説明

多成分系酸化物コート層を有する電極活性物質及びその製造方法

【課題】多成分系酸化物コート層を有する電極活性物質及びその製造方法を提供する。
【解決手段】(a)リチウムが吸蔵・放出可能な電極活性物質粒子と、(b)前記粒子表面の一部または全部に形成され、アルミニウム、リン及びハロゲン元素を含む多成分系酸化物コート層と、を有する電極活性物質及びその製造方法、この電極活性物質を含む電極、この電極を有する電気化学素子、好ましくは、リチウム二次電池。これにより、構造的な安定性及び熱的安全性が向上した多成分系酸化物コート層を有する電極活性物質が得られ、その結果、高容量、長寿命及び安全性が確保可能な電気化学素子を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多成分系酸化物コート層を有する電極活性物質及びその製造方法、この電極活性物質を含む電極、この電極を具備して高電圧適用による高容量、長寿命及び優れた構造安定性及び熱的安全性を示す電気化学素子、好ましくは、リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池が商用レベルに至って以来、電池を開発するに当たり、高容量及び長寿命など電気化学的な特性に優れた正極活性物質の開発が最大の目標となっている。前記電気化学的な特性に加えて、熱露出、燃焼または過充電などの非正常的な条件下でも電池システムの安全性と信頼性をも確保可能な、熱的安全性に優れた正極活性物質の開発も切望されているのが現状である。
【0003】
リチウム二次電池の正極活性物質としては、通常、LiCoO,LiMn,LiNiO,LiNi1−xCo(0<x<1),LiMnOなどの複合金属酸化物が使用されている。上述した如き正極活性物質のうちLiMn,LiMnOなどのMn系正極活性物質は、合成法とコストの側面で大きなメリットがあるのも否めないが、放電容量が低いという欠点がある。これに対し、良好な電気伝導度、高い電池電圧及び優れた電極特性を有することから、現在市販中のほとんどの電池に適用されている代表的な正極活性物質であるLiCoOは、高コストであるという欠点がある。そして、Ni系正極活性物質であるLiNiOは、上述した如き正極活性物質のうち最も高い放電容量の電池特性を有するが、他の物質に比べて急激な寿命劣化及び低い高温特性が見られるという欠点がある。
【0004】
このような特性を有する正極活性物質は、リチウムイオンの挿入・脱離反応により活性物質の構造的な安定性と容量が決定されるリチウムインターカレーション化合物である。このリチウムインターカレーション化合物は、充電電位が上がるにつれてその容量が高まるのに対し、構造的に不安定になり、電極の熱的安全性が急激に低下するという不具合を有している。すなわち、充電状態の正極活性物質は、外部または内部的な要因により電池内の温度が上がる場合、一定の温度以上において正極活性物質内の金属イオンと酸素間の結合力が急激に弱まる結果、下記のように酸素の分解が起きて多量の酸素が発生する。
Li0.5CoO→1/2LiCoO+1/6Co+1/6O
【0005】
分解された酸素は高い発熱性を有するために電池内において熱散逸を引き起こすだけではなく、電池の内部において電解液と反応する恐れがあるため、電池の爆発可能性が存在する。このため、酸素が遊離される反応開始温度と発熱量は、電池の安全性の側面を考慮するとき、制御する必要がある。
【0006】
上記の如き発熱量と発熱温度を制御する一方法として、正極活性物質の製造に当たり、活性物質の表面積を調節するために粉砕工程及び粉級工程を行うのが普通である。粒径が小さな活性物質は比表面積が大きなために平均電圧帯が電流密度(Cレート)に大きく影響されないが、粒径が大きな場合には高率充放電時の比表面積が小さなため、界面極性が増えて平均電圧帯と容量が低下するという不具合がある。
【0007】
充放電時における正極活性物質の安定性を高めるための方法として、Ni系またはCo系リチウム酸化物に他の元素をドープする技術が提案されている(例えば、下記の特許文献1参照)。この文献には、LiNiOの性能を向上させた活性物質として、LiNiCo(Mは、Mn及びAlのうち少なくとも1種の元素を示し、x+y+z=1である。)が記載されている。
【0008】
正極活性物質の安定性を高めるためのもう一つの方法として、正極活性物質の表面を改質する技術が提案されている(例えば、下記の特許文献2参照)。この文献には、リチウム−ニッケル系酸化物にCo,AlまたはMnなどのアルコキシドをコートして熱処理することにより得られる正極活性物質が記載されている。さらに、例えば、下記の特許文献3には、Ti,Sn,Bi,Cu,Si,Ga,W,Zr,BまたはMoの金属及び/またはこれらの酸化物をコートしてなるリチウム系の酸化物が記載されている。
