説明

多接合型太陽電池の評価装置及び方法

【課題】禁制帯幅の異なる半導体材料で出来たセルを積層して直列接続した構造になっている多接合型太陽電池のセル毎に部分的問題点を見つけられるような測定法と測定装置を提供すること。
【解決手段】評価対象のセルが分担している波長の光だけを小さく絞って照射し、その強度を変調する。直列に繋がるその他のセルにはそれぞれのセルの分担波長帯の光を連続照射する。この時の電気出力の中の上記変調に対応した出力変化を解析することで、評価対象のセルの特性を測定する。複数のセルについて、それに対応した波長域の光源を順次照射することで、全てのセルの特性を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多接合型太陽電池を評価するための装置及び方法に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
多接合型太陽電池は、太陽光のスペクトルを幾つかの波長帯に分け、波長帯毎に異なる材料を使い、分担して光電変換する。多くの場合、禁制帯幅の異なる半導体材料で出来たpn接合をセルと呼ぶ基本構成とし、これらのセルを順次積み重ねて直列接続した構造になっている。それぞれのセルのp層n層の厚さや周辺の不純物密度の適否、材料の穴や傷或は割れなどの欠陥の多寡などが変換効率に大きく影響する。
【0003】
この様な太陽電池の評価法としては、当初より我国ではソーラシミュレータによる擬似太陽光を被評価太陽電池に照射し、その時の電気出力の大小で評価する方法が採られている。しかし、この方法だけでは、設計上目標とした性能より劣る場合に、改良・改善の方向付けができない。特に多接合型太陽電池の場合、単層のものに比べ構造が複雑な為、どのセルのどの部分がどのように劣っているのかを知り、それに連なる可能性の強い原因を推測して、対策を順次講じることが必要である。
【0004】
どのセルに問題があるのかを知る手掛かりは、その太陽電池の分光感度を知ることにある。日本工業規格(JIS C 8944)に「多接合太陽電池分光感度特性測定方法」が述べられている。これは、セルが直列になった多接合型太陽電池にバイアス光を照射しつつ、電球などからの連続光を分光器で分光した光をチョッパでオン・オフして照射し、被評価太陽電池の電気出力を上記光チョッパの周波数・位相でロックイン検波することで、分光感度特性を得るものである。もし、感度が悪いなどの問題があれば、このスペクトルから、セル毎の問題点を推測することが可能な場合もある。しかし、推測の域を出ない上、セルに部分的な欠陥がある場合には、この方法では手掛りを得るのは難しい。さらに、この方法では、装置が大型で高価な物となり、その適用範囲にも限界がある。
【0005】
各セルの部分的な欠陥を見つける手法として、太陽電池に順方向電流を流して発光させ、このEL発光を画像として観察して、微細な穴や割れなどの欠陥を見つける手法が最近開発され、装置の提供もされている。これは、pn接合に順電流を流せば発光が起きると言うLEDと同じ現象を太陽電池にも起こさせ、注入発光の強弱がセルの接合の出来具合や材料堆積の良否を表すとの考えから出ている。画像として欠陥箇所が暗く目視できることから、比較的大面積を一望の元に観察でき、簡単で直感に訴え易いことから注目されている。しかし、このEL発光の波長が赤外域にあって画像観測するのが容易ではない、材料によってその発光強度が大幅に異なる、また全てのセルがセル毎に評価できるわけではないので、一部の不良は除けても改良に向けてのフィードバックは十分ではない。
【0006】
また、レーザ光を照射して照射場所のpn接合部に誘起される電流を観察するLBIC法なる評価法も知られている。これは、pn接合に光が当ると起電力が発生するという太陽電池なら当然の現象を使い、細く絞れるレーザ光を光源にして、太陽電池面の限られた領域を照射し、照射位置を変えて起電力を比較し、場所による優劣を調べるものである。しかし、この方法では、多接合型太陽電池の場合、直列になった複数のセルの一方で起電力が発生しても他方にも分担波長域の 光が当たっていなければ、光の当たっていないセルが導通しないため、外からは出力を得られず、多接合型には実用化されてはいない。
【0007】
特許文献1には、太陽電池全面を照射して導通させた上でスポット状の光を太陽電池の測定対象部分に照射して、測定対象部分を評価する装置が開示されている。この方法によれば、測定対象部分に限定して評価することができ、欠陥の発見に役立つと考えられる。しかし、この装置では測定対象部分の接合されたセル全体としての評価が得られるのみであり、個々のセルの評価は得ることができず、欠陥を持つセルを同定することができない。
【0008】
更に、個々のセルの評価が得られて欠陥を持つセルが同定されたとしても、セル全体としての特性のみでは、その製造工程において欠陥が発生した理由を推測することは困難である。かかる理由を推測するためには、セルを細分したセルの部分についての測定が必要となる。セルの中での特性の変化についての情報は欠陥が発生した理由の推定材料となるからである。例えば、セルの左から右へ感度が落ちていたとすると成膜装置のガスの流れや温度に傾きがあることが推定され、セルの中の一部分に線状や点状の欠陥があれば粒界の生成や各工程中或は工程間の ゴミの付着などが推定される。これらの結果を元に、推定される工程や工程間の装置や条件(流量、温度)を変更したり、修正することで改善を進めることになる 。
【0009】
欠陥が発生した理由の推定は、セル(半導体デバイス)の歩留を向上させるためにその生産工程を改善するために有用である。しかし、セルを細分したセルの部分についての特性を測定して欠陥が発生した理由を推定する方法は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−111215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
禁制帯幅の異なる半導体材料で出来たセルを積層して直列接続した構造になっている多接合型太陽電池のセル毎に部分的問題点を見つけられるような測定法と測定装置を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
評価対象のセルが分担している波長の光だけを小さく絞って照射し、その強度を変化させる。直列に繋がるその他のセルにはそれぞれのセルの分担波長帯の光を連続照射する。又は、近傍のセルにそれぞれのセルの分担波長帯の光を連続照射して電気的に導通させる。この時の電気出力の中の上記変化に対応した出力変化を検出・解析することで、評価対象のセルの特性を測定する。複数のセルについて、それに対応した波長域の光源を同様に順次照射することで、全てのセルの特性を測定する。
