説明

多層膜、及び燃料電池

【課題】ガス漏れによる燃料電池の発電性能の低下を抑制でき、また、保護膜の剥離作業を短時間で完了できることで、膜電極接合体の製造時間の短縮が図られ、さらに、高分子電解質膜のサイズを小さくできることで、多層膜の製造コストを安価に抑えることが可能な多層膜を提供する。
【解決手段】燃料電池用の膜電極接合体で使用される高分子電解質膜101と、高分子電解質膜101を保護するための保護膜106とを含む多層膜105であって、保護膜剥離用の突出部202が外周に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の膜電極接合体で使用される電解質膜と、該電解質膜を保護する保護膜とを含む多層膜、及び該多層膜を用いて製造される膜電極接合体を備える燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な用途で、高分子形燃料電池が使用されている。燃料電池は、複数の燃料電池セルが積層されたものであり、各燃料電池セルは、高分子電解質膜にアノード電極・カソード電極が接合された膜電極接合体を、2つのセパレータで挟み込んだ構造を有する。
【0003】
膜電極接合体の製造に使用される高分子電解質膜は、当初、保護膜が接着された状態にある。特許文献1,2には、このように高分子電解質膜と保護膜とが一体とされた多層膜が開示されている。図11に、特許文献1,2に開示された従来の多層膜500を示す。多層膜500は、高分子電解質膜101と保護膜106との積層物を型を用いて成形したものであり、保護膜106は、成形等により高分子電解質膜101に損傷が生じることを抑制する。
【0004】
膜電極接合体を製造する際には、上記のように多層膜500の成形を行った後、図12(A),図13(A)に示すように、多層膜500から保護膜106の一部を剥離する。ついで、剥離した保護膜106の一部を摘んで、図12(B)に示すように、保護膜106の残部を剥離する。図12(C),図13(C)は、保護膜106の全体が剥離された状態を示す。この状態になった後では、図12(D)に示すように、高分子電解質膜101の両面に、アノード電極102,カソード電極103を配置して、アノード電極102・高分子電解質膜101・カソード電極103の積層物を構成する。ついで、アノード電極102・高分子電解質膜101・カソード電極103の積層物をプレスすることで、図12(E),図13(E)に示すように、高分子電解質膜101の一方・他方の表面に、アノード電極102・カソード電極103を接合する。以上により、膜電極接合体600が製造される。
【0005】
膜電極接合体600が製造された後では、図14(A)に示すセパレータ300により、膜電極接合体600の両側が挟み込まれる。これにより、図14(B)に示す燃料電池セル700が構成される。膜電極接合体600を挟み込む2つのセパレータ300は、それぞれ、ガス通路301と、ガス供給口302と、ガス排出口303と、シール材304とを備える。燃料電池セル700(図14(B))が構成された状態では、各セパレータ300のガス通路301は、それぞれ電極102,103に対向して配置される。この配置により、電極102,103にガスが供給可能になり、発電反応を生じさせることができる。シール材304は、環状を呈して、ガス通路301・ガス供給口302・ガス排出口303の形成範囲を包囲する。燃料電池セル700が構成された状態では、ガス通路301を密封するために、シール材304は、電極102,103の外側で、高分子電解質膜101とセパレータ300に挟持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2000−510510号公報
【特許文献2】特開2007−080815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、膜電極接合体の製造に使用される多層膜は、燃料電池の形状に合わせて、矩形状に成形される。図12は、多層膜500が矩形状に成形されたことで、保護膜106の剥離が容易な上記矩形の隅が、保護膜剥離の切っ掛けに用いられて、折り曲げられる状況を示す。保護膜106が剥離された後では、上記の折り曲げにより、高分子電解質膜101に、折り目F1が形成されている。折り目F1は、高分子電解質膜101の短辺の途中位置から長辺の途中位置に向けて延びており、該折り目F1に沿った位置では、図15に示すように、高分子電解質膜101にしわSが生じている。図14(B)に示すように燃料電池セル700が構成された状態では、折り目F1は、位置Aで、シール材304と交差している。
