説明

多孔質重合体粒子の製造方法

【課題】懸濁重合によって得られる反応混合物を効率よく濾過、洗浄し、不純物を効果的に除去して、高い収率にて目的とする多孔質重合体粒子を得る方法を提供する。
【解決手段】本発明の方法によれば、(a)懸濁重合によって得られた反応混合物を静置し、水相を除去し、多孔質重合体粒子のケーキを得、(b)このケーキを解砕し、多孔質重合体粒子を水に懸濁させた後、静置し、水相を除去し、(c)得られた多孔質重合体粒子のケーキを解砕し、多孔質重合体粒子を水に懸濁させ、この多孔質重合体粒子を濾材を用いて濾過し、(d)得られた多孔質重合体粒子のケーキを解砕し、多孔質重合体粒子を有機溶媒に懸濁させ、濾材を用いて濾過して、多孔質重合体粒子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として芳香族ビニル単量体と芳香族ジビニル単量体、好ましくは、主としてスチレンとジビニルベンゼンの共重合体からなる多孔質粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリスチレン系の多孔質重合体粒子は、イオン交換樹脂、種々の用途における吸着剤、タンパク質合成用の担体等に用いられており、近年においては、医薬品として用いられるアンチセンスオリゴDNAやsiRNA等の合成用担体としても用いられるようになっており(例えば、特許文献1参照)、そこで、一層、不純物が少ない多孔質重合体粒子を一層、効率よく製造する方法が求められている。
【0003】
このような事情の下、従来から、操作が比較的簡単である懸濁重合が多孔質重合体粒子の製造手段として好ましく用いられている。しかし、懸濁重合によれば、任意の平均粒子径を有する多孔質重合体粒子を容易に得ることができる半面、得られる粒子が比較的広い粒度分布を有し、従って、懸濁重合によって得られた反応混合物から目的とする多孔質重合体粒子の分離や不純物の除去のための洗浄に手間と時間を要し、更には、製造コストも嵩むという問題がある。
【0004】
従来、懸濁重合によって得られた反応混合物から目的とする多孔質重合体粒子を分離するために、遠心分離や遠心濾過等の手段が用いられており、特に、濾材を用いる吸引濾過や加圧濾過によれば、大規模で複雑な構造の設備を必要とせず、また、動力コストが低いことからも有利である。
【0005】
しかし、懸濁重合による多孔質重合体粒子の製造においては、水相中で不必要に微粒子重合体が生成して、目的とする多孔質重合体粒子を濾材を用いて濾過する際に、濾材を目詰まりさせて、濾過抵抗を増加させ、又は懸濁重合において水相中に加えたポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の水溶性高分子からなる分散剤が懸濁重合によって得られた反応混合物の粘性を高めて、目的とする多孔質重合体粒子の濾過の際の濾過抵抗を増大させるほか、種々の理由によって目的とする多孔質重合体粒子の濾過効率の低下が生じて、目的とする多孔質重合体粒子の濾過分離に非常に時間を要する。また、多孔質重合体粒子中の不純物を除去するには、その洗浄と濾過を繰返す必要があり、途中で濾材に目詰まりが生じた場合には、その都度、濾材を交換せざるを得ず、煩雑である。
【特許文献1】特開平03−068593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、懸濁重合によって得られる反応混合物からの多孔質重合体粒子の濾過分離における上述した問題を解決するためになされたものであって、反応混合物を効率よく濾過、洗浄し、不純物を効果的に除去して、高い収率にて目的とする多孔質重合体粒子を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、芳香族ビニル単量体と芳香族ジビニル単量体を主成分とする単量体混合物と重合開始剤を有機溶媒に溶解させて単量体溶液とし、これを分散剤を含む水に分散させてなる懸濁重合系において上記単量体を懸濁重合させ、多孔質重合体粒子を生成させた後、得られた反応混合物から多孔質重合体粒子を分離することからなる多孔質重合体粒子の製造方法において、
