説明

多層デザートにおける香りの移行抑制方法

【課題】
少なくとも一種のゲル層部を有する多層デザートにおいて、ゲル層部から他層部への乳化香料の香り移りを抑制し、結果として複数の香り、味のコントラストを楽しめる多層デザートを提供する。
【解決手段】
多層デザート中のゲル層部の少なくとも一種に、乳化香料及び発酵セルロースを添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層デザートにおける乳化香料の香りの移行抑制方法に関する。具体的には、少なくとも一種以上の層がゲル層部である多層デザートにおいて、ゲル層部から他層部への香り移りを抑制し、結果として複数の香り、味のコントラストを楽しめる多層デザートを提供する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲル層部とゲル層部、ゲル層部とソース層部といった2層以上の層を有する多層デザートは、複数の風味や外観を楽しめるデザートであり人気が高い。
多層デザートに関する技術は多数開発されており、例えば、アントシアニン色素を含むゲルと、アントシアニン色素を含まないゲルからなる二層ゼリーに関する発明において、双方のゲルのpHを略同一に設定し、色のグラデーション構造を形成する技術(特許文献1)、ホイップクリーム層と着色ゼリー層に、中間層として無色ゼリーからなる1mm以上の層を設けて積層食品間の色移りを防止する技術などが知られている(特許文献2)。
【0003】
従来の多層デザートに関する技術は、下層部と上層部の境界を明瞭にする技術、層間の色流れを抑制する技術であり、本従来技術を用いることで、外観が良好な多層デザートを提供できる。しかし、従来技術を用いて調製された多層デザートは、良好な外観を有する一方で、ゲル層部から他層部へ香気成分が移行するといった問題を抱えていた。食品中の香りが移行すると、当該食品を喫食した際に感じる味が変化するため、結果として、多層デザートにおける互いの層の味がぼやけ、複数の味のコントラストを楽しめない。特に、香りの移行は商品流通時や保存時に生じやすく、調製直後は上層と下層で明瞭な味の差を感じられる多層デザートであっても、当該商品が流通し、各家庭で喫食される際には味がぼやけてしまうといった課題を抱えていた。
【0004】
特許文献3の実施例には、発酵セルロースを含有した縦型3色プリンが開示されている。しかし、特許文献3に係る発明は、乳原料を含有するチルドデザートを100℃以上で加熱殺菌した際に発生する「荒れ」の防止に着目した発明である。通常、チルドデザートに使用される香料は水溶性香料であり、特許文献3には、乳化香料と発酵セルロースを併用することで、ゲル層部から他層部への香り移りを抑制する技術について何ら教えるところはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−240262号公報
【特許文献2】特許第3920032号公報
【特許文献3】特許第3885182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術に鑑み、本発明では少なくとも一種がゲル層部である多層デザートにおける、乳化香料の香りの移行抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のごとき課題を解決すべく鋭意研究した結果、多層デザート中に存在するゲル層部の少なくとも一種以上を、乳化香料及び発酵セルロースを含有したゲル層部とすることで、当該ゲル層部から他層部への乳化香料の香り移りが抑制された多層デザートを提供できることを見出し、本発明に至った。
【0008】
本発明は以下の態様を有する、多層デザートにおける乳化香料の香りの移行抑制方法及び多層デザートに関する;
項1.少なくとも一種のゲル層部を有する多層デザートにおいて、当該ゲル層部に乳化香料及び発酵セルロースを添加することを特徴とする、ゲル層部から他層部への乳化香料の香りの移行抑制方法。
項2.多層デザートが少なくとも二種類以上のゲル層部を有する、請求項1に記載の乳化香料の香りの移行抑制方法。
項3.乳化香料及び発酵セルロースを含有するゲル層部を有する、多層デザート。
【発明の効果】
【0009】
少なくとも一種以上のゲル層部を含有する多層デザートにおいて生じる、ゲル層部から他層部への乳化香料の香気成分の移行を抑制できる。特に、商品流通時や保存時における層間の香り移りを抑制し、層間で異なった味のコントラストを楽しめる多層デザートを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の対象である多層デザートは、少なくとも一種以上のゲル層部を有することを特徴とする。具体的には、ゼリー、プリン、ムース、ババロア、ヨーグルト、羊羹、ジャム、レアチーズケーキ等のゲル層部が例示できる。
