説明

多層すき合わせ紙及びその製造方法

【課題】ポリビニルアルコール(PVA)の成分を有する単一繊維又は芯鞘型複合繊維を用いて、湿式により不織布を製造し、長網抄紙機でパルプ繊維とすき合わせた多層すき合わせ紙及びその製造方法に関する。
【解決手段】熱融着温度90〜120℃のPVA成分を有する単一構造の繊維、もしくは、繊維の芯部分の熱融着温度が120℃を超える樹脂からなり、鞘部分の熱融着温度が90〜120℃のPVA繊維からなる芯鞘型複合繊維を用いて湿式により不織布を作製し、不織布を抄紙機上で上層紙料と下層紙料との間にすき合わせ、上層紙料層、不織布層及び下層紙料層を有する多層すき合わせ紙を形成させ、抄紙機の乾燥工程において多層すき合わせ紙を加熱乾燥させてなる多層すき合わせ紙及びその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原材料がポリビニルアルコール(以下、「PVA」と言う。)からなる単一繊維又は芯鞘型複合繊維を用いて、湿式により不織布を製造し、長網抄紙機でパルプ繊維とすき合わせた多層すき合わせ紙及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多層すき合わせ紙の一般的な製造方法としては、水と繊維を含む原料が貯えられた原料槽を、すき合わせる層数に応じて用意し、原料槽内にメッシュ状の円網を設け、円網で原料槽内の繊維がすくい上げられて繊維ウエブが形成され、ワイヤ等の網状の搬送帯にウエブを転写し、順次他の原料槽と円網により形成された繊維ウエブ同士を重ねて多層すき合わせ紙を製造する方法が知られている。
【0003】
前述した方法では、すき合わせる層数分の原料槽と円網が必要となる問題があった。この問題は、単一の長網を用い、長網上に複数の原料を長網上に吐出整流するスライスを設置し、順次原料を長網上で積層することで解決されている。しかしながら、この方法では、原料が長網上で流動性を失うまで搾水され、ウエブを形成した後に積層されるため、層間での繊維同士の水素結合が弱くなり、抄紙後の紙が剥離しやすいという問題があった。
【0004】
このような紙の層間剥離を防止する手段として、複数の円網抄紙機で多層すき合わせ紙を製造する場合や、円網抄紙機と長網抄紙機を組み合わせて多層すき合わせ紙を製造する場合や、長網抄紙機と長網抄紙機を組み合わせて多層すき合わせ紙を製造する場合に、すき合わせの段階でスプレー装置やロールコータなどで接着剤を塗布する方法が提案されている。
【0005】
また、単一の長網抄紙機で多層すき合わせ紙を製造する場合は、周回する無端抄紙網の上に、水と繊維とを含む原料を貯留した複数の槽と、無端抄紙網のすき幅以下で任意の幅のシートを繰り出すシートと繰り出し部とを少なくとも一つ以上設置した長網抄紙機において、複数の槽のうち無端抄紙網の周回工程に対して先行する位置に配置された槽内の原料を無端抄紙網の上に吐出し、少なくとも一層以上の原料層流を無端抄紙網の上に形成した後、層流の上にシートを走行させ、さらにシートの上に複数の槽のうち無端抄紙網の周回工程に対して後の位置に配置された槽内の原料を吐出し、無端抄紙網の上でウエットウエブを形成する多層すき合わせ紙が提案されている。この多層すき合わせ紙のシートは、レーヨンなどの天然繊維を用いた不織布であり、このような天然繊維の不織布をすき合わせることで水素結合(繊維間結合)を起こし、層間接着力を得て層間剥離を防止する手段である(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、他には芯鞘構造を有しその鞘部が芯部より低融点の熱融着性樹脂の繊維を含有するスパンボンド不織布と、その不織布面に湿式抄紙によって連続または不連続に積層形成される抄紙層とからなり、抄紙層は抄紙機のウエットパートで形成されたウエットシートの状態で不織布に積層され、抄紙層と不織布とは、不織布の鞘部の低融点熱溶融性樹脂を介して熱溶融により接合させる多層すき合わせ紙が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、水溶性及び光透過性の合成樹脂であるPVAに、印刷等による図柄や機能性材料を付与し、2つの紙層の間に挿入して構成された用紙が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
