説明

多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ

【課題】 磁性粒子を磁性流体から分離するための改良された方法を提供し、磁性流体の安価な大量生産を達成する。
【解決手段】 本発明は、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタと、それを含む水性磁性流体と、分離手順におけるそれらの使用方法を提供する。多層ポリマー被覆ナノクラスタには、超常磁性コアと、超常磁性コアに付着され、超常磁性コア粒子に付着することにより形成される超常磁性コア粒子との複合体をコロイド状に安定にしない第1のポリマーと、前記第1のポリマーが付着している複合体に付着され、前記複合体にに付着することにより、多層ポリマー被覆磁性ナノ粒子の複合体を安定化するような第2のポリマーとが含まれる。使用方法には、発現タンパク質のそれを発現する細胞及びウイルスからの分離を含む分離方法が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質精製において使用する化合物及び使用方法を提供する。本発明は、多層ポリマー被覆(multi-polymer-coated)水性磁性流体を提供する。これは、水性媒体からの疎水性材料の分離に有用な実施形態の1つを用いて、発酵物からのタンパク質のイオン交換精製または任意の電荷またはアフィニティ(親和性)に基づく分離に有用である。製造方法は、上記流体の製造に有用であり、様々な分離のための高イオン強度環境における安定性を有する制御されたサイズ磁性ナノ粒子の合成に有用である。
【背景技術】
【0002】
複合体溶液からの所定の物質の分離は、種々の方法によって達成されてきた。いくつかの用途には、サンプルからの所定の生物学的物質の分離、例えば発酵ブロスなどの複合培地からのタンパク質の精製が含まれる。そのような分離は、とりわけ、細胞の不純物除去(clarification)とそれに続くカラムクロマトグラフィ、クロマトグラフィ媒体の流動層の使用により達成されてきた。しかしながら、これらの技術には、前者においては、粒子状物質を取り扱うことができない、質量移動が不良であるなどの制限があり、後者においては、接触時間が短い、樹脂の充填容量が少ないなどの制限がある。
【0003】
磁気分離は、複合体分離を達成し得る別の手段である。これに関連して、水溶液中の生物学的に活性な磁性粒子(磁性流体と呼ばれる)は特定の用途を見出していた。高勾配磁気分離(HGMS)は、磁場を用いて懸濁液から磁性粒子を分離するが、磁性粒子が所定の生物学的物質(例えば、細胞、薬物)に付着されているときに、磁性粒子に結合されていない他の物質から所定の物質または標的材料が分離され得るようにHGMSが活用されてきた。
【0004】
幅広い種類の磁性流体が当該分野で知られているが、目下のところそのような各磁性流体の使用は適用の際に制限を受ける。例えば、2分子層において界面活性剤を用いて水性磁性流体を形成することができるが、この流体は外側の界面活性剤層の脱着に因り希釈化で不安定化する傾向があり、これを回避する方法はそれほどうまくいっているとは言えず、さらに、容易には量産化することができない。磁性流体の別の種類は、単層ポリマー被覆磁性流体の種類である。しかしながら、これらの粒子は、小さすぎて容易に捕捉できないか、高イオン強度環境中で安定していないかいずれかである。ポリマーマトリックス中に埋め込まれた磁性ナノ粒子も同様に用いられてきたが、これらの粒子は典型的な例ではずっと大きく、コロイド状に安定ではなくて懸濁状態を維持するために撹拌が必要であり、占有する表面積が比較的少ない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの制限のない改良技術及び磁性流体の安価な大量生産の提供は広範な用途が見込まれるが、目下のところ当該分野にはそのような技術などがない。
【発明を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一実施形態において、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタであって、(a)超常磁性コア粒子と、(b)キレート基を含み、前記超常磁性コア粒子に付着され、前記超常磁性コア粒子に付着することにより、コロイド状に安定ではない第1のポリマー−超常磁性コア粒子複合体を形成し、前記超常磁性コア粒子のクラスタ形成をもたらすような第1のポリマーと、(c)前記第1のポリマーが付着している複合体に付着され、前記複合体にに付着することにより、当該多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを安定化するような第2のポリマーとを含む多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを提供する。
【0007】
一実施形態においては、超常磁性コア粒子にはマグネタイトが含まれる。別の実施例においては、キレート基は鉄キレート基であり、これは別の実施例においては遊離カルボン酸である。
【0008】
別の実施例においては、ナノクラスタは25〜200nmのサイズである。別の実施例においては、ナノクラスタサイズは、第1のポリマー中のキレート基とマグネタイト・コア粒子中の鉄原子の比の関数である。一実施形態において、この比は0.1〜0.6である。別の実施例において、ナノクラスタサイズは、ポリマー1(第1のポリマー)の量を制限することにより制御される。
【0009】
別の実施例においては、第1のポリマーには、アクリル酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、PEO、PPO、PAA、またはこれらの任意の組合せが含まれる。別の実施例においては、第1のポリマーには、アクリル酸、スチレンスルホン酸、及びビニルスルホン酸が含まれる。この態様によれば、一実施形態においてビニルスルホン酸濃度は25〜50%であり、または別の実施例においてスチレンスルホン酸濃度は25〜75%であり、または別の実施例においてアクリル酸濃度は約25%である。別の実施例においてはアクリル酸濃度対鉄原子濃度の比は0.1〜0.6であり、または別の実施例において0.2である。
【0010】
別の実施例においては、第1のポリマーには、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドまたはアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド及びアクリル酸が含まれる。
【0011】
別の実施例においては、第1のポリマーは、ポリアクリル酸にグラフトされたポリエチレンオキサイド及びポリプロピレンオキサイドを含むコポリマーである。この態様によれば、一実施形態においてポリエチレンオキサイドは8〜16%の濃度でグラフトされる。別の実施例においては、ポリプロピレンオキサイドは0〜8%の濃度でグラフトされる。別の実施例においては、ポリアクリル酸は5000の分子量を有する。別の実施例においてポリマー濃度はマグネタイト1グラム当たりポリマー0.25〜1.25グラムであり、または別の実施例においてマグネタイト1グラム当たりポリマー0.25グラムである。
【0012】
別の実施例においては、第2のポリマーには、アクリル酸、ビニルスルホン酸、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアクリル酸、またはこれらの任意の組合せが含まれる。別の実施例においては、第2のポリマーにはポリアクリル酸が含まれ、これは別の実施例において2,000〜250,000の分子量を有するかまたは別の実施例において5000の分子量を有する。一実施形態においてポリマー濃度はマグネタイト1グラム当たりポリマー0.1〜0.5グラムであり、または別の実施例においてマグネタイト1グラム当たりポリマー0.3グラムである。
【0013】
別の実施例においては、第2のポリマーには、アクリル酸とビニルスルホン酸のコポリマーが含まれる。一実施形態においては、この態様によれば、アクリル酸及びビニルスルホン酸の濃度は25〜50%であり、または別の実施例において約25%である。別の実施例においては、ポリマー濃度はマグネタイト1グラム当たりポリマー0.1〜0.5グラムであり、または別の実施例においてマグネタイト1グラム当たりポリマー0.4グラムである。
【0014】
別の実施例においては、第2のポリマーは、コア粒子の周囲に立体的なシェル(steric shell)を作ることによって、または別の実施例においては多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに電荷を供給することによって、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを安定化する。別の実施例においては、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタは、高イオン強度の溶液中で安定している。
【0015】
別の実施例においては、第1のポリマーには、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸及びアクリル酸が含まれ、第2のポリマーには、ポリアクリル酸にグラフトされたポリエチレンオキサイド及びポリプロピレンオキサイド、またはポリアクリル酸、またはアクリル酸及びビニルスルホン酸が含まれる。別の実施例においては、第1のポリマーには、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドまたはアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド及びアクリル酸が含まれ、第2のポリマーには、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドまたはアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド及びアクリル酸が含まれる。別の実施例においては、第1のポリマーには、ポリアクリル酸にグラフトされたポリエチレンオキサイド及びポリプロピレンオキサイドが含まれ、第2のポリマーには、ポリアクリル酸にグラフトされたポリエチレンオキサイド及びポリプロピレンオキサイド、またはポリアクリル酸、またはアクリル酸及びビニルスルホン酸が含まれる。
【0016】
別の実施例においては、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタには標的部分が更に含まれ、標的部分は、別の実施例においては、抗体、抗体フラグメント、レセプタ、タンパク質A、タンパク質G、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、金属イオンキレート、酵素補助因子、核酸またはリガンドである。
【0017】
別の実施例においては、本発明は多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを含む溶液を提供するが、これは別の実施例においては水溶液であり、または別の実施形態においては高イオン強度溶液である。
【0018】
別の実施例においては、本発明は、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを生成するための方法であって、
(a)水溶液中でキレータを含む第1のポリマーに超常磁性コア粒子を接触させ、前記超常磁性コア粒子に付着することにより、第1のポリマー付着が、第1のポリマー−超常磁性コア粒子複合体における不安定性及び超常磁性コア粒子のクラスタ形成をもたらすようにする過程と、(b)(a)における溶液を第2のポリマーに接触させ、第2のポリマーが、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを形成するポリマー−マグネタイト粒子複合体を安定化するようにする過程とを含む方法を提供する。
【0019】
一実施形態においては、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタの溶液を更に濃縮させるが、これには、別の実施例においては、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを沈降させる過程が含まれる。別の実施例においては、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを生成するための方法には、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに標的部分を共役させる過程が更に含まれる。
【0020】
別の実施例においては、本発明は、分離の方法であって、(i)所定の物質を含む溶液を本発明の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに接触させ、前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタが前記所定の物質との強化された相互作用を有するようにする過程と、(ii)前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタが前記所定の物質と相互に作用して多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ‐所定物質複合体を形成するようにする状態を与える過程と、(iii)前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ‐所定物質複合体を前記溶液の他の成分から磁気的に分離する過程とを含む方法を提供する。
【0021】
一実施形態においては、上記方法は、溶液中のサンプルから所定の生物学的物質を分離するために利用される。一実施形態においては、サンプルは生物学的サンプルであり、これは一実施形態においては組織ホモジネート、細胞溶解物、ブロス、または細胞または組織培養である。
【0022】
一実施形態においては、生物学的物質は、真核細胞、原核細胞、細胞小器官、ウイルス、タンパク質、核酸、炭水化物、リガンド、脂質またはこれらの任意の組合せである。
【0023】
別の実施例においては、複合体の磁気分離は、高勾配磁気分離により行われる。一実施形態においては、上記方法は、細胞によって発現されるタンパク質を前記細胞から分離するために利用される。この態様によれば、一実施形態においてタンパク質は強カチオン性である。
【0024】
別の実施例においては、本発明の方法は、溶液またはブロス中で行われる。別の実施例において細胞は細菌または酵母であり、別の実施例において酵母はピキア属酵母(Pichia species)である。
【0025】
別の実施例においては、本発明は、分離の方法であって、(a)標的部分を更に含む本発明の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに、所定の物質を含む溶液を接触させる過程と、(b)前記標的部分が前記所定の物質と相互に作用して多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ‐所定物質複合体を形成するようにする状態を与える過程と、(c)前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ‐所定物質複合体を前記生物学的サンプルの他の成分から磁気的に分離する過程とを含む方法を提供する。
【0026】
一実施形態においては、この態様によれば、標的部分は、抗体、抗体フラグメント、レセプタ、タンパク質A、タンパク質G、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、金属イオンキレート、酵素補助因子、核酸、リガンドまたはレクチンである。別の実施例においては、上記方法は、サンプルから所定の生物学的物質を分離するために利用されるが、このサンプルは一実施形態においては生物学的サンプルであり、これは別の実施例においては組織ホモジネート、細胞溶解物、または細胞または組織培養である。
【0027】
別の実施例においては、この態様に基づく生物学的物質は、真核細胞、原核細胞、細胞小器官、ウイルス、タンパク質、核酸、炭水化物、リガンド、脂質またはこれらの任意の組合せである。
【0028】
別の実施例においては、複合体の磁気分離は、HGMSにより行われる。
【0029】
別の実施例においては、本発明は、発現タンパク質を、前記タンパク質を発現するウイルスから分離する方法であって、(i)所定のタンパク質を発現するウイルスを含む細胞を溶解する過程と、(ii)(a)において得られた溶解物を本発明の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに接触させる過程と、(iii)前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタが前記発現タンパク質と相互に作用して多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ‐発現タンパク質複合体を形成するようにする状態を与える過程であって、前記状態が多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ‐ウイルス複合体の形成をもたらすこともあるような該過程と、(iv)他の成分から多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを含む複合体を磁気的に分離する過程であって、前記複合体が、発現タンパク質、ウイルス、またはこれらの混合物を前記複合体中に含むことがある該過程と、(v)前記複合体を高イオン強度の溶液に接触させる過程と、(vi)前記発現タンパク質を捕集する過程とを含み、それによって、前記高イオン強度の溶液が、前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに対する前記ウイルスの結合親和性を高めるか、前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに対する前記発現タンパク質の結合親和性を低下させるか、またはその組合せであり、結合親和性に対する前記効果により、前記発現タンパク質の優先的な捕集が、前記タンパク質を発現するウイルスから組換え技術により発現されたタンパク質を分離する方法となることができるようにする方法を提供する。
【0030】
本発明のこの態様によれば、一実施形態において複合体の磁気分離は高勾配磁気分離により行われる。一実施形態においては、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタは20〜1000nmのサイズである。別の実施例においては、高イオン強度の溶液は0.1〜0.4Mの濃度である。別の実施例においては、溶液中の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ濃度は0.05〜0.3%である。
【0031】
別の実施例においては、上記方法には、複合体を高pH溶液に接触させる過程が更に含まれる。一実施形態においては、溶液は低イオン強度溶液である。
【0032】
別の実施例においては、上記方法には、ウイルスを捕集する過程が更に含まれる。
【0033】
別の実施例においては、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタには、ビニルスルホン酸とアクリル酸のコポリマーが含まれ、または別の実施例において多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタにはPEOが含まれ、または別の実施例において多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタにはこれらの混合物が含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明は、一実施形態において、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタであって、超常磁性コア粒子と、キレート基を含み、前記超常磁性コア粒子に付着され、前記超常磁性コア粒子に付着することにより、第1のポリマー−超常磁性コア粒子複合体(コロイド状に安定ではない)を形成し、前記超常磁性コア粒子のクラスタ形成をもたらすような第1のポリマーと、前記第1のポリマーが付着している複合体に付着され、前記複合体にに付着することにより、当該多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを安定化するような第2のポリマーとを含む多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを提供する。
【0035】
マグネタイト・コアを含む多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを以下に例示するように生成した。本発明のこの態様によれば、一実施形態において、幾つかの異なるポリマーで被覆された8nmマグネタイト(Fe)コアの25〜200nmクラスタで構成される磁性流体を生成した。使用するポリマー被覆の特性に基づき、磁性ナノ粒子のサイズを所望の値に調整することができることが分かった。クラスタは、2次ポリマー被覆の適用によりコロイド状に安定化されるが、単一のポリマー層で被覆してもこの効果は生じない。粒子サイズの調整は、一実施形態において多層ポリマー被覆磁性ナノ粒子の回収のために有用である。というのも、サイズが50nm以下のときには回収は非常に困難であるからである。別の実施例においては、粒子サイズが低下するにつれてコロイド状の安定性のみならず分離のための粒子の受容能(capacity)が劇的に向上するので、粒子サイズ調整は有用である。
【0036】
