多孔質複層中空糸および該多孔質複層中空糸を備えた濾過モジュール
【課題】 高濁度の溶液を濾過しても、多孔質材の空孔内に固体粒子等が目詰まりせず、時間経過に伴う流量の低下を防止できると共に、逆洗浄により濾過性能が容易に回復し、良好な濾過性能を長期間に渡って持続可能とする。
【解決手段】 外周面側から内周面側に向けて固液分離処理を行う多孔質複層中空糸であって、多孔質延伸PTFE製のチューブからなる支持層と、ポリオレフィン系樹脂、ポリイミド、ポリ弗化ビニリデン系樹脂から選択される樹脂製の多孔質シートからなる濾過層を備え、前記支持層のチューブの外表面に前記濾過層のシートを巻き付けて一体化させていると共に該前記支持層と濾過層の空孔を互いに三次元的に連通させている複層からなり、上記濾過層の外表面の各空孔の大きさを加圧濾過する粒子の捕捉率が90%以上となる大きさに設定すると共に、該濾過層の空孔の平均長さを前記支持層の空孔の平均長さの1%〜30%としている。
【解決手段】 外周面側から内周面側に向けて固液分離処理を行う多孔質複層中空糸であって、多孔質延伸PTFE製のチューブからなる支持層と、ポリオレフィン系樹脂、ポリイミド、ポリ弗化ビニリデン系樹脂から選択される樹脂製の多孔質シートからなる濾過層を備え、前記支持層のチューブの外表面に前記濾過層のシートを巻き付けて一体化させていると共に該前記支持層と濾過層の空孔を互いに三次元的に連通させている複層からなり、上記濾過層の外表面の各空孔の大きさを加圧濾過する粒子の捕捉率が90%以上となる大きさに設定すると共に、該濾過層の空孔の平均長さを前記支持層の空孔の平均長さの1%〜30%としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質複層中空糸、該多孔質複層中空糸を備えた濾過モジュールに関し、詳しくは、下水処理等の環境保全分野、医薬・食品分野等の固液分離処理を行う濾過装置等に使用され、PTFE等の多孔質チューブから構成される多孔質複層中空糸の濾過性能を改良するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)からなる多孔質体は、耐薬品性、耐熱性、耐候性、不燃性等に優れる上に、非粘着性、低摩擦係数等の特性を有している。また、多孔質構造であるため、透過性、柔軟性、可撓性、微粒子の捕集・濾過性等にも優れている。このため、PTFEからなる材料は、精密化学薬品の濾過、排水処理用のフィルター等の広範な分野で使用されている。
【0003】
具体的には、多孔質PTFEは、柔軟な繊維が三次元網目状に連結された微細な繊維状組織を備え、繊維状骨格に囲まれた多数の空孔が存在しているため、チューブ状あるいはシート状等に成型され、各種フィルター、脱気膜、防水膜等に利用されている。また、これらの多孔質PTFEからなるチューブ等を多数集束し、モジュール化することで、固液分離処理を行う濾過モジュールとして用いることもできる。
【0004】
このような濾過モジュール等に用いられる多孔質PTFEからなる濾過用材として、高い濾過性能を得るために種々の提案がなされている。
【0005】
例えば、特公平4−75044号では、PTFE製連続多孔質チューブの外周面に、PTFE製連続多孔質フィルムを巻着被覆させ、フィルムによって濾過性能を得しめると共にチューブの強度向上を図っている。さらに、多孔質フィルムが0.1μm以上の微粒子を除去し得るフィルター機能を有する管状濾材が提案されている。
【0006】
また、実公平4−3607号では、流体をチューブ内側から外側に濾過する濾過材であって、該濾過材が多孔質PTFEチューブの外面に、該チューブよりも孔径の小さな多孔質PTFEを該チューブの軸方向に対してスパイラル状に巻着し、しかも該巻着フィルム層の外面に更にPTFEヤーンの網組体による補強層を設けたチューブ状濾過材が提案されている。
【0007】
さらに、本出願人は、特許第3221095号では、多孔質PTFEチューブの内面に、多孔質PTFEシート等の流体透過性シートを熱融着により一体的に固定した多孔質複層中空糸を提案している。
【0008】
【特許文献1】特公平4−75044号
【0009】
【特許文献2】実公平4−3607号
【0010】
【特許文献3】特許第3221095号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特公平4−75044号では、0.1μm以上の微粒子を除去し得るフィルター機能を有しているものの、長時間使用することによりフィルム内に徐々に粒子が詰まり、濾過性能が時間の経過と共に低下するという問題がある。即ち、多孔質フィルムの表面で微粒子を除去するのではなく、ある程度の流量を得るために、空孔の大きさもある程度大きく設定し、多孔質フィルム中を微粒子が通過する際にフィルムの空孔中に粒子が捕捉され、多孔質フィルム全体として0.1μmの微粒子を除去し得る構成としている。このため、使用初期の濾過性能には優れるものの、時間の経過と共に目詰まりが生じるため、良好な濾過性能を長期間持続できないという問題がある。特に、高濁度溶液を濾過した場合には、急速な目詰まりを起こしやすいという問題がある。
【0012】
このように、この種の多孔質素材は、繊維の絡み合いで空孔を構成しており、空孔の形状や大きさは多種多様であるため、空孔の孔径の規定は難しく、一般に、規定粒子の捕集率による濾過精度で多孔質素材の性能を規定している。
【0013】
また、実公平4−3607号では、内面から外面に向かって濾過を行い、孔隙の大きなチューブで予備的濾過をなし、巻着フィルム層において濾過の精度を確保するとしている。しかし、濁度の大きい液体を濾過した場合に、大きな粒子等が外面側に抜け出すことができず、予備的濾過を行う内層の多孔質チューブの空孔内に粒子が入り込んだ状態で孔を閉塞してしまうという問題がある。これにより、目詰まりが発生し、液体の透過性が悪くなるという問題がある。また、強度補強のためにヤーンによる網組を最外層に設けているが、濾過性能に効力を発揮するものではなく、網組内に粒子等が入りこみ流量が低下するという問題がある。
【0014】
このように、多孔質体を用いた濾過膜においては、初期流量と共に、時間経過後の固体粒子の目詰まりによる流量低下が問題となり、これを防ぐことが重要である。即ち、ある程度時間が経過した後の定常状態での濾過性能が重要である。
【0015】
さらに、特許第3221095号は、内面から外面に向かって濾過する内圧式濾過において、内面に小孔径高気孔率のシートをラッピング一体化することで濾過性能を向上しているが、内面で中空閉塞を起こすため濁度の大きい液体を濾過する場合には、濾過性能の向上が不十分であり、未だ改良の余地がある。
【0016】
また、このような多孔質PTFEチューブによる濾過において、濾過寿命を伸ばすために、チューブの内周面やチューブの空孔内等に付着した粒子を逆洗浄により取り除くことが一般に行われている。しかし、濾過層の表面ではなく、チューブ等の厚みも含めた濾過層全体として粒子を捕捉する構成とすると、多孔質チューブの空孔内に入りこんだ粒子は、逆洗浄を行っても容易に取り除くことができず、濾過性能の回復が困難となる問題がある。
【0017】
多孔質チューブ等の空孔内への粒子の入りこみを防ぐためには、表面の孔を小さくすることが考えられるが、その際、延伸倍率を小さくするため同時に空孔率が小さくなる。よって、流体の透過性が悪化するという問題がある。
【0018】
また、上記多孔質PTFEチューブは、平滑なPTFEチューブの上に、単にPTFEシートを巻き付けているだけであるため、内外圧、屈曲等に対する耐久性が十分でない。耐久性向上のために編組して補強等しているが、補強するとそこに粒子(SS分:浮遊粒子)が堆積し、流量が低下するという問題がある。
【0019】
本発明は上記した問題に鑑みてなされたものであり、高濁度の溶液を濾過しても、多孔質材の空孔内に固体粒子等が目詰まりせず、時間経過に伴う流量の低下を防止できると共に、逆洗浄により濾過性能が容易に回復し、良好な濾過性能を長期間に渡って持続できる多孔質複層中空糸及び濾過モジュールを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するため、本発明は、外周面側から内周面側に向けて固液分離処理を行う外圧濾過用の多孔質複層中空糸であって、
多孔質延伸PTFE製のチューブからなる支持層と、該支持層の外表面の濾過層を備えた複層からなり、上記濾過層の繊維状骨格により囲まれた空孔は上記支持層の空孔より小さく、かつ、
上記濾過層の外表面の各空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)を、圧力0.1MPaで加圧濾過した時の粒子捕捉率が90%以上の場合の捕捉粒子の粒径(X)で除した値をRFL値(Y)とする、即ち(Y=L/X)とすると、
上記(X)と上記(Y)が、XY平面上の下記の10点を順に結んで囲まれる領域内に存在するように上記(L)を設定していることを特徴とする多孔質複層中空糸。
(X,Y)=(0.055,2)(1,1.5)(2,1)(5,0.5)(10,0.3)(10,4)(5,6)(2,10)(1,15)(0.055,25)
【0021】
本発明者は、鋭意研究の結果、多孔質体の空孔内への固体粒子等の目詰まりの問題は、濾過層の最表面である濾過面に多数存在する繊維状骨格により囲まれた各空孔の最大長さに大きく依存していることを見出した。また、長期的に良好な濾過性能を得るには、初期の流量と共に、一定時間経過後の定常状態での流量が特に重要であることを見出した。
【0022】
即ち、上記PTFEのような延伸多孔質体は、柔軟な繊維が三次元網目状に連結された微細な繊維状組織を備え、繊維状骨格に囲まれた多数の空孔が存在している。繊維状骨格により囲まれた空孔はスリット形状等の細長いものが多いため、確実に固液を分離するには、濾過層に存在する空孔の平均孔径や空孔率で規定するのではなく、空孔の最大長さで規定するのが良いことを見出した。特に、濾過層の外周面での空孔の最大長さが重要であり、固体粒子を濾過層の表面でカットできる構成としている。なお、空孔の最大長さとは、空孔を構成する空間部分の最大横断長さ、即ち、樹脂部及びそれに連結する繊維で構成される空孔の外周上の2点を結ぶ距離の最大値を指す。
【0023】
具体的に説明すると、従来は、濾過層にある程度の厚みを持たせることにより、三次元網目状とされた空孔内で濾過層の厚みも含めた層全体として粒子を捕捉するものであったため、時間の経過につれて、徐々に空孔内に粒子が蓄積し目詰まりを起こし、濾過層全体として流量が低下するという問題があった。しかし、本発明では、外圧濾過用の多孔質複層中空糸において、外層を濾過層とし、該濾過層の外表面に多数存在する空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)を上記のように設定し、固液分離処理の初期段階後の定常状態において、分離する固体粒子が上記空孔内へ不可逆的に捕捉されることがなく逆洗浄等により容易に除去できる小さい長さに設定している。即ち、最適な濾過圧、逆洗圧で行う固液分離処理の初期段階での流量低下を終えた定常状態において、濾過層及び支持層中の空孔内への不可逆的な粒子捕捉が実質的に起こらないような設定としている。このため、ほとんどの固体粒子を濾過層の外周面で跳ね返すことができると共に、目詰まりも生じず、液体の透過性をも維持することができる。
【0024】
即ち、濾過層の外表面の各空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)(μm)を、圧力0.1MPaで加圧濾過した時の粒子捕捉率が90%以上の場合の捕捉粒子の粒径(X)(μm)で除した値をRFL値(Y)とし、濾過層の構成を規定している。本発明者は、鋭意実験を積み重ねた結果、図1に示すように、上記(X)と上記(Y)が、XY平面上の下記のA〜Jの10点を順に結んで囲まれる領域M内に存在するように上記(L)を設定している。(X,Y)=A(0.055,2)、B(1,1.5)、C(2,1)、D(5,0.5)、E(10,0.3)、F(10,4)、G(5,6)、H(2,10)、I(1,15)、J(0.055,25)。これにより、固液分離処理の初期段階後の定常状態において、分離する固体粒子が空孔内へ捕捉されず濾過性能を高められることを見出した。
【0025】
高濁度の溶液を濾過しても、多数の固体粒子を濾過層の外表面でカットでき、固体粒子が濾過層及び支持層中の空孔内に入り込むことがないため、目詰まりにより空孔が閉塞することがなく、濾液のみを濾過層及び支持層中に透過することができ、時間経過に伴う流量低下を防止することができる。よって、初期状態と定常状態との流量変化が少なく、定常状態に達した後も良好な濾過性能を長期間に渡って安定して持続することができる。
【0026】