(a)上記反応混合物を静置し、多孔質重合体粒子を水相から分離させた後、水相を除去して、多孔質重合体粒子のケーキを反応混合物から分離する工程と、
(b)上記工程(a)で得られた多孔質重合体粒子のケーキを解砕して、多孔質重合体粒子を水に懸濁させた後、静置し、多孔質重合体粒子を水相から分離させた後、水相を除去して、多孔質重合体のケーキを得る工程と、
(c)上記工程(b)で得られた多孔質重合体粒子のケーキを解砕して、多孔質重合体粒子を水に懸濁させ、多孔質重合体粒子を洗浄した後、濾材を用いて濾過して、多孔質重合体粒子のケーキを得る工程と、
(d)上記工程(c)で得られた多孔質重合体粒子のケーキを解砕して、多孔質重合体粒子を有機溶媒に懸濁させ、多孔質重合体粒子を洗浄した後、濾材を用いて濾過して、多孔質重合体粒子のケーキを得る工程、
をこの順序で経て多孔質重合体粒子を得ることを特徴とする方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、工程(a)によって、懸濁重合において水相で不必要に生成した微粒子重合体を効果的に除去することができ、かくして、後の濾材を用いる多孔質重合体粒子の濾過において濾材を目詰まりさせる主要な原因を取り除くことができ、工程(b)において、多孔質重合体粒子を効率よく洗浄して、分散剤、微粒子重合体、その他の不純物を効率よく除去することができ、更に、工程(c)と工程(d)によって、多孔質重合体粒子に尚も残存する分散剤や懸濁重合に用いた有機溶媒を効果的に除去しつつ、濾過して、目的とする多孔質重合体粒子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、芳香族ビニル単量体と芳香族ジビニル単量体を主成分とする単量体混合物と重合開始剤を有機溶媒に溶解させて単量体溶液とし、これを分散剤を含む水に分散させてなる懸濁重合系において上記単量体を懸濁重合させ、多孔質重合体粒子を生成させた後、得られた反応混合物から多孔質重合体粒子を分離することからなる多孔質重合体粒子の製造方法において、
(a)上記反応混合物を静置し、多孔質重合体粒子を水相から分離させた後、水相を除去して、多孔質重合体粒子のケーキを反応混合物から分離する工程と、
(b)上記工程(a)で得られた多孔質重合体粒子のケーキを解砕して、多孔質重合体粒子を水に懸濁させた後、静置し、多孔質重合体粒子を水相から分離させた後、水相を除去して、多孔質重合体のケーキを得る工程と、
(c)上記工程(b)で得られた多孔質重合体粒子のケーキを解砕して、多孔質重合体粒子を水に懸濁させ、多孔質重合体粒子を洗浄した後、濾材を用いて濾過して、多孔質重合体粒子のケーキを得る工程と、
(d)上記工程(c)で得られた多孔質重合体粒子のケーキを解砕して、多孔質重合体粒子を有機溶媒に懸濁させ、多孔質重合体粒子を洗浄した後、濾材を用いて濾過して、多孔質重合体粒子のケーキを得る工程、
をこの順序で経て多孔質重合体粒子を得るものである。
【0010】
本発明において、芳香族ビニル単量体として、スチレン又はその置換体が用いられ、好ましくは、スチレンを主体とし、得られる多孔質重合体粒子の要求特性に応じて、種々の官能基を有するスチレン置換体を含む混合物が用いられる。
【0011】
そのようなスチレン置換体としては、例えば、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、シアノ基、炭素数1〜5のアルコキシ基、ニトロ基、アシルオキシ基等を置換基として有するものを挙げることができる。例えば、芳香族ビニル単量体として、スチレンと共にp−アセトキシスチレンを用い、懸濁共重合によって得られた重合体粒子をアルカリや酸にて加水分解することによって、水酸基を有する多孔質重合体粒子を効率よく得ることができる。
【0012】