更に、セルを細分化してセルの部分の特性を測定し、セルに欠陥がある場合にセルの中での特性の変化に基づいて欠陥が発生した理由の推測に資する情報を得る。
【0013】
請求項1に係る発明の多接合型太陽電池の評価装置は、
評価対象領域のみに光を照射する収束型光照射部を備え、
前記評価対象領域と同等又はより広い領域に光を照射する発散型光照射部を備え、
前記収束型光照射部は光源である半導体発光素子の発光強度を時間的に変化させた光を照射し、
太陽電池の電気出力のうち前記変化と所定の関係にあるものを測定する測定部を備えることを特徴とする。
前段落に述べた課題を解決するための手段を実現している。
ここで、「評価対象領域」とは、評価対象のセルがその領域において直列接続されたセルの一つとして含まれる領域を言う。
「評価対象領域と同等又はより広い領域」とは、原則として評価対象領域自身又は評価対象領域を含むより広い領域である。しかし、発散型光照射部によって照射される光は、評価対象セルに直列に繋がるセルを照射するためのものであり、この目的が達成される限り必ずしも原則のとおりの領域でなくてもよい。
「時間的に変化させた」とは、収束型光照射部の発光強度を時間的に変調し、或は別に用意する発令部からの指示に基づいて発光/消光することを言う。下記実施例1における「系統制御情報処理部」が発令部に該当する。
「所定の関係」とは、光源の発光強度の変化と太陽電池の電気出力を表すような電気信号の部分との関係を言う。発光強度変調に同期して増減する関係、例えば、光源を一定の周波数で変調した場合に、その周波数でロックイン検波して得られる電流が「所定の関係」にあるものである。或は、別に用意する発令部からの指示に基づいて収束型光照射部の発光/消光が制御され、発令部からの指示に基づいて測定部が測定し、それぞれの指示タイミングにおける発光強度と測定値の関係も「所定の関係」にあるものである。
収束型光照射部の発光強度を時間的に変化させ、太陽電池の電気出力のうち変化と所定の関係にあるものを測定することによって、評価対象のセルの特性を確実に測定することが可能である。
光源として半導体発光素子を用いることにより、発光される光の波長が容易に選択でき、評価対象のセルが分担している波長の光及び直列に繋がる他のセルが分担している波長の光を容易に得ることができる。電球など連続スペクトル光源からの光を分光器で分光して特定波長を抽出したり、干渉フィルタで特定波長を抽出して照射したりする場合に比べ、半導体発光素子を光源にした場合は、素子を指定することが波長を選択することになり、照射光パワー密度を数桁大きくでき、電流の増減・断続が照射光の強弱・有無に直結し、装置が簡単且つ小型になる。
【0014】
請求項2に係る発明の多接合型太陽電池の評価装置は、
太陽電池に直流電圧バイアスをかけるバイアス発生部を備え、
前記収束型光照射部、前記発散型光照射部、前記測定部及び前記電圧バイアス発生部を制御する系統制御情報処理部を備え、
前記系統制御情報処理部は、前記発散型光照射部からの光照射のみによって太陽電池に生ずる開放電圧に相当する電圧バイアスをかけた状態で前記収束型光照射部及び前記発散型光照射部からの光照射を行い、このときの電流を前記測定部に測定させるように制御することを特徴とする。
直列に繋がる2以上のセルに光を照射し、各々のセルに電圧が発生するので、セルのうちの1つまたは2つ以上に逆バイアスがかかり、セルが損傷する 可能性がある。開放電圧に相当する電圧バイアスをかけることで、逆バイアスの発生を予防している。
【0015】
請求項3に係る発明の多接合型太陽電池の評価装置は、
前記収束型光照射部は波長の異なる2以上の半導体発光素子を備え、
前記系統制御情報処理部は前記2以上の半導体発光素子の中から評価対象のセルに吸収される波長の光を発光する半導体発光素子を選択して発光させるように制御することを特徴とする。
半導体発光素子は特定波長の光を発することができ、評価対象のセルが分担する波長の照射光を容易に得ることができる。
【0016】
請求項4に係る発明の多接合型太陽電池の評価装置は、
前記系統制御情報処理部は前記発散型光照射部が発光する光の波長分布に前記収束型光照射部が発光する波長が含まれないように制御することを特徴とする。
発散型光照射部の発する光に評価対象のセルが反応することがなく、収束型光照射部が発光する光による評価対象のセルの評価が容易である。
また、同一波長の光を発散型光照射部と収束型光照射部の両方に用いる必要がなくなり、光源の半導体素子は原則として1波長につき1つでよく、装置作製 のコストが軽減される。
【0017】
請求項5に係る発明の多接合型太陽電池の評価装置は、
前記収束型光照射部の光源たる半導体発光素子が半導体レーザであることを特徴とする。
半導体レーザはコヒーレンスが良く、収束型照射光照射部からの光が照射される領域を小さい部分へ絞り込むことができ、セルのより細密な部分を評価することができる。
【0018】
請求項6に係る発明の多接合型太陽電池の評価装置は、
前記収束型光照射部及び前記発散型光照射部がそれぞれ1本の光ファイバを介して光を照射することを特徴とする。
光ファイバが使えて引き回しに好都合であり、光源から評価対象領域へ向けて容易に光を導くことができる。また、光通信用の既存部品の一部を変更するだけで使用することができる。
【0019】
請求項7に係る発明の多接合型太陽電池の評価装置は、
前記収束型光照射部と前記発散型光照射部が光源の半導体発光素子を共有し、共有された光源の半導体発光素子からの光を光スイッチで切り替えて前記収束型光照射部又は前記発散型光照射部のいずれかに使用することを特徴とする。
光源の半導体素子の数を少なくすることができ、装置作成のコストが軽減される。
【0020】
請求項8に係る発明の多接合型太陽電池の評価装置は、
太陽電池、前記収束型光照射部及び前記発散型光照射部の少なくとも1つを移動させて評価対象領域を前記前記収束型光照射部からの光が照射される位置に配置するための移動機構を備えることを特徴とする。
移動機構により太陽電池、前記収束型光照射部及び前記発散型光照射部の少なくとも1つを移動させて、2以上の評価対象領域を連続的に評価することができる。
【0021】
請求項9に係る発明の多接合型太陽電池の評価方法は、
上記の多接合型太陽電池の評価装置を用いることを特徴とする。
上記の多接合型太陽電池の評価装置のメリットを活用して多接合型太陽電池の評価を行うことができる。
【0022】
請求項10に係る発明の太陽電池の評価装置は、
評価対象領域のみに光を照射する収束型光照射部を備え、
前記評価対象領域と同等又はより広い領域に光を照射する発散型光照射部を備え、
前記収束型光照射部は光源である半導体発光素子の発光強度を時間的に変化させた光を照射し、