また、多少の固体粒子が濾過層の表面に付着等することがあった場合でも、濾過層及び支持層の内部にまで固体粒子が入り込むことがないため、逆洗浄を行うことにより、付着した固体粒子を容易に取り除くことができ、濾過性能を容易に回復させることができる。
【0027】
繊維状骨格により囲まれた各空孔は、スリット状等で軸方向等の一方向に細長い形状が一般的であるが、網目状、ひし形、楕円形状、円形状等でも良く、延伸倍率や加工法等によって適宜変更することができる。なお、平均最大長さとは、濾過層の外周面の各空孔の最大長さの平均値を指し、濾過層の外周面を拡大したSEM画像上で測定することができる。
【0028】
外圧濾過用としているのは、内圧濾過用として、内層の内周面で固体粒子をカットする構成とすると、高濁度溶液を濾過する場合、多孔質複層中空糸の中空内に固体粒子が高濃度で存在することとなり、中空閉塞を起こし中空糸内の流量が低下するためである。
【0029】
濾過層は、樹脂を1軸延伸あるいは2軸延伸した多孔質シートからなり、該多孔質シートを上記多孔質延伸PTFE製のチューブの外周面に密着させて巻き付けて、複層化していることが好ましい。
【0030】
外層である濾過層をシートの巻き付け構造としているのは、多孔質シートは1軸延伸、2軸延伸共に行いやすく、表面の空孔の形状や大きさ等の調整が容易である上に、薄膜での積層が容易であるためである。内層の支持層は押出成形されたチューブとすることで、成形性も良く、ある程度の厚みを有し十分な強度を持たせやすく、空孔率も大きくしやすくなる。支持層、濾過層共に、少なくとも1軸方向に延伸されていれば良く、チューブの軸方向や周方向、径方向等に延伸することができる。軸方向等の1軸、又は軸方向と周方向の2軸等とすることができる。延伸倍率は、適宜設定することができるが、押出成形チューブの場合、軸方向には50%〜700%、周方向には5%〜100%、多孔質シートの場合、長手方向には50%〜1000%、横方向には50%〜2500%とすることができる。特に、多孔質シートを用いると、横方向の延伸が容易であるため、チューブ状に巻きつけたときに、周方向の強度を向上することができ、散気等による膜の揺れや逆洗浄による圧力負荷に対する耐久性を向上することができる。
【0031】
さらに、多孔質延伸PTFE製のチューブからなる支持層と濾過層は一体化され、互いの空孔が三次元的に連通しているため、良好な透過性を得ることができる。多孔質シートは、多孔質延伸PTFE製のチューブの外周面全面を覆うように巻着され、複層あるいは単層とすることができ、1枚あるいは複数枚のシートを用いて漏れがないように多孔質延伸PTFE製のチューブの外周面を完全に覆っていれば良い。
【0032】
濾過層はPTFE、PE,PP等のポリオレフィン系樹脂、ポリイミド、ポリ弗化ビニリデン系樹脂から選択される樹脂より形成していることが好ましい。延伸加工が容易であり、耐薬品性等に優れ、PTFEとの一体成形が可能な上記樹脂を用いることができる。特に、支持層である多孔質延伸PTFEとの成形性の点より、濾過層も、支持層と同材質であるPTFEが好ましい。
【0033】
濾過層の外周面に多数存在する各空孔の平均最大長さは、支持層中に多数存在する繊維状骨格により囲まれた各空孔の平均最大長さより小さくしていることが好ましく、具体的には、濾過層の空孔の平均長さを、上記支持層の空孔の平均長さの1%〜30%としているのが良く、できるだけ小さくしている方が良い。これにより、外周面側から内周面側への透過性を高めることができる。
【0034】
濾過層の外表面において、該外表面の全表面積に対する上記空孔の面積占有率が、例えば画像処理等により40%〜60%であることが好ましい。空孔の最大長さが小さくても、空孔の面積占有率がある程度大きいと、流量を減らすこともなく、効率良く、濾過性能を向上することができる。
【0035】
濾過層の空孔率は50%〜80%であり、支持層の空孔率は50%〜85%であることが好ましい。これにより、強度とのバランスを保ちながら、中空糸の外周面側から内周面側への透過性をさらに高めることができる。空孔率が小さすぎると流量が低下しやすく、空孔率が大きすぎると強度が低下しやすい。
【0036】
濾過層の厚みは5μm〜100μmであることが好ましい。これは、上記範囲より小さいと濾過層の形成が困難であり、上記範囲より大きくしても濾過性能向上への影響は望み難いためである。支持層の厚みは0.1mm〜10mmであることが好ましい。これにより、軸方向、径方向、周方向のいずれにおいても良好な強度を得ることができ、内外圧や屈曲等に対する耐久性を向上することができる。なお、支持層の内径は0.3mm〜10mmであることが好ましい。
【0037】
また、本発明は、本発明のの多孔質複層中空糸を複数本束ねた集束体を用いてなり、外圧濾過用あるいは浸漬型外圧吸引濾過用として用いられることを特徴とする濾過モジュールを提供している。
【0038】
具体的には、多孔質複層中空糸を複数本束ねて集束体とされ、多孔質複層中空糸相互の間隙が封止用樹脂により封止され、必要時には、該集束体は外筒内に収納され、該集束体の少なくとも一端と外筒との間隙が上記同様に封止用樹脂により封止された濾過モジュール等として用いることができる。本発明の多孔質複層中空糸を用いているため、外圧濾過用あるいは浸漬型外圧吸引濾過用として好適に用いることができる。集束体が外筒内に収納されたものを外圧濾過用、外筒がなく集束体のみからなるものを浸漬型外圧吸引濾過用としている。
【0039】
具体的には、濾過一般に適用することができ、特に濁度の濃い排水処理に有効である。例えば、浄水処理では、粉末活性炭と組み合わせて用いることができる。粉末活性炭により非常に微小な溶存有機物を吸着し、該溶存有機物を吸着した後の粉末活性炭を多孔質複層中空糸で濾過する構成が好適である。また、下水処理では、タンク内で菌体を繁殖させ、ここに下水を導入し、菌体が下水中の汚染成分を分解してクリーンにする。その後、この菌体を多孔質複層中空糸で濾過する構成が好適である。油水分離では、各種機械、装置の洗浄排水(洗浄液)の中には除去された油分が油滴となって存在する。また、これに界面活性剤が混入しエマルジョン化しているものが存在する。これらを多孔質複層中空糸で濾過し、回収再利用するのが好適である。
【0040】
さらに、本発明は、多孔質延伸PTFEチューブの外周面上に凹凸を付与した後に、多孔質延伸樹脂シートを巻き付け、該巻き付けと同時あるいは巻き付け後に荷重をかけて上記多孔質延伸PTFEチューブと上記多孔質延伸樹脂シートとを密着させ、上記多孔質延伸PTFEチューブと上記多孔質延伸樹脂シートとを焼結一体化することを特徴とする多孔質複層中空糸の製造方法を提供している。
【0041】
このように、多孔質延伸PTFEチューブの外周面上に微細な凹凸を付与することで、多孔質延伸PTFEチューブと多孔質延伸樹脂シートとの位置ずれを防止できると共に、シート巻き付け時あるいは巻き付け後に荷重をかけているため、シートの浮きを防止することができるため、両者の密着性を高めることができる。また、多孔質延伸PTFEチューブと多孔質延伸樹脂シートとは、焼成したものでも良いし、未焼成のものでも良い。各々を完全に焼成させていない場合は、より強固に一体化することができる。良好な密着状態で、部分的に未焼成とした両者を焼結すると、良好な密着状態を得ることができる。以上より、内外圧、屈曲等に対する十分な耐久性を得ることができる。また、網組等の補強層を用いていないため、網組内に固体粒子が詰まることもなく、時間の経過に伴う流量の低下が生じることもない。
【0042】
上記多孔質延伸PTFEチューブ及び上記多孔質延伸樹脂シートの融点以上の温度で焼結することにより、両者をより強固に融着一体化することができる。
【0043】
多孔質延伸PTFEチューブの外周面の微細な凹凸は、火炎処理により施されていることが好ましい。これにより、チューブの性能に影響を及ぼすことなく良好な凹凸状態と得ることができる。その他、レーザー照射やプラズマ照射、PFA,FEP等のフッ素樹脂系ディスパージョンの塗布等の物理的手段、化学的手段を施すことで、密着性を高めても良い。微細な凹凸は多孔質延伸PTFEチューブの外周面全面に施されていることが好ましいが、部分的、断続的に施されていても良く、20〜200μm程度が良い。
【0044】
多孔質延伸樹脂シートの巻き付けと同時あるいは巻き付け後に荷重をかける方法としては、シートを巻き付け後、チューブ全体をダイスに通す方法が挙げられ、多孔質延伸PTFEチューブと多孔質延伸樹脂シートとがずれたり破損しないように、均一に適度な荷重をかけることができれば良い。
【発明の効果】
【0045】
以上の説明より明らかなように、本発明によれば、外圧濾過用の多孔質複層中空糸において、外層を濾過層とし、該濾過層の外周面に多数存在する空孔の最大長さを、上述したように、固液分離処理の初期段階後の定常状態において、分離する固体粒子が上記空孔内へ不可逆的に捕捉されることがなく逆洗浄等により容易に除去できる小さい長さに設定している。即ち、上記空孔の最大長さを溶液中の多数の固体粒子を濾過層の表面でカットでき、固体粒子が濾過層及び支持層中の空孔内に入り込まないような構成としている。このため、ほとんどの固体粒子を濾過層の外周面で跳ね返すことができ、固体粒子が濾過層及び支持層中の空孔内に入り込むのを防止することができる。
【0046】
よって、種々の形状の固形分を含み固形分の大きさの分布が広い高濁度の溶液、特に平均粒径の大きな固体粒子を含む溶液を濾過しても、空孔内に固体粒子が入り込むことがなく、目詰まりを生じず空孔の閉塞が起こらないため、時間経過に伴う流量低下を防止することができる、
【0047】
その結果、初期状態と定常状態との流量変化が少なく、定常状態に達した後も良好な濾過性能を長期間に渡って持続することができる。また、付着した固体粒子を容易に取り除くことができるため、逆洗浄、散気、薬品洗浄等を行うことにより、濾過性能を容易に回復させることができる。よって、数ヶ月、数年単位に渡って使用されるようなフィルター等に特に好適である。
【0048】
さらに、支持層と濾過層が強固に融着一体化しており、逆洗浄、散気等による機械的負荷に長期に渡って耐えることができる。また、PTFE等の耐薬品性に優れた素材により形成されているため、強酸、強アルカリ液等にも適用可能である。耐熱性にも優れている。
【0049】
また、本発明の製造方法によれば、多孔質延伸PTFEチューブの外周面上に凹凸を付与することで、チューブとその外周に巻きつけるシートとの位置ずれを防止できると共に、シート巻き付け時あるいは巻き付け後に荷重をかけているため、シートの浮きを防止することができる。さらに、両者の密着性を高めた状態で、部分的に未焼成とした両者を融点以上の温度で焼結しているため、両者を強固に融着一体化することができる。よって、内外圧、屈曲等に対する十分な耐久性を得ることができる。
【0050】
さらに、本発明の濾過モジュールは、本発明の多孔質複層中空糸を用いているため、高精度の濾過が可能であり、耐久性にも優れており、外圧濾過用あるいは浸漬型吸引濾過用として好適に用いることができる。よって、醗酵プロセスの除菌・除濁(酵素・アミノ酸精製)、動物細胞の培養濾過等の医薬・醗酵・食品分野、高濁度排水処理、廃酸・廃アルカリ処理等の環境保全分野等に好適に用いることができる。
【0051】
具体的には、下排水処理における固液分離、産業排水処理(固液分離)、工業用水道水濾過、プール水濾過、河川水濾過、海水濾過、食品工業等における用水濾過及び製品の清澄濾過、酒・ビール・ワイン等の濾過(特に生製品)、製薬・食品等におけるファーメンターからの菌体分離、染色工業における用水及び溶解染料の濾過、RO膜における純水製造プロセス(海水の淡水化を含む)における前処理濾過、イオン交換膜を用いたプロセスにおける前処理濾過、イオン交換樹脂を用いた純水製造プロセスにおける前処理濾過等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図2乃至図6は、本発明の第1実施形態の多孔質複層中空糸10を示す。
多孔質複層中空糸10は、円筒状の多孔質延伸PTFE製のチューブからなる支持層11の外周面11a上に、濾過層12を備えた複層からなる。具体的には、押出成形された多孔質延伸PTFE製のチューブからなる支持層11の外周面11aに、多孔質延伸PTFEシートを密着させて巻き付けて形成された濾過層12を最外層として一体的に備えた二層構造としている。多孔質複層中空糸10において濾過層12の外周面12a側から支持層11の内周面11b側に向けて固液分離処理を行う外圧濾過用として用いられるものである。
【0053】
濾過層12及び支持層11は、共にPTFEからなる多孔質体であるため、柔軟な繊維fが三次元網目状に連結された微細な繊維状組織を備え、繊維状骨格に囲まれた多数の空孔11A、12Aが存在している。濾過層12及び支持層11は一体化されており、互いの空孔11A、12Aが三次元的に連通し、多孔質複層中空糸10において濾過層12の外周面12a側から支持層11の内周面11b側に透過性を有する構造としている。