一実施形態においては、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタは、長期間溶液中に留まらせるサイズのものである。別の実施例においては、ナノクラスタは20〜1000nmのサイズである。一実施形態においては、ナノクラスタは25〜200nmのサイズである。一実施形態においては、ナノクラスタは30〜200nmのサイズであり、または別の実施例においてナノクラスタは35〜200nmのサイズであり、または別の実施例においてナノクラスタは40〜200nmのサイズであり、または別の実施例においてナノクラスタは45〜200nmのサイズであり、または別の実施例においてナノクラスタは50〜200nmのサイズであり、または別の実施例においてナノクラスタは75〜200nmのサイズであり、または別の実施例においてナノクラスタは100〜200nmのサイズであり、または別の実施例においてナノクラスタは125〜200nmのサイズであり、または別の実施例においてナノクラスタは150〜200nmのサイズであり、または別の実施例においてナノクラスタは175〜200nmのサイズであり、または別の実施例においてナノクラスタは35〜75nmのサイズであり、または別の実施例においてナノクラスタは50〜100nmのサイズであり、または別の実施例においてナノクラスタは75〜200nmのサイズであり、または別の実施例においてナノクラスタは75〜150nmのサイズであり、または別の実施例においてナノクラスタは50〜125nmのサイズであり、または別の実施例においてナノクラスタは20〜100nmのサイズであり、または別の実施例においてナノクラスタは20〜125nmのサイズである。一実施形態においては、ナノクラスタは20nmのサイズであり、または別の実施例においてナノクラスタは40nmのサイズであり、または別の実施例においてナノクラスタは50nmのサイズであり、または別の実施例においてナノクラスタは60nmのサイズであり、または別の実施例においてナノクラスタは80nmのサイズであり、または別の実施例において100nmのサイズである。
【0037】
別の実施例においては、ナノクラスタサイズは、第1のポリマー中のキレート基とマグネタイト・コア粒子中の鉄原子の比の関数である。一実施形態において、この比は0.1〜0.6である。別の実施例において、この比は0.1〜0.6であり、または別の実施例においてこの比は0.1〜0.3であり、または別の実施例においてこの比は0.3〜0.6であり、または別の実施例においてこの比は0.1であり、または別の実施例においてこの比は0.2であり、または別の実施例においてこの比は0.3であり、または別の実施例においてこの比は0.4であり、または別の実施例においてこの比は0.5であり、または別の実施例においてこの比は0.6である。別の実施例において、ナノクラスタサイズは、ポリマー1の量を制限することにより制御される。別の実施例において、ナノクラスタサイズは、ポリマー2の分子サイズにより制御される。
【0038】
本発明の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタには少なくとも2つのポリマーが含まれ、これらは超常磁性コア粒子に付着されるが、形成時にはコロイド状に安定である。一実施形態においては、上記付着は超常磁性コア粒子とポリマー間の強いまたは弱い相互作用である。
【0039】
一実施形態においては、超常磁性コア粒子にはマグネタイトが含まれる。マグネタイトは、一実施形態において磁石に強力に引き付けられる鉄鉱石を指す。一実施形態においては、それは一般式Feを有し、これは別の実施例においては、約1:1.5ないし約1:2.5のFe2+/Fe3+比を有し、または別の実施例において約1:2の比を有する。別の実施例においては、超常磁性粒子には(Fe,M)OFeなどの化学的等価物が含まれることがあり、ここでMは一実施形態において、Zn、Co、Ni、Mn、またはCrであることがある。別の実施例においては、Fe2+/Fe3+比には、本発明の方法に基づき超磁性ナノ粒子の形成を可能にする任意の比が含まれる。
【0040】
別の実施例においては、超常磁性コア粒子にはキレート基が含まれる。一実施形態においては、キレート基は鉄キレート基であり、これは別の実施例においては遊離カルボン酸である。別の実施例においては、超常磁性コア粒子には、γまたはα酸化鉄、二酸化クロム、フェライト、または金属合金の種々の元素が含まれる。
【0041】
一実施形態においては、ポリマー被覆磁性ナノクラスタには常磁性体が含まれる。常磁性体は、一実施形態において磁場中に置かれたときに磁場中の力線に平行にかつ磁場の強度に比例して磁化される物質を指す。一実施形態においては、ポリマー被覆磁性ナノクラスタには、本発明のポリマーが付着する超常磁性コアが含まれる。一実施形態においては、「超常磁性」なる語は、外部磁場において強磁性材料として同様の磁性を有するが、外部磁化場(external magnetization field)を取り除いた後には残留磁気を有していない物質の種類を指す。
【0042】
超常磁性コア粒子の多層ポリマー被覆(multiple polymer coating)は、本発明の一要素である。一実施形態においては、本発明のポリマーにはコポリマーが含まれることがある。別の実施例においては、本発明のポリマーはホモポリマーであることがあり、別の実施例においてヘテロポリマーであることがある。別の実施例においては、本発明のポリマーは合成ポリマーであり、または別の実施例においては天然ポリマーである。別の実施例においては、本発明のポリマーはフリーラジカル・ランダムコポリマーであり、または別の実施例においてはグラフトコポリマーである。一実施形態においては、ポリマーには、タンパク質、ペプチドまたは核酸が含まれることがある。超常磁性コア粒子に対する親和性を有する任意のポリマーを加えると本発明の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを連続的に生成するが、このようなポリマーは本発明の一部であると考えられるべきである。
【0043】
一実施形態においては、利用されるポリマーの選択は、用いられる磁性粒子の電荷の関数であることがある。一実施形態においては、第1のポリマーには、負電荷の粒子に対するアクリル酸、スチレンスルホン酸及びビニルスルホン酸のランダムコポリマーと、正電荷の粒子に対するアクリル酸、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド及びアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリドのランダムコポリマーと、アクリル酸の主鎖とポリエチレンオキサイド及びポリプロピレンオキサイドの側鎖を有するグラフトコポリマーとが含まれることがある。一実施形態においては、ポリマーの選択が、疎水性安定化のための疎水性領域及び親水性の安定化シェルを与えるために行われる。
【0044】
別の実施例においては、第1のポリマーには、アクリル酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリアクリル酸(PAA)、またはその組合せが含まれる。別の実施例においては、第1のポリマーには、アクリル酸、スチレンスルホン酸及びビニルスルホン酸が含まれる。この態様によれば、一実施形態においてビニルスルホン酸の濃度は25〜50%であり、または別の実施例においてスチレンスルホン酸の濃度は25〜75%であり、または別の実施例においてアクリル酸の濃度は約25%である。別の実施例においてはアクリル酸濃度対鉄原子濃度の比は0.1〜0.6であり、または別の実施例において0.2である。
【0045】
別の実施例においては、第1のポリマーには、アクリル酸25%、ビニルスルホン酸50%、スチレンスルホン酸25%が含まれる。本発明のこの態様によれば、別の実施例においては結果として生じるポリマー1の分子量は、3、5、9、12、17、32または70kDaであるかまたはその範囲であることがある。別の実施例においては、第1のポリマーには、アクリル酸25%、ビニルスルホン酸25%、スチレンスルホン酸50%が含まれる。本発明のこの態様によれば、別の実施例においては結果として生じるポリマー1の分子量は、2、4、5、7、10、19または38kDaであるかまたはその範囲であることがある。別の実施例においては、第1のポリマーには、アクリル酸25%、スチレンスルホン酸75%が含まれる。本発明のこの態様によれば、別の実施例においては結果として生じるポリマー1の分子量は、3、5、12、16、23、44、102、210または300kDaであるかまたはその範囲であることがある。別の実施例においては、第1のポリマーの構成は、アクリル酸20%、ビニルスルホン酸80%、または別の実施例においてはアクリル酸30%、ビニルスルホン酸70%、または別の実施例においてはアクリル酸40%、または別の実施例においてはビニルスルホン酸60%である。本発明のこの態様によれば、別の実施例においては結果として生じるポリマー1の分子量は、1、2、3、4、5、6、7または11kDaであることがある。別の実施例においては、第1のポリマーには、アクリル酸25%、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド75%が含まれる。本発明のこの態様によれば、別の実施例においては結果として生じるポリマー1の分子量は、2、3、5、10、19、35または260kDaであることがある。別の実施例においては、第1のポリマーには、アクリル酸25%、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド75%が含まれる。本発明のこの態様によれば、別の実施例においては結果として生じるポリマー1の分子量は、11、16、36または170kDaであることがある。
【0046】
別の実施例においては、第1のポリマーには、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドまたはアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド及びアクリル酸が含まれる。この態様によれば、一実施形態においては、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドまたはアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリドの濃度は、25〜90%であり、または別の実施例において70〜80%であり、または別の実施例において約75%である。一実施形態においては、アクリル酸濃度対鉄原子濃度の比は0.1〜0.6であり、または別の実施例において0.2である。
【0047】
別の実施例においては、第1のポリマーは、PAAにグラフトされたPEO及びPPOを含むコポリマーである。この態様によれば、一実施形態においてPEOは8〜16%の濃度でグラフトされる。別の実施例においては、PPOは0〜8%の濃度でグラフトされる。別の実施例においては、PAAは5,000の分子量を有する。別の実施例においては、ポリマー濃度はマグネタイト1グラム当たりポリマー0.25〜1.25グラムであり、または別の実施例においてはマグネタイト1グラム当たりポリマー0.25グラムである。
【0048】
別の実施例においては、ポリマー1のポリマー分子量はいろいろに変えられることがあり、一実施形態においては、第1のポリマーの分子量は、1〜300、1〜5、1〜10、10〜20、20〜25、1〜25、20〜30、30〜40、40〜50、25〜50、50〜70、70〜100、50〜100、100〜150、150〜170、170〜200、150〜200、100〜200、200〜250、250〜300、100〜300、または200〜300kDaの範囲であることがある。
【0049】
別の実施例においては、ポリマー1による超常磁性粒子の被覆は、反応溶液を加熱することによって向上することがある。ここでは、約45〜50℃から90℃もの高温までの温度が超常磁性コア粒子のポリマー被覆を促進することが実証された。本発明の方法による超常磁性コア粒子のポリマー被覆のために、一実施形態においては80℃の温度、または別の実施例においては85℃の温度、または別の実施例においては75℃の温度、または別の実施例においては70℃の温度、または別の実施例においては65℃の温度、または別の実施例においては60℃の温度が維持される。
【0050】
第2のポリマーの付着は、形成された本発明の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタのコロイド状安定化(colloidal stabilization)をもたらす。一実施形態においては、「安定化された」または「安定化」なる語は、ナノクラスタ生成後、溶液中における結果的にもたらされたナノクラスタの安定性を指す。一実施形態においては、「安定化された」、「安定化」または「コロイド状に安定である」または「コロイド状安定化」なる語は、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタが溶液中に凝集または「沈殿」しないという事実を指す。別の実施例においては、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタは、特定の期間にわたり化学組成が変化しない。
【0051】
一実施形態においては、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタはコロイドを形成する。コロイドは、一実施形態において溶液中に分散したナノクラスタの均質の透明ではない(non-crystalline)性質を指すが、このときナノクラスタは、一実施形態においては沈降せず、別の実施例においては通常の濾過または遠心分離によって分離することができない。
【0052】
一実施形態においては、第2のポリマーには、アクリル酸、ビニルスルホン酸、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアクリル酸、またはこれらの任意の組合せが含まれる。
【0053】
別の実施例においては、第2のポリマーにはポリアクリル酸が含まれ、これは別の実施例においては2〜250kDaの分子量を有する。別の実施例においては、第2のポリマーとして用いられるポリアクリル酸の分子量は、2、5、8、15、30、50、70、100または250kDaである。一実施形態においては、ポリマー濃度はマグネタイト1グラム当たりポリマー0.1〜0.5グラムであり、または別の実施例においてマグネタイト1グラム当たりポリマー0.3グラムである。
【0054】
別の実施例においては、第2のポリマーにはアクリル酸とビニルスルホン酸のコポリマーが含まれる。一実施形態においては、この態様によれば、アクリル酸及びビニルスルホン酸の濃度は25〜50%であり、別の実施例においては約25%である。別の実施例においては、第2のポリマーの分子量はこの態様によれば10kDaであることがある。
【0055】
別の実施例においては、第2のポリマーには、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド及びアクリル酸が含まれる。別の実施例においては、第2のポリマーには、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド及びアクリル酸が含まれる。この態様によれば、一実施形態においてアクリル酸は25%の濃度、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリドは75%の濃度で、ポリマー分子量が約10kDaであることがある。
【0056】
別の実施例においては、第2のポリマーは、PAAにグラフトされたPEO及び/またはPPOを含む。一実施形態においては、本発明のこの態様によれば、第2のポリマーには、サイズが5kDaのポリ(アクリル酸)主鎖に、サイズが3kDa、グラフト化率(grafting)16%のポリ(エチレンオキサイド)を加えたものが含まれる。別の実施例においては、第2のポリマーには、サイズが5kDaのポリ(アクリル酸)主鎖に、サイズが3kDa、グラフト化率8%のポリ(エチレンオキサイド)と、サイズが2kDa、グラフト化率8%のポリ(プロピレンオキサイド)を加えたものが含まれる。
【0057】
別の実施例においては、ポリマー濃度はマグネタイト1グラム当たりポリマー0.1〜0.5グラムであり、または別の実施例においてマグネタイト1グラム当たりポリマー0.4グラムである。
【0058】
別の実施例においては、第2のポリマーは、コア粒子の周囲に立体的なシェルを作ることによって、または別の実施例においては多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに電荷を供給することによって、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを安定化する。別の実施例においては、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタは、高イオン強度の溶液中で安定している。
【0059】
別の実施例においては、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタには、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸及びアクリル酸を含む第1のポリマーと、PAAにグラフトされたPEO及びPPO、またはPAA、またはアクリル酸及びビニルスルホン酸を含む第2のポリマーとが含まれる。別の実施例においては、第1のポリマーには、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドまたはアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド及びアクリル酸が含まれ、第2のポリマーには、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド及びアクリル酸またはアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド及びアクリル酸が含まれる。
【0060】
別の実施例においては、第1のポリマーには、PAAにグラフトされたPEO及びPPOが含まれ、第2のポリマーには、PAAにグラフトされたPEO及びPPO、またはPAA、またはアクリル酸及びビニルスルホン酸が含まれる。
【0061】
本発明の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを形成するために非常に多くのポリマーの組合せが用いられることがあり、上記したものは可能な組合せの極一部を示しているにすぎないことを理解されたい。しかしながら、可能な組合せの各々は本発明の一実施形態と考えられる。
【0062】
別の実施例においては、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタには更に標的部分が含まれる。「標的部分(targeting moiety)」なる語は、一実施形態においては、標的部分を同族のパートナー(cognate partner)に付着させることになるような、標的部分に与えられた特異性、または別の実施例においては標的部分を所望の同族のパートナー分子に特異的に「標的にする」能力を指す。標的部分は、一実施形態において、標的部分を介して、一実施形態においては所定のタンパク質または糖タンパク質へ、または別の実施例においては所定の核酸へ、または別の実施例においては所定の細胞性画分への多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタの付着を促進することがある。
【0063】
一実施形態においては、標的部分は少ない存在量で分子への付着を増強するが、このことは興味深い。別の実施例においては、標的部分は、UV光源などのエネルギー源の供給を受けて付着を増強する。一実施形態においては、化学的な架橋基を介してポリマーに標的部分を化学的に付着させ、または別の実施例において多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタのポリマーとの安定した会合を形成し、または別の実施例において多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタのポリマーとの会合を形成するが、これにより、次に続く例えば塩濃度やpHなどの溶液状態の変化との関係が容易に絶たれる。
【0064】
一実施形態においては、標的部分は抗体であることがあり、これはタンパク質や核酸などの所定の分子を特異的に認識する。別の実施例においては、抗体は、所定の分子に付着されるレポーター分子を特異的に認識することがある。別の実施例においては、標的部分は、抗体フラグメント、タンパク質A、タンパク質G、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、金属イオンキレート、酵素補助因子、または核酸であることがある。別の実施例においては、標的部分は、所定の同族リガンドに結合するかまたは所定の分子または細胞と会合するレセプタであることがあり、または別の実施例において、標的部分は、その同族のパートナーとの相互作用によって細胞を「探し出す」ために用いられるリガンドであることがある。
【0065】
細胞などの任意の所定の構成要素またはその成分であって、他の材料からを分離されることが望ましく、本技術に従うものは、本発明の一部と考えられるべきである。
【0066】
例えば、一実施形態において多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタは、他の物質から所望の物質を分離または除去するために用いられることがあり、例えば癌性のまたは他の細胞または物質を標識しかつ生物環境から除去するために、それがin vitroであろうとin vivoであろうと、用いられることがある。
【0067】
一実施形態においては、細胞分離のための多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタの使用は、次のように達成されることがある。即ち、骨髄、血液、尿、痰または分泌物などの種々の体液から得られる細胞の混合群(mixed population)は、標準的な手順を用いて得られる。多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタは、所定の細胞の細胞表面上で発現されるレセプタに対する特異抗体により直接標識されることがある。所定の標的細胞への標識された多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタの結合が生じることができるようになった後、懸濁液からの磁性粒子の磁気分離を行う。所定のタンパク質、または所定の核酸に対して、生物学的サンプル、培地、細菌または酵母培養からの分離に対して、及び当業者に明らかであろう多くの他のシナリオに対して、同様の手順が用いられることがある。