太陽電池の電気出力のうち前記変化と所定の関係にあるものを測定する測定部を備えることを特徴とする。
本願発明の多接合型太陽電池の評価装置に係る技術は、他の太陽電池にも適用し得る。
【発明の効果】
【0023】
特性をセル毎に測定することができ、欠陥を有するセルを特定できる。更に、セルを細分化したセルの部分の特性が評価でき、問題点が加工法にあるのか、使用材料にあるのか、設計パラメータにあるのかなどが分かり、改良へ向けての的確で迅速なフィードバックが可能になる。これによって、多接合型太陽電池の開発が著しく加速される。また、製造歩留が向上して、製造原価が下がって価格の低減や利益の上積みに貢献する 。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、2接合型太陽電池の基本構成、その分光感度及び等価回路を示す図である。
【図2】図2は、2接合型太陽電池の評価装置の構成及び光照射部光学系の例を示す図である。(実施例1)
【図3】図3は、評価原理を示す図である。(実施例1)
【図4】図4は、3接合型太陽電池の分光感度曲線を示す図である。(実施例2)
【図5】図5は、3接合型太陽電池の断面模式図である。(実施例2)
【図6】図6は、光照射部に光ファイバを使った場合の光照射部を示す図である。(実施例3)
【図7】図7は、収束型光照射部及び発散型光照射部の光学系の例を示す図である。(実施例4)
【図8】図8は、多接合型太陽電池の評価装置の例を示す図である。(実施例5)
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施形態を、2接合型太陽電池評価及び3接合型太陽電池評価への応用を例に、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1(a)は、2接合型太陽電池の基本構成を示す断面図である。ガラス基板10の表面には、ITOなどの導電性透明電極材11がコートされている。導電性透明電極材11をコートしたガラス基板が、太陽電池製作時の基板となっており、まず例えばアモルファスシリコンp層とn層とを形成して第1セル12とし、この上(太陽電池としては、下)に例えば多結晶シリコンのp層とn層とを形成して第2セル13としている。最後に銀などの金属膜を形成して電極14とした後、保護膜を被せて太陽電池1としている。使用に際しては、図中に示すようにガラス基板10の側から光を照射する。λ1は、第1セル(12)の分担する波長300nmから600nmの光のうち代表的波長を示し、波長λ1の光は第1セル(12)でその大部分が吸収され、第2セル(13)には殆ど到達しない。また、同様にλ2は、600nmから900nmの光の波長を示し、波長λ2の光は第1セル(12)では殆ど吸収されないが、第2セル(13)ではその殆どが吸収される。
【0027】
図1(b)は、この太陽電池の分光特性を示す図である。図中の第1セルと表記した破線は、第1セルの感度特性を示し、第2セルと表記した破線は第2セルの感度特性を示している。全体と表記した実線はこの2接合型太陽電池全体としての感度特性を示している。350nmから500nmの光を照射するとほぼ第1セルのみに起電力を生じ、700nmより長い波長の光を照射すると、第1セルでは吸収されることなく透過し、第2セルで起電力を生ずる。これ等の中間である500nmから700nmの波長の光を照射すると第1セルと第2セルの両方で起電力を生じる。以下の実施例1では、λ1としてほぼ第1セルだけの特性を示す波長405nmを、λ2としてほぼ第2セルのみの特性を反映する波長780nmを選んだ。
【0028】
図1(c)には、この太陽電池の電気的な等価回路を示す。図中のD1は、第1セルのpn接合を示し、D2は第2セルのpn接合を示している。このD1に波長λ1の光を照射すると起電力を生ずる。その開放電圧Vo1は光が弱い場合は光強度に依存するが、ある程度以上あれば光強度を増してもpn接合を構成する材料のバンドギャップエネルギーとフェルミレベル差で決まる値に収束する。従って、開放電圧Vo1ではセルの良否は僅かしか反映しない。これはD2に対する開放電圧Vo2に対しても同論である。
【実施例1】
【0029】
図2は、2接合型太陽電池の評価装置の概要構成及び光学系の例を示す図である。同図(a)はシステム構成の概念図である。被評価太陽電池1に、系統制御情報処理部4に制御された収束型光照射部、発散型光照射部からの光を、ハーフミラーを介して同軸にしてさらに照射面に垂直に照射している。その電気出力を探針で拾い、測定部へ供給する。測定部の出力は系統制御情報処理部4で処理され、X−Y微動台駆動部からの位置情報と照らし合わせて、数値情報を出力する。また、これ等を画像出力部へ送ってセル毎の面内分布を画像化して出力する。
なお、図では収束光照射部と発散光照射部から照射される光の光軸が一致しているが、同図(b)又は(c)に示される如く、一致しないこととしてもよい。
【0030】
同図(b)は第1セルを評価する場合の光学系とその動作を図解している。同図中LS1は収束型光照射部を示し、発振波長がλ1の半導体レーザL11と発振波長がλ2の半導体レーザL12、これ等の光を対象太陽電池1面上に収束させるための第1レンズ及び第2レンズ、波長λ2の光を効率的に反射する表面鏡と波長λ1の光は反射するが波長λ2の光は透過する第1ハーフミラーとを備えている。半導体レーザL11から出た波長λ1の光が第1レンズを経て第1ハーフミラーで反射されて後の光軸と、半導体レーザL12から出た波長λ2の光が第2レンズを経て表面鏡で反射されさらに第1ハーフミラーを透過して後の光軸とは高精度に合致させてあり、共に評価対象の太陽電池1面上の狭い領域に収束する。収束径は15ミクロン以下とすることが好ましい。これ等の照射光は、光軸が対象面に垂直で、最大光強度は0.5mW以下とすることが好ましい。
【0031】
また、同図中LS2は発散型光照射部を示し、発振波長がλ1の半導体レーザL21と発振波長がλ2の半導体レーザL22、波長λ2の光を効率的に反射する表面鏡と波長λ1の光は反射するが波長λ2の光は透過する第2ハーフミラーとを備えている。半導体レーザL21から出た波長λ1の光が第2ハーフミラーで反射された後の光軸と、半導体レーザL22から出た波長λ2の光が表面鏡で反射されさらに第2ハーフミラーを透過した後の光軸とはほぼ合致させてある。なお、発散型光照射部においては照射領域を限定する必要性が小さく、収束型光照射部に比して光軸の合致の精度は低くとも許容される。また、評価対象の太陽電池1面上の上記収束型光照射部LS1が照射する点を中心にその周辺数ミリメートルを照射するように設定してある。照射光強度は数mW程度であることが好ましい。これら収束型光照射部、発散型光照射部は共に光通信の波長多重化に際し多用されるBIDI或はBOSAと呼ばれる部品と同様の物である。このような光学系の場合には、半導体レーザに球レンズ付外装品を使えば照射面への光の収束手段が既に付いていることになる。尚、収束型光照射部LS1の光軸は照射対象面に垂直にし、この発散型光照射部の光軸は照射対象面に対して僅かに傾けて機械的干渉を避けているが、先の図(a)の様に、ハーフミラーを用いて両光軸を合わせて共に対象照射面に垂直としてもよい。同図(b)又は(c)に示される如く僅かに傾けて機械的干渉を避けることで、高価な部品点数を減らすことができる。
