説明

多層紙の製造方法

【課題】再生パルプを高配合しながら、端部の反りやカールが少なく、印刷作業性に優れる多層紙を提供する。
【解決手段】 パルプを主原料とした3層以上の多層構造で、表層と裏層との間に形成された少なくとも1つの内層に再生パルプを含有する多層紙の製造方法であって、次の(1)及び(2)の工程を含む製造方法。
(1)各層の繊維配向比がマシン全幅にわたり1.50±0.20の範囲内となるように、各層を抄造する。
(2)各層を抄き合せして、各層のCD方向の水中伸度のバラツキを、各層のCD方向の水中伸度の平均値に対しそれぞれ9.0%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生パルプを含有する多層紙に関する。特に、平判印刷用紙として好適な多層紙に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に紙は、大きく紙と板紙とに分類される。前者の紙の用途には様々なものがあるが、「官製はがき」(あるいは「郵政はがき」)、「私製はがき」と呼ばれる郵便はがきもその一つである。郵便はがきは、通常、原料パルプからはがき用紙を製造し所定のサイズに裁断したものであり、官製の場合、表面に切手と同じ効力を持つ額面が記載された料額印面が印刷され、これらの印刷はオフセット印刷やUV印刷により行われる。
また、最近の紙の製造においては、リサイクルや省資源など環境意識の高まりにより古紙の利用が推進されており、特許文献1には、古紙を原料とする再生パルプを含有し多層抄き合わせにより抄造される再生葉書用紙が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−047894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、はがき用紙は、表面に料額印面が印刷され、裏面にも絵柄などが印刷される場合がある。これらの印刷はオフセット印刷やUV印刷により行われるが、印刷時に湿し水が付着し、その湿し水の付着や乾燥によって吸湿及び脱湿が発生する。このため、印刷後に印刷機の積層部にて積層された平判製品において、端部(耳部)が反り上がったり、ねじれて一部の角が持ち上がってしまい、排紙部でのジャムを発生させる問題があった。また、はがき用紙に断裁後に、大きなカールが発生してしまい、製品とすることができずに損紙が生じる問題があった。特に、最近は環境へ配慮し、古紙を原料とする再生パルプを高配合することが求められているが、再生パルプは、その製造に伴う性質としてCD方向(マシン幅方向)の水中伸度が大きい傾向にあり、この性質はカールの発生を促進する作用を示すことになる。
そこで、本発明は、再生パルプを高配合したにも関わらず、印刷後も製品の反り、ネジレが小さく、排紙部でのジャムの発生が無く、はがき用紙などに断裁後も非常にフラットな、平判印刷用に適した多層紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、再生パルプを含有する多層紙において、全ての層の繊維配向比をマシン全幅にわたり一定の範囲とし、各層のCD方向の水中伸度を各層のCD方向の水中伸度の平均値に対して一定範囲とすることにより、各層の寸法安定性の差が少なくなり、上記課題を達成できることを見出した。
【0006】
本発明は、これに限定されるものではないが、以下の発明を包含する。
1.パルプを主原料とした3層以上の多層構造で、表層と裏層との間に形成された少なくとも1つの内層に再生パルプを含有する多層紙の製造方法であって、次の(1)及び(2)の工程を含む製造方法。
(1)各層の繊維配向比がマシン全幅にわたり1.50±0.20の範囲内となるように、各層を抄造する。
(2)各層を抄き合せして、各層のCD方向の水中伸度を各層のCD方向の水中伸度の平均値に対しそれぞれ9.0%以下とする。
2.パルプを主原料とした3層以上の多層構造で、表層と裏層との間に形成された少なくとも1つの内層に再生パルプを含有する多層紙であって、全ての層の繊維配向比がマシン全幅にわたり1.50±0.20の範囲内であり、各層のCD方向の水中伸度が各層のCD方向の水中伸度の平均値に対しそれぞれ9.0%以下である、多層紙。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、再生パルプを高配合したにも関わらず、印刷後も製品の反り、ネジレが小さく、排紙部でのジャムの発生が無く、はがき用紙などに断裁後も非常にフラットな、平判印刷用に適した多層紙を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.多層紙の製造方法
(多層紙の構造)