【0068】
一実施形態においては、混合群に存在する、サイズ、膜電荷などの点で異なる特定の細胞群の富化のために、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタが用いられる。一実施形態においては、所定の群は他の細胞群と比べて本発明の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに対する高い結合親和性を示し、その所定の群はナノクラスタから分離・除去される。別の実施例においては、所定の群は、望ましくない群と比べて多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに対する低い親和性を示す。この除去は、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタとの接触により達成される。細胞群の濃縮または分離目的で本発明の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを用いることは、本発明の一部であると考えられるべきである。
【0069】
一実施形態においては、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタは、生体適合性の組成物に存在することがあり、別の実施例においては、適切な薬学的に許容される担体または賦形剤であって Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pa, USA, 1985 に開示されているようなものと混合されることがある。ナノ粒子は、癌細胞の標識付け、検出、及び/または例えばサンプルまたは組織からの除去など、一定の症状の治療または診断において用いられることがある。別の実施例においては、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタは、家庭廃棄物及び産業廃棄物からの所望の物質の価値ある回収及び/または解毒に利用されることもある。
【0070】
別の実施例においては、本発明は多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを含む溶液を提供するが、これは別の実施例においては水溶液であり、または別の実施例においては高イオン強度溶液である。
【0071】
一実施形態においては、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタの磁気特性は、磁場勾配にあるときにのみ磁気的挙動を示すようなものであり、永久に磁気を帯びることはない。
【0072】
別の実施例においては、本発明は、ポリマー被覆磁性ナノクラスタを生成する方法であって、水溶液中でキレータを含む第1のポリマーに超常磁性コア粒子を接触させる過程であって、それによって前記超常磁性コア粒子への前記第1のポリマーの付着が、コロイド状に安定ではない第1のポリマー−超常磁性コア粒子複合体及び超常磁性コア粒子のクラスタ形成をもたらすような該過程と、第1のポリマー‐超常磁性コア粒子複合体を含む溶液を第2のポリマーに接触させる過程であって、それによって第2のポリマーがポリマー‐マグネタイト粒子複合体を安定化し、ポリマー被覆磁性ナノクラスタを形成する該過程とを提供する。
【0073】
一実施形態においては、ポリマー被覆磁性ナノクラスタの溶液は更に濃縮されるが、これには、別の実施例においては、ポリマー被覆磁性ナノクラスタを沈降させる過程が含まれる。一実施形態においては、沈降は、アセトン、メタノール、エタノール、THF、アセトニトリル、または任意の水溶性有機溶媒など、任意の数の適切な溶媒により達成されることがある。別の実施例においては、沈降に続くポリマー被覆磁性ナノクラスタの回収は溶液の磁気傾瀉(magnetic decanting)によって達成されることがある。別の実施例においては、ポリマー被覆磁性ナノクラスタは水溶液に懸濁されることがあり、再懸濁後に超音波処理されることがある。
【0074】
さらに上記したように、ポリマー被覆磁性ナノクラスタを生成するための方法は、用いられるポリマーの種類、その分子サイズや、加えられるポリマー1の量、ポリマー2のサイズ、またはその方法が行われる温度の制限や、またはこれらの組合せにより更に処理されることがあり、前記それぞれは本発明の一実施形態を代表する。
【0075】
別の実施例においては、ポリマー被覆磁性ナノクラスタを生成するための方法には、上文で更に説明しているように、ポリマー被覆磁性ナノクラスタに標的部分を共役させる過程が更に含まれる。
【0076】
別の実施例においては、本発明は、分離の方法であって、所定の物質を含む溶液を本発明の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに接触させる過程であって、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタが所定の物質との強化された相互作用を有するような過程と、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタが所定の物質と相互に作用して多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ‐所定物質複合体を形成するようにする状態を与える過程と、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ‐所定物質複合体を前記生物学的サンプルの他の成分から磁気的に分離する過程とを含む方法を提供する。
【0077】
一実施形態においては、上記方法は、溶液中のサンプルから所定の生物学的物質を分離するために利用される。一実施形態においては、サンプルは生物学的サンプルであり、これは一実施形態においては組織ホモジネート、細胞溶解物、ブロス、細胞または組織培養である。
【0078】
一実施形態においては、生物学的物質は、真核細胞、原核細胞、細胞小器官、ウイルス、タンパク質、核酸、炭水化物、リガンド、脂質またはこれらの任意の組合せである。
【0079】
別の実施例においては、複合体の磁気分離は高勾配磁気分離により行われる。一実施形態においては、上記方法は、細胞によって発現されたタンパク質を前記細胞から分離するために利用される。この態様によれば、一実施形態においてタンパク質は強カチオン性である。
【0080】
別の実施例においては、本発明の方法は溶液またはブロス中で行われる。別の実施例において細胞は細菌または酵母であり、別の実施例において酵母はピキア属酵母である。
【0081】
本発明のこの態様によれば、一実施形態において複合体の磁気分離は高勾配磁気分離により行われる。一実施形態においては、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタは20〜1000nmのサイズである。別の実施例においては、高イオン強度の溶液は濃度が0.1〜0.4Mである。別の実施例においては、溶液中の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタの濃度は0.05〜0.3%である。
【0082】
別の実施例においては、本発明は、分離の方法であって、(i)所定の物質を含む溶液を本発明の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに接触させる過程であって、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタが前記所定の物質との強化された相互作用を有するような該過程と、(ii)前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタが前記所定の物質と相互に作用して多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ‐所定物質複合体を形成するようにする状態を与える過程と、(iii)前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ‐所定物質複合体を前記溶液の他の成分から磁気的に分離する過程とを含む方法を提供する。
【0083】
一実施形態においては、上記方法は、溶液中のサンプルから所定の物質を分離するために利用される。一実施形態においては、所定の物質は生物学的物質であり、サンプルが生物学的サンプルであり、生物学的サンプルは一実施形態において組織ホモジネート、細胞溶解物、細胞または組織培養である。
【0084】
一実施形態においては、所定の生物学的物質は、真核細胞、原核細胞、細胞小器官、ウイルス、タンパク質、核酸、炭水化物、リガンド、脂質 またはこれらの任意の組合せである。
【0085】
別の実施例においては、複合体の磁気分離は高勾配磁気分離により行われる。一実施形態においては、上記方法は、細胞によって発現されるタンパク質を前記細胞から分離するために利用される。この態様によれば、一実施形態においてタンパク質は強カチオン性である。
【0086】
一実施形態においては、細胞は細菌または酵母である。一実施形態においては、培養系またはブロスにおいて原核細胞または真核細胞を分離するのが望ましく、または別の実施例においては原核細胞または真核細胞を含む培養物において発現されたタンパク質を単離するのが望ましい。別の実施例においては、原核細胞または真核細胞は異種性のタンパク質を発現するように操作されることがあるが、このことは、別の実施例において、タンパク質を発現する細菌または真核細胞から分離するために望ましい。
【0087】
別の実施例においては、本発明の方法は、溶液またはブロス中で行われる。この溶液またはブロスは、別の実施例においては、当業者であれば理解するであろうように、単離される特定の物質及び物質が単離される環境に適した任意のそのような溶液またはブロスであることがある。
【0088】
例えば、一実施形態において、培養物またはブロスにおいて細菌により発現されたタンパク質を単離するための適切な条件は、Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, (Volumes 1-3) Cold Spring Harbor Press, N. Y.、及び Ausubel et al., 1989 またはCurrent Protocols in Molecular Biology, Green Publishing Associates and Wiley Interscience, N. Y. に見つけられることがある。
【0089】
別の実施例においては、所定のタンパク質は、哺乳類細胞において発現されることがあるが、これは様々な培地において培養されることがある。シグマ(Sigma)社のHamF10、同MEM培地(Minimal Essential Medium)、同RPMI 1640、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)などの市販の培地は、宿主細胞を培養するのに適している。その他に、Ham et al., Meth. Enz., 58: 44 [1979]、Bames et al., Anal. Biochem., 102: 255 [1980]、米国特許第4,767,704号、第4,657,866号、第4,927,762号、第4,560,655号、または第5,122,469、WO90/03430、WO87/00195、または米国特許第Re.30,985号に記載のいずれかの培地が哺乳類細胞のための培地として用いられることがある。
【0090】
培地またはブロスのいずれにも、必要に応じて、ホルモン及び/または他の成長因子(インスリン、トランスフェリン、または上皮成長因子など)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リン酸塩など)、緩衝液(HEPESなど)、ヌクレオシド(アデノシン、チミジンなど)、抗生物質(ゲンタマイシン(登録商標)医薬物質など)、微量元素(マイクロモルの範囲に最終濃度で通常存在する無機化合物と定義される)、及びグルコースまたは同等のエネルギー源が補充されることがある。その他の必要な補充物も、当業者に既知であろう適切な濃度で含まれることがある。温度、pHなどの培養条件は、当業者には明らかであろう(例えば Mammalian Cell Biotechnology: a Practical Approach, M. Butler, ed. (IRLPress, 1991) を参照)。
【0091】
一実施形態においては、分離されるタンパク質は、当該タンパク質を発現する細胞から分泌される。別の実施例においては、タンパク質は細胞内で発現される。
【0092】
一実施形態においてはタンパク質を発現する細胞、または別の実施例においてはタンパク質を産出するために遺伝子を組み換えられたウイルスを含む細胞は、当業者に知られているような方法で、例えば洗浄剤または浸透圧ショックを用いて、溶解される。
【0093】
一実施形態においては、タンパク質は、説明されているような本発明の方法によって分離される。別の実施例においては培地、または別の実施例においては細胞溶解物、または別の実施例においては組織/器官ホモジネートを遠心分離して特定の細胞片を除去し、溶液、溶解物、ホモジネートなどを、イオン交換カラム及び/または別の実施例においてDEAEなどのシリカまたはカチオン交換樹脂クロマトグラフィ及び/または別の実施例においてゲル濾過で分別し、その後、本発明の方法に基づき磁気分離を行う。一実施形態においては、タンパク質は特にカチオン性ではなく、用いられる方法はタンパク質調製物に存在する汚染ウイルスを減らすためのものである。
【0094】
別の実施例においては、精製中のタンパク質分解による崩壊を阻害するために、本発明の方法においてフェニルメチルスルフォニルフルオリド(PMSF)などのプロテアーゼ阻害剤が用いられることがある。
【0095】
別の実施形態においては、本発明の方法は、以下に例示するようにピキア酵母において発現したタンパク質を単離するために利用される。
【0096】
別の実施例においては、本発明は、発現タンパク質を、前記タンパク質を発現するウイルスから分離する方法であって、(i)所定のタンパク質を発現するウイルスを含む細胞を溶解する過程と、(ii)(i)において得られた溶解物を本発明の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに接触させる過程と、(iii)前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタが前記発現タンパク質と相互に作用して多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ‐発現タンパク質複合体を形成するようにする状態を与える過程であって、前記状態が多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ‐ウイルス複合体の形成をもたらすこともあるような該過程と、(iv)他の成分から磁性ナノクラスタを含む複合体を磁気的に分離する過程であって、前記複合体が、発現タンパク質、ウイルス、またはこれらの混合物を前記複合体中に含むことがある該過程と、(v)前記複合体を高イオン強度の溶液に接触させる過程と、(vi)前記発現タンパク質を捕集する過程とを含み、それによって、前記高イオン強度の溶液が、前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに対する前記ウイルスの結合親和性を高めるか、前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに対する前記発現タンパク質の結合親和性を低下させるか、またはその組合せであり、結合親和性に対する前記効果により、前記発現タンパク質の優先的な捕集が、前記タンパク質を発現するウイルスから組換え技術により発現されたタンパク質を分離する方法となることができるようにする方法を提供する。
【0097】
本発明のこの態様によれば、一実施形態において溶液、培地またはブロス中のウイルス及び遊離のタンパク質は本発明の方法によって互いから分離されることがある。本発明は、1つのそのような実施形態(例8)を例示する。この実施形態においては、記載のように0.3Mのイオン強度の溶液中では100nmのウイルスの99.9%以上が50nmのナノクラスタに結合されるが、ナノクラスタとの複数の相互作用のために遊離のタンパク質の30%以下が結合される。0.3Mのイオン強度で行われる結合はウイルスを3対数減少させるが、タンパク質の70%は非結合である。0.3MのNaClによりナノクラスタを繰り返し溶離すると、ウイルスの0.1%のみが失われることになるがタンパク質の70%は回収されることになり、そのような溶離が数回行われた後では、ほぼ全てのウイルスは捕捉されることになるがほぼ全てのタンパク質は溶離されることになる(図14)。
【0098】
本発明のこの態様によれば、一実施形態において、分離のための方法には、タンパク質とウイルスの混合物に磁性ナノクラスタを加える過程と、溶液にHGMSを通過させる過程と、タンパク質が溶離しなくなるまで高イオン強度(約0.3M NaCl)の溶液によってカラムを洗浄する過程と、高pH、低イオン強度の溶液によってナノクラスタを溶離し、ウイルスを除去する過程とが含まれることがある。
【0099】
多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタは上記したサイズの範囲で用いられることがあり、本明細書中に開示される任意の実施形態を表すと考えられるべきである。
【0100】
一実施形態においては、細胞はウイルスのゲノム内でコードされないタンパク質を発現し、上記方法は、細胞からタンパク質を分離するために利用されるが、ここで、培養細胞にはウイルスが含まれる。別の実施例においては、タンパク質はウイルスゲノム内でコードされるが、これはタンパク質発現のために細胞機構を利用する。
【0101】
一実施形態においては、本発明の方法に用いられる高イオン強度の溶液は、1mM〜2Mの濃度であることがある。一実施形態においては、本発明の方法に用いられる高イオン強度の溶液は0.05〜0.6Mの濃度であることがある。一実施形態においては、用いられるイオン強度は0.1M〜0.3Mであることがあり、または別の実施例において0.1M〜0.4M、または別の実施例において0.1M〜0.5M、または別の実施例において0.1M〜0.25Mの濃度であることがある。
【0102】
別の実施例においては、溶液中の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタの濃度は0.0001〜15%である。別の実施例においては、溶液中の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタの濃度は0.05〜0.3%である。一実施形態においては、溶液中の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタの濃度は0.025〜0.6%であり、または別の実施例においては、溶液中の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタの濃度は0.05〜0.5%であり、または別の実施例においては、溶液中の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタの濃度は0.05〜1%である。
【0103】
別の実施例においては、本発明のこの態様によれば、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタにはビニルスルホン酸とアクリル酸のコポリマーが含まれ、または別の実施例においては、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタにはPEOが含まれ、または別の実施例においては、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタにはこれらの混合物が含まれる。
【0104】
一実施形態においては、本発明の方法は、伝統的な濾過または遠心分離によって除去するには小さすぎるウイルスを培養物から除去するのに有用であり、多額の出費となる限外濾過の必要性またはタンパク質活性に影響することがある酸または洗浄剤によるウイルス不活化の必要性を不要にする。
【0105】
別の実施例においては、本発明は、分離の方法であって、標的部分を更に含む本発明のポリマー被覆磁性ナノクラスタに、所定の物質を含む溶液を接触させる過程と、標的部分が所定の物質と相互に作用してポリマー被覆磁性ナノクラスタ‐所定物質複合体を形成するようにする状態を与える過程と、前記生物学的サンプルの他の成分からポリマー被覆磁性ナノクラスタ‐所定物質複合体を磁気的に分離する過程を含む方法を提供する。
【0106】
一実施形態においては、標的部分は、抗体、レセプタ、リガンドまたはレクチンである。
【0107】
別の実施例においては、本発明の分離方法は、上記したように、サンプルから所定の生物学的物質を分離するために利用される。
【0108】
別の実施例においては、本発明のポリマー被覆磁性ナノクラスタを含む溶液は再使用可能であり、これは、一実施形態において完全なHGMS捕捉及び再懸濁安定性が達成され得ることを意味している。例えば図5eは、タンパク質の吸着/脱着サイクル1サイクル後に再使用のために利用可能であったポリマー被覆磁性ナノクラスタの割合を示す。別の実施例においては、本発明のポリマー被覆磁性ナノクラスタの再使用の効率をよくするために追加の第2のポリマーを加える。
【0109】
本発明のいくつかの実施形態をさらに十分に説明するために、以下に例を示す。しかしながら、これらの例は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0110】