【0008】
上記の折り目F1が形成される場合には、折り目F1に沿ってしわSが生じることで、折り目F1とシール材304との交差位置Aで、高分子電解質膜101とセパレータ300とでシール材304を隙間無く挟持できない。よって、折り目F1とシール材304との交差位置Aで、ガス漏れが生じる虞れがある。該ガス漏れが生じた場合には、燃料電池セル700の発電性能が低下して、燃料電池の品質の劣化を招き、燃料電池の歩留まりが低減する。
【0009】
また上記の問題を回避すべく、シール材304に交差する折り目F1が生じないように、保護膜106の剥離作業を慎重に行った場合には、該剥離作業に長い時間を要する。このため、膜電極接合体600の製造時間を短縮することが困難になる。
【0010】
また、高分子電解質膜101のサイズを大きくすることで、折り目がシール材304に交差しないようにした場合には、多層膜500の製造コストが高くなる。
【0011】
本発明は、こうした状況に鑑みてなされたものであり、発電性能の高い燃料電池を提供することが可能な多層膜、及び該多層膜を用いて製造される膜電極接合体を備えた燃料電池を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、ガス漏れによる燃料電池の発電性能の低下を抑制でき、また、保護膜の剥離作業を短時間で完了できることで、膜電極接合体の製造時間の短縮が図られ、さらに、高分子電解質膜のサイズを小さくできることで、多層膜の製造コストを安価に抑えることが可能な多層膜、及び該多層膜を用いて製造される膜電極接合体を備えた燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る多層膜は、
燃料電池用の高分子電解質膜と、該高分子電解質膜を保護するための保護膜との2層を少なくとも含む多層膜であって、
保護膜剥離用の突出部が外周に形成されていることを特徴とする。
【0014】
好ましくは、前記多層膜から前記保護膜が剥離された前記高分子電解質膜の表面に電極が接合されることで形成される膜電極接合体と、該膜電極接合体の両側を挟み込むセパレータとにより、燃料電池セルが構成され、
前記セパレータは、前記電極にガスを供給するためのガス通路を備え、
前記燃料電池セルが構成された状態では、前記ガス通路を密封するために、前記ガス通路を包囲する環状のシール材が、前記高分子電解質膜と前記セパレータに挟持され、
前記突出部は、前記燃料電池セルが構成された状態では、前記シール材の内周側より外側に位置することを特徴とする。
【0015】
好ましくは、前記外周の形状は矩形状を呈し、前記突出部は、前記外周の隅から外側に向けて延び出るか、前記外周の一辺の両隅から外側に向けて延び出るか、前記外周の辺の中央から外側に向けて延び出るかのいずれかであることを特徴とする。
【0016】
好ましくは、前記外周の形状は、隅が円弧状である略矩形状を呈し、前記突出部は、前記外周の隅から外側に向けて延び出ることを特徴とする。
【0017】
好ましくは、前記突出部は、矩形状、三角形状、その先端が外側に凸となる円弧状のいずれかを呈することを特徴とする。
【0018】
本発明の第2の観点に係る燃料電池は、第1の観点に係る多層膜から前記保護膜が剥離された前記高分子電解質膜の表面に電極が接合された膜電極接合体が、前記電極にガスを供給するためのガス通路を備えたセパレータで挟持された燃料電池セルを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、多層膜の外周に保護膜剥離用の突出部が形成される。このため、保護膜を剥離する切っ掛けとして突出部を用いることで、発電反応を生じる主要部の高分子電解質膜に、折り目が形成されることを抑制できる。よって、主要部の高分子電解質膜に、ガス漏れを引き起こすしわ等が生じないため、燃料電池の発電性能を低下することを抑制できる。これにより、燃料電池の発電性能を高いものとして、燃料電池の歩留まりを向上させることが可能になる。
【0020】