【0009】
しかし、これらの方法は、正極活性物質の表面と電解液が反応する初期温度、すなわち、充電時に正極活性物質の金属と結合された酸素が遊離される温度(発熱温度)を上げることができないほか、分解される酸素の量(発熱量)を減らすことができず、電池の安全性を高めることができなかった。
【特許文献1】特開平12−149945号公報
【特許文献2】特開平9−55210号公報
【特許文献3】特開平11−16566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、上記の不具合を解消するために鋭意検討を重ねた結果、リチウムが吸蔵・放出可能な電極活性物質粒子の表面上にアルミニウム(Al)、リン(P)及びハロゲン元素の組み合わせよりなる多成分系酸化物コート層を形成することにより、充電時にリチウムのインターカレーション進行による電極の構造的な不安定性が改善されるだけではなく、酸素の分解の抑制及び分解された酸素と電解液との反応による発熱が防がれて熱的安全性も併せて向上するということを知見するに至った。
【0011】
そこで、本発明は、多成分系酸化物コート層を有する電極活性物質、この電極活性物質を含む電極、この電極を有する電気化学素子、好ましくは、リチウム二次電池を提供することを目的とする。
【0012】
さらに、本発明の他の目的は、上述した如き電極、好ましくは、正極の構造的な安定性の向上と熱的安全性の向上を両立できる表面改質方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、(a)リチウムが吸蔵・(又は:及び/又は)放出可能な電極活性物質粒子、及び(b)前記粒子表面の一部または全部に形成され、Al,P及びハロゲン元素を含む多成分系酸化物コート層を有する電極活性物質、この電極活性物質を含む電極及びこの電極を有する電気化学素子、好ましくは、リチウム二次電池を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、(a)アルミニウム前駆体、リン前駆体及びハロゲン前駆体化合物を溶媒に溶解してコート液を得る段階と、(b)前記段階(a)において得られたコート液に電極活性物質粒子を付加・攪拌してコートする段階と、(c)前記段階(b)においてコートされた電極活性物質を熱処理する段階と、を含む多成分系酸化物コート層を有する電極活性物質の製造方法を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、(a)アルミニウム前駆体、リン前駆体及びハロゲン前駆体化合物を溶媒に溶解してコート液を得る段階と、(b)前記コート液を既に製造済みの電極の表面にコートするか、あるいは、電極材料と混合して電極を作製する段階と、(c)前記電極を乾燥する段階と、を含む多成分系酸化物コート層を有する電極の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る電極活性物質は、従来の電極活性物質の表面の一部または全部にAl,P及びハロゲン元素よりなる多成分系酸化物コート層を形成することにより、高電圧が充放電可能に構造的な安定性が高められると共に、電極活性物質の熱的安全性をも高められる方法を提供して電池の熱露出による電池の安全性を改善することから、高容量、長寿命及び安全性が向上した電気化学素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳述する。
【0018】
本発明は、リチウムを吸蔵・放出する電極活性物質粒子の表面上に高電圧に充放電可能に電極の構造的な安定性を高めることができ、熱露出による電極活性物質の熱的安全性を改善することのできる多成分系酸化物コート層を形成することを特徴とする。
【0019】
1)従来の電極活性物質、特に、正極活性物質は、高電圧下で充放電を繰り返し行うことによりリチウムの脱離量が増えると、構造的な不安定性が顕著になる。その結果、リチウム含有金属複合酸化物内の金属と酸素間の結合力が弱くなる。このため、外部及び/または内部的な要因により発生した熱に露出されるとき、酸素の放出が原因となって電池の発火が引き起こされる恐れがある。
【0020】
しかしながら、本発明に係る電極活性物質は、表面上に形成された多成分系酸化物コート層のドープ容易性、コート層の持続性及び酸素との強い結合力により電極の構造的な安定性を高めることができ、これにより、電池の諸性能、例えば、高容量及び長寿命特性を示すことができる。また、充電によりリチウムイオンの含量が少ない状態でも、前記多成分系酸化物コート層と酸素との間の強い結合力により酸素の放出を抑えることにより、酸素と電解液との反応による温度上昇を効率よく制御でき、電池の熱的安全性の向上を図ることができる。