【0111】
例1:
【0112】
ポリマー被覆磁性ナノクラスタの準備
【0113】
化学共沈によって磁性ナノ粒子を生成した。2.35gの塩化鉄(II)六水和物及び0.86gの塩化鉄(II)四水和物を40mLの脱酸素水に加えた。激しく撹拌した100mLの三つ口フラスコ中で窒素を発泡(バブリング)させることによって脱酸素化を達成した。得られたFe3+及びFe2+濃度はそれぞれ0.22及び0.11Mであり、マグネタイト(Fe)生成のための必要な2:1の比になった。
【0114】
窒素バブリングを止め、その後、混合物を50〜90℃の範囲で加熱した。80℃が望ましい使用温度であることがわかった。28%の水酸化アンモニウムを5mLと種々の量のポリマーの混合物を水に溶かして加えた総体積を10mL(モノマー単位は通常7mmol)にしたものを加えた。15分後、追加被覆のために追加のポリマー(通常は4mmolモノマーベース)を加えた。室温まで冷却する前に更に15分間(合計で30分間)反応を進行させた。その後、磁性流体を50〜100mLのアセトンで沈殿させ、磁気的に傾瀉し、30mLのMilliQ水中に再懸濁し、ブランソン音波発生器450(Branson sonifier 450)により40%の出力で30秒間超音波処理した。
【0115】
化学共沈による磁性ナノ粒子生成の全体手順を図1に示す。上記に例示したように、ポリマーの存在下で塩基によって鉄イオンを沈降させ、ナノクラスタを形成する。クラスタを安定化するために第2のポリマーを加える。
【0116】
被覆磁性ナノ粒子の準備において多くの異なるポリマーを利用した。本明細書中で例証した2つの種類のポリマー即ちフリーラジカル・ランダムコポリマー及びグラフトコポリマーについて、更に詳しく説明する。第1の被覆は、負電荷の粒子に対するアクリル酸、スチレンスルホン酸及びビニルスルホン酸のランダムコポリマーと、正電荷の粒子に対するアクリル酸、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド及びアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリドのランダムコポリマーと、アクリル酸の主鎖とポリエチレンオキサイド及びポリプロピレンオキサイドの側鎖を有するグラフトコポリマーとにより行われた。これは、疎水性領域及び親水性の安定化シェルを与えるために用いられた。
【0117】
負電荷の粒子の第1の被覆はポリマー1により達成した。ポリマー1は、全増分濃度範囲(full incremental range of concentration)が25%ないし75%のスチレンスルホン酸と、全漸増濃度範囲が25%ないし50%のビニルスルホン酸と、2,000〜300,000(好適には5,000〜10,000で行った)の分子量を有する好適には25%の平衡アクリル酸(balance acrylic acid)から構成されていた。アクリル酸濃度/鉄原子濃度の比が0.1〜0.6となるようにポリマー被覆を行った。ポリマー1の概略図を図2aに示す。形成されたアニオン性ポリマーは、そのカルボン酸官能基を介してマグネタイトに付着する。
【0118】
正電荷の粒子の第1の被覆もポリマー2により達成した。ポリマー2は、25%ないし90%の濃度であって70〜80%、特に75%でより大きな増分のアセスメントが行われるビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドまたはアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリドと、平衡アクリル酸から構成されていた。アクリル酸濃度/鉄原子濃度の比が0.1〜0.6となるようにポリマー被覆を行った。ポリマー2の概略図を図2bに示す。ここでは、この合成手順によりアニオン性ポリマーを生成したが、アニオン性ポリマーはそのカルボン酸官能基を介してマグネタイトに付着する。
【0119】
ポリマー3による粒子の第1の被覆も達成した。ポリマー3は、マグネタイト1グラム当たり0.25〜1.25グラムの範囲で分子量5000のPAAにグラフトされた、分子量3,000のPEO(グラフト化率すなわちPEOと反応したアクリル酸反復単位のパーセントが8〜16%)または分子量2,000のPPO(グラフト化率0〜8%の)のブラシコポリマー(brush copolymer)で構成されていた。ポリマー3の概略図を図2cに示す。図2cは、アミド化反応によりアミノ端PEO及びPPO側鎖をPAA主鎖に付着させることによるグラフトコポリマー合成を示している。COOH基の大部分は、次に行われるマグネタイト・ナノ粒子への付着のために未反応のまま残された。
【0120】
上記の例に加えて、磁性ナノ粒子の被覆のために用いられる追加の第1のポリマーを表1に示す。
【表1】