また、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維などを用いて作製した不織布を、湿紙と湿紙の間に挟み、熱融着により作製する多層紙も提案されている。
【0009】
【特許文献1】特開2003−13395号公報
【特許文献2】特許第2784292号公報
【特許文献3】特開昭63−270898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述したようなスプレー装置やロールコータで接着剤を塗布する方法では、接着剤が乾燥する前にすき合わせるため、湿紙と不織布表面の接着強度は向上するが、不織布層内の強度が低い場合は不織布層内での層間剥離が発生する。
【0011】
また、特開2003−13395号公報のような、レーヨンなどの天然繊維を用いた不織布を用いる方法は、レーヨン繊維と湿紙繊維の繊維間結合だけでは十分な接着力が得られず層間剥離が発生してしまう。
【0012】
また、特許第2784292号公報のような、合成樹脂繊維からなるスパンボンド不織布を用いて作製された多層すき合わせ紙は、スパンボンド不織布そのものが地合の均一性に欠けることから、すき合わされた多層すき合わせ紙も均一性に欠け、外観、印刷適正及び用紙特性を悪化させることになる。
【0013】
また、特開昭63−270898号公報のようなPVAから成るフィルムを紙層間に挿入して構成された紙は、層間剥離の問題はほぼ回避されてはいるものの、挿入されるフィルム材質がある程度限定されてしまうことや、PVAが湿紙状態の紙層と接触することで、水分を吸収してしまうことから急激に収縮を起こしてしまい、付与されている図柄等が変形してしまうという問題があった。
【0014】
また、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維などを用いて作製した不織布を用いる方法は、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレンが撥水性を有していることから、不織布と上下層のパルプ繊維(湿紙)との親和性が悪く、層間剥離が発生してしまうこととなる。
【0015】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、具体的には、PVAからなる繊維長2〜9mm、繊維の太さ0.6〜5.6dtex、PVAの熱融着温度90〜120℃の断面が単一構造の繊維又は芯鞘型複合繊維を用い、湿式により不織布を製造し、長網抄紙機でパルプ繊維とすき合わせた多層すき合わせ紙及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の多層すき合わせ紙の製造方法は、少なくともポリビニルアルコールの成分を有する繊維を用いて湿式によりあらかじめ不織布を作製し、ポリビニルアルコールからなる不織布を抄紙機上で上層紙料と下層紙料との間にすき合わせ、上層紙料層、不織布層及び下層紙料層を有する多層すき合わせ紙を形成させ、抄紙機の乾燥工程において多層すき合わせ紙を加熱乾燥させることを特徴とする。
【0017】
本発明の多層すき合わせ紙の製造方法は、抄紙機は長網抄紙機であって、少なくとも、ワイヤ上で上層紙料供給槽により上層紙料を供給し、不織布供給装置により不織布を供給し、下層紙料供給槽により下層紙料を供給してすき合わせた多層すき合わせ紙を、搾水ボックス及びプレスロールで水分を除去し、加熱乾燥装置で乾燥させることを特徴とする。