また、突出部を保護膜を剥離する切っ掛けに用いることで、主要部に折り目が生じないため、保護膜の剥離作業を円滑に進めることができる。これにより、剥離作業を短時間で完了できるため、膜電極接合体の製造時間の短縮が図られる。
【0021】
また、突出部を設けたことで、高分子電解質膜のサイズを小さくしても、シール材に交差する折り目が生じることを抑制できる。よって、多層膜の製造コストを安価に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る膜電極接合体を示す概略図であり、(a)は、膜電極接合体を示す平面図、(b)(c)は、膜電極接合体を示す側面図である。
【図2】燃料電池セルを示す側面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る多層膜を示す概略図であり、(a)は、多層膜を示す平面図、(b)(c)は、多層膜を示す側面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る多層膜を用いて膜電極接合体を製造する工程を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る多層膜の拡大図であり、図5(A)は図4(A)の対応図、図5(C)は図4(C)の対応図、図5(E)は図4(E)の対応図である。
【図6】突出部を折り曲げて、突出部の保護膜を剥離する作業を示す拡大図である。
【図7】図7(A)は、本発明の実施の形態におけるセパレータを示す概略図であり、図7(B)は、本発明の実施の形態における燃料電池セルを示す概略図である。
【図8】多層膜の変形例を示す概略図である。
【図9】突出部の変形例を示す概略図である。
【図10】突出部の保護膜に切断線が形成された状態を示す拡大図であり、図10(A)は保護膜に切断線が形成された突出部を示す平面図、図10(B)は突出部の保護膜が切断線に沿って切断された状態を示す側面図である。
【図11】従来の多層膜を示す概略図であり、図11(a)は、多層膜を示す平面図、図11(b)(c)は、多層膜を示す側面図である。
【図12】従来の多層膜を用いて膜電極接合体を製造する工程を示す図である。
【図13】従来の多層膜の拡大図であり、図13(A)は図12(A)の対応図、図13(C)は図12(C)の対応図、図13(E)は図12(E)の対応図である。
【図14】図14(A)は、従来のセパレータを示す概略図であり、図14(B)は、従来の燃料電池セルを示す概略図である。
【図15】折り目の位置における高分子電解質膜の状態を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付す。
【0024】
図1に示す本実施の形態に係る膜電極接合体100は、固体高分子型の燃料電池を製造するために使用される。該燃料電池は、図2に示す燃料電池セル400が複数積層された構造を有する。各燃料電池セル400は、膜電極接合体100を、2つのセパレータ300a,300bで挟み込んだ構造を有する。
【0025】
膜電極接合体100は、高分子電解質膜101と、高分子電解質膜101の厚み方向の一方の表面に設けられるアノード電極102と、高分子電解質膜101の厚み方向の他方の表面に設けられるカソード電極103とを有する。
【0026】
高分子電解質膜101は、例えば水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜から構成され、外周に突出部202が形成される。アノード電極102およびカソード電極103は、それぞれ高分子電解質膜101の表面に密着される触媒層と、触媒層の表面に密着されるガス拡散層とから構成される。触媒層は、例えば電解質と金属担持触媒とから形成される。ガス拡散層は、例えば多孔性材料から形成される。
【0027】
以下、膜電極接合体100の製造工程について説明する。まず、図3に示す本実施の形態に係る多層膜105を製造する工程が実行される。この工程では、まず、高分子電解質膜101と、高分子電解質膜101を保護するための保護膜106とを積層する。保護膜106は、例えば、布帛、樹脂、紙などからなり、高分子電解質膜101に吸湿や不純物の混入,損傷が生じることを抑制する。
【0028】