【0054】
図3は、多孔質複層中空糸10の軸方向の断面及び内周面の拡大写真(100倍)である。写真上の最外層の薄層が濾過層12の断面であり、その下の層が支持層11の断面である。写真下部は支持層11の内周面11bである。また、図4は、多孔質複層中空糸10の軸方向の断面のさらなる拡大写真(500倍)である。写真上方は濾過層12の断面を示し、写真の下方は支持層11の断面を示す。なお、図からもわかるように、支持層11の方が空孔率が大きく、空孔の大きさも大きく、濾過層12の空孔は非常に小さいものであることがわかる。
【0055】
繊維状骨格により囲まれた各空孔11A、12Aはスリット形状、楕円形状等の種々の形状が混在しているが、支持層11及び濾過層12を構成するPTFEチューブ及びPTFEシートは共に延伸されているため、幅方向に対して長さ方向の方が大きい略スリット形状のものが主として存在している。具体的には、PTFEチューブはチューブの軸方向に500%1軸に延伸され、PTFEシートは軸方向に200%、横方向に1000%の2軸に延伸されている。
【0056】
本発明では、濾過層12の外周面12aの各空孔12Aを囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)(μm)を、圧力0.1MPaで加圧濾過した時の粒子捕捉率が90%以上の場合の捕捉粒子の粒径(X)(μm)で除した値をRFL値(Y)とする、即ち(Y=L/X)とし、濾過層12の構成を規定している。
【0057】
図1に示すように、上記(X)と上記(Y)が、XY平面上の下記A〜Jの10点を順に結んで囲まれる領域M(図中斜線部)内に存在するように上記(L)を設定している。(X,Y)=点A(0.055,2)、点B(1,1.5)、点C(2,1)、点D(5,0.5)、点E(10,0.3)、点F(10,4)、点G(5,6)、点H(2,10)、点I(1,15)、点J(0.055,25)。
これにより、固液分離処理の初期段階後の定常状態において、分離する固体粒子が空孔12A内へ捕捉されない小さい長さに設定している。即ち、濾過層12の外周面12aの各空孔12Aを囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)を、溶液中の多数の固体粒子が濾過層12の外周面12aでカットでき、固体粒子が濾過層12及び支持層11中の空孔12A、11A内に不可逆的に入り込まないような長さに設定している。なお、繊維状骨格の最大長さとは、空孔を構成する空間部分の最大横断長さ、即ち、互いに連結する繊維で構成される空孔の外周上の2点を結ぶ距離の最大値を指す。
【0058】
即ち、濾過層12の外周面12aに存在する各空孔12Aを囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)は2.5μm以下とし、濾過層12は、捕捉粒子として粒径(X)が0.2μmのビーズを圧力0.1MPaで加圧濾過した時の粒子捕捉率が90%であるため、RFL値(Y)は12.5となる。(X,Y)=(0.2,12.5)は領域M内に存在している。
【0059】
また、濾過層12の外周面12aにおいて、外周面12aの全周面積に対する空孔12Aの面積占有率を50%としている。さらに、支持層11中に存在する空孔11Aの平均最大長さは20μm〜50μm程度としている。面積占有率、繊維状骨格の平均最大長さは、電子顕微鏡写真からの手計算もしくは画像処理ソフトにより算出している。
【0060】
また、濾過層12の空孔率は60%とし、支持層11の空孔率は80%としている。濾過層12の厚みは60μmとし、支持層11の厚みは0.5mmとし、チューブ内径は1mmとしている。
【0061】
第1実施形態の多孔質複層中空糸10は、排水中の汚れ成分を除去するための濾過用の膜であり、固液分離により捕集・分離する汚れ成分からなる固体粒子の平均粒径は0.1μm〜5μm程度のものを想定している。
【0062】
このように、多孔質複層中空糸10は、圧濾過用の多孔質チューブであり、最外層を濾過層12とし、濾過層12の外周面12aに多数存在する空孔12Aを囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)を上記のように設定しているため、溶液中のほとんどの固体粒子Sを濾過層12の外周面12aで跳ね返し、固体粒子Sが濾過層12及び支持層11中の空孔内12A、11Aに不可逆的に入り込むのを防止することができる。よって、目詰まりを生じることもなく、濾過層12及び支持層11中には濾液のみを透過させることができ、時間経過に伴う流量低下を防止することができ、初期状態と定常状態との流量変化が少なく、良好な濾過性能を長期間に渡って持続することができる。
【0063】
また、一定期間使用した後に、多孔質複層中空糸10において、支持層11の内周面11b側から濾過層12の外周面12a側に向かって流体を流通させ、逆洗浄を行うことにより、濾過層12の外周面12a等に付着した固体粒子Sを容易に取り除くことができ、濾過性能を容易に回復させることができる。
【0064】
上記実施形態では、濾過層を構成する樹脂をPTFEとしているが、PE,PP等のポリオレフィン系樹脂、ポリイミド、ポリ弗化ビニリデン系樹脂から選択される樹脂とすることもできる。また、支持層及び濾過層共に、少なくとも1軸方向に延伸されていれば良く、チューブの軸方向あるいは周方向等に延伸バランスを考慮して適宜1軸、2軸等に延伸することができる。なお、濾過層を押出成形チューブとすることもできる。
【0065】
図7は、多孔質複層中空糸10を複数本束ねた集束体を用いてなる濾過モジュール20を示す。
濾過モジュール20は、外圧濾過用として用いられるものであり、多孔質複層中空糸10を複数本束ねて集束体21を備えている。集束体21は外筒22内に収納され、集束体21の両端21A、21Bにおいて、多孔質複層中空糸10相互の間隙が封止用樹脂23により封止されている。また、集束体21の両端21A、21Bと外筒22との間隙も同様に封止用樹脂23により封止されている。
【0066】
濾過モジュール20の両端は開口されており、固液分離処理される原液は、図中矢印に示すように、外筒22の側面から供給され、集束体21の上端21A側及び集束体21の下端21B側に向かって流れながら多孔質複層中空糸10により濾過され、固体粒子が除去された濾過液は多孔質複層中空糸10の内周側を流通し、集束体21の上端21A側及び集束体21の下端21B側から導出される。また、固形粒子等を含む濁液は、外筒22に設けられた排出口から図中矢印に示すように排出される。なお、多孔質複層中空糸10を複数本束ねた集束体を用いて、浸漬型外圧吸引濾過用の濾過モジュールとすることもできる。
【0067】
このように、濾過モジュール20は、複数の本発明の多孔質複層中空糸10を備えているため、非常に高精度の濾過が可能であり、特に、外圧濾過用あるいは浸漬型吸引濾過用として好適に用いられる。
【0068】
以下、図8に示すように、本発明の多孔質複層中空糸の製造方法について詳述する。
まず、押出成形により得られた多孔質延伸PTFEチューブ30を準備する。この多孔質延伸PTFEチューブ30の外周面30aを完全に焼成させずに、所定の延伸倍率にて延伸されている。
【0069】
次に、外周面30aを未焼成として延伸した多孔質延伸PTFEチューブ30の外周面30aの全面に渡って、プロパンガス1.2L/min、空気11L/min、スピード1.7m/分の条件で、火炎処理をほどこし、外周面30a全面に均等に100μm程度の微細な凹凸を付与する。
【0070】
そして、多孔質延伸樹脂シート31を準備する。この多孔質延伸樹脂シート31は、完全に焼成させずに、所定の延伸倍率にて延伸されている。多孔質延伸樹脂シート31は、幅10mm、厚み30μmとし、細長い長方形状とし、PTFE製としている。
【0071】
その後、未焼成の多孔質延伸樹脂シート31を、多孔質延伸PTFEチューブ30の外周面30a上に螺旋状に重ね合わせながら巻き付ける。多孔質延伸樹脂シート31が、多孔質延伸PTFEチューブ30の外周面30aの全面を漏れなく覆うように巻着する。
【0072】
シートを巻き付け後に、多孔質延伸PTFEチューブ30と多孔質延伸樹脂シート31との積層体32を、内径がφ1.8mmのダイス35に通し、積層体32の全周面に均一に、チューブの径方向に0.5kgf程度の荷重をかける。荷重をかけて多孔質延伸PTFEチューブ30と多孔質延伸樹脂シート31とを密着させる。
【0073】
このように密着した状態で、多孔質延伸PTFEチューブ30及び多孔質延伸樹脂シート31の融点(PTFEの融点は約327℃)以上の温度である350℃で20分間焼結し、両者を融着一体化する。
【0074】
このように、多孔質延伸PTFEチューブ30の外周面30aに微細な凹凸を施しているため、多孔質延伸PTFEチューブ30と多孔質延伸樹脂シート31との位置ずれが生じない上に、荷重をかけて密着させているため、多孔質延伸樹脂シート31の浮きを防止することができ、良好な密着状態で両者を一体化することができる。
【0075】
なお、多孔質延伸PTFEチューブは、例えば、PTFEファインパウダーにナフサ等の液状潤滑剤をブレンドし、押出成形等によりチューブ状とした後に、液状潤滑剤を除去せずに、あるいは乾燥除去後に、少なくとも1軸方向に延伸する。熱収縮防止状態で焼結温度の約327℃以上に加熱することにより、延伸した構造を焼結固定すると、強度が向上した空孔径が0.1〜10μm程度の多孔質延伸PTFEチューブを得ることができる。多孔質延伸PTFEチューブと多孔質延伸樹脂シートとは焼成させたものを用いても良い。
【0076】
また、多孔質延伸PTFEシートは、以下のような従来公知の種々の方法等により得ることができる。(1)PTFEのペースト押出により得られる未焼結成形体を融点以下の温度で延伸し、その後、焼結する方法。(2)焼結されたPTFE成形体を徐冷し、結晶化を高めた後、所定の延伸倍率に1軸延伸する方法。(3)PTFEファインパウダーのペースト押出によって得られる未焼結成形体を、そのファインパウダーの粉末の融点以下で、該ファインパウダーから得られる成形品(焼結体)の融点以上の温度において、示差走査熱量計(DSC)における結晶融解図上、上記ファインパウダーの吸熱ピークの変化を生ぜず、かつ、該成形体の比重が2.0以上となるように加熱処理した後に、該粉末の融点以下の温度で延伸する方法。(4)数平均分子量が100万以下であるPTFEファインパウダーのペースト押出によって得られる成形体を焼結後熱処理して結晶化度を高めた後、次いで少なくとも1軸方向に延伸する方法。このように、ペースト押出機により押出し、またはカレンダーロール等により圧延し、あるいは押出した後圧延する等してシート状とすることができる。他の樹脂を用いた場合にも、同様な方法で多孔質延伸PTFEシートを得ることができる。
【0077】
PTFEファインパウダーは、数平均分子量が50万以上、好ましくは200万〜2000万のものが良い。また、ペースト押出法では、PTFE100重量部に対して液状潤滑剤を15〜40重量部配合して押出成形するのが良い。
【0078】
延伸については、シート状あるいはチューブ状の多孔質体を、通常の方法で機械的に引き伸ばして行うことができる。例えば、シートの場合、1つのロールから他のロールへと巻き取る際に、巻き取り速度を送り速度より大きくしたり、あるいはシートの相対する2辺を掴んでその間隔を広げるように引き伸ばす等により延伸することができる。チューブの場合、その長さ方向(軸方向)に引き伸ばすのが容易である。その他、多段延伸、逐次2軸延伸、同時2軸延伸等の各種延伸法により延伸することができる。延伸温度は、通常、焼結体の融点以下の温度(0℃〜300℃程度)で行われる。比較的空孔の孔径が大きく空孔率の高い多孔質体を得るには低温での延伸が良く、比較的空孔の孔径が小さく緻密な多孔質体を得るには高温での延伸が良い。延伸した多孔質体は、そのままで使用しても良いし、高い寸法安定性が要求される場合、延伸した両端を固定等することで延伸した状態を緊張下に保って200℃〜300℃の温度で1〜30分程度熱処理しても良い。また、ファインパウダーの融点以上の温度、例えば350℃から550℃程度に保った加熱炉中で、数10秒から数分程度保持し焼結することにより、さらに寸法安定性を高めることもできる。上記のような延伸温度や、PTFEの結晶化度、延伸倍率等の条件を組み合わせることにより、上記空孔の最大長さ等を調整することができる。
【0079】
上記実施形態では、2枚のシートを用いて略半周ずつ巻着しているが、シートの枚数は1枚でも良いし、2枚以上でも良い。また、シートはチューブの外周を略1回巻きあるいは2回巻等としても良く、単層あるいは複層のシートの積層により濾過層を形成することができる。
【0080】