【0018】
本発明の多層すき合わせ紙の製造方法は、ポリビニルアルコールの成分を有する繊維が、単一繊維又は芯鞘型複合繊維であることを特徴とする。
【0019】
本発明の多層すき合わせ紙の製造方法は、芯鞘型複合繊維の芯部分は熱融着温度が120℃を超える樹脂からなり、鞘部分は芯部分よりも低い熱融着温度を有するポリビニルアルコールからなることを特徴とする。
【0020】
本発明の多層すき合わせ紙の製造方法は、ポリビニルアルコールの成分を有する繊維の熱融着温度が、抄紙機における乾燥工程の加熱乾燥温度の範囲内であることを特徴とする。本発明におけるポリビニルアルコールの成分を有する繊維の熱融着温度が90〜120℃であり、抄紙機における乾燥工程の加熱乾燥温度が70〜120℃である。
【0021】
本発明の多層すき合わせ紙の製造方法は、ポリビニルアルコールの成分を有する繊維の繊維長は2〜9mm、太さは0.6〜5.6dtexであることを特徴とする。
【0022】
本発明の多層すき合わせ紙の製造方法は、ポリビニルアルコールの成分を有する繊維によって作製した前記不織布の坪量は5〜20g/m、厚さは15〜60μmであることを特徴とする。
【0023】
本発明の多層すき合わせ紙は、上層紙料層と、少なくともポリビニルアルコールの成分を有する繊維から成る不織布層と、下層紙料層を有している。
【0024】
本発明の多層すき合わせ紙は、ポリビニルアルコールの成分を有する繊維が、単一繊維又は芯鞘型複合繊維であることを特徴とする。
【0025】
本発明の多層すき合わせ紙は、芯鞘型複合繊維が、芯部分の熱融着温度が120℃を超える樹脂からなり、鞘部分が芯部分よりも低い熱融着温度であることを特徴とする。
【0026】
本発明の多層すき合わせ紙は、ポリビニルアルコールの成分を有する繊維の熱融着温度が、抄紙機における乾燥部の加熱乾燥温度70〜120℃の範囲内であることを特徴とする。
【0027】
本発明の多層すき合わせ紙は、ポリビニルアルコールの成分を有する繊維の繊維長が2〜9mm、太さは0.6〜5.6dtexであることを特徴とする。
【0028】
本発明の多層すき合わせ紙は、ポリビニルアルコールの成分を有する繊維によって作製した不織布の坪量が、5〜20g/m、厚さは15〜60μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
PVA繊維は親水性の原材料であり、不織布と上下層のパルプ紙料との親和性が良好であり、パルプ繊維と水素結合するために層間剥離を防止することができる。
【0030】
また、PVAは湿熱溶融性があり、水分と熱が存在することにより溶融する性質がある。この性質により、長網抄紙機上でパルプ繊維と抄き合わされた後の乾燥工程で70〜120℃の熱とパルプ繊維(湿紙)の水分が存在するため、上下層のパルプ紙料と不織布である中層のPVA繊維とが熱融着し、層間剥離を防止することができる。
【0031】
PVA繊維は、レーヨン繊維の特徴である親水性と、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維の特徴である熱融着性の両者の特徴を併せ持っている繊維であるため、すき合わされた多層紙の層間剥離を防止するのに適している。
【0032】
また、本発明に用いる不織布は湿式不織布製造法により製造するため、湿式不織布製造法により製造した不織布は、地合が均一であることから、不織布への機能性印刷の適性が良好である。また、地合が均一であることから、長網抄紙機上ですき合わせて作製した多層紙の地合も均一なものが得られる。
【0033】