ついで、高分子電解質膜101と保護膜106との積層物を型を用いて打ち抜くことで、図3に示す多層膜105を成形する。この成形により、多層膜105の外周の形状は矩形状を呈し、多層膜105には保護膜剥離用の突出部202が外周に形成される。具体的には、多層膜105には、矩形状の本体部201と、本体部201の隅から外側に向けて延び出る上記の突出部202とが形成される。突出部202は、指で摘むことができる程度の大きさに形成される。なお、上記の成形時には、高分子電解質膜101に保護膜106が接着されていることで、高分子電解質膜101に損傷が生じることが抑制される。
【0029】
多層膜105が製造された後では、多層膜105から保護膜106を剥離する工程が実行される。以下、図4〜6を用いて説明する。
【0030】
まず、突出部202を摘んで、突出部202の保護膜106を剥離する(図4(A),図5(A))。この際には、図6に示すように、突出部202を、折り曲げたり、捻る等して、突出部202の保護膜106を剥離する。上記の折り曲げ等により、突出部202の高分子電解質膜101には、折り目F2が形成され得る。
【0031】
ついで、剥離した突出部202の保護膜106を摘んで引っ張ることで、図4(B)に示すように、保護膜106の残部を剥離する。
【0032】
図4(C),図5(C)に示すように、保護膜106の全体が剥離された後は、図4(D)に示すように、本体部201の高分子電解質膜101の両面にアノード電極102・カソード電極103を配置して、アノード電極102・高分子電解質膜101・カソード電極103の積層物を構成する。
【0033】
ついで、図4(E),図5(E)に示すように、アノード電極102・高分子電解質膜101・カソード電極103の積層物をプレスすることで、本体部201の高分子電解質膜101の一方・他方の表面に、カソード電極103・アノード電極102を接合する。以上により、膜電極接合体100が製造される。
【0034】
次に、上述の膜電極接合体100を用いて形成される燃料電池セル400(図2)について説明する。
【0035】
燃料電池セル400では、膜電極接合体100を挟み込むセパレータ300a,300bのうち、一方のセパレータ300aは、アノード電極102に燃料ガス(水素を含むガス)を供給するためのガス通路301aを構成し、他方のセパレータ300bは、カソード電極103に酸化剤ガス(空気等の酸素を含むガス)を供給するためのガス通路301bを構成する。これらセパレータ300は、図7(A)に示すように、上記のガス通路301a,bと、ガス供給口302a,bと、ガス排出口303a,bと、シール材304a,bとをそれぞれ備える。ガス供給口302a,bは、燃料ガス或いは酸化剤ガスをガス通路301a,bに供給する孔である。ガス排出口303a,bは、ガス通路301a,b内のガスを排出する孔である。シール材304a,bは、環状を呈して、ガス通路301a,b・ガス供給口302a,b・ガス排出口303a,bの形成範囲を包囲する。シール材304a,bとしては、例えば、フッ素ゴムやシリコンゴムが使用される。
【0036】
燃料電池セル400が構成された状態では、図2,図7(B)に示すように、ガス通路301aがアノード電極102に対向して配置され、ガス通路301bがカソード電極103に対向して配置される。この配置により、アノード電極102に水素ガスが供給可能になり、カソード電極103に酸化剤ガスが供給可能になる。これにより発電反応を生じさせることができる。詳しくは、水素ガスがアノード電極102の触媒層に接触することにより「2H→4H+4e」といった反応が生じる。そして、生成したHは、高分子電解質膜101中を移動して、カソード電極103に達し、カソード電極103の触媒層で空気中の酸素と「4H+4e+O→2HO」の反応が生じて、発電が行われる。
【0037】
また、燃料電池セル400が構成された状態では、ガス通路301a,bを密封するため、シール材304a,bが、電極102,103の外側で、本体部201の高分子電解質膜101とセパレータ300a,bに挟持される。突出部202は、本体部201の隅に形成されたことで、シール材304a,bの内周側より外側に位置している。
【0038】
本実施の形態によれば、多層膜105の外周に保護膜剥離用の突出部202が形成される。このため、突出部202を、保護膜106を剥離する切っ掛けに用いることで、保護膜106を剥離するために必要とされる折り曲げ等は、突出部202で行われる。このため、上記折り曲げ等により生じる折り目F2(図6)は、突出部202の高分子電解質膜101に形成され、発電反応が生じる主要部(本体部201に相当)の高分子電解質膜101には、折り目が形成されない。よって、主要部の高分子電解質膜101に、ガス漏れを引き起こすしわの発生を抑制できる。