本発明の多層紙は、パルプを主原料とした3層以上の多層構造からなり、複数のヘッドボックスを備える抄紙機による抄き合わせ、あるいは単一のヘッドボックスのみを備える抄紙機による多層抄きで製造される。例えば、3層の場合は「表層」「中層」「裏層」、4層の場合は「表層」「表下層」「裏下層」「裏層」、5層の場合は「表層」「表下層」「中層」「裏下層」「裏層」からそれぞれ構成される。積層数はこれらに限定されるものではない。なお、本発明でいう表層と裏層との間に形成された内層とは、「表下層」、「中層」、「裏下層」等を意味する。
【0009】
(抄紙方法)
本発明の多層紙は、各層の紙料をそれぞれ調製し、長網型湿式抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、ヤンキー抄紙機、円網抄紙機、円網短網コンビネーション抄紙機など公知の多層抄紙が可能な抄紙機を適宜選択して製造することができる。本発明では長網型湿式抄紙機が好ましい。
【0010】
本発明の多層紙の製造方法としては、例として次の(1)〜(3)により多層紙を製造する方法を挙げることができる。
(1)各層毎にJ/W比を複数変更して抄造テストを行い、各層毎にJ/W比と繊維配向の配向比との関係を予め明らかにし、事前に詳細に把握しておく。この際に、各層共にJ/W比(=ジェットの吐出速度÷ワイヤー速度×100)は、ワイヤー速度よりジェットの速度が遅い引き(J/W比<100%)の状態から、ジェットの速度が速い押し(J/W比>100%)の状態まで、J/W比=100%を中心として105%の押しから95%の引きまで1%程度の間隔にて順次、J/W比を変更することが望ましい。このようにして、各層毎に個別にJ/W比を変更して抄造し、各J/W比毎の繊維配向比を把握する。
【0011】
単一ヘッドボックスにおける多層抄紙機では、各層毎の個別の抄造が困難であるため、各層毎のJ/W比を順次変更して各層抄き合せた状態でサンプル採取を行い、次いでJ/W比を変更した各層が単体となるまで、テープにて層を剥離してから繊維配向比を評価し、J/W比との関係を事前に把握する。そして、本発明では、各層毎のJ/W比と各層の繊維配向の配向比との関係から、各層の繊維配向比がマシン全幅にわたり1.50±0.20となるJ/W比を設定する。
【0012】
(2)上記により見出した、各層の繊維配向比がマシン全幅にわたり1.5±0.2となるJ/W比を採用して各層を抄造する。
(3)抄造された各層を抄き合わせして多層紙を製造する。
(4)さらに必要により、各層の繊維配向比の測定結果をJ/W比にフィードバックして調整した後に、各層を抄き合せする。
【0013】
(繊維配向比とCD方向の水中伸度)
繊維配向比は、繊維の配向(配列)の度合いを示す尺度であり、数値が大きいほど配列の度合いが強いことを示す。吸湿や脱湿の際における繊維の膨潤や収縮は、繊維の短軸方向で行われるため、繊維配向比と水を吸った際の紙のCD方向の寸法変化の度合いを表すCD方向の水中伸度との関係は、繊維配向比が高いとCD方向の水中伸度は大きく、配向比が低いとCD方向の水中伸度は小さく、両者は直接的に作用する。従って、多層紙における各層の繊維配向比の変動は、各層が水を吸った際の寸法変化量の変動を引き起こすため、反り、ねじれ、カール、波うち等の原因となる。
【0014】
本発明において、各層の繊維配向比はマシン全幅にわたり1.50±0.20の範囲内であり、好ましくは1.50±0.10の範囲内である。繊維配向比が上記の範囲を外れると、各層同士の水中伸度のバラツキが大きくなり、印刷後の製品の反りやねじれ、はがき用紙等に断裁した後のカールなどが発生しやすい。
繊維配向比は、測定原理としてマイクロ波を使用したマイクロ波分子配向度測定装置(王子計測器(株)製)により、評価することができる。
また、本発明の多層紙において、各層のCD方向の水中伸度は、各層のCD方向の水中伸度の平均値に対しそれぞれ9.0%以下であることが必要であり、好ましくは8.0%以下である。各層のCD方向の水中伸度の平均値に対する各層のCD方向の水中伸度が上記の範囲であることにより、各層の寸法安定性の差が小さくなり、反りやネジレ、カールなどの発生を抑えることができる。CD方向の水中伸度は、JAPAN .TAPPI 紙パルプ試験法No.27:2000による紙、及び板紙−水中伸度試験方法A法により評価することが出来る。
【0015】
2.多層紙
以下、本発明の多層紙を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(パルプ原料)
本発明の多層紙は、少なくとも1層の内層、すなわち、例えば3層の場合は「中層」に、4層の場合は「表下層」および/又は「裏下層」に、5層の場合は「表下層」「中層」「裏下層」のいずれか1層以上に、パルプとして古紙を原料とする再生パルプを含有する。
特に、本発明においては、再生パルプとして白色度が60%以上であるものを使用することが好ましく、ダートやチリなど再生パルプを高配合した場合の問題を解消できるとともに、優れた白色性を得ることができる。なお、白色度は、JIS P 8148に準じて測定したものである。