【0121】
表1から分かるように、第1のポリマーが多様な濃度の組成から構成され、分子量が一定に保たれているか、またはその逆であるような多層ポリマー被覆磁性ナノ粒子を作成した。更に、種々の異なる温度で同じように多層ポリマー被覆磁性ナノ粒子が生成されることがある(表2)。
【表2】

【0122】
ポリアクリル酸から構成されるポリマー4の第2の被覆を、マグネタイト1グラム当たり0.1〜0.5グラム、好適には0.3グラムの濃度で分子量を2kDaから250kDaまで利用範囲内で僅かづつ例えば5kDaづつ増量させたポリアクリル酸により達成した。代わりの第2の被覆を利用したが、それはポリマー5の第2の被覆であって、10,000の分子量を有する、AAとVSA(25〜50%)のコポリマー、特にマグネタイト1グラム当たり0.1〜0.5グラム、例えば0.4グラムの濃度で50%及び25%のコポリマーから構成されるものを作成した。
【0123】
上記の例に加えて、磁性ナノ粒子の被覆のために用いられる追加の第2のポリマーを表3に示す。
【表3】


【0124】
表3から明らかなように、第2のポリマーが様々な組成から構成され、加えるポリマーの量を変えても分子量は一定に保たれているか、またはその逆であるような多層ポリマー被覆磁性ナノ粒子を作成した。
【0125】
これらの方法によって複数の粒子が合成されたが、これには、ポリマー1による第1の被覆及びポリマー3、4または5による第2の被覆がなされたもの、またはポリマー2により粒子に第1及び第2の被覆がなされたもの、またはポリマー3による第1の被覆、ポリマー3、4または5による第2の被覆がなされたものが含まれる。
【0126】
例2:
【0127】
第1のポリマー付着材料の関数としての磁性ナノクラスタサイズ制御及び実験方法:
【0128】
磁性ナノ粒子は以下のように準備した。2.35gの塩化鉄(II)を40mLの脱酸素水に加えた。得られたFe3+及びFe2+濃度はそれぞれ0.22及び0.11Mであった。その後、混合物を80℃まで加熱した。
【0129】
種々の多層ポリマー被覆磁性ナノ粒子の形成のために用いた第1のポリマーを表4に示す。
【表4】