【0039】
具体的には、突出部202がシール材304の内周側より外側になる位置に形成されることで、シール材304内周側と交差する折り目が高分子電解質膜101に生じない。よって、高分子電解質膜101とセパレータ300とでシール材304を隙間無く挟持できるため、ガス漏れが生じない。
【0040】
以上により、燃料電池セル400の発電性能を低下させるガス漏れが抑制されるため、燃料電池の品質を高いものとして、燃料電池の歩留まりを向上させることが可能になる。
【0041】
また、突出部202を保護膜106を剥離する切っ掛けに用いることで、上記の主要部に折り目が生じないため、保護膜106の剥離作業を円滑に行うことができる。これにより、保護膜106の剥離作業を短時間で完了できるため、膜電極接合体100の製造時間の短縮が図られる。
【0042】
また、突出部202を設けたことで、高分子電解質膜101のサイズを小さくしても、シール材304に交差する折り目が生じることを抑制できる。よって、多層膜105の製造コストを安価に抑えることができる。
【0043】
本発明は、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲において種々改変することができる。
【0044】
例えば、突出部202の形成位置、突出部202の数、本体部201の形状は、任意に設定され得る。
【0045】
例えば図8(A)に示すように、突出部202は、多層膜105の外周の辺の中央から外側に向けて延び出るように形成されてもよい。このようにしても、上記の実施の形態と同様の効果が得られる。
【0046】
また、図8(B),(D)に示すように、本体部201の隅が円弧状に面取りされてもよい。上記のように面取りする場合、高分子電解質膜101と保護膜106との積層物を型を用いて打ち抜くことで、隅が円弧状である略矩形状の多層膜105が成形される。また、図8(B),(D)に示すように本体部201の隅が面取りされる場合には、例えば、突出部202は、多層膜105の外周の隅(面取りされた本体部201の隅)から、外側に向けて延び出るように形成される。突出部202は、本体部201の短辺における直線部T1の延長線(破線で図示)と、本体部201の長辺における直線部T2の延長線(破線で図示)と、面取りされた隅に沿う円弧とにより囲まれる略三角形の領域内に形成される。このように突出部202を形成することで、面取りされる隅の外側の材料を有効に利用できるため、材料の無駄を小さく抑えることができる。なお、本体部201の隅は、直線状に面取りされてもよい。
【0047】
また、図8(C),(D)に示すように、突出部202は、多層膜105の外周の一辺の両隅から外側に向けて延び出るように形成されてもよい。この場合、例えば、一の突出部202の保護膜106が剥がし難い場合でも、他の突出部202の保護膜106を剥離することで、保護膜106の剥離作業を円滑に進めることが可能になる。また、図8(D)に示すように、本体部201の隅が面取りされる場合には、面取りされた本体部201の隅(多層膜105の外周の一辺の隅)に突出部202を設けることで、材料の無駄をさらに小さく抑えることができる。
【0048】
また、突出部202の形状は、任意の形状に形成され得る。例えば、図9(A),(B)に示すように、突出部202は、矩形状や三角形状を呈するように形成され得る。また、図9(C)に示すように、突出部202は、その先端が、外側に凸となる円弧状を呈するように形成され得る。図9(A),(B)に示すように突出部202が形成される場合には、突出部202に角部が形成されるので、突出部202の保護膜106を剥がし易くなる。図9(B),(C)に示すように突出部202が形成される場合には、突出部202の先端が先細りになることで、突出部202の保護膜106を剥がし易くなる。
【0049】