特に、本発明においては、芳香族ビニル単量体として、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン等の核アルキル置換スチレン、α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン、クロロスチレン等の核ハロゲン化スチレン、p−アセトキシスチレン等を挙げることができるが、これら例示に限定されるものではない。
【0013】
芳香族ジビニル単量体としては、ジビニルベンゼンや、上述したスチレン置換体におけるような種々の置換基を有するジビニルベンゼン化合物を挙げることができるが、通常、ジビニルベンゼンやメチルジビニルベンゼンのような核アルキル置換ジビニルベンゼンが好ましく用いられ、なかでも、ジビニルベンゼンが好ましく用いられる。ジビニルベンゼンは、o−、m−又はp−ジビニルベンゼンやこれらの混合物が用いられる。
【0014】
本発明において、単量体混合物は、上述した芳香族ビニル単量体と芳香族ジビニル単量体を主成分とする。即ち、本発明においては、単量体混合物のうち、50重量%以上が上述した芳香族ビニル単量体と芳香族ジビニル単量体からなり、残部がその他の単量体からなるものであってもよい。また、単量体混合物は、芳香族ビニル単量体と芳香族ジビニル単量体にて100重量%を占めてもよい。
【0015】
但し、本発明において、芳香族ビニル単量体と芳香族ジビニル単量体の合計の重量に基づいて、芳香族ジビニル単量体の量は2〜30重量%の範囲であり、好ましくは、5〜20重量%の範囲である。芳香族ビニル単量体と芳香族ジビニル単量体の合計の重量に基づいて、芳香族ジビニル単量体の量が上記範囲を外れるときは、後述する有機溶媒との組み合わせにもよるが、真球状の多孔質重合体粒子を得ることが困難であり、また、得られる多孔質重合体粒子が均一な多孔質構造ももたない。
【0016】
本発明において、芳香族ビニル単量体と芳香族ジビニル単量体と共に、その他の単量体を用いる場合、その他の単量体としては、例えば、アクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル系単量体を挙げることができる。
【0017】
本発明によれば、上述した芳香族ビニル単量体と芳香族ジビニル単量体を主成分とする単量体混合物と重合開始剤を有機溶媒に溶解させて、単量体溶液とする。
【0018】
用いる重合開始剤は、特に限定されず、例えば、ジベンゾイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジステアロイルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカルボネート等の過酸化物、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物等、従来から知られているものが適宜に用いられる。
【0019】
上記有機溶媒は、多孔質化剤、即ち、得られる重合体粒子に多孔質構造を有せしめるために用いられる。この有機溶媒としては、炭化水素又はアルコールが好ましく用いられる。炭化水素は、炭素原子数5〜12の脂肪族及び芳香族炭化水素のいずれでもよく、脂肪族炭化水素は飽和及び不飽和炭化水素のいずれでもよい。このような炭化水素の好ましい具体例としては、トルエン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、ウンデカン、ドデカン等が挙げることができる。
【0020】
アルコールとしては、脂肪族アルコールが好ましく用いられ、なかでも、炭素原子数5〜12の脂肪族アルコールが好ましく用いられる。好ましい具体例として、例えば、2−エチルヘキサノール、t−アミルアルコール、ノニルアルコール、2−オクタノール、デカノール、ラウリルアルコール、シクロヘキサノール等を挙げることができる。
【0021】
本発明によれば、有機溶媒として、上記炭化水素とアルコールとの混合物も好ましく用いられる。この混合物における炭化水素とアルコールとの重量比は、用いる炭化水素とアルコールの具体的な組み合わせによって異なり、この比を適宜に調節することによって、得られる多孔質重合体粒子の細孔径分布や比表面積等の多孔質構造を種々に制御することができる。