【0021】
2)さらに、前記多成分系酸化物コート層は、非晶質であっても、結晶質であっても良く、あるいは、これらの混合形であっても良い。ところが、特に、コート層のうち最外層が非晶質である場合、電極活性物質、特に、正極活性物質と電解液との急激な副反応の発生を抑えることができ、電池内で短絡が起きても、急激なリチウム転移を抑えることにより電池の安全性の向上に寄与することができる。
【0022】
本発明に従い電極活性物質粒子の表面の一部または全部に形成される多成分系酸化物コート層成分の1成分としては、原子が小さくて電極活性物質の表面上に容易にドープすることができ、しかも、Liのインターカレーションの進行による電極の構造的な安定性が図れる物質が使用でき、特に、アルミニウム(Al)が好適に使用される。
【0023】
また、前記多成分系酸化物コート層成分のうち他の成分としては、酸素との強い結合力を有する物質が使用でき、特に、リン(P)が好適に使用される。これは、リンは、充電時にリチウムインターカレーション化合物の構造的な不安定性により分解される酸素の発生量を抑えられると共に、分解された酸素と電解液との反応による発熱を防いで電極、特に、正極の熱的安全性を高めることができるからである。
【0024】
さらに、前記多成分系酸化物コート層成分のうちさらに他の成分としては、高い電子親和度を有する物質が使用でき、特に、フルオロ、塩素、臭素、ヨードなどのハロゲン(X)元素が好適に使用される。ハロゲン元素は、電極の表面上に存在する酸素と完全に結合し得ない遷移金属、例えば、Co,Mn,Niなどと強く結合して電極の表面の層状構造を保持し続けることができるため、電極の構造的な安定性及び熱的安全性を両方とも高めることができる。
【0025】
上述したように、電極活性物質粒子の表面上に形成されて優れた構造的な安定性及び熱的安全性が図れる多成分系酸化物コート層成分の組み合わせは、アルミニウム、リン及びハロゲンであることが好ましい。しかし、本発明はこれに限定されることなく、上述した如き特性を有すると共に、同じ効果が発現可能な物質であれば、いかなる材料も制限なしに使用できる。例えば、前記元素の組み合わせに他の元素が追加されてなる3成分系以上のコート層も本発明の範ちゅうに属すると言えるであろう。
【0026】
本発明に従い電極活性物質粒子表面の一部または全部に形成される多成分系酸化物コート層は、下記式1で表わされる化合物であることが好ましい。
Al1−a4−b (I)
(式中、Xはハロゲン元素を示し、0<a<1及び0<b<1である。)
【0027】
上記元素の組み合わせよりなる本発明の多成分系酸化物コート層は、非晶質、結晶質またはこれらの混合形として存在できる。特に、前記コート層は、上述の如く、非晶質と結晶質の混合形であることが好ましい。また、前記多成分系酸化物コート層の厚さには特に制限がなく、電極の構造的な安定性及び熱的安全性が向上できる範囲内において調節可能である。
【0028】
本発明に係る多成分系酸化物コート層を構成する化合物の含量には特に制限がないが、できる限り、電極活性物質100重量部当たり0.1ないし10重量部の範囲であることが好ましい。前記多成分系酸化物コート層の含量が0.1重量部未満である場合、Liインターカレーション電位の上昇による電極、好ましくは、正極の構造的な安定性を効率よく向上させることができず、その一方、10重量部を超える場合には、電極活性物質の含量が相対的に少ないため、電池の充放電容量が低下してしまう。
【0029】
本発明に係る多成分系酸化物コート層を有する電極活性物質は、当業界における通常のコート法により製造可能である。その製造方法として、例えば、(a)アルミニウム前駆体、リン前駆体及びハロゲン前駆体化合物を溶媒に溶解してコート液を得る段階と、(b)前記段階(a)において得られたコート液に電極活性物質粒子を付加・攪拌してコートする段階と、(c)前記段階(b)においてコートされた電極活性物質を熱処理する段階と、を含む方法が挙げられる。
【0030】
先ず、1)コート液は、アルミニウム前駆体、リン前駆体及びハロゲン前駆体化合物を溶媒に溶解して得られる。
【0031】