また、4層以上で複数の内層に再生パルプを配合する場合は、各内層に配合する再生パルプは同一でも異なっていても良い。各層に用いられる再生パルプの白色度が異なっている場合は、例えば5層以上のとき、表下層や裏下層に用いられる再生パルプの白色度が、中層に用いられる再生パルプの白色度よりも高いことが好ましい。ひいては、はがき用紙を各層に分割したとき、表下層や裏下層の紙の白色度が、中層の紙の白色度よりも高いことが好ましい。
【0016】
さらに必要に応じて、内層には、機械パルプ(MP)、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)など、抄紙原料として一般的に使用されているものの1種類または2種類以上と再生パルプとを混合して使用することができる。機械パルプとしては、砕木パルプ(GP)、リファイナー砕木パルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)などが挙げられる。環境の観点からは、再生パルプの使用量が多いことが望ましい。再生パルプと他のパルプを混合して使用する場合、各層における両者の比率は任意に設定することができ特に限定されないが、再生パルプ:他のパルプ=50:50〜100:0が好適である。
再生パルプの原料となる古紙としては、上質紙、中質紙、下級紙、新聞紙、チラシ、雑誌などの選別古紙やこれらが混合している無選別古紙や、コピー紙や感熱紙、ノーカーボン紙などを含むオフィス古紙などを好適に使用することができる。
一方、表層や裏層には、再生パルプを配合してもよいが、製品の白色度や蛍光強度、チリ・ダート等の観点から、針葉樹クラフトパルプ、広葉樹クラフトパルプなどの化学パルプを用いることが好ましい。
本発明によれば、再生パルプを高配合したはがき用紙を得ることができる。再生パルプの含有割合としては、環境面から多いほど望ましく、全パルプ固形分に対し20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。
【0017】
(坪量)
多層紙の坪量としては180〜200g/mであることが望ましい。抄き合わせにおける各層の坪量範囲は、本発明の効果を損なわない範囲で調整が可能であるが、表層および裏層の坪量は、各々20〜60g/mであることが好ましく、25〜50g/mであることが更に好ましい。表層、裏層の坪量が低すぎると、再生パルプ由来の蛍光強度が高くなる懸念があり、一方、表層および裏層の坪量が高すぎる場合、蛍光強度やダートの点では良好だが、表層、裏層に用いられる化学パルプの量が多くなり、コスト的にも環境的にも望ましくない。
内層の坪量は、60〜160g/m程度が好ましい。また4層以上(内層が2層以上)の抄き合わせで用紙を製造する場合は、各層の坪量は30〜80g/mであることが更に好ましい。内層の坪量が低すぎると、再生パルプの配合率を高く出来ず、一方内層の坪量が高すぎると、表層、裏層の坪量が低くなるため、再生パルプ由来の蛍光強度が高くなり、宛先情報バーコードの読取適性等に問題が生じるおそれがある。
【0018】
(填料)
また、本発明の多層紙には填料を含有しても良い。填料の種類は特に制限されないが、例えば、重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウムなどの炭酸カルシウム、炭酸カルシウム−シリカ複合物、酸化チタン、クレー、シリカ、タルク、カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化チタン、ベントナイトなどの無機填料;尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子等の有機填料;を単独または適宜2種類以上を組み合わせて使用することができる。また、製紙スラッジや脱墨フロス等を原料とした再生填料も使用することができる。酸性抄紙の場合は、前記填料から、酸溶解性のものを除いた填料が使用され、その単独または適宜2種類以上を組み合わせて使用される。
【0019】
本発明では特に、リサイクル可能でかつ紙の不透明度や白色度を比較的低コストで向上させることができるため、炭酸カルシウムを使用して紙面pHが6.0〜9.5となるように中性抄紙することが好ましい。填料の含有量は、少なすぎると不透明度に劣り、多すぎるとオフセット印刷時や断裁時に紙粉が発生しやすいことなどから、対パルプ絶乾質量あたり1〜10質量%が好ましい。なお、ここでいう填料の含有量とは、再生パルプに由来するもの、および抄紙の際に添加されたものなどいずれも含む。
【0020】
(製紙用薬品)