【0130】
5mLの28%水酸化アンモニウムと種々の量のポリマーの混合物であって、Feイオン1mol当たりCOO−0.06molないし0.55mol。
【0131】
15分後、追加被覆のために第2のポリマー即ち0.3グラムの5000PAAを加えた。室温まで冷却する前に更に15分間(合計で30分間)反応を進行させた。その後、磁性流体を50〜100mLのアセトンで沈殿させ、磁気的に傾瀉し、30mLのMilliQ水中に再懸濁し、ブランソン音波発生器450により40%の出力で30秒間超音波処理した。測定角90°でブルックヘイブン(Brookhaven)BI−200SM光散乱系により動的光散乱(DLS)実験を行った。
【0132】
結果
【0133】
HGMS捕捉結果は、クラスタサイズが50〜70nmであるときに最適である。クラスタサイズに対する第1のポリマーの効果を判定するために、先ず表3に示すような種々の量のポリマーを塩基に加えた。ポリマー1の量を制限すると、上記の最適クラスタサイズが得られた(図3)。具体的に言うと、ポリマー1中の鉄キレート基(カルボン酸)の濃度と溶液中の鉄原子の量のモル比が約0.14〜0.2になるようにポリマー1の量を制限すると、所望のクラスタサイズが得られた(図3)。磁性クラスタサイズ制御は、この場合は第1の被覆を含む溶液中のポリマーの比を制御することによって影響されるが、数分後に15kDa以下の2次ポリマーを加えても粒子サイズに影響しなかった。疎水性スチレンスルホン酸基を含有するポリマーから作られたクラスタに対するクラスタサイズは1つの曲線に沿って減少し、疎水基を含まないクラスタでは異なる曲線に沿って減少した。
【0134】
例3:
【0135】
第2のポリマー付着材料の関数としての磁性ナノクラスタサイズ制御及び実験方法:
【0136】
磁性ナノ粒子を例2のように準備し、アクリル酸25%と、ビニルスルホン酸50%と、スチレンスルホン酸25%から構成される10kDaのサイズの第1のポリマー0.8グラムで上記の方法により被覆した。各ケースにおいて、第2のポリマー被覆なしのサンプルと同様に表5に示すように分子量(MW)を変えた0.3グラムのポリマーを用いて同様に第2のポリマー被覆を達成した。例2においてそうであったように動的光散乱が達成された。
【表5】

【0137】
結果
【0138】
2次被覆の分子サイズが比較的小さかったときには(<15kDa)、2次PAA被覆されたクラスタのサイズは2次被覆なしのものと有意には異ならなかった(図4)。しかし、2次被覆の分子サイズがより大きかったときには、クラスタはひとまとまりになり、より大きな凝集体を形成した。
【0139】
例4:
【0140】
ポリマー被覆磁性ナノクラスタ材料を用いたタンパク質精製及び実験方法:
【0141】
アクリル酸25%と、ビニルスルホン酸50%と、スチレンスルホン酸25%から構成される0.8グラムまたはサイズが10kDaのポリマーから構成される第1の被覆により本明細書中で述べているようにナノクラスタを構築した。第2の被覆は、ポリ(アクリル酸)から構成される0.3グラム、サイズ5kDaのポリマー2から構成されていた。
【0142】
0.2〜1.4 mg/mlの濃度のチトクロームC(pI=10.3)を洗浄した(過剰のポリマー及び塩を除去した)磁性ナノクラスタと混合し、最終濃度1.0mg/mL、pH7〜8の5mMのTES緩衝液を準備した。サンプルを10分間平衡化し、HGMSカラムを通過させ、ここで非結合タンパク質を捕集した。その後、磁性流体を0.5MのNaClで再懸濁し、再びカラムを通過させ、溶離したタンパク質を捕集した。その後、磁性流体を純粋中に再懸濁した。412nmの吸光度で結合及び溶離したタンパク質濃度をモニタした。
【0143】
SGフランツ社(S. G. Frantz Co., Inc. (Trenton, NJ))製のL−1CN型フランツ・カニスタ・セパレータ(Frantz Canister Separator)を用いて高勾配磁気分離(HGMS)実験を行った。HGMSシステムは、同じくSGフランツ社製の430型の細粒ステンレススチールウール(直径40〜66mm)が詰まった内半径0.332cm、長さ5.8cm(体積2cm)の円柱形ガラスカラムから構成されていた。詰め物は0.25cmを占めていたので、詰め物の割合は12.5%であった。取り付けられた電磁石により、カラムを通過する流れの方向を横断する磁場の方向を有する磁場を発生させた。2枚のプレート間に発生した磁束密度は、手持ち式の磁力計で測定したところ1.3Tであった。
【0144】
電磁石をオンにして20mLの希薄磁性流体をカラムに通過させることによって粒子の磁気濾過を行った。この体積は12カラム体積に等しいので、捕捉された粒子は永久に捕捉されると想定された。蠕動ポンプで液体を1.4mL/分でポンピングした。その後、磁石をオフにし、20mLの水をカラムに通過させて、洗浄した粒子を捕集及び再懸濁した。磁気洗浄中に出て行く粒子の割合は、濾過液中のFe濃度を測定した化学的な鉄滴定[Yoe, J. H.; Jones, L. Colorimetric Determination of Iron with Disodium-1,2-dihydroxybenzene-3, 5-disulfonate. Ind. Eng. Chem. 1944,16, 111-115]により判定した。
【0145】
結果
【0146】
上述の多層ポリマー被覆磁性ナノ粒子のためにHGMSを効率的に用いることができるかを判定するために、結合等温式(binding isotherm)のアセスメントを行った。非結合濃度の関数としての結合タンパク質の割合を図5aに示すが、最大受容能は磁性流体1g当たり1640mgであった。粒子密度1.3g/mlでは、これは支持体の840mg/mlに等しいが、この値は多孔性支持体の最大結合受容能(約150mg/mL)よりもかなり高い。受容能は、図5bに示されるように、静電相互作用に対して期待されるように、I0.5で線形に減少する。0.5NaClでのタンパク質の溶離は、図5cに示すようにほぼ定量的である。
【0147】
多層ポリマー被覆磁性ナノ粒子が効率的なHGMS捕捉をもたらすことを判定するために、生成した磁性流体の多くにHGMS濾過を行った。ポリマー架橋によって付着される粒子とコアからコアへの接触(core-to-core contact)によって形成されるクラスタ両方に対して粒子の捕捉を粒子サイズの関数として図5dに示す。コアからコアへの接触によって形成されるときには約60nm以上のクラスタに対して捕捉はほぼ完全であることが図5dから分かる。
【0148】
流体が再使用可能であり得るかどうか、即ち完全なHGMS捕捉及び再懸濁安定性が達成され得ることを判定することも興味深い。タンパク質は多価イオンのように作用し、従って高塩濃度のようにコロイドを凝集する傾向があるので、粒子が再使用のために十分に安定したものであるように高臨界凝固濃度が必要とされる。図5eは、より多くの2次ポリマーが加えられるとき、タンパク質の吸着/脱着サイクル1サイクル後に再使用のために利用可能である粒子の割合を示す。現行システムにおいて検査した全ての組合せの中では18%の再使用が最大であった。その一方で、十分な第2のポリマーが加えられたときには全部の再使用が可能であった。
【0149】
例5:
【0150】
発現タンパク質の精製
【0151】
清澄化されていない(unclarified)発酵ブロスからのタンパク質の回収は、図6に概略を示したような手順によって達成されることができる。上記した実施形態のいずれかに従って多層ポリマー被覆磁性ナノ粒子を生成することができ、磁性ナノクラスタを発酵ブロスに直接加えることができる。この発酵ブロスでは所望のタンパク質が吸着される。その後、溶液を高勾配磁気分離(HGMS)装置に通過させ、所望のタンパク質と共に磁性クラスタを捕捉する。
【0152】
例6:
【0153】
全細胞ブロスからのタンパク質精製
【0154】
全細胞ブロス(whole cell broth)からのタンパク質回収が磁性ナノクラスタにより達成され得るかを判定するために、ドロソマイシン(drosomycin)を発現するピキア・パストリス(Pichia Pastoris)細胞を30℃でBMGY培地(酵母抽出物1%、ペプトン2%、酵母窒素ベース1.34%、ビオチン4×10−5%、グリセロール1%、リン酸カルシウム100mM、pH5.0)を入れた振盪フラスコ内で16時間インキュベートした。20%以上の溶存酸素含量を維持するために純酸素を補充した空気流量1vvmの155を用いて30℃で発酵を行った。水酸化アンモニウム(30%w/v)によりpHを5に維持した。撹拌は、過剰な発泡が観察されない最大速度、典型的には500rpmで行った。
【0155】
発酵ブロスをエッペンドルフ(Eppendorf)5810R遠心分離機において4000rpmで30分間遠心し、細胞を除去した。清澄化されたブロスを再希釈し、細胞体積に因る体積損失を補った。その後、10MHClによりブロスのpHを典型的には3の値に調整した。4mLの発酵ブロスを、多様なマグネタイト含量を持つ1mLの磁性流体と混合した。その後、混合物にHGMSカラムを通過させ、そこで非結合割合を捕集した。磁石をオンにしたまま、1カラム体積の50mMのリン酸緩衝液(pH=3)によりカラムを洗浄した。その後、磁石をオフにし、所望の溶出緩衝液によりナノクラスタを溶離させた。このナノクラスタを再びHGMSにより捕捉し、溶離したタンパク質を捕集した。
【0156】
ナノクラスタは、発現タンパク質即ちドロソマイシンに結合するよりも強く細胞に結合したが(図7a)、このことは細胞分離のために様々な用途を提供する。これに関連して、全細胞表面電荷が結合において役割を果たしたかどうかを判定するためにアニオン性及びカチオン性ナノクラスタの両方を検査した。アニオン性ナノクラスタを使用すると、結合はより強くなった。従って、異種細胞表面電荷は、両電荷のナノクラスタが結合することを可能にする。
【0157】
結合機構を描写するために、細胞及びナノクラスタのゼータ電位を測定した。図7bは、細胞及びナノクラスタは共に、全ての観察された適切なpH値で全負電荷であったことを示す。このことは、結合が全細胞電荷ではなく局部的な正電荷に起因するものであったことを示している。酵母細胞表面は、多糖、タンパク質及びリン脂質の複合体混合物であり、十中八九はタンパク質である正電荷基を細胞表面上に有する。タンパク質の電荷はpHへの依存度が高いので、細胞へのナノクラスタの結合はpHの強関数であると期待される。「平均的タンパク質」の電荷対pHを図8aに示すが、これは、ドロソマイシンと同じサイズのタンパク質であるが大腸菌中のアミノ酸の全存在量に等しいアミノ酸成分を有すると仮定している(Lehninger, A. L., Biochemstry. 2nd edition ed. 1975, New York: Worth Publishers)。曲線は、理論上のものであり、アミノ酸残基は単離されたアミノ酸と同じpKa値を有すると仮定して得られた。ドロソマイシンは、平均的なタンパク質の電荷と著しく異なる電荷を有するわけではないので、細胞表面タンパク質を含む他のタンパク質を結合することなく結合するのが難しい標的であることに留意されたい。リゾチームなどの強カチオン性タンパク質は、著しく異なる電荷対pHの挙動を示す。
【0158】
細胞へのナノクラスタの結合は、強いpH依存性を示した。このことは、ナノクラスタに結合した荷電基が十中八九タンパク質であったことを示している。結合のpH依存性は、図8bに示すように、ドロソマイシン及び「平均的タンパク質」の電荷を反映する。
【0159】
細胞を全ての細胞外タンパク質から遠心分離によって単離し、タンパク質不含緩衝液中での再懸濁の前にpH10のカーボネート緩衝液で数回洗浄することにより、クラスタ形成の原因が架橋剤として働くような結合したドロソマイシンである可能性をなくした。これらの条件下では、ナノクラスタは尚も低pHでは強く、高pHでは弱く細胞に結合する。このことは、結合タンパク質が細胞表面の一部であったことを示している。
【0160】
ナノクラスタ架橋が細胞−ナノクラスタ結合の支配的機構でないことを更に検証するために、発酵ブロスにリゾチーム及びチトクロームCを加えた。これらのタンパク質のいずれか、特にリゾチームが存在していたとき、高pH値でのタンパク質媒介架橋(protein mediated crosslinking)に因り、ナノクラスタは尚も可逆的に凝塊形成した。しかしながら、吸着タンパク質が存在するようなより高pHでは、ナノクラスタは図8cに示すように細胞に結合せず、それどころか吸着タンパク質が存在するときにはナノクラスタに結合する細胞の割合が僅かに減少する。細胞へのナノクラスタの結合の支配的機構は、ドロソマイシンと同じ条件下で結合するピキア・パストリスの表面タンパク質によるものであるようである。
【0161】
ナノクラスタ−細胞結合はタンパク質結合の結果であったので、ドロソマイシンに対する結合の特異性を向上させるために幾つかの試みを行った。最初の試みは、疎水性相互作用を低下させるために、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、トウィーン20、プルロニックF‐68などの界面活性剤を用いることであった。結果は表6にまとめたが、界面活性剤を加えることは細胞−ナノ粒子結合を減らす効果的な方法ではないことが分かった。極性有機化合物を用い、他の磁性流体合成経路によりタンパク質吸着を立体的に邪魔する(立体障害)などの幾つかの他の試みを試みたが、細胞表面タンパク質は、アセスメントを行った条件下ではドロソマイシンよりも強く結合することが分かった。
【表6】

【0162】
例7
【0163】
ナノクラスタ−細胞結合のためのモデル
【0164】
例6は細胞表面タンパク質がナノ粒子−細胞結合に関与することを示したが、全細胞電荷が負であるときには小さな局部的な正電荷のパッチが結合のために十分である可能性があることはさらに驚くべきことである。酵母細胞は通常はカチオン交換樹脂に結合しないが、哺乳類細胞が低pHで負電荷のクロマトグラフィ支持体に結合することが報告されている。ナノクラスタの結合増加の最も可能性の高い理由は、クロマトグラフィ支持体よりナノクラスタの曲率がずっと大きいことであった。以下に概説しかつ図9に概略的に示すように、異なる直径の荷電球体間の静電相互作用に基づき、この相互作用のための単純なモデルを考案した。
【0165】
異なる直径の荷電球体間の相互作用は、クラスタ群と単一のナノクラスタ間の相互作用に対してホッグら(Hogg et al.)によって与えられた式(Trans. Faraday Soc. 1966,62: 1638)により表すことができる。