【0032】
同図(b)に示す光学系を使って2接合型太陽電池1の第1セルを評価する場合、収束型光照射部LS1の半導体レーザL11を時間的に変調し(例えば1kHz矩形波状にオン・オフ動作させ)、波長λ1の光を太陽電池1面上に照射すると共に、発散型光照射部LS2の半導体レーザL22を定出力で連続動作させて、周辺を波長λ2の光で照射する。同図(c)は同様に、第2セルを評価する場合を示している。この場合には、収束型光照射部LS1の半導体レーザL12を時間的に変調して動作させ、波長λ2の光を対象の太陽電池1面上に照射し、同時に発散型光照射部LS2の半導体レーザL21を定出力で連続動作させて波長λ1の光を照射する。
測定部は、太陽電池1に探針を当てて電気出力を取出し、例えば50Ωの負荷抵抗を繋いでその両端電圧を測定する。このとき、直流としては10mV程度、上記時間的な変調に対応する成分としては、0.1mV〜2mV程度の出力が得られる。上記時間的な変調に対応する成分は、変調に対応する検波(例えば1kHz矩形波状にオン・オフ動作させさせた場合にはロックインアンプを用いた1kHzでのロックイン検波)によってノイズを避ける。
【0033】
図3は、評価原理を示す図である。以下、本測定の物理的意味を、図3に基づいて説明する。同図(a)は2接合型太陽電池のバンド構造図を示している。第1セルと第2セルのpn接合が直列に繋がっていて、表側の第1セルにはバンドギャップの広い材料(例えばアモルファスシリコン)が使われ、第2セルにはバンドギャップの狭い材料(例えば多結晶シリコン)が使われている。2つのセルの間には不純物を多量に添加されて縮退したp+層とn+層とがあって、オーミックに繋がっている。同図(b)の様に、波長λ2の光を照射すると、第1セルは透過し無反応であるが、第2セルでは吸収して多くの電子と正孔とを作る。太陽電池の両端が開放されておれば、ほぼ0.7Vの開放電圧Vo2を生ずる。ここに同図(c)のように波長λ1を照射するとその殆どを第1セルで吸収し、ほぼ1.4Vの開放電圧Vo1を発し、端子間開放電圧は約2.1Vとなる。
【0034】
同図(d)は発散型光照射部より波長λ2の光を収束型光照射部より波長λ1の光を照射し、端子間を短絡した場合のバンドダイアグラムを示している。かかる照射は第1セルの特性を測定する目的で行われる。ここで、波長λ2の光は3mW程度なので0.2mA程度の、波長λ1の光は0.5mW程度なので0.01mA程度の電流相当の光電変換が起こっている。電流値は発電量の少ない第1セルで制限され、約0.01mAが流れている。両端子間は、低抵抗銅線で結ばれているので電位差はなく、第2セルには、余剰のキャリアが貯まってn領域のフェルミレベルが上昇した状態、即ち、第1セルのp領域のレベルを若干持上げて弱く逆バイスした形になる筈である。この逆バイアス値は、高々0.7V迄なので、第1セルのバンドギャップに比べれば小さく、あまり大きな問題にはならない。しかし、第2セルの特性を測定する場合には波長λ1の光と波長λ2の光の強度が逆であり、バンドギャップの大きな第1セルが強く励起され、第2セルの励起が無いか弱い。このときは、第1セルの開放電圧迄ではあるが、端子間を短絡した状態では同図(e)の様に第2セルは大きく逆バイアスされることがある。太陽電池は、このような逆方向バイアスには弱い可能性が高く、特に3接合以上の多接合型太陽電池では、開放電圧も上がり、短絡することで他セルを破壊しかねない。
【0035】
以上の状況を電圧−電流特性で同図(f)に示す。曲線100、101及び102は、それぞれ第1セルの無照射下、波長λ2の光の照射下、波長λ2の光と波長λ1の光との照射下での特性を示し、曲線200、201及び202は、それぞれ第2セルの無照射下、波長λ2の光の照射下、波長λ2の光と波長λ1の光との照射下での特性を示す。これ等2セルの直列接続の結果たる太陽電池1の無照射下での特性は曲線300で、波長λ2の光の照射下での特性は曲線301で、波長λ2の光と波長λ1の光との照射下での特性は曲線302で示されている。外部から知れるのはこの曲線300、301そして302のみである。曲線301が横軸(電流ゼロの線)と交わる点をAとし、この直上の曲線302上の点をBとする。波長λ2の光を照射して得られる点Aの電圧を測定し、その電圧でバイアスして波長λ2の光と波長λ1の光との同時照射下での電流を測る。こうすることで、上述の逆バイアス状態を作ることなく、狙ったセルの短絡電流を知ることができる。この間のバンド図を同図(g)に示す。図中、電池の記号は上記バイアス電圧を表している。
【0036】
同図(f)に於いて、曲線301は無照射時の曲線300より僅かに上に描いてあるが、原理的には第1セルが波長λ2光に対する感度を有さず曲線301は曲線300に一致する。しかし、第1セルに僅かながら感度があり、光電変換が起こって電子−正孔が発生している場合にも上記のとおり、逆バイアスを発生させないための電圧バイアス値を求めることができる。
【0037】
以上述べたことを電気的等価回路で表せば同図(h)から(j)に示すようになる。主に第2セル即ちD2に感度を持つ波長λ2の光を照射すると、太陽電池1の開放電圧は同図(h)に示すようにほぼD2の開放電圧Vo2として現れる。この電圧のバイアスをかけて、同図(i)の様に、波長λ1の光を照射すれば、電位差としてVo1が得られる。この端子間に十分低い電気抵抗Rを(j)のように繋いで短絡電流Is1を求める。このR(例えば50Ω)とIs1(例えば0.04mA)との積である電圧は数ミリボルト(ここでは2mV以下)と小さい。波長λ1の光を1kHzの矩形波で変調して照射している場合には、上記電圧をこの周波数でロックインすることで、雑音を除いて必要な電流だけを得ることができる。この短絡電流Is1を収束型光照射部からの波長λ1の光出力で除算すれば、第1セルのその場所の局所的な変換効率が得られる。
【0038】
