説明

多孔質膜およびその製造方法

【課題】 高透過性能、高破断強伸度を両立するエチレン・酢酸ビニル系共重合体多孔質膜を提供する。
【解決手段】 エチレンと酢酸ビニルとの共重合体及び/又は該共重合体のけん化物からなる多孔質膜であって、平均直径が0.3〜5μmの範囲の球状構造を有する多孔質膜である。エチレンと酢酸ビニルとの共重合体を10〜55重量%含有し、該共重合体の貧溶媒および開孔剤を含有し、温度が60〜120℃の範囲である製膜原液を、冷却浴に吐出し凝固させることにより多孔質膜を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透過性能、破断強伸度に優れた新規な構造の多孔質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多孔質膜は、精密濾過膜、限外濾過膜、ナノ濾過膜用支持基材、逆浸透膜用支持基材、イオン交換膜用担体等の各種フィルター用途に用いられている。なかでも精密濾過膜および限外濾過膜、ナノ濾過膜は、浄水処理、海水淡水化前処理、廃水処理、医療用途、食品工業分野、用水製造をはじめさまざまな方面で水処理用途で分離膜として広く利用されている。
【0003】
これらの水処理用途において分離膜に求められる性能は一般に、高透水性能、優れた分離特性、化学的強度および機械的強度である。これらの分野では膜の透水性能が優れていれば膜面積や運転圧力を減らすことが可能となる。その結果、同じ処理水量で膜モジュール、原水供給ポンプを小型化でき、膜濾過装置が小型化できるため装置費用が節約でき、膜交換費や装置設置面積の点からも有利になる。多孔質膜が優れた透水性能を示すためには、処理対象となる液体への濡れ性が高いことや、水中のフミン質などの疎水性物質が吸着しにくいことが求められており、その観点から膜素材が親水性を示すことが有利である。
【0004】
また、例えば浄水処理では透過水の殺菌や膜のバイオファウリング防止の目的で次亜塩素酸ナトリウムなどの殺菌剤を膜モジュール部分に添加したり、膜の薬液洗浄として、酸、アルカリ、塩素、界面活性剤などで膜を洗浄することがある。そのため分離膜には耐薬品性が要求される。また、浄水処理分野では家畜の糞尿などに由来するクリプトスポリジウムなどの塩素に対して耐性のある病原性微生物が浄水場で処理しきれず処理水に混入する問題が顕在化しており、分離膜には十分な分離特性と膜が破れて原水が混入しないような高い強度が要求されている。
【0005】
これらの要求を達成できるポリマーとして、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーやエチレン−ビニルアルコール共重合体が一般的に使用されている。ポリフッ化ビニリデン系ポリマーは疎水性であるものの耐薬品性や耐熱性等に優れるという利点があり、また、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHという)は親水性に優れるという利点があり、用途等に応じたポリマーが使用されている。
【0006】
EVOHはエチレンと酢酸ビニルとの共重合体のケン化物であり、非常に高い親水性を有しているため、親水性多孔質膜素材として好ましく用いられ、例えば、EVOHを添加剤と共に極性溶媒に溶解させた後、凝固浴中で凝固させて製膜する方法によりしたEVOH多孔質膜を製造することが提案されている(特許文献1、2参照)。しかしながら、このEVOH多孔質膜には、エチレン含有率10〜60モル%(特許文献1)エチレン含量27〜48モル%(特許文献2)のEVOHが用いられ、非溶媒誘起相分離法によって製膜された、網目状構造を有する多孔質膜であり、破断強度が低いという問題があった。そして、破断強度を高めるために、膜厚みを大きくしたり、ポリマー濃度を高めたりすると、透過性能が低くなるので、高い破断強度と高い透過性能を両立させることは困難であった。さらに、これら極性溶媒を用いる製造方法は、エチレン含有量が多いEVOHには適用することができないため、耐薬品性に優れた多孔質膜を得ることは困難であった。
【特許文献1】特開2001−79371号公報