不織布として、繊維の芯部分の熱融着温度が120℃を超える樹脂からなり、鞘部分の熱融着温度が長網抄紙機における加熱乾燥温度70〜120℃の範囲内のPVA繊維からなる芯鞘型複合繊維を用いることにより、長網抄紙機の乾燥工程において繊維と繊維から成る不織布の収縮を防止することができる。この不織布の収縮の防止は、乾燥工程を通過する際、芯鞘型複合繊維の鞘部分は熱により溶融するのに対し、芯部分は熱融着温度が高いため溶融せず芯が残り、その芯が繊維の補強材のような役割を果たすためである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明に用いるPVA繊維、PVA繊維を用いて製造する不織布、不織布を用いて製造する多層すき合せ紙及び多層すき合わせ紙の製造装置の実施形態について図面を用いて説明する。
【0035】
図1(a)は本発明における不織布に用いる単一繊維の断面構造を示し、(b)は芯鞘型複合繊維の断面構造を示す。図2は、本発明における多層すき合わせ紙の断面図を示す。図3は、本発明のおける多層すき合わせ紙の製造装置の全体構成を示す。図4は、本発明における実施例と比較例の繊維の特徴と剥離強度を示す。
【0036】
まず、本発明に用いるPVA繊維とは、ポリビニルアルコールを成分とする合成繊維であり、湿式紡糸法によって繊維の形態に製造するものである。また、PVAの鹸化度を変えて水溶解性と融点を調整するものであり、熱融着温度は90〜120℃が好ましい。また、PVA繊維の構造としては、単一繊維又は芯鞘型複合繊維が好ましい。
【0037】
ここでいう熱融着温度とは、湿熱溶融性のあるPVA繊維を一時的に加熱して溶融させ、固着させる温度のことである。
【0038】
図1(a)に、単一繊維の断面構造を示す。単一繊維とは、一種類の成分のみからなる繊維のことである。
【0039】
図1(b)に、芯鞘型複合繊維の断面構造を示す。芯鞘型複合繊維とは、芯部分の繊維の成分と鞘部分の繊維の成分が異なっている繊維、もしくは芯部分の繊維の成分と鞘部部分の繊維の成分は同じであるが熱融着温度が異なる繊維のことである。
【0040】
本発明の芯鞘型複合繊維は、鞘部分(2)の繊維の成分がPVA成分から構成されているものであれば特に限定しないが、その熱融着温度は90〜120℃であることが好ましい。また、芯部分(3)の繊維の成分は、熱融着温度が120℃を超える樹脂、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)であるか、もしくは熱融着温度が120℃を超えるPVA成分であることが好ましい。
【0041】
これは、長網抄紙機における乾燥工程の加熱乾燥温度が70〜120℃であるのに対し、芯鞘型複合繊維の鞘部分の熱融着温度が90〜120℃、芯部分の熱融着温度が120℃を超える繊維を用いることとするものである。つまり、多層すき合わせ紙が長網抄紙機の乾燥工程を通過する際、不織布を構成する芯鞘型複合繊維の鞘部分のみが溶融し、芯部分は熱融着温度が高いため溶融せず芯が残り、その芯が繊維の補強材のような役割を果たすため、不織布の収縮を防止するためである。
【0042】
次に、不織布を用いて製造する多層すき合せ紙について説明する。図2は、多層すき合わせ紙の断面図を示す。多層すき合わせ紙(4)は、繊維から成る上部紙層(5)、PVA繊維を有する不織布(6)から成る中間層及び繊維から成る下部紙層(7)を有して構成されている。
【0043】
不織布(6)の条件として、坪量は5〜20g/m、厚さは15〜60μm、不織布を構成している繊維長は2〜5mm、繊維の太さは0.6〜5.6dtexのものが好ましい。また、通水性が濾水時間測定方法により4秒台、WET引張強度が縦方向1.0kgf/50mm以上、横方向0.3kgf/50mm以上のものであることが好ましい。
【0044】
上部紙層(5)及び下部紙層(7)に使用される繊維は、特に限定されるものではなく、木材や木綿等の植物繊維を原料とするKPやSP等の化学パルプ、GPやTMP、CTMP等の機械パルプ、古紙再生パルプ等のパルプを適宜選択して使用できる。
【0045】
ここでは、多層すき合わせ紙(4)として、上部紙層(5)、不織布(6)及び下部紙層(7)の3層構造で説明したが、不織布(6)を挟む上部紙層(5)及び下部紙層(7)が含まれていれば、4層、5層等のさらに多層な構造でも良い。