アルミニウム前駆体化合物、リン前駆体化合物及びハロゲン前駆体化合物は前記元素を含むと共にイオン化可能な水溶性または非水溶性化合物が使用可能である。また、これらの非制限的な例としては、各元素を含むアルコキシド、ニトレート、アセテート、ハロゲン化物、ヒドロキシド、オキシド、カーボネート、オキサレート、サルフェートまたはこれらの混合物などがある。特に、アルミニウムアルコキシド、アルミニウムニトレート、アルミニウムヒドロキシド、アルミニウムオキシド、アルミニウムアセテート、アルミニウムサルフェート、アルミニウムクロライド、臭化アルミニウム、モノドデシルフォスフェイト、ジアンモニウムハイドロジェンフォスフェイト、リン酸などが好適に挙げられる。さらに、前記元素を1種以上含むか、あるいは、これらの組み合わせを含む化合物も使用可能である。
【0032】
溶媒としては、前記化合物がイオン化可能な当業界における通常の溶媒であれば、制限無しに使用可能である。また、これらの非制限的な例としては、水またはアルコールなどの有機溶媒が挙げられる。
【0033】
2)得られたコート液にリチウムインターカレーション可能な電極活性物質、好ましくは、正極活性物質を付加、混合及び攪拌することにより、コート工程が行われる。
【0034】
電極活性物質のうち正極活性物質としては、従来の電気化学素子の正極に使用可能な通常の正極活性物質、例えば、アルカリ金属、アルカリ土金属、13族元素、14族元素、15族元素、遷移金属、希土類元素またはこれらの元素の組み合わせを含むリチウム含有金属複合酸化物が使用可能であり、また、カルコゲニド系化合物も使用可能である。前記正極活性物質の非制限的な例としては、リチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウム鉄酸化物またはこれらの組み合わせよりなるリチウム含有金属複合酸化物、例えば、LiCoO,LiNiO,LiMnO,LiMn,LiNi1−XCo(Mは、Al,Ti,MgまたはZrを示し、0<X1,00.2である。)またはLiNiCoMn1−X−Y(0<X0.5,0<Y0.5)などと、TiS,SeO,MoS,FeS,MnO,NbSe,V,V13,CuClまたはこれらの混合物などのリチウム吸着物質が好適に使用される。
【0035】
さらに、電極活性物質のうち負極活性物質としては、従来の電気化学素子の負極に使用可能な通常の負極活性物質が特に制限無しに使用でき、特に、リチウム金属、またはリチウム合金とカーボン、石油コーク、活性炭、グラファイトまたはその他のカーボン類などのリチウム吸着物質などが好適に使用できる。
【0036】
このとき、コート工程には、当分野における通常のコート法が使用でき、この非制限的な例としては、溶媒蒸発法、共沈法、沈殿法、ゾルゲル法、吸着後ろ過法、スパッタリング法、化学気相蒸着法(CVD)などが挙げられる。
【0037】
3)上記の如き多成分系前駆体化合物によりコートされた電極活性物質は、乾燥後に熱処理段階を行うことにより得られる。
【0038】
前記熱処理の温度と時間には特に制限がないが、好ましくは、100ないし700℃において1ないし20時間、一層好ましくは、2ないし5時間である。
【0039】
本発明は、上記の多成分系酸化物コート層を有する電極活性物質を含む電極を提供することができる。ここで、前記電極としては、正極が好適に使用される。
【0040】
このようにして得られた多成分系酸化物コート層を有する電極活性物質を用いて電極を作製する方法としては、この技術分野における当業者にとって周知の方法が使用可能であり、例えば、本発明の多成分系酸化物コート層を有する電極活性物質を両電極の電極活性物質、好ましくは、正極活性物質をバインダーと混合して電極スラリーを得、この得られた電極スラリーを集電体上にコート及び乾燥する方法がある。
【0041】
使用可能なバインダーの例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)などがある。
【0042】
集電体としては、導電性材料よりなるものであれば特に制限がなく、正極集電体としては、アルミニウム、ニッケルまたはこれらの組み合わせよりなる箔が使用可能であり、負極集電体としては、銅、金、ニッケル、銅合金、あるいはこれらの組み合わせによりなる箔が使用可能である。集電体の形状及び厚さには特に制限がなく、通常の厚さの範囲である0.001ないし0.5mmのシート状であることが好ましい。
【0043】
電極スラリーを集電体に塗布する方法には特に制限がなく、この技術分野における当業者にとって周知の方法、例えば、ドクターブレード、沈漬、はけ塗りなどにより塗布可能である。塗布量にも特に制限がなく、溶媒や分散媒の除去後に形成される活性物質層の厚さが、普通、0.005ないし5mm、好ましくは、0.05ないし2mmの範囲になるほどの量が好ましい。溶媒または分散媒を除去する方法にも特に制限がなく、応力が集中して活性物質層にひび割れが生じるか、あるいは、活性物質層が集電体から剥がれないほどの速度範囲内において、できる限り迅速に溶媒または分散媒が揮発するように調整して除去することが好ましい。