【特許文献2】特表2002−535116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の技術の上述した問題点に鑑み、高透過性能、高破断強伸度を両立する多孔質膜を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、下記(1)〜(9)によって達成される。
(1)エチレンと酢酸ビニルとの共重合体及び/又は該共重合体のけん化物からなる多孔質膜であって、平均直径が0.3〜5μmの範囲の球状構造を有することを特徴とする多孔質膜。
(2)エチレンと酢酸ビニルとの共重合体及び/又は該共重合体のけん化物におけるエチレン含有量が60〜99重量%であることを特徴とする上記(1)に記載の多孔質膜。
(3)エチレンと酢酸ビニルとの共重合体のけん化物を含むことを特徴とする上記(1)または(2)に記載の多孔質膜。
(4)エチレンと酢酸ビニルとの共重合体からなる多孔質膜を加水分解処理することにより酢酸ビニルを部分けん化させた多孔質膜であることを特徴とする上記(3)に記載の多孔質膜。
(5)100kPa、25℃における透水性能が0.1〜10m/m・hrの範囲にあり、破断強度が0.2〜1kgf/mmの範囲にあり、かつ、破断伸度が40〜1000%の範囲にある上記(1)〜(4)のいずれかに記載の多孔質膜。
(6)エチレンと酢酸ビニルとの共重合体を10〜55重量%含有し、該共重合体の貧溶媒および開孔剤を含有し、温度が60〜120℃の範囲である製膜原液を、冷却浴に吐出し凝固させることを特徴とする多孔質膜の製造方法。
(7)貧溶媒が高級アルコールであることを特徴とする上記(6)に記載の多孔質膜の製造方法。
(8)開孔剤が多価アルコールであることを特徴とする上記(6)または(7)に記載の多孔質膜の製造方法。
(9)多孔質膜を凝固させた後、40〜90℃の温度範囲でアルカリ処理する上記(6)〜(8)のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来成し得なかった高透過性能と高破断強伸度を両立した多孔質膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
本発明の多孔質膜は、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体及び/又は該共重合体のけん化物からなる多孔質膜であり、かつ、球状構造を有するものである。ここで、球状構造は、多数の略球状形(球状形や楕円形も含む)の樹脂固形分が、直接もしくは筋状の固形分を介して連結している構造であり、特に多孔質膜の内部に存在することが好ましい。即ち、多孔質膜の内部に、球状構造が連結され、その略球状形の間が空隙となっている構造が存在することにより、網目状構造の多孔質膜に比べて、強度を高くでき、しかも透水性能も高くできる。
【0012】
多孔質膜中に存在する球状構造は、その平均直径が0.3〜5μmの範囲、好ましくは0.4〜4μmの範囲、さらに好ましくは0.5〜3μmの範囲であることが、膜強度や透水性能等のために好適である。この球状構造の直径は、多孔質膜の断面を球状構造が明瞭に確認できる倍率で走査型電子顕微鏡等を用いて写真を撮り、10個以上、好ましくは20個以上の任意の球状構造(略球状形)の直径を測定し、平均することにより求めることができる。電子顕微鏡写真を画像処理装置で解析し、等価円直径の平均値として、球状構造の直径を求めることもできる。
【0013】
球状構造の密度は10〜10個/mmの範囲が好ましく、より好ましくは10〜10個/mmの範囲である。なお、球状構造の密度は、球状構造の直径の測定の場合と同様に電子顕微鏡写真を撮り、単位面積あたりの球状構造の個数を計測する。球状構造は、略球形乃至は楕円形であり、その真円率(短径/長径)は好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.7以上である。
【0014】
本発明の多孔質膜は、外表面における細孔の平均孔径が0.01〜20μmの範囲であることが好ましい。細孔の平均孔径は、より好ましくは0.05〜10μmの範囲であり、更に好ましくは0.1〜5μmの範囲である。