同様に、第2セルを評価する場合には、発散型光照射部LS2からの波長λ1の光をバイアス光として照射し、得られる開放電圧で電気的にバイアスした状態で、収束型光照射部LS1から波長λ2の光を断続的に照射して、ロックインアンプを使って低抵抗RとIs2との積である電圧を求める。この様にして、多接合型太陽電池1の面上のある一点に於ける短絡電流Is2を得る。同様に、短絡電流Is2を収束型光照射部からの波長λ2の光出力で除算すれば、第2セルのその場所の局所的な変換効率が得られる。
【0039】
次に評価点を1mm移動させて、同様に短絡電流Is1及びIs2を得る。1mmずつ移動させて同様な測定を繰り返し行なうことで、Is1及びIs2の分布が求まる。即ち、第1セルの短絡電流分布と第2セルの短絡電流分布が求まることになる。こうして得た短絡電流分布は簡単に画像化でき、一見して直感的に変化がわかるようにすることができる。ここでは位置の移動を1mmステップとしたが、10ミクロン程度に細かく動かすことも移動機構の性能範囲で自由に選べる。光源が半導体レーザである場合にも、例えば図7(d)や図7(e)の光学系を使用して、照射領域を十分に狭くすることができ、10ミクロン程度の移動に対応して測定することができる。
【0040】
以上の動作を実現するための系統制御情報処理部4による制御について説明する。
先ず、操作者が位置などの操作確認を行なった後、スタートボタンを押すと、その位置を系統制御情報処理部4が読取り記憶した後、発散型光照射部の波長λ2の発光素子に発光の指示を出す。被評価太陽電池の開放電圧に等しい電圧をバイアス発生部に発生させておく。この状態で、収束型光照射部の波長λ1の発光素子にオン−オフ発光の指示を出す。続いて、測定部に被評価太陽電池の電極と上記定電圧電源との間に流れる電流をロックイン等により測定させる。この値を記憶しておく。
次に、発散型光照射部の波長λ1の発光素子に発光の指示を出す。測定部に被評価太陽電池の電極の開放電圧を調べさせ、この電圧に等しい電圧をバイアス発生部に発生させておく。この状態で、収束型光照射部の波長λ2の発光素子にオン−オフ発光の指示を出す。測定部に被評価太陽電池の電極と上記定電圧電源との間に流れる電流をロックイン等を介して測定させ、この値を記憶しておく。次に、光照射位置を変える。これは作業者が釦を押すなどしてXY駆動部を動かし、その位置を系統制御情報処理部4が読取り記憶してもよいし、予め「系統制御情報処理部」にプログラムされている位置へ向かうよう系統制御情報処理部4からXY駆動部へ指示を出し、パルスモータを動かして位置を変え、位置情報が予め決められた位置に一致した時静止する方法でも良い。また、被評価太陽電池を動かさずに、光照射部をXY駆動部で動かしてもよい。この位置で、系統制御情報処理部4から上記の制御を繰り返す。
この様にして得た各位置に於ける電流値を順に出力表示部に出してグラフ化し、被評価太陽電池の受光面の各セルについての電流のグラフを表示する。
【0041】
一般に短絡電流は、それぞれのセルの空乏層の厚さやpn接合の深さ或は光で誘起された少数キャリアの寿命或は拡散距離並びに粒界等を反映しているので、上記電流のグラフにおいて電流値が受光面の一方へ傾きを持っているのであれば、製膜時の厚さ分布や不純物添加の濃度分布を示唆していることになる。局所的な凹みが見える場合には、製膜時のゴミの付着による穴が疑われる。また、線状に低い場所があるなら粒界や素材の割れが疑われる。これ等の異常がIs1の分布で見られるなら第1セルの製膜過程を、Is2の分布に見られるなら第2セルの製造工程を中心にした改善のきっかけとなる。
【0042】
このような短絡電流の相対的変化は、画像化することによりその把握が容易になる。この目的のためには、光出力や短絡電流の精度は画像を見て相対的変化の概要が分かる程度のものであればよく、装置の取り扱いや保守が容易になる。但し、測定中のレーザ出力の変化は画像にも影響を与えるので、光出力で駆動電流を微調整する所謂APC(自動光出力制御)駆動を行うことが好ましい。
【0043】
この実施例では、評価しようとしているセルの短絡電流より、他のセルの短絡電流のほうが大きいことが必要である。言い換えれば発散型光照射部の光出力が大きいことと十分発電能力のある波長範囲に入っていることが重要である。この観点からは、図1(b)に於けるシリコン系2接合型太陽電池では、λ1を500nm付近に、λ2を700nm付近に選ぶのが良いと思われる。ここではそれを選ばず、それぞれ405nm、780nmを選んでいる。これは安価に入手できる半導体レーザの波長域から選んだからである。この場合、第1セルを評価する際にバイアス光として発散型光照射部から照射する波長λ2、即ち780nmの光は必ずしも第2セルの発電能力のピークにある必要はない。また、測定しようとするセルには個体差があり、図1(b)のとおりのスペクトル感度を示すとは限らない。この場合にも逆バイアスが発生することのないよう、発散型光照射部から照射する各波長帯の光出力は、収束型光照射部から照射する光出力の5倍以上にすることが好ましい。
【実施例2】
【0044】
ここまでは、2接合型太陽電池の評価について説明してきたが、次は3接合型太陽電池の評価について説明する。図4は、3接合型太陽電池の分光感度曲線を示す図である。また、図5は、3接合型太陽電池の断面模式図である。3接合型太陽電池2は、Ge基板上にGeセル511、その上にInGaAsセル512、さらにその上にInGaPセル513を形成し、InGaPセル側から照射して出力を得る化合物結晶によるものであり、図5(a)において、514及び515はそれぞれ電極である。これら三つのセル評価に適した光の波長として、405nm(λ1)、780nm(λ2)及び1310nm(λ3)を選んだ。これらの波長では、それぞれ1つのセルに強い感度を持ち、それ以外のセルには殆ど感度が無い。先の2接合太陽電池への応用例と同じく3接合型太陽電池へも同様に応用できる。を図5(a)に、電気的等価回路を同図(b)に示す。
【0045】
この3接合型太陽電池を評価するには、収束型光照射部、発散型光照射部共に波長λ1、λ2及びλ3で発振する半導体レーザをそれぞれ備える。InGaPセルを評価する際には、波長λ2及び波長λ3の光を発散型光照射部から照射し、その時の開放電圧に相当するVo2+Vo3でバイアスしておく。そこへオン−オフ変調したλ1の光を第一の光照射部から照射し、その時端子間に流れる電流Is1を評価する。この際、InGaAsセル(D2)とGeセル(D3)で発生する電子、正孔密度がInGaPセル(D1)で発生するそれより十分大きくなるよう、波長λ2と波長λ3の光を照射する第二の光照射部からの光出力はそれぞれ数mW程度、波長λ1の光を照射する第一の光照射部からの光出力は0.5mW程度として差をつけることが好ましい。
【0046】