また、多孔質延伸樹脂シートはチューブの軸方向に1軸延伸したものを用いるとチューブの外周面に巻つけやすくなる。なお、多孔質延伸樹脂シートの形状も巻き付け状況に応じて設定することができ、チューブの軸方向に対してスパイラル状に巻着しても良い。
【0081】
また、上記実施形態では、シートを巻き付け後に荷重をかけているが、シートに張力をかけて巻き付けと同時に荷重をかけても良い。
【0082】
以下、本発明の多孔質複層中空糸の実施例、比較例について詳述する。
(実施例1)
本発明の多孔質複層中空糸とした。
内径1mm、外径2mm、空孔率80%、平均・最大繊維長40μmの多孔質延伸PTFEチューブを支持層とした。支持層の捕集性能は、濾過圧0.1MPaで捕捉粒子として粒径が2μmのビーズを用いた場合90%であった。
また、厚み30μm、幅10mm、空孔率60%、平均・最大繊維長(空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L))が2.5μmの多孔質延伸PTFEシートを濾過層とした。濾過層の捕集性能は、濾過圧0.1MPaで捕捉粒子として粒径(X)が0.2μmのビーズを用いた場合90%であった。即ち、RFL値(Y)は12.5であり、(X,Y)=(0.2,12.5)は領域M内に存在した。
【0083】
上記多孔質延伸PTFEチューブ及び多孔質延伸PTFEシートを専用のラッピング装置にセットした。多孔質延伸PTFEチューブをラインスピード2m/分で流し、その上にテンションコントロールを行いながら多孔質延伸PTFEシートを連続的にラッピングした。ラッピングはハーフラップで行った。
その後、雰囲気温度を350℃に設定したトンネル炉に通し、多孔質延伸PTFEチューブと多孔質延伸PTFEシートを熱融着一体化し、多孔質複層中空糸を得た。成形後の多孔質複層中空糸全体の空孔率は68%であった。また、SEMで測定した外表面の平均・最大繊維長は2.5μmであった。得られた多孔質複層中空糸の特性を下記の表1に示す。
【0084】
(実施例2)
本発明の多孔質複層中空糸とした。
内径1mm、外径2mm、空孔率80%、平均・最大繊維長40μmの多孔質延伸PTFEチューブを支持層とした。支持層の捕集性能は、濾過圧0.1MPaで捕捉粒子として粒径が2μmのビーズを用いた場合90%であった。
また、厚み30μm、幅10mm、空孔率75%、平均・最大繊維長(空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L))が15μmの多孔質延伸PTFEシートを濾過層とした。濾過層の捕集性能は、濾過圧0.1MPaで捕捉粒子として粒径(X)が5μmのビーズを用いた場合90%であった。即ち、RFL値(Y)は3であり、(X,Y)=(5,3)は領域M内に存在した。
【0085】
(比較例1)
多孔質延伸PTFEチューブは、内径1mm、外径2mm、平均・最大繊維長(空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L))15μmの均一膜とし、捕集性能は、濾過圧0.1MPaで捕捉粒子として粒径(X)が0.2μmのビーズを用いた場合90%であった。即ち、RFL値(Y)は75であり、(X,Y)=(0.2,75)は領域Mの範囲外であった。
【0086】
(比較例2)
多孔質延伸PTFEチューブは、内径1mm、外径2mm、空孔率80%、平均・最大繊維長(空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L))60μmの均一膜とし、捕集性能は、濾過圧0.1MPaで捕捉粒子として粒径(X)が5μmのビーズを用いた場合90%であった。即ち、RFL値(Y)は12であり、(X,Y)=(5,12)は領域Mの範囲外であった。
【0087】
【表1】
【0088】
各実施例と比較例の(X,Y)の値と領域Mの関係を図9に示す。実施例1、2は領域M内に存在していることがわかる。
【0089】
図10に示すように、上記表1の各多孔質複層中空糸40を20本束ねて集束体41とし、一端側41aをエポキシ樹脂42で集束一体化させモジュール化して濾過モジュール43を得た。もう一端側41bは、ヒートシール44で封止した。
【0090】
図11に示す濾過実験装置50により、各多孔質複層中空糸40を用いた濾過モジュール43について、濾過実験を行った。濾過実験装置50は、処理される原液51が供給・貯留された濾過槽52内に濾過モジュール43が浸漬されており、濾過モジュール43により濾過された濾液は吸引ポンプ53で吸引され、濾過槽52から排出される構成としている。吸引ポンプ53と濾過モジュール43の間には真空計54が設置されている。また、濾過槽52には、ブロワー55と連結された散気管56が浸漬されており、濾過槽52の原液51中に散気できる構成としている。
【0091】
(実験1)(実施例1、比較例1)
濾過条件は、設定濾過流量を0.3m/dayとした。水温は20℃〜28℃(後述する図12のグラフは25℃補正値)とした。また、1回/30分の頻度、100kPaの圧力、30秒間の条件で逆洗浄を行った。散気条件は、空気量20L/min、1回/30分とした。
【0092】
(原液)
浄水施設から採取した浄化処理前の原水へ、原水に溶存有機物を吸着させるための粉末活性炭を10mg/Lとなるように添加した状態で濾過処理を行った。粉末活性炭の粒径は5〜10μmであった。また、菌体の繁殖を防止するため次亜塩素酸ナトリウム水溶液(30mg/L)を間歇的に添加した。
【0093】
図12は、実施例1、比較例1の濾過モジュールを用いた濾過実験の経過日数と膜間差圧(吸引圧)の関係を示す。なお、定流量運転を実施し、流量(0.3m/day)が一定になるように圧力を調整した。目詰まりが生じると、膜間差圧の値が大きくなる。処理水の性状としては、原水は濁度が15、濾過処理を行った濾過水はいずれも濁度が0であった。
【0094】
表1及び図12に示すように、実施例1は、濾過層の外周面の空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)が2.5μmであり、初期段階での流量低下を終えた定常状態において濾過層中の空孔内への不可逆的な粒子捕捉が実質起こらないような長さに設定しているため、濾過を開始してから最初の8日〜10日程度までは、やや膜間差圧の値が大きいものの、それ以降は、膜間差圧は20kPaでほぼ一定値となっており、一定時間経過後は、安定して良好な濾過性能を実現していることが確認できた。
【0095】
一方、比較例1は、空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)が15μmと大きかったため、固体粒子が空孔内に入りこみ、経過日数の増加に伴い、膜間差圧の値が大きくなっており、時間の経過に伴い目詰まりが徐々にひどくなり、濾過性能の悪化が大きかった。また、実施例1は、比較例1に対してバブルポイントの値も大きかった。
【0096】
(実験2)(実施例2、比較例2)
濾過条件は、設定濾過流量を0.6m/dayとした。水温は25℃〜27℃(後述する図13のグラフは25℃補正値)とした。また、1回/30分の頻度、100kPaの圧力、30秒間の条件で逆洗浄を行った。散気条件は、常時、空気量20L/minとした。
【0097】
(原液)
排水処理用の活性汚泥(MLSS 10000mg/L)を用いた。
【0098】
図13は、実施例2、比較例2の濾過モジュールを用いた濾過実験の経過日数と膜間差圧(吸引圧)の関係を示す。なお、定流量運転を実施し、流量(0.6m/day)が一定になるように圧力を調整した。目詰まりが生じると、膜間差圧の値が大きくなる。処理水の性状としては、原水は濁度が20、濾過処理を行った濾過水はいずれも濁度が0であった。
【0099】
表1及び図13に示すように、実施例1は、濾過層の外周面の空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)が15μmであり、初期段階での流量低下を終えた定常状態において濾過層中の空孔内への不可逆的な粒子捕捉が実質起こらないような長さに設定しているため、濾過を開始してから最初の8日〜10日程度までは、やや膜間差圧の値が大きいものの、それ以降は、膜間差圧は30kPaでほぼ一定値となっており、一定時間経過後は、安定して良好な濾過性能を実現していることが確認できた。
【0100】
一方、比較例2は、空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)が40μmと大きかったため、固体粒子が空孔内に入りこみ、経過日数の増加に伴い、膜間差圧の値が大きくなっており、時間の経過に伴い目詰まりが徐々にひどくなり、濾過性能の悪化が大きかった。また、実施例1は、比較例1に対してバブルポイントの値も大きかった。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】濾過層の外表面の各空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)を、圧力0.1MPaで加圧濾過した時の粒子捕捉率が90%以上の場合の捕捉粒子の粒径(X)で除した値をRFL値(Y)とした時の、上記(X)と上記(Y)及び領域Mの関係を示す図である。
【図2】(A)(B)は、多孔質複層中空糸の概略構成図である。
【図3】多孔質複層中空糸の軸方向の断面及び内周面の拡大写真(100倍)である。
【図4】多孔質複層中空糸の軸方向の断面の拡大写真(500倍)である。
【図5】固液分離処理される固体粒子と、濾過層の外周面の空孔の最大長さを示す図である。
【図6】本発明の多孔質複層中空糸による、濾過状況を示す図である。
【図7】濾過モジュールの構成を示す図である。
【図8】(A)(B)(C)(D)は、本発明の多孔質複層中空糸の製造方法の説明図である。
【図9】実施例及び比較例の(X,Y)と領域Mの関係を示す図である。
【図10】実施例、比較例で用いた濾過モジュールの概略図である。
【図11】濾過実験装置の概略構成図である。
【図12】実施例1、比較例1の濾過実験の結果を示し、経過日数と膜間差圧の関係を示すグラフである。
【図13】実施例2、比較例2の濾過実験の結果を示し、経過日数と膜間差圧の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0102】
10 多孔質複層中空糸
11 支持層
11A、12A 空孔
12 濾過層
12a 外周面
20 濾過モジュール
L 空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ
S 固体粒子
f 繊維
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質複層中空糸、該多孔質複層中空糸を備えた濾過モジュールに関し、詳しくは、下水処理等の環境保全分野、医薬・食品分野等の固液分離処理を行う濾過装置等に使用され、PTFE等の多孔質チューブから構成される多孔質複層中空糸の濾過性能を改良するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)からなる多孔質体は、耐薬品性、耐熱性、耐候性、不燃性等に優れる上に、非粘着性、低摩擦係数等の特性を有している。また、多孔質構造であるため、透過性、柔軟性、可撓性、微粒子の捕集・濾過性等にも優れている。このため、PTFEからなる材料は、精密化学薬品の濾過、排水処理用のフィルター等の広範な分野で使用されている。
【0003】
具体的には、多孔質PTFEは、柔軟な繊維が三次元網目状に連結された微細な繊維状組織を備え、繊維状骨格に囲まれた多数の空孔が存在しているため、チューブ状あるいはシート状等に成型され、各種フィルター、脱気膜、防水膜等に利用されている。また、これらの多孔質PTFEからなるチューブ等を多数集束し、モジュール化することで、固液分離処理を行う濾過モジュールとして用いることもできる。
【0004】
このような濾過モジュール等に用いられる多孔質PTFEからなる濾過用材として、高い濾過性能を得るために種々の提案がなされている。
【0005】
例えば、特公平4−75044号では、PTFE製連続多孔質チューブの外周面に、PTFE製連続多孔質フィルムを巻着被覆させ、フィルムによって濾過性能を得しめると共にチューブの強度向上を図っている。さらに、多孔質フィルムが0.1μm以上の微粒子を除去し得るフィルター機能を有する管状濾材が提案されている。
【0006】
また、実公平4−3607号では、流体をチューブ内側から外側に濾過する濾過材であって、該濾過材が多孔質PTFEチューブの外面に、該チューブよりも孔径の小さな多孔質PTFEを該チューブの軸方向に対してスパイラル状に巻着し、しかも該巻着フィルム層の外面に更にPTFEヤーンの網組体による補強層を設けたチューブ状濾過材が提案されている。
【0007】
