間の範囲が好ましい。0.5時間未満では、十分な比表面積が得られ難く、一方、10時間を超えると多孔質化が過度に進行して、必要以上に比表面積が大きくなる他、細孔の合一などにより密度が低下する。
【0020】
また、賦活化処理時に使用するアルカリ金属化合物は、特に限定されるものではなく、KOHやNaOH,CsOHなどを1種または複数組み合わせて用いることができる。アルカリ金属化合物の使用量は、所望する比表面積によっても異なるが、原料となるメソフェーズ小球体に対して、質量比で0.5〜4倍程度が好ましい。アルカリ賦活化処理したメソフェーズ小球体は、その後、塩酸溶液などで中和した後、イオン交換水などで洗浄して最終製品である多孔質炭素材料とする。なお、上記説明では、アルカリ賦活化処理について説明したが、他の賦活化処理、例えば水蒸気賦活などの賦活化処理を行うこともできる。
【0021】
本発明において用いる多孔質炭素材料は、体積固有抵抗を80mΩ・cm以下、かつ充放電時における膨張率を120%以下とするためには、平均粒径が20μm以下であることが必要であり、好ましくは、10μm以下である。平均粒径の下限は特に限定されないが、1μm以上が好ましい。一方、ピッチ類を加熱して得られるメソフェーズ小球体は、通常、平均粒径が15〜40μmの大きさを有しており、この大きさは、炭化処理や賦活化処理が施された後の多孔質炭素材料においてもほぼ同じ大きさのまま維持される。そのため、大きなメソフェーズ小球体を使用する場合には、粒径を調整する処理が必要となる。ここで、本発明における平均粒径とは、レーザー回折法により測定した平均粒径のことである。
【0022】
最終的に得られる多孔質炭素材料の平均粒径を20μm以下に調整する方法には、(1)メソフェーズ小球体の生成条件を制御して平均粒径が20μm以下とし、これを賦活化処理する方法、(2)平均粒径が20μmより大きなメソフェーズ小球体を粉砕・分級処理し、平均粒径20μm以下に調整した後、賦活化処理する方法、(3)平均粒径が20μmより大きなメソフェーズ小球体を賦活化処理した後、粉砕・分級処理して粒径を20μm以下に調整する方法および(4)(1)〜(3)のいずれか2以上の方法で得た平均粒径20μm以下のメソフェーズ小球体を混合する方法等があり、いずれの方法を用いてもよい。
【0023】
上記粉砕処理には、ボールミル、遊星ボールミル、ハンマーミル、ジェットミル、インペラーミル、アトマイザー、パルベライザー、ジョークラッシャー等公知の粉砕機を用いることができ、また、これらを組み合わせて用いてもよい。一方、分級処理には、風力分級機、振動ふるい機、超音波発振器付き振動ふるい機、ロータップふるい機等を用いることができるが、これらを組み合わせも用いてもよい。
【0024】
上記賦活化処理および粒径調整により、体積固有抵抗が80mΩ・cm以下でかつ充放電時における膨張率が120%以下である多孔質炭素材料を得ることができる。この多孔質炭素材料は、電気二重層キャパシタの分極性電極材料として好適であり、さらにこの分極性電極を使用した電気二重層キャパシタは、内部抵抗などの抵抗値が小さく、しかも充放電時における膨張率が小さい高性能な特性を有する。
【0025】
次に、本発明の多孔質炭素材料を用いた分極性電極およびそれを具えた電気二重層キャパシタについて説明する。
分極性電極は、導電性の集電材(集電極)の片面または両面に炭素材料を含有する活物質層を形成したものであり、本発明の分極性電極は、上記炭素材料として上記本発明の多孔質炭素材料を使用すること以外は、一般的な方法に準じて作製することができる。
【0026】
活物質層は、上記多孔質炭素材料に、必要に応じて結着剤、導電剤などを適宜添加し、これをディスク状またはシート状に成形し、あるいは集電体上に塗工して形成することができる。結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)などを使用することができ、多孔質炭素材料に対して、0.1〜20mass%の範囲で添加されるのが一般的である。また、導電剤としては、通常、カーボンブラックが使用されており、多孔質炭素材料に対して、1〜20mass%の範囲で添加されているのが一般的である。また、上記集電材としては、一般に、アルミニウムなどの金属箔や金属網が用いられており、活物質層との集電材との接合は、活物質層を成形する際に同時に圧接する方法、導電性接着剤を用いて成形後の活物質層と接着する方法、成形後の活物質の表面にアルミニウム等を溶射する方法、あるいは、集電材の表面に活物質をドクターブレード等により塗布する方法等により行われている。
【0027】
具体的な分極性電極の製造方法として、例えば、ディスク状またはシート状の比較的厚めの活物質層を形成する場合には、結着剤としてポリテトラフルオロエチレンを使用し、これと、多孔質炭素材料と必要に応じて導電剤とを混合し、常温または加熱下で混練した後、錠剤成形機やロールプレス機により所望の形状(寸法)に成形する方法が好ましく用いることができる。この場合、集電板と活物質層との接合は、上記圧接法、接着法、溶射法のいずれを用いてもよい。
