説明

多孔質部材およびその製造方法

【課題】多孔質の空孔を拡大し、部材の全体にわたり均質な空孔率を確保して機能の向上ならびに汎用性を高める。
【解決手段】粉末状の低融点物質表面にバインダーを介し、多孔質材料粉末をコーティングして造粒する工程と、造粒された多孔質材料粉末を金型内に充填加圧して多孔質材料を成形する工程、成形された多孔質材料を加熱して低融点物質を融解除去する工程、低融点物質除去後多孔質材料を焼結する工程とからなる。これにより造粒物が球状をなし、金型内への充填がスムーズとなり、成形密度の均一化、生産性の向上をはかることができ、造粒物を金型内に充填加圧して多孔質材料を成形・焼結した場合に成分的に空孔的に均質の多孔質材料を得ることができ、低融点物質が流出した空間部がそのまま空孔化して少なくとも90%以上の空孔率を有する成形体を得ることができ、これを焼結した場合に従来品に比して格段に高い空孔率の多孔質焼結材料を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば衝撃吸収材やサイレンサー、あるいは自動車のエアバック用インフレーターフィルターなどの、空孔を利用した用途のほかに多孔質材料特有の比表面積を利用した電極や触媒等、多用途に用いることの可能な多孔質部材およびその製造方法に関し、多孔質の空孔を拡大し、しかも部材の全体にわたり均質な空孔率を確保して機能の向上ならびに汎用性を高めることを目的とする。
【背景技術】
【0002】
多孔質部材は最近種々の用途に用いられるが、その製造方法としては一般的には発泡剤を混合した鋳造的手法による場合や、あるいは金属粉末、バインダ、および樹脂粒を混合、混練して該樹脂粒が分散した混練体を形成するとともに、溶剤により混練体の中から樹脂を選択的に抽出し、その後加熱脱脂し、かつ焼結するようにした粉末冶金的手法による場合(特開2004−43932号公報)がある。
【特許文献1】特開2004−43932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、発泡剤を混合した鋳造的手法による場合においては、空孔の形成を発泡によりおこなうために空孔率や空孔径の制御が難しく、部材の全体にわたり均質な空孔率を確保することがきわめて困難である。また上記特許文献1に開示されている粉末冶金的手法による場合においては、とくに押出成形に際して押出機のダイスにより形成することのできる板や棒状の単純なものに限定されることが多い。またこの場合に厚肉のものを加熱脱脂すると成形品に割れを生じやすいところから加熱せずに溶剤抽出脱脂をおこなう必要があり、工程が複雑化して生産性の悪化やコスト高となる等の難点がある。
【0004】
また粉末成形プレスによる成形の場合、形状的な自由度は押出成形に比べて飛躍的に大きくなり、ニアネットシェープが可能になる反面において、金型への原料粉末充填時に原料粉末の比重差、粒径差によって金型内への充填が不均一となりがちで、その結果成分的に、また空孔分布の面において不均一となることが多い。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明は粉末状の低融点物質を用いて造粒することにより、成形体の崩壊がなく、しかも生形体全体にわたり大きな空孔を均質に形成することにより良質の多孔質部材を得るようにしたものであって、具体的には空孔率が40%〜95%の範囲内にある多孔質部材に関する。また本発明は、粉末状の低融点物質表面にバインダーを介し、多孔質材料粉末をコーティングして造粒する工程と、造粒された多孔質材料粉末を金型内に充填加圧して多孔質材料を成形する工程と、成形された多孔質材料を加熱して低融点物質を融解除去する工程と、低融点物質除去後多孔質材料を焼結する工程とからなる多孔質部材の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明は上記したように、金属粉末に対してバインダーとともに低融点物質粒を単純に混合するだけではなく、粉末状の低融点物質表面にバインダーを介し、多孔質材料粉末をコーティングして造粒するようにしたために、球状の低融点物質を核として造粒原料粉も球状となる結果、高い流動性を保持し、金型内への充填がスムーズとなり、しかも成形密度の均一化、および生産性の向上をはかることができ、また造粒物を金型内に充填加圧して多孔質材料を成形・焼結した場合に成分偏析のない、また空孔的に均質の多孔質材料を得ることができる。