また、本発明では必要に応じて各種の製紙用薬品を添加することができる。具体的には、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン性澱粉、各種変性澱粉、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂などの内添紙力増強剤;ロジン系サイズ剤、AKD系サイズ剤、ASA系サイズ剤、石油系サイズ剤、中性ロジンサイズ剤などの内添サイズ剤;などを挙げることができる。また、歩留剤、濾水性向上剤、凝結剤、硫酸バンド、ベントナイト、シリカ、染料、消泡剤、紫外線防止剤、退色防止剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤などを用いることができる。
【0021】
(表面処理)
また、本発明の多層紙には、必要に応じて、片面または両面に表面処理剤を塗布することができる。表面処理剤の種類や組成は、特に限定はないが、表面強度の向上を目的とした水溶性高分子物質としては、生澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉、酵素変性澱粉、アルデヒド化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉などの澱粉;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースなどのセルロース誘導体;ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコールなどの変性アルコール;スチレンブタジエン共重合体、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルアミドなどを単独または併用する。
【0022】
また、本発明の多層紙をはがき用紙等の印刷用紙に使用する際には、筆記適性向上あるいはプリンターでの印字適性向上のため、ステキヒトサイズ度が250〜600秒であることが好ましい。このように吸水抵抗性を高めるために、前記の水溶性高分子物質の他に、スチレンアクリル酸、スチレンマレイン酸、オレフィン系化合物など表面サイズ剤を併用塗布してもよい。
表面処理剤の塗布量は特に制限されず、通常、両面当たり0.5〜5g/m程度である。また、水溶性高分子物質と表面サイズ剤からなる表面処理剤を塗布する場合、水溶性高分子物質と表面サイズ剤との混合比率は公用の範囲で行えばよい。
また、前述した表面処理剤を塗布する場合、塗工装置は一般に使用されるものを用いることができ、例えば、2ロールサイズプレス、ゲートロールコーター、ロッドメタリングサイズプレス、ブレードコーター、バーブレードコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター、スプレーコーターなどをオンマシンまたはオフマシンで用いることができる。
更に、本発明においては紙表面にカレンダー処理を施すこともできる。カレンダー装置の種類と処理条件は特に限定はなく、金属ロールから成る通常のカレンダーやソフトニップカレンダー、高温ソフトニップカレンダーなどの公用の装置を適宜選定し、品質目標値に応じて、これらの装置の制御可能な範囲内で条件を設定すればよい。
【0023】
(インクジェット印字適性)
本発明の多層紙には、インクジェットプリンターでの印字適性を付与することができる。
インクジェット印字適性を付与する方法は特に制限されず、インクジェット記録紙の分野で公知の各種技術を適用すればよい。例えば、塗工タイプの技術としては、はがきの裏面(宛先情報を記載する面の反対面)に、顔料と結着剤とを含有するインク受容層を設けることなどが挙げられる。また、インク受容層をキャスト塗工方式で設けると、高光沢でより高画質な画像を得ることができる。普通紙タイプの技術としては、吸油性填料や内添サイズ剤の添加、染料定着剤としてカチオン性樹脂等を塗布することなどが挙げられる。
【0024】
(本発明の多層紙の用途)
本発明の多層紙は、はがき用紙以外にも、印刷用紙、情報用紙、新聞用紙、包装用紙、ライナーや白板紙などの板紙等に使用することができる。坪量等の諸物性や製造方法などは、各用途に応じて適宜設定すればよい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は実施例に制限されるものではない。実施例及び比較例において部及び%は固形分質量部及び固形分質量%を表す。なお、以下の実施例は5層の抄き合わせであり、各層を順に「表層」「表下層」「中層」「裏下層」「裏層」で記載した。
【0026】
[実施例1]
(各層の原料条件)
表層及び裏層は、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)400mlに叩解したLBKP100部に対して、填料として炭酸カルシウムを2部、内添サイズ剤を0.4部、歩留まり剤を0.1部、硫酸バンドを2部添加してスラリーを調製した。表下層と裏下層は、CSF400mlのLBKP50部と、白色度70%の再生パルプ50部とを混合し、内添サイズ剤を0.75部、硫酸バンドを2.5部添加してスラリーを調製した。中層は、白色度70%の再生パルプを100部に対し内添サイズ剤として0.75部、硫酸バンドを2.5部添加してスラリーを調製した。