【0022】
上記単量体溶液を得るために用いる有機溶媒の量は、重量基準にて、単量体の合計量に対して、0.5〜2.0倍の範囲であり、好ましくは、0.8〜1.5倍の範囲である。用いる有機溶媒の量が上記範囲を外れるときは、用いる単量体との組み合わせにもよるが、真球状の重合体粒子を得ることが困難であり、また、得られる多孔質重合体粒子が均一な多孔質構造をもたない。
【0023】
本発明によれば、このように、上記単量体溶液を分散剤と共に水に分散させ、懸濁重合させて、多孔質重合体粒子を生成させる。上記分散剤は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ゼラチン、デンプン、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子が好ましく用いられる。これらは、単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
特に、本発明においては、分散剤としてポリビニルアルコールが好ましく用いられる。なかでも、重合度が500〜3000の範囲にあり、ケン化度が65〜85モル%の範囲にあるポリビニルアルコールが好ましく用いられる。用いるポリビニルアルコールの重合度が500よりも小さいときは、懸濁重合系の分散安定性が損なわれて、多量の凝集物が生成し、更に、多孔質粒子の間に架橋反応が起こって、よく分散した多孔質重合体粒子を得ることが困難である。他方、用いるポリビニルアルコールの重合度が3000よりも大きいときは、懸濁重合において得られる反応混合物の粘性が高く、その結果、濾過抵抗が高くなって、得られた多孔質重合体粒子を反応混合物から分離することが困難になる。ポリビニルアルコールのケン化度については、65モル%よりも低いポリビニルアルコールは、通常、入手し難い。
【0025】
本発明において、分散剤の使用量は、特に限定されないが、好ましくは、懸濁重合系の水の重量に対して、0.5〜3重量%の範囲である。懸濁重合系の水の重量に対して、分散剤の使用量が0.5重量%よりも少ないときは、懸濁重合系の分散安定性が損なわれて、多量の凝集物が生成し、更に、多孔質重合体粒子の間に架橋反応が起こって、よく分散した多孔質重合体粒子を得ることが困難である。また、懸濁重合系の水の重量に対して、分散剤の使用量が3重量%よりも多いときは、懸濁重合において得られる反応混合物の粘性が高く、その結果、濾過抵抗が高くなって、得られた多孔質重合体粒子を反応混合物から分離することが困難になるほか、得られた多孔質重合体粒子を洗浄する際に、不純物の除去のための費用が増える等の不都合を生じる。
【0026】
本発明において、懸濁共重合の温度や反応時間等の反応条件は、適宜に設定すればよい。一例として、窒素気流下、60〜90℃の温度にて2〜48時間程度、攪拌すればよい。
【0027】
本発明の方法によって生成する多孔質重合体粒子は、その粒子径において特に限定されるものではないが、通常、メジアン粒子径が2〜200μmの範囲にあることが好ましい。メジアン粒子径が200μmより大きい多孔質重合体粒子は、本発明によらずとも、濾材の目を粗くするのみで良好な濾過効率を得ることができ、また、メジアン粒子径が2μmよりも小さい多孔質重合体粒子は、懸濁重合による製造自体が困難である。
【0028】
本発明によれば、このようにして、単量体混合物を懸濁重合させて、多孔質重合体粒子を含む反応混合物を得た後、最初に、工程(a)として、上記反応混合物を静置して、その比重差によって、多孔質重合体粒子を浮上させ、かくして、多孔質重合体粒子からなる粒子相を下層の水相から分離させた後、その水相を除去して、多孔質重合体粒子を反応混合物から分離して、多孔質重合体粒子のケーキを得る。
【0029】