【0007】
さらに上記により成形された多孔質材料を加熱して低融点物質を融解除去するようにしたために、脱脂用の溶剤などを用いる必要がなく低融点物質が流出した空間部がそのまま空孔化して少なくとも90%以上の空孔率を有する成形体を得ることができ、その結果これを焼結した場合に従来品に比して格段に高い空孔率の焼結多孔質部材を得ることができる。
【0008】
またコアとなる低融点物質粒の粒径を変えることにより空孔の大きさを任意に変更することができ、さらに空孔の成形密度は成形圧力に依存することなく低圧力側から略一定の成形密度によって得られるために、成形圧力を比較的低く設定することが可能となり、その結果金型の長寿命化およびプレスの小型化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下において本発明の具体的な内容を、図1に示した多孔質部材およびその製造方法について適用した場合について説明する。図1に示す通り、多孔質部材1は金属粉末を圧粉焼結して得られるものであり、ここで使用される材料や加工工程について各工程毎に説明するとつぎの通りである。
【0010】
〔使用材料〕
1.低融点物質について、
本発明において用いられる低融点物質としては、5〜1,000μm程度の範囲の粒径の粉末がよく、このような低融点物質としては、例えばパラフィンが適当であり、これは比重が0.9前後、融点が45〜70℃で後記するバインダー溶解剤となるアルコールあるいは水には不溶解である。上記した粉末状のバインダーとして用いられるパラフィンは市販のものでもよく、これらは個々の粉末が球状をなし、取り扱い性に優れている。またこのほかにもポリエチレンあるいはポリプロピレンなどの高融点の各種樹脂粉末などについても用いることができる。
【0011】
2.多孔質材料粉末について、
多孔質材料粉末は、これまでに焼結材として汎用されているすべてのものが用いられる。またセラミックなども用いることができる。また金属粉末には鉄(Fe)やニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、銅(Cu)など各種の純金属のほか、ステンレスや真鍮などの合金粉末を選定し、これらを単独にて、又は二種以上の混合粉として用いることができる。
【0012】
3.バインダーについて、
またバインダーは多孔質材料粉末の造粒に際して、粉末状の低融点物質表面に多孔質材料粉末を付着させるとともに、多孔質材料粉末を相互に連繋させるためのものであり、具体的にはポリビニルピロリドン(PVP)やポリビニルアルコール(PVA)、あるいはポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース(CMC)などの使用も可能である。
【0013】
なおバインダーを用いなくとも原料である多孔質材料粉末が細かいものであれば、静電気や湿気などによりPWなどの多孔質表面に付着して外観上は恰も造粒されているように見えるが、触ると多孔質材料粉末が簡単にはがれ、また造粒したのち成形し、さらに加熱して脱脂した場合において、その後の形状保持が困難となるところから、バインダーの使用は必須となる。
【0014】
〔粉末状の低融点物質表面にバインダーを介し、多孔質材料粉末をコーティングして造粒する工程〕
粉末状のパラフィン等低融点物質と多孔質材料粉末とを一定の割合で攪拌混合する。なおこの場合に、バインダーを溶かすためのバインダー溶解剤(溶媒)としてエタノール(C2H5OH)を吹きかけながら攪拌混合する。なおこの場合にエタノールに代えてメタノ−ル(CH3OH) を用いてもよい。
【0015】
また、この場合に水を用いた場合においては錆の発生が懸念されるが、使用する多孔質材料粉末によっては、エタノールやエタノールに代えて水その他の水溶性の液体でも代用可能な場合もあるが、一般的には乾燥を速めて作業性を向上させるためにはエタノールなどの揮発性のものの使用が好ましく、これらの溶解剤のうち何れか1種以上を用いておこなう。またこの場合に用いるバインダー溶解剤としては、バインダーを溶解し、しかも低融点物質に対しては非溶解であるものを用いる必要があり、使用するバインダ−種と低融点物質種如何によりバインダー溶解剤を選択するものとする。