【0015】
外表面に有する細孔の平均孔径は、多孔質膜の外表面を細孔が明瞭に確認できる倍率で走査型電子顕微鏡等を用いて写真を撮り、10個以上、好ましくは20個以上の任意の細孔の長径と短径を測定し、平均することにより求めることができる。また、電子顕微鏡写真を画像処理装置で解析し、等価円直径の平均値として、細孔の直径を求めることもできる。
【0016】
本発明の多孔質膜は実質上、マクロボイドを有さないことが好ましい。ここで、マクロボイドとは、多孔質膜断面において観察される長径が50μm以上の空孔である。実質上有さないとは、横断面におけるマクロボイド個数が10個/mm以下、より好ましくは5個/mm以下であり、全く有さないことが最も好ましい。
【0017】
本発明の多孔質膜を構成するエチレンと酢酸ビニルとの共重合体(以下、EVAという)は、エチレンの含有率や酢酸ビニルの含有率によって性質が異なるが、一般的に柔軟性、ゴム弾性に優れた物性を有する。特にエチレン含有率が多く酢酸ビニル含有率が少ないEVAは、ポリエチレンとほぼ同等の耐薬品性を有しながら、高い破断強伸度を示すため、多孔質膜素材として好ましい。従って、EVAから構成される多孔質膜に優れた耐薬品性と高い破断強伸度を両立させて付与するためには、エチレン含有量が多く、酢酸ビニル含有量が少ないものが良く、具体的にはエチレン含有量が60〜99重量%の範囲であることが好ましい。エチレン含有量の範囲はより好ましくは65〜99重量%であり、さらには70〜99重量%の範囲が好ましい。
【0018】
また、本発明に用いられるEVAは、本発明の目的から逸脱しない範囲であれば、他の無機物、有機物などの化合物を含有していても良く、例えばEVAにその他の成分を共重合させても良い。特に、EVAに塩化ビニルをグラフト重合させたポリマーを用いた場合には、得られる多孔質膜の耐衝撃性、表面硬度及び破断強度の向上が期待できるため好ましい。
【0019】
本発明の多孔質膜は、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体のけん化物を含むことが好ましい。エチレンと酢酸ビニルとの共重合体のけん化物は、多孔質膜に成形される前に含ませることも出来るが、EVAからなる多孔質膜を加水分解処理することにより酢酸ビニルの一部を加水分解(部分けん化)して得ることができる。これにより、多孔質膜の親水性を向上させることもできる。加水分解処理して部分けん化した多孔質膜は、EVAとそのけん化物から構成される多孔質膜となる。EVAとそのけん化物から構成される多孔質膜をさらに加水分解しても構わない。
【0020】
EVAを加水分解処理する方法としては、アルカリ性条件または酸性条件で、EVAのアセチル基を加水分解して水酸基とする公知技術を利用すれば良い。この加水分解処理の程度は、多孔質膜の使用用途や、EVA中の酢酸ビニル含有率によって、適宜選択され得るが、高透過性能と高破断強伸度を両立するためには、アセチル基の10重量%以上100重量%以下を加水分解することが好ましい。
【0021】
本発明の多孔質膜は、100kPa、25℃における透水性能が0.1〜10m/m・hrの範囲にあり、破断強度が0.2〜1kgf/mmの範囲にあり、かつ、破断伸度が40〜1000%の範囲にあることが好ましい。この範囲にあることにより、水処理分野において好適な透水性能と破断強伸度が得られる。
【0022】
本発明の多孔質膜を製造する方法としては、以下のような方法がある。
【0023】
EVAとその貧溶媒、および開孔剤からなる製膜原液を、固−液型熱誘起相分離法により固化させる方法によって、EVAからなる多孔質膜を製造する。
【0024】
多孔質膜の製造に利用される熱誘起相分離法には主に2種類の相分離機構がある。一つは高温時に均一に溶解したポリマー溶液が、降温時に溶液の溶解能力低下が原因でポリマー濃厚相と希薄相に分離する液−液型相分離法、もう一つは高温時に均一に溶解したポリマー溶液が、降温時に結晶化温度に達することによりポリマーの結晶が生成し、ポリマー固体相とポリマー希薄溶液相に相分離する固−液型相分離法である。前者の方法では主に網目状構造が形成されるため、高い透過性能と高い破断強度を両立させることが困難となり本発明の効果が発現されにくい。そこで、本発明においては、後者の固−液型熱誘起相分離法により固化させて球状構造を形成させる。