本発明では、多層デザート中の少なくとも一種以上の層がゲル層部であれば良く、2種類以上のゲル層部を有する多層デザート(ゲル層部×ゲル層部)や、ゲル層部と牛乳、ソース、クリーム等の液状、ゾル状、ペースト状などの素材を組み合わせた多層デザートに適用できる。
【0011】
特に、2種類以上のゲル層部を有する多層デザートでは、層間(ゲル層部とゲル層部)で食感が似通るため、香りに由来する味のコントラストが商品価値に与える影響は大きい。本発明ではかかる多層デザートであっても、流通時や保存時に生じる他層への香り移行を顕著に抑制できるため、層間の味がぼやけることなく、層間の味のコントラストを楽しめる商品を提供できるという利点を有する。
【0012】
本発明では、かかる多層デザート中に存在するゲル層部の少なくとも一種に、乳化香料及び発酵セルロースを添加することを特徴とする。例えば、多層デザート中にゲル層部が一種類存在する場合は、当該ゲル層部に乳化香料及び発酵セルロースを添加することを特徴とし、2種以上のゲル層部が存在する場合は、少なくとも1種以上のゲル層部に乳化香料及び発酵セルロースを添加することを特徴とする。
【0013】
本発明で用いる発酵セルロースは、セルロース生産菌が生産するセルロースであり、アセトバクター属、シュードモナス属、アグロバクテリウム属等に属する細菌から産生される非常に微細な繊維状セルロースである。
【0014】
本発明では、発酵セルロースとして、好ましくは当該発酵セルロースが高分子物質と複合化された、発酵セルロース複合体を使用できる。複合化に使用される高分子物質は、食品に使用可能な高分子物質であれば特に限定されず、例えば、キサンタンガム、ガラクトマンナン、カルボキシメチルセルロース(CMC)とその塩、タマリンド種子ガム、ペクチン、アラビアガム、トラガントゴム、カラヤガム、ガティガム、カラギナン、寒天、アルギン酸とその塩、ジェランガム、カードラン、プルラン、大豆多糖類、サイリウムシードガム、グルコマンナン、キチン、キトサン等が挙げられる。
【0015】
好ましくは、キサンタンガム、ガラクトマンナン、並びにカルボキシメチルセルロース(CMC)またはその塩が挙げられる。ガラクトマンナンとして好ましくはグァーガムが、CMCの塩としてナトリウム塩が挙げられ、本発明では特に、グァーガムと、CMC又はその塩を用いて複合化された発酵セルロースや、キサンタンガムとCMC又はその塩を用いて複合化された発酵セルロースを好適に使用できる。発酵セルロースを高分子物質と複合化させる技術は、例えば、特開平9−121787号公報に開示されており、微生物培養に用いる培地中に高分子物質を添加する方法や発酵セルロースのゲルを高分子物質の溶液に浸漬させる方法によって複合化が可能である。
【0016】
かかる高分子物質と複合化された発酵セルロースは商業上入手可能であり、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「サンアーティスト[登録商標]PG(グァーガムおよびCMCのナトリウム塩と発酵セルロースとの複合体の製剤)」、「サンアーティスト[登録商標]PX(キサンタンガムおよびCMCのナトリウム塩と発酵セルロースとの複合体の製剤)」などを挙げることができる。
【0017】
ゲル層部における発酵セルロースの添加量は、0.02〜0.4質量%、好ましくは0.04〜0.16質量%、更に好ましくは0.06〜0.12質量%である。ゲル層部における発酵セルロースの添加量が0.02質量%より少ないと、多層デザートの流通時や保存時に生じる、香り移りを抑制することができない。一方、発酵セルロースの添加量が0.4質量%を超えると高粘度で充填困難となる。
【0018】
本発明では、発酵セルロースと併用して乳化香料を用いることを特徴とする。
乳化香料は、精製した精油や調合香料を植物油に溶解し、これを保護コロイド物質(アラビアガム、ガティガム等のガム質)や乳化剤を用いて乳化した水中油型(O/W)エマルジョンの香料である。
ゼリー、プリン、ムース等のゲル化食品は水分含量が高い点、並びに乳化香料に比較してフレーバーリリースが良好である点から、通常、ゲル化食品には水溶性香料が用いられる。本発明はかかる従来技術の中、特に乳化香料と発酵セルロースを併用することで、ゲル層部から他層部への香り移行を抑制できることを見出して至った発明であり、香料成分として水溶性香料や油溶性香料を用いた場合は、層間の香り移りを抑制することができない。
【0019】
