説明

多弾性の靴の中底の構造

本発明は、多弾性の靴の中底の構造に関し、靴の中底におけるかかとが当接する個所の底面の凹溝部に弾性度の異なる弾性体(ポリウレタンフォーム)を埋設して、硬い床面において不均衡的な姿勢で長時間起立または歩行し続ける働労者の下肢及び足への作業負荷と筋肉の疲労度を極力抑えることにより、筋骨格系の疾患を予防して健康維持に寄与できるようにしたところにメリットがある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多弾性の靴の中底の構造に関わり係り、さらに詳しくは、靴の中底におけるかかとが当接する個所の底面に弾性度の異なる高弾性のポリウレタンフォーム、中弾性のポリウレタンフォーム、低弾性のポリウレタンフォームをこの順に積層させて着用時に体圧(足圧)の分散により衝撃を緩和して筋肉の疲労度を減少させることを特徴とする多弾性の靴の中底の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来着用されているほとんどの靴の中底は、織布製の表面と一体に底側をポリウレタンにより成形して靴の中に敷いて使用するものであるため、歩行時に発生する重力による衝撃が十分に吸収できず、しかも、高弾性による地面からの反発により足首、膝などの関節に負担が加重されていた。
【0003】
さらに、最近、自動化設備の進展に伴い、あまり動かずに静的な姿勢で働く産業体の働労者や、長時間起立姿勢を維持しながらレーザースキャナーを使用する店舗の従業員、あるいは、腕を肩の高さに上げて長時間起立姿勢で固定された視線を維持して毛髪を手入れする美容業界の従業員が訴える筋骨格系の自覚症状が高くなりつつある。
【0004】
上記の筋骨格系の自覚症状による痛症を訴える働労者のほとんどは、最初は足部における痛症を訴えるが、この痛症が次第に脚部を経て腰部まで転移して、結果として、健康を損なってしまうという不都合があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の如き従来の技術の不都合を解消するためになされたものであり、その目的は、従来の技術によるものに比べて、足底から発生する衝撃を吸収して楽さを維持できるように靴の中底におけるかかとが当接する個所の底面の凹溝部に弾性度の異なる高弾性のポリウレタンフォーム、中弾性のポリウレタンフォーム、低弾性のポリウレタンフォームを次第に積層することにより、硬い床面において起立姿勢で長時間働く種々の業種の働労者の下肢及び足の疲労を低減させて筋骨格系の衝撃を緩和することのできる多弾性の靴の中底の構造を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、多弾性の靴の中底1の構造において、多弾性の靴の中底は、上側を低弾性のポリウレタンフォーム5から形成し、かかとが当接する底面の楕円形の凹溝部3の内側には高弾性のポリウレタンフォーム2と中弾性のポリウレタンフォーム4を次第に積層・埋設し、さらに、靴の中底1の中央部に突設される土踏まず支持部6を一体に形成してなることを特徴とする多弾性の靴の中底の構造を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明による多弾性の靴の中底を取り付けた靴を着用すれば、高弾性のウレタンフォーム、中弾性のウレタンフォーム、低弾性のウレタンフォームがこの順に積層された中底により、硬い床面において起立姿勢で長時間働く間に発生する足裏の衝撃を吸収して楽さを維持することにより、働労者の下肢及び足の疲労を低減させて足底圧の増加率を抑えるのに効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の多弾性中底の平面図であり、
【図2】図2は、図1におけるA−A線断面図であり、
【図3】図3は、図1におけるB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の内容を実施例によりなお一層詳細に説明する。ただし、これら実施例は本発明の内容を理解するために提示されるものに過ぎず、本発明の権利範囲がこれらの実施例に限定されると解釈されてはならない。
1.中底の製造
下記表1に記載のように、それぞれ弾性が異なる3種類のポリウレタンフォームを用いて下記表2のように配列した中底試料を製造した。
[表1]

【0010】
注1)shore instrument resiliometer(ASTMD2632)
[表2]

【0011】
2.測定方法
多弾性の靴の中底が取り付けられた靴を、これまで腰椎及び下肢の筋骨格系の疾患を経験した病歴がなく、しかも、足の形態学的な変形がない健常な20代の男性7名を選定し、前記表2に記載のカラーと弾性力を有するポリウレタンフォーム製の中底を内蔵した靴と中底なしの靴(対照区)を履かせて2時間歩行させた後、足底圧及び筋電度(EMG)を測定した。
3.測定項目
イ.足底圧の測定
1)足底圧の分析のための両足の平均圧力測定
中底試料1〜6と中底なし対照区に対して平均圧力を0時間と2時間において測定した結果、全ての中底は下記表3に記載のように、0時間よりも2時間の方において足底圧の値が高く現れることから、足底圧が経時的に増加することが分かる。
このため、各中底に対して圧力の増加率を分析して圧力増加率が最も小さな中底の組み合わせを調べてみる。
[表3]