【0016】
なお図2には多孔質部材1を構成する個々の造粒物質について、これを拡大断面であらわしたものが示されており、具体的には粉末状の低融点物質(ここではPWを使用)2の表面にバインダー3を介し、多孔質材料粉末4をコーティングして造粒した状態の造粒物5の拡大断面があらわされている。
【0017】
またこのほかにも上記のバインダー溶解剤は、これを予め低融点物質と多孔質材料粉末とともに攪拌混合するようにし、あるいは溶解剤をスプレーしながら攪拌造粒するようにしてもよい。造粒の結果個々の粉体はパラフィンなどの低融点物質表面に金属粉末がコーティングされた状態で核となる低融点物質の表面に沿って球状に形成される。
【0018】
コーティングされた金属粉末は成分的に均一な成形体を形成することができ、また同時に空孔の分布も均一となる。なお、この場合に核となる低融点物質2の粒径を変えることにより多孔質の空孔の大きさを任意に調整することも可能である。
【0019】
〔造粒された多孔質材料粉末を金型内に充填加圧して多孔質材料を成形する工程〕
さらに上記により造粒された多孔質材料粉末の造粒物5を成形金型内に充填する。この際造粒された多孔質材料粉末の造粒物5は球状であるために金型内への流動性がきわめて良好であり、その結果成形密度の均一化、生産性向上に大きく寄与することができる。
【0020】
金型内に充填された造粒多孔質材料粉末に対して、金型による加圧圧縮により成形する。圧縮成形においては、成形密度は成形圧力に依存することなく低圧力側から略一定の成形密度となるため、成形圧力を下げることが可能となり、その結果成形金型の長寿命化、および成形プレスの小型化など経済的にも有利となる。
【0021】
〔成形された多孔質材料を加熱してを融解除去する工程〕
成形された多孔質材料(成形体)は、さらに加熱して内部のパラフィンなどの低融点物質2を除去する。具体的には上記多孔質材料(成形体)を、低融点物質2の融点以上の温度に加熱することにより低融点物質2が溶け出し、溶剤による抽出脱脂など化学処理手段を用いずに短時間で容易に低融点物質2を取り除くことができる。
【0022】
低融点物質2が取り除かれた多孔質材料(成形体)は低融点物質が存在していた箇所に低融点物質と同容積の空孔が形成される。
【0023】
〔パラフィンなど低融点物質除去後多孔質材料を焼結する工程〕
低融点物質2を融解除去した後の多孔質材料(成形体)は、さらにこれを焼結する。焼結は汎用の焼結炉を用いるものとし、使用する金属粉末如何にもよるが、既知の一定の焼結温度条件の下に焼結することにより、少なくとも50%以上、また最大で90%を超える高い空孔率を有する多孔質焼結材を得ることができる。また多孔質材料を焼結した後に、必要に応じて焼結多孔質材料にサイジングを施すと、より高精度の多孔質材料焼結体を得ることができる。
【実施例】
【0024】
低融点物質 : 顆粒状のパラフィン(PW)
ポリビニルピロリドン(PVP)
多孔質材料粉末 : モリブデン(Mo)
溶解剤バインダー : エタノール

上記の材料を、重量比でMo:PW:PVP=100:80:2.5
(体積比 Mo:PW=10:90)
で調整したところの、バインダーを含む原料をエタノールをスプレーしながら攪拌混合して造粒した。
【0025】
造粒に際して、PVPはエタノールにより溶かされ、Mo粉末同士およびMoとPWを繋げる接着剤の役割をはたす。またこの場合にMo:(PW+PVP)の比率を変えることにより空孔率を容易に変えることができる。本実施例では体積比で10:90となっているため、90に相当するPWの部分が焼結後に孔となり、空孔率を90%か、あるいはそれ以上にまで高めることができる。
【0026】
したがって20:80となるように金属分の混合比を調整することにより、空孔率80%とすることができ、また30:70では空孔率が約70%程度の焼結体が得られる計算となる。なお焼結の温度や時間、雰囲気等の条件については一般的な焼結条件に従って任意に設定することができる。
【0027】
なお、この場合に金属粉の混合量を増加した場合にはMoの金属粉末層圧が厚くなり、また焼結後はPWが抜けてその部分が空孔化し、孔と孔との間(顆粒状の各粒と粒との間隔)との間の壁厚が厚くなる。したがって孔の大きさは変わらず、単位体積中の孔の数が減少する。