【0046】
不織布を製造する方法としては、湿式不織布製造法を用いる。湿式不織布製造法とは、まず、原料である繊維を水中に均一に分散させ、繊維が分散した懸濁液を周回するワイヤ上に流し出し、水を金網から下に流し、ワイヤ上に繊維シートを形成させる。次に、シートに残った水分をプレス部で脱水し、ドライヤ部で蒸発させ、乾燥したシートをリール部で巻き取って製造する方法である。原料が合成繊維の場合は、繊維間を結合させるため、接着剤又はバインダー繊維を、繊維が分散している懸濁液に加える。そして、ドライヤ部の熱で接着剤又はバインダー繊維を溶融させ繊維間を結合させる。
【0047】
次に、多層すき合わせ紙の製造装置である長網抄紙機について説明する。図3は、長網抄紙機の全体構成を示す。長網抄紙機(8)は網帯から成り、循環するエンドレスな抄紙用のワイヤ(9)を有する。このワイヤ(9)は、従動用プーリ(10)と駆動用プーリ(11)との間に架け渡され、ワイヤ(9)に沿って内側に配置された図示しない複数のロールにより支持され、案内されて循環移動する。
【0048】
ワイヤ(9)の上流部(ワイヤの上面における移動始端部)には、上流側から下流側に向けて、下層紙料供給槽(12)、不織布供給装置(13)、上層紙料供給槽(14)が、間隔をおいて順次配設されている。
【0049】
下層紙料供給槽(12)及び上層紙料供給槽(14)内には、それぞれ下層紙料(15)及び上層紙料(16)が充填され、適宜、図示しない供給源から補給され、所定の液位を維持するように制御されている。下層紙料(15)及び上層紙料(16)は、下部紙層(7)及び上部紙層(5)の素材となる材料であり、主にパルプ繊維、水及び添加剤から成る。
【0050】
下層紙料供給槽(12)及び上層紙料供給槽(14)のそれぞれにおける下流部分には、下層紙料用目止め板(17)及び上層紙料用目止め板(18)が、それぞれ配置されている。下層紙料用目止め板(17)及び上層紙料用目止め板(18)のそれぞれとワイヤ(9)との間の隙間を通して、それぞれワイヤ(9)上に下層紙料及び上層紙料を供給し抄紙を可能とする。
【0051】
不織布供給装置(13)による不織布供給部位は、下層紙料供給槽(12)の下流側であって上層紙料供給槽(14)の上流側に設けられており、ワイヤ(9)上に形成される下層紙料層(湿紙)(19)上に向け、不織布(6)を供給する。この不織布供給装置(13)は、不織布供給ドラム(20)、テンションロール(21)を備えている。
【0052】
不織布供給装置(13)から供給される帯状の不織布(6)の横幅は、下層紙料用目止め板(17)からワイヤ(9)の上面(搬送面)に供給されて形成される下層紙料層(下部湿紙)(19)の横幅とほぼ同じであり、さらに上層紙料用目止め板(18)から下層紙料層(19)の上面に供給されて形成される上層紙料層(上部湿紙)(22)の横幅とももほぼ同じである。
【0053】
不織布供給ドラム(20)は、その軸心の長手方向(紙面に対して垂直の方向)、即ち不織布(6)の幅方向に、巻き付けてある不織布ごと移動して幅方向に位置を調整できるように、図示しない不織布供給ドラム幅方向位置調整装置で調整される構成となっている。
【0054】
ワイヤ(9)の下流部(ワイヤの上面の移動終端部)の下側には、搾水ボックス(23)が配置されている。この搾水ボックス(23)は、抄紙工程におけるワイヤ(9)の下流部において、下層紙料層(19)、不織布(6)及び上層紙料層(22)内に含まれている水を吸引して搾水するものである。
【0055】
ワイヤ(9)で形成された多層すき合わせ紙(4)は、図示しないガイドロールで案内され最終製品として巻取ロールで巻き取られるが、ワイヤ(9)と巻取ロールの間には、上流側から、プレスロール(24)及び乾燥装置(25)が配設されている。プレスロール(24)は、多層すき合わせ紙にすき入れを付与する場合に用いられる。また、乾燥装置(25)は70℃から120℃の温度に保たれている。