【0025】
本発明の製膜原液におけるEVAの割合(濃度)は、要求される多孔質膜の透過性能と破断強伸度によって適宜選択すれば良いが、製膜性や膜強度を考慮すると10〜55重量%の範囲内が好ましい。55重量%を超えるほどの高濃度では高透水性能を有する多孔質膜を得ることが困難となり、10重量%未満の低濃度では高破断強伸度を達成する多孔質膜を得ることが困難となる。
【0026】
本発明における製膜原液で用いる貧溶媒とは、その沸点以下の温度でEVAと均一な溶液を形成しうる有機化合物のことであり、具体的には、デカリン、キシレン、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラウリルアルコール、デシルアルコール、ノニルアルコール、n−デカン、n−ドデカン、流動パラフィン等が挙げられる。このうち、取扱いの容易性の観点から、オレイルアルコール、ラウリルアルコール等の高級アルコールが特に好ましい。
【0027】
製膜原液中の貧溶媒の割合は特に限定されないが、40〜85重量%、好ましくは45〜80重量%、より好ましくは50〜75重量%である。40重量%未満では高透水性能を有する多孔質膜を得ることが困難となり、85重量%を超えると高破断強伸度を達成する多孔質膜を得ることが困難となる。なお、これら貧溶媒は1種類で用いても2種類以上の混合物として用いても良い。
【0028】
また、本発明における製膜原液で用いる開孔剤とは、製膜原液が固化される時に多孔構造が発現するように多孔化を促すものであり、上記貧溶媒と相溶性を有していれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の2個以上の水酸基を有する多価アルコール、およびポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイドなどが好ましく用いられる。製膜原液中の開孔剤の割合は特に限定されないが、5〜50重量%、好ましくは7〜40重量%、より好ましくは10〜30重量%である。5重量%未満では高透水性能を有する多孔質膜を得ることが困難となり、50重量%を超えると高破断強伸度を達成する多孔質膜を得ることが困難となる。なお、これら開孔剤は1種類で用いても2種類以上の混合物として用いても良い。
【0029】
本発明法において、固−液型熱誘起相分離を発現させるためには、温度が60〜120℃の範囲である製膜原液を、冷却浴中に吐出し、冷却浴中に浸漬した状態で凝固させる。この場合、冷却浴の温度は、5〜40℃が好ましい。冷却浴には、濃度が60〜100%で貧溶媒を含み、必要に応じて開孔剤を含有する液体を用いることが好ましい。この冷却液体には貧溶媒、開孔剤以外に後述する脱溶媒用の液体を含んでいても良い。
【0030】
上記した方法によって製造された多孔質膜は、貧溶媒および開孔剤を含んだ状態であるため、通常は、次いで脱溶媒操作を実施する。脱溶媒の方法としては、貧溶媒と相溶性が良く、EVAを溶解しない脱溶媒用の液体に浸漬する方法が好ましく適用される。脱溶媒用の液体は特に限定されないが、低級アルコール、アセトン、ヘキサン等の安価な液体を用いることが好ましい。これら脱溶媒用の液体は、脱溶媒の効率を上げるために沸点以下の範囲で加熱した状態で用いても良く、液体同士が相溶性であれば2種類以上の混合液でも良い。さらに、より効率良く脱溶媒を行うために、多孔質膜が劣化しない程度に超音波洗浄を行うことも好ましい。また、水処理用途の多孔質膜を製造する場合には、水と相溶性を有しており、かつ環境負荷の小さいエタノールを用いることが最も好ましい。
【0031】