(各層のJ/W比条件)
事前に各層毎にJ/W比を複数変更して抄造テストを行い、それぞれ繊維配向比がマシン全幅にわたり1.5±0.2の範囲となるJ/W比を設定した。表層は102%、表下層は101%、中層、裏下層、裏層は100%にて抄造した。
(抄き合わせ)
上記3種類の紙料スラリーを、表層=28g/m2、表下層・中層・裏下層=各44g/m2、裏層=30g/m2となるように長網抄紙機で抄紙し、湿紙の状態で抄き合わせて乾燥し、坪量190g/m2となるように原紙を抄造した。この原紙に2ロールサイズプレスでポリビニルアルコールを両面で1.8g/m2塗布し、ベック平滑度が30秒となるようにカレンダー処理を行って、はがき用紙を得た。
[実施例2]
表層、表下層のJ/W比を101%にて抄造した以外は、実施例1と同様にしてはがき用紙を得た。
【0027】
[比較例1]
各層共にJ/W比を102%にて抄造した以外は、実施例1と同様にしてはがき用紙を得た。
[比較例2]
各層共にJ/W比を100%にて抄造した以外は、実施例1と同様にしてはがき用紙を得た。
[比較例3]
各層共にJ/W比を95%にて抄造した以外は、実施例1と同様にしてはがき用紙を得た。
[比較例4]
表層のJ/W比を104%、表下層を103%、それ以外の層を102%とした以外は、実施例1と同様にしてはがき用紙を得た。
各実施例および比較例で得られたはがき用紙の評価を、以下に示す方法により行った。評価結果を表1にまとめて示す。
【0028】
[測定・評価方法]
(繊維配向比)
マイクロ波を使用したマイクロ波分子配向度測定装置(王子計測器(株)製)により測定した。
(CD方向の水中伸度)
JAPAN .TAPPI 紙パルプ試験法No.27:2000による紙、及び板紙−水中伸度試験方法A法により測定した。
(排紙部のジャム)
枚葉印刷機KOMORI LITHRON 44にて、印刷速度8500部/時にて藍、赤、黄、墨の順番にて印刷後に排紙部に1120mm(幅)×760mm(縦)の印刷物を5000枚積層できれば○、途中で紙詰り等のジャムが生じると×とした。
(製品のフラット性)
はがきサイズ100×148mmを100枚重ねて、四隅の高さを測定し、カール高さが5mm以上を×とし、5mm未満3mm以上を△とし、3mm未満を○とした。
【0029】
【表1】

【0030】
表1より、全ての層の繊維配向比を1.50±0.20とした実施例1、及び実施例2のはがき用紙は、各層のCD方向の水中伸度のバラツキが各層のCD方向の水中伸度の平均値に対してそれぞれ9.0%以下であり、排紙部のジャムも少なく、製品のフラット性に優れることが分かる。これに対し、各層を同じJ/W比で抄造し、繊維配向比が1.5±0.2の範囲を外れる層を有する比較例1〜3のはがき用紙は、少なくともいずれかの層の水中伸度が各層の水中伸度の平均値よりも9.0%を超えているために寸法安定性に劣り、排紙部のジャムが生じ、製品のフラット性に劣ることがわかる。また、比較例4は、各層のCD方向の水中伸度を、各層のCD方向の水中伸度の平均値に対しそれぞれ9.0%以下であるが、各層の繊維配向比が1.50±0.20の範囲を外れているため排紙部のジャムが多いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプを主原料とした3層以上の多層構造で、表層と裏層との間に形成された少なくとも1つの内層に再生パルプを含有する多層紙の製造方法であって、次の(1)及び(2)の工程を含む製造方法。
(1)各層の繊維配向比がマシン全幅にわたり1.50±0.20の範囲内となるように、各層を抄造する。
(2)各層を抄き合せして、各層のCD方向の水中伸度のバラツキを、各層のCD方向の水中伸度の平均値に対しそれぞれ9.0%以下とする。
【請求項2】
パルプを主原料とした3層以上の多層構造で、表層と裏層との間に形成された少なくとも1つの内層に再生パルプを含有する多層紙であって、全ての層の繊維配向比がマシン全幅にわたり1.50±0.20の範囲内であり、各層のCD方向の水中伸度のバラツキが表層のCD方向の水中伸度に対しそれぞれ9.0%以下である、多層紙。

【公開番号】特開2012−214954(P2012−214954A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−48236(P2012−48236)
【出願日】平成24年3月5日(2012.3.5)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【出願人】(000231257)日本大昭和板紙株式会社 (18)
【Fターム(参考)】