【0056】
プレスロール(24)は、多層すき合わせ紙(4)を挟持して下流の巻取ロール側に送る。すき入れは、周知のプレスロール(24)又はダンディロール(26)によって形成される。乾燥装置(25)は、周知の乾燥装置を利用する。
【0057】
乾燥装置(25)で加熱乾燥された多層すき合わせ紙(4)は、リール装置(27)で巻き取り、製品として完成する。
【実施例1】
【0058】
不織布は、熱融着温度99℃の単一構造であるPVA繊維を用いた。不織布の坪量は12g/m、厚さは35μm、通水性が濾水時間測定方法により4秒、WET引張強度が縦方向1.0kgf/50mm、横方向0.3kgf/50mmのものである。
【0059】
図3に示す長網抄紙機(8)に不織布を挿入し、乾燥工程における加熱乾燥温度を70〜120℃とし多層すき合せ紙を製造した。作製した多層すき合わせ紙の剥離強度は、97gf/15mmであった。
(比較例1)
【0060】
不織布として、熱融着温度110℃のPET繊維を用いた。不織布の坪量は20g/m、厚さは70μm、通水性が濾水時間測定方法により4.10秒、WET引張強度が縦方向2.3kgf/50mm、横方向1.3kgf/50mmのものである。
【0061】
図3に示す長網抄紙機(8)に不織布を挿入し、乾燥工程における加熱乾燥温度を70〜120℃とし多層すき合せ紙を製造した。作製した多層すき合わせ紙の剥離強度は、82gf/15mmであった。
(比較例2)
【0062】
不織布として、熱融着性のないレーヨン繊維を用いた。不織布の坪量は20g/m、厚さは85μm、通水性が濾水時間測定方法により4.14秒、WET引張強度が縦方向1.4kgf/50mm、横方向0.3kgf/50mmのものである。
【0063】
図3に示す長網抄紙機(8)に不織布を挿入し、乾燥工程における加熱乾燥温度を70〜120℃とし多層すき合せ紙を製造した。作製した多層すき合わせ紙の剥離強度は、75.5gf/15mmであった。
【0064】
図4に、実施例1及び比較例1乃至2で抄造した多層すき合わせ紙についての繊維の特徴と剥離強度を示す。実施例1を水準1とし、比較例1を水準2、比較例2を水準3とする。
【0065】
これらの結果から、水準1であるPVA繊維からなる不織布を中間層にすき合わせた多層すき合わせ紙の剥離強度が一番高いことがわかる。これは、PVA成分の親水性が高く、パルプ紙料との親和性が高い性質と熱融着性による特性からであると考えられる。
【0066】
また、水準2であるPET繊維を用いた不織布も、PVA繊維と同様に熱融着性の特性を持っているが、パルプ紙料との親和性が低く、PVA繊維の場合よりも剥離強度が低下したと考えられる。
【0067】
さらに、水準3であるレーヨン繊維は、パルプ紙料との親和性が良いことが特徴であるが、熱融着する特性がない。このことから、PVA繊維よりも剥離強度が低下したと言える。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】(a)は本発明における不織布に用いる単一繊維の断面構造を示し、(b)は芯鞘型複合繊維の断面構造を示す。
【図2】本発明における多層すき合わせ紙の断面図を示す。
【図3】本発明のおける多層すき合わせ紙の製造装置の全体構成を示す。
【図4】本発明における実施例と比較例の繊維の特徴と剥離強度を示す。
【符号の説明】
【0069】
1 単一繊維
2 鞘部分
3 芯部分
4 多層すき合わせ紙
5 上部紙層
6 不織布
7 下部紙層
8 長網抄紙機
9 ワイヤ
10 従動用プーリ
11 駆動用プーリ
12 下層紙料供給槽
13 不織布供給装置
14 上層紙料供給槽
15 下層紙料
16 上層紙料
17 下層紙料用目止め板
18 上層紙料用目止め板
19 下層紙料層(下部湿紙)
20 不織布供給ドラム
21 テンションロール
22 上層紙料層(上部湿紙)
23 搾水ボックス