【0044】
本発明の他の実施の形態による電極の作製方法は、例えば、(a)アルミニウム前駆体、リン前駆体及びハロゲン前駆体化合物を溶媒に溶解してコート液を得る段階と、(b)前記コート液を既に製造済みの電極の表面にコートするか、あるいは、電極材料と混合して電極を作製する段階と、(c)前記電極を乾燥する段階と、を含む。しかし、本発明はこれに限定されない。
【0045】
このとき、前記段階(b)におけるコート液と電極材料を混合する段階は、例えば、電極活性物質とコート液を混合して電極スラリーを得、この得られたスラリーを集電体に塗布する段階を含むことができる。
【0046】
さらに、本発明は、正極、負極、セパレータ及び電解質を含む電気化学素子において、前記正極、負極または両電極が本発明に係る多成分系酸化物コート層を有する電極であることを特徴とする電気化学素子を提供する。
【0047】
前記電気化学素子は電気化学反応を引き起こすあらゆる素子を含み、その具体例としては、例えば、あらゆる種類の一次、二次電池などが挙げられる。
【0048】
このようにして作製された電極を用いて電気化学素子を製造する方法としては、当業界における通常の方法が使用でき、例えば、前記両電極の間にセパレータを挟んで組み立てた後、電解液を注入する方法がある。
【0049】
この方法により製造される電気化学素子としては、リチウム二次電池が好適に使用され、前記リチウム二次電池は、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池またはリチウムイオンポリマー二次電池などを含む。
【0050】
本発明において使用可能なセパレータには特に制限がないが、好ましくは、多孔性セパレータが使用可能である。この多孔性セパレータとして、例えば、ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリオレフィン系の多孔性セパレータなどが挙げられる。
【0051】
本発明においては、電解質として、Aなどの構造を有する塩(ここで、AはLi,Na,Kなどのアルカリ金属正イオンやこれらの組み合わせよりなるイオンを含み、BはPF,BF,Cl,Br,I,ClO,AsF,CHCO,CFSO,N(CFSO,C(CFSOなどの負イオンやこれらの組み合わせよりなるイオンを含む。)がプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ−ブチロラクトンまたはこれらの混合物よりなる群から選ばれる有機溶媒に溶解、解離されているものなどが使用できる。しかし、本発明はこれに限定されない。
【0052】
本発明により製造された電気化学素子、好ましくは、リチウム二次電池の外形には特に制限がなく、円筒缶型、コイン型、角型またはポーチ型が好適に採用可能である。
【0053】
以下、本発明への理解を助けるために好適な実施例を挙げるが、下記の実施例は単なる本発明の例示に過ぎず、本発明の範囲が下記の実施例に限定されることはない。
【0054】
実施例1
1−1.電極活性物質の製造
臭化アルミニウム30gを1.0Mの濃度を有するジブロモメタンに溶かし、この溶液に粒径が10μmであるLiCoO(日本ケミカル社製)粉末100gを入れた後、10分間攪拌した。その後、モノデシルフォスフェイト(C1225OPO(OH))0.4gを加え、30℃の温度下で約1時間攪拌し続けた。攪拌後、スラリー状の混合物を100℃のオーブンにおいて5時間完全に乾燥した後、600℃において5時間熱処理して徐々に冷却した。熱処理時の昇温速度は、100℃/分にした。
【0055】
1−2.リチウム二次電池の製造
前記実施例1−1に従い製造された電極活性物質94重量%、それぞれ3重量%の導電剤(Super P carbon black)及びバインダー(PVdF)を均一に混合し、溶媒としてN−メチルピロリドン(NMP)を加えることにより、均一な状態のスラリーを得た。次いで、得られたスラリーをアルミニウム箔の片方に塗布し、真空オーブン100℃において乾燥することにより水分を除去して正極として使用した。また、負極としてリチウム金属を、セパレータとして多孔性のポリエチレン膜を、そして電解質として1MのLiPFが溶解されたEC/DEC(1:1)系の液体電解液を用いることにより、コイン型の半電池を製造した。
【0056】
実施例2
臭化アルミニウム及びモノデシルフォスフェイトの含量をそれぞれ30g及び0.4gから60g及び0.8gに変えた以外は、前記実施例1の方法と同様にして電極活性物質、この電極活性物質を用いた正極、この正極を有するコイン型電池を製造した。