このようにして製造された多孔質膜において、さらなる高透水性能が必要な場合には、その後に、多孔質膜を40〜90℃の温度で1.1〜5倍に延伸することが好ましい。40℃未満の低温雰囲気で延伸した場合、安定して均質に延伸することが困難であり、構造的に弱い部分が破断する恐れがある。40〜90℃の温度で延伸した場合、球状構造の一部および球状構造と球状構造を連結するポリマー分子の凝集体が均質に延伸されて、微細で細長い細孔が多数形成され、強伸度特性を維持したまま透水性能が著しく向上する。90℃を超える温度で延伸した場合、EVAの融点に近くなるため、球状構造が融解してしまい、あまり細孔が形成されずに延伸されるため、透水性能が向上しにくい。
【0032】
以上のようにしてEVAからなる本発明の多孔質膜を製造することができる。
【0033】
このEVAからなる多孔質膜を、加水分解処理することにより酢酸ビニルを部分けん化させる場合には、以下のような方法がある。
【0034】
40〜90℃の温度範囲でアルカリ性条件で加水分解する場合、pH8〜10の弱〜中アルカリ性条件下で処理すると、加水分解処理速度が遅くなる。従って実用的な加水分解処理速度を達成するためには、pH10以上の強アルカリ性条件下で処理することが好ましい。酸性条件で加水分解する場合にも同様に、処理効率を考慮するとpH4以下で処理することが好ましい。
【0035】
このようにして製膜され、必要に応じて加水分解処理されて製造される本発明の多孔質膜の形状は、中空糸膜でも平膜でもよく、その用途によって選択される。
【0036】
本発明の製膜原液にはEVA、貧溶媒、開孔剤を含有するが、これらの濃度や組み合わせによって製膜原液の粘度が大きく変化する。製膜原液の粘度は、低すぎると膜が形成されずに欠点が生じたり膜の破断強伸度が低下し、高すぎると成形性が悪く厚みムラが生じたり膜の透水性能が低くなり経済的でない。そこで、製膜原液の粘度は1Pa・s〜300Pa・sの範囲内とすることが好ましく、10Pa・s〜200Pa・sの範囲内とすることが、より好ましい。
【0037】
このような粘度の製膜原液を用いることが、本発明の高透水性能と高破断強伸度を両立した多孔質膜を、成形性良く、目標寸法で得るために好ましい。
【実施例】
【0038】
以下に具体的実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0039】
実施例における透水性能および破断強伸度の測定は以下の方法を用いた。
【0040】
多孔質膜が中空糸の場合には中空糸膜4本からなる長さ200mmのミニチュアモジュールを作製し、温度25℃、ろ過差圧16kPaの条件下に、純水の透水量を測定し圧力(50kPa)換算して透水性能(単位=m/m・h)を求めた。多孔質膜が平膜の場合には、直径50mmの円形に切り出し、円筒型のろ過ホルダーにセットし、その他は中空糸膜と同様の操作をして求めた。破断強伸度は、引張試験機を用いて、試験長50mmでフルスケール5000gの加重をクロスヘッドスピード20mm/分で測定し、求めた。
【0041】
<実施例1>
エチレン−酢酸ビニル共重合体(エチレン/酢酸ビニルの共重合比=75重量%/25重量%、和光純薬工業株式会社、商品名:Ethylene/vinyl Acetate Copolymer 25)を20重量%、ポリエチレングリコール(キシダ化学株式会社、商品名:ポリエチレングリコール1000、平均分子量950〜1050)を10重量%、オレイルアルコール(株式会社共和テクノス、商品名:オレイル#900)を70重量%の割合で110℃の温度で混合溶解して製膜原液を調製した。この製膜原液を、オレイルアルコール100重量%からなる中空部形成液体を随伴させながら90℃の2重管状口金から吐出し、温度35℃のオレイルアルコール100重量%からなる冷却浴中で冷却固化させて中空糸多孔質膜を作製した。得られた中空糸多孔質膜を、40℃オレイルアルコール中で1.5倍延伸し、その後50℃エタノール中に5時間浸漬し、脱溶媒を行った。
【0042】
得られた中空糸膜は、内部に直径1.9μmの球晶構造(図1)を、3.8×10個/mmの密度で有し、外表面の平均細孔径1.8μm、透水性能が3.1m/m・h(差圧100kPa、温度25℃の条件)で、破断強度が0.37kgf/mm、破断伸度が187%であった。この中空糸膜の内部断面構造の電子顕微鏡(1000倍)写真を図1に示した。