ここで、sは粒子間の表面分離距離、Ψは単離した粒子の表面電位であって近似的には粒子のゼータ電位、κはデバイ長の逆数、εは誘電率、εは自由空間の誘電率、R1及びR2は相互作用する粒子の直径である。式7−1をよく見ると、静電位はより小さな粒子に支配されている。
【0166】
例えばR1>>R2であれば、括弧内の項については

である。
【0167】
タンパク質が直径4nmの球体であり、ナノクラスタが半径50nmの球体であり、細胞が5μmの直径を有し、タンパク質の表面が細胞表面から2nm突出すると仮定すれば、相互作用エネルギーを計算することができる。細胞及びナノ粒子の電荷(Ψ)を−30mVと仮定する。一方で、タンパク質は30mVの電荷を有する。イオン強度を0.4と仮定し、全電位(total potential)を、簡単に、ナノクラスタと単離タンパク質の電位に加えられたナノクラスタと単離細胞の相互作用であると仮定する。
【0168】
この単純なモデルの結果を図10に示す。細胞及びタンパク質のナノクラスタとの相互作用エネルギーは引力的であり、結合が期待される。ナノ粒子の直径が典型的なクロマトグラフィ支持体の直径100μmに置き換えられると、相互作用は強い斥力相互作用になる。ナノクラスタもクロマトグラフィ・ビーズもタンパク質より大きく、引力はタンパク質の半径に対応するので、タンパク質とナノクラスタ間、タンパク質とクロマトグラフィ・ビーズ間の引力相互作用は本質的に同じである。しかし、細胞とナノクラスタ間の斥力はナノクラスタ半径に対応し、細胞とクロマトグラフィ支持体間の反発力(細胞直径に対応する)よりもずっと小さい。
【0169】
この単純なモデルの結果は、ナノクラスタのサイズが小さく発酵ブロスのイオン強度が高いために、ナノクラスタは遊離のタンパク質に引きつけられるのと同じくらい強力に細胞表面タンパク質に引きつけられることになることを示している。調べた条件下では、細胞表面タンパク質を引きつけない状態で、標的にされたタンパク質を捕捉することができる場合にかぎり、全細胞ブロスにおいて分離を行うことができる。
【0170】
ドロソマイシンなど強カチオン性ではないタンパク質を他の細胞外タンパク質から精製すること(多くのタンパク質を結合し、ドロソマイシンを選択的に溶離すること)は、細胞表面タンパク質も結合されるのであるから、調べた条件下では全細胞ブロスにおいて効果的であることはないであろう。この発見は、分離をデザインするための根拠を与え、一段階精製の場合に粒子と所望のタンパク質間の非常に特異的な相互作用が存在するに違いないことを示す。疎水性が低く、ドロソマイシンの電荷対pHがほぼ平均的であるので、ドロソマイシンと、ドロソマイシンのみが他の表面修飾なしに疎水性荷電表面に結合される何らかの状態が存在するとは考えにくい。しかし、ある種のタンパク質は、平均的挙動からかなり大きく外れ、これらの未修飾のナノクラスタにより一段階で全細胞ブロスから分離されることができる。
【0171】
200μg/mLのリゾチームを含むpH7に調整されたピキア・パストリス・ブロスについても同様にアセスメントを行った。磁性ナノクラスタ(0.4wt%)をブロスに加え、標準的な分離処理を実行した。供給原料中のリゾチーム活性及び非結合割合を測定したところ、リゾチームの結合率が25%であることを示した。リゾチームを0.2MのMgCl2で溶離したところ、元のリゾチーム活性の19%が回復された。1カラム体積の洗浄緩衝液を加えたときにHGMSカラムに細胞の約4%しか保持されなかったが、このことは、実際に、一段階で全細胞ブロスから比較的純粋な成分としてタンパク質を回収できることを示している。
【0172】
例8
【0173】
磁性ナノクラスタによるウイルスクリアランス
【0174】
例7において、全細胞電荷がナノクラスタをはねつける状態でもナノクラスタが細胞に結合することが分かった。細胞表面上の突出したタンパク質とナノクラスタ間の相互作用エネルギーに基づく単純なモデルを創り出した。そして、より大きなミクロンサイズのクロマトグラフィ・ビーズが結合しない状態でもナノクラスタは細胞に結合することが示された。これは全細胞ブロスにおけるタンパク質分離にとっては芳しくない結果であるが、ナノクラスタをはねつける全電荷と実体(entity)を結合する場合には有用であることが示されるかもしれない。ここでは、ナノクラスタと、伝統的なクロマトグラフィ・ビーズの両方に対して、ウイルス表面上でのタンパク質結合によるウイルス除去の例を調べる。
【0175】
例7のモデルとは違って、ここでの目標はナノクラスタに結合したウイルス粒子の割合を定量的に予想することであった。例7のように総エネルギーを計算するよりもむしろ、既知の遊離タンパク質平衡結合を、ナノクラスタが同じ電荷のウイルス表面に及ぼす静電反発力に変更する。
【0176】
反発エネルギーは
【数1】

である。ここで、sは粒子間の表面分離距離、Ψは単離した粒子の表面電位であって近似的には粒子のゼータ電位、κはデバイ長の逆数、εは誘電率、εは自由空間の誘電率、Rはウイルスの直径、Rはクラスタの直径である。この反発エネルギーを用いて、sをタンパク質の半径に等しい値に設定することによって遊離のタンパク質及び表面上のタンパク質に対する粒子の相対親和性を求めることができる。
【0177】
タンパク質結合に対する全体的な反応は、
【数2】

である。ここで、Pはタンパク質、Iは交換されたイオン、zは交換されたイオンの数であり、添字sは溶液中のタンパク質またはイオンを表し、添字bは結合種を表す。遊離のタンパク質(ウイルス表面上にない)に対する平衡定数は、従って
【数3】

であり、結合タンパク質と遊離タンパク質の比は、
【数4】

である。
【0178】
残りの分析のために、結合がイオン濃度を有意に変えることがないように結合タンパク質によって覆われるナノクラスタ表面の割合は十分に小さく、イオン強度は高いと仮定する。ゆえに、結合タンパク質と遊離のタンパク質の比は平衡定数に比例する。
【0179】
ウイルスタンパク質とナノクラスタのための結合の自由エネルギーが単に、遊離のタンパク質とナノクラスタ+静電相互作用の結合の自由エネルギーであると仮定すると、同じ条件下で結合した遊離のタンパク質の割合から結合したウイルスタンパク質の割合を推定することが可能である。
【数5】

【0180】
ウイルス表面上のタンパク質に対する平衡定数は、
【数6】

である。ここで、uは式1から得られる。平衡定数の比、ひいては遊離のタンパク質と比べたウイルス上の結合/遊離タンパク質の比は、
【数7】

である。
【0181】
低ナノクラスタ被覆率での遊離のタンパク質(mg/mL)対結合タンパク質(mg/g粒子)の比は、ドロソマイシンとチトクロームCの結合等温式からそれぞれ0.2及び0.4のイオン強度で0.83及び0.15であることが知られている。環境のイオン強度は0.3Mであると仮定する。平衡定数がI0.5の一次関数であると仮定すると、溶液中の結合タンパク質対非結合タンパク質の比は0.45である。
【0182】
ウイルスは表面上に多くのタンパク質を有するがウイルスに結合する必要があるナノクラスタは1つしかないので、ナノクラスタが結合されていないウイルスの割合は
【数8】