本発明の多層デザートは、多層デザート中に存在するゲル層部の少なくとも一種以上を、乳化香料及び発酵セルロースを含有したゲル層部とする以外は、各種層状デザートの製造方法に従って製造可能である。
具体例として、下記(1)〜(3)に発酵セルロース及び乳化香料を含有したゲル層部を下層に使用する場合の製造方法を例示する。
(1)容器に水、ゲル化剤、発酵セルロース、乳化香料、その他必要な素材を含有した溶液を充填し、ゲル化させて下層部を調製する。次いで上層部を調製し、多層デザートとする方法。
(2)水、ゲル化剤、発酵セルロース、乳化香料、その他必要な素材を含有した下層溶液を容器に充填後、下層溶液よりも比重の小さい上層部を充填し、多層デザートとする方法。
(3)下層溶液よりも比重の小さい上層部を先に容器に充填後、水、ゲル化剤、発酵セルロース、乳化香料、その他必要な素材を含有した下層溶液を容器に充填し、比重差を利用して多層に分離させ、多層デザートとする方法。
【0020】
かくして得られた本発明の多層デザートは、商品流通時や保存時に生じる他層への香り移行が顕著に抑制されており、商品価値が高い。具体的には、2〜4ヶ月間といった長期間に渡って他層への香り移行を抑制することができる。
【実施例】
【0021】
以下に、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、それぞれ「質量部」「質量%」、文中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」印は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを意味する。
【0022】
実施例 多層デザートの調製
表1の処方に基づき、二層デザートを調製した。
(上層:ソーダゼリー)
水、果糖ブドウ糖液糖に砂糖、ゲル化剤、クエン酸三ナトリウム及び乳酸カルシウムを添加し、80℃にて10分間撹拌溶解した。次いで、果汁、クエン酸(無水)及び色素を添加して93℃まで達温させた後、水溶性香料を添加した。水にて全量が100質量部となるように補正し、ミックスの温度を60℃に調整した。
(下層:アップルゼリー)
水、予めホモジナイズ処理(15MPa)した2.5%発酵セルロース溶液、果糖ブドウ糖液糖に砂糖、ゲル化剤、クエン酸三ナトリウム及び乳酸カルシウムを添加し、80℃にて10分間撹拌溶解した。次いで、果汁、クエン酸(無水)及び色素を添加して93℃まで達温させた後、乳化香料を添加した。水にて全量が100質量部となるように補正し、ミックスの温度を60℃に調整した。
【0023】
デザート容器に、調製したソーダゼリーミックス60質量部を充填後、アップルゼリーミックス40質量部を添加し、8℃で2時間冷却することで多層デザートを調製した。
得られた多層デザートを調製3日後に喫食し、層間の香り移行について評価した。
【0024】
【表1】

【0025】
ゲルアップ※WM−100(F):カラギナン、ジェランガム、ローカストビーンガム及びキサンタンガムの混合製剤
ゲルアップ※J−3551(F):カラギナン、グルコマンナン及びローカストビーンガムの混合製剤。
ビストップ※D−2029:グァーガム含有製剤
サンアーティスト※PG:発酵セルロースを20質量%含有した、CMCナトリウムとグァーガムとの混合製剤。表1の上層部中の発酵セルロース含量は、0.1質量%である。
【0026】
下層ゲル層部に発酵セルロース及び乳化香料を含有した実施例1の多層デザート(ゼリーオンゼリー)は、下層から上層への香り移りが顕著に抑制されており、上層のサイダー味と下層のリンゴ味が明瞭に区別でき、味のコントラストが楽しめる多層デザートであった。
一方、発酵セルロースを使用しない比較例1の多層デザートは、下層部のアップル香が上層のソーダゼリーに移行し、似通った味の多層デザートとなり、味がぼやけてしまった。比較例2は、比較例1の多層デザートにグァーガムの量を追加して、実施例1の下層部とミックスを同粘度に調整した多層デザートである。本多層デザートは、下層部と上層部が明瞭に分かれた良好な外観を有していたが、上層部に下層部のアップル香が移行しており、比較例1と同様に下層と上層が似通った味となってしまった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種のゲル層部を有する多層デザートにおいて、当該ゲル層部に乳化香料及び発酵セルロースを添加することを特徴とする、ゲル層部から他層部への乳化香料の香りの移行抑制方法。
【請求項2】
多層デザートが少なくとも二種類以上のゲル層部を有する、請求項1に記載の乳化香料の香りの移行抑制方法。
【請求項3】
乳化香料及び発酵セルロースを含有するゲル層部を有する、多層デザート。