さらに、本出願人は、特許第3221095号では、多孔質PTFEチューブの内面に、多孔質PTFEシート等の流体透過性シートを熱融着により一体的に固定した多孔質複層中空糸を提案している。
【0008】
【特許文献1】特公平4−75044号
【0009】
【特許文献2】実公平4−3607号
【0010】
【特許文献3】特許第3221095号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特公平4−75044号では、0.1μm以上の微粒子を除去し得るフィルター機能を有しているものの、長時間使用することによりフィルム内に徐々に粒子が詰まり、濾過性能が時間の経過と共に低下するという問題がある。即ち、多孔質フィルムの表面で微粒子を除去するのではなく、ある程度の流量を得るために、空孔の大きさもある程度大きく設定し、多孔質フィルム中を微粒子が通過する際にフィルムの空孔中に粒子が捕捉され、多孔質フィルム全体として0.1μmの微粒子を除去し得る構成としている。このため、使用初期の濾過性能には優れるものの、時間の経過と共に目詰まりが生じるため、良好な濾過性能を長期間持続できないという問題がある。特に、高濁度溶液を濾過した場合には、急速な目詰まりを起こしやすいという問題がある。
【0012】
このように、この種の多孔質素材は、繊維の絡み合いで空孔を構成しており、空孔の形状や大きさは多種多様であるため、空孔の孔径の規定は難しく、一般に、規定粒子の捕集率による濾過精度で多孔質素材の性能を規定している。
【0013】
また、実公平4−3607号では、内面から外面に向かって濾過を行い、孔隙の大きなチューブで予備的濾過をなし、巻着フィルム層において濾過の精度を確保するとしている。しかし、濁度の大きい液体を濾過した場合に、大きな粒子等が外面側に抜け出すことができず、予備的濾過を行う内層の多孔質チューブの空孔内に粒子が入り込んだ状態で孔を閉塞してしまうという問題がある。これにより、目詰まりが発生し、液体の透過性が悪くなるという問題がある。また、強度補強のためにヤーンによる網組を最外層に設けているが、濾過性能に効力を発揮するものではなく、網組内に粒子等が入りこみ流量が低下するという問題がある。
【0014】
このように、多孔質体を用いた濾過膜においては、初期流量と共に、時間経過後の固体粒子の目詰まりによる流量低下が問題となり、これを防ぐことが重要である。即ち、ある程度時間が経過した後の定常状態での濾過性能が重要である。
【0015】
さらに、特許第3221095号は、内面から外面に向かって濾過する内圧式濾過において、内面に小孔径高気孔率のシートをラッピング一体化することで濾過性能を向上しているが、内面で中空閉塞を起こすため濁度の大きい液体を濾過する場合には、濾過性能の向上が不十分であり、未だ改良の余地がある。
【0016】
また、このような多孔質PTFEチューブによる濾過において、濾過寿命を伸ばすために、チューブの内周面やチューブの空孔内等に付着した粒子を逆洗浄により取り除くことが一般に行われている。しかし、濾過層の表面ではなく、チューブ等の厚みも含めた濾過層全体として粒子を捕捉する構成とすると、多孔質チューブの空孔内に入りこんだ粒子は、逆洗浄を行っても容易に取り除くことができず、濾過性能の回復が困難となる問題がある。
【0017】
多孔質チューブ等の空孔内への粒子の入りこみを防ぐためには、表面の孔を小さくすることが考えられるが、その際、延伸倍率を小さくするため同時に空孔率が小さくなる。よって、流体の透過性が悪化するという問題がある。
【0018】
また、上記多孔質PTFEチューブは、平滑なPTFEチューブの上に、単にPTFEシートを巻き付けているだけであるため、内外圧、屈曲等に対する耐久性が十分でない。耐久性向上のために編組して補強等しているが、補強するとそこに粒子(SS分:浮遊粒子)が堆積し、流量が低下するという問題がある。
【0019】
本発明は上記した問題に鑑みてなされたものであり、高濁度の溶液を濾過しても、多孔質材の空孔内に固体粒子等が目詰まりせず、時間経過に伴う流量の低下を防止できると共に、逆洗浄により濾過性能が容易に回復し、良好な濾過性能を長期間に渡って持続できる多孔質複層中空糸及び濾過モジュールを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するため、本発明は、外周面側から内周面側に向けて固液分離処理を行う外圧濾過用の多孔質複層中空糸であって、
多孔質延伸PTFE製のチューブからなる支持層と、該支持層の外表面の濾過層を備えた複層からなり、上記濾過層の繊維状骨格により囲まれた空孔は上記支持層の空孔より小さく、かつ、
上記濾過層の外表面の各空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)を、圧力0.1MPaで加圧濾過した時の粒子捕捉率が90%以上の場合の捕捉粒子の粒径(X)で除した値をRFL値(Y)とする、即ち(Y=L/X)とすると、
上記(X)と上記(Y)が、XY平面上の下記の10点を順に結んで囲まれる領域内に存在するように上記(L)を設定していることを特徴とする多孔質複層中空糸。
(X,Y)=(0.055,2)(1,1.5)(2,1)(5,0.5)(10,0.3)(10,4)(5,6)(2,10)(1,15)(0.055,25)
【0021】
本発明者は、鋭意研究の結果、多孔質体の空孔内への固体粒子等の目詰まりの問題は、濾過層の最表面である濾過面に多数存在する繊維状骨格により囲まれた各空孔の最大長さに大きく依存していることを見出した。また、長期的に良好な濾過性能を得るには、初期の流量と共に、一定時間経過後の定常状態での流量が特に重要であることを見出した。
【0022】
即ち、上記PTFEのような延伸多孔質体は、柔軟な繊維が三次元網目状に連結された微細な繊維状組織を備え、繊維状骨格に囲まれた多数の空孔が存在している。繊維状骨格により囲まれた空孔はスリット形状等の細長いものが多いため、確実に固液を分離するには、濾過層に存在する空孔の平均孔径や空孔率で規定するのではなく、空孔の最大長さで規定するのが良いことを見出した。特に、濾過層の外周面での空孔の最大長さが重要であり、固体粒子を濾過層の表面でカットできる構成としている。なお、空孔の最大長さとは、空孔を構成する空間部分の最大横断長さ、即ち、樹脂部及びそれに連結する繊維で構成される空孔の外周上の2点を結ぶ距離の最大値を指す。
【0023】
具体的に説明すると、従来は、濾過層にある程度の厚みを持たせることにより、三次元網目状とされた空孔内で濾過層の厚みも含めた層全体として粒子を捕捉するものであったため、時間の経過につれて、徐々に空孔内に粒子が蓄積し目詰まりを起こし、濾過層全体として流量が低下するという問題があった。しかし、本発明では、外圧濾過用の多孔質複層中空糸において、外層を濾過層とし、該濾過層の外表面に多数存在する空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)を上記のように設定し、固液分離処理の初期段階後の定常状態において、分離する固体粒子が上記空孔内へ不可逆的に捕捉されることがなく逆洗浄等により容易に除去できる小さい長さに設定している。即ち、最適な濾過圧、逆洗圧で行う固液分離処理の初期段階での流量低下を終えた定常状態において、濾過層及び支持層中の空孔内への不可逆的な粒子捕捉が実質的に起こらないような設定としている。このため、ほとんどの固体粒子を濾過層の外周面で跳ね返すことができると共に、目詰まりも生じず、液体の透過性をも維持することができる。
【0024】
即ち、濾過層の外表面の各空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)(μm)を、圧力0.1MPaで加圧濾過した時の粒子捕捉率が90%以上の場合の捕捉粒子の粒径(X)(μm)で除した値をRFL値(Y)とし、濾過層の構成を規定している。本発明者は、鋭意実験を積み重ねた結果、図1に示すように、上記(X)と上記(Y)が、XY平面上の下記のA〜Jの10点を順に結んで囲まれる領域M内に存在するように上記(L)を設定している。(X,Y)=A(0.055,2)、B(1,1.5)、C(2,1)、D(5,0.5)、E(10,0.3)、F(10,4)、G(5,6)、H(2,10)、I(1,15)、J(0.055,25)。これにより、固液分離処理の初期段階後の定常状態において、分離する固体粒子が空孔内へ捕捉されず濾過性能を高められることを見出した。
【0025】
高濁度の溶液を濾過しても、多数の固体粒子を濾過層の外表面でカットでき、固体粒子が濾過層及び支持層中の空孔内に入り込むことがないため、目詰まりにより空孔が閉塞することがなく、濾液のみを濾過層及び支持層中に透過することができ、時間経過に伴う流量低下を防止することができる。よって、初期状態と定常状態との流量変化が少なく、定常状態に達した後も良好な濾過性能を長期間に渡って安定して持続することができる。
【0026】
また、多少の固体粒子が濾過層の表面に付着等することがあった場合でも、濾過層及び支持層の内部にまで固体粒子が入り込むことがないため、逆洗浄を行うことにより、付着した固体粒子を容易に取り除くことができ、濾過性能を容易に回復させることができる。
【0027】
繊維状骨格により囲まれた各空孔は、スリット状等で軸方向等の一方向に細長い形状が一般的であるが、網目状、ひし形、楕円形状、円形状等でも良く、延伸倍率や加工法等によって適宜変更することができる。なお、平均最大長さとは、濾過層の外周面の各空孔の最大長さの平均値を指し、濾過層の外周面を拡大したSEM画像上で測定することができる。
【0028】
外圧濾過用としているのは、内圧濾過用として、内層の内周面で固体粒子をカットする構成とすると、高濁度溶液を濾過する場合、多孔質複層中空糸の中空内に固体粒子が高濃度で存在することとなり、中空閉塞を起こし中空糸内の流量が低下するためである。
【0029】
濾過層は、樹脂を1軸延伸あるいは2軸延伸した多孔質シートからなり、該多孔質シートを上記多孔質延伸PTFE製のチューブの外周面に密着させて巻き付けて、複層化していることが好ましい。
【0030】
外層である濾過層をシートの巻き付け構造としているのは、多孔質シートは1軸延伸、2軸延伸共に行いやすく、表面の空孔の形状や大きさ等の調整が容易である上に、薄膜での積層が容易であるためである。内層の支持層は押出成形されたチューブとすることで、成形性も良く、ある程度の厚みを有し十分な強度を持たせやすく、空孔率も大きくしやすくなる。支持層、濾過層共に、少なくとも1軸方向に延伸されていれば良く、チューブの軸方向や周方向、径方向等に延伸することができる。軸方向等の1軸、又は軸方向と周方向の2軸等とすることができる。延伸倍率は、適宜設定することができるが、押出成形チューブの場合、軸方向には50%〜700%、周方向には5%〜100%、多孔質シートの場合、長手方向には50%〜1000%、横方向には50%〜2500%とすることができる。特に、多孔質シートを用いると、横方向の延伸が容易であるため、チューブ状に巻きつけたときに、周方向の強度を向上することができ、散気等による膜の揺れや逆洗浄による圧力負荷に対する耐久性を向上することができる。
【0031】
さらに、多孔質延伸PTFE製のチューブからなる支持層と濾過層は一体化され、互いの空孔が三次元的に連通しているため、良好な透過性を得ることができる。多孔質シートは、多孔質延伸PTFE製のチューブの外周面全面を覆うように巻着され、複層あるいは単層とすることができ、1枚あるいは複数枚のシートを用いて漏れがないように多孔質延伸PTFE製のチューブの外周面を完全に覆っていれば良い。
【0032】
濾過層はPTFE、PE,PP等のポリオレフィン系樹脂、ポリイミド、ポリ弗化ビニリデン系樹脂から選択される樹脂より形成していることが好ましい。延伸加工が容易であり、耐薬品性等に優れ、PTFEとの一体成形が可能な上記樹脂を用いることができる。特に、支持層である多孔質延伸PTFEとの成形性の点より、濾過層も、支持層と同材質であるPTFEが好ましい。
【0033】
濾過層の外周面に多数存在する各空孔の平均最大長さは、支持層中に多数存在する繊維状骨格により囲まれた各空孔の平均最大長さより小さくしていることが好ましく、具体的には、濾過層の空孔の平均長さを、上記支持層の空孔の平均長さの1%〜30%としているのが良く、できるだけ小さくしている方が良い。これにより、外周面側から内周面側への透過性を高めることができる。
【0034】
濾過層の外表面において、該外表面の全表面積に対する上記空孔の面積占有率が、例えば画像処理等により40%〜60%であることが好ましい。空孔の最大長さが小さくても、空孔の面積占有率がある程度大きいと、流量を減らすこともなく、効率良く、濾過性能を向上することができる。
【0035】