【0043】
この中空糸多孔質膜100gを0.5モル/L硫酸水−エタノール溶液(水:エタノール=1:1)2000ml中に40℃で5時間浸漬して、加水分解処理を施し、多孔質膜を構成するエチレン−酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニルの一部をビニルアルコールに変換した。
【0044】
加水分解処理して得られた中空糸膜は、透水性能が3.8m/m・h(差圧100kPa、温度25℃の条件)で、破断強度が0.53kgf/mm、破断伸度が165%であった。
【0045】
<実施例2>
エチレン−酢酸ビニル共重合体(エチレン/酢酸ビニルの共重合比=90重量%/10重量%、和光純薬工業株式会社、商品名:Ethylene/vinyl Acetate Copolymer 10)を40重量%、ポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社、商品名:ポリエチレングリコール600、平均分子量560〜640)を10重量%、オレイルアルコール(株式会社共和テクノス、商品名:オレイル#900)を50重量%の割合で120℃の温度で混合溶解して製膜原液を調製した。この製膜原液を、オレイルアルコール100重量%からなる中空部形成液体を随伴させながら110℃の2重管状口金から吐出し、温度10℃のオレイルアルコール100重量%からなる冷却浴中で冷却固化させて中空糸多孔質膜を作製した。得られた中空糸多孔質膜を、60℃オレイルアルコール中で2.0倍延伸し、その後45℃エタノール中に3時間浸漬し、脱溶媒を行った。
【0046】
得られた中空糸膜は、内部に直径0.7μmの球晶構造を、8.9×10個/mm2の密度で有し、外表面の平均細孔径0.4μm、透水性能が0.12m/m・h(差圧100kPa、温度25℃の条件)で、破断強度が0.77kgf/mm、破断伸度が664%であった。
【0047】
この中空糸多孔質膜100gを1モル/L水酸化ナトリウム−エタノール溶液(水:エタノール=1:1)2000ml中に40℃で7時間浸漬して、加水分解処理を施し、多孔質膜を構成するエチレン−酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニルの一部をビニルアルコールに変換した。
【0048】
加水分解処理して得られた中空糸膜は、透水性能が0.21m/m・h(差圧100kPa、温度25℃の条件)で、破断強度が0.94kgf/mm、破断伸度が891%であった。
【0049】
<実施例3>
エチレン−酢酸ビニル共重合体(和光純薬工業株式会社、商品名:Ethylene/vinyl Acetate Copolymer 25)を15重量%、ポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社、商品名:ポリエチレングリコール2000、平均分子量2000)を15重量%、オレイルアルコール(株式会社共和テクノス、商品名:オレイル#900)を70重量%の割合で120℃の温度で混合溶解して製膜原液を調製した。この製膜原液を、オレイルアルコール100重量%からなる中空部形成液体を随伴させながら65℃の2重管状口金から吐出し、オレイルアルコール80重量%とエタノール20重量%からなる30℃冷却浴中で冷却固化させて中空糸多孔質膜を作製した。得られた中空糸多孔質膜を、70℃温水中で1.2倍延伸し、その後50℃エタノール中に5時間浸漬し、脱溶媒を行った。
【0050】
得られた中空糸膜は、内部に直径2.8μmの球晶構造を、2.3×10個/mm2の密度で有し、外表面の平均細孔径4.6μm、透水性能が8.9m/m・h(差圧100kPa、温度25℃の条件)で、破断強度が0.32kgf/mm、破断伸度が51%であった。
【0051】
この中空糸多孔質膜100gを1モル/L水酸化ナトリウム−エタノール溶液(水:エタノール=1:1)2000ml中に40℃で5時間浸漬して、加水分解処理を施し、多孔質膜を構成するエチレン−酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニルの一部をビニルアルコールに変換した。