同様に、InGaAsセル(D2)を評価する際には、波長λ3及び波長λ1の光を発散型光照射部から照射し、その時の開放電圧に相当するVo3+Vo1でバイアスしておく。そこへオン−オフ変調した波長λ2の光を収束型光照射部から照射し、その時端子間に流れる電流Is2を評価する。Geセル(D3)を評価する際には、波長λ1及び波長λ2の光を発散型光照射部から照射し、その時の開放電圧に相当するVo1+Vo2でバイアスしておく。そこへオン−オフ変調した波長λ3の光を収束型光照射部から照射し、その時端子間に流れる電流Is3を評価する。
【0047】
さらに4接合、5接合と接合の多い太陽電池も、光源を増やすことにより、同様に評価できる。いずれの場合にも、収束型光照射部からの照射光パワーより発散型光照射部からの照射光パワーの方が数倍乃至10倍大きくしておくことが好ましいことは同様である。
【実施例3】
【0048】
本実施例は、収束型光照射部及び発散型光照射部に関するものである。収束型光照射部及び発散型光照射部以外の部分は、実施例1又は実施例2と同様である。
図6は光照射部に光ファイバを使った場合の光照射部を示す図である。同図(a)において、収束型光照射部の光源1、光源2、・・光源nはn個の波長で発光するn個の半導体レーザを表し、発散型光照射部中の光源1、光源2、・・光源nも収束型光照射部に於けるものと同じ波長を含む半導体発光素子を表している。細い破線 は光学的結合を表しており、光源に光ファイバ付半導体レーザを用いれば、破線部は光ファイバを表すことになる。図中、合波手段とあるのは、複数の光源からの光波を合成して1つの光波とするものであり、通常は、図2(b)又は(c)に示すような表面鏡やハーフミラーを用いた構成により実現される。しかし、このハーフミラーを作る際には誘電体多層膜厚を高精度に制御して成膜しなければならず、少量では到って高価に付く。そこで、光源に半導体発光素子を使うことを前提に、若干の挿入損の増加は覚悟して、光ファイバ用の合波器を使って、波長帯の異なる幾つもの半導体発光を1本の光ファイバに纏めて収束型光照射部或は発散型光照射部とすればよい。但し図6(a)の様に収束手段を設けることが好ましい。
【0049】
さらに、収束型光照射部が照射している光の波長帯は、拡散型光照射部が照射する波長帯にある必要はない。従って、全ての波長帯に亘って1式のみの発光素子を揃え、光スイッチで切替えて、第一の光照射部から照射する際には、駆動電流値を低く抑え、第二の光照射部から照射する場合には、駆動電流を高めに設定すればよい。こうすれば、高価な光源を多数揃える必要が無く、簡単に安くできる。この場合の光照射部を図6(b)に示す。n個の波長域に対してそれぞれ1個のファイバ付半導体レーザを用意し、系統制御情報処理部からの指示に従いこれ等のレーザの動作条件を整え、光スイッチで進路を切替えればよい。収束型光照射部としては、原則として1個の光源しか使わないので、この実施例の場合には、合波手段は不要である。なお、光源は収束型光照射部に利用されるので、拡散型光照射部が利用する場合にも半導体レーザである。
【0050】
また、発散型光照射部の光は小さく収束させる必要がないので、光源にLEDやSLDを採用することも可能である。最近、LEDの高出力化も進み、ミリワット級のLEDも簡単に入手可能であるばかりでなく、LEDの方が半導体レーザより大幅に安く、装置全体の廉価化に繋がる。LEDの出力が不足なら、複数個使うことも可能である。この場合、図6(a)において、発散型光照射部の光源にLED又はSLDを用いる。
【実施例4】
【0051】
本実施例は、収束型光照射部及び発散型光照射部の光学系に関するものである。具体的には、図6に示された合波手段から先の光を照射する部分に関するものである。収束型光照射部及び発散型光照射部の光学系以外は、実施例1〜3と同様である。図7は、収束型光照射部及び発散型光照射部の光学系の例を示す図である。
【0052】
同図(a)は、収束型光照射部及び発散型光照射部から来る2本の光ファイバを束ねただけの簡単な物の例である。収束型光照射部からの光701はファイバ71を経て照射され、発散型光照射部からの光702はファイバ72を経て照射される。ファイバ71はコアー711及びクラッド712を有し、ファイバ72はコアー721及びクラッド722を有する。両ファイバは共に単一モードファイバなので、コアー径は最大でも10ミクロン程度である。この光ファイバの端面から出た光は、片角約10度程度で拡がる。太陽電池面上1mm程度に近づけて測定する場合、収束型光照射部からの光は黒丸710で示す直径約350ミクロンの領域に拡がる。発散型光照射部からの光はファイバ72の断端を約500ミクロン後退させて照射面では拡がって直径約500ミクロンの領域を照射する。これでも簡単な試作品評価には十分使える。
【0053】
同図(b)は、発散型光照射部光702を、コアー731の太い多モードファイバ73を通して照射面に大きく拡がるようにした例を示している。この場合には先の例の様にファイバ端を後退させるなどの注意が必要なくなる。さらに、図(c)の様に1本の単一モード光ファイバ74のコアー741に収束型光照射部からの光をクラッド742に発散型光照射部からの光を入れて伝送すれば、出射端からは収束型光照射部からの光710を中心に、発散型光照射部からの光720が同心円状に放射され、照射面での両光の位置関係やファイバ端の位置関係を心配する必要が無くなる。また、この場合光ファイバ74としてダブルクラッドファイバを用いれば、外側に本来のクラッド743があるので、このファイバの屈曲に対しても安定した伝送と照射が期待できる。
【0054】
同図(d)は、上記ダブルクラッドファイバ74の先にレンズ76をつけた例を示している。ファイバ74とレンズ76との光軸を合わせ、維持する為にスリーブ75を介している。これにより焦点位置の調整も可能となる。このようにレンズ76を置くことで、光ファイバ74から出射した後発散する光を再度収束させることが可能になり、コアー741の直径に近い15ミクロン程度迄光を絞ることができる。クラッドモードとして伝播してきた発散光もこのレンズ76で収束傾向になるが、モードサイズが大きいことからその直径は約150ミクロン程度である。
【0055】
同図(e)は先のレンズ76の代わりにGRINレンズ77を使う例を示している。GRINレンズは、光通信用として光ファイバとの結合が採り易いスリーブ78(フェルールでもよい)に挿入して光軸合せとその保持が容易なように作られている。このGRINレンズ77と同じ原理のグレイデッドインデックスファイバを使うことも考えられる。何れにしても光照射部先端を細くすることが容易なので、出射端面と対象物との間の距離を小さくしても照射位置が見えないなどといった問題が起き難い。また、レンズ76に比べても軽量且つ安価である。軽量であれば、この光照射部を高速で移動させることも可能になり、結果として画像を迅速に作れ、評価を速める事も可能になる。延いては、工程処理時間の短縮、原価低減にまで繋がる。