濾過層の空孔率は50%〜80%であり、支持層の空孔率は50%〜85%であることが好ましい。これにより、強度とのバランスを保ちながら、中空糸の外周面側から内周面側への透過性をさらに高めることができる。空孔率が小さすぎると流量が低下しやすく、空孔率が大きすぎると強度が低下しやすい。
【0036】
濾過層の厚みは5μm〜100μmであることが好ましい。これは、上記範囲より小さいと濾過層の形成が困難であり、上記範囲より大きくしても濾過性能向上への影響は望み難いためである。支持層の厚みは0.1mm〜10mmであることが好ましい。これにより、軸方向、径方向、周方向のいずれにおいても良好な強度を得ることができ、内外圧や屈曲等に対する耐久性を向上することができる。なお、支持層の内径は0.3mm〜10mmであることが好ましい。
【0037】
また、本発明は、本発明のの多孔質複層中空糸を複数本束ねた集束体を用いてなり、外圧濾過用あるいは浸漬型外圧吸引濾過用として用いられることを特徴とする濾過モジュールを提供している。
【0038】
具体的には、多孔質複層中空糸を複数本束ねて集束体とされ、多孔質複層中空糸相互の間隙が封止用樹脂により封止され、必要時には、該集束体は外筒内に収納され、該集束体の少なくとも一端と外筒との間隙が上記同様に封止用樹脂により封止された濾過モジュール等として用いることができる。本発明の多孔質複層中空糸を用いているため、外圧濾過用あるいは浸漬型外圧吸引濾過用として好適に用いることができる。集束体が外筒内に収納されたものを外圧濾過用、外筒がなく集束体のみからなるものを浸漬型外圧吸引濾過用としている。
【0039】
具体的には、濾過一般に適用することができ、特に濁度の濃い排水処理に有効である。例えば、浄水処理では、粉末活性炭と組み合わせて用いることができる。粉末活性炭により非常に微小な溶存有機物を吸着し、該溶存有機物を吸着した後の粉末活性炭を多孔質複層中空糸で濾過する構成が好適である。また、下水処理では、タンク内で菌体を繁殖させ、ここに下水を導入し、菌体が下水中の汚染成分を分解してクリーンにする。その後、この菌体を多孔質複層中空糸で濾過する構成が好適である。油水分離では、各種機械、装置の洗浄排水(洗浄液)の中には除去された油分が油滴となって存在する。また、これに界面活性剤が混入しエマルジョン化しているものが存在する。これらを多孔質複層中空糸で濾過し、回収再利用するのが好適である。
【0040】
さらに、本発明は、多孔質延伸PTFEチューブの外周面上に凹凸を付与した後に、多孔質延伸樹脂シートを巻き付け、該巻き付けと同時あるいは巻き付け後に荷重をかけて上記多孔質延伸PTFEチューブと上記多孔質延伸樹脂シートとを密着させ、上記多孔質延伸PTFEチューブと上記多孔質延伸樹脂シートとを焼結一体化することを特徴とする多孔質複層中空糸の製造方法を提供している。
【0041】
このように、多孔質延伸PTFEチューブの外周面上に微細な凹凸を付与することで、多孔質延伸PTFEチューブと多孔質延伸樹脂シートとの位置ずれを防止できると共に、シート巻き付け時あるいは巻き付け後に荷重をかけているため、シートの浮きを防止することができるため、両者の密着性を高めることができる。また、多孔質延伸PTFEチューブと多孔質延伸樹脂シートとは、焼成したものでも良いし、未焼成のものでも良い。各々を完全に焼成させていない場合は、より強固に一体化することができる。良好な密着状態で、部分的に未焼成とした両者を焼結すると、良好な密着状態を得ることができる。以上より、内外圧、屈曲等に対する十分な耐久性を得ることができる。また、網組等の補強層を用いていないため、網組内に固体粒子が詰まることもなく、時間の経過に伴う流量の低下が生じることもない。
【0042】
上記多孔質延伸PTFEチューブ及び上記多孔質延伸樹脂シートの融点以上の温度で焼結することにより、両者をより強固に融着一体化することができる。
【0043】
多孔質延伸PTFEチューブの外周面の微細な凹凸は、火炎処理により施されていることが好ましい。これにより、チューブの性能に影響を及ぼすことなく良好な凹凸状態と得ることができる。その他、レーザー照射やプラズマ照射、PFA,FEP等のフッ素樹脂系ディスパージョンの塗布等の物理的手段、化学的手段を施すことで、密着性を高めても良い。微細な凹凸は多孔質延伸PTFEチューブの外周面全面に施されていることが好ましいが、部分的、断続的に施されていても良く、20〜200μm程度が良い。
【0044】
多孔質延伸樹脂シートの巻き付けと同時あるいは巻き付け後に荷重をかける方法としては、シートを巻き付け後、チューブ全体をダイスに通す方法が挙げられ、多孔質延伸PTFEチューブと多孔質延伸樹脂シートとがずれたり破損しないように、均一に適度な荷重をかけることができれば良い。
【発明の効果】
【0045】
以上の説明より明らかなように、本発明によれば、外圧濾過用の多孔質複層中空糸において、外層を濾過層とし、該濾過層の外周面に多数存在する空孔の最大長さを、上述したように、固液分離処理の初期段階後の定常状態において、分離する固体粒子が上記空孔内へ不可逆的に捕捉されることがなく逆洗浄等により容易に除去できる小さい長さに設定している。即ち、上記空孔の最大長さを溶液中の多数の固体粒子を濾過層の表面でカットでき、固体粒子が濾過層及び支持層中の空孔内に入り込まないような構成としている。このため、ほとんどの固体粒子を濾過層の外周面で跳ね返すことができ、固体粒子が濾過層及び支持層中の空孔内に入り込むのを防止することができる。
【0046】
よって、種々の形状の固形分を含み固形分の大きさの分布が広い高濁度の溶液、特に平均粒径の大きな固体粒子を含む溶液を濾過しても、空孔内に固体粒子が入り込むことがなく、目詰まりを生じず空孔の閉塞が起こらないため、時間経過に伴う流量低下を防止することができる、
【0047】
その結果、初期状態と定常状態との流量変化が少なく、定常状態に達した後も良好な濾過性能を長期間に渡って持続することができる。また、付着した固体粒子を容易に取り除くことができるため、逆洗浄、散気、薬品洗浄等を行うことにより、濾過性能を容易に回復させることができる。よって、数ヶ月、数年単位に渡って使用されるようなフィルター等に特に好適である。
【0048】
さらに、支持層と濾過層が強固に融着一体化しており、逆洗浄、散気等による機械的負荷に長期に渡って耐えることができる。また、PTFE等の耐薬品性に優れた素材により形成されているため、強酸、強アルカリ液等にも適用可能である。耐熱性にも優れている。
【0049】
また、本発明の製造方法によれば、多孔質延伸PTFEチューブの外周面上に凹凸を付与することで、チューブとその外周に巻きつけるシートとの位置ずれを防止できると共に、シート巻き付け時あるいは巻き付け後に荷重をかけているため、シートの浮きを防止することができる。さらに、両者の密着性を高めた状態で、部分的に未焼成とした両者を融点以上の温度で焼結しているため、両者を強固に融着一体化することができる。よって、内外圧、屈曲等に対する十分な耐久性を得ることができる。
【0050】
さらに、本発明の濾過モジュールは、本発明の多孔質複層中空糸を用いているため、高精度の濾過が可能であり、耐久性にも優れており、外圧濾過用あるいは浸漬型吸引濾過用として好適に用いることができる。よって、醗酵プロセスの除菌・除濁(酵素・アミノ酸精製)、動物細胞の培養濾過等の医薬・醗酵・食品分野、高濁度排水処理、廃酸・廃アルカリ処理等の環境保全分野等に好適に用いることができる。
【0051】
具体的には、下排水処理における固液分離、産業排水処理(固液分離)、工業用水道水濾過、プール水濾過、河川水濾過、海水濾過、食品工業等における用水濾過及び製品の清澄濾過、酒・ビール・ワイン等の濾過(特に生製品)、製薬・食品等におけるファーメンターからの菌体分離、染色工業における用水及び溶解染料の濾過、RO膜における純水製造プロセス(海水の淡水化を含む)における前処理濾過、イオン交換膜を用いたプロセスにおける前処理濾過、イオン交換樹脂を用いた純水製造プロセスにおける前処理濾過等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図2乃至図6は、本発明の第1実施形態の多孔質複層中空糸10を示す。
多孔質複層中空糸10は、円筒状の多孔質延伸PTFE製のチューブからなる支持層11の外周面11a上に、濾過層12を備えた複層からなる。具体的には、押出成形された多孔質延伸PTFE製のチューブからなる支持層11の外周面11aに、多孔質延伸PTFEシートを密着させて巻き付けて形成された濾過層12を最外層として一体的に備えた二層構造としている。多孔質複層中空糸10において濾過層12の外周面12a側から支持層11の内周面11b側に向けて固液分離処理を行う外圧濾過用として用いられるものである。
【0053】
濾過層12及び支持層11は、共にPTFEからなる多孔質体であるため、柔軟な繊維fが三次元網目状に連結された微細な繊維状組織を備え、繊維状骨格に囲まれた多数の空孔11A、12Aが存在している。濾過層12及び支持層11は一体化されており、互いの空孔11A、12Aが三次元的に連通し、多孔質複層中空糸10において濾過層12の外周面12a側から支持層11の内周面11b側に透過性を有する構造としている。
【0054】
図3は、多孔質複層中空糸10の軸方向の断面及び内周面の拡大写真(100倍)である。写真上の最外層の薄層が濾過層12の断面であり、その下の層が支持層11の断面である。写真下部は支持層11の内周面11bである。また、図4は、多孔質複層中空糸10の軸方向の断面のさらなる拡大写真(500倍)である。写真上方は濾過層12の断面を示し、写真の下方は支持層11の断面を示す。なお、図からもわかるように、支持層11の方が空孔率が大きく、空孔の大きさも大きく、濾過層12の空孔は非常に小さいものであることがわかる。
【0055】
繊維状骨格により囲まれた各空孔11A、12Aはスリット形状、楕円形状等の種々の形状が混在しているが、支持層11及び濾過層12を構成するPTFEチューブ及びPTFEシートは共に延伸されているため、幅方向に対して長さ方向の方が大きい略スリット形状のものが主として存在している。具体的には、PTFEチューブはチューブの軸方向に500%1軸に延伸され、PTFEシートは軸方向に200%、横方向に1000%の2軸に延伸されている。
【0056】
本発明では、濾過層12の外周面12aの各空孔12Aを囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)(μm)を、圧力0.1MPaで加圧濾過した時の粒子捕捉率が90%以上の場合の捕捉粒子の粒径(X)(μm)で除した値をRFL値(Y)とする、即ち(Y=L/X)とし、濾過層12の構成を規定している。
【0057】
図1に示すように、上記(X)と上記(Y)が、XY平面上の下記A〜Jの10点を順に結んで囲まれる領域M(図中斜線部)内に存在するように上記(L)を設定している。(X,Y)=点A(0.055,2)、点B(1,1.5)、点C(2,1)、点D(5,0.5)、点E(10,0.3)、点F(10,4)、点G(5,6)、点H(2,10)、点I(1,15)、点J(0.055,25)。
これにより、固液分離処理の初期段階後の定常状態において、分離する固体粒子が空孔12A内へ捕捉されない小さい長さに設定している。即ち、濾過層12の外周面12aの各空孔12Aを囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)を、溶液中の多数の固体粒子が濾過層12の外周面12aでカットでき、固体粒子が濾過層12及び支持層11中の空孔12A、11A内に不可逆的に入り込まないような長さに設定している。なお、繊維状骨格の最大長さとは、空孔を構成する空間部分の最大横断長さ、即ち、互いに連結する繊維で構成される空孔の外周上の2点を結ぶ距離の最大値を指す。
【0058】
即ち、濾過層12の外周面12aに存在する各空孔12Aを囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)は2.5μm以下とし、濾過層12は、捕捉粒子として粒径(X)が0.2μmのビーズを圧力0.1MPaで加圧濾過した時の粒子捕捉率が90%であるため、RFL値(Y)は12.5となる。(X,Y)=(0.2,12.5)は領域M内に存在している。
【0059】
また、濾過層12の外周面12aにおいて、外周面12aの全周面積に対する空孔12Aの面積占有率を50%としている。さらに、支持層11中に存在する空孔11Aの平均最大長さは20μm〜50μm程度としている。面積占有率、繊維状骨格の平均最大長さは、電子顕微鏡写真からの手計算もしくは画像処理ソフトにより算出している。
【0060】
また、濾過層12の空孔率は60%とし、支持層11の空孔率は80%としている。濾過層12の厚みは60μmとし、支持層11の厚みは0.5mmとし、チューブ内径は1mmとしている。
【0061】