本発明において、反応混合物を静置し、多孔質重合体粒子を水相から分離させた後、「水相を除去する」とは、濾材を用いて濾過する方法を除いて、特に限定されるものではない。例えば、底部に予め、開閉自在に開口を備えた反応容器を用いて、上述した懸濁重合を行い、終了後、反応容器中の下層を上記開口から抜き出してもよく、また、反応容器中の下層の底部に管を挿入し、ポンプを用いて汲み出してもよい。
【0030】
懸濁重合によって得られた反応混合物の静置は、懸濁重合を行った反応容器中にて行ってもよく、別の容器に移して行ってもよいが、前者の方が効率的である。懸濁重合によって得られた反応混合物を静置することによって、反応混合物は、懸濁重合系が有する有機溶媒を内包する多孔質重合体粒子の相と分散剤を含む水相とに分離し、比重差によって、多孔質重合体粒子は浮上し、粒子相からなる上層を形成して、水相からなる下層から分離する。多孔質重合体粒子は、その粒子径が大きいほど、内包する有機溶媒が多く、見かけの比重が小さくなるので、小さい粒子径の多孔質重合体粒子よりも分離速度が速い。即ち、懸濁重合によって生成する多孔質重合体粒子は、粒子径が分布を有し、粒子相の上方ほど、粒子径は大きくなり、下方ほど、粒子径は小さくなる。
【0031】
懸濁重合系の水相において、不必要に生じた微粒子重合体は、見かけ比重が相対的に大きいので、水相から分離することなく、水相に懸濁したまま、とどまる。
【0032】
かくして、工程(a)において、懸濁重合によって得られる多孔質重合体粒子を含む反応混合物を静置し、多孔質重合体粒子を水相から分離させた後、水相を除去することによって、懸濁重合において水相にて生成した微粒子重合体を含め、後の濾材を用いる濾過工程において濾材の目詰まりの原因を効果的に除去することができる。
【0033】
懸濁重合によって得られた反応混合物を静置する時間は、特に限定されるものではなく、製造の規模に応じて適宜に選べばよい。
【0034】
かくして、工程(a)によって得られた多孔質重合体粒子のケーキは、尚も、粒子間の空隙に不純物を含む。そこで、本発明によれば、工程(b)として、この多孔質重合体粒子のケーキに水を加え、ケーキを解砕して、多孔質重合体粒子を水に懸濁させた後、静置し、多孔質重合体粒子を水相から分離させた後、水相を除去して、多孔質重合体を洗浄する。工程(b)においても、「水相を除去する」とは、前述したとおりである。
【0035】
工程(b)においては、このように、先の工程(a)にて得られた多孔質重合体粒子のケーキにイオン交換水、精製水、蒸留水、超純水等の水を加え、攪拌し、ケーキを解砕して、多孔質重合体粒子を水に懸濁させた後、再度、静置して、前述したように、多孔質重合体粒子の相を水相から分離させ、この水相を除去して、再度、多孔質重合体粒子のケーキを得る。このように、工程(b)は、好ましくは、数度にわたって繰り返して行う。即ち、工程(b)において、多孔質重合体粒子のケーキの解砕、多孔質重合体粒子の水への懸濁、静置、相分離、水相の除去からなる洗浄サイクルを繰り返して、多孔質重合体粒子を洗浄することによって、分散剤、不必要な微粒子重合体等、後の濾過工程において濾材を目詰まりさせ、また、濾過効率を低下させる原因となる不純物等を容易に除去することができる。
【0036】
上記洗浄サイクルの繰り返し数は、特に限定されるものではなく、目的とする多孔質重合体粒子の粒子径や濾材を用いる濾過効率を考慮して、適宜の回数を選べばよい。
【0037】
このようにして、工程(b)で得られた多孔質重合体粒子のケーキは、次いで、工程(c)において、再度、解砕して、多孔質重合体粒子を水に懸濁させ、多孔質重合体粒子を洗浄した後、濾材を用いて濾過する。特に限定されるものではないが、通常、前記工程(b)にて得られた多孔質重合体粒子のケーキに容器中にて水を加え、ケーキを解砕して、多孔質重合体粒子を水に懸濁させ、濾材を備えた濾過装置にこの懸濁液を投入し、多孔質重合体粒子を洗浄し、濾過して、多孔質重合体粒子のケーキを得る。工程(b)も、好ましくは、数度にわたって、繰り返して行う。
【0038】