【0028】
また孔の大きさについては、核となるPW粒子の大きさにより決まり、粒径の細かいPW粒子を用いた場合には無数の細かい孔ができ、反対に粗いPW粒子を用いた場合には同じ空孔率(vol%)でも孔の数は少なくなる。さらに大小のPW粒子を混合して用いると、全体にわたり大小の孔が分布した状態の多孔質材が形成され、要するに空孔率や孔の大きさ、ならびにその数、分布状態に関しては使用する金属粉の種類に係わらず、その混合量とPW粒子の大きさにより幅広く自由に設定することができる。
【0029】
本発明についての種々の実験の結果によれば、少なくとも40%〜95%までの範囲での高い空孔率を有する多孔質部材1を得ることができた。
【実験例】
【0030】
〔造粒粉の見掛け密度〕
低融点物質2としてPWを用い、これに対してMoコーティングを施したものと、施さないものとについて見掛け密度を測定した結果、
コーティング前(PWのみ) 0.52 ×103kg/m3
Moコーティング粉 0.84 ×103kg/m3
であった。
【0031】
〔成型〕
φ8円筒形状の成形金型を用い、以下に示す4段階の成形圧力にて成形をおこなった結果、それぞれ次のような成形密度が得られた

成形圧力(MPa) 300 400 500 600
成形密度 1.60 1.65 1.64 1.63

上記の成形圧力と密度の関係をグラフ化したものを図3に示す。
【0032】
〔脱脂〕
成形体中のPWを取り除くにあたり、空気中でPWの融点以上(融点+10〜20℃)で加熱することによりPWを溶解して取り除く、PWを取り除いた後もPVPが接着剤としてMo粉同士を繋げているために形状が崩れることなく、しかも略90%の高い空孔率を保持した状態で成形品が得られた。
【0033】
〔焼結〕
脱脂した成形品を真空炉内に入れ、1380℃で2時間焼結したところ、成形時から寸法変化の殆どないMo粉末焼結体を得た。
【0034】
完成した多孔質部材は略90%の高い空孔率を有するため、種々の用途に用いた場合において高機能性を維持し、しかも成分的に、また空孔的に均一な多孔質を形成していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】多孔質材の一例をあらわした参考斜視図。
【図2】粉末状の低融点物質表面にバインダーを介して多孔質材料粉末をコーティングして造粒した状態の拡大断面図。
【図3】成形金型内での成形体(多孔質材)に対する成形圧力と成形密度との関係をあらわしたグラフ。
【符号の説明】
【0036】
1 多孔質部材
2 低融点物質(PW)
3 バインダー
4 多孔質材料粉末
5 多孔質材料粉末の造粒物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空孔率が40%〜95%の範囲内にある多孔質部材。
【請求項2】
粉末状の低融点物質表面にバインダーを介し、多孔質材料粉末をコーティングして造粒する工程と、造粒された多孔質材料粉末を金型内に充填加圧して多孔質材料を成形する工程と、成形された多孔質材料を加熱して低融点物質を融解除去する工程と、低融点物質除去後多孔質材料を焼結する工程とからなる多孔質部材の製造方法。
【請求項3】
多孔質材料を焼結した後、必要に応じて焼結多孔質材料にサイジングを施すようにした請求項1に記載の多孔質部材の製造方法。
【請求項4】
粉末状の低融点物質表面にバインダーを介し、多孔質材料粉末をコーティングして造粒する場合において、バインダーは多孔質材料粉末にあらかじめ混合されているものであるところの請求項1に記載の多孔質部材の製造方法。
【請求項5】
粉末状の低融点物質表面にバインダーを介し、多孔質材料粉末をコーティングして造粒する場合において、バインダーは溶解剤をスプレーしながら攪拌造粒するようにしたものであるところの請求項1に記載の多孔質部材の製造方法。
【請求項6】
成形された多孔質部材の空孔率が40%〜95%の範囲内であるところの請求項2〜5の何れか1に記載の多孔質部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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