である。
【0183】
従って、ウイルスクリアランスを対数減少で表すと、
【数9】

となる。
【0184】
これらのモデルを用いて、自由溶液からのタンパク質の吸着に対する既知の平衡及び単純な静電モデルから対数減少を計算することができる。
【0185】
ウイルスとナノクラスタ間の結合をモデリングする第一歩は、幾つかの重要なパラメータを推定することである。基本ケースとして、ウイルスの直径を100nmに設定し、タンパク質の直径を4nmに、タンパク質である表面の割合を2%に、磁性ナノクラスタ濃度を0.1wt%に、ナノクラスタサイズ20、50、及び100nmでのイオン強度を0.3Mに、クロマトグラフィ・ビーズのサイズを100μmに設定した。その後、これらのパラメータを全てこの基本ケースのものと違うものにした。全てのケースにおいて、ウイルス、ナノクラスタ及びクロマトグラフィ・ビーズは−30mVのゼータ電位を有する。
【0186】
この分析は主にナノクラスタ結合が伝統的なクロマトグラフィより好ましいかどうかを調べるためのものであるので、調査した第1の変数は、図11に示されるように粒子直径であった。タンパク質結合は粒子サイズに影響されないが、静電反発力は粒子サイズの増大につれて大きくなるので、ナノ粒子が小さければ対数減少はかなり大きい。調査したサイズでより小さなものは20nmであったが、これは単一のナノ粒子を表す。20nmのマグネタイト粒子はHGMSにより捕捉されることができないが、本発明の他の実施形態において、単一のナノ粒子として捕捉されることができるようなコバルト−フェライトまたは鉄で構成されるナノ粒子を用いることが可能である。
【0187】
ウイルスのサイズはかなり変わる可能性があるので、ウイルスサイズの効果も図12に示すように形に表した。ウイルスサイズが増大するにつれて表面上のタンパク質の合計数が増加し、これが式8中のnと、ウイルスクリアランスを増加させた。しかし、クロマトグラフィ・ビーズを用いたときには静電反発力はウイルスのサイズにおおよそ比例し、ウイルスサイズが増大するにつれて平衡定数は低下した。クロマトグラフィ・ビーズを用いたところ、ウイルスサイズにトレードオフがあり、最大ウイルスクリアランスが約70nmで検出された。ナノクラスタはウイルスとほぼ同じサイズであった。ウイルスサイズを増大させても静電反発力を大幅には増加させず、ウイルスが大きければより容易に排除することができる。
【0188】
磁性ナノクラスタ濃度が増加するにつれて結合タンパク質の割合が増加し、そのことがウイルス結合を増加させる。ウイルスクリアランスが増加と、結合した遊離のタンパク質の量も増加するので、トレードオフが期待される。全ての計算は、ナノクラスタ上の結合部位が総結合タンパク質よりずっと高いと仮定して行った。高い遊離タンパク質濃度が存在するときには、この概算は破綻を来すことになり、高被覆率での結合を計算することが必要になる。しかしながら、磁性ナノ粒子濃度が大きくなるにつれてより多くのタンパク質とウイルスが結合するという基本原則は概ねあてはまる(図13)。
【0189】
前述の計算は、カラムクロマトグラフィがうまくいかない状況で磁性ナノクラスタによって実際にウイルスが結合されることができることを示した。
【0190】
しかしながら、ナノクラスタ結合ウイルスは、他のタンパク質とともにある。必要なものは、遊離タンパク質を結合することなくウイルスを結合する手段、または両者を結合するが遊離タンパク質を優先的に溶離する手段である。
【0191】
しかしながら、ウイルス結合のイオン強度依存性を計算するときには、純粋イオン結合が想定される(即ち疎水性相互作用がない)ときでさえも、ウイルスの結合はイオン強度の増加につれて増加するが、結合した遊離タンパク質の割合は劇的に低下する。これは、イオン強度の増加によって低下する静電反発力に起因する。
【0192】
よって、0.3Mのイオン強度では100nmのウイルスの99.9%以上が50nmのナノクラスタに結合されるが、ナノクラスタとの複数の相互作用のために遊離のタンパク質の30%以下が結合される。従って、0.3Mで結合が行われれば、タンパク質の70%は非結合であるがウイルスを3対数減少させることができる。0.3MのNaClによりナノクラスタを繰り返し溶離すると、ウイルスの0.1%のみが失われることになるがタンパク質の70%は回収されることになり、そのような溶離が数回行われた後では、ほぼ全てのウイルスは捕捉されることになるがほぼ全てのタンパク質は溶離されることになる(図14)。
【0193】
図15及び16に示すように、他の推定されたパラメータの効果が果たされた。タンパク質である表面の割合が増加するにつれて、ウイルスクリアランスが増加する。表面上のタンパク質が一定の表面被覆率(fractional surface coverage)で大きくなるにつれて、タンパク質は表面から更に突出し、従って静電反発力は低下するが、合計数は減少し、クリアランスは低下する。
【0194】
モデルの結果に基づけば、分離方法の一実施形態は以下のとおりであることがある。
1.タンパク質とウイルスの混合物に磁性ナノクラスタを加える
2.溶液にHGMSを通過させる
3.タンパク質が溶離しなくなるまで高イオン強度(約0.3M NaCl)の溶液によってカラムを洗浄する
4.高pH、低イオン強度の溶液によってナノクラスタを溶離し、ウイルスを除去する
【0195】
この分離方法の一実施形態においては、タンパク質とナノクラスタ間に疎水性相互作用がないので、高イオン強度緩衝液がタンパク質を溶離する。ナノ粒子は、この態様によれば、疎水性領域を有しないポリマーから作られる。このようにして、例えば、ビニルスルホン酸/アクリル酸のコポリマーが用いられることがあり、PEO殻はPPOを有しないことになる。
【図面の簡単な説明】
【0196】
【図1】図1は、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ合成の方法を概略的に示す。ポリマーの存在下で塩基によって鉄イオンを沈降させ、ナノクラスタを形成する。クラスタを安定化するために第2のポリマーを加える。
【図2a】ポリマー1の一実施形態の合成を示す。モノマーは、超常磁性粒子(この場合はマグネタイト)をそのカルボン酸官能基に付着するアニオン性ポリマーを形成するために重合されるフリーラジカルである。
【図2b】ポリマー2の一実施形態の合成を示す。モノマーは、超常磁性粒子(この場合はマグネタイト)をそのカルボン酸官能基に付着するアニオン性ポリマーを形成するために重合されるフリーラジカルである。
【図2c】ポリマー3の合成の一実施形態を示す。ここでは、アミド化反応によりアミノ端PEO及びPPO側鎖をPAA主鎖に付着させることによってグラフトコポリマーが合成される。COOH基の大部分は、次に行われるマグネタイト・ナノ粒子への付着のために未反応のまま残される。
【図3】図3は、ポリマー1の量を制限することによって達成される粒子サイズ制御を示す。ポリマー1の量が十分に少ないとき、ポリマー1中のカルボキシル基対溶液中のマグネタイト粒子中の鉄イオンのモル比の関数として粒子直径をプロットすることによって証明されるように、効率的なHGMS捕捉のために十分大きな(>50nm)クラスタが形成される。
【図4】図4は、粒子サイズ制御がポリマー2の分子サイズの関数であり得ることを示している。ポリアクリル酸2次ポリマーの分子サイズ対粒子サイズをプロットすると、種々のサイズの凝集体の形成が実証される。その上に架橋が生じるような粒子サイズの最小の変化が15kDa以下のポリマー2分子量で見られた。
【図5a】図5は、多層ポリマー被覆磁性ナノ粒子に吸着されるタンパク質のためにHGMSを用いるタンパク質精製を示す。図5aは、磁性ナノクラスタ上のチトクロームCに対する結合等温式(25℃ pH=7)である。NaClを加えて幾つかのイオン強度で結合を行った。
【図5b】磁性ナノクラスタに対する最大結合受容能をイオン強度の関数として示す。
【図5c】0.5MのNaClによる結合タンパク質の溶離を示す。タンパク質のほぼ定量的な回収は、0.5MのNaClにより得られる。
【図5d】HGMSによるナノクラスタの捕捉率を粒子サイズの関数として示す。十分な捕捉のために約40nm以上のクラスタが必要である。
【図5e】結合/捕捉/脱着サイクル1サイクル後に安定しているままである磁性ナノクラスタのパーセンテージを示す。再使用のために十分な安定性を与えるために、2次ポリマーを加えることが必要である。
【図6】図6は、清澄化されていない発酵ブロスからのタンパク質の回収のための方法を概略的に示す。磁性ナノクラスタは発酵ブロスに直接加えられるが、この発酵ブロスでは所望のタンパク質が吸着される。その後、溶液を高勾配磁気分離(HGMS)装置に通過させ、所望のタンパク質と共に磁性クラスタを捕捉する。
【図7a】図7は、発酵ブロス中のナノクラスタに結合する細胞を示す。図7aは、発酵ブロス中の磁性ナノクラスタへの細胞及びドロソマイシンの結合を示すグラフである。pH=3では、ナノクラスタはドロソマイシンに結合するよりもずっと強力に細胞に結合し、清澄化されていないブロス中で使用できないようにされる。正電荷のナノクラスタは、負電荷のナノクラスタよりも一層強く細胞に結合する。
【図7b】発酵ブロス中のナノクラスタ及び細胞のゼータ電位をグラフで示す。ナノクラスタ及び細胞は共に、結合のために検査した全てのpH値で全負電荷である。このことは、結合が表面上の正電荷のパッチに起因することを示している。
【図8a】図8は、磁性ナノクラスタに結合する細胞のpH効果を示す。図8aは、タンパク質の電荷対pHを示すグラフである。アミノ酸配列に基づき、ドロソマイシン及び平均的タンパク質(大腸菌中の全アミノ酸存在量に等しい全てのアミノ酸成分を有する [Lehninger, A. L., Biochemistry. 2nd edition ed. 1975, New York: Worth Publishers])に対する電荷は似ており、細胞結合とよく合う。
【図8b】発酵ブロス中の磁性ナノクラスタ(0.12wt%)への細胞の結合をpHの関数として示す。ナノクラスタは、低pHでは細胞に強く結合し、高pHでは辛うじて弱く結合するが、これは表面上のタンパク質が結合に関与することを示している。表面から全てのタンパク質を脱着するために細胞をpH=10で3回洗浄した後、結合は尚も発生する。このことは、タンパク質が細胞壁の一部であり、表面上で吸着されるドロソマイシンではないことを示している。
【図8c】磁性ナノクラスタに結合した細胞であって他の高pIタンパク質を加えたものをpHの関数として示す。リゾチームまたはチトクロームCを加えるとき、細胞結合は本質的に不変であり、たとえpH>6であっても磁性ナノクラスタはリゾチームを加えると可逆的に凝結するがリゾチームなしではそうはならない。このことは、結合がフロック(floc)中の物理的捕獲ではないことと、吸着されたタンパク質が細胞結合に関与しないことを示している。
【図9】図9は、表面上にタンパク質を有する酵母細胞とナノクラスタ間の相互作用エネルギーのモデルを概略的に示す。これらは全て球体であり、タンパク質の半分が酵母表面から出ているので酵母細胞よりも粒子に近いと仮定する。高いイオン強度及びナノクラスタの曲率に因り、全体的な相互作用は、たとえ酵母表面と粒子が同じ電荷であっても引力相互作用である可能性がある。
【図10】図10は、式6‐1及び図9のモデルの結果を示すグラフである。タンパク質が4nm、クラスタが50nm、細胞が5mmで、イオン強度が0.4のとき、細胞ナノクラスタの相互作用は引力相互作用である。電荷が同じ100mmのクロマトグラフィ・ビーズをナノクラスタの代わりに置くと、ビーズの曲率が小さくなり、細胞表面との相互作用が強くなるので、相互作用は斥力相互作用である。
【図11】図11は、100nm及び50nmのウイルスに対してウイルスの対数減少の計算値をクラスタサイズの関数として示すグラフである。クラスタが小さければ小さいほど、ウイルス表面との静電反発力が小さいので、ウイルスに対する親和性が高くなる。
【図12】図12は、対数減少に対するウイルスサイズの影響を示すグラフである。ウイルスが大きければ大きいほど、結合されるタンパク質部位は大きく、従ってナノクラスタ結合を有する可能性が高くなる。一方で、クロマトグラフィ・ビーズが大きければ大きいほど、より大きなウイルス粒子との静電反発力が強くなり、約70nmで最大クリアランスに到達する。
【図13】図13は、結合が線形応答を示す領域(linear regime)にあるという仮定の下で、ウイルスクリアランスに対する磁性ナノクラスタ濃度の影響を示すグラフである。ナノクラスタ濃度が低下するにつれて、結合したウイルスの割合が増大する。
【図14】図14は、ウイルス結合に対するイオン強度の影響を示すグラフである。イオン強度が増すにつれて、タンパク質結合親和性が低下するが、静電反発力もまた低下する。よって、より高いイオン強度では、ほとんどのタンパク質は結合しないことになるが、ほとんどのウイルスは多点相互作用のために結合することになる。結合したナノ粒子を高イオン強度緩衝液により洗浄すると、ウイルスを保持しつつ結合タンパク質を溶離することになる。
【図15】図15は、ウイルスクリアランスをタンパク質表面密度の関数として示している。表面に存在するタンパク質が多ければ、結合したウイルス粒子の割合が増大する。
【図16】図16は、ウイルスクリアランスに対するタンパク質サイズの効果を示すグラフである。表面上のタンパク質が大きくなるにつれて、特に大きな粒子に対して、静電反発力が低下する。表面上のタンパク質の総数も減少して、全体的な結合を減少させる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタであって、
(a)超常磁性コア粒子と、
(b)キレート基を含み、前記超常磁性コア粒子に付着され、前記超常磁性コア粒子に付着することにより、コロイド状に安定ではない第1のポリマー−超常磁性コア粒子複合体を形成し、前記超常磁性コア粒子のクラスタ形成をもたらすような第1のポリマーと、
(c)前記第1のポリマーが付着している複合体に付着され、前記複合体にに付着することにより、当該多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを安定化するような第2のポリマーとを含むことを特徴とする多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項2】
前記超常磁性コア粒子が、マグネタイトを含むことを特徴とする請求項1に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項3】
前記キレート基が、鉄キレート基であることを特徴とする請求項1に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項4】
前記鉄キレート基が、遊離カルボン酸であることを特徴とする請求項3に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項5】
前記ナノクラスタが35〜200nmのサイズであることを特徴とする請求項1に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項6】
前記ナノクラスタサイズが、前記第1のポリマー中の前記キレート基と前記マグネタイト・コア粒子中の鉄原子の比の関数であることを特徴とする請求項1に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項7】
前記比が0.1〜0.6であることを特徴とする請求項6に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項8】
前記ナノクラスタサイズが、第1のポリマーの量を制限することにより制御されることを特徴とする請求項1に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項9】
前記第1のポリマーが、アクリル酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアクリル酸、またはこれらの任意の組合せを含むことを特徴とする請求項1に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項10】
前記第1のポリマーが、アクリル酸、スチレンスルホン酸、及びビニルスルホン酸を含むことを特徴とする請求項1に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項11】
前記ビニルスルホン酸の濃度が25〜50%であることを特徴とする請求項10に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項12】
前記スチレンスルホン酸の濃度が25〜75%であることを特徴とする請求項10に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項13】
前記アクリル酸の濃度が約25%であることを特徴とする請求項10に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項14】
前記アクリル酸濃度対鉄原子濃度の比が0.1〜0.6であることを特徴とする請求項10に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項15】
前記アクリル酸濃度対鉄原子濃度の比が0.2であることを特徴とする請求項10に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項16】
前記第1のポリマーが、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドまたはアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド及びアクリル酸を含むことを特徴とする請求項1に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項17】
前記ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドまたはアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリドの濃度が25〜90%であることを特徴とする請求項16に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項18】
前記ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドまたはアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリドの濃度が70〜80%であることを特徴とする請求項16に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項19】
前記アクリル酸の濃度が約75%であることを特徴とする請求項16に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項20】
前記アクリル酸濃度対鉄原子濃度の比が0.1〜0.6であることを特徴とする請求項16に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項21】
前記アクリル酸濃度対鉄原子濃度の比が0.2であることを特徴とする請求項16に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項22】
前記第1のポリマーが、ポリアクリル酸にグラフトされたポリエチレンオキサイド及びポリプロピレンオキサイドを含むコポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項23】
前記ポリエチレンオキサイドが8〜16%の濃度でグラフトされることを特徴とする請求項22に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項24】
前記ポリエチレンオキサイドが0〜8%の濃度でグラフトされることを特徴とする請求項22に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項25】
前記ポリアクリル酸が5000の分子量を有することを特徴とする請求項22に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項26】
前記ポリマーの濃度が、マグネタイト1グラム当たりポリマー0.25〜1.25グラムであることを特徴とする請求項22に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項27】
前記ポリマー濃度が、マグネタイト1グラム当たりポリマー0.25グラムの濃度にあることを特徴とする請求項22に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項28】
前記第2のポリマーが、アクリル酸、ビニルスルホン酸、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアクリル酸、またはこれらの任意の組合せを含むことを特徴とする請求項1に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項29】
前記第2のポリマーが15キロダルトン以上のサイズであることを特徴とする請求項1に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項30】
タンパク質
前記第2のポリマーがポリアクリル酸を含むことを特徴とする請求項1に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項31】
前記ポリアクリル酸が2,000〜250,000の分子量を有することを特徴とする請求項30に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項32】
前記ポリアクリル酸が5,000の分子量を有することを特徴とする請求項30に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項33】
前記ポリマーの濃度が、マグネタイト1グラム当たりポリマー0.1〜0.5グラムであることを特徴とする請求項30に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項34】
前記前記ポリマー濃度が、マグネタイト1グラム当たりポリマー0.3グラムの濃度にあることを特徴とする請求項30に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項35】
前記第2のポリマーが、アクリル酸とビニルスルホン酸のコポリマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項36】
前記アクリル酸及びビニルスルホン酸の濃度が25〜50%であることを特徴とする請求項35に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項37】
前記アクリル酸及びビニルスルホン酸の濃度が約25%であることを特徴とする請求項35に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項38】
前記ポリマー濃度が、マグネタイト1グラム当たりポリマー0.1〜0.5グラムの濃度にあることを特徴とする請求項35に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項39】
前記ポリマー濃度が、マグネタイト1グラム当たりポリマー0.4グラムの濃度にあることを特徴とする請求項35に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項40】
前記第2のポリマーが、前記コア粒子の周囲に立体的なシェルを作ることによって前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを安定化することを特徴とする請求項1に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項41】
前記第2のポリマーが、前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに電荷を供給することによって前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを安定化することを特徴とする請求項1に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項42】
前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタが、高イオン強度の溶液中で安定していることを特徴とする請求項1に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項43】
前記第1のポリマーが、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸及びアクリル酸を含み、前記第2のポリマーが、ポリアクリル酸にグラフトされたポリエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド、またはポリアクリル酸、またはアクリル酸及びビニルスルホン酸を含むことを特徴とする請求項1に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項44】
前記第1のポリマーが、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドまたはアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド及びアクリル酸を含み、前記第2のポリマーが、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドまたはアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド及びアクリル酸を含むことを特徴とする請求項1に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項45】
前記第1のポリマーが、ポリアクリル酸にグラフトされたポリエチレンオキサイド及びポリプロピレンオキサイドを含み、前記第2のポリマーが、ポリアクリル酸にグラフトされたポリエチレンオキサイド及びポリプロピレンオキサイド、またはポリアクリル酸、またはアクリル酸及びビニルスルホン酸を含むことを特徴とする請求項1に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項46】
標的部分を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項47】
前記標的部分が、抗体、抗体フラグメント、レセプタ、タンパク質A、タンパク質G、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、金属イオンキレート、酵素補助因子、核酸またはリガンドであることを特徴とする請求項46に記載の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ。
【請求項48】
請求項1の多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを含む溶液。
【請求項49】
前記溶液が水溶液であることを特徴とする請求項48に記載の溶液。
【請求項50】
前記溶液が高イオン強度溶液であることを特徴とする請求項48に記載の溶液。
【請求項51】
多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを生成するための方法であって、
(i)水溶液中でキレータを含む第1のポリマーに超常磁性コア粒子を接触させ、前記超常磁性コア粒子への第1のポリマー付着により、第1のポリマー−超常磁性コア粒子複合体における不安定性及び前記超常磁性コア粒子のクラスタ形成をもたらす過程と、
(ii)(i)に於ける溶液を第2のポリマーに接触させ、前記第2のポリマーが、多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを形成するポリマー−マグネタイト粒子複合体を安定化するようにする過程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項52】
前記超常磁性コア粒子がマグネタイトを含むことを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタの溶液が更に濃縮されることを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項54】
前記溶液を濃縮する過程が、前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタの沈降を含むことを特徴とする請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記キレート基が鉄キレート基であることを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項56】
前記鉄キレート基が遊離カルボン酸であることを特徴とする請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記ナノクラスタが25〜200nmのサイズであることを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項58】
前記ナノクラスタのサイズが、前記第1のポリマー中の前記キレート基と前記マグネタイト・コア粒子中の鉄原子の比を制御することによって制御されることを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項59】
前記ナノクラスタのサイズが、第1のポリマーの量を制限することによって制御されることを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項60】
前記第1のポリマーが、アクリル酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアクリル酸、またはこれらの任意の組合せを含むことを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項61】
前記第1のポリマーが、アクリル酸、スチレンスルホン酸及びビニルスルホン酸を含むことを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項62】
前記ビニルスルホン酸の濃度が25〜50%であることを特徴とする請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記スチレンスルホン酸の濃度が25〜75%であることを特徴とする請求項61に記載の方法。
【請求項64】
前記アクリル酸の濃度が約25%であることを特徴とする請求項61に記載の方法。
【請求項65】
前記アクリル酸濃度対鉄原子濃度の比が0.1〜0.6であることを特徴とする請求項61に記載の方法。
【請求項66】
前記アクリル酸濃度対鉄原子濃度の比が0.2であることを特徴とする請求項61に記載の方法。
【請求項67】
前記第1のポリマーが、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドまたはアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド及びアクリル酸を含むことを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項68】
前記ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドまたはアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリドの濃度が25〜90%であることを特徴とする請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドまたはアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリドの濃度が70〜80%であることを特徴とする請求項67に記載の方法。
【請求項70】
前記アクリル酸の濃度が約75%であることを特徴とする請求項67に記載の方法。
【請求項71】
前記アクリル酸濃度対鉄原子濃度の比が0.1〜0.6であることを特徴とする請求項67に記載の方法。
【請求項72】
前記アクリル酸濃度対鉄原子濃度の比が0.2であることを特徴とする請求項67に記載の方法。
【請求項73】
前記第1のポリマーが、ポリアクリル酸にグラフトされたポリエチレンオキサイド及びポリプロピレンオキサイドを含むコポリマーであることを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項74】
前記ポリエチレンオキサイドが8〜16%の濃度でグラフトされることを特徴とする請求項73に記載の方法。
【請求項75】
前記ポリエチレンオキサイドが0〜8%の濃度でグラフトされることを特徴とする請求項73に記載の方法。
【請求項76】
前記ポリアクリル酸が5000の分子量を有することを特徴とする請求項73に記載の方法。
【請求項77】
前記ポリマーの濃度が、マグネタイト1グラム当たりポリマー0.25〜1.25グラムであることを特徴とする請求項73に記載の方法。
【請求項78】
前記ポリマー濃度が、マグネタイト1グラム当たりポリマー0.25グラムの濃度にあることを特徴とする請求項73に記載の方法。
【請求項79】
前記第2のポリマーが、アクリル酸、ビニルスルホン酸、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアクリル酸、またはこれらの任意の組合せを含むことを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項80】
前記第2のポリマーがポリアクリル酸を含むことを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項81】
前記ポリアクリル酸が2,000〜250,000の分子量を有することを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項82】
前記ポリアクリル酸が5,000の分子量を有することを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項83】
前記ポリマーの濃度が、マグネタイト1グラム当たりポリマー0.1〜0.5グラムであることを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項84】
前記ポリマー濃度が、マグネタイト1グラム当たりポリマー0.3グラムの濃度にあることを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項85】
前記第2のポリマーが、アクリル酸とビニルスルホン酸のコポリマーを含むことを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項86】
前記アクリル酸及びビニルスルホン酸の濃度が25〜50%であることを特徴とする請求項85に記載の方法。
【請求項87】
前記アクリル酸及びビニルスルホン酸の濃度が約25%であることを特徴とする請求項85に記載の方法。
【請求項88】
前記ポリマー濃度が、マグネタイト1グラム当たりポリマー0.1〜0.5グラムの濃度にあることを特徴とする請求項85に記載の方法。
【請求項89】
前記ポリマー濃度が、マグネタイト1グラム当たりポリマー0.4グラムの濃度にあることを特徴とする請求項85に記載の方法。
【請求項90】
前記第2のポリマーが、前記コア粒子の周囲に立体的なシェルを作ることによって前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを安定化することを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項91】
前記第2のポリマーが、前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに電荷を供給することによって前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタを安定化することを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項92】
前記溶液が、高イオン強度溶液であることを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項93】
前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタが、高イオン強度の溶液中で安定していることを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項94】
前記第1のポリマーが、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸及びアクリル酸を含み、前記第2のポリマーが、ポリアクリル酸にグラフトされたポリエチレンオキサイド及びポリプロピレンオキサイド、またはポリアクリル酸、またはアクリル酸及びビニルスルホン酸を含むことを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項95】
前記第1のポリマーが、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドまたはアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド及びアクリル酸を含み、前記第2のポリマーが、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドまたはアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド及びアクリル酸を含むことを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項96】
前記第1のポリマーが、ポリアクリル酸にグラフトされたポリエチレンオキサイド及びポリプロピレンオキサイドを含み、前記第2のポリマーが、ポリアクリル酸にグラフトされたポリエチレンオキサイド及びポリプロピレンオキサイド、またはポリアクリル酸、またはアクリル酸及びビニルスルホン酸を含むことを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項97】
前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに標的部分を共役させる過程を更に含むことを特徴とする請求項51に記載の方法。
【請求項98】
前記標的部分が、抗体、抗体フラグメント、レセプタ、タンパク質A、タンパク質G、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、金属イオンキレート、酵素補助因子、核酸またはリガンドであることを特徴とする請求項97に記載の方法。
【請求項99】
分離の方法であって、
(i)(a)超常磁性コア粒子と、
(b)キレート基を含み、前記超常磁性コア粒子に付着され、前記超常磁性コア粒子に付着することにより、コロイド状に安定ではない第1のポリマー−超常磁性コア粒子複合体を形成し、前記超常磁性コア粒子のクラスタ形成をもたらすような第1のポリマーと、
(c)前記第1のポリマーが付着している複合体に付着される第2のポリマーとを含み、前記第2のポリマーを前記複合体に付着させることにより安定化されるような多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに、所定の物質を含む溶液を接触させる過程と、
(ii)前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタが前記所定の物質と相互に作用して多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ‐所定物質複合体を形成するようにする状態を与える過程と、
(iii)前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ‐所定物質複合体を前記溶液の他の成分から磁気的に分離する過程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項100】
前記方法が、溶液中のサンプルから所定の生物学的物質を分離するために利用されることを特徴とする請求項99に記載の方法。
【請求項101】
前記サンプルが生物学的サンプルであることを特徴とする請求項100に記載の方法。
【請求項102】
前記生物学的サンプルが、組織ホモジネート、細胞溶解物、ブロスまたは細胞または組織培養であることを特徴とする請求項101に記載の方法。
【請求項103】
前記生物学的物質が、真核細胞、原核細胞、細胞小器官、ウイルス、タンパク質、核酸、炭水化物、リガンド、脂質、またはこれらの任意の組合せであることを特徴とする請求項100に記載の方法。
【請求項104】
前記複合体の磁気分離が、高勾配磁気分離により行われることを特徴とする請求項99に記載の方法。
【請求項105】
前記方法が、細胞によって発現されるタンパク質を前記細胞から分離するために利用されることを特徴とする請求項99に記載の方法。
【請求項106】
前記タンパク質が強カチオン性であることを特徴とする請求項105に記載の方法。
【請求項107】
前記タンパク質がリゾチームであることを特徴とする請求項106に記載の方法。
【請求項108】
前記細胞がウイルスに感染することを特徴とする請求項105に記載の方法。
【請求項109】
前記タンパク質が前記ウイルスから分離されることを特徴とする請求項108に記載の方法。
【請求項110】
前記方法が、溶液またはブロス中で行われることを特徴とする請求項105に記載の方法。
【請求項111】
前記細胞が細菌または酵母であることを特徴とする請求項105に記載の方法。
【請求項112】
前記酵母がピキア属酵母であることを特徴とする請求項111に記載の方法。
【請求項113】
分離の方法であって、
(i)(a)超常磁性コア粒子と、
(b)キレート基を含み、前記超常磁性コア粒子に付着され、前記超常磁性コア粒子に付着することにより、コロイド状に安定ではない第1のポリマー−超常磁性コア粒子複合体を形成し、前記超常磁性コア粒子のクラスタ形成をもたらすような第1のポリマーと、
(c)前記第1のポリマーが付着している複合体に付着される第2のポリマーと、
(d)前記第2のポリマーが付着している複合体に付着される標的部分とを含み、前記第2のポリマーを前記複合体に付着させることにより安定化されるような多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに、所定の物質を含む溶液を接触させる過程と、
(ii)前記標的部分が前記所定の物質と相互に作用して多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ‐所定物質複合体を形成するようにする状態を与える過程と、
(iii)前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ‐所定物質複合体を前記溶液の他の成分から磁気的に分離する過程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項114】
前記方法が、溶液中のサンプルから所定の生物学的物質を分離するために利用されることを特徴とする請求項105に記載の方法。
【請求項115】
前記サンプルが生物学的サンプルであることを特徴とする請求項106に記載の方法。
【請求項116】
前記生物学的サンプルが、組織ホモジネート、細胞溶解物、ブロスまたは細胞または組織培養であることを特徴とする請求項107に記載の方法。
【請求項117】
前記生物学的物質が、真核細胞、原核細胞、細胞小器官、ウイルス、タンパク質、核酸、炭水化物、リガンド、脂質、またはこれらの任意の組合せであることを特徴とする請求項107に記載の方法。
【請求項118】
前記標的部分が、抗体、抗体フラグメント、レセプタ、タンパク質A、タンパク質G、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、金属イオンキレート、酵素補助因子、核酸、リガンドまたはレクチンであることを特徴とする請求項105に記載の方法。
【請求項119】
前記複合体の磁気分離が、高勾配磁気分離により行われることを特徴とする請求項105に記載の方法。
【請求項120】
発現タンパク質を、前記タンパク質を発現するウイルスから分離する方法であって、
(i)所定のタンパク質を発現するウイルスを含む細胞を溶解する過程と、
(ii)(a)超常磁性コア粒子と、
(b)キレート基を含み、前記超常磁性コア粒子に付着され、前記超常磁性コア粒子に付着することにより、コロイド状に安定ではない第1のポリマー−超常磁性コア粒子複合体を形成し、前記超常磁性コア粒子のクラスタ形成をもたらすような第1のポリマーと、
(c)前記第1のポリマーが付着している複合体に付着される第2のポリマーとを含み、前記第2のポリマーを前記複合体に付着させることにより安定化されるような多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに、(i)において得られた溶解物を接触させる過程と、
(iii)前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタが前記発現タンパク質と相互に作用して多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ‐発現タンパク質複合体を形成するようにする状態を与える過程であって、前記状態が多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタ‐ウイルス複合体の形成をもたらすこともあるような該過程と、
(iv)他の成分から磁性ナノクラスタを含む複合体を磁気的に分離する過程であって、前記複合体が、発現タンパク質、ウイルス、またはこれらの混合物を前記複合体中に含むことがある該過程と、
(v)前記複合体を高イオン強度の溶液に接触させる過程と、
(vi)前記発現タンパク質を捕集する過程とを含み、
それによって、前記高イオン強度の溶液が、前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに対する前記ウイルスの結合親和性を高めるか、前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタに対する前記発現タンパク質の結合親和性を低下させるか、またはその組合せであり、
結合親和性に対する前記効果により、前記発現タンパク質の優先的な捕集が、前記タンパク質を発現するウイルスから組換え技術により発現されたタンパク質を分離する方法となることができるようにすることを特徴とする方法。
【請求項121】
前記複合体の磁気分離が、高勾配磁気分離により行われることを特徴とする請求項120に記載の方法。
【請求項122】
前記細胞が酵母または哺乳類細胞であることを特徴とする請求項120に記載の方法。
【請求項123】
前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタが20〜1000nmのサイズであることを特徴とする請求項120に記載の方法。
【請求項124】
前記高イオン強度溶液が0.1〜0.4Mの濃度であることを特徴とする請求項120に記載の方法。
【請求項125】
前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタが0.05〜0.3%の濃度にあることを特徴とする請求項120に記載の方法。
【請求項126】
前記複合体を高pH溶液に接触させる過程を更に含むことを特徴とする請求項120に記載の方法。
【請求項127】
前記溶液が低イオン強度溶液であることを特徴とする請求項126に記載の方法。
【請求項128】
前記ウイルスを捕集する過程を更に含むことを特徴とする請求項127に記載の方法。
【請求項129】
前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタが、ビニルスルホン酸とアクリル酸のコポリマーを含むことを特徴とする請求項120に記載の方法。
【請求項130】
前記多層ポリマー被覆磁性ナノクラスタがPEOを含むことを特徴とする請求項120に記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図5d】
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【図5e】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8a】
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【図8b】
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【図8c】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2007−528784(P2007−528784A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553169(P2006−553169)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/003666
【国際公開番号】WO2005/076938
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(506274073)マサチューセッツ・インスティチュート・オブ・テクノロジー (1)
【氏名又は名称原語表記】MASSACHUSETTS INSTITUTE OF TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】77 Massachusetts Ave., Room E25−342, Cambridge, MA 02139, U.S.A.
【Fターム(参考)】