【0028】
また、厚さが10〜200μm程度以下の比較的薄い活物質層を集電材上に形成する場合には、例えば、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを使用する時は、これをN−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤に溶解し、これに多孔質炭素材料と必要により導電剤を添加してスラリー状とし、これを集電材上に塗工・乾燥する方法が好ましい。また、結着剤としてスチレンーブタジエンゴム(SBR)を使用する時は、これを水に分散させてから、これに多孔質炭素材料と必要に応じて導電剤および/またはカルボキシメチルセルローズ(CMC)を添加してスラリー状とし、これを集電材上に塗工・乾燥する方法が好ましい。なお、乾燥した後、常温または加熱下でプレスし、活物質層の密度を大きくしてもよい。
【0029】
電気二重層キャパシタは、上記のようにして得られた分極性電極を一対として使用し、必要に応じて不織布、紙、その他の多孔質材料からなる透液性のセパレータを介して対向させ、電解液中に浸漬したもの単位セルとし、これを、単独、あるいは複数を直列および/または並列に接続したものである。なお、上記一対の分極性電極は、互いに同じものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。
【0030】
電気二重層キャパシタに用いられる上記電解液には、非水溶媒系と水系とがあり、いずれを用いてもよい。非水溶媒系電解液は、電解質を有機溶媒に溶解したものであり、電解質としては、例えば、(C25)4PBF4、(C37)4PBF4、(C25)4NBF4、(C25)3CH3NBF4、(C37)4NBF4、(C25)4PPF6、(C25)4PCF3SO3、LiBF4、LiClO4、LiCF3SO3等を使用することができる。また、有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチルラクトン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルフォルムアミド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等やこれらの混合物を使用することができる。また、水系電解液は、電解質を水に溶解したものであり、電解質としては、例えば、H2SO4,Li2SO4,KOH,KClなどを使用することができる。
【実施例1】
【0031】
表1に示したように、平均粒径が18.1μmおよび38.0μmのメソフェーズ小球体(商品名:KMFC、JFEスチール社製)と、平均粒径が18.1μmのメソフェーズ小球体をジェットミルで粉砕して平均粒径4.5μmのメソフェーズ小球体とした3種類の炭素材料の原料に、重量比にして2倍の量の水酸化カリウム(KOH)を加えて均一に混合してから、窒素気流雰囲気下で、850℃×1時間の賦活化処理を施し、その後、塩酸で洗浄して中和し、さらに洗浄液が中性を示すまでイオン交換水で洗浄した後、乾燥し、多孔質炭素材料とし、これを必要に応じて、ジェットミルで粉砕処理することにより、平均粒径が4.2〜36.7μmに変化した表1のNo.1〜5の5種類の多孔質炭素材料を得た。これらの多孔質炭素材料について、平均粒径、比表面積および体積固有抵抗を下記の方法で測定した。
<平均粒径>
メソフェーズ小球体および多孔質炭素材料の平均粒径は、それらを、非イオン性界面活性剤トライトンX−100を用いてイオン交換水に分散させ、超音波処理を施して均一なスラリーとしてから、レーザー回折法を基本原理とするセイシン企業製の粒度分布測定装置(LMS−30)を使用して測定した。
<比表面積>
比表面積は、micromeritis社製ASAP2400を使用し、77K(-196℃)におけるN2吸脱着による吸着等温線をもとに、BET法により比表面積を測定した。
<体積固有抵抗>
多孔質炭素材料の固有抵抗は、図1に示す構造のセル内に0.4gの多孔質炭素材料を装入し、島津製作所製オートグラフAG−5000Bにより荷重を加え、その際の変位をキーエンス社製レーザー変位計LC−2400により、また電気抵抗をツルガ社製デジタルAC・mΩメーターMODEL3562により測定し、変位と抵抗値から算出した固有抵抗値を荷重に対してプロットして荷重−固有抵抗曲線を作図し、この図から300kgf荷重時の固有抵抗値を外装により求め、この値を多孔質炭素材料の固有抵抗値とした。
【0032】
また、上記多孔質炭素材料を使用して、下記の要領で分極性電極を作製し、該電極を備えた電気二重層キャパシタについて、充放電時の膨張率を評価した。
<分極性電極および電気二重層キャパシタの作製>