【0052】
加水分解処理して得られた中空糸膜は、透水性能が9.8m/m・h(差圧100kPa、温度25℃の条件)で、破断強度が0.42kgf/mm、破断伸度が44%であった。
【0053】
<実施例4>
エチレン−酢酸ビニル共重合体(エチレン/酢酸ビニルの共重合比=80重量%/20重量%、和光純薬工業株式会社、商品名:Ethylene/vinyl Acetate Copolymer 20)を10重量%、ポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社、商品名:ポリエチレングリコール600、平均分子量560〜640)を10重量%、オレイルアルコール(株式会社共和テクノス、商品名:オレイル#900)を80重量%の割合で90℃の温度で混合溶解して製膜原液を調製した。この製膜溶液を80℃に恒温した後、70℃のSUS板上にキャストし、温度35℃のオレイルアルコール100重量%からなる冷却浴中で冷却固化させて、多孔質膜を作製した。得られた多孔質膜を、50℃温水浴中で1軸方向に1.5倍延伸し、45℃エタノール中に2時間浸漬し、脱溶媒を行った。
【0054】
得られた多孔質膜は、内部に直径1.1μmの球晶構造を、7.5×10個/mm2の密度で有し、外表面の平均細孔径1.2μm、透水性能が0.6m/m・h(差圧100kPa、温度25℃の条件)で、破断強度が0.35kgf/mm、破断伸度が151%であった。
【0055】
この多孔質膜100gを0.5モル/L硫酸水−エタノール溶液(水:エタノール=1:1)2000ml中に40℃で4時間浸漬して、加水分解処理を施し、多孔質膜を構成するエチレン−酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニルの一部をビニルアルコールに変換した。
【0056】
得られた中空糸膜は、透水性能が0.9m/m・h(差圧100kPa、温度25℃の条件)で、破断強度が0.42kgf/mm、破断伸度が139%であった。
【0057】
<実施例5>
エチレン−酢酸ビニル共重合体(エチレン/酢酸ビニルの共重合比=75重量%/25重量%、和光純薬工業株式会社、商品名:Ethylene/vinyl Acetate Copolymer 25)を15重量%、エチレン−酢酸ビニル塩化ビニルグラフト共重合体(積水化学工業株式会社、商品名:PVC−TG−40)を5重量%、ポリエチレングリコール(キシダ化学株式会社、商品名:ポリエチレングリコール1000、平均分子量950〜1050)を10重量%、オレイルアルコール(株式会社共和テクノス、商品名:オレイル#900)を70重量%の割合で110℃の温度で混合溶解して製膜原液を調製した。この製膜原液を、オレイルアルコール100重量%からなる中空部形成液体を随伴させながら90℃の2重管状口金から吐出し、温度35℃のオレイルアルコール100重量%からなる冷却浴中で冷却固化させて中空糸多孔質膜を作製した。得られた中空糸多孔質膜を、40℃オレイルアルコール中で1.5倍延伸し、その後50℃エタノール中に5時間浸漬し、脱溶媒を行った。
【0058】
得られた中空糸膜は、内部に直径2.1μmの球晶構造を、3.4×10個/mmの密度で有し、外表面の平均細孔径1.9μm、透水性能が3.3m/m・h(差圧100kPa、温度25℃の条件)で、破断強度が0.47kgf/mm、破断伸度が154%であった。
【0059】
この中空糸多孔質膜100gを0.5モル/L硫酸水−エタノール溶液(水:エタノール=1:1)2000ml中に40℃で5時間浸漬して、加水分解処理を施し、多孔質膜を構成するエチレン−酢酸ビニル塩化ビニルグラフト共重合体中の酢酸ビニルの一部をビニルアルコールに変換した。
【0060】
加水分解処理して得られた中空糸膜は、透水性能が3.9m/m・h(差圧100kPa、温度25℃の条件)で、破断強度が0.62kgf/mm、破断伸度が141%であった。
【0061】
<比較例1>