【実施例5】
【0056】
本実施例は、太陽電池を生産する生産ラインにおいて本発明を適用して検査を行うものである。生産ラインにおいては、コンベア等により太陽電池を移動させながら生産する。太陽電池は、ガラス基板に覆われた受光面と反対側から生産の作業をするため、受光面が下面になるように配されることが通常である。コンベア等による太陽電池の移動を停止し、静止した太陽電池に対して下側から光を照射して検査を行う。図8は、多接合型太陽電池の評価装置の例を示す図である。図8(a)に示す多接合型太陽電池の評価装置を図2(a)に示した実施例1の太陽電池の評価装置と比較すると、以下の相違がある。(1)収束型光照射部21及び発散型光照射部22は収束型及び発散型光照射部83として一体化され、収束型及び発散型光照射部83にはLED照射ヘッド84が備えられている。(2)X−Y微動台駆動部を有さず、被評価太陽電池の下部に配されたLED照射ヘッド84が系統制御情報処理部4の制御に従ったXY座標に移動する。他の部分は実施例1と同様である。
【0057】
図8(b)に示すように、被評価太陽電池の下側にLED照射ヘッド84があり、LED照射ヘッド84は系統制御情報処理部4に制御されて被評価太陽電池の検査を実施する部分(評価対象領域)の真下に移動する。この移動は、LED照射ヘッド84に接続されたワイヤーやガイド部材(図示しない)を系統制御情報処理部4が制御することによって行うことができる。LED照射ヘッド84は図8(c)に示すように被評価太陽電池85のガラス基板86に近接している。本実施例の被評価太陽電池は、その全体の太陽電池モジュールが多数の細長い形状のサブモジュール85(図において85a、85b、85cで示す)に区切られ、各サブモジュールは隣接するサブモジュールと電気的に直列に接続されている。サブモジュール85の幅は10mm程度、長さは1500mm程度であり。100個程度のサブモジュールを有する太陽電池(1000mm×1500mm程度の大きさのもの)である。
【0058】
LED照射ヘッド84を被評価太陽電池側から見ると、図8(d)に示すように、その中央部に収束型光照射ヘッド81を有し、周縁部に発散型光照射ヘッド82を有する。LED照射ヘッド84は被評価太陽電池に近接しており、収束型光照射ヘッド81から照射された光はその真上にある評価対象領域に照射される。収束型光照射ヘッド81の大きさ及び形状は、評価対象領域の大きさ及び形状と同一である。このように、LED照射ヘッド84が被評価太陽電池に近接しているため、収束型の光の照射についても収束させる必要性が小さく光源にLEDを採用することができる。発散型光照射ヘッド82から照射された光は、評価対象領域を含む被評価太陽電池の部分に照射される。なお、LED照射ヘッド25の収束型光照射ヘッド81及び発散型光照射ヘッド82は、図8(e)または(f)のように配置してもよい。図8(e)の配置によれば収束型光照射ヘッド81と発散型光照射ヘッド82とが同形であり、単一の部品を使用してLED照射ヘッドの生産コストを抑制することができる。図8(f)の配置によれば収束型光照射ヘッド81の周縁が完全に発散型光照射ヘッド81によって囲まれ、評価対象領域の全部に発散型光照射部からの光を確実に照射することができる。
【0059】
収束型光照射ヘッド81及び発散型光照射ヘッド82はバンドルファイバによって光源に接続されており、また、LED照射ヘッドは被評価太陽電池に近接しているので、収束型光照射ヘッド81から光が照射される被評価太陽電池の部分全体に一様な強度の光を照射することができる。これにより、1回の照射によって比較的広い面積に対する評価を行うことができる。例えば、図8(b)において収束型光照射ヘッド81のサイズを10mm×3mmとすることができる。面積が広いため問題のあるセルを特定することが困難になるが、問題がないことの確認を目的とする生産段階の検査では、1回の照射によって評価される面積を広くして検査全体の所要時間を短縮することが重視される。収束型光照射ヘッド81の幅を10mm(サブモジュールの幅)にできるので、LED照射ヘッド84をサブモジュールの真下に配してそのサブモジュールに沿って逐次移動させることで1つのサブモジュールの検査が効率的に行える。1つのサブモジュールの検査が終了したらLED照射ヘッド84を次のサブモジュールの真下に移動させて次のサブモジュールの検査を行うことができる。
【0060】
図8(g)は、収束型及び発散型光照射部83を表す。光源1、光源2、・・光源nはn個の波長で発光するn個のLEDである。各光源と合波手段87及び88とはバンドルファイバによって接続され光が伝達される。バンドルファイバの各ファイバの光強度を均一にするため、光源とバンドルファイバの間に図8(h)に示すような均一化域を設けてもよい。合波手段87と収束型光照射ヘッド81、及び、合波手段86と発散型光照射ヘッド82もバンドルファイバによって接続され光が伝達される。系統制御情報処理部4は、光源1、光源2、・・光源nのうちの1つの光源のみを時間変調して発光させて単一波長の光を合波手段87に伝達する。この光は収束型光照射ヘッド81に伝達される。系統制御情報処理部4は、光源1、光源2、・・光源nのうちの合波手段87に伝達した波長の光を除く(n−1)種の波長の光を時間変調させずに合波手段88に伝達する。これらの光は合波手段88によって合波されて発散型光照射ヘッド82に伝達される。単一波長の光の光源を逐次切り替えてこの動作を繰り返すことにより、全てのセルが評価される。
【0061】
LED照射ヘッド84は、1つでなく2つ以上設けることもできる。例えば図8(i)のように1つのサブモジュール85aの1つの評価対象領域の真下に1つのLED照射ヘッド84を配することに代えて、図8(j)のように3つのサブモジュール85a、85b及び85cの真下に3つのLED照射ヘッドを設けて3つのサブモジュールの検査を同時に実行することもできる。または、1つのサブモジュールの2箇所以上の真下に2つ以上のLED照射ヘッドを設けて検査を同時に実行することもできる。太陽電池の検査全体の所要時間を短縮することができる。この際、同時に検査される2つ以上の検査対象のセルの短絡電流を測定する方法が問題となるが、太陽電池の構造に基づき同時に検査される2つ以上の検査対象のセルの短絡電流が干渉しないならば2つ以上の探針を設ければよく、干渉する場合にも収束型光照射部から照射される時間的に変調した光の変調の周波数または位相をLED照射ヘッド毎に異なるものとすることで各セルの短絡電流を測定することができる。
【0062】