本発明において、上記多孔質重合体粒子の懸濁液を濾過するための濾材は、何ら限定されるものではなく、例えば、濾紙、ステンレス焼結フィルター、ガラス繊維濾紙、ガラス焼結フィルター、ポリプロピレンやポリエチレン製の濾布、ナイロンメッシュ等が用いられる。なかでも、単層のナイロンメッシュが耐薬品性、強度、良好な濾過性を兼ね備えており、薄く軽量で取扱いが容易であり、好ましく用いられる。ナイロンメッシュの目開きは、特に限定されるものではなく、製造する多孔質重合体粒子の粒子径に応じて適宜に選択すればよく、粒子径に対してその1/10〜3/4サイズの目開きのものが好ましい。
【0039】
また、濾過装置も、濾材を用いるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、遠心濾過、減圧吸引濾過、加圧濾過等の装置が用いられる。
【0040】
本発明において、好ましく用いられる濾過装置の一例を図1に示す。この濾過装置は、円筒形の容器1の底部に分散液を濾過したときの濾液の排水口2を有し、上部にも、必要に応じて、容器内に加圧空気を送入するための上部開口3を有する。
【0041】
容器の下部には周壁に沿って環状の濾材支持枠4が設けられており、この支持枠上に溶媒を通過させることができる濾材支持体5が置かれている。この濾材支持体は、例えば、多数の貫通孔を穿設した金属板や金属網であるが、これらに限定されるものではない。濾材6はこの濾材支持体上に置かれる。
【0042】
容器は、更に、攪拌装置7を備えており、この攪拌装置は、回転可能に且つ容器内をその軸方向に上下に可動であるように容器の頂部において支持されている軸体8を有すると共に、その軸体の下端に容器の半径方向に延びる攪拌羽根9を有している。
【0043】
より詳しくは、前記工程(b)で得られた多孔質重合体粒子のケーキに水を加えて解砕し、多孔質重合体粒子を水に懸濁させ、得られた懸濁液を上記濾過装置の容器中に仕込み、例えば、吸引濾過によって上記懸濁液を濾過して、多孔質重合体粒子のケーキを得、次いで、容器内のケーキに水を加え、攪拌して、ケーキを解砕し、多孔質重合体粒子を水中に再懸濁させ、攪拌、洗浄した後、吸引濾過する操作を繰り返して、ケーキを得る。このように、多孔質重合体粒子のケーキの解砕、多孔質重合体粒子の水への再懸濁、攪拌、洗浄及び濾過からなる濾過サイクルを必要に応じて複数回、行って、分散剤のような不純物を十分に除去した多孔質重合体粒子をケーキとして得る。
【0044】
次いで、本発明によれば、工程(d)として、先の工程(c)で得られた多孔質重合体粒子のケーキに有機溶媒を加え、ケーキを解砕して、多孔質重合体粒子を有機溶媒に懸濁させ、多孔質重合体粒子を洗浄した後、濾材を用いて濾過する。即ち、この工程においては、懸濁重合において用いた有機溶媒を除去するために、前記工程で得られた多孔質重合体粒子を有機溶媒に懸濁させ、洗浄し、濾過する。この工程(c)も、好ましくは、数度にわたって、繰り返して行う。
【0045】
多孔質重合体粒子を洗浄するための有機溶媒は、懸濁重合において用いた有機溶媒と相溶性のよいものであれば、特に限定されない。従って、洗浄溶媒としての有機溶媒は、懸濁重合に用いた有機溶媒にもよるが、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ヘキサン、トルエン、アセトン等、比較的低沸点の有機溶剤が単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。洗浄後、得られた多孔質重合体粒子ケーキを乾燥する必要がある場合には、メタノール、アセトン、ヘキサン等が溶剤のコストや乾燥時の動力コストの点から有利に用いられる。
【0046】
より詳しくは、例えば、前記工程(c)で得られた多孔質重合体粒子のケーキに洗浄溶媒として適宜の有機溶媒、例えば、アセトンを加えて、ケーキを解砕し、多孔質重合体粒子を有機溶媒に懸濁させ、攪拌し、洗浄した後、吸引濾過して多孔質重合体粒子のケーキを得、更に、これに再度、アセトンを加えて、ケーキを解砕し、多孔質重合体粒子を懸濁させ、攪拌、洗浄した後、吸引濾過する操作を繰り返す。このような有機溶媒を用いる洗浄によって、懸濁重合において用いた有機溶媒を効果的に除去することができる。このように、多孔質重合体粒子から懸濁重合で用いた有機溶媒を除去した後、濾過し、必要に応じて、加熱下に乾燥すれば、目的とする多孔質重合体粒子を得ることができる。