24 プレスロール
25 乾燥装置
26 ダンディロール
27 リール装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリビニルアルコールの成分を有する繊維を用いてあらかじめ不織布を作製し、前記ポリビニルアルコールからなる前記不織布を抄紙機上で上層紙料と下層紙料との間にすき合わせ、上層紙料層、不織布層及び下層紙料層を有する多層すき合わせ紙を形成させ、前記抄紙機の乾燥部において前記多層すき合わせ紙を加熱乾燥させることを特徴とする多層すき合わせ紙の製造方法。
【請求項2】
前記抄紙機は長網抄紙機であって、少なくとも、ワイヤ上で上層紙料供給槽により前記上層紙料を供給し、不織布供給装置により前記不織布を供給し、下層紙料供給槽により前記下層紙料を供給してすき合わせた前記多層すき合わせ紙を、搾水ボックス及びプレスロールで水分を除去し、加熱乾燥装置で乾燥させることを特徴とする請求項1記載の多層すき合わせ紙の製造方法。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコールの成分を有する繊維は、単一繊維又は芯鞘型複合繊維であることを特徴とする請求項1乃至2記載の多層すき合わせ紙の製造方法。
【請求項4】
前記芯鞘型複合繊維は、芯部分の熱融着温度が120℃を超える樹脂からなり、鞘部分が芯部分よりも低い熱融着温度であることを特徴とする請求項1乃至3記載の多層すき合わせ紙の製造方法。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコールの成分を有する繊維の熱融着温度は、前記抄紙機における前記乾燥部の加熱乾燥温度70〜120℃の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至4記載の多層すき合わせ紙の製造方法。
【請求項6】
前記ポリビニルアルコールの成分を有する繊維の繊維長は2〜9mm、太さは0.6〜5.6dtexであることを特徴とする請求項1乃至5記載の多層すき合わせ紙の製造方法。
【請求項7】
前記ポリビニルアルコールの成分を有する繊維によって作製した前記不織布の坪量は5〜20g/m、厚さは15〜60μmであることを特徴とする請求項1乃至5記載の多層すき合わせ紙の製造方法。
【請求項8】
上層紙料層と、少なくともポリビニルアルコールの成分を有する繊維から成る不織布層と、下層紙料層を有する多層すき合わせ紙。
【請求項9】
前記ポリビニルアルコールの成分を有する繊維は、単一繊維又は芯鞘型複合繊維であることを特徴とする請求項8記載の多層すき合わせ紙。
【請求項10】
前記芯鞘型複合繊維は、芯部分の熱融着温度が120℃を超える樹脂からなり、鞘部分が芯部分よりも低い熱融着温度であることを特徴とする請求項8乃至9記載の多層すき合わせ紙。
【請求項11】
前記ポリビニルアルコールの成分を有する繊維の熱融着温度は、前記抄紙機における前記乾燥部の加熱乾燥温度70〜120℃の範囲内であることを特徴とする請求項8乃至10記載の多層すき合わせ紙。
【請求項12】
前記ポリビニルアルコールの成分を有する繊維の繊維長は2〜9mm、太さは0.6〜5.6dtexであることを特徴とする請求項8乃至11記載の多層すき合わせ紙。
【請求項13】
前記ポリビニルアルコールの成分を有する繊維によって作製した前記不織布の坪量は5〜20g/m、厚さは15〜60μmであることを特徴とする請求項8乃至12記載の多層すき合わせ紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−38266(P2008−38266A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210567(P2006−210567)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】