【0057】
実施例3
臭化アルミニウム及びモノデシルフォスフェイトの含量をそれぞれ30g及び0.4gから90g及び1.2gに変えた以外は、前記実施例1の方法と同様にして電極活性物質、この電極活性物質を用いた正極、この正極を有するコイン型電池を製造した。
【0058】
比較例1
当分野における通常のLiCoO(日本ケミカル社製、粒径:10μm)粉末100gを正極活性物質として使用した以外は、前記実施例1の方法と同様にして正極及びこの正極を有するコイン型電池を製造した。
【0059】
実験例1.電極活性物質の表面分析
本発明に係る多成分系酸化物コート層を有する電極活性物質の表面を評価するために、下記の如き電子透過顕微鏡(TEM:transmission electron microscope)実験を行った。
【0060】
試料としては、実施例1の電極活性物質を使用した。
【0061】
電子透過顕微鏡(TEM)を使用して測定したところ、本発明に係る電極活性物質の表面は、Al,P及びBrよりなる多成分系酸化物コート層が均一に形成されていることが観測された。特に、多成分系酸化物コート層は2層よりなるが、電極活性物質であるLiCoOに近いコート層の界面にはAl,P及びBr元素が結晶質状に存在し、最外郭コート層は上記のAl,P及びBrが互いに化合物及び非晶質層の形で存在することが確認できた(図1参照)。
【0062】
実験例2.リチウム二次電池の性能評価
本発明に係る多成分系酸化物コート層を有する電極活性物質を用いて製造されたリチウム二次電池に対し、下記のようにして性能評価を行った。
【0063】
2−1.熱的安全性の実験
実施例1、実施例2及び比較例1に従いそれぞれ製造されたコイン型電池の熱的安全性を測定するために、下記のようにして示差走査熱量測定(DSC:differential scanning calorimetry)分析を行った。
【0064】
各電池を4.6Vまで充電後、極板を取り外した。この取り外された極板から電極活性物質だけを取って高圧用試料缶に完全に密封した後、Q100(TA社製)を用いてDSC分析を行った。DSC分析は、窒素の雰囲気下40ないし400℃の温度範囲において5℃/分の昇温速度にて走査することにより行い、その結果を図2に示す。
【0065】
参考までに、電池の熱的安全性は、発熱開始温度及び発熱量から評価することができ、発熱ピークの高さが最も高いときの温度が高く、且つ、発熱開始時からの発熱量の傾斜が緩やかなものが優秀なものとしてと判断される。
【0066】
実験の結果、未コートLiCoOの正極活性物質を用いた比較例1の電池は、170℃及び230℃の近傍で発熱ピークが現れた(図2参照)。170℃におけるピークは、正極活性物質において酸素が分解(遊離)されて起こる発熱及び電解液と酸素との反応による発熱を示し、230℃におけるピークは、酸素の分解による発熱、電解液と酸素との反応による発熱と共に、正極の破裂による発熱などの複合的な因子による発熱があることを示す。特に、230℃における高い発熱ピークから、酸素の分解(遊離)が起きたこと、及び酸素と電解液との反応による大量の発熱量が発生したことが分かった(図2参照)。これは、充電状態のLiCoO正極活性物質におけるCo−Oの結合力が弱くなった結果、酸素が分解され、この分解された酸素が電解液と反応して激しい発熱を引き起こすことによる。
【0067】
これに対し、本発明に係る多成分系酸化物コート層を有する電極活性物質を用いて製造された実施例1及び2のリチウム二次電池は、その発熱量に目を見張るものがあった(図2参照)。これは、充電によりリチウムイオンの含量が少なくなった状態でも、正極活性物質の表面上の多成分系酸化物コート層と酸素が強く結合して酸素の放出が抑えられ、これにより、酸素と電解液との反応による温度上昇が効率よく抑えられたことを意味する。
【0068】
これより、本発明の多成分系酸化物コート層を有する電極活性物質は、熱的安全性を有するということが確認できた。
【0069】
2−2.電池の容量実験
多成分系酸化物コート層を有する電極活性物質を用いて製造された実施例1ないし実施例3のリチウム二次電池の容量を測定するために、下記のような実験を行った。対照群としては、未コートLiCoOの正極活性物質を用いて製造された比較例1の電池を使用した。
【0070】
各電池を3Vないし4.6Vの区間で0.1Cの条件のもとで1回充放電を行い、1Cの条件のもとで30回充放電を行った後、その結果を下記表1に示す。
【0071】