多孔質炭素材料80mg、カーボンブラック10mgおよびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)5mgを乾式で混合した後、アルミメッシュを集電体とし、プレス圧力148Gpaで加圧成形して直径13mmのディスク(円盤)状とし、これを二枚作製し、133.3Paの減圧下で、150℃×10時間の乾燥を行い、分極性電極を作製した。次に、露点−80℃以下に管理されたアルゴンガスが流されたグローブボックス内において、上記のようにして作製した一組の分極性電極の間に多孔質ポリエチレン(孔径0.20μm)を挟み込み、図2に示す宝泉社製の2極式セル(HS変位セル)のサンプル押えブロックで試料を押え、電解液を満たして電気二重層キャパシタの単セルを作製し、充放電を行い膨張率を評価した。なお、電解液には、プロピレンカーボネートに1Mの濃度でテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート((C25)4NBF4)を溶解したものを使用した。
<膨張率測定>
上述した宝泉社製の2極式セル(HS変位セル)を、図2に示す膨張率測定装置に組み込み、北斗電工社製の充放電試験装置(HJ1001SM8)を使用して、0.5mA/cm2の電流密度、0〜2.4Vの充放電電圧で充放電を3サイクル繰り返した。この際、充放電試験の開始と同時に膨張率測定装置を作動させ、充放電時間に対するセルの変位を測定し、膨張率を測定した。具体的には、充放電が安定する3サイクル目の充電完了時におけるセルの変位量を△T(mm)とし、充放電試験開始前のセル厚みをT(mm)としたとき、下記式より膨張率を算出した。
膨張率(%)=(T+△T)/T×100
【0033】
上記測定の結果を、表1のNo.1〜5中に併記して示した。この結果から、メソフェーズ小球体を原料とし、平均粒径を20μm以下に調整した本発明に係る多孔質炭素材料は、体積固有抵抗が80mΩ・cm以下、かつ充放電時における膨張率が120%以下であり、電気二重層キャパシタの分極性電極に用いて好適な特性を有していることがわかる。一方、平均粒径が20μmを超える場合には、充放電時における膨張率が120%を超えており、電気二重層キャパシタの分極性電極としては不適である。
【0034】
【表1】

【実施例2】
【0035】
多孔質炭素材料の原料として、石炭ピッチより調製したバルクメソフェーズ(JFEスチール社製)を粉砕処理して平均粒径40.2μmとしたもの、および、融点が90℃の粉末ノボラック樹脂90質量部にヘキサメチレンテトラミン10質量部を粉体状態で混合し、270℃で硬化させた後、平均粒径17.0μmに粉砕したものを用いて、実施例1と同様にして多孔質炭素材料を作製し、この多孔質炭素材料に必要に応じてジェットミルで粉砕処理を施し、表1のNo.6〜8に示す3種類の多孔質炭素材料を得、この多孔質炭素材料を用いて、実施例1と同様の測定と評価を行った。
【0036】
上記測定と評価の結果を、表1のNo.6〜8中に併記して示した。この結果から、体積固有抵抗が80mΩ・cm以下、かつ充放電時における膨張率が120%以下とするためには、単に多孔質炭素材料の平均結晶粒径を20μm以下に調整するだけではなく、原料として、メソフェーズ小球体を用いることが必要であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】固有抵抗測定装置を説明する図である。
【図2】膨張率測定装置を説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積固有抵抗が80mΩ・cm以下、充放電時の膨張率が120%以下の賦活化処理されたメソフェーズ小球体からなることを特徴とする多孔質炭素材料。
【請求項2】
平均粒径を20μm以下に調整したメソフェーズ小球体を賦活化処理することを特徴とする多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項3】
平均粒径が20μm超のメソフェーズ小球体を賦活化処理したのち粉砕、分級処理して平均粒径を20μm以下に調整することを特徴とする多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項4】
平均粒径が20μm超のメソフェーズ小球体を粉砕、分級処理して平均粒径を20μm以下に調整したのち賦活化処理することを特徴とする多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか2以上の方法で得た平均粒径が20μm以下の多孔質炭素材料を混合することを特徴とする多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項6】
分極性電極が、体積固有抵抗が80mΩ・cm以下、充放電時の膨張率が120%以下の賦活化処理されたメソフェーズ小球体からなる多孔質炭素材料によって構成されていることを特徴とする電気二重層キャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−131465(P2006−131465A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323812(P2004−323812)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】