第1実施形態の多孔質複層中空糸10は、排水中の汚れ成分を除去するための濾過用の膜であり、固液分離により捕集・分離する汚れ成分からなる固体粒子の平均粒径は0.1μm〜5μm程度のものを想定している。
【0062】
このように、多孔質複層中空糸10は、圧濾過用の多孔質チューブであり、最外層を濾過層12とし、濾過層12の外周面12aに多数存在する空孔12Aを囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)を上記のように設定しているため、溶液中のほとんどの固体粒子Sを濾過層12の外周面12aで跳ね返し、固体粒子Sが濾過層12及び支持層11中の空孔内12A、11Aに不可逆的に入り込むのを防止することができる。よって、目詰まりを生じることもなく、濾過層12及び支持層11中には濾液のみを透過させることができ、時間経過に伴う流量低下を防止することができ、初期状態と定常状態との流量変化が少なく、良好な濾過性能を長期間に渡って持続することができる。
【0063】
また、一定期間使用した後に、多孔質複層中空糸10において、支持層11の内周面11b側から濾過層12の外周面12a側に向かって流体を流通させ、逆洗浄を行うことにより、濾過層12の外周面12a等に付着した固体粒子Sを容易に取り除くことができ、濾過性能を容易に回復させることができる。
【0064】
上記実施形態では、濾過層を構成する樹脂をPTFEとしているが、PE,PP等のポリオレフィン系樹脂、ポリイミド、ポリ弗化ビニリデン系樹脂から選択される樹脂とすることもできる。また、支持層及び濾過層共に、少なくとも1軸方向に延伸されていれば良く、チューブの軸方向あるいは周方向等に延伸バランスを考慮して適宜1軸、2軸等に延伸することができる。なお、濾過層を押出成形チューブとすることもできる。
【0065】
図7は、多孔質複層中空糸10を複数本束ねた集束体を用いてなる濾過モジュール20を示す。
濾過モジュール20は、外圧濾過用として用いられるものであり、多孔質複層中空糸10を複数本束ねて集束体21を備えている。集束体21は外筒22内に収納され、集束体21の両端21A、21Bにおいて、多孔質複層中空糸10相互の間隙が封止用樹脂23により封止されている。また、集束体21の両端21A、21Bと外筒22との間隙も同様に封止用樹脂23により封止されている。
【0066】
濾過モジュール20の両端は開口されており、固液分離処理される原液は、図中矢印に示すように、外筒22の側面から供給され、集束体21の上端21A側及び集束体21の下端21B側に向かって流れながら多孔質複層中空糸10により濾過され、固体粒子が除去された濾過液は多孔質複層中空糸10の内周側を流通し、集束体21の上端21A側及び集束体21の下端21B側から導出される。また、固形粒子等を含む濁液は、外筒22に設けられた排出口から図中矢印に示すように排出される。なお、多孔質複層中空糸10を複数本束ねた集束体を用いて、浸漬型外圧吸引濾過用の濾過モジュールとすることもできる。
【0067】
このように、濾過モジュール20は、複数の本発明の多孔質複層中空糸10を備えているため、非常に高精度の濾過が可能であり、特に、外圧濾過用あるいは浸漬型吸引濾過用として好適に用いられる。
【0068】
以下、図8に示すように、本発明の多孔質複層中空糸の製造方法について詳述する。
まず、押出成形により得られた多孔質延伸PTFEチューブ30を準備する。この多孔質延伸PTFEチューブ30の外周面30aを完全に焼成させずに、所定の延伸倍率にて延伸されている。
【0069】
次に、外周面30aを未焼成として延伸した多孔質延伸PTFEチューブ30の外周面30aの全面に渡って、プロパンガス1.2L/min、空気11L/min、スピード1.7m/分の条件で、火炎処理をほどこし、外周面30a全面に均等に100μm程度の微細な凹凸を付与する。
【0070】
そして、多孔質延伸樹脂シート31を準備する。この多孔質延伸樹脂シート31は、完全に焼成させずに、所定の延伸倍率にて延伸されている。多孔質延伸樹脂シート31は、幅10mm、厚み30μmとし、細長い長方形状とし、PTFE製としている。
【0071】
その後、未焼成の多孔質延伸樹脂シート31を、多孔質延伸PTFEチューブ30の外周面30a上に螺旋状に重ね合わせながら巻き付ける。多孔質延伸樹脂シート31が、多孔質延伸PTFEチューブ30の外周面30aの全面を漏れなく覆うように巻着する。
【0072】
シートを巻き付け後に、多孔質延伸PTFEチューブ30と多孔質延伸樹脂シート31との積層体32を、内径がφ1.8mmのダイス35に通し、積層体32の全周面に均一に、チューブの径方向に0.5kgf程度の荷重をかける。荷重をかけて多孔質延伸PTFEチューブ30と多孔質延伸樹脂シート31とを密着させる。
【0073】
このように密着した状態で、多孔質延伸PTFEチューブ30及び多孔質延伸樹脂シート31の融点(PTFEの融点は約327℃)以上の温度である350℃で20分間焼結し、両者を融着一体化する。
【0074】
このように、多孔質延伸PTFEチューブ30の外周面30aに微細な凹凸を施しているため、多孔質延伸PTFEチューブ30と多孔質延伸樹脂シート31との位置ずれが生じない上に、荷重をかけて密着させているため、多孔質延伸樹脂シート31の浮きを防止することができ、良好な密着状態で両者を一体化することができる。
【0075】
なお、多孔質延伸PTFEチューブは、例えば、PTFEファインパウダーにナフサ等の液状潤滑剤をブレンドし、押出成形等によりチューブ状とした後に、液状潤滑剤を除去せずに、あるいは乾燥除去後に、少なくとも1軸方向に延伸する。熱収縮防止状態で焼結温度の約327℃以上に加熱することにより、延伸した構造を焼結固定すると、強度が向上した空孔径が0.1〜10μm程度の多孔質延伸PTFEチューブを得ることができる。多孔質延伸PTFEチューブと多孔質延伸樹脂シートとは焼成させたものを用いても良い。
【0076】
また、多孔質延伸PTFEシートは、以下のような従来公知の種々の方法等により得ることができる。(1)PTFEのペースト押出により得られる未焼結成形体を融点以下の温度で延伸し、その後、焼結する方法。(2)焼結されたPTFE成形体を徐冷し、結晶化を高めた後、所定の延伸倍率に1軸延伸する方法。(3)PTFEファインパウダーのペースト押出によって得られる未焼結成形体を、そのファインパウダーの粉末の融点以下で、該ファインパウダーから得られる成形品(焼結体)の融点以上の温度において、示差走査熱量計(DSC)における結晶融解図上、上記ファインパウダーの吸熱ピークの変化を生ぜず、かつ、該成形体の比重が2.0以上となるように加熱処理した後に、該粉末の融点以下の温度で延伸する方法。(4)数平均分子量が100万以下であるPTFEファインパウダーのペースト押出によって得られる成形体を焼結後熱処理して結晶化度を高めた後、次いで少なくとも1軸方向に延伸する方法。このように、ペースト押出機により押出し、またはカレンダーロール等により圧延し、あるいは押出した後圧延する等してシート状とすることができる。他の樹脂を用いた場合にも、同様な方法で多孔質延伸PTFEシートを得ることができる。
【0077】
PTFEファインパウダーは、数平均分子量が50万以上、好ましくは200万〜2000万のものが良い。また、ペースト押出法では、PTFE100重量部に対して液状潤滑剤を15〜40重量部配合して押出成形するのが良い。
【0078】
延伸については、シート状あるいはチューブ状の多孔質体を、通常の方法で機械的に引き伸ばして行うことができる。例えば、シートの場合、1つのロールから他のロールへと巻き取る際に、巻き取り速度を送り速度より大きくしたり、あるいはシートの相対する2辺を掴んでその間隔を広げるように引き伸ばす等により延伸することができる。チューブの場合、その長さ方向(軸方向)に引き伸ばすのが容易である。その他、多段延伸、逐次2軸延伸、同時2軸延伸等の各種延伸法により延伸することができる。延伸温度は、通常、焼結体の融点以下の温度(0℃〜300℃程度)で行われる。比較的空孔の孔径が大きく空孔率の高い多孔質体を得るには低温での延伸が良く、比較的空孔の孔径が小さく緻密な多孔質体を得るには高温での延伸が良い。延伸した多孔質体は、そのままで使用しても良いし、高い寸法安定性が要求される場合、延伸した両端を固定等することで延伸した状態を緊張下に保って200℃〜300℃の温度で1〜30分程度熱処理しても良い。また、ファインパウダーの融点以上の温度、例えば350℃から550℃程度に保った加熱炉中で、数10秒から数分程度保持し焼結することにより、さらに寸法安定性を高めることもできる。上記のような延伸温度や、PTFEの結晶化度、延伸倍率等の条件を組み合わせることにより、上記空孔の最大長さ等を調整することができる。
【0079】
上記実施形態では、2枚のシートを用いて略半周ずつ巻着しているが、シートの枚数は1枚でも良いし、2枚以上でも良い。また、シートはチューブの外周を略1回巻きあるいは2回巻等としても良く、単層あるいは複層のシートの積層により濾過層を形成することができる。
【0080】
また、多孔質延伸樹脂シートはチューブの軸方向に1軸延伸したものを用いるとチューブの外周面に巻つけやすくなる。なお、多孔質延伸樹脂シートの形状も巻き付け状況に応じて設定することができ、チューブの軸方向に対してスパイラル状に巻着しても良い。
【0081】
また、上記実施形態では、シートを巻き付け後に荷重をかけているが、シートに張力をかけて巻き付けと同時に荷重をかけても良い。
【0082】
以下、本発明の多孔質複層中空糸の実施例、比較例について詳述する。
(実施例1)
本発明の多孔質複層中空糸とした。
内径1mm、外径2mm、空孔率80%、平均・最大繊維長40μmの多孔質延伸PTFEチューブを支持層とした。支持層の捕集性能は、濾過圧0.1MPaで捕捉粒子として粒径が2μmのビーズを用いた場合90%であった。
また、厚み30μm、幅10mm、空孔率60%、平均・最大繊維長(空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L))が2.5μmの多孔質延伸PTFEシートを濾過層とした。濾過層の捕集性能は、濾過圧0.1MPaで捕捉粒子として粒径(X)が0.2μmのビーズを用いた場合90%であった。即ち、RFL値(Y)は12.5であり、(X,Y)=(0.2,12.5)は領域M内に存在した。
【0083】
上記多孔質延伸PTFEチューブ及び多孔質延伸PTFEシートを専用のラッピング装置にセットした。多孔質延伸PTFEチューブをラインスピード2m/分で流し、その上にテンションコントロールを行いながら多孔質延伸PTFEシートを連続的にラッピングした。ラッピングはハーフラップで行った。
その後、雰囲気温度を350℃に設定したトンネル炉に通し、多孔質延伸PTFEチューブと多孔質延伸PTFEシートを熱融着一体化し、多孔質複層中空糸を得た。成形後の多孔質複層中空糸全体の空孔率は68%であった。また、SEMで測定した外表面の平均・最大繊維長は2.5μmであった。得られた多孔質複層中空糸の特性を下記の表1に示す。
【0084】
(実施例2)
本発明の多孔質複層中空糸とした。
内径1mm、外径2mm、空孔率80%、平均・最大繊維長40μmの多孔質延伸PTFEチューブを支持層とした。支持層の捕集性能は、濾過圧0.1MPaで捕捉粒子として粒径が2μmのビーズを用いた場合90%であった。
また、厚み30μm、幅10mm、空孔率75%、平均・最大繊維長(空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L))が15μmの多孔質延伸PTFEシートを濾過層とした。濾過層の捕集性能は、濾過圧0.1MPaで捕捉粒子として粒径(X)が5μmのビーズを用いた場合90%であった。即ち、RFL値(Y)は3であり、(X,Y)=(5,3)は領域M内に存在した。
【0085】
(比較例1)
多孔質延伸PTFEチューブは、内径1mm、外径2mm、平均・最大繊維長(空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L))15μmの均一膜とし、捕集性能は、濾過圧0.1MPaで捕捉粒子として粒径(X)が0.2μmのビーズを用いた場合90%であった。即ち、RFL値(Y)は75であり、(X,Y)=(0.2,75)は領域Mの範囲外であった。
【0086】
(比較例2)
多孔質延伸PTFEチューブは、内径1mm、外径2mm、空孔率80%、平均・最大繊維長(空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L))60μmの均一膜とし、捕集性能は、濾過圧0.1MPaで捕捉粒子として粒径(X)が5μmのビーズを用いた場合90%であった。即ち、RFL値(Y)は12であり、(X,Y)=(5,12)は領域Mの範囲外であった。
【0087】
【表1】
【0088】
各実施例と比較例の(X,Y)の値と領域Mの関係を図9に示す。実施例1、2は領域M内に存在していることがわかる。