エチレン−ビニルアルコール共重合体(日本合成化学工業株式会社、商品名:ソアノールAT4403)を30重量%、ポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社、商品名:ポリエチレングリコール4000、分子量3000)を8重量%、エチレングリコール(和光純薬工業株式会社、平均分子量62.07)を8重量%、および水0.1重量%をDMSOに90℃で混合溶解し、製膜原液を調製した。この製膜原液を65℃に保持した後、水からなる中空部形成液体を随伴させながら2重管状口金から吐出し、イソプロピルアルコール25重量%水溶液からなる50℃冷却浴中で冷却固化させて中空糸多孔質膜を作製した。得られた中空糸多孔質膜を、50℃温水浴中で2.4倍延伸し、さらに50℃温水浴中で12時間洗浄した。
【0062】
得られた中空糸膜は、外表面に平均細孔径1.4μmの細孔を有していたが網目状構造であり、球晶構造を有さなかった。膜性能は、透水性能が9.2m/m・h(差圧100kPa、温度25℃の条件)であったが、破断強度が0.12kgf/mm、破断伸度が34%であり、破断強伸度が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の多孔質膜は、高透過性能と高破断強伸度の両立を達成するため、飲料水製造、浄水処理、排水処理などの水処理分野、医薬品製造分野、食品工業分野、電池用セパレーター、荷電膜、燃料電池、血液浄化用多孔質膜等の膜ろ過プロセスに好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例1の方法により製造した多孔質膜の内部(断面)を示す電子顕微鏡(1000倍)写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンと酢酸ビニルとの共重合体及び/又は該共重合体のけん化物からなる多孔質膜であって、平均直径が0.3〜5μmの範囲の球状構造を有することを特徴とする多孔質膜。
【請求項2】
エチレンと酢酸ビニルとの共重合体及び/又は該共重合体のけん化物におけるエチレン含有量が60〜99重量%であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
エチレンと酢酸ビニルとの共重合体のけん化物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質膜。
【請求項4】
エチレンと酢酸ビニルとの共重合体からなる多孔質膜を加水分解処理することにより酢酸ビニルを部分けん化させた多孔質膜であることを特徴とする請求項3に記載の多孔質膜。
【請求項5】
100kPa、25℃における透水性能が0.1〜10m/m・hrの範囲にあり、破断強度が0.2〜1kgf/mmの範囲にあり、かつ、破断伸度が40〜1000%の範囲にある請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質膜。
【請求項6】
エチレンと酢酸ビニルとの共重合体を10〜55重量%含有し、該共重合体の貧溶媒および開孔剤を含有し、温度が60〜120℃の範囲である製膜原液を、冷却浴に吐出し凝固させることを特徴とする多孔質膜の製造方法。
【請求項7】
貧溶媒が高級アルコールであることを特徴とする請求項6に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項8】
開孔剤が多価アルコールであることを特徴とする請求項6または7に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項9】
多孔質膜を凝固させた後、40〜90℃の温度範囲でアルカリ処理することを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−105019(P2008−105019A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248758(P2007−248758)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】