【実施例】
【0047】
実施例1
(懸濁共重合)
冷却管、攪拌機及び窒素導入管を備えた500mL容量のセパラブルフラスコを恒温水槽に浸し、これに精製水240gとポリビニルアルコール((株)クラレ製、平均重合度約2000、ケン化度80モル%) 2.4gを仕込み、恒温水槽の温度を28℃に保ち、攪拌しながら、ポリビニルアルコールを水に溶解させて、水溶液とした。
【0048】
別に、スチレン44g、p−アセトキシスチレン3g及びジビニルベンゼン7gの混合物にジベンゾイルパーオキサイド(25%含水物)1gを加えて溶解させ、更に、2−エチルヘキサノール50gとイソオクタン20gを加えて混合し、得られた溶液を上記ポリビニルアルコール水溶液に加えた。
【0049】
得られた混合物を窒素気流下、毎分470回転で40分間攪拌した後、攪拌回転数を毎分280回転にし、恒温水槽の温度を28℃から80℃まで昇温して、9時間、懸濁共重合反応を行った。反応終了後、恒温水槽を28℃まで降温した。
【0050】
工程(a)
上記懸濁重合によって得られた多孔質重合体粒子と溶媒を含む反応混合物を重合に用いたセパラブルフラスコ中にて15分間静置して、多孔質重合体粒子を浮上させ、粒子相を上層として、下層の水相から分離させた。セパラブルフラスコの底部まで吸引管を差込み、アスピレーターで減圧し、吸引して、水相を抜き取って、多孔質重合体粒子のケーキを得た。
【0051】
工程(b)
上記セパラブルフラスコ内に精製水160mLを加え、毎分280回転で攪拌して、多孔質重合体粒子のケーキを解砕し、多孔質重合体粒子を水に再懸濁させた後、10分間静置して、多孔質重合体粒子を浮上させて、水相から分離させた。セパラブルフラスコの底部まで吸引管を差込み、アスピレーターで減圧し、吸引して、水相を抜き取り、多孔質重合体粒子のケーキを得た。この操作を3回行った。
【0052】
工程(c)
上記セパラブルフラスコ内に精製水160mLを加え、毎分280回転で攪拌し、多孔質重合体粒子のケーキを解砕し、多孔質重合体粒子を水に再懸濁させた。
【0053】
この工程(c)と次工程(d)において用いた濾過装置は、図1に示したように、内径9cmの円筒形の容器1とその底部に設けた濾材(NRK製、ナイロンメッシュ、目開き45μm)6を有し、更に、この濾材を通過した濾液を排出するための排水口2を容器の底部に有する。また、容器は、その軸方向に上下に可動の軸体8を頂部に支持しており、この軸体の下端に攪拌羽根9が取り付けられている。
【0054】
上記水に懸濁させた多孔質重合体粒子の全量を上記濾過装置の容器内に投入し、容器底部の排水口をアスピレーターに接続し、減圧下に吸引濾過を行って、多孔質重合体粒子のケーキを得た。この濾過時の攪拌羽根の位置を図1中、実線で示す。
【0055】
次いで、容器内に精製水200mLを入れ、容器の上部から攪拌装置の軸体を回転させながら、徐々に下降させ、かくして、ケーキを水と共に攪拌して、これを解砕し、多孔質重合体粒子を水中によく分散させ、洗浄した後、濾過して、多孔質重合体粒子のケーキを得た。この操作を4回繰り返した。上記攪拌に際しては、攪拌羽根は、回転させながら、図1中、上記実線で示す位置から破線で示す位置まで下降させた
【0056】
工程(d)
次に、このようにして得られた多孔質重合体粒子のケーキにアセトン200mLを加え、工程(c)におけると同様にして、多孔質重合体粒子をアセトン中に懸濁させ、洗浄し、濾過した。この操作を3回繰り返して、目的とする多孔質重合体粒子のケーキを得た。
【0057】
いずれの工程においても、濾過効率はすぐれており、また、得られた多孔質重合体粒子は、メジアン粒径が92μmであり、表面の走査型電子顕微鏡写真によれば、粒子の表面への不純物の付着は観察されず、不純物が十分に除去されていることが確認された。
【0058】
比較例1