2つ以上のLED照射ヘッド84を設けることに替えて、1つの図8(c)の形状のLED照射ヘッドを図8(k)のように用いて2つ以上のサブモジュールの検査を同時に実行することもできる。バンドルファイバを用いることにより、LED照射ヘッド光強度は場所によらず一定にでき、1つのLED照射ヘッドを2箇所以上の検査に用いることができる。この場合、各サブモジュールは電気回路としては直列に接続されていることと等価であり、各サブモジュールの電圧及び電流をそれぞれ測定するための探針を設ける。また、直列に接続された各サブモジュールの電圧及び電流が測定できる範囲の数のサブモジュールを同時に評価することができる。なお、図8(j)のように複数の照射ヘッドを用いても同様の検査が可能である。
【0063】
(実施例の拡張)
本発明の実施形態は、上記実施例に限定されるものではない。本発明の本質を保ったままで、上記実施例とは異なる実施が可能である。以下に、かかる例を示す。
光源の時間的な変調は、矩形波のオン・オフ以外にさまざまなものが考えられる。例えば正弦波としてもよい。要するに、光照射部の変調に対応する電圧又は電流の変化を測定部によって測定できればよい。系統制御情報処理部が光照射部及び測定部を制御しているので、光照射部の変調に合わせて測定部を制御すればよい。
系統制御情報処理部は、実施例のように全体を自動制御しなくてもよい。一部に人手による作業を含んでもよく、また、1つの系統制御情報処理部でなく、例えば光照射部、測定部及びバイアス発生部を別々に制御してもよい。
移動機構を備えずに、他の機構によって光が照射される位置をコントロールしてもよい。たとえば、収束型光照射部及び発散型光照射部を回転等させて太陽電池上を走査してもよい。
収束型光照射部の光量の時間変化は「変調」としているが、「発光/消光」としてもよい。
収束型光照射部及び発散型光照射部の光源は、単一でなく冗長性を持たせて、例えば波長毎に2つの光源を用いて、1の光源の故障時に他の光源を使用するようにしてもよい。
実施例5に示した2つ以上のセルを同時に評価する方法は、他の実施例においても適用可能である。
実施例5において、太陽電池を静止させて検査しているが、LED照射ヘッドの太陽電池に対するXY位置を制御できる限り、太陽電池が移動していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
多接合型太陽電池のセル毎に部分的問題点を見つけられるような測定装置及び測定方法であり、多接合型太陽電池の研究開発における利用が期待される。また、量産ラインでの検査工程における利用も期待される。
【符号の説明】
【0065】
1 太陽電池
12 第1セル
13 第2セル
21 収束型光照射部
22 発散型光照射部
23 バイアス発生部
24 測定部
4 系統制御情報処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象領域のみに光を照射する収束型光照射部を備え、
前記評価対象領域と同等又はより広い領域に光を照射する発散型光照射部を備え、
前記収束型光照射部は光源である半導体発光素子の発光強度を時間的に変化させた光を照射し、
太陽電池の電気出力のうち前記変化と所定の関係にあるものを測定する測定部を備えることを特徴とする多接合型太陽電池の評価装置。
【請求項2】
太陽電池に直流電圧バイアスをかけるバイアス発生部を備え、
前記収束型光照射部、前記発散型光照射部、前記測定部及び前記電圧バイアス発生部を制御する系統制御情報処理部を備え、
前記系統制御情報処理部は、前記発散型光照射部からの光照射のみによって太陽電池に生ずる開放電圧に相当する電圧バイアスをかけた状態で前記収束型光照射部及び前記発散型光照射部からの光照射を行い、このときの電流を前記測定部に測定させるように制御することを特徴とする請求項1に記載の多接合型太陽電池の評価装置。
【請求項3】
前記収束型光照射部は波長の異なる2以上の半導体発光素子を備え、
前記系統制御情報処理部は前記2以上の半導体発光素子の中から評価対象のセルに吸収される波長の光を発光する半導体発光素子を選択して発光させるように制御することを特徴とする請求項1または2に記載の多接合型太陽電池の評価装置。
【請求項4】
前記系統制御情報処理部は前記発散型光照射部が発光する光の波長分布に前記収束型光照射部が発光する波長が含まれないように制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多接合型太陽電池の評価装置。
【請求項5】
前記収束型光照射部の光源たる半導体発光素子が半導体レーザであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の多接合型太陽電池の評価装置。
【請求項6】
前記収束型光照射部及び前記発散型光照射部がそれぞれ1本の光ファイバを介して光を照射することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の多接合型太陽電池の評価装置。
【請求項7】
前記収束型光照射部と前記発散型光照射部が光源の半導体発光素子を共有し、共有された光源の半導体発光素子からの光を光スイッチで切り替えて前記収束型光照射部又は前記発散型光照射部のいずれかに使用することを特徴とする請求項6に記載の多接合型太陽電池の評価装置。
【請求項8】
太陽電池、前記収束型光照射部及び前記発散型光照射部の少なくとも1つを移動させて評価対象領域を前記前記収束型光照射部からの光が照射される位置に配置するための移動機構を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の多接合型太陽電池の評価装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の多接合型太陽電池の評価装置を用いることを特徴とする多接合型太陽電池の評価方法。
【請求項10】
評価対象領域のみに光を照射する収束型光照射部を備え、
前記評価対象領域と同等又はより広い領域に光を照射する発散型光照射部を備え、
前記収束型光照射部は光源である半導体発光素子の発光強度を時間的に変化させた光を照射し、
太陽電池の電気出力のうち前記変化と所定の関係にあるものを測定する測定部を備えることを特徴とする太陽電池の評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−119629(P2011−119629A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44931(P2010−44931)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(309037664)ファインセンシング株式会社 (1)
【Fターム(参考)】