実験の結果、通常の正極活性物質を用いた比較例1の電池は、実施例1ないし3の電池とほとんど同じ初期充放電容量を示したが、充放電が進むにつれて放電容量の急激な低下が起きた。これに対し、実施例1ないし実施例3の電池は、比較例1の電池とほとんど同じ初期充放電容量を示すだけではなく、1Cの条件のもとで30回サイクルを繰り返した後にも、顕著に高い放電容量及び放電容量保持率を示していた(表1参照)。これは、電極活性物質上に存在する多成分系酸化物コート層化合物により電極の構造的な安定性が向上したことを意味する。
【0072】
これより、本発明の多成分系酸化物コート層を有する電極活性物質は、電極の構造的な安定性を高めて優れた高容量及び長寿命特性を有することが確認できた。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例1に従い製造された多成分系酸化物コート層を有する電極活性物質の電子透過顕微鏡(TEM)写真。
【図2】実施例1、実施例2及び比較例1に従いそれぞれ製造されたリチウム二次電池の示差走査熱量測定分析図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)リチウムを吸蔵又は放出可能な電極活性物質粒子と、
(b)前記電極活性物質粒子表面の一部又は全部に形成されてなる多成分系酸化物コート層とを備えてなり、
前記多成分系酸化物コート層が、アルミニウム、リン及びハロゲン元素を含んでなるものである、電極活性物質。
【請求項2】
前記多成分系酸化物コート層が、下記式(I):
Al1−a4−b (I)
(上記式中、
Xはハロゲン元素を示し、
0<a<1及び0<b<1である。)
で表わされる化合物である、請求項1に記載の電極活性物質。
【請求項3】
前記多成分系酸化物コート層が、非晶質、結晶質又はこれらの混合形である、請求項1に記載の電極活性物質。
【請求項4】
前記多成分系酸化物の含有量が、前記電極活性物質100重量部当たり0.1ないし10重量部である、請求項1に記載の電極活性物質。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の電極活性物質を備えてなる、電極。
【請求項6】
前記電極が、正極である、請求項5に記載の電極。
【請求項7】
正極と、負極と、セパレータと、及び電解質を有する電気化学素子であって、
前記正極、前記負極又はこれら両電極が、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電極活性物質を含んでなる、電気化学素子。
【請求項8】
前記電気化学素子が、リチウム二次電池である、請求項7に記載の電気化学素子。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の電極活性物質を製造する方法であって、
(a)アルミニウム前駆体、リン前駆体及びハロゲン前駆体化合物を溶媒に溶解しコート液を得てなり、
(b)前記(a)工程で得られたコート液に電極活性物質粒子を付加し、かつ、得られた混合物を攪拌し前記コート液でコートすべき前記電極活性物質を生じさせてなり、及び
(c)前記(b)工程でコートされた前記電極活性物質を熱処理することを含んでなる、製造方法。
【請求項10】
多成分系酸化物コート層を含んでなる電極の製造方法であって、
(a)アルミニウム前駆体、リン前駆体及びハロゲン前駆体化合物を溶媒に溶解しコート液を得てなり、
(b)前記コート液を予め製造された電極の表面に付与し、又は、前記コート液を電極材料と混合し、電極を得てなり、及び
(c)前記電極を乾燥することを含んでなる、製造方法。
【請求項11】
前記コート液を前記電極材料と混合する前記(b)工程が、前記コート液と電極活性物質を混合して電極スラリーを形成し、かつ、得られた電極スラリーを集電体に付与することにより行われるものである、請求項10に記載の製造方法。

【図2】
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【図1】
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【公表番号】特表2008−506244(P2008−506244A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−521414(P2007−521414)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【国際出願番号】PCT/KR2005/002909
【国際公開番号】WO2006/025707
【国際公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(502202007)エルジー・ケム・リミテッド (224)
【Fターム(参考)】