実施例1において、懸濁重合の後、生成した多孔質重合体粒子と溶媒を含む反応混合物を静置することなく、反応混合物を直ちに濾過装置の容器中に投入した。しかし、反応混合物を濾過することができなかった。
【0059】
比較例2
実施例1において、懸濁重合の後、生成した多孔質重合体粒子と溶媒を含む反応混合物について、工程(a)を行った後、工程(b)を省略して、工程(a)で得られた多孔質重合体粒子のケーキについて、工程(c)と(d)を行った以外は、実施例1と同様にして、多孔質重合体粒子のケーキを得た。
【0060】
工程(c)と(d)における濾過効率はいずれも著しく悪く、また、得られた多孔質重合体粒子のメジアン粒径は94μmであったが、その表面の走査型電子顕微鏡写真によれば、分散剤として用いたポリビニルアルコールが十分に除去されておらず、表面にポリビニルアルコールが沈着していることが観察された。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明において、懸濁重合によって得られた反応混合物を濾過するために好ましく用いられる濾過装置の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1…容器
2…排水口
3…上部開口
4…濾材支持枠
5…濾材支持体
6…濾材
7…攪拌装置
8…軸体
9…攪拌羽根


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル単量体と芳香族ジビニル単量体を主成分とする単量体混合物と重合開始剤を有機溶媒に溶解させて単量体溶液とし、これを分散剤を含む水に分散させてなる懸濁重合系において上記単量体を懸濁重合させ、多孔質重合体粒子を生成させた後、得られた反応混合物から多孔質重合体粒子を分離することからなる多孔質重合体粒子の製造方法において、
(a)上記反応混合物を静置し、多孔質重合体粒子を水相から分離させた後、水相を除去して、多孔質重合体粒子のケーキを反応混合物から分離する工程と、
(b)上記工程(a)で得られた多孔質重合体粒子のケーキを解砕して、多孔質重合体粒子を水に懸濁させた後、静置し、多孔質重合体粒子を水相から分離させた後、水相を除去して、多孔質重合体のケーキを得る工程と、
(c)上記工程(b)で得られた多孔質重合体粒子のケーキを解砕して、多孔質重合体粒子を水に懸濁させ、多孔質重合体粒子を洗浄した後、濾材を用いて濾過して、多孔質重合体粒子のケーキを得る工程と、
(d)上記工程(c)で得られた多孔質重合体粒子のケーキを解砕して、多孔質重合体粒子を有機溶媒に懸濁させ、多孔質重合体粒子を洗浄した後、濾材を用いて濾過して、多孔質重合体粒子のケーキを得る工程、
をこの順序で経て多孔質重合体粒子を得ることを特徴とする方法。
【請求項2】
懸濁共重合系において、有機溶媒量が単量体の合計量に対して、重量比で0.5〜2.0の範囲にある請求項1に記載の方法。
【請求項3】
単量体混合物の50重量%以上が芳香族ビニル単量体と芳香族ジビニル単量体である請
求項1に記載の方法。
【請求項4】
芳香族ビニル単量体がスチレンであり、芳香族ジビニル単量体がジビニルベンゼンである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
単量体混合物がp−アセトキシスチレンを含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
分散剤が500〜3000の範囲の平均重合度と65〜85モル%の範囲のケン化度を有するポリビニルアルコールである請求項1に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−280760(P2009−280760A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136667(P2008−136667)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】