また、図10(A)に示すように、突出部202の中程に、保護膜106の切断線203が形成されてもよい。この場合、図10(B)に示すように、保護膜106側が凸になるように、突出部202を撓ませることで、突出部202の保護膜106を容易に剥離できる。切断線203を形成する場合には、多層膜105の成形用の型に、切断線203形成用の刃を設けることで、多層膜105の成形と同時に切断線203を形成できる。また、上記のように切断線203形成用の刃を設ける場合には、切断線203形成用の刃の位置を、多層膜105の外形を成形する刃の位置よりも浅く設定することで、高分子電解質膜101を切断することなく、切断線203を形成できる。
【0050】
また、図1に示す膜電極接合体100が製造された後では、突出部202の高分子電解質膜101は、カッター等により、カットされてもよい。
【0051】
また、多層膜105の構造は、図3に示す高分子電解質膜101と保護膜106との2層構造に限られない。例えば、多層膜は、高分子電解質膜の両面に第1,2保護膜が積層された3層構造を呈するものであってもよい。この場合には、第1保護膜・高分子電解質膜・第2保護膜の積層物を型を用いて打ち抜くことで、外周に、第1,2保護膜を剥離するための突出部が設けられる。第1,2保護膜を剥離する際には、突出部が摘まれて、折り曲げ等が行われることで、突出部の第1,2保護膜がそれぞれ剥離される。この後、剥離された突出部の第1,2の保護膜を摘んで引っ張ることで、第1,2保護膜の全体が剥離される。
【0052】
また、本発明は、高分子膜(例えば、ポリベンゾイミダゾール(PBI))にリン酸を含浸した高分子電解質膜を使用した燃料電池など、膜電極接合体を形成するために、高分子電解質膜と保護膜とが積層された多層膜が使用される燃料電池に適用できる。
【符号の説明】
【0053】
100 膜電極接合体
101 高分子電解質膜
102 アノード電極
103 カソード電極
105 多層膜
106 保護膜
201 本体部
202 突出部
203 切断線
300a,300b セパレータ
301a,301b ガス通路
302a,302b ガス供給口
303a,303b ガス排出口
304a,304b シール材
400 燃料電池セル
500 多層膜
600 膜電極接合体
700 燃料電池セル
T1,T2 直線部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用の高分子電解質膜と、該高分子電解質膜を保護するための保護膜との2層を少なくとも含む多層膜であって、
保護膜剥離用の突出部が外周に形成されていることを特徴とする多層膜。
【請求項2】
前記多層膜から前記保護膜が剥離された前記高分子電解質膜の表面に電極が接合されることで形成される膜電極接合体と、該膜電極接合体の両側を挟み込むセパレータとにより、燃料電池セルが構成され、
前記セパレータは、前記電極にガスを供給するためのガス通路を備え、
前記燃料電池セルが構成された状態では、前記ガス通路を密封するために、前記ガス通路を包囲する環状のシール材が、前記高分子電解質膜と前記セパレータに挟持され、
前記突出部は、前記燃料電池セルが構成された状態では、前記シール材の内周側より外側に位置することを特徴とする請求項1に記載の多層膜。
【請求項3】
前記外周の形状は矩形状を呈し、前記突出部は、前記外周の隅から外側に向けて延び出るか、前記外周の一辺の両隅から外側に向けて延び出るか、前記外周の辺の中央から外側に向けて延び出るかのいずれかであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多層膜。
【請求項4】
前記外周の形状は、隅が円弧状である略矩形状を呈し、前記突出部は、前記外周の隅から外側に向けて延び出ることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多層膜。
【請求項5】
前記突出部は、矩形状、三角形状、その先端が外側に凸となる円弧状のいずれかを呈することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の多層膜。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の多層膜から前記保護膜が剥離された前記高分子電解質膜の表面に電極が接合された膜電極接合体が、前記電極にガスを供給するためのガス通路を備えたセパレータで挟持された燃料電池セルを備えることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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