【0012】
*)は、p<0.05の信頼度
前記表3によれば、0時間及び2時間において多弾性の中底試料1〜6は中底なしの対照区の場合よりもp<0.05の信頼度において有意に小さな値を示すことが分かる。
2)0時間と2時間における多弾性の中底間比較
イ)0時間における多弾性の中底間の足底圧比較
下記表4に示すように、中底試料2と中底試料3の足底圧が平均96.55kpa、93.72kpaと最も小さく現れ、両中底間のp<0.05の信頼度において有意差はなかったが、多弾性の中底試料1〜6間にはp<0.05の信頼度において有意差があった。
ロ)2時間における多弾性の中底間の足底圧比較
下記表4に示すように、中底試料2と中底試料3の足底圧が平均98.72kpa、94.58kpaと最も小さく現れ、両中底間のp<0.05の信頼度において有意差はなかったが、多弾性の中底試料1〜6間にはp<0.05の信頼度において有意差があった。
[表4]

【0013】
*)は、p<0.05の信頼度
前記表4に示す各中底間p<0.05の信頼度における有意性に対し、0時間と2時間における足底圧値の順位を見ると、それぞれ中底試料3>中底試料2>中底試料1>中底試料4>中底試料5>中底試料6の順に足底圧値が小さいことが分かる。
ロ.多弾性の中底の増加率比較
下記表5に示すように、各多弾性の中底の経時増加率を見ると、中底試料3の増加率が0.85%と最も小さく、且つ、中底試料2の増加率が2.18%とやや僅かな増加を示している。なお、多弾性の中底試料1〜6間の増加率間のp<0.05の信頼度には有意差があった。
[表5]

【0014】
*)は、p<0.05の信頼度
前記表5に示すように、0時間と2時間における時間変化による中底の足底圧値は、中底試料2と中底試料3において最も小さく現れたが、両中底間にp<0.05の信頼度における有意差はなかった。そして、足底圧の増加率も他の多弾性の中底、すなわち、中底試料1、中底試料4、中底試料5、中底試料6よりも小さいことが分かる。
このため、弾性組み合わせについては、高弾性のポリウレタンフォーム−中弾性のポリウレタンフォーム−低弾性のポリウレタンフォームの順に積層された中底2と、中弾性のポリウレタンフォーム−低弾性のポリウレタンフォーム−高弾性のポリウレタンフォームの順に積層された中底3が足の疲労を減少させる傾向にある。
ハ.筋電度(EMG)の測定
筋電度の測定は、筋電度信号の周波数遷移現象の測定により行うことができる。また、前記周波数遷移現象は、筋電度信号であるZCR(ゼロクロシングレート)を用いて観察するが、前記周波数遷移の観察には、作業負荷が大きいほど周波数遷移値が高く現れるものを用いる。
1)測定筋肉別ZCRの遷移比較
イ)腰筋肉の場合
下記表6に示すように、多弾性の中底試料1〜6のZCR遷移値は5.95Hzであって、中底を挿入しない場合(対照区)のZCR遷移値である23.00Hzよりも小さく現れ、且つ、p<0.05の信頼度において有意差があった。
ロ)股筋肉の場合
下記表6に示すように、多弾性の中底試料1〜6のZCR遷移値は3.27Hzであって、中底を挿入しない場合(対照区)のZCR遷移値である16.08Hzよりも小さく現れ、且つ、p<0.05の信頼度において有意差があった。
ハ)ふくら脛筋肉の場合
下記表6に示すように、多弾性の中底試料1〜6のZCR遷移値は7.15Hzであって、中底を挿入しない場合(対照区)のZCR遷移値である13.68Hzよりも小さく現れ、且つ、p<0.05の信頼度において有意差があった。
前記測定筋肉別ZCRの遷移比較を下記表6にまとめて示す。下記表6から明らかなように、前記全ての筋肉において多弾性の中底試料1〜6は中底なしの場合(対照区)よりもZCR遷移値が小さく現れ、且つ、全ての筋肉においてp<0.05の信頼度における有意差が見られた。
[表6]