【0089】
図10に示すように、上記表1の各多孔質複層中空糸40を20本束ねて集束体41とし、一端側41aをエポキシ樹脂42で集束一体化させモジュール化して濾過モジュール43を得た。もう一端側41bは、ヒートシール44で封止した。
【0090】
図11に示す濾過実験装置50により、各多孔質複層中空糸40を用いた濾過モジュール43について、濾過実験を行った。濾過実験装置50は、処理される原液51が供給・貯留された濾過槽52内に濾過モジュール43が浸漬されており、濾過モジュール43により濾過された濾液は吸引ポンプ53で吸引され、濾過槽52から排出される構成としている。吸引ポンプ53と濾過モジュール43の間には真空計54が設置されている。また、濾過槽52には、ブロワー55と連結された散気管56が浸漬されており、濾過槽52の原液51中に散気できる構成としている。
【0091】
(実験1)(実施例1、比較例1)
濾過条件は、設定濾過流量を0.3m/dayとした。水温は20℃〜28℃(後述する図12のグラフは25℃補正値)とした。また、1回/30分の頻度、100kPaの圧力、30秒間の条件で逆洗浄を行った。散気条件は、空気量20L/min、1回/30分とした。
【0092】
(原液)
浄水施設から採取した浄化処理前の原水へ、原水に溶存有機物を吸着させるための粉末活性炭を10mg/Lとなるように添加した状態で濾過処理を行った。粉末活性炭の粒径は5〜10μmであった。また、菌体の繁殖を防止するため次亜塩素酸ナトリウム水溶液(30mg/L)を間歇的に添加した。
【0093】
図12は、実施例1、比較例1の濾過モジュールを用いた濾過実験の経過日数と膜間差圧(吸引圧)の関係を示す。なお、定流量運転を実施し、流量(0.3m/day)が一定になるように圧力を調整した。目詰まりが生じると、膜間差圧の値が大きくなる。処理水の性状としては、原水は濁度が15、濾過処理を行った濾過水はいずれも濁度が0であった。
【0094】
表1及び図12に示すように、実施例1は、濾過層の外周面の空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)が2.5μmであり、初期段階での流量低下を終えた定常状態において濾過層中の空孔内への不可逆的な粒子捕捉が実質起こらないような長さに設定しているため、濾過を開始してから最初の8日〜10日程度までは、やや膜間差圧の値が大きいものの、それ以降は、膜間差圧は20kPaでほぼ一定値となっており、一定時間経過後は、安定して良好な濾過性能を実現していることが確認できた。
【0095】
一方、比較例1は、空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)が15μmと大きかったため、固体粒子が空孔内に入りこみ、経過日数の増加に伴い、膜間差圧の値が大きくなっており、時間の経過に伴い目詰まりが徐々にひどくなり、濾過性能の悪化が大きかった。また、実施例1は、比較例1に対してバブルポイントの値も大きかった。
【0096】
(実験2)(実施例2、比較例2)
濾過条件は、設定濾過流量を0.6m/dayとした。水温は25℃〜27℃(後述する図13のグラフは25℃補正値)とした。また、1回/30分の頻度、100kPaの圧力、30秒間の条件で逆洗浄を行った。散気条件は、常時、空気量20L/minとした。
【0097】
(原液)
排水処理用の活性汚泥(MLSS 10000mg/L)を用いた。
【0098】
図13は、実施例2、比較例2の濾過モジュールを用いた濾過実験の経過日数と膜間差圧(吸引圧)の関係を示す。なお、定流量運転を実施し、流量(0.6m/day)が一定になるように圧力を調整した。目詰まりが生じると、膜間差圧の値が大きくなる。処理水の性状としては、原水は濁度が20、濾過処理を行った濾過水はいずれも濁度が0であった。
【0099】
表1及び図13に示すように、実施例1は、濾過層の外周面の空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)が15μmであり、初期段階での流量低下を終えた定常状態において濾過層中の空孔内への不可逆的な粒子捕捉が実質起こらないような長さに設定しているため、濾過を開始してから最初の8日〜10日程度までは、やや膜間差圧の値が大きいものの、それ以降は、膜間差圧は30kPaでほぼ一定値となっており、一定時間経過後は、安定して良好な濾過性能を実現していることが確認できた。
【0100】
一方、比較例2は、空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)が40μmと大きかったため、固体粒子が空孔内に入りこみ、経過日数の増加に伴い、膜間差圧の値が大きくなっており、時間の経過に伴い目詰まりが徐々にひどくなり、濾過性能の悪化が大きかった。また、実施例1は、比較例1に対してバブルポイントの値も大きかった。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】濾過層の外表面の各空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ(L)を、圧力0.1MPaで加圧濾過した時の粒子捕捉率が90%以上の場合の捕捉粒子の粒径(X)で除した値をRFL値(Y)とした時の、上記(X)と上記(Y)及び領域Mの関係を示す図である。
【図2】(A)(B)は、多孔質複層中空糸の概略構成図である。
【図3】多孔質複層中空糸の軸方向の断面及び内周面の拡大写真(100倍)である。
【図4】多孔質複層中空糸の軸方向の断面の拡大写真(500倍)である。
【図5】固液分離処理される固体粒子と、濾過層の外周面の空孔の最大長さを示す図である。
【図6】本発明の多孔質複層中空糸による、濾過状況を示す図である。
【図7】濾過モジュールの構成を示す図である。
【図8】(A)(B)(C)(D)は、本発明の多孔質複層中空糸の製造方法の説明図である。
【図9】実施例及び比較例の(X,Y)と領域Mの関係を示す図である。
【図10】実施例、比較例で用いた濾過モジュールの概略図である。
【図11】濾過実験装置の概略構成図である。
【図12】実施例1、比較例1の濾過実験の結果を示し、経過日数と膜間差圧の関係を示すグラフである。
【図13】実施例2、比較例2の濾過実験の結果を示し、経過日数と膜間差圧の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0102】
10 多孔質複層中空糸
11 支持層
11A、12A 空孔
12 濾過層
12a 外周面
20 濾過モジュール
L 空孔を囲む繊維状骨格の平均最大長さ
S 固体粒子
f 繊維
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面側から内周面側に向けて固液分離処理を行う多孔質複層中空糸であって、
多孔質延伸PTFE製のチューブからなる支持層と、ポリオレフィン系樹脂、ポリイミド、ポリ弗化ビニリデン系樹脂から選択される樹脂製の多孔質シートからなる濾過層を備え、前記支持層のチューブの外表面に前記濾過層のシートを巻き付けて一体化させていると共に該前記支持層と濾過層の空孔を互いに三次元的に連通させている複層からなり、
上記濾過層の外表面の各空孔の大きさを加圧濾過する粒子の捕捉率が90%以上となる大きさに設定すると共に、該濾過層の空孔の平均長さを前記支持層の空孔の平均長さの1%〜30%としていることを特徴とする多孔質複層中空糸。
【請求項2】
前記濾過層の外表面の全表面積に対する空孔の面積占有率を40〜60%としている請求項1に記載の多孔質複層中空糸。
【請求項3】
前記濾過層全体および支持層全体の空孔率は夫々50〜85%の範囲内で、支持層の空孔率を濾過層の空孔率より大としている請求項1または請求項2に記載の多孔質複層中空糸。
【請求項4】
前記濾過層の厚みは5μm〜100μmとし、支持層の厚みは0.1mm〜10mmとしている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の多孔質複層中空糸。
【請求項5】
前記濾過層は前記支持層と同一材のPTFE製の延伸多孔質シートからなる請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の多孔質複層中空糸。
【請求項6】
平均粒径0.1μm〜5μmの粒子を前記濾過層の外表面で捕捉するものである請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の多孔質複層中空糸。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の多孔質複層中空糸を複数本束ねた集束体を用いてなり、外圧濾過用あるいは浸漬型外圧吸引濾過用として用いられることを特徴とする濾過モジュール。
【請求項8】
前記多数本の多孔質複層中空糸は両端において、隙間が封止樹脂によって封止されて連結して前記集束体としている請求項7に記載の濾過モジュール。
【請求項9】
排水処理用である請求項7または請求項8に記載の濾過モジュール。
【請求項10】
下水処理用である請求項9に記載の濾過モジュール。
【請求項1】
外周面側から内周面側に向けて固液分離処理を行う多孔質複層中空糸であって、
多孔質延伸PTFE製のチューブからなる支持層と、ポリオレフィン系樹脂、ポリイミド、ポリ弗化ビニリデン系樹脂から選択される樹脂製の多孔質シートからなる濾過層を備え、前記支持層のチューブの外表面に前記濾過層のシートを巻き付けて一体化させていると共に該前記支持層と濾過層の空孔を互いに三次元的に連通させている複層からなり、
上記濾過層の外表面の各空孔の大きさを加圧濾過する粒子の捕捉率が90%以上となる大きさに設定すると共に、該濾過層の空孔の平均長さを前記支持層の空孔の平均長さの1%〜30%としていることを特徴とする多孔質複層中空糸。
【請求項2】
前記濾過層の外表面の全表面積に対する空孔の面積占有率を40〜60%としている請求項1に記載の多孔質複層中空糸。
【請求項3】
前記濾過層全体および支持層全体の空孔率は夫々50〜85%の範囲内で、支持層の空孔率を濾過層の空孔率より大としている請求項1または請求項2に記載の多孔質複層中空糸。
【請求項4】
前記濾過層の厚みは5μm〜100μmとし、支持層の厚みは0.1mm〜10mmとしている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の多孔質複層中空糸。
【請求項5】
前記濾過層は前記支持層と同一材のPTFE製の延伸多孔質シートからなる請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の多孔質複層中空糸。
【請求項6】
平均粒径0.1μm〜5μmの粒子を前記濾過層の外表面で捕捉するものである請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の多孔質複層中空糸。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の多孔質複層中空糸を複数本束ねた集束体を用いてなり、外圧濾過用あるいは浸漬型外圧吸引濾過用として用いられることを特徴とする濾過モジュール。
【請求項8】
前記多数本の多孔質複層中空糸は両端において、隙間が封止樹脂によって封止されて連結して前記集束体としている請求項7に記載の濾過モジュール。
【請求項9】
排水処理用である請求項7または請求項8に記載の濾過モジュール。
【請求項10】
下水処理用である請求項9に記載の濾過モジュール。
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図3】
【図4】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2006−7224(P2006−7224A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−276989(P2005−276989)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【分割の表示】特願2002−308606(P2002−308606)の分割
【原出願日】平成14年10月23日(2002.10.23)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【分割の表示】特願2002−308606(P2002−308606)の分割
【原出願日】平成14年10月23日(2002.10.23)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】
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