【0015】
*)は、p<0.05の信頼度
2)多弾性の中底のZCR遷移比較
下記表7に示すように、中底試料2のZCR遷移値が9.19Hzであって、他の多弾性の中底(中底試料1及び中底試料3〜6)に比べて最も小さく現れた。これは、ZCR周波数が高い周波数から低い周波数へと周波数遷移が最も小さく起こり、筋肉の疲労が最も小さなことを意味する。なお、多弾性の中底試料1〜6間の分散分析結果は、p<0.05の信頼度において有意差があった。
このため、中底試料2は他の多弾性の中底(中底試料1及び中底3〜6)よりも作業負荷の減少効果が良好であると言える。
[表7]

【0016】
*)は、p<0.05の信頼度
二.足底圧及び筋電度(ZCR)測定分析の結果
1)足底圧測定分析の結果
多弾性の中底試料1〜6を挿入したときに足底圧値が減少し、特に、中底試料2は2時間後に足底圧値と増加率が小さく現れた。
2)筋電度(ZCR)測定分析の結果
多弾性の中底試料1〜6を挿入したときに全ての筋肉においてZCR遷移値が小さく現れ、特に、中底試料2は2時間後にZCR遷移値が最も小さく現れた。そして、中底試料3については、足底圧値は小さく現れたが、ZCR遷移値が大きく現れた。さらに、ZCR遷移値比較において、多弾性の中底試料1〜6間にp<0.05の信頼度における有意差があった。
このため、足底圧及び筋電度(ZCR)をまとめた結果、上から高弾性のポリウレタンフォーム−中弾性のポリウレタンフォーム−低弾性のポリウレタンフォームの順に積層された中底試料2の方が、中底試料1及び中底試料3〜6に比べて筋肉疲労が最も減少し、且つ、足底圧の増加率が小さくて作業負荷の減少効果が最も良好である。
【0017】
以下、添付図面1から3に基づき、上記の課題を解決するための本発明の特徴を詳述する。
本発明は、多弾性の靴の中底の構造において、前記多弾性の靴の中底1は、上側を低弾性のポリウレタンフォーム5から形成し、かかとが当接する底面の楕円形の凹溝部3の内側には高弾性のポリウレタンフォーム2と中弾性のポリウレタンフォーム4を次第に積層し、さらに、靴の中底1の中央部に突設される土踏まず支持部6を一体に形成してなることを特徴とする。
本発明は、多弾性の靴の中底1を靴(図示せず)の底面に取り付けた状態において着用すると、体重が多弾性の靴の中底1の上側の低弾性のポリウレタンフォーム5のかかとが当接する個所の底面の楕円形の凹溝部3に最も集中しながら、低弾性のポリウレタンフォーム5により体圧(足圧)が分散され、楕円形の凹溝部3の内側の高弾性のポリウレタンフォーム2により筋肉の微細運動を誘発させ、底側に重ねられて埋設された中弾性のポリウレタンフォーム4において最終的に衝撃を吸収することから、足底圧の増加率が下がる。
そして、本発明の多弾性の靴の中底1の上部に形成された土踏まず支持部6は、足底圧により発生する足の荷重を支持して、足の疲労を低減させるようになっている。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明による多弾性の靴の中底を取り付けた靴を着用すると、高弾性のウレタンフォーム、中弾性のウレタンフォーム、低弾性のウレタンフォームがこの順に積層された中底により、硬い床面において起立姿勢で長時間働く間に発生する足裏の衝撃を吸収して楽さを維持することにより、勤労者の下肢及び足の疲労を減少させて足底圧の増加率を減少させるのに効果がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多弾性の靴の中底(1)の構造において、
多弾性の靴の中底(1)は、上側を低弾性のポリウレタンフォーム(5)から形成し、かかとが当接する底面の楕円形の凹溝部(3)の内側には高弾性のポリウレタンフォーム(2)と中弾性のポリウレタンフォーム(4)を次第に積層・埋設し、さらに、靴の中底(1)の中央部に突設される土踏まず支持部(6)を一体に形成してなることを特徴とする多弾性の靴の中底の構造。
【請求項2】
前記低弾性のポリウレタンフォーム、高弾性のポリウレタンフォーム及び中弾性のポリウレタンフォームは、ASTM D2632弾性メーターの弾性がそれぞれ3〜10、10〜20及び20〜30であることを特徴とする請求項1に記載の多弾性の靴の中底の構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−525917(P2010−525917A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507310(P2010−507310)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【国際出願番号】PCT/KR2007/004875
【国際公開番号】WO2008/136559
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(509308355)アイ−マスティ カンパニー,リミテッド (1)
【Fターム(参考)】